説明

フィルム延伸機

【課題】フィルムを安定して斜めに延伸できるフィルム延伸機を提供する。
【解決手段】フィルム延伸機1は、フィルム2を送出する供給装置3と、供給装置3から送出されたフィルム2をガラス転移温度以上に加熱する予熱装置3と、予熱装置3が加熱したフィルム2の両側をそれぞれ把持し、予熱装置3以上の速度で搬送するテンタチェイン6aおよび予熱装置3と同じ速度で搬送するテンタチェイン6bと、テンタチェイン6a,6bが搬送したフィルム2を、高速側のテンタチェイン6aと同じ速度で搬送しながら加熱および冷却するアニール装置7と、アニール装置7と同じ速度でフィルム2を巻き取る巻き取り装置8とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム延伸機、特に、斜めにフィルムを延伸するフィルム延伸機に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネルなどに用いられる偏光フィルムを製造するために、フィルムを所定方向に延伸する装置が求められている。
【0003】
特許文献1には、フィルムの搬送方向を屈曲することで、フィルムを斜めに延伸するフィルム延伸機が記載されている。しかしながら、このフィルム延伸機では、フィルムを把持するチェインを屈曲させているので、フィルムを延伸する力が不均一になったり、フィルムに無理な力が加わってフィルムのムラや破損の原因となるという問題がある。
【特許文献1】特開2004−230714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記問題点に鑑みて、本発明は、フィルムを安定して斜めに延伸できるフィルム延伸機を提供すること課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明によるフィルム延伸機は、フィルムを送出する供給装置と、前記供給装置から送出された前記フィルムをガラス転移温度以上に加熱する予熱装置と、前記予熱装置が加熱した前記フィルムの両側をそれぞれ把持し、互いに異なる少なくとも前記予熱装置以上の速度で搬送する2つのテンタチェインと、前記テンタチェインが搬送した前記フィルムを、高速側の前記テンタチェイン以上の速度で巻き取る巻き取り装置とを有するものとする。
【0006】
この構成によれば、フィルム両側のテンタチェインの搬送速度を異ならせたことで、フィルムの配向軸を徐々に傾斜させることができる。さらに、フィルムを高速側のテンタチェインより速い速度でフィルムを巻き取ることで、搬送速度が遅い側を延伸し、皺にならないように巻き取ることができる。
【0007】
また、本発明のフィルム延伸機において、低速側の前記のテンタチェインは、高速側の前記テンタチェインより上流で前記フィルムを解放してもよい。
【0008】
この構成によれば、低速側のテンタチェインから解放されたフィルムが、高速側のテンタチェインと同じ速度になるまで延伸されるために十分なスペースを確保できる。
【0009】
また、本発明のフィルム延伸機において、前記テンタチェインが解放した前記フィルムを、前記巻き取り装置と同じ速度で搬送しながら加熱および冷却するアニール装置を有してもよい。
【0010】
この構成によれば、フィルムの残留応力を除去して配向軸を固定するので、フィルムの配向特性に狂いやムラが生じない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、異なる速度のテンタチェインでフィルムの両側を把持して搬送し、搬送速度の差によってフィルムを斜めに延伸する。フィルムは配向軸が徐々に傾斜してゆくので、無理な力が加わってムラや皺を生じることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
これより、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1に、本発明の第1実施形態のフィルム延伸機1を示す。フィルム延伸機1は、リールからフィルム2を供給する供給装置3と、図2に示すように、フィルム2をガラス転移温度以上(例えば120℃〜167℃)に加熱する3連のロール4a,4b,4cからなる予熱装置4と、フィルム2の両側をクリップ5で把持して搬送するテンタチェイン6a,6bと、図2に示すように、フィルム2を加熱してから徐冷(アニール処理)する加熱ロール7aおよび冷却ロール7b,7cからなるアニール装置7(図2参照)と、アニール処理されたフィルム2をリールに巻き取る巻き取り装置8とを有する。尚、フィルム延伸機1は、予熱装置4とアニール装置7との間で、フィルム2の温度がガラス転移温度以下に下がらないように、予熱装置4とアニール装置7との間を加熱炉(不図示)の中に配置する。
【0013】
テンタチェイン6aとテンタチェイン6bとは、独立した駆動モータ(不図示)によって駆動され、独立して速度調節可能である。また、図では省略して記載されているが、クリップ5は、テンタチェイン6a,6b上に、それぞれ、一定のピッチで多数配設されており、テンタチェイン6a,6bに隣接して配設されたクリッピングガイド9a,9bに案内されている間だけフィルム2を把持するようになっている。クリッピングガイド9a,9bは、所望の延伸条件にあわせて、クリップ5がフィルム2を把持する範囲を調整するために、それぞれ長さが変更される。
【0014】
テンタチェイン6aのクリップ5とテンタチェイン6bのクリップ5とは、予熱装置4でガラス転移温度以上に加熱された直後のフィルム2の両端を同じ位置で把持し、それぞれ異なる速度でフィルム2を搬送する。
【0015】
テンタチェイン6a,6bは、供給装置3がフィルム2を供給する速度(例えば20〜30m/sec)以上の速度で周回する。アニール装置7は、テンタチェイン6a,6bの早い方の搬送速度よりも遅くない速度でフィルム2を搬送しながら加熱して残留応力を除去し、徐冷して特性を固定する。巻き取り装置8は、アニール装置7の搬送速度に合わせて、フィルム2を巻き取る。好ましくは、テンタチェイン6a,6bが把持していないフィルム2に必要以上の張力を与えないように、テンタチェイン6a,6bの遅い方の速度を供給装置3の供給速度と等しくし、アニール装置7および巻き取り装置8の速度をテンタチェイン6a,6の速い方の速度と等しくするとよい。
【0016】
例えば、テンタチェイン6aの速度をテンタチェイン6bの速度より10%速く設定した場合、フィルム延伸機1において、フィルム2の配向軸(一点鎖線で図示)を45°傾斜させるには、クリッピングガイド6bの長さをフィルム2の幅Wの約10倍、クリッピングガイド6aの長さをフィルム2の幅Wの約11倍とする。これにより、テンタチェイン6aとテンタチェイン6bとは、同じ時間だけフィルム2を把持して搬送し、フィルム2の両側の搬送距離の差がフィルム2の幅Wと略等しくなる位置で、同時にフィルム2を解放するようになる。これにより、テンタチェイン6a,6bが解放したフィルム2の配向軸は、約45°傾斜することになる。
【0017】
しかしながら、テンタチェイン6a,6bに解放された瞬間のフィルム2は、テンタチェイン6a側の長さがテンタチェイン6b側の長さより10%長い。フィルム2は、アニール装置7にテンタチェイン6aと同じ速度で引き込まれるので、フィルム2のテンタチェイン6b側はアニール装置7に到達するまでの間に、テンタチェイン6a側と同じ長さになるように、10%引き延ばされる。これにより、フィルム2の配向軸の傾斜は約3°減少する。このことを考慮すると、最終的にフィルム2の配向軸を45°にするには、クリッピングガイド6bの長さをフィルム2の幅Wの11.1倍にすればよい。
【0018】
速い方のテンタチェイン6aは、アニール装置7の直前までフィルム2を把持してもよいが、遅い方のテンタチェイン6bは、アニール装置7の張力によってフィルム2を延伸する余裕を与えるために、速い方のテンタチェイン6aより上流側でフィルム2を解放すべきである。さらに、テンタチェイン6a,6bの配向軸の方向を正確に定めるには、本実施形態のように、テンタチェイン6aのクリップ5とテンタチェイン6bのクリップ5とが同じ時間だけフィルム2を把持するように、クリッピングガイド6a,6bの長さを調節するとよい。
【0019】
また、フィルム延伸機1は、上述した条件に限られず、所望の配向角度や、フィルム2の材料特性に応じて、テンタチェイン6a,6bの速度や、クリッピングガイド6a,6bの長さを変更することができる。
【0020】
また、予め縦(長さ方向)に延伸したフィルム2を使用することで、テンタチェイン6a,6bの速度差や搬送距離を小さくすることができる。例えば、予め縦に10%延伸したフィルム2を用いると、フィルム延伸機1において、テンタチェイン6a,6bでフィルム2を搬送する距離を10%(上述の例では、幅Wの11.1倍から10倍に)短く、或いは、テンタチェイン6a,6bの速度差を10%小さく(上述の例では、10%から9%に)することができる。
【0021】
さらに、図3に、本発明の第2実施形態のフィルム延伸機1aを示す。本実施形態の説明では、第1実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付して、重複する説明を省略する。本実施形態では、テンタチェイン6a,6bは、フィルム2の両側を把持している間に、互いの間隔を拡げるように蛇行している。このため、クリッピングガイド6a,6bも、テンタチェイン6a,6bに沿って蛇行している。
【0022】
本実施形態では、フィルム2の配向軸を所望の角度に調整するだけでなく、同時に、フィルム2の幅を拡幅するように延伸することが可能である。このように、フィルム2を横(幅方向)にも延伸することで、配向軸を傾斜させる際にフィルム2に皺が発生し難くなる。
【0023】
また、以上の実施形態では、加熱装置3およびアニール装置7を温度調節可能なロールによって構成しているが、熱風または温風によってフィルム2を加熱または冷却するように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態のフィルム延伸機の平面図。
【図2】図1のフィルム延伸機の部分側面図。
【図3】本発明の第2実施形態のフィルム延伸機の平面図。
【符号の説明】
【0025】
1,1a…フィルム延伸機
2…フィルム
3…供給装置
4…予熱装置
5…クリップ
6a,6b…テンタチェイン
7…アニール装置
8…巻き取り装置
9a,9b…クリッピングガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムを送出する供給装置と、
前記供給装置から送出された前記フィルムをガラス転移温度以上に加熱する予熱装置と、
前記予熱装置が加熱した前記フィルムの両側をそれぞれ把持し、互いに異なる少なくとも前記予熱装置以上の速度で搬送する2つのテンタチェインと、
前記テンタチェインが搬送した前記フィルムを、高速側の前記テンタチェイン以上の速度で巻き取る巻き取り装置とを有することを特徴とするフィルム延伸機。
【請求項2】
低速側の前記のテンタチェインは、高速側の前記テンタチェインより上流で前記フィルムを解放することを特徴とする請求項1に記載のフィルム延伸機。
【請求項3】
前記テンタチェインが解放した前記フィルムを、前記巻き取り装置と同じ速度で搬送しながら加熱および冷却するアニール装置を有することを特徴とする請求項1または2に記載のフィルム延伸機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−143208(P2009−143208A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325917(P2007−325917)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(390002015)ヒラノ技研工業株式会社 (18)
【Fターム(参考)】