説明

ピロリン酸濃度の測定方法およびそれを用いる核酸合成反応の測定方法

【課題】 試料中のピロリン酸の新規な定量方法、それを用いる核酸合成反応の新規な測定方法、およびそのためのシステムを提供。
【解決手段】 ピロリン酸濃度をイオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)センサを用いて検出する系において、ISFETセンサとして、5酸化タンタル層が設けられているセンサ、とりわけ、センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さとポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後に蓄積する電荷量を電位変化として計測するようにした累積型ISFETセンサを用いる試料中のピロリン酸濃度の測定方法;標的核酸に対するポリメラーゼ反応の副生成物として生じるピロリン酸の濃度変化を該ピロリン酸濃度の測定方法測定する核酸合成反応の測定方法;および少なくとも該ISFTセンサとポリメラーゼ活性を有する蛋白質を含む試料中の核酸合成反応を測定するシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中のピロリン酸の新規な定量方法、それを用いる核酸合成反応の新規な測定方法、およびそのためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
PCR(Polymerase Chain Reaction)、LAMP(loop-mediated Isothermal Amplificatio)、NASB(Nucleic Acid Sequence Based Amplification)、ICAN(Isothermal and Chimeric Primer-initiated Amplification of Nucleic Acids)、TMA(Transcription Mediated Amplification)、TRC(Transcription Reverse Transcription Concerted Amplification)などの核酸合成・増幅法では、核酸合成の副生成物としてピロリン酸が生産される。そのため、ピロリン酸濃度の測定は各種核酸合成・増幅法による核酸の定量に役立つ。
核酸合成・増幅を検出する最も一般的な方法は、合成・増幅反応後の溶液をアガロースゲル電気泳動にアプライし、エチジウムブロマイド等の蛍光インターカレーターを結合させて特異的な蛍光を観察するというものである。しかし、反応後にサンプルを電気泳動し蛍光観察するという操作は時間と手間がかかる。
蛍光色素をはじめとする各種標識物質で標識したプライマーやヌクレオチドを用いて核酸合成・増幅反応を行い、増幅産物に取り込まれた標識を観察する方法も一般的であるが、増幅産物に取り込まれなかったフリーの標識プライマーやヌクレオチドを分離する操作が必要である。また、標識プライマーやヌクレオチドは高価である。
ラジオアイソトープ、ビオチン、酵素等で標識された核酸を用いて測定対象となる核酸 と結合させ、結合物と未結合物とを分離した後、その標識体から信号を検出する方法も汎用される。しかしながら、これらの方法では未反応の標識体と反応産物とを分離する操作が煩雑であり、ラジオアイソトープを用いる方法では特別な施設を必要とし、放射線にさらされる危険性がある。
【0003】
ピロリン酸濃度の測定方法としては、ピロリン酸にピロフォスファターゼを作用させ、生成したリン酸を検出する方法がある(特許文献1)。しかし、この方法では増幅産物や試薬成分中に混在するリン酸がバックグラウンドとして検出される。また、ピロリン酸にATPスルフリラーゼを作用させた後、ルシフェラーゼを利用して、生成するATPを発光系に導き検出する方法がある(特許文献2)。しかし、この方法ではポリメラーゼの基質として反応溶液に含まれるATPやdATPがバックグラウンドとして検出される。
ピロリン酸の新たな測定方法として、最近、電気化学センサを用いる方法および装置が提案された(特許文献3)。電気化学センサとして電流検出型の酵素センサが一般的であるが、電流検出の代わりに電界効果トランジスタを用いて電位検出を行う場合がある。この目的のために、水素イオン濃度(pH)のセンサとなるイオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)を利用することが考えられる。ISFETセンサは、ISFETのゲート上の窒化ケイ素などのイオン感応膜層に溶液が接すると、溶液中のイオン活量に応じて界面電位が発生するしくみを利用している。ISFETのゲート絶縁膜上にイオンに感応するセンシング部を形成し、このセンシング部の表面の電位の変化に基づくチャネルの電位レベルの変化量を検出して、イオン濃度を検出することができる。その用途の一つとして、ISFETはセンシング部にて水素イオンに感応し、pHセンサになる。ゲート絶縁膜と試料間の界面電位の変化は、pH依存性の出力電圧として計測される。更に、ゲート部に種々の感応膜を着膜することにより、種々のポテンショメトリックセンサが作製できる。ISFETを利用したバイオセンサは、集積回路の製造工程により製造されるので、小型化及び規格化が可能であり、大量生産が可能であるという利点があるため、その開発潜在力が期待されている。
【0004】
既に、核酸合成反応におけるピロリン酸の生成をISFETにて検出する方法が提案されている(特許文献4)。この方法では、トランジスタの表面またはその近傍でのイオン電荷の局所変動に反応して電気出力信号を発生するように設計されたISFETと、ISFETからの電気出力信号を検知する手段と、化学反応中に起こっている事象を示すイオン電荷の局所変動を区別するために、検知された電気信号をモニタリングする手段とを備える検出装置が提供された。具体的には、DNA合成反応においてDNAポリメラーゼは成長するDNA鎖におけるヌクレオチド塩基の結合によりDNA合成を触媒し、ピロリン酸を生成する。そして、インビボではピロリン酸塩の加水分解を伴い、該加水分解は生理的pHで水素イオンの分離を引き起こす。その際のイオン電荷の局所変動に反応して、ISFETが電気出力信号を発生する。
しかしながら、ISFETは感度が低く、時間的に出力が不安定であり、イオン濃度を高精度に検出できないという問題があり、現在のところ、ISFETを利用したバイオセンサは電流検出型のバイオセンサに比して全く普及していない。
【0005】
ISFETの欠点を克服するため、累積型ISFETセンサが開発されている(特許文献5)。累積型ISFETセンサは、ISFETのセンシング部の表面電位の変化に基づくセンシング部直下のポテンシャル井戸の深さの変化をドレインに電荷として転送することを繰り返し、ドレインに電荷が累積されるべく構成したことにより、センシング部の表面電位の変化が微量であっても確実に検出し、高感度にイオン濃度の変化を検出することができる。また、本技術の応用として、高感度に試料中の核酸と一本鎖核酸との間のハイブリダイゼーションの発生の有無を検出することができ、PCR法によりDNAを増量させることなく、簡便に、短時間に、低コストに塩基配列を決定することができるFET型センサ及び塩基配列検出方法についても、既に発明されている(特許文献6)。しかし、このような累積型ISFETが核酸合成・増幅反応により生じるピロリン酸の濃度変化を高感度に測定するためのバイオセンサに利用可能であるかどうかは不明である。
【特許文献1】特開平7−59600号公報
【特許文献2】WO92/16654
【特許文献3】特開2007−295811号公報
【特許文献4】特表2005−518541号公報
【特許文献5】特許第3623728号公報
【特許文献6】国際公開第03/042683号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、試料中のピロリン酸の新規な定量方法、それを用いる核酸合成反応の新規な測定方法、およびそのためのシステムを提供することにある。より具体的には、ポリメラーゼによる核酸の合成・増幅反応において生じるピロリン酸を高感度に測定できる方法、およびそのためのシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために、鋭意検討した結果、累積型のイオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET:Ion Sensitive Field Effect Transistor)を利用したセンサ・システムにより、ピロリン酸濃度変化として効率よくポリメラーゼ反応を追跡できることを見い出した。また、イオン感応膜層として窒化ケイ素の替わりに5酸化タンタルを用いたISFETセンサを使用することにより、試料中のピロリン酸の濃度変化を高感度に定量することが可能であることを見い出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)ピロリン酸濃度をイオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)センサを用いて検出する系において、ISFETセンサに5酸化タンタル層が設けられていることを特徴とする、試料中のピロリン酸濃度の測定方法;
(2)センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さとポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後に蓄積する電荷量を電位変化として計測するようにした累積型ISFETセンサを使用する、上記(1)記載のピロリン酸濃度の測定方法;
(3)標的核酸に対するポリメラーゼ反応の副生成物として生じるピロリン酸の濃度変化をイオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)センサを用いて検出する系において、ポリメラーゼ反応に応じて生じたイオンのセンシング部に作用する濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さとポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後に蓄積する電荷量を電位変化として計測するようにした累積型ISFETセンサを使用し、累積型ISFETセンサに5酸化タンタル層が設けられていることを特徴とする、核酸合成反応の測定方法;
(4)ポリメラーゼ反応に応じて生じたイオンが水素イオンである、請求項3記載の核酸合成反応の測定方法;
(5)標的核酸およびポリメラーゼ活性を有する蛋白質を含む30μL以下の容量の反応混合物中で反応させる、請求項3または4記載の核酸合成反応の測定方法;
(6)ポリメラーゼ活性を有する蛋白質が反応混合物中で遊離状態で存在する、上記(3)〜(5)いずれか1項記載の核酸合成反応の測定方法;
(7)累積型ISFETセンサのセンシング部の表面積が1mm以下である、上記(3)〜(6)いずれか1項記載の核酸合成反応の測定方法;
(8)少なくとも下記(a)および(b)の要素が含まれる、試料中の核酸合成反応を測定するシステム:
(a)5酸化タンタル層が設けられている累積型イオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)センサ、ここで累積型ISFETセンサは、センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後に蓄積する電荷量を電位変化として計測するようにしたISFETセンサである;および
(b)ポリメラーゼ活性を有する蛋白質;
(9)(b)のポリメラーゼ活性を有する蛋白質が耐熱性DNAポリメラーゼである、上記(8)記載のシステム;を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、イオン感応膜層として窒化ケイ素の替わりに5酸化タンタルを用いたISFETセンサを使用することにより、試料中のピロリン酸の濃度変化を高感度に定量することが可能となる。また、これにより、極めて簡単な構成で、試料中のピロリン酸を測定するシステムを構築することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明は、以下の工程を包含することを特徴とする、ピロリン酸濃度の測定方法、それを用いる核酸合成反応の測定(検出、モニター等)方法を提供する。
(1)試料中の標的核酸にポリメラーゼ活性を有する蛋白質を反応させる工程;
(2)反応によって生じたイオンの濃度変化を、5酸化タンタル層が設けられている累積型イオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)センサを用いて検出する工程、ここで累積型ISFETセンサは、センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さとポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ電位リセット後に蓄積する電荷量を電位変化として計測するようにしたISFETセンサである;および
(3)検出されたイオン濃度変化に基づいて試料中のピロリン酸濃度変化を検出し、ひいては核酸合成反応を検出する工程。
【0011】
本発明の方法において、測定に供される試料としては特に限定されない。生体試料の例としては、血液、血清、血漿、唾液、脳脊髄液、尿、便、糞、リンパ液、精液、涙液、および各種臓器などの哺乳類(ヒト、ウシ、ウマ、ブタ、イノシシ、ヒツジ、ウサギ、特にヒト)、鳥類(ニワトリ、アヒル、ウズラ、七面鳥、カモ、キジなど)、無脊椎動物(昆虫;カイコ、ハチ、アリ、クワガタ、カブトムシなど、甲殻類;エビ、カニなど)、植物(桑、小豆、ソラマメ、トマト、ナス、キュウリ、メロン、タバコ、菊、ユリ、バラなど)、微生物(細菌、酵母、カビなど)などの生体由来の試料が挙げられる。また、環境由来の試料としては、食品、河川、土壌なども例示される。
一般的に試料は、超音波処理、界面活性剤処理などにより破砕後に測定に供するか、核酸抽出・精製操作で前処理を実施後に測定に供するか、市販の核酸抽出・精製試薬キットにて精製核酸を取得して測定に供する。このようにすることで、測定感度を向上させることが可能である。
【0012】
本発明において測定するイオンとしては、ピロリン酸の生成に伴い生じる水素イオンが挙げられるが、その他にリン酸イオンも測定対象として挙げられる。本発明の好適な測定対象としては、水素イオンが挙げられる。
【0013】
本発明には、核酸合成・増幅反応を起こすことのできるポリメラーゼ活性を有する蛋白質を使用する。ポリメラーゼ活性を有する蛋白質としては、標的核酸と反応してイオンの濃度変化を生じるものであれば特に限定されない。そのような蛋白質としては、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼなどが挙げられる。具体的には、Taqポリメラーゼ、Tthポリメラーゼ、KODポリメラーゼ、Pfuポリメラーゼ、Bstポリメラーゼなどの耐熱性DNAポリメラーゼやT7RNAポリメラーゼなどが挙げられる。1つの実施態様において、本発明は、試料中の核酸増幅の有無を高感度に検出することができることを特徴とするものである。
したがって、本発明の利点を活かすためには、核酸増幅への応用が容易な耐熱性DNAポリメラーゼを標的核酸に反応させることが好適である。耐熱性DNAポリメラーゼを使用することにより、本発明の方法にて、生じたイオンの濃度変化を検出し、核酸増幅の有無を検出することが可能となる。
【0014】
本発明において、ポリメラーゼ活性を有する蛋白質やポリメラーゼ活性を有する蛋白質を含む組成物の形態は、特に限定されない。液状であってもよいし、固形状態であって、試料と混合することにより水分を供給されるものであってもよい。適当な容器に入れられたり、適当なデバイスに搭載されて、例えば、分子生物学用途の分析用試薬、生化学用途の分析試薬、体外診断薬、液状体外診断薬、チップ状またはスリット状に加工した体外診断薬、バイオセンサ、医薬品、食品および飲料など、種々の形態をとることができる。
本発明においてポリメラーゼ活性を有する蛋白質は膜などの担体に固定化されていてもよく、遊離状態で存在してもよい。
一般に、従来の電界効果トランジスタ(FET)を利用したバイオセンサは、センシング部の膜に、酵素を直接あるいは間接的に固定化、担持させて使用する。膜に固定化した酵素と固定化していない酵素では、pH特性が異なる可能性がある。これは、固定化することによって酵素の立体構造が変化し特性が変化することも原因の1つであるが、他に以下の2点が考えられる。第1に、酵素固定化膜によってpHの勾配が生じ、溶液中のpHと酵素固定化膜中のpHに差が生じることと、第2に、酵素反応などによって生成する酸により酵素近傍のpHが変化することである。したがって、このような場合は、酵素が遊離状態で存在することが好ましい。また、試料をピロリン酸以外の物質の測定に供する多項目同時測定の場合は、センシング部を交換する手間が省けるため酵素が遊離状態で存在することが有利である。
【0015】
本発明において、試料−ポリメラーゼ活性を有する蛋白質反応混合物中で用いるポリメラーゼ活性を有する蛋白質の濃度は特に限定されないが、好ましくは試料と混合後の終濃度が0.0001〜0.1U/μLとなる様に含有させると良い。さらに好ましくは、終濃度0.0005〜0.05U/μLとなる様に含有させると良い。
【0016】
本発明は高感度ピロリン酸の測定方法である。本発明の測定方法によれば、例えば10μM以上、好ましくは40μM以上、より好ましくは50μM以上、かつ例えば1000μM以下、好ましくは800μM以下、より好ましくは600μM以下の濃度で試料中に含有されるピロリン酸を測定することができる。
【0017】
アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩の存在下でISFETによる検出を行ってもよい。例えば、塩化ナトリウムや塩化マグネシウムを使用することができる。これらの金属塩は、検出シグナルを安定化することが期待される。用いるアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩の添加濃度は、特に限定されない。例えば、0.1mM〜1M、好ましくは1〜100mM、より好ましくは1〜50mMの範囲で、効果が期待される。
【0018】
本発明において、反応混合物中には、溶液のpH緩衝作用、タンパク質の安定化などの目的で、さらに他の物質を混合しても良い。1つの実施対応において、バッファー成分としてはリン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、PIPES、MES、TES、MOPS、HEPESなどのGood緩衝液などが挙げられる。バッファー成分の反応混合物中の濃度には特に限定はないが、濃度が高すぎるとイオン濃度が変化しにくく、低すぎると変化が過剰になるので、高い検出感度が達成されるように適切な濃度を選択する。バッファー成分の濃度は例えば0.1〜20mM、好ましくは0.2〜10mM、より好ましくは0.5〜10mMである。また、エタノールやメタノール、プロパノールなどのアルコール類などを添加しても良い。
【0019】
本発明において、反応混合物中には、必要に応じてその他の添加剤を含有してもよい。添加剤としては界面活性剤、安定化剤、防腐剤、キレート剤、活性化剤などがあげられる。これらについても何ら限定されるものではないが、具体的には以下のようなものが例示される。界面活性剤としては、ノニオン・アニオン・カチオンいずれでも良い。例えば、ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類(商品名トリトンX−100など)・ポリオキシエチレンアルキルエーテル類など、アニオン界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩・直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩など、カチオン界面活性剤としては、テトラアルキルアンモニウム塩などがそれぞれ挙げられる。安定化剤としては、シュークロース・トレハロース・サイクロデキストリンなどの糖類およびその誘導体、アルギニン・リジン・ヒスチジン・グルタミン酸などのアミノ酸類、アルブミンなどの蛋白質、アルカリ金属・アルカリ土類金属などの塩類、アンモニアイオン、グルコン酸などが挙げられる。防腐剤としては、抗生物質、アジ化化合物、その他防菌剤・防かび剤等が挙げられる。キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸およびその塩等が挙げられる。活性化剤としては、アルカリ金属・アルカリ土類金属等が挙げられる。
【0020】
本発明において、反応混合物が累積型ISFETセンサのセンシング部に直接あるいは間接的に接触することになる。最適な反応混合物の容量は、システムの構成、特にセンシング部の面積に依存することになるが、0.1〜500μLが好ましい。更には、0.1〜30μLが好適な範囲として挙げられる。
本発明では、累積型ISFETセンサを使用する。累積型ISFETセンサは、従来のISFETの欠点を克服するため、ISFETのセンシング部の表面電位の変化に基づくセンシング部直下のポテンシャル井戸の深さの変化をドレインに電荷として転送することを繰り返し、ドレインに電荷が累積されるべく構成したことにより、センシング部の表面電位の変化が微量であっても確実に検出し、高感度にイオン濃度の変化を検出することができる。
本発明に使用する累積型ISFETセンサの形態としては、P型又はN型半導体基板の表面側に所定の間隔を置いて形成された、基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部及び浮遊拡散部と、前記入力ダイオード部から浮遊拡散部までの間に形成されるべき導通チャネルの始端及び終端にそれぞれ対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定された入力ゲート及び出力ゲートと、前記チャネルの中間部に対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されたイオン感応膜からなるセンシング部と、前記浮遊拡散部の、前記チャネルから離れた側に連なる前記基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されたリセットゲートと、前記リセットゲートにおける前記浮遊拡散部から離れた側の前記基板表面部に形成された、基板と逆型の拡散領域からなるリセットダイオード部とを備え、前記センシング部に、酵素または酵素を含む組成物および試料を添加混合し、その結果、前記センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後の前記浮遊拡散部が蓄積する電荷量を、電位変化として検出するようにしたFET型センサを構成したものである。
【0021】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。
図1(A)は本発明に一実施形態に係るバイオセンサ素子であるFET型センサ素子20Aの構成を示す縦断面図であり、図1(B)は図1(A)のFET型センサ素子20Aのエネルギー準位を示す模式図である。また、図2は図1(A)のFET型センサ素子20Aのセンサ出力信号を測定するためのバイオセンサ測定装置30の構成を示すブロック図である。さらに、図3は図2のバイオセンサ測定装置30により図1(A)のFET型センサ素子20Aの出力特性を測定するときの動作タイミングチャートである。またさらに、図4は図1(A)のFET型センサ素子20Aの動作を示す図であって、ポテンシャル状態及び蓄積電荷の推移を示す、図1(B)と同様のエネルギー準位を示す模式図である。
【0022】
図1(A)において、典型的にはシリコンにてなるp−型の半導体基板1の表側には互いに所定間隔をおいてn+型拡散層からなる電荷供給部としての入力ダイオード2及び浮遊拡散部3が形成され、さらに浮遊拡散部3から小間隔をおいてリセットダイオード4が形成される。半導体基板1上には、この場合、n+型拡散層上も含めSiO又はSiからなる絶縁膜5が形成される。入力ダイオード2及び浮遊拡散部3間における半導体基板1表面部には、次に述べるゲート構造との関連において導通チャネル(n型反転層)が形成され、その結果、入力ダイオード2をソースとし、浮遊拡散部3をドレインとするFET型センサ20が構成される。絶縁膜5上には、チャネル始端部に対応する入力ダイオード2の隣接位置において入力ゲート6が、またチャネル終端部に対応する浮遊拡散部3の隣接位置において出力ゲート7が、それぞれポリシリコン、又はアルミニウムからなる蒸着層より形成され、さらに浮遊拡散部3とリセットダイオード4との間においてリセットゲート8が同様の蒸着層より形成される。入力ゲート6、出力ゲート7及びリセットゲート8の上面と、これらのゲートを支持したゲート外の絶縁膜5上には、典型的には窒化ケイ素(Si)蒸着層からなる被着膜10が形成される。Si膜はSiO膜に比べて構造が緻密で、酸素の拡散係数が小さいため、それ自身が入力ゲート6と出力ゲート7間に形成する凹部をセンシング部9として、良好なイオン感応膜を構成する。
【0023】
本発明において、イオン感応膜としては5酸化タンタル(Ta)蒸着層を用いる。本発明のピロリン酸濃度をISFETセンサを用いて検出する系において、ISFETセンサに5酸化タンタル層が設けられていることにより、窒化ケイ素の蒸着層を使用する従来技術(特許文献4)に比較して極めて高感度にピロリン酸を検出することができる。当該センシング部9のイオン感応膜には、試料中の検体と反応若しくは結合し、又は検体反応の触媒となる酵素、抗体、微生物及び核酸等の物質が固定化されてもよいが、これらは遊離状態で存在してもよい(図示せず)。
なお、半導体基板1の表面において、入力ダイオード2及びリセットダイオード4の外側には、絶縁膜5と同様なシリコン酸化膜等からなる比較的厚いマスク層11が形成され、上記したセンシング部9を形成する蒸着膜である被着膜10は、当該マスグ層11にも被さり、さらに被着膜10上にはセンシング部9を除き、例えば、リンガラスからなる保護膜12と、当該保護膜12上において外表面を面一にした外装膜13が被着形成される。図1(A)の左側より、入力ダイオード2、入力ゲート電極6及び出力ゲート電極7、浮遊拡散部3、リセットゲート8及びリセットダイオード4の上面には、各々アルミニウム等からなる電極リードが形成され、それらの電極リードを介して測定シーケンスに従った電圧が印加され、又は浮遊拡散部3の電位が検出される。浮遊拡散部3は電極リード端子の出力電圧Vout(本明細書では、当該出力信号電圧をシグナルともいう。)を、ソースフォロワ増幅器を含むバイオセンサ測定装置30に接続される。
【0024】
本実施形態において、FET型センサ素子20Aは、P−型半導体基板1の表面側に所定の間隔をおいて形成された、半導体基板1と逆型であるN+型の拡散領域からなる入力ダイオード部2及び浮遊拡散部3と、リセットダイオード4とを有し、浮遊拡散部3とリセットダイオード4との間の絶縁膜5上には同じくリセットゲート8を有することにより、浮遊拡散部3のためのリセットトランジスタを構成したものである。まず、入力ゲート6、及び出力ゲート7は入力ダイオード部2から浮遊拡散部3までの間に形成されるべき導通チャネルの中間部、及び終端部にそれぞれ対応した絶縁膜9上に固定され、両ゲート6及び7を隣接させるため、比較的細幅で高さを持たせた出力ゲート7が、比較的広幅の入力ゲート6の当該隣接側を覆う被着膜10によって、当該入力ゲート6と絶縁された構造となっている。出力ゲート7は底面が半導体基板1上の絶縁膜に接するとともに、その上方部が被着膜10及び保護膜12を貫通し、上端が外装膜13内に位置する高さを有している。
【0025】
このように形成された入力ダイオード2と、入力ゲート6との間の基板表面上の位置、すなわち形成されるべき反転チャネルの入力端に対応した位置には、底面をなす絶縁膜5とともにイオン感応膜となる入力ゲート6側の絶縁膜5と、入力ダイオード2側の被着膜10及び保護膜12の断層とに挟まれて凹部をなすセンシング部9が形成される。
次いで、図2を参照して、バイオセンサ測定装置30の構成及び動作について以下説明する。図2において、FET型センサ素子20Aには、直流電圧源21から直流電圧+Vddがリセットダイオード4に印加される。また、コントローラ40は詳細後述するタイミングチャートで変化し所定のパルス幅や周期などを有する所定の各電圧Vin,Vgin,Vsen,Vgout,Vgrを各D/A変換器34乃至38を介してFET型センサ素子20Aに印加する。FET型センサ素子20Aから出力されるセンサ出力電圧Voutは、ソースフォロワ増幅器31を介してA/D変換器32に入力された後、コントローラ40によりクロック周波数やタイミングが制御されるクロック発生器33からのサンプリングクロックを用いてA/D変換される。A/D変換後のデジタルデータはコントローラ40に入力された後、RAM42に格納される。
コントローラ40には、コントローラ40の動作プログラムやそれを実行するために必要なデータを格納するROM41と、デジタルデータを格納するRAM42と、デジタルデータをフレキシブルディスクに保存するためのフレキシブルディスクドライブ43とが接続されている。また、コントローラ40には、キーボードインターフェース44を介して操作者が指示コマンドや測定条件などの指示データを入力するためのキーボード45が接続されるとともに、ディスプレイインターフェース46を介して、指示データや測定結果を表示するための液晶ディスプレイ47が接続される。本実施形態では、コントローラ30は、測定されたデジタルデータに基づいて測定波形の比較表示、グラフ表示、テーブル表示などを液晶ディスプレイ47に表示する各種表示機能を有する。
【0026】
さらに、図1(A)のFET型センサ素子20A及びバイオセンサ測定装置30を用いて、イオン濃度を検出する方法について、図3及び図4を参照して以下に説明する。
まず、センシング部9内の水溶液に例えば2Vの電圧Vginを印加しセンシング部5の直下の半導体基板1の表面の電位を一定にする。これがポテンシャル井戸入り口の初期設定値となる。次に、図3に示すように、入力ゲート6に適当な直流電圧Vsen(例えば、2.0V)を印加し、その直下の半導体基板1の表面電位を固定するとともに、電荷供給部としての入力ダイオード2に逆バイアス電圧Vin=5Vを、また、リセットゲート8に所定のパルス幅のリセット電圧Vgrを印加し、浮遊拡散部3の電位の初期値を設定する。このとき、出力ゲート7の電圧Vgoutはゼロボルトである。
【0027】
入力ダイオード2の電圧Vin=5Vは十分な逆バイアスとして、当該入力ゲート内に残留する電荷を図1(B)に示すようにごく僅かに抑え、当該電荷プールの上端は、センシング部9のレベルに届かず、センシング部9以降(図1(B)のセンシング部9の右側)には侵入しない。この場合、水溶液中のマイナスイオン濃度が高くなった場合、センシング部9の表面電位が変化し、当該センシング部9直下の半導体基板1の表面の電位は前記初期設定値b0よりさらに上がり、逆に、マイナスイオン濃度が低くなった場合、又はプラスイオンが高くなった場合には、表面電位はb0より下がる。
入力ダイオード2に印加する電圧Vinが5Vから1.0Vに下がると、逆バイアスが緩和された分、電荷プール量が多くなり、そのレベルは、この場合センシング部9直下の基板表面電位b0(ポテンシャル井戸入ロレベル)を越え、当該入力ダイオード2からの電荷が入力ゲート6直下のポテンシャル井戸に供給される(図4(A)参照。)。
再度、入力ダイオード2に印加する電圧Vinが5Vに上がると、センシング部9直下の表面電位のレベルで電荷がすりきられ、当該レベル下におけるポテンシャル井戸の容量分だけ電荷が残存、それ以外の電荷は入力ダイオード2を経て、当該ダイオード2に残留する分を残し直流電圧源21に還流する(図4(B)参照。)。この場合も、ポテンシャル井戸に残留した電荷の量はマイナスイオン濃度によって変化し、センシング部9の表面電位の変化量がこの電荷の量に変換される。
【0028】
次に、出力ゲート7に電圧Vgoutが5V印加されると、当該出力ゲート7が開いて、電荷が予めリセット電位に維持された浮遊拡散部3に転送される(図4(C)参照。)。この電荷の転送後、出力ゲート7に印加する電圧Vgoutが0Vに下がり、出力ゲート7が閉じられる(図4(D)参照。)。さらに、浮遊拡散部3は電位が読み取られた後は、リセットゲート8にリセットゲート電圧Vgrを印加し、当該浮遊拡散部3の電荷を、電源電圧+Vddの直流電圧源21に接続されたリセットダイオード4に導き、さらに直流電圧源21に吸収せしめて、初期出力電圧Voutを再設定する。
【0029】
以上説明したように、図4(B)から図4(D)に示したプロセスを繰り返し行うことにより、センシング部9の表面電位の変化量が浮遊拡散部3の電荷量として累積される。そして、浮遊拡散部3に蓄積された電位変化量は出力電圧Voutとして、図2のバイオセンサ測定装置30に入力された後、表示されかつ記録その他の処理に用いられる。
本発明において、累積型ISFETセンサのセンシング部の表面積は、センサを小型化し至便性を高めるためにはより小さい方が好ましく、試料−酵素反応混合物の容量を高め、シグナルのレベルを上げるためにはより大きい方が好ましい。したがって、その使用目的、対象試料種などに応じて、センシング部の表面積を至適化すればよい。一般的に、センシング部の表面積は、5mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましく、0.0001mm以上が好ましく、0.005mm以上がより好ましい。
【0030】
本発明は、少なくとも下記(a)および(b)の要素が含まれる、試料中の核酸合成反応を測定するシステムを提供する。
(a)5酸化タンタル層が設けられている累積型イオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)センサ、ここで累積型ISFETセンサは、センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後に蓄積する電荷量を電位変化として計測するようにしたISFETセンサである;および
(b)ポリメラーゼ活性を有する蛋白質。
本発明のシステムは上記の本発明の核酸合成反応の測定方法に使用することができる。したがって、本発明の核酸合成反応の測定方法について上記した各事項を本発明のシステムに適用することができる。例えば、(b)のポリメラーゼ活性を有する蛋白質として耐熱性DNAポリメラーゼを使用することができる。
【0031】
累積型ISFETをセンサ素子として用いるバイオセンサ測定機によって、ピロリン酸の濃度変化および核酸合成反応によって生じるイオン濃度変化を測定することができる。図2に例示的なバイオセンサ測定機のブロック図を示す。図2において、測定機部分を実線で示す。測定機の構成は以下のとおりである。
(a):センサからの信号を増幅する;
(b):アナログ信号をデジタル信号に変換する;
(c):デジタル信号を記憶する;
(d):デジタル信号をグラフや表に表示する;
(e):比較のため過去のデータと重ねて表示する;
(f):必要に応じて表示データを取り出す;
(g):素子や回路に電源を供給する;
(h):(b)での信号を受けて測定のタイミングをフィードバックする;
(i):センサ電圧を付加する;
(j):パルス幅や電圧などの測定条件を設定する;
(k):累積測定の指令を行う;
(l):測定データを保存する;
(m):測定データを印刷する。
【0032】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
累積型ISFET(5酸化タンタル層)によるピロリン酸濃度の測定
[測定試料の調製]
下記試料溶液を調製した。
0〜640μM ピロリン酸水溶液(ナカライテスク社製)
10mM トリス塩酸緩衝液(pH8.3)
1mM MgCl2
50mM KCl
[対照用試薬の調製]
下記試薬を調製した。
10mM トリス塩酸緩衝液(pH8.3)
1mM MgCl2
50mM KCl
[使用装置]
累積型ISFETセンサ(AMISセンサー、バイオエックス社製)を利用した測定装置(バイオセンサ開発用測定装置、バイオエックス社製)を用いた。装置構成は、先行技術(特許文献6)に基づいた構成であり、図2にそのブロック図を示した。
ISFETのゲート上のイオン感応膜は、五酸化タンタルを使用した。センシング部の表面積は、0.05mmとした。
[測定条件]
以下の測定条件にて、試料中のピロリン酸濃度を測定した。
センサのセンシング部A、Bに、ピロリン酸を含まない対照用試薬を20μL添加した。30℃で5分間の予備加温を実施し、温度を安定化した後、50秒間シグナルを計測し、センサの状態を確認した。そして、センシング部Bの試薬を除去した後、ピロリン酸濃度を0〜640μMに調製した測定試料を各20μL添加し、シグナルが安定した後(100秒後)30℃にてシグナル(対照用のセンシング部Aからのシグナルと比較してのシグナルの減少)を5秒毎に2分間計測した。累積型ISFETセンサの累積回数は、10回で設定した。
[結果]
各測定試料について計測を実施し、各々のシグナル減少のタイムコースを測定した。測定したシグナル変化とピロリン酸濃度との関係を図5に示す。試薬中のピロリン酸の濃度に応じてイオン濃度が変化し、良好な希釈直線性が観察されることがわかる。
[比較例1]
【0034】
累積型ISFET(窒化ケイ素層)によるピロリン酸濃度の測定
使用装置におけるISFETのゲート上のイオン感応膜として、窒化ケイ素を使用したこと以外は、実施例1と同様の試薬、装置、条件にて測定を実施した。
[結果]
各測定試料について計測を実施し、各々のシグナル減少のタイムコースを測定した。測定したシグナル変化とピロリン酸濃度との関係を、実施例1と同様に図5に示す。窒化ケイ素層イオン感応膜を使用した際にも、試薬中のピロリン酸の濃度に応じてイオン濃度が変化し、希釈直線性が観察されている。しかし、その感度は十分でなく、シグナル変化のレベルは5酸化タンタル層イオン感応膜を使用した際の約1/5であった。
【実施例2】
【0035】
累積型ISFET(5酸化タンタル層)による核酸増幅反応の測定
核酸増幅反応は、LAMPにて実施した。試薬は、栄研化学株式会社のDNA増幅試薬キットを用いた。
[LAMP反応]
鋳型DNAには、ラムダDNA溶液(タカラバイオ社製; 0.24μg/μl) を用いた。ラムダDNA溶液は、滅菌水で2.4倍希釈したものを用いた。LAMP反応溶液の調製は、1.6μMのFIP(forward Inner primer)、BIF(backward inner primer)、0.2μMのF3(forward outer primer)、B3(backward outer primer)、16U Bst DNAポリメラ^ゼ、1.4mM dNTPs、10mM KClと(NH4)2SO4、20mM Tris-HCl緩衝液(pH8.8)、0.1% Tween 20 (和光純薬社製)、0.8M ベタイン(Sigma-Aldrich)、8mM MgSO4を混ぜて行った。希釈したラムダDNA溶液を加えて63℃で反応を行った。全体積量は、20μlある。ラムダDNA溶液を加えた反応混合物をTemplate(+)、ネガティブコントロールとしてラムダDNA溶液未添加の反応混合物をTemplate(-)と記載する。LAMP増幅産物はアガロースゲル電気泳動で確認した。
プライマー
FIP 5’AGGCCAAGCTGCTTGCGGTAGCCGGACGCTACCAGCTTCT 3’
BIP 5’CAGGACGCTGTGGCATTGCAGATCATAGGTAAAGCGCCACGC 3’
F3 5’AAAACTCAAATCAACAGGCG 3’
B3 5’GACGGATATCACCACGATCA 3’
[使用装置]
実施例1の測定装置を用いた。ISFETのゲート上のイオン感応膜は、五酸化タンタルを使用した。センシング部の表面積は、0.05mmとした。
[測定条件]
ウェルにTemplate(-) 20μl加えて測定を行った。その後、Template(-) 10μlを取り除いた。Template(+) 10μl加えて測定を行った。溶液を取り除き、pH8.80 Tris-HCl緩衝液で洗浄を行った。次に、ウェルにTemplate(-) 20μl加えて測定を行った。その後、Template(-) 15μlを取り除いた。Template(+) 15μlを加えて測定を行った。溶液を取り除き、pH8.80 Tris-HCl緩衝液で洗浄を行った。
[結果]
各測定試料について計測を実施した。結果を図6に示す。
T(+)の電位とコントロールの電位を比べた結果から、遺伝子増幅後は増幅前に比べて22.2mV(±2.9mV)電位が減少した。これは、pHの低下による減少と考えられる。すなわち、DNA鎖伸長でのピロリン酸の生成による、系全体のpH減少を検出できたことを示している。
このように、核酸増幅による明瞭なシグナル変化量の増大が見られ、標的核酸の増幅反応が良好に測定されることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上記載したごとく、本発明により、従来からの方法、システムと対比して、試料中のピロリン酸濃度および核酸合成反応を高感度に測定できる新規な方法、およびそのためのシステムを提供することが達成される。特に、標的核酸の増幅を高感度に測定できる方法、およびそのためのシステムを提供することが達成される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】(A)は本発明に一実施形態に係るFET型センサ20の構成を示す縦断面図であり、(B)は図1(A)のFET型センサ20のエネルギー準位を示す模式図である。
【図2】図1(A)のFET型センサ20のセンサ出力信号を測定するためのバイオセンサ測定装置30の構成を示すブロック図である。
【図3】図2のバイオセンサ測定装置30により図1(A)のFET型センサ20の出力特性を測定するときの動作タイミングチャートである。
【図4】図1(A)のFET型センサ20の動作を示す図であって、ポテンシャル状態及び蓄積電荷の推移を示す、図1(B)と同様のエネルギー準位を示す模式図である。
【図5】本発明の方法(実施例1:図中〇)および従来の方法(比較例1:図中●)における、試料中ピロリン酸測定の希釈直線性を示す。
【図6】本発明の方法(実施例2)における、標的核酸増幅の検出を示す。
【符号の説明】
【0038】
1 半導体基板
2 入力ダイオード
3 浮遊拡散部
4 リセットダイオード
5 絶縁膜
6 入力ゲート
7 出力ゲート
8 リセットゲート
9 センシング部
10 被着膜
11 マスク層
12 保護膜
13 外装膜
20 FET型センサ
20A FET型センサ素子
21 直流電圧源
30 バイオセンサ測定装置
31 ソースフォロワ増幅器
32 A/D変換器
33 クロック発生器
34乃至38 D/A変換器
40 コントローラ
41 ROM
42 RAM
43 フレキシブルディスクドライブ
44 キーボードインターフェース
45 キーボード
46 ディスプレイインターフェース
47 液晶ディスプレイ
【配列表フリーテキスト】
【0039】
配列番号1:PCR用に設計したオルゴヌクレオチド・プライマー。
配列番号2:PCR用に設計したオルゴヌクレオチド・プライマー。
配列番号3:PCR用に設計したオルゴヌクレオチド・プライマー。
配列番号4:PCR用に設計したオルゴヌクレオチド・プライマー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピロリン酸濃度をイオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)センサを用いて検出する系において、ISFETセンサに5酸化タンタル層が設けられていることを特徴とする、試料中のピロリン酸濃度の測定方法。
【請求項2】
センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さとポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後に蓄積する電荷量を電位変化として計測するようにした累積型ISFETセンサを使用する、請求項1記載のピロリン酸濃度の測定方法。
【請求項3】
標的核酸に対するポリメラーゼ反応の副生成物として生じるピロリン酸の濃度変化をイオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)センサを用いて検出する系において、ポリメラーゼ反応に応じて生じたイオンのセンシング部に作用する濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さとポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後に蓄積する電荷量を電位変化として計測するようにした累積型ISFETセンサを使用し、累積型ISFETセンサに5酸化タンタル層が設けられていることを特徴とする、核酸合成反応の測定方法。
【請求項4】
ポリメラーゼ反応に応じて生じたイオンが水素イオンである、請求項3記載の核酸合成反応の測定方法。
【請求項5】
標的核酸およびポリメラーゼ活性を有する蛋白質を含む30μL以下の容量の反応混合物中で反応させる、請求項3または4記載の核酸合成反応の測定方法。
【請求項6】
ポリメラーゼ活性を有する蛋白質が反応混合物中で遊離状態で存在する、請求項3〜5いずれか1項記載の核酸合成反応の測定方法。
【請求項7】
累積型ISFETセンサのセンシング部の表面積が1mm以下である、請求項3〜6いずれか1項記載の核酸合成反応の測定方法。
【請求項8】
少なくとも下記(a)および(b)の要素が含まれる、試料中の核酸合成反応を測定するシステム:
(a)5酸化タンタル層が設けられている累積型イオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)センサ、ここで累積型ISFETセンサは、センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後に蓄積する電荷量を電位変化として計測するようにしたISFETセンサである;および
(b)ポリメラーゼ活性を有する蛋白質。
【請求項9】
(b)のポリメラーゼ活性を有する蛋白質が耐熱性DNAポリメラーゼである、請求項8記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−222514(P2009−222514A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66364(P2008−66364)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(596053068)京都市 (26)
【出願人】(500158096)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【出願人】(591106680)和研薬株式会社 (1)
【出願人】(301051530)株式会社バイオエックス (4)
【Fターム(参考)】