説明

フィルムの熱収縮挙動の測定方法

【課題】フィルムの加熱時における熱収縮挙動を正確に測定することできる、フィルムの熱収縮挙動の測定方法を提供する。
【解決手段】このフィルムの熱収縮挙動の測定方法は、フィルムの加熱時における熱収縮挙動を測定する方法であって、フィルム10に耐熱性粒子を付着させて所定形状の模様15を付し、このフィルム15を支持板34上に配置し、同フィルム10を所定の温度履歴にて加熱して、前記模様15の変形を測定するものである。それにより、模様15が、どのように変形するかを測定することにより、フィルムの熱収縮挙動を正確に調べることができる。また、耐熱性粒子により模様15を付すようにしたので、フィルム加熱時に模様15が熱分解しにくくなり、フィルム加熱後でも模様15をはっきりと識別することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば寸法安定性等が要求される分野に用いられるフィルムの加熱時における熱収縮挙動を測定するための、フィルムの熱収縮挙動の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、フレキシブル配線基板等に用いられるフィルムは、フィルムの成形工程や、金属箔等の貼り合わせ工程や、配線基板上にIC等の電子部品を実装する際に、加熱を受けることになる。このような加熱時において、フィルムが不用意に熱収縮すると、配線ピッチが変わってしまって、実装する電子部品の端子部と整合しなくなったり、回路の短絡を起こしたりする虞れがある。
【0003】
そして、近年、電気・電子機器の小型化・軽量化が進み、配線基板の配線パターンが細密になりつつあるため、配線基板の支持体となるフィルムの熱収縮挙動が不良品の発生に大きな影響を与えることがわかってきた。
【0004】
フレキシブル配線基板等に用いられているフィルムとして、例えば、ポリイミドフィルムは、次のようにして製造されている。
【0005】
すなわち、図11に示すように、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸溶液を、一対の回転ローラ1,1に張設された金属製のベルト2上に塗布し、これをキャスティング炉3にて乾燥・硬化させて溶媒の一部を除去し、アミック酸の一部をイミド化させて自己支持性を持たせたフィルム(自己支持性フィルム)を形成し、この自己支持性フィルム5をベルト2から剥がして、加熱炉4に搬送して、乾燥・硬化させることにより、ポリイミドフィルム10が製造されている。この場合、自己支持性フィルム5は、その幅方向両側部がテンターと呼ばれる把持具で把持されて加熱炉4に搬送されるようになっている。
【0006】
上記のようなフィルムの製造方法として、例えば下記特許文献1には、上記のようなポリイミドフィルムの製造方法であって、(1)加熱炉に挿入される前の自己支持性フィルム(ゲルフィルム)の引張り弾性率E0、(2)テンター加熱炉の第一ゾーンにおける引張り弾性率E1、(3)テンター加熱炉の第二ゾーンにおける引張り弾性率E2を各々測定し、E0,E1及びE2の関係により自己支持性フィルムに与える張力を決定し、ポリイミドフィルムの面内配向異方性を制御するポリイミドフィルムの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−12776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、フレキシブル配線基板等に用いられるフィルムの熱収縮挙動は、特許文献1に示されるような引張り弾性率を求めるだけでは推測することが困難である。このため、フィルムの熱収縮挙動を正確に、かつ、空間的に測定して、フィルムを加熱したときに、フィルムがどのように熱収縮するかを、予め把握しておくことが必要であると考えられる。
【0009】
したがって、本発明の目的は、フィルムの加熱時における熱収縮挙動を正確に測定することできる、フィルムの熱収縮挙動の測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、フィルムの加熱時における熱収縮挙動を測定する方法であって、前記フィルムに耐熱性粒子を付着させて所定形状の模様を付し、このフィルムを支持板上に配置し、前記フィルムを所定の温度履歴にて加熱して、前記模様の変形を測定することを特徴とする。
【0011】
上記発明によれば、フィルムに付着した耐熱性粒子からなる所定形状の模様が、所定の温度履歴にて加熱されたとき、どのように変形するかを測定することにより、フィルムの熱収縮挙動を正確に調べることができる。それによって各種用途に用いるフィルムの寸法変化等を予測することが可能となる。
【0012】
また、耐熱性粒子により模様を付すようにしたので、フィルム加熱時に模様が熱分解しにくくなり、フィルム加熱後でも模様をはっきりと識別することができ、フィルムの熱収縮挙動の測定を確実に行うことができる。
【0013】
更に、フィルムに耐熱性粒子を付着させることにより模様を付すようにしたので、例えば、機械的ポンチ等のようにフィルムに傷をつけたりすることがなく、フィルムの熱収縮挙動の測定に支障をきたすことがない。
【0014】
本発明においては、耐熱性粒子を含むインクを用いて剥離紙に印刷し、この剥離紙に印刷されたインクを前記フィルムに転写することにより、前記模様を付すことが好ましい。これによれば、剥離紙に印刷したインクをフィルムに転写することにより、測定前のフィルムに熱等の影響を与えずにインクを付着させることができる。
【0015】
本発明においては、レーザプリンタの感光体と転写部とを用いて、トナーインクを所定の模様で剥離紙に転写し、この剥離紙を、定着部を通過させることなくレーザプリンタから取出し、この剥離紙に転写されたトナーインクを前記フィルムに転写することにより、前記模様を付すことが好ましい。これによれば、レーザプリンタの感光体と転写部とを用いて、トナーインクを任意の模様で剥離紙に転写することができ、この剥離紙を、定着部を通過させることなくレーザプリンタから取出すことにより、トナーインクが溶着されない状態で取り出すことができ、この剥離紙に転写されたトナーインクをフィルムに転写することにより、フィルムにトナーインクを鮮明な模様で転写することができる。
【0016】
本発明においては、前記模様が格子線であることが好ましい。これによれば、フィルムが複雑に変形した場合でも、格子線の湾曲や交点の移動によって、変形状態を把握しやすくすることができる。
【0017】
本発明においては、前記フィルムの加熱と、前記模様の変形の測定とを、ホットステージ付きの顕微鏡を用いて行うことが好ましい。これによれば、ホットステージによってフィルムを所望の温度に加熱することができ、模様の変化を顕微鏡によって正確に測定することができる。
【0018】
本発明においては、フィルムの加熱温度を変化させて、前記模様の変化をビデオカメラで撮像することが好ましい。これによれば、温度変化によってフィルムがどのように変形するかを、ビデオカメラによって連続的に撮像して記録することができ、フィルムの熱収縮挙動を経時的にとらえることが可能となる。
【0019】
本発明においては、前記ビデオカメラで撮像した模様の変化を画像処理により数値化することが好ましい。これによれば、温度変化によってフィルムがどのように変形するかを、連続的に数値化することができ、フィルムの熱収縮挙動を定量的にとらえることが可能となる。
【0020】
本発明においては、前記フィルムは、ポリイミドフィルム又はポリイミド前駆体の自己支持性フィルムであることが好ましい。
【0021】
これによれば、自己支持性フィルム(ポリアミック酸溶液をキャストして、溶媒の一部を除去し、アミック酸の一部をイミド化したフィルム)の熱収縮挙動を測定して、ポリイミドフィルムの製造時における、加熱工程にて加熱される途中のフィルムの熱収縮挙動を予測することが可能となる。また、別に求めたフィルムの粘弾性特性を考慮して理論解析することにより、加熱工程での残留応力を予測することが可能となる。その結果、幅方向に均一な特性を有するフィルムや、分子配向性やソリなどを制御したフィルムを製造することができる。
【0022】
更にポリアミック酸溶液をキャスト乾燥して得られる自己支持性フィルムの特性を把握することができる。特に幅方向や長さ方向での特性の把握や比較を行うことができ、優れたポリイミドフィルムを製造するための自己支持性フィルムを製造することができる。
【0023】
また、ポリイミドフィルムの熱収縮挙動を測定して、ポリイミドフィルムの製造時における、加熱炉にて加熱される途中のフィルムの熱収縮挙動を予測することが可能となるので、幅方向に均一な特性を有するフィルムや、分子配向性やソリなどを制御したフィルムを製造することができる。
【0024】
更に、表面が熱圧着性のポリイミドフィルムの熱収縮挙動を測定することにより、ポリイミドフィルムを金属箔と貼り合わせる際の加熱における熱収縮挙動などを予測することが可能となる。
【0025】
本発明においては、前記フィルムの支持板上への配置が、フィルムを支持板上に水平に静置して配置することであることが好ましい。これによれば、フィルムを支持板上にて水平に静置した状態で収縮挙動を測定するようにしたので、自重や把持のために加えた力による変形が重畳することがなく、フィルムの純粋な熱収縮挙動の測定を行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、フィルムに付着した耐熱性粒子からなる所定形状の模様が、所定の温度履歴にて加熱されたとき、どのように変形するかを測定することにより、フィルムの熱収縮挙動を正確に調べることができる。それによって各種用途に用いるフィルムの寸法変化等を予測することが可能となる。また、耐熱性粒子により模様を付すようにしたので、フィルム加熱時に模様が熱分解しにくくなり、フィルム加熱後でも模様をはっきりと識別することができると共に、フィルムに強い押圧力が負荷されるのが防止されて、フィルムの熱収縮挙動の測定を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のフィルムの熱収縮挙動の測定方法に用いられる支持板、及び、その上に載置されるホルダー、試料、蓋体を示す斜視図である。
【図2】同測定方法により測定される、模様が付されたフィルムを示す説明図である。
【図3】剥離紙に付された模様を、フィルムに転写する際の状態を示す説明斜視図である。
【図4】剥離紙に模様を転写するレーザプリンタの概略構成図である。
【図5】模様が付されたフィルムを観察するための、ホットステージ付き顕微鏡の斜視図である。
【図6】支持板上に載置されたホルダー、試料、蓋体等の断面図である。
【図7】(a)は支持板上にて、フィルムの長手方向両側部が拘束された状態を示す説明図、(b)は支持板上にて、フィルムの幅方向両側部が拘束された状態を示す説明図である。
【図8】(a)は加熱前のフィルムの模様状態を示す拡大説明図、(b)は加熱後のフィルムの模様変化を示す拡大説明図である。
【図9】フィルム加熱時の模様の変化を示す説明図である。
【図10】(a)は温度と水平方向の収縮率との関係を示す図表、(b)は温度と垂直方向の収縮率との関係を示す図表、(c)は温度と彩度変化との関係を示す図表である。
【図11】ポリイミドフィルムの製造方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して、本発明のフィルムの熱収縮挙動の測定方法について説明する。図1に示すように、このフィルムの熱収縮挙動の測定方法は、フィルム10に耐熱性粒子を付着させて所定形状の模様15を付し、このフィルム10を支持板34上に配置し、フィルム10を所定の温度履歴にて加熱して、模様15の変形を測定するものである。
【0029】
本発明において熱収縮挙動が測定されるフィルムとしては、ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミド、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルケトン等の合成樹脂からフィルムや、ポリイミドフィルムの製造前の、ポリイミド前駆体の自己支持性フィルム、紙や布などの繊維からなるシート状のもの、更には金属からなる金属箔等を含むものである。この中でも、フレキシブル回路基板のベースフィルム等として用いることが可能な、ポリイミドフィルム又はポリイミド前駆体の自己支持性フィルムが好ましく採用される。
【0030】
また、耐熱性粒子としては、カーボンなどの黒色顔料や、二酸化チタン、セラミック顔料、有機顔料などの白色や有彩色の顔料等が挙げられ、特に、カーボンなどの黒色顔料が好ましい。
【0031】
フィルム10に施される模様15の形状は特に限定されず、例えば、複数の線分が縦横、斜めに所定間隔で交わった格子線状や、所定ピッチで配置された目盛線、更には三角マーク、四角マーク、×印、等を用いることができる。
【0032】
図1,2に示すように、この実施形態における模様15は格子線状をなしている。また、この模様15は、図2に示すように、複数の太線15aが縦横に互いに平行に交わって、隣接する太線15aどうしの間隔が広かったり狭かったり不規則な幅に形成されていると共に、複数の細線15bが所定間隔で縦横に互いに平行に交わる形状をなしている。なお、上記格子状の模様は、単純な碁盤目状の模様でもよいが、上記のように太線と細線とを併用し、太線の間隔を場所によって変えたりすることにより、撮像された画像から試料のどの部分を撮像したものかを判別しやすくすることができる。
【0033】
上記模様15は、例えば、図3に示すように、模様15を印刷した剥離紙12を転写することにより、フィルム10に施すことができる。すなわち、まず、表面に剥離加工を施した剥離紙12に、カーボン等からなる上記耐熱性粒子を含むインクを用いて模様15を印刷する。その後、フィルム10を剥離紙12の模様印刷面に重ねて、ゴムローラ28等の押圧手段で、フィルム10と剥離紙12とを互いに押し付けることにより、前記インクがフィルム10に転写されて、フィルム10に模様15を付すことができる。このとき、フィルム10に粘着性がある場合には、耐熱性粒子がフィルム10に転写されやすくすることができる。フィルム10に粘着性がない場合には、例えば、接着作用のある樹脂液をスプレーでフィルム10に散布することにより、耐熱性粒子が転写されやすくすることができる。
【0034】
なお、フィルム10と剥離紙12とを重ねるとき、フィルム10の長さ方向(フィルム製造時の走行方向、MD)に格子線の一方が平行となり、フィルム10の幅方向(フィルム製造時の走行方向と直角な方向、TD)に格子線の他方が平行となるように配置することが好ましい。フィルム10の表面に粘着性がある場合には、フィルム10と剥離紙12とを位置ずれすることなく重ね合わせることができる。
【0035】
また、剥離紙12に模様15を印刷するに当たっては、図4に示す構造のレーザプリンタ20を用いることができる。レーザプリンタ20は周知の構造であるので詳細な説明は省略するが、帯電部22により模様イメージが帯電される感光体21と、耐熱性粒子を含むトナーインクが充填されたトナー23と、トナーインクを感光体21の模様イメージに付着させる現像部24と、模様イメージに付着したトナーインクを用紙に転写する転写部25と、前記トナーインクを定着する定着部26とを有している。
【0036】
この場合、前記レーザプリンタ20の感光体21と転写部25とを用いて、トナーインクを所定の模様15で剥離紙12に転写すると共に、この剥離紙12を、定着部26を通過させることなくレーザプリンタ20から取出し、この剥離紙12に転写されたトナーインクを前記フィルム10に転写することにより、模様15を施すことが好ましい。これによって、トナーインクが定着部によって溶融固化されることなく剥離紙に残るので、フィルムに転写されやすくすることができる。
【0037】
なお、模様15は剥離紙12を用いてフィルム10に転写するだけでなく、熱履歴を与えない印刷手段、例えばインクジェットプリンタ等によって、フィルム10に直接、模様15を施すようにしてもよい。
【0038】
そして、上記のように模様15が施されたフィルム10は、図5に示すホットステージ付き顕微鏡30(以下、「顕微鏡30」という)によって、フィルム10の加熱と、模様15の変形の測定とが行われるようになっている。
【0039】
図5に示すように、この顕微鏡30は、試料載置部31と、対物レンズや接眼レンズ等からなる観察部32と、前記試料載置部31上に配置され、前記フィルム10を所定温度に加熱するホットステージ33とから主として構成されている。また、顕微鏡30の前記観察部32には、図示しないビデオカメラが取付けられるようになっており、フィルム10の変動を連続して撮像可能となっている。更にこのビデオカメラにより連続的に撮像された、模様15の格子間の幅の変化や、複数の線どうしの交点の位置の変動等の、模様15の変化は、図示しない画像処理手段によって数値化されて、フィルム10の熱収縮挙動を把握できるようになっている。
【0040】
上記ホットステージ33の内部には、図1及び図6に示すように、所定長さで板状に延出する支持板34と、同支持板34の先端部に形成され、所定形状にカットされたフィルム10が載置される円形状の熱セル部34aと、前記支持板34の熱セル部34aの下面に取付けられたヒータ35とが配置されている。前記ヒータ35は図示しない制御装置により所定温度に加熱・冷却できるようになっている。
【0041】
そして、支持板34先端の熱セル部34a上に円筒状のホルダー36が配置され、このホルダー36内に、同ホルダー内径にほぼ適合する外径で円形状にカットされたフィルム10が配置されて、フィルム10が熱セル部34aから位置ずれしないように保持されるようになっている。この実施形態では、円筒状のホルダー36内に円形状のフィルム10が配置されていて、フィルム10の外周縁は何ら拘束されず自由状態とされているので、フィルム加熱時にフィルム10が自由に収縮できるようになっている。
【0042】
なお、フィルム10の収縮方向を制限したい場合には、例えば、図7(a)に示すように、フィルム10の長手方向に沿った両側部に複数の孔10bを設けて、これに支持板34に設けたピン34bを挿通したり、また、図7(b)に示すように、フィルム10の幅方向に沿った両側部に複数の孔10aを設け、これに支持板34のピン34bを挿通することにより、フィルム10の特定方向における収縮を規制することもできる。なお、ピン34bの代わりに、耐熱性接着剤等を用いて、支持板34に対してフィルム10の所定箇所を固定してもよい。このように、フィルム10の所定箇所を支持板34に固定して加熱処理することにより、例えば、ポリイミド前駆体の自己支持性フィルムをテンターによって保持して、加熱炉4に搬送して乾燥・硬化させる状態(図11参照)に近い状態を再現することができる。
【0043】
更に、フィルム10上には円板状の蓋体37が載置されるようになっている。この蓋体37は、円環状をなした上下一対の枠37a,37bと、これらに挟み込まれる透明板37cとからなる。この蓋体37は、図6に示すようにホルダー36内に収容されると共にフィルム10上に配置されて、フィルム外周縁を押さえ付けて、フィルム加熱時にフィルム10が反って丸まってしまうことを防止できるようになっている。なお、蓋体37のフィルム10に接する部分(ここでは下枠37b)と、フィルム10上面との間には、例えば、天然または人造の黒鉛材料、窒化ホウ素、二硫化タングステンおよび二硫化モリブデンなど公知の耐熱性の固体潤滑剤(単独または2種以上組み合わせてもよい)等を介在させて潤滑状態としておくことが好ましく、これによりフィルム10が蓋体37に対して自由に摺動できるようにすることができる。
【0044】
なお、この実施形態においては、フィルム10の一方の面のみに模様15を付して、この熱収縮挙動を測定するようになっているが、フィルム10の両面に模様15を付して、両面の模様15の熱収縮挙動を測定してもよい。
【0045】
次に、本発明におけるフィルムの熱収縮挙動の測定方法について説明する。
【0046】
この実施形態においては、まず、図4に示すように、レーザプリンタ20の感光体21と転写部25とを用いて、トナーインクを格子線状の模様15で剥離紙12に転写すると共に、この剥離紙12を、定着部26を通過させることなくレーザプリンタ20から取出す。そして、この剥離紙12をフィルム10に重ね合わせて、ゴムローラ28をフィルム10に押し当てて擦り付ける(図3参照)。その結果、トナーインクがフィルム10に転写されて、フィルム10に所定の格子線状の模様15を付すことができる。なお、前述したように、フィルム10の長さ方向(MD)に格子線の一方が平行となり、フィルム10の幅方向(TD)に格子線の他方が平行となるように配置させることにより、熱収縮挙動をMD方向とTD方向とに分けて測定することができる。
【0047】
上記のように、この実施形態においては、フィルム10に直接模様15を付すのではなく、インクを剥離紙12に一旦印刷して、これをフィルム10に転写するようにしたので、測定前のフィルムに熱等の影響を与えずにインクを付着させることができる。
【0048】
また、剥離紙12に模様を転写した後、この剥離紙12を、定着部26を通過させることなくレーザプリンタ20から取出すようにしたので、トナーインクが剥離紙12に溶着せずに、トナーインクの溶融成分が完全に固化しない状態で、剥離紙12を取り出すことができる。その結果、上記のようにゴムローラ28でフィルム10に転写するときに、剥離紙12に転写されたトナーインクを、ムラやかすれのない鮮明な模様で、フィルム10に転写することができ、フィルム加熱時の模様測定をより精密に行うことができる。
【0049】
そして、模様15が付されたフィルム10を、ホルダー内径に適合する外径で円形状にカットし、これを支持板34の熱セル部34a上に配置されたホルダー36内に挿入し、その上に蓋体37を乗せる。その結果、フィルム10の外周縁が蓋体37により押え付けられて、フィルム10の浮き上がりや反り返りが防止されて、フィルム10が支持板34上に対して水平となるように静置された状態で、支持板34上にフィルム10がセットされる。
【0050】
この状態で、ヒータ35を制御して、熱セル部34aを介してフィルム10を所定温度に加熱して、そのときのフィルム10に付された格子線状をなした模様15の、水平方向や垂直方向の収縮率(縮み具合)や彩度の変動等を、顕微鏡30に取付けられた図示しないビデオカメラで連続的に撮像すると共に、その画像を同じく図示しない画像処理手段で処理して数値化することにより、フィルム10の熱収縮挙動を測定することができる。
【0051】
なお、前記ヒータ35は、所定の温調プログラムによって加熱温度が制御されると共に、その加熱温度の変動に伴う模様15の変化を図示しないビデオカメラで撮像するようになっている。その結果、温度変化によってフィルム10がどのように変形するかを、ビデオカメラによって連続的に撮像して記録することができるので、フィルム10の熱収縮挙動を経時的にとらえることができる。また、前記ビデオカメラで連続的に撮像されたフィルム10上の模様15の変化は、図示しない画像処理手段で処理された数値されるので、フィルム10の熱収縮挙動を定量的にとらえることができ、模様15の変化をより精密に把握することができる。なお、画像処理手段としては、市販の画像処理ソフト、例えば株式会社キーエンス製、商品名「CV−3000」などを用いることができる。
【0052】
また、この実施形態では、模様15が格子線状をなしていることから、フィルムの水平方向及び垂直方向の収縮率は、フィルム加熱前の水平方向の間隔をL0、垂直方向の間隔をV0とし(図8(a)参照)、フィルム加熱後の水平方向の間隔をL1、垂直方向の間隔をV1として(図8(b)参照)、次式(a),(b)により求めることができる。
フィルムの水平方向の収縮率L(%)={(L1−L0)/L0}×100…(a)
フィルムの垂直方向の収縮率V(%)={(V1−V0)/V0}×100…(b)
【0053】
更に、この実施形態における模様15は、複数の線が交差してなる格子線状をなしているので、フィルム加熱時にフィルム10が複雑に変形して、模様15の線が湾曲したり、分断したり、かすれたりしても、格子線の湾曲度合いや線どうしの交点の移動を測定することによって、フィルム10の熱収縮挙動を空間的に把握することができる。
【0054】
また、この実施形態では、図2に示すように、前記模様15には、隣接する線どうしの間隔が広かったり狭かったり不規則な幅とされた太線15aを設けたので、一定間隔で整然と配列された線からなる格子模様と比べて、顕微鏡30で現在視認している位置を把握しやすくなる。
【0055】
以上説明したように、この熱収縮挙動の測定方法によれば、フィルム10に付着した耐熱性粒子からなる所定形状の模様15が、所定温度に加熱されたとき、どのように変形するかを測定することにより、フィルム10の熱収縮挙動を正確に調べることができる。それによって各種用途に用いるフィルム10の寸法変化等を予測することが可能となる。
【0056】
また、耐熱性粒子により模様15を付すようにしたので、フィルム加熱時に模様15が熱分解しにくくなり、フィルム加熱後でも模様をはっきりと識別することができ、フィルム10の熱収縮挙動の測定を確実に行うことができる。
【0057】
更に、フィルム10に耐熱性粒子を付着させることにより模様15を付すようにしたので、例えば、機械的ポンチ等のようにフィルムに傷が付くことがなく、フィルム10の剛性を保持することができ、フィルム10の熱収縮挙動の測定に支障をきたすことを防止することができる。なお、前記機械的ポンチ等のように、フィルムに局所的にポンチマークが打刻された場合には、その部分が起点となってフィルムが破損する虞れがある。
【0058】
この実施形態においては、前述したように、フィルム10の周縁が蓋体37により押え付けられて、その浮き上がりや反り返りが防止されて、フィルム10が支持板34上に対して水平となるように静置されるようになっているので、フィルム中央に蓋体37による押し付け力が作用することを防止して、フィルム中央の純粋な熱収縮挙動を確実に測定することができる。
【0059】
また、この実施形態においては、フィルム10の加熱と模様15の変形の測定とが、ホットステージ33を備えた顕微鏡30で行われるようになっている。その結果、ホットステージ33によってフィルム10を所望の温度に加熱することができると共に、フィルム10に付された模様15の変化を顕微鏡30によって正確に測定することができる。
【0060】
この実施形態においては、測定するフィルム10は、フィルム10の端部(連続製膜されたフィルムでは、長さ方向の両端部、または幅方向の両端部、または全端部)に張力をかけて測定することもできる。
【0061】
なお、フィルム10の熱収縮挙動の測定において、連続製膜されたフィルムを測定する場合には、長さ方向や幅方向に対して複数測定して解析することにより、幅方向や長さ方向に均一な特性を有するフィルムや、分子配向性やソリ、線膨張係数などを制御したフィルムを製造することができる。
【0062】
更に、この実施形態においては、測定するフィルム10が、ポリイミドフィルム又はポリイミド前駆体の自己支持性フィルムとされている。測定フィルムとして、加熱炉4(図11参照)に入れる前の、ポリイミド前駆体の自己支持性フィルムとした場合には、その熱収縮挙動を測定して、ポリイミドフィルムの製造時における、加熱炉での温度のパターン(温度、昇温や降温の速度、時間)、フィルムの長さ方向や幅方向の張力パターン(拡縮パターン)を最適化することが可能となる。また、フィルムの粘弾性特性を考慮して理論解析することにより、加熱工程での残留応力を予測することが可能となる。その結果、幅方向に均一な特性を有するフィルムや、分子配向性やソリ、線膨張係数などを制御したフィルムを製造することができる。
【0063】
更にポリイミド前駆体の自己支持性フィルムの特性を把握することができる。特に幅方向や長さ方向での特性の把握や比較を行うことができ、優れたポリイミドフィルムを製造するための自己支持性フィルムを製造することができる。
【0064】
更に、表面が熱圧着性のポリイミドフィルムの熱収縮挙動を測定することにより、ポリイミドフィルムを金属箔と貼り合わせる際の加熱における熱収縮挙動などを予測することが可能となる。
【実施例】
【0065】
本発明のフィルムの熱収縮挙動の測定方法により、加熱時のフィルムの熱収縮挙動を測定した。
【0066】
(試料の作製)
上述した実施形態と同様の工程で、ポリイミド前駆体の自己支持性フィルムであるフィルム10に模様15を施した。すなわち、太線15a及び細線15bで描画された格子パターンからなる模様15をパソコン上で作成し(図2参照)、レーザプリンタ(キャノン株式会社製:商品名「LBP−3800」)を用いて、耐熱性粒子(カーボン)を含むトナーインクで、前記模様15を剥離紙12に印刷し、定着部26を通過させることなく取出した(図4参照)。そして、この剥離紙12をフィルム10に重ね合わせて、ゴムローラ28で押し当てて、トナーインクをフィルム10に転写させることにより、フィルム10に模様15を施した(図3参照)。このフィルム10をホルダー36の内径に適合するように円形状にカットして、試料を作製した。
【0067】
(顕微鏡への試料のセット)
ホットステージ(LIMKAM社製ホットステージ)付き顕微鏡(株式会社ニコン製:商品名「Eclipse−E60」)の、支持板34先端の熱セル部34a上に、ホルダー36を配置して、その内部に前記試料を挿入して、更にその上に蓋体37を乗せて、試料をセッティングした(図1参照)。また、上記顕微鏡には、顕微鏡塔ハイビジョンデジタルビデオカメラ(株式会社キーエンス製:商品名「VHx−600」等)が取付けられている。
【0068】
(試料の熱収縮挙動の測定)
上記ホットステージに付属する加熱コントローラで、ヒータ35の常温から所定温度まで加熱して、その際の模様15の熱収縮挙動を、上記ビデオカメラで連続的に撮像し、その画像を画像処理ソフト(株式会社キーエンス製:商品名「CV−3000」)で処理して、熱収縮挙動を測定した。
【0069】
その結果を図9,10に示す。図9には、所定温度a、b、c、d、e、f、g、h、i、j、k、l(aからlにかけて昇温する)での、試料の模様15を撮像した画像の一例が示されている。図10(a)は、横軸を温度とし、縦軸を水平方向の収縮率としたときの関係を示すグラフで、図10(b)には、横軸を温度とし、縦軸を垂直方向の収縮率としたときの関係を示すグラフで、図10(c)には、横軸を温度とし、縦軸を彩度としたときの関係を示すグラフである。
【0070】
図10(a),(b)に示すように、この実施例では、水平方向及び垂直方向の収縮率は、加熱温度が低い場合には一定で、所定温度T1に達すると温度上昇に伴って徐々に収縮率が大きくなって縮み量が増えていき、更に所定温度T2に至ると再び一定となって、それ以上は縮みにくくなる傾向となっている。一方、図10(c)に示すように、彩度は、加熱温度の上昇に伴って、上昇して一定となった後、更に温度が上昇すると、再び上昇して一定となるという傾向がある。
【0071】
このように、本発明によれば、フィルムの熱収縮挙動を正確に把握することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 回転ローラ
2 ベルト
3 キャスティング炉
4 加熱炉
10 フィルム
10a 孔
12 剥離紙
15 模様
15a 太線
15b 細線
20 レーザプリンタ
20 感光体
21 感光体
22 帯電部
23 トナー
24 現像部
25 転写部
26 定着部
28 ゴムローラ
30 顕微鏡
31 試料載置部
32 観察部
33 ホットステージ
34 支持板
34a 熱セル部
34b ピン
35 ヒータ
36 ホルダー
37 蓋体
37a 上枠
37b 下枠
37c 透明板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの加熱時における熱収縮挙動を測定する方法であって、前記フィルムに耐熱性粒子を付着させて所定形状の模様を付し、このフィルムを支持板上に配置し、前記フィルムを所定の温度履歴にて加熱して、前記模様の変形を測定することを特徴とするフィルムの熱収縮挙動の測定方法。
【請求項2】
耐熱性粒子を含むインクを用いて剥離紙に印刷し、この剥離紙に印刷されたインクを前記フィルムに転写することにより、前記模様を付す請求項1記載のフィルムの熱収縮挙動の測定方法。
【請求項3】
レーザプリンタの感光体と転写ロールとを用いて、トナーインクを所定の模様で剥離紙に転写し、この剥離紙を、定着ローラを通過させることなくレーザプリンタから取出し、この剥離紙に転写されたトナーインクを前記フィルムに転写することにより、前記模様を付す請求項2記載のフィルムの熱収縮挙動の測定方法。
【請求項4】
前記模様が格子線である請求項1〜3のいずれか1つに記載のフィルムの熱収縮挙動の測定方法。
【請求項5】
前記フィルムの加熱と、前記模様の変形の測定とを、ホットステージ付きの顕微鏡を用いて行う請求項1〜4のいずれか1つに記載のフィルムの熱収縮挙動の測定方法。
【請求項6】
フィルムの加熱温度を変化させて、前記模様の変化をビデオカメラで撮像する請求1〜5のいずれか1つに記載のフィルムの熱収縮挙動の測定方法。
【請求項7】
前記ビデオカメラで撮像した模様の変化を画像処理により数値化する請求項6記載のフィルムの熱収縮挙動の測定方法。
【請求項8】
前記フィルムは、ポリイミドフィルム又はポリイミド前駆体の自己支持性フィルムである請求項1〜7のいずれか1つに記載のフィルムの熱収縮挙動の測定方法。
【請求項9】
前記フィルムの支持板上への配置が、フィルムを支持板上に水平に静置して配置することである請求項1〜8のいずれか1つに記載のフィルムの熱収縮挙動の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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