説明

フェライト磁性材料

【課題】1150℃以下の温度で焼結してもBr+1/3HcJが6200以上の磁気特性が得られるフェライト磁性材料を提供する。
【解決手段】六方晶構造を有するフェライト相が主相をなし、主相を構成する金属元素の構成比率が、組成式(1):LaCaα1−x−m(Fe12−yCoで表したとき、αはBa及びSrの1種又は2種であって、x、mが、図2に示される(x,m)座標において、A:(0.53,0.27)、B:(0.64,0.27)、C:(0.64,0.35)、D:(0.53,0.45)、E:(0.47,0.45)及びF:(0.47,0.32)で囲まれる領域内の値、1.3≦x/yz≦1.8、9.5≦12z≦11.0であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結磁石、磁石粉末等に好適に用いられるフェライト磁性材料に関し、特に比較的低い焼結温度で従来にない高い磁気特性を得ることのできるフェライト磁性材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば焼結磁石に用いられるフェライト磁性材料としては、六方晶系のBaフェライト又はSrフェライトが知られているが、現在ではマグネトプランバイト型(M型)のBaフェライト又はSrフェライトが主に用いられている。M型フェライトはAFe1219の一般式で表され、Aサイトを構成する元素としてBa、Srが適用される。Aサイトを構成する元素としてSrを選択し、かつその一部を希土類元素で置換し、さらにFeの一部をCoで置換したM型フェライトは、高い磁気特性(残留磁束密度、保磁力)を有することが知られている(特許文献1、特許文献2)。このM型フェライトは、希土類元素としてLaを含むことが必須とされている。六方晶M型フェライトに対する固溶限界量が希土類元素の中でLaが最も多いためである。そして、Aサイトを構成する元素の置換元素としてLaを用いることにより、Feの一部を置換するCoの固溶量を多くすることができ、磁気特性向上に寄与することが特許文献1、2に開示されている。
【0003】
AサイトがCaのみでは六方晶フェライトを形成しないため磁石材料として用いられなかったが、Laを添加することによりCaがAサイトを構成する元素となった場合にも六方晶フェライトが形成され、さらにCoを添加することで高い磁気特性を示すことが知られている(特許文献3)。このフェライト磁性材料は、Aサイトを構成する元素としてCaを選択し、かつその一部を希土類元素(Laを必ず含む)で置換し、さらにFeの一部をCoで置換したM型フェライトということができる。
【0004】
また、特許文献4は、Aサイトを構成する元素としてCaを含むフェライト焼結磁石を開示している。特許文献4は、高い残留磁束密度を保持しながら薄型にしても低下しない高い保磁力を有することを目的としており、以下の一般式により組成が特定される。
1−x−y+aCax+yy+cFe2n−zCoz+d19(原子比率)
ただし、元素AはSr又はSr及びBa、R元素はYを含む希土類元素の少なくとも1種であって、Laを必須に含む。また、x、y、z及びnはそれぞれ仮焼体中のCa、R元素及びCoの含有量及びモル比を表し、a、b、c及びdはそれぞれ仮焼体の粉砕工程で添加されたA元素、Ca、R元素及びCoの量を表し、各々下記条件を満足する。
0.03≦x≦0.4、0.1≦y≦0.6、0≦z≦0.4、4≦n≦10、
x+y<1、0.03≦x+b≦0.4、0.1≦y+c≦0.6、0.1≦z+d≦0.4、
0.50≦[(1−x−y+a)/(1−y+a+b)]≦0.97、
1.1≦(y+c)/(z+d)≦1.8、1.0≦(y+c)/x≦20、
0.1≦x/(z+d)≦1.2
【0005】
さらに、Aサイトを構成するとしてCaを含むフェライト焼結磁石を特許文献5は開示している。特許文献5のフェライト焼結磁石は、式(1−x)CaO・(x/2)R・(n−y/2)Fe・yMOで表わされ、Rは、La、Nd、Prから選択される少なくとも一種の元素であってLaを必ず含み、Mは、Co、Zn、Ni、Mnから選択される少なくとも一種の元素であってCoを必ず含み、モル比を表わすx、y、nがそれぞれ、0.4≦x≦0.6、0.2≦y≦0.35、4≦n≦6であり、かつ1.4≦x/y≦2.5の関係式を満足する組成を有している。
【0006】
【特許文献1】特開平11−154604号公報
【特許文献2】特開2000−195715号公報
【特許文献3】特開2000−223307号公報
【特許文献4】国際公開第2005/027153号パンフレット
【特許文献5】特開2006−104050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上の特許文献1〜5に開示されたフェライト磁性材料は、それまでのM型のフェライト磁性材料では得ることのできない磁気特性を得ることができる。
ところで、残留磁束密度(Br:G)+1/3保磁力(HcJ:Oe)(以下、単にBr+1/3HcJと記す)の値が、残留磁束密度及び保磁力の両者を含めた総合的な磁気特性の尺度として用いられている。特許文献1〜4に開示されたフェライト焼結磁石は、5750〜6000程度のBr+1/3HcJを得ることができる。しかるに、特許文献1〜3に開示されたフェライト焼結磁石は、この値を得るために1200℃近傍の温度で焼結する必要がある。焼結温度が高くなると、必然的にエネルギ消費が多くなるとともに、焼結炉の炉壁が消耗しやすくなる。したがって、炉壁の消耗も含めた省エネルギの観点から、より低い焼結温度で所望する磁気特性を得ることが望まれる。
【0008】
さらに、現在の市場では特許文献1〜3に開示されたフェライト磁性材料よりもさらに高い磁気特性が要求されており、少なくともBr+1/3HcJが6200以上得られるフェライト磁性材料の登場が望まれる。
特許文献5には、Br+1/3HcJが6200以上のフェライト焼結磁石(例えば、実施例8)が開示されている。ただし、このフェライト焼結磁石は1190℃で焼結されたものであり、より低い温度、具体的には1150℃以下の焼結温度で6200以上のBr+1/3HcJは得られていない。
【0009】
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、1150℃以下の温度で焼結してもBr+1/3HcJが6200以上の磁気特性が得られるフェライト磁性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
特許文献1、2に開示されたM型のフェライト磁性材料は、Sr1−x(Fe12−yCo19の組成式において、0.04≦x≦0.9、0.04≦y≦0.5の範囲を採りうることを開示している。しかるに、例えば特許文献1の図1に示されるように、高い残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)を得るためには、上記組成式において、x=y=0.2〜0.4とすることが必要である。x、yの量を多くしてもR、Coが六方晶フェライト相に置換、固溶できなくなり、例えば元素Rを含むオルソフェライトが生成して磁気特性を低下させてしまう。したがって、R、Coの六方晶フェライト相への置換、固溶量を多くすることによる磁気特性向上には限界があった。
【0011】
本発明者等は、Aサイトにおいて、Ba及びSrの1種又は2種とCaを並存させた場合にR、特にLaの六方晶フェライト相への固溶量(又は置換量)を多くでき、しかも、フェライトの各構成元素の量を特定することにより、1150℃以下、好ましくは1145℃以下の温度で焼結しても6200以上のBr+1/3HcJが得られることを知見した。この六方晶フェライトは、AサイトにおけるLaの割合が、他のAサイト構成元素であるBa及びSrの1種又は2種、Caよりも概ね多くなることから、La系の六方晶フェライトと称することができる。
【0012】
すなわち本発明のフェライト磁性材料は、六方晶構造を有するフェライト相が主相をなし、主相を構成する金属元素の構成比率が、組成式(1):LaCaα1−x−m(Fe12−yCoで表したとき、αはBa及びSrの1種又は2種であって、x、mが、図2に示される(x,m)座標において、A:(0.53,0.27)、B:(0.64,0.27)、C:(0.64,0.35)、D:(0.53,0.45)、E:(0.47,0.45)及びF:(0.47,0.32)で囲まれる領域内の値、1.3≦x/yz≦1.8、9.5≦12z≦11.0であることを特徴とする。なお、x、y、z、mはモル比である。また、A:(0.53,0.27)、B:(0.64,0.27)、C:(0.64,0.35)、D:(0.53,0.45)、E:(0.47,0.45)及びF:(0.47,0.32)で囲まれる領域内の値とは、各点を結ぶ線上の値をも含む意味である。上記組成式を満足する本発明のフェライト焼結磁石は、焼結温度が1150℃以下、好ましくは1145℃以下であっても、Br+1/3HcJの値を6200以上とすることができる。
【0013】
本発明において、(1−x−m)/(1−x)≦0.42であることが好ましく、また1.35≦x/yz≦1.75、9.7≦12z≦10.7であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、焼結温度が1150℃以下、好ましくは1145℃以下であっても、Br+1/3HcJの値を6200以上、さらには6300以上とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のフェライト磁性材料を詳細に説明する。
本発明は、所謂AサイトにおけるLaの割合が多く、La系フェライトということができることは前述の通りである。しかし、Aサイトの他の構成元素であるBa及びSrの1種又は2種とCaのAサイトにおける割合が少なすぎると、Laの六方晶フェライトへの固溶量を確保することができないために本発明の効果が得られなくなってしまう。
【0016】
本発明において、La(x)が少ないと磁気特性の向上の効果を十分に得られない。本発明のフェライト磁性材料は、フェライト相におけるLaの固溶量を多くできるところに特徴があるが、あまりLaの量を多くすると、固溶しきれないLaの存在が、オルソフェライト等の非磁性相の生成の要因となる。
【0017】
本発明において、Ca(m)が少ないとLaの固溶量を十分に多くすることができない。しかし、Caが多くなりすぎると、AサイトにおけるLaとαの和の割合が低くなってしまう。その中で、Laを減らせばLa多量置換の効果が薄れ、またαを0にするとα−Feが生成しやすくなる。
【0018】
本発明において、Feはフェライトを構成する基本的な元素である。Feが少なすぎるとAサイトが余剰となり、Aサイトを構成する元素が主相から排出することによって、非磁性粒界成分を不必要に増加させ飽和磁化が低くなる。また、Feが多すぎると、α−Feが生成してしまう。
【0019】
本発明において、CoはM型フェライト相のFeの一部を置換することにより磁気特性を向上する効果を奏する。Coの量が少ないと、Feの一部をCoで置換することによる磁気特性向上の効果を十分に得ることができない。一方、Coが多すぎるとLaとの電荷バランスの最適点を超えてしまい磁気特性が劣化する。
【0020】
以上のような各元素の作用・効果を前提に、本発明のフェライト磁性材料は、六方晶構造を有するフェライト相が主相をなし、主相を構成する金属元素の構成比率が、組成式(1):LaCaα1−x−m(Fe12−yCoで表したとき、x、mが、図2に示される(x,m)座標において、A:(0.53,0.27)、B:(0.64,0.27)、C:(0.64,0.35)、D:(0.53,0.45)、E:(0.47,0.45)及びF:(0.47,0.32)で囲まれる領域(以下、第1の領域という)内の値、1.3≦x/yz≦1.8、9.5≦12z≦11.0である。
【0021】
組成式(1)におけるx、mが、上記領域から外れると、後述する実施例に示すように、1150℃以下の焼結温度によって6200以上のBr+1/3HcJを得ることができない。本発明によれば、6250以上、さらには6300以上のBr+1/3HcJを得ることができる。
【0022】
上記組成式(1)は、当業者間でよく知られているM型フェライトの一般式に基づくものであり、所謂主相の組成を示すものである。つまり、組成式(1)を構成する元素は、通常は、主相を構成する元素である。ただし、組成式(1)を構成する元素の中で、Caは副成分としても使用されうる元素である。例えば、焼結体からなるフェライト磁性材料の構成元素の量を分析する場合、主相及び副成分の両者に共通する元素であっても、分析の結果としては、主相及び副成分のいずれに含まれるのかを把握することができない。したがって、本発明において、組成式(1)におけるCaの量は、主相及び副成分の両者を含んだ量とする。
【0023】
本発明において、高い磁気特性を得るためにLaとCoの比率(La/Co)も重要である。特許文献1〜3によれば、La/Coは理想的には1である。つまり、Sr2+Fe3+1219で示されるM型フェライトのSr2+の一部をLa3+で、またFe3+の一部をCo2+で置換するものであるから、LaとCoの比を1とするのを理想としている。ところが、本発明によるLa系六方晶フェライトにおいて、La/Coが1を超える所定の範囲において残留磁束密度を損なうことなく保磁力を向上することができることを本発明者らは知見した。本発明では、La/Co、つまりx/yzを1.3〜1.8の範囲とすることにより高い磁気特性を得ることが可能となる。好ましいx/yzは1.35〜1.75、さらに好ましいx/yzは1.4〜1.7である。
【0024】
上記組成式(1)において、zが小さすぎると、Aサイトが余剰となり、主相から出て非磁性粒界成分を無駄に増加させ飽和磁化が低くなる。一方、zが大きすぎると、非磁性のα−Fe相又はCoを含む軟磁性スピネルフェライト相が増えるため、残留磁束密度(Br)が低くなってくる。ここで、FeとCoの総量は、上記組成式(1)より、12zで表される。後述する実施例に示されるように、本発明はFeとCoの総量である12zを特定することにより、ラインL1以上の高い磁気特性を得ることができる。つまり本発明は9.5≦12z≦11とする。好ましい12zの値は9.7≦12z≦10.7、さらに好ましい12zの値は10≦12z≦10.5である。
【0025】
本発明において、高い磁気特性を得るためにはαとCaの比率(α/(α+Ca))も重要である。つまり、(1−x−m)/(1−x)を0.42以下の範囲とすることにより高い磁気特性を得ることが可能となる。好ましい(1−x−m)/(1−x)の値は0.0005以上0.42以下、さらに好ましくは0.018以上0.40、より好ましくは0.038以上0.35以下である。
【0026】
組成式(1)は、La、Ca、α、Fe及びCoそれぞれの金属元素の総計の構成比率を示したものであるが、酸素Oも含めた場合には、LaCaα1−x−m(Fe12−yCo19で表すことができる。本発明では、この組成式で示される六方晶M型フェライト相(M相)の比率が95%以上であるフェライト磁性材料を得ることができる。ここで、酸素Oの原子数は19となっているが、これは、Coが2価、Fe、Laが3価であって、かつx=y、z=1のときの、酸素Oの化学量論組成比を示したものである。x、y、zの値によって、酸素Oの原子数は異なってくる。また、例えば焼成雰囲気が還元性雰囲気の場合は、酸素Oの欠損(ベイカンシー)ができる可能性がある。さらに、FeはM型フェライト相においては通常3価で存在するが、これが2価などに変化する可能性もある。また、Coも価数が変化する可能性があり、さらにRにおいても3価以外の価数をとる可能性があり、これらにより金属元素に対する酸素Oの比率は変化する。以上では、また後述する実施例において、x、y、zの値によらず酸素Oの原子数を19と表示してあるが、実際の酸素Oの原子数は、これから多少偏倚した値を示すことがあり、そのような場合をも本願発明は包含することはいうまでもない。
【0027】
本発明のフェライト磁性材料において、Aサイトを構成するLaが所定量含まれていることを前提として、その一部を他の希土類元素(Ce、Pr、Nd、Pm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)の1種又は2種以上で置換することができる。また本発明のフェライト磁性材料において、元素αはBa及びSrの1種又は2種である。
【0028】
本発明によるフェライト磁性材料の組成は、蛍光X線定量分析などにより測定することができる。フェライト磁性材料が焼結体を構成する場合、焼結体について蛍光X線定量分析によりその組成を分析することができる。本発明で特定される各元素の含有量は、この分析値によって特定することができる。また、本発明のフェライト磁性材料におけるM相の存在は、X線回折や電子線回折などにより確認することができる。具体的には、本発明では以下の条件によるX線回折により、M相の存在比率(モル%)を求めた。M相の存在比率は、M型フェライト、オルソフェライト、ヘマタイト、スピネルそれぞれの粉末試料を所定比率で混合し、それらのX線回折強度から比較算定することにより算出するものとする(後述する実施例でも同様)。
X線発生装置:3kW
管電圧:45kV
管電流:40mA
サンプリング幅:0.02deg
走査速度:4.00deg/min
発散スリット:1.00deg
散乱スリット:1.00deg
受光スリット:0.30mm
【0029】
本発明によるフェライト磁性材料は、副成分としてSi成分及びCa成分を含有することができる。副成分としてのSi成分及びCa成分は、焼結性の改善、磁気特性の制御及び焼結体の結晶粒径の調整等を目的としている。なお、前述したように、Caは主相としても含まれる元素であり、ここでの説明はあくまで副成分としてのCa成分についてのものである。なお、副成分としてのSi成分及びCa成分は、専ら粒界に存在する。
Si成分としてはSiOを、Ca成分としてはCaCOを、それぞれを添加するのが好ましい。添加量は、Si成分について好ましくは、SiO換算で0(含まず)〜1.35wt%で、より好ましくは0.05〜0.90wt%、さらに好ましくは0.05〜0.75wt%である。
【0030】
本発明は、主相であるフェライト相を構成する主成分としてCaを含む。したがって、副成分としてCa成分を含有させた場合には、例えば焼結体から分析されるCaの量は主相(主成分ということがある)及び副成分の総量となる。したがって、上述したように、副成分としてCa成分を用いた場合には組成式(1)のCa量は副成分をも含んだ値となる。上記Ca(m)の範囲は、焼結後に分析された組成に基づいて特定されるものであるから、副成分としてCa成分を用いる場合及び用いない場合の両者に適用できることは言うまでもない。
【0031】
本発明のフェライト磁性材料は、Al及び/又はCrを副成分として含有することができる。Al及び/又はCrは、保磁力を向上させる効果を有する。しかし、Al及び/又はCrは、残留磁束密度を低下させる傾向にあるため、好ましくは3.0wt%以下とする。なお、Al及び/又はCr添加の効果を充分に発揮させるためには、その含有量を0.1wt%以上とすることが好ましい。
【0032】
本発明のフェライト磁性材料には、副成分としてBが含まれていてもよい。Bを含むことにより仮焼温度及び焼結温度を低くすることができるので、生産上有利である。Bの含有量は、フェライト磁性材料全体の0.5wt%以下であることが好ましい。B含有量が多すぎると、飽和磁化が低くなってしまう。
【0033】
本発明のフェライト磁性材料には、Na、K、Rb等のアルカリ金属元素は含まれないことが好ましいが、不純物として含有されていてもよい。これらをNaO、KO、RbO等の酸化物に換算して含有量を求めたとき、これらの含有量の合計は、フェライト焼結体全体の1.0wt%以下であることが好ましい。これらの含有量が多すぎると、飽和磁化が低くなってしまう。
【0034】
また、以上のほか、例えばGa、In、Li、Mg、Ti、Zr、Ge、Sn、V、Nb、Ta、Sb、As、W、Mo等が酸化物として含有されていてもよい。これらの含有量は、化学量論組成の酸化物に換算して、それぞれ酸化ガリウム5.0wt%以下、酸化インジウム3.0wt%以下、酸化リチウム1.0wt%以下、酸化マグネシウム3.0wt%以下、酸化チタン3.0wt%以下、酸化ジルコニウム3.0wt%以下、酸化ゲルマニウム3.0wt%以下、酸化スズ3.0wt%以下、酸化バナジウム3.0wt%以下、酸化ニオブ3.0wt%以下、酸化タンタル3.0wt%以下、酸化アンチモン3.0wt%以下、酸化砒素3.0wt%以下、酸化タングステン3.0wt%以下、酸化モリブデン3.0wt%以下であることが好ましい。
【0035】
本発明のフェライト磁性材料は、フェライト焼結磁石を構成することができる。また、本発明のフェライト磁性材料は、フェライト磁石粉末を構成することができる。このフェライト磁石粉末は、樹脂と混合されることによりボンディッド磁石を構成することができる。また、本発明のフェライト磁性材料は、膜状の磁性層として磁気記録媒体などを構成することもできる。
【0036】
本発明のフェライト磁性材料がフェライト焼結磁石の形態をなす場合、その平均結晶粒径は、好ましくは1.5μm以下、より好ましくは1.0μm以下、さらに好ましくは0.2〜1.0μmである。結晶粒径は走査型電子顕微鏡によって測定することができる。
【0037】
本発明によるフェライト焼結磁石及びボンディッド磁石は所定の形状に加工され、以下に示すような幅広い用途に使用される。例えば、フューエルポンプ用、パワーウィンド用、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)用、ファン用、ワイパ用、パワーステアリング用、アクティブサスペンション用、スタータ用、ドアロック用、電動ミラー用等の自動車用モータとして使用することができる。また、FDDスピンドル用、VTRキャプスタン用、VTR回転ヘッド用、VTRリール用、VTRローディング用、VTRカメラキャプスタン用、VTRカメラ回転ヘッド用、VTRカメラズーム用、VTRカメラフォーカス用、ラジカセ等キャプスタン用、CD/DVD/MDスピンドル用、CD/DVD/MDローディング用、CD/DVD光ピックアップ用等のOA/AV機器用モータとして使用することができる。さらに、エアコンコンプレッサー用、冷凍庫コンプレッサー用、電動工具駆動用、ドライヤーファン用、シェーバー駆動用、電動歯ブラシ用等の家電機器用モータとしても使用することができる。さらにまた、ロボット軸、関節駆動用、ロボット主駆動用、工作機器テーブル駆動用、工作機器ベルト駆動用等のFA機器用モータとしても使用することが可能である。その他の用途としては、オートバイ用発電器、スピーカ・ヘッドホン用マグネット、マグネトロン管、MRI用磁場発生装置、CD−ROM用クランパ、ディストリビュータ用センサ、ABS用センサ、燃料・オイルレベルセンサ、マグネトラッチ、アイソレータ等に、好適に使用される。
【0038】
また、本発明のフェライト磁性材料が磁石粉末の形態をなす場合、その平均粒径を0.1〜5.0μmとすることが望ましい。ボンディッド磁石用粉末のより望ましい平均粒径は0.1〜2.0μm、さらに望ましい平均粒径は0.1〜1.0μmである。ボンディッド磁石を製造する際には、フェライト磁石粉末を樹脂、金属、ゴム等の各種バインダと混練し、磁場中又は無磁場中で成形する。バインダとしては、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)、塩素化ポリエチレン、ポリアミド樹脂などが好ましい。成形後、硬化を行ってボンディッド磁石とする。
【0039】
本発明のフェライト磁性材料を用いて、磁性層を有する磁気記録媒体を作製することができる。この磁性層は、M型フェライト相を95モル%以上含む。磁性層の形成には、例えば蒸着法、スパッタ法などを用いることができる。スパッタ法で磁性層を形成する場合には、本発明によるフェライト焼結磁石をターゲットとして使用することもできる。なお、磁気記録媒体としては、ハードディスク、フレキシブルディスク、磁気テープ等が挙げられる。
【0040】
次に、本発明のフェライト磁性材料の好ましい製造方法を焼結磁石について述べる。
本発明によるフェライト焼結磁石の製造方法は、配合工程、仮焼工程、粗粉砕工程、微粉砕工程、磁場中成形工程及び焼成工程を含む。
【0041】
<配合工程>
配合工程は、原料粉末を所定の割合となるように秤量後、湿式アトライタ、ボールミル等で1〜20時間程度混合、粉砕処理する。出発原料としては、フェライト構成元素(Ba、Sr、Ca、La、Fe、Co)の1種を含有する化合物(例えば、BaCO、SrCO、CaCO、La(OH)、Fe及びCo)又はこれらの2種以上を含有する化合物を用いればよい。化合物としては酸化物、又は焼成により酸化物となる化合物、例えば炭酸塩、水酸化物、硝酸塩等を用いる。出発原料の平均粒径は特に限定されないが、通常、0.1〜2.0μm程度とすることが好ましい。出発原料は、仮焼前の配合工程ですべてを混合する必要はなく、各化合物の一部又は全部を仮焼の後に添加する構成にしてもよい。
【0042】
<仮焼工程>
配合工程で得られた原料組成物を仮焼する。仮焼は、通常、空気中等の酸化性雰囲気中で行われる。仮焼温度は1100〜1450℃の温度範囲で行うことが好ましく、1150〜1400℃がより好ましく、1200〜1350℃がさらに好ましい。安定時間は1秒間〜10時間、さらには1秒間〜3時間が好ましい。仮焼後の物質は、通常M相を70%以上有し、その一次粒子径は、好ましくは10μm以下、より好ましくは2.0μm以下である。
【0043】
<粉砕工程>
仮焼体は、一般に顆粒状、塊状等になっており、そのままでは所望の形状に成形ができないため、粉砕する。また、所望の最終組成に調整するための原料粉末、及び添加物等を混合するために、粉砕工程が必要である。この粉砕工程で主成分、副成分の原料の一部を添加することができ、それが後添加である。粉砕工程は、通常、粗粉砕工程と微粉砕工程に分かれる。なお、仮焼体を所定の粒度に粉砕することにより、ボンディッド磁石用のフェライト磁石粉末とすることもできる。
【0044】
<粗粉砕工程>
前述のように、仮焼体は一般に顆粒状、塊状等であるので、これを粗粉砕することが好ましい。粗粉砕工程では、振動ミル等を使用し、平均粒径が0.5〜5.0μmになるまで処理される。なお、ここで得られた粉末を粗粉砕粉と呼ぶことにする。
【0045】
<微粉砕工程>
粗粉砕粉を湿式アトライタ、ボールミル、あるいはジェットミル等によって粉砕し、平均粒径0.08〜2.0μm、好ましくは0.1〜1.0μm、より好ましくは0.2〜0.8μm程度に粉砕する。得られた微粉砕粉の比表面積(BET法により求められる)としては、7〜12m/g程度とすることが好ましい。粉砕時間は、粉砕方法にもよるが、例えば湿式アトライタでは30分間〜10時間、ボールミルによる湿式粉砕では10〜40時間程度、処理すればよい。
【0046】
微粉砕を行うにあたって、副成分を添加することが好ましい。特に本発明では、Si成分としてSiOを、Ca成分としてCaCOを添加することが好ましい。この副成分の添加は、焼結性の改善、磁気特性の制御及び焼結体の結晶粒径の調整等を目的として添加される。
【0047】
本発明において、後添加物は微粉砕工程で添加されることが好ましい。また、本発明においては、焼結体の磁気的配向度を高めるために、一般式Cn(OH)nHn+2で示される多価アルコールを微粉砕工程で添加することが好ましい。ここで、前記一般式において、炭素数を表すnの好ましい値は4〜100、より好ましくは4〜30、さらに好ましくは4〜20、より一層好ましくは4〜12である。多価アルコールとしては、例えばソルビトールが望ましいが、2種類以上の多価アルコールを併用しても良い。さらに、多価アルコールに加えて、他の公知の分散剤を使用しても良い。
【0048】
前述の一般式は、骨格がすべて鎖式であって、かつ不飽和結合を含んでいない場合の一般式である。多価アルコール中の水酸基数、水素数は、一般式で表される数よりも多少少なくても良い。すなわち、飽和結合に限らず、不飽和結合を含んでいても良い。基本骨格は鎖式であっても環式であっても良いが、鎖式であることが好ましい。また、水酸基数が炭素数nの50%以上であれば、本発明の効果が実現するが、水酸基数は多い方が好ましく、水酸基数と炭素数が同程度であることが最も好ましい。この多価アルコールの添加量としては、添加対象物に対して0.05〜5.0wt%、好ましくは0.1〜3.0wt%、より好ましくは0.3〜2.0wt%程度とすればよい。なお、添加した多価アルコールは、磁場中成形工程後の焼成工程で熱分解除去される。
【0049】
微粉砕工程は、以下に示すように、第1の微粉砕工程と第2の微粉砕工程に分け、かつ第1の微粉砕工程と第2の微粉砕工程の間に粉末熱処理工程を行うこともできる。
<第1の微粉砕工程>
第1の微粉砕工程では粗粉をアトライタやボールミル、或いはジェットミルなどによって、湿式或いは乾式粉砕して平均粒径で0.08〜0.8μm、好ましくは0.1〜0.4μm、より好ましくは0.1〜0.2μmに粉砕する。この第1の微粉砕工程は、粗粉をなくすこと、さらには磁気特性向上のために焼結後の組織を微細にすることを目的として行うものであり、比表面積(BET法による)としては20〜25m/gの範囲とするのが好ましい。
粉砕方法にもよるが、粗粉砕粉末をボールミルで湿式粉砕する場合には、粗粉砕粉末200gあたり60〜100時間処理すればよい。
なお、保磁力の向上や結晶粒径の調整のために、第1の微粉砕工程に先立ってCaCOとSiO、或いはさらにSrCOやBaCO等の粉末を添加してもよい。
【0050】
<粉末熱処理工程>
粉末熱処理工程では、第1の微粉砕工程で得られた微粉を600〜1200℃、より好ましくは700〜1000℃で、1秒〜100時間保持する熱処理を行う。
第1の微粉砕工程を経ることにより0.1μm未満の粉末である超微粉が不可避的に生じてしまう。超微粉が存在すると後続の磁場中成形工程で不具合が生じることがある。例えば、湿式成形時に超微粉が多いと水抜けが悪く成形できない等の不具合が生じる。そこで、本実施の形態では磁場中成形工程に先立ち熱処理を行う。つまり、この熱処理は、第1の微粉砕工程で生じた0.1μm未満の超微粉をそれ以上の粒径の微粉(例えば0.1〜0.2μmの微粉)と反応させることにより、超微粉の量を減少させることを目的として行うものである。この熱処理により超微粉が減少し、成形性を向上させることができる。このときの熱処理雰囲気は、大気中で行えばよい。
【0051】
<第2の微粉砕工程>
続く第2の微粉砕工程では熱処理された微粉砕粉末をアトライタやボールミル、或いはジェットミルなどによって、湿式或いは乾式粉砕して0.8μm以下、好ましくは0.1〜0.4μm、より好ましくは0.1〜0.2μmに粉砕する。この第2の微粉砕工程は、粒度調整やネッキングの除去、添加物の分散性向上を目的として行うものであり、比表面積(BET法による)としては10〜20m/g、さらには10〜15m/gの範囲とするのが好ましい。この範囲に比表面積が調整されると、超微粒子が存在していたとしてもその量は少なく、成形性に悪影響を与えない。つまり、第1の微粉砕工程、粉末熱処理工程及び第2の微粉砕工程を経ることにより、成形性に悪影響を与えることなく、かつ焼結後の組織を微細化するという要求を満足することができる。
粉砕方法にもよるが、ボールミルで湿式粉砕する場合には、微粉砕粉末200gあたり10〜40時間処理すればよい。第2の微粉砕工程を第1の微粉砕工程と同程度の条件で行うと超微粉が再度生成されることになることと、第1の微粉砕工程ですでに所望する粒径がほとんど得られていることから、第2の微粉砕工程は、通常、第1の微粉砕工程よりも粉砕条件が軽減されたものとする。ここで、粉砕条件が軽減されているか否かは、粉砕時間に限らず、粉砕時に投入される機械的なエネルギを基準にして判断すればよい。
なお、保磁力の向上や結晶粒径の調整のために、第2の微粉砕工程に先立ってCaCOとSiO、或いはさらにSrCOやBaCO等の粉末を添加してもよい。
【0052】
<磁場中成形工程>
磁場中成形工程は、乾式成形、もしくは湿式成形のいずれの方法でも行うことができるが、磁気的配向度を高くするためには、湿式成形で行うことが好ましい。
湿式成形を行う場合、微粉砕工程を湿式で行い、得られたスラリを所定の濃度に濃縮し、湿式成形用スラリとする。濃縮は、遠心分離やフィルタープレス等によって行えば良い。この場合、微粉砕粉が、湿式成形用スラリ中の30〜80wt%程度を占めることが好ましい。また、分散媒としては水が好ましく、さらに、グルコン酸及び/又はグルコン酸塩、ソルビトール等の界面活性剤が添加されていることが好ましい。次いで、湿式成形用スラリを用いて磁場中成形を行う。成形圧力は0.1〜0.5ton/cm程度、印加磁場は5〜15kOe程度とすれば良い。なお、分散媒は水に限らず、非水系溶媒を使用しても良い。非水系の分散媒を使用する場合には、トルエンやキシレン等の有機溶媒を使用することができる。この場合には、オレイン酸等の界面活性剤を添加することが好ましい。
【0053】
<焼成工程>
得られた成形体を焼成し、焼結体とする。焼成は、通常、大気中等の酸化性雰囲気中で行われる。本発明によるフェライト磁性材料は、1150℃以下の温度で焼結してもBr+1/3HcJの値を6200以上とすることができるところに特徴を有しており、省エネルギの観点からも焼結温度を1150℃以下にすることが好ましい。しかし、本発明は1150℃を超える温度で焼結することを否定するものではない。したがって、焼成温度は1080〜1200℃、好ましくは1100〜1150℃の温度範囲で適宜選択すれば良い。また焼結温度(安定温度)に保持する時間は0.5〜3時間程度とすれば良い。
【0054】
湿式成形で成形体を得た場合、成形体を充分に乾燥させないまま急激に加熱すると、成形体にクラックが発生する可能性がある。その場合、室温から100℃程度まで、例えば10℃/時間程度のゆっくりとした昇温速度にすることで、成形体を充分に乾燥し、クラック発生を抑制することが好ましい。また、界面活性剤(分散剤)等を添加した場合、100〜500℃程度の範囲で、例えば2.5℃/時間程度の昇温速度とすることで脱脂処理を行い、分散剤を充分に除去することが好ましい。
【実施例1】
【0055】
出発原料として水酸化ランタン(La(OH))、炭酸バリウム(BaCO)、炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸ストロンチウム(SrCO)、酸化鉄(Fe)及び酸化コバルト(Co)を用意した。これらの主成分を構成する出発原料を、酸素を除いて焼成後の主成分が下記組成式(a)〜(h)(モル比)となるように秤量した。秤量された主成分を表1に示す。なお、表1には前述した組成式(1)のx、y、z等の値も併記している。
組成式(a):La0.7CaSr0.3−mFe10.93Co0.47
m=0.05,0.15,0.2,0.25,0.3
組成式(b):La0.65CaSr0.35−mFe10.97Co0.43
m=0.15,0.25,0.3,0.4
組成式(c):La0.6CaSr0.4−mFe11.00Co0.40
m=0,0.15,0.2,0.3,0.375,0.4
組成式(d):La0.55CaSr0.45−mFe11.03Co0.37
m=0.18,0.25,0.3,0.35,0.42
組成式(e):La0.5CaSr0.5−mFe11.10Co0.30
m=0.2,0.3,0.4,0.5
組成式(f):La0.45CaBa0.1Sr0.45−mFe11.50Co0.30
m=0,0.05,0.15,0.25,0.35
組成式(g):La0.3CaSr0.7−mFe11.80Co0.20
m=0
組成式(h):La0.12CaSr0.88−mFe11.92Co0.08
m=0,0.044,0.088,0.176,0.264,0.352
【0056】
【表1】

【0057】
以上の配合原料を湿式アトライタで混合、粉砕してスラリ状の原料組成物を得た。このスラリを乾燥後、大気中にて1350℃(組成式(c))、1300℃(組成式(a)、(b)、(d)、(e)、(g))、1250℃(組成式(f))又は1200℃(組成式(h))で3時間保持する仮焼を行った。得られた仮焼体をロッド振動ミルで粗粉砕した。
次の微粉砕はボールミルにより2段階で行った。第1の微粉砕工程は粗粉末に対して水を添加して88時間処理するというものである。第1の微粉砕工程後に、微粉末を大気中、800℃で熱処理を行った。
続いて、熱処理粉に対して、水及びソルビトールを添加し、さらに副成分としてSiOを0.60wt%、CaCOを1.40wt%添加して湿式ボールミルにて25時間処理する第2微粉砕を行った。
【0058】
得られた微粉砕スラリの固形分濃度を調整し、湿式磁場成形機を使用して、12kOeの印加磁場中で直径30mm×厚み15mmの円柱状成形体を得た。成形体は大気中室温にて充分に乾燥し、ついで大気中にて表2に示す温度で1時間保持する焼成を行った。
【0059】
得られた焼結体の組成(La,Ca,Ba,Sr,Fe,Co)を蛍光X線定量分析により測定した。また、得られた円柱状焼結体の上下面を加工した後、最大印加磁場25kOeのB−Hトレーサを使用して、残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)を測定した。なお、残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)の測定は、常温(25℃)にて行った。以下も同様である。また、得られた焼結体の相構成を上述した条件のX線回折によりM型フェライト相の比率を特定した。以上の結果を表2に示す。また、測定された残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)の関係を図1に示す。ただし、図1は残留磁束密度(Br)≧4000G、保磁力(HcJ)≧4500Oeに特定しているため、この条件を満たさない低い磁気特性の試料は図1にプロットされていない。また、Br+1/3HcJ=6200を示すラインL1未満の特性を×でプロットし、Br+1/3HcJ=6200を示すラインL1以上の特性を○でプロットした。さらに、各プロット付した数字が試料No.を示している。○でプロットした焼結体は、Br≧4200G、HcJ≧5000Oeを満足している。
【0060】
【表2】

【0061】
表2及び図1に示すように、1140℃で焼結された試料No.3、4、7、8、12〜14、17〜19において、Br+1/3HcJが6200以上の特性が得られることがわかった。また、試料No.4、8、13において、Br+1/3HcJが6300以上の特性が得られることがわかった。
ここで、試料No.11〜15における(1−x−m)/(1−x)とBr+1/3HcJの関係を図14に示す。
表2および図14から、(1−x−m)/(1−x)が0.0005〜0.42の範囲にあるときに、6200以上のBr+1/3HcJが得られることが確認できた。
【0062】
次に、図2において、横軸がLa量を示すx、縦軸がCa量を示すmとする(x,m)座標上に図1に示したと同様にプロットを施した。○及び×が示す内容は図1と同様である。図2において、試料No.3、4、7、8、12〜14、17〜19のプロットを囲む領域は、(x,m)座標において、A:(0.53,0.27)、B:(0.64,0.27)、C:(0.64,0.35)、D:(0.53,0.45)、E:(0.47,0.45)及びF:(0.47,0.32)を結ぶ線分で特定される。そこで本発明では、下記組成式(1)のLa量を示すx、Ca量を示すmを、(x,m)座標の、A:(0.53,0.27)、B:(0.64,0.27)、C:(0.64,0.35)、D:(0.53,0.45)、E:(0.47,0.45)及びF:(0.47,0.32)で囲まれる領域内の値とした。
以上より、Aサイトにα(Ba、Sr)に加えてCaを所定量含むことにより、Laの六方晶フェライト相への固溶量の多いLa系の六方晶フェライトが得られ、磁気特性の向上に寄与するものと解される。
【0063】
図3及び図4に、上記組成式(c)及び(f)の焼結体のCa量(m)と残留磁束密度(Br)、保磁力(HcJ)の関係を示す。図3及び図4より、高い残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)を得るためには、m(Ca)は0.25〜0.45とすることが好ましい。
【実施例2】
【0064】
出発原料として水酸化ランタン(La(OH))、炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸ストロンチウム(SrCO)、酸化鉄(Fe)及び酸化コバルト(Co)を用意した。これらの主成分を構成する出発原料を、酸素を除いて焼成後の主成分が下記式(i)(モル比)となるように秤量した。秤量された主成分を表3に示す。なお、表3には前述した組成式(1)のx、y、z等の値も併記している。
式(i):La0.6Ca0.3Sr0.1Fe11.40−yzCoyz
x/yz:3.00、2.00、1.71、1.50、1.20、1.00
【0065】
【表3】

【0066】
以上の配合原料を湿式アトライタで混合、粉砕してスラリ状の原料組成物を得た。このスラリを乾燥後、大気中1350℃で3時間保持する仮焼を行った。
得られた仮焼体をロッド振動ミルで粗粉砕した。
次の微粉砕はボールミルにより2段階で行った。第1の微粉砕工程は粗粉末に対して水を添加して88時間処理するというものである。第1の微粉砕工程後に、微粉末を大気雰囲気中、800℃で熱処理を行った。
続いて、熱処理粉に対して、水及びソルビトールを添加し、さらに副成分としてSiOを0.60wt%、CaCOを1.40wt%添加して湿式ボールミルにて25時間処理する第2微粉砕を行った。
【0067】
得られた微粉砕スラリの固形分濃度を調整し、湿式磁場成形機を使用して、12kOeの印加磁場中で直径30mm×厚み15mmの円柱状成形体を得た。成形体は大気中室温にて充分に乾燥し、ついで大気中1140℃で1時間保持する焼成を行った。
【0068】
得られた焼結体の組成(Sr,La,Ca,Fe,Co)を蛍光X線定量分析により測定した。また、得られた円柱状焼結体の上下面を加工した後、最大印加磁場25kOeのB−Hトレーサを使用して、残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)を測定した。保磁力(HcJ)については、−40〜20℃の温度範囲で測定し、保磁力(HcJ)の温度特性を求めた。得られた焼結体の相構成を上述した条件のX線回折によりM型フェライト相の比率を特定した。以上の結果を表4に示す。
また、図5に、LaとCoの比(x/yz)とBr+1/3HcJの関係を、図6にx/yzと残留磁束密度(Br)の関係を、さらに図7にx/yzと保磁力(HcJ)の関係を示す。図5より、x/yzが1.3〜1.8の範囲にある場合に6200以上のBr+1/3HcJが得られることがわかる。より高いBr+1/3HcJを得るためには、x/yzは1.35〜1.75とすることが好ましく、1.4〜1.7とすることがより好ましい。
また、図6及び図7より、Br+1/3HcJの向上は、専ら保磁力(HcJ)の向上に伴うものであることが容易に理解できる。
【0069】
【表4】

【0070】
図8に、Co量(yz)と保磁力(HcJ)の温度特性(HcJ温特)の関係を示す。Co量が多くなると保磁力(HcJ)の温度特性が向上する。したがって、周囲の温度変化の激しい用途に本発明のフェライト磁性材料を用いる場合には、Co(yz)を0.3以上とすることが好ましく、0.35以上とすることがより好ましい。
【実施例3】
【0071】
出発原料として水酸化ランタン(La(OH))、炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸ストロンチウム(SrCO)、酸化鉄(Fe)及び酸化コバルト(Co)を用意した。これらの主成分を構成する出発原料を、酸素を除いて焼成後の主成分が下記式(j)(モル比)となるように秤量した。秤量された主成分を表5に示す。なお、表5には前述した組成式(1)のx、y、z等の値も併記している。
式(j):La0.6Ca0.3Sr0.1Fe12z−0.4Co0.40
12z:10.2〜13.6
【0072】
【表5】

【0073】
以上の配合原料を湿式アトライタで2時間混合、粉砕してスラリ状の原料組成物を得た。このスラリを乾燥後、大気中1350℃で3時間保持する仮焼を行った。
得られた仮焼体をロッド振動ミルで粗粉砕した。
次の微粉砕はボールミルにより2段階で行った。第1の微粉砕工程は粗粉末に対して水を添加して88時間処理するというものである。第1の微粉砕工程後に、微粉末を大気雰囲気中、800℃で熱処理を行った。
続いて、熱処理粉に対して、水及びソルビトールを添加し、さらに副成分としてSiOを0.60wt%、CaCOを1.40wt%添加して湿式ボールミルにて25時間処理する第2微粉砕を行った。
【0074】
得られた微粉砕スラリの固形分濃度を調整し、湿式磁場成形機を使用して、12kOeの印加磁場中で直径30mm×厚み15mmの円柱状成形体を得た。成形体は大気中室温にて充分に乾燥し、ついで大気中1140℃で1時間保持する焼成を行った。
得られた焼結体の組成(Sr,La,Ca,Fe,Co)を蛍光X線定量分析により測定した。また、得られた円柱状焼結体の上下面を加工した後、最大印加磁場25kOeのB−Hトレーサを使用して、残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)を測定した。得られた焼結体の相構成を上述した条件のX線回折によりM型フェライト相の比率を特定した。以上の結果を表6に示す。
また、図9にFeとCoの合計量(12z)とBr+1/3HcJの関係を、図10に12zと残留磁束密度(Br)の関係を、さらに図11に12zと保磁力(HcJ)の関係を示す。図9より、12zが9.5〜11の範囲にある場合に6200以上のBr+1/3HcJが得られることがわかる。より高いBr+1/3HcJを得るためには、12zは9.7〜10.7とすることが好ましく、10〜10.5とすることがより好ましい。また、図10及び図11より、Br+1/3HcJの向上は、専ら保磁力(HcJ)の向上に伴うものであることが容易に理解できる。
【0075】
【表6】

【0076】
図10及び図11に、Fe+Co(12z)と残留磁束密度(Br)、保磁力(HcJ)の関係を示す。図10及び図11より、高い残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)を得るためには、Fe+Co(12z)は9.5〜10.5とすることが好ましく、9.7〜10.4とすることがより好ましい。
【実施例4】
【0077】
出発原料として水酸化ランタン(La(OH))、炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸バリウム(BaCO)、酸化鉄(Fe)及び酸化コバルト(Co)を用意した。これらの主成分を構成する出発原料を、酸素を除いて焼成後の主成分が下記式(k)(モル比)となるように秤量した。秤量された主成分を表7に示す。なお、表7には前述した組成式(1)のx、y、z等の値も併記している。
式(k):La0.6Ca0.3Ba0.1Fe12z−0.4Co0.40
12z:11.4〜11.8
【0078】
【表7】

【0079】
以上の配合原料を湿式アトライタで2時間混合、粉砕してスラリ状の原料組成物を得た。このスラリを乾燥後、大気中にて1300℃で3時間保持する仮焼を行った。
得られた仮焼体をロッド振動ミルで粗粉砕した。
次の微粉砕はボールミルにより2段階で行った。第1の微粉砕工程は粗粉末に対して水を添加して88時間処理するというものである。第1の微粉砕工程後に、微粉末を大気雰囲気中、800℃で熱処理を行った。
続いて、熱処理粉に対して、水及びソルビトールを添加し、さらに副成分としてSiOを0.60wt%、CaCOを1.40wt%添加して湿式ボールミルにて25時間処理する第2微粉砕を行った。
【0080】
得られた微粉砕スラリの固形分濃度を調整し、湿式磁場成形機を使用して、12kOeの印加磁場中で直径30mm×厚み15mmの円柱状成形体を得た。成形体は大気中室温にて充分に乾燥し、ついで大気中1140℃で1時間保持する焼成を行った。
得られた焼結体の組成(La,Ca,Ba,Fe,Co)を蛍光X線定量分析により測定した。また、得られた円柱状焼結体の上下面を加工した後、最大印加磁場25kOeのB−Hトレーサを使用して、残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)を測定した。また、得られた焼結体の相構成を上述した条件のX線回折によりM型フェライト相の比率を特定した。以上の結果を表8に示す。表8に示すように、元素αがBaでも、Br+1/3HcJが6200以上の磁気特性を得ることができる。
【0081】
【表8】

【実施例5】
【0082】
出発原料として水酸化ランタン(La(OH))、炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸ストロンチウム(SrCO)、酸化鉄(Fe)及び酸化コバルト(Co)を用意した。これらの主成分を構成する出発原料を、酸素を除いて焼成後の主成分が下記式(l)、(m)(モル比)となるように秤量した。
式(l):La0.6Ca0.3Sr0.1Fe11.2Co0.40
式(m):La0.6Ca0.4Fe11.2Co0.40
【0083】
以上の配合原料を湿式アトライタで2時間混合、粉砕してスラリ状の原料組成物を得た。このスラリを乾燥後、大気中にて1350℃で3時間保持する仮焼を行った。
得られた仮焼体をロッド振動ミルで粗粉砕した。
次の微粉砕はボールミルにより2段階で行った。第1の微粉砕工程は粗粉末に対して水を添加して88時間処理するというものである。第1の微粉砕工程後に、微粉末を大気雰囲気中、800℃で熱処理を行った。
続いて、熱処理粉に対して、水及びソルビトールを添加し、さらに副成分としてSiOを下記の量及びCaCOを1.40wt%添加して湿式ボールミルにて25時間処理する第2微粉砕を行った。
SiO:0,0.15,0.30,0.45,0.60,0.75
【0084】
得られた微粉砕スラリの固形分濃度を調整し、湿式磁場成形機を使用して、12kOeの印加磁場中で直径30mm×厚み15mmの円柱状成形体を得た。成形体は大気中室温にて充分に乾燥し、ついで大気中1140℃で1時間保持する焼成を行った。
得られた円柱状焼結体の上下面を加工した後、最大印加磁場25kOeのB−Hトレーサを使用して、残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)を測定した。図12にSiO量と残留磁束密度(Br)の関係を、また、図13にSiO量と保磁力(HcJ)の関係を示す。
図12に示すように、Srを含む(組成式(l))ことにより、高い残留磁束密度(Br)が得られるSiO量の範囲が拡大することがわかる。これは、SiO量に対する特性のばらつきが低減され、工業的製造上有利である。また、図13よりSrの含有有無によって保磁力(HcJ)の傾向に差異はない。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】実施例1における残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)の関係を示すグラフである。
【図2】実施例1において、(x,m)座標上に試料No.1〜29をプロットしたグラフである。
【図3】実施例1におけるCa量(m)と残留磁束密度(Br)の関係を示すグラフである。
【図4】実施例1におけるCa量(m)と保磁力(HcJ)の関係を示すグラフである。
【図5】実施例2におけるLaとCoの比(x/yz)とBr+1/3HcJの関係を示すグラフである。
【図6】実施例2におけるLa/Co(x/yz)と残留磁束密度(Br)の関係を示すグラフである。
【図7】実施例2におけるLa/Co(x/yz)と保磁力(HcJ)の関係を示すグラフである。
【図8】実施例2におけるCo量(yz)と保磁力(HcJ)の温度特性(HcJ温特)の関係を示すグラフである。
【図9】実施例3におけるFeとCoの合計量(12z)とBr+1/3HcJの関係を示すグラフである。
【図10】実施例3におけるFe+Co量(12z)と残留磁束密度(Br)の関係を示すグラフである。
【図11】実施例3におけるFe+Co量(12z)と保磁力(HcJ)の関係を示すグラフである。
【図12】実施例5におけるSiO量と残留磁束密度(Br)の関係を示すグラフである。
【図13】実施例5におけるSiO量と保磁力(HcJ)の関係を示すグラフである。
【図14】試料No.11〜15における(1−x−m)/(1−x)とBr+1/3HcJの関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶構造を有するフェライト相が主相をなし、
前記主相を構成する金属元素の構成比率が、
組成式(1):LaCaα1−x−m(Fe12−yCoで表したとき、
αはBa及びSrの1種又は2種であって、
x、mが、図2に示される(x,m)座標において、A:(0.53,0.27)、B:(0.64,0.27)、C:(0.64,0.35)、D:(0.53,0.45)、E:(0.47,0.45)及びF:(0.47,0.32)で囲まれる領域内の値、
1.3≦x/yz≦1.8、
9.5≦12z≦11.0であることを特徴とするフェライト磁性材料。
【請求項2】
(1−x−m)/(1−x)≦0.42であることを特徴とする請求項1に記載のフェライト磁性材料。
【請求項3】
1.35≦x/yz≦1.75であることを特徴とする請求項1に記載のフェライト磁性材料。
【請求項4】
9.7≦12z≦10.7であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフェライト磁性材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−137879(P2008−137879A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−341023(P2006−341023)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】