説明

フェライトシート複合体及びその製造方法

【課題】電磁波を遮断するフェライトシートを電子部品に貼り付ける前に、フェライトシートを特定の広さの多数個の小片に分割した構造のフェライトシートとする。
【解決手段】表面側に溝が形成されたフェライトシートを被覆シートと両面接着シートに挟持させてフェライトシート複合体を得る工程と、前記フェライトシート複合体を屈曲させて前記溝を破断する工程とを経て、厚さ300μm以下のフェライトシートシートが多数個の面状小片に分割された状態で被覆シートと両面接着シートにより挟持されているフェライトシート複合体を得る。このとき、縦溝と横溝とからなる格子状溝を有するフェライトシート複合体を二つの非平面体に順次接触させて溝を破断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品に対する電磁波を遮断するためにその電子部品の表面又は電子部品に対する電磁波の反射を抑制するためにその電子部品と他の部品との間に貼り付けるフェライトシート複合体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子部品の電磁波を遮断するために、その外表面に非常に薄いフェライトシートを貼り付ける技術は公知である(特許文献1参照)。
【0003】
この公知例によると、図12に示すように、フェライトシート1は、その裏面1aに両面接着シート2を有し、その表面1bにフェライトシート1そのものを小片に分割するための溝3を有している。
【0004】
このフェライトシート1は、電子部品に対する電磁波を遮断するために、その曲面に押し付けられて貼着されるとき、前記溝3が破断して前記曲面に追従するという効果を発揮している。
【特許文献1】特開2005−15293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記フェライトシート1は、その厚みが5mm以下と非常に薄いので、前記溝3の深さをフェライトシート1の深さに1/20〜1/4の範囲内において所定の深さに正確に設定することが困難である。そのため、フェライトシート1を電子部品に貼着する前までのハンドリング過程で、前記溝3の一部分が破断して、図13に示すように、フェライトシート1の一部分が破断して上方に盛り上がって、隆起1cになることがある。
【0006】
もし、フェライトシート1の一部分が隆起すると、フェライトシート1を電子部品に貼着するとき、その隆起1cになった部分が電子部品に確実に貼着されたか否かを人為的又は物理的手段により確認する必要が生ずる。特に、上記構造のフェライトシート1を、曲面ではなく平面に貼着しようとする場合、元来、前記溝3に破断を起こさせることなく電子部品の平面に前記フェライトシート1を貼着できる、すなわち、前記溝3の機能を使用することなく貼着できるが、もし、フェライトシート1を使用する以前に、フェライトシート1の表面に、万が一、前記隆起1cが存在すると、フェライトシート1が貼着された電子部品の外観を損ねるという問題が発生する。なお、フェライトシート1を電子部品の平らな面に貼着する場合、前記溝3の存在しないフェライトシート1を使用すること可能であるが、その物理的性質上、厚さと広さが特定の範囲においては、フェライトシート1の一部分が破断して前記のような隆起が起こることもある。
【0007】
そこで本発明者は前記の問題を解消し得る構造のフェライトシートを提供すべく、鋭意、検討したところ、フェライトシートにおける前記溝をフェライトシートの製造時に破断させ、従来技術のようなフェライトシートの部分的隆起が全く生じない構造にして使用すれば、電子部品の表面に対してフェライトシートを貼付するとき、従来技術のようにフェライトの表面に隆起が起こるか否かを懸念することなく、フェライトシートを使用できるという事実を見出し、本発明を完成した。従って、本発明の課題は、電磁波を遮断するフェライトシートを電子部品に貼り付ける前に、フェライトシートを特定の広さの多数個の小片に分割した構造フェライトシートにすることにより、電子部品にそれを貼着する際、多数個の小片に分割しなかった構造フェライトシートを電子部品に貼着する段階において遭遇するようなフェライトシートの部分的隆起の発生を解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記の課題を解決するために、表面側に溝が形成された厚さ300μm以下のフェライトシートを被覆シートと両面接着シートに挟持させてフェライトシート複合体を得る工程と、前記フェライトシート複合体を屈曲させて前記溝を破断する工程とからなるフェライトシート複合体の製造方法を採用する。
【0009】
この方法を採用することにより、多数個の面状小片に分割されたフェライトシートを被覆シートと両面接着シートにより挟持させた構造のフェライトシート複合体が得られる。このフェライトシート複合体から両面接着シートの離型シートを剥離して電子部品に貼着すると、その過程では従来技術と異なり、フェライトシートの一部分に隆起が残らないという効果を発揮する。言い換えれば、フェライトシート複合体に部分的隆起が一時的に生じたとしても、フェライトシートが面状小片になっているため、隆起を起こさせる部分的な負荷がなくなれば直ぐに元の平面状態に戻る。
【0010】
さらに本発明は前記課題を効果的に解決するために、前記フェライトの表面側に縦溝と横溝を格子状に形成し、そのフェライトシートを被覆シートと両面接着シートに挟持させるフェライトシート複合体を得る工程と、前記フェライトシート複合体を第一非平面体に接触させて前記縦溝を破断する工程と、同様にフェライトシー複合体を第二非平面体に接触させて前記横溝を破断する工程とからなるフェライトシート複合体の製造方法を採用する。
【0011】
この手段を採用することにより、フェライトシートシートが多数個の面状方形片に分割された状態で被覆シートと両面接着シートにより挟持された構造のフェライトシート複合体が得られ、上記の効果が一層顕著に発揮される。
【0012】
本発明は前記フェライトシート複合体がユーザーに使用される直前まで前記の効果を確実に維持するために、さらに前記両面接着シートの裏面側にその裏面形状より大きい台紙を取り付けた構造のフェライト複合体とする。フェライトシート複合体は前記台紙の載せられた状態でフェライト複合体の製造過程からフェライトシート複合体を電子部品に貼着する過程まで搬送され、その結果、フェライトシート複合体の形状が安定に保持される。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、フェライトシート複合体におけるフェライトシートが面状小片に分割された状態で電子部品の曲面又は平面に貼着されるので、従来技術のようにフェライトシートの粒起の存否を確認することなく、電子部品に貼着できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳述する。まず、本発明に使用されるフェライトとして公知のソフトフェライト、例えば、Mn−NiフェライトやNi−Znフェライト等が使用される。そしてこのようなフェライトから製造されるシートとして厚みが300μm以下、好ましくし250μm以下、50μm以上のものが使用される。
【0015】
前記フェライトシートは、公知の方法によりグリーンシートとして成形された後、図1に示すような方形のグリーンシート1の表面1bに、図2及び図3に示すように、その厚みDの1/2以上の深さdに相当する溝3をあける。溝3は連続する溝であってもよいし断続する溝であってもよい。断続する溝3における連続部分と非連続部分の長さの比は、後述する工程において溝3全体に破断を生じさせる範囲において決定される。また溝3としては、好ましくは縦溝3aとそれに直交する横溝3bとからなる格子状の溝を採用して、後述する工程において、それら縦溝3aと横溝3bの分割工程を2段階に分けて効率的に溝の破断を実施できるようにする。
【0016】
また、前記溝3の形成方法としては、グリーンシート1をその表面1bから所定の深さまで切り込みを入れることが可能なナイフ装置、レーザー装置又は押切り型の金型などを使用する溝形成方法が使用される。
【0017】
次に、このようにして得られたグリーンシート1を公知の装置を使用して公知の条件で焼成し、得られた焼結フェライトシートを形成する。さらに続いて、図4に示すように、被覆シート4と両面接着シート5がそれぞれ巻かれたリール6、7との隙間に焼成フェライトシー11を供給して、図5に示すように、焼成フェライトシート11の表面11b側に被覆シート4が、そして裏面11a側に両面接着シート5がそれぞれ被覆されたフェライトシート複合体12を得る。
【0018】
なお、本発明において焼成フェライトシート11の表面11bに接合される被覆シート4としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジェン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの単独重合体又はこれらを一成分とする共重合体からなる、厚みが30μm以下のシートが使用されるが、本発明に使用される被覆シート4は、柔軟性があるとともに、次の工程において焼成フェライトシート11を屈折させると、若干延伸して前記溝3の破断に障害にならないものが使用される。
【0019】
同様に焼成フェライトシート11の裏面11aに接合される両面接着シート5としては、前記重合体シートをベースとし、その表裏面に接着剤層が接合されているとともに、重合体シートの裏側に付着された接着剤層の上に離型シートが接合された構造のものが使用される。また重合体シートは30μm以下、好ましくは10μm以下の範囲の厚さのものが使用される。
【0020】
このようにして得られたフェライトシート複合体12は、図4に示すように、方向変換ローラ8の周囲を半周して一対の引き取りローラ9、10に引き取られるが、フェライトシート複合体12が方向変換ローラ8により方向変換されるとき、図6に示すように、フェライトシート複合体12を構成する焼成フェライトシート11の表面11b側に形成されている溝3が拡開して、その溝3が最深部で破断する。その結果、引き取りローラ9、10を通過したフェライトシート複合体12は、図7及び図8に示すように、焼成フェライトシート11に存在していた溝3の最深部3cが焼成フェライトシート11の裏面11aに到達する。そして、複数個の溝3に包囲されて生じた焼成フェライトシート11の小片21がそれに隣接する他の小片から分離して独立する。
【0021】
このような構造のフェライトシート複合体12から両面接着シート5の離型シートを剥離して、フェライトシート複合体12を電子部品などの曲面又は平面に当接させて、その上から作業員が手でフェライトシート複合体12を電子部品に押圧すると、押圧された小片21が前記電子部品に当接して、両面接着シート5を介して、フェライトシート複合体12の殆どの面が前記曲面又は平面に追従して貼り付けられる。
【0022】
このようにして得らたれフェライトシート複合体11は、その使用時に前記溝3が完全に破断しているので、従来技術のように前記使用時にフェライトシート複合体の一部分が隆起しているか否かを確認することが不要になるという効果を発揮する。
【0023】
本発明は、その根本的技術思想を踏襲し発明の効果を著しく損なわない限度において、前記の実施形態の一部分を、例えば、次のように変更して実施することができる。
(1)図9に示すように、フェライトシート複合体12の裏面にその形状より広い形状の台紙13を貼り付けて、フェライトシート複合体12を取り扱う過程でフェライトシート複合体12の形状が保持されるようにする。
【0024】
(2)この態様においては、図10に示すように、前記台紙1枚につき複数枚のフェライトシート複合体12を貼り付けることができる。なお、ここで台紙とは、紙から形成される場合のみならず、同様機能を有する他の材料、例えば合成樹脂板やセラミック板等から形成されるものでもよい。
【0025】
(3)さらに、焼結フェライトシート11の溝3を破断する方法として、図11に示すように、焼結フェライトシート11を曲率半径の異なる一対のニップ14,15に通すことにより、まず横溝を破断し、続いてもう一対のニップ16,17に通すとき、それらの間に焼結フェライトシート11の走行方向に直交する面に曲率を有する曲面接触体18に焼結フェライトシート11を接触させることにより、縦溝を破断させる方法を採用することができる。
【0026】
(4)本発明において、焼結フェライトシート11の表面11b側に貼り付ける被覆シート4を両面接着シートに置き換え、フェライトシート複合体12の両面に対して電子部品と他の部品を接合させることができる。
【0027】
(5)本発明の製造工程で採用される方向変換ローラ8又はニップローラ14、15の半径又はフェライトシート複合体12が周接するローラの円弧長さ等は、次にように特定化することができる。すなわち、焼結フェライトシート11を溝3の破断により小片21化するとき、その破断精度を特定化するとともに、前記溝3上で被覆シート4の一部分を伸長させるとき、その伸長した部分が、電子部品に対してフェライトシート複合体12を貼着しても皺を形成しないように、ローラの半径等を特定化することができる。
【0028】
さらに前記ローラの代わりに非平面を有する摺接面体を使用することもできるし、縦横溝からなる格子状溝の他に斜め方向の溝を加えて非方形の小片にすることもできる。またそれらの溝を破断させる順序は、縦横溝を同時に破断させる態様も含めて、任意に変更できる。さらに、溝の形状については同心円や波形のような曲線にしてもよい。このような曲線溝を所定間隔で多数形成することで、フェライトシート複合体が撓みやすくなり貼着精度を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、曲面又は平面を有する厚みが比較的薄い電子部品に対する電磁波の侵入又は漏出若しくは反射を抑制する分野に広く利用できる。特に、本来、溝を必要とすることなく、フェライトシート複合体を貼り付ける平面に対して、敢えて溝が設けられたフェライトシート複合体を使用して、溝がない場合に焼結フェライトシートにおいて予期しない個所で破断が生ずるのを心配をしなくてもよい分野に有効に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係るフェライトグリーンシートの斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る、溝を形成したフェライトグリーンシートの斜視図である。
【図3】図2に示すグリーンシートの拡大断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係るフェライトシート複合体の一製造工程を示す概略図である。
【図5】図4におけるV部分の拡大図である。
【図6】図4におけるVI部分の拡大図である。
【図7】本発明の実施形態に係るフェライトシート複合体の部分拡大断面図である。
【図8】本発明の実施形態に係るフェライトシート複合体の斜視図である。
【図9】本発明に係る他の実施形態を示す斜視図である。
【図10】本発明に係るさらに他の実施形態を示す斜視図である。
【図11】本発明の実施形態に係るフェライトシート複合体の他の製造工程を示す概略図である。
【図12】従来技術に係るフェライトシートの部分拡大断面図である。
【図13】同フェライトシートの斜視図である。
【符号の説明】
【0031】
1:フェライトシート
1a:裏面
1b:表面
1c:隆起
2:両面接着シート
3:溝
3a:縦溝
3b:横溝
4:被覆シート
5:両面接着シート
6、7:リール
8:方向変換ローラ
11:焼成フェライトシート
11a:裏側
11b:表側
12:フェライトシート複合体
13:台紙
14:ニップローラ
15:ニップローラ
16:ニップローラ
17:ニップローラ
18:曲面接触体
21:小片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側に溝が形成された厚さ300μm以下のフェライトシートを被覆シートと両面接着シートに挟持させてフェライトシート複合体を得る工程と、前記フェライトシート複合体を屈曲させて前記溝を破断する工程とからなるフェライトシート複合体の製造方法。
【請求項2】
表面側に縦溝と横溝とが格子状に形成された厚さ300μm以下のフェライトシートを被覆シートと両面接着シートに挟持させてフェライトシート複合体を得る工程と、前記フェライトシート複合体を第一非平面体に接触させて前記縦溝を破断する工程と、同様にフェライトシー複合体を第二非平面体に接触させて前記横溝を破断する工程とからなるフェライトシート複合体の製造方法。
【請求項3】
厚さ300μm以下のフェライトシートシートが多数個の面状小片に分割された状態で被覆シートと両面接着シートにより挟持されているフェライトシート複合体。
【請求項4】
厚さ300μm以下のフェライトシートシートが多数個の面状方形片に分割された状態で被覆シートと両面接着シートにより挟持されているフェライトシート複合体。
【請求項5】
厚さ300μm以下のフェライトシートシートが多数個の面状小片に分割された状態で被覆シートと両面接着シートにより挟持されているとともに、その前記両面接着シートの裏面にその裏面形状より大きい台紙が貼着されているフェライトシート複合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−182062(P2009−182062A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18388(P2008−18388)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(591149089)株式会社MARUWA (35)
【Fターム(参考)】