説明

ピペットチップ取外し機構、及び、分注装置

【課題】ピペットチップを取り外す際のシーリング部材の損傷を抑制する。
【解決手段】溝端面部44には、上側に向かって開口が広くなるように傾斜した傾斜部45が形成されている。傾斜部45の傾斜角度θは、先端部26のテーパー傾斜角をα、ノズルリブ部の下角部と前記シーリング部材との接線の傾斜角をβ、傾斜角θでのシーリング部材への接線を引いたとき、先端部26の側壁と交わる位置Aと傾斜部45の上端部との高さ方向の距離をL0、傾斜部45の下端部と上端部との高さ方向の距離をL1、とすると、 α<θ<β、かつ、L0<L1、の条件が満たされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピペットチップを取り外すためのピペットチップ取外し機構、及び、このピペットチップ取外し機構を備えた分注装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、液状の試料等を反応用の測定チップへ分注を行うための各種分注装置が提案されている。この分注装置において液体の分注をピペットチップを用いて行う場合には、分注ノズルへのピペットチップの取り付け及び取り外しを行う必要がある。
【0003】
ピペットチップの取り外しを行うために、特許文献1に記載の自動分注装置には、切欠の形成された突片を備え、ピペットチップを切欠に係合させて取り外している。このように、切欠を利用してピペットチップを取り外す場合、ピペットチップが取り外された後に、分注管の先端部分に取り付けられたシーリング部材と切欠を構成する取り外し用の部材とが接触して、シーリング部材が損傷することも考えられる。
【特許文献1】特開平5−232124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事実を考慮してなされたものであり、ピペットチップを取り外す際のシーリング部材の損傷を抑制することの可能なピペットチップ取外し機構、及び、このピペットチップ取外し機構を備えた分注装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1のピペットチップ取外し機構は、ピペットチップに挿入され先端に向かって小径のテーパー状とされた先端部と、前記先端部よりも上側に形成され径方向外側に突出されると共に前記ピペットチップの最大外径よりも小径とされたノズルリブ部とを有する分注ノズルと、前記分注ノズルの前記先端部に配置され、前記ピペットチップの内壁との隙間を密閉するシーリング部材と、前記ノズルリブ部よりも幅が広く前記ピペットチップの最大外径よりも幅が狭い取外溝を構成する溝端面部を有し、前記ピペットチップが前記取外溝よりも下側に配置されるようにして前記分注ノズルが前記取外溝に係合されるチップ外し部材と、を備え、前記溝端面部の上側には、前記分注ノズルが前記チップ外し部材に対して上方向に相対移動される際に、前記シーリング部材と非接触となるように前記取外溝から外側へ退避された退避部が形成されていること、を特徴とする。
【0006】
請求項1のピペットチップ取外し機構において、分注ノズルに取り付けられたピペットチップが取り外される際には、ピペットチップが取外溝よりも下側に配置されるようにして、チップ外し部材の取外溝に分注ノズルが係合される。そして、分注ノズルがチップ外し部材に対して上方向に相対移動される。すると、チップ外し部材の下面でピペットチップが押されて、ピペットチップが分注ノズルから取り外される。
【0007】
ここで、分注ノズルが取外溝の幅方向に対してどちらかにずれている状態で係合された場合には、分注ノズルが片側の溝端面部に押しつけられた状態となる。この場合、ピペットチップが取り外された後に、さらに分注ノズルをチップ外し部材に対して上方向に相対移動させると、シーリング部材と溝端面部とが衝突して、シーリング部材が損傷することも考えられる。
【0008】
そこで、請求項1のピペットチップ取外し機構では、溝端面部に退避部を形成する。退避部は、溝端面部がシーリング部材と非接触となるように取外溝から外側へ退避されているので、シーリング部材と溝端面部との衝突を防止することができ、シーリング部材の損傷を抑制することができる。
【0009】
本発明の請求項2のピペットチップ取外し機構は、前記退避部が、上側に向かって前記取外溝が広幅となるような傾斜面とされていること、を特徴とする。
【0010】
このように傾斜面により、退避部を構成することができる。
【0011】
本発明の請求項3のピペットチップ取外し機構は、前記傾斜面の傾斜角をθ、前記先端部のテーパー傾斜角をα、前記ノズルリブ部の下角部と前記シーリング部材との接線の傾斜角をβ、前記傾斜角θでの前記シーリング部材への接線を引いたとき前記先端部の側壁と交わる位置と前記退避部の上端部との高さ方向の距離をL0、前記退避部の下端部と上端部との高さ方向の距離をL1、とすると、 α<θ<β、かつ、L0<L1、の条件が満たされていること、を特徴とする。
【0012】
上記の条件を満たす構成とすることにより、分注ノズルとシーリング部材との衝突を防止することができる。
【0013】
本発明の請求項4の分注装置は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のピペットチップ取外し機構を備えたものである。
【0014】
本発明の分注装置によれば、分注ノズルとシーリング部材との衝突を防止することができるので、適切に液体供給を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は上記構成としたので、ピペットチップを取り外す際のシーリング部材の損傷を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0017】
本発明に係る分注装置は、バイオセンサーなどの測定装置において、試料を供給する際等に用いることができる。
【0018】
本実施形態の分注装置10は、図1に示すように、分注ヘッド20、及び、チップ外し部材40を備えている。分注ヘッド20は、モータ16A及びZ方向に配置された駆動軸16Bを含んで構成された鉛直駆動機構16によって鉛直方向(Z方向)に移動可能とされている。
【0019】
分注ヘッド20は、ヘッド22、及び、分注ノズル24、を備えている。ヘッド22はY方向に長尺とされた角柱状とされている。ヘッド22には、12本の管状の分注ノズル24がY方向に1列に並べて取り付けられている。12本の分注ノズル24は、ヘッド22と共にZ方向へ移動される。各々の分注ノズル24の先端には、ピペットチップ30が取り付けられている。
【0020】
分注ヘッド20は、図2に示す測定チップ50へ、液体試料を供給するために用いられる。測定チップ50は、ヘッド22に沿った長尺状とされ、上面に出入口53の構成された6本の液体流路52を備えている。12本の分注ノズル24は、隣り合う2本で一対とされ、一方が液体供給用、他方が液体排出用に用いられる。
【0021】
分注ヘッド20による液置換は、分注ノズル24に取り付けられたピペットチップ30を液体流路52の出入口53へ挿入し、液体供給用の6本の分注ノズル24から試料を吐出させると共に、液体排出用の6本の分注ノズル24で液体流路52内の試料を吸引する。これにより、液体流路52内の液置換が行われる。
【0022】
図3に示すように、分注ノズル24の先端部26は、先端に向かって小径となるテーパー状とされている。先端部26の基端側には、Oリング27が取り付けられている。先端部26は、ピペットチップ30内に挿入される。Oリング27がピペットチップ30の内壁に圧入されることにより、ピペットチップ30との隙間がシーリングされると共に、ピペットチップ30が取り付けられる。なお、Oリング以外のパッキングリングを用いることも可能である。ピペットチップ30は、上端がノズルリブ部28に当接されるようにして、分注ノズル24に取り付けられる。
【0023】
先端部26の上側には、ノズルリブ部28が形成されている。ノズルリブ部28は、分注ノズル24の径方向外側に環状に突出されている。ノズルリブ部28の外径はピペットチップ30の最大外径よりも小径とされている。
【0024】
チップ外し部材40は、図1に示すように、Y方向に沿った板状とされ、12本の分注ノズル24に対応する位置に、分注ノズル24を係合可能な取外溝42が構成されている。取外溝42は、図4及び図5に示すように、溝端面部44により構成されている。図4に示すように、取外溝42は、上面からみて、分注ノズル24とチップ外し部材40との相対移動方向であるX方向に長尺とされ、X方向の分注ノズル24側が開口され、奥側が弧状とされている。取外溝42のX方向と直交するY方向の幅は、ノズルリブ部28の外径よりも広く、ピペットチップ30の外径よりも狭く構成されている。取外溝42のX方向の開口部41は、外側に向かって広がるテーパー状とされている。このように、開口部41が広く構成されていることにより、分注ノズル24の位置が多少ずれていても、取外溝42の中央部に分注ノズル24を誘導することができる。
【0025】
溝端面部44には、図5に示すように、上側に向かって開口が広くなるように傾斜した傾斜部45が形成されている。傾斜部45の傾斜角度θは、図5に示すように、先端部26のテーパー傾斜角をα、ノズルリブ部の下角部と前記シーリング部材との接線の傾斜角をβ、傾斜角θでのシーリング部材への接線を引いたとき、先端部26の側壁と交わる位置Aと傾斜部45の上端部との高さ方向の距離をL0、傾斜部45の下端部と上端部との高さ方向の距離をL1、とすると、 α<θ<β、かつ、L0<L1、の条件が満たされている。
【0026】
このように傾斜角度θ及び距離L1を設定することにより、後述のように、ピペットチップ30を取り外す際に、Oリング27とチップ外し部材40との衝突を防止することができる。
【0027】
次に、本実施形態でのピペットチップ30の取り外し動作について説明する。
【0028】
ピペットチップ30を取り外す際には、まず、図4に示すように、分注ヘッド20をチップ外し部材40の上部に移動させて、取外溝42へ分注ノズル24を係合させ、取外溝42の開口部41側から奥側へ移動させる。次に、チップ外し部材40を上方向へ引き上げる。すると、図6(A)に示すように、チップ外し部材40の下面によりピペットチップ30の上面が押されて、図6(B)に示すように、ピペットチップ30が取り外される。取り外されたピペットチップ30は、落下して不図示の回収箱に回収される。
【0029】
その後、分注ノズル24がさらに引き上げられると、ピペットチップ30が取り付けられていない状態で、分注ノズル24の先端部26が取外溝42を通過する。このとき、分注ノズル24が取外溝42の中心線M(図4参照)に対してY方向にずれた状態で取外溝42に係合されている場合には、取外溝42内での片寄りが生じる。まず、図7−1(A)に示すように、一方の溝端面部44にノズルリブ部28が押しつけられた状態となり、この状態で分注ノズル24が上昇する。ノズルリブ部28が傾斜部45を通過する際には、図7−1(B)に示すように、ノズルリブ部28が傾斜部45に当接しつつ上昇する。次に、図7−1(C)に示すように、ノズルリブ部28が傾斜部45に当接された状態で、先端部26が溝端面部44と傾斜部45の間に構成される角部に当接しつつ上昇する。このとき、傾斜部45は、Oリング27と接触しない角度θに設定されているので、傾斜部45とOリング27が摺接されることはない。
【0030】
次に、図7−2(D)に示すように、ノズルリブ部28が傾斜部45よりも上に引き上げられると、先端部26が溝端面部44と傾斜部45の間に構成される角部に当接しつつ上昇する。この場合にも、傾斜部45は、Oリング27と接触しない角度θに設定されているので、傾斜部45とOリング27が摺接されることはない。
【0031】
そして、図7−2(E)に示すように、先端部26の先端が傾斜部45に至ると、先端部26の先端が傾斜部45に当接しつつ上昇され、分注ノズル24がチップ外し部材40よりも上側に配置される。
【0032】
この高さ位置で分注ヘッド20が新たなピペットチップの装填されたチップストッカー(不図示)の上部へ移動されて、新たなピペットチップ30が分注ノズル24へ取り付けられる。
【0033】
本実施形態によれば、チップ外し部材40に傾斜部45が形成されているので、ピペットチップ30の取り外しの際に、チップ外し部材40とOリング27とが衝突することがなく、Oリング27の損傷を防止することができる。
【0034】
なお、本実施形態では、傾斜部45を構成してOリング27とチップ外し部材40との接触を防止したが、必ずしも傾斜面で有る必要はなく、あらゆる形状とすることが可能である。例えば、図8に示すように、溝端面部44の上側を切欠いて断面L字形状とすることにより退避部46を構成し、Oリング27とチップ外し部材40との接触を防止することもできる。この場合には、ノズルリブ部28の突出幅W0よりも退避部46の退避幅W1を短く(W0>W1)、ノズルリブ部28の下側からOリング27下側までの高さ距離H0よりも退避部46の高さH1を長く(H0<H1)構成する。
【0035】
また、本実施形態では、複数の分注ノズル24を有する分注装置10について説明したが、1本の分注ノズルを有する分注装置に用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施形態の分注装置の概略斜視図である。
【図2】本実施形態の分注装置の分注ノズルの測定チップへのアクセス状態を示す側面図である。
【図3】本実施形態の分注ノズルにピペットチップが取り付けられている状態を示す側面図である。
【図4】本実施形態の1つの取外溝に分注ノズルが係合される状態を示す上面図である。
【図5】本実施形態の側面からみた、分注ノズルの先端部分とチップ外し部材との関係を示す図である。
【図6】本実施形態のチップ外し部材で分注ノズルからピペットチップを取り外す際の動作説明図である。
【図7−1】本実施形態において分注ノズルが上側に引き上げられる際の、分注ノズルとチップ外し部材との関係を示す説明図である。
【図7−2】本実施形態において分注ノズルが上側に引き上げられる際の、分注ノズルとチップ外し部材との関係を示す説明図である。
【図8】本実施形態のチップ外し部材の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
10 分注装置
20 分注ヘッド
24 分注ノズル
26 先端部
27 Oリング
28 ノズルリブ部
30 ピペットチップ
40 チップ外し部材
41 開口部
42 取外溝
44 溝端面部
45 傾斜部
46 退避部
50 測定チップ
52 液体流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピペットチップに挿入され先端に向かって小径のテーパー状とされた先端部と、前記先端部よりも上側に形成され径方向外側に突出されると共に前記ピペットチップの最大外径よりも小径とされたノズルリブ部とを有する分注ノズルと、
前記分注ノズルの前記先端部に配置され、前記ピペットチップの内壁との隙間を密閉するシーリング部材と、
前記ノズルリブ部よりも幅が広く前記ピペットチップの最大外径よりも幅が狭い取外溝を構成する溝端面部を有し、前記ピペットチップが前記取外溝よりも下側に配置されるようにして前記分注ノズルが前記取外溝に係合されるチップ外し部材と、
を備え、
前記溝端面部の上側には、前記分注ノズルが前記チップ外し部材に対して上方向に相対移動される際に、前記シーリング部材と非接触となるように前記取外溝から外側へ退避された退避部が形成されていること、を特徴とするピペットチップ取外し機構。
【請求項2】
前記退避部は、上側に向かって前記取外溝が広幅となるような傾斜面とされていること、を特徴とする請求項1に記載のピペットチップ取外し機構。
【請求項3】
前記傾斜面の傾斜角をθ、前記先端部のテーパー傾斜角をα、前記ノズルリブ部の下角部と前記シーリング部材との接線の傾斜角をβ、前記傾斜角θでの前記シーリング部材への接線を引いたとき前記先端部の側壁と交わる位置と前記退避部の上端部との高さ方向の距離をL1、前記退避部の下端部と上端部との高さ方向の距離をL0、とすると、 α<θ<β、かつ、L0<L1、の条件が満たされていること、を特徴とする請求項2に記載のピペットチップ取外し機構。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のピペットチップ取外し機構を備えた分注装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−82817(P2008−82817A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262051(P2006−262051)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】