説明

ピリドビスイミダゾール繊維

【課題】 ピリドビスイミダゾール繊維の優れた耐熱性、難燃性を維持したままで、後加工性を向上させ、さらに、製造プロセス条件を大幅に変更する必要がなく、高温での長時間熱処理などの必要もないピリドビスイミダゾール繊維を提供する。
【解決手段】 ピリドビスイミダゾール繊維の表層部(表面〜1μm)から得られた電子線回折図において、赤道方向プロファイルにおける結晶(200)面由来の回折ピーク面積をS1、結晶(110)面、(210)及び(400)面由来の回折ピーク面積をS2としたとき、S2/S1が0.1〜1.5を満足するピリドビスイミダゾール結晶の存在状態であることを特徴とするピリドビスイミダゾール繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピリドビスイミダゾール繊維に関するものであり、詳しくは、従来のピリドビスイミダゾール繊維に比べて、繊維の切断、フェルト化などの後加工性に優れ、産業用資材のみならず、ピリドビスイミダゾール繊維の耐熱性、難燃性を生かした様々な用途への展開が可能なピリドビスイミダゾール繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度、高耐熱性を有する繊維として、ピリドビスイミダゾール、ポリベンゾオキサゾールやポリベンゾチアゾールなどのポリベンザゾール繊維が知られており、該ポリマーの繊維化については、例えば、特許文献1、2に記載されている。
【0003】
ピリドビスイミダゾール繊維は強度、弾性率、耐熱性、難燃性、全ての点において有機繊維の中で最高レベルの性能を有しているため、これらの特徴を生かしたさまざまな用途に展開されている。しかしながら、耐熱性、難燃性を生かした用途の中では、ピリドビスイミダゾール繊維の高強度、高弾性率がゆえに、繊維の切断が容易でないため、後加工性が悪く、後加工性の向上が望まれている。
【0004】
後加工性を向上させる方法として、繊維の強度を大幅に低下させる方法が考えられる。ピリドビスイミダゾール繊維の強度を大幅に低下させる方法としては、ポリマーの濃度や分子量を低下させる、あるいは、繊維を高温で長時間熱処理する、などの方法が考えられる。しかしながら、ポリマーの濃度や分子量を低下させると、紡糸時の糸切れが発生しやすくなる、通常銘柄の生産との切り替えロスが発生する、ドープの粘度挙動も大きく変化するため、紡糸条件も変更する必要があるなど、操業性が悪化する問題がある。一方、繊維を高温で長時間熱処理するには、高温の炉が必要となり、多大なエネルギーを必要とするため問題である。
【0005】
ピリドビスイミダゾール繊維の優れた耐熱性、難燃性を維持したままで、強度を大幅に低下させたピリドビスイミダゾール繊維が望まれており、プロセス条件を大幅に変更する必要がなく、切り替えロスの発生を可能な限り抑え、操業性が悪化する問題がない、後加工性に優れたピリドビスイミダゾール繊維及びその製造方法の開発が望まれていた。
【特許文献1】米国特許第5296185号公報
【特許文献2】米国特許第5385702号公報
【特許文献3】特表平8−509516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、ピリドビスイミダゾール繊維の優れた耐熱性、難燃性を維持したままで、後加工性を向上させたピリドビスイミダゾール繊維を提供することであり、製造プロセス条件を大幅に変更する必要がなく、切り替えロスの発生を可能な限り抑えた、さらに、高温での長時間熱処理などの必要もない、ピリドビスイミダゾール繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成を採用する。すなわち、(1)ピリドビスイミダゾール繊維の表層部(表面〜1μm)から得られた電子線回折図において、赤道方向プロファイルにおける結晶(200)面由来の回折ピーク面積をS1、結晶(110)面、(210)面および(400)由来の回折ピーク面積をS2としたとき、S2/S1が0.1〜1.5を満足するピリドビスイミダゾール結晶の存在状態であることを特徴とするピリドビスイミダゾール繊維、(2)ピリドビスイミダゾール繊維の表層部(表面〜1μm)及び中心部から得られたピリドビスイミダゾール結晶の(200)面の電子線回折の方位角プロファイルにおいて、表層部から得た回折ピークの半値幅を中心部から得た回折ピークの半値幅で割った値Tが0.75〜1.25である上記(1)に記載のピリドビスイミダゾール繊維。
【発明の効果】
【0008】
本発明のピリドビスイミダゾール繊維は、電子線回折法によってピリドビスイミダゾール結晶の電子線回折図を測定した場合、従来にない特有のパターンを示す。すなわち、少なくとも繊維表層部の結晶のa、b軸方向の選択配向が従来のものに比べてランダム化しており、繊維の表層部と中心部との結晶の配向の差が少なくなり、繊維全体として結晶の配向が従来のものに比べてランダム化している。このことにより、繊維強度が低下し、ピリドビスイミダゾール繊維の後加工性が向上する。また、繊維内部の潜在歪も少なくなるため、フィブリル化が抑制できる効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のピリドビスイミダゾール繊維は、表層部(表面〜1μm)から得られたピリドビスイミダゾール結晶の電子線回折図において、赤道方向プロファイルにおける結晶(200)面由来の回折ピーク面積を(S1)、結晶(110)、(210)面及び(400)面由来の回折ピーク面積を(S2)としたとき、S2/S1が0.1〜1.5であることが好ましい。
【0010】
ピリドビスイミザゾールは分子がピリゾビスイミザゾール環とジフィドロキシーp−フェニレン環のそれぞれの環平面が平行に連なった構造をとっている。繊維断面における該環の並び方の様式をコントロールすることが後加工性を向上させること関係する。すなわち、本発明は、少なくとも繊維切断容易性への影響が大きい繊維表層部の選択配向をランダム化することにより、繊維切断容易性高めるものである。本発明では、繊維構造中での環の並び方を特定し、S2/S1という指標により数値化している。S2/S1が0.1〜1.5であれば、実用上十分な繊維強度が得られ、且つ、繊維切断が容易で後加工性、操業性、工程通過性が優れた繊維となる。より好ましいS2/S1は0.2〜1.3である。
【0011】
本発明のピリドビスイミザゾール繊維は、ピリドビスイミダゾール繊維の表層部(表面から1μm)及び中心部から得られたポリベンザゾール結晶の(200)面の電子線回折の方位角プロファイルにおいて、表層部から得た回折ピークの半値幅を中心部から得た回折ピークの半値幅で割った値Tが0.75〜1.25であることが好ましい。選択配向をランダム化しつつも、結晶サイズを均一とすることにより、繊維切断容易性と強度のバランスに優れた繊維が得られる。すなわち、Tの値が0.75〜1.25であれば、繊維切断容易性と強度のバランスに優れた繊維が得られる。より好ましいTの値は0.85〜1.15である。
【0012】
本発明におけるピリドビスイミダゾール繊維について、電子線回折法による分析法で回折図や解析結果を得るには、公知の方法が採用でき、測定用繊維は、繊維軸(長さ)方向で、かつ繊維の表層部と中心部とを含むように、厚さ70nm程度の超薄切片としたものを使用する。
すなわち、単繊維をLuft法(J. Biophys. Biochem.Cytol., 9, 409 (1961))に従って調製したエポキシ樹脂に包埋し、60℃オーブン中で一夜放置し固化固定して繊維を包埋させたレジンブロックを得る。次に、このレジンブロックをライヘルト社製のウルトラマイクロトームに取り付け、ガラスナイフを用いて、包埋した繊維がブロック表面近傍に現れるまで研磨し、次いでダイアトーム社製ダイアモンドナイフを用いて単繊維の繊維軸方向に平行な方向に切削する。
【0013】
例えば単繊維の直径が10μmの場合、繊維表面から連続的に約70nmの厚さの超薄切片を切削すると、約140枚の切片に切り分けることができる。切削した全ての切片を、切削順に10枚ごとのグループとして銅グリッドに選択的に回収した。切削開始から10枚目までをグループ1とし、順次グループ1,グループ2・・・グループnと定義する。このグループのうちnが偶数の場合には(n/2)番目のグループを、奇数の場合には(n/2−0.5)番目のグループを制限視野電子線回折測定に供する。一本の単繊維を、ほぼ同じ厚さの超薄切片に全て切り分けると、上記のグループの繊維切片は、繊維の表層部(表面)と中心部との両方が含まれたものとなる。
【0014】
厚さ約70nmで、繊維の表層部(表面)と中心部との両方が含まれた超薄切片を作成後、得られた超薄切片を、300メッシュの銅グリッド上に回収し薄くカーボン蒸着を施す。なお、本発明における中心部とは、繊維の断面を円とみなしたときに中心点とみなせる部分を含む場所であり、直径で数ミクロン程度までの芯部を意味し、超薄切片で言えば、両表面の中間部である。
次いで電子顕微鏡内に超薄切片を導入し、繊維の表層部と中心部の両方について制限視野電子線回折像を撮影し(この際、制限視野(アパチャー)の径は1μm以下とし、繊維の超薄切片に切削時に発生したアーティファクト(例えば、シワや切片のやぶれなど)の無い部分を回折像撮影部位に選択した)電子線回折図を得る。
【0015】
得られた電子線回折図のうちの赤道方向のプロファイルを、ローレンツ関数を用いて近似して、(200)と(110)、(210)および(400)由来の回折ピークの積分強度(面積)と半値幅を算出し、(200)由来の面積をS1、(110)、(210)および(400)由来の面積の和をS2とし、S2/S1を算出する。
また、見かけの結晶サイズ(ACS)は、次式を用いて算出する。
ACS=0.9λ/βcosθ
ここで、λは電子線の波長、βは半値幅(単位はラジアン)、θは回折角2θの半値である。
さらに(200)回折については、方位角方向の回折プロファイルをローレンツ関数で近似して半値幅を算出する。
【0016】
本発明のピリドビスイミダゾール繊維において、シース層とコア層の二層構造が形成されている場合、その簡便な判別は、繊維断面を光学顕微鏡で観察することによって可能である。すなわち、繊維断面を光学顕微鏡で観察できる厚さに切断し、光学顕微鏡で40倍程度に拡大して観察すると、シース層とコア層の境界が円形の線として認められる。この円形の線の外側がシース層で、内側がコア層である。
【0017】
切断容易性を重視する場合、シース層の厚みはできるだけ厚く、コア層の直径はできるだけ小さい方が好ましいが、繊維強度とのバランスを考慮して、コア層をあえて残してもよい。本発明においては、コア層の平均径rと繊維断面径rとを測定し、コア層の平均径rの繊維断面径rに対する比率R(%)((r/r)×100)が、0〜94%であることが好ましい。より好ましくは0〜92%、更に好ましくは0〜90%である。
【0018】
本発明に係る繊は、ピリドビスイミダゾールよりなる繊維であり、少なくとも50%は、ピリドビスイミダゾール‐2,6‐ジイル(2,5‐ジヒドロキシ‐p‐フェニレン)の繰り返し基からなり、一方、残りの基において、2,5‐ジヒドロキシ‐p‐フェニレンが置換されているか又は置換されていないアリーレンにより置き換えられており、及び/又はピリドビスイミダゾールが、ベンゾビスイミダゾール、ベンゾビスチアゾール、ベンゾビスオキサゾール、ピリドビスチアゾール及び/又はピリドビスオキサゾールにより置き換えられている。この場合に、繰り返し基の少なくとも75%がピリドビスイミダゾール‐2,6‐ジイル(2,5‐ジヒドロキシ‐p‐フェニレン)から作られるところのラダーポリマーが好ましく、一方、残りの基において、2,5‐ジヒドロキシ‐p‐フェニレンが置換されているか又は置換されていないアリーレンにより置き換えられており、及び/又はピリドビスイミダゾールが、ベンゾビスイミダゾール、ベンゾビスチアゾール、ベンゾビスオキサゾール、ピリドビスチアゾール及び/又はピリドビスオキサゾールにより置き換えられている。
【0019】
2,5‐ジヒドロキシ‐p‐フェニレンの部分的置き換え(せいぜい50%まで)の場合に、アリーレンジカルボン酸、例えばイソフタル酸、テレフタル酸、2,5‐ピリジンジカルボン酸、2,6‐ナフタレンジカルボン酸、4,4´‐ジフェニルジカルボン酸、2,6‐キノリンジカルボン酸及び2,6‐ビス(4‐カルボキシフェニル)ピリドビスイミダゾールのカルボキシル基の除去後に残るところの化合物が好ましい。
【0020】
ピリドビスイミダゾール‐2,6‐ジイル(2,5‐ジヒドロキシ‐p‐フェニレン)の構造単位は、[化1]で示される。
【0021】
【化1】

【0022】
以下、本発明のピリドビスイミダゾール繊維の好適な製造例について詳細に説明する。
ポリマーのドープを形成するための好適溶媒としては、クレゾールやそのポリマーを溶解し得る非酸化性の酸が含まれる。好適な酸溶媒の例としては、ポリ燐酸、メタンスルホン酸及び高濃度の硫酸或いはそれ等の混合物があげられる。更に適する溶媒は、ポリ燐酸及びメタンスルホン酸である。また最も適する溶媒は、ポリ燐酸である。
【0023】
ドープ中のポリマー濃度は好ましくは少なくとも約7質量%であり、より好ましくは少なくとも10質量%、特に好ましくは少なくとも14質量%である。最大濃度は、例えばポリマーの溶解性やドープ粘度といった実際上の取り扱い性により限定される。それらの限界要因のために、ポリマー濃度は通常では20質量%を越えることはない。
【0024】
本発明において、好適なポリマーまたはコポリマーとドープは公知の方法で合成される(特表平8−509516号公報等参照)。好適なモノマーは非酸化性で脱水性の酸溶液中、非酸化性雰囲気で高速撹拌及び高剪断条件のもと約60℃から230℃までの段階的または一定昇温速度で温度を上げることで反応させられる。
【0025】
この様にして重合されるドープは紡糸部に供給され、紡糸口金から通常100℃以上の温度で吐出される。口金細孔の配列は通常円周状、格子状に複数個配列されるが、その他の配列であっても良い。口金細孔数は特に限定されないが、紡糸口金面における紡糸細孔の配列は、紡出糸条(ドープフィラメント)間の融着などが発生しないような孔密度を保つことが肝要である。
【0026】
紡出糸条は十分な延伸比(SDR)を得るため、米国特許第5296185号に記載されたように十分な長さのドローゾーン長が必要で、かつ比較的高温度(ドープの固化温度以上で紡糸温度以下)の整流された冷却風で均一に冷却されることが望ましい。ドローゾーンの長さ(L)は非凝固性の気体中で固化が完了する長さが要求され、大雑把には単孔吐出量(Q)によって決定される。良好な繊維物性を得るにはドローゾーンの取り出し応力がポリマー換算で(ポリマーのみに応力がかかるとして)2.2g/dtex以上が望ましい。
【0027】
本発明においては、上記で得られたピリドビスイミダゾールのドープフィラメント(延伸又は未延伸)は、凝固浴に浸漬される前に、ピリドビスイミダゾールが非相溶性である液体、すなわち、凝固剤の蒸気に積極的に接触させる蒸気処理を施すことが好ましい。
ピリドビスイミダゾールの凝固剤としては、水、メタノール、エタノール、アセトン、エチレングリコールの少なくとも1種が好ましく、簡便性の点で、水がより好ましい。
【0028】
この蒸気処理によれば、ドープフィラメントが前記の液体の蒸気を含む気体(空気)に積極的に接触させられるため、ドープフィラメント中に凝固剤が繊維内部全体にわたって急激に浸透、拡散し、凝固核のようなものが繊維中心部方向に形成されるのではないかと考えられる。繊維化した後に繊維断面を観察すると、驚くべきことに、構造形成開始のタイミングの違いに基づいて発生したと考えられる境界線が認められ、いわゆる、シース・コアと表現できる二層の発現が認められることがある。凝固剤が中心部までよく浸透するほど、コア層は小さくなり、最終的には境界線が認められなくなる。なお、蒸気処理をしない従来の繊維においては、シース・コアの二層構造は認められない。
【0029】
蒸気処理の温度は、凝固剤の種類によっても異なるが、水の場合は、水蒸気雰囲気の温度または噴きつける水蒸気の温度は50〜200℃が好ましく、さらに好ましくは60〜160℃である。50℃未満では強度を低下させる効果が小さくなる。一方、200℃を越えると糸切れが多発して生産性が著しく低下する傾向がある。水より低沸点の凝固剤であればより低温でもよく、水より高沸点の凝固剤であればより高温でもよく、沸点と蒸気圧とを考慮して適宜選定することができる。
蒸気相中の全気体成分に対する蒸気成分の含有率は、短時間処理のためには、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。
【0030】
蒸気相温度が低すぎると、シース層の厚みが発達せず、逆に温度が高すぎるとシース・コア構造は発現するが、通過中のフィラメントの温度が上昇し、糸切れが多発する傾向がある。蒸気の含有率についても、低すぎるとシース・コア構造を発現しにくくなる。
蒸気処理する装置は、ドープフィラメントが蒸気に接触し、少なくとも表層部の凝固を進行させることができるものであればよく、連続式、非連続式、密閉形、非密閉形など特に限定されない。
【0031】
蒸気相を通過した後のフィラメントは、次に凝固(抽出)浴に導かれて、ピリドビスイミダゾールの溶剤の抽出とフィラメントの完全な凝固がなされる。凝固浴は、特に限定されず、如何なる形式の凝固浴でも良い。例えばファンネル型、水槽型、アスピレータ型あるいは滝型などが使用出来る。最終的に凝固浴においてフィラメント中に残存する溶剤が1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下になるように抽出する。本発明における抽出媒体として用いられる液体に特に限定はないが、好ましくはピリドビスイミダゾールに対して実質的に相溶性を有しない水、メタノール、エタノール、アセトン、エチレングリコール等である。抽出液は燐酸水溶液や水が簡便で望ましい。また凝固(抽出)浴を多段に分離し燐酸水溶液の濃度を順次薄くし最終的に水で水洗する方法も採用できる。また、凝固(抽出)工程において、フィラメント束を水酸化ナトリウム水溶液などで中和処理して後、水洗することは好ましい方法である。この後乾燥、熱処理を施してシース・コアの二層に識別できる繊維とすることができる。
【0032】
この後繊維を乾燥させ、更に必要に応じて熱処理工程を通す。乾燥温度は凝固剤や溶剤が飛びやすい温度であれば特に限定されないが、具体的には150〜400℃、好ましくは200〜300℃、更に好ましくは220〜270℃とする。弾性率を向上させる目的で、必要に応じて張力下にて熱処理を施しても良い。熱処理温度については、400〜700℃、好ましくは500〜680℃、更に好ましくは550〜630℃とする。かける張力は0.3〜1.2g/dtex、好ましくは0.5〜1.1g/dtex、さらに好ましくは0.6〜1.0g/dtexである。
【実施例】
【0033】
以下、本発明をさらに実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、各種測定は下記の方法を採用した。
【0034】
・測定方法:
(極限粘度)
メタンスルホン酸を溶媒として、0.5g/lの濃度に調製したポリマー溶液の粘度を、オストワルド粘度計を用いて25℃恒温槽中で測定した。
【0035】
(繊維断面観察の方法)
測定用繊維をエポキシ樹脂(ガタン社製G−2)に胞埋したものを、クロスセクションポリッシャー(日本電子(株)製、SM−09010)にてアルゴンイオンエッチングして、観察用繊維断面を得た。次いで、光学顕微鏡によってコア層とシース層との境界線を観察し、コア層の平均径rと繊維断面径rとを測定し、コア層の平均径rの繊維断面径rに対する比率R(%)を求めた。
R(%)=(r/r)×100
【0036】
(繊維強度、弾性率の測定方法)
標準状態(温度:20±2℃、相対湿度(RH)65±2%)の試験室内に24時間以上放置後、繊維の引張強度、弾性率をJIS L 1013に準じて引張試験機にて測定した。
【0037】
(繊維の耐熱性の測定方法)
熱重量分析計(TA Instrument社のTGA Q50)を用いて、空気中、20℃/minの昇温速度で、常温から温度を上昇させていったときに、重量保持率[(ある温度のときのサンプル重量/元のサンプル重量)×100]が90%となる温度で評価した。
【0038】
(電子線回折の測定)
電子線回折測定用サンプルは、以下に記載した方法で、測定用繊維を繊維軸(長さ)方向で、かつ繊維の表層部と中心部とを含むように、厚さ70nm程度の超薄切片にしたものを使用した。
すなわち、単繊維をLuft法(J. Biophys. Biochem.Cytol., 9, 409 (1961))に従って調製したエポキシ樹脂に包埋し、60℃オーブン中で一夜放置し固化固定して繊維を包埋させたレジンブロックを得た。次に、このレジンブロックをライヘルト社製のウルトラマイクロトームに取り付け、ガラスナイフを用いて、包埋した繊維がブロック表面近傍に現れるまで研磨し、次いでダイアトーム社製ダイアモンドナイフを用いて単繊維の繊維軸方向に平行な方向に切削して、厚さは約70nmで、繊維の表層部(表面)と中心部との両方が含まれた超薄切片を作成した。得られた超薄切片を、300メッシュの銅グリッド上に回収し薄くカーボン蒸着を施し、次いで電子顕微鏡内に超薄切片を導入し、繊維の表層部と中心部の両方について制限視野電子線回折像を撮影し(この際、制限視野(アパチャー)の径は1μm以下とし、繊維の超薄切片に切削時に発生したアーティファクト(例えば、シワや切片のやぶれなど)の無い部分を回折像撮影部位に選択した)電子線回折図を得た。
【0039】
得られた電子線回折図のうちの赤道方向のプロファイルを、ローレンツ関数を用いて近似して、(200)と(110)、(210)および(400)由来の回折ピークの積分強度(面積)と半値幅を算出した。(200)由来の面積をS1、(110)、(210)および(400)由来の面積の和をS2とし、S2/S1算出した。
また、見かけの結晶サイズ(ACS)は、次式を用いて算出した。
ACS=0.9λ/βcosθ
ここで、λは電子線の波長、βは半値幅(単位はラジアン)、θは回折角2θの半値である。
さらに(200)回折については、方位角方向の回折プロファイルをローレンツ関数で近似して半値幅を算出した。
【0040】
(後加工性の評価方法)
押込捲縮法により座屈捲縮を与えた評価繊維を、カット長44mmにカットしてステープルとした。得られたステープルをオープナーにより開綿後、ローラーカードにより目付450g/mのウェブを作製した。得られたウェブを順次9枚積層し、Foster社製ニードル(品番:15×18×40×3.5PB−A F20 2−18−3B/LI/CC/CONICAL)を用いて、針深度7mmで、フェルトの片側面からのみ、ニードルパンチング数が2000/cmになるまでニードルパンチしてフェルトを得た。ウェブを順次積層してフェルトを得るまでの間に折れたニードルの本数(出来上がりのフェルト1m当たりの本数に換算)を調べた。折れた本数が少ないほど後加工性が良好である。
【0041】
(工程通過性)
紡糸から繊維ウェブ製造に至るまでの工程での製造トラブルの発生状況で工程通過性を判断した。
【0042】
(摩擦帯電圧)
JIS L 1094に準拠して、摩擦耐電圧を測定した。大栄科学精器製作所製摩擦帯電圧測定器 RS−101Dを用いて測定した。試験片を400rpmで回転させながら摩擦布で摩擦させ、60秒後の静電気電位を測定した。
【0043】
(実施例1〜6、比較例1〜3)
極限粘度〔η〕が22dl/gのピリドビスイミダゾール‐2,6‐ジイル(2,5‐ジヒドロキシ‐p‐フェニレン)をポリリン酸に溶解させた紡糸ドープ(ピリドビスイミダゾール‐2,6‐ジイル(2,5‐ジヒドロキシ‐p‐フェニレン)濃度14質量%)を用いて、単糸フィラメント径が11.5μm、1.65dtexになるような条件で紡糸を行った。
すなわち、紡糸ドープを紡糸温度175℃で孔径0.20mm、孔数166のノズルから紡出し、紡出されたドープフィラメントをクエンチ温度60℃のクエンチチャンバー内を通過させて冷却し、クエンチチャンバーを通過後、マルチフィラメントに収束させながら第1凝固・洗浄浴中に浸漬し、フィラメントを凝固させるとともに、表1に示す蒸気付与条件で蒸気処理した。その後、フィラメント中の残留リン濃度が5000ppm以下になるまで水洗し、1%NaOH水溶液で5秒間中和し、さらに10秒間水洗した。その後、水分率が2%になるまで乾燥させて巻き取って評価用の繊維を得た。なお、後加工性の評価には、前記の座屈捲縮を与えたステープルを用いた。
得られた各繊維についての分析結果及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
本発明で得られたピリドビスイミダゾール繊維は、優れた耐熱性、難燃性を維持し、従来のピリドビスイミダゾール繊維に比べて、後加工性が良好であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明で得られたピリドビスイミダゾール繊維は、従来のものに比べて後加工性が向上し、耐熱性や難燃性を重要な特性として要求される様々な用途展開が容易になり、産業上の寄与が大である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明のピリドビスイミダゾール繊維からの制限視野電子線回折図の赤道方向プロファイルの一例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層部(表面〜1μm)から得られた電子線回折図において、赤道方向プロファイルにおける結晶(200)面由来の回折ピーク面積をS1、結晶(110)面、(210)面および(400)由来の回折ピーク面積をS2としたとき、S2/S1が0.1〜1.5を満足するピリドビスイミダゾール結晶の存在状態であることを特徴とするピリドビスイミダゾール繊維。
【請求項2】
ピリドビスイミダゾール繊維の表層部(表面〜1μm)及び中心部から得られたピリドビスイミダゾール結晶の(200)面の電子線回折の方位角プロファイルにおいて、表層部から得た回折ピークの半値幅を中心部から得た回折ピークの半値幅で割った値Tが0.75〜1.25である請求項1に記載のピリドビスイミダゾール繊維。

【図1】
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【公開番号】特開2009−46782(P2009−46782A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214654(P2007−214654)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】