説明

ピーニング工具および加工方法

【課題】ワークの表面における周方向での特定の加工部位を集中的にピーニング加工することが可能なピーニング工具を提供すると共に、ピーニング加工を行う押圧体を保持するリテーナを径方向で小型化する。
【解決手段】ピーニング工具1は、押圧体であるボール7を径方向に駆動する作用部13を有するマンドレル10と、ボール7を径方向に移動可能に保持するリテーナ40を有する支持部材20とを備え、作用部13により駆動されたボール7が内周面4の開口縁4aをピーニング加工する。支持部材20は、マンドレル10を回転可能に支持する第1,第2支持部31,32を有する本体21と、マンドレル10の回転時にリテーナ40および本体21の回転を防止すべく治具60に固定される回転防止部36とを備える。リテーナ40は、本体21から軸線方向に延出していると共に、ボール7を軸線方向で第1,第2支持部31,32から離隔した位置で保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの表面を間欠的に押圧して加工するピーニング工具および該ピーニング工具による加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークの表面を加工する工具が、該表面を加工する押圧体(例えば転動体)を径方向に駆動する作用部(多角形部)を有するマンドレルと、前記押圧体を径方向に移動可能に保持するリテーナとを備え、回転する前記作用部により径方向に駆動された押圧体が前記表面を間欠的に押圧して加工するものは知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−159648号公報
【特許文献2】特開2007−301645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マンドレルの回転時に押圧体を保持するリテーナが回転する工具では、ワークの表面において、周方向での特定部位のみに、間欠的に押圧する加工(以下、「ピーニング加工」という。)を集中的に行うこと、例えば、特定部位にあるバリを取るために、該特定部位のみを狙ってピーニング加工を行うことは困難である。
また、ワークが回転する場合に、前記リテーナが回転すると、ワークにおける押圧体による周方向での加工位置は、ワークおよび作用部(すなわちマンドレル)の回転速度に加えて、リテーナの回転速度の影響を受けるため、ワークおよび作用部の回転速度に基づいて設定される特定部位を集中的にピーニング加工することは困難である。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ワークの表面において、周方向での特定の加工部位を集中的にピーニング加工することが可能なピーニング工具および加工方法を提供すると共に、ピーニング加工を行う押圧体を保持するリテーナを径方向で小型化することを目的とする。
そして、本発明は、さらに、押圧体による加工部位のピーニング加工時の加工部位からの反力によるマンドレルの作用部の振れを抑制することを目的とし、さらに、該作用部の振れを抑制するための振れ抑制体によるワークの表面の変形を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、ワーク(3)の表面(4)における加工部位(4a)に当接する押圧体(7)と、前記押圧体(7)を径方向に駆動する作用部(13)を有すると共に駆動源(2a)により回転駆動されて回転中心線(Lm)を中心に回転するマンドレル(10)と、前記押圧体(7)を径方向に移動可能に保持するリテーナ(40)を有する支持部材(20)とを備え、回転する前記作用部(13)により径方向に駆動された前記押圧体(7)が前記加工部位(4a)を間欠的に押圧加工するピーニング工具において、前記支持部材(20)は、前記マンドレル(10)を回転可能に支持する支持部(31,32)を有する本体(21)と、前記マンドレル(10)の回転時に前記リテーナ(40)および前記本体(21)の回転を防止すべく工具固定部材(60)に固定される回転防止部(36)とを備え、前記リテーナ(40)は、前記本体(21)から軸線方向に延出していると共に、前記押圧体(7)を軸線方向で前記支持部(31,32)から離隔した位置で保持するピーニング工具である。
【0007】
これによれば、マンドレルの作用部により駆動されてワークの加工部位を間欠的に押圧加工(以下、「ピーニング加工」という。)する押圧体を保持するリテーナは、工具固定部材に固定される回転防止部により、マンドレルの回転時に回転しない状態に維持される。この結果、ワークが固定されている場合、その表面の特定の加工部位を集中的にピーニング加工することができる。また、ワークが回転する場合には、リテーナが回転しないため、リテーナが回転する場合に比べて、マンドレルおよびワークの回転速度の設定により、ワークの表面における周方向での特定の加工部位を精度よくピーニング加工することができる。
さらに、作用部を有するマンドレルは、支持部材が有する本体の支持部に回転可能に支持される一方、リテーナは、本体から軸線方向に延出していると共に、支持部から軸線方向で離隔した位置で押圧体を保持する。この結果、支持部と押圧体とが軸線方向で同じ位置に配置される場合に比べて、押圧体を回転中心線に近づけて配置することができるので、押圧体を保持するリテーナを径方向で小型化できる。このため、例えば、ワークの小径の穴にリテーナを挿入することが可能になって、該穴の壁面であるワークの内周面のピーニング加工ができる。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のピーニング工具であって、前記マンドレル(10)は、前記駆動源(2a)からの回転力が入力される入力部(11)を有し、前記支持部(31,32)は、軸線方向で前記作用部(13)と前記入力部(11)との間において前記マンドレル(10)を支持するものである。
これによれば、マンドレルを回転可能に支持する支持部を有する支持部材の本体は、マンドレルにおいて回転力が入力される入力部と作用部との間において、回転防止部が固定される工具固定部材に固定状態で支持されるので、マンドレルの振れ、ひいてはピーニング工具の振れが工具固定部材により抑制されて、加工精度の向上が可能になる。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載のピーニング工具であって、前記支持部材(20)は、前記押圧体(7)を通じて作用する前記加工部位(4a)からの反力による前記作用部(13)の振れを抑制する振れ抑制体(27)を備え、前記作用部(13)は、前記押圧体(7)および前記振れ抑制体(27)に対して径方向内方に配置され、前記押圧体(7)および前記振れ抑制体(27)は、前記回転中心線(Lm)を中心とした同一の内接円(Ci)に内接する状態で前記作用部(13)に当接し、前記振れ抑制体(27)に外接する前記回転中心線(Lm)を中心とした外接円(Co2)は、前記押圧体(7)に外接する前記回転中心線(Lm)を中心とした外接円(Co1)よりも小さいものである。
これによれば、回転中心線に対する径方向での位置に関して、振れ抑制体の最大離隔位置が押圧体の最大離隔位置よりも回転中心線に近い分、ワークの表面に対する振れ抑制体の押込み量を該表面に対する押圧体の押込み量よりも小さくできるので、振れ抑制体によるワークの表面の変形を抑制できる。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1または2記載のピーニング工具であって、前記支持部材(20)は、前記押圧体(7)を通じて作用する前記加工部位(4a)からの反力による前記作用部(13)の振れを抑制する振れ抑制体(27)を備え、前記表面(4)は、前記回転中心線(Lm)に平行な中心軸線(Lw)を有すると共に前記中心軸線(Lw)に直交する平面での断面形状が円である内周面(4)であり、前記リテーナ(40)は、前記回転防止部(36)により、前記回転中心線(Lm)が前記中心軸線(Lw)に対して前記加工部位(4a)寄りにオフセットした位置を占めるように位置決めされるものである。
これによれば、回転中心線に対する径方向での位置に関して、振れ抑制体の最大離隔位置を押圧体の最大離隔位置よりもワークの中心軸線に近づけることができる分だけ、ワークの表面に対する振れ抑制体の押込み量の減少が可能になるので、振れ抑制体によるワークの表面の変形を抑制できる。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項1または2記載のピーニング工具であって、前記押圧体(7)は、前記押圧体(7)を通じて作用する前記加工部位(4a)からの反力による前記作用部(13)の振れを発生させる形態で配置され、前記支持部材(20)は、前記押圧体(7)を通じて作用する前記加工部位(4a)からの反力による前記作用部(13)の振れを抑制する振れ抑制体(27)を備え、前記振れ抑制体(27)は、前記加工部位(4a)を押圧加工している前記押圧体(7)が当接している前記作用部(13)に、前記押圧体(7)と前記作用部(13)との軸線方向での当接範囲であるマンドレル側加工用当接範囲(Sm1)を含むと共に前記マンドレル側加工用当接範囲(Sm1)よりも広い軸線方向での当接範囲であるマンドレル側抑制用当接範囲(Sm2)で当接するものである。
これによれば、作用部の振れを抑制する振れ抑制体は、押圧体によるマンドレル側加工用当接範囲を含むと共に該マンドレル側加工用当接範囲よりも広いマンドレル側抑制用当接範囲で作用部に当接する。この結果、ワークの加工部位からの反力が押圧体を通じて加えられる作用部に対する振れ抑制体による支持範囲を大きくできるので、振れ抑制体による作用部の振れの抑制効果が高められて、加工精度の向上が可能になる。しかも、作用部の振れを抑制するために作用部の外径を大きくして剛性を高める場合に比べて、作用部を径方向で小型化でき、マンドレルを軽量化できる。
【0012】
請求項6記載の発明は、請求項5記載のピーニング工具であって、前記振れ抑制体(27)は、前記押圧体(7)と前記加工部位(4a)との軸線方向での当接範囲であるワーク側加工用当接範囲(Sw1)よりも広い軸線方向での当接範囲であるワーク側抑制用当接範囲(Sw2)で前記加工部位(4a)以外の部位で前記表面(4)に当接するものである。
これによれば、振れ抑制体は、押圧体によるワーク側加工用当接範囲よりも広いワーク側抑制用当接範囲でワークの表面における加工部位以外の部位に当接することから、ワーク側加工用当接範囲とワーク側抑制用当接範囲とが同じ場合に比べて、振れ抑制体によるワークの表面の変形を抑制できる。
【0013】
請求項7記載の発明は、ツール径を調整するツール径調整機構(50)を備える請求項1から6のいずれか1項記載のピーニング工具であって、前記作用部(13)は、径方向での前記押圧体(7)との当接位置が、軸線方向での前記リテーナ(40)に対する前記作用部(13)の位置に応じて変化する可変径部から構成され、前記ツール径調整機構(50)は、前記支持部材(20)に設けられた支持側当接部(24)または前記マンドレル(10)に設けられたマンドレル側当接部(52)に当接することにより、前記リテーナ(40)に対する前記作用部(13)の軸線方向移動量を規定するストッパ(51)を有し、前記ストッパ(51)は、軸線方向での位置が調整可能であると共に、前記支持側当接部(24)または前記マンドレル側当接部(52)との当接状態において軸線方向での位置が固定可能であるものである。
これによれば、作用部が、リテーナに対する軸線方向での位置に応じて径方向での押圧体との当接位置を変更する可変径部で構成されることから、同種の複数のワークが加工される場合において、ワークに対して加工上最適な加工時ツール径に設定された軸線方向位置で、ストッパが支持側当接部またはマンドレル側当接部に当接するように位置調整されて固定されることにより、1つのワークに対する加工終了後に、マンドレルを軸線方向に移動させてツール径を前記加工時ツール径から変更する必要があるときに、次のワークに対しては、ストッパが支持側当接部またはマンドレル側当接部に当接する位置までマンドレルを移動させればよいので、前記加工時ツール径の設定が容易になり、加工作業の効率が向上する。
【0014】
請求項8記載の発明は、ツール径を調整するツール径調整機構(50)を備える請求項1記載のピーニング工具による加工方法であって、前記リテーナ(40)が、前記ワーク(3)に設けられると共に前記表面(4)である内周面(4)を壁面としている穴(5)に挿入される挿入工程と、前記押圧体(7)が、前記穴(5)内において径方向で前記加工部位(4a)と対向する位置に位置決めされる位置決め工程と、前記位置決め工程で位置決めされた前記押圧体(7)が前記加工部位(4a)に当接するように、前記ツール径調整機構(50)によりツール径が調整されるツール径調整工程と、前記リテーナ(40)および前記本体(21)が前記回転防止部(36)により前記工具固定部材(60)に回転不能に固定されるリテーナ固定工程と、前記リテーナ固定工程で前記リテーナ(40)が固定され、かつ前記ツール径調整工程によりツール径が調整された状態で、前記マンドレル(10)が回転駆動されることにより、前記作用部(13)により駆動される前記押圧体(7)が前記加工部位(4a)を間欠的に押圧加工するピーニング加工工程とを含む加工方法である。
これによれば、リテーナ固定工程において押圧体を保持するリテーナが固定されるので、ワークの内周面における加工部位をピーニング工具により集中的に、かつ精度よく加工することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ワークの表面における特定の加工部位を集中的にピーニング加工することが可能なピーニング工具および加工方法が得られる。また、ピーニング工具において、ピーニング加工を行う押圧体を保持するリテーナを径方向で小型化できる。
そして、本発明によれば、さらに、押圧体による加工部位のピーニング加工時の加工部位からの反力によるマンドレルの作用部の振れを抑制することができ、さらに、該作用部の振れを抑制するための振れ抑制体によるワークの表面の変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態であるピーニング工具の全体図である。
【図2】図1の主にII−II線での要部断面図である。
【図3】図1のIII−III線断面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】図1のピーニング工具が治具に固定された状態を示す概略図である。
【図6】図5のVI−VI線断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態であるピーニング工具を示し、図6に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図1〜図7を参照して説明する。
図1〜図6は、本発明の第1実施形態を説明する図である。
図1を参照すると、本発明の第1実施形態であるピーニング工具1は、加工機2に装着されて使用される工具である。ここで、加工機2は、例えばマシニングセンタやボール盤を利用したものでもよいし、ピーニング工具1のための専用機であってもよい。
【0018】
ピーニング工具1は、加工機2が備える駆動源2aにより回転駆動されて回転中心線Lmを中心に回転するマンドレル10と、ワーク3(図5,図6参照)の表面としての内周面4における加工部位である開口縁4aに当接可能であると共に該開口縁4aを押圧して加工する第1所定数として1以上の、ここでは1つの押圧体としてのボール7と、マンドレル10が有する作用部13により径方向に駆動されるボール7を径方向に移動可能にかつ転動可能に保持するリテーナ40を有すると共にマンドレル10を回転可能に支持する支持部材20と、回転中心線Lmに対するボール7の径方向位置を示すツール径を調整可能とするツール径調整機構50とを備える。
【0019】
ここで、軸線方向は回転中心線Lmに平行な方向であるとし、径方向および周方向は、それぞれ回転中心線Lmを中心とする径方向および周方向であるとする。また、横断面とは、特に断らない限り、回転中心線Lmに直交する平面での断面であるとする。さらに、直交平面とは回転中心線Lmに直交する平面であり、外接円Coおよび内接円Ci(図3参照)は、前記直交平面上における回転中心線Lmを中心とする円であるとする。
【0020】
また、図5,図6に示されるように、いずれもワーク3に設けられた穴5および横穴6に関して、開口縁4aは、内周面4の一部であって、該内周面4を壁面として形成されている穴5に開口する別の穴としての横穴6の開口を形成している部分である。そして、この開口縁4aには、穴5に交差するように形成される交差穴である横穴6の形成時の加工屑としてのバリ(図示されず)が存在する。そこで、ピーニング工具1は、この実施形態では、ボール7により開口縁4aでのバリ取りを行うために使用される。
【0021】
図1,図2を参照すると、マンドレル10は、結合手段としてのネジ結合10cにより互いの結合部12a,12cにおいて分離可能に結合された駆動側マンドレル部10aおよび作用側マンドレル部10bから構成される。これにより、駆動側マンドレル部10aおよび作用側マンドレル部10bを別々に交換することができる。
マンドレル10は、該マンドレル10を回転させる回転力が駆動源2aから入力される入力部であると共に加工機2に装着されるシャンク11と、ボール7および後記ローラ27を径方向に移動させる作用部13と、軸線方向でマンドレル10の両端部であるシャンク11および作用部13の間に位置してシャンク11に入力された回転力を作用部13に伝達する中間部12とを有する。
なお、軸線方向のうち、シャンク11から作用部13に向かう方向を前進方向とし、前進方向とは反対方向を後退方向という。そして、前進方向および後退方向の一方を軸線方向での一方向とするとき、前進方向および後退方向の他方は軸線方向での他方向である。
【0022】
駆動側マンドレル部10aはシャンク11と駆動側中間部12bとを有し、作用側マンドレル部10bは作用部13と作用側中間部12dとを有する。そして、中間部12は、結合部12aを有すると共に駆動側マンドレル部10aにおいて作用側マンドレル部10b寄りの駆動側中間部12bと、結合部12cを有すると共に作用側マンドレル部10bにおいて駆動側マンドレル部10a寄りの作用側中間部12dとから構成される。
【0023】
作用部13と一体成形により一体化された作用側中間部12dは、支持部材20が有する支持部31,32を構成する第1,第2支持部31,32に回転可能に支持されると共に軸線方向に平行に移動可能に案内される被支持部12e,12fを有する。被支持部12e,12fは、第1支持部31に摺動可能に支持される第1被支持部12eと、第2支持部32に摺動可能に案内される第2被支持部12fとから構成される。
第1被支持部12eは、第2被支持部12fの外径よりも大きな外径を有する大径部から構成されるので、マンドレル10の剛性が高められて、マンドレル10の振れ、ひいては作用部13の振れが抑制される。第2被支持部12fは、作用部13の最大外径以上の外径の、ここでは該最大外径に等しく、かつ軸線方向に一定の外径の軸部から構成される。
【0024】
マンドレル10は、軸線方向で離隔している第1,第2支持部31,32により回転中心線Lmを中心に回転可能に支持されることにより、マンドレル10の振れ、ひいては作用部13の振れが抑制される。
また、支持部材20に対してマンドレル10が前進方向に移動するにつれて、第2支持部32と第2被支持部12fとの軸線方向での摺接範囲が大きくなって、第2支持部32による第2被支持部12fの支持範囲が大きくなるので、第2支持部32による作用部13の振れの抑制効果が高められる。
【0025】
図3,図4を参照すると、作用部13の外周部13bには、径方向外方に突出する複数としての3つの突出部14と、各突出部14よりも径方向内方に位置する複数としての3つの非突出部15とが、周方向に等しい間隔をおいて形成される。
そして、作用部13の外周面13aの横断面形状は、多角形状、この実施形態では六角形状である。ここで、このように多角形部で構成される作用部13の前記多角形状とは、突出部14および非突出部15が周方向に交互に配置されて形成される形状を意味し、多角形を形成する各辺がすべて直線である必要はないものとする。
【0026】
外周面13aは、突出部14が有する突出面14aおよび非突出部15が有する非突出面15aを有する。各突出面14aは、その横断面形状が回転中心線Lmを中心とする共通の円上の円弧で構成され、各非突出面15aは、横断面形状が前記円上において周方向で隣接する円弧間の弦により構成される。なお、突出部14および非突出部15の横断面形状は、それぞれ円弧または弦以外の形状であってもよい。
【0027】
ボール7およびローラ27に対して径方向内方に配置される作用部13は、軸線方向での位置に応じてボール7および各ローラ27が当接する外周面13aの径が変化する可変径部から構成される。したがって、作用部13においては、軸線方向での位置に応じて、ボール7および各ローラ27と作用部13との径方向での当接位置が変化する。
この実施形態では、外周面13aは、その径が前進方向に向かうにつれて減少し、ここでは一定の割合で減少する面として、テーパ面である突出面14aおよび傾斜平面である非突出面15aを有する。したがって、作用部13は、先端(または前進方向)に向かって先細となる。
そして、軸線方向での作用部13の形成範囲は、ツール径調整機構50により少なくとも後記ツール径の調整が行われる範囲である。
【0028】
図1,図2を参照すると、マンドレル10が挿通されている支持部材20は、マンドレル10を回転可能に支持する支持部31,32を有する本体21と、本体21から前進方向に延出しているリテーナ40と、マンドレル10の回転時にリテーナ40および本体21の回転を防止する回転防止部36と、開口縁4a(図6参照)の押圧加工の際にボール7に作用するワーク3からの反力(以下、「反力」という。)が該ボール7を通じて作用部13に加えられることで回転中心線Lmが変位してマンドレル10の作用部13が振れることを抑制する第2所定数として1以上の、ここでは複数としての2つの振れ抑制体としての同一形状のローラ27とを備える。ここで、第2所定数は第1所定数以上の数である。
【0029】
支持部材20は、支持部材20を通じてピーニング工具1が取り付けられて固定される工具固定部材としての治具60(図5参照)に載置される載置部としてのフランジ30を有するベース部材22と、前進方向側でベース部材22に結合される円筒状のフレーム23と、後退方向側でベース部材22に結合される円筒状のステム24とが、一体に結合されて構成される。
【0030】
本体21は、フランジ30のほかにボス部である結合部22aおよび第1支持部31を有するベース部材22と、フレーム23における結合部22aとの結合部23aとから構成される。そして、本体21は、フランジ30から後退方向に突出している円筒状の第1支持部31と、フレーム23の基部としての結合部23aである第2支持部32と、第1支持部31の外周に結合手段としてのネジ結合20cにより着脱可能に結合されて固定されるステム24とを有する。
【0031】
軸線方向で結合部22aおよび第2支持部32とステム24との間に位置するフランジ30は、治具60(図5参照)に軸線方向で当接した状態で載置される。
第1支持部31は、第1被支持部12eが軸線方向に移動可能に収容される横断面形状が円形の空間33を形成し、第1被支持部12eを有するマンドレル10を回転中心線Lmと同心状態で軸線方向に移動可能に案内する案内部を構成する。
【0032】
中間部12が挿通されているステム24は、第1支持部31と軸線方向で当接することにより支持部材20に対するマンドレル10(したがって、作用部13)の後退方向での移動を規制して、最大後退位置(図1,図2に実線で示される。)を設定すると共に、ツール径調整機構50のストッパ51と軸線方向で当接することで、支持部材20に対するマンドレル10の前進方向での最大前進位置を設定する位置決め部である。このように、1つの部材であるステム24によりマンドレル10の前進方向および後退方向での最大移動位置が設定されることで、ピーニング工具1を軸線方向で小型化できる。
【0033】
リテーナ40および第2支持部32(結合部23a)を有する円筒状のフレーム23は、作用部13および第2被支持部12fが軸線方向に挿通可能な挿通空間としての挿通穴34(図3,図4も参照)を形成している。そして、フレーム23は、結合部23aにおいて結合部22aに結合手段としての止めネジ25により結合されることで、軸線方向で大部分が一定の外径を有する軸状のリテーナ40が本体21と一体化される。
空間33に連なると共に軸線方向に平行に直線状に延びている挿通穴34は、横断面形状が円形の円穴であり、第1被支持部12eが軸線方向に移動可能に配置される空間33よりも小径である。
【0034】
図1〜図4を参照すると、いずれも転動体であって加工用転動体であるボール7および振れ抑制用転動体であるローラ27を保持するリテーナ40には、その先端寄りに、ボール7およびローラ27がそれぞれ収容される複数としての3つの収容空間41,42が周方向に間隔をおいて設けられる。
径方向で突出部14に対向可能な位置に配置された収容空間41,42は、ボール7が収容される1以上の第1収容空間41と、ローラ27が収容される複数としての2つの第2収容空間42とから構成される。各収容空間41,42は、リテーナ40を径方向に貫通する空間であり挿通穴34に開口している。
【0035】
図1,図2,図5を参照すると、フランジ30において、マンドレル10およびリテーナ40に対して径方向外方に配置された回転防止部36は、フランジ30に固定手段としての止めネジ37により固定されて設けられた円柱状の部材であり、治具60(図5参照)に設けられた係止部としての係合穴61aに挿入されることにより、治具60に固定され、リテーナ40および本体21の回転を阻止する。回転防止部36により、リテーナ40および本体21を含めて、支持部材20が治具60に回転不能に取り付けられる。
【0036】
図5,図6を参照すると、内周面4により形成される穴5が設けられたワーク3は、治具60に固定される載置台65に位置決めされて固定される。
ワーク3の内周面4は、回転中心線Lmに平行な中心軸線Lwを有すると共に該中心軸線Lwに直交する平面での断面形状が円である。
治具60は、載置台65が固定される基台61と、フランジ30が載置される工具支持部としての支持プレート62と、基台61に対して支持プレート62を支持する中間支持部としての複数の脚部63とを有する。
載置台65は、治具60に対して、軸線方向、径方向および周方向でのワーク3の位置を調整可能とするワーク位置調整部(図示されず)を有する。該ワーク位置調整部は、例えば位置調整用のネジ構造を有する。そして、該ワーク位置調整部による位置調整で、治具60に固定された状態のピーニング工具1に対して、ワーク3の開口縁4aの位置決めを行うことができる。
【0037】
図3を参照すると、ボール7による加工位置またはボール7の径方向位置を示すツール径は、突出部14の外周面14aに接触しているボール7の、回転中心線Lmから径方向で最も離れている最大離隔点7aと回転中心線Lmとの間の距離と、突出部14の外周面14aに接触しているローラ27の、回転中心線Lmから径方向で最も離れている最大離隔点27aと回転中心線Lmとの間の距離との和である。
【0038】
図1,図2を参照すると、該ツール径を調整すべくリテーナ40に対して作用部13を前進方向および後退方向に移動可能とするツール径調整機構50は、支持部材20に設けられた支持側当接部であるステム24に軸線方向で当接可能なストッパ51と、リテーナ40に対してマンドレル10および作用部13を軸線方向に相対移動可能に案内する案内部でもある第1支持部31とを有する。ストッパ51は、リテーナ40に対する作用部13の軸線方向移動量を規定する。なお、図3,図4には、作用部13が前記最大後退位置から前進方向に移動した状態が、二点鎖線で示されている。
【0039】
軸線方向でステム24とシャンク11との間に配置されると共に軸線方向での位置が調整可能にマンドレル10に設けられるストッパ51は、ステム24に当接可能なマンドレル側当接部52と、マンドレル10に対する軸線方向でのマンドレル側当接部52の位置を調整可能な調整部としての調整リング53と、マンドレル側当接部52に対して調整リング53を回転可能とするための軸受54とを有する。
【0040】
マンドレル側当接部52は、スラスト軸受である軸受54を介して、回転中心線Lmを中心に回転可能に調整リング53に支持される。このため、マンドレル側当接部52は、ステム24と当接していない非当接状態では調整リング53と共にマンドレル10と一体に回転する一方、マンドレル側当接部52がステム24に当接した当接状態では、マンドレル側当接部52は調整リング53と一体に回転することなく、調整リング53のみがマンドレル10と一体に回転する。
【0041】
マンドレル10に対して軸線方向での位置が調整可能に設けられる調整リング53は、マンドレル側当接部52と一体に軸線方向に移動可能であると共に、駆動側中間部12bの外周に設けられたネジ部55に螺合していて、固定手段としての止めネジ56により、マンドレル10に対して固定および固定解除可能に設けられる。
したがって、ストッパ51は、軸線方向での位置が調整可能であると共に、ステム24との当接状態において軸線方向での位置が固定可能である。
【0042】
図3,図4を参照すると、作用部13の突出部14のテーパ角の1/2に設定されたテーパ角を有する各ローラ27は、ボール7に対して、最大離隔点7aを含むと共に回転中心線Lmに直交する基準直交平面Pと交わる位置に配置される。各ローラ27は、開口縁4aを押圧しているボール7が突出部14に当接している作用部13における別の突出部14に当接して、ワーク3からの反力に起因する作用部13、したがってマンドレル10の振れを抑制する。
【0043】
作用部13のこの振れは、ボール7は1つであることに起因して発生する。したがって、押圧体であるボール7は、該ボール7に作用する反力(つまり、作用部13に作用する反力)が釣り合わない形態で配置されているか、または、反力が作用部13の振れを発生させる形態で配置されている。
なお、ピーニング工具1が複数の押圧体を備える場合、該複数の押圧体は、複数の押圧体に作用する反力(つまり、作用部13に作用する反力)が釣り合わない形態で配置されているか、または、反力が作用部13の振れを発生させる形態で配置されている。そして、このような形態の配置として、例えば複数の押圧体が周方向で不等間隔に配置されている場合がある。
【0044】
また、図3を参照すると、基準直交平面P近傍で、ボール7の径はローラ27の径よりも大きい。
そして、ボール7およびローラ27は、突出部14において外周面13a上で同一の内接円Ciに内接し、各ローラ27に外接する外接円Co2は、ボール7に外接する外接円Co1よりも小さい。
図6を併せて参照すると、ボール7は、非突出部15に当接している状態では、周方向で突出部14に近づくとき次第に大きくなる押圧力で開口縁4aを押圧し、突出部14に当接している状態で最大の押圧力で開口縁4aを押圧する。同様に、各ローラ27は、非突出部15に当接している状態では、周方向で突出部14に近づくとき次第に大きくなる押圧力で、内周面4における開口縁4a以外の部位である非加工部位を押圧し、突出部14に当接している状態で最大の押圧力で前記非加工部位を押圧する。
【0045】
図4に示されるように、ローラ27は、開口縁4aを押圧加工しているボール7が突出部14に当接している状態で別の各突出部14に、ボール7と突出部14との軸線方向での当接範囲であるマンドレル側加工用当接範囲Sm1を含むと共にマンドレル側加工用当接範囲Sm1よりも広い軸線方向での当接範囲であるマンドレル側抑制用当接範囲Sm2で当接する。
また、図5に示されるように、ローラ27は、ボール7と開口縁4aとの軸線方向での当接範囲であるワーク側加工用当接範囲Sw1よりも広い軸線方向での当接範囲であるワーク側抑制用当接範囲Sw2で前記非加工部位に当接する。
【0046】
また、ボール7およびローラ27は、耐久性向上の観点から、超硬またはセラミックスから形成される。さらに、ボール7およびローラ27には、耐久性を向上させるための表面処理、例えばDLC(ダイヤモンド状炭素膜)、TiN(窒化チタン)またはTiCN(炭化窒化チタン)のコーティングが施されてもよい。
【0047】
図1,図2,図5,図6を参照して、ピーニング工具1によるワーク3の内周面4の加工方法について説明する。
先ず、準備工程において、加工機2(図1参照)に装着されたマンドレル10は第1被支持部12eがステム24に当接するまで後退方向に移動させられて、ステム24とストッパ51のマンドレル側当接部52との軸線方向での間隔Aが最大になり、マンドレル10および該マンドレル10と一体の作用部13が支持部材20に対して最大後退位置を占める。このため、ツール径は最小ツール径になる。
【0048】
挿入工程において、治具60の支持プレート62の挿入穴62bに対してリテーナ40からピーニング工具1が挿入され、さらに載置台65に載置されたワーク3の穴5にリテーナ40が挿入され、支持部材20のフランジ30が支持プレート62の上面に軸線方向で当接するまで、ピーニング工具1が移動させられる。
続く位置決め工程において、フランジ30が支持プレート62に当接した状態で、軸線方向および周方向で、ボール7が内周面4の開口縁4aと同じ位置に位置決めされるように、載置台65の前記ワーク位置調整部によるワーク3の位置調整が行われる。この位置決め工程により、回転中心線Lm(したがって、軸線方向)が上下方向に平行になり、回転中心線Lmと中心軸線Lwとが一致する。
【0049】
続くツール径調整工程において、突出部14に当接するボール7が横穴6の開口を塞ぐように開口縁4aに当接すると共に、各ローラ27が内周面4に当接する位置まで、ツール径調整機構50によりツール径が拡大するように、マンドレル10が第1,第2支持部31,32に案内されて前進方向に移動させられる。このとき、載置台65上でのワーク3の径方向位置が調整されて、ワーク3が載置台65に固定されて、ワーク3の位置決めが終了する。なお、図5には、最大後退位置にあるときの作用部13、マンドレル10およびストッパ51が二点鎖線で示されている。
このとき、ツール径は、開口縁4aをピーニング加工するための最適な加工用ツール径に設定される。
なお、ストッパ51の別の使用方法として、この状態で、止めネジ56(図2参照)が緩められて、マンドレル側当接部52をステム24に当接させるために、ストッパ51が軸線方向に移動するように、マンドレル10に対して固定解除され、ステム24に当接したとき止めネジ56を締め付けることでマンドレル10に固定されてもよい。
【0050】
その後、リテーナ40および本体21を含む支持部材20のリテーナ固定工程において、ツール径が前記加工用ツール径に設定された状態で、回転防止部36が治具60の係止部の係合穴61aに挿入されて、止めネジ37(図2参照)により回転防止部36がフランジ30に固定される。これにより、リテーナ40を含む支持部材20が、回転防止部36により、治具60に回転不能に固定される(図5参照)。
【0051】
続くピーニング加工工程において、駆動源2aによりマンドレル10が、所定の回転速度、例えば500〜600rpmで、所定加工時間に亘って回転駆動されて、作用部13により駆動されるボール7が、突出部14および非突出部15により交互に収容空間41,42内で径方向に出没して、突出部14により径方向外方に間欠的に移動したとき、衝撃的に開口縁4aを押圧して、開口縁4aに対してピーニング加工が行われて、開口縁4aのバリ取りが行われる。
【0052】
前記所定加工時間が経過したとき開口縁4aに対するピーニング加工を終了すべく、マンドレル10の回転が停止される。その後、マンドレル10が後退方向に移動させられて、ツール径調整機構50によりツール径が縮小され、止めネジ37が外されて回転防止部36がフランジ30から取り外される。次いで、ピーニング工具1が治具60から外されて、ワーク3の加工が終了する。
次いで、同種のワーク3を加工する場合には、前記ツール径調整工程において、ストッパ51をステム24に当接する位置までマンドレル10を移動させることで、前記加工用ツール径が得られる。その後、リテーナ固定工程を経て、ピーニング加工工程で該ワーク3が加工される。
【0053】
以下、前述のように構成された実施形態の作用および効果について説明する。
回転する作用部13により径方向に駆動されたボール7が内周面4の開口縁4aをピーニング加工するピーニング工具1において、支持部材20は、マンドレル10を回転可能に支持する第1,第2支持部31,32を有する本体21と、マンドレル10の回転時にリテーナ40および本体21の回転を防止すべく治具60の支持プレート62に固定される回転防止部36とを備え、リテーナ40は、本体21から軸線方向に延出していると共に、ボール7を軸線方向で第1,第2支持部31,32から離隔した位置で保持する。
この構造により、マンドレル10の作用部13により駆動されてワーク3の開口縁4aをピーニング加工するボール7を保持するリテーナ40は、治具60に固定される回転防止部36により、マンドレル10の回転時に回転しない状態に維持される。この結果、ワーク3が固定されている場合、その内周面4における周方向での特定の加工部位である開口縁4aを集中的にピーニング加工することができる。
さらに、作用部13を有するマンドレル10は、支持部材20が有する本体21の第1,第2支持部31,32に回転可能に支持される一方、リテーナ40は、本体21から軸線方向に延出していると共に、第1,第2支持部31,32から軸線方向で離隔した位置でボール7を保持する。この結果、作用部の支持部と押圧体(ボール7に相当)とが軸線方向で同じ位置に配置される場合に比べて、ボール7を回転中心線Lmに近づけて配置することができるので、ボール7を保持するリテーナ40を径方向で小型化できる。このため、穴5の径が小さい場合にも、内周面4でのピーニング加工が可能になる。
【0054】
マンドレル10は、加工機2の駆動源2aからの回転力が入力されるシャンク11を有し、第1,第2支持部31,32は、軸線方向で作用部13とシャンク11との間においてマンドレル10を支持することにより、マンドレル10を回転可能に支持する第1,第2支持部31,32を有する支持部材20の本体21は、マンドレル10において回転力が入力されるシャンク11と作用部13との間において、回転防止部36が固定される治具60に固定状態で支持される。この結果、マンドレル10の振れ(したがって作用部13の振れ)、ひいてはピーニング工具1の振れが治具60により抑制されて、加工精度の向上が可能になる。
【0055】
支持部材20は、ピーニング加工時の開口縁4aからの反力による作用部13の振れを抑制するローラ27を備え、作用部13は、ボール7およびローラ27に対して径方向内方に配置され、ボール7およびローラ27は、同一の内接円Ciに内接する状態で作用部13に当接し、ローラ27に外接する外接円Co2は、ボール7に外接する外接円Co1よりも小さい。
この構造により、回転中心線Lmに対する径方向での位置に関して、ローラ27の最大離隔位置がボール7の最大離隔位置よりも回転中心線Lmに近い分、ワーク3の内周面4に対するローラ27の押込み量を該内周面4に対するボール7の押込み量よりも小さくできるので、ローラ27によるワーク3の表面の変形を抑制できる。
【0056】
ボール7は、開口縁4aからの反力による作用部13の振れを発生させる形態で配置され、ローラ27は、開口縁4aを押圧加工しているボール7が当接している作用部13に、軸線方向において、マンドレル側加工用当接範囲Sm1を含むと共にマンドレル側加工用当接範囲Sm1よりも広いマンドレル側抑制用当接範囲Sm2で当接する。
これにより、ワーク3の開口縁4aからの反力が加えられる作用部13に対するローラ27による支持範囲を大きくできるので、ローラ27による作用部13の振れの抑制効果が高められて、加工精度の向上が可能になる。
【0057】
各ローラ27は、ボール7によるワーク側加工用当接範囲Sw1よりも広いワーク側抑制用当接範囲Sw2で、加工部位である開口縁4a以外の部位である非加工部位においてワーク3の内周面4に当接するので、ワーク側加工用当接範囲Sw1とワーク側抑制用当接範囲Sw2とが同じ場合に比べて、各ローラ27によるワーク3の内周面4の変形を抑制できる。
【0058】
作用部13は、径方向でのボール7との当接位置が、軸線方向でのリテーナ40に対する作用部13の位置に応じて変化する可変径部から構成され、ツール径調整機構50は、マンドレル10を軸線方向に移動可能に案内する案内部である第1支持部31を有し、該第1支持部31によりマンドレル10が軸線方向に案内されるので、ツール径を調整するためのマンドレル10の軸線方向移動が容易になり、ツール径の調整が容易になる。
【0059】
ツール径調整機構50は、支持部材20に設けられたステム24に当接することにより、リテーナ40に対する作用部13の軸線方向移動量を規定するストッパ51を有し、ストッパ51は、軸線方向での位置が調整可能であると共に、ステム24との当接状態において軸線方向での位置が固定可能である。
この構造により、作用部13が、リテーナ40に対する軸線方向での位置に応じて径方向でのボール7との当接位置を変更する可変径部で構成されることから、同種の複数のワーク3が加工される場合において、ワーク3の加工上最適な加工時ツール径に設定された軸線方向位置で、ストッパ51がステム24に当接するように位置調整されて固定されることにより、1つのワーク3に対する加工終了後に、マンドレル10を軸線方向に移動させてツール径を前記加工時ツール径から変更する必要があるときに、次のワーク3に対しては、ストッパ51がステム24に当接する位置までマンドレル10を移動させればよいので、前記加工時ツール径の設定が容易になり、加工作業の効率が向上する。
【0060】
ボール7が穴5内において径方向で加工部位と対向する位置に位置決めされる位置決め工程で位置決めされたボール7が開口縁4aに当接するように、ツール径調整機構50によりツール径が調整され、次いで、リテーナ固定工程においてリテーナ40および本体21が回転防止部36により治具60に回転不能に固定された後にマンドレル10が回転駆動されてボール7が開口縁4aをピーニング加工することにより、リテーナ40固定工程においてボール7を保持するリテーナ40が固定されるので、ワーク3の内周面4における開口縁4aをピーニング工具1により集中的に、かつ精度よく加工することができる。
【0061】
次に、図7を参照して、本発明の第2実施形態を説明する。この第2実施形態は、第1実施形態とは、ボール7とローラ27との相対的外径および配置と、ワーク3に対するピーニング工具1の配置とが主に相違し、その他は基本的に同一の構成を有するものである。そのため、同一の部分についての説明は省略または簡略にし、異なる点を中心に説明する。なお、第1実施形態の部材と同一の部材または対応する部材については、必要に応じて同一の符号を使用した。
図4に示されるように、基準直交平面P上でボール7およびローラ27が共通の外接円を有していてもよい。この場合、基準直交平面P近傍で、ボール7の径とローラ27の径とはほぼ等しい。そして、前記リテーナ固定工程において、穴5内に挿入されたリテーナ40は、回転防止部36により、回転中心線Lmが中心軸線Lwに対して開口縁4a寄りに所定量だけオフセットした位置を占めるように位置決めされる。そして、前記所定量は、開口縁4aでの所要の加工量が得られるように設定される。
この第2実施形態によれば、前記相違点による作用効果を除いて、第1実施形態と同様の作用効果が奏されるほか、次の作用効果が奏される。
リテーナ40は、回転防止部36により、回転中心線Lmが穴5の中心軸線Lwに対して開口縁4a寄りにオフセットした位置を占めるように位置決めされることにより、回転中心線Lmに対する径方向での位置に関して、ローラ27の最大離隔位置をボール7の最大離隔位置よりも中心軸線Lwに近づけることができる分だけ、ワーク3の内周面4に対するローラ27の押込み量の減少が可能になるので、ローラ27によるワーク3の内周面4の変形を抑制できる。
【0062】
以下、前述した実施形態の一部の構成を変更した実施形態について、変更した構成に関して説明する。
ピーニング工具1は、バリ取り以外に、例えば、ワーク3の表面の加工部位において、表面硬度の増大や圧縮残留応力による疲労強度の向上のために使用されてもよい。ワーク3は熱交換器などの管状部材であってもよい。
ステム24は、軸線方向での位置が調整可能に第1支持部31に結合されていてもよく、これにより、ステム24とストッパ51との軸線方向間隔Aを調整できる。
押圧体はローラであってもよい。また、1つの第2収容空間42に、振れ抑制体として、ボールおよびローラの少なくとも一方から構成される転動体が複数個収容されてもよい。
ツール径調整機構50において、ステム24が、ストッパ51と同様のストッパとして、支持部材20に軸線方向での位置が調整可能に設けられてもよい。この場合、該ストッパは、マンドレル10に設けられたマンドレル側当接部52に当接することにより、リテーナ40に対する作用部13の軸線方向移動量を規定し、マンドレル側当接部52との当接状態において軸線方向での位置が固定可能である。
押圧体および振れ抑制体は、ボール7やローラ27など作用部13の外周面13aに沿って転動可能な転動体以外の部材、径方向に沿う軸線を有する柱状体(例えば、径方向での両端部(それぞれワーク3および作用部13との当接部となる部分。)が球面状の円柱)などであってもよい。
回転中心線Lmを中心にワーク3が回転してもよい。この場合にも、リテーナ40が回転しないため、リテーナ40が回転する場合に比べて、マンドレル10およびワーク3の回転速度の設定により、ワーク3の表面における周方向での特定の加工部位を精度よくピーニング加工することができる。
作用部13は、進出方向に向かって拡径する形状であってもよい。
回転防止部36は、フレーム23またはリテーナ40に設けられてもよい。
軸線方向におけるワークに対するピーニング工具の位置決めを調整可能とするために、治具60が、基台61に対する軸線方向での支持プレート62の位置を調整可能とする治具位置調整部(図示されず)を有していてもよい。例えば位置調整用のネジ構造を有する前記治具位置調整部は、各脚部63に、または支持プレート62と各脚部63との間に設けられる。そして、ピーニング工具1による加工工程のうちの位置決め工程において、軸線方向でボール7が開口縁4aと同じ位置に位置決めされるように、前記治具用位置調整部により、軸線方向での支持プレート62の位置調整、したがってピーニング工具1の位置調整が行われてもよい。
作用部の径方向内方にリテーナ、押圧体および振れ抑制体が配置され、リテーナ、押圧体および振れ抑制体の径方向内方にワークの表面(例えば外周面)が配置されてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 ピーニング工具
3 ワーク
4 内周面(表面)
4a 開口縁(加工部位)
5 穴
6 横穴
7 ボール(押圧体)
10 マンドレル
13 作用部
20 支持部材
21 本体、
27 ローラ(振れ抑制体)
31,32 支持部
36 回転防止部
40 リテーナ
50 ツール径調整機構
51 ストッパ
52 マンドレル側当接部
60 治具(工具固定部材)
Lm 回転中心線
Lw 中心軸線、
Ci 内接円
Co1,Co2 外接円
Sm1,Sm2 マンドレル側当接範囲
Sw1,Sw2 ワーク側当接範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの表面における加工部位に当接する押圧体と、前記押圧体を径方向に駆動する作用部を有すると共に駆動源により回転駆動されて回転中心線を中心に回転するマンドレルと、前記押圧体を径方向に移動可能に保持するリテーナを有する支持部材とを備え、回転する前記作用部により径方向に駆動された前記押圧体が前記加工部位を間欠的に押圧加工するピーニング工具において、
前記支持部材は、前記マンドレルを回転可能に支持する支持部を有する本体と、前記マンドレルの回転時に前記リテーナおよび前記本体の回転を防止すべく工具固定部材に固定される回転防止部とを備え、
前記リテーナは、前記本体から軸線方向に延出していると共に、前記押圧体を軸線方向で前記支持部から離隔した位置で保持することを特徴とするピーニング工具。
【請求項2】
請求項1記載のピーニング工具であって、
前記マンドレルは、前記駆動源からの回転力が入力される入力部を有し、
前記支持部は、軸線方向で前記作用部と前記入力部との間において前記マンドレルを支持することを特徴とするピーニング工具。
【請求項3】
請求項1または2記載のピーニング工具であって、
前記支持部材は、前記押圧体を通じて作用する前記加工部位からの反力による前記作用部の振れを抑制する振れ抑制体を備え、
前記作用部は、前記押圧体および前記振れ抑制体に対して径方向内方に配置され、
前記押圧体および前記振れ抑制体は、前記回転中心線を中心とした同一の内接円に内接する状態で前記作用部に当接し、
前記振れ抑制体に外接する前記回転中心線を中心とした外接円は、前記押圧体に外接する前記回転中心線を中心とした外接円よりも小さいことを特徴とするピーニング工具。
【請求項4】
請求項1または2記載のピーニング工具であって、
前記支持部材は、前記押圧体を通じて作用する前記加工部位からの反力による前記作用部の振れを抑制する振れ抑制体を備え、
前記表面は、前記回転中心線に平行な中心軸線を有すると共に前記中心軸線に直交する平面での断面形状が円である内周面であり、
前記リテーナは、前記回転防止部により、前記回転中心線が前記中心軸線に対して前記加工部位寄りにオフセットした位置を占めるように位置決めされることを特徴とするピーニング工具。
【請求項5】
請求項1または2記載のピーニング工具であって、
前記押圧体は、前記押圧体を通じて作用する前記加工部位からの反力による前記作用部の振れを発生させる形態で配置され、
前記支持部材は、前記押圧体を通じて作用する前記加工部位からの反力による前記作用部の振れを抑制する振れ抑制体を備え、
前記振れ抑制体は、前記加工部位を押圧加工している前記押圧体が当接している前記作用部に、前記押圧体と前記作用部との軸線方向での当接範囲であるマンドレル側加工用当接範囲を含むと共に前記マンドレル側加工用当接範囲よりも広い軸線方向での当接範囲であるマンドレル側抑制用当接範囲で当接することを特徴とするピーニング工具。
【請求項6】
請求項5記載のピーニング工具であって、
前記振れ抑制体は、前記押圧体と前記加工部位との軸線方向での当接範囲であるワーク側加工用当接範囲よりも広い軸線方向での当接範囲であるワーク側抑制用当接範囲で前記加工部位以外の部位で前記表面に当接することを特徴とするピーニング工具。
【請求項7】
ツール径を調整するツール径調整機構を備える請求項1から6のいずれか1項記載のピーニング工具であって、
前記作用部は、径方向での前記押圧体との当接位置が、軸線方向での前記リテーナに対する前記作用部の位置に応じて変化する可変径部から構成され、
前記ツール径調整機構は、前記支持部材に設けられた支持側当接部または前記マンドレルに設けられたマンドレル側当接部に当接することにより、前記リテーナに対する前記作用部の軸線方向移動量を規定するストッパを有し、
前記ストッパは、軸線方向での位置が調整可能であると共に、前記支持側当接部または前記マンドレル側当接部との当接状態において軸線方向での位置が固定可能であることを特徴とするピーニング工具。
【請求項8】
ツール径を調整するツール径調整機構を備える請求項1記載のピーニング工具による加工方法であって、
前記リテーナが、前記ワークに設けられると共に前記表面である内周面を壁面としている穴に挿入される挿入工程と、
前記押圧体が、前記穴内において径方向で前記加工部位と対向する位置に位置決めされる位置決め工程と、
前記位置決め工程で位置決めされた前記押圧体が前記加工部位に当接するように、前記ツール径調整機構によりツール径が調整されるツール径調整工程と、
前記リテーナおよび前記本体が前記回転防止部により前記工具固定部材に回転不能に固定されるリテーナ固定工程と、
前記リテーナ固定工程で前記リテーナが固定され、かつ前記ツール径調整工程によりツール径が調整された状態で、前記マンドレルが回転駆動されることにより、前記作用部により駆動される前記押圧体が前記加工部位を間欠的に押圧加工するピーニング加工工程とを含むことを特徴とする加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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