説明

フェノールの処理方法

【解決手段】本発明は、メチルベンゾフランおよびヒドロキシアセトンを含む粗フェノール流を、直列に接続した酸性イオン交換樹脂を含有する少なくとも2つの反応器を通すことによる、粗フェノール流の連続的処理方法であって、それにより連続した反応器内の温度はフェノール流の流れ方向に低下し、いずれの2つの連続する反応器の間にも熱分離工程を用いず、フェノール流の流れ方向における第一の反応器内の温度が100℃〜200℃であり、フェノール流の流れ方向における最後の反応器内の温度が50℃〜90℃である方法、および、フェノールの製造方法におけるこの方法の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノールの処理方法に関し、特に、粗フェノール流からヒドロキシアセトンおよびメチルベンゾフランを除去する連続的方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クメンからフェノールを製造する方法はよく知られている。この方法では、クメンは初めに空気酸素でクメンヒドロペルオキシドに酸化される。この方法工程は、一般に、酸化と呼ばれる。第二の反応工程、いわゆる分解工程で、クメンヒドロペルオキシドは、触媒として例えば硫酸等の強鉱酸を用いて、フェノールとアセトンとに分解される。次に、この第二の反応工程の生成物、いわゆる分解生成物は、蒸留によって分画される。
【0003】
市販されるフェノールの純度に対する要求は、ますます厳しくなってきている。従って、フェノールの生産プラントを経済的に操業するためには、低投資費用および低変動費、特に低エネルギー費用で、所望の最終産物の全体収率および選択率を向上させ、所望の最終産物、特にフェノールおよびアセトンの損失は最低限で、上述の全反応工程の間に形成される不純物をできるだけ定量的に除去しなければならない。酸化工程中に形成される主な副生物は、ジメチルベンジルアルコールおよびアセトフェノンである。アセトフェノンは、蒸留により、高沸点溶剤と共にこの方法工程から分離される。ジメチルベンジルアルコールはα−メチルスチレンへの分解工程において脱水され、酸触媒での分解工程で部分的に高沸点ダイマーおよびクミルフェノールを形成する。高沸点溶剤は蒸留工程でフェノールから分離される。未反応のα−メチルスチレンは、方法中にリサイクルされるクメンを形成するために分離および水素化される。市場の需要によって、α−メチルスチレンもまた、さらに精製され、価値生産物として販売され得る。従って、従来技術における一つの焦点は、直接的なクメンの損失と考え得るこれらの高沸点溶剤の形成を減じるため、酸化工程および分解工程をいかに操作するかである。例えば、分解については、これらの方法が米国特許US-A-4,358,618号、米国特許US-A-5,254,751号、国際特許WO98/27039号および米国特許US-6,555,719号に記載されている。
【0004】
しかし、これらの高沸点溶剤に加えて、分解において、例えばヒドロキシアセトン、2−メチルベンゾフランおよびメシチルオキシド等の他の成分が形成される。これらのいわゆる微量不純物は、蒸留でフェノールから分離することは容易ではない。ヒドロキシアセトンは蒸留ではフェノールから分離することはほとんど不可能であるので、最も重要な成分である。ヒドロキシアセトンは、一般的に、分解工程で得られる生成物の中で最も高濃度の不純物でもある。分解生成物中のヒドロキシアセトンの濃度は、200〜3,000wppm(百万分の1重量部)に変化し得る。
【0005】
従って、従来技術では、分解工程で得られる生成物からヒドロキシアセトンを除去および分離するため、多大な努力がなされている(例えば、米国特許US 6,066,767号、同US 6,630,608号、同US 6,576,798号および同US 6,875,898号を参照のこと)。これら全ての方法の不利点は、分解生成物の高容量の流れを処理しなければならないことである。加えて、米国特許US 6,875,898号では、分解生成物の高容量の流れは酸化剤で処理しなければならないが、酸化剤は方法を安全に操作するために甚大な努力を要しかねない。
【0006】
蒸留に先立ち、分解生成物は、ナトリウムフェノキシドまたは苛性ソーダ等の塩基性水溶液で中和する。次に、水で飽和した分解生成物を蒸留する。よく知られている方法では、米国特許US 3,405,038号または米国特許US 6,657,087号に記載されている通り、第一の蒸留カラムで分離される水相と共にほとんどのヒドロキシアセトンが分離され、高沸点溶剤を伴う粗フェノールが残油となる。いずれの場合においても、その後のカラムでさらに処理される粗フェノールはなおも、純フェノールまたは高純度フェノールにおいても許容されない、100wppm程度の濃度のヒドロキシアセトン、2−メチルベンゾフランおよびメシチルオキシドを有するであろう。
【0007】
独国特許DE-AS 1 668 952号には、粗フェノールを45〜200℃、好ましくは80〜150℃の温度で酸性イオン交換樹脂を通過させることによって、粗フェノールからメシチルオキシド、イソメシチルオキシド、メチルイソブチルケトン、ヒドロキシアセトンおよびアセトフェノン等のカルボニル含有成分を除去する方法が開示されている。
【0008】
また、この引例は、2つの異なるイオン交換樹脂を用いる可能性も開示し、このような触媒の組み合わせを用いる場合、それぞれの触媒タイプの効率を最適化するため、異なる温度を使用し得る。この引例は、メチルベンゾフランの除去に関しては全く言及しておらず、イオン交換樹脂を含有する反応器を、一連の反応器を通して明確に規定された温度プロファイルを用いて操作することも開示していない。
【0009】
独国特許DE-A 199 51 373号の導入部からも明らかなように、独国特許DE-AS 1 668 952号に開示された方法は、メチルイソブチルケトンおよびメチルシクロペンテノンのような低活性カルボニル化合物、およびメチルベンゾフランのような化合物の除去には適さない。従って、独国特許DE-AS 1 668 952号に記載された方法は、粗フェノール流からヒドロキシアセトンおよびメチルベンゾフランを除去するという問題を解決しない。
【0010】
米国特許US-A-5,414,154号には、フェノール流を70〜120℃の温度でイオン交換樹脂に接触させる、フェノールの精製方法が記載されている。この特許では、イオン交換樹脂での処理効率は、樹脂の温度安定性の範囲を考慮しながら、温度の上昇に伴って増加することが強調されている。しかし、さらには、粗フェノール流におけるヒドロキシアセトンの初期濃度が260wppm未満であり、好ましくは、粗フェノール流をイオン交換樹脂と接触させる際に、メチルベンゾフランを効率的に除去するために、ヒドロキシアセトンを完全に除去してその存在が10wppmである場合にのみ、メチルベンゾフランを粗フェノール流から分離し得ることが、明らかである。
【0011】
従って、米国特許US-5,414,154号に記載された方法は、イオン交換樹脂での精製に先立つ上流のユニットにおいて、ヒドロキシアセトンを効率的に除去することが必要である。イオン交換樹脂での精製に先立つ上流のユニットにおいてヒドロキシアセトンを除去することは全て、投資費用および変動費に関する余分な努力を意味するので、これは不利点である。このような方法の例が、米国特許US-A-6,066,767号、同US-A-6,630,608号、同US-A-6,576,798号および同US-A-6,875,898号に記載されている。
【0012】
独国特許DE-A 1 995 373号は、開示された方法では2-メチルベンゾフランが効果的に分離できないという独国特許DE-A 1 668 952号の不利点、および、イオン交換樹脂で処理される粗フェノール流のヒドロキシアセトン含量がある制限未満であると、粗フェノール流からメチルベンゾフランのみが効果的に除去され得るという米国特許US-5,414,154号の教示の不利点を考慮に入れ、粗フェノール流をイオン交換樹脂と接触させる2工程の方法であって、粗フェノールを酸性イオン交換樹脂と接触させる2工程の間に、蒸留工程のような熱分離工程を有する方法を提案している。この方法は、方法全体の投資およびエネルギーコストを著しく増加させるさらなる蒸留工程が必要であり、非常に不利である。
【0013】
最後に、米国特許US 2005/0137429号の教示は、1工程の方法を用いてヒドロキシアセトンおよびメチルベンゾフランを除去するために、粗フェノールの多段階精製の不利点を回避しようとしており、この教示では、粗フェノールを50〜100℃の低温でイオン交換樹脂と接触させる。この1工程の方法は、ヒドロキシアセトンとメチルベンゾフランの低減に確かに有効であるが、この方法は、この相対的低温での反応速度が遅いため、相対的に高容量の反応器および/または高活性のイオン交換樹脂が必要である。
【0014】
上述した従来技術を考慮すると、高純度のフェノールを製造するためには、ヒドロキシアセトン、メチルベンゾフランおよび他の不純物を低減するための、有効かつ経済的な粗フェノールの精製方法がなおも必要である。
【発明の開示】
【0015】
驚くべきことに、この目的は、メチルベンゾフランおよびヒドロキシアセトンを含む粗フェノール流を、直列に接続した酸性イオン交換樹脂を含有する少なくとも2つの反応器を通すことによる、粗フェノール流の連続的処理方法であって、それにより連続した反応器内の温度はフェノール流の流れ方向に低下し、いずれの2つの連続する反応器の間にも熱分離工程を用いず、フェノール流の流れ方向における第一の反応器内の温度が100℃〜200℃であり、フェノール流の流れ方向における最後の反応器内の温度が50℃〜90℃である方法によって達成された。
【0016】
従来技術の引例の教示とは対照的に、本発明者らは、直列の酸性イオン交換樹脂を含有する複数の反応器を用い、重要なことには上記で規定した通り一連の反応器を通じて温度プロファイルを調節することによって、酸性イオン交換樹脂と接触させる前にヒドロキシアセトンを最初に除去することなく、かつ、酸性イオン交換樹脂を含む2つの反応器の間にエネルギーを消費する蒸留工程がなく、粗フェノール流を精製して、ヒドロキシアセトンおよびメチルベンゾフランの含量を低くし得ることを認識した。さらに驚くべきことに、少なくとも2つの反応器を使用しなければならないが、本発明では、方法全体の重量毎時空間速度は、米国特許2005/0137429号に記載された1工程の方法よりかなり高く、本発明で必要な全反応器容量は、米国特許US2005/0137429号に開示された通りの1工程の方法よりはるかに低い。
【0017】
粗フェノール流の処理方法は、フェノールの製造方法に容易に組み入れ得る。従って、本発明は、
a)クメンを酸化して、クメンヒドロペルオキシドを含有する酸化生成物を形成すること;
b)該酸化生成物を酸性触媒を用いて分解して、フェノール、アセトンおよび不純物を含有する分解生成物を形成すること;
c)該分解生成物を複数の生成物流に分離し、該生成物流の一つはヒドロキシアセトンおよびメチルベンゾフランを含む粗フェノール流であること;
d)該粗フェノール流を、請求項1〜14のいずれかに記載の方法で処理して、ヒドロキシアセトンおよびメチルベンゾフランが減少した処理フェノール流を形成すること;および
e)該処理フェノール流を蒸留して、精製フェノールを得ること
を含む、フェノールの製造方法にも関する。
【0018】
本発明の方法によって効率的に精製し得る粗フェノールは、不純物として、主としてヒドロキシアセトンおよびメチルベンゾフランを含有する。ヒドロキシアセトンの濃度は1,000wppm以下であり得、メチルベンゾフランの濃度は200ppm以下であり得る。本発明の一つの利点は、ヒドロキシアセトンの濃度が260wppmを超えていても、ヒドロキシアセトンおよびメチルベンゾフランが効率的に除去され得ることである。従って、1,000wppm以下、好ましくは260wppmより多く1,000wppm以下のヒドロキシアセトン、および、200wppm以下、好ましくは50〜200wppmのメチルベンゾフランを含む、粗フェノール流の精製に成功し得る。
【0019】
ヒドロキシアセトンおよびメチルベンゾフランに加え、さらなる不純物が存在し得る:
1000wppm以下のメシチルオキシド、
500wppm以下の2−フェニルプロピオンアルデヒド、
500wppm以下のメチルイソブチルケトン、
500wppm以下のアセトフェノン、
500wppm以下の3−メチルシクロヘキサノン、
2000wppm以下のα−メチルスチレン、
1000wppm以下のフェニルブテン。
【0020】
これらの濃度範囲は、イオン交換樹脂での精製に先立つ蒸留によって、アセトン、クメンおよびα−メチルスチレン、水および高沸点溶剤を分離した粗フェノール中の、これらの成分の関連する濃度の範囲に及ぶ。
【0021】
粗フェノール流が酸性イオン交換樹脂と接触する際に、ヒドロキシアセトンおよびメチルベンゾフランは反応して高沸点溶剤となる。メシチルオキシドはフェノールと反応して、高沸点溶剤および水となる。ヒドロキシアセトンとフェノールとの反応によっても形成される水の存在下、メシチルオキシドの一部は、酸性イオン交換樹脂上でアセトンに分解し得る。アセトンはフェノールとさらに反応して、ビスフェノールAとなり得る。ヒドロキシアセトンおよびメシチルオキシドの他に、フェニルプロピオンアルデヒド、メチルイソブチルケトン、アセトフェノンおよび3−メチルシクロヘキサノンのような他のカルボニル成分が、なおフェノール中に少量存在し得る。加えて、フェノールは、精製フェノール中には望ましくない成分であるα−メチルスチレンおよびフェノールブテンのような、極微量の不飽和炭化水素を有し得る。カルボニル含有成分のように、不飽和炭化水素は、酸性イオン交換樹脂と接触した際に、フェノールと共に高沸点溶剤を形成する。純粋ではないフェノール中にこれらの他の不純物が存在していたとしても、ヒドロキシアセトンおよびメチルベンゾフランの転化は悪影響を受けないことが発見された。さらに、ヒドロキシアセトンおよびメチルベンゾフランの転化が完了する時には必ず、これらのさらなる不純物成分の高沸点溶剤への転化が完了する。結果として、本発明の方法は、粗フェノール中の全ての望ましくない不純物を高沸点溶剤に転化することが可能であり、この高沸点溶剤は、本発明の方法によって粗フェノールを酸性イオン交換樹脂と接触させた後、最終蒸留工程において、精製フェノールから容易に除去し得る。
【0022】
粗フェノールを酸性イオン交換樹脂と接触させた後、ヒドロキシアセトンの最終濃度は1wppm未満となり得、メチルベンゾフランの濃度は20wppm未満、好ましくは10wpppm未満となり得る。上述の通り、他の全ての不純物は、定量的に高沸点溶剤に転化する。従って、本発明の方法は、高純度のフェノールの製造に適している。直列に接続した酸性イオン交換樹脂を含有する反応器の数、従って、本発明による異なる温度レベルの数は特に制限されないが、投資費用および変動費に関して経済的に考慮すると、直列に接続した2〜4の反応器数が好ましく、直列に接続した2つの反応器が最も好ましい。従って、この最も好ましい態様では、方法は、2つの区別された温度レベルで実施される。
【0023】
実施例でより詳細に説明される通り、本発明者らは、市販のイオン交換樹脂の失活は利用度と非常によく相関することを発見した。利用度は、ある期間、イオン交換樹脂と接触した処理フェノールの総量と規定される。連続栓流反応器については、利用度は、反応器の断面積当りの処理フェノールの総量である。
【0024】
高利用度の後は、触媒活性は新しい触媒の数%でしかない。驚くべきことに、一定の重量毎時空間速度(WHSV)での失活を補うために必要な温度は、図1に示す通り、利用度に比例して高くなる。実施上の配慮から、市販のイオン交換樹脂のあらゆる熱分解を避けるため、最高温度は200℃である。
【0025】
他方では、メチルベンゾフランおよび相当量のヒドロキシアセトン、例えば200wppm以下のメチルベンゾフランおよび1000wppm以下のヒドロキシアセトンを含むフェノール流については、メチルベンゾフランの残量を20wppm未満とするために、最終の反応器内の温度が90℃未満であることが必要であり、好ましくはメチルベンゾフランの残量を10wppm未満とするために、70℃未満であることが必要である。実施上の配慮から、新しい触媒を用いたとしても、反応器容量があまりに大きくなるのを避けるため、温度は50℃未満であるべきではない。
【0026】
粗フェノールを酸性イオン交換樹脂と接触させる複数の明確な温度レベルを有する一つの利点は、使用済みまたはある程度使用した酸性イオン交換樹脂が、例えばヒドロキシアセトンの転化に好都合であるが、メチルベンゾフランの転化には好都合ではない、相対的に高い温度で接触し得ることであり、その結果、使用済みまたはある程度使用した触媒を用いても、高温であるため、既に使用済みの触媒が高活性を維持し得る。他方で、低温レベルでは、新しい触媒またはある程度使用した触媒は、メチルベンゾフランの転化に好都合な低温で使用し得、また、触媒がなお相対的に新しいことから、低温でも高触媒活性が得られる。結果として、酸性イオン交換樹脂との接触の選択性が最も有利にバランスし、同時に触媒の最適活性が確保され、従って、重量毎時空間速度が比較的高くなり、特定のフェノール流の処理に要する触媒容量が少なくなる。
【0027】
ヒドロキシアセトンおよびメチルベンゾフランに関する触媒選択性の最適化と、特許請求した温度プロファイルの使用による触媒の不活化の程度に依存する触媒活性の最適化との、この相乗効果は知られておらず、また先行技術から導き出すこともできなかった。
【0028】
本発明のさらなる利点は、連続法においていくつかの反応器を、少なくとも1つの予備の反応器を含み、直列に接続した場合、完全に使用済みの触媒を方法ラインから容易に除去し得ることである。最高の温度レベルであり、従って上流末端にある、ほとんど使用済みの触媒を含む反応器は、ラインから分離し得、新しい触媒を含む反応器が、最低の温度レベル、従ってラインの下流末端に入れられる。ラインから分離された反応器は、新しい触媒の初期活性を維持するために、使用済みの触媒を新しい触媒と置き換えるか、別の方法工程において再生する。次に、この再活性化された反応器は、最高の温度レベルの反応器であって、その触媒が望ましくないレベルに不活化された反応器をラインから外し次第、最低の温度レベルに入れ得る。このことから、精製効率がその期間にほぼ一定であり、その結果ほぼ一定の規格の製品を得る連続法が可能になるが、このことは大量生産品のフェノールについては非常に重要である。
【0029】
同一の大きさの反応器を使用することは好ましい。従って、ラインのそれぞれの位置で、あるフェノール流のWHSVは同一であり、ライン中の反応器の位置の変化に伴って、変化しない。異なる活性のイオン交換樹脂を含む反応器に必要な温度は図1によって容易に決定し得る。
【0030】
さらに、並列に接続した複数の反応器を、各温度レベルで使用し得る。従って、処理方法を変化する処理量に適合させることは非常に容易である。重ねて、同一の大きさの反応器および各温度レベルで同数の反応器を使用することは好ましい。
【0031】
加えて、エネルギー消費を最低限にするため、反応器を通過するフェノール流の熱統合を用いることが可能である。例えば、フェノール流は、第一の反応器と続く第二の反応器との間の熱交換器であって、熱交換器の冷却剤として、第一の反応器の下流に位置する反応器からのより低温のフェノール流出物を使用した熱交換器を通過し得る。この態様では、2つの連続した反応器の間でフェノール流を冷却することが可能で、同時に、フェノール流が熱交換器の冷却剤として使用される場合、最も低い温度レベルの最後の反応器を出るフェノール流は加熱され、高沸点溶剤を除去するその後の蒸留工程でのエネルギー消費が減少する。
【0032】
さらに、2つの連続する反応器の間に、冷却水等の慣用の冷却剤を用いた追加の熱交換器を使用して、フェノール流の温度を所望のレベルに調整し得る。
【0033】
本発明の一つの態様では、反応器として細長い容器を使用し、その容器を好ましくは垂直配向に配置し、フェノール流が反応器の頂部から底部へと流れる。しかし、垂直型の容器において上向きの流れを用いること、または、水平型の容器を用いることも可能である。
【0034】
本発明の好ましい態様では、反応器は固定床において酸性イオン交換樹脂を含有する。好ましくは、イオン交換樹脂の固定床における見かけの液体速度は0.5〜5mm/秒、好ましくは1.0〜3.0mm/秒、より好ましくは1.5〜2mm/秒である。
【0035】
本発明では、触媒として、あらゆる酸性イオン交換樹脂を使用し得る。本書では、「酸性イオン交換樹脂」という用語は、水素形態でのカチオン交換樹脂であって、水素イオンは活性部位に結合し、溶液中での解離または他の陽イオンとの置換によって除去し得るものを言う。樹脂の活性部位は、異なるイオンに対して異なる強さの引力を有し、この選択的引力はイオン交換のための手段となる。好適な酸性イオン交換樹脂の非制限的例としては、例えばローム・アンド・ハース(Rohm & Haas)より販売されているアンバーリスト(Amberlyst)16、ランクセス(Lanxess)より販売されているK2431、プロライト(Purolite)より販売されているCT-151等の、スルホン化ジビニルベンゼン架橋スチレンコポリマーの系列が挙げられる。
【0036】
他の好適な樹脂は、ランクセス(Lanxess)、ローム・アンド・ハース(Rohm and Haas)ケミカルカンパニーおよびダウ(Dow)ケミカルカンパニー等の製造業者より商業的に入手し得る。
【0037】
本発明の要点は、上記で規定した通り、酸性イオン交換樹脂を含有する一連の反応器を通して、特定の温度プロファイルを用いることである。本発明では、フェノール流の流れ方向における第一の反応器内の温度は少なくとも100℃であり、フェノール流の流れ方向における最後の反応器内の温度は90℃未満、好ましくは70℃未満である。
【0038】
フェノール流の流れ方向における第一の反応器内の温度は、最高で200℃、好ましくは最高で150℃、最も好ましくは最高で120℃である。フェノールの流れ方向における最後の反応器内の温度は、少なくとも50℃である。
【0039】
本発明は、以下、添付する図に示される特定の具体例を参照して、より詳細に説明される。
【0040】
図2を参照するが、不純物を含んだフェノールは、酸性イオン交換樹脂を充填した固定床反応器2を通過する。温度は200℃以下であり得る。第一の反応器を出た後、フェノールは、第二の反応器7の出口からのより低温のフェノール8を用いた熱交換器3において、冷却される。最終的に、フェノールは、好適な冷却流5を用いた熱交換器4において所望の低温に冷却されるが、冷却流5の例としては、水、または、フェノールを冷却し得るが、管系内でフェノールのあらゆる結晶化が回避され得るあらゆる他のプロセス流が挙げられる。フェノール6の最終温度は少なくとも50℃である。次に、フェノール6は、第二の反応器7を通過し、全ての関連する不純物を完全に転化する。フェノール流9は、最終の蒸留カラムに送られて、反応器2および7における酸性イオン交換樹脂での処理中に形成される高沸点溶質を除去する。温度には柔軟性があるため、第一の反応器において低活性の使用済みの樹脂を用いた場合でも、メチルベンゾフランに加えて、相対的に多量のヒドロキシアセトンの供給が許容される。
【0041】
図3を参照するが、不純物を含んだフェノール1は、高温で、並行した3つの反応器a7〜a9を通過する。これらの反応器からのフェノールは、再び混合して流れ2となり、熱交換器3において中間の温度に冷却される。フェノール4は、3つの並行した反応器a4〜a6において再度処理される。これらの反応器からのフェノールは、再び混合して流れ5となり、熱交換器6おいて最終温度に冷却される。フェノール7は、3つの並行した反応器a1〜a3において、最も低い温度で最終処理される。フェノール流8は、最終の蒸留カラムに送られて、反応器a1〜a9における酸性イオン交換樹脂での処理中に形成される高沸点溶質を除去する。反応器a1〜a3内の樹脂は、最も高い活性を有する。反応器a4〜a6内の樹脂は中間の活性を有し、反応器a7〜a9内の樹脂は最も低い活性を有する。従って、破線が示すとおり、樹脂の特定の利用期間の後、反応器a1〜a3の位置を連続的に中央の列に変更し、反応器a4〜a6の位置を連続的に左の列に変更する。反応器a7〜a8からの廃棄樹脂10は、再生または排出する。再生または再充填した新しい樹脂11を含む反応器a7〜a9は、破線が示すとおり、右の列に位置させる。反応器の配列のこれらの変化は、予備の反応器を含む全ての反応器の間の相互接続パイプネットワークを用いることによって、容易に実施し得る。図2に示す通り、低温および高温のフェノール流の間のいかなる熱統合も、図3に示す通りの反応器配列において当然可能である。
【0042】
本発明の有益な効果を実証するため、以下の実施例を挙げる。
【実施例】
【0043】
実施例1:
200wppmのヒドロキシアセトンを含む、不純物を含むフェノール流1kg/時を、ランキセス(Lanxess)のイオン交換樹脂K2431型で処理する。栓流反応器は、直径0.025m、高さ1.2mである。従って、この栓流反応器における重量毎時空間速度WHSV(1時間当り、1m3あたりのフェノール量t)は1.7であった。温度を調整したところ、処理後のヒドロキシアセトンの最終濃度は約10wppmであった。新しい触媒、および、異なる利用度の製造ユニットからの触媒サンプルを使用した。図1は、ヒドロキシアセトンの転化に関して、不活化を補うのに必要な温度を示す。新しい触媒の活性を「1.0」と規定する。70℃の温度は、この新しいイオン交換樹脂で、ヒドロキシアセトンを200から10wppmに転化するに充分である。ある程度使用したイオン交換樹脂で同様に転化するためには、温度を上げなければならない。例えば、フェノールの累積量が約85000t/m2のイオン交換樹脂でヒドロキシアセトンを同様に転化するには、温度を123℃に上げなければならない。
【0044】
比較例1:
1,000wppmのヒドロキシアセトンおよび200wppmのメチルベンゾフランを含有する、不純物を含むフェノールを、プロライト(Purolite)の未使用の固定床イオン交換樹脂CT 151で、120℃で連続的に処理する。重量毎時空間速度WHSVは3.3である。精製工程の後、ヒドロキシアセトンの濃度は1wppm未満であるが、メチルベンゾフランの濃度は78wppmであり、かなり高すぎる。メチルベンゾフランのこの濃度は、この温度では、次の反応器への添加、即ちWHSVの減少によって、さらに低減することはできない。
【0045】
比較例2
比較例1の不純物を含むフェノールを、プロライト(Purolite)の未使用の固定床イオン交換樹脂CT 151で、70℃で連続的に処理する。ヒドロキシアセトンの最終濃度を1wppm未満、かつ、メチルベンゾフランを10wppm未満とするためには、重量毎時空間速度WHSVは0.7でなければならない。
【0046】
実施例2
比較例1の不純物を含むフェノールを、図2による装置を用いて、プロライト(Purolite)の未使用の固定床イオン交換樹脂CT 151により、最初に120℃で、重量毎時空間速度WHSVは10で連続的に処理する。反応器を出た後、フェノールを70℃に冷却し、プロライトの未使用の固定床イオン交換樹脂CT 151により、70℃で、重量毎時空間速度WHSVは2で連続的に処理する。ヒドロキシアセトンの最終濃度は1wppm未満であり、メチルベンゾフランは10wppm未満である。比較例2と比べて、10wppm未満のメチルベンゾフラン濃度を有する同一の規格が、全体で半分未満の反応容量で達成される。
【0047】
実施例3
実施例2と同様に、比較例1の不純物を含むフェノールを、プロライト(Purolite)の固定床イオン交換樹脂CT 151により、最初に120℃で連続的に処理する。未使用のイオン交換樹脂と比較すると、活性は20%のみである。重量毎時空間速度WHSVは2である。次に、フェノールを70℃に冷却し、未使用の固定床イオン交換樹脂により、70℃で、重量毎時空間速度WHSVは2で連続的に処理する。ヒドロキシアセトンの最終濃度は1wppm未満であり、メチルベンゾフランは10wppm未満である。比較例2と比べて、10wppm未満のメチルベンゾフラン濃度を有する同一の規格が、全反応容量の70%のみで達成される。加えて、再度比較例2と比べて、全反応器容量の半分に未使用の樹脂の20%のみの低活性を有する樹脂を充填することにより、イオン交換樹脂を非常に長く、従って非常に経済的に使用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、実施例1で測定した、触媒利用に依存する触媒活性および反応器温度の関数を示す。
【図2】図2は、2つの反応器を直列に接続した、本発明の1つの具体例の概略図を示す。
【図3】図3は、3つの並列の反応器の3群を直列に接続した、本発明のもう一つの具体例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルベンゾフランおよびヒドロキシアセトンを含む粗フェノール流を、直列に接続した酸性イオン交換樹脂を含有する少なくとも2つの反応器を通すことによる、粗フェノール流の連続的処理方法であって、それにより連続した反応器内の温度はフェノール流の流れ方向に低下し、いずれの2つの連続する反応器の間にも熱分離工程を用いず、フェノール流の流れ方向における第一の反応器内の温度が100℃〜200℃であり、フェノール流の流れ方向における最後の反応器内の温度が50℃〜90℃である、方法。
【請求項2】
請求項1の方法であって、直列に接続した2〜4つの反応器を使用する、方法。
【請求項3】
請求項2の方法であって、反応器の数が2である、方法。
【請求項4】
前項のいずれかの方法であって、それぞれの温度レベルで、複数の反応器を並列に接続する、方法。
【請求項5】
前項のいずれかの方法であって、フェノール流の流れ方向における第一の反応器内の温度が100℃〜150℃、好ましくは100℃〜120℃である、方法。
【請求項6】
前項のいずれかの方法であって、フェノール流の流れ方向における最後の反応器内の温度が50℃〜70℃である、方法。
【請求項7】
前項のいずれかの方法であって、粗フェノール流における、ヒドロキシアセトンの初濃度が0より多く1000wppm以下、好ましくは260wppmより多く1000wppm以下である、方法。
【請求項8】
前項のいずれかの方法であって、粗フェノール流における、メチルベンゾフランの初濃度が0より多く200wppm以下、好ましくは50wppm〜200wppmである、方法。
【請求項9】
前項のいずれかの方法であって、粗フェノール流が、1000wppm未満のメシチルオキシド、500wppm未満の2−フェニルプロピオンアルデヒド、500wppm未満のメチルイソブチルケトン、500wppm未満のアセトフェノン、500wppm未満の3−メチルシクロヘキサノン、2000wppm未満のα−メチルスチレンおよび1000wppm未満のフェニルブテンをさらに含む、方法。
【請求項10】
前項のいずれかの方法であって、反応器が固定床配置において酸イオン交換樹脂を含有する、方法。
【請求項11】
請求項10の方法であって、イオン交換樹脂の固定床における見かけの液体速度が0.5〜5mm/秒、好ましくは1.0〜3.0mm/秒、より好ましくは1.5〜2mm/秒である、方法。
【請求項12】
前項のいずれかの方法であって、反応器が垂直配向に細長い容器である、方法。
【請求項13】
請求項12の方法であって、フェノール流が容器の頂部から底部へと流れる、方法。
【請求項14】
前項のいずれかの方法であって、フェノール流が、第一の反応器と続く第二の反応器との間の熱交換器であって、熱交換器の冷却剤として、第一の反応器の下流に位置する反応器からのより低温のフェノール流出物を使用した熱交換器を通過する、方法。
【請求項15】
a)クメンを酸化して、クメンヒドロペルオキシドを含有する酸化生成物を形成すること;
b)該酸化生成物を酸性触媒を用いて分解して、フェノール、アセトンおよび不純物を含有する分解生成物を形成すること;
c)該分解生成物を複数の生成物流に分離し、該生成物流の一つはヒドロキシアセトンおよびメチルベンゾフランを含む粗フェノール流であること;
d)該粗フェノール流を、請求項1〜14のいずれかに記載の方法で処理して、ヒドロキシアセトンおよびメチルベンゾフランが減少した処理フェノール流を形成すること;および
e)該処理フェノール流を蒸留して、精製フェノールを得ること
を含む、フェノールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−534325(P2009−534325A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−505740(P2009−505740)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【国際出願番号】PCT/EP2007/002969
【国際公開番号】WO2007/118600
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(302065530)イネオス フェノール ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (4)
【Fターム(参考)】