説明

フィルムの評価方法

【課題】任意の照明環境下における、フィルムの白茶け感を迅速かつ簡便に評価することができるフィルムの評価方法を提供する。
【解決手段】本発明にかかるフィルムの評価方法は、光源からフィルムに光を所定の入射光角度と、入射光角度に対応する反射光角度を自動変角光度計によって測定し、反射光分布を算出し、フィルムを使用する室内の壁の白黒、及び、フィルムの位置と室内の位置との照明角度に基づいて条件ファイルを設定し、反射光分布を積分し、条件ファイルで重み付けして輝度を定量化することで、室内における照明環境下でのフィルムの輝度を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止フィルムなどのフィルムの光学特性を評価する評価方法に関し、特に、フラットパネルディスプレイに用いられる反射防止フィルムの光学特性の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットパネルディスプレイの反射防止を目的に、複数の層を積層塗布して得られる積層塗布フィルムがフラットパネルディスプレイの表面に用いられている。
【0003】
積層塗布フィルムの中でも、従来のCRTテレヒ゛に替わって大型の液晶ディスプレイの表面にはトリアセチルセルロースを支持体とした反射防止フィルムが必須である。大型の液晶ディスプレイテレビの普及には目覚しいものがあり、今後ますます置き替わりが進むものと考えられる。それに伴い様々なディスプレイ用反射防止フィルムが開発されている。こうした反射防止フィルムは防眩性(AG性ともいう。)を持たせるために表面に微細な凹凸をつけたフィルムが用いられるのが一般的である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記非特許文献1のような従来のフィルムでは、AG性を持たせると明環境によってはディスプレイ表面が白茶けて見え、かえってディスプレイの視認性を損ねる場合もある。また、外光の影響を考慮したフィルムの評価はほとんど行われておらず、規格でも明環境を考慮、規定したものは皆無で、標準照明条件に言及するにとどめたものがあるに過ぎない(例えば、下記非特許文献1参照)。
【非特許文献1】日本電子機械工業規格 ED-2522 さらに、上記非特許文献1では、輝度測定を色彩輝度計を用いて実施しており、フィルムの白茶け感を調べる場合、照度を変えながら輝度を測定する操作を実施しなくてはならず、莫大な時間と労力を必要となることが予測される。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、任意の照明環境下における、フィルムの白茶け感を迅速かつ簡便に評価することができるフィルムの評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、下記によって達成される。
(1) 評価対象であるフィルムの反射防止特性を評価するフィルムの評価方法であって、光源から前記フィルムに光を所定の入射光角度と、前記入射光角度に対応する反射光角度を自動変角光度計によって測定し、反射光分布を算出し、前記フィルムを使用する室内の壁の白黒、及び、前記フィルムの位置と前記室内の位置との照明角度に基づいて条件ファイルを設定し、前記反射光分布を積分し、前記条件ファイルで重み付けして輝度を定量化することで、前記室内における照明環境下での前記フィルムの輝度を評価することを特徴とするフィルムの評価方法。
(2) 前記壁が黒色の場合の輝度をAとし、該壁を白色に換えた場合の輝度の補正値をBとし、前記壁の輝度をCとしたとき、下記式(1)で表すことを特徴とする上記(1)に記載のフィルム評価方法。
【数4】

(3) 前記壁の輝度を下記式(2)で表すことを特徴とする上記(2)に記載のフィルム評価方法。
【数5】

(ただし、a1及びb1は定数とする。)
(4) 前記壁の色の黒白の明るさをグレー係数gとしたとき、前記壁の輝度を下記式で表すことを特徴とする上記(2)に記載のフィルム評価方法。
【数6】

(ただし、前記壁が白色のときg=1、黒色のときg=0、グレーの壁のとき0<g<1とする。)
(5) 前記フィルムの位置と前記室内の照明位置との角度を40°から50°の範囲であることを特徴とする上記(1)から(4)のいずれか1つに記載のフィルムの評価方法。
【0007】
本発明は、測定対象となるフィルムを使用する室内の照明環境を考慮し、フィルムの輝度を算出するための要素である、室内の壁の白黒、及び、フィルムの位置と室内の位置との角度に基づいて条件ファイルを設定する。そして、自動変角光度計によって測定されたフィルムの反射光分布を積分し、条件ファイルによって重み付けしている。こうして、本願の評価方法では、自動変角光度計によってフィルムの反射光分布を測定するのみであるため、実際にフィルムを室内に配置したとき、照明からの光が壁に反射してフィルムに照射されることに起因するフィルムの輝度に与える影響を考慮できる。そして、照明からの光が壁に反射してフィルムに照射される状態を確認するために所定の色の壁を有する室内に測定対象のフィルムを実際に配置して、自動変角光度計の測定とは別に輝度を測定する評価試験を行う必要がなく、評価にかかる作業時間と労力を大幅に軽減することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、任意の照明環境下における、フィルムの白茶け感を迅速かつ簡便に評価することができるフィルムの評価方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1は、自動変角光度計の概略的な構成を示す図である。
【0010】
一般に、自動変角光度計は、フィルムなどの樹脂の表面だけでなく、金属、塗装物、プラスチック、印刷物、紙、織物などを試料として測定し、それらの反射光分布の測定や、硝子、液体、セロファン等の透過光分布の測定も可能なものである。
【0011】
図1に示すように、本実施形態の自動変角光度計は、円形状のステージ1上に回転自在に支持された試料Sと、試料Sの被測定面に対して光を照射する光源3と、光源3から試料Sの被測定面で反射された光を受光することで検出する受光部2とを備えている。本実施形態においては、試料Sとして評価対象となるフィルムを使用する。フィルムをステージ1上で回動自在な板部の平面部に固定させてもよい。
【0012】
試料Sは、図1中一点鎖線で示す中心線Cを中心として矢印方向に回転させることができ、その試料Sは図示しないパーソナルコンピュータなどの処理装置によって制御することができる。
【0013】
受光部2は、試料Sの回転する軸(中心線C)を中心として、ステージ1の周囲を変位可能に構成されている。自動変角光度計は、試料Sの向きを回転制御することで、光源3から試料Sに照射されて、該試料Sに入射する入射光の方向と試料Sの被測定面の法線方向との角度(入射光角度)を設定することができる。また、自動変角光度計は、試料Sの向き及び受光部2との位置を制御することによって、試料Sの被測定面から反射された反射光の方向と被測定面の法線方向との角度(反射光角度)を調整し、そのときの角度を検出することができる。
【0014】
使用者が予め図示しない操作部によって入射光角度及び反射光角度を入力することで、自動変角光度計の処理機能によってフィルムの反射光分布を測定することができる。
【0015】
本実施形態では、自動変角光度計として、村上色彩技術研究所製のGM−5を使用することができる。しかし、本発明において自動変角光度計は、特に限定されず、評価対象であるフィルムの反射光分布を測定することができれば、その他のものを使用してもよい。
【0016】
図2は、測定対象であるフィルムが使用される室内環境を説明する図である。図2に示すように、室11の内部(室内)に、照明装置12と、LCDテレビなどの表示装置13とが配置されている。表示装置13の画面(被観察面)14にはフィルムが貼り付けられている。また、室内には、表示装置13の画面14に貼られたフィルムを観察する観察者Pが所定の位置に存在するものとする。
【0017】
ここで、室11の縦方向の長さ(図2中左右方向の距離)L0が4.1mとし、幅方向(図2において奥行き方向の距離)を3mとしている。また、照明装置12の中心から表示装置13の画面14までの水平方向に対する距離L1を1.7mとし、観察者Pの視点から表示装置13の画面14までの水平方向に対する距離L2を2.1mとし、室11の床から観察者Pの視点までの高さTを0.9mとし、室11の床から照明装置12までの高さHを2.4mとした。さらに、照明装置12の中心から表示装置13の画面14の中心に想定した直線と、観察者Pの視点から表示装置13の画面14に想定した直線との角度(以下、照明角度ともいう。)を45°とした。これらの値は、一般的な居住家屋におけるTVのある室を想定して設定されている。
【0018】
室内の壁Wは、一様に所定の色であると想定する。本実施形態においては、白色、黒色、及び中間色であるグレーであるとする。
【0019】
本発明においては、照明装置のある室内において、表示装置に貼り付けられたフィルムを観察する場合に、照明角度及び壁の色に起因してフィルムの反射防止特性に影響を及ぼすことに着目している。自動変角光度計によってフィルムの反射光分布を評価する場合には、従来では照明角度及び壁の色は一切考慮されていない。そこで、本発明にかかる評価方法では、フィルムを使用する室内の壁の白黒、及び、前記フィルムの位置と前記室内の位置との照明角度に基づいて、自動変角光度計によって得られる反射光分布を所定の演算によって補正することで、室内環境を考慮したフィルムの反射防止特性を定量的に評価するものである。
【0020】
なお、反射防止特性の代表的なものとして、明室環境における表示装置13の画面14の表示/非表示、又は、画面14が黒を表示しているときの黒さ、黒味を総称する、いわゆる黒締りがある。黒締りは、テレビジョンの画質の重要因子であって、明質コントラストの決定指標の一つでもある。
【0021】
次に、本発明にかかる評価方法の手順を図面に基づいて説明する。図3は、評価方法の手順を示すフローチャートである。なお、以下で説明する手順においては、図1で説明した自動変角光度計と同じ又は同等の構成のものを使用するとする。
【0022】
最初に、ガラス板(厚み:1mm、縦と横の大きさ:76mm×52mm)の表面及び裏面にそれぞれ偏光板をクロスニコル形態で貼り合わせ、該偏光板加工したガラス板の表面に評価対象であるフィルムを貼り付けた。このとき、複数のガラス板を用意し、同様にフィルムを貼り付けて、複数のフィルムを評価対象とすることよって一層確実な評価を行うことができる。
【0023】
フィルムが貼り合わされた偏光板加工を有するガラス板を自動変角光度計に設置する。そして、フィルムに対する入射光角度及び反射光角度を設定する。本実施形態では、入射光角度を5°とし、反射光角度を0〜80°として実施した(ステップS10)。このとき、自動変角光度計に設定する照明角度を45°としたが、40°〜50°の範囲に設定してもよい。
【0024】
次に、設定された入射光角度及び反射光角度に基づいて、反射光分布を自動変角光度計によって算出する(ステップS11)。
【0025】
ここで、評価対象であるフィルムが使用されると想定される室内の壁の色を判別する(ステップS12)。
【0026】
本発明にかかる評価試験におていは、室内の壁が黒色の場合の輝度をAとし、該壁を白色に換えた場合の輝度の補正値をBとし、壁の輝度であるCを下記式(1)で表している。
【0027】
【数7】

【0028】
また、壁の輝度Cを下記式(2)で表す。
【0029】
【数8】

(ただし、a1及びb1は定数とする。)
【0030】
図3に示すように、壁の色が黒色の場合には、演算2として、上記式(1),(2)の該壁を白色に換えた場合の輝度の補正値であるBを0として演算し、反射光分布を定量化することができる(ステップS14)。
【0031】
図3に示すように、壁の色が白色の場合には、演算1として、上記式(1),(2)に基づいて演算することで、反射光分布を定量化することができる(ステップS13)。
【0032】
また、評価方法においては、壁の色が白色と黒色の中間色であるグレーである場合についても評価することができる。このとき、壁の色の黒白の明るさをグレー係数gとし、壁の輝度を下記式(3)で表す。
【0033】
【数9】

(ただし、前記壁が白色のときg=1、黒色のときg=0、グレーの壁のとき0<g<1とする。)
【0034】
次に、上述した評価方法で評価したフィルムを従来の評価方法で評価し、その結果を比較する測定試験を行った。
本発明にかかる評価方法で用いたものと同じフィルムを、図2と同様に設定された、周囲の壁Wが白色の室内に配置されたLCDテレビ(表示装置)の画面に床面に対して垂直となるように貼り付ける。そして、輝度計(株式会社トプコン製 BM-5A)を用いて、フィルムの被評価面から水平方向に対して距離1mの位置からフィルムの被測定面の輝度を測定した。室内の照明装置は、図2に示すようにLCDテレビの画面の前方上方45°方向にあり、照明装置の床面からの高さを2.4mとし、LCDテレビの画面の照度を250lxとした。その他の室内環境は、上述のものと同じである。
【0035】
本測定では、(A)LCDテレビ法線に対して斜め5°からフィルムに白壁が映り込む方向と、(B)LCDテレビ法線方向からフィルムに黒い輝度計本体が映り込む方向で実施した。測定した輝度と自動変角光度計で測定したフィルム反射光量の相関関係を調べた。
【0036】
(A)の測定結果としては、LCDテレビの画面の法線方向に対して斜め5°から測定した時の輝度測定値と5〜19°の範囲のフィルム反射光量を2次元積分したものの相関は決定係数γ2=0.96であった。
(B)の測定結果としては、LCDテレビの画面の法線方向から測定した時の輝度測定値と9〜80°の範囲のフィルム反射光量を1次元積分したものの相関は決定係数γ2=0.94であった。これらの結果から、本発明にかかる評価方法によれば、室内においてフィルムを輝度計によって測定した値とほぼ等しいことがわかった。
【0037】
本発明は、測定対象となるフィルムを使用する室内の照明環境を考慮し、フィルムの輝度を算出するための要素である、室内の壁の白黒、及び、フィルムの位置と室内の位置との角度に基づいて条件ファイルを設定する。そして、自動変角光度計によって測定されたフィルムの反射光分布を積分し、条件ファイルによって重み付けしている。こうして、本願の評価方法では、自動変角光度計によってフィルムの反射光分布を測定するのみであるため、実際にフィルムを室内に配置したとき、照明からの光が壁に反射してフィルムに照射されることに起因するフィルムの輝度に与える影響を考慮できる。そして、照明からの光が壁に反射してフィルムに照射される状態を確認するために所定の色の壁を有する室内に測定対象のフィルムを実際に配置して、自動変角光度計の測定とは別に輝度を測定する評価試験を行う必要がなく、評価にかかる作業時間と労力を大幅に軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】自動変角光度計の概略的な構成を示す図である。
【図2】測定対象であるフィルムが使用される室内環境を説明する図である。
【図3】評価方法の手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0039】
12 照明装置
13 表示装置
14 画面
W 壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象であるフィルムの反射防止特性を評価するフィルムの評価方法であって、
光源から前記フィルムに光を所定の入射光角度と、前記入射光角度に対応する反射光角度を自動変角光度計によって測定し、反射光分布を算出し、
前記フィルムを使用する室内の壁の白黒、及び、前記フィルムの位置と前記室内の位置との照明角度に基づいて条件ファイルを設定し、前記反射光分布を積分し、前記条件ファイルで重み付けして輝度を定量化することで、前記室内における照明環境下での前記フィルムの輝度を評価することを特徴とするフィルムの評価方法。
【請求項2】
前記壁が黒色の場合の輝度をAとし、該壁を白色に換えた場合の輝度の補正値をBとし、前記壁の輝度をCとしたとき、下記式(1)で表すことを特徴とする請求項1に記載のフィルム評価方法。
【数1】

【請求項3】
前記壁の輝度を下記式(2)で表すことを特徴とする請求項2に記載のフィルム評価方法。
【数2】

(ただし、a1及びb1は定数、R(θ):は自動変角光度計により測定した反射光分布とする。)
【請求項4】
前記壁の色の黒白の明るさをグレー係数gとしたとき、前記壁の輝度を下記式で表すことを特徴とする請求項2に記載のフィルム評価方法。
【数3】

(ただし、前記壁が白色のときg=1、黒色のときg=0、グレーの壁のとき0<g<1とする。)
【請求項5】
前記フィルムの位置と前記室内の照明位置との角度を40°から50°の範囲であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載のフィルムの評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−163374(P2007−163374A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−362121(P2005−362121)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】