説明

フィルム裁断方法及びフィルム裁断装置

【課題】樹脂フィルムを搬送方向に裁断する際に生じるスリットカット不良を防止する。
【解決手段】回転体2は、溝部22を備え、その側壁が下刃221とされている。上刃31は、回転体2がフィルムFを搬送する方向に回転した状態で溝部22に侵入している。そのため、フィルムFは上刃31と下刃221とにより挟持されて裁断される。回転体2は表面に複数のサクション孔Hが形成されたサクションローラにより構成されている。そのため、フィルムFはシワSWが除去されて裁断される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムを裁断する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置の画像表示領域には、例えば、偏光板の基材フィルム、偏光素子フィルム、その偏光素子フィルムを保護するための透明保護フィルム等、種々のフィルムが配置されている。このようなフィルムとしては、例えば、セルロースエステル系樹脂フィルム等の透光性に優れた樹脂フィルムが用いられている。
【0003】
このような樹脂フィルムは、樹脂溶液(ドープ)を無端ベルトの表面上に流延し、搬送させながら乾燥されて流延膜とされた後、無端ベルトから剥離されて延伸乾燥され、端部が裁断されて最終的に巻き取りローラにて巻き取られて製造される。
【0004】
樹脂フィルムの幅手方向における残留溶媒量や膜厚の偏差が大きいと、樹脂フィルムの張力が幅手方向でばらついてしまい、樹脂フィルムに断続的なシワや蛇行が生じてしまう。これにより、樹脂フィルムの端部を搬送方向に連続して裁断する裁断工程において、樹脂フィルムが破断されるというようなスリットカット不良が発生するという問題がある。
【0005】
特許文献1には、テンタークリップを用いてフィルムを延伸しながら乾燥するテンター乾燥工程を実行した後にフィルムの端部側に生じるツレシワによって、フィルム端部を裁断した際に生じるフィルムの破断を防止することを目的として下記の技術が開示されている。すなわち、テンター乾燥工程において、テンタークリップによるフィルムの噛み込み部よりも外側のフィルム耳部の溶媒含有率を17重量%以下にすることが開示されている。
【0006】
特許文献2には、シワを発生させることなく薄いウェブを裁断する技術であって、上丸刃20と下丸刃21とを用いてウェブ12を搬送しながら裁断する際に、下丸刃21に設けられたガイド面42にウェブ12を押さえ付けるガイド本体50を設けたものが開示されている。
【0007】
特許文献3には、サクションロール外筒11内部の密閉空間12に負圧を供給し、サクションロール外筒11の外周に設けられた複数の装着口14に樹脂フィルムを吸引させて搬送するサクションローラが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−266457号公報
【特許文献2】特開2003−291090号公報
【特許文献3】特開2004−99190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1では、テンター乾燥工程において、フィルム耳部の溶媒含有率を調節することでフィルムのシワの防止が図られているが、高速延伸や大延伸率ではクリップ把持部周辺で変形、シワが発生し、裁断時にスリットカット不良が発生してしまう。
【0010】
また、特許文献2では、フィルムを押さえるためのガイド本体50が別途設けられているため、フィルム押さえガイドがフィルムに接触しているため、擦り傷の発生やそれに伴いガイド又はフィルムの粉が発生し、この粉がフィルムに付着して異物の原因となる。また、傷がひどい場合、フィルムの抵抗が発生し切断に至るなどの問題がある。
【0011】
また、特許文献3では、両側端部小径化ロールにより端部のカールに接触できず、テンタークリップ把持部に発生する変形が吸収できず、切断部でのフィルム搬送状態が安定せずカット不良が生じてしまう。
【0012】
本発明の目的は、樹脂フィルムの端部を搬送方向に連続して裁断する際に生じるスリットカット不良を防止することができるフィルム裁断装置及びフィルム裁断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明の一局面によるフィルム裁断方法は、フィルム裁断装置を用いて樹脂フィルムを裁断するフィルム裁断方法であって、前記フィルム裁断装置は、表面に溝部を形成することで構成された第1刃を備え、樹脂フィルムを搬送する円筒状の回転体と、回転可能に配設され、前記ローラにより搬送される樹脂フィルムを前記第1刃と挟持することで搬送方向に裁断する円盤状の第2刃とを備え、前記回転体は、サクションローラとしたものである。
【0014】
また、本発明の別の一局面によるフィルム裁断装置は、樹脂フィルムを裁断するフィルム裁断装置であって、表面に溝部を形成することで構成された第1刃を備え、樹脂フィルムを搬送する円筒状の回転体と、回転可能に配設され、前記ローラにより搬送される樹脂フィルムを前記第1刃と挟持することで搬送方向に裁断する円盤状の第2刃とを備える。
【0015】
この構成によれば、第2刃と第1刃とが樹脂フィルムを回転しながら挟持することで、回転体により搬送されるフィルムの端部が搬送方向に連続して裁断される。ここで、回転体はサクションローラにより構成されている。そのため、回転体により搬送される樹脂フィルムは、回転体から発生する負圧によって吸引・密着されて延伸され、シワ等が除去される。その結果、残留溶媒量や膜厚偏差の大きい樹脂フィルムであっても、樹脂フィルムを破断するというようなスリットカット不良を発生させることなく、裁断することができる。
【0016】
(2)上記フィルム裁断方法において、膜厚偏差が3以上、又は残留溶媒量が30%以下の樹脂フィルムを裁断することが好ましい。
【0017】
樹脂フィルムは、膜厚偏差が3以上の場合、幅手方向での張力が大きくばらつくため、断続的なシワや蛇行が生じ、スリットカット不良が生じやすい。しかしながら、この構成によれば、回転体からの負圧によって樹脂フィルムは吸引・密着され、シワ等が除去される。そのため、スリットカット不良を防止して樹脂フィルムを裁断することができる。
【0018】
なお、膜厚偏差は小さいほど、樹脂フィルムのシワ等が少なくなるため、スリットカット不良を防止するという観点からは、膜厚偏差は小さい方が好ましい。一方、樹脂フィルムの製造工程において、膜厚偏差を小さくするにも一定の限界がある。これらの観点から膜厚偏差としては、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下である。
【0019】
また、残留溶媒量は、樹脂フィルムのある時点での質量をM、乾燥した樹脂フィルムの質量をNとすると、残留溶媒量(%)=((M−N)/N)×100により表される。つまり、残留溶媒量が大きいほど、樹脂フィルムは粘性が高くなりシワが発生しやすくなる。なお、乾燥した樹脂フィルムとしては、例えば、110度で3時間乾燥させたときの樹脂フィルムを採用することができる。
【0020】
したがって、回転体から生じる負圧によって樹脂フィルムを延伸させてシワを除去するにも一定の限界がある。この限界を規定したのが、残留溶媒量の数値範囲の上限値である30%である。(2)の構成では、残留溶媒量が30%以下の樹脂フィルムに対して、裁断工程を適用している。そのため、スリットカット不良をより確実に防止することができる。
【0021】
このように、残留溶媒量が小さいほど、シワ等が発生しにくくなるため、スリットカット不良を防止するという観点からすると、残留溶媒量を小さい樹脂フィルムを裁断することが好ましい。しかしながら、そうすると、樹脂フィルムの乾燥時間が長期化し、樹脂フィルムの製造のスループットが低下してしまう。そのため、残留溶媒量を小さくするにも一定の限界がある。これらの観点から、残留溶媒量としては、好ましくは20%以下、より好ましくは10以下である。
【0022】
(3)上記フィルム裁断方法において、前記第1刃は、下刃を構成し、前記第2刃は、上刃を構成し、前記回転体は、少なくとも一方の端部に近づくにつれて、サクション孔が形成されていない領域に対する前記サクション孔が形成された領域の占める割合が増大するようにサクション孔が配列されていることが好ましい。
【0023】
この構成によれば、回転体により搬送される樹脂フィルムは、第1刃が下刃を構成しているため、回転体は第2刃に対して下側に位置する。そのため、樹脂フィルムは、重力と同方向に負圧が付与され、回転体からの負圧が損失なく付与される。そのため、樹脂フィルムに発生するシワ等をより確実に除去することができる。
【0024】
サクション孔の個数や面積を大きくすると、樹脂フィルムに付与する負圧が大きくなるため、シワ等の抑制を図るという観点からは、サクション孔の個数や面積を大きくする方が好ましい。しかしながら、サクション孔は樹脂フィルムに対して孔跡を残す虞があるため、過度に設けることは好ましくない。一方、スリットカット不良を防止するという観点からすると、裁断位置の近傍のみ、サクション孔が設けられていれば十分である。
【0025】
そこで、回転体の少なくともいずれか一方の端部に近づくにつれて、サクション孔が形成されていない領域に対するサクション孔が形成された領域の占める割合が増大するようにサクション孔を配列する構成を採用する。これにより、孔跡を抑制すると同時に、スリットカット不良を防止することができる。
【0026】
(4)上記フィルム裁断方法において、前記溝部は、前記回転体の少なくとも一方の端部側に設けられ、前記回転体は、前記溝部に向かうにつれて、前記割合が増大することが好ましい。
【0027】
この構成によれば、溝部は回転体の端部側に設けられ、回転体は溝部に近づくにつれて、サクション孔が形成されていない領域に対するサクション孔が形成された領域の占める割合が増大するようにサクション孔が配列されている。そのため、樹脂フィルムに対して、シワ等が発生すると好ましくない領域に対して重点的に負圧を付与することができ、樹脂フィルムに効率良く負圧を付与することができる。
【0028】
(5)上記フィルム裁断方法において、前記回転体は、少なくとも一方の端部から全幅の30%の幅の範囲内に前記サクション孔が形成されていることが好ましい。
【0029】
この構成によれば、回転体の全幅において端から30%の領域にサクション孔が形成されるため、シワ等が発生すると好ましくない領域に対して重点的に負圧を付与することができ、樹脂フィルムに効率良く負圧を付与することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、樹脂フィルムの端部を搬送方向に連続して裁断する際に生じるスリットカット不良を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態によるフィルムの製造装置の基本的な構成を示す概略図である。
【図2】図1に示すフィルム裁断装置の詳細を説明するための一部拡大図である。
【図3】図2に示す回転体に設けられたサクション孔を具体的に示した図である。
【図4】本体部にサクション孔が形成されていない回転体を用いてフィルムを裁断した場合の不具合を説明するための図である。
【図5】サクション孔の配列パターンの他の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1は、本発明の実施の形態によるフィルムの製造装置Sの基本的な構成を示す概略図である。製造装置Sは、無端ベルト部11、流延ダイ12、剥離ローラ13、延伸装置14、フィルム裁断装置15、乾燥装置16、エンボス形成装置17、及び巻取装置18を備える。
【0033】
流延ダイ12は、透明性樹脂を溶解した樹脂溶液(ドープ)DPを無端ベルト部11の表面上に流延する。無端ベルト部11は、流延ダイ12から流延されたドープDPからなるウェブを形成し、搬送させながら乾燥させることによってフィルムとする。
【0034】
剥離ローラ13は、フィルムを無端ベルト部11から剥離する。延伸装置14は、クリップによりフィルムの幅手方向の両端を外側に向けて引っ張り、フィルムを幅手方向に延伸する。
【0035】
フィルム裁断装置15は、フィルムの端部を搬送方向に連続して裁断する装置であり、詳しくは後述する。スリットローラ191は、フィルム裁断装置15によって裁断されたフィルムの端部(以下、スリットと記述する)を図略のスリット回収部に向けて搬送する。なお、スリット回収部に収納されたスリットは、原料として再利用される。
【0036】
搬送ローラ192は、スリットが裁断されたフィルムを乾燥装置16に向けて搬送する。乾燥装置16は、端部が裁断されたフィルムを乾燥する。エンボス形成装置17は、乾燥装置16によって乾燥されたフィルムの端部にエンボス部を形成する。巻取装置18は、エンボスが形成されたフィルムを巻き取って、フィルムローラとする。
【0037】
流延ダイ12は、図1に示すように、流延ダイ12の上端部に接続されたドープ供給管からドープDPが供給される。そして、その供給されたドープDPが流延ダイ12から無端ベルト部11に吐出され、無端ベルト部11上にウェブが形成される。
【0038】
無端ベルト部11は、表面が鏡面の無限に走行する金属製の無端ベルトを含む。無端ベルトとしては、フィルムの剥離性の点から、例えば、ステンレス鋼等からなるベルトが好ましい。流延ダイ12によって流延する流延膜の幅は、無端ベルト部11の幅を有効活用する観点から、無端ベルト部11の幅に対して、80〜99%とすることが好ましい。
【0039】
そして、最終的に1000〜4000mmの幅のフィルムを得るためには、無端ベルト部11の幅は、1800〜5000mmであることが好ましい。また、無端ベルト部11の代わりに、表面が鏡面の、回転する金属製のドラムを用いてもよい。
【0040】
そして、無端ベルト部11は、その表面上に形成された流延膜(ウェブ)を搬送しながら、ドープDP中の溶媒を乾燥させる。この乾燥は、例えば、無端ベルト部11を加熱したり、加熱風をウェブに吹き付けたりすることによって行われる。その際、ウェブの温度が、ドープDPの溶液によっても異なるが、溶媒の蒸発時間に伴う搬送速度や生産性等を考慮して、−5〜70℃の範囲が好ましく、0〜60℃の範囲がより好ましい。
【0041】
ウェブの温度は、高いほど溶媒の乾燥速度を早くできるので好ましいが、高すぎると、発泡したり、平面性が劣化する傾向がある。
【0042】
無端ベルト部11を加熱する場合、例えば、無端ベルト部11上のウェブを赤外線ヒータで加熱する方法、無端ベルト部11の裏面を赤外線ヒータで加熱する方法、無端ベルト部11の裏面に加熱風を吹き付けて加熱する方法等が挙げられ、必要に応じて適宜選択すればよい。
【0043】
また、加熱風を吹き付ける場合、その加熱風の風圧は、溶媒蒸発の均一性等を考慮し、50〜5000Paであることが好ましい。加熱風の温度は、一定の温度で乾燥してもよいし、無端ベルト部11の走行方向で数段階の温度に分けて供給してもよい。
【0044】
無端ベルト部11の上にドープDPを流延した後、無端ベルト部11からウェブを剥離するまでの間での時間は、作製するフィルムの膜厚、使用する溶媒によっても異なるが、無端ベルト部11からの剥離性を考慮し、0.5〜5分間の範囲であることが好ましい。
【0045】
無端ベルト部11の走行速度に対する、流延膜の搬送速度の比(ドラフト比)は、0.8〜1.2程度であることが好ましい。ドラフト比がこの範囲内であると、安定して流延膜を形成させることができる。例えば、ドラフト比が大きすぎると、流延膜が幅方向に縮小されるネックインという現象を発生させる傾向があり、そうなると、広幅のフィルムを形成できなくなる。
【0046】
剥離ローラ13は、無端ベルト部11のドープDPが流延される側の表面に接しており、無端ベルト部11側に加圧することによって、乾燥されたウェブ(フィルム)を剥離する。無端ベルト部11からフィルムを剥離する際に、剥離張力及びその後の搬送張力によってフィルムは、フィルムの搬送方向(Machine Direction:MD方向)に延伸される。このため、無端ベルト部11からフィルムを剥離する際の剥離張力及び搬送張力は、50〜400N/mにすることが好ましい。
【0047】
また、フィルムを無端ベルト部11から剥離する時のフィルムの全残留溶媒量は、無端ベルト部11からの剥離性、剥離時の残留溶媒量、剥離後の搬送性、搬送・乾燥後にできあがるフィルムの物理特性等を考慮し、30〜200質量%であることが好ましい。
【0048】
延伸装置14は、フィルムの搬送方向に垂直な方向(幅手方向)の両端部をクリップ等で把持して、対向するクリップ間の距離を大きくすることによって、幅手方向に延伸する。ここで、延伸装置14は、クリップを把持していた領域を切断する装置を備えていてもよい。
【0049】
エンボス形成装置17は、フィルムの幅手方向の少なくとも一方の端部に、フィルムの搬送中にフィルムにエンボス部を形成する。エンボス部とは、複数の凸部及び凹部を有する帯状のものである。
【0050】
巻取装置18は、エンボス形成装置17から搬送されたフィルムを必要量の長さに巻き芯に巻き取る。なお、巻き取る際の温度は、巻き取り後の収縮によるスリキズ、巻き緩み等を防止するために室温程度の温度を採用することが好ましい。使用する巻き取り機としては、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、又は内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の巻き取り方法でフィルムを巻き取る装置を採用すればよい。
【0051】
また、フィルムの幅は、大型の液晶表示装置への使用、偏光板加工時のフィルムの使用効率、生産効率の点から、1000〜4000mmであることが好ましい。また、フィルムの膜厚は、液晶表示装置の薄型化、フィルムの生産安定化の観点等の点から、30〜90μmであることが好ましい。ここで膜厚とは、平均膜厚のことであり、例えば株式会社ミツトヨ製の接触式膜厚計により、フィルムの幅方向に20〜200箇所、膜厚を測定し、その測定値の平均値を採用すればよい。
【0052】
本実施の形態においてフィルムは樹脂フィルムであり、例えば液晶表示パネルに貼り付けられる光学フィルムである。以下、本実施の形態で使用する樹脂溶液の組成について説明する。
【0053】
本実施の形態で使用される透明性樹脂は、溶液流延製膜法等によって基板状に成形したときに透明性を有する樹脂であればよく、特に制限されないが、溶液流延製膜法等による製造が容易であること、ハードコート層等との接着性に優れていること、光学的に等方性であること等が好ましい。なお、ここで透明性とは、可視光の透過率が60%以上であることであり、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。
【0054】
透明性樹脂としては、具体的には、セルローストリアセテート樹脂等のセルロースエステル系樹脂等を挙げることができる。また、本実施の形態で使用されるドープDPには、微粒子を含有させてもよい。その際、使用される微粒子は、使用目的に応じて適宜選択されるが、透明性樹脂中に含有することによって、可視光を散乱させることができる微粒子であることが好ましい。
【0055】
微粒子としては、酸化珪素等の無機微粒子であってもよいし、アクリル系樹脂等の有機微粒子であってもよい。本実施の形態で使用される溶媒は、透明性樹脂に対する良溶媒を含有する溶媒を用いることができ、透明性樹脂が析出してこない範囲で、貧溶媒を含有させてもよい。
【0056】
セルロースエステル系樹脂に対する良溶媒としては、例えば、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物等が挙げられる。また、セルロースエステル系樹脂に対する貧溶媒としては、例えば、メタノール等の炭素原子数1〜8のアルコール等が挙げられる。本実施の形態で使用される樹脂溶液は、本発明の効果を阻害しない範囲で、透明性樹脂、微粒子及び溶媒以外の他の成分(添加剤)を含有してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定化剤、導電性物質、難燃剤、滑剤、及びマット剤等が挙げられる。
【0057】
また、上記各組成を混合させることによってセルロースエステル系樹脂の溶液が得られる。また、得られたセルロースエステル系樹脂の溶液は、濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過することが好ましい。
【0058】
図2は、図1に示すフィルム裁断装置15の詳細を説明するための正面図である。図2に示すようにフィルム裁断装置15は、円筒状の回転体2と、上刃部3とを備えている。
【0059】
回転体2は、一方の端面23a側に溝部22が形成されている。回転体2おいて、溝部22より他方の端面23b側を本体部21と記述し、溝部22より端面23a側を端部23と記述する。
【0060】
溝部22の端面23b側の側壁は下刃221を構成している。端部23の幅手方向の長さY2は、本体部21の幅手方向の長さY1よりも大幅に小さく、例えば、フィルムを裁断することで得られるスリットの幅手方向の長さより多少小さなサイズに設定されている。長さY1は、少なくとも完成品となるフィルムの幅手方向の長さを有していればよい。溝部22の幅手方向の長さY3は、少なくとも上刃部3を構成する上刃31が十分に侵入することができる長さを有していればよく、例えば上刃31の幅手方向の長さY4の3〜10倍程度の長さを採用することができる。
【0061】
端部23の幅手方向の外側には、回転軸24が取り付けられている。回転軸24は、回転体2の幅手方向に長尺な円柱形状を有しており、回転体2と一体的に回転する。モータ25は、回転体2を回転させるための駆動力を回転軸24に付与する。なお、モータ25は、図略の制御部に接続され、制御部から出力される制御信号にしたがって、駆動される。モータ25としては、直流モータ、交流モータ、ステッピングモータ等の種々のモータを採用することができる。
【0062】
上刃部3は、上刃31、ホルダ32、回転軸33、及びモータ34を備えている。上刃31は、例えば、セラミックや金属からなる円盤状の部材により構成されている。上刃31は、外周部分が径方向に向けて肉厚が薄くなるようにテーパー311が形成され、外周全域が鋭利にされている。なお、テーパー311は、下刃221の反対側に設けられている。
【0063】
上刃31の両面には上刃31を保持するためのホルダ32が取り付けられている。このホルダ32は、半径が上刃31の半径より小さく例えば円盤状である。ホルダ32には回転軸33が取り付けられている。回転軸33は、幅手方向に長尺な円柱形状を有しており、上刃31及びホルダ32と一体的に回転する。回転軸33には、モータ34が取り付けられている。モータ34は、上刃31を回転させるための駆動力を回転軸33に付与する。なお、モータ34は、図略の制御部に接続され、制御部から出力される制御信号にしたがって、駆動される。モータ34としては、直流モータ、交流モータ、ステッピングモータ等の種々のモータを採用することができる。
【0064】
フィルムは、回転体2が回転することにより搬送方向に搬送されるが、上刃31は、フィルムを搬送する方向に回転し、溝部22内に侵入している。そのため、上刃31と下刃221とはハサミのように作用してフィルムを裁断することになる。
【0065】
なお、図2では、溝部22は端面23a側にのみ形成されているが、端面23b側にも設けてもよい。この場合、端面23b側の溝部にも上刃部3を設けて一対の上刃部3としてもよい。こうすることで、フィルムは、幅手方向の両端部が搬送方向に連続して裁断される。
【0066】
本実施の形態では、回転体2は、本体部21の表面に複数のサクション孔が形成されたサクションローラにより構成されている。具体的には、本体部21の内部はサクション孔と連通する空洞が形成されている。そして、この空洞内には、図略の吸引装置により発生された負圧が供給されている。そのため、フィルムは回転体2により搬送される際、サクション孔からの負圧が付与されることになる。
【0067】
図3は、図2に示す回転体2に設けられたサクション孔を具体的に示した図であり、(A)はフィルムFを搬送中の回転体2の斜視図を示し、(B)は回転体2の正面図を示し、(C)はフィルムFを搬送中の回転体2の正面図を示し、(D)は裁断中のフィルムFを上側から見た図である。
【0068】
なお、図3(A)において、フィルムFはKで示す方向に搬送されているものとする。図3(A)に示すように、フィルムFは、上刃31よりも搬送方向Kの上流側においてシワSWが発生していることが分かる。シワSWは、フィルムFの膜厚偏差や残留溶媒量が大きい場合に、フィルムFの幅手方向の張力が不均一になることで発生する。
【0069】
図3(B)に示すように本体部21の表面には複数のサクション孔Hが形成されている。そのため、図3(C)に示すように本体部21に当接する領域のフィルムFはサクション孔Hから負圧が付与されて吸引・密着され、シワSWが除去されていることが分かる。
【0070】
そのため、上刃31と下刃221とでフィルムFからスリットSLを裁断しても、シワSWに起因してフィルムFが破断されるというスリットカット不良を防止することができる。
【0071】
なお、サクション孔Hが形成されていない端部23においては、図3(C)に示すように、フィルムFは負圧が付与されず、シワSWが残存していることが分かる。そのため、スリットSLにはスリットカット不良が発生する虞があるが、スリットSLは、不要部分であるため、スリットカット不良が生じても問題はない。スリットSLにおけるスリットカット不良を防止するためには、端部23にも本体部と同様、多数のサクション孔Hを設ければよい。
【0072】
図4は、本体部21にサクション孔Hが形成されていない回転体2を用いてフィルムFを裁断した場合の不具合を説明するための図である。図4(A)はフィルムFを搬送中の回転体2の斜視図を示し、(B)は回転体2の正面図を示し、(C)はフィルムFを搬送中の回転体2の正面図を示し、(D)〜(F)は裁断中のフィルムFを上側から見た図である。
【0073】
図4では、回転体2にはサクション孔Hが形成されていないため、フィルムFは負圧が付与されない。そのため、図4(C)、(F)に示すように、裁断時においてフィルムFからシワSWが除去されていないことが分かる。
【0074】
図4(D)では、上刃31と下刃221とは、たまたま膜厚偏差が小さくシワSWが発生していない箇所を裁断しているため、スリット不良は発生していない。しかしながら、図4(E)に示すシワSWが上刃31に到達し、上刃31と下刃221とはやがてシワSWが発生した箇所を裁断する。このとき、図4(F)に示すように、本来搬送方向Kと平行であるべきフィルムFの切断線CLが幅手方向の中央側にめり込み、フィルムFが破断されており、スリットカット不良が発生していることが分かる。
【0075】
本実施の形態では、図3(B)に示すように、サクション孔H、溝部22(裁断位置)に近づくにつれて、サクション孔Hが形成されていない領域に対するサクション孔Hが形成された領域の割合が増大するように配列されている。
【0076】
図3(B)の例では、各サクション孔Hの面積は同一であるが、サクション孔Hの孔数が溝部22に近づくにつれて増大していることが分かる。そのため、フィルムFは、溝部22に近づくにつれてより大きな負圧が付与されることになる。そのため、上刃31により裁断される箇所において、フィルムFにシワSWを除去することができる。これにより、フィルムFに対してシワSWを除去すべき箇所のみ強い負圧を付与することが可能となる。その結果、サクション孔Hが過度に設けられず、フィルムFにサクション孔Hによる孔跡が形成されることを防止すると同時に、スリットカット不良を防止することができる。
【0077】
なお、サクション孔Hの配列パターンとしては、図3(B)、(C)に示すものに限定されない。図5は、サクション孔Hの配列パターンの他の一例を示した図である。図5(A)では、本体部21は、下刃221から幅手方向の中央に向けて等間隔に5つの円筒状の領域D1〜D5に区画されている。
【0078】
領域D5〜D3では小サイズの円形のサクション孔H1が形成されている。領域D2〜D1ではサクション孔H1に比べて面積が大きな大サイズの円形のサクション孔H2が形成されている。また、領域D5〜D3に向かうにつれてサクション孔H1の孔数が増大しており、領域D2〜D1に向かうにつれてサクション孔H2の孔数が増大している。また、領域D2のサクション孔H2の孔数と領域D3のサクション孔H1の孔数とは等しい。
【0079】
したがって、領域D1〜D5のそれぞれにおいて、サクション孔Hが形成されていない領域に対するサクション孔Hが形成されている領域の割合R1〜R5は、割合R5から割合R1に向けて増大している。そのため、サクション孔Hが形成されていない領域に対してサクション孔Hが形成されている領域の占める割合Rは、下刃221に向かうにつれて増大している。
【0080】
図5(B)では、領域D1〜D5にはサクション孔H1のみが配列され、領域D5から領域D1に向かうにつれて、サクション孔H1の孔数が増大している。そのため、サクション孔Hが形成されていない領域に対するサクション孔Hが形成されている領域の占める割合Rは、下刃221に向かうにつれて増大している。
【0081】
図5(C)では、領域D3〜D5にはサクション孔H1が配列され、領域D2には、サクション孔H2とサクション孔H2に外接するサイズの正方形状のサクション孔H3が配列され、領域D1には、サクション孔H3よりも面積が大きなひし形のサクション孔H4が配列されている。また、サクション孔H1の孔数は領域D5から領域D3に向かうにつれて増大されている。また、領域D3と領域D2とのサクション孔Hの孔数は等しい。そのため、サクション孔Hが形成されていない領域に対するサクション孔Hが形成されている領域の占める割合Rは、下刃221に向かうにつれて増大している。
【0082】
いずれにせよ、図5(A)〜(C)においては、下刃221に向かうにつれて、サクション孔が形成されていない領域に対するサクション孔Hが形成されている領域の占める割合Rが増大していることが分かる。
【0083】
なお、図5(A)〜(C)においては、本体部21は、領域D1〜D5の5つの領域に区切られているが、これは一例にすぎず、6個、7個若しくは8個以上の所定個数、又は2個以上4個以下の所定個数の領域に区切ってもよい。
【0084】
また、図5(A)の例では、円形のサクション孔Hとして2種類のサクション孔H1,H2を用いたが、これは一例にすぎず、それぞれ面積が異なる3種類以上の円形のサクション孔Hを採用してもよい。具体的には、各領域Rにおいて、サクション孔Hの孔数は同一であるが、下刃221に向かうにつれて、各サクション孔Hの面積を漸次に増大させてもよい。
【0085】
また、図5(C)の例では、円形以外に、正方形及びひし形のサクション孔Hを示したが、これは一例にすぎず、楕円、五角形以上の多角形、長方形等の種々の形状のサクション孔Hを採用してもよい。
【0086】
また、サクション孔Hを形成する領域としては、本体部21の全幅に対して、下刃221から30%の幅の範囲内の領域を採用することが好ましい。また、サクション孔Hを形成する領域としては、回転体2の全幅に対して、端面23aから30%の幅の範囲内の領域を採用してもよい。これにより、シワSW等が発生すると好ましくない領域に対して重点的に負圧を付与することができ、フィルムFに効率良く負圧を付与することができる。なお、本実施の形態では30%に限定されず、シワSW等が発生すると好ましくない領域に対して重点的に負圧を付与するという観点からは、本体部21の全幅に対して、下刃221から50%、45%、15%、10%、5%等の領域をサクション孔Hを設ける領域として採用してもよい。また、回転体2の全幅に対して、端面23aから50%、45%、15%、10%、5%等の領域をサクション孔Hを設ける領域として採用してもよい。
【0087】
なお、回転体2は、図2に示すように、上刃部3の下側に位置している。そのため、フィルムFは、重力と同方向に負圧が付与され、回転体2からの負圧が損失なく付与される。そのため、フィルムFに発生するシワ等をより確実に抑制することができる。
【0088】
このように、本実施の形態においてフィルム裁断装置15は、回転体2としてサクションローラを採用したため、膜厚偏差が3以上であり、幅手方向での張力のばらつきが大きく、シワSWの発生しやすいフィルムFを裁断しても、スリットカット不良を防止することができる。
【0089】
なお、膜厚偏差は小さいほど、フィルムFのシワ等が抑制されるため、スリットカット不良を防止するという観点からは、膜厚偏差は小さい方が好ましい。一方、フィルムFの製造工程において、膜厚偏差を小さくするにも一定の限界がある。これらの観点から膜厚偏差としては、好ましくは2以上、より好ましくは1以上である。
【0090】
また、本実施の形態では、裁断時におけるフィルムFの残留溶媒量が30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下である。これを実現するためには、無端ベルト部11でのウェブの乾燥時間や延伸装置14でのフィルムFの延伸量及び延伸時間を適宜調節すればよい。
【0091】
なお、上記実施の形態において、溝部22を回転体2の両端部に一対設け、フィルムFの幅手方向の両端を搬送方向に連続して裁断する構成を採用した場合、本体部21の中心部を中心しとして、溝部22に向かうにつれて、サクション孔Hが形成されていない領域に対してサクション孔Hが形成された領域の占める割合が増大するように左右対称にサクション孔Hを配列すればよい。
【符号の説明】
【0092】
2 回転体
3 上刃部
15 フィルム裁断装置
21 本体部
22 溝部
23 端部
31 上刃
221 下刃
311 テーパー
F フィルム
H H1〜H4 サクション孔
SL スリット
SW シワ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム裁断装置を用いて樹脂フィルムを裁断するフィルム裁断方法であって、
前記フィルム裁断装置は、
表面に溝部を形成することで構成された第1刃を備え、樹脂フィルムを搬送する円筒状の回転体と、
回転可能に配設され、前記ローラにより搬送される樹脂フィルムを前記第1刃と挟持することで搬送方向に裁断する円盤状の第2刃とを備え、
前記回転体は、サクションローラであるフィルム裁断方法。
【請求項2】
膜厚偏差が2以下、又は残留溶媒量が30%以下の樹脂フィルムを裁断する請求項1記載のフィルム裁断方法。
【請求項3】
前記第1刃は、下刃を構成し、
前記第2刃は、上刃を構成し、
前記回転体は、少なくとも一方の端部に近づくにつれて、サクション孔が形成されていない領域に対する前記サクション孔が形成された領域の占める割合が増大するようにサクション孔が配列されている請求項1又は2記載のフィルム裁断方法。
【請求項4】
前記溝部は、前記回転体の少なくとも一方の端部側に設けられ、
前記回転体は、前記溝部に向かうにつれて、前記割合が増大する請求項3記載のフィルム裁断方法。
【請求項5】
前記回転体は、少なくとも一方の端部から全幅の30%の幅の範囲内に前記サクション孔が形成されている請求項4記載のフィルム裁断方法。
【請求項6】
樹脂フィルムを裁断するフィルム裁断装置であって、
表面に溝部を形成することで構成された第1刃を備え、樹脂フィルムを搬送する円筒状の回転体と、
回転可能に配設され、前記ローラにより搬送される樹脂フィルムを前記第1刃と挟持することで搬送方向に裁断する円盤状の第2刃とを備えるフィルム裁断装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−30544(P2012−30544A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173562(P2010−173562)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】