説明

ピストンリングパッケージの機能の最適化方法ならびにそれに適したピストンリングパッケージ

【課題】ピストンリングパッケージの機能の最適化を可能にする方法およびこれに適したピストンリングパッケージを提供すること。
【解決手段】ピストンのそれぞれ割り当てられたピストンリング溝内に配置された複数のピストンリングを備えたピストンリングパッケージであって、ピストンの動作サイクルのたびに、上からは、ピストンによって画定された作動空間内で生成された燃焼圧によって、下からはピストンの下にある圧力によって負荷をかけられるピストンリングパッケージにおいて、すべてのピストンリングで、作動空間から抜けるガスの、スリット入りのピストンリングを備えた構成に比べて少ない、制御された漏出が許容され、この漏出が、各々のピストンリングに対してそれぞれ個別に設定されており、作動空間の最も近くに隣接するピストンリングから作動空間から最も離れたピストンリングまで、許容される漏出を減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、往復ピストン式内燃機関、特に2サイクル大型ディーゼルエンジンのピストンの、重ねて配置された複数のピストンリングを含むピストンリングパッケージの機能を最適化する方法であって、ピストンリングパッケージが、ピストンの動作サイクルのたびに、上からはピストンによって画定された作動空間内で生成された燃焼圧に曝され、下からはピストンの下にある圧力に曝される方法に関し、その際、ピストンリングパッケージの領域において、作動空間から抜けるガスの漏出が起こる。
【0002】
本発明はさらに、特にこの方法の実施に適したピストンリングパッケージに関する。
【背景技術】
【0003】
ピストンリングの領域で起こる作動空間からのガスの漏出により、とりわけガス圧によってピストンリグに径方向の力が加えられ、これは、ピストンリングを径方向に拡げるため、したがってピストンの径方向の安定化をもたらすために望ましい。しかしながら他方で、作動空間からの燃焼ガスの漏出は出力損失を引き起こす。実際に使用されているピストンリングは2つの群に、つまりスリット入りのピストンリングといわゆる気密ピストンリングに分けることができる。スリット入りのピストンリングの場合、その端部は相互に離隔しており、これによりスリットが生じ、このスリットが、漏出ガスのための上から下へ通じる流路を構成する。この流路は、ピストンリングの磨滅が増すにつれ、したがってピストンリングの拡張が増すにつれて次第に大きくなる。気密ピストンリングは、溝およびバネの形で相互に噛み合う端部を有しており、その結果、一周する閉じた周面が生じる。ここでガス漏出を可能にするために、気密ピストンリングには、その上側と下側をつなぐ、例えば周囲溝の形の流路を配することができる。
【0004】
特許文献1で提示されたピストンリングパッケージの場合、一番上のピストンリングだけが気密ピストンリングとして形成されており、この気密ピストンリングは、作動空間から抜けるガスの制御された漏出を達成するために、周囲溝を備えている。残りのピストンリングは、スリット入りのピストンリングとして形成することができる。このような構成では、一番上の気密ピストンリングにおける漏出可能性が、その下にあるピストンリングに比べて最も強く制限されている。これに対応してこのピストンリングでは、その上側にかかる圧力と下側にかかる圧力の差も最も大きい。したがって経験上、このピストンリングは残りのピストンリングより速く磨滅する。他方、スリット入りのピストンリングでは、それぞれリング端部の間隔によって構成される流路が、気密ピストンリングの漏出溝に比べて大きく、したがって圧力平衡が速く生じ、つまり漏出ガスを速く下に流し得ることが前提とされ、したがって下のピストンリングは短い時間間隔で最高圧力負荷を受け、これは全体として使用可能なエネルギーの利用率を悪化させる。その上、スリットの内法幅は、磨滅が増すにつれて次第に大きくなり、これは上述の現象をさらに激しくし、そしてピストンリングパッケージの寿命中に出力損失を次第に増加させる。
【0005】
前述の特許文献1では、周囲側の漏出溝を備えた気密ピストンリングを複数含む構成も言及されている。これにより確かに一番上のピストンリングのある程度の負担軽減が達成可能である。しかしながらこの連続する気密ピストンリングは同一の構造である。したがってこれらのピストンリングで起こる漏出は多少の差はあれ同じである。したがってピストンリングパッケージ全体の機能を最適化するために、個々のピストンリングに付与される漏出可能性に個別に影響を及ぼすことは、この場合は不可能である。
【0006】
このことは、特許文献2から明らかなピストンリングパッケージにも当てはまる。上記の特許文献2は、気密ピストンリングのみから成るピストンリングパッケージを備えたピストンを示しており、この場合、重ねて配置されたピストンリング溝は、一番上のピストンリングの負担軽減のために、ピストン側の孔を介して相互に結合されている。重ねて配置されたピストンリング溝の間のこの結合のそれぞれは、この場合、同じように孔から成り、したがって当該ピストンリングでこのように構成された漏出可能性も同様にほぼ同じである。個々のピストンリングで可能な漏出、したがって個々のピストンリングで有効な圧力低下を、個々のピストンリングの個別の負荷状況および磨滅状況に個別に適合させること、したがってピストンリングパッケージ全体の機能を最適化することは、この場合も不可能である。これとは別に、ピストン側でピストンリング溝からピストンリング溝に通じる孔は、外から点検することもできず、洗浄のためにアクセス可能でもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許第0742875明細書
【特許文献2】特開昭58−167860
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のことから、本発明の課題は、ピストンリングパッケージの機能の最適化を可能にする冒頭に挙げた種類の方法を提供することである。さらなる課題は、これに適したピストンリングパッケージを提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この方法に関する課題は、本発明によれば、ピストンリングパッケージのすべてのピストンリングにおいて、作動空間から抜けるガスの、スリット入りのピストンリングを備えた構成に比べて少ない、制御された漏出が許容され、この漏出が、各々のピストンリングに対して個別に設定され、その際、それぞれ許容される漏出が、作動空間の最も近くに隣接するピストンリングから、作動空間から最も離れたピストンリングまで減少していくことによって解決される。
【0010】
ピストンリングパッケージに関するさらなる課題は、本発明によれば、ピストンリングパッケージのすべてのピストンリングに、それぞれ個別に設定された、ピストンリングスリットに比べて小さな総断面積の、各々のピストンリングの上と下の空間をつなぐガス漏出路を配し、このガス漏出路の有効断面積が、当該ピストンリングが損耗しても一定に維持され、その際、それぞれ1つのピストンリングに配されたガス漏出路によって構成される、塞がっていない総通流断面積の大きさが、一番上のピストンリングから下へと、個別に適合された段階ずつ減少していくことで解決される。
【0011】
これに関し、個々のピストンリングにおいて可能な漏出を均等にする代わりに、したがって個々のピストンリングにそれぞれ割り当てられた、ピストンリングの上側での圧力と下側での圧力の間の圧力差を均等にする代わりに、個々のピストンリングに付与される漏出可能性、つまりそこで有効な圧力差を、各々のピストンリングの状況に、ピストンリングパッケージ全体の機能を永続的に最適化する意味において個別に適合させることが提案される。本発明に基づく方策により、作動空間からガスが漏出し得ることで引き起こされる出力損失を低レベルで一定に保つことができ、これにより全体として、ピストンリングパッケージの寿命全体にわたって良好な全体効率が達成される。個々のピストンリングで付与される漏出可能性を個別に適合させることにより、各々のピストンリングにそれぞれ割り当てられた最高圧力負荷の発生を個別に時間的に遅延させること、したがって各ピストン行程でのすべての使用可能なエネルギーを最適に活用することも達成できる。下側の、漏出可能性がより小さいピストンリングで最高圧力負荷が発生する場合、ここではピストンの移動により既に潤滑油膜も存在しており、これは磨滅の少ない稼働にさらに有利に働く。個々のピストンリングでの漏出可能性、したがってピストンリングの負荷を個別に適合させることは、有利なことには、ピストンリングの比較的ゆっくりとした磨滅を達成するだけでなく、ピストンリングパッケージのすべてのピストンリングのほぼ均一な磨滅、したがってピストンリングパッケージ全体の比較的長い全体寿命の達成も可能にする。この期間後には、有利なことに、すべてのピストンリングに交換の必要があり、したがって同時の交換が材料損失なく可能である。同時に、ピストンリング交換のための整備の間隔が比較的長いことが保証される。したがって整備費用および維持費用も比較的少なくなる。本発明による方策のさらなる利点は、ピストンリングが、それぞれ受けるべき負荷の個別の適合により、比較的低質量にも形成され得ることに見いだすことができ、これは動力の望ましい減少をもたらし、したがって、やはり出力損失の削減に有利に影響を及ぼす。
【0012】
この上位概念の方策の有利な形態および有用な発展形態は、従属請求項に提示されている。
【0013】
好都合にはピストンリングパッケージのすべてのピストンリングを、スリットのない、一周している閉じたピストンリングとして形成することができ、その際、個別に配された、ピストンリングの上側から下側に通じるガス漏出路は周囲溝として形成され、この周囲溝の深さは、ピストンとこれを収容するシリンダライナとの間の隙間の幅に、寿命中に許容されるピストンリング厚の磨滅を足した幅より大きく、周囲溝の総断面積は個別に設定され、その際、一番上のピストンリングには、属するピストンリングパッケージ(11)の領域内で最も大きな個別のガス漏出断面積を構成する溝が、一番下のピストンリングには最も小さな個別のガス漏出断面積を構成する溝が割り当てられる。この周囲溝によって、リング周囲へのガス漏出の均一な分散が生じ、したがってスリットによって構成されるただ1つの漏出口を有する実施形態に比べ、漏出ガスの上から下への通り抜けが減少する。そのうえ周囲溝は、シリンダライナの掃気ガススリットの領域で容易に点検することができ、必要な場合には洗浄することができる。提案した周囲溝の深さは、この溝によって提供される有効通流断面積が、割り当てられたピストンリングの寿命全体にわたって、ピストンで覆われていない溝の領域に相当すること、したがって寿命全体にわたって一定に維持されることを保証する。したがってこれにより、周囲溝によって許容される、制御された漏出を、割り当てられたピストンリングの寿命全体にわたって一定に維持することが保証され、これは、不可避の出力損失を低レベルで一定にするための前提条件である。したがって有利なことに、ピストンリングパッケージ全体の寿命全体にわたって変わらないエンジン出力を前提できる。有利なことに、ピストンリングパッケージの寿命中の出力変化を危惧する必要はない。
【0014】
ピストンリングごとにモジュール式に設けられる溝は、個別の要求に対応して変化させることができる。実用的に使いやすい決定規則は、ピストンリングごとに設けた同一の周囲溝の数を、一番上のピストンリングを基準として、ピストンリングからピストンリングへとそれぞれ半分に、少なくとも1つの周囲溝にまで減少させ、その後は好ましくは変えないことであるかもしれない。少なくとも1つの溝が存在することが有利である。これは実用的な解決策であり、この解決策では、上のピストンリングで、いずれにせよ比較的小さい負荷がかかる下のピストンリングよりも強い負担軽減が提供され、これにより全体として、ピストンリングのほぼ均一な負荷、したがって均一な磨滅および出力損失の恒常性がもたらされる。
【0015】
この上位概念の方策のさらなる有利な形態および有用な発展形態は、残りの従属請求項に示されており、図面に基づく以下の例の説明からより詳しく読み取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】往復ピストン式内燃機関のシリンダピストンユニットの上部領域の垂直断面図である。
【図2】本発明によるピストンリングの部分透視図である。
【図3】図1の細部IIIの、垂直に延びる溝を備えた拡大図である。
【図4】図1の基礎となるピストンリングパッケージの傾斜した溝を備えた4つのピストンリングの展開図である。
【図5】図1の基礎となるピストンリングパッケージの傾斜した溝を備えた4つのピストンリングの展開図である。
【図6】図1の基礎となるピストンリングパッケージの傾斜した溝を備えた4つのピストンリングの展開図である。
【図7】図1の基礎となるピストンリングパッケージの傾斜した溝を備えた4つのピストンリングの展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の主要な適用分野は、大型エンジンとして形成された往復ピストン式内燃機関、特に2サイクル大型ディーゼルエンジンであり、これは例えば船舶の駆動装置に使用される。このような装置の基本構造および動作方式はそれ自体知られており、したがってそれに関してはさらなる説明は必要ない。
【0018】
図1の基礎となるシリンダピストンユニットは、2サイクル大型ディーゼルエンジンの一部である。図示したシリンダピストンユニットは、シリンダ1およびシリンダ内に収容されたピストン2から成る。シリンダ1は、周りを取り囲むシリンダライナ3およびこの上に収容されたシリンダヘッド4を含んでいる。シリンダ1内には作動空間5が設けられ、この作動空間の下限は、シリンダライナ3内で案内されて上下に移動可能なシリンダ2によって構成され、またこの作動空間は上部の排ガス排気口6を備えており、この排ガス排気口には、ポペットバルブとして形成された排気バルブ7が配されている。作動空間5には、シリンダヘッド4内に配置された少なくとも1つの噴射バルブ8を介して燃料を、およびシリンダライナ3の下部領域に設けられた、ここでは詳しく示していない流入スリットを介して基本的に空気から成る掃気ガスを装入し得る。
【0019】
ここで取り上げいる種類の大型エンジンのピストン2は一般的に、図1に示した上部およびこれとつながった詳しくは示していない下部から成り、この下部は、詳しく示していないやり方で、ピストン棒を介してクロスヘッドと、およびこれに連接された連接棒を介してクランク軸と協働する。ピストン2は、図示した上部の領域に、重ねて配置された複数のピストンリング溝9a、9b、9c、9dを備えており、このピストンリング溝内に、それぞれ1つの割り当てられたピストンリング10a、10b、10c、10dが配置されている。図示の例では、重ねて配置された4つのピストンリング溝9a、9b、9c、9dおよびそれに対応して重ねて配置された4つのピストンリング10a、10b、10c、10dが設けられている。この重ねて配置されたピストンリング10a、10b、10c、10dが、いわゆるピストンリングパッケージ11を構成している。
【0020】
ピストンリングパッケージ11のピストンリングは、ピストン2の外周面とシリンダライナ3の内周面の間の隙間を塞いでいる。ピストンリングパッケージ11はこれにより、ピストン2の動作サイクルのたびに、上からは作動空間5内で生成された燃焼圧に曝され、下からはピストン2の下の空間にある圧力に曝され、この下からの圧力は、シリンダライナ3の上述の流入スリットを介して作動空間5に供給され得る掃気ガスの圧力である。
【0021】
ピストンリングパッケージ11は、そのピストンリングとシリンダライナ3の接触によって、作動空間5からの燃焼ガスの過度な漏出を阻止し、同時にピストン2の径方向の安定をもたらすべきである。このためにピストンリング10a、10b、10c、10dは、径方向内側にかかるガス圧によって径方向に拡張され、シリンダライナ3に押し当てられる。これを達成するには、ピストンリングパッケージ11の領域で、ある程度のガス漏出が必要であり、したがって一番上のピストンリング10aだけでなく、それに続くピストンリング10b、10c、10dも、径方向内側からガス圧によって力を加えられる。これに関しピストンリング10a、10b、10c、10dは、漏出を制御するための手段を備えている。それ故にピストンリング10a、10b、10c、10dの各々では、割り当てられた漏出に応じた、ピストンリングの上側にかかる圧力と下側にかかる圧力との間の圧力差が生じる。この圧力差が、当該ピストンリングの磨滅に主要な影響を及ぼす。
【0022】
ピストンリングパッケージ11の領域での燃焼ガスの必要な漏出は、必然的にある程度の出力損失を引き起こす。この出力損失は、実質的には不可避であるが、しかし最小限に、かつピストンリングパッケージ11の想定されている寿命中ほぼ一定に保たれるべきである。このためには、磨滅およびその前提条件としてのピストンリングパッケージの個々のピストンリング10a、10b、10c、10dにおける漏出が、ピストンリングパッケージ11の想定されている寿命全体にわたって一定に保たれなければならない。その際、すべてのまたは少なくとも複数の影響因子に配慮するために、個々のピストンリング10a、10b、10c、10dでそれぞれ許容される、制御された漏出を、各々のピストンリング10a、10b、10c、10dに対して個別に、それぞれ存在する状況に適合させる。この個別の適合は、個々のピストンリング10a、10b、10c、10dにおいて均一な磨滅が、したがって一定の漏出が寿命全体にわたって生じるように行われる。これにより、個々のピストンリング10a、10b、10c、10dで起こる漏出の間の関係も、ピストンリングパッケージ11の寿命全体にわたって変化せず、したがって全体として、ピストンリングパッケージ11の寿命全体にわたって一定の出力損失を前提することができる。
【0023】
上記の方策を容易にするために、ピストンリングパッケージ11のすべてのピストンリング10a、10b、10c、10dは、図2に示した種類の、スリットのない、一周して閉じているいわゆる気密ピストンリングとして形成され、この気密ピストンリングには、個別に設定されたガス漏出路が、例えば周囲溝12の形で配されている。溝12はここでは斜めに傾斜しており、これはピストン軸を中心とした、割り当てられた溝12におけるピストンリングの回転を引き起こし、したがって不測の磨滅を均等にするのに有利に働く。図示した例(図4〜7)では、図示したピストンリングパッケージのすべてのピストンリング10a〜dのすべての溝12が同じ方向に傾斜しており、詳しくは普通の斜線のように右上から左下に傾斜している。連続するピストンリングで起こる漏出の望ましくない連結、つまりいわゆる吹抜けを回避するために、連続するピストンリングの溝12が逆向きに傾斜していると好都合である。
【0024】
好都合には、一番上のピストンリング10aが、図4の表示とは反対に逆斜線のように左上から右下に傾斜した溝12を有してもよい。こうすると、2サイクルエンジンの場合、通常は同じ方向に傾斜している給気スリットを通したこれら溝の点検が容易になる。周囲溝12に加えてまたはその代わりに、ピストン側に設けられた、重ねて配置されたピストンリング溝9a、9b、9c、9dを相互につなぐ、または一番下のピストンリング溝9dから下へ分岐する、好ましくは孔によって構成される流路を設けてもよいであろう。ピストンリング10a、10b、10c、10dの、一周して閉じているスリットのない構造様式は、このピストンリングが、図2で具体的に認識できるような、溝およびバネの形で相互に噛み合う端部領域を備えることによって達成される。その際、一方の端部領域、図2では左側は、径方向外側および下側が開いた小部屋状の凹部13を備えている。もう一方の端部領域、図2では右側は、周方向に突き出たフィンガ14を備えており、このフィンガは、断面が凹部13の断面に適合しており、凹部内に噛み合う。凹部13とフィンガ14が相互に噛み合う長さは、磨滅によりピストンリングが拡張しても、相互噛合いが決して完全にはなくならないように設定される。このようにして、周囲側で閉じ、シリンダライナの摺動面と耐密に協働する周面も、底側で閉じて一周しており、割り当てられたピストンリング溝の下面と耐密に協働する底面も達成され、その際、両方の面が組み合わさって、上から下へのガスの通り抜けを阻止する。この場合、底面は平らな面として、溝またはその類似物なしで形成されており、したがってどんな回転位置でも密封作用を提供する。
【0025】
ガス漏出路を構成する、図3では簡略化のため垂直に延びて示された周囲溝12の深さtは、図3から最もよく認識できるように、ピストン2の外被面とシリンダライナ3の摺動面との間の隙間の幅bに、割り当てられたピストンリング10の寿命中に許容されるピストンリング厚の磨滅を足した幅に相当する。このようにすると、ピストンリング10の寿命全体にわたって、隙間の距離b×溝幅aから導かれる有効通流断面積が一定に維持されることが保証される。好都合には、ここでは周囲溝12によって構成されたガス漏出路を、リング平面に対して斜めに、好ましくは45°リング平面に対して傾斜して配置することができる。これは、ピストンリングパッケージ11の、重ねて配置された個々のピストンリング10a、10b、10c、10dにおける最高負荷の発生を所望どおり時間的に遅延させるのに有利に働く。
【0026】
重ねて配置されたピストンリング10a、10b、10c、10dにそれぞれ配されたガス漏出路、詳しくはガス漏出路の有効通流断面積の個別の設定は、ガス漏出路の数、ここでは溝12の数、および/またはガス漏出路の幅、ここでは溝幅aを変えることで行うことができる。有効通流断面積の大きさに、一番上の、作動空間5の最も近くに隣接するピストンリング10aから下に向かって、次のピストンリング10b、10c、10dへと、個別の段階ずつ減らしていくのが好都合である。その際、一番上のピストンリング10aに最も大きな漏出通流断面積が割り当てられ、その下にあるピストンリング10b、10c、10dには、次第に小さくなる通流断面積が割り当てられる。したがって、それぞれに許容される、制御された漏出は、作動空間5からの間隔が増すにつれて減少していく。
【0027】
すべての周囲溝12が同じ幅であり、したがって一番上のピストンリング10aが最も多くの溝12を備えており、その下にあるピストンリングの溝12の数が、下へいくにつれ減少していくのが好都合である。その際、それぞれ、その前のピストンリングの溝12の数の半分に減少するように行うのが有利である。下方のピストンリングについては、1つより多くの周囲溝12を有する最後のピストンリングより下のすべてのピストンリングが、それぞれ1つの周囲溝12を有するようにしてもよい。
【0028】
前述の規則は図4〜7によって明瞭になり、これらの図は、4つのピストンリングを備えたピストンリングパッケージ11のそれぞれ1つのピストンリングに基づくものである。図4の基礎となる一番上のピストンリング10aは、ここでは4つの周囲溝12を有している。その下にある、図5の基礎となるピストンリング10bの溝12の数は、半分に少なくなっている。ピストンリング10bはこれに対応して、2つの周囲溝12しか有さない。同じ規則が次の図6の基礎となるピストンリング10cにも適用される。したがってピストンリング10cは、あと1つの周囲溝12しか有さない。この数は、さらなるすべてのピストンリングで、ここでは図7の基礎となる一番下の、作動空間5から最も離れたピストンリング10dでも維持される。ただし、異なる方式で段階的に減らしていくことも考えられるであろう。つまり例えば両方の真ん中のピストンリング10b、10cが、それぞれ同じ多さの、例えば2つの溝12を有し、一番下のピストンリング10dが1つの溝12を有するか全く有さなくてもよいであろう。同様に、重ねて配置されるピストンリングの数も、4つのピストンリングを備えた図示した例より多くまたは少なくすることができる。ただし、いずれにせよ、それぞれ許容される漏出が、作動空間5からの隔たりが増すにつれて減少していく、つまり作動空間5のすぐ近くの上側では、それより下またはずっと下でよりも大きいことがあてはまる。
【0029】
図4〜図7では、上で既に詳述したように、表示を簡略化するために、図示したピストンリングパッケージのすべてのピストンリング10a〜dが、右ネジの場合のように傾斜した溝12を備えている。しかしながら実際には、連続するピストンリングの溝12が互いに逆向きに、例えば一番上のピストンリング10aの溝12は左ネジの場合のように、2番目のピストンリング10bの溝12は右ネジの場合のように、以下同様にして、傾斜すると好都合である。このようにすると、連続するピストンリングの溝12によって実質的に構成される吹込口が一列に整列することにより、そこから出る噴射が実質的に方向転換なしで1つのピストンリング溝から次のピストンリング溝へと吹き抜け得ることが阻止される。この吹抜け効果は、連続するピストンリングの溝12の、上述の逆向きの傾斜によって回避される。
【0030】
2サイクルエンジンではシリンダライナの下部領域に設けられた給気流入スリットによって構成される窓を介した溝の目視検査を容易にするには、ピストンが動くと流入スリットの領域にくる一番上のピストンリング10aの溝12が、流入スリットと同じ傾斜を有すると有利である。通常これは左ネジの傾斜である。
【0031】
上で説明したように、それぞれ許容される、制御された漏出を個々のピストンリング10a、10b、10c、10dで個別に設定すると、個々のピストンリングの均一な磨滅に適した、個別の負荷をともなう望ましい関係がもたらされ、したがって不可避の継続的な出力損失がピストンリングパッケージ11の寿命全体にわたって一定になる。この出力損失を最小限にするために、ピストンリング10a、10b、10c、10dの形成は、ピストンリングパッケージ11全体の密封作用が、全体として冒頭で説明した既知の構成の密封作用を超えるように行われ、したがって動作サイクルのたびに作動空間から抜ける漏出体積は、既知の構成で予測され得る漏出より小さくなる。このために、個々のピストンリング10a、10b、10c、10dにそれぞれ配されたガス漏出路の有効通流断面積を、それぞれの場合の個別の要求に対応して個別に調節する。図示した例示的実施形態では、有効通流断面積は、段階的に減り、つまり一番上の、作動空間5に最も近いピストンリング10aから下へと、作動空間から最も離れたピストンリング10dに向かって減少していく。このように上から下へ、つまり作動空間5からの隔たりが増すにつれて減少する、本発明に従って調節された漏出量は、有利なことに、ピストンリングの比較的ゆっくりとした磨滅をも、したがって長い全耐用期間をももたらす。
【0032】
上記の実施形態から、本発明が、図示した例示的実施形態に限定されないことは明らかである。
【符号の説明】
【0033】
2 ピストン
3 シリンダライナ
5 作動空間
9a、9b、9c、9d ピストンリング溝
10a、10b、10c、10d ピストンリング
11 ピストンリングパッケージ
12 周囲溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復ピストン式内燃機関、特に2サイクル大型ディーセルエンジンのピストン(2)の、重ねて配置された複数のピストンリング(10a、10b、10c、10d)を含むピストンリングパッケージ(11)の機能を最適化する方法であって、
前記ピストンの動作サイクルのたびに、上からは、前記ピストン(2)によって画定された作動空間(5)内で生成された燃焼圧に曝され、下からは前記ピストン(2)の下にある圧力に曝される方法において、
前記ピストンリングパッケージ(11)の領域では、作動空間(5)から抜けるガスの漏出が起こる方法において、前記ピストンリングパッケージ(11)のすべてのピストンリング(10a、10b、10c、10d)で、作動空間(5)から抜けるガスの、制御された、スリットの入ったピストンリングを備えた構成に比べて少ない漏出が許容され、前記漏出が、各々のピストンリング(10a、10b、10c、10d)のために個別に決められることを特徴とする方法。
【請求項2】
作動空間(5)から抜けるガスの、前記ピストンリングパッケージ(11)の前記個々のピストンリング(10a、10b、10c、10d)でそれぞれ許容される、制御された漏出が、これによって引き起こされる出力損失が、前記ピストンリングパッケージ(11)の寿命全体にわたって一定であるように個別に設定されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
作動空間(5)から抜けるガスの、前記ピストンリングパッケージ(11)の前記個々のピストンリングでそれぞれ許容される、制御された漏出が、前記ピストンリングパッケージ(11)の上側の圧力と下側の圧力の間の全体的な圧力低下が前記ピストンリングパッケージ(11)のすべてのピストンリング(10a、10b、10c、10d)に個別に分配され、その結果、前記ピストンリングパッケージ(11)のすべてのピストンリング(10a、10b、10c、10d)の均一な磨滅が生じるように、個別に設定されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
作動空間(5)から抜けるガスの、前記ピストンリングパッケージ(11)の前記個々のピストンリングでそれぞれ許容される、制御された、個別に設定される漏出が、各動作サイクルにおいて、前記ピストンリングパッケージ(11)の前記連続するピストンリング(10a、10b、10c、10d)の最高圧力負荷が上から下へと時間的に遅延して起こるように、個別に影響を及ぼされることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
それぞれ許容される漏出が、作動空間(5)の最も近くに隣接する前記ピストンリング(10a)から、作動空間(5)から最も離れた前記ピストンリング(10d)まで減少していくことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
重ねて配置された複数のピストンリング(10a、10b、10c、10d)を備えたピストンリングパッケージであって、
前記ピストンリングがそれぞれ、往復ピストン式内燃機関、特に2サイクル大型ディーセルエンジンのピストン(2)の割り当てられたピストンリング溝(9a、9b、9c、9d)内に配置されており、前記ピストンリングパッケージ(11)の領域において、作動空間(5)から抜けるガスの漏出がもたらされるピストンリングパッケージにおいて、
前記ピストンリングパッケージ(11)のすべてのピストンリング(10a、10b、10c、10d)に、それぞれ個別に設定され、スリット入りのピストンリングのスリットに比べて小さな総断面積の、各々のピストンリング(10a、10b、10c、10d)の上と下の空間をつなぐガス漏出路が配され、前記ガス漏出路の有効断面積が、前記割り当てられたピストンリング(10a、10b、10c、10d)が損耗しても一定に維持されることを特徴とするピストンリングパッケージ。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法を実施するための請求項6に記載のピストンリングパッケージ。
【請求項8】
それぞれ1つのピストンリング(10a、10b、10c、10d)に割り当てられたガス漏出路によって構成された、塞がっていない総通流断面積の大きさが、上側の、作動空間(5)の最も近くに隣接する前記ピストンリング(10a)から下へ作動空間(5)から最も離れた前記ピストンリング(10d)まで、個別に適合された段階ずつ減少していくことを特徴とする請求項6または7に記載のピストンリングパッケージ。
【請求項9】
前記ピストンリングパッケージ(11)のすべてのピストンリング(10a、10b、10c、10d)が、スリットのない、一周している閉じたピストンリングとして形成されることを特徴とする請求項6に記載のピストンリングパッケージ。
【請求項10】
前記ピストンリング(10a、10b、10c、10d)に個別に割り当てられた、前記ピストンリングの上側から下側に通じるガス漏出路が周囲溝(12)として形成されており、前記周囲溝の深さが、前記ピストン(2)とこれを収容するシリンダライナ(3)との間の隙間の幅に、寿命中に許容されるピストンリング厚の磨滅を足した幅より大きいことを特徴とする請求項6から9のいずれか一項に記載のピストンリングパッケージ。
【請求項11】
総断面積が各々のピストンリングに対して個別に設定されており、前記一番上のピストンリング(10a)には、前記ピストンリングパッケージ(11)の領域内で最も大きな個別のガス漏出断面積を構成する溝(12)が、および前記一番下のピストンリング(10d)には最も小さな個別のガス漏断面積を構成する溝(12)が配されることを特徴とする請求項10に記載のピストンリングパッケージ。
【請求項12】
前記周囲溝(12)が、リング平面に対して斜めに延びていることを特徴とする請求項10または11に記載のピストンリングパッケージ。
【請求項13】
1つのピストンリング10a〜dのすべての溝(12)の傾斜が同じ方向に向いており、前記溝(12)の傾斜が、相互に隣接するピストンリングとは逆向きであることを特徴とする請求項12に記載のピストンリングパッケージ。
【請求項14】
前記一番上のピストンリング(10a)の前記溝(12)が、該ピストンリングの径方向外側から径方向に見て、逆斜線のように左上から右下に下がりながら傾斜していることを特徴とする請求項12または13に記載のピストンリングパッケージ。
【請求項15】
各々のピストンリングに、それぞれ個別に予め定められた数の周囲溝(12)が配されていることを特徴とする請求項10から14のいずれか一項に記載のピストンリングパッケージ。
【請求項16】
各々のピストンリング(10a、10b、10c、10d)に、前記ピストンリングの周囲溝(12)のそれぞれ個別に予め定められた幅が割り当てられていることを特徴とする請求項10から14のいずれか一項に記載のピストンリングパッケージ。
【請求項17】
すべてのピストンリング(10a、10b、10c、10d)の前記周囲溝(12)の向きが同じであり、前記周囲溝(12)の数が、ピストンリングごとに、前記一番上のピストンリング(10a)を基準として上から下へと、適合された段階ずつ減少していくことを特徴とする請求項10から16のいずれか一項に記載のピストンリングパッケージ。
【請求項18】
ピストンリング(10a、10b、10c、10d)ごとに設けられた同一の前記周囲溝(12)の数が、前記一番上のピストンリング(10a)を基準として、ピストンリングからピストンリングへとそれぞれ半分に、少なくとも1つの周囲溝(12)にまで減少することを特徴とする請求項17に記載のピストンリングパッケージ。
【請求項19】
1つより多くの周囲溝を有する最後の前記ピストンリング(10b)より下に設けられたすべてのピストンリング(10c、10d)がそれぞれ1つの周囲溝(12)を有することを特徴とする請求項18に記載のピストンリングパッケージ。
【請求項20】
少なくとも4つのピストンリング(10a、10b、10c、10d)および同じ向きの前記周囲溝(12)がある場合、前記一番上のピストンリング(10a)が4つの周囲溝(12)を、前記2番目のピストンリング(10b)が2つの周囲溝(12)を、その他の前記ピストンリング(10c、10d)がそれぞれ1つの周囲溝(12)を有することを特徴とする請求項10から19のいずれか一項に記載のピストンリングパッケージ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−241981(P2011−241981A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108153(P2011−108153)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(597061332)エムエーエヌ・ディーゼル・アンド・ターボ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・ディーゼル・アンド・ターボ・エスイー・ティスクランド (98)
【Fターム(参考)】