説明

フィプロニルのハプテン化合物、抗体、ハイブリドーマおよびその測定手段、測定キットまたは測定方法

【課題】 フィプロニルに対して高感度、かつ選択性の高い抗体を作製するためのハプテン化合物、フィプロニルに対する抗体、ならびに当該抗体を用いた高感度かつ定量性に優れたフィプロニルの免疫学的測定手段、測定キットおよび免疫学的測定方法を提供すること。
【解決手段】 下記式(1):
【化1】


(式中、Aは−S(O)m−、酸素原子、−CH−および−NH−を、Lはカルボキシル基、アミノ基、アルデヒド基およびヒドロキシル基を、mは0〜2の整数を、nは1から10の整数を表す。)
で表わされる構造を有する化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィプロニルのハプテン化合物、抗体、抗体を産出するハイブリドーマおよびその測定手段、測定キットまたは測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィプロニル(化学名:5−アミノ−1−(2,6−ジクロロ−4−(トリフルオロメチル)フェニル)−4−((トリフルオロメチル)スルフィニル)−1H−ピラゾール−3−カルボニトリル)は、以下の式(2):
【0003】
【化2】

で表される構造を有するフェニルピラゾール系化合物である。
【0004】
殺虫剤として、ウンカ・ヨコバイ類,アブラムシ類,コナジラミ類,カメムシ類,コナカイガラムシ類,ツノロウムシ類等の半翅目害虫,シンクイムシ類,チャノホソガ,キンモンホソガ,ギンモンハモグリガ,モモハモグリガ,ミカンハモグリガ等の鱗翅目害虫,更には鞘翅目害虫や直翅目害虫などの幅広い害虫に優れた薬効を示し、浸透移行や残効性を有する。
【0005】
近年、土壌、水、大気等の環境中での残留農薬や、最近特に増加してきた輸入農産物の農薬等の残留に大きな社会的関心が寄せられている。フィプロニルについては、食品衛生法の残留農薬基準値が、例えば、米(0.01ppm)、とうもろこし(0.02ppm)、その他の穀類(0.01ppm)、ばれいしょ(0.01ppm)、てんさい(0.01ppm)、さとうきび(0.01ppm)、はくさい(0.1ppm)、キャベツ(0.05ppm)、カリフラワー(0.05ppm)、ブロッコリー(0.05ppm)、その他あぶらな科野菜(0.05ppm)、マッシュルーム(0.02ppm)、バナナ(0.01ppm)、ひまわりの種(0.01ppm)、なたね(0.01ppm)と定められている。従って、環境や食品に関する安全確保のためには、上記の農作物に含有されるフィプロニルの量を迅速かつ正確に測定することが必要である。
【0006】
また、一方、フィプロニルは木材などの建築材の害虫として知られるシロアリなどに対しても優れた薬効を示すことから、シロアリ駆除剤などとして多く使用されている。こうした用途においては、その薬効の維持あるいは保守の観点から、建築物などの基盤となる土壌などに残存するフィプロニルの測定が重要となる。
【0007】
従来、例えば農作物中のフィプロニルの残留量は、米、果実、野菜、いも類等から抽出し、精製した後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析されてきた。即ち、試料をアセトニトリルで抽出し、多孔性ケイソウ土カラムクロマトグラフィー、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製後、HPLCで測定する方法が採用されている。
【0008】
一方、免疫学的測定法は、抗原抗体反応を利用して抗原の測定を行うもので、測定精度が優れているばかりでなく、迅速、簡便かつ経済的な測定法である。従来、免疫学的測定法は、臨床診断の分野で患者の病態解析法の一つとして大きな役割を担ってきたが、環境負荷化学物質の測定への適用が進んでいる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記HPLCで測定する方法は、試料の調製が煩雑で多大の手順と時間を必要とし、分析に熟練を要すること、並びに、測定装置や設備等に高額の費用を必要とする等の問題点がある。フィプロニルやの測定は短時間で膨大な数の試料の分析結果を出す必要があり、精度面だけでなく、簡便性、迅速性及び経済性をも具備した新規測定方法が要求されてきている。特に、シロアリ駆除剤としての薬効の維持および保守においては個別の建物の基盤の土壌を測定することが必要となることから、測定方法の簡便さとともに、簡易な測定キットの要請が強まっている。
【0010】
また、免疫学的測定法においても、フィプロニルに対する抗体の作製、それを用いた測定方法についての報告はなく、実用化の要請が強まっている。
【0011】
本発明の目的は、フィプロニルに対して高感度、かつ選択性の高い抗体を作製するためのハプテン化合物、フィプロニルに対する抗体、ならびに当該抗体を用いた高感度かつ定量性に優れたフィプロニルの免疫学的測定手段、測定キットおよび免疫学的測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示すフィプロニルのハプテン化合物、抗体、および測定手段、測定キットまたは測定方法により前記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の対象となる化合物は、下記式(1):
【0014】
【化1】

(式中、Aは−S(O)m−、酸素原子、−CH−および−NH−を、Lはカルボキシル基、アミノ基、アルデヒド基およびヒドロキシル基を、mは0〜2の整数を、nは1から10の整数を表す。)
で表わされる構造を有する。
【0015】
前記式(1)で表される化合物において、Aが硫黄原子、Lがカルボキシル基、nが2であることが好ましい。
【0016】
本発明者は、上記化合物1が、フィプロニルのハプテンとして好適に用いることが可能であることを案出したもので、高感度、かつ選択性の高い抗体を作製するが可能であり、当該抗体を用いた高感度かつ定量性に優れたフィプロニルの免疫学的測定手段および免疫学的測定方法を提供することができる。
【0017】
本発明は、上記化合物をハプテンとし、当該ハプテンと高分子化合物との複合体を抗原として用いることにより得られるフィプロニルに対する抗体またはそのフラグメントである。
【0018】
本発明においては、上記ハプテンと高分子化合物との複合体を抗原として用いることにより、動物においてフィプロニルに対する免疫応答を良好に惹起することができ、特異的かつ高感度な抗フィプロニル抗体を得ることができる。また、本発明にはFabフラグメントやF(ab’)2フラグメントなどのように抗原結合性を有する抗体の一部も包含される。
【0019】
本発明においては、前記抗体がモノクローナル抗体またはそのフラグメントであることが好ましい。
【0020】
一般に抗体には、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体が包含され、これら抗体の中でも、本発明ではフィプロニルに対してモノクローナル抗体が高感度であり、しかも選択性が高いことを見出した。
【0021】
本発明は、上記抗体を産生するハイブリドーマである。
【0022】
本発明に係るハイブリドーマによって、前記モノクローナル抗体を安定して産生することができるとともに、当該ハイブリドーマを培養することにより、大量のモノクローナル抗体を製造することができる。
【0023】
具体的には、本発明においては、前記ハイブリドーマが[FPN−1E9−25]であることが好ましい。
【0024】
こうしたハイブリドーマによって、フィプロニルに対する高感度かつ選択性が高い抗体を安定的に産出することができることを見出したもので、フィプロニルの免疫学的測定に好適に用いることができる。
【0025】
本発明は、上記いずれかの抗体またはそのフラグメントを含んでなるフィプロニルの測定手段である。
【0026】
本発明の測定手段は、本発明のモノクローナル抗体を含むことにより、フィプロニルの免疫学的測定方法に好適に用いられ、フィプロニルを特異的、高感度および簡便に測定することのできる手段を提供することができる。本発明の測定手段が前記式(1)とは異なる構造を有する化合物を含有する固相化抗原をさらに含む場合、より高感度に測定することができる手段を提供することもできる。
【0027】
本発明は、上記いずれかの抗体またはそのフラグメントを含んでなるフィプロニルの測定キットである。
【0028】
上記測定手段のうち、測定キットとした場合には、特に現場でのフィプロニルの免疫学的測定作業などに好適に用いられ、フィプロニルを特異的、高感度および簡便に測定することのできる手段を提供することができる。
【0029】
本発明は、上記いずれかの抗体またはそのフラグメントを含んでなるフィプロニルの測定方法である。
【0030】
本発明のモノクローナル抗体または測定手段を用いることにより感度、特異性および操作の簡便性にすぐれた効果を奏する測定方法が可能である。
【発明の効果】
【0031】
本発明の化合物は、フィプロニルのハプテンとして好適に用いられるものである。当該ハプテン化合物と高分子化合物との複合体を抗原として用いることにより、動物においてフィプロニルに対する免疫応答を良好に惹起することができ、特異的かつ高感度な抗フィプロニルおよび抗抗体を得ることができる。前記式(1)で表される化合物において、Lはカルボキシル基、nは2の場合、フィプロニルのハプテンとして特に優れた効果を奏する。
【0032】
本発明の抗体がモノクローナル抗体である場合、フィプロニルに対して高感度であり、しかも他の類似化合物に対する交差反応性が認められず、フィプロニルを特異的に検出することができる。本発明のハイブリドーマは、前記モノクローナル抗体を安定して産生することができ、当該ハイブリドーマを培養または由来の動物の腹腔内に投与し腹水を作らせることにより、大量のモノクローナル抗体を製造することができる。本発明の測定手段は、本発明のモノクローナル抗体を含むことにより、フィプロニルの免疫学的測定方法に好適に用いられ、フィプロニルを特異的、高感度および簡便に測定することができる。さらに、測定キットとした場合には、特に現場でのフィプロニルの免疫学的測定作業などに好適に用いることができる。本発明のフィプロニルの測定方法は、本発明のモノクローナル抗体または測定手段を用いることにより感度、特異性および操作の簡便性にすぐれた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明は、下記式(1):
【0034】
【化1】

(式中、Aは−S(O)m−、酸素原子、−CH−および−NH−を、Lはカルボキシル基、アミノ基、アルデヒド基およびヒドロキシル基を、mは0〜2の整数を、nは1から10の整数を表す。)で表わされる構造を有する化合物を提供する。該化合物は、フィプロニルのハプテン化合物として好適に使用される。
【0035】
上記式(1)で表される化合物において、A−(CH)n−Lはフィプロニル構造の一部分に導入したスペーサーアームを表し、nは1〜10の整数である。フィプロニルと結合対象の高分子化合物との間に適度なスペースを有するためには、nは2〜5が好ましい。
【0036】
上記式(1)で表される化合物において、Lが対象高分子と共有結合することにより、複合体を形成する。
【0037】
ハプテン化合物として用いる上記式(1)で表される化合物の製造は、公知の合成方法により行うことができ、特に限定されるものではないが、例えば式(1)で表される化合物のAが硫黄でLがカルボキシル基のものについては、下記反応式:
【0038】
【化3】

(式中nは前述と同じ意味を表す)で示す方法が、各工程において高収率で化合物を得ることから好適に用いられる。
【0039】
具体的には、前記反応式において、
(1)工程1
出発原料として5−アミノ−4−トリフルオロメチルスルホニル−1−(2,6−ジクロロ−4−トリフルオロメチルフェニル)ピラゾール−3−カルボニトリル(1)を用い、酸化剤と反応させて5−アミノ−4−トリフルオロメチルスルホニル−1−(2,6−ジクロロ−4−トリフルオロメチルフェニル)ピラゾール−3−カルボニトリル(2)を得る。
【0040】
この反応で酸化剤としては特に限定されないが、例えば過酸化水素、過酢酸、過安息香酸、メタクロロ過安息香酸などの過酸類、オゾン、過マンガン酸カリウム、クロム酸などを使用することができる。また触媒としてタングステンやパナジウムを用いることも出来る。溶媒としては、例えばメタノール、エタノールなどのアルコール類、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの酸アミド類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、酢酸などの酸、水およびそれらの混合溶媒などを挙げることができる。反応温度は通常室温から溶媒の沸点の温度で、30分から10時間程度行う。
【0041】
(2)工程2
得られた化合物を塩基の存在下、3-メルカプトアルキルカルボン酸と反応させてω−[5−アミノ−3−シアノ−1−(2,6−ジクロロ−4−トリフルオロメチルフェニル)ピラゾール−4−イルチオ]アルキルカルボン酸(3)を得る。
本反応で用いられる塩基、溶媒については工程1と同様のものを用いることができる。反応温度は通常0℃から溶媒の沸点の温度で、反応時間は30分から10時間程度行う。
上記各工程における詳細な合成方法は、実施例に記載する。
【0042】
このようにして得られたフィプロニルのハプテン化合物は、牛血清アルブミン(BSA)、ウサギ血清アルブミン(RSA)、オボアルブミン(OVA)、スカシ貝ヘモシアニン(KLH)、チログロブリン(TG)、免疫グロブリン等の高分子化合物(タンパク質)との複合体を形成させた後、抗原として用いる。
【0043】
複合体の形成方法は、公知の方法により行うことができ、特に限定されるものではない。例えば、混合酸無水物法または活性エステル法等によって、フィプロニルのハプテン化合物のカルボキシ基と前記高分子化合物の官能基とを反応させて、複合体を形成することができる。
【0044】
本発明は、上記ハプテン化合物と高分子化合物との複合体を抗原として用いることにより得られるフィプロニルに対する抗体を提供する。当該抗体は、フィプロニルに対する特異性を有する抗体である。
【0045】
抗体には、一般に免疫したウサギやヤギなどから血液を採取後その中に含まれる抗体を分離・精製するいわゆるポリクローナル抗体や、抗体産生能を持つクローン化ハイブリドーマの分泌する抗体を分離・精製するいわゆるモノクローナル抗体がある。本発明においては、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体が抱合される。モノクローナル抗体が有する高感度性および高選択性、さらには、複数のモノクローナル抗体の組み合わせによる複数成分との分離可能な反応性など適用の汎用性の広さから、特にモノクローナル抗体が好ましい。
【0046】
前記モノクローナル抗体は、フィプロニルに対する特異性と他の物質に対する交差反応性とを明確にするため、下記のようなIC50値を有することが好ましい。ここでIC50値とは、間接競合ELISAまたは直接競合ELISAにより標準阻害曲線を求めて、50%阻害を示す検体の濃度をいう。
【0047】
すなわち、本抗体は、フィプロニルを測定対象とする場合は、直接競合ELISAによるフィプロニルに対するIC50が500ng/mL以下であることが好ましく、50ng/mL以下がより好ましい。
【0048】
前記抗体は、通常の製造方法に従って製造することができる(Current Protocol in Molecular Biology、Chapter 11.12〜11.13(2000))。具体的には、本発明の抗体がポリクローナル抗体の場合には、常法に従ってフィプロニルのハプテン化合物と高分子化合物との複合体を形成させた後、当該複合体を家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。一方、モノクローナル抗体の場合には、前記複合体を常法に従ってマウス等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞をスクリーニングし、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを培養することにより得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.4 〜11.11 )。
【0049】
抗体の調製は、限外ろ過、硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの濃縮・精製法を適宜組み合わせて行うことができる。
【0050】
また、本発明は、前記モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを提供する。以下、マウスでのハイブリドーマの作製方法についてより詳細に説明する。
【0051】
前記のように調製した抗原を2mg/mL程度になるように生理的リン酸緩衝液に溶解し、アジュバントと等量混合した後、BaLb/cマウスの腹腔内に投与する。その後、約2週間毎に追加免疫する。尾血管から採取した血液の血清中の抗体力価が高くなった前記マウスの脾臓を摘出し、無血清DMEM培地(ダルベッコ改変イーグル培地)中で、組織片等を取り除いた後に新しい培地中に移し、脾細胞を完全に培地中に浮遊させる。遠心、上清除去を数回繰り返し、細胞を洗った後、マウスのミエローマ細胞(P3X63Ag8.653)と細胞数の比5:1〜10:1(脾細胞:ミエローマ)で混合する。細胞を沈殿させ上清を取り除いたあと、攪拌しながら50%ポリエチレングリコール(分子量1500)をゆっくり加え細胞融合を行う。細胞融合後、遠心分離によって集めた細胞に、細胞数が5×10個/mLになるようにHAT培地を加えて懸濁し、細胞懸濁液を96穴プラスチックプレートに250μL/ウェルの量で分注して、37℃、5%炭酸ガス、加湿条件下のインキュベーター中で培養する。1週間後、ウェル中の培地の半量をHAT培地で置換して、10日から14日間培養する。培養液中の抗体の活性をELISAで調べ、目的とする抗体を産生しているウェルの細胞について、限界希釈法によりハイブリドーマのクローニングを行う。クローニングにより、抗フィプロニルおよび抗抗体を産生している安定なハイブリドーマ株を得る。
【0052】
本発明では、前記方法によりハイブリドーマを作製しFPN−1E9−25について、寄託番号FERM AP−20384の下、2005年2月2日に独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センターに寄託した。
【0053】
本発明のハイブリドーマは、培地(例えば、10%牛胎児血清を含むDMEM)を用いて培養し、その培養液の遠心上清をモノクローナル抗体溶液とすることができる。また、本ハイブリドーマを由来する動物の腹腔に注入することにより、腹水を生成させ、得られた腹水をモノクローナル抗体溶液とすることができる。これらの抗体溶液は、さらに上述のように精製・濃縮することができる。
【0054】
また、本発明においては、フィプロニルに特異的に結合する抗体を含むことにより、フィプロニルを簡便に測定することができ、測定手段としての測定キットおよび後述するフィプロニルの測定方法に好適に使用することができる。前記キットは、さらに、測定法に応じて、標識された二次抗体もしくは標識されたフィプロニルのハプテン化合物、緩衝液、検出試薬および/またはフィプロニルの標準溶液等を含む。好ましいキットは、ELISA法に用いられうるものであり、下記直接競合ELISA法に用いる場合、固相化されたフィプロニルに対する抗体、固相化抗体を保持する担体、酵素標識された抗原および検出試薬などを含む。
【0055】
さらに、本発明は、前記抗体または測定手段を用いることを特徴とするフィプロニルの測定方法に関する。測定方法としては、通常の抗原−抗体反応を利用する方法であれば特に制限されず、放射性同位元素免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(ELISA)、蛍光もしくは発光測定法、凝集法、イムノブロット法、イムノクロマト法等(Meth. Enzymol., 92, 147-523 (1983), Antibodies Vol.II IRL Press Oxford (1989))が挙げられるが、感度や簡便性等の点からELISAが好ましい。ELISAに用いる酵素としては、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ等が挙げられる。
【0056】
ELISAによる測定法は、間接競合ELISAまたは直接競合ELISAなどが挙げられる。例えば以下に述べるような本発明のモノクローナル抗体を用いた直接競合ELISAによって行うことができる。
【0057】
(1)本発明のモノクローナル抗体を、担体に固相化する
用いる担体は、96穴、48穴、192穴等のマイクロタイタープレートが好ましい。固相化は、例えば、固相化用抗体を含む緩衝液を担体上に載せ、インキュベーションすればよい。緩衝液中の抗体の濃度は、通常0.01μg/mLから100μg/mL程度である。緩衝液としては、検出手段に応じて公知のものを使用することができる。
【0058】
(2)担体の固相表面へのタンパク質の非特異的吸着を防止するため、固相化用抗体が吸着していない固相表面部分を、抗体と無関係なタンパク質等によりブロッキングする
ブロッキング剤としては、BSAもしくはスキムミルク溶液、または市販のブロックエース(大日本製薬社製)等を使用することができる。ブロッキングは、前記ブロッキング剤を担体に添加し、例えば、約4℃で一晩インキュベーションした後、洗浄液で洗浄することにより行われる。洗浄液としては特に制限はないが、前記(1)と同じ緩衝液を使用することができる。
【0059】
(3)各種濃度のフィプロニルを含む試料に、フィプロニルのハプテン化合物と酵素を結合させた酵素結合ハプテンを加えた混合物を調製する
酵素結合ハプテンの調製は、フィプロニルのハプテン化合物を酵素に結合する方法であれば特に制限なく、いかなる方法で行ってもよい。
【0060】
(4)工程(3)の混合物を工程(2)で得られた抗体固相化担体と反応させる
フィプロニルと酵素結合ハプテンとの競合阻害反応により、これらと固相化担体との複合体が生成する。反応は例えば、約25℃で約1時間行う。反応終了後、緩衝液で担体を洗浄し、固相化抗体と結合しなかった酵素結合ハプテンを除去する。
固相化抗体−酵素結合ハプテン複合体の量を測定することにより、予め作成した検量線から試料中のフィプロニルの量を決定する。
【0061】
(5)担体に結合した標識酵素と反応する発色基質溶液を加え、吸光度を測定することによって検量線からフィプロニルの量を算出することができる
標識酵素としてペルオキシダーゼを使用する場合には、例えば、過酸化水素と、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンまたはo−フェニレンジアミンを含む発色基質溶液を使用することができる。通常、発色基質溶液を加えて室温で約10分程度反応させた後、硫酸を加えることにより酵素反応を停止させる。3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンを使用する場合、450nmの吸光度を測定する。o−フェニレンジアミンを使用する場合、492nmの吸光度を測定する。なお、バックグランド値を補正するため、630nmの吸光度も同時に測定することが望ましい。
【0062】
標識酵素としてアルカリホスファターゼを使用する場合には、例えばp−ニトロフェニルリン酸を基質として発色させ、NaOH溶液を加えて酵素反応を止め、415nmでの吸光度を測定する方法があげられる。
【0063】
フィプロニルを添加しない反応溶液の吸光度に対して、フィプロニルを添加して抗体と反応させた溶液の吸光度の減少率を阻害率として計算する。既知の濃度のフィプロニルを添加した反応液の阻害率により予め作成しておいた検量線を用いて、試料中のフィプロニルの濃度の濃度を算出することができる。
【0064】
別の態様としてフィプロニルの測定は以下のような手順により間接競合ELISAによって行うことができる。
【0065】
(1)固相化抗原を担体に固相化する。
用いる担体は、通常のELISAに用いる担体であれば特に制限されないが、96穴等のマイクロタイタープレートが好ましい。固相化は、例えば、固相化用抗原を含む緩衝液を担体上に載せ、インキュベーションすればよい。緩衝液中の抗原の濃度は、通常0.01μg/mLから100μg/mL程度である。緩衝液としては、検出手段に応じて公知のものを使用することができる。
【0066】
(2)担体の固相表面へのタンパク質の非特異的吸着を防止するため、固相化用抗原が吸着していない固相表面部分を、抗原と無関係なタンパク質等によりブロッキングする。ブロッキング剤としては、BSAもしくはスキムミルク溶液、または市販のブロックエース(大日本製薬社製)等を使用することができる。ブロッキングは、前記ブロッキング剤を担体に添加し、例えば、約4℃で一晩インキュベーションした後、洗浄液で洗浄することにより行われる。洗浄液としては特に制限はないが、前記(1)と同じ緩衝液を使用することができる。
【0067】
(3)前記(1)および(2)で処理された固相表面に各種濃度のフィプロニルを含む試料および本発明のモノクローナル抗体溶液を加え、該抗体を前記固相化抗原およびフィプロニルに競合的に反応させて、固相化抗原−抗体複合体およびフィプロニルに対する抗体複合体を生成させる。
反応は、通常室温、1〜2時間程度で行うことができる。
フィプロニルは、水に不溶性であるため、反応溶液中には各種有機溶媒を含有することができる。前記有機溶媒としては、フィプロニルを溶解させ、かつ抗原−抗体反応を阻害しない範囲で有機溶媒およびその含有量を選択すればよい。具体的には、メタノール、ジメチルスルホキシドなどがあげられ、含有量は、5〜50重量%程度である。
【0068】
(4)固相化抗原−抗体複合体の量を測定することにより、予め作成した検量線から試料中のフィプロニルの量を決定することができる。
固相化抗原−抗体複合体の量は、酵素標識した二次抗体(マウス抗体を認識する抗体)を添加して測定することができる。例えばフィプロニルに対する抗体としてマウスモノクローナル抗体を用いる場合、酵素標識(例えば、ペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ等)した抗マウス−ヤギ抗体を用いて、担体に結合したフィプロニルに対する抗体と反応させるのが望ましい。反応は、前記(3)と同様の条件下で行えばよい。反応後、緩衝液で洗浄する。
【0069】
(5)担体に結合した二次抗体の標識酵素と反応する発色基質溶液を加え、酵素結合ハプテンの酵素に反応する発色基質溶液を前述の直接競合阻害ELISA法と同様に加え、吸光度を測定することにより検量線からフィプロニルの量を算出することができる。
【0070】
前記本発明の測定方法においては、測定対象物に応じた前処理をして試料とした後、前記直接競合ELISAの工程(3)または間接競合ELISAに供することができる。例えば 測定対象物が土壌または食品の場合、フィプロニルが抽出できる全ての方法を用いることができる。抽出物は、メタノールに転溶させて緩衝液で希釈後、測定試料にする。簡便法として、メタノールで抽出し緩衝液で希釈したものをそのまま試料とすることも可能である。具体的には、例えば試料5gに、メタノール5mLを加えて20分間振とうする。室温で30分間静置した後、抽出物の上層2mLを2500rpmで10分間遠心分離する。上清を蒸留水で1:4に希釈し、これを前記工程(3)に供する。
【0071】
また、測定対象物が環境水の場合、抽出工程を必要とせず、直接測定試料とすることが可能である。
【実施例】
【0072】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の技術的範囲を限定するためのものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾、変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0073】
<実施例1>
(1)5−アミノ−1−(2,6−ジクロロ−4−(トリフルオロメチル)フェニル)−4−((トリフルオロメチル)スルホニル)−1H−ピラゾール−3−カルボニトリルの合成
5−アミノ−1−(2,6−ジクロロ−4−(トリフルオロメチル)フェニル)−4−((トリフルオロメチル)スルフィニル)−1H−ピラゾール−3−カルボニトリル0.17g(0.4mmol)、タングステン酸ナトリウム二水和物0.01g(0.03mmol)、30%過酸化水素水0.07g(0.6mmol)を酢酸1mL、に溶かし、55℃で6時間反応させた。反応液を冷却後、水10mLを加え、酢酸エチル10mLで2回抽出した。酢酸エチル層を水で洗った後、無水硫酸マグネシウムで脱水、ろ過、濃縮し、淡黄色結晶の5−アミノ−1−(2,6−ジクロロ−4−(トリフルオロメチル)フェニル)−4−((トリフルオロメチル)スルホニル)−1H−ピラゾール−3−カルボニトリルを0.2g得た。
【0074】
(2)3−[5−アミノ−3−シアノ−1−(2,6−ジクロロ−4−トリフルオロメチルフェニル)−1H−ピラゾール−4−イルチオ]プロピオン酸の合成
5−アミノ−1−(2,6−ジクロロ−4−(トリフルオロメチル)フェニル)−4−((トリフルオロメチル)スルホニル)−1H−ピラゾール−3−カルボニトリル0.15g(0.33mmol)をエタノール4mLに溶かし、3−メルカプトプロピオン酸0.04g(0.36mmol)と炭酸カリウム0.1g(0.69mmol)を加え、70℃で1時間加熱し、その後4時間還流させた。反応液の溶媒を留去後、水を加え、1N塩酸でpH3にし、酢酸エチルで2回抽出した。酢酸エチル層を無水硫酸マグネシウムで脱水後、ろ過、濃縮し、シリカゲルカラム(ヘキサン:酢酸エチル=70:30)で精製して、淡黄色結晶の3−[5−アミノ−3−シアノ−1−(2,6−ジクロロ−4−トリフルオロメチルフェニル)−1H−ピラゾール−4−イルチオ]プロピオン酸0.12g(収率85.3%)を得た。
【0075】
H NMR (DMSO−d) δ 2.56(2H,m,CH),3.29(2H,m,CH),7.85(2H,s,NH),7.90(1H,s,CH),8.01(1H,s,CH),12.4(1H,s,COOH)
【0076】
<実施例2>(免疫原の調製)
免疫原としてウシ血清アルブミン(BSA)と本発明フィプロニルハプテンとの結合体を、活性エステル法を用いて作製した。
【0077】
実施例1で製造した3−[5−アミノ−3−シアノ−1−(2,6−ジクロロ−4−トリフルオロメチルフェニル)−1H−ピラゾール−4−イルチオ]プロピオン酸(フィプロニルハプテン)2.1mg、N−ヒドロキシスクシンイミド1.2mgおよび1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩1.9mgを、N,N−ジメチルホルムアミド200μLに溶解し、この溶液を25℃の暗所に1.5時間放置しフィプロニルハプテン溶液とした。
【0078】
別途、0.1Mホウ酸緩衝液(pH8.0)1mLにBSAを10mg加え、一晩攪拌することにより、BSA溶液を得た。
【0079】
このBSA溶液に、先に調製したフィプロニルハプテン溶液を徐々に滴下し、暗所にて室温で1.5時間攪拌した。反応終了後、4℃で2日間生理的リン酸緩衝液(PBS、10mMリン酸緩衝液、150mM NaCl、pH7.0)に対して透析した後、−40℃で貯蔵した。このようにして得られたフィプロニルハプテンとBSAとの結合体を免疫原として使用した。
【0080】
<実施例3>(固相化抗原の調製)
固相化抗原としてうさぎ血清アルブミン(RSA)とフィプロニルハプテンとの結合体を、活性エステル法を用いて作製した。
【0081】
フィプロニルハプテン2.1mg、N−ヒドロキシスクシンイミド1.2mgおよび1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩1.9mgを、N,N−ジメチルホルムアミド200μLに溶解し、この溶液を25℃の暗所に1.5時間放置しフィプロニルハプテン溶液とした。
【0082】
別途、0.1Mホウ酸緩衝液(pH8.0)1mLにRSAを10mg加え、一晩攪拌することにより、RSA溶液を得た。
【0083】
このRSA溶液に、先に調製したフィプロニルハプテン溶液を徐々に滴下し、暗所にて室温で1.5時間攪拌した。反応終了後、4℃で一晩生理的リン酸緩衝液(PBS、10mMリン酸緩衝液、150mM NaCl、pH7.0)に対して透析した後、30℃で貯蔵した。このようにして得られたフィプロニルハプテンとRSAとの結合体を固相化抗原として使用した。
【0084】
<実施例4>(モノクローナル抗体産生ハイブリドーマの作製)
実施例2で調製した免疫源を2mg/mLとなるようにPBSに溶解し、これに等量の完全アジュバント(商品名:フロイント完全アジュバント;FCA)を等量混合しエマルジョン化し、その100μLを6〜7週齢のメスのBALB/Cマウスに腹腔投与した。これと同様の手順で、不完全アジュバント(商品名:フロイント不完全アジュバント;FICA)を等量混合した0.5mg/mLの免疫原100μLを2週間毎に追加免疫した。4回の免疫後、眼底から採血し、血清中の抗体力価を間接競合法で確認した。十分に力価が高くなったことを確認し、1週間後に最終免疫として免疫原10μg/100μL・PBSを尾静脈から投与した。その3日後に当該マウスから脾臓を摘出し細胞融合に供した。
【0085】
摘出した脾臓を無血清DMEM培地(ダルベッコ改変イーグル培地)中で余分な組織片を切除したあと、脾臓から完全に細胞を取り出し、培地中に浮遊させた。浮遊している大きな組織片を沈降させるために5分間静置、細胞浮遊液を遠沈管に集め、1500rpmで遠心し、上清を吸引除去して、新しい無血清DMEMを添加して細胞を浮遊させた。この操作を2回繰り返した。
【0086】
あらかじめ培養してあったミエローマ細胞(P3X63Ag8.653)を回収し、遠沈、上清除去、無血清DMEM培地で再浮遊を2回繰り返した。
【0087】
それぞれの細胞数を計数して脾細胞とミエローマ細胞との比率が10:1〜7.5:1になるように混合し、1500rpmで5分間遠心して,上清を吸引除去した。
【0088】
遠沈管を激しく攪拌しながら50%ポリエチレングリコール(分子量1500)溶液2mLを約60秒かけて添加した。次いで約10mLの無血清DMEMを攪拌しながら3〜4分かけて添加した。
【0089】
遠沈管を1000rpm,5分で遠心して上清を完全に吸引除去し、脾細胞が2.5×10個/mLになるようにHT培地(ヒポキサンチン、チミジン、10%牛胎児血清入DMEM培地)に浮遊させ、96穴培養プレートに100μL/ウェル分注し、37℃、8%炭酸ガス、加湿条件下で培養を開始した。
【0090】
翌日に約40μL/ウェルのHAT培地(ヒポキサンチン、チミジン、アミノプテリン、10%牛胎児血清入DMEM培地)を添加し、ミエローマ細胞が死滅し、ハイブリドーマ細胞のコロニーが形成されるまで観察を続け、以後は細胞の状態を見ながらHT培地を添加した。
【0091】
培養開始から10日後に培養液を採取し、間接競合阻害法でフィプロニルに対する抗体を産生しているウェルを選別し、96ウェル、48ウェル、24ウェルと順次培養スケールを上げた。
【0092】
24ウェルの段階で限界希釈法によるクローニングを行ない、フィプロニルに対するモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ株 [FPN−1E9−25]を得た。
【0093】
<実施例5>(モノクローナル抗体の作製)
実施例4で得られたハイブリドーマ株を10%牛胎児血清入りDMEMで培養し、約2×10個の細胞をBaLb/c メスRetire マウスの腹腔内に注射し、腹水液を採取した。得られた腹水はプロテインG カラムによりIgG精製を行った。
【0094】
<実施例6>(フィプロニルハプテンと西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)との結合体の調製)
直接競合ELISAにおいてトレーサーとして用いるため、活性エステル法によりフィプロニルハプテンと西洋ワサビペルオキシダーゼとの結合体を調製した。
【0095】
フィプロニルハプテン2.1mg、N−ヒドロキシスクシンイミド1.2mgおよび1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩1.9mgを、N,N−ジメチルホルムアミド200μLに溶解し、この溶液を25℃の暗所に1.5時間放置しフィプロニルハプテン溶液とした。
【0096】
別途、0.1Mホウ酸緩衝液(pH8.0)1mLにHRPを10mg加え、一晩攪拌することにより、HRP溶液を得た。
【0097】
このHRP溶液に、先に調製したフィプロニルハプテン溶液を徐々に滴下し、暗所にて室温で1.5時間攪拌した。反応終了後、4℃で一晩生理的リン酸緩衝液(PBS、10mMリン酸緩衝液、150mM NaCl、pH7.0)に対して透析した後、30℃で貯蔵した。ゲル濾過で精製を行い、濃度の測定はDCプロテインアッセイで行った。
【0098】
<実施例7>(直接競合ELISA法によるフィプロニルの測定)
(1)抗マウスIgGヤギ抗体をPBS緩衝液(10mM NaPB、150mM NaCl)で10μg/mLに希釈し、96穴マイクロプレートに100μg/ウェルづつ分注し、4℃で一晩放置することにより固相化した。次に液を吸引除去後、PBS緩衝液(0.4%BSA、10mM NaPB、150mM NaCl、pH7.0)を300μg/ウェル分注し、4℃で一晩静置することによりブロッキングを行った後、ブロッキング液を吸引除去した。
【0099】
(2)実施例5で得られたモノクローナル抗体FPN−1E9−25をPBS緩衝液(0.2%BSA、10mMリン酸緩衝液、150mM NaCl、pH7.0)で2.0μg/mLに希釈し、(1)で作製した抗マウスIgGヤギ抗体固相化プレートに100μg/ウェルづつ分注した、20℃で1時間静置した後、PBSで洗浄し抗体固相化プレートとした。
【0100】
(3)HRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)とフィプロニルハプテンの結合体をPBS緩衝液(0.4%BSA、10mMリン酸緩衝液、150mM NaCl、pH7.0)で0.25μg/mLに希釈しHRP希釈液とした。
【0101】
(4)上記HRP希釈液と10%メタノール溶液に溶解したフィプロニルの標準溶液(0.1、1.0、3.0、5.0、10、30、100および1000μg/mL)を等量混合し、その混合液の100μg/ウェルを(2)で得られたFPN−1E9−25抗体固相化プレートに加え、20℃で1時間静置した後、PBSで洗浄した。
【0102】
(5)HRP基質溶液(100μg/mLの3,3’,5,5’−テトラメチルベンチジンおよび0.006%過酸化水素を添加した0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5))100μLをウェルに加え、25℃で10分間インキュベーションした後、1N硫酸100μLをウェルに加えて酵素反応を止め、450nmの吸光度をマイクロプレートリーダーで測定した。
【0103】
モノクローナル抗体FPN−1E9−25溶液についての直接競合阻害法によるフィプロニルの標準阻害曲線を図1に示す。モノクローナル抗体FPN−1E9−25溶液を用いた直接競合ELISA法によるフィプロニルの測定可能な範囲は4.5ng/mL〜80ng/mLであり、50%阻害を示す値(IC50値)は16.3ng/mLであった。
【0104】
以上の結果から、本発明のフィプロニル誘導体を用いて得られるモノクローナル抗体を使用する直接競合ELISA法により、フィプロニル分析の大幅な簡略化および測定時間の短縮が可能となり、多数の検体を迅速、簡便且つ低コストで測定できることがわかる。
【0105】
<実施例8>(抗体のメタノール耐性)
抗体FPN−1E9−25のメタノール耐性を調べた。実施例7の(4)において、10%メタノールに対して各設定濃度のメタノール溶液(1,5,10,15,20,30,40%)に溶解したフィプロニル標準液(3.25,7.5,15,30,60ng/mL)のIC50値を求めた。
【0106】
その結果を図2に示す。フィプロニル抗体FPN−1E9−25は30%メタノール中でもIC50値が15ng/mLと高い反応性を示し、メタノールに対し高い耐性を有していた。農作物中あるいは土壌中に残留しているフィプロニルを抽出する際、メタノールは一般的に使用される非常に優れた溶媒であり、メタノールに対し高い耐性を有することは残留フィプロニル測定用の抗体としてFPN−1E9−25は極めて有用であることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】抗体[FPN−1E9−25]を用いた直接競合ELISA法におけるフィプロニルに対する阻害曲線を示す。
【図2】抗体[FPN−1E9−25]を用いた直接競合ELISA法におけるに対する阻害曲線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】

(式中、Aは−S(O)m−、酸素原子、−CH−および−NH−を、Lはカルボキシル基、アミノ基、アルデヒド基およびヒドロキシル基を、mは0〜2の整数を、nは1から10の整数を表す。)
で表わされる構造を有する化合物。
【請求項2】
Aが硫黄原子、Lがカルボキシル基、nが2である請求項1記載の化合物。
【請求項3】
請求項1または2記載の化合物をハプテンとし、当該ハプテンと高分子化合物との複合体を抗原として用いることにより得られるフィプロニルに対する抗体またはそのフラグメント。
【請求項4】
前記抗体がモノクローナル抗体またはそのフラグメントであることを特徴とする請求項3記載の抗体またはそのフラグメント。
【請求項5】
請求項3〜4のいずれかに記載の抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項6】
前記ハイブリドーマがFPN−1E9−25である請求項5記載のハイブリドーマ。
【請求項7】
請求項3または4記載の抗体またはそのフラグメントを含んでなるフィプロニルの測定手段。
【請求項8】
請求項3または4記載の抗体またはそのフラグメントを含んでなるフィプロニルの測定キット。
【請求項9】
請求項3または4記載の抗体、請求項7記載の測定手段または請求項8記載の測定キットを用いることを特徴とするフィプロニルの測定方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−321766(P2006−321766A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−147693(P2005−147693)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】