説明

フィブリンのシール性を向上させるための方法

本発明は、フィブリンマトリクス、その調製法、及び、粘膜又は他の湿性組織の欠損を効果的にシールするためのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール特性が向上したフィブリンマトリクス、その調製法、及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
フィブリンシーラントは通常、商業的な供給元又は特定の地域の輸血センターより入手される血液製剤である。フィブリンシーラントの調製に一般的に使用される成分は、主として、異なる量の第VIII因子、第XIII因子、フィブロネクチン、ビトロネクチン、及びフォンビルブランド因子(vWF)を添加したフィブリノーゲンである。フィブリノーゲン成分は、血液凝固カスケードの最後のプロテアーゼであるトロンビンによって通常は活性化される。
【0003】
フィブリンシーラントは、とりわけフィブリノーゲン、トロンビン、及び第XIII因子が関与する酵素反応によって生成される。トロンビンは、トロンビンの濃度によって決まる速度で酵素作用によりフィブリノーゲンをフィブリンに変換する。第XIII因子は、シーラントのフィブリノーゲン成分中に通常は存在し、フィブリン凝塊を架橋して安定化させる血液凝固系の酵素である。このプロセスは、通常の血液凝固の過程の多くを迂回し、その最終段階を模倣するものである。一部の製造者は、フィブリンシーラント製剤に抗タンパク質分解物質を添加する(国際特許出願公開第WO 93/05822号に述べられる)か、あるいは、フィブリン溶解を停止又は遅らせるために特にプラスミノーゲンを除去することを行っている(米国特許第5,792,835号及び米国特許第7,125,569号に述べられる)。
【0004】
米国特許第4,427,650号は、乾燥した粉末状混合物として創傷又は手術領域に直ちにかつ直接塗布することが可能な組織接着剤を開示している。この接着剤は、固体、粉末状の生物学的活性成分から構成され、大部分が低温不溶性グロブリンから遊離した60〜96重量%のフィブリノーゲン、0.05〜5重量%のフィブリン溶解阻害剤、並びに0.1〜15重量%のトロンビン及び/又はプロトロンビンを含有している。
【0005】
米国特許第5,962,405号は、組織接着剤として使用するためのフィブリノーゲン溶液を調製するための凍結乾燥されたフィブリノーゲン製剤を開示している。このフィブリノーゲン製剤は、溶解度改善物質を含有している。
【0006】
フィブリンシーラントは、人の開放創などの創傷に塗布されて、創傷を閉鎖し、出血を止め、感染因子などの他の物質の創傷への侵入を防止しうることが以前から知られている。
【0007】
例えば消化管組織及び肺組織などの常に動いている組織の欠損をシールするフィブリンシーラントの効果が報告されている。しかしながら、これらの報告には矛盾点がある。
【0008】
消化管切除後のステープル又は縫合(ステープル/縫合)線における漏出などの術後欠陥を低減するための報告されている手法の1つは、ステープル/縫合線強化材を用いることである。様々なステープル/縫合線強化製品が市販されている。例えば、Seamguard(登録商標)、Peristrips Dry(登録商標)、及びSurgisis(登録商標)などの非吸収性又は半吸収性のステープル線強化製品が医師によって試されてきた。しかしながら、早期の実験及び臨床研究では、吸収性のステープル線強化材料は、非吸収性又は半吸収性のステープル線強化材料と比較して大きな利点を有しているようであった(Yo et al.「Buttressing of the staple line in gastrointestinal anastomoses:overview of new technology designed to reduce perioperative complications」.Dig Surg.2006;23:283〜291)。消化管の術後漏出を防止するための吸収性ステープル線強化材としてフィブリンを使用した最近の報告(Fullum et al.「Decreasing anastomotic and staple line leaks after laparoscopic Roux−en−Y gastric bypass」.Surg Endosc.2009;23:1403〜1408;Efthimiou et al.「Fibrin sealant associated with increased body temperature and leukocytosis after laparoscopic gastric bypass」.Surg Obes Relat Dis.2009 Mar 17)では、現在のフィブリンシーラント製剤は、ステープル/縫合線強化材としては適当ではないことが示唆されている。
【0009】
米国特許第5,690,675号は、創傷に隣接した領域に締結具(例えばステープル、クリップ、ピン、フック)を適用することから基本的になる2工程の方法によって肺組織の創傷を閉鎖することを開示しており、この方法では締結具が貫通創を生じうる。締結具は、コラーゲン、フィブリン、フィブリノーゲン、エラスチン、アルブミン、又はこれらの組み合わせの予め形成された層内に置かれ、上記領域にエネルギーを印加することによって材料を組織と融合させて組織内の穿孔をシールする。
【0010】
米国特許第5,883,078号は、フィブリノーゲンと、プロトロンビンの活性化因子又は活性化因子前駆体とを含む安定的な組織接着剤を開示している。この接着剤は、液体又は乾燥製剤として存在しうる。一実施形態では、固体の両面接着性組織接着剤が、固体状の乾燥接着剤を創傷表面に塗布することによって調製され、次いで第2の創傷表面(第2の組織部分)を適合させて短時間の間、互いに押し付ける。この製剤は、存在する血液及び/又は創傷分泌物によって即座に溶解した後、凝固の開始とともに固化することにより、接着及び止血効果が得られる。この固体の両面接着性組織接着剤は、肝臓又は脾臓などの軟組織の部分同士を接合するのに特に適している。
【0011】
Lillemoeら[(2004)J Gastrointest Surg.,Vol.8,No.7 pp 766〜774「Does Fibrin Glue Sealant Decrease the Rate of Pancreatic Fistula After Pancreaticoduodenectomy?Results of a Prospective Randomized Trialと題する学術論文]は、膵管吻合部の表面に対するフィブリン糊シーラントの局所的塗布は、膵十二指腸切除術後の患者における膵液瘻又は全体的な合併症の発生率を低下させないことを示しており、こうした状況下でのこの物質の使用による利点はない、と結論づけている。
【0012】
別の研究(「The sealing effect of fibrin glue against alveolar air leakage evaluated up to 48h;comparison between different methods of application」Kawamura et al.(2005)Eur J of Cardiothorac Surg.28(1):39〜42)は、動物モデルにおける肺胞の空気漏れに対するフィブリン糊のシール効果について開示しており、異なる塗布方法の評価を行っている。フィブリノーゲンを含むタンパク質濃縮物からなる溶液Aと、トロンビンを含む溶液Bとを使用した。この擦りつけ及びスプレー法では、空気漏れ領域に溶液Aを垂らして静かに擦りつけた。次に両方の溶液を混合エアロゾルとして同時にスプレーした。別の方法では、空気漏れ表面に溶液Aを垂らした後、溶液Bを垂らして2重層を調製した。別の方法では、乾燥フィブリノーゲン及びトロンビンを一方の側面にコーティングしたコラーゲンフリース(TachoComb)を動物(イヌ)モデルにおいて使用し、24時間後に確認した。著者らによると、フィブリン糊のシール効果は、その塗布後12時間後まで比較的不安定である。更に、著者らは、擦りつけ及びスプレー法では、他の2方法と比較してフィブリンシールがその最大強度に速やかに達しやすくなる、と結論づけている。
【0013】
Yoら(2006)(Dig Surg 23:283〜291)による別の研究は、消化管切除術を行う際にステープル線における出血又は漏出などの吻合の合併症を低減するための試みについて開示している。Yoは、ラット結腸吻合術の動物モデルにおいて、漏出をシール及び防止するためのフィブリン糊の塗布は、現実的な方法ではないようであると示唆している。胃切除術では、ステープル線を支持及びシールするためのフィブリン糊の塗布は、より効果的であると開示している。
【0014】
米国特許第7,196,054号は、患者の創傷組織を治療するための方法であって、トロンビン、第XIII因子、Ca2+、及び水溶液の存在下でフィブリンマトリクスを形成する量のフィブリノーゲンを含む乾燥粉末状の組成物を損傷組織に塗布することと、当該組成物に、フィブリノーゲンの存在下でフィブリンマトリクスを形成する量のトロンビン、第XIII因子、Ca2+及び水溶液を与えることとを含む方法を開示している。
【0015】
Fullumら(2009)は、肥満患者において、腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術(LRYGB)後に吻合及びステープル線の漏出(ASL)が生じることを開示している。フィブリンシーラントは胃のステープル線に沿って置かれていた。著者らは、適切なステープルサイズ、ステープル線強化、手縫い手術閉鎖、保定縫合(stay suture)、術中漏出試験、及びフィブリンシーラントを含む手術法は、LRYGB後のASLの発生率を低下させるうえで効果的であった、と結論づけている。著者らは、ASLの防止においていずれか1つの要素が最も重要であるならそれが何であったかについては決定しえなかった。
【0016】
これに対して、Efthimiouら(2009)は、フィブリンシーラントの使用は、LRYGBにおける吻合又はステープル線の漏出になんらの効果も有さなかったことを開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
例えば消化管組織及び肺組織などの常に動いている組織の欠損をシールするための優れたフィブリンシーラント製剤が依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
フィブリンシーラントの主な現在の用途は止血を目的としたものである。この作用は、創傷領域を覆う血液中に存在する、例えばフィブリノーゲンなどの自家凝固因子によって昂進されうる。
【0019】
フィブリンシーラントの別の用途は、空気及び/又は液体、例えば尿液、腸液、漿液などの漏出などの組織漏出をシールすることである。通常、これらの組織漏出には自家凝固因子は存在しない。合成シーラントを含む多くのシーラントは、組織漏出をシールするうえで効率的ではない。機序に拘らずに言うならば、空気/液体が、シーラントと組織との間のバリアとして機能し、これによりシーラントと組織との密着を妨げるものと考えられる。
【0020】
一般的に外科医は、シーラントの塗布に先立ってしばしばできるだけ創傷による漏出組織を乾燥させる。この乾燥は、スポンジ/ガーゼ及びガススプレーを使用してしばしば手で行われる(Hidas et al.「Sutureless nephron−sparing surgery:use of albumin glutaraldehyde tissue adhesive(BioGlue)」.Urology,2006;67:697〜700)。これらの乾燥処置は、組織の癒着を生じるリスクを高める(Kamel RM.「Prevention of postoperative peritoneal adhesions」.Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol.2010;150(2):111〜118)。
【0021】
更に、これらの乾燥処置は、例えば腹腔鏡手術を行っている場合など、外科医にとってアクセスができない領域においても問題となる。
【0022】
本発明は、組織漏出をシールするうえで効率的なフィブリンマトリクスを提供するものである。
【0023】
一態様では、本発明は、湿性組織にフィブリンマトリクスを塗布するための方法であって、有効量の固体フィブリンシーラント混合物を湿性組織に塗布する工程と、塗布された固体フィブリンシーラント混合物の少なくとも一部を覆って有効量の液体フィブリンシーラント製剤を塗布する工程と、を含み、固体フィブリンシーラント混合物及び液体フィブリンシーラント製剤の有効量は、液体フィブリンシーラント製剤又は固体フィブリンシーラント混合物のいずれか一方の有効量の塗布と比較して向上したシール強度を有するフィブリンマトリクスを湿性組織上に生成するうえで充分である方法を提供する。
【0024】
本発明の一実施形態では、シール強度は、液体フィブリンシーラント製剤の塗布と比較して少なくとも1.2倍向上している。
【0025】
本発明の別の実施形態では、シール強度は、液体フィブリンシーラント製剤の塗布と比較して約1.7倍向上している。
【0026】
本発明の別の更なる実施形態では、塗布は、血管が豊富でないか、少量であるか、除去されているか若しくは存在してない組織、及び/又は滲出性若しくは非出血の組織に対して行われる。
【0027】
本発明の一実施形態では、固体フィブリンシーラント混合物は、フィブリノーゲンを含む固体成分と、フィブリノーゲンと反応してフィブリンを形成することが可能なタンパク質分解酵素成分を含む固体成分とを含む。
【0028】
本発明の別の更なる実施形態では、固体フィブリンシーラント混合物のフィブリノーゲン含有成分は、フィブリノーゲン濃度が25mg/mL未満であるフィブリノーゲン含有溶液を乾燥させる工程によって調製される。
【0029】
本発明の一実施形態では、フィブリノーゲン濃度は約20mg/mLである。
【0030】
本発明の更なる別の実施形態では、タンパク質分解酵素はトロンビンである。
【0031】
本発明の更なる別の実施形態では、塗布は組織欠損に対して行われる。
【0032】
本発明の更に別の実施形態では、塗布は、組織に存在するステープル又は縫合線の少なくとも一部に対して行われる。
【0033】
本発明の別の態様は、濡れた表面上にフィブリンマトリクスを調製するための方法であって、フィブリノーゲンを含む固体成分を与える工程と、フィブリノーゲンと反応してフィブリンを形成することが可能なタンパク質分解酵素を含む固体成分を与える工程と、液体フィブリンシーラント製剤を与える工程と、有効量の各固体成分を濡れた表面の少なくとも一部に塗布する工程と、塗布された各固体成分の少なくとも一部を覆って有効量の液体フィブリンシーラント製剤を塗布する工程と、を含む方法に関する。
【0034】
本発明の一実施形態では、濡れた表面は、フィブリノーゲンを含まないものである。
【0035】
本発明の別の実施形態では、液体フィブリンシーラント製剤は固体状で与えられ、その塗布に先立って還元される。
【0036】
本発明の別の更なる実施形態では、液体フィブリンシーラント製剤は凍結した状態で与えられ、その塗布に先立って解凍される。
【0037】
本発明の別の更なる実施形態では、固体成分は液体状で与えられ、その塗布に先立って乾燥させられる。
【0038】
本発明の別の更なる実施形態では、固体成分は凍結した状態で与えられ、その塗布に先立って乾燥させられる。
【0039】
本発明の別の更なる実施形態では、各固体成分は、同時に、又は順次塗布される。
【0040】
本発明の別の実施形態では、各液体成分は、同時に、又は順次塗布される。
【0041】
本発明の別の更なる実施形態では、固体成分は混合物中に与えられる。
【0042】
本発明の一実施形態では、表面は組織である。
【0043】
本発明の一実施形態では、組織は、血管が豊富でないか、少量であるか、除去されているか若しくは存在してないものであるか、かつ/又は滲出性若しくは非出血性のものである。
【0044】
本発明の別の態様は、本発明にしたがって得ることができるフィブリンマトリクスに関する。
【0045】
本発明の更なる別の態様は、湿性組織の欠損の治療又は予防を必要とする被験者の湿性組織の欠損を治療又は予防するための方法であって、
a)固体フィブリノーゲンを含む成分を与え、フィブリノーゲンと反応してフィブリンを形成することが可能な固体タンパク質分解酵素を含む成分を与え、液体フィブリンシーラント製剤を与える工程と、
b)有効量のa)の各固体成分を湿性組織の少なくとも一部に塗布する工程と、
c)塗布された各固体成分の少なくとも一部を覆って有効量のa)の液体フィブリンシーラント製剤を塗布する工程と、を含む方法を提供する。
【0046】
本発明の一実施形態では、湿性組織は、血管が豊富でないか、少量であるか、除去されているか若しくは存在してないものであるか、かつ/又は滲出性若しくは非出血性である。
【0047】
本発明の別の実施形態では、欠損は組織における漏出である。
【0048】
本発明の別の更なる実施形態では、漏出物質は、血漿又は血液成分が豊富でないか、少量であるか、除去されているか若しくは存在してないものである。
【0049】
本発明の一実施形態では、液体フィブリンシーラント製剤は固体状で与えられ、その塗布に先立って還元される。
【0050】
本発明の別の更なる実施形態では、液体フィブリンシーラント製剤は凍結した状態で与えられ、その塗布に先立って解凍される。
【0051】
本発明の一実施形態では、固体成分は液体状で与えられ、その塗布に先立って乾燥させられる。
【0052】
本発明の別の更なる実施形態では、固体成分は凍結した状態で与えられ、その塗布に先立って乾燥させられる。
【0053】
本発明の別の更なる実施形態では、各固体成分は、同時に、又は順次塗布される。
【0054】
本発明の一実施形態では、各液体成分は、同時に、又は順次塗布される。
【0055】
本発明の別の実施形態では、a)の各固体成分は混合物中に与えられる。
【0056】
本発明の別の更なる実施形態では、欠損はステープル又は縫合糸である。
【0057】
一態様では、本発明は、(i)(a)フィブリノーゲン成分と、(b)フィブリノーゲンと反応してフィブリンを形成することが可能なタンパク質分解酵素成分とを含む固体成分を含んだ容器であって、(a)及び(b)成分が、別々の容器内、又は混合物として同じ容器内に収容された、容器と、(ii)少なくとも2個の分離された容器であって、分離された容器の少なくとも1つが、液体、凍結又は固体フィブリノーゲン成分を含み、分離された容器の少なくとも第2のものが、フィブリノーゲンと反応してフィブリンを形成することが可能な液体、凍結又は固体タンパク質分解酵素成分を含む、少なくとも2個の分離された容器と、を含むキットであって、(ii)の少なくとも2個の分離された容器が固体成分を含んでいる場合、(a)及び(b)成分は同じ容器内に混合物として収容される、キットを提供する。
【0058】
本発明の一実施形態では、タンパク質分解酵素はトロンビンである。
【0059】
本発明の別の実施形態では、キットは、濡れた表面に塗布するために使用される。
【0060】
本発明の別の更なる実施形態では、キットは、血管が豊富でないか、少量であるか、除去されているか若しくは存在してない組織、及び/又は滲出性若しくは非出血性の組織における漏出をシールするために使用される。
【0061】
本発明によるフィブリンマトリクス又はキットは、湿性組織の欠損を治療又は予防するために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】2つの異なるフィブリンシーラント製剤、すなわち、凍結乾燥したフィブリノーゲン及びトロンビンの混合物と、2成分液体フィブリンシーラント製剤とを使用して互いに接着した2層の回腸組織を分離するために必要とされる力(剥離力)を示す図。
【図2】凍結乾燥したフィブリノーゲン及びトロンビンの混合物、2成分液体フィブリンシーラント製剤、及び、凍結乾燥したフィブリノーゲン及びトロンビンと2成分液体フィブリンシーラントとの連続塗布によって形成されたフィブリンマトリクスのシール強度(破裂試験によって測定される)を示す図。
【図3】凍結乾燥したトロンビンの塗布に続いて液体フィブリンシーラントをスプレーすることによって形成されたフィブリン、凍結乾燥したフィブリノーゲンの塗布に続いて液体フィブリンシーラントをスプレーすることによって形成されたフィブリン、凍結乾燥したフィブリノーゲン及びトロンビンの混合物の塗布に続いて液体フィブリンシーラントをスプレーすることによって形成されたフィブリン、並びに、アルブミン粉末の塗布に続いて液体フィブリンシーラントをスプレーすることによって形成されたフィブリン製剤のシール強度(破裂試験によって測定される)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0063】
本発明は、粘膜又は他の湿性組織上にフィブリンマトリクスを塗布するための方法であって、組織の表面上に固体フィブリンシーラント混合物を塗布した後、表面の少なくとも一部を覆って液体フィブリンシーラント製剤を塗布する連続塗布を含む方法に関する。本発明は更に、最初に固体フィブリンシーラント混合物を塗布した後、液体フィブリンシーラント製剤を塗布する連続塗布による粘膜又は他の湿性組織の欠損の効果的なシール法に関する。
【0064】
本発明は、以下の知見に基づいたものである。
【0065】
異なる試験フィブリン製剤の接着力(又は剥離力)を剥離試験によって試験した。この試験は、ブタ小腸粘膜下組織の層間のフィブリン糊の接着強度を測定するものである。一実施形態では、試験接着製剤をブタの回腸の漿膜側に塗布した。試験フィブリンシーラント製剤の塗布後、回腸組織をそれ自体の上に(漿膜同士)折り畳み、フィブリンシーラント製剤を重合させた。2つの接着された回腸組織の層を互いから分離するのに必要な力(剥離力)を、汎用張力試験機であるLFPLUS(Lloyd Instruments)を使用して測定した。一般的に、測定された剥離力が大きいほど、試験配合物の接着力は大きくなる。
【0066】
本発明によれば、液体フィブリンシーラント製剤を使用した場合と比較して、凍結乾燥フィブリンシーラント製剤を使用した場合に接着力が大幅に向上することが見出された。凍結乾燥フィブリンシーラント製剤の接着力は、液体フィブリンシーラント製剤の接着力と比較して約2.7倍高いことが見出された。
【0067】
異なるフィブリン製剤のシール特性を破裂試験によって測定した。破裂試験では、漏出を防止するシーラントの能力を判定及び評価することができる。簡単に述べると、水供給源に接続され、穴が開けられたアルミニウムパイプをブタ回腸の管状切片の内部に導入し、管状切片をパイプの両端でシールして締め付ける。アルミニウムパイプ内に水を流すと、水は、アルミニウムパイプ内への水の逆流が防止されるように穴から回腸とアルミニウムパイプとの間の空間に流入する。水を流す前に、腸の長さに対して垂直に10mmの切開を形成し、切開を最初にその正中線で縫合してから、切開領域の周囲に配置した6cmのパラフィルムテンプレートフレームによって切開領域に試験フィブリンシーラント製剤を塗布する。試験製剤の塗布後、フィブリンを10分間硬化(すなわち重合)させ、腸を水で満たして圧力に耐える能力を試験する。水が回腸とパイプとの間の空間に流入すると、切開のシールが開いて圧力の急激な低下が認められるまで水圧は上昇する。液体流線に接続された圧力計(D−logmate 590(MRC Israel))を使用して圧力レベルを観測する。圧力低下の前に観察された圧力を記録し、破裂圧力とする。一般的に、観察される破裂圧力が高いほど試験製剤のシール特性が高いことを示す。
【0068】
本発明によれば、液体フィブリンシーラントよりも高い接着力を有することが示されている凍結乾燥フィブリンシーラントは、シールにおいては効果的ではないことが見出された。これに対して、液体フィブリンシーラント製剤は、凍結乾燥フィブリンシーラントよりも高いシール効果を有していた。
【0069】
凍結乾燥フィブリンシーラント及び液体フィブリンシーラント製剤の連続塗布は、シール特性の相乗的増大を示すことも期せずして見出された。液体フィブリンシーラント製剤のシール強度と比較して、シール強度の約1.7倍の増大が認められた。しかしながら、凍結乾燥フィブリノーゲン又は凍結乾燥トロンビンの塗布後に液体フィブリンシーラント製剤を投与する連続塗布を用いた場合にはシール特性の相乗的増大は見られなかった。
【0070】
更に、液体フィブリンシーラント製剤の塗布に先立って粘膜を乾燥させる(例えば、アルブミン粉末などのタンパク質粉末を粘膜層に塗布することによる)ことは、液体フィブリンシーラント製剤のシール性能を高めないことが見出された。
【0071】
これらの知見は、粘膜又は他の湿性組織上に高いシール強度を有するフィブリンマトリクスを生成する改良された方法の開発を促した。本発明に基づいて生成されたフィブリンマトリクスは、粘膜又は他の湿性組織、例えば消化管組織及び肺組織などの常に動いている組織における欠損をシールするために使用することができる。
【0072】
「組織」なる用語は、特定の機能を行ううえで統合された細胞及び/又は細胞成分の結合のことを指す。組織中の細胞は、すべてが1つの種類であるか複数の種類でありうる。組織は、生体の組織と同様に機能するように細胞を増殖させた人工組織であってもよい。組織は、人体組織又は動物組織であってよい。
【0073】
「フィブリンマトリクス」なる用語は、固体フィブリンシーラント混合物及び液体フィブリンシーラント製剤の連続塗布によって得られるフィブリンのことを指す。
【0074】
「有効量の固体フィブリンシーラント混合物」なる用語は、フィブリノーゲンを含む所定量の固体成分、及びフィブリノーゲンと反応して、湿性組織上で水和した後、フィブリン凝塊を形成するフィブリンを形成することが可能なタンパク質分解酵素を含む所定量の固体成分のことを指す。
【0075】
「有効量の液体フィブリンシーラント製剤」とは、フィブリノーゲンを含む所定量の液体成分、及び液体成分同士の混合後にフィブリン凝塊の形成を可能とする(フィブリノーゲンと反応してフィブリンを形成することが可能な)タンパク質分解酵素を含む所定量の液体成分のことを指す。
【0076】
機序に拘らずに言うならば、固体シーラント混合物は一旦湿性組織上に塗布されると水和されるものと考えられる。水和した固体シーラント混合物は、湿性組織中に存在する液体を固化し、この組織に密接してフィブリン層を形成することによって組織の下塗りをする。次いで液体フィブリンシーラント製剤がこの下塗りされた組織の上に塗布されると、その結果、高いシール強度及び耐久性が得られる。
【0077】
スポンジ又はガーゼを必要とすることなく表面の水分を固化させることは、術後の癒着形成のリスクを低減しうる点は有利である。
【0078】
「癒着」なる用語は、組織及び/又は臓器間の異常な付着のことを指す。一般的に、癒着は、手術野における組織の乱暴な操作後、組織表面の乾燥後、及び/又は、反応性の異物(例えば縫合材料、タルク粉末、又はリント残留物)の存在によって外科手術後に生ずる。
【0079】
「粘膜」又は「粘膜組織」なる用語は、特定の臓器及び体腔を覆う湿性組織のことを指す。一般的に粘膜組織は粘液物質を分泌する。粘膜組織の例としては、頬及び舌下などの口腔粘膜、鼻腔粘膜、眼粘膜、生殖器粘膜、直腸粘膜、耳粘膜、肺粘膜、気管支粘膜、胃粘膜、小腸粘膜、嗅粘膜、子宮粘膜、及び食道粘膜が挙げられるがこれらに限定されない。「粘液」なる用語は、ムチン、糖タンパク質のアルブミン、及び/又は粘性に寄与する他の任意の成分に富んだ物質などの濡れた/湿った、かつ粘性の物質のことを指す。
【0080】
「他の湿性組織」なる用語は、濡れた組織のことを指す。組織は、血清、血清浸潤物、血液及び炎症性体液、及び/又は、リン酸緩衝溶液(PBS)などの他の体液/液体によって濡らされうる。本発明の一実施形態では、体液は凝固因子を含まない(例えばフィブリノーゲンを含まない)。
【0081】
本明細書において言うところの「欠損」なる用語は、例えば組織における、裂け目、孔、通孔、裂傷、刺し傷、穴、亀裂、開口部、スリット、隙間、穿孔、破砕、刺し傷又は破裂、漏れのことを指す。例えば、欠損は吻合手術後に形成されうる。欠損は、例えばヘルニアのように先天的なものか、例えば漿液腫、ヘルニア、感染症、炎症のように身体に関連した病変による状態か、手術、縫合及び/又はステープル留め後に形成されるものか、又は事故、怪我などの非身体的な要因による状態でありうる。
【0082】
「漏出」なる用語は、例えば組織の裂け目、孔、通孔、裂傷、刺し傷、穴、亀裂、開口部、スリット、隙間、穿孔、破砕、刺し傷、又は破裂からの、例えば体液、粘液及び/又は空気などの物質の脱出又は通過のことを指す。
【0083】
「吻合」なる用語は、一般的に、臓器又は組織の2つ以上の部分を再連結するために用いられる外科手術のことを指す。この手術は、尿路(尿道)、咽喉(食道)の切断の後、又は腸手術において用いられうる。この手術は、病変組織(炎症組織、癌性組織、又は例えば潰瘍性疾患などの病変組織)の摘出の後にも行われうる。
【0084】
本発明はまた、(i)(a)フィブリノーゲン成分と、(b)フィブリノーゲンと反応してフィブリンを形成することが可能なタンパク質分解酵素成分とを含む固体成分を含んだ容器と、(ii)少なくとも2個の分離された容器であって、分離された容器の少なくとも1つが、液体、凍結又は固体フィブリノーゲン成分を含み、分離された容器の少なくとも第2のものが、フィブリノーゲンと反応してフィブリンを形成することが可能な液体、凍結又は固体タンパク質分解酵素成分を含む、少なくとも2個の分離された容器と、を含むキットにも関する。
【0085】
要素(i)の(a)及び(b)成分は、分離された容器内に、又は混合物として同じ容器内に収容される。一実施形態では、(ii)の少なくとも2個の分離された容器が固体成分を含んでいる場合、(a)及び(b)成分は混合物として同じ容器内に収容されうる。(ii)の少なくとも2個の分離された容器が固体成分を含んでいる場合、別の実施形態では、それらを水和するための水溶液を含んだ少なくとも1個の容器が含まれる。
【0086】
特に止血を目的とした市販のフィブリンキットとは異なり、本発明のキットは、血管が豊富でないか、少量であるか、又は除去されているか若しくは存在してない組織の漏出をシールするのにも適している。
【0087】
血管が豊富でないか、少量であるか、又は除去されているか若しくは存在してない組織の非限定的な例としては、硬膜、膀胱、眼、肺、及び胆嚢が挙げられる。
【0088】
本発明の一実施形態では、キットは、血管が豊富でないか、少量であるか、又は除去されているか若しくは存在してない組織の漏出をシールするためのものである。
【0089】
「止血」なる用語は、損傷した血管からの出血を止める、かつ/又は血管内の血液の維持に寄与する物質の能力のことを指す。
【0090】
また、特に損傷した血管からの出血を止める、かつ/又は血管内に血液を維持することを目的とした市販のフィブリンキットとは異なり、本発明のキットは、例えば脳脊髄液(CSF)、空気、腸内容物、胆汁、リンパ液及びガラス体液などの非血液性又は血漿物質の漏出をシールするのにも適している。
【0091】
一実施形態では、本発明のフィブリンマトリクス又はキットは、滲出組織又は非出血組織における漏出をシールするためのものである。滲出なる用語は、例えば微量の出血のことを指す。滲出なる用語は、比較的少量の血液が比較的低い速度で失われるような出血の場合を含む。
【0092】
キットは、使用説明書を含んでもよい。キットは、機械的又は手による切断及びステープル装置などの、組織又は臓器を切断及び/又はステープル留め若しくは縫合するための手段を更に含んでもよい。容器は、バイアル瓶、予め充填された注射器、小瓶、チューブ、又は固体若しくは液体成分が入れられた他の任意の適当な容器であってよい。容器は異なるサイズのものであってよく、異なる容量/重量の組成物が入れられていてよい。例えば、各液体成分は、約10mL以下の容量を有してよく、各固体成分は、約3g以下の粉末重量を有してよい。場合により、固体及び液体成分を投与するためのアプリケーターがキットに含まれていてもよい。
【0093】
本発明に基づくフィブリンマトリクス又はキットは、任意の治療目的で使用することができる。「任意の治療目的」なる用語は、被験者における任意の根治又は予防処置のことを指す。代表的な治療目的としては、例えば骨などの組織又は臓器に形成された穿通孔のシール、血管の吻合、軟組織部分などの組織部分の接合、硬膜注射、裂傷又は亀裂後の裂け目及び漏出などの硬膜欠損の治療又は予防、出血の治療又は予防、肺切除後などの空気漏れの治療又は予防、腸穿孔後の欠損の治療又は予防、例えば子宮、食道、胃、膵臓、膵管、胆嚢、胆管、腸(小腸及び大腸を含む)、及び直腸などのあらゆる組織において行われる吻合手術後の欠損の治療又は予防、例えば子宮、食道、胃、膵臓、膵管、胆嚢、胆管、腸(小腸及び大腸を含む)、及び直腸などのあらゆる組織における術後漏出の治療又は予防、例えば、ステープル又は縫合線などの欠損の少なくとも一部に本発明に基づくフィブリンマトリクスを塗布することによるステープル又は縫合線における術後漏出の発生の予防又は低減、例えばヘルニア手術中のプロテーゼの強固な固定、ステープル/縫合線の強化、肺胞の空気漏れの予防又は低減、腎欠損の治療又は予防、瘻管の治療又は予防、例えば貫通性心創傷などの心欠損の治療又は予防、血管グラフトプロテーゼの強化、並びに、脳脊髄液の漏出の治療又は予防などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0094】
本発明の一実施形態では、治療的使用は、血管を豊富に含まないか又は血管を有さない組織における漏出をシールするためのものである。
【0095】
本発明の別の実施形態では、治療的使用は、ステープル/縫合線を強化するためのものである。
【0096】
本発明のフィブリンマトリクスは、ステープル又は縫合糸を必要とすることなく、欠損をシールするために使用することができる。
【0097】
「ステープル又は縫合糸」なる用語は、ステープル、クリップ、ピン、フック、縫合糸などを含むがこれらに限定されない、創傷を閉鎖するために使用される任意の締結具を含む。
【0098】
本明細書において言うところの「欠損の少なくとも一部」なる用語は、欠損よりも小さいか、等しいか、又はより大きい領域のことを指す。例えば、こうした領域は、開示される比率(%)の間の任意の範囲を含む、欠損の1、10、20、30、40、50、60、70、80、90若しくは100%、又はそれよりも大きくてよい。本発明の一実施形態では、本発明に基づくフィブリンマトリクス又はキットは、ステープル/縫合線の強化に使用される。例えば、外科手術において被験者に形成された10mmの切開をまず縫合又はステープル留めする。強化を行うためには、100mgの固体フィブリンシーラント混合物(フィブリノーゲン70mgにつき1000IUのトロンビン)をステープル/縫合線上に塗布した後、液体フィブリンシーラント製剤をスプレーする。液体フィブリンは、全容量が2mL(2成分は1:1の比)の1000IU/mLトロンビン及び70mg/mLフィブリノーゲンをスプレーすることによって塗布する。
【0099】
本明細書において言うところの「被験者」なる用語は、ヒトを含む哺乳動物を含む。一実施形態では、被験者は患者である。
【0100】
一態様では、本発明は、湿性組織上にフィブリンマトリクスを塗布するための方法を提供する。この方法は以下の工程、すなわち、湿性組織上に有効量の固体フィブリンシーラント混合物を塗布する工程と、固体フィブリンシーラント混合物の少なくとも一部を覆って有効量の液体フィブリンシーラント製剤を塗布する工程とを含み、固体フィブリンシーラント混合物及び液体フィブリンシーラント製剤の有効量は、液体フィブリンシーラント製剤又は固体フィブリンシーラント混合物のいずれか一方の有効量の塗布と比較して向上したシール強度を有するフィブリンマトリクスを湿性組織上に生成するうえで充分である。有利な点として、液体フィブリンシーラントの前に固体フィブリンシーラントを塗布することにより、液体フィブリンシーラントのシール強度が向上する。
【0101】
「湿性組織」なる用語は、濡れた組織のことを指し、例えば粘膜、粘膜組織、及び他の湿性組織などを含む。本発明の別の実施形態では、組織はフィブリノーゲンを含まない液体によって湿っている。「フィブリノーゲンを含まない」なる用語は、例えば、1.5g/Lよりも低いフィブリノーゲン濃度のことを指す。
【0102】
本明細書において言うところの「固体フィブリンシーラント混合物の少なくとも一部を覆って」なる用語は、固体フィブリンシーラント成分が塗布された領域と比較してより小さい表面積からより大きな表面積で変化する領域のことを指す。例えば、液体フィブリンシーラント製剤は、開示される比率(%)の間の任意の範囲を含め、固体成分が塗布された表面積の1、10、20、30、40、50、60、70、80、90又は100%に塗布することができる。また、液体フィブリンシーラント製剤は、固体成分が塗布された領域よりも大きな表面積、例えば湿性組織又は臓器全体に塗布することもできる。
【0103】
「液体フィブリンシーラント製剤」なる用語は、本出願の目的においては、フィブリンシーラントの形成に必要とされる少なくとも2つの分離された液体成分のことを指す。分離された成分の少なくとも1つのものはフィブリノーゲンを含み、分離された成分の少なくとも第2のものは、フィブリノーゲン(又はフィブリノーゲン含有製剤)と反応してフィブリンを形成することが可能なタンパク質分解酵素を含む。少なくとも2つの分離された成分が標的部位に投与、例えば注入されると、液体成分同士が接触し、血液凝固カスケードプロセスの最終段階が模倣され、周知の凝塊であるフィブリンを形成する。
【0104】
「軟組織」なる用語は、一般的に、他の構造及び臓器を結合、支持、封入、及び/又は包囲する身体の構造のことを指す。軟組織は結合組織又は非結合組織であってよい。軟組織の例としては、腱、靱帯、線維組織、滑膜、筋膜、筋肉、筋肉壁、神経、腸、脂肪組織、肝臓、皮膚、脾臓、及び血管が挙げられるが、これらに限定されない。
【0105】
「固体フィブリンシーラント混合物」なる用語は、本出願の目的においては、フィブリンシーラントの形成の前駆物質を含む固体組成物のことを指す。この組成物は、フィブリノーゲン(又はフィブリノーゲン含有製剤)と反応してフィブリンを形成することが可能な固体タンパク質分解酵素、及び固体フィブリノーゲンを含む。固体混合物は、アルブミンなどの他の成分を含んでもよい。タンパク質分解酵素は、トロンビン及び/又はヘビ毒から得られる特定の物質であってよい。本発明の一実施形態では、固体組成物は、フィブリノーゲン成分及びトロンビン成分をそれらの凍結乾燥された形態で含む。別の実施形態では、トロンビン含有溶液及びフィブリノーゲン含有溶液を、全体の固体フィブリンシーラント混合物中のそれぞれの固体成分を生成するために、例えば凍結乾燥により別々に乾燥させる。本発明の別の実施形態では、得られた固体材料を、超微粉砕機若しくは冷却ブレードミルを使用して、又は例えばスパチュラを使用して手によって固体物質を篩に通過させることにより、粉砕して粉末にする。本発明の一実施形態では、材料は、スパチュラにより200μmの篩を通して粉砕した。本発明の別の実施形態では、固体材料は、本明細書に援用する国際特許出願公開第2008/053475号に述べられるような方法を用いて粉砕し、粉末にする。
【0106】
粉砕後の固体材料の粒径は、1000μmよりも小さくてよい。本発明の一実施形態では、粉砕後の固体材料の粒径は、200μm以下である。粒度分布は、10〜100μmの範囲、又は10〜60μmの範囲であってよい。固体タンパク質分解酵素及び固体フィブリノーゲンは一緒に与えられてもよい。固体前駆物質を別々に与え、所望の表面上に、同時に、又は順次塗布することも可能である。本発明の一実施形態では、固体タンパク質分解酵素と固体フィブリノーゲンとは混合物として供給される。
【0107】
本発明はまた、濡れた表面上にフィブリンマトリクスを調製するための方法を更に提供する。この方法は、フィブリノーゲンを含む固体成分を与える工程と、フィブリノーゲンと反応してフィブリンを形成することが可能なタンパク質分解酵素を含む固体成分を与える工程と、液体フィブリンシーラント製剤を与える工程と、有効量の各固体成分を濡れた表面の少なくとも一部に塗布する工程と、各固体成分の少なくとも一部を覆って有効量の液体フィブリンシーラント製剤を塗布する工程と、を含む。
【0108】
「濡れた表面」なる用語は、湿性表面のことを指す。表面は、粘膜、粘膜組織及び/又は他の湿性組織であってよい。表面は、血清浸潤物、血液、炎症性体液によって、かつ/又はPBSのような非体液によって濡れていてよい。
【0109】
濡れた表面は、例えば液体又は空気を含む任意の組織などの患者の身体部分の表面でありうる。「表面」なる用語には、子宮、膣及び卵巣などの生殖器領域、肺、肛門、脾臓、肝臓、硬膜、直腸、食道、胃、膵臓、膵管、胆嚢、胆管、腸(小腸及び大腸を含む)、及び心筋が含まれるが、これらに限定されない。表面は、出血性又は非出血性部位であってよい。本発明の一実施形態では、表面は非出血性部位である。本発明の別の実施形態では、表面は、凝固因子を含まない(例えばフィブリノーゲンを含まない)液体で濡れている。この表面は更に、例えばプロテーゼ装置の表面である作動面などの任意の表面であってよい。
【0110】
本明細書において言うところの「濡れた表面の少なくとも一部」なる用語は、濡れた表面よりも小さいか、等しいか、又はより大きい領域のことを指す。例えば、こうした領域は、開示される比率(%)の間の任意の範囲を含む、表面の1、10、20、30、40、50、60、70、80、90若しくは100%、又はそれよりも大きくてよい。
【0111】
「固体成分の少なくとも一部を覆って」なる用語は、固体フィブリンシーラント成分が塗布された領域と比較してより小さい表面積からより大きな表面積で変化する領域のことを指す。例えば、液体フィブリンシーラント製剤は、開示される比率(%)の間の任意の範囲を含む、固体成分が塗布された表面積の1、10、20、30、40、50、60、70、80、90又は100%に塗布することができる。また、液体フィブリンシーラント製剤は、固体成分が塗布された領域よりも大きな表面積、例えば表面全体に塗布することもできる。
【0112】
固体フィブリン混合物中の固体成分は、例えば湿性組織と接触する場合のように一旦水和すると反応してフィブリンシーラントを形成する。一般的にフィブリノーゲン製剤は溶解度が比較的低く、粘膜組織の液体含有率は比較的低い。有利な点として、使用される固体フィブリンシーラント混合物のフィブリノーゲン成分は、組織に塗布されると速やかに溶解かつ/又は水和しうる。
【0113】
本発明に基づけば、20mg/mLのフィブリノーゲン濃度を有するフィブリノーゲン含有溶液を凍結乾燥する工程によって調製された固体フィブリノーゲンは、室温で10分間よりも短い時間で水溶液中で還元されることが見出された。本発明の一実施形態では、固体フィブリンシーラント混合物のフィブリノーゲン成分は、85、25mg/mL又は20mg/mL以下など、150以下のフィブリノーゲン濃度を有するフィブリノーゲン含有溶液から調製される。
【0114】
固体フィブリンシーラント混合物は、液体フィブリンシーラント製剤を乾燥することによって調製することができる。凍結乾燥(フリーズドライ)又はスプレー乾燥法などが挙げられるがこれらに限定されない当該技術分野では周知の任意の乾燥法を用いることができる。このような乾燥は、調湿チャンバ、乾燥オーブン、乾燥トンネル、真空乾燥機などの各種の乾燥装置を用いて、又は凝塊形成に影響しない他の任意の適当な方法により異なる温度で行うことができる。
【0115】
本明細書全体を通じて使用される「固体」なる用語は、乾燥組成物の総重量に対して、5重量%未満、例えば4、3、2、1重量%未満の液体含有量を有する組成物のことを指す。「固体」なる用語は、「乾燥した」又は「粉末」なる用語と互換可能である。
【0116】
固体フィブリンシーラントは、ディスペンサーによって組織に塗布することができる。ディスペンサーの例は、本明細書に援用する米国特許第1,776,489号及び米国特許第7,455,248号に示されている。
【0117】
「向上したシール強度」なる用語は、例えば液体シーラント単独で得られるシール強度と比較して少なくとも約1.2倍高いシール強度のことを指す。本発明の一実施形態では、シール強度は、液体フィブリンシーラント製剤の塗布と比較して約1.7倍高い。シール強度は、例えば上記に述べた破裂試験によって測定することができる。
【0118】
「1.2倍高い向上したシール強度」とは、液体フィブリンシーラント製剤の塗布によって得られるシール強度よりも20%高いシール強度のことを指す。「1.7倍高い向上したシール強度」とは、液体フィブリンシーラント製剤の塗布によって得られるシール強度よりも70%高いシール強度のことを指す。
【0119】
タンパク質分解酵素は、トロンビン及び/又はヘビ毒から得られる特定の物質であってよい。液体成分は使用時まで凍結(例えば−18℃以下の温度で)させるか、又は長期保存するためには例えば凍結乾燥によって乾燥させることができる。乾燥成分は、使用に先立って異なる容量の製薬上許容される担体を加えることによって還元することができる。「製薬上許容される担体」なる用語は、ヒト又は他の動物における使用に適した任意の希釈剤又は溶媒のことを指す。担体は、これらに限定されるものではないが、リン酸緩衝溶液(PBS)、生理食塩水、塩化ナトリウム溶液、塩化カルシウム溶液、乳酸リンゲル(LR)、通常の生理食塩水中の5%デキストロース溶液、及び注射用蒸留水などの当該技術分野では周知の任意の担体から選択することができる。凍結乾燥したフィブリノーゲンは、使用に先立って滅菌水で還元することができる。凍結乾燥したトロンビンは、使用に先立って滅菌塩化カルシウム溶液、又は蒸留水などの水で還元することができる。還元された凍結乾燥フィブリノーゲン及びトロンビンは、液体フィブリンシーラント製剤中に使用し、次いでこれらを合わせてフィブリンを形成することができる。これら2つの成分は、所望の部位に同時に、又は順次塗布することができる。
【0120】
本発明の一実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、血漿から誘導されるタンパク質の溶液である生物活性成分(BAC)から構成される。この成分は、トラネキサム酸及びアルギニン若しくはリシン、又はアルギニンとリシンとの混合物、又はこれらの製薬上許容される塩を更に含みうる。
【0121】
BACは、濃縮クリオプレシピテートなどのクリオプレシピテートより誘導することができる。「クリオプレシピテート」なる用語は、全血より調製した凍結血漿から得られる血液成分のことを指す。クリオプレシピテートは、凍結した血漿を低温、通常は0〜4℃の温度で解凍すると、フィブリノーゲン及び第XIII因子を含む、沈殿による上清が形成されることで得られる。この沈殿物は例えば遠心分離によって回収することができる。一般的に、BACは、例えばいずれも本明細書に援用するところの米国特許第6,121,232号及び対応する国際特許出願公開WO 98/33533号に述べられるように第XIII因子、フィブロネクチン、フォンビルブランド因子(vWF)、ビトロネクチンなどを含んでいる。
【0122】
BACは、塩酸アルギニンなどの安定化剤を含んでもよい。一般的に、BAC中のフィブリノーゲンの量は、約40〜約60mg/mLの範囲である。BACの溶液中のトラネキサム酸の量は、約80〜約110mg/mLでありうる。塩酸アルギニンの量は、約15〜約25mg/mLでありうる。
【0123】
必要に応じて、溶液は生理学的適合性を有するpH値に緩衝される。緩衝液は、グリシン、クエン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、及び溶媒としての注射用蒸留水から構成されうる。グリシンは組成物中に約6〜約10mg/mLの量で存在してよく、クエン酸ナトリウムは約1〜約5mg/mLの範囲でよく、塩化ナトリウムは約5〜約9mg/mLの範囲でよく、塩化カルシウムは約0.1〜0.2mg/mLの濃度でよい。
【0124】
別の実施形態では、BAC組成物中のプラスミノーゲン及びプラスミンの濃度を、例えば、いずれも本明細書に援用するところの米国特許第7,125,569号及び対応する国際特許出願公開WO 02/095019号に述べられるような方法を用いて、15μg/mL以下、例えば5μg/mL以下のプラスミノーゲンにまで低下させる。
【0125】
フィブリンシーラント製剤は、Ca2+、第VIII因子、フィブロネクチン、ビトロネクチン、フォンビルブランド因子(vWF)などの凝塊の形成を促す成分を含むことも可能であり、これらの成分は、別々の成分として提供されるか又は液体組成物と配合されうる。
【0126】
液体フィブリンシーラント製剤は、エアスプレーを用いるか又は用いずに、例えば滴らせることによってシーラントを組織又は他の基材又は作用面上に直接吐出するディスペンサーを使用して組織に塗布することができる。本発明の一実施形態では、シーラントは、103.4kPa(15PSI)の空気圧でスプレーされる。組織シーラントディスペンサーの例は、いずれも本願に援用するところの米国特許第4,631,055号、同第4,846,405号、同第5,116,315号、同第5,582,596号、同第5,665,067号、同第5,989,215号、同第6,461,361号、及び同第6,585,696号、同第6,620,125号、及び同第6,802,822号、並びに国際特許出願公開第WO 96/39212号、同第WO 2007/059801号、及び同第2010/095128号に示されている。
【0127】
液体フィブリンシーラント製剤は、外科手術において塗布される前に少なくとも2つの成分を含んでいる。一実施形態では、液体フィブリンシーラント製剤は2つの液体成分を含み、一方の成分はフィブリノーゲンを含んでおり、ヒトトロンビンのようなタンパク質分解酵素を含む第2の成分と接触するとフィブリン凝塊が形成される。外科手術に際して、分離された液体成分、例えば2つの液体成分が、例えば同時又は順次内容物を放出する2個の注射器によって塗布され、その結果、2つの成分が混合されてフィブリンが形成される。
【0128】
本発明の一実施形態では、タンパク質分解酵素は、約2〜約4,000IU/mLの活性を有するヒトトロンビンである。トロンビンの凝固活性は、例えばヨーロッパ薬局方アッセイ(0903/1997)の方法にしたがって直接的に、かつ/又は、斜面上における移動距離を測定すること(米国特許出願公開第2010/0203033号に述べられるような「落下試験」)などによって間接的に、又は当該技術分野では周知の他の任意の方法によって測定することができる。フィブリン糊は、凝固性のフィブリノーゲンに基づいた定義ではなく、凝固性のタンパク質の含有量によって定義されうると当業者には理解されている。
【0129】
本発明の別の実施形態では、フィブリノーゲン及びタンパク質分解酵素成分は、2つの成分の等量が混合され、患者の対応する創傷の部位に塗布されるようにして塗布される。無論、本発明のフィブリンマトリクスは、外科手術において、また、出血を止める必要がある他の状況において使用することができる点は理解されるはずである。
【0130】
固体フィブリンシーラント混合物は、固体フィブリノーゲンと固体トロンビンとを所望の範囲の任意の比で混合することによって調製することができる。例えば、固体フィブリノーゲン成分を40〜85mg/mLのフィブリノーゲン濃度を有するフィブリノーゲン含有溶液から調製し、固体トロンビン成分を約800〜1200IU/mLのトロンビン濃度を有するトロンビン含有溶液から調製した場合、2つの固体成分はそれぞれ1:1、3.2:1、6.4:1といった比で混合することができる。混合は、調湿した空間(相対湿度25%、温度37℃)で行うことができる。混合された粉末は、使用時まで閉鎖チャンバ内で維持することができる。
【0131】
フィブリノーゲン含有溶液は、乾燥工程に先立って例えば25mg/mL又は20mg/mLのフィブリノーゲンを含むように希釈することができる。2つの成分の混合は、組織に固体フィブリンシーラント混合物を塗布する前に行ってもよく、又は所望の比で組織に直接に塗布してもよい。
【0132】
組織に液体フィブリンシーラント製剤を塗布する際、フィブリノーゲン含有成分とトロンビン含有成分とは任意の所望の範囲の比で塗布することができる。例えば、フィブリノーゲン成分の濃度が40〜85mg/mLであり、トロンビン濃度が約800〜1200IU/mLである場合、2つの成分はそれぞれ、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6といった比で混合することができる。本発明の一実施形態では、液体フィブリンシーラントの各成分は1:1の比で塗布される。
【0133】
本発明のフィブリンマトリクスは、治療上の有効量で塗布することができる。「治療上の有効量」なる用語は、疾患、障害、又は状態を予防若しくは治療するうえで必要とされる用量のことを指す。有効用量は、被験者の年齢及び体重、疾患及びその重症度(例えば切開の大きさ)、並びに当業者によって認識されうる他の要因に応じて変えることができる。例えば、固体フィブリンシーラント混合物は、0.5、1、4、8、16、30、60又は100mg/cmの重量といったような、0.1〜100mg/cmの範囲の重量で塗布することができる。液体フィブリンシーラント製剤は、0.01、0.05、0.5又は1mL/cmの容量といったような、約0.01〜約1mL/cmの容量の範囲で塗布することができる。
【0134】
一実施形態では、10mmの切開について、6cmの領域に100mgの固体フィブリンシーラント混合物(70mgのフィブリノーゲン当たり1000IUのトロンビン)を分散させた後、液体フィブリンシーラント製剤をスプレーすることによって連続塗布を行う。液体製剤は、全容量が2mL(2成分は1:1の比)の1000IU/mLトロンビン及び70mg/mLフィブリノーゲンをスプレーすることによって塗布する。
【0135】
液体フィブリンシーラント製剤は、本発明の方法においては、固体状で与えられ、その塗布に先立って還元することができる。還元は、異なる容量の製薬上許容される担体を加えることによって行うことができる。「還元」なる用語は、固体を液体状に転換するプロセスのことを指す。還元された製品は、予め液体を除去した乾燥固体に水性の液体を加えることによって調製される液体製品であってよい。
【0136】
また、液体フィブリンシーラント製剤は、例えば−18℃以下の温度で凍結した状態で与えられ、その塗布に先立って解凍することもできる。解凍は、液体成分を含んだ容器を、室温(20℃〜25℃)、2〜8℃の温度、又は37℃の温度でインキュベートすることによって行うことができる。別の実施形態では、各液体成分は同時に塗布される。更なる別の実施形態では、各液体成分は、順次塗布される。
【0137】
固体成分は液体状で与えられ、例えば凍結乾燥(フリーズドライ)又はスプレー乾燥法によってその塗布に先立って乾燥させてもよい。また、固体成分は凍結した状態で与えられ、その塗布に先立って乾燥させることもできる。凍結成分は解凍させた後、乾燥させてもよく、又は例えば昇華によって凍結状態から固体に直接転換することもできる。
【0138】
固体成分は、ヒドロフルオロカーボン(HFE)などの非水性液、又は、アルコール、エーテル若しくは他の有機液などの、固体成分が溶解しない他の任意の担体液を含む任意の適当な溶媒中で懸濁液として与えられてもよい。固体成分及び/又は液体成分は、本発明の方法では同時に、又は順次塗布することができる。一実施形態では、各固体成分は混合物として与えられ、同時に塗布される。別の実施形態では、各固体成分は、別々の容器で与えられ、同時に塗布される。別の更なる実施形態では、各固体成分は、別々の容器で与えられ、順次塗布される。
【0139】
本発明のフィブリンマトリクスは、開放手術、及び腹腔鏡手術などにおける低侵襲性手術(MIS)を含むがこれらに限定されない、欠損の治療又は予防を行うために外科医によって使用される任意の手段によって塗布することができる。本発明の一実施形態では、手術部位に切開を形成し、フィブリンマトリクスを欠損に塗布する。別の実施形態では、手術部位に切開を形成し、切開をステープル留め又は縫合してから、ステープル又は縫合線にフィブリンマトリクスを塗布する。患者は局所、部分又は全身麻酔を受けてもよい。
【0140】
「開放手術」なる用語は、外科医が比較的大きな切開によって手術部位に直接的なアクセスを得るような手術のことを指す。
【0141】
本明細書において言うところの「低侵襲性手術」なる用語は、外科医が小さな切開を介して、又は体腔若しくは例えば腹腔鏡手術により解剖学的開口部から手術部位にアクセスを得るような手術のことを指す。顕微鏡を備えた小型カメラ、小型の光ファイバー照明及び高解像度モニターなどの特殊な技術を使用して手術野を可視化することができる。鉗子、カッター、ニードルホルダー、焼灼器などの「エンドエフェクター」を有する器具を手術部位に導入することができる。
【0142】
フィブリノーゲン及びトロンビン含有成分は、OMRIX(例えばEVICEL(登録商標)、QUIXIL(登録商標)、ADHEXIL(商標)、EVITHROM(登録商標))、Baxter(例えばTISEEL(登録商標))、CSL(例えばBeriplast(登録商標))などの製造者より入手可能である。一実施形態では、液体フィブリンシーラント成分はプールされたヒト血漿より製造され、1個の容器に生物活性成分2(BAC2)が、別の容器にトロンビンが入った2個の容器からなる使い捨てキットとして提供される。キットは、滅菌塗布装置及び使用説明書を更に含んでもよい。
【0143】
一実施形態では、BAC2成分は、主としてヒトフィブリノーゲンの濃縮物からなるpH 6.7〜7.2の滅菌溶液である。フィブリノーゲンは、トロンビンと合わせられると凝塊を形成するヒト血液に由来するタンパク質である。BAC2溶液のような液体フィブリンシーラント製剤は、ヒトフィブリノーゲンの濃縮物(55〜85mg/mL)、塩酸アルギニン、グリシン、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、塩化カルシウム、及び注射用蒸留水(WFI)を含みうる。
【0144】
一実施形態では、トロンビン成分は、最終的に加え合わされた製品の凝固を活性化する高度に精製されたヒトトロンビンを含む滅菌溶液(pH 6.8〜7.2)である。トロンビンは、BAC2に含まれるフィブリノーゲンをフィブリンに変換する極めて特異性の高いプロテアーゼである。トロンビン溶液は、ヒトトロンビン(800〜1200IU/mL)、塩化カルシウム、ヒトアルブミン、マンニトール、酢酸ナトリウム、及び注射用蒸留水を含みうる。
【0145】
BAC2の開始物質とすることができるクリオプレシピテート、及びトロンビンの製造の開始物質とすることができるクリオ除去血漿はいずれもプールされたヒト血漿から製造することができる。クリオプレシピテート及びクリオ除去血漿の製造の各工程は周知のものである。一実施形態では、トロンビンは、例えば本明細書に援用する米国特許第5,143,838号に述べられるように、クリオ除去血漿からプロトロンビンをクロマトグラフィーにより精製した後、塩化カルシウムにより活性化することによって製造される。別の実施形態では、フィブリノーゲン成分はクリオプレシピテート、特に濃縮クリオプレシピテートから誘導される。
【0146】
2つの液体フィブリンシーラント製剤又は凍結乾燥成分の一部として上記で使用したフィブリノーゲン及びトロンビン成分は、ヒト又は哺乳動物の血漿から調製することができる。しかしながら、上記各成分は、組換え法によって調製することも可能である。フィブリノーゲン成分は、米国特許第6,121,232号及び国際特許出願公開第WO 98/33533号に述べられるプロセスにしたがって調製することが可能であり、その場合、プラスミン(プラスミノーゲン)が欧州特許出願公開第1,390,485号に述べられるようにして除去され、トラネキサム酸は加えられない。
【0147】
フィブリンシーラント成分は、血液又は血液分画から誘導される2成分液体フィブリンシーラント又は固体フィブリンシーラント混合物の一部であるかによらず、少なくとも2工程の別個のウイルス不活化/除去工程に通常供される。ウイルス不活化及び除去プロセスは、例えば以下の方法、すなわち、ナノ濾過、溶媒/洗剤、低pH処理、紫外線照射、チオシアン酸ナトリウム処理によって、かつ/又は当該技術分野では周知の他の任意の方法によって行うことができる。
【0148】
「ウイルス不活化工程」なる用語は、溶液中にウイルスが維持されるが、例えばウイルスの脂質コートが溶解されることによって不活性とされる状態のことを指す。「ウイルス除去工程」なる用語は、例えばサイズ排除法によってウイルスが溶液から物理的に除去される状態のことを指す。
【0149】
「少なくとも2工程の別個のウイルス不活化/除去工程」では、ウイルスを不活化又は除去するための少なくとも2つの異なる独立した処理を行う。以下の非限定的な処理の例のうちの2以上の組み合わせを使用することができる。すなわち、低温殺菌処理、溶媒/洗剤(S/D)処理、ナノ濾過処理、低pH処理、紫外線照射処理、及びチオシアン酸ナトリウム処理。
【0150】
濃縮クリオプレシピテートから誘導されるBACの使用は、このような分画が、フィブリノーゲン以外にも、ヒトトロンビンなどのタンパク質分解酵素がBAC溶液と接触させられる際に血液凝固における重要な役割を担う有益な血液成分を含んでいることから有利である。有益な成分としては例えば、第VIII因子、第XIII因子、フィブロネクチン、ビトロネクチン、フォンビルブランド因子(vWF)などがある。
【0151】
固体フィブリンシーラント混合組成物の後に液体フィブリンシーラント製剤を塗布することにより、これらのシーラント組成物のいずれか単独の塗布によっては得られない優れたシール特性を有するフィブリンマトリクスが組織上に生成される。本発明に基づいて生成されるフィブリンマトリクスは、粘膜組織及び例えば消化管組織などの常に動いている他の腸及び湿性組織の欠損をシールするうえで特に適している。例えば、本発明のフィブリンを使用して、消化管手術におけるステープル留めされた切開部又は吻合部において生じる漏出の合併症を予防することができる。更に、本発明のフィブリンは、ヘルニア手術の際にプロテーゼをしっかりと固定するために効果的に使用することができる。
【0152】
上記又は下記に引用する特許出願、特許、及びに刊行物の開示内容を本明細書に援用する。
【0153】
本発明を、以下の非限定的な実施例を参照して更に説明する。
【実施例】
【0154】
材料及び方法
凍結乾燥。
以下のサイクルにしたがって凍結乾燥を行った。
【表1】

【0155】
液体フィブリノーゲン及びトロンビン。
以下の実験では、EVICEL(登録商標)フィブリンシーラント(BAC2及びトロンビン、Omrix Biopharmaceuticals Ltd.)の2つの液体成分を2成分液体フィブリンシーラントとして使用した。フィブリノーゲン成分(70mgのフィブリノーゲン/mLを含む)は、特に断らないかぎりはそのまま使用し、トロンビン成分はそのまま(1000IU/mL)又は希釈緩衝液[蒸留脱イオン水(DDW)中、0.04MのCaCl]により10倍に希釈して使用した。すべての実験において、液体フィブリンシーラントは103.4kPa(15PSI)の空気圧でスプレーした。
【0156】
凍結乾燥フィブリノーゲン及びトロンビン混合物の調製。
EVICEL(登録商標)の2つの液体成分を、凍結乾燥した粉末を調整するための溶液の組成として使用した。各成分を、上記に述べた凍結乾燥サイクルにしたがって別々に凍結乾燥した。フィブリノーゲン成分は、凍結乾燥処理に先立って蒸留脱イオン水(DDW)で20mg/mLフィブリノーゲンの濃度に希釈した。
【0157】
凍結乾燥後、各粉末をスパチュラによって200μmの篩に通して粉砕した。このフィブリノーゲン及びトロンビンの粉砕粉末を、それぞれ、3.2:1(EVICELにおける70mgのフィブリノーゲン当たり1000IUのトロンビンの比に等しい)又は6.4:1(70mgのフィブリノーゲン当たり500IUのトロンビンの比に等しい)の重量比で混合した。混合は調湿した空間(相対湿度25%、温度37℃)で行った。混合した粉末は、使用時まで閉鎖チャンバ内で維持した。実験ごとに新しい粉末混合物を調製した。
【0158】
実施例1−凍結乾燥フィブリンシーラント及び液体フィブリンシーラント製剤の接着力。
以下の実験では、凍結乾燥フィブリンシーラント及び液体フィブリンシーラント製剤の接着力を測定した。
【0159】
評価は、剥離力試験により、特にNicoson ZR,Buckley CA.「Bond strength of fibrin glue between layers of porcine small intestine submucosa(SIS)」.Biomed Sci Instrum.2002;38:179〜184の記載に基本的にしたがって行った。簡単に述べると、試験する接着製剤を、4×4cm(16cm)のパラフィルムテンプレートフレーム内でブタの回腸(4×10cmの切片)の漿膜側に塗布した(下記の塗布方法を参照)。
【0160】
異なるフィブリンシーラント製剤を塗布した後、パラフィルムテンプレートを外し、回腸組織をそれ自体の上に(漿膜同士)折り畳み、室温(約20〜25℃)で10分間重合させた。4つの複製試料を得るため、切片を1×10cmのストリップに切断し、2つの接着された回腸組織の層を互いから分離するのに必要とされる力(剥離力として知られる)を、汎用張力試験機であるLFPLUS(Lloyd Instruments)を使用して測定した。
【0161】
試験製剤は以下のようにして塗布した。
−全容量が2mLとなるように等量のフィブリノーゲン及びトロンビンをスプレーすることによって液体フィブリノーゲン及びトロンビン成分を塗布した。トロンビンは100又は1000IU/mLの2つの異なる濃度で、フィブリノーゲンは70mg/mLの濃度で塗布した。
−400mgの各凍結乾燥混合物(材料及び方法の項で述べたようにして調製した70mgのフィブリノーゲン当たり500又は1000IUのトロンビンを含む混合物)を16cmのパラフィルムテンプレート内に塗布した(各複製試料に100mgを塗布した)。次に、組織が乾燥することを防ぐために、粉末が濡れたように見えるまで粉末にPBSをスプレーした。
【0162】
異なる試験製剤の接着力を図1に示す。
【0163】
液体フィブリンシーラント製剤を使用した場合に必要とされる力と比較して、凍結乾燥組成物によってフィブリンが形成された場合には2層の腸組織を剥離するのにより大きな力を必要とすることが観察された(70mgのフィブリノーゲン当たり1000IUのトロンビンの同じ濃度で塗布した場合の凍結乾燥製剤と液体製剤の剥離力を比較)。
【0164】
したがって、2つの試料間の接着力は、凍結乾燥製剤を使用した場合に大幅に向上することが見出された。
【0165】
更に、20mg/mLのフィブリノーゲン濃度を有するフィブリノーゲン含有溶液を凍結乾燥する工程によって調製された固体フィブリノーゲンは、室温で10分間よりも短い時間で水溶液中で還元されることが観察された。フィブリノーゲン濃度が低いと、より多孔質の凍結乾燥したケーキが得られ、このケーキを粉砕するとより多孔質の粒子が得られる。多孔度の増大により、液体が粒子により入りやすくなり、その結果、再水和時間がより短くなると考えられる。
【0166】
実施例2−異なるフィブリンシーラント製剤のシール特性。
上記の実施例では、凍結乾燥製剤を使用することにより接着力が増大することが示された。この実験では、凍結乾燥したフィブリノーゲンとトロンビンとの混合物、液体フィブリンシーラント製剤、及び、凍結乾燥したフィブリノーゲンとトロンビンとの混合物の後に液体フィブリンシーラント製剤を塗布する連続塗布によって形成されたフィブリンシーラントの3つの異なるフィブリンシーラント製剤のシール特性を試験した。破裂試験[Vilela et al.「What Is Important For Continent Catheterizable Stomas:Angulations or Extension?Int Braz J Urol.2007;Vol.33(2):254〜263の記載に基本的にしたがう]を行ってシーラントが効果的にシールし、圧力に耐える能力を決定し、評価した。
【0167】
このモデルにおける破裂圧は、組織に接着し、シールの破裂が起こって急激な圧力の損失及び視認される水の漏出が生じる圧力点まで機械的一体性を維持する試験製剤の能力を示す。
【0168】
上記に述べたように、穴が開けられた、特別に設計されたアルミニウムパイプ(長さ27cm)を長さ25〜30cmのブタ回腸の管状切片内に導入した。管状切片の両端をプラスチックディスクによってパイプに対してシールし、金属ネジを用いて締め付けた。このアルミニウムパイプを水供給源に接続した。アルミニウムパイプに水を流すと、アルミニウムパイプ内への水の逆流が防止されるようにして、パイプの周囲に存在する穴から回腸とアルミニウムパイプとの間の空間に水が流入した。
【0169】
水を流す前に、鋭利な刃物を用いて腸の長さに垂直な方向に10mmの切開を形成した。臨床的状況をより忠実に再現するため、切開を最初にその正中線で縫合し(1本の3×0縫合糸を使用。ETHICON、カタログ番号ss684)、次いで切開領域の周囲に配置したパラフィルムテンプレートフレーム(20×30mm、6cm)によって切開領域に試験フィブリンシーラント製剤を塗布した。試験製剤の塗布後(下記の塗布を参照)、フィブリンを10分間硬化させ、腸を水で満たして圧力に耐える能力を試験した。水が回腸とパイプとの間の空間に流入すると、切開のシールが開いて圧力の急激な低下が認められるまで水圧は上昇する。観測された圧力レベルは、液体流線に接続された圧力計(D−logmate 590(MRC Israel))を使用して圧力曲線に急激な低下が認められるまで観測した。圧力低下の前に観察された圧力を記録し、破裂圧力とした。
【0170】
試験製剤は以下のようにして塗布した。
−液体フィブリンは、全体で2mL(2成分は1:1の比)をスプレーすることにより塗布した。この実験では、トロンビンの1つの濃度、すなわち70mgのフィブリノーゲン当たり1000IUの濃度のみを試験した。
−100mgの凍結乾燥混合物を6cmのテンプレート内に分散させた。70mg当たり1000IUのトロンビンを含む1つの混合物のみを試験した(材料及び方法の項で述べたようにして調製した、凍結乾燥したフィブリノーゲン及びトロンビン成分が3.2:1で混合されたもの)。組織が乾燥することを防止するため、凍結乾燥製剤の分散後にPBSをスプレーした。
−100mgの凍結乾燥したフィブリノーゲン及びトロンビン(70mg当たり1000IUのトロンビン)を分散させた後、液体フィブリノーゲン及びトロンビン成分(全体で2mL)をスプレーすることによって連続塗布を行った。凍結乾燥粉末が、腸の周囲の粘膜によって完全に濡れていない場合には、凍結乾燥製剤の分散後にPBSをスプレーした。
【0171】
凍結乾燥フィブリンシーラントは、液体フィブリンシーラントよりも高い接着力を示した(図1を参照)が、シール性においては効果的ではない(破裂圧力の値は低かった。図2)ことが観察された。
【0172】
液体フィブリンシーラントは、凍結乾燥フィブリンシーラントよりも高いシール効果を示した。驚いたことに、液体フィブリンシーラントのスプレーに先立って凍結乾燥フィブリンシーラントを塗布する連続塗布では、シール特性において単に加え合わせたものよりも大きな増大が示された。したがって、粉末及び液体シーラントの連続塗布のシール特性は、それぞれの製剤の別々のシール特性と比較して優れていることが見出された。
【0173】
機序に拘らずに言うならば、凍結乾燥したフィブリノーゲン及びトロンビン粉末は、腸組織の周囲の粘膜中に溶解することで漿膜組織に密接したフィブリンの層を形成するものと考えられる。凍結乾燥粉末の後に液体フィブリンシーラントをスプレーした場合、組織のシール性について上記に述べたような相乗的な向上が認められる(図2)。
【0174】
実施例3−固体フィブリンシーラント混合物の後に液体フィブリンシーラント製剤を塗布することによって形成されるフィブリン製剤の優れたシール効果。
上記の実施例では、凍結乾燥したフィブリノーゲン及びトロンビン混合物の後に液体フィブリンシーラントをスプレーする連続塗布によって形成されるフィブリンシーラントは、優れたシール特性を有することが示された。
【0175】
以下の実施例では、凍結乾燥した成分の一方のみ(フィブリノーゲン又はトロンビンのいずれか)を個別に塗布した後に液体フィブリンシーラントを塗布した場合のシール性能を破裂試験法を用いて調べる。以下の実施例では、腸の周囲の粘膜を乾燥させる切開へのアルブミンの塗布によって、フィブリンシーラントの組織に対する接着が促進され、それによりシーラントのシール特性が増大するか否かについても調べる。
【0176】
この目的で、上記の破裂試験(実施例2)を行い、以下のフィブリンシーラントのシール特性を評価した。すなわち、25mgの凍結乾燥トロンビン(EVICELのトロンビン液体成分としての1000IU/mLトロンビンを含む溶液から調製したもの。625μLの溶液を凍結乾燥した)を塗布した後、2mLの液体フィブリンシーラントをスプレーすることによって形成されたフィブリン、75mgの凍結乾燥フィブリノーゲン(上記に述べたような20mg/mLフィブリノーゲンを含む溶液から調製したもの)を塗布した後、2mLの液体フィブリンシーラントをスプレーすることによって形成されたフィブリン、100mgの凍結乾燥したフィブリノーゲンとトロンビンとの混合物(上記に述べたようにして調製した、3.2:1の重量比で混合したもの)を塗布した後、2mLの液体フィブリンシーラントをスプレーすることによって形成されたフィブリン、及び100mgのアルブミン粉末(Sigma、カタログ番号078k1503)を塗布した後、2mLの液体フィブリンシーラントをスプレーすることによって形成されたフィブリン製剤。いずれの粉末も(アルブミン粉末を含む)、使用に先立ってスパチュラによって200μmの篩を通して粉砕した。
【0177】
結果を図3に示す。統計は、Tukey−Kramer一方向ANOVA検定によって行った。同じ文字は、有意差のない平均値を表し(p>0.05)、異なる文字は、有意差のある平均値を表す(p≦0.05)。固体フィブリンシーラントに続く液体フィブリンシーラント製剤の連続塗布により、凍結乾燥成分の一方のみ(フィブリノーゲン又はトロンビンのいずれか)の個別の塗布に続く液体製剤の塗布によって形成されるフィブリンマトリクスと比較して優れたシール特性を有するフィブリンマトリクスが生成することが観察された。更に、粘膜を乾燥させるタンパク質粉末(例えばアルブミン)の塗布は、液体フィブリンシーラント製剤のシール性能を高めないことが分かった。
【0178】
〔実施の態様〕
(1) 湿性組織にフィブリンマトリクスを塗布するための方法であって、
a)有効量の固体フィブリンシーラント混合物を前記湿性組織に塗布する工程と、
b)前記塗布された固体フィブリンシーラント混合物の少なくとも一部を覆って有効量の液体フィブリンシーラント製剤を塗布する工程と、を含み、
前記固体フィブリンシーラント混合物及び液体フィブリンシーラント製剤の有効量は、前記液体フィブリンシーラント製剤又は前記固体フィブリンシーラント混合物のいずれか一方の有効量の塗布と比較して向上したシール強度を有するフィブリンマトリクスを前記湿性組織上に生成するうえで充分である、方法。
(2) 前記シール強度が、前記液体フィブリンシーラント製剤の塗布と比較して少なくとも1.2倍向上している、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記シール強度が、前記液体フィブリンシーラント製剤の塗布と比較して約1.7倍向上している、実施態様1又は2に記載の方法。
(4) 前記塗布が、血管が豊富でないか、少量であるか、除去されているか若しくは存在してない組織、及び/又は滲出性組織若しくは非出血性組織に対して行われる、実施態様1〜3のいずれかに記載の方法。
(5) 前記固体フィブリンシーラント混合物が、フィブリノーゲンを含む固体成分と、フィブリノーゲンと反応してフィブリンを形成することが可能なタンパク質分解酵素成分を含む固体成分とを含む、実施態様1〜4のいずれかに記載の方法。
(6) 前記固体フィブリンシーラント混合物の前記フィブリノーゲン含有成分が、フィブリノーゲン濃度が25mg/mL未満であるフィブリノーゲン含有溶液を乾燥させる工程によって調製される、実施態様5に記載の方法。
(7) 前記フィブリノーゲン濃度が約20mg/mLである、実施態様6に記載の方法。
(8) 前記タンパク質分解酵素がトロンビンである、実施態様5〜7のいずれかに記載の方法。
(9) 前記塗布が組織欠損に対して行われる、実施態様1〜8のいずれかに記載の方法。
(10) 前記塗布が、前記組織に存在するステープル又は縫合線の少なくとも一部に対して行われる、実施態様1〜9のいずれかに記載の方法。
【0179】
(11) 濡れた表面上にフィブリンマトリクスを調製するための方法であって、フィブリノーゲンを含む固体成分を与える工程と、フィブリノーゲンと反応してフィブリンを形成することが可能なタンパク質分解酵素を含む固体成分を与える工程と、液体フィブリンシーラント製剤を与える工程と、有効量の前記各固体成分を前記濡れた表面の少なくとも一部に塗布する工程と、前記塗布された各固体成分の少なくとも一部を覆って有効量の前記液体フィブリンシーラント製剤を塗布する工程と、を含む、方法。
(12) 前記濡れた表面が、フィブリノーゲンを含まないものである、実施態様11に記載の方法。
(13) 前記液体フィブリンシーラント製剤が固体状で与えられ、その塗布に先立って還元される、実施態様11又は12に記載の方法。
(14) 前記液体フィブリンシーラント製剤が凍結した状態で与えられ、その塗布に先立って解凍される、実施態様11又は12に記載の方法。
(15) 前記固体成分が液体状で与えられ、その塗布に先立って乾燥させられる、実施態様11〜14のいずれかに記載の方法。
(16) 前記固体成分が凍結した状態で与えられ、その塗布に先立って乾燥させられる、実施態様11〜14のいずれかに記載の方法。
(17) 前記各固体成分が、同時に、又は順次塗布される、実施態様11〜16のいずれかに記載の方法。
(18) 前記各液体成分が、同時に、又は順次塗布される、実施態様11〜17のいずれかに記載の方法。
(19) 前記固体成分が混合物中に与えられる、実施態様11に記載の方法。
(20) 前記表面が組織である、実施態様11〜19のいずれかに記載の方法。
【0180】
(21) 前記組織が、血管が豊富でないか、少量であるか、除去されているか若しくは存在してないものであるか、かつ/又は滲出性組織若しくは非出血性組織である、実施態様20に記載の方法。
(22) 実施態様1〜21のいずれかに記載の方法にしたがって得ることが可能なフィブリンマトリクス。
(23) 湿性組織の欠損の治療又は予防を必要とする患者の湿性組織の欠損を治療又は予防するための方法であって、
a)固体フィブリノーゲンを含む成分を与え、フィブリノーゲンと反応してフィブリンを形成することが可能な固体タンパク質分解酵素を含む成分を与え、液体フィブリンシーラント製剤を与える工程と、
b)有効量の前記a)の各固体成分を前記湿性組織の少なくとも一部に塗布する工程と、
c)前記塗布された各固体成分の少なくとも一部を覆って有効量の前記a)の前記液体フィブリンシーラント製剤を塗布する工程と、を含む、方法。
(24) 前記湿性組織が、血管が豊富でないか、少量であるか、除去されているか若しくは存在してないものであるか、かつ/又は滲出性組織若しくは非出血性組織である、実施態様23に記載の方法。
(25) 前記欠損が前記組織における漏出である、実施態様23又は24に記載の方法。
(26) 前記漏出物質が、血漿又は血液成分が豊富でないか、少量であるか、除去されているか若しくは存在してないものである、実施態様25に記載の方法。
(27) 前記液体フィブリンシーラント製剤が固体状で与えられ、その塗布に先立って還元される、実施態様23〜26のいずれかに記載の方法。
(28) 前記液体フィブリンシーラント製剤が凍結した状態で与えられ、その塗布に先立って解凍される、実施態様23〜26のいずれかに記載の方法。
(29) 前記固体成分が液体状で与えられ、その塗布に先立って乾燥させられる、実施態様23〜28のいずれかに記載の方法。
(30) 前記固体成分が凍結した状態で与えられ、その塗布に先立って乾燥させられる、実施態様23〜28のいずれかに記載の方法。
【0181】
(31) 前記各固体成分が、同時に、又は順次塗布される、実施態様23〜30のいずれかに記載の方法。
(32) 前記各液体成分が、同時に、又は順次塗布される、実施態様23〜31のいずれかに記載の方法。
(33) 前記a)の各固体成分が混合物中に与えられる、実施態様23に記載の方法。
(34) 前記欠損がステープル又は縫合糸である、実施態様23〜33のいずれかに記載の方法。
(35) (i)(a)フィブリノーゲン成分と、(b)フィブリノーゲンと反応してフィブリンを形成することが可能なタンパク質分解酵素成分とを含む固体成分を含んだ容器であって、前記(a)及び(b)成分が、別々の容器内、又は混合物として同じ容器内に収容された、容器と、(ii)少なくとも2個の分離された容器であって、前記分離された容器の少なくとも1つが、液体、凍結又は固体フィブリノーゲン成分を含み、前記分離された容器の少なくとも第2のものが、フィブリノーゲンと反応してフィブリンを形成することが可能な液体、凍結又は固体タンパク質分解酵素成分を含む、少なくとも2個の分離された容器と、を含むキットであって、前記(ii)の少なくとも2個の分離された容器が固体成分を含んでいる場合、前記(a)及び(b)成分は同じ容器内に混合物として収容される、キット。
(36) 前記タンパク質分解酵素がトロンビンである、実施態様35に記載のキット。
(37) 濡れた表面に塗布するための、実施態様35又は36に記載のキット。
(38) 血管が豊富でないか、少量であるか、除去されているか若しくは存在してない組織、および/又は滲出性組織若しくは非出血性組織における漏出をシールするための、実施態様35〜37のいずれかに記載のキット。
(39) 湿性組織の欠損の治療又は予防に使用するための実施態様22に記載のフィブリンマトリクス又は実施態様35〜38のいずれかに記載のキット。
(40) フィブリノーゲンを含む固体成分を与える工程と、フィブリノーゲンと反応してフィブリンを形成することが可能なタンパク質分解酵素を含む固体成分を与える工程と、液体フィブリンシーラント製剤を与える工程と、有効量の前記各固体成分を湿性組織の少なくとも一部に塗布する工程と、前記塗布された各固体成分の少なくとも一部を覆って有効量の前記液体フィブリンシーラント製剤を塗布する工程と、によって調製される、湿性組織の欠損の治療又は予防に使用するためのフィブリンマトリクス。
【0182】
(41) 前記湿性組織が、血管が豊富でないか、少量であるか、除去されているか若しくは存在してないものであるか、かつ/又は滲出性組織若しくは非出血性組織である、実施態様40に記載のフィブリンマトリクス。
(42) 前記欠損がステープル又は縫合糸である、実施態様40又は41に記載のフィブリンマトリクス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿性組織にフィブリンマトリクスを塗布するための方法であって、
a)有効量の固体フィブリンシーラント混合物を前記湿性組織に塗布する工程と、
b)前記塗布された固体フィブリンシーラント混合物の少なくとも一部を覆って有効量の液体フィブリンシーラント製剤を塗布する工程と、を含み、
前記固体フィブリンシーラント混合物及び液体フィブリンシーラント製剤の有効量は、前記液体フィブリンシーラント製剤又は前記固体フィブリンシーラント混合物のいずれか一方の有効量の塗布と比較して向上したシール強度を有するフィブリンマトリクスを前記湿性組織上に生成するうえで充分である、方法。
【請求項2】
前記シール強度が、前記液体フィブリンシーラント製剤の塗布と比較して少なくとも1.2倍向上している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シール強度が、前記液体フィブリンシーラント製剤の塗布と比較して約1.7倍向上している、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記塗布が、血管が豊富でないか、少量であるか、除去されているか若しくは存在してない組織、及び/又は滲出性組織若しくは非出血性組織に対して行われる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記固体フィブリンシーラント混合物が、フィブリノーゲンを含む固体成分と、フィブリノーゲンと反応してフィブリンを形成することが可能なタンパク質分解酵素成分を含む固体成分とを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記固体フィブリンシーラント混合物の前記フィブリノーゲン含有成分が、フィブリノーゲン濃度が25mg/mL未満であるフィブリノーゲン含有溶液を乾燥させる工程によって調製される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記フィブリノーゲン濃度が約20mg/mLである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記タンパク質分解酵素がトロンビンである、請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記塗布が組織欠損に対して行われる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記塗布が、前記組織に存在するステープル又は縫合線の少なくとも一部に対して行われる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
濡れた表面上にフィブリンマトリクスを調製するための方法であって、フィブリノーゲンを含む固体成分を与える工程と、フィブリノーゲンと反応してフィブリンを形成することが可能なタンパク質分解酵素を含む固体成分を与える工程と、液体フィブリンシーラント製剤を与える工程と、有効量の前記各固体成分を前記濡れた表面の少なくとも一部に塗布する工程と、前記塗布された各固体成分の少なくとも一部を覆って有効量の前記液体フィブリンシーラント製剤を塗布する工程と、を含む、方法。
【請求項12】
前記濡れた表面が、フィブリノーゲンを含まないものである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記液体フィブリンシーラント製剤が固体状で与えられ、その塗布に先立って還元される、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記液体フィブリンシーラント製剤が凍結した状態で与えられ、その塗布に先立って解凍される、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項15】
前記固体成分が液体状で与えられ、その塗布に先立って乾燥させられる、請求項11〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記固体成分が凍結した状態で与えられ、その塗布に先立って乾燥させられる、請求項11〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記各固体成分が、同時に、又は順次塗布される、請求項11〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記各液体成分が、同時に、又は順次塗布される、請求項11〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記固体成分が混合物中に与えられる、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記表面が組織である、請求項11〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記組織が、血管が豊富でないか、少量であるか、除去されているか若しくは存在してないものであるか、かつ/又は滲出性組織若しくは非出血性組織である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれか一項に記載の方法にしたがって得ることが可能なフィブリンマトリクス。
【請求項23】
湿性組織の欠損の治療又は予防を必要とする患者の湿性組織の欠損を治療又は予防するための方法であって、
a)固体フィブリノーゲンを含む成分を与え、フィブリノーゲンと反応してフィブリンを形成することが可能な固体タンパク質分解酵素を含む成分を与え、液体フィブリンシーラント製剤を与える工程と、
b)有効量の前記a)の各固体成分を前記湿性組織の少なくとも一部に塗布する工程と、
c)前記塗布された各固体成分の少なくとも一部を覆って有効量の前記a)の前記液体フィブリンシーラント製剤を塗布する工程と、を含む、方法。
【請求項24】
前記湿性組織が、血管が豊富でないか、少量であるか、除去されているか若しくは存在してないものであるか、かつ/又は滲出性組織若しくは非出血性組織である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記欠損が前記組織における漏出である、請求項23又は24に記載の方法。
【請求項26】
前記漏出物質が、血漿又は血液成分が豊富でないか、少量であるか、除去されているか若しくは存在してないものである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記液体フィブリンシーラント製剤が固体状で与えられ、その塗布に先立って還元される、請求項23〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記液体フィブリンシーラント製剤が凍結した状態で与えられ、その塗布に先立って解凍される、請求項23〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記固体成分が液体状で与えられ、その塗布に先立って乾燥させられる、請求項23〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記固体成分が凍結した状態で与えられ、その塗布に先立って乾燥させられる、請求項23〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記各固体成分が、同時に、又は順次塗布される、請求項23〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記各液体成分が、同時に、又は順次塗布される、請求項23〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記a)の各固体成分が混合物中に与えられる、請求項23に記載の方法。
【請求項34】
前記欠損がステープル又は縫合糸である、請求項23〜33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
(i)(a)フィブリノーゲン成分と、(b)フィブリノーゲンと反応してフィブリンを形成することが可能なタンパク質分解酵素成分とを含む固体成分を含んだ容器であって、前記(a)及び(b)成分が、別々の容器内、又は混合物として同じ容器内に収容された、容器と、(ii)少なくとも2個の分離された容器であって、前記分離された容器の少なくとも1つが、液体、凍結又は固体フィブリノーゲン成分を含み、前記分離された容器の少なくとも第2のものが、フィブリノーゲンと反応してフィブリンを形成することが可能な液体、凍結又は固体タンパク質分解酵素成分を含む、少なくとも2個の分離された容器と、を含むキットであって、前記(ii)の少なくとも2個の分離された容器が固体成分を含んでいる場合、前記(a)及び(b)成分は同じ容器内に混合物として収容される、キット。
【請求項36】
前記タンパク質分解酵素がトロンビンである、請求項35に記載のキット。
【請求項37】
濡れた表面に塗布するための、請求項35又は36に記載のキット。
【請求項38】
血管が豊富でないか、少量であるか、除去されているか若しくは存在してない組織、および/又は滲出性組織若しくは非出血性組織における漏出をシールするための、請求項35〜37のいずれか一項に記載のキット。
【請求項39】
湿性組織の欠損の治療又は予防に使用するための請求項22に記載のフィブリンマトリクス又は請求項35〜38のいずれか一項に記載のキット。
【請求項40】
フィブリノーゲンを含む固体成分を与える工程と、フィブリノーゲンと反応してフィブリンを形成することが可能なタンパク質分解酵素を含む固体成分を与える工程と、液体フィブリンシーラント製剤を与える工程と、有効量の前記各固体成分を湿性組織の少なくとも一部に塗布する工程と、前記塗布された各固体成分の少なくとも一部を覆って有効量の前記液体フィブリンシーラント製剤を塗布する工程と、によって調製される、湿性組織の欠損の治療又は予防に使用するためのフィブリンマトリクス。
【請求項41】
前記湿性組織が、血管が豊富でないか、少量であるか、除去されているか若しくは存在してないものであるか、かつ/又は滲出性組織若しくは非出血性組織である、請求項40に記載のフィブリンマトリクス。
【請求項42】
前記欠損がステープル又は縫合糸である、請求項40又は41に記載のフィブリンマトリクス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−517886(P2013−517886A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550567(P2012−550567)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際出願番号】PCT/IL2011/000092
【国際公開番号】WO2011/092694
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(511203455)オムリックス・バイオファーマシューティカルズ・リミテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】Omrix Biopharmaceuticals Ltd.
【住所又は居所原語表記】Bldg. 14, Weizmann Science Park, P.O. Box 619, Rehovot 76106 Israel
【Fターム(参考)】