説明

ピストン

【課題】ピストン上昇時における摺動抵抗を低減できる、あるいは、耐摩耗性及び耐焼き付き性を高めることができる等の利点を有するピストンを提供すること。
【解決手段】ピストン13の反スラスト側の摺動面28には、複数の凸部37が設けられている。これら凸部37は、反スラスト側の摺動面28の全域にわたって互いに離れた状態で、かつ面Sに対して略面対称に配置されている。また、上下方向に並ぶ凸部37同士は、重なり合わないようにずらして配置されている。さらに、ピストン13の上方で隣り合う凸部37同士の距離は、下方で隣り合う凸部37同士の距離よりも短くなっており、下方においてこれら凸部37は、ピン孔部側摺動面28Aよりも中央部側摺動面28Bで密に分布している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の内燃機関等に用いられるピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に用いられるピストンは、通常、コネクティングロッドを介してクランクシャフトに連結された状態で、シリンダブロックに形成されたシリンダ内に摺動可能に収容されている。この種のピストンは、ヘッド部、このヘッド部の下方に設けられたピン孔部、このピン孔部を挟んで両側に設けられたスカート部等を備えている。スカート部は、シリンダ内壁と摺接することで、ピストンの首振り運動を抑制する役割を果たすと共に、ピストンからシリンダへと熱を伝えて逃がす役割等を果たす。
【0003】
ところで、このスカート部摺動面の摩擦抵抗が大きいと、ピストンの往復運動時における摺動負荷が増大し、燃費低下や焼き付き等の問題が発生する可能性がある。そこで、これらの問題に対処するものとして種々の技術が提案されている。
【0004】
例えば特許文献1では、スカート部の摺動面に撥油性を有する撥油性樹脂層を設け、その上に固体潤滑性を有する固体潤滑樹脂層を設け、この固体潤滑樹脂層に案内溝となる貫通孔を形成したものが開示されている。案内溝は、摺動面周端部からのオイルを、大きな側圧の生じる摺動面中央部に導くためのものである。この特許文献1のピストンによれば、案内溝によりオイルを導くことで、摺動面における油膜厚さを機関の作動状態によらず均一なものにすることができ、摺動抵抗の低減、耐摩耗性、耐焼き付き性の向上を図ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−30521
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般的なピストンのスカート部摺動面には、ピストン周方向に沿った細く浅い溝が、ピストン摺動方向に並んで多数形成されている。この溝は、ピストンの製造工程で切削工具により切削加工される際に生じる工具痕である。このようなスカート部摺動面の多数の溝内には、ピストンがシリンダ内で往復運動する際に、シリンダ内壁に付着しているオイルが導かれて保持されるが、このとき以下に述べるような事態が生じる。
【0007】
すなわち、ピストンの往復運動時には、シリンダ内壁とピストンの間には側圧が生じ、スカート部摺動面がシリンダ内壁に押し当てられた状態となる。そのため、溝内に保持されているオイルが溝とシリンダ内壁との間で封じられて留まった状態になり、摺動面上で流動しにくくなるので、ピストンのシリンダに対する摺動抵抗が大きくなる。逆にオイルを流動し易くしすぎると、シリンダ−ピストン間にオイルを保持できず、焼き付きが生じる虞がある。また、オイルがピストンの運動方向先方で流動しにくい場合、ピストンの運動方向手前方に導かれにくくなり、ピストンとシリンダとの間に焼き付きが生じる虞もある。そして、これらの現象の要因となる側圧に与える潤滑の影響は、特にピストン上昇時に大きい傾向がある。したがって、これらの現象を抑制するためには、ピストン上昇時に生じる側圧の影響を緩和することが重要である。
【0008】
ここで、特許文献1に開示された技術では、案内溝が摺動面周端部から摺動面中央部に向けて傾斜していることで、摺動面周端部に付着しているオイルを摺動面中央部に導き易くなっているとはいえる。しかし、撥油性樹脂層の上の固体潤滑樹脂層を貫通して形成されている案内溝は、摺動面中心線に対して単に傾斜しているだけであり、この溝内にオイルを導くことで油膜を形成するものである。そのため、ピストンの往復運動時の側圧の影響によりスカート部摺動面がシリンダ内壁に押し当てられた場合は、上述と同様にオイルが案内溝とシリンダ内壁との間で封じられて留まった状態になり易いので、オイルが摺動面上で流動しにくくなると考えられる。したがって、特許文献1の技術では、摺動抵抗の低減効果や、耐摩耗性、耐焼き付き性の向上効果が充分ではない。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、ピストン上昇時における摺動抵抗を低減できる、あるいは、耐摩耗性を高めることができる等の利点を有するピストンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係るピストンは、シリンダ内に往復移動可能に収容されたピストンであって、当該ピストンのスカート部の摺動面には、前記シリンダの内面と接する複数の凸部が形成されており、前記シリンダの内面と前記複数の凸部の接する面積である当接面積が、前記ピストンの上昇方向の先方に比べて手前方で広くなっていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、複数の凸部によりシリンダ−ピストン間に隙間ができるので、シリンダとピストンとの接触面積が下がるため、摺動抵抗を低減することができる。さらに、当接面積を、ピストンの上昇方向先方に比べて手前方で広くすることで、上昇方向先方の隙間よりも手前方の隙間が小さくなる。したがって、ピストン上昇時に相対的に大きな側圧が生じる手前方の耐摩耗性を高めることができるとともに、導かれたオイルをシリンダ−ピストン間に適切に保ち易くすることができ、耐焼き付き性を向上することができる。
【0012】
上記構成において、前記凸部は前記ピストンの周方向に複数配置されている構成を採用できる。
本発明のこの態様によれば、シリンダ内壁に付着したオイルがシリンダ上方から下方に流れ易くなるとともに、シリンダ−ピストン間の隙間にオイルが導かれ易くなるため、摺動抵抗をさらに低減することができる。
【0013】
また、上記構成において、前記ピストンはピストンピンが挿通されるピン孔部を有し、前記凸部は、前記ピン孔部の中心軸に垂直で前記ピストンの中心を含む平面に対し、面対称又は略面対称に配置されている構成を採用できる。
本発明のこの態様によれば、凸部が面対称又は略面対称に配置されているので、ピストンの往復移動時にバランスが保たれ易くなって首振りを抑制することができるとともに、シリンダ内壁に付着したオイルを凸部間の隙間を通してバランスよくシリンダ上方から下方に流すことができるため、流体潤滑領域での摺動抵抗をさらに低減することができる。
【0014】
また、上記構成において、前記ピストンの軸心方向に並ぶ前記凸部同士が、前記周方向にずれて配置されている構成を採用できる。
本発明のこの態様によれば、シリンダ内壁に付着したオイルがシリンダ−ピストン間の隙間に適切に保持されるため、耐焼き付き性をさらに向上できる。
【0015】
また、上記構成において、前記摺動面は前記ピン孔部の端部側に位置するピン孔部側摺動面と、前記ピン孔部の端部から前記ピストンの周方向に略90度変位した位置を中心とする中央部側摺動面とからなり、前記当接面積は、前記ピストンの上昇方向手前方において、前記ピン孔部側摺動面よりも前記中央部側摺動面で広くなっている構成を採用できる。
本発明のこの態様によれば、ピストン上昇時に特に大きな側圧の生じる、ピストンの上昇方向手前方の中央部側摺動面での当接面積を広くすることで、上述した摺動抵抗の低減、首振りの抑制、耐摩耗性及び耐焼き付き性の向上といった摩擦特性を、より長時間維持し易くなる。
【0016】
また、上記構成において、前記凸部は前記シリンダ内での前記ピストンの上昇時に相対的に大きな側圧が生じる側に配置されている構成を採用できる。
本発明のこの態様によれば、ピストンの上昇時に相対的に大きな側圧が生じる側に凸部を配置することで、ピストン上昇時の摺動抵抗をより低減し易くなる。
【0017】
また、上記構成において、前記凸部の形状は同じ又は略同じである構成を採用できる。
本発明のこの態様によれば、凸部の形状が同じため、シリンダ内壁に付着したオイルがシリンダ−ピストン間の隙間に均等に導かれやすくなり、耐焼き付き性をより一層向上できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ピストンがシリンダ内を往復運動する際の摺動抵抗を低減できる、あるいは、耐摩耗性及び耐焼き付き性を向上できるピストンを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第一実施形態に係る内燃機関に用いられるピストンをピン孔部側から見た側面図である。
【図2】同ピストンの側面をピストンの上昇時に相対的に大きな側圧が生じる側から見た側面図である。
【図3】同ピストンにおいて、ピン孔部の中心軸に垂直でピストンの中心を含む平面上のシリンダとピストンの接触部分をピン孔部側から見た拡大図である。
【図4】本発明の第二実施形態に係るピストンの側面をピストンの上昇時に相対的に大きな側圧が生じる側から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るピストンの第一実施形態について、図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る内燃機関に用いられるピストンをピン孔部側から見た側面図である。
図2は、同ピストンの側面をピストンの上昇時に相対的に大きな側圧が生じる側(反スラスト側)から見た側面図である。
図3は、同ピストンにおいて、ピン孔部の中心軸に垂直でピストンの中心を含む平面上のシリンダとピストンの接触部分をピン孔部側から見た拡大図である。
なお、以下の説明にあたっては、特に断らない限り、ピストンのピストンヘッド部側を上方といい、スカート部の裾側を下方という。
【0021】
内燃機関は、図1に示すように、シリンダブロック11、ピストン13、ピストンピン15、コネクティングロッド17、及び図示しないシリンダヘッド、クランクシャフト等から構成される。シリンダブロック11の内側には、シリンダ19が形成されている。ピストン13は、シリンダ19の内壁面(以下、シリンダ内壁)21に摺接しながら上下に往復運動する。なお、シリンダヘッドは、シリンダブロック11の上方に結合されており、シリンダヘッドとシリンダ19とピストン13の頂面とで挟まれた空間が燃焼室となる。
【0022】
コネクティングロッド17は、一端がピストンピン15を介してピストン13に接続されているとともに、他端がクランクシャフトのクランクピン(図示されず)に接続されている。これにより、内燃機関10は、ピストン13が受けた機械的動力を、クランクシャフトの回転運動に変換して出力することができる。
【0023】
本実施形態のピストン13は、大別すると、ピストンヘッド部23と、その下方に延設された一対のサイドウォール部25と、それに隣接する一対のスカート部27とから構成される。サイドウォール部25には、ピストンピン15を回転可能に保持できるピン孔部26等が形成されている。
【0024】
ピストンヘッド部23には、上方から順にトップリング溝29、セカンドリング溝31、オイルリング溝33が形成されており、その各々にはトップリング、セカンドリング、オイルリング(いずれも図示されず)が嵌められる。トップリング及びセカンドリングは、主として燃焼室の気密性を保持する役割を果たす。オイルリングは、主としてシリンダ内壁に付着した油膜の最適化を図る役割を果たす。オイルリング溝33には、オイルリングで掻き落とされた余分なオイルをピストン13の内側からオイルパンに戻すための排油孔35が設けられている。
【0025】
図2に示すように、このピストン13のスカート部27の摺動面30の反スラスト側の面(以下反スラスト面という)28には、複数の同一形状の凸部37が設けられている。これら凸部37は、反スラスト面28の全域にわたって互いに離れた状態で、かつ紙面に垂直でピストン13の中心軸Pを通る面(図2に符号Sで示す線)に対して略面対称に配置されている。また、上下方向に並ぶ凸部37同士は、重なり合わないようにずらして配置されている。
【0026】
図2に示す反スラスト面28において、当接面積Dの摺動面積に対する割合が、上方よりも下方で高くなっていることにより、下方での当接面積Dが広くなっている。さらに、当接面積Dは、ピン孔部側摺動面28Aより中央部側摺動面28Bでも摺動面積に対する割合を高くすることにより広くなっている。即ち、周方向に並ぶ凸部37同士の間隔は、反スラスト面28の上方よりも下方で狭くなっており、さらに、下方においてこれら凸部37は、ピン孔部側摺動面28Aよりも中央部側摺動面28Bで密に分布している。
【0027】
このような凸部37は、例えば、モリブデンやグラファイト等をマスキングによってドット状にコーティングすることにより形成されており、図3に示すように、シリンダ方向に突出した形状となっている。このとき、シリンダ内壁21と凸部37の接する面積が当接面積Dである。なお、コーティングの厚さ(凸部37の高さ)は、上述した摺動面30に製造工程で生じる溝(切削加工される際に生じる工具痕)の深さよりも厚くなければならないが、凸部自体の形状やサイズは、様々に設定できる。
【0028】
次に、上記の構成を有するピストン13の作用について説明する。
本実施形態に係る内燃機関を4サイクル機関とする場合、ピストン13は、吸気→圧縮→膨張(爆発)→排気の4つの行程を繰り返す間にシリンダ19内で2往復する。ピストン13のスカート部27の摺動面30は、往復運動の際に、コネクティングロッド17の傾きによりシリンダ内壁21側に押し付けられる。このときにピストン13の側面がシリンダ内壁21を押す力を側圧といい、その方向と強さは上述した4つの行程毎に変化する。
【0029】
一般的に、最も強い側圧が生じるのはピストン13が上死点を通過した直後であるが、相対的に強い側圧が生じるのはピストン13が圧縮行程にあるときであり、そのときに側圧がかかる側を反スラスト側と称する。この側圧が、ピストンとシリンダ内壁の間に生じる摺動抵抗の大きな一因となっているため、その影響を緩和することが、内燃機関の低燃費化、高効率化につながる。また、その方向の変化、つまり首振りを抑制することで、スラップ騒音も低減される。
【0030】
ここで、本実施形態のピストン13は、上述したような構成を備えており、以下(1A)〜(1E)に述べるような効果を実現できる。
(1A)ピストン13の反スラスト面28には、複数の凸部37が、全域にわたって互いに離れた状態で配置されている。そのため、シリンダ19とピストン13の当接面積Dが狭くなり、また複数の凸部37により形成されるシリンダ−ピストン間の隙間にオイルが導かれ易くなるため、摺動抵抗が低減される。
【0031】
(1B)ピストンの上昇方向手前方で隣り合う凸部37同士の距離は、上昇方向先方で隣り合う凸部37同士の距離よりも短くなっている。即ち、反スラスト面28では上方よりも下方の当接面積Dの割合が高くなり、その結果当接面積Dが広くなっているため、ピストン上昇時に相対的に大きな側圧の生じる反スラスト面28下方の耐摩耗性を高めることができる。さらに、導かれたオイルを適切に保持できるため、ピストン13の耐焼き付き性を向上させることができる。
【0032】
(1C)複数の凸部37は、紙面に垂直でピストン13の中心軸Pを通る面(図2に符号Sで示す線)に対して略面対称に配置されている。そのため、ピストン13の往復移動時にバランスが保たれ易くなり、首振りを抑制することができる。また、複数の凸部37が同形状であることと併せて、シリンダ内壁21に付着したオイルをシリンダ‐ピストン間で形成される複数の凸部37間の隙間を通してバランスよく流すことができるため、摺動抵抗をさらに低減することができる。
【0033】
(1D)上下方向に並ぶ凸部37同士は、重なり合わないようにずらして配置されている。そのため、シリンダ内壁21に付着したオイルをより確実にシリンダ‐ピストン間で形成される複数の凸部37間の隙間に導くことができるため、ピストン13の耐焼き付き性をさらに向上できる。
【0034】
(1E)複数の凸部37は、ピストン13上昇時に特に大きな側圧の生じる反スラスト面28の中央部側摺動面28B下方において、ピン孔部側摺動面28Aよりも密に分布している。したがって、中央部側摺動面28B下方で当接面積Dの割合が高くなり、その結果当接面積Dが広くなるため、上述した摺動抵抗の低減、首振りの抑制、耐摩耗性及び耐焼き付き性の向上といった摩擦特性を、より長時間維持し易くなる。
【0035】
なお、本実施の形態のピストン13では、反スラスト側の摺動面28に図2に示すような複数の凸部37を配置した例を説明したが、このとき反スラスト面28とピン孔部26を挟んで対向するスラスト側の摺動面には、反スラスト側と同様に凸部37を設けてもよい。
【0036】
次に、本発明に係るピストンの他の実施形態について、図4を用いて説明する。
図4は、本発明の第二実施形態に係るピストンの側面を反スラスト側から見た側面図である。
図4に示すピストン53は、反スラスト面48に設けられた複数の凸部の形状や配置形態が、上述した図2に示す第一実施形態のピストン13とは異なっている。なお、凸部の形状や配置形態以外に、ピストン13と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0037】
図4に示すように、この第二実施形態に係るピストン53のスカート部27の反スラスト面48には、複数の凸部57が設けられている。これら凸部57は、紙面に垂直でピストン53の中心軸Pを通る面(図中に符号Sで示す線)に対して略面対称に配置されており、上下方向に並ぶ凸部57同士は、重なり合わないようにずらして配置されている。
【0038】
これら複数の凸部57は、ピストン周方向に平行な線Lより上方の領域(i)では、最近接する凸部間の距離は略一定のまま、上方に向かうにつれて数が少なくなっており、複数の凸部57の分布が平面視で左右に2つの山を形作っているように配置されている。
一方、線Lより下方の領域(ii)では、凸部57は領域全体にわたって略均一に、かつ領域(i)よりも密に配置されている。
なお、このピストン53の凸部57のサイズは凸部37よりも小さく、かつ、個数は多く設けられており、各凸部57間の間隔は各凸部37間の間隔よりも狭くなっている。
【0039】
以下、上記の構成を有するピストンの第二実施形態の作用について説明する。
本実施形態のピストン53は、上述した構成を備えることにより、第一実施形態のピストン13と同様に、摺動抵抗が低減される、あるいは、首振りを抑制することができる、耐焼き付き性を向上できるといった効果を実現できる。
【0040】
特に、第二実施形態のピストン53では、図4に示す反スラスト面48の領域(i)において、凸部57の分布が平面視で左右に2つの山を形作って見えるように配置されている。これにより、ピストン53上昇時において、相対的に小さな側圧の生じる反スラスト面48上方でのシリンダ19とピストン53の当接面積Dを小さくすることができるとともに、シリンダ内壁21に付着しているオイルを、ピストン53上方から下方へとより確実に導くことができるため、摺動抵抗をより低減することができる。
【0041】
一方、反スラスト面48の領域(ii)では、凸部57は領域全体に略均一に、かつ領域(i)の分布よりも密に分布している。これにより、領域(i)より導かれたオイルを保持し易くなるとともに、耐摩耗性を向上させることができる。特に、ピストン上昇時に相対的に大きな側圧の生じる中央部側摺動面48B下方では、領域(i)の凸部57の配置によるオイルの導かれ易さと併せて、より一層の優れた耐焼き付き性効果が得られる。
【0042】
さらに、本実施形態のピストン53では、第一実施形態で説明したピストン13に比べて、凸部57が全体的に密に分布しており、その数も多い。そのため、オイルのせん断力及びシリンダ19とピストン53の接触による抵抗は、第一実施形態よりも大きくなるが、凸部57のサイズを第一実施形態の凸部37よりも小さくしているため、その影響はほとんど無視できる。したがって、本形態によれば、第一実施形態で得られる各種摩擦特性を損なうことなく、耐焼き付き性をさらに向上させたピストンを得ることができる。
【0043】
以上で各実施形態の説明を終えるが、本発明は上記の実施形態に限定されない。例えば、第二実施形態では、反スラスト面48についてのみ説明したが、第一実施形態と同様に、スラスト側にも反スラスト側と同様に凸部57を設けてもよい。また、各実施形態の凸部のコーティングパターンをスラスト側と反スラスト側とで選択的に組み合わせて施してもよい。また、上方より下方の当接面積を広くするために、凸部間の距離を徐々に、もしくは段階的に狭くしてもよく、凸部の形状や大きさ、配列パターンについても本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0044】
11 シリンダブロック
13、53 ピストン
15 ピストンピン
17 コネクティングロッド
19 シリンダ
21 シリンダの内壁面
23 ピストンヘッド部
25 サイドウォール部
26 ピン孔部
27 スカート部
30 摺動面
28、48 ピストン上昇時に相対的に大きな側圧が生じる側の摺動面(反スラスト面)
28A,48A ピン孔部側摺動面
28B,48B 中央部側摺動面
37、57 凸部
S ピン孔部の中心軸に垂直で前記ピストンの中心を含む平面
D 当接面積



【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内に往復移動可能に収容されたピストンであって、
当該ピストンのスカート部の摺動面には、前記シリンダの内面と接する複数の凸部が形成されており、
前記シリンダの内面と前記複数の凸部の接する面積である当接面積が、前記ピストンの上昇方向の先方に比べて手前方で広くなっていることを特徴とするピストン。
【請求項2】
前記凸部は、前記ピストンの周方向に複数配置されていることを特徴とする請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
前記ピストンは、ピストンピンが挿通されるピン孔部を有し、
前記凸部は、前記ピン孔部の中心軸に垂直で前記ピストンの中心を含む平面に対し、面対称又は略面対称に配置されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のピストン。
【請求項4】
前記ピストンの軸心方向に並ぶ前記凸部同士が、前記周方向にずれて配置されていることを特徴とする、請求項2又は3に記載のピストン。
【請求項5】
前記摺動面は、前記ピン孔部の端部側に位置するピン孔部側摺動面と、
前記ピン孔部の端部から前記ピストンの周方向に略90度変位した位置を中心とする中央部側摺動面とからなり、
前記当接面積は、前記ピストンの上昇方向手前方において、前記ピン孔部側摺動面よりも前記中央部側摺動面で広くなっていることを特徴とする、請求項2〜4のいずれかに記載のピストン。
【請求項6】
前記凸部は、前記シリンダ内での前記ピストンの上昇時に相対的に大きな側圧が生じる側に配置されていることを特徴とする、請求項2〜5のいずれかに記載のピストン。
【請求項7】
前記複数の凸部の形状は、同じ又は略同じであることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載のピストン。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−127293(P2012−127293A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280782(P2010−280782)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(000176811)三菱自動車エンジニアリング株式会社 (402)
【Fターム(参考)】