説明

フェライト焼結体及びその製造方法

【課題】熱暴走の発生を十分に防止でき、高温条件下における使用に好適なフェライト焼結体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係るフェライト焼結体は、それぞれ酸化物に換算したとき、52〜54モル%のFe、35〜42モル%のMnO、及び、6〜11モル%のZnOからなる主成分と、所定量のCo、Ti、Si及びCaを含む副成分とを含有しており、励磁磁束密度200mT及び周波数100kHzの磁界中において、電力損失が極小値を示す温度(ボトム温度)が120℃よりも高く且つボトム温度における電力損失が350kW/m以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Fe、Mn及びZnを含む主成分と、Co、Ti、Si及びCaを含む副成分とを含有するフェライト焼結体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電源用トランスなどの磁心材料として、フェライト焼結体が使用されている。磁心を形成するフェライト焼結体は、フェライトコアと呼ばれ、Mn及びZnを含有するMn−Zn系フェライトが広く使用されている。機器の使用時における発熱量を低減する観点から、フェライトコアは、電力損失(コアロス)の値が広い温度範囲にわたって小さいことが求められる(下記特許文献1参照)。
【0003】
従来の電源用トランスなどの機器は、動作温度50〜70℃付近で適した性能を発揮できるように設計されており、電力損失が極小値を示す温度(以下、「ボトム温度」という。)が80〜100℃の材料からなるフェライトコアが一般に使用されてきた。機器の動作温度がボトム温度よりも低ければ、使用時にフェライトコアの温度が徐々に上昇したとしても、発熱量が徐々に小さくなるため、熱暴走の発生が未然に防止される。
【0004】
ところで、近年、電子機器や電源の小型化に対応するため、大きな部品容積を占めるトランス磁心の小型化、薄型化が強く望まれている。また、電子機器においては、部品の高密度化も進展している。かかる状況下、発熱による温度上昇が大きくなる傾向にあり、これに伴い、フェライトコアの温度も高くなる傾向にある。動作温度の高温化に対応するため、種々のフェライト焼結体の検討がなされている(例えば、下記特許文献2〜4参照)。
【特許文献1】特開2005−119892号公報
【特許文献2】特開2004−35372号公報
【特許文献3】特開2006−213532号公報
【特許文献4】特開2006−44971号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のフェライト焼結体は、トランス電源等の動作温度の高温化に必ずしも十分に対応できるものではなく、機器の熱暴走を十分確実に防止するという点において未だ改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてされたものであり、熱暴走の発生を十分に防止でき、高温条件下における使用に好適なフェライト焼結体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るフェライト焼結体は、それぞれ酸化物に換算したとき、52〜54モル%のFe、35〜42モル%のMnO、及び、6〜11モル%のZnOからなる主成分と、主成分の上記酸化物の合計質量1質量部に対し、以下の(1)〜(4)に示す量のCo、Ti、Si及びCaを含む副成分とを含有し、励磁磁束密度200mT及び周波数100kHzの磁界中において、ボトム温度が120℃よりも高く且つボトム温度における電力損失が350kW/m以下であることを特徴とする。
(1)CoOに換算すると1000×10−6〜3500×10−6質量部に相等する量のCo、
(2)TiOに換算すると2000×10−6〜5000×10−6質量部に相等する量のTi、
(3)SiOに換算すると50×10−6〜150×10−6質量部に相等する量のSi、
(4)CaCOに換算すると300×10−6〜1500×10−6質量部に相等する量のCa。
【0008】
このフェライト焼結体は、電力損失が極小値を示す温度(ボトム温度)が120℃よりも高く且つボトム温度における電力損失が350kW/m以下である。このため、このフェライト焼結体からなる磁心は、100℃程度又はこれ以上の高温条件下であっても発熱量を十分低減できるとともに、熱暴走の発生を十分に防止できる。
【0009】
本発明に係るフェライト焼結体は、副成分が主成分の上記酸化物の合計質量1質量部に対し、以下の(5),(6)に示す量のNb及び/又はTaを更に含むことが好ましい。
(5)Nbに換算すると50×10−6〜600×10−6質量部に相等する量のNb、(6)Taに換算すると80×10−6〜1000×10−6質量部に相等する量のTa。
【0010】
本発明のフェライト焼結体が、副成分として上記(5),(6)に示す量のNb及び/又はTaを含むものであると、フェライト焼結体の結晶組織の均一性が向上し、電力損失を一層低減できる。
【0011】
本発明に係るフェライト焼結体は、副成分が主成分の上記酸化物の合計質量1質量部に対し、以下の(7),(8)に示す量のZr及び/又はHfを更に含むことが好ましい。
(7)ZrOに換算すると200×10−6質量部以下に相等する量のZr、
(8)HfOに換算すると400×10−6質量部以下に相等する量のHf。
【0012】
フェライト焼結体中のZr及びHfは、粒界の高抵抗化に寄与する成分である。したがって、本発明のフェライト焼結体が副成分として上記(7),(8)に示す量のZr及び/又はHfを含むものであると、高温条件下における電力損失を一層低減できる。
【0013】
本発明に係るフェライト焼結体の製造方法は、それぞれ酸化物に換算したとき、52〜54モル%のFe、35〜42モル%のMnO、及び、6〜11モル%のZnOからなる主成分と、主成分の上記酸化物の合計質量1質量部に対し、上記の(1)〜(4)に示す量のCo、Ti、Si及びCaを含む副成分とを混合する混合工程と、上記主成分と上記副成分とを含有する混合粉を加熱炉内で焼成してフェライト焼結体を得る本焼成工程と、を備え、この本焼成工程は、焼成温度を1250〜1345℃に保持する温度保持工程と、当該保持温度から降温するに際し、加熱炉内の酸素濃度を連続的又は段階的に下げる酸素濃度調整工程とを有し、酸素濃度調整工程を経ることによって、温度1250℃における酸素濃度を0.24〜2.0体積%とし且つ温度1100℃における酸素濃度を0.020〜0.20体積%とすることを特徴とする。
【0014】
このフェライト焼結体の製造方法によれば、ボトム温度が120℃よりも高く且つボトム温度における電力損失が350kW/m以下のフェライト焼結体を有効に製造することができる。また、本製造方法により得られるフェライト焼結体からなる磁心は、100℃程度又はこれ以上の高温条件下であっても発熱量を十分に低減できるとともに、熱暴走の発生を十分に防止できる。
【0015】
本発明において、「電力損失が極小値を示す温度(ボトム温度)」とは、励磁磁束密度200mT及び周波数100kHzの磁界中において、温度範囲25〜150℃にて電力損失が極小値を示す温度を意味し、当該温度範囲の電力損失はB−HアナライザSY−8232(商品名、岩崎通信機株式会社製)を用いて測定された値を意味する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、熱暴走の発生を十分に防止でき、高温条件下における使用に好適なフェライト焼結体及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明に係るフェライト焼結体からなるフェライトコア(磁心)を示す斜視図である。図1に示すように、E字型のフェライトコア10は、E型コアなどと呼ばれ、トランスなどに使用される。フェライトコア10のようなE型コアが採用されたトランスとしては、内部に2つのE型コアが対向配置されたものが知られている。
【0019】
<フェライト焼結体>
フェライトコア10はフェライト焼結体で構成され、フェライト焼結体はFe、Mn及びZnを含む主成分と、Co、Ti、Si及びCaを含む副成分と、を含有する。フェライト焼結体の主成分は、それぞれ酸化物に換算したとき、52〜54モル%のFe、35〜42モル%のMnO、及び、6〜11モル%のZnOからなる。フェライト焼結体の副成分は、主成分の上記酸化物の合計質量1質量部に対し、以下の(1)〜(4)に示す量のCo、Ti、Si及びCaを含有する。
(1)CoOに換算すると1000×10−6〜3500×10−6質量部に相等する量のCo、
(2)TiOに換算すると2000×10−6〜5000×10−6質量部に相等する量のTi、
(3)SiOに換算すると50×10−6〜150×10−6質量部に相等する量のSi、
(4)CaCOに換算すると300×10−6〜1500×10−6質量部に相等する量のCa。
【0020】
また、フェライトコア10をなすフェライト焼結体は、励磁磁束密度200mT及び周波数100kHzの磁界中において、ボトム温度が120℃よりも高く且つボトム温度における電力損失が350kW/m以下である。図2は、本発明に係るフェライト焼結体の特性を示すグラフであり、電力損失(コアロス)と温度との関係の一例を示すものである(後述の実施例1を参照)。図2に示す点Aがフェライト焼結体の電力損失の極小点であり、このときの温度がボトム温度である。
【0021】
フェライトコア10は、ボトム温度が120℃よりも高く且つボトム温度における電力損失が350kW/m以下であるため、100℃程度又はこれ以上の高温条件下(例えば、110℃程度)であっても発熱量を十分に低減できるとともに、熱暴走の発生を十分に防止できる。フェライトコア10は、高温条件下における高い信頼性を有するため、動作温度が高温となりやすい小型化機器又は部品が高密度に実装された機器にも好適に用いることができる。
【0022】
上記フェライト焼結体を上記のような組成とした理由は以下の通りである。
【0023】
(主成分)
フェライト焼結体のFeの含有率が52モル%未満であると、フェライト焼結体のボトム温度が過度に高くなり、室温付近における電力損失の低減が不十分となる。他方、Feの含有率が54モル%を超えると、ボトム温度を120℃よりも高い温度にすることが困難となるとともに、高温条件下で使用した場合に性能の経時劣化が顕著となる。Feの含有率は、52.8〜53.8モル%であることがより好ましい。
【0024】
フェライト焼結体のZnOの含有率が6モル%未満又は11モル%を超えると、120℃よりも高い温度における電力損失の低減が不十分となる。ZnOの含有率は、7.5〜9.5モル%であることがより好ましい。
【0025】
フェライト焼結体のMnOの含有率は、他の主成分であるFe及びZnOの含有率を定めると、主成分のうちの残部として定まるものである。
【0026】
(副成分)
機器の熱暴走を一層確実に防止するためには、ボトム温度を超えても電力損失が著しく増大することなく、可能な限りボトム温度における電力損失の値に維持されることが望ましい。Coは、磁気異方性定数K1が比較的大きな正の値であるため、適量のCoを含有せしめることで、ボトム温度以上の温度領域における電力損失の温度変化率を十分に抑制できるという効果が奏される。
【0027】
フェライト焼結体のCoの含有量(CoO換算)が、主成分の酸化物の合計質量1質量部に対し、1000×10−6質量部未満であると、ボトム温度よりも高い温度領域における電力損失の増大が顕著となる。他方、Coの含有量(CoO換算)が3500×10−6質量部を超えると、ボトム温度よりも高い温度領域における電力損失の温度変化率は抑制されるものの、電力損失の低減が不十分となる。Coの含有量(CoO換算)は、1000×10−6質量部より多く且つ3500×10−6質量部未満であることが好ましく、1500×10−6〜3000×10−6質量部であることがより好ましい。
【0028】
Coを含有するフェライト焼結体に、適量のTiを含有せしめることで、電力損失の増大を招来することなく、高温条件下での使用による性能の経時劣化を抑制できるという効果が奏される。フェライト焼結体のTiの含有量(TiO換算)が、主成分の酸化物の合計質量1質量部に対し、2000×10−6質量部未満であると、高温条件下で使用した場合に性能の経時劣化が顕著となる。他方、Tiの含有量(TiO換算)が5000×10−6質量部を超えると、電力損失の低減が不十分となる。Tiの含有量(TiO換算)は、2000×10−6質量部より多く且つ5000×10−6質量部未満であることが好ましく、2500×10−6〜4000×10−6質量部であることがより好ましい。
【0029】
Siは、フェライト焼結体の焼結性を高める作用を有するとともに、粒界の高抵抗化に寄与するため、適量のSiを含有せしめることで、電力損失の低減化が図られる。フェライト焼結体のSiの含有量(SiO換算)が、主成分の酸化物の合計質量1質量部に対し、50×10−6質量部未満であると、フェライト焼結体における高抵抗層の形成が不十分となり、電力損失の低減が不十分となる。他方、Siの含有量(SiO換算)が150×10−6質量部を超えると、異常な粒成長を招来し、電力損失の低減が不十分となる。Siの含有量(SiO換算)は、70×10−6〜130×10−6質量部であることが好ましい。
【0030】
Caは、上述のSiと同様、フェライト焼結体の焼結性を高める作用を有するとともに、粒界の高抵抗化に寄与するため、適量のCaを含有せしめることで、電力損失の低減化が図られる。フェライト焼結体のCaの含有量(CaCO換算)が、主成分の酸化物の合計質量1質量部に対し、300×10−6質量部未満であると、フェライト焼結体における高抵抗層の形成が不十分となり、電力損失の低減が不十分となる。他方、Caの含有量(CaCO換算)が1500×10−6質量部を超えると、異常な粒成長を招来し、電力損失の低減が不十分となる。Caの含有量(CaCO換算)は、350×10−6〜1250×10−6質量部であることが好ましい。
【0031】
本実施形態に係るフェライト焼結体は、副成分が主成分の上記酸化物の合計質量1質量部に対し、以下の(5),(6)に示す量のNb及び/又はTaを更に含むことが好ましい。
(5)Nbに換算すると50×10−6〜600×10−6質量部に相等する量のNb、(6)Taに換算すると80×10−6〜1000×10−6質量部に相等する量のTa。
【0032】
Nbは、フェライト焼結体の結晶組織の均一化に寄与するため、適量のNbを含有せしめることで、電力損失の低減化が図られる。フェライト焼結体のNbの含有量(Nb換算)が、主成分の酸化物の合計質量1質量部に対し、50×10−6質量部未満であると、結晶組織の均一化が不十分となりやすく、電力損失の低減が不十分となる傾向がある。他方、Nbの含有量(Nb換算)が600×10−6質量部を超えると、かえって結晶組織の不均一性を助長する傾向がある。Nbの含有量(Nb換算)は、200×10−6〜500×10−6質量部であることが好ましい。
【0033】
Taは、上述のNbと同様、フェライト焼結体の結晶組織の均一化に寄与するため、適量のTaを含有せしめることで、電力損失の低減化が図られる。フェライト焼結体のTaの含有量(Ta換算)が、主成分の酸化物の合計質量1質量部に対し、80×10−6質量部未満であると、結晶組織の均一化が不十分となりやすく、電力損失の低減が不十分となる傾向がある。他方、Taの含有量(Ta換算)が1000×10−6質量部を超えると、かえって結晶組織の不均一性を助長する傾向がある。Taの含有量(Ta換算)は、300×10−6〜900×10−6質量部であることが好ましい。
【0034】
フェライト焼結体に、Nb及びTaの両方を含有せしめる場合は、Nb及びTaの分子量に基づき、Nb及びTaの合計含有量を適宜調整すればよい。
【0035】
本実施形態に係るフェライト焼結体は、副成分が主成分の上記酸化物の合計質量1質量部に対し、以下の(7),(8)に示す量のZr及び/又はHfを更に含むことが好ましい。
(7)ZrOに換算すると200×10−6質量部以下に相等する量のZr、
(8)HfOに換算すると400×10−6質量部以下に相等する量のHf。
【0036】
Zrは、粒界の高抵抗化に寄与するため、適量のZrを含有せしめることで、電力損失の低減化が図られる。ただし、フェライト焼結体のZrの含有量(ZrO換算)が、主成分の酸化物の合計質量1質量部に対し、200×10−6質量部を超えると、フェライト焼結体中に高抵抗層が過剰に形成されやすく、電力損失の低減が不十分となる傾向がある。Zrの含有量(ZrO換算)は、50×10−6〜200×10−6質量部であることが好ましく、80×10−6〜150×10−6質量部であることがより好ましい。
【0037】
Hfは、上述のZrと同様、粒界の高抵抗化に寄与するため、適量のHfを含有せしめることで、電力損失の低減化が図られる。ただし、フェライト焼結体のHfの含有量(HfO換算)が、主成分の酸化物の合計質量1質量部に対し、400×10−6質量部を超えると、フェライト焼結体中に高抵抗層が過剰に形成されやすく、電力損失の低減が不十分となる傾向がある。Hfの含有量(HfO換算)は、80×10−6〜350×10−6質量部であることが好ましく、130×10−6〜260×10−6質量部であることがより好ましい。
【0038】
フェライト焼結体に、Zr及びHfの両方を含有せしめる場合は、ZrO及びHfOの分子量に基づき、Zr及びHfの合計含有量を適宜調整すればよい。
【0039】
本実施形態に係るフェライト焼結体は、上記以外の成分を更に含有するものであってもよい。例えば、V(V)及びMo(MoO)は、上述のNb,Taと同様、フェライト焼結体の結晶組織の均一化に寄与するため、V及び/又はMoを適量含有せしめることで、電力損失の低減化が図られる。
【0040】
<フェライトコアの製造方法>
次に、フェライトコア10の製造方法について説明する。
【0041】
はじめに、主成分をなす酸化鉄α−Fe、酸化マンガンMn及び酸化亜鉛ZnOを用意し、これら酸化物を混合して混合物を得る。このとき、Fe及びZnOの含有率がそれぞれ52〜54モル%、6〜11モル%となるように原料を混合し、残部を主としてMnで構成する。このとき、最終的に得られる混合物中の各酸化物成分の構成比が上記酸化物に換算して上記範囲内となるように上記酸化物とともに他の化合物を混合してもよい。
【0042】
次いで、上記主成分の混合物を仮焼成して仮焼成物を得る(仮焼工程)。仮焼は通常は空気中で行えばよい。仮焼温度は混合物を構成する成分に依存するが、800〜1100℃とすることが好ましい。また、仮焼時間は、混合物を構成する成分に依存するが、1〜3時間とすることが好ましい。その後、得られた仮焼成物をボールミル等により粉砕して粉砕粉を得る。
【0043】
他方、副成分をなす酸化コバルトCoO、酸化チタンTiO、酸化ケイ素SiO、炭酸カルシウムCaCOを用意し、所定量の上記副成分を混合して混合物を得る。上述の主成分原料の仮焼成物を粉砕する際、副成分原料の上記混合物を添加し、両者を混合する。これにより、本焼成用の原料混合粉を得る(混合工程)。ここで、上記成分以外の副成分(Nb,Ta,ZrO,HfO,V,MoOなど)を適宜添加してもよい。なお、最終的に得られる混合物中の各副成分の含有量が上記範囲内となるように上記化合物の代わりに他の化合物を用いてもよい。また、例えば、CaCOの代わりにCaOを使用してもよい。
【0044】
続いて、上記のようにして得られる原料混合粉と、ポリビニルアルコール等の適当なバインダとを混合し、フェライトコア10と同形状、即ちE字型に成型して成型体を得る。
【0045】
次に、成型体を加熱炉内において大気圧条件下(1気圧)にて焼成する(本焼成工程)。図4は、本焼成工程における温度設定の一例を示すグラフである。図4に示すように、本焼成工程は、加熱炉内の成型体を徐々に加熱する昇温工程S1と、温度を1250〜1345℃に保持する温度保持工程S2と、保持温度から徐々に降温する徐冷工程S3と、徐冷工程S3の終了後に急冷する急冷工程S4とを少なくとも有する。
【0046】
昇温工程S1は、加熱炉内の温度を後述の保持温度にまで昇温する工程である。昇温速度は、10〜300℃/時間とすることが好ましい。
【0047】
昇温工程S1によって所定の温度(1250〜1345℃)に到達すると、この温度に維持する温度保持工程S2を行う。温度保持工程S2における保持温度が1250℃未満であると、フェライト焼結体の粒成長が不十分となり、ヒステリシス損失が増大するため、電力損失の低減が不十分となる。他方、保持温度が1345℃を超えると、フェライト焼結体の粒成長が過剰となり、渦電流損失が増大するため、電力損失の低減が不十分となる。保持温度を1250〜1345℃とすることで、ヒステリシス損失と渦電流損失とのバランスがとれ、高温領域における電力損失を十分に低減できる。
【0048】
上述の保持温度で焼成を行う時間(保持時間)は、2時間30分以上であることが好ましい。保持時間が2時間30分未満であると、温度1250〜1345℃で焼成を行った場合でも粒成長が不十分となり、電力損失の低減が不十分となりやすい。保持時間は粉砕粉を構成する原料に依存するが、3〜10時間とすることがより好ましい。
【0049】
温度保持工程S2の終了後、徐冷工程S3を行う。徐冷工程S3における徐冷速度は、150℃/時間以下であることが好ましい。徐冷速度が150℃/時間を超えると、フェライト焼結体の粒内の残留応力が大きくなりやすく、これにより電力損失の低減が不十分となる傾向がある。なお、上記徐冷速度は、徐冷帯域での平均値を意味するものであり、これを超える速度で温度が低下する部分があってもよい。
【0050】
徐冷工程S3において保持温度から降温するに際し、加熱炉内の酸素濃度を制御し、連続的又は段階的に下げる操作を行う(酸素濃度調整工程)。このような操作を行うことで、温度1250℃における酸素濃度を0.24〜2.0体積%とし且つ温度1100℃における酸素濃度を0.020〜0.20体積%とする。
【0051】
図4は、徐冷工程S3における加熱炉内の酸素濃度設定の一例を示すグラフである。温度を1250℃から1100℃にまで降温するに際し、加熱炉内の酸素濃度が図4のラインL1及びラインL2の間の領域を推移するように操作することが好ましい。図4に酸素濃度を段階的に下げるように設定した場合を図示した。このような酸素濃度の段階的な低減は、加熱炉内に供給する酸素含有ガスの酸素濃度を段階的に低減することによって実現できる。酸素濃度を段階的に下げる代わりに連続的に下げてもよく、これらを組み合わせてもよい。なお、加熱炉内の酸素濃度は、ラインL1及びラインL2の間の領域を推移している限りにおいては、一時的に上昇するようなことがあってもよい。
【0052】
温度1250〜1100℃における酸素濃度の上限ラインL1及び下限ラインL2は、下記式(1)に基づいて算出したものである。
Log(PO)=a−b/T …(1)
式中、POは、酸素モル分率(%)を示し、Tは、絶対温度(K)を示し、a,bは、それぞれ定数を示す。図4に示す上限ラインL1及び下限ラインL2にそれぞれ対応する定数a,bを表1に示す。
【表1】



【0053】
徐冷工程S3を終了し、急冷工程S4を開始する温度(徐冷終了温度)は、950〜1150℃であることが好ましい。徐冷終了温度が1150℃よりも高いと、フェライト焼結体の粒内の残留応力が大きくなりやすく、これにより電力損失の低減が不十分となる傾向がある。他方、徐冷終了温度が950℃よりも低いと、フェライト焼結体の粒界に異相が生じやすく、これにより電力損失の低減が不十分となる傾向がある。
【0054】
徐冷工程S3の終了後、急冷工程S4を行う。少なくとも徐冷終了温度から800℃に到達するまで温度範囲については、降温速度を200℃/時間以上とすることが好ましい。当該温度領域における降温速度が200℃/時間未満であると、フェライト焼結体の粒界に異相が生じやすく、これにより電力損失の低減が不十分となる傾向がある。徐冷工程S3の終了後は、フェライトの酸化を防止する観点から、加熱炉内を窒素雰囲気(酸素濃度0.02体積%以下)とすることが好ましい。
【0055】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記フェライトコア10の製造方法においては、フェライトコア10を所定形状(E字型)とするために、本焼成の前に粉砕粉とバインダとの混合物を成型しているが、粉砕粉を本焼成した後、加工することによって所定形状のフェライトコアを製造してもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、主成分原料を仮焼して得られた仮焼成物を粉砕する際、副成分原料を添加することで本焼成用の混合粉を調製する場合を例示したが、当該混合粉は次のようにして調製してもよい。例えば、仮焼前の主成分原料と副成分原料とを混合して得られた混合物を仮焼した後、仮焼成物を粉砕することによって本焼成用の混合粉を得てもよい。あるいは、仮焼前の主成分原料と副成分原料とを混合して得られた混合粉を仮焼した後、仮焼成物を粉砕する際、更に副成分原料などを添加することによって本焼成用の混合粉を得てもよい。
【0057】
上記実施形態では、本焼成工程における温度設定として図3に示す焼成プロファイルを例示したが、これに限定されるものではなく、適宜変更を加えてもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、E字形状のフェライトコア10を例示したが、フェライトコアの形状は、これに限定されるものではない。フェライトコアの形状は、そのフェライトコアが内蔵される機器の形状や用途に応じて決定することができる。
【実施例】
【0059】
(実施例1〜16及び比較例1〜9)
各成分原料を最終的に表1に示した組成になるように秤量し、ボールミルを用いて湿式混合した。原料混合物を乾燥させた後、空気中において、900℃程度の温度で仮焼した。得られた仮焼粉をボールミルに投入し、所望の粒子径となるまで湿式粉砕を3時間行った。
【0060】
こうして得られた粉砕粉を乾燥し、粉砕粉100質量部に対してポリビニルアルコールを0.8質量部加えて造粒した後、得られた混合物を約100MPaの圧力で加圧成型し、トロイダル状成型体を得た。成型体を表3に示す条件で本焼成を行い、実施例1〜16及び比較例1〜9の寸法が外径20mm、内径10mm、高さ5mmのトロイダル状成型体であるフェライトコアを得た。
【0061】
実施例1〜16及び比較例1〜9で製造した各フェライトコアの電力損失を次のようにして測定した。すなわち、励磁磁束密度200mT、周波数100kHzの条件で温度25〜150℃の範囲の電力損失を測定した。温度範囲25〜150℃において電力損失の測定値が極小値を示す温度(ボトム温度)を求めた。また、ボトム温度における電力損失の値(電力損失の極小値)を求めた。図2は、実施例1のフェライトコアの電力損失の測定結果を示すグラフである。
【0062】
また、電力損失の測定を行った後の各フェライトコアを温度200℃に設定された恒温槽内に96時間にわたって貯蔵した。その後、上記と同様の方法によって、各フェライトコアの電力損失の測定を再度行った。上記の恒温槽における貯蔵処理を行う前後における電力損失の測定値を下記式(2)に代入し、電力損失の変化率を算出した。
【数1】



【0063】
表2に、ボトム温度、電力損失の極小値、150℃における電力損失及び電力損失の変化率の測定結果を示す。
【表2】



【表3】



【0064】
(実施例17〜25及び比較例10〜18)
表3に示す条件とする代わりに、表4に示す各条件で本焼成を行ったことの他は、実施例1と同様にして、実施例17〜25及び比較例10〜18のフェライトコアを製造し、上述の評価試験を行った。表4に、ボトム温度、電力損失の極小値、150℃における電力損失及び電力損失の変化率の測定結果を示す。
【表4】



【0065】
表2,4に示す結果から明らかなように、フェライト焼結体を所定の組成とすると共に、本焼成の条件を制御することで、ボトム温度が120℃よりも高く、ボトム温度における電力損失が十分に低いフェライト焼結体を製造できることが分った。また、このようにして製造したフェライト焼結体は、高温条件下で長時間使用した場合であっても電力損失を十分に低い値に維持することができ、性能の経時劣化が小さいという特長を有することが示された。
【0066】
以上より、本発明に係るフェライト焼結体は、上記のような特性を有することから、熱暴走の発生を十分に回避でき、磁心として使用するのに好適であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係るフェライト焼結体からなるフェライトコアを示す斜視図である。
【図2】電力損失と温度との関係を示すグラフである。
【図3】本焼成工程における温度設定の一例を示すグラフである。
【図4】本焼成工程の降温時における酸素濃度設定の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0068】
10…フェライトコア(磁心)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ酸化物に換算したとき、52〜54モル%のFe、35〜42モル%のMnO、及び、6〜11モル%のZnOからなる主成分と、
前記主成分の前記酸化物の合計質量1質量部に対し、CoOに換算すると1000×10−6〜3500×10−6質量部のCo、TiOに換算すると2000×10−6〜5000×10−6質量部のTi、SiOに換算すると50×10−6〜150×10−6質量部のSi、及び、CaCOに換算すると300×10−6〜1500×10−6質量部のCaを含む副成分と、
を含有し、
励磁磁束密度200mT及び周波数100kHzの磁界中において、電力損失が極小値を示す温度が120℃よりも高く且つ前記極小値を示す温度における電力損失が350kW/m以下であることを特徴とするフェライト焼結体。
【請求項2】
前記副成分は、前記主成分の前記酸化物の合計質量1質量部に対し、Nbに換算すると50×10−6〜600×10−6質量部のNb、及び/又は、Taに換算すると80×10−6〜1000×10−6質量部のTaを更に含むことを特徴とする、請求項1に記載のフェライト焼結体。
【請求項3】
前記副成分は、前記主成分の前記酸化物の合計質量1質量部に対し、ZrOに換算すると200×10−6質量部以下のZr、及び/又は、HfOに換算すると400×10−6質量部以下のHfを更に含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のフェライト焼結体。
【請求項4】
それぞれ酸化物に換算したとき、52〜54モル%のFe、35〜42モル%のMnO、及び、6〜11モル%のZnOからなる主成分と、前記主成分の前記酸化物の合計質量1質量部に対し、CoOに換算すると1000×10−6〜3500×10−6質量部のCo、TiOに換算すると2000×10−6〜5000×10−6質量部のTi、SiOに換算すると50×10−6〜150×10−6質量部のSi、及び、CaCOに換算すると300×10−6〜1500×10−6質量部のCaを含む副成分と、を混合する混合工程と、
前記主成分と前記副成分とを含有する混合粉を加熱炉内で焼成してフェライト焼結体を得る本焼成工程と、
を備え、
前記本焼成工程は、焼成温度を1250〜1345℃に保持する温度保持工程と、当該保持温度から降温するに際し、前記加熱炉内の酸素濃度を連続的又は段階的に下げる酸素濃度調整工程とを有し、前記酸素濃度調整工程を経ることによって、温度1250℃における酸素濃度を0.24〜2.0体積%とし且つ温度1100℃における酸素濃度を0.020〜0.20体積%とすることを特徴とするフェライト焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−227554(P2009−227554A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78532(P2008−78532)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】