説明

ピペラシリンナトリウムの新規な結晶

【課題】医薬として優れた作用を有するピペラシリンナトリウムの新規な結晶及びそれを充填した粉末充填注射用製剤を提供すること。
【解決手段】粉末X線回折において、2θで表される6.1、10.2、12.4、15.1、15.8及び18.6の回折角度を有するピペラシリンナトリウムの新規な結晶並びに5.3、6.1、8.7、10.2、12.4及び18.6°の回折角度を有するピペラシリンナトリウムの新規な結晶は、優れた溶解性及び低吸湿性を有し、帯電性が小さく、原薬の製造時及び製剤化での充填時の取り扱いが非常に容易であり、それらを充填した注射用製剤は、有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(2S,5R,6R)−6−((2R)−2−((4−エチル−2,3−ジオキソピペラジン−1−カルボニル)アミノ)−2−フェニルアセチルアミノ)−3,3−ジメチル−7−オキソ−4−チア−1−アザビシクロ[3.2.0]ヘプタン−2−カルボン酸(以下、ピペラシリンと称する。)ナトリウムの新規な結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
ピペラシリン又はその塩は、広い抗菌活性、特にグラム陰性微生物、シュードモナスアルギノーサ、尋常変形菌、セラチア種、腸バクテリア及びその他の臨床上重要な嫌気性菌に対し、効果があることが知られている。例えば、肺炎、化膿性髄膜炎及び敗血症等の治療にピペラシリンのナトリウム塩が効果的に使用されている。
一般に薬物の注射剤としては、水を始めとする液体に溶解、乳化又は分散させて使用する液体注射剤、及び、使用時に液体に溶解、乳化又は分散させて使用する用時溶解型の粉末注射剤が知られている。
しかし、ピペラシリン又はその塩は、溶液中で不安定であり、ピペラシリン又はその塩の液体注射剤を製造することは難しい。
また、ピペラシリンの塩は、これまで、非晶質でのみ固形物として得られていた。そのため、粉末充填製剤には、例えば、凍結乾燥末が用いられていた。しかしながら、非晶質の固形物は、吸湿性を有し、用時溶解性に劣っていた。更に、凍結乾燥による製造は、長時間を要し、製造コストを上昇させるだけでなく、精製が困難であるという問題があった。
特開平2−32082号(特許文献1)及び米国特許出願公開第2003/028016号(特許文献2)等の公報に、ピペラシリンの塩を結晶として得たとの記載があるが、それらが結晶であることを示唆するデータは一切記載が無い。本発明者らは、上記文献の実施例を追試したが、ピペラシリンの塩の結晶を得ることはできなかった。これまで、ピペラシリンの塩の結晶は、全く知られていない。
【0003】
【特許文献1】特開平2−32082号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/028016号明細書
【特許文献3】特開昭51−023284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、医薬として優れた作用を有するピペラシリンナトリウムの新規な結晶及びそれを充填した注射用製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記問題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、ピペラシリンナトリウムに結晶体が存在し、その結晶体に結晶多形が存在することを見出し、本発明を完成した。以下に、本発明を詳細に説明する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のピペラシリンナトリウムの新規な結晶は、優れた溶解性を有し、低吸湿性であり、かつ、非晶質よりも粉末の嵩が小さく、帯電性が小さいことから、原薬の製造時及び製剤化での充填時の取り扱いが非常に容易である。また、これらの結晶は、濾過及び乾燥が容易で類縁物質含量が少なく、高純度であり、医薬の原薬に適している。
これらの点より、本発明のピペラシリンナトリウムの新規な結晶及びそれらを充填した注射用製剤は、有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において、特にことわらない限り、アルキルケトンとは、例えば、アセトン、2−ブタノン及びメチルイソブチルケトンを;エーテルとは、例えば、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル及び1,2−ジメトキシエタンを;アルキルエステルとは、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル及び酢酸ブチルを;アルコールとは、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、t−ブタノール、エチレングリコール及びプロピレングリコールを;塩基とは、例えば、2−エチルヘキサン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、酪酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムを意味する。
【0008】
本発明は、粉末X線回折において、2θで表される6.1、10.2、12.4、15.1、15.8及び18.6の回折角度を有するピペラシリンナトリウム・1水和物の結晶(以下、III型結晶と称する。)並びに粉末X線回折において、2θで表される5.3、6.1、8.7、10.2、12.4及び18.6°の回折角度を有するピペラシリンナトリウム・1水和物・0.5ジオキサン付加体の結晶(以下、IV型結晶と称する。)に関する。これらは、これまで知られていなかった新規な結晶である。なお、粉末X線回折による特徴的なピークは、測定条件によって変動することがある。そのため、本発明化合物の粉末X線回折のピークは、厳密に解されるものではない。
【0009】
III型結晶、IV型結晶及びピペラシリンナトリウムの凍結乾燥末(以下、非晶質と称する。)の粉末X線回折の測定結果を図6〜8に示す。
【0010】
粉末X線回折測定条件
使用X線:CuKα
カウンター:シンチレーションカウンター
ゴニオメーター: 縦型ゴニオメーター(1軸)
加電圧:40kV
加電流:80mA
スキャンスピード:2°/分
走査軸:2θ
走査範囲:2θ=3〜50°
発散スリット:1°
散乱スリット:1°
受光スリット:0.15mm
【0011】
本発明のIII型結晶及びIV型結晶は、以下の条件において測定した赤外吸収スペクトルにおける吸収波長(cm−1)によっても特徴付けられる新規な結晶である。III型結晶、IV型結晶及び非晶質の赤外吸収スペクトル測定結果を図9〜11に示す。
赤外吸収スペクトル測定条件
日本薬局方、一般試験法、赤外吸収スペクトルATR法に従って測定した。
【0012】
次に、本発明化合物の有用性を明らかにするため、溶解試験、吸湿試験及び純度(類縁物質含量)試験の結果を説明する。
【0013】
(1)溶解試験(静置)
被験物質として、III型結晶(実施例2)及び非晶質(比較例1)を用いた。
被験物質2.2gを第一硝子(株)製C2バイアル瓶に入れ、注射用水10mLを添加した後、静置下、完全溶解を肉眼にて判定し、完全溶解に要する時間を計測した。計測は、各々3回行い、それらの平均値を溶解時間とした。
結果を表1に示す。
【0014】
(2)溶解試験(振とう)
被験物質として、III型結晶(実施例2)及び非晶質(比較例1)を用いた。
被験物質2.2gを第一硝子(株)製C2バイアル瓶に入れ、注射用水10mLを添加した後、バイアル瓶を横向きに固定し、MRKインキュバスシェイカーで振とうした(幅4cm、振とう速度48回/分)。完全溶解を肉眼にて判定し、完全溶解に要する時間を計測した。計測は、各々3回行い、それらの平均値を溶解時間とした。
結果を表1に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
比較例1の物質の振とう時の溶解時間は、5分であった。一方、実施例2の物質の溶解時間は、50秒であった。III型結晶は、非晶質よりも短時間で溶解した。
【0017】
(3)吸湿性試験
被験物質として、III型結晶(実施例2)及び非晶質(比較例1)を用いた。
被験物質を7、11、22、33及び57%相対湿度下、25℃で3日間放置し、日本薬局方、一般試験法、水分測定法(カール・フィッシャー法)に従って水分含量を測定し、重量変化を算出した。結果を表2に示す。
【0018】
【表2】

【0019】
実施例2の物質は、比較例1の物質よりも重量変化率が小さかった。III型結晶は、非晶質よりも吸湿安定性に優れていた。
【0020】
(4)純度(類縁物質含量)試験
被験物質として、III型結晶(実施例2)、IV型結晶(実施例7)及び非晶質(比較例1)を用いた。
被験物質の純度を高速液体クロマトグラフィー法によって測定した(平成13年4月4日医薬発第340号厚生省医薬安全局長通知)。
【0021】
副成物I及び分解物I測定条件
検出器:紫外吸光光度計
測定波長:254nm
カラム:Develosil ODS−HG−5、内径4.6×長さ150mm
カラム温度:室温
移動相:21%アセトニトリル緩衝溶液(0.05mol/L酢酸、0.025mol/Lトリエチルアミン)
流量:1mL/分
【0022】
副成物II測定条件
検出器:紫外吸光光度計
測定波長:254nm
カラム:Nucleosil−5C18、内径4.6×長さ150mm
カラム温度:室温
移動相:30%アセトニトリル緩衝溶液(0.05mol/L酢酸、0.025mol/Lトリエチルアミン)
流量:1mL/分
結果を表3に示す。
【0023】
【表3】

【0024】
実施例2及び実施例7の物質は、比較例1の物質よりも類縁物質含量が少なかった。
【0025】
次に、本発明のIII型結晶及びIV型結晶の製造法について説明する。III型結晶及びIV型結晶は、例えば、以下の製造法で製造することができる。
【0026】
[製造法1]III型結晶の製造
ピペラシリン・1水和物又はその塩の溶液に塩基を添加することにより、III型結晶を製造することができる。
この製造に用いられる溶媒としては、アルキルケトン、エーテル及びアルキルエステルから選ばれる少なくとも1種の溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド並びに水の混合溶媒が挙げられる。
アルキルケトンとしては、アセトン、2−ブタノン及びメチルイソブチルケトンが好ましく、アセトン及び2−ブタノンがより好ましい。
エーテルとしては、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、t−ブチルメチルエーテル及び1,4−ジオキサンが好ましく、テトラヒドロフラン及び1,2−ジメトキシエタンがより好ましい。
アルキルエステルとしては、酢酸メチル及び酢酸エチルが好ましく、酢酸メチルがより好ましい。
混合溶媒としては、アルキルケトン、エーテル及びアルキルエステルから選ばれる少なくとも1種の溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド及び水の混合溶媒が好ましく、アセトン、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、酢酸メチル及び酢酸エチルから選ばれる少なくとも1種の溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド並びに水の混合溶媒がより好ましく、アセトン、2−ブタノン、テトラヒドロフラン及び酢酸メチルから選ばれる少なくとも1種の溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド並びに水の混合溶媒が更に好ましい。
有機溶媒及び水の混合比は、特に限定されないが、例えば、有機溶媒の含率が50〜99(v/v)%が好ましく、80〜99(v/v)%がより好ましく、95〜99(v/v)%が更に好ましい。
また、有機溶媒の混合比は、特に限定されないが、例えば、アルキルケトン及びN,N−ジメチルホルムアミドの混合溶媒では、アルキルケトンの含率が60〜95(v/v)%が好ましく、70〜95(v/v)%がより好ましく、80〜95(v/v)%が更に好ましい。
エーテル及びN,N−ジメチルホルムアミドの混合溶媒では、エーテルの含率が60〜95(v/v)%が好ましく、70〜95(v/v)%がより好ましく、80〜95(v/v)%が更に好ましい。
アルキルエステル及びN,N−ジメチルホルムアミドの混合溶媒では、アルキルエステルの含率が60〜95(v/v)%が好ましく、70〜95(v/v)%がより好ましく、80〜95(v/v)%が更に好ましい。
【0027】
ピペラシリン・1水和物又はその塩の溶液は、例えば、ピペラシリン・1水和物又はその塩をアルキルケトン、エーテル及びアルキルエステルから選ばれる少なくとも1種の溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド並びに水の混合溶媒に溶解することによって調製することができる。
ピペラシリン・1水和物は、例えば、特開昭51−023284号公報(特許文献3)記載の方法で製造することができる。
ピペラシリンの塩としては、例えば、ナトリウム塩及びトリエチルアミン塩が挙げられる。
ピペラシリンナトリウムは、例えば、特開昭51−023284号公報(特許文献3)記載の方法で製造することができる。
溶液を調製する時の温度は、特に限定されないが、0〜30℃が好ましく、5〜20℃がより好ましい。
【0028】
また、ピペラシリンの塩の溶液は、例えば、ピペラシリン・1水和物をアルキルケトン、エーテル及びアルキルエステルから選ばれる少なくとも1種の溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド並びに水の混合溶媒に溶解し、この溶液に炭酸水素ナトリウム、2−エチルヘキサン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、酪酸ナトリウム及びトリエチルアミンなどの試薬を添加することによっても、調製することができる。
試薬の使用量は、特に限定されないが、ピペラシリン・1水和物に対して、1当量が好ましい。
ピペラシリンの塩の溶液を調製する時の温度は、特に限定されないが、0〜30℃が好ましく、5〜20℃がより好ましい。
【0029】
このようにして調製したピペラシリン・1水和物又はその塩の溶液に塩基を添加することにより、III型結晶を製造することができる。
塩基としては、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、酪酸ナトリウム及び2−エチルヘキサン酸ナトリウムが好ましく、プロピオン酸ナトリウム及び2−エチルヘキサン酸ナトリウムがより好ましい。
塩基の添加量は、ピペラシリン・1水和物に対して、1当量が好ましい。
添加及び結晶化の温度は、特に限定されないが、0〜30℃が好ましく、5〜20℃がより好ましい。
結晶化を行う時の溶媒量は、特に限定されないが、ピペラシリン・1水和物又はその塩に対して、5〜20倍量が好ましい。
この製造において、III型結晶の種晶を使用することもでき、その量は、特に限定されない。
【0030】
[製造法2]IV型結晶の製造
ピペラシリンナトリウムの溶液から、IV型結晶を製造することができる。
この製造に用いられる溶媒としては、アルコール及びアルキルケトンから選ばれる少なくとも1種の溶媒、1,4−ジオキサン並びに水の混合溶媒が挙げられる。
アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール及びブタノールが好ましく、エタノール及びプロパノールがより好ましい。
アルキルケトンとしては、アセトン、2−ブタノン及びメチルイソブチルケトンが好ましく、アセトン及び2−ブタノンがより好ましい。
アルコール及びアルキルケトンから選ばれる少なくとも1種の溶媒、1,4−ジオキサン並びに水の混合比は、特に限定されないが、例えば、1,4−ジオキサンの含率が10〜90(v/v)%が好ましく、30〜90(v/v)%がより好ましい。
混合溶媒としては、アルキルケトン、1,4−ジオキサン及び水の混合溶媒が好ましく、アセトン、2−ブタノン及びメチルイソブチルケトンから選ばれる少なくとも1種の溶媒、1,4−ジオキサン並びに水の混合溶媒がより好ましく、アセトン及び2−ブタノンから選ばれる少なくとも1種の溶媒、1,4−ジオキサン並びに水の混合溶媒が更に好ましい。
【0031】
ピペラシリンナトリウムの溶液は、例えば、ピペラシリン・1水和物をアルコール及びアルキルケトンから選ばれる少なくとも1種の溶媒、1,4−ジオキサン並びに水の混合溶媒に懸濁し、この懸濁液に塩基を添加することにより、調製することができる。
塩基としては、2−エチルヘキサン酸ナトリウム及び酢酸ナトリウムが好ましい。
塩基の使用量は、特に限定されないが、好ましくは、ピペラシリン・1水和物に対して、1当量が好ましい。
ピペラシリンナトリウムの溶液を調製する時の温度は、特に限定されないが、0〜30℃が好ましく、5〜20℃がより好ましい。
【0032】
また、ピペラシリンナトリウムの溶液は、例えば、ピペラシリンナトリウムをアルコール及びアルキルケトンから選ばれる少なくとも1種の溶媒、1,4−ジオキサン並びに水の混合溶媒に溶解することによっても調製することができる。
溶液を調製する時の温度は、特に限定されないが、0〜30℃が好ましく、5〜20℃がより好ましい。
【0033】
このようにして調製したピペラシリンナトリウムの溶液を静置又は撹拌することにより、IV型結晶を製造することができる。
結晶化の温度は、特に限定されないが、0〜30℃が好ましく、5〜20℃がより好ましい。
結晶化を行う時の溶媒量は、特に限定されないが、ピペラシリン・1水和物又はピペラシリンナトリウムに対して、5〜20倍量が好ましい。
この製造において、IV型結晶の種晶を使用することもでき、その量は、特に限定されない。
【0034】
更に、III型結晶は、上記製造法でIV型結晶に変換することができる。また、IV型結晶は、同様に、III型結晶に変換することができる。
【0035】
本発明のピペラシリンナトリウムの結晶は、常法にしたがって、注射剤にすることができる。更に、本発明のピペラシリンナトリウムの結晶は、公知のβ−ラクタマーゼ阻害剤、例えば、クラブラン酸、スルバクタム及び/又はタゾバクタム等と配合して、配合剤とすることもできる。好ましいβ−ラクタマーゼ阻害剤としては、タゾバクタムが挙げられ、その配合比は、特に限定されないが、タゾバクタム1に対して、ピペラシリンナトリウムの結晶4〜8(重量比)が好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、代表的な実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は、本発明を何ら制限するものではない。
【0037】
実施例1
ピペラシリンナトリウム2.0gを2−ブタノン2mL、N,N−ジメチルホルムアミド3.8mL及び水0.6mLの混合液に加え、2−ブタノン10mLを滴下した。不溶物を濾去した後、5℃で24時間静置した。結晶を濾取し、2−ブタノン3mL、N,N−ジメチルホルムアミド0.9mL及び水0.1mLの混合液、2−ブタノン6mL、99%アセトン6mLで洗浄し、ピペラシリンナトリウム・1水和物の結晶(III型結晶)1.7gを得た。これをIII型結晶の種晶とした。
含水率:3.2%
IR(ATR)1772,1715cm-1
粉末X線回折のパターンは、実施例2と一致した。
【0038】
実施例2
ピペラシリン・1水和物20gを2−ブタノン20mL、N,N−ジメチルホルムアミド28mL及び水6mLの混合液に加えた。10〜20℃で2−エチルヘキサン酸ナトリウム6.4gを添加し、2−ブタノン100mLを滴下した。不溶物を濾去した後、III型結晶の種晶を添加し、15〜20℃で1時間、次いで5℃で3時間撹拌した。結晶を濾取し、2−ブタノン31mL、N,N−ジメチルホルムアミド7.2mL及び水1.6mLの混合液、2−ブタノン60mL、99%アセトン60mLで洗浄し、ピペラシリンナトリウム・1水和物の結晶(III型結晶)18gを得た。
含水率:3.2%
IR(ATR)1771,1715cm-1
偏光顕微鏡写真を図1、走査型電子顕微鏡写真を図3、粉末X線回折のパターンを図6、赤外吸収スペクトル(ATR法)を図9に示す。
【0039】
実施例3
ピペラシリン・1水和物10gをアセトン10mL、N,N−ジメチルホルムアミド8mL及び水3mLの混合液に加えた。10〜20℃で2−エチルヘキサン酸ナトリウム3.2gを添加し、アセトン70mLを滴下した。不溶物を濾去した後、III型結晶の種晶を添加し、15〜20℃で1時間、次いで5℃で3時間撹拌した。結晶を濾取し、アセトン18mL、N,N−ジメチルホルムアミド1.7mL及び水0.6mLの混合液、99%アセトン30mLで洗浄し、ピペラシリンナトリウム・1水和物の結晶(III型結晶)5.0gを得た。
含水率:3.2%
IR(ATR)1772,1715cm-1
粉末X線回折のパターンは、実施例2と一致した。
【0040】
実施例4
ピペラシリン・1水和物4.0gを2−ブタノン4mL、N,N−ジメチルホルムアミド5.6mL及び水1.2mLの混合液に加えた。10〜20℃でプロピオン酸ナトリウム0.72gを添加し、2−ブタノン20mLを滴下した。不溶物を濾去した後、III型結晶の種晶を添加し、15〜20℃で1時間、次いで5℃で3時間撹拌した。結晶を濾取し、2−ブタノン6.2mL、N,N−ジメチルホルムアミド1.4mL及び水0.3mLの混合液、2−ブタノン12mL、99%アセトン12mLで洗浄し、ピペラシリンナトリウム・1水和物の結晶(III型結晶)3.0gを得た。
含水率:3.2%
IR(ATR)1771,1715cm-1
粉末X線回折のパターンは、実施例2と一致した。
【0041】
実施例5
ピペラシリン・1水和物4.0gを2−ブタノン4mL、N,N−ジメチルホルムアミド5.6mL及び水1.2mLの混合液に加え、10〜20℃でトリエチルアミン0.72gを添加した。10〜20℃で2−エチルヘキサン酸ナトリウム1.3gを添加し、2−ブタノン20mLを滴下した。不溶物を濾去した後、III型結晶の種晶を添加し、15〜20℃で1時間、次いで5℃で3時間撹拌した。結晶を濾取し、2−ブタノン6.2mL、N,N−ジメチルホルムアミド1.4mL及び水0.3mLの混合液、2−ブタノン12mL、99%アセトン12mLで洗浄し、ピペラシリンナトリウム・1水和物の結晶(III型結晶)3.0gを得た。
含水率:3.2%
IR(ATR)1771,1714cm-1
粉末X線回折のパターンは、実施例2と一致した。
【0042】
実施例6
ピペラシリンナトリウム2.0gを1,4−ジオキサン6mL及び水1.2mLの混合液に加え、アセトン13mLを滴下した。不溶物を濾去した後、5℃で24時間静置した。結晶を濾取し、99%アセトン10mLで洗浄し、ピペラシリンナトリウム・1水和物・0.5ジオキサン付加体の結晶(IV型結晶)1.9gを得た。これをIV型結晶の種晶とした。
含水率:3.0%
1,4−ジオキサン含率:7.3%
IR(ATR)1765,1715cm-1
粉末X線回折のパターンは、実施例7と一致した。
【0043】
実施例7
ピペラシリン・1水和物50gを1,4−ジオキサン150mL及び水30mLの混合液に懸濁し、10〜20℃で2−エチルヘキサン酸ナトリウム16gを添加し、アセトン320mLを滴下した。不溶物を濾去した後、IV型結晶の種晶を添加し、15〜20℃で6時間撹拌した。結晶を濾取し、99%アセトン250mLで洗浄し、ピペラシリンナトリウム・1水和物・0.5ジオキサン付加体の結晶(IV型結晶)48gを得た。
含水率:3.2%
1,4−ジオキサン含率:7.3%
IR(ATR)1765,1716cm-1
偏光顕微鏡写真を図2、走査型電子顕微鏡写真を図4、粉末X線回折のパターンを図7、赤外吸収スペクトル(ATR法)を図10に示す。
【0044】
実施例8
ピペラシリンナトリウム・1水和物の結晶10gを2−ブタノン10mL、N,N−ジメチルホルムアミド19mL及び水3mLの混合液に加えた。10〜20℃で2−ブタノン50mLを滴下した。不溶物を濾去した後、III型結晶の種晶を添加し、15〜20℃で1時間、次いで5℃で3時間撹拌した。結晶を濾取し、2−ブタノン15mL、N,N−ジメチルホルムアミド4.6mL及び水0.7mLの混合液、2−ブタノン30mL、99%アセトン30mLで洗浄し、ピペラシリンナトリウム・1水和物の結晶(III型結晶)7.0gを得た。
含水率:3.2%
IR(ATR)1771,1716cm-1
粉末X線回折のパターンは、実施例2と一致した。
【0045】
実施例9
ピペラシリン・1水和物300gを2−ブタノン600mL、N,N−ジメチルホルムアミド180mL及び水45mLの混合液に加えた。10〜20℃でプロピオン酸ナトリウム53.8gを添加した。不溶物を濾去した後、2−ブタノン450mLを滴下し、次いで、III型結晶の種晶を添加し、15〜20℃で2時間撹拌した。次いで、2−ブタノン1050mLを滴下し、15〜20℃で1時間、5〜10℃で2時間撹拌した。結晶を濾取し、2−ブタノン291mL、N,N−ジメチルホルムアミド6mL及び水3mLの混合液、2−ブタノン300mLで洗浄し、ピペラシリンナトリウム・1水和物の結晶(III型結晶)300gを得た。
含水率:3.3%
IR(ATR)1771,1715cm-1
粉末X線回折のパターンは、実施例2と一致した。
【0046】
比較例1(凍結乾燥)
ピペラシリン・1水和物90gを水180mLに加えた。炭酸水素ナトリウム14gを6〜10℃で2時間で添加した。不溶物を濾去した後、凍結乾燥し、ピペラシリンナトリウム(非晶質)89gを得た。
含水率:0.5%
IR(ATR)1765,1713cm-1
走査型電子顕微鏡写真を図5、粉末X線回折のパターンを図8、赤外吸収スペクトル(ATR法)を図11に示す。
【0047】
比較例2(特開平2−32082号公報、実施例追試)
ピペラシリン・1水和物1.1gをアセトン30mLに溶解し、2−エチルヘキサン酸ナトリウム0.33gの酢酸エチル10mL溶液を室温下、10分間で滴下した。固体を濾取し、酢酸エチル20mLで洗浄し、ピペラシリンナトリウム(非晶質)1.0gを得た。
含水率:0.5%
IR(ATR)1764,1714cm-1
粉末X線回折のパターンは、比較例1と類似し、明確なピークは認められなかった。
【0048】
比較例3(米国特許出願公開第2003/028016号明細書、Example 1追試)
ピペラシリン・1水和物3.0gをアセトン45mL及びメタノール0.45mLの混合液に加えた。水0.06mLを加えた後、2−エチルヘキサン酸ナトリウム0.99gのアセトン11mL及び水0.06mLの混合溶液を室温下、30分間で滴下した。次いで、アセトン21mL及び水0.06mLの混合液を滴下し、0〜3℃で2時間撹拌した。固体を濾取し、アセトン20mLで洗浄し、ピペラシリンナトリウム(非晶質)2.0gを得た。
含水率:0.5%
IR(ATR)1764,1713cm-1
粉末X線回折のパターンは、比較例1と類似し、明確なピークは認められなかった。
【0049】
製剤例1
実施例2で得たピペラシリンナトリウム・1水和物の結晶(III型結晶)をガラス製バイアルに小分け充填(1g/vial、2g/vial)し、減圧下、ゴム栓にて密封し、更にアルミキャップで巻き締めし、ピペラシリンナトリウム・1水和物の注射用製剤を得た。
【0050】
製剤例2
実施例2で得たピペラシリンナトリウム・1水和物の結晶(III型結晶)をプラスチック製ダブルバッグ(複室容器)に小分け充填(2g/bag)し、ヒートシール溶着にて密封し、ピペラシリンナトリウム・1水和物の注射用キット製剤を得た。
【0051】
製剤例3
実施例2で得たピペラシリンナトリウム・1水和物の結晶(III型結晶)4g及びタゾバクタムナトリウム0.5gをガラス製バイアルに小分け充填(4.5g/vial)し、減圧下、ゴム栓にて密封し、更にアルミキャップで巻き締めし、ピペラシリンナトリウム・1水和物及びタゾバクタムナトリウムの注射用製剤を得た。
【0052】
製剤例4
実施例2で得たピペラシリンナトリウム・1水和物の結晶(III型結晶)4g及びタゾバクタムナトリウム0.5gをプラスチック製ダブルバッグ(複室容器)に小分け充填(4.5g/bag)し、ヒートシール溶着にて密封し、ピペラシリンナトリウム・1水和物及びタゾバクタムナトリウムの注射用キット製剤を得た。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】ピペラシリンナトリウム・1水和物の結晶(III型結晶)の偏光顕微鏡写真(倍率265倍)である。
【図2】ピペラシリンナトリウム・1水和物・0.5ジオキサン付加体の結晶(IV型結晶)の偏光顕微鏡写真(倍率265倍)である。
【図3】ピペラシリンナトリウム・1水和物の結晶(III型結晶)の走査型電子顕微鏡写真(倍率800倍)である。
【図4】ピペラシリンナトリウム・1水和物・0.5ジオキサン付加体の結晶(IV型結晶)の走査型電子顕微鏡写真(倍率800倍)である。
【図5】ピペラシリンナトリウム(非晶質)の走査型電子顕微鏡写真(倍率200倍)である。
【図6】ピペラシリンナトリウム・1水和物の結晶(III型結晶)の粉末X線回折パターンである。
【図7】ピペラシリンナトリウム・1水和物・0.5ジオキサン付加体の結晶(IV型結晶)の粉末X線回折パターンである。
【図8】ピペラシリンナトリウム(非晶質)の粉末X線回折パターンである。
【図9】ピペラシリンナトリウム・1水和物の結晶(III型結晶)の赤外吸収スペクトル(ATR法)である。
【図10】ピペラシリンナトリウム・1水和物・0.5ジオキサン付加体の結晶(IV型結晶)の赤外吸収スペクトル(ATR法)である。
【図11】ピペラシリンナトリウム(非晶質)の赤外吸収スペクトル(ATR法)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末X線回折において、2θで表される6.1、10.2、12.4、15.1、15.8及び18.6の回折角度を有する(2S,5R,6R)−6−((2R)−2−((4−エチル−2,3−ジオキソピペラジン−1−カルボニル)アミノ)−2−フェニルアセチルアミノ)−3,3−ジメチル−7−オキソ−4−チア−1−アザビシクロ[3.2.0]ヘプタン−2−カルボン酸ナトリウム・1水和物結晶。
【請求項2】
粉末X線回折において、2θで表される5.3、6.1、8.7、10.2、12.4及び18.6°の回折角度を有する(2S,5R,6R)−6−((2R)−2−((4−エチル−2,3−ジオキソピペラジン−1−カルボニル)アミノ)−2−フェニルアセチルアミノ)−3,3−ジメチル−7−オキソ−4−チア−1−アザビシクロ[3.2.0]ヘプタン−2−カルボン酸ナトリウム・1水和物・0.5ジオキサン付加体結晶。

【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−246514(P2007−246514A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−32211(P2007−32211)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(000003698)富山化学工業株式会社 (37)
【Fターム(参考)】