説明

フィルムキャパシタ用フィルムの製造方法及びフィルムキャパシタ用フィルム

【課題】フィルムを厚さ10μm以下の薄膜に溶融押出成形でき、製造工程の簡素化によりコストを削減できるフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法及びフィルムキャパシタ用フィルムを提供する。
【解決手段】成形材料1を溶融押出成形機10に投入してダイス12からフィルムキャパシタ用フィルム20を押出成形し、この押出成形したフィルムキャパシタ用フィルム20を圧着ロール31と金属ロール32との間に挟んで冷却し、冷却した厚さ10μm以下のフィルムキャパシタ用フィルム20を巻取機40の巻取管41に順次巻き取る製造方法であり、成形材料1を、ガラス転移点が200℃以上で絶縁破壊電圧が100V/μm以上のPEI樹脂にフッ素樹脂を添加することにより調製し、この成形材料1の一軸伸長粘度を6,000Pa・s〜20,000Pa・sの範囲内とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐電圧特性等を向上させることのできるフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法及びフィルムキャパシタ用フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
キャパシタは、誘電体の種類により、フィルムキャパシタ、セラミックキャパシタ、アルミ電解キャパシタの3種類に区別することができる。これら3種類のキャパシタの中でも、フィルムキャパシタは、温度や周波数に対する特性変化が少なく、絶縁性が高く、誘電損失が小さい等の特性を有するので、他のキャパシタよりも優れているといえる(非特許文献1参照)。
【0003】
係るフィルムキャパシタ用フィルムは、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリフッ化ビニリデン、ポリ四フッ化エチレン、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、あるいはポリエチレンナフタレート(PEN)等を使用して10μm以下の薄膜に成形されていたが、現在ではコストや加工性の観点から、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンナフタレートが多用されている(非特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、ポリプロピレンとポリエチレンテレフタレート製のフィルムキャパシタ用フィルムは、ポリプロピレンの使用温度が105℃以下、ポリエチレンテレフタレートの使用温度が125℃なので、150℃以上の耐熱性が要求されるハイブリッド車のフィルムキャパシタに使用する場合には、耐熱性に劣るという欠点がある(非特許文献2参照)。
【0005】
一方、ポリフェニレンサルファイド製のフィルムキャパシタ用フィルムは、使用温度が160℃以下で耐熱性には優れるものの、絶縁破壊電圧が低く、耐電圧特性に劣るので、使用範囲が限定されるおそれがある。また、ポリエチレンナフタレート製のフィルムキャパシタ用フィルムも、使用温度が160℃以下で耐熱性には優れるが、誘電損失が大きく、誘電正接の温度依存性が大きいので、やはり使用範囲が限定されてしまうこととなる(非特許文献1、非特許文献2参照)。
【0006】
そこで上記に鑑み、近年、ポリエーテルイミド樹脂(以下、適宜PEI樹脂という)製のフィルムキャパシタ用フィルムがフィルムキャパシタの材料として注目されている。このPEI樹脂製のフィルムキャパシタ用フィルムは、ガラス転移点が200℃以上で耐熱性に優れ、絶縁破壊電圧が高く、耐電圧特性にも優れ、しかも、誘電正接の周波数依存性と温度依存性が小さいので、フィルムキャパシタに最適である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】狩野 順史著「コンデンサ用フィルムの技術動向」コンバーテック,No.40,7月号、P82〜88 2006
【非特許文献2】「コンデンサ技術特集」電波新聞22面、23面 2008年1月24日
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−274023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、PEI樹脂製のフィルムキャパシタ用フィルムは、溶融押出成形法により厚さ10μm以下の薄膜に成形することができるが、この成形には、高速成形が必要とされる。しかしながら、PEI樹脂を溶融押出成形法により高速成形する場合、成形中にドローレゾナンスが発生し、周期的な厚さ変動によりフィルムキャパシタ用フィルムが破断することがある。したがって、PEI樹脂製のフィルムキャパシタ用フィルムを厚さ10μm以下の薄膜に溶融押出成形するのは非常に困難である。
【0010】
また、特許文献1に記載された成形方法は、溶媒キャスティング法であり、厚さ精度が要求されるフィルムの成形には有効な方法である。しかし、成形工程が非常に煩雑複雑であり、しかも、溶媒を完全に除去するためには、長時間に亘って乾燥しなければならない。したがって、得られるフィルムが非常に高価になり、コスト削減を図ることができないという問題がある。
【0011】
本発明は上記に鑑みなされたもので、フィルムを厚さ10μm以下の薄膜に溶融押出成形することができ、製造工程の簡素化によりコストを削減することのできるフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法及びフィルムキャパシタ用フィルムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記課題を解決すべく、鋭意研究した結果、成形材料の一軸伸長粘度に着目し、この成形材料の一軸伸長粘度を調整することにより、溶融押出成形中に発生するドローレゾナンスを防止できることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明においては上記課題を解決するため、成形材料を溶融押出成形機に投入してダイスからフィルムキャパシタ用フィルムを押し出し、この押し出したフィルムキャパシタ用フィルムを圧着ロールと冷却ロールとの間に挟んで冷却し、冷却した厚さ10μm以下のフィルムキャパシタ用フィルムを巻取機に巻き取る製造方法であって、
成形材料を、ガラス転移点が200℃以上で絶縁破壊電圧が100V/μm以上のポリエーテルイミド樹脂にフッ素樹脂を添加することにより調製し、この成形材料の一軸伸長粘度を6,000Pa・s〜20,000Pa・sの範囲内とすることを特徴としている。
【0014】
なお、ポリエーテルイミド樹脂とフッ素樹脂とを攪拌混合して攪拌混合物を調製し、この攪拌混合物を溶融混練することにより調製した成形材料を乾燥させて溶融押出成形機に投入することができる。
また、フッ素樹脂として、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピル共重合体とテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を選択し、成形材料の歪硬化領域を、温度340℃における伸長粘度曲線で伸長速度10s−1〜50s−1の範囲内とすることができる。
【0015】
また、フィルムキャパシタ用フィルムに微細な凹凸を形成してその形状を中心線の平均粗さで0.5μm以下とし、フィルムキャパシタ用フィルムの摩擦係数を低下させることもできる。
また、圧着ロールと巻取機の巻取機との間には、フィルムキャパシタ用フィルムにスリットを形成するスリット刃を配置し、巻取機とスリット刃との間には、フィルムキャパシタ用フィルムにテンションを作用させる必要数のテンションロールを回転可能に備えることが可能である。
【0016】
また、本発明においては上記課題を解決するため、請求項1記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法によりフィルムキャパシタ用フィルムを製造することを特徴としている。
【0017】
ここで、特許請求の範囲における成形材料は、ポリエーテルイミド樹脂に対してフッ素樹脂が添加された後、乾燥されることが好ましい。この成形材料のポリエーテルイミド樹脂とフッ素樹脂とは、室温下で攪拌混合された後に溶融混練されることが好ましい。フッ素樹脂は、通常、融点未満の温度の場合に固体状であることが望ましい。成形材料の一軸伸長粘度は、市販の一軸伸長粘度計で計測することができる。さらに、溶融押出成形機には、少なくとも各種の押出成形機が含まれる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、フィルムキャパシタ用フィルムを厚さ10μm以下の薄膜に溶融押出成形することができ、しかも、製造工程の簡素化によりコストを削減して経済性を高めることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法の実施形態を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明すると、本実施形態におけるフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法は、図1に示すように、成形材料1を溶融押出成形機10に投入してそのダイス12の先端からフィルムキャパシタ用フィルム20を直下に押出成形し、この押出成形したフィルムキャパシタ用フィルム20を引取機30に挟持させて急激、かつ瞬時に引き落としながら冷却し、この冷却した厚さ10μm以下の薄いフィルムキャパシタ用フィルム20を巻取機40に連続して巻き取る製法である。
【0021】
成形材料1は、ガラス転移点が200℃以上で絶縁破壊電圧が100V/μm以上のPEI樹脂100質量部に、120,000ポイズ以下の溶融粘度を有するフッ素樹脂が1.0〜30質量部添加されることにより混練調製され、一軸伸長粘度計で計測した場合の一軸伸長粘度が6,000Pa・s〜20,000Pa・sの範囲内に調整される。
【0022】
成形材料1は、本発明の特性を損なわない範囲で、ポリイミド樹脂(PI樹脂)、ポリアミドイミド樹脂(PAI樹脂)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK樹脂)、ポリエーテルケトン樹脂(PK樹脂)、ポリサルホン樹脂(PSU樹脂)、ポリエーテルサルホン樹脂(PES樹脂)、ポリフェニレンサルホン樹脂(PPSU樹脂)、ポリフェニレンサルフィド樹脂、ポリフェニレンスルフィドスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィドケトン樹脂、液晶ポリマー(LCP)等が添加される。液晶ポリマーは、I型、II型、あるいはIII型のいずれでも良い。
【0023】
成形材料1には、本発明の特性を損なわない範囲で上記樹脂の他、酸化防止剤、光安定剤、紫外線安定剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、耐電防止剤、耐熱向上剤、無機充填剤、有機充填剤等が選択的に添加される。
【0024】
成形材料1のPEI樹脂は、特に限定されるものではないが、〔化1〕又は〔化2〕の繰り返し単位を有する樹脂である。
【0025】
【化1】

【0026】
【化2】

【0027】
係るPEI樹脂の具体例としては、ガラス転移温度が211℃のUltem 1000−1000〔SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン社製 商品名〕、ガラス転移点が223℃のUltem 1010−1000の〔SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン合同会社製 商品名〕、ガラス転移点が235℃のUltem CRS5001−1000の〔SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン合同会社製 商品名〕等があげられる。
【0028】
PEI樹脂の製造方法としては、例えば特公昭57−9372号公報や特開2008−274023号公報等に記載の方法等が使用される。このPEI樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で他の共重合可能な単量体とのブロック共重合体、ランダム共重合体、あるいは変性体も使用可能である。例えば、ポリエーテルイミドサルフォン共重合体であるガラス転移点が252℃のUltem XH6050−1000〔SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン合同会社製 商品名〕を使用することができる。
【0029】
成形材料1のフッ素樹脂は、温度360℃、荷重50kgfの条件下で、直径1.0mm、長さ10mmのダイスを用いてフローテスターで測定した溶融粘度が120,000ポイズ以下の分子構造の主鎖にフッ素原子を有する化合物であり、成形材料1の一軸伸長粘度を改善するよう機能する。
【0030】
フッ素樹脂の溶融粘度が120,000ポイズ以下なのは、120,000ポイズを越えると、フッ素樹脂の流動性が著しく低下するため、フィルムキャパシタ用フィルム20の表面に微小な突起が現れ、フィルムキャパシタ用フィルム20の絶縁破壊電圧が低下して耐電圧特性に問題が生じるからである。また、高溶融粘度でフッ素樹脂の流動性が非常に小さいためにゲルとなり、このゲル部分からフィルムキャパシタ用フィルム20に孔が開いたり、フッ素樹脂の分散不良に伴いフィルムキャパシタ用フィルム20の機械的性質が低下し、製造時にフィルムキャパシタ用フィルム20が破断しやすくなり、薄いフィルムの製造が困難になるからである。
【0031】
フッ素樹脂は、通常、融点未満の温度では固体状であることが好ましい。これは、液状のフッ素樹脂の場合には、成形後のフィルムキャパシタ用フィルム20からフッ素樹脂が滲み出し、フィルムキャパシタ内を汚染するからである。
【0032】
具体的なフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(四フッ化エチレン樹脂、融点:325〜330℃、連続使用温度:260℃、以下、PTFE樹脂という)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(四フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体樹脂、融点:300〜315℃、連続使用温度:260℃、以下、PFA樹脂という)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピル共重合体(四フッ化エチレン−六フッ化プロピル共重合体樹脂、融点270℃、連続使用温度:200℃、以下、FEP樹脂と略す)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(四フッ化エチレン−エチレン共重合体樹脂、融点:260〜270℃、連続使用温度:150℃、ETFE樹脂という)、ポリビニリデンフルオライド(フッ化ビニリデン樹脂、融点:173〜175℃、連続使用温度:150℃、PVDF樹脂という)、ポリクロロトリフルオロエチレン(三フッ化塩化エチレン樹脂、融点:210〜212℃、連続使用温度:120℃、PCTFE樹脂という)、テトラフルオロエチレン、ヘキサフロオロプロピレン、ビニリデンフルオライドの3種類のモノマーからなる熱可塑性フッ素樹脂(融点:120〜250℃、連続最高使用温度:80〜210℃)等が該当する。
【0033】
係るフッ素樹脂の中では、連続使用温度が200℃以上と耐熱性に優れ、入手のし易さ、取扱性、コストの観点から、PFA樹脂とFEP樹脂とが最適である。これらPFA樹脂とFEP樹脂とは、単独あるいはブレンドして使用することができる。
【0034】
フッ素樹脂の添加量は、PEI樹脂100質量部に対して1.0〜30質量部が好ましく、より好ましくは3.0〜20質量部、さらに好ましくは3.0質量部〜15質量部が良い。これは、フッ素樹脂が1.0質量部未満の場合は、成形材料1の一軸伸長粘度が6,000Pa・s未満となり、溶融押出成形中にドローレゾナンスが発生するため、厚さが10μm以下の薄膜のフィルムキャパシタ用フィルム20の安定成形が非常に困難になるからである。逆に、30質量部を越える場合には、成形材料1の一軸伸長粘度が20,000Pa・sを越えるため、フィルムキャパシタ用フィルム20の溶融伸びが低下し、薄膜のフィルムキャパシタ用フィルム20の成形が不可能になるからである。
【0035】
成形材料1の一軸伸長粘度は、温度340℃、伸長速度10s−1以上50s−1以下の範囲において、6,000Pa・s以上20,000Pa・s以下の範囲が好ましく、より好ましくは8,000Pa・s以上15,000Pa・s以下の範囲が良い。これは、成形材料1の一軸伸長粘度が、6,000Pa・s以下の場合は、溶融押出成形中にドローレゾナンスが発生するため、厚さが10μm以下の薄膜のフィルムキャパシタ用フィルム20の安定成形が非常に困難となるという理由に基づく。逆に、一軸伸長粘度が20,000Pa・sを越える場合には、溶融伸びが小さいため、フィルムキャパシタ用フィルム20を薄膜に成形することができないという理由に基づく。
【0036】
上記において、フィルムキャパシタ用フィルム20を製造する場合には図1に示すように、PEI樹脂とフッ素樹脂とを室温下で攪拌混合し、次いで、所定時間溶融混練して成形材料1を調製し、この成形材料1により帯形のフィルムキャパシタ用フィルム20を連続的に薄く押出成形する。
【0037】
成形材料1の調製方法は、(1)PEI樹脂とフッ素樹脂とを室温下で攪拌混合させた後に溶融混練し、フィルムキャパシタ用フィルム20用の成形材料1を調節する方法、(2)PEI樹脂とフッ素樹脂とを攪拌混合することなく、溶融したPEI樹脂中にフッ素樹脂を添加し、これらを溶融混練して成形材料1を調製する方法があげられる。これらの方法は、いずれも採用することができるが、分散性や作業性の観点からすると、(1)の方法が好ましい。
【0038】
先ず、(1)の方法について説明すると、PEI樹脂とフッ素樹脂とを攪拌混合する場合には、タンブラーミキサー、ヘンシルミキサー、V型混合機、ナウターミキサー、リボンブレンダー、あるいは万能攪拌ミキサー等が使用される。
【0039】
PEI樹脂とフッ素樹脂とは、上記方法による攪拌混合物をミキシングロール、加圧ニーダー、二軸押出成形機、三軸押出成形機、四軸押出成形機等の多軸押出成形機等で溶融混練分散させることにより調製することができる。PEI樹脂とフッ素樹脂の成形材料1を調製する場合、溶融混練機の温度は、260〜400℃、好ましくは300℃〜400℃が良い。これは、溶融押出成形機10の温度が400℃を越える場合には、フッ素樹脂が激しく分解して好ましくないという理由に基づく。
【0040】
次に、(2)の方法について説明すると、この方法の場合には、PEI樹脂をミキシングロール、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、二軸押出成形機、三軸押出成形機、四軸押出成形機等の多軸押出成形機等で溶融し、PEI樹脂にフッ素樹脂を添加して溶融混練分散させることにより、PEI樹脂とフッ素樹脂との成形材料1を調製する。PEI樹脂とフッ素樹脂とからなる組成物を調製する場合の溶融混練機の温度は、260〜400℃、好ましくは300℃〜400℃が良い。これは、400℃を越えるとフッ素樹脂が上記同様、激しく分解するからである。
【0041】
成形材料1は、通常、塊状、ストランド状、シート状、棒状に押出された後、粉砕機あるいは裁断機で粉状、顆粒状、ペレット状等の成形加工に適した形態にして使用される。この成形材料1からなるフィルムキャパシタ用フィルム20は、溶融押出成形法、カレンダー成形法、あるいはキャスティング成形法等の公知の方法により製造することができる。
【0042】
ここで、溶融押出成形法とは、単軸押出成形機や二軸押出成形機等からなる溶融押出成形機10を使用してPEI樹脂とフッ素樹脂とからなる成形材料1を溶融混練し、溶融押出成形機10の先端部に連結管を介して連結されたTダイスや丸ダイス等からなるダイス12より帯形のフィルムキャパシタ用フィルム20を連続的に押し出して製造する方法である。フィルムキャパシタ用フィルム20の製造方法は、ハンドリング性や設備の簡略化の観点から、溶融押出成形法が最適である。
【0043】
溶融押出成形機10やダイス12の温度は、フッ素樹脂の激しい分解を防止する観点から、260〜400℃、好ましくは300℃〜400℃が良い。また、フィルムキャパシタ用フィルム20を製造する際の成形材料1の含水率は、溶融押出成形前に5000ppm以下、好ましくは2000ppm以下に調整する。これは、含水率が5000ppmを越える場合には、フィルムキャパシタ用フィルム20の発泡を招くおそれがあるからである。
【0044】
溶融押出成形機10の上部後方の原料投入口11に成形材料1を投入する場合には、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、窒素ガス、二酸化炭素ガス等の不活性ガスを適宜供給して酸化劣化あるいは酸素架橋を防止するようにしても良い。
【0045】
フィルムキャパシタ用フィルム20を溶融押出成形したら、このフィルムキャパシタ用フィルム20を引取機30の一対の圧着ロール31、冷却ロールである金属ロール32、及びこれらの下流に位置する巻取機40の巻取管41に順次巻架し、フィルムキャパシタ用フィルム20を巻取管41に順次巻回すれば、フィルムキャパシタ用フィルム20を製造することができる(図1参照)。
【0046】
引取機30の圧着ロール31と巻取機40の巻取管41との間には同図に示すように、フィルムキャパシタ用フィルム20の側部にスリットをスライドして形成するスリット刃50が少なくとも昇降可能に配置され、巻取管41とスリット刃50との間には、フィルムキャパシタ用フィルム20にテンションを作用させて円滑に巻き取るテンションロール51が回転可能に軸支される。
【0047】
圧着ロール31の周面には、フィルムキャパシタ用フィルム20と金属ロール32との密着性を向上させる観点から、少なくとも天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ノルボルネンゴム。アクリロニトリルブタジエンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等のゴム層が被覆形成される、これらのゴムの中では、耐熱性に優れるシリコーンゴムやフッ素ゴムの選択が好ましい。ゴム層には、シリカやアルミナ等の無機化合物を選択的に添加しても良い。
【0048】
圧着ロール31は、表面が金属から形成される金属弾性ロールをも使用することができ、この金属弾性ロールを使用する場合には、表面が平滑性に優れるフィルムキャパシタ用フィルム20を成形することが可能となる。金属弾性ロールの具体例としては、エアーロール〔ディムコ社製 商品名〕やUFロール〔日立造船社製 商品名〕が該当する。
【0049】
フィルムキャパシタ用フィルム20の表面には、本発明の効果を失わない範囲で微細な凹凸を形成し、フィルムキャパシタ用フィルム20表面の摩擦係数を低下させることができる。この微細な凹凸を形成する方法としては、(1)PEI樹脂とフッ素樹脂との組成物を溶融押出成形機10で溶融混練し、この溶融混練した組成物をダイス12より微細な凹凸を有する金属ロール32上に吐出して密着させ、フィルムキャパシタ用フィルム20の成形時に同時に形成する方法、(2)一旦フィルムキャパシタ用フィルム20を製造した後、微細な凹凸を有する金属ロールに密着させて形成する方法とがあげられるが、設備の簡略化の観点からすると、(1)の方法が好ましい。
【0050】
フィルムキャパシタ用フィルム20表面の微細な凹凸形状は、中心線の平均粗さで0.50μm以下、好ましくは0.40μm以下、さらに好ましくは0.35μm以下が最適である。これは、中心線の平均粗さが0.50μmを越える場合には、フィルムキャパシタ用フィルム20の絶縁破壊電圧が低下するおそれがあるという理由に基づく。
【0051】
金属ロール32は、300℃以下、好ましくは270℃以下、より好ましくは210℃以下の温度で使用される。これは、金属ロール32の温度が300℃を越える場合には、フィルムキャパシタ用フィルム20が金属ロール32に融着して破断するという理由に基づく。
【0052】
フィルムキャパシタ用フィルム20の厚さは、0.5〜10μm、好ましくは1.0〜7.0μm、より好ましくは1.5〜5.0μmが良い。これは、フィルムキャパシタ用フィルム20の厚さが0.5μm未満の場合には、フィルムキャパシタ用フィルム20の引張強度が著しく低下するので、製造が困難になるからである。逆に、フィルムキャパシタ用フィルム20の厚さが10μmを越える場合には、体積当たりの静電容量が小さくなるからである。
【0053】
フィルムキャパシタ用フィルム20の絶縁破壊電圧は、常温においては100V/μm以上、好ましくは200V/μm以上、より好ましくは250V/μm以上が良い。また、150℃においては、好ましくは100V/μm以上、好ましくは180V/μm以上、さらに好ましくは200V/μm以上が良い。
【0054】
フィルムキャパシタ用フィルム20の絶縁破壊電圧(絶対値)は、常温において500V以上、より好ましくは750V以上、さらに好ましくは1000V以上が良い。150℃においては、500V以上、好ましくは650V以上、さらに好ましくは800V以上が好適である。フィルムキャパシタ用フィルム20の絶縁破壊電圧が係る範囲を外れると、フィルムキャパシタとして使用中に問題が生じるので留意する必要がある。
【0055】
上記方法によれば、PEI樹脂にフッ素樹脂を添加して得られる成形材料1が6,000〜20,000Pa・sの一軸伸長粘度を有するので、ドローレゾナンスの発生を防止することができ、厚さが10μm以下の高品質で薄膜のフィルムキャパシタ用フィルム20をムラなく安定して製造することができる。また、フィルムキャパシタ用フィルム20として、ガラス転移点が200℃以上、絶縁破壊電圧が100V/μm以上のPEI樹脂と連続使用温度が200℃以上のフッ素樹脂を使用するので、高温で優れた耐電圧特性を得ることができる。
【0056】
また、フィルムキャパシタ用フィルム20の製造工程を従来よりも簡素化することができ、しかも、長時間に亘って乾燥させる必要もないので、コスト削減等を図ることができる。さらに、帯形に連続したフィルムキャパシタ用フィルム20にスリット刃50によりスリットを形成することができるので、フィルムキャパシタ用フィルム20をスリットで所定の大きさに整えることができ、製造工程の簡略化が大いに期待できる。
【0057】
なお、成形材料1の所定量以上のPEI樹脂中にフッ素樹脂を分散させ、マスターバッチ化しても良い。また、成形材料1のPEI樹脂は、1種類を単独で使用したり、2種類以上をアロイ化したり、ブレンドして使用しても良い。さらに、成形材料1のフッ素樹脂としてPFA樹脂あるいはFEP樹脂を選択した場合、成形材料1の歪硬化領域を、温度340℃における伸長粘度曲線で伸長速度10s−1〜50s−1の範囲内としてドローダウンやドローレゾナンスの発生を有効に抑制するようにしても良い。
【0058】
以下、本発明に係るフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法の実施例を比較例と共に説明する。
〔実施例1〕
先ず、表1に示す所定量のPEI樹脂[SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン社製:商品名Ultem1010−1000]とPFA樹脂[旭硝子社製:商品名フレオンPFA P−62PX]とをタンブラーミキサーにより30分間攪拌混合した。フレオンPFA P−62PXの溶融粘度は11,100ポイズであった。
【0059】
こうしてPEI樹脂とPFA樹脂とを攪拌混合して攪拌混合物を調製したら、この攪拌混合物を真空ポンプ付きの高速二軸溶融押出機〔池貝社製:PCM30、L/D=35〕に供給して減圧下で溶融混練し、高速二軸溶融押出機の先端部のダイスから棒形に押し出して水冷後にカットし、長さ4〜6mm、直径2〜4mmのペレット形の成形材料を調製した。攪拌混合物は、シリンダー温度:320〜350℃、アダプター温度:360℃、ダイス温度:360℃の条件下で溶融混練した。また、成形材料は、調製した後、340℃における一軸伸長粘度を測定した。
【0060】
次いで、成形材料を160℃に加熱した排気口付きの熱風オーブン中に24時間静置して乾燥させ、この成形材料を幅400mmのTダイスを備えたφ40mmの単軸溶融押出機〔アイ・ケー・ジー社製〕にセットして溶融混練し、溶融混練した成形材料を単軸溶融押出機成形機のTダイスから連続的に押し出して薄いフィルムキャパシタ用フィルムを帯形に成形した。
【0061】
単軸溶融押出機に成形材料をセットする際、単軸溶融押出機に窒素ガスを520L/分を供給した。また、成形材料の乾燥時の含水率は235ppmであった。また、単軸溶融押出機は、L/D=25、圧縮比:2.5、スクリュー:フルフライトスクリューとした。この単軸溶融押出機の温度は320〜340℃、Tダイスの温度は340℃、単軸溶融押出機とTダイスとを連結する連結管の温度は340℃に調整した。成形材料の温度については、Tダイス入口の樹脂温度を測定することとし、測定したところ340℃であった。
【0062】
次いで、成形したフィルムキャパシタ用フィルムの両側部をスリット刃で裁断して巻取機の巻取管に順次巻き取ることにより、長さ1000m、幅250mm、厚さ5.3μmのフィルムキャパシタ用フィルムを製造した。フィルムキャパシタ用フィルムは、引取機のシリコーンゴム製の一対の圧着ロール、210℃の金属ロール、及びこれらの下流に位置する3インチの巻取管の間に順次巻架し、圧着ロールと金属ロールとに狭持させた。
【0063】
圧着ロールと巻取管との間には、フィルムキャパシタ用フィルムを切断するスリット刃を昇降可能に配置し、巻取管とスリット刃との間には、フィルムキャパシタ用フィルムに圧接してテンションを作用させるテンションロールを回転可能に配置した。フィルムキャパシタ用フィルムを製造したら、フィルムキャパシタ用フィルムの表面性を評価するとともに、絶縁破壊電圧を測定して表1にまとめた。
【0064】
・溶融粘度
溶融粘度については、フローテスター[島津製作所社製 島津フローテスター CFT−500形A]を使用して測定した。この溶融粘度の測定は、樹脂1.5cmをダイス(直径:1mm、長さ:10mm)を備えたシリンダー(シリンダー温度:360℃)内に充填するとともに、上部にプランジャー(面積:1cm)を装着し、シリンダーの温度が360℃に達したら、5分間予備加熱した後、直ちに荷重:50kgfを加え、フッ素樹脂を溶融流出させることにより測定した。
【0065】
・フィルムの厚さ
フィルムキャパシタ用フィルムの厚さについては、接触式の厚さ計〔Mahr社製 商品名:電子マイクロメータミロトン1240〕を使用し、フィルムキャパシタ用フィルムの幅方向の5点の平均厚みにより測定した。
・フィルムの成形性
厚さが10μm以下の薄膜のフィルムキャパシタ用フィルムを長さ1000mで製造できた場合には○、製造できなかった場合には×として評価した。
【0066】
・フィルムの表面性
フィルムキャパシタ用フィルムの表面性については、手触りの感触で評価することとし、フィルムキャパシタ用フィルムの表面が滑らかで、ざらついた感じがしない場合には○、フィルムキャパシタ用フィルムの表面がざらつく場合には×とした。
【0067】
・一軸伸長粘度
成形材料の一軸伸長粘度については、ROSANDツインキャピラリーレオメーターRH2200を用いて測定した。具体的には、キャピラリーダイ:φ1.0mm×実効長:16mm×180度、オリフィスダイ:φ1.0mm×実効長:0.25mm×180度、温度:340℃において、せん断速度:50〜5000s−1の範囲を測定し、伸長速度:10〜50s−1の範囲の一軸伸長粘度を求めた。
【0068】
・フィルムの絶縁破壊電圧
フィルムキャパシタ用フィルムの絶縁破壊電圧は、JIS C 2110−1994法に準拠し、気中法による短時間絶縁破壊試験で測定し、この測定した測定値を測定試料の厚みで割ることにより、単位厚み当たりの絶縁破壊電圧値で示すこととした。この測定は、23℃及び150℃環境下で実施し、フィルムキャパシタ用フィルムの巻き外側から測定した。電極は、円柱状[上部形状 直径:25mm、高さ:25mm、下部形状 直径:25mm、高さ:15mm]のタイプを使用した。
【0069】
〔実施例2〕
先ず、表1に示す所定量のPEI樹脂[SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン社製:商品名Ultem1010−1000]とPFA樹脂[旭硝子社製:商品名フレオンPFA P−65P]とをタンブラーミキサーにより30分間攪拌混合した。フレオンPFA P−65Pの溶融粘度は102,000ポイズであった。こうしてPEI樹脂とPFA樹脂とを攪拌混合して攪拌混合物を調製したら、この攪拌混合物を実施例1と同様の方法により成形材料に調製し、この成形材料の一軸伸長粘度を測定した。
【0070】
次いで、成形材料を160℃に加熱した排気口付きの熱風オーブン中に24時間静置して乾燥させ、実施例1と同様の方法によりフィルムキャパシタ用フィルムを帯形に成形した。単軸溶融押出機に成形材料をセットする際には、単軸溶融押出機に窒素ガスを520L/分供給した。また、成形材料の乾燥の際の含水率は309ppmであった。また、単軸溶融押出機の温度は320〜340℃、Tダイスの温度は340℃、単軸溶融押出機とTダイスとを連結する連結管の温度は340℃に調整した。成形材料の温度については、Tダイス入口の樹脂温度を測定したところ、340℃であった。
【0071】
フィルムキャパシタ用フィルムを帯形に成形したら、実施例1と同様、成形したフィルムキャパシタ用フィルムの両側部をスリット刃で裁断して巻取管に順次巻き取ることにより、長さ1000m、幅250mm、厚さ5.2μmのフィルムキャパシタ用フィルムを製造し、実施例1と同様の方法によりフィルムの表面性を評価するとともに、絶縁破壊電圧を測定して表1にまとめた。
【0072】
〔実施例3〕
表1に示す所定量のPEI樹脂[SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン社製:商品名UltemCRS5001−1000]とFEP樹脂[ダイキン工業社製:商品名ネオフロンFEP NP−21]とをタンブラーミキサーにより30分間攪拌混合した。ネオフロンFEP NP−21の溶融粘度は46,000ポイズであった。PEI樹脂とFEP樹脂とを攪拌混合して攪拌混合物を調製したら、この攪拌混合物を実施例1と同様の方法により成形材料に調製してその一軸伸長粘度を測定した。
【0073】
次いで、成形材料を160℃に加熱した排気口付きの熱風オーブン中に24時間静置して乾燥させ、実施例1と同様の方法により薄いフィルムキャパシタ用フィルムを帯形に成形した。成形材料をセットする際には、窒素ガスを520L/分供給した。また、成形材料の乾燥の際の含水率は271ppm成形材料であった。また、単軸溶融押出機の温度は320〜340℃、Tダイスの温度は340℃、単軸溶融押出機とTダイスとを連結する連結管の温度は340℃に調整した。また、成形材料の温度は、Tダイス入口の樹脂温度を測定したところ、340℃だった。
【0074】
フィルムキャパシタ用フィルムを帯形に成形したら、実施例1と同様、成形したフィルムキャパシタ用フィルムの両側部をスリット刃で裁断して巻取管に順次巻き取ることにより、長さ1000m、幅250mm、厚さ3.6μmのフィルムキャパシタ用フィルムを製造し、実施例1と同様の方法によりフィルムキャパシタ用フィルムの表面性を評価し、絶縁破壊電圧を測定して表1にまとめた。
【0075】
〔実施例4〕
表1に示す所定量のPEI樹脂[SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン社製:商品名UltemCRS5001−1000]とFEP樹脂[ダイキン工業社製:商品名ネオフロンFEP NP−102]とをタンブラーミキサーにより30分間攪拌混合した。ネオフロンFEP NP−102の溶融粘度は11,700ポイズであった。
【0076】
PEI樹脂とFEP樹脂とを攪拌混合して攪拌混合物を調製したら、この攪拌混合物を実施例1と同様の方法により成形材料に調製し、この成形材料の一軸伸長粘度を測定した。
【0077】
次いで、成形材料を160℃に加熱した排気口付きの熱風オーブン中に24時間静置して乾燥させ、実施例1と同様の方法により薄いフィルムキャパシタ用フィルムを帯形に成形した。この場合にも、窒素ガスを520L/分供給した。また、成形材料の乾燥時の含水率は264ppmであった。また、単軸溶融押出機の温度は320〜340℃、Tダイスの温度は340℃、単軸溶融押出機とTダイスとを連結する連結管の温度は340℃に調整した。また、成形材料の温度については、Tダイス入口の樹脂温度を測定したところ、340℃だった。
【0078】
フィルムキャパシタ用フィルムを帯形に成形したら、実施例1と同様、成形したフィルムキャパシタ用フィルムの両側部をスリット刃で裁断して巻取管に順次巻き取ることにより、長さ1000m、幅250mm、厚さ6.5μmのフィルムキャパシタ用フィルムを製造し、実施例1と同様の方法によりフィルムキャパシタ用フィルムの表面性を評価し、かつ絶縁破壊電圧を測定して表1にまとめた。
【0079】
〔比較例1〕
先ず、表2に示す所定量のPEI樹脂[SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン社製:商品名Ultem1010−1000]とPFA樹脂[旭硝子社製:商品名 フレオンPFA P−62XP]とをタンブラーミキサーにより30分間攪拌混合して攪拌混合物を調製し、この攪拌混合物を実施例1と同様の方法により成形材料に調製し、この成形材料の一軸伸長粘度を測定した。
【0080】
次いで、成形材料を160℃に加熱した排気口付きの熱風オーブン中に24時間静置して乾燥させ、実施例1と同様の方法により薄いフィルムキャパシタ用フィルムを帯形に成形した。単軸溶融押出機に成形材料をセットする際には、単軸溶融押出機に窒素ガス520L/分を供給した。また、成形用材料の乾燥の際の含水率は316ppmであった。また、単軸溶融押出機の温度は320〜340℃、Tダイスの温度は340℃、単軸溶融押出機とTダイスとを連結する連結管の温度は340℃に調整した。成形材料の温度は、Tダイス入口の温度を測定することとし、340℃であった。
【0081】
フィルムキャパシタ用フィルムを成形したら、以後は上記実施例と同様にしようとしたが、フィルムキャパシタ用フィルムの成形中にドローレゾナンスが激しく発生し、フィルムキャパシタ用フィルムの端部が波状に暴れ、419mの長さを製造した時点で端部より破断してしまった。やむなく、長さ419m、幅250mm、厚さ5.3μmのフィルムキャパシタ用フィルムの製造を止めた。その後、実施例1と同様の方法により、フィルムキャパシタ用フィルムの表面性を評価するとともに、絶縁破壊電圧を測定して表2にまとめた。その他の部分については、実施例1と同様とした。
【0082】
〔比較例2〕
表2に示す所定量のPEI樹脂[SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン社製:商品名UltemCRS5001−1000]とEFP樹脂[ダイキン工業社製:商品名 ネオフロンFEP NP−21]とをタンブラーミキサーにより30分間攪拌混合して攪拌混合物を調製し、この攪拌混合物を実施例1と同様の方法により成形材料に調製してその一軸伸長粘度を測定した。
【0083】
次いで、成形材料を160℃に加熱した排気口付きの熱風オーブン中に24時間静置して乾燥させ、実施例1と同様の方法により薄いフィルムキャパシタ用フィルムを帯形に成形しようとした。成形材料の乾燥の際の含水率は230ppmだった。また、実施例1同様、窒素ガスを供給した。
【0084】
10μm以下の厚さを有するフィルムキャパシタ用フィルムを成形しようとしたが、ダイ12から押し出される溶融混練物の溶融伸びが非常に小さく、ダイスと金属ロールとの間で溶融混練物が破断し、10μm以下の厚さを有するフィルムキャパシタ用フィルムを成形することができなかった。したがって、フィルムキャパシタ用フィルムの絶縁破壊電圧の測定を断念した。
【0085】
〔比較例3〕
表2に示す所定量のPEI樹脂[SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン社製:商品名Ultem1010−1000]とPFA樹脂[旭硝子社製:商品名 フレオンPFA P−66PT]とをタンブラーミキサーにより30分間攪拌混合した。フレオンPFA P−66PTの溶融粘度は150,000ポイズであった。こうしてPEI樹脂とPFA樹脂とを攪拌混合して攪拌混合物を調製したら、この攪拌混合物を実施例1と同様の方法により成形材料に調製してその一軸伸長粘度を測定した。
【0086】
次いで、成形材料を160℃に加熱した排気口付きの熱風オーブン中に24時間静置して乾燥させ、実施例1と同様の方法により薄いフィルムキャパシタ用フィルムを帯形に成形した。成形材料の乾燥の際の含水率は295ppmであった。また、実施例同様、窒素ガスを供給した。
【0087】
フィルムキャパシタ用フィルムを成形したら、この連続したフィルムキャパシタ用フィルムの両側部をスリット刃で裁断して巻取管に順次巻き取ることにより、長さ1000m、幅250mm、厚さ6.1μmのフィルムキャパシタ用フィルムを製造した。こうしてフィルムキャパシタ用フィルムを製造したら、実施例1と同様の方法によりフィルムキャパシタ用フィルムの表面性を評価するとともに、絶縁破壊電圧を評価して表2にまとめた。フィルムキャパシタ用フィルムの表面に手を触れたところ、フィルムキャパシタ用フィルムの表面はざらついていた。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【0090】
表1、表2中の1010はPEI樹脂〔SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン社製:商品名Ultem1010−1000〕、CRS5001はPEI樹脂〔SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン社製:商品名UltemCRS5001−1000〕を示す。また、P−62XPはPFA樹脂〔旭硝子社製 商品名:フレオンPFA P−62PX〕、P−65PはPFA樹脂〔旭硝子社製 商品名:フレオンPFA P−65P〕、NP−21はFEP樹脂〔ダイキン工業社製 商品名:ネオフロンFEP NP−21〕、NP−102はFEP樹脂〔ダイキン工業社製 商品名:ネオフロンFEP NP−102〕である。
【0091】
〔結 果〕
実施例と比較例1のフィルムキャパシタ用フィルムは共に絶縁破壊電圧が250V/μm以上であったが、比較例1の場合には、厚さ10μm以下の薄膜のフィルムキャパシタ用フィルムを安定して製造できなかった。
【0092】
比較例2の場合には、厚さ10μm以下の薄膜のフィルムキャパシタ用フィルムを製造できなかった。さらに、比較例3のフィルムキャパシタ用フィルムは、手で触れたところ、表面がざらついており、しかも、絶縁破壊電圧の大幅な低下を確認した。
以上から明らかなように、実施例のフィルムキャパシタ用フィルムは、10μm以下の薄膜に製造することができ、しかも、優れた絶縁破壊電圧を有し、フィルムキャパシタ用として最適である。
【符号の説明】
【0093】
1 成形材料
10 溶融押出成形機
12 ダイス
20 フィルムキャパシタ用フィルム
30 引取機
31 圧着ロール
32 金属ロール(冷却ロール)
40 巻取機
41 巻取管
50 スリット刃
51 テンションロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形材料を溶融押出成形機に投入してダイスからフィルムキャパシタ用フィルムを押し出し、この押し出したフィルムキャパシタ用フィルムを圧着ロールと冷却ロールとの間に挟んで冷却し、冷却した厚さ10μm以下のフィルムキャパシタ用フィルムを巻取機に巻き取るフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法であって、
成形材料を、ガラス転移点が200℃以上で絶縁破壊電圧が100V/μm以上のポリエーテルイミド樹脂にフッ素樹脂を添加することにより調製し、この成形材料の一軸伸長粘度を6,000Pa・s〜20,000Pa・sの範囲内とすることを特徴とするフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法により製造されたことを特徴とするフィルムキャパシタ用フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2011−256231(P2011−256231A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129886(P2010−129886)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】