説明

フェノール樹脂の分析方法

【課題】 フェノール樹脂成形品中に含有されているフェノール樹脂の分散状態を正確に確認することができるフェノール樹脂の分析方法を提供することにある。
【解決手段】 フェノール樹脂を含有する組成物もしくはその硬化物中におけるフェノール樹脂の分散状態を分析する方法であって、前記フェノール樹脂にホウ素、窒素、フッ素、ケイ素、リン、硫黄、塩素、臭素、ヨウ素から選ばれる元素を有する官能基を導入し、該元素の分散状態を検出することにより、フェノール樹脂の分散状態を分析することを特徴とするフェノール樹脂の分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール樹脂の分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂を含有する組成物の硬化物である成形品は、機械的強度、耐熱性に優れるため、広く使用されているが、更なる性能向上を検討するには、成形品中に含有されているフェノール樹脂の分散状態を分析することによる配合条件の最適化を図る必要がある。更に、不具合が発生した場合の原因追求方法としても有効と考えられる。フェノール樹脂は、炭素を多く含むため、この炭素を検出し、フェノール樹脂の分散状態を把握することが従来より行われている。しかしながら、近年、成形品中に含有される成分が多様化し、フェノール樹脂以外の含炭素物質が使用される場合が多く、炭素を検出しても含炭素物質とフェノール樹脂の判別が難しく、フェノール樹脂の分散状態を正確に把握することが困難であった。
【0003】
このような問題を解決するため、金属成分を含有させたフェノール樹脂を用いて成形品を製造し、その金属成分を検出することにより、成形品中のフェノール樹脂の分散状態を分析する方法が考えられるが、このような方法では、金属成分が、必ずしもフェノール樹脂と全く同じように成形品中で流動するとは言えず、フェノール樹脂の分散状態を正確に分析することは困難であると推測される。
【0004】
また、フェノール樹脂を用いた成形品のひとつである自動車のブレーキ等に使用される摩擦材は、各種金属系フィラー、金属系繊維を含有しているため、上記の方法によっては、そのような金属成分と、フェノール樹脂中に含有させた金属との区別が困難であると考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、フェノール樹脂に特定元素を有する官能基を導入し、その特定元素を検出することにより、フェノール樹脂の分散状態を分析することができるフェノール樹脂の分析方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明(1)〜(4)により達成される。
(1)フェノール樹脂を含有する組成物もしくはその硬化物中におけるフェノール樹脂の分散状態を分析する方法であって、前記フェノール樹脂にホウ素、窒素、フッ素、ケイ素、リン、硫黄、塩素、臭素、ヨウ素から選ばれる元素を有する官能基を導入し、該元素の分散状態を検出することにより、フェノール樹脂の分散状態を分析することを特徴とするフェノール樹脂の分析方法。
(2)前記官能基を導入する方法は、前記フェノール樹脂を合成する際に、前記官能基を有するフェノール類を用いてフェノール樹脂を合成することによるものである上記(1)に記載のフェノール樹脂の分析方法。
(3)前記官能基を導入する方法は、前記フェノール樹脂の合成中あるいは合成後に、前記フェノール樹脂と、前記官能基を有する化合物とを反応させることによるものである上記(1)に記載のフェノール樹脂の分析方法。
(4)前記元素の分散状態を検出するのに、電子プローブマイクロアナライザーを用いる前記(1)ないし(3)のいずれかに記載のフェノール樹脂の分析方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、フェノール樹脂を含有する組成物もしくはその硬化物である成形品中に含まれる各種有機系フィラー、有機系繊維、金属系フィラー、金属系繊維と、フェノール樹脂とを区別することが可能な分析方法であり、フェノール樹脂を含有する組成物や成形品中のフェノール樹脂の分散状態を明らかにすることが可能である
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、フェノール樹脂を含有する組成物もしくはその硬化物中におけるフェノール樹脂の分散状態を分析する方法に関するものである。
まず、本発明で用いられるフェノール樹脂及び組成物について説明する。
【0009】
本発明で用いるフェノール類としては特に限定されないが、例えば、フェノール、オルソクレゾール、メタクレゾール、パラクレゾール、キシレノール、パラターシャリーブチルフェノール、パラオクチルフェノール、パラフェニルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、レゾルシンなどのフェノール類が挙げられ、特にフェノール、クレゾールが好ましい。
【0010】
また、同様にアルデヒド類としても特に限定されないが、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、アクロレイン等のアルデヒド類、あるいはこれらの混合物であり、これらのアルデヒド類の発生源となる物質、あるいはこれらのアルデヒド類の溶液を使用することもできるが、ホルムアルデヒドが反応操作が容易であることから好ましい。
【0011】
フェノール類(P)とアルデヒド類(F)との反応モル比(F/P)は特に限定されないが、酸触媒を使用する場合は0.4〜1.0であることが好ましく、より好ましくは、0.5〜0.8である。アルカリ触媒を使用する場合は0.4〜4.0であることが好ましく、より好ましくは、0.8〜2.5である。
反応モル比が上記下限値未満では、歩留まりが低くなりやすく、また、得られるフェノール樹脂の分子量が小さくなる場合がある。一方、反応モル比が上記上限値を超えると、フェノール樹脂の分子量が大きくなりやすく、軟化点が高くなり、加熱時に充分な流動性が得られなくなることがある。また、分子量のコントロールが難しい場合があり、反応条件によってはゲル化、もしくは部分的なゲル化物が生じやすくなる。
【0012】
本発明のフェノール樹脂は、酸性触媒を用いたノボラック樹脂の場合、特に限定されないが、硬化剤として通常ヘキサメチレンテトラミン、レゾール型フェノール樹脂などを用いることができる。これらを単独あるいは2種以上混合して使用してもよい。例えば、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを使用する場合は、フェノール樹脂100重量部に対して、通常5〜15重量部配合する。
また、この他にも必要に応じて、改質剤として滑剤、シランカップリング剤などを配合することができる。
【0013】
次に、本発明のフェノール樹脂の分析方法(以下、単に「分析方法」ということがある)について説明する。
本発明の分析方法は、フェノール樹脂を含有する組成物もしくはその硬化物中におけるフェノール樹脂の分散状態を分析する方法であって、上記フェノール樹脂にホウ素、窒素、フッ素、ケイ素、リン、硫黄、塩素、臭素、ヨウ素から選ばれる元素(以下、単に「特定元素」ということがある)を有する官能基を導入し、この特定元素の分散状態を検出することにより、フェノール樹脂の分散状態を分析することを特徴とする。
【0014】
フェノール樹脂に、上記特定元素を有する官能基を導入する方法としては特に限定されないが、例えば、
(1)フェノール類として、特定元素を有する官能基が結合したフェノール類を用い、アルデヒド類と反応させる方法、
(2)フェノール類とアルデヒド類とを反応させる際に、同時に上記官能基を有する化合物を反応させる方法、
(3)フェノール類とアルデヒド類を反応させた後に、フェノール樹脂と上記官能基を有する化合物とを反応させる方法、
などが挙げられる。
【0015】
上記(1)の方法において、特定元素を有する官能基が結合したフェノール類としては、特に限定されないが、例えば、o−フッ化フェノール、m−フッ化フェノール、p−フッ化フェノール、o−塩化フェノール、m−塩化フェノール、p−塩化フェノール、o−臭化フェノール、m−臭化フェノール、p−臭化フェノール、o−ヨウ化フェノール、m−ヨウ化フェノール、p−ヨウ化フェノール、o−ニトロフェノール、m−ニトロフェノール、p−ニトロフェノール、o−アミノフェノール、m−アミノフェノール、p−アミノフェノール、4,4’−スルホニルジフェノール等が挙げられる。
【0016】
上記(2)又は(3)の方法において、特定元素を有する官能基が結合した化合物としては、特に限定されないが、例えば、尿素、チオ尿素、エチレン尿素、メラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、アニリン、ポリオルガノシロキサン、ホウ酸、オキシ塩化リン、トリフェニルホスファイト等が挙げられる。
【0017】
上記の方法等で得られたフェノール樹脂を用い、これを公知の手法により各種充填材などと混合、混練、粉砕等を行うことにより、フェノール樹脂組成物とすることができる。
また、このようにして得られたフェノール樹脂組成物を所定条件で成形することにより、硬化物である成形品を得ることができる。
【0018】
本発明の分析方法においては、上記フェノール樹脂組成物、あるいは、硬化物である成形品を対象として、組成物あるいは硬化物中に含有される上記特定元素の分散状態を検出する。これにより、この特定元素を有する官能基が導入されたフェノール樹脂の分散状態を検出することができる。
上記特定元素の検出方法としては特に限定されないが、例えば、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いて検出する方法が好ましい。EPMAの特性X線の分光には、波長分散型分光器、エネルギー分散型分光器を使用することができる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明について実施例を用いて具体的に説明する。ここに記載されている「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を示す。
【0020】
1.フェノール樹脂の合成
<実施例1>
攪拌装置、冷却管及び温度計を備えた反応容器に、フェノール900部、m−ブロモフェノール100部、蓚酸10部を仕込んだ。内温を100℃まで昇温した後、37%ホルマリン480部を1時間かけて逐添した後、更に1時間還流反応を行った。脱水配管へ切り替え内温130℃まで常圧脱水を行い、続けて内温200℃まで10000Paで減圧脱水を行った後、得られた樹脂を反応容器より取り出し、常温で固形のフェノール樹脂620部を得た。
得られたフェノール樹脂100部に対して、ヘキサメチレンテトラミン10部の割合で加えて混合、粉砕し、ヘキサメチレンテトラミンを含有した粉末状のフェノール樹脂を得た。
【0021】
<実施例2>
m−ブロモフェノール100部を、m−塩化フェノール74部とした以外は、実施例1と同様にして、常温で固形のフェノール樹脂595部を得た。
得られたフェノール樹脂100部に対して、ヘキサメチレンテトラミン10部の割合で加えて混合、粉砕し、ヘキサメチレンテトラミンを含有した粉末状のフェノール樹脂を得た。
【0022】
<実施例3>
攪拌装置、冷却管及び温度計を備えた反応容器に、フェノール1000部、37%ホルマリン1000部、50%苛性ソーダ水溶液10部を仕込んだ。内温を100℃まで昇温した後、30分間還流反応を行った。脱水配管へ切り替え、ホウ酸50部を添加後、続けて内温100℃まで10000Paで減圧脱水を行い、常温で固形のフェノール樹脂1000部を得た。これを粉砕し、粉末状のフェノール樹脂を得た。
【0023】
<比較例>
攪拌装置、冷却管及び温度計を備えた反応容器に、フェノール1000部、蓚酸10部を仕込んだ。内温を100℃まで昇温した後、37%ホルマリン600部を1時間かけて逐添した後、更に1時間還流反応を行った。脱水配管へ切り替え内温130℃まで常圧脱水を行い、続けて内温200℃まで10000Paで減圧脱水を行った後、得られた樹脂を反応容器より取り出し、常温で固形のフェノール樹脂950部を得た。このフェノール樹脂は特定元素を含有していない。
得られたフェノール樹脂100部に対して、ヘキサメチレンテトラミン10部の割合で加えて混合、粉砕し、ヘキサメチレンテトラミンを含有した粉末状のフェノール樹脂を得た。
【0024】
実施例及び比較例で得られた粉末状のフェノール樹脂、繊維基材としてアラミド繊維、有機充填材としてカシューダスト、及び無機充填材として硫酸バリウムとを用い、表1に示す配合割合で仕込み混合して、成形品用混合物とした。
この成形品用混合物を温度160℃、圧力19.6MPaで10分間成形し、150×150×20mmの成形品を得た。得られた成形品を200℃で5時間焼成して成形品サンプルを作成し、これを用いてEPMAによる定性分析、面分析を行った。定性分析結果を表2に示す。また、面分析結果の一例を図1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
・ 成形品用混合物に使用した材料
・アラミド繊維:ドライパルプ 平均繊維長2mm
・カシューダスト:平均粒径 500μm
・硫酸バリウム:平均粒径 20μm
【0028】
(2)評価方法
島津製作所社製EPMA−1600により、定性分析、面分析を実施した。
【0029】
実施例1は臭素、実施例2は塩素、実施例3はホウ素の検出により、フェノール樹脂1の分散状態が明らかであった。比較例では、特定元素を含む官能基を有していないためフェノール樹脂は炭素からのみしか検出できず、成形品中に含まれるアラミド繊維、カシューダストとの区別が困難であった。
図1は、実施例1の成形品を用いた面分析結果である。成形品中に含有されている材料全ての分散状態が明らかであり、フェノール樹脂1は臭素の面分析結果より分散状態が明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のフェノール樹脂の分析方法は、フェノール樹脂を含有する組成物もしくはその硬化物である成形品中のフェノール樹脂の分散状態を明らかにすることができ、フェノール樹脂の分散状態と成形品の物理特性との関係を把握することにより、より高性能な成形品用フェノール樹脂の開発が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1の成形品中に含有されている材料全ての分散状態を示す面分析写真
【符号の説明】
【0032】
1 フェノール樹脂
2 カシューダスト
3 アラミド繊維
4 硫酸バリウム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール樹脂を含有する組成物もしくはその硬化物中におけるフェノール樹脂の分散状態を分析する方法であって、前記フェノール樹脂にホウ素、窒素、フッ素、ケイ素、リン、硫黄、塩素、臭素、ヨウ素から選ばれる元素を有する官能基を導入し、該元素の分散状態を検出することにより、フェノール樹脂の分散状態を分析することを特徴とするフェノール樹脂の分析方法。
【請求項2】
前記官能基を導入する方法は、前記フェノール樹脂を合成する際に、前記官能基を有するフェノール類を用いてフェノール樹脂を合成することによるものである請求項1に記載のフェノール樹脂の分析方法。
【請求項3】
前記官能基を導入する方法は、前記フェノール樹脂の合成中あるいは合成後に、前記フェノール樹脂と、前記官能基を有する化合物とを反応させることによるものである請求項1に記載のフェノール樹脂の分析方法。
【請求項4】
前記元素の分散状態を検出するのに、電子プローブマイクロアナライザーを用いる請求項1ないし3のいずれかに記載のフェノール樹脂の分析方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−84383(P2006−84383A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−270942(P2004−270942)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】