説明

ピックル液

【課題】
O/W型エマルション型のピックル液を提供する。
【解決手段】
下記のA成分、B成分およびC成分から構成される油脂組成物10〜70質量部ならびに、水30〜90質量部からなるO/W型エマルションであるピックル液。
A成分:牛脂又は豚脂を主成分とする、10℃におけるSFCが10〜50、かつ30℃におけるSFCが1〜20である油脂 100質量部、
B成分:分子内に水酸基を3〜12個有するポリオールと、パルミチン酸10〜50質量%、オレイン酸30〜75質量%及びステアリン酸5〜35質量%からなる脂肪酸より構成されるエステル化率50%以上のポリオール脂肪酸ポリエステル 0.1〜3質量部、
C成分:重合度2〜10のポリグリセリンと、炭素数12〜18の脂肪酸より構成されるポリグリセリン脂肪酸モノエステル 0.1〜3質量部。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注入時の作業性に優れた食肉用ピックル液に関する。本発明のピックル液を注入した食肉は、霜降り状態が良好であり、調理後の食肉はジューシー感に富む。
【背景技術】
【0002】
牛肉、豚肉等の赤身肉中に網目状の脂肪層が点在している、いわゆる霜降り肉は、調理の際の加熱によって脂肪が適度に溶け出し、ジューシーな柔らかい食感を与える。一方、脂肪分の少ない肉は、硬い食感であり、霜降り肉と比較して食肉としての評価が低い。このため従来から、比較的安価な脂肪分の少ない肉に油脂を注入し、外観・食感を高め、付加価値の高い霜降り肉に近づける試みがなされてきている。
例えば、(1)ラードを加熱溶解し、肉類に直接注入する方法(特許文献1)、(2)O/W型エマルションを構成する油脂にラードを使用しその融点以上に維持して注入する方法(特許文献2)、(3)植物油のO/W型エマルションを使用し、室温で注入する方法(特許文献3)がある。
【0003】
食肉に油脂を注入する際は、ピックルインジェクターを一般に使用するが、この方法では、文献1に開示されるような固体脂を含む油脂を直接注入すると、注入工程時に油脂が固化しやすく、インジェクション針の目詰まりを起こすため、作業性において問題点がある。また、固化の防止のため50〜60℃の範囲の温度条件下で油脂を食肉中に直接注入するため、作業工程中に肉温が上昇し、品質面及び衛生上において好ましくない。そして、高粘度の油脂を直接注入することから、インジェクターの注入圧が高くなり作業性が悪くなる。さらに直接食肉に注入すると溶解した油脂が、肉中で急激に固化するため、天然の霜降り肉と同様の細かな網状の組織は得られないという問題点がある。
文献2に開示されるO/W型エマルションを注入する方法では、注入時にエマルションの液温を50〜60℃の範囲と高く維持する必要があり、このため作業工程中に肉温が上昇し、品質面及び衛生上において好ましくない問題があった。また文献3に開示されるナタネ油・大豆油のような常温で液状油からなるO/W型エマルションを注入する方法なども提案されているが、液状油の使用では、外観上霜降り状とはならず問題となる。
さらに、O/W型エマルション形態のピックル液は衛生上の観点により、食肉へ注入する直前に製造されることが多いことから、例えば予め製造された油脂組成物を水に加え攪拌する程度の操作で容易に製造できることが望まれている。
【特許文献1】特開昭60−41467号公報
【特許文献2】特開昭59−162853号公報
【特許文献3】特開2000−50794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、O/W型エマルションのピックル液の使用において、作業性を容易にすることと、食肉の霜降り状態をよくすることは相反する問題と考えられている。本発明はO/W型エマルション型のピックル液に関し、(1)ピックル液の製造が容易で注入工程時の作業性が良好である、(2)食肉の霜降り状態が良好であり、調理後の食肉がジューシー感に富む、ピックル液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明を、以下に示す。
(1)下記のA成分、B成分およびC成分から構成される油脂組成物10〜70質量部ならびに、水30〜90質量部からなるO/W型エマルションであるピックル液。
A成分:牛脂又は豚脂を主成分とする、10℃におけるSFCが10〜50、かつ30℃におけるSFCが1〜20である油脂 100質量部、
B成分:分子内に水酸基を3〜12個有するポリオールと、パルミチン酸10〜50質量%、オレイン酸30〜75質量%及びステアリン酸5〜35質量%からなる脂肪酸より構成されるエステル化率50%以上のポリオール脂肪酸ポリエステル 0.1〜3質量部、
C成分:重合度2〜10のポリグリセリンと、炭素数12〜18の脂肪酸より構成されるポリグリセリン脂肪酸モノエステル 0.1〜3質量部。
(2)下記のA成分、B成分、C成分およびD成分から構成される油脂組成物10〜70質量部ならびに、水30〜90質量部からなるO/W型エマルションであるピックル液。
A成分:牛脂又は豚脂を主成分とする、10℃におけるSFCが10〜50、かつ30℃におけるSFCが1〜20である油脂 100質量部、
B成分:分子内に水酸基を3〜12個有するポリオールと、パルミチン酸10〜50質量%、オレイン酸30〜75質量%及びステアリン酸5〜35質量%からなる脂肪酸より構成されるエステル化率50%以上のポリオール脂肪酸ポリエステル 0.1〜3質量部、
C成分:重合度2〜10のポリグリセリンと、炭素数12〜18の脂肪酸より構成されるポリグリセリン脂肪酸モノエステル 0.1〜3質量部、
D成分:分子内に水酸基を3〜12個有するポリオールと、ベヘン酸またはエルカ酸より構成されるエステル化率50%以上のポリオール脂肪酸ポリエステル 0.01〜0.1質量部。
【発明の効果】
【0006】
本発明の(1)の発明によれば、食肉に注入した際に食肉の霜降り状態が良好で、調理後の食肉もジューシー感に富むピックル液を提供できる。本発明のピックル液は、水に油脂組成物を加えて攪拌するのみで容易に製造できる。製造されたピックル液は常温(10〜30℃)で注入することができ、注入工程時においてインジェクション針の目詰まりが生じない。さらに乳化安定性が優れているので作業性よく注入することができる。
本発明の(2)の発明によれば、本発明の(1)の発明においてD成分を含むことにより、食肉に注入した際に霜降り状態がさらに良好であるピックル液を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、下記のA成分、B成分、C成分、場合によってはD成分から構成される油脂組成物と水とを乳化して製造されるO/W型エマルションのピックル液である。
【0008】
(A成分)
本発明において使用できる油脂は、牛脂又は豚脂を主成分とする油脂である。牛脂又は豚脂の場合、食肉と同じ由来の油脂であることから肉組織に馴染み易く、また風味にも影響しないので好ましい。
本発明において牛脂又は豚脂を単独で使用できるが、これ以外の油脂を混合しても使用できる。混合に使用できる油脂として、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油等の食用植物油や鶏油、魚油等の食用動物油脂が挙げられる。これらの硬化油、分別油、エステル交換油等の食用加工油脂も使用できる。
具体的には、牛脂40〜100質量部及びナタネ油、コーン油、大豆油などの植物油0〜60質量部からなる油脂、あるいは、豚脂45〜100質量部及びナタネ油、コーン油、大豆油などの植物油0〜55質量部からなる油脂を挙げることができる。
【0009】
本発明では、SFCが10℃において、15〜50、さらに20〜35の油脂を使用することが好ましい。ナタネ油、大豆油のような10℃におけるSFCが0となる液状油を混合し、SFCの値を小さくすると肉中で固体脂の結晶が析出し難くなるので、良好な霜降り状態とはなり難い。一方、混合により10℃におけるSFCが50以上の固体脂を含有する油脂は、加熱溶解しても、すぐに固体脂の析出が始まり、注入工程中に固化してインジェクション注入針の目詰まりの原因となるので使用に適さない。
本発明では、SFCが30℃において1〜20の油脂を使用するのが好ましく、5〜15の油脂を使用することがより好ましい。30℃におけるSFCが20を超える油脂では、加熱溶解しても、すぐに固体脂の析出が始まり、注入工程中に固化してインジェクション注入針の目詰まりの原因となるので使用に適さない。
なお、A成分には、風味・呈味成分等または着色料が含まれていてもかまわない。
【0010】
油脂のSFC(固体脂含有量)は、以下の方法(基準油脂分析試験法 2.2.9 固体脂含量(NMR法))で測定したものである。その概要を以下に説明する。
SFC測定時のサンプル調整法は、試料を70℃の恒温槽で加熱し、均一に試験管に入れ、ゴム栓をする。試験管に詰めた試料および対照試料(オリーブ油)を、60℃に30分間テンパリング後、それぞれの試料のNMRシグナルを測定する。これらの試料を、0℃で30分間保持し、さらに25℃で30分間保持する。再び0℃に移して30分間テンパリングを行った後、10℃又は30℃の測定温度で30分間テンパリングし、それぞれの試料のNMRシグナルを測定する。
【0011】
(B成分)
本発明においてB成分は、分子内に水酸基を3〜12個有するポリオールと、パルミチン酸10〜50質量%、オレイン酸30〜75質量%及びステアリン酸5〜35質量%からなる脂肪酸により構成されるエステル化率50%以上のポリオール脂肪酸ポリエステルである。
A成分にB成分を添加することにより、溶融したA成分の結晶化を遅延させ、注入工程において、インジェクション針の目詰まりを防止し、また、エマルションを安定に維持することができるので注入工程における作業性が良好となる。さらに、B成分はA成分の油脂に溶解することから、均一で保存安定性のよい油脂組成物を製造することができる。
B成分のポリオール脂肪酸ポリエステルは、分子内に水酸基を3〜12個有するポリオールと、パルミチン酸、オレイン酸及びステアリン酸とをエステル化反応することにより製造される。分子内に水酸基を3〜12個有するポリオールとしては、重合度2〜10のポリグリセリンの他、ショ糖、ソルビタンが挙げられる。特に好ましいのはショ糖である。
【0012】
B成分の脂肪酸の組成は、パルミチン酸10〜50質量%、オレイン酸30〜75質量%及びステアリン酸5〜35質量%からなることが好ましい。この組成割合の範囲では、A成分の結晶化を十分に遅延化でき、注入工程においてインジェクション針の目詰まりを防止でき、エマルションを安定に維持することができ、注入工程における作業性を良好とすることができる。
さらに、パルミチン酸とステアリン酸との質量比(パルミチン酸/ステアリン酸)が3以上でかつ、オレイン酸とステアリン酸との質量比(オレイン酸/ステアリン酸)が6以上であることが好ましい。
本発明において、特定の範囲の脂肪酸組成のポリオール脂肪酸ポリエステルを使用すると効果があるのは、パルミチン酸、オレイン酸及びステアリン酸の組成割合が、A成分の主成分である牛脂又は豚脂の脂肪酸組成に近似していることで、十分な結晶遅延効果やエマンションに対する安定化効果が得られるものと考えられる。
【0013】
本発明において、B成分はポリオールの水酸基における脂肪酸によるエステル化率が50%以上である。すなわち、ポリオール1分子には2以上の脂肪酸が結合した化合物となる。このような化合物は、ポリオールと脂肪酸との製造時の仕込み比、反応率等を調節することにより製造することができる。
本発明において、B成分のポリオール脂肪酸ポリエステルについて、脂肪酸組成は全体として上記の脂肪酸組成であればよく、ポリオールと上記脂肪酸混合物から製造されるポリオール脂肪酸ポリエステル、ポリオールと上記単一の脂肪酸から製造されるポリオール脂肪酸ポリエステルの混合物のいずれも使用することができる。
例えば、ポリグリセリン、ショ糖、又はソルビタンと、パルミチン酸、ステアリン酸及びオレイン酸からなる混合脂肪酸より構成されるポリグリセリン脂肪酸ポリエステル、ショ糖脂肪酸ポリエステル又はソルビタン脂肪酸ポリエステル;ポリグリセリン、ショ糖、又はソルビタンとパルミチン酸、ステアリン酸又はオレイン酸より構成されるポリオール脂肪酸ポリエステルの上記脂肪酸組成での混合物を挙げることができ、A成分への溶解性からはショ糖脂肪酸ポリエステルの使用が好ましい。
B成分の使用量は、A成分100質量部に対して、0.1〜3質量部であることが好ましい。B成分の使用量が0.1質量部未満では、十分な添加効果が得られず、3質量部を超えると、製造される食肉の霜降り状態が悪くなるばかりか、食肉の食味に影響する。
【0014】
(C成分)
本発明のO/W型エマルションのピックル液はA〜C成分からなる油脂組成物を、水に乳化して製造することができる。C成分はO/W型エマルション形成において乳化剤としての役割を果たす。
本発明では、C成分として、重合度2〜10のポリグリセリンと、炭素数12〜18の脂肪酸から構成されるポリグリセリン脂肪酸モノエステルを使用できる。C成分として具体的には、ジグリセリンモノステアレート、ジグリセリンモノオレート、テトラグリセリンモノステアレート、ペンタグリセリンモノステアレート、ヘキサグリセリンモノステアレート、ヘキサグリセリンモノオレエート、デカグリセリンモノステアレート、デカグリセリンモノオレエート等が挙げられる。C成分のポリグリセリン脂肪酸モノエステルのHLB値は7〜15であることが好ましい。
【0015】
C成分はA成分の油脂に溶解あるいは均一に分散できるので、保存安定性のよい油脂組成物が得られる。また、C成分を加えた油脂組成物は、水との馴染みがよく容易に水に乳化できO/W型エマルションを製造できる。さらに、C成分によって乳化されたエマルションは乳化安定性が良好であり、注入工程の作業性がよく、食肉の霜降り状態が良好となる。
C成分に使用するポリグリセリン脂肪酸エステルの使用量は、油脂組成物中に0.1〜3質量部が好ましい。
C成分の使用量が0.1質量部未満では、十分な乳化安定性効果が得られず、注入工程時において粘度が上昇して作業性が悪くなる。一方、3質量部を超えると、製造される食肉の霜降り状態が悪くなるばかりか、食肉の食味に影響する。
【0016】
本発明において、加熱溶解したA〜C成分からなる油脂組成物を水に乳化してO/W型エマルションとして使用すると、注入工程においてより低いインジェクション圧で注入することができ、より霜降り状態を良好とできるので、例えば、牧草肥育牛を穀物肥育牛に近い食感の食肉として製造することができる。
本発明のO/W型エマルションのピックル液は、油脂組成物10〜70質量部、水30〜90質量部からなることが好ましい。さらに油脂組成物30〜60質量部、水40〜70質量部のO/W型エマルションのピックル液であることがより好ましい。本発明のO/W型エマルションのピックル液を使用すると、注入工程を容易とするばかりか、食肉の食感、霜降り状態を良好となる。ここで、油脂組成物が10質量部未満のO/W型エマルションのピックル液の使用では食感において十分なジューシー感が得られず、また霜降り状になりにくい。一方、油脂組成物が75質量部を超えると安定的なO/W型エマルションのピックル液を得ることが難しくなり作業性が悪くなる。
【0017】
(D成分)
本発明において、D成分は注入工程後の食肉における低温下での油脂組成物の結晶化を促進する成分である。D成分は分子内に水酸基を3〜12個有するポリオールと、ベヘン酸またはエルカ酸より構成されるエステル化率50%以上のポリオール脂肪酸ポリエステルである。
D成分としては、ベヘン酸またはエルカ酸が結合したポリオールポリエステルの使用が好ましい。ポリグリセリンの他にショ糖、ソルビタンにベヘン酸またはエルカ酸をエステル化したものを使用しても良い。
D成分としては、具体的にはテトラグリセリンヘキサベヘネート、デカグリセリンヘプタベヘネート、デカグリセリンデカベヘネート、ショ糖ベヘン酸エステル、ソルビタンベヘン酸エステルが挙げられる。D成分を油脂組成物に添加することにより、製造される食肉の霜降り状態をより鮮明にすることができる。
D成分の使用量は、A成分100質量部に対して、0.01〜0.1質量部であることが好ましい。D成分の使用量が0.01質量部未満では、十分な添加効果が得られず、0.1質量部を超えると、注入工程中に油脂の結晶が析出してインジェクション針の目詰まりを起こしやすくなる。
【0018】
本発明において、予め油脂組成物を製造し、これを水に加えることによりO/W型エマルションを容易に製造することができる。
(油脂組成物の製造)
A成分を60〜80℃に加熱して溶解し、これに所定量のB成分、C成分、場合によってはD成分を加え混合し容器に充填した後に、室温に冷却する。
冷却は室温に放置し徐冷してもかまわないが、急冷して可塑化すると、後に、溶解しなくても容器から取り出すことができ、作業性が良くなるので好ましい。
【0019】
(O/W型エマルションの製造)
本発明のO/W型エマルションであるピックル液は、例えば、以下の方法で製造することができる。
予め作製し保存しておいた油脂組成物を50〜70℃に加熱して溶解する。次に、水に上記の油脂組成物を徐々に加えて攪拌機で攪拌して10〜20分間程度で乳化を行い、20〜35℃の範囲まで冷却して調温する。
他の方法としては、A成分に所定量のB成分及びC成分を添加し50〜70℃に加熱して溶解し、次に水にこの油脂組成物を加え攪拌して乳化を行い、20〜35℃の範囲まで冷却して調温して製造してもかまわない。
また、A成分に所定量のB成分を添加し50〜70℃で加熱して溶解し、次に所定量のC成分を溶解した水にこの油脂組成物を加え攪拌して乳化を行い、20〜35℃の範囲まで冷却して調温して製造してもかまわない。
いずれの方法において、油脂組成物に所定量のD成分を事前に溶解させてもかまわない。
本発明のO/W型エマルションのピックル液の乳化には、ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミルなどの均質化装置を用いてもかまわない。
【0020】
本発明で用いるピックル液の水相には、食塩、ビーフエキス、グルタミン酸ナトリウム等の調味料;亜硝酸塩等の発色剤;L−アスコルビン酸ナトリウムなどの発色補助剤;リン酸塩の重合物、カラギーナン、カラヤガム、キサンタンガムなどの保水剤;着香料;着色料;保存料;抗酸化剤;糖類;乳化安定剤を任意に添加することができる。さらにビタミン類、微量金属成分、薬効成分、動植物の抽出エキス類を配合してもかまわない。
乳化安定剤としては、カゼイン、サポニン、乳タンパク、結晶セルロース、加工澱粉などの公知のものを使用することができる。また、必要に応じて、パパイン、アクチニジンなどのタンパク分解酵素と組み合わせても加えても良い。
特に、オクテニルコハク酸澱粉を水相に加えると、O/W型エマルションであるピックル液の乳化安定性が向上するので好ましい。その使用量は油脂組成物100質量部に対して1〜10質量部が好ましい。
また、有機酸モノグリセリンエステルを水相に加えると、O/W型エマルションであるピックル液の乳化安定性が向上するので好ましい。その使用量は油脂組成物100質量部に対して0.1〜3質量部が好ましい。
【0021】
(ピックル液の使用)
本発明のO/W型エマルションであるピックル液は、製造後、20〜35℃の温度に冷却し、ピックルインジェクターに使用することが好ましい。10℃未満では、注入工程中に油脂組成物が固化してしまい、インジェクター針の目詰まりを引き起こす原因となる。また、35℃を超えた温度でピックル液を食肉に注入すると、工程中に肉温が上昇し、品質的及び衛生的に好ましくない。
また本発明のピックル液は、注入工程前に製造し直ちに食肉に注入することが好ましいが、放置後20℃の粘度が1000mPa・s以下であれば、使用することができる。
【0022】
本発明のピックル液は、ピックルインジェクターを使用して、食肉へ注入する。食肉への油脂の注入方法は、2〜10℃の食肉に対して、0.1〜3mPaの圧力で加圧注入することが好ましい。また、油脂の注入の前後にテンダライザーにより機械的に軟化する方法や、注入後ロータリーマッサージングマシンなどにより油脂を均一に拡散する方法を併用してもよい。
【0023】
本発明のピックル液を注入する食肉として、牛肉、豚肉、羊肉、馬肉、鹿肉などの畜肉等を挙げることができる。
【実施例】
【0024】
実施例1〜4及び比較例1〜4
表1に示すように、A成分にB成分及びC成分を添加し、70℃で加熱溶解した後、水60質量部に上記の油脂組成物40質量部を徐々に加えて、攪拌機(スリーワンモーター:HEIDON製)で10〜20分間攪拌し、25℃まで冷却して調温し、O/W型エマルションを作製した。
得られたピックル液について、スーパーミニインジェクター((株)トーニチ製、TN−SP18型)を用いて注入工程時における作業性を評価した。注入工程は5℃のオーストラリア産牛モモ肉に対して圧力0.2mPaで食肉中20質量%となるように注入した。注入後−35℃まで急速凍結を行い、厚さ1.5cmにスライスして霜降り状食肉を製造して、霜降り状への効果を確認した。
<インジェクション作業性>
○…目詰まりせずにインジェクションできる。
△…やや困難。
×…油脂粒子が目詰まりを起こし、連続的に作業ができない。
<霜降り状への効果:目視>
◎…油脂が鮮明かつ太い状態で注入され、霜降り状になっている。
○…油脂は鮮明であるが、サシの状態は、細く注入される。
△…油脂がやや鮮明であり、細い状態で注入される。
×…油脂が不鮮明であり、効果なし。
【0025】
【表1】

【0026】
本発明のA成分である、牛脂又は豚脂を主成分とする、10℃におけるSFCが10〜50、かつ30℃におけるSFCが1〜20である油脂を使用すると、注入工程における作業性がよく、霜降り状態もよかった(実施例1〜4)。
牛脂又は豚脂を含まない例(比較例1、2)では、作業性や霜降り状態に問題があった。
牛脂または豚脂を含む油脂組成物であっても、10℃、30℃におけるSFCが低い場合は食肉へ注入した際の霜降り状態に大きな改善効果は認めらなかった(比較例3、4)。
【0027】
実施例5〜15、及び比較例5〜26
表2の組成で、A成分の牛脂及びナタネ油の配合油100質量部を70℃に溶解した中に、B成分のショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル(リョートーシュガーエステルP-170、O-170、S-170:三菱化学フーズ株式会社製)の混合物、あるいはショ糖混合脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルPOS−135、構成脂肪酸:パルミチン酸30質量%、オレイン酸40質量%、ステアリン酸30質量%、三菱化学フーズ株式会社製)、C成分のジグリセリンオレエート(ポエムDOC-100V、理研ビタミン株式会社製)を油脂100質量部に対してそれぞれ1質量部添加して油脂組成物を作製した。これらを20℃の調温庫内に入れ、0〜3時間までの油脂組成物の結晶遅延効果を観察した。
さらに実施例1〜4と同様の条件でピックル液を製造し、注入工程時の作業性を評価した。
なお、リョートーシュガーエステルP−170、O−170、S−170のエステル化率は67〜68%であった。これらの混合物における構成脂肪酸の組成は、これらの混合割合と一致することが確認できた(基準油脂分析試験法 2.4.2 脂肪酸組成)。また、リョートーシュガーエステルPOS−135のエステル化率は67.5%であった。
結果を表2に示す。
<油脂組成物の結晶化遅延効果>
L:液状
SL:液状、固体の混在状態
S:固体
<インジェクション作業性>
○…目詰まりせずにインジェクションできる。
△…やや困難
×…油脂粒子が目詰まりを起こし、連続的に作業ができない。
【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
【表4】

【0031】
本発明のB成分となる、脂肪酸組成のポリオール脂肪酸ポリエステルを使用すると、注入工程において作業性が良好となることがわかる(実施例5〜15)。この理由は、B成分であるポリオール脂肪酸ポリエステルの脂肪酸組成が本発明の範囲であるとき、A成分の結晶化を十分に遅延できるからと考えられる。
ポリオール脂肪酸ポリエステルの脂肪酸割合が本発明の範囲であれば、混合物であっても単体であっても、その効果は同じである(実施例9と13の対比)。
ポリオール脂肪酸ポリエステルにおいて脂肪酸組成が、本発明の範囲をはずれる場合は、A成分の結晶化遅延効果が十分に発揮できず、注入工程において作業性が悪くなることがわかる。
【0032】
実施例16〜20及び比較例27〜28
表3に示す組成で、A成分の牛脂及びナタネ油の配合油100質量部を70℃に溶解した中に、B成分のショ糖混合脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルPOS−135、構成脂肪酸:パルミチン酸30質量%、オレイン酸40質量%、ステアリン酸30質量%、三菱化学フーズ株式会社製)、C成分のジグリセリンオレエート(ポエムDOC-100V、理研ビタミン株式会社製)を添加した油脂組成物を作製し、油脂組成物の安定性を評価した。
さらに実施例1〜4と同様の条件でピックル液を製造し、注入工程時の作業性を評価した。
結果を表3に示す。なお、評価の基準は表2の場合と同じである。
【0033】
【表5】

【0034】
本発明のB成分であるポリオール脂肪酸ポリエステルをA成分100質量部に対して、0.1〜3質量部使用すると、注入工程において作業性が良好となることがわかる(実施例16〜20)。この理由は、B成分であるポリオール脂肪酸ポリエステルの添加量が本発明の範囲であるとき、A成分の結晶化を十分に遅延できるためと考えられる。
ポリオール脂肪酸ポリエステルの添加量が、本発明の範囲をはずれる場合は、A成分の結晶化遅延効果が十分に発揮できず、注入工程において作業性が悪くなることがわかる。また、多すぎる場合は注入工程後において油脂組成物の結晶化に時間を費やし作業性が悪くなる。
【0035】
実施例21〜29及び比較例30〜33
表4に示す組成で、A成分の牛脂及びナタネ油の配合油100質量部を70℃に溶解した中に、B成分のショ糖混合脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルPOS−135、構成脂肪酸:パルミチン酸30質量%、オレイン酸40質量%、ステアリン酸30質量%、三菱化学フーズ株式会社製)、C成分として各種の乳化剤を添加し、さらに実施例1〜4と同様の条件で乳化してO/W型エマルションを製造した。
製造したピックル液の安定性と、注入工程時の作業性を評価した。
結果を表4に示す。
なお、評価の基準以下のとおりである。
<乳化安定性>
◎…作製後、安定したO/W型乳化の状態を維持し、粘度も低い。
○…作製後、O/W型乳化の状態を維持するが、やや粘度が上昇する。
△…作製直後はO/W型乳化するが、放置すると二層に分離する。
×…直ちに二層に分離し乳化することができない。
<注入工程時の作業性>
◎…目詰まりせずにインジェクションでき、低い注入圧で作業を行える。
○…目詰まりせずにインジェクションできるが、注入圧がやや高くなる。
△…やや困難
×…油脂粒子が目詰まりを起こし、連続的に作業ができない。
<霜降り状への効果:目視>
◎…油脂が鮮明かつ太い状態で注入され、霜降り状になっている。
○…油脂は鮮明であるが、サシの状態は、細く注入される。
△…油脂がやや鮮明であり、細い状態で注入される。
×…油脂が不鮮明であり、効果なし。
【0036】
【表6】

【0037】
本発明のC成分である重合度2〜10の縮合グリセリンと、炭素数12〜18の脂肪酸とが結合したポリグリセリン脂肪酸モノエステルを使用すると、製造したO/W型エマルションであるピックル液の安定性が良好となり、注入工程においての作業性、霜降り状態が良好となることがわかる(実施例21〜26)。
さらに、オクテニルコハク酸澱粉や有機酸モノグセライドとを併用すると、O/W型エマルション安定性が向上するため、ビックル液の注入工程においての作業性、霜降り状態がさらに良好となることがわかる。
【0038】
実施例29〜34及び比較例34〜36
実施例29、31、33及び34は、実施例22にD成分であるポリグリセリンべへネート(テトラグリセリンヘキサべへネート、ポエムJ−46B、理研ビタミン株式会社製)を加え調整した。油脂組成物と水の比率を変えて、実施例1〜4と同様の条件で、O/W型エマルションを製造し食肉に注入して、霜降り状食肉を製造した。
製造した霜降り状食肉を約200℃の鉄板上で焼成し、ステーキ肉として試食して官能評価を行った。結果を表5に示す。
【0039】
なお、評価の基準以下のとおりである。
<乳化安定性>
◎…作製後、安定したO/W型乳化の状態を維持し、粘度も低い。
○…作製後、O/W型乳化の状態を維持するが、やや粘度が上昇する。
△…作製直後はO/W型乳化するが、放置すると二層に分離する。
×…直ちに二層に分離し乳化することができない。
<注入工程時の作業性>
◎…目詰まりせずにインジェクションでき、低い注入圧で作業を行える。
○…目詰まりせずにインジェクションできるが、注入圧がやや高くなる。
△…やや困難
×…油脂粒子が目詰まりを起こし、連続的に作業ができない。
<霜降り状態:目視>
◎…油脂が鮮明かつ太い状態で注入され、霜降り状になっている。
○…油脂は鮮明であるが、サシの状態は、細く注入される。
△…油脂がやや鮮明であり、細い状態で注入される。
×…油脂が不鮮明であり、効果なし。
<牛脂肪交雑基準(B.M.S)>
「0〜1」⇔グラスフェッド
「1〜2」⇔ホルス
「2〜3」⇔グレインフェッド
「3〜4」⇔和牛
「5」⇔高級和牛(松坂牛)
<ジューシー感の評価基準:〉
◎:格段にジューシー感が感じられる。
○:かなり改善され、ジューシー感がある。
△:ある程度ジューシー感が改善されたが、未だ不十分である。
×:ジューシー感に欠ける。
【0040】
【表7】

【0041】
本発明のO/W型エマルションであるピックル液では、乳化安定性がよく注入工程の作業性が良好であった。製造される食肉の霜降り状態も良好であった。さらに、料理後の食肉はジューシー感があり、食感が良好であった。
水の量が多い比較例34は加熱時のドリップが多く料理後の食肉はジューシー感に欠けた。また油脂組成物の量が多い比較例35は、W/O型へ転相し、安定なO/W型エマルションであるピックル液を得ることができないことがわかった。一方、水を使用しない比較例35は、肉組織中に油脂が保持しにくいため、外観が霜降り状にならなかった。
実施例30と31、及び実施例32と33の比較によって、本発明のビックル液中の油脂組成物にD成分が含まれると、食肉の霜降り状態がさらに良くなることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のA成分、B成分およびC成分から構成される油脂組成物10〜70質量部ならびに、水30〜90質量部からなるO/W型エマルションであるピックル液。
A成分:牛脂又は豚脂を主成分とする、10℃におけるSFCが10〜50、かつ30℃におけるSFCが1〜20である油脂 100質量部、
B成分:分子内に水酸基を3〜12個有するポリオールと、パルミチン酸10〜50質量%、オレイン酸30〜75質量%及びステアリン酸5〜35質量%からなる脂肪酸より構成されるエステル化率50%以上のポリオール脂肪酸ポリエステル 0.1〜3質量部、
C成分:重合度2〜10のポリグリセリンと、炭素数12〜18の脂肪酸より構成されるポリグリセリン脂肪酸モノエステル 0.1〜3質量部。
【請求項2】
下記のA成分、B成分、C成分およびD成分から構成される油脂組成物10〜70質量部ならびに、水30〜90質量部からなるO/W型エマルションであるピックル液。
A成分:牛脂又は豚脂を主成分とする、10℃におけるSFCが10〜50、かつ30℃におけるSFCが1〜20である油脂 100質量部、
B成分:分子内に水酸基を3〜12個有するポリオールと、パルミチン酸10〜50質量%、オレイン酸30〜75質量%及びステアリン酸5〜35質量%からなる脂肪酸より構成されるエステル化率50%以上のポリオール脂肪酸ポリエステル 0.1〜3質量部、
C成分:重合度2〜10のポリグリセリンと、炭素数12〜18の脂肪酸より構成されるポリグリセリン脂肪酸モノエステル 0.1〜3質量部、
D成分:分子内に水酸基を3〜12個有するポリオールと、ベヘン酸またはエルカ酸より構成されるエステル化率50%以上のポリオール脂肪酸ポリエステル 0.01〜0.1質量部。