説明

ピンセットおよびピンセットの被覆部品

【課題】 光学部品チップなどのように小型で欠けやすい部品をシリコンゴムやアクリルゴムあるいはNBRなどの弾性を有する被覆部品を先端につけた金属ピンセットでつかむと、きわめてつかみにくいのみならず、ゴムの粘着性のためピンセットでつかんだ部品が離れにくく、表面が平坦な被覆部品を使用できず、また、離れやすくしようとゴムの表面に凹凸をつけて使用が試みられてきたが、つかみにくく、作業性が悪いうえに汚れの問題もあり、光学部品の洗浄や蒸着などの量産工程で使えるピンセットを実現なかった。
【解決手段】 これまでピンセットの被覆部品用に使うことなど全く考えられていなかった特殊なフッ素ゴムを用いて金属ピンセットの被覆部品を造り、加硫条件、表面処理条件を選定して、薄くて、表面が平坦で、弾性はあるが粘着性がない、金属ピンセットの形状にぴったり合わせた被服部品を実現し、課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良されたピンセットおよびピンセットの先端部分に取り付けるピンセットの被覆部品に関し、特に小型の光学部品や電子部品を安全に、作業性よく挟持するのに適したピンセットおよびピンセットの先端部分に取り付けるピンセットの被覆部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学的機能を備えた小型の電子装置の発展は著しい。たとえば、カメラ付き携帯電話機においては、小型化、軽量化、高性能化、製造コストの低減等々、多くの改善が要求されている。
【0003】
携帯電話のカメラ用レンズの製造においては、極めて高度な技術を駆使した量産技術が実用化されてきつつあるが、その加工工程でのレンズの洗浄や表面処理におけるピンセットを用いたレンズチップのハンドリングが重要な課題になっている。
【0004】
また、多くの小型の電子装置には小型の水晶振動子や水晶板チップが用いられているが、その製造工程での水晶振動子チップや水晶板チップの洗浄や表面処理におけるピンセットを用いた水晶振動子チップや水晶板チップのハンドリングが重要な課題になっている。
【0005】
光通信装置においては、ガーネット、水晶等の結晶や多層膜フィルター等の小型光学部品が組み込まれているが、これらの光学部品チップにおいても洗浄や表面処理におけるピンセットを用いた光学部品チップのハンドリングが重要な課題になっている。
【0006】
これらのレンズチップ、水晶振動子チップ、水晶板チップなどには極めて高品質な清浄表面が要求されているとともに、高い製造歩留まりが要求されている。
【0007】
これらのチップの洗浄は、多くの場合多数のチップを保持具の各チップ保持部にそれぞれ1個ずつ入れ、超音波洗浄等を行い、乾燥させている。チップサイズが小さい場合は、この洗浄乾燥工程における歩留まりがあまり高くないのが現状である。洗浄工程から次の工程に移るときは、チップの保持具を変える必要がある場合が多い。例えば、洗浄後蒸着工程に移行する場合、洗浄用のチップ保持具と蒸着用のチップ保持具が異なるとき、洗浄用のチップ保持具から蒸着用のチップ保持具へチップをピンセットで挟持して、清浄な表面に洗浄されているか否かを検査しながら移し替えたいという要望がある。蒸着後に次の工程に移行する場合も同様である。
【0008】
これらの部品チップに対する小型化、高性能化、低価格化の要求は極めて高度であり、部品チップにおける極限追求が行われているといっても過言ではない。
【0009】
このピンセットによる部品チップのハンドリングは、部品が小さくつかみにくいのに加えて、欠けやすい、傷が付きやすい場合が多く、極めて高度な熟練を要する作業になっている。
【0010】
これらの部品チップのハンドリングにはステンレス製の先の細いピンセットを使用したい場合が多いが、携帯電話用カメラのレンズや水晶振動子チップなど寸法が小さく、つかみにくい形状で、欠けやすく、傷が付きやすい部品が多いため、そのハンドリングには細心の注意と高度な熟練を必要としている。
【0011】
これらの小型の電子装置は、大量普及品が多く、製造コストの低減を厳しく要求されており、高い品質を維持することは当然のこととして、その上で作業時間の短縮と加工歩留まりの向上が重要な課題となっている。
【0012】
たとえば、水晶振動子チップを洗浄・乾燥用の保持具から次の工程用の保持具に移す場合、部品チップを傷を付けないように正確に確実につかみ、洗浄結果が良好か否かの目視検査をして、次の工程の保持具に載置する。この時のつかみ方を細心の注意をもって正確に適切につかまないと、チップを飛ばして落としてしまったり、欠けを生じたり、傷を付けてしまったりすることが多い。
【0013】
ステンレス製の先の細いピンセットは、一般に腕時計用の金属製のネジとか腕時計用のルビーの穴石のような傷を心配しなくても良い小型の部品をつかむ場合にはとてもつかみやすいものであるが、光通信用装置部品、携帯電話のカメラ用のレンズ、水晶振動子チップのような欠けや傷を心配しなければならない部品をつかむときには非常に使いにくいものである。しかし、これらの部品をこのようなピンセットでつかんで扱うことができれば作業性が極めて良くなるという期待も大きい。
【0014】
このような先端の要求に対してではないが、ピンセットの利用に関しては多くの要望があり、ピンセットの先端部分に関しては古くから多くの改善が提案されてきた。
【0015】
その多くは、ピンセットの先端部分に合成樹脂などの弾性体と滑りどめを兼ねた被覆を取り付けたり、被膜をつけるものである。
【0016】
実開昭53−008282号(特許文献1)では、特に宝石のような硬くて丸みのある物体を挟むのに便利なピンセットとして、図5および図6に示すような、ピンセット本体(1)の全部または先端部(2)にゴム(合成樹脂を含む)の被膜(3)(先端用)または(5)(全体用)を被せたノンスリップ・ピンセットが提案されている。ゴムの材質に関しては特に記載はない。
【0017】
実開昭62−001864号(特許文献2)では、チップ部品、リード付フラットIC等をつかむ場合、金属製ピンセットを用いると部品を傷つけたり、すべって脱落させる欠点を補うために、ピンセットの先端部または全体にゴムコーティングしたピンセットが提案され、先端内側に凹凸を設けることも提案されている。ゴムの材質に関しては特に記載はない。
【0018】
実開昭60−131365号(特許文献3)では、ピンセットの素材金属から半導体ウエハーへの汚染を防止する目的で、ピンセットの少なくとも先端部を金属ケイ化物で被覆したピンセットが提案されている。
【0019】
実開昭54−041170号(特許文献4)では、ステンレス製ピンセットとウエハーとの接触によるライフタイムの低下を防ぐため、ウエハーを挟持する部分をウエハーを構成する半導体と同族の物質または拡散する不純物と同族物質で形成することが提案されている。
【0020】
しかしながら、多くの改善提案がなされてきたにもかかわらず、、ステンレスに代表される金属ピンセットに合成樹脂を取り付けた従来の市販されているピンセットおよびプラスチック製のピンセットならびに各社特別な機密仕様で作成したピンセットについて使用状況を調べてみると、前記の如き部品チップをつかもうとして部品チップに欠けを生じさせてしまったり、表面に傷をつけてしまったり、部品チップをすべらせて落下させてしまったり、部品によっては前記の如き部品チップをつかもうとしてもつかめなかったりする場合が多々あった。また、ピンセットのつかむ力を緩めてつかんだ部品を離そうとしてもつかんだ部品がピンセットの挟んだ面についた状態ですぐにはピンセットから離れにくかったりする場合が多い。このように、ピンセットによる部品チップのハンドリングが製造工程における重大な課題になっているのが現状であるということがわかった。
【0021】
従来の合成樹脂の被覆をつけたピンセットで、被覆部品の品物を挟む側の表面に凹凸をつけたものが提案されている。
【0022】
図7,図8は、ピンセットの先端に、品物を挟む側の表面に凹凸をつけた従来の被覆部品を取り付けた例を説明する図で、それぞれ1本のピンセットの一対の対向する先端部を示している。符号1Bと1Cは金属製のピンセット本体、4Dと4Eは被覆部品で、シリコンゴム、アクリルゴム、NBR等で造られている。
【0023】
図7は被覆部品の品物をつかむ面に寸法の大きい凹凸形状を形成した例、図8は被覆部品の品物をつかむ面に細かい凹凸を形成した例で、それぞれ、品物をつかんでいたピンセットのつかむ力を緩めて、つかんでいた品物をピンセットから離して台などに置こうとするときに、被覆部品のゴムの表面の粘着性によってつかんだ品物がゴム表面から離れにくくなるのを防ごうとしたものである。
【0024】
このような工夫が種々提案されてはいたが、被覆部品のゴムとしてどのようなものが適しているかの研究があまり進んでいなかったため、ゴムとしては、滑り止めとしての一般的なものきり使われず、実際に造られたピンセットでは、その粘着性のため、ピンセットで挟んだ部品の移載が困難であり、さらに、ピンセット先端部のゴム製被覆部品にゴミが付着しやすく、薬品にも弱いなど重大な欠点を有していた。
【0025】
さらに、ピンセットを使用していて、前記滑り止めのつもりで形成した凹凸部にゴミがたまりやすいという欠点がある。
【特許文献1】実願昭51−089457号(実開昭53−008282号)のマイクロフィルム
【特許文献2】実願昭60−091722号(実開昭62−001864号)のマイクロフィルム
【特許文献3】実願昭59−017746号(実開昭60−131365号)のマイクロフィルム
【特許文献4】実願昭52−114572号(実開昭54−041170号)のマイクロフィルム
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
以上説明したように、レンズチップ、水晶振動子チップ、水晶板チップなどの部品の量産には極めて高品質な清浄表面が要求されているとともに、高い製造歩留まりが要求されている。このような部品の製造におけるピンセットによるつかみ作業には、欠けやすい光学部品に欠けを生じさせたり傷をつけたりすることなく、素早く部品をつかんで目視検査をしながら正確に取り扱うことができる使い易いピンセットの実現が強く要求されているが、未だ解決されていない。
【0027】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、レンズチップ、水晶振動子チップ、水晶板チップのような部品を、部品表面に傷を付けずに、素早く、確実につかむことができる、使用寿命の長いピンセットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明の発明者は、ピンセットの先端部分に取り付ける被覆としてこれまでに使用されたり提案されたりしたものを克明に調査し、ピンセットの先端部分に取り付ける被覆として適した条件は何かについて鋭意研究を重ねた結果、ステンレスピンセットに代表される従来のピンセットに被覆して、ピンセット本来のつかみ感覚を十分に発揮できるとともに、素早く部品チップをつかんでも部品表面に欠けを生じたり傷を付けることもなく、作業時間を大幅に短縮できる被覆付きピンセットおよびピンセットの被覆部品を開発した。
【0029】
そして、本発明の発明者は、ピンセットの先端部分に取り付ける被覆としては、その材料の選択と加工条件が極めて重要な要素であり、その材料は相当に狭い範囲に絞り込まなければならないということを見出した。
【0030】
以下に、本発明の特徴を具体的に説明する。
【0031】
前記課題を解決するためになされた本発明の例としての第1の発明によるピンセットの被覆部品(以下、発明1ともいう)は、金属製ピンセットの一対の各先端部に被せて品物をつかむのに使用するフッ素ゴム系材料を用いた袋状の被覆部品であって、前記袋状の被覆部品は、ピンセットに取り付ける部分が前記ピンセットの先端部の形状と同一の形状をしており、前記被覆部品を構成するフッ素ゴム系材料は、ゴムモノマーからフッ化ビニリデンを抜き、代わりに非フッ素モノマーを導入したものであることを特徴とするピンセットの被覆部品である。
【0032】
発明1を展開してなされた本発明の例としての第2の発明によるピンセットの被覆部品(以下、発明2ともいう)は、発明1に記載のピンセットの被覆部品において、前記非フッ素モノマーがエチレンであることを特徴とするピンセットの被覆部品である。
【0033】
発明1、2を展開してなされた本発明の例としての第3の発明によるピンセットの被覆部品(以下、発明3ともいう)は、発明1または2に記載のピンセットの被覆部品において、前記被覆部品を構成するフッ素ゴム系材料のポリマー構造が、ポリメチルビニルエーテルとエチレンおよびテトラフロロエチレンのモノマーが重合されポリマー化したもので、次の(化3)で示す化学構造式に従う構造を有することを特徴とするピンセットの被覆部品である。
【0034】
【化3】

発明1〜3を展開してなされた本発明の例としての第4の発明によるピンセットの被覆部品(以下、発明4ともいう)は、発明1〜3のいずれかに記載のピンセットの被覆部品において、前記被覆部品は表面の改質を行う性質を有する反応性表面処理剤を表面に塗布し、加熱処理を行ったものであることを特徴とするピンセットの被覆部品である。
【0035】
発明1〜4を展開してなされた本発明の例としての第5の発明によるピンセットの被覆部品(以下、発明5ともいう)は、発明1〜4のいずれかに記載のピンセットの被覆部品において、前記被覆部品は、袋状に成型加工された後に次の(化4)で示す化学構造式に従う構造を有する反応性表面処理剤を塗布され、150°Cで10分間の熱処理を施されているものであることを特徴とするピンセットの被覆部品である。
【0036】
【化4】

発明1〜5を展開してなされた本発明の例としての第6の発明によるピンセットの被覆部品(以下、発明6ともいう)は、発明1〜5のいずれかに記載のピンセットの被覆部品において、当該ピンセットに取り付けて前記被覆部品のピンセットで品物をつかむ側の厚みが0.05〜0.5mmの範囲で均一な厚みであることを特徴とするピンセットの被覆部品である。
【0037】
発明1〜6を展開してなされた本発明の例としての第7の発明によるピンセットの被覆部品(発明7ともいう)は、発明1〜6のいずれかに記載のピンセットの被覆部品において、前記被覆部品のゴム硬度が70度であることを特徴とするピンセットの被覆部品である。
【0038】
前記課題を解決するためになされた本発明の例としての第8の発明によるピンセット(発明8ともいう)は、発明3に記載の前記被覆部品を構成するフッ素ゴム系材料を、ゴム型で概ね177°Cで袋状に成形加工(一時加硫)して袋状の前記被覆部品とし、それを230°Cで16〜20時間熱処理をすることによって二次加硫を行い、前記被覆部品一対を金属ピンセットの一対の各先端部に被せてエポキシ接着剤で接着固定し、当該ピンセットの前記一対の先端を合わせた状態にして前記一対の先端部と両側面を同一形状にし、前記被覆部品に請求項5に記載の反応性表面処理剤を塗布し、150°Cで10分間の熱処理を施して粘着性を低減させたことを特徴とするピンセットである。
【発明の効果】
【0039】
以上説明したような特徴を有する本発明の被覆部品を取り付けたピンセットを用いることにより、小さい光学部品のような小さくて欠けやすく高度な清浄表面を要求される部品チップを、通常の作業者でも、部品チップに欠けを生じることなく、表面に傷を付けることなく、正確に素早くつかむことができるようになり、これらの部品チップの製造品質を大幅に向上させることができるとともに製造時間の大幅な短縮を可能にすることができ、製造コストを大幅に低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態例について説明する。なお、説明に用いる各図は本発明の例を理解できる程度に各構成成分の寸法、形状、配置関係などを概略的に示してある。そして本発明の説明の都合上、部分的に拡大率を変えて図示する場合もあり、本発明の例の説明に用いる図は、必ずしも実施例などの実物や記述と相似形でない場合もある。また、各図において、同様な構成成分については同一の番号を付けて示し、重複する説明を省略することもある。
【0041】
なお、本発明のピンセットの被覆部品ならびにその被覆部品の製造方法につての説明は本発明のピンセットの説明と重複する部分が多いので、説明の冗長を避けるため、特に区別して説明が必要な場合を除いて、ピンセットの説明でピンセットの被覆部品ならびにその被覆部品の製造方法につての説明を兼ねたり、その逆の場合もある。
【0042】
図1は本発明の第1の実施の形態例としてのピンセットを説明する図で、(A)は平面図、(B)は側面図である。符号1は金属製のピンセット本体、2はピンセット本体1の一対の先端部にそれぞれ取り付けた本発明による袋状(キャップ状)の被覆部品、3は本発明による袋状の被覆部品を取り付けたピンセットの先端部を示す。
【0043】
図2は、図1のピンセット本体1の一対の先端部に取り付ける本発明による袋状の被覆部品を、その特徴を説明するために拡大して模式的に示した斜視図である。符号4は被覆部品の品物をつかむ面、5はピンセットに取り付ける袋状部分を示す。
【0044】
図2からわかるように、この実施の形態の被覆部品は、先端が鋭利に尖っている金属ピンセットに取り付けるようにできており、本発明の被覆部品を金属ピンセットに取り付けると、被覆部品の外形はその内側の金属ピンセットの形状にぴったり合って先端が尖った状態になる。
【0045】
好適な例として、図2の被覆部品一対をステンレス製の先端が鋭利な形状のピンセットの一対の各先端部に被せてエポキシ樹脂接着剤で接着固定し、当該ピンセットの前記一対の先端を合わせた状態にして、前記一対の先端部と両側面を同一形状に形成し、後述の反応性表面処理剤を前記被覆部品に塗布し、150°Cで10分間の熱処理を施して粘着性を低減させる。
【0046】
本発明のピンセットで、特別の訓練を受けていない普通の一般的な作業者が、量産における洗浄用部品保持ケースに入った洗浄上がりの前記携帯電話用レンズや水晶振動子片のような小さな部品を一個ずつ素早くつかみ、目視検査で部品の表面状態を検査しながら、後工程である真空蒸着用の部品保持ケースに移す作業を行ったところ、一個ずつ素早く簡単に確実につかむことができて、つかんで品物を落下させてしまったり、つかむときに欠けやすい光学部品に欠けを発生させてしまったりすることもなく、部品表面ですべらせて部品表面に傷を付けることもなく作業進め、作業時間を従来の最も早いとされている治具を用いた場合の3分の1以下に短縮することができた。
【0047】
このような欠けやすい小型光学部品をピンセットでつかんでする作業は、従来では相当な熟練者でも素早くつかむことはおろか、かなり時間をかけても確実につかむことは難しく、エアーピンセットを用いたり、各社それぞれ特殊な方法で処理せざるを得なかった。
【0048】
しかし、エアーピンセットは取扱いが非常に難しく、品物を移動させるのに長い時間がかかって困っているのが実状である。
【0049】
従来のピンセット用被覆部品を取り付けた金属ピンセットでは、光学部品等をつかんで部品ケース等まで移動させ、ピンセットを開いてその部品を部品ケースの所定の位置に置こうとすると、前記のように、従来の被覆部品の粘着性により、つかんだ部品がピンセットから離れにくいという大きな問題があった。そのために、従来の被覆部品では部品をつかむ面に凹凸を設けて部品との接触面積を小さくする必要があった。
【0050】
しかし、凹凸を設けることにより、部品をつかみにくくなるという難点があるのみならず、部品との接触面に汚れが付いたとき、凹状部の汚れをクリーンペーパー等で拭き取ろうとしても簡単に拭き取ることができなかった。
【0051】
本発明では、このような従来の欠点をなくすために、ゴムの材質、処理条件、表面処理などの面から研究を重ね、被覆部品のゴムの材質として、従来はこのような分野に使用することが全く考えられていなかったゴムを見つけ出し、それを用いてピンセットの先端部用の新規の被覆部品を袋状に加工し、加工した本発明の被覆部品の表面に特別に選定した後述の反応性表面処理剤を塗布し、それに熱処理を施して、弾性はあるが粘着性はないという被覆部品付きピンセットを実現することができた。このような特性のピンセットの先端部用被覆部品を得ることができたので、ピンセットで部品をつかむ方の面を平坦にすることができた。そして、もし被覆部品の部品をつかむ方の面が汚れても、付着した汚れをクリーンペーパー等で容易に拭き取ることができるようになった。そして、クリーンペーパーにアルコールやアセトンをつけて拭き取らなければならない場合にも、従来の被覆部品のようにアルコールやアセトンによる被覆部品の材質の変化を問題にせずにピンセットを使用することができるようになった。
【0052】
前記図2を用いて説明した本発明のピンセットを用いると、欠けやすい小型精密部品をつかんでする作業を、熟練度の低い作業者でも、少しの練習の後に、安全に正確にそして従来では到底考えられなかったような短い時間で行うことができる。そして、本発明のピンセットを用いることにより、比較的短時間で作業の熟練度を上げることができ、作業の専門家といえるレベルの熟練者を短期間で大勢誕生させることができるようになった。前記のように、従来では、ピンセットによるこの種の作業は到底無理とあきらめられていたものである。
【0053】
図3は本発明の第2の実施の形態例としてのピンセットの被覆部品を説明する図で、被覆部品を取り付けるピンセットの先端が図2の場合のように鋭利でなく、図示の如く先端にわずかに平坦部がある程度に細くなっている例について示す断面図で、(A)は図1の平面図に相当するように置いたときの一方の先端部の厚み方向ほぼ中央部の断面図、(B)はそれを取り付けるピンセットの長手方向に沿って(A)の断面図の中央部での断面図である。符号4B、4Cは被覆部品である。
【0054】
図4は図3に示した本発明の被覆部品をピンセットに取り付けた状態を説明する図で、ピンセットの長手方向の中心線の位置での断面図である。符号1Dは金属ピンセット本体、4Fは被覆部品である。図でもわかるように、被覆部品の内側形状は金属ピンセットの先端部形状と同一である。
【0055】
このように、本発明の被覆部品とそれを装着したピンセットは、ピンセットでつかむ部品に合わせて、種々の形状に形成し、広い範囲で効果を発揮できるものである。
【0056】
つぎに、本発明と従来のピンセットおよびピンセットの先端部につける被覆部品や従来の金属ピンセットへのコーティングとの違いを一層明確にするために、本発明の被覆部品の材質やその製造方法の要部をさらに詳細に説明する。
【0057】
ピンセットで品物をつかむときのすべり止めに関しては、前記特許文献でもわかるように、古くから多くの提案がなされ使用を試みられてきたが、これまでは、前記の如く製造技術の極限を追求するような欠けやすい、傷つきやすい小型部品を正確に、品物に欠けを生じさせず傷を付けずに、素早くつかむことに使うことができるピンセットは到底実現不可能であるとあきらめられてきた。したがって、ピンセットの先端に装着する被覆部品の材料についても、前記課題を解決して実用に耐え得るようなものは全く提案されていなかった。
【0058】
本発明のピンセットの実現においては、図1〜図4のピンセットの先端につける被覆部品の材料に、ピンセット用に使用することなど全く考えられていなかった特殊なフッ素ゴム材を使用して、しかもその材質の持つ特性を加工条件などを種々変えて本発明の課題を解決できるように追い込んでいった結果、本発明にいたることができた。以下、更に詳述する。
【0059】
本発明の実施の形態例としての前記被覆部品は、耐薬品性を出すために、ゴムモノマーからフッ化ビニリデンを抜き、代わりに非フッ素モノマーを導入したものを用いて前記被覆部品を作成した。
【0060】
特に好ましい例として、前記非フッ素モノマーにエチレンを用いるとよい。
【0061】
そして、ゴム特有の粘着・固着による品物のつかみにくさを解決するため、反応性表面処理剤を用いて、表面の改質を行った。前記のように、従来のゴム製の被覆部品を先端につけたピンセットでは、光学部品等をつかんだ時にゴム素材の粘着・固着現象がある為、つかんだ部品を離そうとしてピンセットのつかむ力を弱めても、部品がピンセットから容易に離れず、ピンセットを使用した移載作業等に長時間を要していた。以下に説明する本発明のピンセットでは、この難問を完全に解決した。
【0062】
具体的には、前記の如く袋状に加工した前記被覆部品をピンセットに取り付けて接着固定し、ピンセットの両先端を合わせた状態で、先端部や側面を研磨治具でこするなどにより、ピンセットの品物をつかむ先端部の一対の内側面と側面を同一形状にする。つぎに、研磨治具を用いて仕上げられた被覆部品の表面に反応性表面処理剤を塗布し、加熱すると、ゴム素材の活性水素と強力に反応し、このゴム素材独自の特性を損なわず、耐応力緩和性を有し、表面は非粘着性を示すようになる。この処理による表面の改質により、本発明のピンセットで小さい品物をつかんだときに、品物が軽くても、ピンセットを開くことにより、つかんだ品物がピンセットから容易に離れるようにすることができ、さらに、非常に欠けやすかったり傷つきやすかったりするガラスや結晶を中心とする光学部品のハンドリングに最適のピンセットを実現することができる。
【0063】
この本発明のピンセットは、従来提案されていた種々のピンセットでは到底不可能とみなされていた前記光学部品等を正確に、素早く、高い信頼性でつかむことができ、作業性の良いピンセットとして光学部品等の量産に使用することができる。
【0064】
従来のステンレスやチタン等の金属製ピンセットやプラスチック製ピンセットで前記のような小さい光学部品等をつかんだときに弾力と摩擦力が不足で小物をはじいて落下させてしまうという問題も、本発明により完全に解決することができた。
【0065】
本発明の特に好ましい実施の形態例としての前記被覆部品に使用するフッ素ゴムのポリマー構造としては、ポリメチルビニルエーテルとエチレンおよびテトラフロロエチレンのモノマーが重合されポリマー化したものを使用した。このゴム素材を使用することにより、ケトン、エステル、エーテル等の薬品に侵されにくく、適切な弾力性を有し、光学ガラス等をつかむときにガラスに欠けや傷を生じさせないピンセットを実現することができる。
【0066】
そのポリマー構造式は前記(化3)で示した化学構造式の如くである。
【0067】
つぎに、前記ゴムの表面を改質する反応性表面処理剤についてさらに詳細に説明する。
【0068】
本発明の被覆部品の特に好ましい例では、袋状に成型加工した後に前記(化4)で示した化学構造式の構造の反応性表面処理剤を塗布し熱処理を施すことにより、フッ素ゴム中の活性水素ラジカルやカーボン中のC=O,−OH,−C00H、ーSH、ーNH等の官能基とーNCO基との熱化学反応により強固な結合を生じる。
【0069】
この被覆部品はアルコールやアセトンをクリーニングペーパーにつけて拭いても、非粘着性の性能を維持することができる。
【0070】
従来のシリコンゴム、アクリルゴム、NBRなどの弾性体では粘着性が強くて軽量で微細な光学部品を容易につかんで扱うことができなかったが、本発明の被覆部品をピンセットに取り付けると、弾性体の性質を持ちながら粘着性が無く、軽量で微細な光学部品を容易につかんd取り扱うことができ、つかんだ部品を離そうとしてピンセットをゆるめると、ピンセットから意のままに離すことができことができる。
【0071】
本発明の実施の形態例では、取り付ける金属ピンセットの先端の形状を、先端から5mm〜15mmの範囲で3次元測定器で精密に測定し、測定された寸法と同一の内面を持つ袋状の被覆部品を型成形で作成する。
【0072】
特に好ましい例では、被覆部品のピンセットに取り付けたときに品物を挟む面になる方の側を0.05mm〜0.5mmの範囲の均一な厚みにする。これは、金属のピンセットの先端にこの被覆部品を取り付けてエポキシ系の接着剤で固定した時に硬い金属の影響で光学部品のコーナー等に欠けを発生させない厚みであり、細かい部品も容易につかめる厚みである。
【0073】
この厚みが0.05mmより薄い場合、つかむときの硬い金属の影響が強くなりすぎてつかんだ部品が欠けやすく、また、非常に薄いので、被覆部品をピンセットに取り付けるときに破れやすくなる。0.5mmより厚くすると、1mm以下の厚みのものをつかみにくくなる。
【0074】
従来の被覆部品の品物をつかむ面の表面は、ゴムの粘着性の害を低減するために、ゴムの表面に前記のように凹凸をつけていたが、本発明の被覆部品の品物をつかむ面の表面は平滑な面にすることができ、薄くて小さくて欠けやすい光学部品を素早くつかむことができる。また、ゴムに汚れが付着した時にはクリーニングペーパーにアルコールやアセトンをつけて拭き取ることができるなど、従来ではとても考えられなかった大きな利点を有している。前記反応性表面処理剤により表面の改質を行なった効果により、被覆部品の品物をつかむ面の表面に凹凸を付けなくても、前記光学部品の如き品物を挟んでいるピンセットをゆるめたときに、品物が被覆部品に粘着するようなことをなくすことができた。
【0075】
本発明の実施の形態例では、特に好ましい条件として、使用するエチレンとポロピレン共重合ターボポリマーのゴム硬度を70度にした。ゴム硬度を80度にすると、ゴムに含まれるカーボンの量が多く、型成型で切れやすいという問題がある。
【0076】
本発明の実施の形態例では、ゴムの一次加硫温度(型成形時)を177℃とし、一次加硫後ゴムの架橋が粗い(密度が小さい)時に被覆部品に反応性表面処理剤を塗布して乾燥させ、常温から温度を上げて230℃で16時間〜20時間2次加硫を行なった。反応性処理剤のゴムと反応する温度は150℃であるが、常温から温度を上げる途中で反応し、ゴムの粘着を完全に除去する事が出来る。
【0077】
以上、図面を参照しながら本発明の実施の形態例を説明したが、本発明はこれに狭く限定されるものではなく、前記の如き本発明の技術思想に基づいて、多くのバリエーションを可能とするものである。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上説明したように、本発明の被覆部品を先端部に取り付けたピンセットは、小さい光学部品などのつかみにくく、表面に欠けや傷ができやすい品物を、表面に欠けや傷をつけることなく、あたかも金属部品を金属ピンセットで素早くつかむときのような素早さで、安全に、正確につかむことができるようになるので、量産時の精密部品の洗浄工程や蒸着工程などで、それほど高度な熟練を要さずに広く使うことができ、光通信分野、小型の光学部品を使用する光学機器や電子機器等の分野で広く使用されて、品質の向上と価格の低減をもたらすものである。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の実施の形態例としてのピンセットの全体を説明する図で、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【図2】本発明の実施の形態例としての被覆部品を拡大して示す図で、被覆部品の特徴を説明するために一部分を拡大して模式的に示した図である。
【図3】本発明の実施の形態例としての被覆部品を拡大して示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態例として図3に示した被覆部品をピンセットに取り付けた状態を説明する図で、ピンセットの長手方向中央部の断面図である。
【図5】従来のピンセットを説明する図である。
【図6】従来のピンセットを説明する図である。
【図7】従来のピンセットの被覆部品を説明する断面図である。
【図8】従来のピンセットの被覆部品を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0080】
1,1B,1C,1D:金属製のピンセット本体
2,4B,4C,4D,4E,4F:被覆部品
3:本発明によるキャップ状の被覆部品を取り付けたピンセットの先端部
4:被覆部品の品物をつかむ面
5:ピンセットに取り付ける袋状部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製ピンセットの一対の各先端部に被せて品物をつかむのに使用するフッ素ゴム系材料を用いた袋状の被覆部品であって、前記袋状の被覆部品は、ピンセットに取り付ける部分が前記ピンセットの先端部の形状と同一の形状をしており、前記被覆部品を構成するフッ素ゴム系材料は、ゴムモノマーからフッ化ビニリデンを抜き、代わりに非フッ素モノマーを導入したものであることを特徴とするピンセットの被覆部品。
【請求項2】
請求項1に記載のピンセットの被覆部品において、前記非フッ素モノマーがエチレンであることを特徴とするピンセットの被覆部品。
【請求項3】
請求項1または2に記載のピンセットの被覆部品において、前記被覆部品を構成するフッ素ゴム系材料のポリマー構造が、ポリメチルビニルエーテルとエチレンおよびテトラフロロエチレンのモノマーが重合されポリマー化したもので、次の(化1)で示す化学構造式に従う構造を有することを特徴とするピンセットの被覆部品。
【化1】

【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のピンセットの被覆部品において、前記被覆部品は表面の改質を行う性質を有する反応性表面処理剤を表面に塗布し、加熱処理を行ったものであることを特徴とするピンセットの被覆部品。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のピンセットの被覆部品において、前記被覆部品は、袋状に成型加工された後に次の(化2)で示す化学構造式に従う構造を有する反応性表面処理剤を塗布され、150°Cで10分間の熱処理を施されているものであることを特徴とするピンセットの被覆部品。
【化2】

【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のピンセットの被覆部品において、当該ピンセットに取り付けて前記被覆部品のピンセットで品物をつかむ側の厚みが0.05〜0.5mmの範囲で均一な厚みであることを特徴とするピンセットの被覆部品。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のピンセットの被覆部品において、前記被覆部品のゴム硬度が70度であることを特徴とするピンセットの被覆部品。
【請求項8】
請求項3に記載の前記被覆部品を構成するフッ素ゴム系材料を、ゴム型で概ね177°Cで袋状に成形加工(一次加硫)して袋状の前記被覆部品とし、それを230°Cで16〜20時間熱処理をすることによって二次加硫を行い、前記被覆部品一対をそれぞれ金属ピンセットの一対の各先端部に被せてエポキシ系の接着剤で接着固定し、当該ピンセットの前記一対の先端を合わせた状態にして前記一対の先端部と両側面を同一形状にし、前記被覆部品に請求項5に記載の反応性表面処理剤を塗布し、150°Cで10分間の熱処理を施して粘着性を低減させたことを特徴とするピンセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−137329(P2010−137329A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316331(P2008−316331)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(501392361)株式会社 オプトクエスト (24)
【Fターム(参考)】