説明

フェノールオキシダーゼ遺伝子及びフェノールオキシダーゼの製造方法

【課題】環境、人体に対して温和な条件下での線維や毛髪の染色等に用いうる手段を提供すること。
【解決手段】特定の塩基配列又はそのバリアントを含有した、フェノールオキシダーゼをコードする核酸、該核酸によりコードされた組換えフェノールオキシダーゼ、該核酸を含有した発現ベクター、該発現ベクターを含有した形質転換体、該形質転換体を培養し、培養物中に組換えフェノールオキシダーゼを生成させ、回収する、組換えフェノールオキシダーゼの製造方法及び該組換えフェノールオキシダーゼに対する抗体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノールオキシダーゼをコードする核酸、組換えフェノールオキシダーゼ、発現ベクター、形質転換体、組換えフェノールオキシダーゼの製造方法、及び組換えフェノールオキシダーゼに対する抗体に関する。さらに詳しくは、中性付近で高い酵素活性を示すフェノールオキシダーゼをコードする核酸、組換えフェノールオキシダーゼ、発現ベクター、形質転換体、組換えフェノールオキシダーゼの製造方法、及び組換えフェノールオキシダーゼに対する抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノールオキシダーゼは、フェノール化合物、ポリフェノール化合物等の種々の基質に対して酸化作用を有する酸化酵素である。前記フェノールオキシダーゼは、大気中の酸素の存在下で種々の基質の酸化を触媒することができるため、酸素存在下で中間体としてのラジカル種の生成に起因する発色、脱色、重合、分解等の多様な化学反応に適している。
【0003】
フェノールオキシダーゼには、フェノールオキシダーゼ、ラッカーゼ、チロシナーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ(カテコールオキシダーゼ)、アスコルビン酸オキシダーゼ、ビリルビンオキシダーゼ等があげられる。
【0004】
したがって、前記フェノールオキシダーゼは、臨床分析、バイオセンサー、パルプ及び繊維の漂白、合成板の製造、木質の改善、フェノール樹脂の製造、人工漆塗料の製造、接着剤の製造、有機化合物の合成、染色及び抜染、洗濯時の色移り防止、廃液中のフェノール及びアニリン化合物の除去、毒性化合物の解毒、内分泌撹乱物質の分解、ジュースの混濁防止、食品の苦渋味の除去、家畜飼料の体内消化の促進、悪臭の抑制、化石燃料の脱硫、有害環境物質の分解処理等の多方面への幅広い応用が期待されている。
【0005】
前記フェノールオキシダーゼは、従来から種々の植物、細菌類及び真菌類等に見出されており、例えば、スエヒロタケ(Schizophyllum commune)、ヒラタケ(Pleurotus octreatus)、カワラタケ(Coriolus versicolor)、シイタケ(Lentinula edodes)、イルペックス・ラクテウス(Irpex lacteus)、オウリキュラリア・ポリトリカ(Auricularia polytricha)、ガノデルム・ルシダム(Ganoderm lucidum)、コプリナス・ミカセウス(Coprinus micaceus)、ダエダレオプシス・スチラシナ(Daedaleopsis styracina)、コリオラス コンソルス(Coriolus consors)、フラムリナ ベルティペス(Flammulina veltipes)等の担子菌に、フェノールオキシダーゼが見出されている(例えば、特許文献1等を参照のこと)。
【0006】
しかしながら、前記フェノールオキシダーゼは、種々の基質に対する酵素活性の至適pHを酸性側に有し、使用用途が限定されること、用いる基質によって至適pHが大きく変動し、中性付近で種々の基質に対して効率よく作用しないこと等の欠点がある。また、担子菌における当該フェノールオキシダーゼの生産性は低く、生産されたフェノールオキシダーゼの純度も低いという欠点がある。また、前記特許文献1記載のフェノールオキシダーゼは、酸性条件で培養することにより見出される酵素である。
【特許文献1】特開昭60−156385号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、環境、人体に対して温和な条件下での線維や毛髪の染色等に用いうる手段を提供することに関する。本発明の1つの側面は、中性付近において、安定的に、高い酵素活性を示すフェノールオキシダーゼを、高い収率で、安価に、かつ大量に供給しうる、フェノールオキシダーゼをコードする核酸を提供することに関する。また、本発明の他の側面は、種々の化合物に対して、中性付近で作用すること、中性pHから弱アルカリ性pHまでの広い範囲で高い安定性を示すこと、基質による至適pHの変動が小さいこと、安価で大量に供給できること、高い純度であること等の特性を有する、組換えフェノールオキシダーゼを提供することに関する。本発明のさらに他の側面は、中性付近において、安定的に、高い酵素活性を示すフェノールオキシダーゼを、効率よく大量に発現させることができる、発現ベクターを提供することに関する。また、本発明の別の側面は、中性付近において、安定的に、高い酵素活性を示すフェノールオキシダーゼを、効率よく大量に発現させること、該フェノールオキシダーゼを回収、精製等に適した状態で発現させること等の少なくとも1つを可能にする、形質転換体を提供することに関する。本発明のさらに別の側面は、中性付近において、安定的に、高い酵素活性を示すフェノールオキシダーゼを、高い収率で、安価に、大量に、高い純度で得ることができる、組換えフェノールオキシダーゼの製造方法を提供することに関する。本発明のよりさらに別の側面は、中性付近において、安定的に、高い酵素活性を示すフェノールオキシダーゼの回収、精製、スクリーニング等を可能にする抗体に関する。なお、本発明のさらなる課題は、本明細書の記載から明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、
〔1〕 (a)配列番号:2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列、
(b)配列番号:2において、少なくとも1個のアミノ酸残基の置換、欠失、付加又は挿入を有するアミノ酸配列をコードし、かつコードされるポリペプチドが、フェノールオキシダーゼ活性を示すものである塩基配列、
(c)配列番号:1に示される塩基配列からなる核酸のアンチセンス鎖とストリンジェントな条件下にハイブリダイズし、かつコードされるポリペプチドが、フェノールオキシダーゼ活性を示すものである核酸の塩基配列、及び
(d)配列番号:2との配列同一性が、少なくとも65%であるアミノ酸配列をコードし、かつコードされるポリペプチドが、フェノールオキシダーゼ活性を示すものである塩基配列、
からなる群より選ばれた塩基配列を含有してなる、フェノールオキシダーゼをコードする核酸、
〔2〕 コードされるポリペプチドが、少なくともpH5.0〜8.0にフェノールオキシダーゼ活性を有する、前記〔1〕記載の核酸、
〔3〕 前記〔1〕又は〔2〕記載の核酸によりコードされてなる、組換えフェノールオキシダーゼ、
〔4〕 前記〔1〕又は〔2〕記載の核酸を含有してなる、発現ベクター、
〔5〕 前記〔1〕又は〔2〕記載の核酸の上流に、シグナル配列をコードする核酸が作動可能に連結されてなる、前記〔4〕記載の発現ベクター、
〔6〕 前記〔4〕又は〔5〕記載の発現ベクターを含有してなる、形質転換体、
〔7〕 酵母細胞又は糸状菌に由来する、前記〔6〕記載の形質転換体、
〔8〕 前記〔6〕又は〔7〕記載の形質転換体を培養し、培養物中に組換えフェノールオキシダーゼを生成させ、回収することを特徴とする、前記〔3〕記載の組換えフェノールオキシダーゼの製造方法、並びに
〔9〕 前記〔3〕記載の組換えフェノールオキシダーゼに対する抗体、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフェノールオキシダーゼをコードする核酸によれば、中性付近において、安定的に、高い酵素活性を示すフェノールオキシダーゼを発現させ、高い収率で、安価に、かつ大量に供給することができるという優れた効果を奏する。また、本発明の組換えフェノールオキシダーゼは、種々の化合物に対して、中性付近で作用し、中性pHから弱アルカリ性pHまでの広い範囲で高い安定性を示し、基質による至適pHの変動が小さいという優れた効果を発揮する。さらに、本発明の組換えフェノールオキシダーゼは、安価で大量に、高い純度で提供され得る。本発明の発現ベクターによれば、前記フェノールオキシダーゼを、効率よく大量に発現させることができるという優れた効果を発揮する。また、本発明の形質転換体によれば、前記フェノールオキシダーゼを、効率よく大量に、回収、精製等に適した状態で発現させることはできるという優れた効果を奏する。さらに、本発明の組換えフェノールオキシダーゼの製造方法によれば、前記フェノールオキシダーゼを、高い収率で、安価に、大量に、高い純度で得ることができるという優れた効果を奏する。また、本発明の抗体によれば、前記フェノールオキシダーゼの回収、精製、スクリーニング等を簡便に、高い感度で行なうことができるという優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、1つの側面では、中性付近において、安定的に、高い酵素活性を示すフェノールオキシダーゼ、すなわち、中性フェノールオキシダーゼをコードする核酸である。
【0011】
本発明において、フェノールオキシダーゼ活性は、基質に対する酸化活性、染料に対する脱色活性等を測定することにより評価される活性をいう。
【0012】
前記「基質に対する酸化活性」は、測定対象となるポリペプチドの存在下、フェノール化合物、アミノフェノール化合物、ジアミン化合物等を水素供与体として用いて酸素分子を還元する、基質の直接的な酸化反応を測定することによって求められうる。水素供与体としては、例えば、2,6−ジメトキシフェノール、オルト−アミノフェノール、パラ−フェニレンジアミン等を挙げることができる。前記酸化活性は、例えば、シリンガルダジン(530nm)、2,6−ジメトキシフェノール及びパラ−フェニレンジアミン(470nm)、オルト−アミノフェノール(420nm)における吸光度の変化により測定される。具体的には、0.2M リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0) 0.896mlに、0.05M 2,6−ジメトキシフェノール水溶液 0.1mlを添加し、基質溶液を得る。この基質溶液と測定対象となるポリペプチドを含む溶液 0.004mlとを混合して、2,6−ジメトキシフェノールの酸化反応を開始させる。ついで、この2,6−ジメトキシフェノールの酸化反応を、470nmにおける吸光度の変化により測定することによって、前記酸化活性を求められうる。前記酸化活性は、各基質に応じた波長における吸光度を、1分間で1増加させる酵素量を1単位(U:ユニット)として定義される。
【0013】
本発明の核酸としては、具体的には、(a)配列番号:2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列、
(b)配列番号:2において、少なくとも1個のアミノ酸残基の置換、欠失、付加又は挿入を有するアミノ酸配列をコードし、かつコードされるポリペプチドが、フェノールオキシダーゼ活性を示すものである塩基配列、
(c)配列番号:1に示される塩基配列からなる核酸のアンチセンス鎖とストリンジェントな条件下にハイブリダイズし、かつコードされるポリペプチドが、フェノールオキシダーゼ活性を示すものである核酸の塩基配列、及び
(d)配列番号:2との配列同一性が、少なくとも65%であるアミノ酸配列をコードし、かつコードされるポリペプチドが、フェノールオキシダーゼ活性を示すものである塩基配列、
からなる群より選ばれた塩基配列を含有した核酸が挙げられる。
【0014】
前記(a)において、配列番号:2に示されるアミノ酸配列は、フラムリナ ベルティペス(Flammulina velutipes)をpH6.0〜12.0、好ましくは、pH7.0〜11.0、さらに好ましくはpH8.0〜10.0、より好ましくはpH9.0付近で培養することにより、中性pHで高い活性を示す酵素として検出される中性フェノールオキシダーゼのアミノ酸配列である。
【0015】
本発明の核酸は、コードされるポリペプチドが、前記基質に対する酸化活性の評価により、至適pH5.0〜8.0、好ましくは、至適pH5.0〜7.5を有することが示されるポリペプチドであれば、該核酸のバリアントであってもよい。前記バリアントは、自然発生のバリアントであってもよく、人為的に創出されたバリアントであってもよい。前記バリアントとしては、特に限定されないが、例えば、前記(c)〜(d)のいずれかの塩基配列を含有した核酸が挙げられる。
【0016】
前記(b)において、「少なくとも1個」とは、コードされるポリペプチドが、前記基質に対する酸化活性の評価及び/又は染料に対する脱色活性の評価により、至適pH5.0〜8.0、好ましくは、至適pH5.0〜7.5を有することを示すポリペプチドである範囲であればよく、例えば、1又は複数個、好ましくは、1又は数個であればよい。前記(b)の塩基配列は、好ましくは、配列番号:2との配列同一性が、少なくとも65%であるアミノ酸配列をコードすることが望ましい。
【0017】
本明細書において、「アミノ酸残基の置換、欠失、付加又は挿入」としては、例えば、
1) 配列番号:2において、フェノールオキシダーゼ活性の発現及び/又は該フェノールオキシダーゼ活性を発現するための立体構造の維持に無関係のアミノ酸残基の置換、欠失、付加又は挿入(変異)、
2) 配列番号:2において、フェノールオキシダーゼ活性の発現及び/又は該フェノールオキシダーゼ活性を発現するための立体構造の維持に必須のアミノ酸残基の保存的置換、
等が挙げられる。
【0018】
前記保存的置換としては、例えば、
− 疎水性、電荷、pK、立体構造上における特徴等に類似した機能を発揮するアミノ酸残基(以下、本明細書においては、類似アミノ酸残基ともいう)との置換、
− 本来のポリペプチドの生理活性を維持する程度にのみしか該ポリペプチドの立体構造、折り畳み構造を変化させ得ないアミノ酸残基との置換
等が挙げられる。前記保存的置換としては、より具体的には、例えば、下記1.〜6.:
1.グリシン、アラニン;
2.バリン、イソロイシン、ロイシン;
3.アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン;
4.セリン、スレオニン;
5.リジン、アルギニン;
6.フェニルアラニン、チロシン;
のいずれかの類似アミノ酸残基のグループ内でのアミノ酸残基の置換が挙げられる。
【0019】
前記(c)において、「ストリンジェントな条件」とは、中ストリンジェントな条件、好ましくは、高ストリンジェントな条件をいう。前記「ストリンジェントな条件」としては、より具体的には、例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.0)と0.5重量% SDSと5×デンハルトと100μg/ml 変性サケ精子DNAと50体積% ホルムアミドとを含む溶液中、室温、よりストリンジェントには、42℃、一層ストリンジェントには、60℃で10時間インキュベーションし、低イオン強度、例えば、2×SSC、よりストリンジェントには、0.1×SSC等の条件及び/又はより高温、室温、42℃以上、よりストリンジェントには、55℃、さらにストリンジェントには、60℃等の条件下での洗浄を行なう条件が挙げられる。本発明においては、前記「ストリンジェントな条件」は、好ましくは、配列番号:2との配列同一性が、少なくとも65%であるアミノ酸配列をコードする核酸との特異的なハイブリダイゼーションが達成されうる条件であることが望ましい。
【0020】
本明細書において、配列同一性は、参照配列(例えば、配列番号:2に示されるアミノ酸配列)に対して、クエリー配列(評価対象の配列)を、BLASTアルゴリズムで、適切にアラインメントし、算出されうる。本明細書においては、前記マルチプルアラインメントにおける設定条件としては、Cost to open gap 11、Cost to extend gap 1、expect value 10、wordsize 3の条件(デフォルト値)が挙げられる。
【0021】
なお、本明細書における配列同一性は、BLASTアルゴリズムの他、例えば、配列解析ソフト、具体的には、商品名:GENETYX−MAC(ソフトウェア開発株式会社製)によるマルチプルアラインメントにおいて使用可能なアルゴリズムをデフォルト値の条件で用いて、算出された値であってもよい。
【0022】
本発明においては、前記配列同一性は、配列番号:2に示されるアミノ酸配列に対し、少なくとも65%、好ましくは、70%以上、より好ましくは、75%以上、さらに好ましくは、80%以上、よりさらに好ましくは、85%以上であることが望ましい。
【0023】
前記(a)の塩基配列を含有した核酸は、例えば、慣用の化学合成により、配列番号:1に示される塩基配列又は縮重を介して該配列番号:1と異なる塩基配列を有する核酸を合成すること;配列番号:1に示される塩基配列又は縮重を介して該配列番号:1と異なる塩基配列に基づき設計されたプライマー対及び/又はプローブを用い、PCR、RT−PCR、サザンブロットハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション等の慣用の技術により、フラムリナ ベルティペス(Flammulina velutipes)由来の核酸から、取得すること等により得られうる。なお、得られた核酸は、ジデオキシ法、マキサム・ギルバート法、これらの方法に基づく改良法等により、配列決定することにより、前記(a)の塩基配列を含有するものであることを確認することにより、評価されうる。
【0024】
前記(a)の塩基配列を含有した核酸は、具体的には、特に限定されないが、例えば、下記工程(1)〜(5):
(1) フラムリナ ベルティペス(Flammulina velutipes)をフェノールオキシダーゼの発現に適した条件下に培養して、細胞中におけるフェノールオキシダーゼをコードするmRNAの発現量を増加させる工程、
(2) 前記工程(1)の後の細胞から、mRNAを得る工程、
(3) 前記工程(2)で得られたmRNAを鋳型とし、オリゴdTプライマー、配列番号:1に示される塩基配列又は縮重を介して該配列番号:1と異なる塩基配列に基づき設計されたプライマー対等を用いて、RT−PCRを行なう工程、
(4) 前記工程(3)で得られた産物を、適切なベクターに連結し、得られたベクターを用いて、適切な宿主細胞を形質転換する工程、
(5) 前記工程(4)で得られた形質転換体について、配列番号:1若しくは縮重を介して該配列番号:1と異なる塩基配列又はその部分配列を保持し、フェノールオキシダーゼ活性を発現する形質転換体を選抜する工程、及び
部分配列を含むクローンが得られた場合、任意に、(6)5’RACE、nested PCR等により、フェノールオキシダーゼをコードする核酸の全長を得る工程、
を行なう方法等により、得られうる。なお、前記工程(2)の後、(3’)工程(2)で得られたmRNAから、cDNAライブラリーを作製する工程、
(4’)配列番号:1に示される塩基配列又は縮重を介して該配列番号:1と異なる塩基配列に基づき設計されたプローブを用いて、サザンブロットハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション等により、cDNAライブラリーをスクリーニングして、フェノールオキシダーゼをコードする核酸又はその一部を含むクローンを得る工程、
(5’)前記工程(4’)で得られた形質転換体について、配列番号:1に示される塩基配列又は縮重を介して該配列番号:1と異なる塩基配列を保持し、フェノールオキシダーゼ活性を発現する形質転換体を選抜する工程、及び
フェノールオキシダーゼをコードする核酸の一部を含むクローンが得られた場合、任意に、(6’)5’RACE、nested PCR等により、フェノールオキシダーゼをコードする核酸の全長を得る工程、
を行なってもよい。
【0025】
なお、前記「フェノールオキシダーゼの発現に適した条件」としては、例えば、フラムリナ ベルティペス(Flammulina velutipes)の菌糸体の小片を、液体培養用培地1{組成:2.4重量% ポテトデキストロースブロス〔ディフィコ(Difco)社製〕、残部 水 (pH5.2);121℃で15分間滅菌したもの]中、25℃で7日間、往復振とう培養(150往復/分)し、得られた培養液全量を、2L容三角フラスコ中500mlの前記液体培養用培地1に添加し、25℃で3週間、往復振とう培養(100往復/分)を行ない、得られた菌糸体を、液体培養用培地2〔組成:1.0重量% グルコース、0.1重量% 酵母エキス、0.14重量% (NH42SO4、0.36重量% K2HPO4、0.02重量% MgSO4・7H2O、0.10重量% ミネラル混合液(組成:1.0重量% CuSO4・5H2O、1.0重量% ZnCl2、0.7重量% FeCl3・6H2O、0.5重量% CoSO4・7H2O、0.5重量% MnCl2・4H2O)、pH9.2;121℃で15分間滅菌したもの〕で、25℃で3日間培養すること等が挙げられる。かかる条件下における菌糸体の培養は、細胞中における当該フェノールオキシダーゼに対応するmRNAの存在比が向上し、本発明の核酸の取得が可能になる点で有利である。
【0026】
前記プライマー対は、それぞれ、連続した少なくとも9ヌクレオチド長、好ましくは、連続した9〜40ヌクレオチド長、より好ましくは、連続した12〜30ヌクレオチド長であることが望ましい。また、前記プライマー対は、配列番号:1に示される塩基配列又は縮重を介して該配列番号:1と異なる塩基配列を基に、二次構造の形成、Tm値等を考慮し、慣用のプライマー設計用ソフトウェア等により、配列番号:1に示される塩基配列又は縮重を介して該配列番号:1と異なる塩基配列を含有した核酸又はその一部を増幅するに適した配列を有する2種のプライマーとして、設計されうる。
【0027】
前記プローブとしては、本発明の核酸若しくはその相補鎖の全部又は一部が挙げられ、例えば、配列番号:2のアミノ酸配列をコードする核酸、該核酸の相補鎖、それらの一部等があげられる。前記プローブは、フェノールオキシダーゼをコードする核酸との特異性を十分に得る観点から、少なくとも12ヌクレオチド長であることが望ましい。なお、前核酸又は相補鎖の一部は、本発明の核酸又はその相補鎖に特徴的な塩基配列からなる断片であってもよい。前記「本発明の核酸又はその相補鎖に特徴的な塩基配列」は、特に限定されないが、例えば、データベースの配列に対して、配列同一性が、好ましくは、15%以下、より好ましくは、10%以下、特に好ましくは、0%である塩基配列等が挙げられる。
【0028】
なお、前記プローブ又はプライマー対の設計、慣用の遺伝子操作(例えば、ハイブリダイゼーション、PCR等)は、例えば、モレキュラークローニング ア ラボラトリーマニュアル第2版〔ザンブルーク(J.Sambrook)ら、Molecular Cloning A LABORATORY MANUAL SECOND EDITION、1989〕等が参照されうる。
【0029】
前記バリアントの核酸は、自然界の生物からスクリーニングすること;前記(a)の塩基配列を含有した核酸に対して、人為的に所望の変異を導入すること等により得られうる。
【0030】
自然界の生物からスクリーニングする場合、例えば、評価対象の生物から抽出された核酸について、前記プローブを用いて、前記「ストリンジェントな条件」下でのハイブリダイゼーションにより、スクリーニングすること;前記核酸について、前記プライマー対を用いたPCR、RT−PCR等による増幅産物の有無を調べること等が行なわれうる。一方、前記核酸のバリアントを人為的に創出する場合、該バリアントは、例えば、慣用の部位特異的変異導入方法等により作製されうる。
【0031】
本発明の核酸は、前記(a)〜(d)いずれかの塩基配列を含有するものであるため、適切な宿主において発現させることにより、中性付近において、安定的に、高い酵素活性を示すフェノールオキシダーゼを、高い収率で、安価に、かつ大量に供給することができるという優れた効果を発揮する。
【0032】
本発明は、他の側面では、本発明の核酸によりコードされた組換えフェノールオキシダーゼに関する。
【0033】
本発明の組換えフェノールオキシダーゼは、本発明の核酸によりコードされるものであるため、
− 種々の化合物に対して、中性付近で作用すること
− 中性pHから弱アルカリ性pHまでの広い範囲で高い安定性を示すこと
− 種々の基質、特に、フェノール化合物、アミノフェノール化合物及びジアミン化合物のいずれに対しても、至適pHの変動が小さいこと
等の優れた性質を発現する。したがって、本発明の組換えフェノールオキシダーゼによれば、環境、人体に対して温和な条件下での線維や毛髪の染色等が可能になる。
【0034】
また、本発明の組換えフェノールオキシダーゼは、本発明の核酸によりコードされ、該核酸を発現させることにより得られるものであるため、安価で大量に供給できる。また、本発明の組換えフェノールオキシダーゼは、本発明の核酸によりコードされ、該核酸を発現させることにより得られるものであるため、高い純度であるという優れた性質を有する。したがって、厳密な触媒反応を要する用途、例えば、化合物の合成等に好適である。
【0035】
本発明の組換えフェノールオキシダーゼは、SDS−PAGEにより算出した場合、28kDaの分子量を有する。前記分子量は、例えば、目的のタンパク質を、SDS−PAGE法に供して、移動度を測定し、得られた測定値と、分子量が既知である分子量マーカーの移動度とを比較することにより算出されうる。
【0036】
また、本発明の組換えフェノールオキシダーゼは、至適pH5.0〜8.0、好ましくは至適pH5.0〜7.5を示す。本発明の組換えフェノールオキシダーゼは、前記pH範囲で優れた酵素活性を示すため、水ベースの反応溶液を用いることができ、効率よく酵素反応を行なうために特別なpH調整が必要とされないという優れた効果を発揮する。また、本発明の組換えフェノールオキシダーゼは、水ベースの反応溶液を用いることができ、具体的には、例えば、特別なpH調整を行っていない基質と酵素の水溶液でも効率よく反応を行なうことができる。
【0037】
さらに、本発明の組換えフェノールオキシダーゼは、具体的にはフェノール化合物、アミノフェノール化合物及びジアミン化合物を基質とする酸化反応において、中性付近、具体的には、pH5.0〜8.0、好ましくは、pH5.0〜7.5に至適pHを有する。より具体的には、本発明のフェノールオキシダーゼは、2,6−ジメトキシフェノールを基質として用いた場合、至適pHは、約5.0〜約7.5、より至適な範囲として、約5.0〜7.0であり、オルトアミノフェノールを基質として用いた場合、至適pHは、約5.0〜8.0、より至適な範囲として約6.0〜7.5であり、パラフェニレンジアミンを基質として用いた場合、至適pHは、約5.0〜6.5、より至適な範囲として、約5.0〜5.5である。
【0038】
本発明の組換えフェノールオキシダーゼは、中性pH〜弱アルカリ性pHまでの広範囲で高いpH安定性を示すという優れた性質を有する。具体的には、本発明の組換えフェノールオキシダーゼは、pH7.0〜10.0において、25℃で20時間のインキュベーション条件下、少なくとも25%の相対残存活性、好ましくは、pH7.5〜9.5において、25℃で20時間のインキュベーション条件下、少なくとも50%の相対残存活性、より好ましくは、8.0〜9.0において、25℃で20時間のインキュベーション条件下、少なくとも80%の相対残存活性を維持する。
【0039】
本発明の組換えフェノールオキシダーゼは、40℃において、pH8.5で1時間のインキュベーション条件下、インキュベーション前の活性に対し、少なくとも60%の相対残存活性を維持するという熱安定性を示す。すなわち、本発明の組換えフェノールオキシダーゼは、前記温度範囲において優れた酵素活性を示すため、特別な温度条件に調整することなく、日常の生活温度(室温、水温、体温、気温等)で高い酵素活性を示す。したがって、本発明の組換えフェノールオキシダーゼによれば、染色、廃液処理、高分子化合物の合成などを簡便に行なうことができる。
【0040】
本発明の組換えフェノールオキシダーゼは、例えば、本発明の核酸を適切なベクターに組込み、得られた発現ベクターを用いて適切な宿主を形質転換し、得られた形質転換体を培養することにより発現させうる。かかる発現ベクター及び形質転換体も本発明に含まれる。
【0041】
本発明は、さらに他の側面では、本発明の核酸を含有した発現ベクターに関する。
【0042】
本発明の発現ベクターは、本発明の核酸を含有するものであるため、中性付近において、安定的に、高い酵素活性を示すフェノールオキシダーゼを、効率よく大量に発現させることができる。
【0043】
本発明の発現ベクターに用いられうるベクターとしては、組換えフェノールオキシダーゼを発現させるための宿主の種類、組換えフェノールオキシダーゼの用途等に応じて、適宜選択されうるが、例えば、プラスミドベクター、人工染色体ベクター、ウイルスベクター等が挙げられる。
【0044】
前記ベクターとしては、特に限定されないが、例えば、pYES2、pYEUra3、pAcSGHisNT−A、pKCR、これらの誘導体等が挙げられる。かかるベクターには、誘導可能なプロモーター、選択用マーカー遺伝子、ターミネーター等のエレメント、分泌シグナル配列等をコードする核酸等を適宜有していてもよい。なお、誘導可能なプロモーターを含有するベクターを用いる場合、本発明の核酸は、該プロモーターと作動可能に連結される。
【0045】
また、本発明の組換えフェノールオキシダーゼを容易にかつ大量に製造する観点から、組換えフェノールオキシダーゼを、細胞外に分泌させうるベクター;組換えフェノールオキシダーゼを誘導発現させうるベクター;組換えフェノールオキシダーゼを、慣用の融合パートナー(Hisタグ等)との融合タンパク質として発現させうるベクター等を用いてもよい。
【0046】
本発明の発現ベクターは、本発明の組換えフェノールオキシダーゼを容易にかつ大量に製造する観点から、本発明の核酸の上流に、シグナル配列をコードする核酸が作動可能に連結されたベクターが好ましい。
【0047】
本発明は、別の側面では、本発明の発現ベクターを含有した形質転換体に関する。
【0048】
本発明の形質転換体は、本発明の核酸を含有しているため、中性付近において、安定的に、高い酵素活性を示すフェノールオキシダーゼを、効率よく大量に発現させることができるという優れた効果を発揮する、
【0049】
本発明の形質転換体によれば、組換えフェノールオキシダーゼを回収、精製等に適した状態で発現させることができるという優れた効果を発揮する。したがって、本発明によれば、安価に組換えフェノールオキシダーゼを供給することができる。
【0050】
本発明の形質転換体は、本発明の発現ベクターを適切な宿主に導入することにより作製されうる。
【0051】
前記宿主としては、本発明の核酸を導入し、組換えフェノールオキシダーゼを発現させるに適したものであればよく、例えば、細菌細胞、酵母細胞、植物細胞等が挙げられる。なかでも、本発明の核酸の供給源となる生物から単離されたフェノールオキシダーゼ(天然型フェノールオキシダーゼともいう)の性質を十分に発現させる観点から、酵母細胞、糸状菌が好ましい。
【0052】
前記酵母細胞としては、例えば、ピキア パストリス(Pichia pastoris) GS115株、Pichia pastoris KM71株、Pichia pastoris SMD1168株、サッカロマイセス セルビジエ(Saccharomyces cerevisiae)等挙げられる。
【0053】
宿主への発現ベクターの導入方法としては、公知の導入方法が使用でき、例えば、リン酸カルシウム法、DEAE−デキストラン法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0054】
本発明の形質転換体は、組換えフェノールオキシダーゼを回収、精製等に、より適した状態で発現させる観点から、好ましくは、本発明の核酸の上流に、シグナル配列、具体的には、プレウロタス サジャー−カジュ(Pleurotus sajor−caju)の分泌シグナルをコードする核酸が作動可能に連結されたベクター〔例えば、後述の実施例におけるpPIC−F1(図2)等〕を、酵母細胞、例えば、Pichia pastoris GS115株に導入して得られた形質転換体が望ましい。
【0055】
本発明は、さらに別の側面では、本発明の形質転換体を培養し、培養物中に組換えフェノールオキシダーゼを生成させ、回収することを特徴とする、組換えフェノールオキシダーゼの製造方法に関する。
【0056】
本発明の形質転換体は、本発明の形質転換体が用いられているため、中性付近において、安定的に、高い酵素活性を示すフェノールオキシダーゼを、高い収率で、安価に、大量に、高い純度で得ることができるという優れた効果を発揮する。
【0057】
また、本発明の製造方法によれば、培地組成、培地のpH、培養温度、培養時間の他、インデューサーの使用量、使用時間等について組換えフェノールオキシダーゼの発現の最適な条件を決定することによって、より効率よく組換えフェノールオキシダーゼを生産させることができる。
【0058】
形質転換体の培養は、例えば、Pichia pastoris GS115株の場合、該Pichia pastoris GS115株を、液体培養用培地3{組成:1重量% 酵母エキス〔ディフィコ(Difco)社製〕、2重量% ポリペプトン〔日本製薬社製〕、2重量% デキストロース〔ナカライテスク(nacalai tesque)社製〕、残部 水;121℃で15分間滅菌したもの}中、30℃で一晩、往復振とう培養(120往復/分)し、得られた形質転換体の細胞を、液体培養用培地4{組成:100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)、1.34重量% 商品名:イーストニトロジェンベース (インビトロジェン(Invitrogen)社製)、4×10−5重量% D−ビオチン (ナカライテスク 社製)、5体積% メタノール、残部 水;121℃で15分間滅菌したもの}中、24時間ごとに0.5体積%メタノールを追加しながら、20℃で6日間、往復振とう培養(120往復/分)することが望ましい。
【0059】
形質転換体の培養物からの組換えフェノールオキシダーゼの精製には、慣用のタンパク質精製法が用いられうる。
【0060】
具体的には、形質転換体が、その細胞内に組換えフェノールオキシダーゼを蓄積するものである場合、培養終了後、遠心分離によって細胞を集め、得られた細胞を超音波処理等によって破砕した後、遠心分離等によって無細胞抽出液を得、該無細胞抽出液を、塩析、イオン交換(陽イオン交換又は陰イオン交換)クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の一般的なタンパク質精製法により精製することができる。かかる形質転換体においては、組換えフェノールオキシダーゼが細胞内に蓄積されるため、他の夾雑タンパク質に比べ、組換えフェノールオキシダーゼの割合が大きくなるため、精製を容易に行なうことができる。一方、形質転換体が、組換えフェノールオキシダーゼを細胞外に分泌するものである場合、培養上清から同様に精製を行なえばよい。かかる形質転換体を用いた場合、培養上清に組換えフェノールオキシダーゼが大量に蓄積されるため、より容易に、安価で、迅速に、精製を行なうことができる。
【0061】
なお、組換えフェノールオキシダーゼが、インクルージョンボディーとして得られた場合、慣用のタンパク質の再生方法により、活性を示すポリペプチドとして、組換えフェノールオキシダーゼが得られうる。前記タンパク質の再生方法としては、例えば、形質転換体の培養終了後、遠心分離によって形質転換体の細胞を回収し、超音波処理等によって破砕し、遠心分離等を行なうことによりインクルージョンボディーを回収し、該インクルージョンボディーを、例えば、尿素、グアニジン塩酸塩等で可溶化し、必要に応じて前記タンパク質精製法により精製し、透析法、希釈法等を用いたリフォールディング操作を行なうこと等が挙げられる。
【0062】
組換えフェノールオキシダーゼの発現の確認は、前記と同様に、フェノールオキシダーゼ活性を測定することにより行なわれうる。
【0063】
本発明は、よりさらに別の側面では、本発明の組換えフェノールオキシダーゼに対する抗体に関する。本発明の抗体によれば、本発明の組換えフェノールオキシダーゼに結合するため、中性付近において、安定的に、高い酵素活性を示すフェノールオキシダーゼの回収、精製、スクリーニング等が可能になる。
【0064】
本発明の抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよい。また、本発明の抗体には、本発明の組換えフェノールオキシダーゼに対する結合性を呈するものであれば、抗体断片も含まれる。前記抗体断片としては、例えば、単鎖抗体、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント等が挙げられる。
【0065】
本発明の抗体は、本発明の組換えフェノールオキシダーゼを用いて、ウサギ等の動物を免疫し、該動物から採血し、慣用の手法により精製を行なうことにより得られうる。かかる手法として、例えば、ジョン・E・コリガン(John E. Coligan)編、カレント・プロトコルズ・イン・イムノロジー(Current Protocols in Immunology、1992)等が参照される。
【0066】
前記Fabフラグメントは、モノクローナル抗体を、パパインで消化することにより得られうる。また、前記F(ab’)2フラグメントは、モノクローナル抗体を、ペプシンで消化することにより得られうる。
【0067】
また、本発明の抗体について、本発明の組換えフェノールオキシダーゼと、他のフェノールオキシダーゼ等との交差反応を調べることにより、本発明の組換えフェノールオキシダーゼに対する特異性を評価されうる。
【0068】
以下、本発明を実施例等により詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例により限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、以下に示す播種、菌糸体の切り分け、及び培地の添加の各操作を、クリーンベンチ内で行なった。
【実施例1】
【0069】
1白金耳相当量のフラムリナ ベルティペス(Flammulina velutipes)を、固体培養用寒天培地{組成:2.4重量% ポテトデキストロースブロス〔ディフィコ(Difco)社製}、2.0重量% 寒天、残部 水;121℃で15分間滅菌したもの〕 10mlを含む滅菌シャーレに播種し、25℃で10日間培養した。その後、寒天培地全体に成長した菌糸体を、滅菌した白金耳にて5mm四方に切り分け、小片を得た。前記小片 10片を、液体培養用培地1{組成:2.4重量% ポテトデキストロースブロス〔ディフィコ(Difco)社製〕、残部 水;121℃で15分間滅菌したもの}に播種し、25℃で、往復振とう培養(150往復/分)を行なった。なお、前記液体培養用培地1として、pHを4.0から9.0の範囲で任意に調整された培地のそれぞれを用いた。得られた培養物について、フェノールオキシダーゼの活性を調べた。
【0070】
酵素活性(酸化活性)は、酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)又はトリス塩酸緩衝液(pH8.0)を緩衝液とし、パラ−フェニレンジアミンを基質として用いて、470nmにおける吸光度の変化により測定した。具体的には、96穴のマイクロプレート〔コーニング(Corning)社製、Coster(登録商標)3368〕のウェル内で、0.2M 前記緩衝液 0.1mlに、0.025M パラ−フェニレンジアミン水溶液 0.08mlを添加し、基質溶液を調製した。この基質溶液について、Multi Spectrometer(大日本製薬株式会社製、商品名:Viento)を用いて吸光度を測定することにより、酵素活性を求めた。なお、酵素活性は、470nmにおける吸光度を、1分間で1上昇させる酵素量を1単位(U:ユニット)として定義した。
【0071】
各培養条件で7日間培養を行なった結果、pH5.0及びpH8.0のそれぞれの反応pHにおける酵素活性測定は、共に、培養日数が7日目で酵素活性が最も高く、すべての培養pH条件で、培養日数の経過により、酵素活性の増加を示した。
【0072】
pH5.0にて酵素活性を測定した結果、pH4.0から9.0のpH範囲で培養した各培養液において、すべて明確な酵素活性がみられなかった。具体的には、最も高い酵素活性を示したのは、pH9.0の培養条件で7日間培養することにより得られた培養液であったが、反応開始から17時間後の470nmにおける吸光度の変化は、わずか0.12であった。また、pH6.0の培養pH条件で7日間培養することにより得られた培養液について、17時間後の470nmにおける吸光度の変化は、0.06であった。
【0073】
一方、pH8.0にて酵素活性を測定した結果、pH5.0から9.0のpH範囲で培養した各培養液において、すべて明確な酵素活性が示された。なお、pH4.0で培養することにより得られた培養液は、明らかな酵素活性を示さなかったが、培養日数による酵素活性の増加がみられた。
【0074】
また、培養pHが高いpHである培養液ほど、高い酵素活性を示した。最も高い酵素活性を示した培養液は、pH9.0の培養pH条件で7日間培養することにより得られた培養液で、17時間後の470nmにおける吸光度の変化は、1.27であった。また、pH6.0の培養pH条件で7日間培養することにより得られた培養液について、17時間後の470nmにおける吸光度の変化は、0.78であった。
【0075】
以上の結果から、フラムリナ ベルティペス(Flammulina velutipes)において誘導されるフェノールオキシダーゼは、中性フェノールオキシダーゼであり、また、酸性側に至適pHを有する酸性フェノールオキシダーゼ又は酸性フェノールオキシダーゼは誘導されないことがわかった。また、フラムリナ ベルティペスにおいては、pH8.0での酵素活性は、pH9.0の培養pH条件で7日間培養することにより得られた培養液の酵素活性は、pH6.0の培養pH条件で7日間培養することにより得られた培養液の酵素活性と比較して、約1.6倍も高くなることがわかった。
【0076】
以上の結果から、フラムリナ ベルティペス(Flammulina velutipes)中において、中性pHで強い活性を示すフェノールオキシダーゼが存在することがわかった。
【実施例2】
【0077】
固体培養用寒天培地〔組成:2.4重量% ポテトデキストロースブロス〔ディフィコ(Difco)社製〕、2.0重量% 寒天、残部 水;121℃で15分間滅菌したもの〕 10mlを含む滅菌シャーレに、エノキダケ〔フラムリナ ベルティペス(Flammulina velutipes)〕を1白金耳相当量播種し、25℃で10日間培養した。その後、寒天培地全体に成長した菌糸体を、滅菌した白金耳にて5mm四方に切り分けた。前記小片 10片を、液体培養用培地1〔組成:2.4重量% ポテトデキストロースブロス〔ディフィコ(Difco)社製〕、残部 水(pH5.2);121℃で15分間滅菌したもの〕に播種し、25℃で7日間、往復振とう培養(150往復/分)を行なった。得られた培養液全量を、2L容の三角フラスコ中500mlの前記液体培養用培地1に添加し、25℃で3週間、往復振とう培養(100往復/分)を行なった。
【0078】
その後、成長したペレット状の菌糸体を静置沈殿させ、培養液を取り去り、残部の菌糸体に、液体培養用培地2〔組成:1.0重量% グルコース、0.1重量% 酵母エキス、0.14重量% (NH42SO4、0.36重量% K2HPO4、0.02重量% MgSO4・7H2O、0.10重量% ミネラル混合液(組成:1.0重量% CuSO4・5H2O、1.0重量% ZnCl2、0.7重量% FeCl3・6H2O、0.5重量% CoSO4・7H2O、0.5重量% MnCl2・4H2O)、pH9.2;121℃で15分間滅菌したもの〕 500mlを添加し、さらに25℃で3日間培養した。
【0079】
その後、成長したペレット状の菌糸体を静置沈殿させ、デカンテーションにより培養液を回収した。
【0080】
回収された培養液は、淡黄色若しくは黄褐色の清澄又は濁った液体であった。回収された培養液は、全容量3060ml、総力価13100U、総タンパク質量778mg、比活性16.8U/mgタンパク質であった。
【0081】
前記培養液を凍結乾燥し、凍結乾燥物を得た。得られた凍結乾燥物を、1M トリス塩酸緩衝液(pH8.0)に溶解させ、酵素溶液を得た。前記酵素溶液50μlを、12.5重量% ポリアクリルアミドゲルを用いた未変性PAGEに供した。未変性PAGE後のゲルを、0.1M リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)中で振とう攪拌し、ついで、1mM オルトアミノフェノールを含む0.1M リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)中でゲルを5分間振とう攪拌することによって活性染色を行なった。その後、活性を示したバンドを切り出して、25mM トリス−192mM グリシン緩衝液(pH8.2)中、30分間、振とう攪拌することにより洗浄を行った。洗浄後のゲルを、12.5重量% ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS−PAGEに供した。
【0082】
SDS−PAGE後のゲルを転写装置〔マリソル(Marysol)社製、KS−8460〕にセットし、HIFRED CONSTANT POWER SUPPLY〔マリソル(Marysol)社製、MP−7352〕を用いて、ゲル1cm2あたり1mAの定電流で1.5時間通電し、商品名:ProblottTM membrane〔アプライド バイオシステムズ(Applied Biosystems)社製〕に転写させた。転写後のメンブランを染色液(組成:0.1重量% クマシーブリリアントブルー R−250、40体積% メタノール、残部 水)中、3分間、振とう攪拌し、脱色液(組成:50体積% メタノール、残部 水)中でタンパク質のバンドが見えるまで振とう攪拌することにより、染色を行なった。
【0083】
染色されたバンドを切り出して、プロテインシーケンサー(アプライド バイオシステムズ(Applied Biosystems)社製、Procise TM 492 HT)に供して、N末端アミノ酸配列を決定した。
【0084】
その結果、フラムリナ ベルティペス(Flammulina velutipes)のフェノールオキシダーゼは、アミノ末端アミノ酸配列として、配列番号:3に示されるアミノ酸配列を有することがわかった。
【実施例3】
【0085】
前記実施例2と同様に、フラムリナ ベルティペス(Flammulina velutipes)を、固体培養用寒天培地で培養し、得られた菌糸体を、液体培養用培地1で培養し、その後、液体培養用培地2で培養することにより、中性pHで強い活性を示すフェノールオキシダーゼを産生させると共に細胞中におけるフェノールオキシダーゼに対応するmRNAの存在比を向上させた。
【0086】
フェノールオキシダーゼ産生中のフラムリナ ベルティペス(Flammulina velutipes)を、アドバンテック東洋社製、商品名:定性濾紙No.1等を用いて、回収し、液体窒素を用いて急冷し凍結させた。
【0087】
得られたフラムリナ ベルティペス(Flammulina velutipes)を、液体窒素存在下で、乳鉢と乳棒とを用いて、パウダー状になるまで磨砕し、凍結菌体粉末を得た。約100mgの凍結菌体粉末から、ダイナル(Dynal)社製の商品名:Dynabeads mRNA DIRECT Kitを用い、製造者の指示に従って、全mRNA抽出溶液(50μg相当量) 20μlを調製した。
【0088】
得られたmRNAを製造者の指示に従い、アマシャム ファルマシア(Amersham Pharmacia)社製の商品名:First strand cDNA synthesis Kitを用いて逆転写反応を行ない、一本鎖cDNAを合成した。
【0089】
前記実施例3で得られたN末端アミノ酸配列(配列番号:3)に基づき、5’側プライマー(配列番号:5)を設計し、合成した。また、フラムリナ(Flammulina)属以外の真菌のフェノールオキシダーゼの公知のアミノ酸配列において、高い同一性を有するコンセンサス配列:WFLHCH(配列番号:4)とDNA配列に基づき、3’側プライマー(配列番号:6)を合成した。
【0090】
前記プライマー(各20pmol)と、cDNA 5ngとTaKaRa Ex TaqTM (タカラバイオ社製)とを用い、フラムリナ ベルティペス(Flammulina velutipes)の全cDNAを鋳型とし、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行ない、フェノールオキシダーゼ遺伝子のDNA断片を増幅した。
【0091】
なお、PCR条件は、95℃で5分のインキュベーション後、95℃で1分間と50〜60℃で1分間と72℃で5分間とを1サイクルとして35サイクルの反応を行ない、72℃で10分間インキュベーションする条件とした。
【0092】
得られたPCR産物を、Tris/アセテート/EDTAバッファー〔組成:0.484重量% トリス、0.14体積% 酢酸、0.07885重量% エチレンジアミン−N,N,N’,N’−四酢酸三ナトリウム塩、残部 水〕中、2.0重量% アガロースゲルで電気泳動し、約1.3kbpのDNA断片に対応するバンドを切り出し、ゲル断片を得た。ついで、Prep−A−Gene(登録商標) DNA Purification System〔バイオラッド(Bio−Rad)社製〕を用い、製造者の指示に従って、前記ゲル断片中のDNA断片を精製した。
【0093】
得られたDNA断片を、製造者の指示に従って、pGEM(登録商標)−T Easy Vector Systems〔プロメガ(Promega)社製〕を用いて、pGEM(登録商標)−T Easy Vectorにクローン化した。なお、1.3kbのDNAを含むプラスミドを、pGEM−F1−Nという。
【0094】
得られたベクターを精製し、鋳型として、製造者の指示に従って、Thermo Sequenase PrimerTM Cycle Sequencing Kit〔アマシャム バイオサイエンス(Amersham Biosciences)社製〕を用いて、日立SQ5500E型 DNA Sequencer(日立製作所製)で解析して塩基配列を決定した。
【0095】
決定された塩基配列中、SacI認識部位の上流の配列に基づき、5’側プライマー(配列番号:7)を合成した。また、アマシャム ファルマシア(Amersham Pharmacia)社製、商品名:First strand cDNA synthesis Kitに含まれるオリゴヌクレオチド(配列番号:8)をプライマーとして、前記と同様に、cDNAを鋳型とし、PCRを行なった。その結果、約700bpのDNA断片が得られた。その後、得られたDNA断片を、前記と同様に、pGEM(登録商標)−T Easy Vectorにクローン化した。得られたベクターを鋳型とし、前記と同様に、塩基配列を決定した。なお、700bpのDNAを含むプラスミドを、pGEM−F1−Cという。
【0096】
決定された塩基配列を、配列番号:1に示す。また、決定された塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号:2に示す。
【0097】
その結果、フェノールオキシダーゼは、496アミノ酸残基のアミノ酸配列からなることが推定され、推定アミノ酸配列には、既知のフェノールオキシダーゼに認められる12箇所の銅結合部位が完全に保存されていることが確認された。
【0098】
その後、上記の方法により得られた2種のプラスミドを制限酵素SacIで消化後、連結し、フェノールオキシダーゼ全長遺伝子を含むプラスミド(pGEM−F1)を得た。このpGEM−F1のプラスミドマップを図1に示す。
【実施例4】
【0099】
(1)フェノールオキシダーゼのピキア パストリス(Pichia pastoris)による異種発現系の構築
フェノールオキシダーゼ遺伝子の5’側の塩基配列とそのシグナル配列の3’側の塩基配列とに基づき合成したPCR用5’プライマー(配列番号:11)と、フェノールオキシダーゼ遺伝子中のEcoRI認識部位の下流の塩基配列に基づき合成した3’プライマー(配列番号:12)とを用い、pGEM−F1のEcoRI消化産物を鋳型としてPCRを行ない、フェノールオキシダーゼ遺伝子の部分DNA断片を得た。PCR条件は、94℃で5分のインキュベーション後、94℃で30秒間と55℃で30秒間と72℃で30秒間とを1サイクルとして25サイクルの反応を行ない、7℃で10分間、インキュベーションする条件とした。
【0100】
得られたPCR産物(フェノールオキシダーゼ遺伝子5’改変の部分DNA)にシグナル領域に対応する核酸を付加するために、PCR用5’プライマー(配列番号:9)と、PCR用3’プライマー(配列番号10及び12)とを用い、上記のPCR産物を鋳型としてPCRを行ない、シグナル領域が付加されたフェノールオキシダーゼ遺伝子の部分DNA断片を得た。PCR条件は、94℃で5分のインキュベーション後、94℃で30秒間と55℃で30秒間と72℃で30秒間とを1サイクルとして30サイクルの反応を行ない、72℃で16分間インキュベーションする条件とした。
【0101】
得られたPCR産物(シグナル領域に対応する核酸を含むフェノールオキシダーゼ遺伝子の部分DNA断片)及びpGEM−F1の両方を、それぞれEcoRIとNotIとで消化した。
【0102】
得られた産物を、アガロースゲル電気泳動に供した。対応するバンドをゲルから切り出し、得られたゲル断片から、Prep−A−Gene(登録商標) DNA Purification System〔バイオラッド(Bio−Rad)社製〕を用いDNA断片を抽出した。
【0103】
得られたDNA断片を、EcoRI−NotI消化プラスミドpPIC3.5k(Invitrogen社製)に連結して酵母形質転換用プラスミド(pPIC−F1)を得た。前記pPIC−F1のプラスミドマップを図2に示す。
【0104】
また、商品名:Multi−Copy Pichia Expression Kit (Invitrogen社製)のマニュアルに従い、前記pPIC−F1を、制限酵素MssIで開環し、エレクトロポレーション法により酵母Pichia pastoris GS115株を形質転換した。得られた形質転換酵母は、His+(ヒスチジン非要求性)である。
【0105】
(2)形質転換菌の培養と形質転換菌のスクリーニング
前記(1)で得られた形質転換酵母(His+)の適量を、MD寒天平板培地〔組成:1.34重量% YNB〔インビトロジェン(Invitrogen)社製〕、4×10-5重量% ビオチン、 2重量% D−グルコース〕に塗布し、30℃で一晩培養し、十分生育させた。得られたプレートに滅菌水を加え、形質転換酵母を懸濁した。得られた懸濁液を、適量のG418〔シグマ(Sigma)社製〕を含むYPD寒天平板培地〔1重量% 酵母抽出物(ナカライテスク社製)、 2重量% ペプトン(日本製薬社製)、 2重量% D−グルコース、1.5重量% 寒天〕に、一枚あたり105個の細胞となるように塗布し、30℃で培養した。
【0106】
0.25mg/ml G418を含むYPD寒天平板培地に生育した形質転換酵母を、制限酵素MssIで開環したpPIC−F1を用いて、再度形質転換して、同様の操作により、3.0mg/ml G418に耐性を示すコロニー(G418高耐性株)をスクリーニングした。
【0107】
(3)組換えフェノールオキシダーゼ(rF1)の発現
前記(2)で得られたG418高耐性株を、4mlのYPD液体培地〔組成:1重量% 酵母抽出物(ナカライテスク社製)、2重量% ペプトン、2重量% D−グルコース〕に接種して、試験管中で30℃、24時間振とう培養した。得られた培養物 4mlを500ml容坂口フラスコ中の100ml YPD液体培地に接種し、30℃で24時間振とう培養した。得られた培養物を遠心分離に供して、酵母を回収し、適量のBMM最小培地〔組成:100mM リン酸カリウム緩衝液、1.34重量% YNB〔インビトロジェン(Invitrogen)社製〕、4×10-5重量% ビオチン、0.5体積% メタノール〕に再懸濁した。得られた懸濁液を、0.2mM CuCl2を含む400ml BMM最小培地(2L容三角フラスコ)に全量を接種した。
【0108】
24時間ごとに、終濃度0.5体積%のメタノールを発現誘導基質として添加しながら20℃で4日間振とう培養した。前記メタノールによる誘導により、組換えフェノールオキシダーゼ(rF1)を誘導発現させ、培養液中に放出させた。全量7.2Lの培養液から遠心分離により酵母細胞を除き、培養上清液として、粗酵素液を得た。
【0109】
0.5Mリン酸ナトリウム(pH7.0)800μlに10%のジメチルスルホキシドを含むオルトアミノフェノール水溶液 0.1mlを添加し、基質溶液を得、得られた基質溶液と粗酵素液 0.1mlとを混合し、得られた混合物について、420nmにおける吸光度を測定することにより、オルトアミノフェノールを基質とした場合の酵素活性を測定した。なお、420nmにおける吸光度を1分間で1増加させる酵素量を1単位(U:ユニット)として定義した。その結果、得られた粗酵素液は、全容量7.07L、総力価18,600U、総タンパク質5600mg、比活性3.3U/mgタンパク質であった。
【0110】
前記粗酵素液に、硫酸アンモニウム(ナカライテスク社製、試薬特級)を徐々に添加しながら、攪拌し、25% 飽和となるように調整した。これを、25% 飽和硫酸アンモニウムを含む50mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.0)で平衡化した商品名:TOYOPEARL Butyl−650M〔東ソー株式会社社製〕を充填したカラム(4.8×20cm)に吸着させた。吸着後、25% 飽和硫酸アンモニウムを含む50mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.0) 2Lを用いてカラムを洗浄した。その後、硫酸アンモニウムを25〜0%飽和の濃度範囲で用いた勾配溶出法により、前記カラムに吸着された組換えフェノールオキシダーゼを溶出した。組換えフェノールオキシダーゼの画分を、得られた溶出画分についてパラフェニレンジアミンに対する酵素活性を測定することにより決定した。
【0111】
前記組換えフェノールオキシダーゼの画分を、商品名:Dialysis membrane,Size36〔和光純薬工業株式会社製〕を用いて、50mM トリス硫酸緩衝液(pH8.5)に対して透析を行ない、組換えフェノールオキシダーゼ溶液を得た。
【0112】
前記組換えフェノールオキシダーゼ溶液を、50mM トリス硫酸緩衝液(pH8.5)で平衡化した商品名;TSK gel DEAE−TOYOPEARL 650M〔東ソー株式会社製〕を充填したカラム(2.4×40cm)に吸着させた。吸着後、0.1M 硫酸ナトリウムを含む50mM トリス硫酸緩衝液(pH8.5)を用い、280nmにおける溶出液の吸光度が0.1以下になるまでカラムを洗浄した。その後、硫酸ナトリウムを0.1〜0.35Mの濃度範囲で用いた勾配溶出法により、前記カラムに吸着された組換えフェノールオキシダーゼを溶出した。組換えフェノールオキシダーゼの画分は、得られた溶出画分についてパラフェニレンジアミンに対する酵素活性と、SDS−PAGE後のパラフェニレンジアミンによる活性染色とを行うことにより決定された。組換えフェノールオキシダーゼの精製の一例を、表1に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
前記組換えフェノールオキシダーゼの画分を、10重量% ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS−PAGEに供した。SDS−PAGE後のゲルを、0.1M リン酸カリウム緩衝液(pH6.0)中で平衡化し、その後、1mM パラフェニレンジアミンを含む0.1M リン酸カリウム緩衝液(pH6.0)中で該ゲルを振とうすることにより、活性染色を行なった。
【0115】
また、前記組換えフェノールオキシダーゼの画分を、商品名:Centricon YM−10〔ミリポア(Millipore)社製〕を用いて、約10倍量となるように濃縮した。得られた濃縮液を試料として、10重量% ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS−PAGEに供した。前記試料に還元剤を添加せず、加熱処理を行なわない点以外、Laemmliらの方法に従って電気泳動を行なった。泳動後のゲルを、染色用溶液〔組成:0.05重量% クマシーブリリアントブルー R250、50体積% メタノール、10体積% 酢酸、残部 水〕中で振とうした後、脱色用溶液〔組成:25体積% メタノール、7体積% 酢酸、残部 水〕中で振とうすることにより、タンパク質染色を行なった。分子量マーカー〔アマシャム バイオサイエンシーズ(Amarsham Biosciences)社製、商品名:LMW calibration Kit〕を同時に供し、移動度を比較することにより、組換えフェノールオキシダーゼの分子量を測定した。SDS−PAGE後の活性染色及びタンパク質染色を行なった結果を図3に示す。
【0116】
図3に示されるように、組換えフェノールオキシダーゼの画分は、活性染色及びタンパク質染色で単一のバンドを示し、分子量は28kDaであることがわかる。
【0117】
(4)組換えフェノールオキシダーゼの至適pH
50mM パラフェニレンジアミン水溶液と、50mM 2,6−ジメトキシフェノール水溶液と、50mM オルトアミノフェノールの10体積% ジメチルスルホキシド溶液とを調製し、それぞれ、基質溶液とした。pHをpH4.5、pH5.3、pH5.5、pH6.0、pH6.5、pH7.0、pH7.5、pH8.0、pH8.5及びpH9.0それぞれに調整した混合緩衝液〔組成:0.2M 酢酸ナトリウム、0.2M 2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、0.2M トリス水溶液を、塩酸又は水酸化ナトリウムを用いて目的のpHに調整〕 895μlと、50mM 基質溶液 100μlと、組換えフェノールオキシダーゼ溶液 5μl(0.125U、1.6μg)とを混合した。パラフェニレンジアミン及び2,6−ジメトキシフェノールについては、470nm、オルトアミノフェノールについては、420nmにおける吸光度の変化を測定した。1分間に吸光度を1上昇させる酵素量を1単位(ユニット)とした。
【0118】
その結果、組換えフェノールオキシダーゼは、3種類の基質(パラフェニレンジアミン、2,6−ジメトキシフェノール、オルトアミノフェノール)に対して、中性付近で高い活性を示した。組換えフェノールオキシダーゼは、パラフェニレンジアミンに対して、pH5.0〜6.5において、最大活性を示すpH5.3における活性と比較して、60%以上の活性を示し、pH5.0〜5.5において、最大活性を示すpH5.3における活性と比較して、80%以上の活性を示した。また、組換えフェノールオキシダーゼは、2,6−ジメトキシフェノールに対して、pH5.0〜7.5において、最大活性を示すpH6.5における活性と比較して、60%以上の活性を示し、pH5.0〜7.0において、最大活性を示すpH6.5における活性と比較して、80%以上の活性を示した。さらに、組換えフェノールオキシダーゼは、オルトアミノフェノールに対しては、pH5.0〜8.0において、最大活性を示すpH7.0の活性と比較して、60%以上の活性を示し、pH6.0〜7.5において、最大活性を示すpH7.0の活性と比較して、80%以上の活性を示した。
【0119】
(5)組換えフェノールオキシダーゼのpH安定性
組換えフェノールオキシダーゼ 22μl(0.53U、0.17μg)をpH2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0、10.5、11.0、11.5、12.0に調整した混合緩衝液〔組成;0.2M 酢酸、0.2M リン酸、0.2M ホウ酸水溶液を水酸化ナトリウム溶液により目的のpHに調整〕 88μlと混合し、25℃でインキュベーションした。インキュベーション開始から1時間後及び20時間後、得られた混合溶液 50μlと、0.5M リン酸カリウム緩衝液(pH7.0) 850μlと、50mM オルトアミノフェノールの10%ジメチルスルホキシド溶液 100μlとを混合し、波長420nmにおける吸光度の変化を測定した。組換えフェノールオキシダーゼの1時間後のpH安定性を、図4のパネル(A)に、20時間後のpH安定性を、図4のパネル(B)に示す。
【0120】
組換えフェノールオキシダーゼは、pH3.5〜11.0において、25℃で1時間のインキュベーション条件下、最大の安定性を示したpH9.0における活性と比較して、少なくとも25%の相対残存活性を示した。また、pH4.0〜10.5において、25℃、1時間のインキュベーション条件下、最大の安定性を示したpH9.0における活性と比較して、少なくとも50%の相対残存活性を示した。また、pH7.0〜10.0において、25℃で1時間のインキュベーション条件下、最大の安定性を示したpH9.0における活性と比較して、少なくとも80%の相対残存活性を示した。
【0121】
また、組換えフェノールオキシダーゼはpH7.5〜10.0において、25℃で20時間のインキュベーション条件下、最大の安定性を示したpH9.0における活性と比較して、少なくとも25%の相対残存活性を示した。また、pH7.5〜10.0において、25℃で20時間のインキュベーション条件下、最大の安定性を示したpH9.0における活性と比較して、少なくとも50%の相対残存活性を示した。また、pH8.0〜9.0において、25℃で20時間のインキュベーション条件下、最大の安定性を示したpH9.0における活性と比較して、少なくとも80%の相対残存活性を示した。
【0122】
(6)組換えフェノールオキシダーゼの熱安定性
組換えフェノールオキシダーゼの溶出画分〔50mM トリス硫酸緩衝液(pH8.5)〕を、40℃及び50℃でインキュベーションした。5、10、15、20、30、及び60分後のそれぞれでサンプリングを行なった。インキュベーション後の前記溶液 50μlと、0.5M リン酸カリウム緩衝液(pH7.0) 850μlと、50mM オルトアミノフェノールの10%ジメチルスルホキシド溶液 100μlとを混合し、波長420nmにおける吸光度の変化を測定した。結果を図5に示す。図中、40℃でインキュベーションの場合、ひし形、50℃でインキュベーションの場合、四角で示す。
【0123】
その結果、組換えフェノールオキシダーゼは、50℃で10分間のインキュベーション条件下、インキュベーション前の活性と比較して、25%以上の相対残存活性を示し、50℃で5分間のインキュベーション条件下、インキュベーション前の活性と比較して、50%以上の相対残存活性を示した。また、40℃で20分間のインキュベーション条件下、インキュベーション前の活性と比較して、80%以上の相対残存活性を示し、40℃で60分間のインキュベーション条件下、インキュベーション前の活性と比較して、60%以上の相対残存活性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明によれば、環境、人体に対して温和な条件下での線維や毛髪の染色等を行なうことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】図1は、pGEM−F1の概略図を示す。図中、「F1」は、フェノールオキシダーゼ遺伝子を示す。
【0126】
【図2】図2は、酵母発現用プラスミドpPIC−F1の概略図を示す。図中、「F1」は、フェノールオキシダーゼ遺伝子、「signal」は、シグナル配列を示す。
【0127】
【図3】図3は、活性染色及びタンパク質染色の結果を示す。図3中、レーン1は、タンパク質染色の結果を示し、レーン2は、活性染色の結果を示し、レーンMは、分子量マーカーを示す。
【0128】
【図4】図4は、組換えフェノールオキシダーゼのpH安定性を調べた結果のグラフを示す。図4中、パネル(A)は、1時間インキュベーション後のpH安定性、パネル(B)は、20時間インキュベーション後のpH安定性を示す。
【0129】
【図5】図5は、組換えフェノールオキシダーゼの熱安定性を調べた結果のグラフを示す。図中、40℃でインキュベーションの場合、ひし形、50℃でインキュベーションの場合、四角で示す。
【配列表フリーテキスト】
【0130】
配列番号:3は、フェノールオキシダーゼのアミノ末端アミノ酸配列である。
【0131】
配列番号:4は、種々のフェノールオキシダーゼのコンセンサス配列である。
【0132】
配列番号:5は、プライマーの配列である。
【0133】
配列番号:6は、プライマーの配列である。
【0134】
配列番号:7は、プライマーの配列である。
【0135】
配列番号:8は、プライマーの配列である。
【0136】
配列番号:9は、プライマーの配列である。
【0137】
配列番号:10は、プライマーの配列である。
【0138】
配列番号:11は、プライマーの配列である。
【0139】
配列番号:12は、プライマーの配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号:2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列、
(b)配列番号:2において、少なくとも1個のアミノ酸残基の置換、欠失、付加又は挿入を有するアミノ酸配列をコードし、かつコードされるポリペプチドが、フェノールオキシダーゼ活性を示すものである塩基配列、
(c)配列番号:1に示される塩基配列からなる核酸のアンチセンス鎖とストリンジェントな条件下にハイブリダイズし、かつコードされるポリペプチドが、フェノールオキシダーゼ活性を示すものである核酸の塩基配列、及び
(d)配列番号:2との配列同一性が、少なくとも65%であるアミノ酸配列をコードし、かつコードされるポリペプチドが、フェノールオキシダーゼ活性を示すものである塩基配列、
からなる群より選ばれた塩基配列を含有してなる、フェノールオキシダーゼをコードする核酸。
【請求項2】
コードされるポリペプチドが、少なくともpH5.0〜8.0にフェノールオキシダーゼ活性を有する、請求項1記載の核酸。
【請求項3】
請求項1又は2記載の核酸によりコードされてなる、組換えフェノールオキシダーゼ。
【請求項4】
請求項1又は2記載の核酸を含有してなる、発現ベクター。
【請求項5】
請求項1又は2記載の核酸の上流に、シグナル配列をコードする核酸が作動可能に連結されてなる、請求項4記載の発現ベクター。
【請求項6】
請求項4又は5記載の発現ベクターを含有してなる、形質転換体。
【請求項7】
酵母細胞又は糸状菌に由来する、請求項6記載の形質転換体。
【請求項8】
請求項6又は7記載の形質転換体を培養し、培養物中に組換えフェノールオキシダーゼを生成させ、回収することを特徴とする、請求項3記載の組換えフェノールオキシダーゼの製造方法。
【請求項9】
請求項3記載の組換えフェノールオキシダーゼに対する抗体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−67980(P2006−67980A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−258992(P2004−258992)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(390011442)株式会社マンダム (305)
【Fターム(参考)】