説明

フェライト薄膜の製造装置

【課題】 基体が3次元的な複雑な形状を有していても均一に成膜でき、かつ生産効率の高いフェライト薄膜の製造装置を提供すること。
【解決手段】 基体1を加熱昇温する昇温室20と、前記の加熱昇温された基体にフェライト薄膜を成膜する成膜室30と、前記のフェライト薄膜が成膜された基体を冷却する冷却室40と、前記基体の搬送を担う搬送装置とを有し、基体1は搬送装置により搬送されて昇温室20、成膜室30、冷却室40を当該順に通過し、昇温室と成膜室間、および成膜室と冷却室間はそれぞれ開閉シャッター17を介して互いに接合されている。各室はそれぞれ回転台3、基体1を設置する台座2を備え、基体1は台座2とともに搬送装置により搬送される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフェライト薄膜の製造装置に関し、特にスピネル型のフェライト薄膜の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スピネル型フェライト薄膜はインダクタンス素子、インピーダンス素子、磁気ヘッド、マイクロ波素子、磁歪素子、及び高周波領域において不要電磁波の干渉によって生じる電磁障害を抑制するために用いられる電磁干渉抑制体などの高周波磁気デバイスに広く用いられている。
【0003】
フェライト薄膜の製造方法の1つとしてフェライトめっきが用いられている。フェライトめっきとは、例えば特許文献1に示されているように、基体の表面に、金属イオンとして少なくとも第一鉄イオン(Fe2+)を含む水溶液を接触させ、基体表面に第一鉄イオンまたはこれと他の水酸化金属イオンを吸着させ、続いて吸着した第一鉄イオンを酸化させることにより第二鉄イオン(Fe3+)を得、これが水溶液中の水酸化金属イオンとの間でフェライト結晶化反応を起こし、これによって基体表面にフェライト膜を形成することをいう。
【0004】
フェライトめっきでは、膜を形成しようとする基体は前述した水溶液に対して耐性がある材料であれば使用できる。更に、水溶液を介した反応であるため、温度が比較的低温(常温から水溶液の沸点以下)の状態でスピネル型フェライト膜を形成できるという特徴がある。そのため、他のフェライト膜作成技術に比べて基体の許容範囲が広く、しかも真空を必要としないため製造装置が比較的安価に実現できるという特徴がある。
【0005】
従来、この技術を基に基体を回転台の上に載せて均質で優れた軟磁気特性を有するフェライト薄膜の製造を可能とした装置が特許文献2に示され、基体が連続して供給される機構を具備してフェライト薄膜の生産性向上を図ったものが特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭63−15990号公報
【特許文献2】特許第3926780号公報
【特許文献3】特許第03964379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載されているような基体を回転台上に設置して成膜する方法では、噴霧された溶液の流れを回転台の回転による遠心力を用いて適切に制御すれば、3次元的な複雑な形状の基体でも均一に成膜できる。しかしながら、回転台上に設置して成膜する方法は所謂バッチ式のプロセスであり、成膜時間に加えて基体や基体周辺の雰囲気を加熱および冷却するための昇温時間および冷却時間が必要となるため、生産効率をそれほど高くできない。一方、特許文献3に記載されているような基体がベルト状の架台により成膜装置に連続して供給される機構を備えた成膜方法では、基体や基体周辺の雰囲気の加熱および冷却は成膜と並行して行われるため、生産効率を比較的高くすることができる。しかしながら、この従来の基体が連続して供給される機構を備えた製造装置では、基体が3次元的な複雑な形状を有する場合、基体の表面に液だまりができるなどの原因により、フェライト以外の結晶相が発生したり、めっき膜厚が不均一になるなどの不具合が生じる。
【0008】
そこで、本発明の課題は、基体が3次元的に複雑な形状を有していても均一に成膜でき、かつ生産効率の高いフェライト薄膜の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、基体を加熱する機構と、第一鉄イオンを含む反応液と第一鉄イオンに対して酸化作用を有する成分を含む酸化液とを前記加熱された基体に供給する機構と、前記反応液および酸化液を前記基体から除去する機構とを有するフェライト薄膜の製造装置であって、前記基体を加熱昇温する昇温室と、前記加熱昇温された基体にフェライト薄膜を成膜する成膜室と、前記フェライト薄膜が成膜された基体を冷却する冷却室と、前記基体の搬送を担う搬送装置とを有し、前記基体は前記搬送装置により搬送されて前記昇温室、前記成膜室、前記冷却室を当該順に通過し、前記昇温室と前記成膜室間、および前記成膜室と前記冷却室間はそれぞれ開閉可能な仕切りを介して互いに接合されていることを特徴とするフェライト薄膜の製造装置が得られる。
【0010】
また本発明によれば、前記成膜室は回転台を備え、前記基体を該回転台に固定することを特徴とする上記のフェライト薄膜の製造装置が得られる。
【0011】
また本発明によれば、前記基体を設置する台座を備え、該台座を前記回転台に固定することにより前記基体を前記回転台に固定し、前記基体は前記台座とともに前記搬送装置により搬送されることを特徴とする上記のフェライト薄膜の製造装置が得られる。
【0012】
また本発明によれば、前記搬送装置は前記回転台の直径よりも大きい開口部を備える1つのベルト状の架台を有するか、もしく前記回転台の直径よりも大きい間隔で設置された2つのベルト状の架台を有し、前記基体を前記架台に搭載した状態で当該架台を移動させることにより前記基体が搬送されることを特徴とする上記のフェライト薄膜の製造装置が得られる。
【0013】
また本発明によれば、前記1つのベルト状の架台の幅から前記開口部の開口の幅を除いた長さ、もしくは前記2つのベルト状の架台の幅の合計は、前記台座の直径の1%以上でかつ98%以下であることを特徴とする上記のフェライト薄膜の製造装置が得られる。
【0014】
また本発明によれば、前記基体を加熱する機構は、前記基体の周囲の雰囲気を加熱する手段を備えることを特徴とする上記のフェライト薄膜の製造装置が得られる。
【0015】
また本発明によれば、前記基体の周囲の雰囲気を過熱する手段は、加熱した気体を前記基体の周囲に導入することによってなされることを特徴とする上記のフェライト薄膜の製造装置が得られる。
【0016】
また本発明によれば、前記加熱した気体は、水を含む液体を発熱体に接触させて発生させた蒸気であることを特徴とする上記のフェライト膜の製造装置が得られる。
【発明の効果】
【0017】
上記のように、本発明の製造装置において、フェライトめっきの際の噴霧された溶液の流れを回転台の回転による遠心力等を用いて適切に制御すれば、3次元的に複雑な形状の基体でも均一に成膜でき、かつ基体や基体周辺の雰囲気の加熱および冷却は成膜と並行して行われるため、生産効率を比較的高くすることができる。以上のように、本発明により、基体が3次元的に複雑な形状を有していても均一に成膜でき、かつ生産効率の高いフェライト薄膜の製造装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明によるフェライト薄膜の製造装置の一実施例を示す構成模式図であり、図1(a)は側面図、図1(b)は平面図。
【図2】比較のために示す成膜室のみを有するフェライト薄膜の製造装置の構成模式図であり、図2(a)は側面図、図2(b)は平面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、基体を加熱する機構と、第一鉄イオンを含む反応液と第一鉄イオンに対して酸化作用を有する成分を含む酸化液とを前記の加熱された基体に供給する機構と、前記反応液および酸化液を前記基体から除去する機構とを有するフェライト薄膜の製造装置であって、前記基体を加熱昇温する昇温室と、前記の加熱昇温された基体にフェライト薄膜を成膜する成膜室と、前記のフェライト薄膜が成膜された基体を冷却する冷却室と、前記基体の搬送を担う搬送装置とを有し、前記基体は前記搬送装置により搬送されて前記の昇温室、成膜室、冷却室を当該順に通過し、前記の昇温室と成膜室間、および前記の成膜室と冷却室間はそれぞれ開閉可能な仕切りを介して互いに接合されている製造装置である。
【0020】
ここで、前記成膜室は回転台を備え、前記基体を該回転台に固定することが望ましく、さらに、前記基体を設置する台座を備え、該台座を前記回転台に固定することにより前記基板を前記回転台に固定し、前記基体は前記台座とともに前記搬送装置により搬送されることが望ましい。
【0021】
また、前記搬送装置は前記回転台の直径よりも大きい開口部を備える1つのベルト状の架台を有するか、もしくは前記搬送装置は前記回転台の直径よりも大きい間隔で設置された2つのベルト状の架台を有し、前記基体を前記架台に搭載した状態で当該架台を移動させることにより前記基体が搬送されてもよく、この場合、前記1つのベルト状の架台の幅から前記開口部の開口の幅を除いた長さ、もしくは前記2つのベルト状の架台の幅の合計は、前記台座の直径の1%以上でかつ98%以下であることが望ましい。
【0022】
また、前記の基体を加熱する機構は、前記基体の周囲の雰囲気を加熱する手段を備えてもよく、この前記基体の周囲の雰囲気を過熱する手段は、加熱した気体を前記基体の周囲に導入することによってなされてもよく、この加熱した気体は、水を含む液体を発熱体に接触させて発生させた蒸気であってもよい。
【0023】
なお、前記の昇温室と成膜室間、および前記の成膜室と冷却室間の開閉可能な仕切りを設ける主な目的は、前記昇温室へ外部から基体を搬入する際と前記冷却室から基体を搬出する際に前記昇温室と前記冷却室に外気が流入し成膜室内の雰囲気および基体の温度が低下するのを避けるためであり、前記搬送装置の機能確保のために必要な前記仕切りの開口部は仕切りの全面積の10%以下であることが望ましい。
【0024】
また、前記昇温室は1つである必要はなく、基体を加熱昇温する2つまたはそれ以上の室が開閉可能な仕切りを介して互いに接合されたものであっても良い。前記成膜室もフェライト薄膜を成膜する2つまたはそれ以上の室が開閉可能な仕切りを介して互いに接合されたものであっても良い。前記冷却室も成膜後の基体を冷却する2つまたはそれ以上の室が開閉可能な仕切りを介して互いに接合されたものであっても良い。
【0025】
上記のように、成膜室に回転台を備え、基体を当該回転台の上に設置し、基体を回転させることにより、基体上に噴霧された第一鉄イオンを含む反応液と第一鉄イオンに対して酸化作用を有する成分を含む酸化液を基体上に均一に供給することができる。また、製造においては反応液および酸化液を前記基体から除去する機構が必要であり、この手段としては基体を乗せた台を傾斜させて除去することも可能であるが、基体を回転して遠心力により上記の液体を除去する方がより効果的である。この回転を用いた機構により、例えば3次元的に複雑な形状の基体を用いた場合に、液だまりができるなどの原因により、フェライト以外の結晶相が発生したり膜厚が不均一になるなどの不具合が生じることを防ぐことができる。
【0026】
また、上記のように、基体は台座を介して回転台に固定され、当該台座とともに搬送装置により搬送されることが望ましい。これは、基体が台座とともに搬送装置により搬送され台座を介して回転台に固定されないと、基体を回転台に固定するのが困難であるためである。
【0027】
また、本発明において、上記のように基体がベルト状の架台に搭載された状態で当該架台を動かすという単純な機構によって基体を搬送することによって、例えばロボットのような複雑な機構を備えなくても済み、装置作製にかかるコストを少なくすることができる。また、1つのベルト状の架台を用いる場合には前記回転台の直径よりも大きい開口部を備えないと、台座の回転台への着脱を行えない。複数のベルト状の架台を用いる場合は、前記基体を安定して搬送するために前記回転台の中心に対して対称に2つ以上設置されることが望ましい。
【0028】
ここで、前記1つのベルト状の架台の前記開口部の両側の幅の合計、もしくは2つのベルト状の架台の幅の合計が台座の直径の1%より小さいと、基体の搬送が安定せず落下するなどの不具合が生じる可能性があり、また、その幅の合計が台座の直径の98%より大きいと基体を台座を介して回転台に固定するのが困難であるだけでなく、水を含む液体を発熱体に接触させ発生させた蒸気を基体の周りに導入する場合に当該蒸気の導入の障害となる可能性がある。
【0029】
基体を加熱する機構が基体の周囲の雰囲気を加熱する手段を備えることが望ましい理由は、基体を固定した回転台自体を加熱すると、基体が台座を介して回転台に固定される場合に固定の状態によっては基体への熱伝達が悪化する可能性があるためである。この場合、基体の周囲の雰囲気の加熱を、水を含む液体を発熱体に接触させ発生させた蒸気などの加熱した気体を基体の周りに導入することによって行うことにより、基体内の温度分布の不均一性を極力少なくすることができ、結果としてフェライトめっき反応によって得られる膜の性質および膜厚をより均一にできる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の一実施例について図面を参照しながら詳細に述べる。
【0031】
図1は本発明によるフェライト薄膜の製造装置の一実施例を示す構成模式図であり、図1(a)は側面図、図1(b)は平面図ある。図1において、本実施例のフェライト薄膜の製造装置は、基体1を加熱する機構と、第一鉄イオンを含む反応液と第一鉄イオンに対して酸化作用を有する成分を含む酸化液とを前記の加熱された基体に供給する機構と、前記反応液および酸化液を基体1から除去する機構とを有するフェライト薄膜の製造装置であって、基体1を加熱昇温する昇温室20と、前記の加熱昇温された基体にフェライト薄膜を成膜する成膜室30と、前記のフェライト薄膜が成膜された基体を冷却する冷却室40と、前記基体の搬送を担う搬送装置とを有し、基体1は搬送装置により搬送されて昇温室20、成膜室30、冷却室40を当該順に通過し、昇温室20と成膜室30間、および成膜室30と冷却室40間はそれぞれ開閉可能な仕切りである開閉シャッター17を介して互いに接合されている。
【0032】
また、昇温室20、成膜室30、冷却室40はそれぞれ回転台3を備え、さらに、基体1を設置する台座2を備え、台座2を回転台3に固定することにより基板1が回転台3に固定される。回転台3は回転モーター11によって回転軸5を介して回転駆動される。基体1は台座2とともに搬送装置により搬送されるように構成されている。搬送装置は回転台3の直径よりも大きい間隔で設置された2つのベルト状の架台である搬送ベルト13および搬送ベルト13を駆動するベルト駆動モーター15を有し、基体1および台座2を搭載した状態で搬送ベルト13を移動させることにより基体1が搬送される。
【0033】
また、昇温室20、成膜室30、冷却室40はそれぞれ基体1を加熱する機構として基体1の周囲の雰囲気を加熱する手段を備えている。この手段は、昇温室20および冷却室40においては純水流入口16より注入した水をノズル27により噴霧して液受け板4で受けて発熱体であるヒーターブロック6に接触させて発生させた蒸気を基体1の周囲に導入することによってなされる。成膜室30でも同様にノズル37より噴霧された水を含む酸化液及び反応液を液受け板4で受けヒーターブロック6に接触させて発生させた蒸気を基体1の周囲に導入する。
【0034】
次に本実施例のフェライト薄膜の製造装置によるフェライト膜の製造方法の具体例を説明する。昇温室20において、取り付け用扉14より、直径40cm、厚さ25μmのポリイミド製の基体1を直径45cm、厚さ1mmのステンレス製の台座2の上に設置したもの(基体Aとする)を直径15cmの回転台3の上に設置した。次に回転台3を約150rpmで回転させながら純水流入口16より供給された脱酸素イオン交換水を窒素ガス流入口9より流入された窒素ガスとともにノズル27より供給しながら基体1を約90℃まで加熱した。なお、回転台3には台座2を固定するための突起がついており当該突起が台座2に形成してある空孔に接合されることにより固定される。ここで基体1の加熱は、噴霧した水を液受け板4で受けヒーターブロック6に接触させ発生させた蒸気により雰囲気を加熱することにより行った。各室の温度は熱電対18によって監視される。
【0035】
ついで、回転台3の中心に対して対称に2つ設置したゴム製の搬送ベルト13を上部に移動させることにより基体1および台座2を回転台3から取り外し、搬送ベルト13により搬送し、成膜室30内の回転台3に設置した。搬送ベルト一つあたりの幅は0.3cmであり、トータルで0.6cmであった。ついで脱酸素イオン交換水中にFeCl・4HO、NiCl・6HO、ZnClをそれぞれ所望の量溶かした反応液と、脱酸素イオン交換水中にNaNOとCHCOONHをそれぞれ所望の量溶かした酸化液とをそれぞれ反応液流入口10および酸化液流入口8より流入し、ノズル37より、約150rpmで回転させた基体1に対してそれぞれ40ml/minの流量で60分間供給することにより、基体表面にフェライト膜を形成した。その間に昇温室20には前記のAと同じ直径40cm、厚さ25μmのポリイミド製の基体1を直径45cm、厚さ1mmのステンレス製の台座2の上に設置したもの(基体Bとする)を直径15cmの回転台3の上に設置した。
【0036】
ついで、搬送ベルト13を上部に移動させることにより基体Aおよび基体Bを回転台3から取り外し、搬送ベルト13により搬送し、それぞれ成膜室30および冷却室40内の回転台3に設置した。次に、基体Aおよび基体Bを成膜および冷却している間に、昇温室20にはA、Bと同様な直径40cm、厚さ25μmのポリイミド製の基体1を直径45cm、厚さ1mmのステンレス製の台座2の上に設置したもの(基体Cとする)を直径15cmの回転台3の上に設置した。冷却が終了した基体Aは取り外し用扉12から搬出した。ついで、搬送ベルト13を上部に移動させることにより基体Bおよび基体Cを回転台3から取り外し、搬送ベルト13により搬送し、それぞれ成膜室30および冷却室40内の回転台3に設置した。冷却が終了した基体Bは取り外し用扉12から搬出した。ついで、搬送ベルト13を上部に移動させることにより基体Cを回転台3から取り外し、搬送ベルト13により搬送し、冷却室40内の回転台3に設置した。冷却が終了した基体Cは取り外し用扉12から搬出した。
【0037】
以上のような製造工程で、本実施例のフェライト薄膜の製造装置について成膜試験を行った。これを実施例1とする。同様に、本発明の範囲内にある搬送ベルト13の一つあたりの幅を22cmとした製造装置についても上記と同じ製造工程で成膜試験を行った。これを実施例2とする。さらに比較のため、本発明の範囲外にある搬送ベルト13の一つあたりの幅を26cmおよび0.1cmとした場合についても成膜試験を行った。これをそれぞれ比較例1および2とする。以上の実施例1、2、比較例1、2においては、搬送ベルト13の一つあたりの幅以外の構成および製造条件はすべて同じである。
【0038】
それぞれの試験条件および成膜試験結果を表1に示す。搬送ベルト一つあたりの幅が0.3cmおよび22cmの実施例1および2の場合にはスピネル構造をもつフェライト単相の膜が得られたが、搬送ベルト一つあたりの幅が26cmの比較例1の場合にはスピネル構造以外の構造を有する膜も混在し、搬送ベルト一つあたりの幅が0.1cmの比較例2の場合には台座が落下するかもしくは台座を固定するための突起空孔の位置ズレにより回転台に固定できなかった。すなわち搬送ベルトのトータルの幅が台座の直径の1%以上98%以下であればスピネル構造をもつフェライト単相の膜が得られることを示している。これは、搬送ベルトのトータルの幅が台座の直径の1%より小さいと、基体の搬送が安定せず落下するなどの不具合が生じる可能性があるためである。搬送ベルトのトータルの幅が台座の直径の98%より大きいと基体を台座を介して回転台に固定するのが困難であるだけでなく、水を含む液体を発熱体に接触させ発生させた蒸気を基体の周りに導入する場合に当該蒸気の導入の障害となり、基体周辺の雰囲気の温度が低くなってしまうためと考えられる。基体A、基体Bおよび基体Cを成膜するのに要した時間は約223分であった。
【0039】
次に、本発明によるフェライト薄膜の製造装置の生産効率を確認するために、従来の製造装置のように、1つの成膜室のみを有するフェライト薄膜の製造装置において成膜試験を比較例3として行った。図2は本比較例において使用した製造装置の構成模式図であり、図2(a)は側面図、図2(b)は平面図である。成膜室の基本的な構造は前記の実施例の成膜室と同じである。但し、1つの成膜室のみからなり、搬送装置は備えていない。前記の実施例と同様に、直径40cm、厚さ25μmのポリイミド製の基体1を直径45cm、厚さ1mmのステンレス製の台座2の上に設置したもの(基体Aとする)を直径15cmの回転台3の上に設置し、約150rpmで回転させながら脱酸素イオン交換水を窒素ガスとともに供給しながら約90℃まで加熱した。ついで脱酸素イオン交換水中にFeCl・4HO、NiCl・6HO、ZnClをそれぞれ所望の量溶かした反応液と、脱酸素イオン交換水中にNaNOとCHCOONHをそれぞれ所望の量溶かした酸化液とをそれぞれノズル37より、約150rpmで回転させた基体1に対してそれぞれ40ml/minの流量で60分間供給することにより、基体表面にフェライト膜を形成した。ついで、脱酸素イオン交換水を窒素ガスとともに供給しながら約40℃まで冷却した。同様に、同じ操作を2回行った(それらを基体Bおよび基体Cとする)。
【0040】
この比較例3の試験条件および結果を表1に示す。基体A、基体Bおよび基体Cでいずれもスピネル構造をもつフェライト単相の膜が得られたが、3つの基体を成膜するのに要した時間は約293分であり、実施例1および2の場合よりも長い。生産効率は実施例1および2の製造装置を用いた方が高いといえる。実施例の製造装置と比較例3の製造装置の生産効率の差は成膜する基体の数が増えるほど大きくなることが容易に推測できる。
【0041】
以上のように、本発明においては、噴霧された溶液の流れを回転台の回転による遠心力を用いて制御することにより3次元的な複雑形状の基体でも均一に成膜でき、かつ基体や基体周辺の雰囲気の加熱および冷却が成膜と並行して行われるため、高い生産効率が得られる。
【0042】
なお、本発明は上記の実施例に限定されるものではないことはいうまでもなく、成膜するフェライト薄膜の材質や膜厚、基体の材料、形状、目的とする生産数量などに対して最適となるように製造装置の構成や構造を設計することが可能である。例えば、昇温室、成膜室、冷却室の数や大きさ、配列、搬送装置の構成なども本発明の範囲内で任意に変更が可能である。反応液および酸化液を基体から除去する機構としては、回転以外に、基体の傾斜や振動の付加、気体の噴き付けなど様々な方法が可能であり、基体の加熱機構としても、熱伝導による加熱やランプなどの熱輻射による過熱など従来から用いられている様々な方法が適用可能である。
【0043】
【表1】

【符号の説明】
【0044】
1 基体
2 台座
3 回転台
4 液受け板
5 回転軸
6 ヒーターブロック
8 酸化液流入口
9 窒素ガス流入口
10 反応液流入口
11 回転モーター
12 取り外し用扉
13 搬送ベルト
14 取り付け用扉
15 ベルト駆動モーター
16 純水流入口
17 開閉シャッター
18 熱電対
20 昇温室
27、37 ノズル
30 成膜室
40 冷却室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体を加熱する機構と、第一鉄イオンを含む反応液と第一鉄イオンに対して酸化作用を有する成分を含む酸化液とを前記加熱された基体に供給する機構と、前記反応液および酸化液を前記基体から除去する機構とを有するフェライト薄膜の製造装置であって、前記基体を加熱昇温する昇温室と、前記加熱昇温された基体にフェライト薄膜を成膜する成膜室と、前記フェライト薄膜が成膜された基体を冷却する冷却室と、前記基体の搬送を担う搬送装置とを有し、前記基体は前記搬送装置により搬送されて前記昇温室、前記成膜室、前記冷却室を当該順に通過し、前記昇温室と前記成膜室間、および前記成膜室と前記冷却室間はそれぞれ開閉可能な仕切りを介して互いに接合されていることを特徴とするフェライト薄膜の製造装置。
【請求項2】
前記成膜室は回転台を備え、前記基体を該回転台に固定することを特徴とする請求項1に記載のフェライト薄膜の製造装置。
【請求項3】
前記基体を設置する台座を備え、該台座を前記回転台に固定することにより前記基体を前記回転台に固定し、前記基体は前記台座とともに前記搬送装置により搬送されることを特徴とする請求項2に記載のフェライト薄膜の製造装置。
【請求項4】
前記搬送装置は前記回転台の直径よりも大きい開口部を備える1つのベルト状の架台を有するか、もしくは前記回転台の直径よりも大きい間隔で設置された2つのベルト状の架台を有し、前記基体を前記架台に搭載した状態で当該架台を移動させることにより前記基体が搬送されることを特徴とする請求項3に記載のフェライト薄膜の製造装置。
【請求項5】
前記1つのベルト状の架台の幅から前記開口部の開口の幅を除いた長さ、もしくは前記2つのベルト状の架台の幅の合計は、前記台座の直径の1%以上でかつ98%以下であることを特徴とする請求項4に記載のフェライト薄膜の製造装置。
【請求項6】
前記基体を加熱する機構は、前記基体の周囲の雰囲気を加熱する手段を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のフェライト薄膜の製造装置。
【請求項7】
前記基体の周囲の雰囲気を過熱する手段は、加熱した気体を前記基体の周囲に導入することによってなされることを特徴とする請求項6に記載のフェライト薄膜の製造装置。
【請求項8】
前記加熱した気体は、水を含む液体を発熱体に接触させて発生させた蒸気であることを特徴とする請求項7に記載のフェライト膜の製造装置。

【図1】
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【図2】
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