説明

ピストン

【課題】ピストン摺動部における、摩耗の低減、耐焼き付き性の向上、摩擦低減を大幅に改善できるピストンを提供する。
【解決手段】ピストン摺動部であるスカート部17の表面に、針状の形態の固体潤滑材30がランダムな方向に形成されているピストン10とした。これによれば、スカート部17の表面17aにおけるオイル流動をあらゆる方向へ発生させることができ、この結果、油膜形成能力を向上させ、耐焼き付き性の向上、摩擦、摩耗の低減を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に用いられるピストンは、コネクティングロッドやクランクシャフトに連結され、シリンダボア内で上下動することによりクランクシャフトにおいて軸出力を発生させる。一般的に、ピストンには、少なくとも一つのコンプレッションリング溝とオイルリング溝とが形成されており、その夫々に、主として燃焼室の気密性を保持するコンプレッションリングとシリンダボア壁面の油膜の最適化を図るオイルリングとが取り付けられている。また、このピストンには、主として横揺れを抑制すると共にシリンダへ熱を逃がすスカート部が設けられている。
【0003】
ピストンは、そのコンプレッションリングやオイルリング、スカート部がシリンダボア壁面に接しながら上下動する。このため、従来から、スカート部等の異常摩耗や焼き付きを防止するための種々の技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1は、ピストンのスカート部の表面にマイクロディンプルを形成し、このマイクロディンプルにオイルを溜めることにより、摩擦抵抗を低減する技術を開示している。
【0005】
また、例えば、特許文献2は、ピストンのスカート部に、潤滑油を保持させることができる固体潤滑被膜を印刷方法により形成し、摩擦抵抗を低減する技術を開示している。
【0006】
【特許文献1】特開平2006−16982号公報
【特許文献2】特開平2005−320934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に開示された技術では、マイクロディンプルにオイルを溜めるため、オイルの流動は少なく、局部的に油膜が厚い箇所が発生するため、オイルせん断により摩擦が増加し、摩擦抵抗の低減効果が充分ではない。
【0008】
また、特許文献2に開示された技術では、固体潤滑被膜の凸部に沿ってオイルが流動するので、規則的なオイル流動により油膜分布が不均一となり、潤滑不良の部分が形成される可能性があり、摩擦抵抗の低減効果が充分ではない。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、ピストン摺動部における、摩耗の低減、耐焼き付き性の向上、摩擦低減を大幅に改善できるピストンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るピストンは、ピストン摺動部の表面に、針状の形態の固体潤滑材がランダムな方向に形成されている、ことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、針状の形態の固体潤滑材をランダムな方向、すなわち、方向性を持たないようにあらゆる方向へ形成することにより、ピストン摺動部の表面におけるオイル流動をあらゆる方向へ発生させることができ、この結果、油膜形成能力を向上させることができる。
【0012】
上記構成において、前記固体潤滑材が形成される下地層が撥油性樹脂被膜で形成されている、構成を採用できる。
【0013】
この構成によれば、下地層を撥油性樹脂被膜で形成することにより、固体潤滑被膜と相まってオイル流動をさらに促進させて油膜形成の確保が可能になる。また、新旧オイルの入れ替えを促進させ、摺動面スラッジ(デポジット)を洗浄することで、オイル寿命を延ばすことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ピストン摺動部における、摩耗の低減、耐焼き付き性の向上、摩擦低減が大幅に改善したピストンが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の最良の実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
【0016】
図1は本発明の一実施形態にかかるピストンの構造を示す図であって、(A)は側面図、(B)は(A)におけるA−A線方向の断面図である。
【0017】
ピストン10は、一般的には、全体がアルミニウムをベースとする合金にて形成されている。このピストン10は、外周部に複数本のピストンリング溝11およびオイルリング溝12が加工された頭部13、図示しないピストンピン装着穴等が形成された一対のサイドウォール部16、一対のサイドウォール部16に隣接する一対のスカート部17等から構成されている。
【0018】
スカート部17の外周面17aは、シリンダボアの内径よりも数十マイクロメートル程度小径に形成され図示しないシリンダボアの内周面に対して摺接し得る。すなわち、スカート部17は、ピストン摺動部を構成している。
【0019】
スカート部17の外周面17aには、固体潤滑材(固体潤滑被膜)30が針状の形態でランダムな方向、すなわち、方向性を持たないように形成されている。図1(B)に示すように、固体潤滑材30は、外周面17aから突出する凸状に形成されている。
【0020】
固体潤滑材30は、例えば、MoS2(二硫化モリブデン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、DLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)等で形成されている。
【0021】
上記したように、ピストン摺動部の表面におけるオイル流動をあらゆる方向へ発生させることができ、この結果、油膜形成能力を向上させることができる。また、オイル保持時間・オイル保持量をコントロールすることで、スカート部17の面圧に対する油膜の保持を適正化することが可能となり、摩耗低減、耐焼付き性向上、摩擦の低減が可能となる。
【0022】
ここで、固体潤滑材30による効果をさらに図2を参照して説明すると、図2に示すスカート部17の略全体に相当する領域R1のように、比較的広い領域が固体潤滑材30により均一に摩耗し、かつ、摩耗深さも比較的小さい。
【0023】
一方、図3に示すように、スカート部17の外周面17aに固体潤滑材30が設けられていない従来のピストン200においては、スカート部17の肩部に対応する領域R2とスカート部17の下端部に相当する領域R3に示すように、局所的な領域において摩耗が発生しやすく、かつ、その摩耗量も比較的大きい。
【0024】
また、図4に示すように、本実施形態に係るピストンは、焼付け性についても、従来のピストンに比べて大幅に向上するのが分かる。
【0025】
尚、本実施形態に係るピストン10では、スカート部17の面圧分布に応じて固体潤滑材30の分布を密と粗に配置することにより、スカート部17全体の油膜厚さの適正化が可能となる。さらに、油膜厚さの適正化に伴い、騒音も低減できる。
【0026】
図5は、本発明の他の実施形態に係るピストンの構造を示す側面図である。
尚、図5において、図1と同一構成部分には同一の符号を使用している。
【0027】
図5に示すピストン10Aは、スカート部17の外周面17aに撥油性樹脂被膜40が形成され、この撥油性樹脂被膜40上に固体潤滑材30が設けられている。すなわち、固体潤滑材30の下地層が撥油性樹脂被膜40で形成されている。
【0028】
撥油性樹脂被膜40は、例えば、フッ素樹脂等から形成され、スカート部17上のオイルの流動性を高めるために形成されている。
【0029】
撥油性樹脂被膜40を固体潤滑材30の下地層とすることにより、固体潤滑材30と相まってオイルの流動性をさらに高めて、新旧オイルの入れ替えを促進させ、摺動部スラッジを洗浄することで、オイル寿命を向上させることができる。
【0030】
図6は、本発明のさらに他の実施形態に係るピストンの構造を示す側面図である。
尚、図6において、図1と同一構成部分には同一の符号を使用している。
【0031】
図6に示すピストン10Bは、スカート部17の外周面17aの肩部17sと下端部17eとに分離して、針状のランダムな固体潤滑材30A,30Bがそれぞれ設けられている。
【0032】
また、ピストン10Bのスカート部17の外周面17aは、油膜厚さを適正化し、摩擦を低減するために、鏡面加工されている。
【0033】
ピストン10Bにおいて、スカート部17の肩部17sは、熱膨張に伴い、シリンダボアと強く接触するため、面圧が比較的高い。
【0034】
このため、本実施形態では、スカート部17の肩部17sに選択的に固体潤滑材30Aを設けることにより、オイル流動を促進しかつ摩擦係数の低減効果により、摩耗及び摩擦を低減できる。
【0035】
また、スカート部17の下端部17eは、首振り揺動(スラップ運動)に伴い、シリンダボアと強く接触する。
【0036】
このため、本実施形態では、スカート部17の下端部17eに選択的に固体潤滑材30Bを設けることにより、下端部17eにオイルの流体膜を発生させ、面圧を低減し、摩耗及び摩擦を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態にかかるピストンの構造を示す図であって、(A)は側面図、(B)は(A)におけるA−A線方向の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るピストンの摩耗領域を説明するための図である。
【図3】比較例に係るピストンの摩耗領域を説明するための図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るピストンにおける耐焼付性能を示す図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係るピストンの構造を示す側面図である。
【図6】本発明のさらに他の実施形態に係るピストンの構造を示す側面図である。
【符号の説明】
【0038】
10、10A,10B…ピストン
11…ピストンリング溝
12…オイルリング溝
13…頭部
16…サイドウォール部
17…スカート部
30…固体潤滑材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン摺動部の表面に、針状の形態の固体潤滑材がランダムな方向に形成されている、
ことを特徴とするピストン。
【請求項2】
前記固体潤滑材が形成される下地層が撥油性樹脂被膜で形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のピストン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−79535(P2009−79535A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249222(P2007−249222)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】