説明

フィルムラミネート処理亜鉛系めっき鋼板

【課題】耐食性に優れたフィルムラミネート処理亜鉛系めっき鋼板を得る。
【解決手段】亜鉛系めっき鋼板の表面に、シリカと、リン酸および/またはリン酸化合物と、Mg、Mn、Alの中から選ばれる1種以上と、4価のバナジウム化合物とを所定の付着量で含有する皮膜(第1層皮膜)を有し、その上に、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムからなる所定膜厚のフィルムラミネート層を有する。第1層皮膜が、高い自己補修性能とバリアー性を発揮するとともに、フィルムラミネート層の接着層として機能することで優れた密着性が得られるため、フィルムラミネート処理亜鉛系めっき鋼板は優れた耐食性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、家電、建材用途に最適な鋼板であって、皮膜中に六価クロムを含まない環境適応型のフィルムラミネート処理亜鉛系めっき鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家電製品用鋼板、建材用鋼板、自動車用鋼板には、従来から主に亜鉛系めっき鋼板が使用されており、白錆や赤錆の発生を抑制するためにめっき鋼板の表面にクロム酸、重クロム酸またはそれらの塩類を主要成分とした処理液によるクロメート処理が施されている。このクロメート処理は耐食性に優れており、且つ、安価で操業等の管理面においても煩雑でないために、経済的な処理方法として幅広く利用されている。しかし、クロメート処理は公害規制物質である六価クロムを使用するものであるため、近年、処理自体について使用を規制する動きが広まりつつある。
このような背景から、亜鉛系めっき鋼板の白錆の発生を防止するために六価クロムを全く使用しない、クロメートフリー処理技術が数多く提案されており、例えば、特許文献1〜4のような技術を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3405260号公報
【特許文献2】特開2001−181860号公報
【特許文献3】特開2003−13252号公報
【特許文献4】特開2003−105562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの従来技術では、防錆を目的とした金属化合物や、腐食因子となる酸素、水、塩類の浸透を遅延できるような緻密な皮膜を形成できる樹脂を選定し、塗料として塗布・乾燥することにより表面処理層が形成される。しかしながら、このような方法により形成された表面処理層は、膜厚が薄いために傷つき性が問題となる場合が多い。
表面処理された亜鉛系めっき鋼板は、種々の用途に供される際の成形加工、潤滑油や付着したごみを除去するためのふき取り作業、家電製品等については一般需要者に渡った後の日常的な取扱いやふき掃除など、表面にスリ疵等が入る機会は非常に多い。そして、一旦スリ疵が入ると亜鉛めっき皮膜表面が露出してしまい、その部分が腐食の起点となってしまう。
【0005】
上記従来技術は、種々の添加剤によって表面処理層にクロメート処理層のような自己補修作用を付与しているが、その効果は限定的なものである。また、加工性向上のために添加した固形潤滑剤により傷つき性はある程度向上するが、その効果も限られており、例えば、洗浄により固形潤滑剤が除去されてしまうとその効果は低下してしまう。したがって、表面処理層は、実際の使用環境では十分な膜厚がある方が耐食性を維持する上で有利である。
塗料を厚塗りする、或いは塗装を複数回行うことにより表面処理層を厚くすることは可能である。しかしながら、一度に多量の塗料を塗布すると塗料のタレや焼付不良などの問題が生じやすくなり、また、塗装を複数回行うことは製造コストの上昇につながる。また、表面処理層を単純に厚くするとプレス成形や曲げ加工後にクラックが入りやすくなり、必ずしも性能向上にはつながらない。
【0006】
塗装を行うことなく厚膜の被覆層を得る方法としては、フィルムラミネート処理がある。この方法では、樹脂フィルムの熱融着により厚さ数十μmの皮膜を容易に得ることが可能である。フィルムラミネート処理を行う場合、ラミネートするフィルムのバリアー性や加工性が課題であるが、加えて、フィルムと下地との密着性および界面での耐食性が重要となる。
フィルムと下地との密着性が劣るとプレス成形や曲げ加工により容易にフィルムが剥離し、防錆性を発揮しなくなる。また、密着性が良好であっても界面での耐食性が劣ると、端面など不可避的に露出する界面より浸透してくる水分や塩分などの腐食因子により、フィルム下で腐食が進行してしまう。
【0007】
フィルムと下地との密着性を高める手法としては、下地処理として接着剤(接着層)を塗布する方法、密着性の高いフィルムとともに複層ラミネートを行う方法、熱融着条件制御によりラミネートフィルムの結晶度を調整する方法などがあるが、これらの手法では、密着性を高めることはできても界面耐食性は改善できない。また、前記接着層の下層にさらに下地処理として化成処理を施し、耐食性を高めることはできるが、さらなる複層化はコスト上昇につながり、また接着層などの中間層が厚くなれば密着性の低下につながる。
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、耐食性に優れたフィルムラミネート処理亜鉛系めっき鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、亜鉛系めっき鋼板の表面に、第1層として、(α)シリカと、(β)リン酸および/またはリン酸化合物と、(γ)Mg、Mn、Alの中から選ばれる1種以上と、(σ)4価のバナジウム化合物とを含有するとともに、これら各成分の付着量が、
(α)シリカ:SiO換算で1〜2000mg/m
(β)リン酸および/またはリン酸化合物:P換算の合計で1〜1000mg/m
(γ)Mg、Mn、Alの中から選ばれる1種以上:Mg、Mn、Al換算の合計で0.5〜800mg/m
(σ)4価のバナジウム化合物:V換算で0.1〜50mg/m
である皮膜を有し、その上部に第2層として、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを熱融着して形成された膜厚15μm以上のフィルムラミネート層を有することを特徴とするフィルムラミネート処理亜鉛系めっき鋼板である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフィルムラミネート処理亜鉛系めっき鋼板は、優れた加工性とバリアー性を有するフィルムラミネート層を有するとともに、このフィルムラミネート層の下層に、ラミネートフィルムの密着性を効果的に高めることができ且つ耐食性能にも優れた皮膜を有するため、非常に優れた耐食性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】加工性評価試験で用いた摩擦係数測定装置を示す説明図
【図2】加工性評価試験で用いたビードの形状・寸法を示す説明図
【図3】加工性評価試験で用いたビードの形状・寸法を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のフィルムラミネート処理亜鉛系めっき鋼板は、亜鉛系めっき鋼板の表面に、第1層として特定成分からなる皮膜を有し、その上部に第2層として、特定のフィルムラミネート層を有する。
本発明で用いる亜鉛系めっき鋼板としては、電解法(水溶液中での電解または非水溶媒中での電解)、溶融法、気相法のうちのいずれの方法で得られたものでもよいが、コストや設備等を含めた生産性を考慮した場合、溶融めっき(溶融めっき鋼板)、電気めっき(電気めっき鋼板)、蒸着めっき(蒸着めっき鋼板)のいずれかで得られたものが好適である。
【0012】
溶融めっき鋼板としては、例えば、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、Zn−Al系合金めっき鋼板(例えば、Zn−5%Al合金めっき鋼板、Zn−6%Al−3%Mg合金めっき鋼板、Zn−11%Al−3%Mg合金めっき鋼板、Zn−55%Al合金めっき鋼板)等が挙げられる。また、これらのめっき鋼板の耐食性等を向上させることを目的として、めっき皮膜中にさらにCo、Mg等の微量元素の1種以上を添加したものでものよい。
【0013】
また、電気めっき鋼板としては、例えば、亜鉛めっき鋼板、Zn−Ni合金めっき鋼板等が挙げられる。また、これらのめっき鋼板のめっき皮膜中に微量のNi、Co、Pb、Sn、Fe等の1種以上が含まれるものでもよい。
さらに、高温高湿雰囲気下でのめっきの黒変を防止することを目的に、めっき皮膜中にNi、Co、Feの1種以上を1〜2000ppm程度析出させたり、或いはめっき表面にNi、Co、Feの1種以上を含むアルカリ性若しくは酸性水溶液による表面調整処理を施し、これらの元素を析出させるようにしてもよい。
【0014】
亜鉛系めっき鋼板の表面に、第1層として形成される皮膜は、フィルムラミネート層の接着層としての機能と、自己補修性能およびバリアー性能を有する防食層としての機能を兼ね備えたものである。
この皮膜は、(α)シリカと、(β)リン酸および/またはリン酸化合物と、(γ)Mg、Mn、Alの中から選ばれる1種以上と、(σ)4価のバナジウム化合物とを含有する、好ましくはこれらを主成分とする皮膜であり、これら4つの成分を含むことによって、後述するような特有の密着性向上効果と皮膜自身による耐食性向上効果が得られ、ラミネートフィルムによる耐食性向上効果を十分に発揮することが可能となる。この皮膜は六価クロムを含有しない(但し、不可避的に含まれる六価クロムを除く)。
【0015】
上記成分(α)であるシリカとしては、耐食性の観点から特にコロイダルシリカが好ましい。また、乾式シリカ微粒子を皮膜組成物溶液に分散させたものを用いることもできる。
皮膜中での上記成分(α)の付着量は、SiO換算で1〜2000mg/mとする。SiO換算での付着量が1mg/m未満では成分(α)の添加による効果が十分に期待できず、一方、2000mg/mを超えると密着性、黒変性に問題が生じる。このような観点からより好ましい付着量は5〜1000mg/m、特に好ましくは10〜200mg/mである。
【0016】
前記成分(β)であるリン酸および/またはリン酸化合物は、例えば、オルトリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、これらの金属塩や化合物などの1種または2種以上を皮膜組成物中に添加することにより皮膜成分として配合することができる。
皮膜中でのリン酸化合物の存在形態も特別な限定はなく、また、結晶若しくは非結晶であるか否かも問わない。また、皮膜中のリン酸および/またはリン酸化合物のイオン性、溶解度についても特別な制約はない。
皮膜中での上記成分(β)の付着量は、P換算の合計で1〜1000mg/mとする。P換算での付着量が1mg/m未満では成分(β)の添加による効果が十分に期待できず、一方、1000mg/mを超えると耐食性に問題が生じる。このような観点からより好ましい付着量は5〜500mg/m、特に好ましくは10〜100mg/mである。
【0017】
上記成分(γ)であるMg、Mn、Alの中から選ばれる1種以上が皮膜中に存在する形態は特に限定されず、Mg、Mn、Alは、金属として、或いは酸化物、水酸化物、水和酸化物、リン酸化合物、配位化合物などの化合物若しくは複合化合物として存在してもよい。これらの化合物や複合化合物のイオン性、溶解度などについても特に限定されない。
皮膜中に成分(γ)を導入する方法は特に限定するものではないが、Mg、Mn、Alのリン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩化物などとして皮膜組成物に含有させればよい。
皮膜中での上記成分(γ)の付着量は、Mg、Mn、Al換算の合計で0.5〜800mg/mとする。Mg、Mn、Al換算の合計での付着量が0.5mg/m未満では成分(γ)の添加による効果が十分に期待できず、一方、800mg/mを超えると耐食性、皮膜外観に問題が生じる。このような観点からより好ましい付着量は1〜500mg/m、特に好ましくは5〜100mg/mである。
【0018】
上記成分(σ)である4価のバナジウム化合物としては、バナジウムの酸化物、水酸化物、硫化物、硫酸物、炭酸物、ハロゲン化物、窒化物、フッ化物、炭化物、シアン化物(チオシアン化物)およびこれらの塩などが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。また、4価のバナジウム化合物としては、特に耐食性および耐黒変性の観点から、5価のバナジウム化合物を予め還元剤を用いて4価に還元したものを用いることが好ましい。この場合、用いる還元剤は無機系、有機系いずれでもよいが、有機系がより好ましい。
【0019】
バナジウム化合物のうち、5価のバナジウム化合物を使用した場合には、処理液安定性が劣るため均一な皮膜形成ができず、十分な耐食性が得られない。また、2価、3価のバナジウム化合物を使用した場合も耐食性が劣る。これに対して4価のバナジウム化合物を用いた場合にはそのような問題はなく、上記成分(α)〜(γ)との相乗効果により優れた耐食性が得られる。
皮膜中での上記成分(σ)の付着量は、V換算で0.1〜50mg/mとする。V換算の付着量が0.1mg/m未満では成分(σ)の添加による効果が十分に期待できず、一方、50mg/m超えると皮膜の着色、黒変の問題が生じる。このような観点からより好ましい付着量は0.5〜30mg/m、特に好ましくは1〜10mg/mである。
【0020】
以上のような成分を含む皮膜を亜鉛系めっき鋼板の表面に形成することにより、極めて優れた密着性および耐食性が得られる理由は、以下のような機構によるものと推定される。
(i)めっき金属表面と成分(β)のリン酸および/またはリン酸化合物が反応してめっき金属と強固な密着性を有する皮膜を形成する。成分(γ)のMg、Mn、Alは、その皮膜を安定で緻密な皮膜とすることに寄与する。
(ii)成分(α)のシリカは上記皮膜を接着層とし、めっき金属表面に固定されることで微細な凹凸を形成する。この凹凸により、ラミネートフィルムとの接着面積が飛躍的に増加する。
(iii)成分(δ)の4価のバナジウム化合物については、4価のバナジル(IV)イオン:VOやその錯イオン(例えば、[VO(SO]2−)とリン酸イオンとが皮膜中で難溶性の塩を形成するので、この塩が上記皮膜を安定で緻密な皮膜とすることに寄与する。
(iv)4価のバナジウム化合物は5価のバナジウム化合物と異なり、処理液安定性に優れているため均一な皮膜形成が可能となる。
【0021】
さらに、この皮膜は、以下のような優れた自己補修効果を有する。
(イ)皮膜に欠陥が生じた場合に、カソード反応によってOHイオンが生成して界面がアルカリ性になることにより上記成分(γ)がMe(OH)として沈殿し、緻密で難溶性の生成物として欠陥を封鎖し、腐食反応を抑制する。
(ロ)上述したようにリン酸またはリン酸化合物は皮膜の緻密性の向上に寄与するとともに、皮膜欠陥部で腐食反応であるアノード反応によって溶解した亜鉛イオンをリン酸成分が捕捉し、難溶性のリン酸亜鉛化合物としてそこに沈殿生成物を形成する。
(ハ)4価のバナジウム化合物は、その酸化作用のためにバナジウム化合物自身が還元され、酸化物や水酸化物などの形態の皮膜がめっき層の表面に形成され、これが自己補修作用を示す。
【0022】
そして、この自己補修効果についても、特に、リン酸イオンやシリカとの結合を介して成分(γ)及びバナジウム化合物が取り込まれた皮膜が形成され、且つ上記(イ)〜(ハ)の作用が有機的に組み合わされることにより、高度の自己補修効果が得られるものと考えられる。
また、この皮膜は、以上のような密着性向上効果および自己補修効果を有すること加えて、緻密で安定であることから高度なバリアー性を発揮する。このため鋼板端部やラミネートフィルムを透過してきた腐食因子に対して高度のバリアー効果を発揮し、腐食を抑制することができる。
【0023】
また、この皮膜中には、鋼板の使用環境下での黒変(めっき表面の酸化現象の一種)を防止する目的で、鉄族金属イオン(Niイオン,Coイオン,Feイオン)の1種以上を添加してもよい。なかでもNiイオンの添加が最も好ましい。この場合、鉄族金属イオンの濃度としては、処理組成物中の金属量換算での成分(γ)1M(金属換算)に対して1/10000M以上あれば所望の効果が得られる。鉄族イオン濃度の上限は特に定めないが、濃度の増加に伴い耐食性に影響を及ぼさない程度とするのが好ましく、成分(γ)1M(金属換算)に対して1M、望ましくは1/100M程度とするのが好ましい。
【0024】
亜鉛系めっき鋼板の表面を処理液で処理し、皮膜(第1層皮膜)を形成するには、
(a)シリカと、
(b)リン酸および/またはリン酸化合物と、
(c)Mg、Mn、Alの中から選ばれる1種以上(前記各金属の金属イオン、前記金属のうちの少なくとも1種を含む水溶性イオン、前記金属のうちの少なくとも1種を含む化合物、前記金属のうちの少なくとも1種を含む複合化合物などの形態で含まれる。)と、
(d)4価のバナジウム化合物と、
を含有し、さらに必要に応じて上述した各添加成分(有機樹脂成分、鉄族金属イオン、腐食抑制剤、その他の添加剤)を添加した処理液(水溶液)で処理し、しかる後加熱乾燥させることが好ましい。
【0025】
第1層皮膜用の処理液をめっき鋼板表面にコーティングする方法としては、塗布方式、浸漬方式、スプレー方式のいずれでもよく、塗布方式ではロールコーター(3ロール方式、2ロール方式等)、スクイズコーター、ダイコーター等のいずれの塗布手段を用いてもよい。また、スクイズコーター等による塗布処理、浸漬処理、スプレー処理の後に、エアナイフ法やロール絞り法により塗布量の調整、外観の均一化、膜厚の均一化を行うことも可能である。処理液の温度に特別な制約はないが、常温〜60℃程度が適当である。常温以外では冷却などのための設備が必要となるため不経済であり、一方、60℃を超えると溶媒が蒸発し易くなるため処理液の管理が難しくなる。
【0026】
上記のように処理液をコーティングした後、通常、水洗することなく加熱乾燥を行うが、本発明で使用する処理液は下地めっき鋼板との反応により難溶性塩を形成するため、処理後に水洗を行ってもよい。コーティングした処理液を加熱乾燥する方法は任意であり、例えば、ドライヤー、熱風炉、高周波誘導加熱炉、赤外線炉等の手段を用いることができるが、耐食性の観点からは高周波誘導加熱炉が特に好ましい。この加熱乾燥処理は到達板温で50〜300℃、望ましくは80〜200℃、さらに望ましくは80〜160℃の範囲で行うことが望ましい。加熱乾燥温度が50℃未満では皮膜中に溶媒が多量に残り、耐食性が不十分となる。一方、加熱乾燥温度が300℃を超えると非経済的であるばかりでなく、皮膜に欠陥が生じやすくなり、耐食性が低下する。
なお、めっき鋼板の表面は、上記処理液を塗布する前に必要に応じてアルカリ脱脂処理し、さらに密着性、耐食性を向上させるために表面調整処理などの前処理を施すことができる。
【0027】
本発明において、上記皮膜(第1層皮膜)の上部に第2層として形成されるのは、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを熱融着して形成された膜厚15μm以上のフィルムラミネート層である。
このフィルムラミネート層を構成する二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムは、種々の熱可塑性樹脂フィルムのなかでも加工性や腐食性成分に対するバリヤー性に優れ且つ耐熱性にも優れている。フィルムラミネート層の膜厚が15μm未満では、第2層としての膜厚が不十分で疵部耐食性に劣る。
【0028】
このフィルムラミネート層は、上記したような皮膜(第1層皮膜)を形成した表面処理鋼板を加熱し、フィルムをロール等で圧着することで形成することができる。表面処理鋼板を加熱する方法は任意であり、例えば、ドライヤー、熱風炉、高周波誘導加熱炉、赤外線炉等の手段を用いることができるが、操業性の観点からは高周波誘導加熱炉が特に好ましい。
【0029】
この加熱処理は到達板温で200〜250℃、望ましくは213〜230℃の範囲で行うことが望ましい。加熱温度が200℃未満ではPETフィルムの溶解が不十分で、鋼板への密着性が劣る。そのためフィルムの剥離が生じやすく、またフィルムめっき界面へ腐食因子が浸透しやすい。一方、250℃を超えるとPETフィルムの分子配向性が失われ、フィルムのバリアー性が劣化するのでやはり耐食性が劣化する。また、上記の温度範囲でフィルムラミネート処理を行うと、フィルムの密着性およびフィルム表面の摺動性に優れるので、十分なプレス成形性を発揮する。
フィルムラミネート処理のための加熱は、適切な温度・時間で行われれば、中間工程の温度等に制約はない。したがって、例えば、皮膜(第1層皮膜)用の処理液を塗布・乾燥後、冷却することなく高温状態を維持してラミネート処理を行ってもよいし、一度冷却した後、ラミネート処理に適した温度に再加熱してもよい。
【実施例】
【0030】
素材めっき鋼板としては、表1に示す亜鉛系めっき鋼板を用いた。このめっき鋼板表面を清浄にするために、アルカリ脱脂液を用いてスプレー圧力0.5kg/cmの条件で15秒間処理した後に、水道水で水洗し、冷風乾燥した。アルカリ脱脂液としては、日本パーカライジング(株)製「CL−N364S」を水道水で2%濃度に調整したものを使用した。
【0031】
第1層皮膜形成用として、表2に示すシリカ、表3に示すリン酸化合物、表4に示す化合物、表5に示すバナジウム化合物を適宜配合した表面処理液(水溶液)を調製した。このように調製した表面処理液を、上記表面洗浄した亜鉛系めっき鋼板の表面に塗付し、所定の到達板温になるように加熱乾燥することで、第1層皮膜を形成した。この第1層皮膜を形成した亜鉛系めっき鋼板を所定の温度になるように加熱し、厚さ20μmの二軸延伸PETフィルムをロールで圧着し、フィルムラミネート処理亜鉛系めっき鋼板を作成した。
このようにして得られたフィルムラミネート処理亜鉛系めっき鋼板について、加工性、耐白錆性、疵部耐食性および湿潤試験後の試料外観を以下のようにして評価した。その結果を、第1層皮膜の成分組成および焼付条件、第2層(フィルムラミネート層)の形成条件および膜厚等とともに表6〜表8に示す。
【0032】
(1)加工性
試料の摩擦係数を測定し、加工性を評価した。図1に、使用した摩擦係数測定装置を示す。フィルムラミネート処理亜鉛系めっき鋼板から採取した摩擦係数測定用の試料1は試料台2に固定される。試料台2は、水平移動可能なスライドテーブル3の上面に固定されている。スライドテーブル3の下方には、これに接したローラ4を有する上下動可能なスライドテーブル支持台5が設けられ、これを押上げることによりビード6による試料1への押付荷重Nを測定するための第1ロードセル7が、スライドテーブル支持台5に取付けられている。上記押付力を作用させた状態でスライドテーブル3を水平方向へ移動させるための摺動抵抗力Fを測定するための第2ロードセル8が、スライドテーブル3の一方の端部に取付けられている。なお、潤滑油として、日本パーカライジング社製「ノックスラスト550HN」を試料1の表面に塗付して試験を行った。
【0033】
図2および図3に、使用したビードの形状・寸法を示す。ビード6の下面が試料1の表面に押し付けられた状態で摺動する。図2に示すビード6の形状は、幅10mm、試料の摺動方向長さ12mmであり、摺動方向両端の下部は曲率4.5mmRの曲面で構成され、試料が押し付けられるビード下面は幅10mm、摺動方向長さ3mmの平面を有する。図3に示すビード6の形状は、幅10mm、試料の摺動方向長さ69mmであり、摺動方向両端の下部は曲率4.5mmRの曲面で構成され、試料が押し付けられるビード下面は幅10mm、摺動方向長さ60mmの平面を有する。
【0034】
(条件1)
図2に示すビード6を用い、押し付け荷重N:400kgf、試料1の引き抜き速度(スライドテーブル3の水平移動速度):100cm/minとし、試料1の摩擦係数を測定した。試料1とビード6との間の摩擦係数μは、式:μ=F/Nで算出した。その評価基準は以下のとおりである。
◎:摩擦係数0.12未満(潤滑油無)
○:摩擦係数0.12未満(潤滑油有)
△:摩擦係数0.12以上、0.15未満(潤滑油有)
×:摩擦係数0.15以上(潤滑油有)
【0035】
(条件2)
図3に示すビード6を用い、押し付け荷重N:400kgf、試料1の引き抜き速度(スライドテーブル3の水平移動速度):20cm/minとし、試料1の摩擦係数を測定した。試料1とビード6との間の摩擦係数μは、式:μ=F/Nで算出した。その評価基準は以下のとおりである。
◎:摩擦係数0.18未満(潤滑油無)
○:摩擦係数0.18未満(潤滑油有)
△:摩擦係数0.18以上、0.23未満(潤滑油有)
×:摩擦係数0.23以上(潤滑油有)
【0036】
(2)耐白錆性
フィルムラミネート処理亜鉛系めっき鋼板から採取した試料について、塩水噴霧試験(JIS−Z−2371)を施し、72時間後の白錆面積率で評価した。その評価基準は以下のとおりである。
◎:白錆発生面積率5%未満
○:白錆発生面積率5%以上、10%未満
△:白錆発生面積率10%以上、50%未満
×:白錆発生面積率50%以上
【0037】
(3)疵部耐食性
フィルムラミネート処理亜鉛系めっき鋼板から採取した試料について、下記条件にて表面に引掻き疵を付与した。
・疵付与条件
引掻針 材質:サファイア、先端半径:0.01mmR
連続引掻荷重:50g、100g、200g
引掻速度:500mm/min
引掻距離:50mm
この引掻き疵を付与した試料について、塩水噴霧試験(JIS−Z−2371)を施し、72時間後の疵部での白錆発生状態にて評価した。その評価基準は以下のとおりである。
◎:連続引掻荷重:200gの疵部にて白錆発生なし
○:連続引掻荷重:100gの疵部にて白錆発生なし
△:連続引掻荷重:50gの疵部にて白錆発生なし
×:連続引掻荷重:50gの疵部にて白錆発生
【0038】
(4)湿潤試験後の試料外観
フィルムラミネート処理亜鉛系めっき鋼板から採取した試料について、80℃×98%RHの環境下で1日放置した後、皮膜外観を目視で評価した。その評価基準は以下のとおりである。
○:着色および変色なし
×:試料端部に変色あり
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
【表5】

【0044】
表6〜表8において、*1〜*6は以下の内容を表す。
*1:表1に記載のめっき鋼板No.
*2:表2に記載のシリカNo.
*3:表3に記載のリン酸・リン酸化合物No.
*4:表4に記載の化合物No.
*5:表5に記載のバナジウム化合物No.
*6:IH=高周波誘導加熱炉,AH=熱風炉
【0045】
【表6】

【0046】
【表7】

【0047】
【表8】

【符号の説明】
【0048】
1 試料
2 試料台
3 スライドテーブル
4 ローラ
5 スライドテーブル支持台
6 ビード
7 第1ロードセル
8 第2ロードセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛系めっき鋼板の表面に、第1層として、(α)シリカと、(β)リン酸および/またはリン酸化合物と、(γ)Mg、Mn、Alの中から選ばれる1種以上と、(σ)4価のバナジウム化合物とを含有するとともに、これら各成分の付着量が、
(α)シリカ:SiO換算で1〜2000mg/m
(β)リン酸および/またはリン酸化合物:P換算の合計で1〜1000mg/m
(γ)Mg、Mn、Alの中から選ばれる1種以上:Mg、Mn、Al換算の合計で0.5〜800mg/m
(σ)4価のバナジウム化合物:V換算で0.1〜50mg/m
である皮膜を有し、その上部に第2層として、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを熱融着して形成された膜厚15μm以上のフィルムラミネート層を有することを特徴とするフィルムラミネート処理亜鉛系めっき鋼板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−236022(P2010−236022A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85403(P2009−85403)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】