フィルター枠およびフィルター
【課題】耐紫外線に優れ、またリユース可能なフィルター枠を提供する。
【課題を解決するための手段】本発明に係るフィルター枠は、金属製の板体により、所定高さを有する矩形枠状に形成された枠体と、該枠体の一方の対向する一対の板体間に亙って、該板体に着脱自在に、かつ互いに平行に取り付けられた、フィルター材支持用の針金材とを具備することを特徴とする。
【課題を解決するための手段】本発明に係るフィルター枠は、金属製の板体により、所定高さを有する矩形枠状に形成された枠体と、該枠体の一方の対向する一対の板体間に亙って、該板体に着脱自在に、かつ互いに平行に取り付けられた、フィルター材支持用の針金材とを具備することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リユース可能なフィルター枠およびフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
フィルターは種々の用途に用いられる。例えば特開2002−113319には、空気清浄機に用いられるフィルターが開示されている。このフィルターは、2つの樹脂製の網目状枠体間にフィルター材を挟みこんで保持した構造のものとなっている。
【特許文献1】特開2002−113319
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、フィルター材には、酸化チタン触媒を担持したものがあり、このようなフィルター材を用いる場合には、酸化チタンを活性化させるために、フィルター材に紫外線を照射して用いる。しかるに、上記のように、フィルター枠に樹脂製のものを用いると、この樹脂製フィルター枠が紫外線によって劣化してしまうという課題がある。また、フィルター枠を再使用しがたいという課題もある。
そこで、本発明は、耐紫外線に優れ、またリユース可能なフィルター枠およびフィルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係るフィルター枠は、金属製の板体により、所定高さを有する矩形枠状に形成された枠体と、該枠体の一方の対向する一対の板体間に亙って、該板体に着脱自在に、かつ互いに平行に取り付けられた、フィルター材支持用の針金材とを具備することを特徴とする。
【0005】
また、前記枠体の対向する一対の板体の対向する位置に、各前記針金材の端部挿通用の貫通孔が所要位置に形成され、前記針金材は、その両端部から若干内側の位置に前記貫通孔を通過しえない大きさの径大部を有し、針金材を弾性変形させて湾曲させ、両端部を前記一対の板体の貫通孔に内側から挿通させて後、弾性変形を解除して直線状にすることによって、両貫通孔に両端部が挿通された状態で両板体間に取り付けられることを特徴とする。
【0006】
また、前記径大部は、針金材を潰すことによって形成されていることを特徴とする。
前記針金材は、枠体に対して交互に高さ位置を変えて取り付けられて、フィルター材を波状に支持可能となっていることを特徴とする。
【0007】
また本発明に係るフィルターは、上記フィルター枠に、シート状のフィルター材が、前記針金材に外表面が当接するようにして針金材に支持され、かつ両端側が枠体の他方の対向する一対の板体に固定されることにより張設されていることを特徴とする。
【0008】
前記フィルター材に、酸化チタンが担持されていることを特徴とする。
また、前記フィルター材に、金属フタロシアニン誘導体が担持されていることを特徴とする。
また、前記フィルター材に、白金が担持されていることを特徴とする。
【0009】
また、前記フィルター材が、 絹素材を1000℃以下の温度で焼成して炭化した絹焼成体からなることを特徴とする。
前記絹焼成体が窒素元素を15wt%以下含むことを特徴とする。
また、前記絹焼成体が賦活処理されて表面に多数の微細ホールが形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るフィルター枠によれば、金属製としたので、耐紫外線に優れ、また、針金材を着脱可能としたので、再使用が容易に可能となる。
また、フィルター材に絹素材を焼成した絹焼成体を用いることによって、抗菌性に優れる。またフィルター材に、酸化チタン、白金などの触媒を担持したり、勤続フタロシニン誘導体を担持することによって、悪臭、排気ガス、ダイオキシン、VOC、有害大気汚染物質などの有害物質の吸着、分解、消臭機能に優れる。
また、特に、絹素材を低温で焼成することによって、フレキシブル性が維持され、フィルター材として種々の形状に対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明に係るフィルター枠およびフィルターの実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は金属製の枠体10の斜視図、図2は針金材12の説明図、図3は枠体10へのフィルタ材14の取り付け構造の一例を示す説明図である。
【0012】
金属製の枠体10は、SUS等からなる所定幅を有する金属製の板体により矩形枠状に形成されている。枠体10は、4枚の金属製の板体を突き合わせて溶接することによって形成してもよいし、1枚の板体を矩形状に折り曲げて後、端部を溶接して形成するようにしてもよい。このようにして、板体の幅分の高さを有する枠体10が形成される。
【0013】
枠体10の一方の対向する一対の板体10a、10bには、その対向する箇所に板体を貫通する複数の貫通孔20a、20bが設けられている。
この各対向する一対の貫通孔20a、20bは、隣接する一対の貫通孔20a、20bとは、枠体10に対して交互に高さ位置を変えて形成されている。すなわち、図1に示すように、貫通孔は各板体に千鳥状に設けられている。なお、必ずしも千鳥状に設けるものに限定はされない。
【0014】
針金材12は、図2に示すように、その両端部から若干内側の位置に貫通孔20a、20bを通過しえない大きさの径大部12a、12bを有している。この径大部12a、12bは、針金材12を潰すことによって容易に形成できる。なお、潰し以外の他の方法、例えばろう材を盛り付けるなどして形成してもよいことはもちろんである。
【0015】
針金材12は、弾性変形させて湾曲させ、両端部を一対の板体10a、10bの貫通孔20a、20bに内側から挿通させて後、弾性変形を解除して直線状に伸ばすことによって、両貫通孔20a、20bに両端部が挿通された状態で両板体間に取り付けられる。これにより、両径大部12a、12bが板体10a、10bの内壁面にほぼ当接する位置となり、そして径大部12a、12bは貫通孔20a、20bからは抜けないから、針金材12は、両板体10a、10b間に保持される。
【0016】
針金材12を枠体10から外すには、針金材12を湾曲させてその長さを短くするようにして、その端部を貫通孔20a、20bから外すようにすればよい。
このようにして、針金材12は、枠体10にワンタッチで容易に着脱することができる。なお、針金材12を枠体10に装着して後、例えば瞬間接着材などにより枠体10に固定するようにしてもよい。外す際には、瞬間接着材を破壊するようにすればよい。
【0017】
なお、針金材12を枠体10にワンタッチで着脱自在とする構成は上記に限られない。例えば、枠体10の上下縁に所要深さのスリット(図示せず)を形成し、このスリットに針金材12の端部を押し込むようにしてワンタッチで着脱自在に固定するようにしてもよい。
【0018】
図3は、シート状のフィルター材14を枠体10に取り付けた状態の一例を示す。
図4は、フィルター材14を押える金属製の押圧片22の部分斜視図を示す。
フィルター材14は、外表面が針金材12に外側から当接するようにして、針金材12に交互に波状に掛け渡され、両端部が枠体10の他方の一対の板体10c、10dに固定されることにより枠体10に張設される。
【0019】
押圧片22は、図5に示すように、枠体10の一方の板体10a、10bの内側に沿って枠体10に固定されてフィルター材14を押圧する構造となっている。
すなわち、押圧片22は、幅方向となる横断面が、外側押圧部22a、固定部22bとからなる断面L字状をなし、また、長手方向両端部が曲折されて内側押圧部22cに形成されている。
【0020】
押圧片22は、固定部22bにおいて、それぞれの板体10a、10bにネジ24によって固定され(図3)、その際、外側押圧部22aによってフィルター材14を針金材12に押圧し、波形状をなすフィルター材14がずれないようにしている。なお、図3に示すように、固定部22bは、フィルター材14と針金材14とに空間的な障害とならないように、適宜切り欠かれている。
【0021】
一方、押圧片22がこのように枠体10に固定された際、内側押圧部22cが、フィルター材14の端部を、他方の板体10c、10dの内壁面に押圧するようになされている。フィルター材14の端部は接着剤によって他方の板体10c、10dの内壁面に接着、固定されるが、内側押圧部22cによって押圧されることによって、確実に保持され、剥がれが防止される。
なお、フィルター枠として、押圧片22は必ずしも設けなくともよい。
【0022】
次に、前記フィルター材14は、材質が特に限定されるものではないが、絹素材を1000℃以下の温度で焼成して炭化した絹焼成体を用いると好適である。
また、フィルター材14は、酸化チタン、白金等の触媒を単独もしくは複数担持させたものを用いると好適である。
あるいは、フィルター材14に、これら触媒とともに、もしくは触媒とは別に、金属フタロシアニン誘導体を担持させたものを用いると好適である。
されていることを特徴とする請求項5または6記載のフィルター。
【0023】
以下、絹焼成体について説明する。
絹焼成体は、絹素材を1000℃以下の比較的低温で焼成することによって得られる。
ここで絹素材とは、家蚕あるいは野蚕からなる織物、編物、粉体、綿、糸等の総称である。これらを単独もしくは併用して焼成する。フィルター材として用いるときは、シート状をなす織物、編物からなる絹素材を焼成すると、そのまま用いることができるので好適である。
【0024】
焼成温度は1000℃以下とすることが肝要である。また焼成雰囲気は、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中、あるいは真空中で行い、絹素材が燃焼して灰化してしまうのを防止する。
【0025】
焼成条件は、急激な焼成を避け、複数段に分けて焼成を行うようにする。
例えば、不活性ガス雰囲気中で、第1次焼成温度(例えば500℃)までは、毎時100℃以下、好ましくは毎時50℃以下の緩やかな昇温速度で昇温し、この第1次焼成温度で数時間保持して1次焼成する。次いで、一旦常温にまで冷却した後、第2次焼成温度(例えば700℃)まで、やはり毎時100℃以下、好ましくは50℃以下の緩やかな昇温速度で昇温し、この第2次焼成温度で数時間保持して2次焼成するのである。次いで冷却する。なお、1次焼成後、常温にまで冷却することなく、引き続いて、すなわち、連続してそのまま2次焼成工程に移行してもよい。
なおまた、焼成条件は上記に限定されるものではなく、絹素材の種類、求める絹焼成体の機能等により適宜変更することができる。
【0026】
上記のように、焼成を複数段に分けて行うこと、また緩やかな昇温速度で昇温して焼成すること、かつ1000℃以下の低い温度で焼成することによって、十数種類のアミノ酸が、非晶性構造と結晶性構造とが入り組んだタンパク高次構造の急激な分解が避けられ、特に窒素成分が多量に残存することによって、各種の機能が生じることが見出された。
また、500℃〜1000℃以下の低温で焼成することによってグラファイト化せず、黒色の艶のある柔軟な(フレキシブル性のある)絹焼成体が得られる。
【0027】
図6は粗粒シルクを2000℃の高温で焼成した場合の焼成物のラマンスペクトル図である。2681cm-1、1570cm-1、1335cm-1のところにピークが見られることからグラファイト化していることが理解される。
【0028】
図7、図8、図9は、粗粒シルクをそれぞれ700℃、1000℃、1400℃で焼成した場合の焼成物のラマンスペクトル図である。1400℃の焼成温度になると、ピーク値は低いものの、上記3箇所でのピークが見られる。1000℃以下の焼成温度の場合には、上記の顕著なピークが見られないことから、グラファイト化はほとんど起こっていないと考えられる。
【0029】
表1は、家蚕絹を500℃で焼成した絹焼成体の、燃焼・溶融式元素分析結果を示す。窒素成分が13.7wt%と多く残存する。400℃程度の低温で焼成すれば、15.0wt%以上の多量の窒素成分が残存する。
【表1】
【0030】
表2は、家蚕絹を500℃で焼成した絹焼成体を、750℃の水蒸気で賦活処理した物の、燃焼・溶融式元素分析結果を示す。また、表3は、家蚕絹を500℃で焼成した絹焼成体を、850℃の水蒸気で賦活処理した物の、燃焼・溶融式元素分析結果を示す。
【表2】
【表3】
【0031】
いずれも賦活処理をすることによって、窒素成分は減少するが、消滅はしない。窒素成分は、15wt%程度残存するのが、抗菌性を発現させる点で好ましいが、1wt%の残存であっても抗菌性が生じる。
このように、窒素成分が残存するためには、前記のように、絹素材の焼成温度を400℃〜1000℃の温度範囲とするのが好適である。
なお、絹焼成体の賦活処理は、絹焼成体を高温の水蒸気に晒すことによって行える。
あるいはKOH等の薬品賦活でも行える。あるいはまた、絹焼成体をマイクロ波処理して賦活してもよい。このマイクロ波処理は、マイクロ波(周波数2.45GHz)を数分間絹焼成体に照射して行う。マイクロ波を照射する際には、炭素素材が燃焼して灰化してしまうのを防ぐため、素焼き板等で炭素素材を挟み込むとよい。本発明では、賦活処理は必ずしも必要ではない。
【0032】
表4は、家蚕絹を2000℃で焼成した絹焼成体の、燃焼・溶融式元素分析結果を示す。窒素成分の残存量はゼロとなった。
【表4】
【0033】
図10は、絹素材を700℃で焼成した場合の、FE―SEM写真図である。表面に、窒素元素等の、アミノ酸由来の焼成残留物によると思われる薄い膜が見られる。
一方、図11は、絹素材を2000℃の高温で焼成した場合の、FE―SEM写真図であるが、表面がきれいで、上記のような膜の存在が認められない。
【0034】
【表5】
表5は、家蚕織地を窒素雰囲気中で700℃で焼成した焼成物の抗菌性試験結果を示す。
試験はJIS L 1902 定量試験(統一試験方法)に従って行った。
無加工布は標準綿布を使用。表中、無加工布菌数とは、無焼成の布に植菌して増殖した菌数を示す。
なお、表中の、例えば、2.2E+04とは、2.2×104のことであり、4.3はその対数値である。
【0035】
表5から明らかなように、無加工布の場合、菌が大幅に増殖したが、焼成試料布の場合、いずれの菌も大幅に減少し、抗菌作用があることがわかる。
このように、抗菌作用を有することは、前記のように、複数段による焼成、緩やかな昇温速度、1000℃以下の低温焼成により、アミノ酸由来の、特に窒素元素が大量に残存することに起因すると推測される。
このように抗菌作用を有することから、マスクの材料などとして好適に利用できる。
【0036】
フィルター材14として、上記のようにして得られた絹焼成体にさらに触媒を担持させると好適である。
触媒としては、白金、金属フタロシアニン誘導体、酸化チタンが好適である。
この触媒の担持方法は通常の工程で行える。
たとえば、絹焼成体を、硝酸溶液あるいは過酸化水素水中に浸漬して前処理、乾燥をした後、絹焼成体に塩化白金酸溶液を塗布、あるいは絹焼成体を該溶液中に浸漬して絹焼成体に白金を担持させるようにする。同様に、前記前処理をした絹焼成体に、金属フタロシアニン溶液あるいは酸化チタン溶液を噴霧するとか、絹焼成体をこれら溶液に浸漬するなどして、絹焼成体表面に金属フタロシアニン誘導体あるいは酸化チタンを担持させるのである。
また、これら触媒を担持する前に、絹焼成体表面を賦活処理し、表面に凹凸を形成して、表面積を増大させることにより、有害物質の吸着機能をより発揮させることができる。なお、通常吸着量が飽和になった場合、その吸着能力はほとんど発揮されなくなるが、担持された触媒により吸着された有害物質が分解されるので、この吸着機能は半永久的に持続させることが可能となる。
【0037】
これら触媒の有害物質分解機能等は公知であるが、例えば、白金の場合には、100℃以上に加温されることによって触媒機能を発揮し、ほとんど全ての有害物質を分解し、消臭する。特に、アンモニア、トリメチルアミン、スカトール、インドール類、ニコチン、アセトアルデヒド、フェノール類などの分解に有効である。
白金を担持したフィルター材14を加温するために、フィルター材14の両端部に電極(図示せず)を取り付け、この電極を介して通電することにより、フィルター材14自体を昇温させるようにすると好適である。
【0038】
上記のように、1000℃以下の低温で焼成して得られた絹焼成体は、前記のようにグラファイト化しておらず、導電性は有するものの、導電性はグラファイトに比較すれば低い。そのため、通電することによって抵抗成分によって自ら発熱し昇温する。
実験によれば、印加電圧にもよるが、1〜2秒間で120℃程度まで瞬時に上昇し、7秒間程度で200℃位まで昇温して安定する。このように熱応答性に優れる利点がある。
なお、上記のように低温で焼成して得られた絹焼成体の場合であっても、420℃程度の温度まで耐熱性があり、分解してぼろぼろになったりなどしない。
【0039】
例えば灯油を用いるファンヒーターなどの場合には、通常、スイッチを投入して後、点火までに数秒間を要し、その間に燃料ガスによるいやな臭いが発散するが、上記の電極付きのフィルター材14を装着したフィルターをファンヒーターの排気ガス通路などに配置し、ファンヒーターのスイッチ投入と同時にフイルターに通電するようにすれば、瞬時に温度が上昇し、触媒機能が発揮されて燃料ガスの臭気成分が、分解、消臭される。
【0040】
次に、触媒として金属フタロシアニン誘導体を担持させた場合には、常温で触媒作用を発揮する。金属フタロシアニン誘導体の場合には、特に硫黄系化合物の分解に好適であり、メチルメルカプタン、硫化水素、ジスルフィド、スカトール、ニコチン、アセトアルデヒド、フェノール類などの分解、消臭に好適である。
また、触媒として酸化チタンを用いた場合には、公知のように、紫外線の存在下で、ほとんど全ての有害物質を分解、消臭する。特に、メチルメルカプタン、硫化水素、スカトール、アンモニア、トリメチルアミン、ジスルフィド、ニコチンなどの分解、消臭に有効である。なお、酸化チタンを用いた場合には、紫外線を照射するが、前記のようにフィルター枠に金属製のものを用いることによって紫外線照射によって劣化せず、再使用が可能となる。
【実施例1】
【0041】
絹素材を、窒素ガス雰囲気中で、第1次焼成温度(450℃)まで、毎時50℃程度の緩やかな昇温速度で昇温し、この第1次焼成温度で5時間保持して1次焼成した。次いで、一旦常温にまで冷却した後、窒素ガス雰囲気中で、第2次焼成温度(700℃)まで、やはり毎時50℃程度の緩やかな昇温速度で昇温し、この第2次焼成温度で5時間保持して2次焼成した。次いで冷却して、図10に示す絹焼成体を得た。
この絹焼成体を850℃の水蒸気に晒して賦活処理をしたところ、絹焼成体の表面に多数の微小ホール(直径0.1nm〜数十nm程度)が形成され、表面積を約1000倍に増大させることができた。
この絹焼成体を、硝酸溶液あるいは過酸化水素水に浸漬して前処理をして後、上記のように、絹焼成体に、塩化白金酸溶液、金属フタロシアニン溶液、あるいは酸化チタン溶液を塗布、噴霧し、あるいは絹焼成体をこれら容器に浸漬し、乾燥して、これら触媒を担持したフィルター材を得た。
このフィルター材はいずれも有害物質の、吸着、分解、消臭性に優れた機能を発揮した。
【0042】
上記のようにして白金を触媒として担持させた絹焼成体、および触媒を担持させない絹焼成体に、タバコのヤニ(タール成分)を付着させ、ヤニの分解性試験を行った。
実験は、まず、密閉した箱の中でタバコを燃やし、一緒に箱の中に入れた絹焼成体(白金未担持、白金3wt%担持、白金0.3wt%担持)それぞれにタバコのヤニを付着させた。そして、このヤニの付着した絹焼成体を別のバッグの中に収容し、通電加熱治具(図示せず)を装着し、加熱し、これにより発生したバッグ内のガスをガスクロマトグラフィにかけて分析した。
図12は、白金未担持の絹焼成体の場合、図13は白金3wt%担持した絹焼成体の場合、図14は白金0.3wt%担持した絹焼成体の場合を示す。白金未担持の場合(図12)、絹焼成体に付着したヤニが、加熱によりそのままガスとして発生する。すなわち、ヤニは分解されていない。これに対し、白金を担持させたものの場合、特に3wt%担持させたものの場合には、白金触媒が加熱により触媒活性を示し、ヤニが分解され、ガスがほとんど発生しないことがわかる(図13)。
【0043】
また、図15は、上記のようにして、金属フタロシアニン誘導体を触媒として担持させた絹焼成体、および触媒を担持させない絹焼成体による硫化水素ガスの吸着濃度曲線を示すグラフである。
この実験は、5リットルの試験バッグに、ごく微量の絹焼成体を入れ、所定濃度の硫化水素ガスをバッグ中に導入し、所定時間経過後の硫化水素ガスの濃度変化を調べたものである。
図15からわかるように、フタロシアニンを担持した絹焼成体は、フタロシアニンを担持させなかった絹焼成体に比較して硫化水素ガスの吸着、分解速度が速い。また、濃度が0ppmになったとき、再度硫化水素ガスをバッグ中に導入した場合も、フタロシアニンを担持させた絹焼成体の方が、硫化水素ガスの吸着、分解速度が速い状態が維持されていることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】金属製の枠体の斜視図である。
【図2】針金材の説明図である。
【図3】枠体へのフィルタ材の取り付け構造の一例を示す説明図である。
【図4】押圧片の部分斜視図である。
【図5】金属製枠体の平面図である。
【図6】粗粒シルクを2000℃の高温で焼成した場合の焼成物のラマンスペクトル図である。
【図7】粗粒シルクを700℃の高温で焼成した場合の焼成物のラマンスペクトル図である。
【図8】粗粒シルクを1000℃の高温で焼成した場合の焼成物のラマンスペクトル図である。
【図9】粗粒シルクを1400℃の高温で焼成した場合の焼成物のラマンスペクトル図である。
【図10】絹素材を700℃で焼成した場合の、FE―SEM写真図である。
【図11】絹素材を2000℃で焼成した場合の、FE―SEM写真図である。
【図12】タバコのヤニから発生するガス成分のガスクロマトグラフィを示す(白金未担持の絹焼成体の場合)。
【図13】タバコのヤニから発生するガス成分のガスクロマトグラフィを示す(白金3wt%担持の絹焼成体の場合)。
【図14】タバコのヤニから発生するガス成分のガスクロマトグラフィを示す(白金0.3wt%担持の絹焼成体の場合)。
【図15】絹焼成体にフタロシアニンを担持させた場合と担持させない場合との硫化水素ガス吸着、分解特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0045】
10 枠体
12 針金材
12a、12b 径大部
14 フィルター材
20 貫通孔
22 押圧片
【技術分野】
【0001】
本発明は、リユース可能なフィルター枠およびフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
フィルターは種々の用途に用いられる。例えば特開2002−113319には、空気清浄機に用いられるフィルターが開示されている。このフィルターは、2つの樹脂製の網目状枠体間にフィルター材を挟みこんで保持した構造のものとなっている。
【特許文献1】特開2002−113319
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、フィルター材には、酸化チタン触媒を担持したものがあり、このようなフィルター材を用いる場合には、酸化チタンを活性化させるために、フィルター材に紫外線を照射して用いる。しかるに、上記のように、フィルター枠に樹脂製のものを用いると、この樹脂製フィルター枠が紫外線によって劣化してしまうという課題がある。また、フィルター枠を再使用しがたいという課題もある。
そこで、本発明は、耐紫外線に優れ、またリユース可能なフィルター枠およびフィルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係るフィルター枠は、金属製の板体により、所定高さを有する矩形枠状に形成された枠体と、該枠体の一方の対向する一対の板体間に亙って、該板体に着脱自在に、かつ互いに平行に取り付けられた、フィルター材支持用の針金材とを具備することを特徴とする。
【0005】
また、前記枠体の対向する一対の板体の対向する位置に、各前記針金材の端部挿通用の貫通孔が所要位置に形成され、前記針金材は、その両端部から若干内側の位置に前記貫通孔を通過しえない大きさの径大部を有し、針金材を弾性変形させて湾曲させ、両端部を前記一対の板体の貫通孔に内側から挿通させて後、弾性変形を解除して直線状にすることによって、両貫通孔に両端部が挿通された状態で両板体間に取り付けられることを特徴とする。
【0006】
また、前記径大部は、針金材を潰すことによって形成されていることを特徴とする。
前記針金材は、枠体に対して交互に高さ位置を変えて取り付けられて、フィルター材を波状に支持可能となっていることを特徴とする。
【0007】
また本発明に係るフィルターは、上記フィルター枠に、シート状のフィルター材が、前記針金材に外表面が当接するようにして針金材に支持され、かつ両端側が枠体の他方の対向する一対の板体に固定されることにより張設されていることを特徴とする。
【0008】
前記フィルター材に、酸化チタンが担持されていることを特徴とする。
また、前記フィルター材に、金属フタロシアニン誘導体が担持されていることを特徴とする。
また、前記フィルター材に、白金が担持されていることを特徴とする。
【0009】
また、前記フィルター材が、 絹素材を1000℃以下の温度で焼成して炭化した絹焼成体からなることを特徴とする。
前記絹焼成体が窒素元素を15wt%以下含むことを特徴とする。
また、前記絹焼成体が賦活処理されて表面に多数の微細ホールが形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るフィルター枠によれば、金属製としたので、耐紫外線に優れ、また、針金材を着脱可能としたので、再使用が容易に可能となる。
また、フィルター材に絹素材を焼成した絹焼成体を用いることによって、抗菌性に優れる。またフィルター材に、酸化チタン、白金などの触媒を担持したり、勤続フタロシニン誘導体を担持することによって、悪臭、排気ガス、ダイオキシン、VOC、有害大気汚染物質などの有害物質の吸着、分解、消臭機能に優れる。
また、特に、絹素材を低温で焼成することによって、フレキシブル性が維持され、フィルター材として種々の形状に対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明に係るフィルター枠およびフィルターの実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は金属製の枠体10の斜視図、図2は針金材12の説明図、図3は枠体10へのフィルタ材14の取り付け構造の一例を示す説明図である。
【0012】
金属製の枠体10は、SUS等からなる所定幅を有する金属製の板体により矩形枠状に形成されている。枠体10は、4枚の金属製の板体を突き合わせて溶接することによって形成してもよいし、1枚の板体を矩形状に折り曲げて後、端部を溶接して形成するようにしてもよい。このようにして、板体の幅分の高さを有する枠体10が形成される。
【0013】
枠体10の一方の対向する一対の板体10a、10bには、その対向する箇所に板体を貫通する複数の貫通孔20a、20bが設けられている。
この各対向する一対の貫通孔20a、20bは、隣接する一対の貫通孔20a、20bとは、枠体10に対して交互に高さ位置を変えて形成されている。すなわち、図1に示すように、貫通孔は各板体に千鳥状に設けられている。なお、必ずしも千鳥状に設けるものに限定はされない。
【0014】
針金材12は、図2に示すように、その両端部から若干内側の位置に貫通孔20a、20bを通過しえない大きさの径大部12a、12bを有している。この径大部12a、12bは、針金材12を潰すことによって容易に形成できる。なお、潰し以外の他の方法、例えばろう材を盛り付けるなどして形成してもよいことはもちろんである。
【0015】
針金材12は、弾性変形させて湾曲させ、両端部を一対の板体10a、10bの貫通孔20a、20bに内側から挿通させて後、弾性変形を解除して直線状に伸ばすことによって、両貫通孔20a、20bに両端部が挿通された状態で両板体間に取り付けられる。これにより、両径大部12a、12bが板体10a、10bの内壁面にほぼ当接する位置となり、そして径大部12a、12bは貫通孔20a、20bからは抜けないから、針金材12は、両板体10a、10b間に保持される。
【0016】
針金材12を枠体10から外すには、針金材12を湾曲させてその長さを短くするようにして、その端部を貫通孔20a、20bから外すようにすればよい。
このようにして、針金材12は、枠体10にワンタッチで容易に着脱することができる。なお、針金材12を枠体10に装着して後、例えば瞬間接着材などにより枠体10に固定するようにしてもよい。外す際には、瞬間接着材を破壊するようにすればよい。
【0017】
なお、針金材12を枠体10にワンタッチで着脱自在とする構成は上記に限られない。例えば、枠体10の上下縁に所要深さのスリット(図示せず)を形成し、このスリットに針金材12の端部を押し込むようにしてワンタッチで着脱自在に固定するようにしてもよい。
【0018】
図3は、シート状のフィルター材14を枠体10に取り付けた状態の一例を示す。
図4は、フィルター材14を押える金属製の押圧片22の部分斜視図を示す。
フィルター材14は、外表面が針金材12に外側から当接するようにして、針金材12に交互に波状に掛け渡され、両端部が枠体10の他方の一対の板体10c、10dに固定されることにより枠体10に張設される。
【0019】
押圧片22は、図5に示すように、枠体10の一方の板体10a、10bの内側に沿って枠体10に固定されてフィルター材14を押圧する構造となっている。
すなわち、押圧片22は、幅方向となる横断面が、外側押圧部22a、固定部22bとからなる断面L字状をなし、また、長手方向両端部が曲折されて内側押圧部22cに形成されている。
【0020】
押圧片22は、固定部22bにおいて、それぞれの板体10a、10bにネジ24によって固定され(図3)、その際、外側押圧部22aによってフィルター材14を針金材12に押圧し、波形状をなすフィルター材14がずれないようにしている。なお、図3に示すように、固定部22bは、フィルター材14と針金材14とに空間的な障害とならないように、適宜切り欠かれている。
【0021】
一方、押圧片22がこのように枠体10に固定された際、内側押圧部22cが、フィルター材14の端部を、他方の板体10c、10dの内壁面に押圧するようになされている。フィルター材14の端部は接着剤によって他方の板体10c、10dの内壁面に接着、固定されるが、内側押圧部22cによって押圧されることによって、確実に保持され、剥がれが防止される。
なお、フィルター枠として、押圧片22は必ずしも設けなくともよい。
【0022】
次に、前記フィルター材14は、材質が特に限定されるものではないが、絹素材を1000℃以下の温度で焼成して炭化した絹焼成体を用いると好適である。
また、フィルター材14は、酸化チタン、白金等の触媒を単独もしくは複数担持させたものを用いると好適である。
あるいは、フィルター材14に、これら触媒とともに、もしくは触媒とは別に、金属フタロシアニン誘導体を担持させたものを用いると好適である。
されていることを特徴とする請求項5または6記載のフィルター。
【0023】
以下、絹焼成体について説明する。
絹焼成体は、絹素材を1000℃以下の比較的低温で焼成することによって得られる。
ここで絹素材とは、家蚕あるいは野蚕からなる織物、編物、粉体、綿、糸等の総称である。これらを単独もしくは併用して焼成する。フィルター材として用いるときは、シート状をなす織物、編物からなる絹素材を焼成すると、そのまま用いることができるので好適である。
【0024】
焼成温度は1000℃以下とすることが肝要である。また焼成雰囲気は、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中、あるいは真空中で行い、絹素材が燃焼して灰化してしまうのを防止する。
【0025】
焼成条件は、急激な焼成を避け、複数段に分けて焼成を行うようにする。
例えば、不活性ガス雰囲気中で、第1次焼成温度(例えば500℃)までは、毎時100℃以下、好ましくは毎時50℃以下の緩やかな昇温速度で昇温し、この第1次焼成温度で数時間保持して1次焼成する。次いで、一旦常温にまで冷却した後、第2次焼成温度(例えば700℃)まで、やはり毎時100℃以下、好ましくは50℃以下の緩やかな昇温速度で昇温し、この第2次焼成温度で数時間保持して2次焼成するのである。次いで冷却する。なお、1次焼成後、常温にまで冷却することなく、引き続いて、すなわち、連続してそのまま2次焼成工程に移行してもよい。
なおまた、焼成条件は上記に限定されるものではなく、絹素材の種類、求める絹焼成体の機能等により適宜変更することができる。
【0026】
上記のように、焼成を複数段に分けて行うこと、また緩やかな昇温速度で昇温して焼成すること、かつ1000℃以下の低い温度で焼成することによって、十数種類のアミノ酸が、非晶性構造と結晶性構造とが入り組んだタンパク高次構造の急激な分解が避けられ、特に窒素成分が多量に残存することによって、各種の機能が生じることが見出された。
また、500℃〜1000℃以下の低温で焼成することによってグラファイト化せず、黒色の艶のある柔軟な(フレキシブル性のある)絹焼成体が得られる。
【0027】
図6は粗粒シルクを2000℃の高温で焼成した場合の焼成物のラマンスペクトル図である。2681cm-1、1570cm-1、1335cm-1のところにピークが見られることからグラファイト化していることが理解される。
【0028】
図7、図8、図9は、粗粒シルクをそれぞれ700℃、1000℃、1400℃で焼成した場合の焼成物のラマンスペクトル図である。1400℃の焼成温度になると、ピーク値は低いものの、上記3箇所でのピークが見られる。1000℃以下の焼成温度の場合には、上記の顕著なピークが見られないことから、グラファイト化はほとんど起こっていないと考えられる。
【0029】
表1は、家蚕絹を500℃で焼成した絹焼成体の、燃焼・溶融式元素分析結果を示す。窒素成分が13.7wt%と多く残存する。400℃程度の低温で焼成すれば、15.0wt%以上の多量の窒素成分が残存する。
【表1】
【0030】
表2は、家蚕絹を500℃で焼成した絹焼成体を、750℃の水蒸気で賦活処理した物の、燃焼・溶融式元素分析結果を示す。また、表3は、家蚕絹を500℃で焼成した絹焼成体を、850℃の水蒸気で賦活処理した物の、燃焼・溶融式元素分析結果を示す。
【表2】
【表3】
【0031】
いずれも賦活処理をすることによって、窒素成分は減少するが、消滅はしない。窒素成分は、15wt%程度残存するのが、抗菌性を発現させる点で好ましいが、1wt%の残存であっても抗菌性が生じる。
このように、窒素成分が残存するためには、前記のように、絹素材の焼成温度を400℃〜1000℃の温度範囲とするのが好適である。
なお、絹焼成体の賦活処理は、絹焼成体を高温の水蒸気に晒すことによって行える。
あるいはKOH等の薬品賦活でも行える。あるいはまた、絹焼成体をマイクロ波処理して賦活してもよい。このマイクロ波処理は、マイクロ波(周波数2.45GHz)を数分間絹焼成体に照射して行う。マイクロ波を照射する際には、炭素素材が燃焼して灰化してしまうのを防ぐため、素焼き板等で炭素素材を挟み込むとよい。本発明では、賦活処理は必ずしも必要ではない。
【0032】
表4は、家蚕絹を2000℃で焼成した絹焼成体の、燃焼・溶融式元素分析結果を示す。窒素成分の残存量はゼロとなった。
【表4】
【0033】
図10は、絹素材を700℃で焼成した場合の、FE―SEM写真図である。表面に、窒素元素等の、アミノ酸由来の焼成残留物によると思われる薄い膜が見られる。
一方、図11は、絹素材を2000℃の高温で焼成した場合の、FE―SEM写真図であるが、表面がきれいで、上記のような膜の存在が認められない。
【0034】
【表5】
表5は、家蚕織地を窒素雰囲気中で700℃で焼成した焼成物の抗菌性試験結果を示す。
試験はJIS L 1902 定量試験(統一試験方法)に従って行った。
無加工布は標準綿布を使用。表中、無加工布菌数とは、無焼成の布に植菌して増殖した菌数を示す。
なお、表中の、例えば、2.2E+04とは、2.2×104のことであり、4.3はその対数値である。
【0035】
表5から明らかなように、無加工布の場合、菌が大幅に増殖したが、焼成試料布の場合、いずれの菌も大幅に減少し、抗菌作用があることがわかる。
このように、抗菌作用を有することは、前記のように、複数段による焼成、緩やかな昇温速度、1000℃以下の低温焼成により、アミノ酸由来の、特に窒素元素が大量に残存することに起因すると推測される。
このように抗菌作用を有することから、マスクの材料などとして好適に利用できる。
【0036】
フィルター材14として、上記のようにして得られた絹焼成体にさらに触媒を担持させると好適である。
触媒としては、白金、金属フタロシアニン誘導体、酸化チタンが好適である。
この触媒の担持方法は通常の工程で行える。
たとえば、絹焼成体を、硝酸溶液あるいは過酸化水素水中に浸漬して前処理、乾燥をした後、絹焼成体に塩化白金酸溶液を塗布、あるいは絹焼成体を該溶液中に浸漬して絹焼成体に白金を担持させるようにする。同様に、前記前処理をした絹焼成体に、金属フタロシアニン溶液あるいは酸化チタン溶液を噴霧するとか、絹焼成体をこれら溶液に浸漬するなどして、絹焼成体表面に金属フタロシアニン誘導体あるいは酸化チタンを担持させるのである。
また、これら触媒を担持する前に、絹焼成体表面を賦活処理し、表面に凹凸を形成して、表面積を増大させることにより、有害物質の吸着機能をより発揮させることができる。なお、通常吸着量が飽和になった場合、その吸着能力はほとんど発揮されなくなるが、担持された触媒により吸着された有害物質が分解されるので、この吸着機能は半永久的に持続させることが可能となる。
【0037】
これら触媒の有害物質分解機能等は公知であるが、例えば、白金の場合には、100℃以上に加温されることによって触媒機能を発揮し、ほとんど全ての有害物質を分解し、消臭する。特に、アンモニア、トリメチルアミン、スカトール、インドール類、ニコチン、アセトアルデヒド、フェノール類などの分解に有効である。
白金を担持したフィルター材14を加温するために、フィルター材14の両端部に電極(図示せず)を取り付け、この電極を介して通電することにより、フィルター材14自体を昇温させるようにすると好適である。
【0038】
上記のように、1000℃以下の低温で焼成して得られた絹焼成体は、前記のようにグラファイト化しておらず、導電性は有するものの、導電性はグラファイトに比較すれば低い。そのため、通電することによって抵抗成分によって自ら発熱し昇温する。
実験によれば、印加電圧にもよるが、1〜2秒間で120℃程度まで瞬時に上昇し、7秒間程度で200℃位まで昇温して安定する。このように熱応答性に優れる利点がある。
なお、上記のように低温で焼成して得られた絹焼成体の場合であっても、420℃程度の温度まで耐熱性があり、分解してぼろぼろになったりなどしない。
【0039】
例えば灯油を用いるファンヒーターなどの場合には、通常、スイッチを投入して後、点火までに数秒間を要し、その間に燃料ガスによるいやな臭いが発散するが、上記の電極付きのフィルター材14を装着したフィルターをファンヒーターの排気ガス通路などに配置し、ファンヒーターのスイッチ投入と同時にフイルターに通電するようにすれば、瞬時に温度が上昇し、触媒機能が発揮されて燃料ガスの臭気成分が、分解、消臭される。
【0040】
次に、触媒として金属フタロシアニン誘導体を担持させた場合には、常温で触媒作用を発揮する。金属フタロシアニン誘導体の場合には、特に硫黄系化合物の分解に好適であり、メチルメルカプタン、硫化水素、ジスルフィド、スカトール、ニコチン、アセトアルデヒド、フェノール類などの分解、消臭に好適である。
また、触媒として酸化チタンを用いた場合には、公知のように、紫外線の存在下で、ほとんど全ての有害物質を分解、消臭する。特に、メチルメルカプタン、硫化水素、スカトール、アンモニア、トリメチルアミン、ジスルフィド、ニコチンなどの分解、消臭に有効である。なお、酸化チタンを用いた場合には、紫外線を照射するが、前記のようにフィルター枠に金属製のものを用いることによって紫外線照射によって劣化せず、再使用が可能となる。
【実施例1】
【0041】
絹素材を、窒素ガス雰囲気中で、第1次焼成温度(450℃)まで、毎時50℃程度の緩やかな昇温速度で昇温し、この第1次焼成温度で5時間保持して1次焼成した。次いで、一旦常温にまで冷却した後、窒素ガス雰囲気中で、第2次焼成温度(700℃)まで、やはり毎時50℃程度の緩やかな昇温速度で昇温し、この第2次焼成温度で5時間保持して2次焼成した。次いで冷却して、図10に示す絹焼成体を得た。
この絹焼成体を850℃の水蒸気に晒して賦活処理をしたところ、絹焼成体の表面に多数の微小ホール(直径0.1nm〜数十nm程度)が形成され、表面積を約1000倍に増大させることができた。
この絹焼成体を、硝酸溶液あるいは過酸化水素水に浸漬して前処理をして後、上記のように、絹焼成体に、塩化白金酸溶液、金属フタロシアニン溶液、あるいは酸化チタン溶液を塗布、噴霧し、あるいは絹焼成体をこれら容器に浸漬し、乾燥して、これら触媒を担持したフィルター材を得た。
このフィルター材はいずれも有害物質の、吸着、分解、消臭性に優れた機能を発揮した。
【0042】
上記のようにして白金を触媒として担持させた絹焼成体、および触媒を担持させない絹焼成体に、タバコのヤニ(タール成分)を付着させ、ヤニの分解性試験を行った。
実験は、まず、密閉した箱の中でタバコを燃やし、一緒に箱の中に入れた絹焼成体(白金未担持、白金3wt%担持、白金0.3wt%担持)それぞれにタバコのヤニを付着させた。そして、このヤニの付着した絹焼成体を別のバッグの中に収容し、通電加熱治具(図示せず)を装着し、加熱し、これにより発生したバッグ内のガスをガスクロマトグラフィにかけて分析した。
図12は、白金未担持の絹焼成体の場合、図13は白金3wt%担持した絹焼成体の場合、図14は白金0.3wt%担持した絹焼成体の場合を示す。白金未担持の場合(図12)、絹焼成体に付着したヤニが、加熱によりそのままガスとして発生する。すなわち、ヤニは分解されていない。これに対し、白金を担持させたものの場合、特に3wt%担持させたものの場合には、白金触媒が加熱により触媒活性を示し、ヤニが分解され、ガスがほとんど発生しないことがわかる(図13)。
【0043】
また、図15は、上記のようにして、金属フタロシアニン誘導体を触媒として担持させた絹焼成体、および触媒を担持させない絹焼成体による硫化水素ガスの吸着濃度曲線を示すグラフである。
この実験は、5リットルの試験バッグに、ごく微量の絹焼成体を入れ、所定濃度の硫化水素ガスをバッグ中に導入し、所定時間経過後の硫化水素ガスの濃度変化を調べたものである。
図15からわかるように、フタロシアニンを担持した絹焼成体は、フタロシアニンを担持させなかった絹焼成体に比較して硫化水素ガスの吸着、分解速度が速い。また、濃度が0ppmになったとき、再度硫化水素ガスをバッグ中に導入した場合も、フタロシアニンを担持させた絹焼成体の方が、硫化水素ガスの吸着、分解速度が速い状態が維持されていることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】金属製の枠体の斜視図である。
【図2】針金材の説明図である。
【図3】枠体へのフィルタ材の取り付け構造の一例を示す説明図である。
【図4】押圧片の部分斜視図である。
【図5】金属製枠体の平面図である。
【図6】粗粒シルクを2000℃の高温で焼成した場合の焼成物のラマンスペクトル図である。
【図7】粗粒シルクを700℃の高温で焼成した場合の焼成物のラマンスペクトル図である。
【図8】粗粒シルクを1000℃の高温で焼成した場合の焼成物のラマンスペクトル図である。
【図9】粗粒シルクを1400℃の高温で焼成した場合の焼成物のラマンスペクトル図である。
【図10】絹素材を700℃で焼成した場合の、FE―SEM写真図である。
【図11】絹素材を2000℃で焼成した場合の、FE―SEM写真図である。
【図12】タバコのヤニから発生するガス成分のガスクロマトグラフィを示す(白金未担持の絹焼成体の場合)。
【図13】タバコのヤニから発生するガス成分のガスクロマトグラフィを示す(白金3wt%担持の絹焼成体の場合)。
【図14】タバコのヤニから発生するガス成分のガスクロマトグラフィを示す(白金0.3wt%担持の絹焼成体の場合)。
【図15】絹焼成体にフタロシアニンを担持させた場合と担持させない場合との硫化水素ガス吸着、分解特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0045】
10 枠体
12 針金材
12a、12b 径大部
14 フィルター材
20 貫通孔
22 押圧片
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の板体により、所定高さを有する矩形枠状に形成された枠体と、
該枠体の一方の対向する一対の板体間に亙って、該板体に着脱自在に、かつ互いに平行に取り付けられた、フィルター材支持用の針金材とを具備することを特徴とするフィルター枠。
【請求項2】
前記枠体の対向する一対の板体の対向する位置に、各前記針金材の端部挿通用の貫通孔が所要位置に形成され、
前記針金材は、その両端部から若干内側の位置に前記貫通孔を通過しえない大きさの径大部を有し、針金材を弾性変形させて湾曲させ、両端部を前記一対の板体の貫通孔に内側から挿通させて後、弾性変形を解除して直線状にすることによって、両貫通孔に両端部が挿通された状態で両板体間に取り付けられることを特徴とする請求項1記載のフィルター枠。
【請求項3】
前記径大部は、針金材を潰すことによって形成されていることを特徴とする請求項2記載のフィルター枠。
【請求項4】
前記針金材は、枠体に対して交互に高さ位置を変えて取り付けられて、フィルター材を波状に支持可能となっていることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のフィルター枠。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項記載のフィルター枠に、シート状のフィルター材が、前記針金材に外表面が当接するようにして針金材に支持され、かつ両端側が枠体の他方の対向する一対の板体に固定されることにより張設されていることを特徴とするフィルター。
【請求項6】
前記フィルター材に、酸化チタンが担持されていることを特徴とする請求項5記載のフィルター。
【請求項7】
前記フィルター材に、金属フタロシアニン誘導体が担持されていることを特徴とする請求項5または6記載のフィルター。
【請求項8】
前記フィルター材に、白金が担持されていることを特徴とする請求項5〜7いずれか1項記載のフィルター。
【請求項9】
前記フィルター材が、絹素材を1000℃以下の温度で焼成して炭化した絹焼成体からなることを特徴とする請求項5〜8いずれか1項記載のフィルター。
【請求項10】
前記絹焼成体が窒素元素を15wt%以下含むことを特徴とする請求項5〜9いずれか1項記載のフィルター。
【請求項11】
前記絹焼成体が賦活処理されて表面に多数の微細ホールが形成されていることを特徴とする請求項1〜10いずれか1項記載のフィルター。
【請求項1】
金属製の板体により、所定高さを有する矩形枠状に形成された枠体と、
該枠体の一方の対向する一対の板体間に亙って、該板体に着脱自在に、かつ互いに平行に取り付けられた、フィルター材支持用の針金材とを具備することを特徴とするフィルター枠。
【請求項2】
前記枠体の対向する一対の板体の対向する位置に、各前記針金材の端部挿通用の貫通孔が所要位置に形成され、
前記針金材は、その両端部から若干内側の位置に前記貫通孔を通過しえない大きさの径大部を有し、針金材を弾性変形させて湾曲させ、両端部を前記一対の板体の貫通孔に内側から挿通させて後、弾性変形を解除して直線状にすることによって、両貫通孔に両端部が挿通された状態で両板体間に取り付けられることを特徴とする請求項1記載のフィルター枠。
【請求項3】
前記径大部は、針金材を潰すことによって形成されていることを特徴とする請求項2記載のフィルター枠。
【請求項4】
前記針金材は、枠体に対して交互に高さ位置を変えて取り付けられて、フィルター材を波状に支持可能となっていることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のフィルター枠。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項記載のフィルター枠に、シート状のフィルター材が、前記針金材に外表面が当接するようにして針金材に支持され、かつ両端側が枠体の他方の対向する一対の板体に固定されることにより張設されていることを特徴とするフィルター。
【請求項6】
前記フィルター材に、酸化チタンが担持されていることを特徴とする請求項5記載のフィルター。
【請求項7】
前記フィルター材に、金属フタロシアニン誘導体が担持されていることを特徴とする請求項5または6記載のフィルター。
【請求項8】
前記フィルター材に、白金が担持されていることを特徴とする請求項5〜7いずれか1項記載のフィルター。
【請求項9】
前記フィルター材が、絹素材を1000℃以下の温度で焼成して炭化した絹焼成体からなることを特徴とする請求項5〜8いずれか1項記載のフィルター。
【請求項10】
前記絹焼成体が窒素元素を15wt%以下含むことを特徴とする請求項5〜9いずれか1項記載のフィルター。
【請求項11】
前記絹焼成体が賦活処理されて表面に多数の微細ホールが形成されていることを特徴とする請求項1〜10いずれか1項記載のフィルター。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−130562(P2007−130562A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325258(P2005−325258)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(000106944)シナノケンシ株式会社 (316)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(000106944)シナノケンシ株式会社 (316)
【Fターム(参考)】
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