説明

ピストンリングおよびピストン構造

【課題】 ロッド加速度を大きくさせないことで衝撃を発生させない。
【解決手段】 作動油を収容するシリンダ体1内に収装されてこのシリンダ体1内にロッド側室R1とピストン側室R2とを隔成するピストン体3に巻装されるピストンリング10において、シリンダ体1の内周面に摺接する周方向の外周面11を有し、この外周面11は、周方向に任意の間隔に設けられて開口しシリンダ体1の内周面に対向する複数本の溝12を有し、この複数本の溝12は、シリンダ体1の軸線方向に沿う方向にあるいはシリンダ体1の軸線方向に対して傾斜する方向に形成されてロッド側室R1およびピストン側室R2のいずれか一方にに連通されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ピストンリングおよびピストン構造に関し、特に、油圧緩衝器におけるシリンダ体内のピストン体に巻装されるピストンリングおよびこのピストンリングを有するピストン構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧緩衝器におけるシリンダ体内のピストン体に巻装されるピストンリングとしては、これまでに種々の提案があり、その多くが、たとえば、特許文献1に開示されているように、合口(合せ目)を有するカットタイプのものと、合口を有しないエンドレスタイプのものとからなる。
【0003】
そして、このいずれのタイプのものであっても、ピストンリングは、シリンダ体内に収装されるピストン体に巻装された状態で外周面をシリンダ体の内周面に摺接させる。
【0004】
それゆえ、シリンダ体内に収装のピストン体は、ピストンリングを介してシリンダ体内に一方室たるロッド側室および他方室たるピストン側室を隔成すると共に、シリンダ体内に挿通されるロッド体の先端部に保持されてロッド体がシリンダ体に対して入出されるとき、ピストンリングを介してシリンダ体内で摺動する。
【0005】
つまり、ピストンリングは、ピストン体とシリンダ体との間におけるいわゆる摺動性を保障すると共に、ピストン体とシリンダ体との間におけるいわゆるシール性を保障する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−075668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したことから、ピストンリングにあっては、摺動性の保障とシール性の保障とを両立させるとき最適となるが、たとえば、車両に搭載される油圧緩衝器にあって、ピストンリングにおけるシール性能が低下されると、設定の減衰作用がなされなくなる不具合に繋がる。
【0008】
そこで、車両に搭載される油圧緩衝器にあっては、ピストン体に巻装されるピストンリングにおけるシール性能が重視される傾向になる。
【0009】
そして、ピストンリングにおけるシール性能が重視されると、油圧緩衝器が、たとえば、収縮作動から伸長作動またはその逆に反転するときに、動摩擦から静摩擦に切り換わることもあって、ピストンリングのシリンダ体に対する摺動抵抗が大きくなる。
【0010】
このことから、油圧緩衝器が収縮状態から伸長状態またはその逆に反転するとき、ピストンリングの摺動抵抗が大きくなる分、油圧緩衝器においてロッド加速度が大きくなる。
【0011】
その結果、ロッド加速度が大きくなることで衝撃が発生され、この衝撃が車体側における音の発生と言う不具合に繋がる。
【0012】
この発明は、上記した現状を鑑みて創案されたものであって、車両に搭載される油圧緩衝器にあって、ロッド加速度を大きくさせないことで衝撃を発生させないピストンリングおよびこのピストンリングを巻装したピストン構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を達成するために、この発明によるピストンリングの構成を、作動油を収容するシリンダ体内に収装されてこのシリンダ体内にロッド側室とピストン側室とを隔成するピストン体に巻装されるピストンリングにおいて、上記シリンダ体の内周面に摺接する周方向の外周面を有し、この外周面は、周方向に任意の間隔に設けられて開口し上記シリンダ体の内周面に対向する複数本の溝を有し、この複数本の溝は、上記シリンダ体の軸線方向に沿う方向にあるいは上記シリンダ体の軸線方向に対して傾斜する方向に形成されて上記ロッド側室およびピストン側室のいずれか一方に連通されてなるとする。
【0014】
そして、この発明によるピストン構造の構成を、作動油を収容するシリンダ体内に収装されてこのシリンダ体内にロッド側室とピストン側室とを隔成するピストン体と、このピストン体に巻装されるピストンリングとを有してなるピストン構造において、上記ピストンリングは、上記シリンダ体の内周面に摺接する周方向の外周面を有し、この外周面は、周方向に任意の間隔に設けられて開口し上記シリンダ体の内周面に対向する複数本の溝を有し、この複数本の溝は、上記シリンダ体の軸線方向に沿う方向にあるいは上記シリンダ体の軸線方向に対して傾斜する方向に形成されて上記ロッド側室およびピストン側室のいずれか一方に連通されてなるとする。
【0015】
それゆえ、この発明によるピストンリングおよびこのピストンリングを有するピストン構造にあっては、ピストンリングにおける外周面に開口する複数本の溝がシリンダ体内に収容の作動油を浸入させ、この溝に浸入する作動油がピストンリングの外周面と、この外周面が摺接するシリンダ体の内周面との間に潤滑膜を形成する。
【0016】
このことから、いわゆる平滑面に形成されたピストンリングの外周面が対向するシリンダ体の内周面に密着する状態に摺接することになっても、両者間に形成される潤滑膜がピストンリングのシリンダ体に対する摺動抵抗を小さくする。
【0017】
したがって、油圧緩衝器が収縮状態から伸長状態またはその逆に反転するとき、ピストンリングのシリンダ体に対する摺動抵抗が小さくなる分、油圧緩衝器においてロッド加速度が大きくならない。
【発明の効果】
【0018】
その結果、この発明のピストンリングおよびこのピストンリングを有するピストン構造によれば、車両に搭載される油圧緩衝器にあって、ロッド加速度を大きくさせないことで衝撃を発生させないことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の一実施形態によるピストン構造を備える油圧緩衝器を示す部分縦断面図である。
【図2】この発明の一実施形態によるピストンリングを示す斜視図である。
【図3】図2に示すピストンリングにおける上端面図である。
【図4】ピストンリングの外周面を展開して示す部分正面図である。
【図5】(A),(B)および(C)は、ピストンリングの上端面を拡大して示す部分図で、(D)および(E)は、(A)中のX−X線位置で示すピストンリングの部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図示した実施形態に基づいて、この発明を説明する。図1に示すように、この発明の一実施形態によるピストン構造を備える油圧緩衝器は、シリンダ体1と、ロッド体2と、ピストン体3とを有し、このピストン体3は、この発明によるピストンリング10を巻装するピストン構造を構成する。
【0021】
なお、図示するところでは、油圧緩衝器は、単筒型に形成されてなるが、この発明が意図するところからすると、この油圧緩衝器は、複筒型に形成されてなるとしても良い。
【0022】
シリンダ体1は、図示する油圧緩衝器にあって、下端側部材とされて、たとえば、車両における車軸側に連結され、内部には作動油を収容してなる。
【0023】
そして、このシリンダ体1にあって、図示しない下端開口は、たとえば、ボトムキャップで閉塞され、このボトムキャップは、車両の車軸側への連結を可能にするアイなどの取付ブラケットを有する。
【0024】
また、このシリンダ体1にあって、図示しない上端開口は、たとえば、ロッドガイドおよびヘッドキャップで閉塞され、このロッドガイドおよびヘッドキャップは、軸芯部にロッド体2を入出自在に貫通させる。
【0025】
ロッド体2は、この油圧緩衝器にあって、上端側部材とされて、たとえば、車両の車体側への連結が可能とされ、それゆえ、図示しないが、車両における車体側あるいはマウントを連結させる上端螺条部を有し、下端側部たる先端側部をシリンダ体1内に入出自在に挿通させる。
【0026】
そして、このロッド体2は、図1中で下端側部となる先端側部(符示せず)をシリンダ体1内に入出自在に挿通し、シリンダ体1内に位置決めされる図中での下端部たる先端部2aにピストン体3を保持する。
【0027】
ピストン体3は、環状に形成されてシリンダ体1内にこのシリンダ体1の軸線方向に沿っての移動を自在に収装されると共に、軸芯部を貫通するロッド体2の先端部2aに保持され、シリンダ体1内に一方室たるロッド体2が軸芯部を挿通するロッド側室R1と、他方室たるロッド体2が軸芯部を挿通しないピストン側室R2とを隔成する。
【0028】
そして、このピストン体3は、シリンダ体1内のロッド側室R1とピストン側室R2との連通を許容する通路、すなわち、外側通路3aを有し、この外側通路3aの図中で上端となる下流側端を開放可能に閉塞する背面バルブ31を積層させる。
【0029】
また、図示するピストン体3は、減衰バルブ32を積層させ、この減衰バルブ32は、上記の外側通路3aに並列してロッド側室R1とピストン側室R2との連通を許容する内側通路(図示せず)の図中で下端となる下流側端を開放可能に閉塞する。
【0030】
そしてまた、このピストン体3は、外周部(符示せず)に形成の環状溝(符示せず)内にこの発明によるピストンリング10を収容させた状態に巻装させ、このピストンリング10は、ピストン体3とシリンダ体1との間における作動油のいわゆる漏れを阻止するシール性を保障すると共に、ピストン体3のシリンダ体1に対するいわゆる摺動性を保障する。
【0031】
なお、図示する油圧緩衝器にあって、上記のピストン体3を有するこの発明によるピストン構造は、ロッド体2の先端部2aと軸部(符示せず)との境部たる段部2bと、ロッド体2の先端螺条部(符示せず)に螺着されるピストンナット21との間に挟持される。
【0032】
すなわち、ピストン構造は、積層されるバルブストッパ33,背面バルブ31,ピストン体3,減衰バルブ32およびバルブストッパ34を有し、上記の段部2bとピストンナット21との間に挟持される。
【0033】
また、以上のように形成される油圧緩衝器が単筒型に設定される場合には、シリンダ体1内にピストン体3で隔成されるピストン側室R2は、図示しないが、たとえば、フリーピストンを有して、ピストン側室R2と隔成される気室を有するとしても良い。
【0034】
そして、油圧緩衝器が複筒型に設定される場合には、図示しないが、シリンダ体1の外に外筒を有し、この外筒とシリンダ体1との間をリザーバにして、このリザーバがシリンダ体1内のピストン側室R2に連通するとしても良い。
【0035】
以上のように形成されたピストン構造にあっては、シリンダ体1内でピストン体3が下降する収縮作動時には、ピストン側室R2からの作動油がピストン体3の外側通路3aを介し、また、背面バルブ31を開放作動させてロッド側室R1に流入する。
【0036】
そして、このピストン構造にあっては、シリンダ体1内でピストン体3が上昇する伸長作動時には、ロッド側室R1からの作動油が図示しない内側通路を介し、また、減衰バルブ32を開放作動させてピストン側室R2に流出し、このとき、減衰バルブ32で所定の減衰作用がなされる。
【0037】
上記の収縮作動時および伸長作動時に、前記したように、ピストンリング10がピストン体3とシリンダ体1との間におけるいわゆる摺動性を保障すると共にピストン体3とシリンダ体1との間におけるいわゆるシール性を保障する。
【0038】
ピストンリング10は、図2および図3に示すように、所定の機械的強度を具有させる適宜の肉厚の環状に形成され、図示するところでは、周方向の任意箇所に合口を有しないエンドレスタイプに形成されてなる。
【0039】
ちなみに、この発明が意図するところからすると、図2中に一点鎖線図で示すように、ピストンリング10が周方向の任意箇所に合口aを有するカットタイプに形成されていても良い。
【0040】
そして、このピストンリング10は、たとえば、ポリフェニレンサルファイド樹脂などの合成樹脂材で、型成形などで形成され、上記のピストン体3の外周部に形成の環状溝内に収容される。
【0041】
そしてまた、このピストンリング10にあっては、ピストン体3の外周側部に形成の環状溝に収容された状態で外周面11をシリンダ体1の内周面(符示せず)に摺接させ(図1参照)、ピストンリング10の外周面11とシリンダ体1の内周面との間における作動油のいわゆる漏れを阻止する、すなわち、シール機能を発揮する。
【0042】
一方、このピストンリング10にあっては、外周面11に周方向に任意の間隔で設けられて開口し、シリンダ体1の内周面に対向する複数本の溝12を有する。
【0043】
そして、図示するピストンリング10にあって、複数本の溝12は、シリンダ体1の軸線方向に沿う方向に形成されて前記したロッド側室R1およびピストン側室R2に連通されてなる。
【0044】
このことから、ピストンリング10の外周面11に開口する溝12は、シリンダ体1内に収装されるとき、ロッド側室R1およびピストン側室R2からの作動油を浸入させる。
【0045】
そして、溝12に浸入した作動油は、ピストンリング10の外周面11とシリンダ体1の内周面との間に潤滑膜を形成する。
【0046】
複数本の溝12をピストンリング10の外周面11に周方向に任意の間隔で配設するのについて、好ましくは、等間隔で有するのが良く、複数本の溝12が等間隔に設けられることで、ピストンリング10のシリンダ体1に対する周方向のシール性や摺動性が均等になる。
【0047】
また、このピストンリング10にあって、複数本の溝12は、ロッド側室R1およびピストン側室R2に連通するが、これにより、溝12内への作動油の浸入がいわゆる途切れなくなる。
【0048】
ちなみに、複数本の溝12は、上記したところでは、シリンダ体1の軸線方向に沿う方向に形成されるとしたが、これに代えて、図4(A)に示すように、シリンダ体1の軸線方向に沿う方向に形成されると共に、相隣間に周方向に位置決められて言わば縦になる溝12に連通する横溝部分12aを有し、周方向にいわゆる連続する十字状にあるいは図示しない格子状に形成されるとしても良く、また、図4(B)に示すように、シリンダ体1の軸線方向に対して傾斜する方向に形成されても良い。
【0049】
複数本の溝12が周方向に連続する十字状にあるいは格子状に形成される場合には、図2に示すように直状に形成される場合に比較して、作動油の浸入量を多くして、ピストンリング10とシリンダ体1との間における摺動抵抗を小さくする上で有利になる。
【0050】
そして、この場合には、ピストンリング10の外周面11とシリンダ体1の内周面との間における接触面積を小さくできるので、この点からも、ピストンリング10とシリンダ体1との間における摺動抵抗を小さくする上で有利になる。
【0051】
また、複数本の溝12が傾斜する方向に形成される場合には、溝12の本数が同数とされる場合には、複数の溝12が縦の方向に形成される場合に比較して、作動油の浸入量を多くする上で有利となる。
【0052】
そして、この場合にも、ピストンリング10の外周面11とシリンダ体1の内周面との間における油膜を形成し易くなるので、この点からも、ピストンリング10とシリンダ体1との間における摺動抵抗を小さくする上で有利になる。
【0053】
なお、上記したところでは、複数本の溝12がロッド側室R1およびピストン側室R2に連通されてなるとしたが、この発明が意図するところ、つまり、複数本の溝12内に作動油を浸入させるとの観点からすれば、図示しないが、この溝12がロッド側室R1およびピストン側室R2のいずれか一方に連通されるとしても良い。
【0054】
そして、この場合に、溝12の長さは、ピストンリング10における軸線方向の長さの半分以上になるのが好ましく、また、一の溝12が、たとえば、ロッド側室R1に連通するとき、相隣する他の溝12が反対側のピストン側室R2に連通するとするのが良い。
【0055】
上記したところは、複数本の溝12が外周面11に開口している状態から、すなわち、ピストンリング10の外周面11をこの外周面11の外側から見た状態で説明した。
【0056】
一方、溝12が外周面11に開口するについて、いわゆる深さを有するが、その深さは、溝12に作動油を浸入させ、かつ、溝12に作動油を言わば留まらせること可能にする深さであれば足りる。
【0057】
この観点からすると、溝12の深さについては、言わば任意に設定されて良いが、いたずらにピストンリング10の機械的強度およびシール性能を低下させるほどの深さには設定されないのが肝要となる。
【0058】
そのため、図示するところにあって、溝12は、ピストンリング10において、外周面11を有する外周側部13に形成されるとし、この外周側部13の肉厚をピストンリング10の径方向となる肉厚の、たとえば、1/10以下にするのが良い。
【0059】
そして、溝12のいわゆる横断面形状についてであるが、溝12の深さが同じであるとして、作動油の浸入を許容するように形成される限りには、任意の横断面形状を有するように形成されて良い。
【0060】
もっとも、溝12の横断面形状が区々になるとき、いずれの溝12にあっても、浸入させる作動油量を他の溝12と同一にするため、あるいは、異ならしめるために、外周側部13に形成される限りには、いずれの溝12の深さを他の溝12に対して同一にしたり異ならしめたりするのも任意である。
【0061】
すなわち、溝12の横断面形状は、たとえば、図5(A)に示すように、矩形とされても良く、そして、図5(B)に示すように、U字形状とされても良く、また、図5(C)に示すように、V字状とされても良く、さらには、図示しないが、その他の多角形状を含む任意形状とされても良い。
【0062】
溝12の横断面形状が矩形とされる場合には、溝12の横断面形状がU字状あるいはV字状とされる場合に比較して作動油の浸入量を多くでき、溝12の横断面形状がU字状あるいはV字状とされる場合には、溝12の横断面形状が矩形とされる場合に比較して形成が容易になる。
【0063】
つまり、溝12の横断面形状がU字状とされる場合には、溝12の横断面形状が矩形とされる場合に比較して、内側のいわゆる角張った隅部がなくなり、また、溝12の横断面形状がV字状とされる場合には、内側の角張った隅部が少なくなり、溝12の横断面形状が矩形とされる場合に比較して、形成が容易になる。
【0064】
そして、溝12の横断面形状がU字状あるいはV字状とされる場合には、溝12の横断面形状が矩形とされる場合に比較して、溝12における作動油の浸入量が少なくなるので、シール性が向上されるとも言い得る。
【0065】
一方、ピストンリング10における外周側部13に溝12を形成する方策については、基本的には任意であるが、多くの場合に、ピストンリング10が合成樹脂材からなることからして、型を利用した型成形の際に併せて形成される。
【0066】
つまり、型成形でピストンリング10を形成するとき、図示しないが、型が有する線状のリブで外周側部13に刻印するが如くに外周面11を凹ませて溝12を形成すると良い。
【0067】
もっとも、この発明が意図するところからすると、成形されたピストンリング10の外周側部13に外周面11から切削するなどして溝12が形成されることを妨げるものではない。
【0068】
そして、ピストンリング10における外周側部13の上端は、溝12の上端が開口するが、図5(D)に示すように、ピストンリング10の中心に向けて迫上がるように傾斜されて良く、また、図5(E)に示すように、ピストンリング10の中心に向けて湾曲して迫上がるように仕上げられても良い。
【0069】
ピストンリング10における外周側部13の上端が傾斜され、あるいは、湾曲される場合には、ピストンリング10、すなわち、ピストン体3に巻装されたピストンリング10のシリンダ体1内への挿通を容易にする。
【0070】
ちなみに、ピストンリング10における外周側部13の上端が傾斜され、あるいは、湾曲されることに対しては、図示しないが、外周側部13の下端も同様に傾斜され、あるいは、湾曲されるのが良く、この場合には、このピストンリング10のピストン体3への巻装に際して、いわゆる天地をなくして、誤組を阻止する上で有利となる。
【0071】
また、ピストンリング10における外周側部13の上下端を傾斜仕上げしたり湾曲仕上げしたりすることについてだが、一般に、この種のピストンリングを製品化する際には、バリ取りの一環として、面取り作業が実践されるのが常態である。
【0072】
このことからすれば、この面取り作業に連続する一連の作業として、上記の傾斜仕上げあるいは湾曲仕上を実践できるので、製品コストをいたずらに高騰化させる原因にはならない点で有利となる。
【0073】
以上のように形成されたピストンリング10にあっては、ピストンリング10の外周面11に開口する複数本の溝12が作動油を浸入させ、この溝12に浸入する作動油がピストンリング10の外周面11と、この外周面11が対向する他部、すなわち、図示するところでは、シリンダ体1との間に浸出して潤滑膜を形成する。
【0074】
このことから、いわゆる平滑面に形成されたピストンリング10の外周面11が対向するシリンダ体1の内周面に対して密着する状態に摺接する状況になっても、ピストンリング10の外周面11と対向するシリンダ体1の内周面との間に潤滑膜があるので、ピストンリング10、つまり、ピストンリング10が摺接するシリンダ体1に対して摺動を開始するときの動作を円滑に実現させる。
【0075】
そして、上記のピストンリング10を巻装させるピストン体3を有するピストン構造、つまり、このピストン構造を備える油圧緩衝器にあっては、シリンダ体1内にロッド体2が入出すると、シリンダ体1内でピストン体3が摺動してシリンダ体1内のロッド側室R1とピストン側室R2とが膨縮する。
【0076】
このロッド側室R1とピストン側室R2との膨縮に際しては、ピストンリング10がシリンダ体1の内周に摺接してこのピストンリング10とシリンダ体との間における作動油のいわゆる漏れを阻止し、背面バルブ31あるいは減衰バルブ32の設定通りの作動を保障する。
【0077】
そして、上記のピストンリング10を有するピストン構造にあっては、ピストン体3が、つまり、ピストンリング10が間に作動油からなる潤滑膜を形成させない状態でシリンダ体1に摺接する場合に比較して、摺動開始時の抵抗を小さくする。
【0078】
このことから、このピストン構造にあっては、油圧緩衝器が収縮状態から伸長状態またはその逆に反転するとき、ピストンリング10のシリンダ体1に対する摺動抵抗が小さくなる分、油圧緩衝器においてロッド加速度が大きくならない。
【0079】
その結果、この発明によるピストンリング10およびこのピストンリング10を有するピストン構造によれば、車両に搭載などされる油圧緩衝器にあって、ロッド加速度を大きくさせないことで衝撃を発生させないことが可能になる。
【0080】
前記したところでは、この発明によるピストンリング10が油圧緩衝器に利用されるものとして説明したが、この発明によるピストンリング10の構成からすれば、これが流体圧シリンダに利用されるウェアリングに適用されるとしても良いと言い得る。
【符号の説明】
【0081】
1 シリンダ体
2 ロッド体
2a 先端部
2b 段部
3 ピストン体
3a 外側通路
10 ピストンリング
11 外周面
12 溝
12a 横溝部分
13 外周側部
21 ピストンナット
31 背面バルブ
32 減衰バルブ
33,34 バルブストッパ
R1 ロッド側室
R2 ピストン側室
a 合口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動油を収容するシリンダ体内に収装されてこのシリンダ体内にロッド側室とピストン側室とを隔成するピストン体に巻装されるピストンリングにおいて、
上記シリンダ体の内周面に摺接する周方向の外周面を有し、
この外周面は、周方向に任意の間隔に設けられて開口し上記シリンダ体の内周面に対向する複数本の溝を有し、
この複数本の溝は、上記シリンダ体の軸線方向に沿う方向にあるいは上記シリンダ体の軸線方向に対して傾斜する方向に形成されて上記ロッド側室およびピストン側室のいずれか一方に連通されてなることを特徴とするピストンリング。
【請求項2】
上記複数本の溝は、上記外周面において、周方向に等間隔に形成されてなる請求項1に記載のピストンリング。
【請求項3】
上記複数本の溝は、相隣間に周方向に位置決めされる横溝部分を有し、周方向に連続する十字状あるいは格子状に形成されてなる請求項1に記載のピストンリング。
【請求項4】
作動油を収容するシリンダ体内に収装されてこのシリンダ体内にロッド側室とピストン側室とを隔成するピストン体と、このピストン体に巻装されて外周面を上記シリンダ体の内周面に摺接させるピストンリングとを有してなるピストン構造において、
上記ピストンリングは、請求項1,請求項2または請求項3に記載のピストンリングとされてなることを特徴とするピストン構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−202430(P2012−202430A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65252(P2011−65252)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】