説明

フェナントレン化合物、発光素子、発光装置、電子機器及び照明装置

【課題】三重項励起エネルギーの大きな新規の化合物を提供する。また、バイポーラ性を有する新規の化合物を提供する。
【解決手段】一般式(G1)で表されるフェナントレン化合物を提供する。但し、一般式(G1)中、R11〜R19及びR21〜R27はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数6〜13の置換若しくは無置換のアリール基のいずれか一を表す。また、Arは、炭素数6〜13の置換又は無置換のアリーレン基を表す。また、Zは硫黄原子または酸素原子を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェナントレン化合物及びそれを用いた発光素子に関する。また、当該発光素子を有する発光装置、電子機器及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロルミネッセンス(EL:Electroluminescence)を利用した発光素子の研究開発が盛んに行われている。これら発光素子の基本的な構成は、一対の電極間に発光性の物質を含む層を挟んだものである。この素子に電圧を印加することにより、発光性の物質からの発光を得ることができる。
【0003】
このような発光素子は自発光型であるため、液晶ディスプレイに比べ画素の視認性が高く、バックライトが不要である等の利点があり、フラットパネルディスプレイ素子として好適であると考えられている。また、このような発光素子は、薄型軽量に作製できることも大きな利点である。さらに非常に応答速度が速いことも特徴の一つである。
【0004】
そして、これらの発光素子は膜状に形成することが可能であるため、面状の発光を容易に得ることができる。よって、面状に発光する大面積の素子を形成することができる。このことは、白熱電球やLEDに代表される点光源、あるいは蛍光灯に代表される線光源では得難い特色であるため、照明等に応用できる面光源としての利用価値も高い。
【0005】
エレクトロルミネッセンスを利用した発光素子は、発光性の物質が有機化合物であるか、無機化合物であるかによって大別できるが、発光性の物質に有機化合物を用いる場合、発光素子に電圧を印加することにより、一対の電極から電子およびホール(正孔)がそれぞれ発光性の有機化合物を含む層に注入され、電流が流れる。そして、それらキャリア(電子およびホール(正孔))が再結合することにより、発光性の有機化合物が励起状態を形成し、その励起状態が基底状態に戻る際に発光する。なお、有機化合物が形成する励起状態の種類としては、一重項励起状態と三重項励起状態が可能であり、一重項励起状態(S)からの発光が蛍光、三重項励起状態(T)からの発光が燐光と呼ばれている。また、発光素子におけるその統計的な生成比率は、S:T=1:3であると考えられている。
【0006】
通常、一重項励起状態を発光に変換する化合物(以下、蛍光性化合物と称す)は室温において、三重項励起状態からの発光(燐光)は観測されず、一重項励起状態からの発光(蛍光)のみが観測される。したがって、蛍光性化合物を用いた発光素子における内部量子効率(注入したキャリアに対して発生するフォトンの割合)の理論的限界は、S:T=1:3であることを根拠に25%とされている。
【0007】
一方、三重項励起状態を発光に変換する化合物(以下、燐光性化合物と称す)を用いれば、内部量子効率は75〜100%まで理論上は可能となる。つまり、蛍光性化合物に比べて3〜4倍の発光効率が可能となる。このような理由から、高効率な発光素子を実現するために、燐光性化合物を用いた発光素子の開発が近年盛んに行われている(例えば、非特許文献1参照)。
【0008】
上述した燐光性化合物を用いて発光素子の発光層を形成する場合、燐光性化合物の濃度消光や三重項−三重項消滅による消光を抑制するために、他の物質からなるマトリクス中に該燐光性化合物が分散するようにして形成することが多い。この時、マトリクスとなる物質はホスト材料、マトリクス中に分散される物質はゲスト材料と呼ばれる。
【0009】
燐光性化合物をゲスト材料とする場合、ホスト材料に必要とされる性質は、該燐光性化合物よりも大きな三重項励起エネルギー(基底状態と三重項励起状態とのエネルギー差)を有することである。非特許文献1でホスト材料として用いられているCBPは、緑色〜赤色の発光を示す燐光性化合物よりも大きな三重項励起エネルギーを有していることが知られており、燐光性化合物に対するホスト材料として広く利用されている。
【0010】
しかしながら、CBPはその大きな三重項励起エネルギーと引き替えに、正孔や電子を受け取る能力に乏しいため、駆動電圧が高くなるという問題点がある。したがって、大きな三重項励起エネルギーを有すると共に、正孔と電子の両方を受け取りやすく、その両方を輸送できる物質(すなわちバイポーラ性を有する物質)が、燐光性化合物に対するホスト材料として求められている。
【0011】
また、一重項励起エネルギー(基底状態と一重項励起状態とのエネルギー差)は三重項励起エネルギーよりも大きいため、大きな三重項励起エネルギーを有する物質は大きな一重項励起エネルギーをも有する。したがって、上述したような大きな三重項励起エネルギーを有すると共に、バイポーラ性を有する物質は、蛍光性化合物を発光物質として用いた発光素子においてもホスト材料として有益である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】M.A.バルド、外4名、アプライド フィジクス レターズ、1999年7月5日発行、Vol.75、No.1、p.4−6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明の一態様では、励起エネルギーの大きな新規の化合物、特に、三重項励起エネルギーの大きな新規の化合物を提供することを目的の一とする。また、本発明の一態様では、バイポーラ性を有する新規の化合物を提供することを目的の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様は、電子輸送性を有するフェナントリル基と、正孔輸送性を有するジベンゾチオフェニル基またはジベンゾフラニル基と、をアリーレン基を介して結合させたバイポーラ性を有するフェナントレン化合物である。より具体的には、以下の一般式で示されるフェナントレン化合物である。
【0015】
本発明の一態様は、下記一般式(G1)で表されるフェナントレン化合物である。
【0016】
【化1】

【0017】
但し、一般式(G1)中、R11〜R19及びR21〜R27はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数6〜13の置換若しくは無置換のアリール基のいずれか一を表す。また、Arは、炭素数6〜13の置換又は無置換のアリーレン基を表す。また、Zは硫黄原子または酸素原子を表す。
【0018】
また、一般式(G1)において、Arは置換又は無置換のビフェニルジイル基であるのが好ましく、置換又は無置換のフェニレン基であるのがより好ましい。
【0019】
また、本発明の一態様は、下記一般式(G2)で表されるフェナントレン化合物である。
【0020】
【化2】

【0021】
但し、一般式(G2)中、R11〜R19及びR21〜R27はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数6〜13の置換又は無置換のアリール基のいずれか一を表す。また、Zは硫黄原子または酸素原子を表す。
【0022】
また、本発明の別の一態様は、上記のフェナントレン化合物を含む発光素子である。その発光素子において、上記のフェナントレン化合物を発光層に含むのが好ましく、上記のフェナントレン化合物と、燐光性発光物質と、を発光層に含むのがより好ましい。
【0023】
また、本発明の別の一態様は、上記の発光素子を有する発光装置である。
【0024】
また、本発明の別の一態様は、上記の発光装置を搭載した電子機器または照明装置である。
【0025】
なお、本明細書中における発光装置とは、画像表示デバイス、発光デバイス、光源を含む。また、パネルにコネクター、例えばFPC(Flexible Printed Circuit)もしくはTAB(Tape Automated Bonding)テープもしくはTCP(Tape Carrier Package)が取り付けられたモジュール、TABテープやTCPの先にプリント配線板が設けられたモジュール、又は発光素子にCOG(Chip On Glass)方式によりIC(集積回路)が直接実装されたモジュールも全て発光装置に含むものとする。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一態様によって、新規フェナントレン化合物を提供することができる。該フェナントレン化合物は、バイポーラ性を有し、発光素子の材料として有用である。また、該フェナントレン化合物は、大きな三重項励起エネルギーを有するため、燐光性化合物に対するホスト材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一態様の発光素子を説明する図。
【図2】本発明の一態様の発光素子を説明する図。
【図3】本発明の一態様の発光装置を説明する図。
【図4】本発明の一態様の発光装置を説明する図。
【図5】本発明の一態様の電子機器及び照明装置を説明する図。
【図6】本発明の一態様の電子機器を説明する図。
【図7】本発明の一態様の電子機器及び照明装置を説明する図。
【図8】DBTPPn−IIのNMRチャート図。
【図9】DBTPPn−IIのトルエン溶液の吸収スペクトル及び発光スペクトルを示す図。
【図10】DBTPPn−IIの薄膜の吸収スペクトル及び発光スペクトルを示す図。
【図11】実施例2の発光素子を説明する図。
【図12】実施例2の発光素子の電流密度−輝度特性を示す図。
【図13】実施例2の発光素子の電圧−輝度特性を示す図。
【図14】実施例2の発光素子の輝度−電流効率特性を示す図。
【図15】実施例2の発光素子の電圧−電流特性を示す図。
【図16】実施例2の発光素子のスペクトルを示す図。
【図17】mDBTBPPn−IIのNMRチャート図。
【図18】mDBTBPPn−IIのトルエン溶液の吸収スペクトル及び発光スペクトルを示す図。
【図19】mDBTBPPn−IIの薄膜の吸収スペクトル及び発光スペクトルを示す図。
【図20】実施例4の発光素子を説明する図。
【図21】実施例4の発光素子の電流密度−輝度特性を示す図。
【図22】実施例4の発光素子の電圧−輝度特性を示す図。
【図23】実施例4の発光素子の輝度−電流効率特性を示す図。
【図24】実施例4の発光素子の電圧−電流特性を示す図。
【図25】実施例4の発光素子の発光スペクトルを示す図。
【図26】実施例4の発光素子の信頼性試験の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、実施の態様について図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。したがって、本発明は以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0029】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様に係るフェナントレン化合物について説明する。
【0030】
本発明の一態様に係るフェナントレン化合物は、下記一般式(G1)で表されるフェナントレン化合物である。
【0031】
【化3】

【0032】
但し、一般式(G1)中、R11〜R19及びR21〜R27はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数6〜13の置換若しくは無置換のアリール基のいずれか一を表す。また、Arは、炭素数6〜13の置換又は無置換のアリーレン基を表す。また、Zは硫黄原子または酸素原子を表す。
【0033】
一般式(G1)で表されるフェナントレン化合物は、分子内に、電子輸送性を有するフェナントリル基と、正孔輸送性を有するジベンゾチオフェニル基またはジベンゾフラニル基と、を有するバイポーラ性の化合物である。また、フェナントリル基と、ジベンゾチオフェニル基またはジベンゾフラニル基と、の間にArで表されるアリーレン基を挟むことで、フェナントリル基から、ジベンゾチオフェニル基またはジベンゾフラニル基まで共役が広がりづらい構造とすることができるため、バンドギャップが広がると考えられる。またArは、それ自体が化合物の共役を大きくする要因にならないように、置換又は無置換のフェニレン基や、置換又は無置換のビフェニルジイル基など、共役が小さいアリーレン基とするのが好ましく、置換又は無置換のフェニレン基とするのがより好ましい。
【0034】
一般式(G1)中、R11〜R19及びR21〜R27はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数6〜13のアリール基のいずれか一を表す。R11〜R19及びR21〜R27が炭素数6〜13のアリール基の場合、アリール基はさらに置換基を有していてもよい。その場合の置換基としては、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基等が例示できる。なお、アリール基がさらに二つの置換基を有する場合には、前記二つの置換基同士が互いに結合して環を形成してもよく、環構造としては、スピロ環でもよい。
【0035】
11〜R19及びR21〜R27の具体的構造としては、下記構造式(R−1)乃至(R−23)等が例示できる。なお、R11〜R19及びR21〜R27の少なくとも一つが炭素数6〜13のアリール基であって、さらに置換基を有する場合の具体例が(R−16)乃至(R−23)である。また、アリール基上の二つの置換基同士が互いに結合してスピロ環構造を形成する場合の具体例が(R−20)である。
【0036】
【化4】

【0037】
一般式(G1)中、Arは炭素数6〜13のアリーレン基を表し、置換基を有していてもよい。Arが置換基を有する場合には、その置換基としては、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基等が例示できる。なお、Arが置換基を有する場合には、置換基同士が互いに結合して環を形成してもよく、その場合の環構造としては、スピロ環でもよい。
【0038】
Arの具体的構造としては、下記構造式(Ar−1)乃至(Ar−15)等が例示できる。なお、Arが置換基を有する場合の具体例が(Ar−12)乃至(Ar−15)である。また、置換基同士が互いに結合してスピロ環構造を形成する場合の具体例が(Ar−15)である。
【0039】
【化5】

【0040】
上述の一般式(G1)で表されるフェナントレン化合物において、合成の容易さの点から、また、三重項励起エネルギーが高いことから、Arはフェニレン基であることがさらに好ましい。したがって、本発明の一態様に係るフェナントレン化合物は、下記一般式(G2)で表されるフェナントレン化合物であることがさらに好ましい。
【0041】
【化6】

【0042】
但し、一般式(G2)中、R11〜R19及びR21〜R27はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数6〜13の置換又は無置換のアリール基のいずれか一を表す。また、Zは硫黄原子または酸素原子を表す。
【0043】
一般式(G2)中のR11〜R19及びR21〜R27の具体的構造としては、上記構造式(R−1)乃至(R−23)等が例示できる。
【0044】
一般式(G1)で表されるフェナントレン化合物の具体例としては、構造式(100)〜構造式(171)及び構造式(200)〜構造式(271)で表されるフェナントレン化合物を挙げることができる。但し、本発明はこれらに限定されない。
【0045】
【化7】

【0046】
【化8】

【0047】
【化9】

【0048】
【化10】

【0049】
【化11】

【0050】
【化12】

【0051】
【化13】

【0052】
【化14】

【0053】
【化15】

【0054】
【化16】

【0055】
【化17】

【0056】
【化18】

【0057】
【化19】

【0058】
【化20】

【0059】
【化21】

【0060】
【化22】

【0061】
【化23】

【0062】
【化24】

【0063】
本実施の形態のフェナントレン化合物の合成方法としては、種々の反応の適用が可能である。例えば、下記の合成法1または合成法2に示す合成反応を行うことによって合成することができる。
【0064】
〈合成法1〉
合成スキーム(A−1)に示すように、フェナントレン誘導体のハロゲン化物(化合物1)と、ジベンゾフラン誘導体若しくはジベンゾチオフェン誘導体の有機ボロン化合物、又はジベンゾフラン誘導体若しくはジベンゾチオフェン誘導体のボロン酸(化合物2)とを、鈴木・宮浦反応によりカップリングさせることで、一般式(G1)で表されるフェナントレン化合物を得ることができる。
【0065】
【化25】

【0066】
合成スキーム(A−1)において、R11〜R19及びR21〜R27はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数6〜13の置換若しくは無置換のアリール基のいずれか一を表し、Arは、炭素数6〜13の置換又は無置換のアリーレン基を表す。また、Zは硫黄原子または酸素原子を表す。また、R50及びR51はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜6のアルキル基のいずれか一を表し、R50とR51は互いに結合して環を形成していても良い。また、Xはハロゲンを表し、ハロゲンとしては臭素、ヨウ素が好ましい。
【0067】
合成スキーム(A−1)において、用いることができるパラジウム触媒としては、酢酸パラジウム(II)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロライド等が挙げられる。合成スキーム(A−1)において、用いることができるパラジウム触媒の配位子としては、トリ(オルト−トリル)ホスフィンや、トリフェニルホスフィンや、トリシクロヘキシルホスフィン等が挙げられる。
【0068】
合成スキーム(A−1)において、用いることができる塩基としては、ナトリウム tert−ブトキシド等の有機塩基や、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等の無機塩基等が挙げられる。合成スキーム(A−1)において、用いることができる溶媒としては、トルエンと水の混合溶媒、トルエンとエタノール等のアルコールと水の混合溶媒、キシレンと水の混合溶媒、キシレンとエタノール等のアルコールと水の混合溶媒、ベンゼンと水の混合溶媒、ベンゼンとエタノール等のアルコールと水の混合溶媒、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類と水の混合溶媒などが挙げられる。なお、トルエンと水の混合溶媒、トルエンとエタノールと水の混合溶媒、または、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類と水の混合溶媒がより好ましい。
【0069】
合成スキーム(A−1)に示すカップリング反応としては、化合物2で示される有機ホウ素化合物、又はボロン酸を用いる鈴木・宮浦反応の代わりに、有機アルミニウム、有機ジルコニウム、有機亜鉛、有機スズ化合物等を用いるクロスカップリング反応を用いてもよい。また、これらのカップリングにおいて、ハロゲン以外にもトリフラート基等を用いても良い。
【0070】
また、合成スキーム(A−1)に示す鈴木・宮浦カップリング反応において、化合物1に代えてフェナントレン誘導体の有機ホウ素化合物、又はフェナントレン誘導体のボロン酸を用い、化合物2に代えてジベンゾフラン誘導体若しくはジベンゾチオフェン誘導体のハロゲン化物、又はジベンゾフラン誘導体若しくはジベンゾチオフェン誘導体のトリフラート置換体を用い、これらを鈴木・宮浦反応によりカップリングして一般式(G1)で表されるフェナントレン化合物を合成してもよい。
【0071】
〈合成法2〉
合成スキーム(B−1)に示すように、フェナントレン誘導体のハロゲン化物(化合物3)と、ジベンゾフラン誘導体若しくはジベンゾチオフェン誘導体の有機ボロン化合物、又はジベンゾフラン誘導体若しくはジベンゾチオフェン誘導体のボロン酸(化合物4)とを、鈴木・宮浦反応によりカップリングさせることで、一般式(G1)で表されるフェナントレン化合物を得ることができる。
【0072】
【化26】

【0073】
合成スキーム(B−1)において、R11〜R19及びR21〜R27はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数6〜13の置換若しくは無置換のアリール基のいずれか一を表し、Arは、炭素数6〜13の置換又は無置換のアリーレン基を表す。また、Zは硫黄原子または酸素原子を表す。また、R52及びR53はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜6のアルキル基のいずれか一を表し、R52とR53は互いに結合して環を形成していても良い。また、Xはハロゲンを表し、ハロゲンとしては臭素、ヨウ素が好ましい。
【0074】
合成スキーム(B−1)において、用いることができるパラジウム触媒としては、酢酸パラジウム(II)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロライド等が挙げられる。合成スキーム(B−1)において、用いることができるパラジウム触媒の配位子としては、トリ(オルト−トリル)ホスフィンや、トリフェニルホスフィンや、トリシクロヘキシルホスフィン等が挙げられる。
【0075】
合成スキーム(B−1)において、用いることができる塩基としては、ナトリウム tert−ブトキシド等の有機塩基や、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等の無機塩基等が挙げられる。合成スキーム(B−1)において、用いることができる溶媒としては、トルエンと水の混合溶媒、トルエンとエタノール等のアルコールと水の混合溶媒、キシレンと水の混合溶媒、キシレンとエタノール等のアルコールと水の混合溶媒、ベンゼンと水の混合溶媒、ベンゼンとエタノール等のアルコールと水の混合溶媒、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類と水の混合溶媒などが挙げられる。なお、トルエンと水の混合溶媒、トルエンとエタノールと水の混合溶媒、又はエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類と水の混合溶媒がより好ましい。
【0076】
合成スキーム(B−1)に示すカップリング反応としては、化合物4で示される有機ホウ素化合物、又はボロン酸を用いる鈴木・宮浦反応の代わりに、有機アルミニウム、有機ジルコニウム、有機亜鉛、有機スズ化合物等を用いるクロスカップリング反応を用いてもよい。また、このカップリングにおいて、ハロゲン以外にもトリフラート基等を用いても良い。
【0077】
また、合成スキーム(B−1)に示す鈴木・宮浦カップリング反応において、化合物3に代えてフェナントレン誘導体の有機ホウ素化合物、又はフェナントレン誘導体のボロン酸を用い、化合物4に代えてジベンゾフラン誘導体若しくはジベンゾチオフェン誘導体のハロゲン化物、又はジベンゾフラン誘導体若しくはジベンゾチオフェン誘導体のトリフラート置換体を用い、これらを鈴木・宮浦反応によりカップリングして一般式(G1)で表されるフェナントレン化合物を合成してもよい。
【0078】
以上によって、本実施の形態のフェナントレン化合物を合成することができる。
【0079】
本実施の形態のフェナントレン化合物は、バイポーラ性を有するため、発光素子の正孔輸送層の材料または電子輸送層の材料として好適に用いることができる。また、本実施の形態のフェナントレン化合物(電子供与体)と電子受容体(アクセプター)とを混合してなる複合材料を発光素子の正孔注入層として用いることができる。なお、電子受容体や電子供与体は、少なくとも電界のアシストにより電子を授受するものであればよい。
【0080】
また、本実施の形態のフェナントレン化合物は、発光素子における発光層のホスト材料としても好適である。すなわち、本実施の形態のフェナントレン化合物で構成される層中に、該フェナントレン化合物よりも小さなバンドギャップを有する発光物質(ドーパントとも記す)を添加し、ドーパントからの発光を得ることができる。このとき、本実施の形態のフェナントレン化合物は広いバンドギャップを有するため、青色など比較的短波長に発光を有する蛍光性のドーパントを用いても、ドーパントからの発光を効率よく得ることができる。言い換えると、可視域の蛍光性化合物のホスト材料として用いることができる。また、ドーパントが燐光性化合物の場合、そのホスト材料はそのドーパントよりもT1準位が高い物質を用いることが好ましい。本実施の形態のフェナントレン化合物はT1準位が高い物質であるため、少なくとも緑色から長波長側の可視域の燐光性化合物のホスト材料として用いることができる。
【0081】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることができる。
【0082】
(実施の形態2)
本実施の形態では、本発明の一態様として、実施の形態1で説明したフェナントレン化合物を用いた発光素子について図1を用いて説明する。
【0083】
本実施の形態の発光素子は、一対の電極間に、少なくとも発光層を有するEL層を挟持して形成される。EL層は、発光層の他に複数の層を有してもよい。当該複数の層は、電極から離れたところに発光領域が形成されるように、つまり電極から離れた部位でキャリアの再結合が行われるように、キャリア注入性の高い物質やキャリア輸送性の高い物質からなる層を組み合わせて積層されたものである。当該複数の層としては、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層など有していても良い。
【0084】
図1(A)に示す本実施の形態の発光素子において、第1の電極101及び第2の電極103の一対の電極間に、EL層102が設けられている。また、EL層102は、正孔注入層111、正孔輸送層112、発光層113、電子輸送層114、電子注入層115を有している。なお、本実施の形態に示す発光素子において、基板100上に設けられた第1の電極101は陽極として機能し、第2の電極103は陰極として機能する。
【0085】
基板100は発光素子の支持体として用いられる。基板100としては、例えばガラス、石英、又はプラスチックなどを用いることができる。また可撓性基板を用いてもよい。可撓性基板とは、曲げることができる(フレキシブル)基板のことであり、例えば、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルスルフォンからなるプラスチック基板等が挙げられる。また、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリフッ化ビニル、ポリ塩化ビニル等からなるフィルム、または無機蒸着フィルムなどを用いることもできる。なお、発光素子の支持体として機能するものであれば、これら以外のものでもよい。
【0086】
第1の電極101としては、仕事関数の大きい(具体的には4.0eV以上)金属、合金、導電性化合物、及びこれらの混合物などを用いることが好ましい。具体的には、例えば、酸化インジウム−酸化スズ(ITO:Indium Tin Oxide)、珪素若しくは酸化珪素を含有した酸化インジウム−酸化スズ、酸化インジウム−酸化亜鉛(:Indium Zinc Oxide)、酸化タングステン及び酸化亜鉛を含有した酸化インジウム等が挙げられる。これらの導電性金属酸化物膜は、通常スパッタにより成膜されるが、ゾル−ゲル法などを応用して作製しても構わない。例えば、酸化インジウム−酸化亜鉛は、酸化インジウムに対し1〜20wt%の酸化亜鉛を加えたターゲットを用いてスパッタリング法により形成することができる。また、酸化タングステン及び酸化亜鉛を含有した酸化インジウムは、酸化インジウムに対し酸化タングステンを0.5〜5wt%、酸化亜鉛を0.1〜1wt%含有したターゲットを用いてスパッタリング法により形成することができる。この他、金、白金、ニッケル、タングステン、クロム、モリブデン、鉄、コバルト、銅、パラジウム、又は金属材料の窒化物(例えば、窒化チタン)等が挙げられる。
【0087】
但し、EL層102のうち、第1の電極101に接して形成される層が、後述する有機化合物と電子受容体(アクセプター)とを混合してなる複合材料を用いて形成される場合には、第1の電極101に用いる物質は、仕事関数の大小に関わらず、様々な金属、合金、導電性化合物、及びこれらの混合物などを用いることができる。例えば、アルミニウム、銀、アルミニウムを含む合金(例えば、Al−Si)、グラフェン等も用いることもできる。
【0088】
第1の電極101上に形成されるEL層102において、少なくとも発光層113は、本発明の一態様のフェナントレン化合物を含んで形成される。また、本発明の一態様のフェナントレン化合物は、バイポーラ性を有する材料であるから、EL層102のキャリア輸送層(正孔輸送層、電子輸送層など)の材料として用いることも可能である。また、EL層102の一部には公知の物質を用いることもでき、低分子系化合物及び高分子系化合物のいずれを用いることもできる。なお、EL層102を形成する物質には、有機化合物のみから成るものだけでなく、無機化合物を一部に含む構成も含めるものとする。
【0089】
正孔注入層111は、正孔注入性の高い物質を含む層である。正孔注入性の高い物質としては、例えば、モリブデン酸化物、チタン酸化物、バナジウム酸化物、レニウム酸化物、ルテニウム酸化物、クロム酸化物、ジルコニウム酸化物、ハフニウム酸化物、タンタル酸化物、銀酸化物、タングステン酸化物、マンガン酸化物等の金属酸化物を用いることができる。また、フタロシアニン(略称:HPc)、銅(II)フタロシアニン(略称:CuPc)等のフタロシアニン系の化合物を用いることができる。
【0090】
また、低分子の有機化合物である4,4’,4’’−トリス(N,N−ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン(略称:TDATA)、4,4’,4’’−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ]トリフェニルアミン(略称:MTDATA)、4,4’−ビス[N−(4−ジフェニルアミノフェニル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:DPAB)、4,4’−ビス(N−{4−[N’−(3−メチルフェニル)−N’−フェニルアミノ]フェニル}−N−フェニルアミノ)ビフェニル(略称:DNTPD)、1,3,5−トリス[N−(4−ジフェニルアミノフェニル)−N−フェニルアミノ]ベンゼン(略称:DPA3B)、3−[N−(9−フェニルカルバゾール−3−イル)−N−フェニルアミノ]−9−フェニルカルバゾール(略称:PCzPCA1)、3,6−ビス[N−(9−フェニルカルバゾール−3−イル)−N−フェニルアミノ]−9−フェニルカルバゾール(略称:PCzPCA2)、3−[N−(1−ナフチル)−N−(9−フェニルカルバゾール−3−イル)アミノ]−9−フェニルカルバゾール(略称:PCzPCN1)等の芳香族アミン化合物等を用いることができる。
【0091】
さらに、高分子化合物(オリゴマー、デンドリマー、ポリマー等)を用いることもできる。例えば、ポリ(N−ビニルカルバゾール)(略称:PVK)、ポリ(4−ビニルトリフェニルアミン)(略称:PVTPA)、ポリ[N−(4−{N’−[4−(4−ジフェニルアミノ)フェニル]フェニル−N’−フェニルアミノ}フェニル)メタクリルアミド](略称:PTPDMA)、ポリ[N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス(フェニル)ベンジジン](略称:Poly−TPD)などの高分子化合物が挙げられる。また、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)、ポリアニリン/ポリ(スチレンスルホン酸)(PAni/PSS)等の酸を添加した高分子化合物を用いることができる。
【0092】
また、正孔注入層111として、有機化合物と電子受容体(アクセプター)とを混合してなる複合材料を用いてもよい。このような複合材料は、電子受容体によって有機化合物に正孔が発生するため、正孔注入性及び正孔輸送性に優れている。この場合、有機化合物は、発生した正孔の輸送に優れた材料(正孔輸送性の高い物質)であることが好ましい。
【0093】
複合材料に用いる有機化合物としては、芳香族アミン化合物、カルバゾール誘導体、芳香族炭化水素、高分子化合物(オリゴマー、デンドリマー、ポリマー等)など、種々の化合物を用いることができる。なお、複合材料に用いる有機化合物としては、正孔輸送性の高い有機化合物であることが好ましい。具体的には、10−6cm/Vs以上の正孔移動度を有する物質であることが好ましい。但し、電子よりも正孔の輸送性の高い物質であれば、これら以外のものを用いてもよい。以下では、複合材料に用いることのできる有機化合物を具体的に列挙する。
【0094】
本発明の一態様のフェナントレン化合物は、正孔輸送性の高い有機化合物であるため、複合材料に好適に用いることができる。そのほか、複合材料に用いることのできる有機化合物としては、例えば、TDATA、MTDATA、DPAB、DNTPD、DPA3B、PCzPCA1、PCzPCA2、PCzPCN1、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPB又はα−NPD)、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(略称:TPD)、4−フェニル−4’−(9−フェニルフルオレン−9−イル)トリフェニルアミン(略称:BPAFLP)等の芳香族アミン化合物や、4,4’−ジ(N−カルバゾリル)ビフェニル(略称:CBP)、1,3,5−トリス[4−(N−カルバゾリル)フェニル]ベンゼン(略称:TCPB)、9−[4−(10−フェニル−9−アントリル)フェニル]−9H−カルバゾール(略称:CzPA)、9−フェニル−3−[4−(10−フェニル−9−アントリル)フェニル]−9H−カルバゾール(略称:PCzPA)、1,4−ビス[4−(N−カルバゾリル)フェニル]−2,3,5,6−テトラフェニルベンゼン等のカルバゾール誘導体を用いることができる。
【0095】
また、2−tert−ブチル−9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン(略称:t−BuDNA)、2−tert−ブチル−9,10−ジ(1−ナフチル)アントラセン、9,10−ビス(3,5−ジフェニルフェニル)アントラセン(略称:DPPA)、2−tert−ブチル−9,10−ビス(4−フェニルフェニル)アントラセン(略称:t−BuDBA)、9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン(略称:DNA)、9,10−ジフェニルアントラセン(略称:DPAnth)、2−tert−ブチルアントラセン(略称:t−BuAnth)、9,10−ビス(4−メチル−1−ナフチル)アントラセン(略称:DMNA)、9,10−ビス[2−(1−ナフチル)フェニル]−2−tert−ブチルアントラセン、9,10−ビス[2−(1−ナフチル)フェニル]アントラセン、2,3,6,7−テトラメチル−9,10−ジ(1−ナフチル)アントラセン、2,3,6,7−テトラメチル−9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン、9,9’−ビアントリル、10,10’−ジフェニル−9,9’−ビアントリル、10,10’−ビス(2−フェニルフェニル)−9,9’−ビアントリル、10,10’−ビス[(2,3,4,5,6−ペンタフェニル)フェニル]−9,9’−ビアントリル、アントラセン、テトラセン、ルブレン、ペリレン、2,5,8,11−テトラ(tert−ブチル)ペリレン、ペンタセン、コロネン、4,4’−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル(略称:DPVBi)、9,10−ビス[4−(2,2−ジフェニルビニル)フェニル]アントラセン(略称:DPVPA)等の芳香族炭化水素化合物を用いることができる。
【0096】
また、複合材料に用いる電子受容体としては、7,7,8,8−テトラシアノ−2,3,5,6−テトラフルオロキノジメタン(略称:F−TCNQ)、クロラニル等の有機化合物や、遷移金属酸化物を挙げることができる。また、元素周期表における第4族乃至第8族に属する金属の酸化物を挙げることができる。具体的には、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化クロム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化マンガン、酸化レニウムは電子受容性が高いため好ましい。中でも特に、酸化モリブデンは大気中でも安定であり、吸湿性が低く、扱いやすいため好ましい。
【0097】
なお、上述したPVK、PVTPA、PTPDMA、Poly−TPD等の高分子化合物と、上述した電子受容体を用いて複合材料を形成し、正孔注入層111に用いてもよい。
【0098】
正孔輸送層112は、正孔輸送性の高い物質を含む層である。正孔輸送性の高い物質としては、例えば、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPB)やN,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(略称:TPD)、4,4’,4’’−トリス(N,N−ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン(略称:TDATA)、4,4’,4’’−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ]トリフェニルアミン(略称:MTDATA)、4,4’−ビス[N−(スピロ−9,9’−ビフルオレン−2−イル)−N―フェニルアミノ]ビフェニル(略称:BSPB)などの芳香族アミン化合物等を用いることができる。ここに述べた物質は、主に10−6cm/Vs以上の正孔移動度を有する物質である。但し、電子よりも正孔の輸送性の高い物質であれば、これら以外のものを用いてもよい。また、実施の形態1で示したフェナントレン化合物を用いることもできる。なお、正孔輸送性の高い物質を含む層は、単層のものだけでなく、上記物質からなる層が二層以上積層したものとしてもよい。
【0099】
また、正孔輸送層112として、ポリ(N−ビニルカルバゾール)(略称:PVK)やポリ(4−ビニルトリフェニルアミン)(略称:PVTPA)等の高分子化合物を用いることもできる。
【0100】
発光層113は、本発明の一態様のフェナントレン化合物(ホスト材料)と、該フェナントレン化合物に分散させた発光物質(ゲスト材料)とを含む層である。発光物質としては、例えば、蛍光を発光する蛍光性化合物や、燐光を発光する燐光性化合物を用いることができる。ただし、本発明の一態様のフェナントレン化合物よりも最低空軌道準位(LUMO準位)が低く、最高被占有軌道準位(HOMO準位)が高い物質を発光物質として用いることが好ましい。
【0101】
本発明の一態様のフェナントレン化合物は、バンドギャップが広い(S1準位が高い)物質であるため、発光層113のホスト材料として好適に用いることができる。また発光物質が燐光性化合物の場合、そのホスト材料はその発光物質よりもT1準位が高い物質を用いることが好ましい。本発明の一態様のフェナントレン化合物は、T1準位が高い物質であるため、燐光発光物質のホスト材料としても好適に用いることができる。
【0102】
発光層113に用いることができる蛍光性化合物としては、例えば、青色系の発光材料として、N,N’−ビス[4−(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル]−N,N’−ジフェニルスチルベン−4,4’−ジアミン(略称:YGA2S)、4−(9H−カルバゾール−9−イル)−4’−(10−フェニル−9−アントリル)トリフェニルアミン(略称:YGAPA)、4−(10−フェニル−9−アントリル)−4’−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)トリフェニルアミン(略称:PCBAPA)などが挙げられる。また、緑色系の発光材料として、N−(9,10−ジフェニル−2−アントリル)−N,9−ジフェニル−9H−カルバゾール−3−アミン(略称:2PCAPA)、N−[9,10−ビス(1,1’−ビフェニル−2−イル)−2−アントリル]−N,9−ジフェニル−9H−カルバゾール−3−アミン(略称:2PCABPhA)、N−(9,10−ジフェニル−2−アントリル)−N,N’,N’−トリフェニル−1,4−フェニレンジアミン(略称:2DPAPA)、N−[9,10−ビス(1,1’−ビフェニル−2−イル)−2−アントリル]−N,N’,N’−トリフェニル−1,4−フェニレンジアミン(略称:2DPABPhA)、N−[9,10−ビス(1,1’−ビフェニル−2−イル)]−N−[4−(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル]−N−フェニルアントラセン−2−アミン(略称:2YGABPhA)、N,N,9−トリフェニルアントラセン−9−アミン(略称:DPhAPhA)などが挙げられる。また、黄色系の発光材料として、ルブレン、5,12−ビス(1,1’−ビフェニル−4−イル)−6,11−ジフェニルテトラセン(略称:BPT)などが挙げられる。また、赤色系の発光材料として、N,N,N’,N’−テトラキス(4−メチルフェニル)テトラセン−5,11−ジアミン(略称:p−mPhTD)、7,14−ジフェニル−N,N,N’,N’−テトラキス(4−メチルフェニル)アセナフト[1,2−a]フルオランテン−3,10−ジアミン(略称:p−mPhAFD)などが挙げられる。
【0103】
また、発光層113に用いることができる燐光性化合物としては、例えば、緑色系の発光材料として、トリス(2−フェニルピリジナト−N,C2’)イリジウム(III)(略称:Ir(ppy))、ビス(2−フェニルピリジナト−N,C2’)イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(ppy)(acac))、ビス(1,2−ジフェニル−1H−ベンゾイミダゾラト)イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(pbi)(acac))、ビス(ベンゾ[h]キノリナト)イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(bzq)(acac))、トリス(ベンゾ[h]キノリナト)イリジウム(III)(略称:Ir(bzq))などが挙げられる。また、黄色系の発光材料として、ビス(2,4−ジフェニル−1,3−オキサゾラト−N,C2’)イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(dpo)(acac))、ビス[2−(4’−パーフルオロフェニルフェニル)ピリジナト]イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(p−PF−ph)(acac))、ビス(2−フェニルベンゾチアゾラト−N,C2’)イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(bt)(acac))、(アセチルアセトナト)ビス[2,3−ビス(4−フルオロフェニル)−5−メチルピラジナト]イリジウム(III)(略称:Ir(Fdppr−Me)(acac))、(アセチルアセトナト)ビス{2−(4−メトキシフェニル)−3,5−ジメチルピラジナト}イリジウム(III)(略称:Ir(dmmoppr)(acac))などが挙げられる。また、橙色系の発光材料として、トリス(2−フェニルキノリナト−N,C2’)イリジウム(III)(略称:Ir(pq))、ビス(2−フェニルキノリナト−N,C2’)イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(pq)(acac))、(アセチルアセトナト)ビス(3,5−ジメチル−2−フェニルピラジナト)イリジウム(III)(略称:Ir(mppr−Me)(acac))、(アセチルアセトナト)ビス(5−イソプロピル−3−メチル−2−フェニルピラジナト)イリジウム(III)(略称:Ir(mppr−iPr)(acac))などが挙げられる。また、赤色系の発光材料として、ビス[2−(2’−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジナト−N,C3’]イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(btp)(acac))、ビス(1−フェニルイソキノリナト−N,C2’)イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(piq)(acac))、(アセチルアセトナト)ビス[2,3−ビス(4−フルオロフェニル)キノキサリナト]イリジウム(III)(略称:Ir(Fdpq)(acac))、(アセチルアセトナト)ビス(2,3,5−トリフェニルピラジナト)イリジウム(III)(略称:Ir(tppr)(acac))、(ジピバロイルメタナト)ビス(2,3,5−トリフェニルピラジナト)イリジウム(III)(略称:Ir(tppr)(dpm))、2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−21H,23H−ポルフィリン白金(II)(略称:PtOEP)等の有機金属錯体が挙げられる。また、トリス(アセチルアセトナト)(モノフェナントロリン)テルビウム(III)(略称:Tb(acac)(Phen))、トリス(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオナト)(モノフェナントロリン)ユーロピウム(III)(略称:Eu(DBM)(Phen))、トリス[1−(2−テノイル)−3,3,3−トリフルオロアセトナト](モノフェナントロリン)ユーロピウム(III)(略称:Eu(TTA)(Phen))等の希土類金属錯体は、希土類金属イオンからの発光(異なる多重度間の電子遷移)であるため、燐光性化合物として用いることができる。
【0104】
また、発光物質として高分子化合物を用いることができる。具体的には、青色系の発光材料として、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジイル)(略称:PFO)、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジイル)−co−(2,5−ジメトキシベンゼン−1,4−ジイル)](略称:PF−DMOP)、ポリ{(9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジイル)−co−[N,N’−ジ−(p−ブチルフェニル)−1,4−ジアミノベンゼン]}(略称:TAB−PFH)などが挙げられる。また、緑色系の発光材料として、ポリ(p−フェニレンビニレン)(略称:PPV)、ポリ[(9,9−ジヘキシルフルオレン−2,7−ジイル)−alt−co−(ベンゾ[2,1,3]チアジアゾール−4,7−ジイル)](略称:PFBT)、ポリ[(9,9−ジオクチル−2,7−ジビニレンフルオレニレン)−alt−co−(2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシロキシ)−1,4−フェニレン)]などが挙げられる。また、橙色〜赤色系の発光材料として、ポリ[2−メトキシ−5−(2’−エチルヘキソキシ)−1,4−フェニレンビニレン](略称:MEH−PPV)、ポリ(3−ブチルチオフェン−2,5−ジイル)(略称:R4−PAT)、ポリ{[9,9−ジヘキシル−2,7−ビス(1−シアノビニレン)フルオレニレン]−alt−co−[2,5−ビス(N,N’−ジフェニルアミノ)−1,4−フェニレン]}、ポリ{[2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシロキシ)−1,4−ビス(1−シアノビニレンフェニレン)]−alt−co−[2,5−ビス(N,N’−ジフェニルアミノ)−1,4−フェニレン]}(略称:CN−PPV−DPD)などが挙げられる。
【0105】
また、発光層113のホスト材料は複数種用いることができる。例えば、本発明の一態様のフェナントレン化合物に加えて、結晶化を抑制するためにルブレン等の結晶化を抑制する物質をさらに添加してもよい。また、ゲスト材料へのエネルギー移動をより効率良く行うためにNPB、あるいはAlq等をさらに添加してもよい。
【0106】
ゲスト材料をホスト材料に分散させた構成とすることにより、発光層113の結晶化を抑制することができる。また、ゲスト材料の濃度が増大することによる濃度消光を抑制することができる。
【0107】
なお、発光層113は、2層以上を積層させた構成としてもよい。その場合、少なくとも1層に本発明の一態様のフェナントレン化合物を含む構成とすればよい。なお、発光層113を2層以上の積層構造とする場合、各層の発光色は同じであってもよいし、異なる発光色を呈する層を積層させてもよい。また、発光物質として蛍光性化合物を含む層と、発光物質として燐光性化合物を含む層を積層させることも可能である。
【0108】
電子輸送層114は、電子輸送性の高い物質を含む層である。電子輸送性の高い物質としては、例えば、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(略称:Alq)、トリス(4−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(略称:Almq)、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナト)ベリリウム(略称:BeBq)、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(4−フェニルフェノラト)アルミニウム(略称:BAlq)など、キノリン骨格又はベンゾキノリン骨格を有する金属錯体等が挙げられる。また、この他ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾオキサゾラト]亜鉛(略称:Zn(BOX))、ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(略称:Zn(BTZ))などのオキサゾール系、チアゾール系配位子を有する金属錯体なども用いることができる。さらに、金属錯体以外にも、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(略称:PBD)や、1,3−ビス[5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル]ベンゼン(略称:OXD−7)、3−(4−ビフェニリル)−4−フェニル−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(略称:TAZ)、バソフェナントロリン(略称:BPhen)、バソキュプロイン(略称:BCP)なども用いることができる。ここに述べた物質は、主に10−6cm/Vs以上の電子移動度を有する物質である。また、実施の形態1で示したフェナントレン化合物を用いることもできる。また、電子輸送層は、単層のものだけでなく、上記物質からなる層が二層以上積層したものとしてもよい。
【0109】
電子注入層115は、電子注入性の高い物質を含む層である。電子注入層115には、リチウム、セシウム、カルシウム、フッ化リチウム、フッ化セシウム、フッ化カルシウム、リチウム酸化物等のようなアルカリ金属、アルカリ土類金属、又はそれらの化合物を用いることができる。また、フッ化エルビウムのような希土類金属化合物を用いることができる。また、上述した電子輸送層114を構成する物質を用いることもできる。
【0110】
あるいは、電子注入層115に、有機化合物と電子供与体(ドナー)とを混合してなる複合材料を用いてもよい。このような複合材料は、電子供与体によって有機化合物に電子が発生するため、電子注入性及び電子輸送性に優れている。この場合、有機化合物としては、発生した電子の輸送に優れた材料であることが好ましく、具体的には、例えば上述した電子輸送層114を構成する物質(金属錯体や複素芳香族化合物等)を用いることができる。電子供与体としては、有機化合物に対し電子供与性を示す物質であればよい。具体的には、アルカリ金属やアルカリ土類金属や希土類金属が好ましく、リチウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、エルビウム、イッテルビウム等が挙げられる。また、アルカリ金属酸化物やアルカリ土類金属酸化物が好ましく、リチウム酸化物、カルシウム酸化物、バリウム酸化物等が挙げられる。また、酸化マグネシウムのようなルイス塩基を用いることもできる。また、テトラチアフルバレン(略称:TTF)等の有機化合物を用いることもできる。
【0111】
なお、上述した正孔注入層111、正孔輸送層112、発光層113、電子輸送層114、電子注入層115は、それぞれ、蒸着法(真空蒸着法を含む)、インクジェット法、塗布法等の方法で形成することができる。
【0112】
第2の電極103は、第2の電極103が陰極として機能する際は仕事関数の小さい(好ましくは3.8eV以下)金属、合金、導電性化合物、及びこれらの混合物などを用いて形成することが好ましい。具体的には、元素周期表の第1族又は第2族に属する元素、すなわちリチウムやセシウム等のアルカリ金属、及びマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム等のアルカリ土類金属、及びこれらを含む合金(例えば、Mg−Ag、Al−Li)、ユーロピウム、イッテルビウム等の希土類金属及びこれらを含む合金の他、アルミニウムや銀などを用いることができる。
【0113】
但し、EL層102のうち、第2の電極103に接して形成される層が、上述する有機化合物と電子供与体(ドナー)とを混合してなる複合材料を用いる場合には、仕事関数の大小に関わらず、アルミニウム、銀、ITO、珪素若しくは酸化珪素を含有した酸化インジウム−酸化スズ、グラフェン等様々な導電性材料を用いることができる。
【0114】
なお、第2の電極103を形成する場合には、真空蒸着法やスパッタリング法を用いることができる。また、銀ペーストなどを用いる場合には、塗布法やインクジェット法などを用いることができる。
【0115】
上述した発光素子は、第1の電極101と第2の電極103との間に与えた電位差により電流が流れ、EL層102において正孔と電子とが再結合することにより発光する。そして、この発光は、第1の電極101又は第2の電極103のいずれか一方又は両方を通って外部に取り出される。従って、第1の電極101又は第2の電極103のいずれか一方、又は両方が可視光に対する透光性を有する電極となる。
【0116】
なお、第1の電極101と第2の電極103との間に設けられる層の構成は、上記のものに限定されない。発光領域と金属とが近接することによって生じる消光を防ぐように、第1の電極101及び第2の電極103から離れた部位に正孔と電子とが再結合する発光領域を設けた構成であれば上記以外のものでもよい。
【0117】
つまり、層の積層構造については特に限定されず、電子輸送性の高い物質、正孔輸送性の高い物質、電子注入性の高い物質、正孔注入性の高い物質、バイポーラ性の物質(電子及び正孔の輸送性の高い物質)、又は正孔ブロック材料等から成る層を、発光層と自由に組み合わせて構成すればよい。
【0118】
図1(B)に示す発光素子は、基板100上において、第1の電極101及び第2の電極103の一対の電極間に、EL層102が設けられている。EL層102は、正孔注入層111、正孔輸送層112、発光層113、電子輸送層114、電子注入層115を有している。図1(B)における発光素子は、基板100上に、陰極として機能する第2の電極103と、第2の電極103上に順に積層した電子注入層115、電子輸送層114、発光層113、正孔輸送層112、正孔注入層111と、さらにその上に設けられた陽極として機能する第1の電極101から構成されている。
【0119】
以下、具体的な発光素子の形成方法を示す。
【0120】
本実施の形態の発光素子は一対の電極間にEL層が挟持される構造となっている。電極(第1の電極及び第2の電極)、及びEL層は液滴吐出法(インクジェット法)、スピンコート法、印刷法などの湿式法を用いて形成してもよく、真空蒸着法、CVD法、スパッタリング法などの乾式法を用いて形成してもよい。湿式法を用いれば、大気圧下で形成することができるため、簡易な装置及び工程で形成することができ、工程が簡略化し、生産性が向上するという効果がある。一方乾式法は、材料を溶解させる必要がないために溶液に難溶の材料も用いることができ、材料の選択の幅が広い。
【0121】
発光素子を構成する薄膜のすべての形成を湿式法で行ってもよい。この場合、湿式法で必要な設備のみで発光素子を作製することができる。また、発光層を形成するまでの積層を湿式法で行い、発光層上に積層する電子輸送層などの機能層や第1の電極などを乾式法により形成してもよい。さらに、発光層を形成する前の第2の電極や機能層を乾式法により形成し、発光層、及び発光層上に積層する機能層や第1の電極を湿式法によって形成してもよい。もちろん、本実施の形態はこれに限定されず、用いる材料や必要とされる膜厚、界面状態によって適宜湿式法と乾式法を選択し、組み合わせて発光素子を作製することができる。
【0122】
以上のように、本発明の一態様のフェナントレン化合物を用いて発光素子を作製することができる。
【0123】
なお、本実施の形態で示した発光素子を用いて、パッシブマトリクス型の発光装置や、トランジスタによって発光素子の駆動が制御されたアクティブマトリクス型の発光装置を作製することができる。
【0124】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることができる。
【0125】
(実施の形態3)
本実施の形態は複数の発光ユニットを積層した構成の発光素子(以下、積層型素子という)の態様について、図2を参照して説明する。この発光素子は、第1の電極と第2の電極との間に複数の発光ユニットを有する発光素子である。
【0126】
図2(A)において、第1の電極301と第2の電極303との間には、第1の発光ユニット311と第2の発光ユニット312が積層されている。本実施の形態において、第1の電極301は陽極として機能する電極であり、第2の電極303は陰極として機能する電極である。なお、第1の電極301と第2の電極303は実施の形態2と同様なものを適用することができる。また、第1の発光ユニット311と第2の発光ユニット312は同じ構成であっても異なる構成であっても良い。また、第1の発光ユニット311と、第2の発光ユニット312は、その構成として、実施の形態2の発光層113と同様なものを適用しても良いし、いずれかが異なる構成であっても良い。
【0127】
また、第1の発光ユニット311と第2の発光ユニット312の間には、電荷発生層313が設けられている。電荷発生層313は、第1の電極301と第2の電極303に電圧を印加したときに、一方の発光ユニットに電子を注入し、他方の発光ユニットに正孔を注入する機能を有する。本実施の形態の場合には、第1の電極301に第2の電極303よりも電位が高くなるように電圧を印加すると、電荷発生層313から第1の発光ユニット311に電子が注入され、第2の発光ユニット312に正孔が注入される。
【0128】
なお、電荷発生層313は、光の取り出し効率の点から、可視光に対する透光性を有することが好ましい。また、電荷発生層313は、第1の電極301や第2の電極303よりも低い導電率であっても機能する。
【0129】
電荷発生層313は、正孔輸送性の高い有機化合物と電子受容体(アクセプター)とを含む構成であっても、電子輸送性の高い有機化合物と電子供与体(ドナー)とを含む構成であってもよい。また、これらの両方の構成が積層されていても良い。なお、電子受容体や電子供与体は、少なくとも電界のアシストにより電子を授受するものであればよい。
【0130】
正孔輸送性の高い有機化合物に電子受容体が添加された構成とする場合において、正孔輸送性の高い有機化合物としては、本発明の一態様のフェナントレン化合物を用いることができる。そのほか、例えば、NPBやTPD、TDATA、MTDATA、4,4’−ビス[N−(スピロ−9,9’−ビフルオレン−2−イル)−N―フェニルアミノ]ビフェニル(略称:BSPB)などの芳香族アミン化合物等を用いることができる。
【0131】
また、電子受容体としては、7,7,8,8−テトラシアノ−2,3,5,6−テトラフルオロキノジメタン(略称:F−TCNQ)、クロラニル等を挙げることができる。また、遷移金属酸化物を挙げることができる。また元素周期表における第4族乃至第8族に属する金属の酸化物を挙げることができる。具体的には、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化クロム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化マンガン、酸化レニウムは電子受容性が高いため好ましい。中でも特に、酸化モリブデンは大気中でも安定であり、吸湿性が低く、扱いやすいため、好ましい。
【0132】
一方、電子輸送性の高い有機化合物に電子供与体が添加された構成とする場合において、電子輸送性の高い有機化合物としては、例えば、Alq、Almq、BeBq、BAlqなど、キノリン骨格又はベンゾキノリン骨格を有する金属錯体等を用いることができる。また、Zn(BOX)、Zn(BTZ)などのオキサゾール系、チアゾール系配位子を有する金属錯体なども用いることができる。さらに、金属錯体以外にも、PBDやOXD−7、TAZ、BPhen、BCPなども用いることができる。また、本発明の一態様のフェナントレン化合物を用いてもよい。
【0133】
また、電子供与体としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、又は元素周期表における第13族に属する金属及びその酸化物、炭酸塩などを用いることができる。具体的には、リチウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、イッテルビウム、インジウム、酸化リチウム、炭酸セシウムなどを用いることが好ましい。また、テトラチアナフタセンのような有機化合物を電子供与体として用いてもよい。
【0134】
なお、上述した材料を用いて電荷発生層313を形成することにより、EL層が積層された場合における、余分な駆動電圧の上昇を抑制することができる。
【0135】
本実施の形態では、2つの発光ユニットを有する発光素子について説明したが、同様に、図2(B)に示すように、3つ以上の発光ユニットを積層した発光素子も適用することが可能である。例えばn(nは2以上の自然数)層の積層構造を有する場合、m(mは(n−1)以下の自然数)番目の発光ユニットと、(m+1)番目の発光ユニットとの間に、それぞれ電荷発生層313が挟まれた構造を有する。本実施の形態に係る発光素子のように、一対の電極間に複数の発光ユニットを電荷発生層で仕切って配置することで、電流密度を低く保ったまま、高輝度で発光する長寿命素子を実現できる。
【0136】
また、それぞれの発光ユニットの発光色を異なるものにすることで、発光素子全体として、所望の色の発光を得ることができる。例えば、2つの発光ユニットを有する発光素子において、第1の発光ユニットの発光色と第2の発光ユニットの発光色を補色の関係になるようにすることで、発光素子全体として白色発光する発光素子を得ることも可能である。なお、補色とは、混合すると無彩色になる色同士の関係をいう。補色の関係としては、青色と黄色、あるいは青緑色と赤色などが挙げられる。また、3つの発光ユニットを有する発光素子の場合、例えば、第1の発光ユニットの発光色が赤色であり、第2の発光ユニットの発光色が緑色であり、第3の発光ユニットの発光色が青色である場合、発光素子全体としては、白色発光を得ることができる。
【0137】
なお、本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせることが可能である。
【0138】
(実施の形態4)
本実施の形態では、本発明の一態様の発光装置について図3を用いて説明する。なお、図3(A)は、発光装置を示す上面図、図3(B)は図3(A)をA−B及びC−Dで切断した断面図である。
【0139】
図3(A)において、点線で示された401は駆動回路部(ソース側駆動回路)、402は画素部、403は駆動回路部(ゲート側駆動回路)である。また、404は封止基板、405はシール材であり、シール材405で囲まれた内側は、空間になっている。
【0140】
なお、引き回し配線408はソース側駆動回路401及びゲート側駆動回路403に入力される信号を伝送するための配線であり、外部入力端子となるFPC(フレキシブルプリントサーキット)409からビデオ信号、クロック信号、スタート信号、リセット信号等を受け取る。なお、ここではFPCしか図示されていないが、このFPCにはプリント配線基板(PWB)が取り付けられていても良い。本明細書における発光装置には、発光装置本体だけでなく、それにFPC又はPWBが取り付けられた状態をも含むものとする。
【0141】
次に、断面構造について図3(B)を用いて説明する。素子基板410上には駆動回路部及び画素部が形成されているが、ここでは、駆動回路部であるソース側駆動回路401と、画素部402中の一つの画素が示されている。
【0142】
なお、ソース側駆動回路401はnチャネル型TFT423とpチャネル型TFT424とを組み合わせたCMOS回路が形成される。また、駆動回路は、TFTで形成される種々のCMOS回路、PMOS回路又はNMOS回路で形成しても良い。また、本実施の形態では、基板上に駆動回路を形成したドライバ一体型を示すが、必ずしもその必要はなく、駆動回路を基板上ではなく外部に形成することもできる。
【0143】
また、画素部402はスイッチング用TFT411と、電流制御用TFT412とそのドレインに電気的に接続された第1の電極413とを含む複数の画素により形成される。なお、第1の電極413の端部を覆って絶縁物414が形成されている。ここでは、ポジ型の感光性アクリル樹脂膜を用いることにより形成する。
【0144】
また、被覆性を良好なものとするため、絶縁物414の上端部又は下端部に曲率を有する曲面が形成されるようにする。例えば、絶縁物414の材料としてポジ型の感光性アクリルを用いた場合、絶縁物414の上端部のみに曲率半径(0.2μm〜3μm)を有する曲面を持たせることが好ましい。また、絶縁物414として、光の照射によってエッチャントに不溶解性となるネガ型樹脂、或いは光の照射によってエッチャントに溶解性となるポジ型樹脂のいずれも使用することができる。
【0145】
第1の電極413上には、EL層416及び第2の電極417がそれぞれ形成されている。第1の電極413、EL層416及び第2の電極417の材料としては、実施の形態2で示した材料をそれぞれ適用することが可能である。なお、EL層416は少なくとも発光層を含み、当該発光層は、実施の形態1で示したフェナントレン化合物を含む。本実施の形態においては、第1の電極413が陽極として機能し、第2の電極417が陰極として機能する。
【0146】
さらにシール材405で封止基板404を素子基板410と貼り合わせることにより、素子基板410、封止基板404、及びシール材405で囲まれた空間407に発光素子418が備えられた構造になっている。なお、空間407には、充填材が充填されており、不活性気体(窒素やアルゴン等)が充填される場合の他、シール材405で充填される場合もある。
【0147】
なお、シール材405にはエポキシ系樹脂を用いるのが好ましい。また、封止基板404に用いる材料としてガラス基板や石英基板の他、FRP(Fiberglass−Reinforced Plastics)、PVF(ポリビニルフロライド)、ポリエステル又はアクリル樹脂等からなるプラスチック基板を用いることができる。また、これらの材料はできるだけ水分や酸素を透過しない材料であることが望ましい。
【0148】
以上のようにして、本発明の一態様の発光素子を有するアクティブマトリクス型の発光装置を得ることができる。
【0149】
また、本発明の発光素子は、上述したアクティブマトリクス型の発光装置のみならずパッシブマトリクス型の発光装置に用いることもできる。図4に本発明の一態様の発光素子を用いたパッシブマトリクス型の発光装置の斜視図及び断面図を示す。なお、図4(A)は、発光装置を示す斜視図、図4(B)は図4(A)をX−Yで切断した断面図である。
【0150】
図4において、基板501上の第1の電極502と第2の電極503との間にはEL層504が設けられている。第1の電極502の端部は絶縁層505で覆われている。そして、絶縁層505上には隔壁層506が設けられている。隔壁層506の側壁は、基板面に近くなるに伴って、一方の側壁と他方の側壁との間隔が狭くなるような傾斜を有する。つまり、隔壁層506の短辺方向の断面は、台形状であり、底辺(絶縁層505の面方向と同様の方向を向き、絶縁層505と接する辺)の方が上辺(絶縁層505の面方向と同様の方向を向き、絶縁層505と接しない辺)よりも短い。このように、隔壁層506を設けることで、クロストーク等に起因した発光素子の不良を防ぐことができる。
【0151】
以上により、本発明の一態様の発光素子を有するパッシブマトリクス型の発光装置を得ることができる。
【0152】
なお、本実施の形態で示した発光装置(アクティブマトリクス型、パッシブマトリクス型)は、いずれも本発明の一態様の発光素子を用いて形成される。
【0153】
なお、本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせることが可能である。
【0154】
(実施の形態5)
本実施の形態では、本発明を適用した一態様である発光装置を用いて完成させた様々な電子機器および照明器具の一例について、図5乃至図7を用いて説明する。
【0155】
発光装置を適用した電子機器として、例えば、テレビジョン装置(テレビ、又はテレビジョン受信機ともいう)、コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機などが挙げられる。これらの電子機器および照明器具の具体例を図5に示す。
【0156】
図5(A)は、テレビジョン装置の一例を示している。テレビジョン装置7100は、筐体7101に表示部7103が組み込まれている。表示部7103により、映像を表示することが可能であり、本発明の一態様の発光装置を表示部7103に用いることができる。また、ここでは、スタンド7105により筐体7101を支持した構成を示している。
【0157】
テレビジョン装置7100の操作は、筐体7101が備える操作スイッチや、別体のリモコン操作機7110により行うことができる。リモコン操作機7110が備える操作キー7109により、チャンネルや音量の操作を行うことができ、表示部7103に表示される映像を操作することができる。また、リモコン操作機7110に、当該リモコン操作機7110から出力する情報を表示する表示部7107を設ける構成としてもよい。
【0158】
なお、テレビジョン装置7100は、受信機やモデムなどを備えた構成とする。受信機により一般のテレビ放送の受信を行うことができ、さらにモデムを介して有線又は無線による通信ネットワークに接続することにより、一方向(送信者から受信者)又は双方向(送信者と受信者間、あるいは受信者間同士など)の情報通信を行うことも可能である。
【0159】
図5(B)はコンピュータであり、本体7201、筐体7202、表示部7203、キーボード7204、外部接続ポート7205、ポインティングデバイス7206等を含む。なお、コンピュータは、本発明の一態様の発光装置をその表示部7203に用いることにより作製される。
【0160】
図5(C)は携帯型遊技機であり、筐体7301と筐体7302の2つの筐体で構成されており、連結部7303により、開閉可能に連結されている。筐体7301には表示部7304が組み込まれ、筐体7302には表示部7305が組み込まれている。また、図5(C)に示す携帯型遊技機は、その他、スピーカ部7306、記録媒体挿入部7307、LEDランプ7308、入力手段(操作キー7309、接続端子7310、センサ7311(力、変位、位置、速度、加速度、角速度、回転数、距離、光、液、磁気、温度、化学物質、音声、時間、硬度、電場、電流、電圧、電力、放射線、流量、湿度、傾度、振動、におい又は赤外線を測定する機能を含むもの)、マイクロフォン7312)等を備えている。もちろん、携帯型遊技機の構成は上述のものに限定されず、少なくとも表示部7304および表示部7305の両方、又は一方に本発明の一態様の発光装置を用いていればよく、その他付属設備が適宜設けられた構成とすることができる。図5(C)に示す携帯型遊技機は、記録媒体に記録されているプログラム又はデータを読み出して表示部に表示する機能や、他の携帯型遊技機と無線通信を行って情報を共有する機能を有する。なお、図5(C)に示す携帯型遊技機が有する機能はこれに限定されず、様々な機能を有することができる。
【0161】
図5(D)は、携帯電話機の一例を示している。携帯電話機7400は、筐体7401に組み込まれた表示部7402の他、操作ボタン7403、外部接続ポート7404、スピーカ7405、マイク7406などを備えている。なお、携帯電話機7400は、本発明の一態様の発光装置を表示部7402に用いることにより作製される。
【0162】
図5(D)に示す携帯電話機7400は、表示部7402を指などで触れることで、情報を入力することができる。また、電話を掛ける、或いはメールを作成するなどの操作は、表示部7402を指などで触れることにより行うことができる。
【0163】
表示部7402の画面は主として3つのモードがある。第1は、画像の表示を主とする表示モードであり、第2は、文字等の情報の入力を主とする入力モードである。第3は表示モードと入力モードの2つのモードが混合した表示+入力モードである。
【0164】
例えば、電話を掛ける、或いはメールを作成する場合は、表示部7402を文字の入力を主とする文字入力モードとし、画面に表示させた文字の入力操作を行えばよい。この場合、表示部7402の画面のほとんどにキーボード又は番号ボタンを表示させることが好ましい。
【0165】
また、携帯電話機7400内部に、ジャイロ、加速度センサ等の傾きを検出するセンサを有する検出装置を設けることで、携帯電話機7400の向き(縦か横か)を判断して、表示部7402の画面表示を自動的に切り替えるようにすることができる。
【0166】
また、画面モードの切り替えは、表示部7402を触れること、又は筐体7401の操作ボタン7403の操作により行われる。また、表示部7402に表示される画像の種類によって切り替えるようにすることもできる。例えば、表示部に表示する画像信号が動画のデータであれば表示モード、テキストデータであれば入力モードに切り替える。
【0167】
また、入力モードにおいて、表示部7402の光センサで検出される信号を検知し、表示部7402のタッチ操作による入力が一定期間ない場合には、画面のモードを入力モードから表示モードに切り替えるように制御してもよい。
【0168】
表示部7402は、イメージセンサとして機能させることもできる。例えば、表示部7402に掌や指で触れ、掌紋、指紋等を撮像することで、本人認証を行うことができる。また、表示部に近赤外光を発光するバックライト又は近赤外光を発光するセンシング用光源を用いれば、指静脈、掌静脈などを撮像することもできる。
【0169】
図5(E)は、照明装置の一例を示している。照明装置7500は、筐体7501に光源として本発明の一態様の発光装置7503a〜7503dが組み込まれている。照明装置7500は、天井や壁等に取り付けることが可能である。
【0170】
また、本発明の一態様の発光装置は、発光素子が薄膜状であるため、曲面を有する基体に貼り付けることで、曲面を有する発光装置とすることができる。また、その発光装置を、曲面を有する筐体に配置することで、曲面を有する電子機器または照明装置を実現することができる。
【0171】
図6は車両の運転席周辺の内部図である。図6において、ダッシュボードには表示装置600が設置され、フロントガラスには表示装置602が設置された例を示している。図6に示す表示装置600は、曲面を有する筐体に表示部604が組み込まれており、表示部604により、映像を表示することが可能である。表示装置600において、本発明の一態様の発光装置を表示部604に用いることができる。
【0172】
また、図6に示す表示装置602は、曲面を有する筐体に表示部606が組み込まれており、本発明の一態様の発光装置を表示部606に用いることができる。本発明の一態様に係る発光装置は、発光装置に含まれる発光素子の一対の電極及びその支持体に、透光性を有する材料を用いることで、発光装置の上面及び下面の双方から外部に発光を取り出すことができる。従って、この発光装置を表示部606に適用することで、表示部606からフロントガラスを通して外部を視認することができる。同様に、外部からフロントガラスを通して表示部606に表示される画像を視認することもできる。
【0173】
なお、図6に示す表示装置600または表示装置602を、照明装置として用いることも可能である。
【0174】
図7は、発光装置を、室内の照明装置801として用いた例である。発光装置は大面積化も可能であるため、大面積の照明装置として用いることができる。その他、曲面を有する筐体を用いることで、発光領域が曲面を有する照明装置803とすることもできる。本実施の形態で示す照明装置に含まれる発光素子は薄膜状であり、筐体のデザインの自由度が高い。したがって、様々な意匠を凝らした照明装置とすることができる。
【0175】
また、本発明の一態様を適用した照明装置を用いた部屋に、図5(A)で一例を示したような、テレビジョン装置7100aを設置することも可能である。テレビジョン装置7100aは、通常の2次元表示に加えて3次元表示機能を有していてもよい。図7においては、3次元表示観賞用のメガネ805を用いて3次元表示された画像を鑑賞することができる。
【0176】
以上のようにして、発光装置を適用して電子機器や照明器具を得ることができる。発光装置の適用範囲は極めて広く、あらゆる分野の電子機器や照明器具に適用することが可能である。
【0177】
なお、本実施の形態に示す構成は、実施の形態1乃至実施の形態4に示した構成を適宜組み合わせて用いることができる。
【実施例1】
【0178】
本実施例では、実施の形態1の構造式(100)で表される4−[4−(9−フェナントリル)フェニル]ジベンゾチオフェン(略称:DBTPPn−II)を合成する例を示す。
【0179】
【化27】

【0180】
1.2g(3.6mmol)の9−(4−ブロモフェニル)フェナントレンと、0.8g(3.5mmol)のジベンゾチオフェン−4−ボロン酸と、53mg(0.2mmol)のトリス(2−メチルフェニル)ホスフィンを50mLの三口フラスコに入れ、フラスコ内を窒素置換した。この混合物に3.5mLの2.0M炭酸カリウム水溶液と、13mLのトルエンと、4.0mLのエタノールを加え、減圧下で攪拌することにより脱気した。この混合物に8.0mg(36μmol)の酢酸パラジウム(II)を加え、窒素気流下、80℃で7時間攪拌した。所定時間経過後、得られた混合物の水層をトルエンで抽出した。
【0181】
得られた抽出溶液と有機層を合わせ、飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。この混合物を自然濾過により濾別し、濾液を濃縮して油状物を得た。この油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。カラムクロマトグラフィーはヘキサン:トルエン=20:1を展開溶媒として用いることにより行った。得られたフラクションを濃縮して油状物を得た。この油状物にトルエンとヘキサンの混合溶媒を加えて結晶を析出させ、目的物である白色粉末を収量0.8g、収率53%で得た。
【0182】
得られた白色粉末0.8gをトレインサブリメーション法により昇華精製した。昇華精製は、圧力2.4Pa、アルゴン流量5mL/minの条件で、白色粉末を240℃で加熱して行った。昇華精製後、白色粉末を0.7g、収率88%で得た。上述の合成スキームを下記(E1)に示す。
【0183】
【化28】

【0184】
核磁気共鳴法(NMR)によって、この化合物が目的物である4−[4−(9−フェナントリル)フェニル]ジベンゾチオフェン(略称:DBTPPn−II)であることを確認した。
【0185】
得られた化合物のH NMRデータを以下に示す。
H NMR(CDCl,300MHz):δ(ppm)=7.46−7.53(m,2H)、7.58−7.73(m,8H)、7.80(s,1H)、7.87−7.96(m,4H)、8.07(d,J=8.1Hz,1H)、8.18−8.24(m,2H)、8.76(d,J=8.1Hz,1H)、8.82(d,J=7.8Hz,1H)。
【0186】
また、H NMRチャートを図8(A)、(B)に示す。なお、図8(B)は、図8(A)における7.0ppm〜9.0ppmの範囲を拡大して表したチャートである。
【0187】
また、DBTPPn−IIのトルエン溶液の吸収スペクトルを図9(A)に、発光スペクトルを図9(B)にそれぞれ示す。また、DBTPPn−IIの薄膜の吸収スペクトルを図10(A)に、発光スペクトルを図10(B)にそれぞれ示す。吸収スペクトルの測定には紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製、V550型)を用いた。溶液は石英セルに入れ、薄膜は石英基板に蒸着してサンプルを作製して測定を行った。吸収スペクトルは、溶液については石英セルにトルエンのみを入れて測定した吸収スペクトルを生データから差し引いた吸収スペクトル、薄膜については石英基板の吸収スペクトルを生データから差し引いた吸収スペクトルを示した。図9(A)及び図10(A)において横軸は波長(nm)、縦軸は吸収強度(任意単位)を表す。また、図9(B)及び図10(B)において横軸は波長(nm)、縦軸は発光強度(任意単位)を表す。トルエン溶液の場合では284nmに吸収ピークが見られ、303、及び331nmに吸収ピークの肩が見られ、発光波長のピークは361及び375nm(励起波長306nm)であった。また、薄膜の場合では248、及び338nmに吸収ピークと肩が見られ、発光波長のピークは382nm(励起波長305nm)であった。
【0188】
また、DBTPPn−IIの薄膜状態におけるHOMO準位とLUMO準位の測定を行った。HOMO準位の値は、大気中の光電子分光法(理研計器社製、AC−2)で測定したイオン化ポテンシャルの値を、負の値に換算することにより得た。また、LUMO準位の値は、図10(B)に示したDBTPPn−IIの薄膜の吸収スペクトルのデータを用い、直接遷移を仮定したTaucプロットから吸収端を求め、その吸収端を光学的エネルギーギャップとしてHOMO準位の値に加算することにより得た。その結果、DBTPPn−IIのHOMO準位は、−5.86eVであり、エネルギーギャップは、3.45eVであり、LUMO準位は、−2.41eVであった。
【実施例2】
【0189】
本実施例では、本発明の一態様の発光素子の作製方法および素子特性の測定結果を、図面を用いて説明する。
【0190】
本実施例の発光素子1の作製方法を、図11を用いて説明する。また、本実施例で用いた有機化合物の構造式を以下に示す。
【0191】
【化29】

【0192】
(発光素子1)
まず、ガラス基板1100上に、酸化珪素を含むインジウム錫酸化物(ITSO)をスパッタリング法にて成膜し、第1の電極1101を形成した。なお、その膜厚は110nmとし、電極面積は2mm×2mmとした。本実施例において、第1の電極1101は、陽極として用いた。
【0193】
次に、第1の電極1101が形成された面が下方となるように、第1の電極1101が形成されたガラス基板1100を真空蒸着装置内に設けられた基板ホルダーに固定し、10−4Pa程度まで減圧した後、第1の電極1101上に、4−フェニル−4’−(9−フェニルフルオレン−9−イル)トリフェニルアミン(略称:BPAFLP)と酸化モリブデン(VI)を共蒸着することで、正孔注入層1111を形成した。その膜厚は、50nmとし、BPAFLPと酸化モリブデンの比率は、重量比で4:2(=BPAFLP:酸化モリブデン)となるように調節した。なお、共蒸着法とは、一つの処理室内で、複数の蒸発源から同時に蒸着を行う蒸着法である。
【0194】
次に、正孔注入層1111上に、BPAFLPを10nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層1112を形成した。
【0195】
さらに、実施例1で合成した4−[4−(9−フェナントリル)フェニル]ジベンゾチオフェン(略称:DBTPPn−II)と、トリス(2−フェニルピリジナト−N,C2’)イリジウム(III)(略称:Ir(ppy))とを共蒸着し、正孔輸送層1112上に発光層1113を形成した。ここで、DBTPPn−II及びIr(ppy)の重量比は、1:0.08(=DBTPPn−II:Ir(ppy))となるように調節した。また、発光層1113の膜厚は40nmとした。
【0196】
次に、発光層1113上に、DBTPPn−IIを膜厚15nmとなるように成膜し、第1の電子輸送層1114aを形成した。
【0197】
その後、第1の電子輸送層1114a上にバソフェナントロリン(略称:BPhen)を膜厚15nmとなるように成膜し、第2の電子輸送層1114bを形成した。
【0198】
さらに、第2の電子輸送層1114b上に、フッ化リチウム(LiF)を1nmの膜厚で蒸着し、電子注入層1115を形成した。
【0199】
最後に、陰極として機能する第2の電極1103として、アルミニウムを200nmの膜厚となるように蒸着することで、本実施例の発光素子1を作製した。
【0200】
なお、上述した蒸着過程において、蒸着は全て抵抗加熱法を用いた。
【0201】
以上により得られた発光素子1の素子構造を表1に示す。
【0202】
【表1】

【0203】
発光素子1を、窒素雰囲気のグローブボックス内において、発光素子が大気に曝されないように封止する作業を行った後、発光素子の動作特性について測定を行った。なお、測定は室温(25℃に保たれた雰囲気)で行った。
【0204】
発光素子1の電流密度−輝度特性を図12、電圧−輝度特性を図13、輝度−電流効率特性を図14、電圧−電流特性を図15にそれぞれ示す。図12では、横軸に電流密度(mA/cm)、縦軸に輝度(cd/m)を示し、図13では横軸に電圧(V)、縦軸に輝度(cd/m)を示す。また、図14では、横軸に輝度(cd/m)、縦軸に電流効率(cd/A)を示し、図15では、横軸に電圧(V)、縦軸に電流(mA)を示す。また、発光素子1の発光スペクトルを、図16に示す。図16において、横軸は波長(nm)、縦軸は発光強度(任意単位)を示す。
【0205】
発光素子1において、800cd/mの輝度を得るために必要な電圧は4.8Vであり、その時流れた電流は0.070mA(電流密度は1.76mA/cm)であった。また、この時の電流効率は45.7cd/Aであった。
【0206】
図12乃至図16より、本実施例の発光素子が、発光素子として特性が得られ、十分機能することが確認できた。
【0207】
また、図16より、発光素子1の発光スペクトルは、520nm付近にピークを有しており、発光素子1は、ゲスト材料であるIr(ppy)に由来する緑色発光が観測された。よって、実施の形態1で示すフェナントレン化合物(本実施例においてはDBTPPn−II)は、発光素子の発光層において、バイポーラ性のホスト材料として機能していることがわかった。
【0208】
以上より、本発明の一態様のフェナントレン化合物を発光層及び電子輸送層に用いることで、発光素子としての特性を十分に実現できることが示された。また、本実施例の発光素子は、緑色の燐光性化合物のホスト材料として、本発明の一態様に係るフェナントレン化合物を適用しており、本発明の一態様に係るフェナントレン化合物のT1準位が十分に高い(少なくとも緑色材料よりも高いT1準位である)ことが確認された。
【実施例3】
【0209】
本実施例では、実施の形態1の構造式(109)で表される4−[3’−(9−フェナントリル)ビフェニル−3−イル]ジベンゾチオフェン(略称:mDBTBPPn−II)を合成する例を示す。
【0210】
【化30】

【0211】
1.1g(2.9mmol)の3−[3−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニル]フェニルボロン酸と、0.75g(2.9mmol)の9−ブロモフェナントレンと、45mg(0.15mmol)のトリス(2−メチルフェニル)ホスフィンを50mLの三口フラスコに入れ、フラスコ内を窒素置換した。この混合物に2.9mLの2M炭酸カリウム水溶液と、12mLのトルエンと、3.5mLのエタノールを加え、減圧下で攪拌することにより脱気した。この混合物に6.6mg(0.029mmol)の酢酸パラジウム(II)を加え、窒素気流下、90℃で6時間攪拌した。所定時間経過後、この混合物に水を加え、水層をトルエンで抽出した。
【0212】
得られた抽出溶液と有機層を合わせ、水と、飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。この混合物を自然濾過により濾別し、濾液を濃縮して淡褐色油状物を得た。この油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;トルエン)により精製した。得られたフラクションを濃縮し、無色油状物を得た。この油状物にトルエンとヘキサンの混合溶媒を加え、結晶を析出させることにより、目的物である白色固体を収量1.2g、収率80%で得た。
【0213】
得られた白色固体1.2gをトレインサブリメーション法により昇華精製した。昇華精製は、圧力3.6Pa、アルゴン流量5.0mL/minの条件で、白色固体を250℃で加熱して行った。昇華精製後、白色固体を収量1.0g、収率83%で得た。上述の合成スキームを下記(F1)に示す。
【0214】
【化31】

【0215】
核磁気共鳴(NMR)によって、この化合物が目的物である4−[3’−(9−フェナントリル)ビフェニル−3−イル]ジベンゾチオフェン(略称:mDBTBPPn−II)であることを確認した。
【0216】
得られた物質のH NMRデータを以下に示す。
H NMR(CDCl,300MHz):δ(ppm)=7.44−7.48(m,2H)、7.52−7.84(m,14H)、7.89−7.92(m,2H)、8.01(dd,1H)、8.07−8.08(m,1H)、8.14−8.21(m,2H)、8.74(d,1H)、8.79(d,1H)。
【0217】
また、H NMRチャートを図17(A)、(B)に示す。なお、図17(B)は、図17(A)における7.0ppm〜9.0ppmの範囲を拡大して表したチャートである。
【0218】
また、mDBTBPPn−IIのトルエン溶液の吸収スペクトルを図18(A)に、発光スペクトルを図18(B)にそれぞれ示す。また、mDBTBPPn−IIの薄膜の吸収スペクトルを図19(A)に、発光スペクトルを図19(B)にそれぞれ示す。吸収スペクトルの測定には紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製、V550型)を用いた。溶液は石英セルに入れ、薄膜は石英基板に蒸着してサンプルを作製して測定を行った。吸収スペクトルについては、溶液については石英セルにトルエンのみを入れて測定した吸収スペクトルを生データから差し引いた吸収スペクトル、薄膜については石英基板の吸収スペクトルを生データから差し引いた吸収スペクトルを示した。図18(A)及び図19(A)において横軸は波長(nm)、縦軸は吸収強度(任意単位)を表す。また、図18(B)及び図19(B)において横軸は波長(nm)、縦軸は発光強度(任意単位)を表す。トルエン溶液の場合では282及び331nmに吸収ピークが、298nmに肩が見られ、発光波長のピークは356、365、374及び393nm(励起波長330nm)であった。また、薄膜の場合では212、249、334nmに吸収ピークが、261、287、305nmに吸収の肩が見られ、発光波長のピークは361及び377、肩が395nm(励起波長335nm)であった。
【0219】
また、mDBTBPPn−IIの薄膜状態におけるHOMO準位とLUMO準位の測定を行った。HOMO準位の値は、大気中の光電子分光法(理研計器社製、AC−2)で測定したイオン化ポテンシャルの値を、負の値に換算することにより得た。また、LUMO準位の値は、図19(B)に示したmDBTBPPn−IIの薄膜の吸収スペクトルのデータを用い、直接遷移を仮定したTaucプロットから吸収端を求め、その吸収端を光学的エネルギーギャップとしてHOMO準位の値に加算することにより得た。その結果、mDBTBPPn−IIのHOMO準位は、−5.90eVであり、エネルギーギャップは、3.47eVであり、LUMO準位は、−2.43eVであった。
【実施例4】
【0220】
本実施例では、本発明の一態様の発光素子の作製方法および素子特性の測定結果を、図面を用いて説明する。
【0221】
本実施例の発光素子2および発光素子3の作製方法を、図20を用いて説明する。本実施例で用いた有機化合物を以下に示す。なお、実施例2に示した有機化合物と同様の有機化合物はその記載を省略する。
【化32】

【0222】
(発光素子2)
まず、ガラス基板1100上に、酸化珪素を含むインジウム錫酸化物(ITSO)をスパッタリング法にて成膜し、第1の電極1101を形成した。なお、その膜厚は110nmとし、電極面積は2mm×2mmとした。本実施例において、第1の電極1101は、陽極として用いた。
【0223】
次に、第1の電極1101が形成された面が下方となるように、第1の電極1101が形成されたガラス基板1100を真空蒸着装置内に設けられた基板ホルダーに固定し、10―4Pa程度まで減圧した後、第1の電極1101上に、1,3,5−トリ(ジベンゾチオフェン−4−イル)−ベンゼン(略称:DBT3P−II)と酸化モリブデン(VI)を共蒸着することで、正孔注入層1111を形成した。その膜厚は40nmとし、DBT3P−IIと酸化モリブデンの比率は、重量比で4:2(=DBT3P−II:酸化モリブデン)となるように調節した。なお、共蒸着法とは、一つの処理室内で、複数の蒸発源から同時に蒸着を行う蒸着法である。
【0224】
次に、正孔注入層1111上に、BPAFLPを20nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層1112を形成した。
【0225】
さらに、実施例1で合成した4−[4−(9−フェナントリル)フェニル]ジベンゾチオフェン(略称:DBTPPn−II)と、トリス(2−フェニルピリジナト−N,C2’)イリジウム(III)(略称:Ir(ppy))とを共蒸着し、正孔輸送層1112上に発光層を形成した。ここで、発光層は、DBTPPn−II及びIr(ppy)の重量比が1:0.08(=DBTPPn−II:Ir(ppy))となるように調節し、膜厚10nmとした第1の発光層1113aと、DBTPPn−II及びIr(ppy)の重量比が1:0.04(=DBTPPn−II:Ir(ppy))となるように調節し、膜厚20nmとした第2の発光層1113bとの積層構造とした。
【0226】
次に、第2の発光層1113b上に、DBTPPn−IIを膜厚10nmとなるように成膜し、第1の電子輸送層1114aを形成した。
【0227】
その後、第1の電子輸送層1114a上にバソフェナントロリン(略称:BPhen)を膜厚20nmとなるように成膜し、第2の電子輸送層1114bを形成した。
【0228】
さらに、第2の電子輸送層1114b上に、フッ化リチウム(LiF)を1nmの膜厚で蒸着し、電子注入層1115を形成した。
【0229】
最後に、陰極として機能する第2の電極1103として、アルミニウムを200nmの膜厚となるように蒸着することで、本実施例の発光素子2を作製した。
【0230】
なお、上述した蒸着過程において、蒸着は全て抵抗加熱法を用いた。
【0231】
次に、発光素子3の作製方法について説明する。
【0232】
(発光素子3)
発光素子2と同一基板を用い、発光層にDBTPPn−IIの代わりに、実施例3で示した4−[3’−(9−フェナントリル)ビフェニル−3−イル]ジベンゾチオフェン(略称:mDBTBPPn−II)を用いて発光素子2と同様に作製した。つまり、発光素子3の発光層は、mDBTBPPn−IIと、トリス(2−フェニルピリジナト−N,C2’)イリジウム(III)(略称:Ir(ppy))と、を共蒸着することにより作製した。ここで、発光層は、mDBTBPPn−II及びIr(ppy)の重量比が、1:0.08(=mDBTBPPn−II:Ir(ppy))となるように調節し、膜厚10nmとした第1の発光層1113aと、mDBTBPPn−II及びIr(ppy)の重量比が、1:0.04(=mDBTBPPn−II:Ir(ppy))となるように調節し、膜厚20nmとした第2の発光層1113bとの積層構造とした。
【0233】
次に、第2の発光層1113b上に、mDBTBPPn−IIを膜厚10nmとなるように成膜し、第1の電子輸送層1114aを形成した。
【0234】
なお、発光層および第1の電子輸送層1114a以外は発光素子2と同様に作製した。
【0235】
発光素子2および発光素子3の素子構造を表2に示す。
【0236】
【表2】

【0237】
以上により得られた、発光素子2および発光素子3を、窒素雰囲気のグローブボックス内において、発光素子が大気に曝されないように封止する作業を行った後、それぞれの発光素子の動作特性について測定を行った。なお、測定は室温(25℃に保たれた雰囲気)で行った。
【0238】
発光素子2および発光素子3の電流密度−輝度特性を図21、電圧−輝度特性を図22、輝度−電流効率特性を図23、電圧−電流特性を図24にそれぞれ示す。図21では、横軸に電流密度(mA/cm)、縦軸に輝度(cd/m)を示し、図22では横軸に電圧(V)、縦軸に輝度(cd/m)を示す。また、図23では、横軸に輝度(cd/m)、縦軸に電流効率(cd/A)を示し、図24では、横軸に電圧(V)、縦軸に電流(mA)を示す。また、発光素子2および発光素子3の発光スペクトルを、図25に示す。図25において、横軸は波長(nm)、縦軸は発光強度(任意単位)を示す。
【0239】
図21乃至図24より、発光素子2において電圧4.8Vを印加した際の輝度は1130cd/mであり、その時流れた電流は0.13mA(電流密度は3.2mA/cm)であった。また、この時の電流効率は35.5cd/Aであった。したがって、発光素子2は効率よく発光を得られることが明らかになった。
【0240】
一方、発光素子3において電圧4.4Vを印加した際の輝度は820cd/mであり、その時流れた電流は0.05mA(電流密度は1.2mA/cm)であった。また、この時の電流効率は68.8cd/Aであった。したがって、発光素子3は、さらに効率よく発光を得られることが明らかになった。
【0241】
また、図25より、発光素子2と発光素子3の発光スペクトルはいずれも515から520nmあたりにピークを有しており、ゲスト材料であるIr(ppy)に由来する緑色発光が観測された。よって、実施の形態1で示すフェナントレン化合物(ここでは、DBTPPn−II及びmDBTBPPn−II)は、発光素子の発光層において、バイポーラ性のホスト材料として機能していることがわかった。
【0242】
次に、発光素子2および発光素子3の信頼性試験を行った。信頼性試験は、初期輝度を5000cd/mに設定し、電流密度一定の条件で本実施例の発光素子2および発光素子3を駆動し、ある時間が経過する毎に輝度を測定した。信頼性試験によって得られた結果を図26に示す。図26において、縦軸は初期輝度を100%とした時の、それぞれの時間における輝度の割合、すなわち規格化輝度(%)を示し、横軸は素子の駆動時間(h)を示す。
【0243】
図26から、発光素子2の輝度は140時間の駆動後には初期輝度の52%を保ち、発光素子3の輝度は140時間の駆動後には初期輝度の79%を保っていた。したがって、mDBTBPPn−IIを用いた発光素子は長寿命である。以上より、本発明のフェナントレン化合物を用いた発光素子は長寿命であることが明らかになった。
【0244】
(参考例)
本参考例では、発光素子1乃至発光素子3の材料に用いた4−フェニル−4’−(9−フェニルフルオレン−9−イル)トリフェニルアミン(略称:BPAFLP)を合成する例を示す。
【0245】
[ステップ1:9−(4−ブロモフェニル)−9−フェニルフルオレンの合成法]
100mL三口フラスコにて、マグネシウムを1.2g(50mmol)減圧下で30分加熱撹拌し、マグネシウムを活性化させた。これを室温に冷まして窒素雰囲気にした後、ジブロモエタン数滴を加えて発泡、発熱するのを確認した。ここに脱水ジエチルエーテル10mL中に溶かした2−ブロモビフェニルを12g(50mmol)ゆっくり滴下した後、2.5時間加熱還流撹拌してグリニヤール試薬とした。
【0246】
4−ブロモベンゾフェノンを10g(40mmol)、脱水ジエチルエーテルを100mL、を500mL三口フラスコに入れた。ここに先に合成したグリニヤール試薬をゆっくり滴下した後、9時間加熱還流撹拌した。
【0247】
反応後、この混合液を濾過して濾物を得た。得られた濾物を酢酸エチル150mLに溶かし、ここに1N−塩酸を酸性になるまで加えて2時間撹拌した。この液体の有機層の部分を水で洗浄し、硫酸マグネシウムを加えて水分を取り除いた。この懸濁液を濾過し、得られた濾液を濃縮し油状物を得た。続けて、500mLナスフラスコに、この油状物と、氷酢酸50mLと、塩酸1.0mLとを入れ、窒素雰囲気下、130℃で1.5時間加熱撹拌し、反応させた。
【0248】
反応後、この反応混合液を濾過して濾物を得た。得られた濾物を水、水酸化ナトリウム水、水、メタノールの順で洗浄したのち乾燥させ、目的物の白色粉末を収量11g、収率69%で得た。上述のステップ1の合成スキームを下記(J−1)に示す。
【0249】
【化33】

【0250】
[ステップ2:4−フェニル−4’−(9−フェニルフルオレン−9−イル)トリフェニルアミン(略称:BPAFLP)の合成法]
100mL三口フラスコへ、9−(4−ブロモフェニル)−9−フェニルフルオレンを3.2g(8.0mmol)、4−フェニル−ジフェニルアミンを2.0g(8.0mmol)、ナトリウム tert−ブトキシドを1.0g(10mmol)、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)を23mg(0.04mmol)加え、フラスコ内の雰囲気を窒素置換した。この混合物へ、脱水キシレン20mLを加えた。この混合物を、減圧下で攪拌しながら脱気した後、トリ(tert−ブチル)ホスフィン(10wt%ヘキサン溶液)0.2mL(0.1mmol)を加えた。この混合物を、窒素雰囲気下、110℃で2時間加熱撹拌し、反応させた。
【0251】
反応後、この反応混合液にトルエン200mLを加え、この懸濁液をフロリジール(和光純薬工業株式会社、カタログ番号:540−00135)、セライト(和光純薬工業株式会社、カタログ番号:531−16855)を通して濾過した。得られた濾液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 トルエン:ヘキサン=1:4)による精製を行った。得られたフラクションを濃縮し、アセトンとメタノールを加えて超音波をかけたのち、結晶を析出させ、目的物の白色粉末を収量4.1g、収率92%で得た。上述のステップ2の合成スキームを下記(J−2)に示す。
【0252】
【化34】

【0253】
シリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)でのRf値(展開溶媒 酢酸エチル:ヘキサン=1:10)は、目的物は0.41、9−(4−ブロモフェニル)−9−フェニルフルオレンは0.51であり、4−フェニル−ジフェニルアミンは0.27であった。
【0254】
核磁気共鳴法(NMR)によって、この化合物が目的物である4−フェニル−4’−(9−フェニルフルオレン−9−イル)トリフェニルアミン(略称:BPAFLP)であることを確認した。
【0255】
得られた化合物のH NMRデータを以下に示す。
H NMR(CDCl、300MHz):δ(ppm)=6.63−7.02(m、3H)、7.06−7.11(m、6H)、7.19−7.45(m、18H)、7.53−7.55(m、2H)、7.75(d、J=6.9、2H)。
【符号の説明】
【0256】
100 基板
101 電極
102 EL層
103 電極
111 正孔注入層
112 正孔輸送層
113 発光層
113a 発光層
113b 発光層
114 電子輸送層
115 電子注入層
301 電極
303 電極
311 発光ユニット
312 発光ユニット
313 電荷発生層
401 ソース側駆動回路
402 画素部
403 ゲート側駆動回路
404 封止基板
405 シール材
407 空間
408 配線
409 FPC(フレキシブルプリントサーキット)
410 素子基板
411 スイッチング用TFT
412 電流制御用TFT
413 電極
414 絶縁物
416 EL層
417 電極
418 発光素子
423 nチャネル型TFT
424 pチャネル型TFT
501 基板
502 電極
503 電極
504 EL層
505 絶縁層
506 隔壁層
600 表示装置
602 表示装置
604 表示部
606 表示部
801 照明装置
803 照明装置
805 メガネ
1100 ガラス基板
1101 電極
1103 電極
1111 正孔注入層
1112 正孔輸送層
1113 発光層
1114a 電子輸送層
1114b 電子輸送層
1115 電子注入層
7100 テレビジョン装置
7100a テレビジョン装置
7101 筐体
7103 表示部
7105 スタンド
7107 表示部
7109 操作キー
7110 リモコン操作機
7201 本体
7202 筐体
7203 表示部
7204 キーボード
7205 外部接続ポート
7206 ポインティングデバイス
7301 筐体
7302 筐体
7303 連結部
7304 表示部
7305 表示部
7306 スピーカ部
7307 記録媒体挿入部
7308 LEDランプ
7309 入力手段(操作キー
7310 接続端子
7311 センサ
7312 マイクロフォン
7400 携帯電話機
7401 筐体
7402 表示部
7403 操作ボタン
7404 外部接続ポート
7405 スピーカ
7406 マイク
7500 照明装置
7501 筐体
7503a 発光装置
7503b 発光装置
7503c 発光装置
7503d 発光装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(G1)で表されるフェナントレン化合物。
【化1】

(但し、一般式(G1)中、R11〜R19及びR21〜R27はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数6〜13の置換若しくは無置換のアリール基のいずれか一を表す。また、Arは、炭素数6〜13の置換又は無置換のアリーレン基を表す。また、Zは硫黄原子または酸素原子を表す。)
【請求項2】
請求項1において、
前記Arが、置換若しくは無置換のフェニレン基、又は、置換若しくは無置換のビフェニルジイル基であるフェナントレン化合物。
【請求項3】
請求項1において、
前記Arが、置換又は無置換のフェニレン基であるフェナントレン化合物。
【請求項4】
下記一般式(G2)で表されるフェナントレン化合物。
【化2】

(但し、一般式(G2)中、R11〜R19及びR21〜R27はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数6〜13の置換又は無置換のアリール基のいずれか一を表す。また、Zは硫黄原子または酸素原子を表す。)
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一に記載のフェナントレン化合物を含む発光素子。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一に記載のフェナントレン化合物を発光層に含む発光素子。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか一に記載のフェナントレン化合物と、燐光性発光物質と、を発光層に含む発光素子。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれか一に記載の発光素子を有する発光装置。
【請求項9】
請求項8に記載の発光装置を搭載した電子機器。
【請求項10】
請求項8に記載の発光装置を搭載した照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2012−107004(P2012−107004A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233561(P2011−233561)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】