説明

フィルタ係数制御器

【課題】適応的にデジタルフィルタのフィルタ係数を求めるフィルタ係数制御器を提供する。
【解決手段】フィルタ係数制御器であって、デジタルフィルタからの出力信号に基づいて、前記デジタルフィルタのフィルタ係数を、前記デジタルフィルタによる信号の処理中においても、適応的に算出して出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ディスク等から再生された信号の波形を整形する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報記録再生用の記録媒体として、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、Blu-ray Disc等が使用されている。記録密度の向上に伴い、これらの記録媒体に記録されている情報を再生するために、より能力の高い再生信号処理が必要となってきている。
【0003】
能力の高い再生信号処理として、PRML(Partial Response Maximum Likelihood)検出方式が注目され、一般的になりつつある。PRML検出方式は、HDD(Hard Disk Drive)、書き換え可能な光ディスク等の高密度記録されている記録媒体から読み出された信号に対する信号処理方式として利用されている技術である。この方式は、波形等化技術であるパーシャルレスポンスと最尤復号法の1つであるビタビ復号とを組み合わせた方式であり、これによると、S/N(信号対雑音)比の低い再生信号や、非線形歪みの多い再生信号から、正しいデータを復号することができる。
【0004】
PRML検出方式を用いた再生信号処理装置の例が、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−199727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アナログフィルタが再生信号を処理し、処理後の信号がデジタルフィルタに与えられる場合には、デジタルフィルタで入力信号の高域強調を行うことにより、アナログフィルタの簡易化を図ることができる。しかしながら、入力信号の特性が変化した場合には、十分な再生性能を得られない場合がある。データが再生できなくなった場合には、再度、デジタルフィルタの最適なフィルタ係数を選択しなおす必要がある。
【0007】
適応的にフィルタ係数を算出する方法としては、LMS(Least Mean Square)アルゴリズムを用いる方法があり、これはPR(Partial Response)等化器で一般的に用いられている。しかし、再生信号のサンプル値が図4のように0に関して非対称となることがあり、このような歪みを有する再生信号については、等化目標値を一意に決めることが難しい。
【0008】
また、DVD等の光再生特性であるMTF(Mutual Transfer Function)特性は、図2のように低域に分布している。信号情報が低域にしか存在しないので、図3のように、折り返し周波数(規格化周波数=0.5)におけるデジタルフィルタのゲインが大きくなってしまい、高域のノイズ成分がある場合には、そのノイズが強調されてしまう。すると、デジタルフィルタの出力信号を用いるPLL(Phase Locked Loop)の制御特性が悪化してしまい、再生信号処理装置の性能が低下する。
【0009】
本発明は、適応的にデジタルフィルタのフィルタ係数を求めるフィルタ係数制御器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態によるフィルタ係数制御器は、デジタルフィルタからの出力信号に基づいて、前記デジタルフィルタのフィルタ係数を、前記デジタルフィルタによる信号の処理中においても、適応的に算出して出力する。
【0011】
これによると、フィルタ係数を逐次更新することができるので、デジタルフィルタのフィルタ係数を適切に保つことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態によれば、適応的にデジタルフィルタのフィルタ係数を求めることができる。したがって、光ディスク等の再生信号からのデータ再生を適切に継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る再生信号処理装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】DVDの光再生特性であるMTF特性と、いくつかのPR特性とを示すグラフである。
【図3】一般的なデジタルイコライザの周波数特性の例を示すグラフである。
【図4】記録媒体からの再生信号のサンプル値の分布例を示すグラフである。
【図5】図1のフィルタ係数制御器の構成例を示すブロック図である。
【図6】ゼロクロスポイントのタイミングがサンプリングのタイミングに一致している場合における、図1のフィルタ係数制御器への入力信号例を示すグラフである。
【図7】ゼロクロスポイントのタイミングがサンプリングのタイミングに一致していない場合における、図1のフィルタ係数制御器への入力信号例を示すグラフである。
【図8】記録媒体からの再生信号の一例を示すグラフである。
【図9】図1のデジタルイコライザの周波数特性の例を示すグラフである。
【図10】図1のフィルタ係数制御器の他の例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図面において下2桁が同じ参照番号で示された構成要素は、互いに対応しており、同一の又は類似の構成要素である。
【0015】
本明細書における各機能ブロックは、典型的にはハードウェアで実現され得る。例えば各機能ブロックは、IC(集積回路)の一部として半導体基板上に形成され得る。ここでICは、LSI(Large-Scale Integrated circuit)、ASIC(Application-Specific Integrated Circuit)、ゲートアレイ、FPGA(Field Programmable Gate Array)等を含む。代替としては各機能ブロックの一部又は全ては、ソフトウェアで実現され得る。例えばそのような機能ブロックは、プロセッサ上で実行されるプログラムによって実現され得る。換言すれば、本明細書で説明される各機能ブロックは、ハードウェアで実現されてもよいし、ソフトウェアで実現されてもよいし、ハードウェアとソフトウェアとの任意の組合せで実現され得る。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る再生信号処理装置の構成例を示すブロック図である。図1の再生信号処理装置は、プリアンプ6と、ゲインコントローラ(AGC/Offset)8と、アナログイコライザ10と、A/D変換器12と、VCO(Voltage Controlled Oscillator)14と、レンジ制御部16と、デジタルイコライザ18と、フィルタ係数制御器20と、PLL(Phase Locked Loop)制御器22と、PR(Partial Response)等化器24と、適応学習器26と、最尤復号器28とを有している。
【0017】
光ピックアップ4は、記録媒体2にレーザー光を照射する。光ピックアップ4は、記録媒体2からの反射光を再生信号に変換して出力する。記録媒体2は、例えばCD、DVD、又はBlu-ray Discであり、ここではDVDであるとして説明する。プリアンプ6は、光ピックアップ4から出力された再生信号を増幅してゲインコントローラ8に出力する。ゲインコントローラ8は、レンジ制御部16から出力された制御信号に従って、プリアンプ6から出力された再生信号に対して自動ゲイン制御(AGC)及びオフセット制御(すなわち、DC変動の除去)を行い、出力する。
【0018】
アナログイコライザ10は、ゲインコントローラ8の出力から高域のノイズ成分を除去して出力する。A/D変換器12は、VCO14から出力されるクロックに従って、アナログイコライザ10の出力をデジタル信号DIに変換して出力する。レンジ制御部16は、A/D変換器12に入力される信号がA/D変換器12のダイナミックレンジ内に収まるように、制御信号を生成してゲインコントローラ8に出力する。
【0019】
A/D変換器12、デジタルイコライザ18、PLL制御器22及びVCO14は、PLLを構成している。デジタルイコライザ18は、デジタルFIR(Finite Impulse Response)フィルタ(以下では単にFIRフィルタと称する)を有し、このFIRフィルタの出力信号を出力する。このFIRフィルタは、フィルタ係数制御器20から出力されたフィルタ係数を用いる。デジタルイコライザ18は、A/D変換器12から出力されたデジタル信号DIに対して、PLLの制御に必要な周波数帯域を強調するような処理を行い、処理後の信号ESを出力する。
【0020】
フィルタ係数制御器20は、デジタルイコライザ18からの出力信号に基づいて、適応的に学習することによってデジタルイコライザ18のフィルタ係数(タップ係数)を算出し、デジタルイコライザ18に出力する。フィルタ係数制御器20は、記録媒体2からの再生信号の特性が変化した場合であっても十分な再生性能が得られるように、デジタルイコライザ18がデジタル信号DIを処理中であっても、適応的に、学習しながら、デジタルイコライザ18のフィルタ係数を更新し続ける。PLL制御器22は、デジタルイコライザ18から出力された信号ESの、参照信号に対する位相誤差を検出し、検出された位相誤差に応じた信号を出力する。VCO14は、PLL制御器22の出力に応じた周波数のクロックを生成し、A/D変換器12に出力する。
【0021】
PR等化器24は、トランスバーサルフィルタ、又はFIRフィルタを有し、適応学習器26から出力されたフィルタ係数をこれらのフィルタのフィルタ係数として用いる。PR等化器24は、デジタルイコライザ18の出力信号ESに対して、所望のPR特性を有する信号となるように波形等化を行い、出力する。適応学習器26は、適応的に学習することによってPR等化器24のフィルタ係数を算出し、PR等化器24に出力する。最尤復号器28は、PR等化器24の出力信号に対して、最尤復号法の1つであるビタビ復号法による最尤復号を行い、その結果を復号信号BSとして出力する。復号信号BSは、2値化された信号である。
【0022】
図2は、DVDの光再生特性であるMTF(Mutual Transfer Function)特性と、いくつかのPR特性とを示すグラフである。PR等化器24は、MTF特性を有する信号が所望のPR特性(例えば、PR(1,2,2,1)や、PR(3,4,4,3))を有する信号となるように、波形等化を行う。適応学習器26は、例えばLMS(Least Mean Square)アルゴリズムを用いて最適なフィルタ係数を求める。
【0023】
LMSアルゴリズムは、PR等化器24の出力値と等化目標値との間の差である等化誤差信号の二乗値を最小にするように、PR等化器24のフィルタ係数を随時更新する。時刻t、時刻tにおけるFIRフィルタのi番目のタップのフィルタ係数C(t)、更新されたi番目のタップのフィルタ係数C(t+1)、ループゲインμ、時刻tにおける等化誤差e(t)、i番目のタップに対する入力値x(t)を用いると、
LMSアルゴリズムの一般的なフィルタ係数の更新式は、
(t+1)=C(t)+μ×e(t)×x(t) …(1)
である。最尤復号器28は、PR等化器24によって意図的に与えられた波形干渉を利用して復号を行う。
【0024】
図3は、一般的なデジタルイコライザの周波数特性の例を示すグラフである。図4は、記録媒体2からの再生信号のサンプル値の分布例を示すグラフである。図2に示されているように、DVDのMTF特性が低域に分布しているのに対して、PR(3,4,4,3)やPR(1,2,2,1)の特性は、規格化周波数0.3付近より上においてもある程度の値を有している。このため、LMSアルゴリズムを単純にデジタルイコライザのフィルタ係数の更新に用いると、デジタルイコライザの周波数特性は、図3のように折り返し周波数(規格化周波数=0.5)におけるゲインが大きい特性になってしまい、高域のノイズが増加してしまう。
【0025】
高域でのゲインがより小さい高次のPR方式を選択することによって、高域のノイズの抑圧は可能になる。しかし、図4に示されている信号のように、値の分布が“0”に関して非対称となる信号に対しては、十分に効果を得ることが難しい。そこで、本実施形態では、次のようにフィルタ係数制御器20を構成する。
【0026】
図5は、図1のフィルタ係数制御器20の構成例を示すブロック図である。フィルタ係数制御器20は、加算器32,34と、係数演算部36と、適応型AC成分制御部40と、適応型DC成分制御部50と、ジッタ最小化制御部60とを有している。
【0027】
ジッタ最小化制御部60は、二値化部62と、エッジ検出器64と、加算器66と、ゼロクロスポイント制御部70と、振幅制御部80とを有している。二値化部62は、デジタルイコライザ18の出力信号ESを二値化して出力する。エッジ検出器64は、二値化部62から出力された信号のエッジを検出し、検出されたエッジのタイミングを示す信号EGを生成して出力する。エッジ検出器64は、信号ESの出力信号のエッジのタイミングが所定の条件を満たさない場合、例えば記録媒体2に所定のデータフォーマットに違反してデータが記録されている場合には、エッジの検出を行わなくてもよい。
【0028】
ゼロクロスポイント制御部70は、ゼロクロスポイント検出部72,73と、ゼロクロスポイント誤差検出部74と、相関検出部76と、ゲイン設定部77とを有している。ゼロクロスポイント制御部70は、ゼロクロスポイント(信号EGが示す、エッジ検出器64で検出されたエッジのタイミング)における信号ESの値が目標値(例えば“0”であり、“0”以外の値でもよい)に近づくように、LMSアルゴリズムを用いてゲインを求め、このゲインに基づいて係数演算部36がフィルタ係数の算出を行う。
【0029】
ゼロクロスポイント検出部72は、信号EGが示すタイミングにおける、デジタルイコライザ18への入力信号DIの値を検出し、相関検出部76に出力する。ゼロクロスポイント検出部73は、信号EGが示すタイミングにおける、デジタルイコライザ18からの出力信号ESの値を検出し、ゼロクロスポイント誤差検出部74に出力する。
【0030】
ゼロクロスポイント誤差検出部74は、ゼロクロスポイント検出部73で検出された値と目標値との間の差を検出する。相関検出部76は、ゼロクロスポイント誤差検出部74で検出された誤差と、ゼロクロスポイント検出部72で検出された値との間の相関関係を求める。ゲイン設定部77は、相関検出部76で求められた相関関係に従ってゲインを求める。
【0031】
振幅制御部80は、振幅算出部82,83と、振幅誤差検出部84と、相関検出部86と、ゲイン設定部87とを有している。振幅制御部80は、ゼロクロスポイントの前後の信号ESのサンプル値から算出された振幅が目標振幅に近づくように、LMSアルゴリズムを用いてゲインを求め、このゲインに基づいて係数演算部36がフィルタ係数の算出を行う。
【0032】
振幅算出部82は、信号EGを用いて、デジタルイコライザ18への入力信号DIのゼロクロスポイントの前後のサンプル値から入力信号DIの信号振幅を算出する。振幅算出部83は、信号EGを用いて、デジタルイコライザ18からの出力信号ESのゼロクロスポイントの前後のサンプル値から出力信号ESの信号振幅を算出する。
【0033】
振幅誤差検出部84は、振幅算出部83で求められた振幅と目標振幅との間の差を検出する。相関検出部86は、振幅誤差検出部84で検出された誤差と、振幅算出部82で検出された振幅との間の相関関係を求める。ゲイン設定部87は、相関検出部86で求められた相関関係に従ってゲインを求める。加算器66は、ゼロクロスポイント制御部70及び振幅制御部80で求められたゲインを加算して出力する。
【0034】
適応型AC成分制御部40は、数列生成器42と、乗算器43と、加算器44と、AC誤差検出部45と、相関検出部46と、ゲイン設定部47とを有している。適応型AC成分制御部40は、折り返し周波数におけるデジタルイコライザ18のフィルタ特性を制御する。
【0035】
数列生成器42は、“1”と“−1”とを交互に繰り返して出力する。出力される値は、デジタルイコライザ18のフィルタのタップにそれぞれ対応している。数列生成器42は、最初に“1”又は“−1”を出力する。すなわち、数列生成器42は、数列“1,−1,1,…”又は“−1,1,−1,…”を生成して出力する。
【0036】
乗算器43は、係数演算部36で算出されたフィルタの各タップの係数と、数列生成器42から出力される数列に含まれ、各タップに対応する値とをそれぞれ乗算して出力する。加算器44は、各タップについての乗算器43での乗算結果の総和を求めて出力する。加算器44から出力される総和は、折り返し周波数におけるフィルタ特性のゲインを示している。
【0037】
AC誤差検出部45は、加算器44の出力と目標ゲインとの間の誤差を検出する。相関検出部46は、数列生成器42から出力された数列“1,−1,1,…”又は“−1,1,−1,…”と、AC誤差検出部45で検出された誤差との間の相関関係を算出する。ゲイン設定部47は、相関検出部46で求められた相関関係に従ってゲインを求め、出力する。適応型AC成分制御部40は、加算器44で求められる総和が目標とする総和に近づくように、ゲインを求める。
【0038】
適応型DC成分制御部50は、数列生成器52と、乗算器53と、加算器54と、DC誤差検出部55と、相関検出部56と、ゲイン設定部57とを有している。適応型DC成分制御部50は、周波数0(DC)におけるデジタルイコライザ18のフィルタ特性を制御する。
【0039】
数列生成器52は、数列“1,1,1,…”又は“−1,−1,−1,…”を生成して出力する。出力される値は、デジタルイコライザ18のフィルタのタップにそれぞれ対応している。乗算器53は、係数演算部36で算出されたフィルタの各タップの係数と、数列生成器52から出力される数列に含まれ、各タップに対応する値とをそれぞれ乗算して出力する。加算器54は、各タップについての乗算器53での乗算結果の総和を求めて出力する。加算器54から出力される総和は、周波数0におけるフィルタ特性のゲインを示している。
【0040】
DC誤差検出部55は、加算器54の出力と目標ゲインとの間の誤差を検出する。相関検出部56は、数列生成器52から出力された数列“1,−1,1,…”又は“−1,1,−1,…”と、DC誤差検出部55で検出された誤差との間の相関関係を算出する。ゲイン設定部57は、相関検出部56で求められた相関関係に従ってゲインを求め、出力する。適応型DC成分制御部50は、加算器54で求められる総和が目標とする総和に近づくように、ゲインを求める。
【0041】
加算器32は、ゲイン設定部47で求められたゲインと、ゲイン設定部57で求められたゲインとを加算して出力する。加算器34は、加算器32での加算結果と加算器66での加算結果とを加算して出力する。係数演算部36は、加算器34での加算結果に従って、デジタルイコライザ18のFIRフィルタの各タップの係数を算出し、出力する。
【0042】
図6は、ゼロクロスポイントのタイミングがサンプリングのタイミングに一致している場合における、図1のフィルタ係数制御器20への入力信号例を示すグラフである。図7は、ゼロクロスポイントのタイミングがサンプリングのタイミングに一致していない場合における、図1のフィルタ係数制御器20への入力信号例を示すグラフである。図6及び図7では、サンプリングポイントが白丸で示されている。
【0043】
ジッタ最小化制御部60について、より詳しく説明する。A/D変換のサンプリング間隔は一定であるので、サンプリング間隔より小さいジッタを求めることはできない。そこで、ゼロクロスポイント検出部72,73は、入力信号の振幅方向の値を時間軸方向の値に変換して用いている。図6の場合には、yt−1−yt+1(立下りエッジの場合)又はyt+1−yt−1(立上りエッジの場合)が時間2Tに対応する。そこで、ゼロクロスポイント検出部72,73は、ゼロクロスポイントにおける信号値と目標値との間の差yを時間ts=y/|yt+1−yt−1|×2Tに変換し、時間tsからジッタを求める。
【0044】
図7では、サンプリングポイントの位相が図6の場合に対して180度ずれている。この場合には、ゼロクロスポイント付近にサンプリングされたデジタルデータがないので、ゼロクロスポイント検出部72,73は、隣接する2つのサンプル点(これらの値はゼロを挟む)のデータから、直線補間によってゼロクロスポイント(斜線が付された丸)における信号値を算出する。なお、ナイキスト補間によってゼロクロスポイントにおける信号値を算出してもよい。ゼロクロスポイント検出部72,73は、ゼロクロスポイントにおける信号値と目標値との間の差yを時間ts=y’/|y−yt−1|×Tに変換し、時間tsからジッタを求める。
【0045】
ジッタ量が小さいほどPLLの制御が安定するので、ジッタ最小化制御部60は、ジッタ量が小さくなるようにデジタルイコライザのフィルタ係数を適応的に算出する。つまり、ジッタ最小化制御部60は、ゼロクロスポイントにおける信号値が目標値(例えば“0”)に近づくように適応フィルタ係数学習を行う。
【0046】
ループゲインμ、時刻t(ゼロクロスポイント)におけるサンプリングデータy(t)、時刻t及びt−1におけるサンプリングデータから直線補間によって求められたゼロクロスポイントのデータy’(t)、目標値TRG、デジタルイコライザ18のFIRフィルタのi番目のタップへの入力値xZERO i(t)、デジタルイコライザ18のFIRフィルタのi番目のタップへの入力値の前後のサンプリングデータから図7のように直線補間によって求められた値x’ZERO i(t)を用いて、FIRフィルタのフィルタ係数Cは、
(t+1)=C(t)+μ×{y(t)−TRG}×xZERO i(t) …(2)
(t+1)=C(t)+μ×{y’(t)−TRG}×x’ZERO i(t) …(3)
と表される。式(2)は図6の場合、式(3)は図7の場合を示す。式(2)、(3)における第2項はフィルタ係数の更新量を示しており、これらの項をゼロクロスポイント制御部70が生成する。なお、目標値は“0”以外であってもよい。
【0047】
また、ジッタ最小化制御部60は、基準幅の振幅量が目標振幅になるように適応フィルタ係数学習を行う。ループゲインμ、目標振幅Tampを用いて、FIRフィルタのフィルタ係数Cは、
(t+1)=C(t)+μ×[±{y(t+1)−y(t−1)}−Tamp]×(±){x(t+1)−x(t−1)} …(4)
(t+1)=C(t)+μ×[±{y(t−1)−y(t)}−Tamp]×(±){x(t−1)−x(t)} …(5)
と表される。式(4)は図6の場合、式(5)は図7の場合を示す。式(4)、(5)における第2項はフィルタ係数の更新量を示しており、これらの項を振幅制御部80が生成する。
【0048】
図8は、記録媒体2からの再生信号の一例を示すグラフである。ジッタ最小化制御部60は、図6及び図におけるゼロクロスポイントの周辺、すなわち図8におけるジッタ最小制御ポイントのデータを用いてフィルタ係数の学習を行うので、図8に示す振幅“0”に関して非対称な波形が入力された場合においても、波形歪みの影響を受けにくい。
【0049】
適応型AC成分制御部40は、デジタルイコライザ18の規格化周波数=0.5(すなわち、折り返し周波数)におけるゲインを調整する制御を行う。ループゲインμ、折り返し周波数におけるターゲットゲインACTrgを用いてFIRフィルタのフィルタ係数Cは、
(t+1)=C(t)+μ×[Σi=0i=n-1{C(t)×(−1)}−ACTrg]×C(t) …(6)
と表される。式(6)における第2項は、フィルタ係数の更新量を示しており、この項を適応型AC成分制御部40が生成する。適応型AC成分制御部40は、フィルタ係数C(0≦i≦n−1)と数列“1,−1,1,…,−1,1”の対応する値とを乗算し、求められた積の総和を求めることによって折り返し周波数におけるゲインを求め、このゲインがターゲットゲインACTrgとなるように適応的にフィルタ係数の学習を行う。
【0050】
適応型DC成分制御部50は、デジタルイコライザ18の規格化周波数=0(すなわち、DC)におけるゲインを調整する制御を行う。ループゲインμ、DCにおけるターゲットゲインDCTrgを用いてFIRフィルタのフィルタ係数Cは、
(t+1)=C(t)+μ×[Σi=0i=n-1{C(t)×1}−DCTrg]×C(t) …(7)
と表される。式(7)における第2項は、フィルタ係数の更新量を示しており、この項を適応型DC成分制御部50が生成する。適応型DC成分制御部50は、フィルタ係数C(0≦i≦n−1)と数列“1,1,1,…,1,1”の対応する値とを乗算し、求められた積の総和を求めることによってDCにおけるゲインを求め、このゲインがターゲットゲインDCTrgとなるように適応的にフィルタ係数の学習を行う。
【0051】
ここで、ジッタ最小化制御部60、適応型AC成分制御部40、適応型DC成分制御部50によるフィルタ係数の更新を合成すると、フィルタ係数制御器20によるフィルタ係数の更新を示す式、
(t+1)=C(t)
+μ×{y(t)−TRG}×xZERO i(t)
+μ×[±{y(t+1)−y(t−1)}−Tamp]×(±){x(t+1)−x(t−1)}
+μ×[Σi=0i=n-1{C(t)×(−1)}−ACTrg]×C(t)
+μ×[Σi=0i=n-1{C(t)×1}−DCTrg]×C(t)
…(8)
(t+1)=C(t)
+μ×{y’(t)−TRG}×x’ZERO i(t)
+μ×[±{y(t−1)−y(t)}−Tamp]×(±){x(t−1)−x(t)}
+μ×[Σi=0i=n-1{C(t)×(−1)}−ACTrg]×C(t)
+μ×[Σi=0i=n-1{C(t)×1}−DCTrg]×C(t)
…(9)
が得られる。式(8)は図6の場合、式(9)は図7の場合を示す。
【0052】
図9は、図1のデジタルイコライザ18の周波数特性の例を示すグラフである。フィルタ係数制御器20は、式(8)又は(9)に従って、適応的にフィルタ係数を制御する。これにより、ジッタを抑えながら、デジタルイコライザ18の周波数特性が例えば図9のように得られる。図9の周波数特性においては、折り返し周波数におけるゲインが大きく低下し、DCにおけるゲインも適切な値になっている。
【0053】
以上の実施形態において説明した適応型DC制御及び適応型AC制御は、一般的なLMS制御を行う系においても利用することができる。図10は、図1のフィルタ係数制御器20の他の例を示すブロック図である。図10の適応型フィルタ係数制御器220は、適応型AC成分制御部40と、適応型DC成分制御部50と、係数演算部236と、加算器238と、適応型波形等化用制御部260とを有している。
【0054】
適応型波形等化用制御部260は、一般的なLMS制御を行う。加算器238は、適応型波形等化用制御部260、適応型AC成分制御部40、及び適応型DC成分制御部50の出力を加算して係数演算部236に出力する。係数演算部236は、加算器238の出力に従ってフィルタ係数を求め、FIRフィルタ218に出力する。
【0055】
係数演算部236には、適応型波形等化用制御部260の出力のみではなく、適応型AC成分制御部40及び適応型DC成分制御部50の出力も与えられる。このため、折り返し周波数及びDCにおけるゲインを適切な値に保ちながら、フィルタ係数を学習することが可能になる。
【0056】
以上の実施形態のフィルタ係数制御器によると、再生信号の特性が変化した場合においても安定してデジタルフィルタ処理をすることが可能となり、再生データ抽出を常に適切に行うことができる。適応的にフィルタ特性を変化させることができるので、フィルタ係数の事前学習が不要になり、起動時間の短縮を図ることもできる。また、デジタルイコライザに信号を供給するアナログイコライザの特性が最適ではない場合であっても、安定してフィルタ処理をすることが可能である。したがって、アナログイコライザをある程度ラフに作ることができ、その回路規模を削減することができる。
【0057】
本発明の多くの特徴及び優位性は、記載された説明から明らかであり、よって添付の特許請求の範囲によって、本発明のそのような特徴及び優位性の全てをカバーすることが意図される。更に、多くの変更及び改変が当業者には容易に可能であるので、本発明は、図示され記載されたものと全く同じ構成及び動作に限定されるべきではない。したがって、全ての適切な改変物及び等価物は本発明の範囲に入るものとされる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上説明したように、本発明の実施形態によると、適応的にデジタルフィルタのフィルタ係数を求めることができるので、本発明は、フィルタ係数制御器、光ディスクの再生信号処理装置等について有用である。
【符号の説明】
【0059】
20,220 フィルタ係数制御器
40 適応型AC成分制御部
50 適応型DC成分制御部
64 エッジ検出器
70 ゼロクロスポイント制御部
80 振幅制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタルフィルタからの出力信号に基づいて、前記デジタルフィルタのフィルタ係数を、前記デジタルフィルタによる信号の処理中においても、適応的に算出して出力する
フィルタ係数制御器。
【請求項2】
請求項1に記載のフィルタ係数制御器において、
前記デジタルフィルタの出力信号のエッジを検出するエッジ検出器と、
前記エッジ検出器で検出されたエッジのタイミングにおける、前記デジタルフィルタからの出力信号の値を検出し、検出された値に基づいて第1のゲインを求めて出力するゼロクロスポイント制御部と、
前記エッジ検出器で検出されたエッジのタイミングの前後における、前記デジタルフィルタからの出力信号の値に基づいて、前記出力信号の振幅を算出し、算出された値に基づいて第2のゲインを求めて出力する振幅制御部と、
前記第1及び第2のゲインに基づいて前記デジタルフィルタのフィルタ係数を算出する係数演算部とを備え、
前記ゼロクロスポイント制御部は、前記ゼロクロスポイント制御部で検出された値が目標値に近づくように前記第1のゲインを求め、
前記係数演算部は、前記振幅が目標振幅に近づくように、前記第2のゲインを求める
フィルタ係数制御器。
【請求項3】
請求項2に記載のフィルタ係数制御器において、
前記エッジ検出器は、前記デジタルフィルタの出力信号のエッジのタイミングが所定の条件を満たさない場合には、エッジの検出を行わない
フィルタ係数制御器。
【請求項4】
請求項2に記載のフィルタ係数制御器において、
前記係数演算部で算出された前記デジタルフィルタのフィルタ係数の総和を算出し、前記総和に基づいて第3のゲインを求めて出力するDC成分制御部を更に備え、
前記係数演算部は、前記第3のゲインに基づいて前記デジタルフィルタのフィルタ係数を算出し、
前記DC成分制御部は、前記総和が目標とする総和に近づくように前記第3のゲインを求める
フィルタ係数制御器。
【請求項5】
請求項2に記載のフィルタ係数制御器において、
前記係数演算部で算出された前記デジタルフィルタのフィルタ係数の正負を1つおきに反転し、反転された前記フィルタ係数及び反転されなかった前記フィルタ係数の総和を算出し、前記総和に基づいて第3のゲインを求めて出力するAC成分制御部を更に備え、
前記係数演算部は、前記第3のゲインにも基づいて前記デジタルフィルタのフィルタ係数を算出し、
前記AC成分制御部は、前記総和が目標とする総和に近づくように前記第3のゲインを求める
フィルタ係数制御器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−60369(P2011−60369A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208243(P2009−208243)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】