説明

ビードフィラー用ゴム組成物

【課題】再生ゴムの配合により環境負荷の低減を図りつつ、高弾性率及び高破断強度と低転がり抵抗性とを両立するようにしたビードフィラー用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】天然ゴムを61重量%以上含むジエン系ゴム100重量部に対し、再生ゴムを2〜20重量部、窒素吸着比表面積が25〜100m/gのカーボンブラックを60重量部以上、熱硬化性樹脂を4〜18重量部配合すると共に、硬化剤を前記熱硬化性樹脂配合量の5〜15重量%配合したゴム組成物であり、前記再生ゴムがムーニー粘度35〜65であり、該再生ゴム中のゴム成分の天然ゴム含有比率が60重量%以上、かつ該再生ゴム中のゾルのゲル透過クロマトグラフによる重量平均分子量が60000以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビードフィラー用ゴム組成物に関し、さらに詳しくは、再生ゴムの配合により環境負荷の低減を図りつつ、高弾性率及び高破断強度と低転がり抵抗性とを両立するようにしたビードフィラー用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、乗用車用空気入りタイヤには、高速走行時の操縦安定性と共に、燃費性能を向上することが望まれている。前者の操縦安定性を向上するためには、ビードフィラーの弾性率(特に、動的弾性率)を高くする必要があり、その手段としてビードフィラー用ゴム組成物にカーボンブラックの配合量を多くすることが考えられる。しかし、カーボンブラックの増量はtanδが大きくなりヒステリシスロスの増大により転がり抵抗が悪化するという問題がある。また、熱硬化性樹脂を配合することにより弾性率を高くすることも提案されているが、配合量を多くすると耐クラック性の悪化を招くなどの問題がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、地球環境を保護する観点から、空気入りタイヤのリサイクル率を高くすることが要求されるようになり、使用済みのタイヤやチューブから回収された再生粉末ゴムを新しいゴム原料中に配合することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、このような再生ゴムをビードフィラー用ゴム組成物に配合すると破断強度や弾性率が低下したり、tanδの増大を招きヒステリシスロスが大きくなるため転がり抵抗が悪化するという問題があった。
【0004】
したがって、再生ゴムを使用してリサイクル率を高くしながら弾性率や破断強度、耐クラック性の確保と、燃費性能の両立を可能にしたビードフィラー用ゴム組成物は未だ実現されていない。
【特許文献1】特開平5−51487号公報
【特許文献2】特開平11−335488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、再生ゴムの配合により環境負荷の低減を図りつつ、高弾性率及び高破断強度と低転がり抵抗性とを両立するようにしたビードフィラー用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明のビードフィラー用ゴム組成物は、天然ゴムを61重量%以上含むジエン系ゴム100重量部に対し、再生ゴムを2〜20重量部、窒素吸着比表面積が25〜100m/gのカーボンブラックを60重量部以上、熱硬化性樹脂を4〜18重量部配合すると共に、硬化剤を前記熱硬化性樹脂配合量の5〜15重量%配合したゴム組成物であり、前記再生ゴムがムーニー粘度35〜65、該再生ゴム中のゴム成分の天然ゴム含有比率が60重量%以上、かつ該再生ゴム中のゾルのゲル透過クロマトグラフによる重量平均分子量が60000以下であることを特徴とする。
【0007】
このビードフィラー用ゴム組成物は、空気入りタイヤのビードフィラー部を構成するのに好適である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のビードフィラー用ゴム組成物によれば、天然ゴムを61重量%以上含むジエン系ゴム100重量部に対し、再生ゴムを2〜20重量部、窒素吸着比表面積が25〜100m/gのカーボンブラックを60重量部以上、熱硬化性樹脂を4〜18重量部配合すると共に、硬化剤を前記熱硬化性樹脂配合量の5〜15重量%配合するようにしたので、高弾性率と低転がり抵抗性とを両立すると共に、リサイクル率を高くすることができる。特に、再生ゴムの性状を、ムーニー粘度を35〜65にし、再生ゴム中のゴム成分の天然ゴム含有比率を60重量%以上にすると共に、再生ゴム中のゾルのゲル透過クロマトグラフによる重量平均分子量を60000以下にしたので、弾性率を高く確保しながらヒステリシスロスを悪化させることなく、低転がり抵抗性を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のビードフィラー用ゴム組成物において、ゴム成分はジエン系ゴムとし、そのジエン系ゴムは、天然ゴムを61重量%以上、好ましくは65〜80重量%含む。ジエン系ゴム中の天然ゴムが61重量%未満の場合には、破断強度が悪化する。マトリックスのゴム成分中の天然ゴム61重量%以上には、再生ゴムを除くものとする。
【0010】
天然ゴム以外のジエン系ゴムとしては、特に制限されるものではなく、ビードフィラー用ゴム組成物に通常用いられるイソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ブチルゴム等が挙げられる。好ましくはスチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴムがよい。これらジエン系ゴムは、単独又は任意のブレンドとして使用することができる。
【0011】
上記ゴム成分に配合する混合物のうち、再生ゴムの配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し2〜20重量部、好ましくは5〜15重量部にする。再生ゴムの配合量が2重量部未満では、リサイクル率を高くすることができない。また、再生ゴムの配合量が20重量部を超える場合には、tanδが増大しヒステリシスロスが悪化するため転がり抵抗が大きくなると共に、破断強度が悪化する。
【0012】
本発明で使用する再生ゴムは、JIS K6313に規定された自動車用タイヤ、チューブ及びその他のゴム製品の使用済みのゴムなどを再生したもの並びにこれと同等の性状を有するものとする。再生ゴムの種類は、チューブ再生ゴム、タイヤ再生ゴム、その他の再生ゴムから選ばれるいずれでもよく、複数の種類を組合わせることもできる。なかでも、タイヤ再生ゴムが好ましい。なお、本発明では、再生ゴムは、JIS K6313の規定に従い、所謂粉末ゴム以外の脱硫処理が施された再生ゴムとする。
【0013】
再生ゴムの特性としては、ムーニー粘度(ML1+4)が35〜65、好ましくは40〜60のものを使用する。ムーニー粘度が35未満であると、混合時に分散が悪くなる。また、ムーニー粘度が65を超えると、tanδが増大し転がり抵抗が大きくなる。ここで、ムーニー粘度(ML1+4)とは、JIS K6300に準拠し、100℃で測定した値をいう。
【0014】
また、再生ゴム中のゴム成分は、天然ゴム含有比率が60重量%以上、好ましくは60〜85重量%である。天然ゴム含有比率が60重量%未満であると、破断強度が低下する。なお、再生ゴム中の天然ゴム含有比率は、熱分解ガスクロマトグラフィー(PyGC)の測定により求められる値をいう。
【0015】
本発明で使用する再生ゴムは、ゾルの分子量がゲル透過クロマトグラフによる重量平均分子量で60000以下、好ましくは30000〜60000にする。ゾルの重量分子量が60000を超える場合には、tanδが大きくなり転がり抵抗が大きくなる。ここで、再生ゴム中のゾルは、常温でトルエンに溶解する成分とする。ゾルの分子量は再生ゴムをフィルムにしたものを切断し小片化し、約200倍量のトルエンに浸漬し24時間静置する。次いで、200メッシュの金網で再生ゴムを浸漬したトルエン溶液を濾過し、その濾液に含まれるゾルの分子量をゲル透過クロマトグラフ(Gel permeation chromatography(GPC))により重量平均分子量(ポリスチレン換算)で測定したものをいう。
【0016】
ゴム成分に配合する混合物のうち、熱硬化性樹脂の配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し、4〜18重量部、好ましくは10〜16重量部にする。熱硬化性樹脂の配合量が4重量部未満では、弾性率及び破断強度を十分に高くすることができない。また、熱硬化性樹脂の配合量が18重量部を越えると、耐クラック性が悪化すると共に、発熱性が大きくなる。なお、本発明では、動的弾性率(E′)を弾性率の指標とし、静的歪み10%、動的歪み±2%、周波数20Hz、温度60℃の条件で測定したものをいう。
【0017】
本発明に使用する熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。なかでも、フェノール樹脂、メラミン樹脂がビードフィラー用ゴム組成物としての特性及び耐久性において良好である。特にフェノール樹脂が好ましく、アルキルフェノール樹脂または変性フェノール樹脂を使用してもよい。変性フェノール樹脂としてはカシュー変性フェノール樹脂、オイル変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂、アニリン変性フェノール樹脂、メラミン変性フェノール樹脂などが例示され、とりわけカシュー変性フェノール樹脂が好ましい。
【0018】
熱硬化性樹脂に対する硬化剤の配合量は、熱硬化性樹脂配合量の5〜15重量%、好ましくは8〜12重量%にする。硬化剤の配合量が5重量%未満では、tanδが大きくなり転がり抵抗が大きくなる。また、硬化剤の配合量が15重量%を越えると、高温域での弾性率(特に動的弾性率E′)が低下する。
【0019】
硬化剤としては、特に限定されるものではなく、熱硬化性樹脂の種類に応じたものを使用すればよい。例えば、ポリアミン系、酸無水物系、ポリフェノール系、ポリメルカプタン系等を例示することができる。なかでもポリアミン系の硬化剤が好ましい。特に、カシュー変性フェノール樹脂の硬化剤としては、例えばヘキサメチレンテトラミン、メラミン、メチロールメラミン等が挙げられる。特にヘキサメチレンテトラミンは、樹脂の硬度を上昇させる作用に優れる点で好ましい。
【0020】
ゴム成分に配合する混合物のうち、カーボンブラックの配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し60重量部以上であり、好ましくは65〜85重量部にする。カーボンブラックの配合量が60重量部未満の場合には、破断強度や弾性率を十分に高くすることができない。また、カーボンブラックの配合量が多すぎると発熱性が悪化すると共に、耐クラック性が悪化する。
【0021】
本発明において使用するカーボンブラックは、窒素吸着比表面積(NSA)が25〜100m/g、好ましくは40〜80m/gのものを使用する。カーボンブラックの窒素吸着比表面積が25m/g未満の場合には、破断強度や弾性率を十分に高くすることができない。窒素吸着比表面積が100m/gを超えるとtanδが大きくなり転がり抵抗が悪化する。カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、JIS K6217−2に準拠して求められるものとする。
【0022】
本発明のビードフィラー用ゴム組成物には、カーボンブラック以外の無機充填剤を配合してもよい。無機充填剤としては、例えば、シリカ、クレー、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、マイカ、タルク等を例示することができる。
【0023】
また、ビードフィラー用ゴム組成物には、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、可塑剤などのゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0024】
ビードフィラー用ゴム組成物は、公知のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0025】
本発明のビードフィラー用ゴム組成物は、再生ゴムを使用してリサイクル率を高くしながら、弾性率(動的弾性率E′)を高く維持し操縦安定性を確保すると共に、tanδを小さくし低転がり抵抗性を維持することができる。このビードフィラー用ゴム組成物は、ビードフィラー部に適用することが好ましく、このゴム組成物から構成されたビードフィラー部を有する空気入りタイヤは、操縦安定性に優れるとともに、燃費性能を向上することができる。
【0026】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
表1に示す配合からなる11種類のゴム組成物(実施例1〜5、比較例1〜6)を、それぞれ硫黄及び加硫促進剤を除く配合成分を秤量し、1.7Lのバンバリーミキサーで4分間混練し、温度160℃でマスターバッチを放出し室温冷却した。このマスターバッチを1.7Lのバンバリーミキサーに供し、硫黄及び加硫促進剤を加え混合し、ビードフィラー用ゴム組成物を調製した。
【0028】
得られた11種類のゴム組成物(実施例1〜5、比較例1〜6)を、それぞれ所定形状の金型中で、150℃、30分間加硫して試験片を作製し、下記に示す方法により、動的弾性率(E′)、tanδ及び破断強度の試験を行った。
【0029】
動的弾性率(E)′,tanδ
東洋精機製作所社製粘弾性スペクトロメーターを用いて、温度60℃における動的弾性率(E′)及びtanδを、静的歪み10%、動的歪み±2%、周波数20Hzの条件で測定した。得られた結果は、比較例1の値をそれぞれ100とする指数で表わし表1に示した。動的弾性率(E)′の指数が大きいほど弾性率が高く操縦安定性に優れ、tanδの指数が小さいほどヒステリシスロスが小さく低転がり性に優れることを意味する。
【0030】
破断強度
JIS K6251に準拠し、3号型ダンベル試験片、20℃、引張り速度500mm/分の条件で測定した。得られた結果は、比較例1の値を100とする指数で表わし表1に示した。この指数が大きいほど破断強度が高いことを意味する。
【0031】
【表1】

【0032】
なお、表1において使用した原材料の種類を下記に示す。
NR:天然ゴム、RSS#1
SBR:スチレン−ブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol 1502
再生ゴム1:Gujarat社製GR555、(ムーニー粘度(ML1+4@100℃)=45、ゴム成分中の天然ゴム比率=80%、ゾルの重量平均分子量=30000)
再生ゴム2:村岡ゴム工業社製TBR100%タイヤリク、(ムーニー粘度(ML1+4@100℃)=60、ゴム成分中の天然ゴム比率=80%、ゾルの重量平均分子量=60000)
再生ゴム3:アセトン抽出量4.5重量%、クロロホルム抽出量2.2重量%の加硫ゴム(NR/BRの重量比が80/20のもの)を180℃に温調したラボプラストミル(容積60cc)で4分間せん断をかけて脱硫し作製したもの、(ムーニー粘度(ML1+4@100℃)=70、ゴム成分中の天然ゴム比率=80%、ゾルの重量平均分子量=200000)
再生ゴム4:アセトン抽出量4.5重量%、クロロホルム抽出量2.2重量%の加硫ゴム(NR/BRの重量比が20/80のもの)を180℃に温調したラボプラストミル(容積60cc)で8分間せん断をかけて脱硫し作製したもの、(ムーニー粘度(ML1+4@100℃)=40、ゴム成分中の天然ゴム比率=20%、ゾルの重量平均分子量=30000)
カーボンブラック1:東海カーボン社製シーストN(窒素吸着比表面積75m/g)
カーボンブラック2:キャボットジャパン社製N220(窒素吸着比表面積110m/g)
熱硬化性樹脂:カシュー変性フェノール樹脂、住友ベークライト社製PR217
硬化剤:ヘキサメチレンテトラミン、大内新興化学工業社製ヘキサメチレンテトラミン
亜鉛華:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
ステアリン酸:日本油脂社製ビーズステアリン酸
オイル:昭和シェル石油社製エキストラクト4号S
硫黄:鶴見化学工業社製金華印油入微粉硫黄
加硫促進剤:フレキシス社製SANTOCURE TBBS

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムを61重量%以上含むジエン系ゴム100重量部に対し、再生ゴムを2〜20重量部、窒素吸着比表面積が25〜100m/gのカーボンブラックを60重量部以上、熱硬化性樹脂を4〜18重量部配合すると共に、硬化剤を前記熱硬化性樹脂配合量の5〜15重量%配合したゴム組成物であり、前記再生ゴムがムーニー粘度35〜65、該再生ゴム中のゴム成分の天然ゴム含有比率が60重量%以上、かつ該再生ゴム中のゾルのゲル透過クロマトグラフによる重量平均分子量が60000以下であるビードフィラー用ゴム組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のビードフィラー用ゴム組成物によりビードフィラーを構成した空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2009−269961(P2009−269961A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120031(P2008−120031)
【出願日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】