説明

フェロニッケルの製錬方法

【課題】 ロータリーキルン内での原料の付着を抑えて安定操業が図られ、効率よくフェロニッケルを得ることができるフェロニッケルの製錬方法を提供する。
【解決手段】 酸化ニッケル鉱石をMg♯(=Mg/(Fe+Mg)モル比)の値で5種類に分け、複数種類の酸化ニッケル鉱石の配合率を変えて配合パターンを6種類に設定し、さらに、配合パターンの種類別に、ロータリーキルンへの鉱石装入量を規定して、ロータリーキルン内での原料の付着が起こりにくいようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータリーキルンを用いて酸化ニッケル鉱石からフェロニッケルを生産する製錬方法に係り、特に、酸化ニッケル鉱石の種類(産地の違いによる種類)に応じて効率よくフェロニッケルを得るための製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
風化蛇紋岩を源岩とする酸化ニッケル鉱石からフェロニッケルを生産する際の還元方法としては、ロータリーキルンで加熱した処理物を高炉で溶融還元する方法や、塩素浸出した処理物をロータリーキルンで還元する方法(特許文献1参照)、ロータリーキルンで半溶融還元する方法(特許文献2参照)などが知られている。
【0003】
ロータリーキルンを用いた半溶融還元法は、ロータリーキルン内で半溶融状態の原料が炉壁に付着して原料の還元処理が妨げられ、これによって生産性が低下するなどの欠点があるものの、比較的低温条件(例えば1400℃以下)で連続的な操業が可能であることから、低コストで操業することができるという利点がある。
【0004】
また、ロータリーキルンを用いた半溶融還元法では、原料鉱石に、還元材としての炭材を、また、融点を調節する目的で石灰をそれぞれ混合してブリケットとした後、ロータリーキルンで約200℃から1400℃まで約10時間かけて加熱を行うことで、平均直径0.8mm程度のメタルルッペを成長させ、これを粉砕したものを磁力選鉱、比重選鉱することにより、フェロニッケルの回収を行っている。
【0005】
ロータリーキルン内での原料の付着を減らしてフェロニッケルを安定的に生産するためには、投入原料の融点と化学組成が常に最適値に近い一定の値でなければならない。ところが、酸化ニッケル鉱石はその産地によって化学組成が大きく異なるので、4〜8種類程度の化学組成の異なる酸化ニッケル鉱石を混合し、それらに添加する炭材と石灰の量を調節することで製錬が行われている。
【0006】
また、特許文献3には、混合後の酸化ニッケル鉱石をFe/SiO、石灰添加量を(Al+CaO)/SiOとして指標化し、溶融計算温度Tc(Tc=1475−129×(Fe/SiO)−560×(Al+CaO)/SiO)が1330〜1370℃の範囲に入るように、産地別の鉱石の比率と石灰添加量調整することで、フェロニッケルの安定的な生産が可能になることが記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開平5−125465号公報
【特許文献2】特公平1−21855号公報
【特許文献3】特開平5−295468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまでのフェロニッケルの製錬における複数種類の酸化ニッケル鉱石の配合比率は、上記特許文献3に示されるような指標と試行錯誤的な経験則の組み合わせに基づいて決定されてきた。しかしながら、それでもなおロータリーキルン内での原料の付着はしばしば発生しており、必ずしも安定した操業に結びつけることができていないのが現状である。
【0009】
また、従来の製錬方法においては、原料の溶融挙動とメタルの成長プロセスが一般化されていないことや、原料鉱石の混合後の総化学組成のみを問題としているために、産地によって異なる鉱石の性質の違いに起因する溶融挙動の差が正確に把握できていないことなどが、不安定な操業の理由として挙げられる。
【0010】
よって本発明は、酸化ニッケル鉱石の溶融挙動とメタルの成長プロセスに大きく影響する鉱石の種類、配合比率および固溶体鉱物の化学組成に着目し、鉱石の配合比率と鉱石の装入量を規定することにより、ロータリーキルン内での原料の付着を抑えて安定操業を図ることができるフェロニッケルの製錬方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ロータリーキルンを用いたフェロニッケル製錬を安定して操業するためには、炉内の状態、すなわち原料の温度増加率、酸素分圧の変化率、キルンの回転速度等を、常に最適な値に保つことが必要である。しかしながら、原料の酸化ニッケル鉱石は産地によって化学組成と溶融挙動が大きく異なるので、実際の製錬では総化学組成がある一定の範囲内に収まるように産地別鉱石を混合し、これを原料として用いている。
【0012】
ロータリーキルン内では、約1100〜1400℃の温度領域で原料の融解反応が連続的に生じている。このとき、低温領域(1100〜1200℃)での融解割合が大きいほど、原料はキルン内をスムーズに移動することができ、メタルルッペの生産効率が高まることが知られている。逆に、低温領域での融解割合が小さいと、半溶融状態の原料がキルンの炉壁に付着し、原料の移動が付着物によって妨げられてメタルルッペの生産効率は下がってしまう。したがって、フェロニッケルの生産効率を向上させるためには、融点の異なる各産地別の酸化ニッケル鉱石の配合割合と生産性の関係を評価する方法を確立することが重要である。
【0013】
風化蛇紋岩を源岩とする酸化ニッケル鉱石は、主に蛇紋石、石英、針鉄鉱、カンラン石、輝石から構成される。それぞれの比率と固溶体鉱物の化学組成および鉱石の化学組成には相関が認められ、蛇紋岩の風化変質の程度が大きいほど、蛇紋石、カンラン石、輝石の量は減少し、石英と針鉄鉱は増加し、蛇紋石、カンラン石、輝石のMg♯(=Mg/(Fe+Mg)モル比)は低下し、これにしたがって鉱石のMg♯も連続的に低下する。
【0014】
つまり、酸化ニッケル鉱石の産地別の特徴は鉱石のMg♯が代表的な要素と言える。鉱石を構成する鉱物の融点はMg♯が小さいほど低いので、鉱石単体の融点は鉱石の総化学組成のMg♯が小さいほど低い。したがって、ロータリーキルン内での原料の融解挙動は、産地別の原料鉱石のMg♯とそれぞれの配合割合の関係により一般化することができ、これによってフェロニッケルの生産効率を評価することができる。
【0015】
そこで、本願の発明者は、上記知見に基づき過去のフェロニッケル製錬の操業結果を鋭意解析したところ、産地別の複数種類の酸化ニッケル鉱石の配合パターンによって、ロータリーキルンへの適正な装入量を規定することことができることが判明し、本願を発明するに至った。
【0016】
すなわち本発明は、風化蛇紋岩を源岩とする複数種類の酸化ニッケル鉱石および炭材を配合して原料とし、この混合物をロータリーキルンに装入して還元することによりフェロニッケル合金を製錬するにあたり、前記ロータリーキルンに装入された前記鉱石の1200℃までの昇温温度勾配が1〜5℃/min、1tの前記鉱石に対して、前記炭材の配合量を100〜200kg、副原料である石灰石の配合量を10〜100kgとした操業条件において、さらに前記鉱石として、Mg♯(=Mg/(Fe+Mg)モル比)の値が0.62未満の鉱石をA群、0.62以上0.66未満の鉱石をB群、0.66以上0.74未満の鉱石をC群、0.74以上0.78未満の鉱石をD群、0.78以上の鉱石をE群と定義し、前記鉱石の配合パターンとして、各鉱石群を下記に示す比率で配合するとともに、
(a)前記A群を10〜20%、前記B群を10〜20%、前記C群を20〜30%、
前記D群を20〜30%、前記E群を15〜25%
(b)前記A群を0〜10%、前記B群を0〜5%、前記C群を50〜60%、前記D
群を10〜20%、前記E群を10〜20%
(c)前記A群を0%、前記B群を30〜50%、前記C群を5〜20%、前記D群を
20〜40%、前記E群を10〜30%
(d)前記A群を0%、前記B群を20〜30%、前記C群を10〜20%、前記D群
を20〜30%、前記E群を30〜40%
(e)前記A群を0%、前記B群を5〜15%、前記C群を20〜40%、前記D群を
30〜50%、前記E群を10〜30%
(f)前記A群を0%、前記B群を15〜35%、前記C群を10〜20%、前記D群
を15〜35%、前記E群を20〜45%
鉱石装入指標として前記ロータリーキルンへの鉱石の最大装入能力を100とした場合、そのロータリーキルンへの前記(a)〜(f)で示した配合の鉱石の装入量を、下記の鉱石装入指標の範囲として操業することを特徴としている。
(a)86〜98%
(b)83〜95%
(c)81〜94%
(d)80〜93%
(e)77〜90%
(f)76〜85%
【0017】
上記本発明の操業条件において、昇温条件や炭材および石灰石の量を規定した理由は、以下の通りである。
【0018】
・酸化ニッケル鉱石の1200℃までの昇温温度勾配:1〜5℃/min
1℃/min未満であると、十分に温度が上がらないため還元できないおそれあり、一方、5℃/minを超えると、温度勾配が強くなりすぎてロータリーキルンの内壁の耐火物がスポーリング(ヒートショックによる破壊)してしまうおそれがある。したがって、酸化ニッケル鉱石の1200℃までの昇温温度勾配は1〜5℃/minと規定した。
【0019】
・1tの酸化ニッケル鉱石に対する炭材の配合量:100〜200kg
炭材はNiを還元するほかに熱源として必要な原料であり、1tの酸化ニッケル鉱石に対して100kg/t未満ではNiが十分に還元されず、また、昇温が不十分となるおそれがある。一方、200kg/tを超える量を配合すれば、還元は問題ないものの、温度が上がりすぎてしまい、耐火物を溶損させてしまうおそれがある。したがって、1tの酸化ニッケル鉱石に対する炭材の配合量は100〜200kgと規定した。
【0020】
・1tの酸化ニッケル鉱石に対する石灰石の配合量:10〜100kg
石灰石は、原料すなわち酸化ニッケル鉱石と炭材とを適性に溶融させるための副原料として重要な材料である。石灰石が、1tの酸化ニッケル鉱石に対して10kg/t未満では原料が溶融しにくく、一方、100kg/tを超えると、溶融が進みすぎてロータリーキルンの内壁の耐火物を溶損させたり、キルンから原料が流出してしまうおそれがある。したがって、1tの酸化ニッケル鉱石に対する石灰石の配合量は10〜100kgと規定した。
【0021】
また、本発明の上記の酸化ニッケル鉱石の配合パターン(a)〜(f)において、鉱石装入指標値の下限を定めた理由は、安定操業の面ではそれぞれの下限を下回っても問題ないが、生産コストが上昇してしまうからである。
【0022】
本発明では、還元処理に用いる上記酸化ニッケル鉱石は、化学組成が、SiO:36〜52wt%、Al:0.2〜3.0wt%、Fe:6〜20wt%、MgO:17〜30wt%、Ni:1.5〜3.0wt%のものが好ましく用いられる。
【0023】
また、ロータリーキルンの最適な寸法としては、内壁に張られた円筒状の耐火物の内径が3.0〜5.0mで、全長が60〜80m程度が挙げられる。ちなみに、酸化ニッケル鉱石の最大装入量としては、内径が3.0m以上4.0m未満の場合は400t/dk(t/dkは1日1キルン当たりの鉱石装入量を示す単位)であり、内径が4.0mを超えて5.0m以下の場合は480t/dkが好適である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、酸化ニッケル鉱石の産地の違いによる種類に応じた配合パターンを定めるとともに、配合パターンごとにロータリーキルンへの鉱石の装入量を規定したことにより、ロータリーキルン内での原料の付着を抑えて安定操業が図られ、効率よくフェロニッケルを得ることができるといった効果を奏する。
【実施例】
【0025】
次いで、本発明の方法によって酸化ニッケル鉱石を製錬してフェロニッケルを製造した実施例を説明する。実施例で用いたロータリーキルンは、円筒状に張られた耐火物よりなる内壁の内径が3.2m、全長が72mで、鉱石の最大装入量が400/dkのものである。
【0026】
複数の産地から搬入した酸化ニッケル鉱石のMg♯(=Mg/(Fe+Mg)モル比)の値を産地ごとに調べ、その値が0.62未満の鉱石をA群、0.62以上0.66未満の鉱石をB群、0.66以上0.74未満の鉱石をC群、0.74以上0.78未満の鉱石をD群、0.78以上の鉱石をE群というように、産地ごとに分けた。そして、これら各群の酸化ニッケル鉱石を、下記(a)〜(f)の配合パターンで混合し、原料鉱石を調整した。
【0027】
(a)A群を10〜20%、B群を10〜20%、C群を20〜30%、D群を20〜
30%、E群を15〜25%
(b)A群を0〜10%、B群を0〜5%、C群を50〜60%、D群を10〜20%
E群を10〜20%
(c)A群を0%、B群を30〜50%、C群を5〜20%、D群を20〜40%、
E群を10〜30%
(d)A群を0%、B群を20〜30%、C群を10〜20%、D群を20〜30%、
E群を30〜40%
(e)A群を0%、B群を5〜15%、C群を20〜40%、D群を30〜50%、
E群を10〜30%
(f)A群を0%、B群を15〜35%、C群を10〜20%、D群を15〜35%、
E群を20〜45%
【0028】
本発明に基づく実施例として、用いるロータリーキルンへの鉱石の最大装入能力を100とした場合の、ロータリーキルンへの鉱石装入量を、上記配合パターン(a)〜(f)ごとに下記の範囲と定め、これらの鉱石装入量でフェロニッケル製錬を操業した。
【0029】
(a)86〜98%
(b)83〜95%
(c)81〜94%
(d)80〜93%
(e)77〜90%
(f)76〜85%
【0030】
また、比較例として、上記(a)〜(f)の範囲よりも多い場合と少ない場合の双方に逸脱した量の酸化ニッケル鉱石を、同じ寸法のロータリーキルンに装入してフェロニッケル製錬を操業した。
【0031】
なお、操業は連続して1ヶ月間行い、また、実施例、比較例のいずれの場合も、酸化ニッケル鉱石に、炭材を100〜200kg/t混合して原料とし、また、副原料である石灰石を10〜100kg/t混合した。また、ロータリーキルンに装入した酸化ニッケル鉱石の1200℃までの昇温温度勾配を1〜5℃/minとする操業条件を共通とした。
【0032】
上記実施例および比較例の条件で製錬を操業してから、ロータリーキルンの内壁への原料の付着状況として、開口径(内径が最小となった部分の内径)を計測した。
【0033】
図1は、酸化ニッケル鉱石の配合パターン(a)〜(f)と、ロータリーキルンへの鉱石装入量との関係を示すグラフである。同図でプロット□は、ロータリーキルンの開口径が1.6m以下となる原料付着が起こらなかった操業を示しており、全て本発明に基づく実施例であった。
【0034】
一方、図1のプロット×は全て比較例の操業である。比較例は、鉱石装入量が本発明よりも多い場合と少ない場合に分けられるが、鉱石装入量が多い場合には、キルン内での原料の付着が進行して開口径が1.6m以下となる原料付着が起こり、内壁の補修を要することとなった。また、鉱石装入量が本発明よりも少ない場合には、操業自体には問題はないが、生産効率がきわめて悪く、生産コストが高すぎるといった問題が生じる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】酸化ニッケル鉱石の配合パターンとロータリーキルンへの鉱石装入量との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
風化蛇紋岩を源岩とする複数種類の酸化ニッケル鉱石および炭材を配合して原料とし、この混合物をロータリーキルンに装入して還元することによりフェロニッケル合金を製錬するにあたり、
前記ロータリーキルンに装入された前記鉱石の1200℃までの昇温温度勾配が1〜5℃/min、
1tの前記鉱石に対して、前記炭材の配合量を100〜200kg、副原料である石灰石の配合量を10〜100kgとした操業条件において、
さらに前記鉱石として、Mg♯(=Mg/(Fe+Mg)モル比)の値が0.62未満の鉱石をA群、0.62以上0.66未満の鉱石をB群、0.66以上0.74未満の鉱石をC群、0.74以上0.78未満の鉱石をD群、0.78以上の鉱石をE群と定義し、鉱石の配合パターンとして、各鉱石群を下記に示す比率で配合するとともに、
(a)前記A群を10〜20%、前記B群を10〜20%、前記C群を20〜30%、
前記D群を20〜30%、前記E群を15〜25%
(b)前記A群を0〜10%、前記B群を0〜5%、前記C群を50〜60%、前記D
群を10〜20%、前記E群を10〜20%
(c)前記A群を0%、前記B群を30〜50%、前記C群を5〜20%、前記D群を
20〜40%、前記E群を10〜30%
(d)前記A群を0%、前記B群を20〜30%、前記C群を10〜20%、前記D群
を20〜30%、前記E群を30〜40%
(e)前記A群を0%、前記B群を5〜15%、前記C群を20〜40%、前記D群を
30〜50%、前記E群を10〜30%
(f)前記A群を0%、前記B群を15〜35%、前記C群を10〜20%、前記D群
を15〜35%、前記E群を20〜45%
鉱石装入指標として前記ロータリーキルンへの鉱石の最大装入能力を100とした場合、そのロータリーキルンへの前記(a)〜(f)で示した配合の鉱石の装入量を、下記の鉱石装入指標の範囲として操業することを特徴とするフェロニッケルの製錬方法。
(a)86〜98%
(b)83〜95%
(c)81〜94%
(d)80〜93%
(e)77〜90%
(f)76〜85%
【請求項2】
前記酸化ニッケル鉱石の化学組成が、SiO:36〜52wt%、Al:0.2〜3.0wt%、Fe:6〜20wt%、MgO:17〜30wt%、Ni:1.5〜3.0wt%であることを特徴とする請求項1に記載のフェロニッケルの製錬方法。
【請求項3】
前記ロータリーキルンの内壁には耐火物が円筒状に張られており、その耐火物による内壁の内径は3.0〜5.0m、耐火物による内壁の全長は60〜80mであることを特徴とする請求項1または2に記載のフェロニッケルの製錬方法。

【図1】
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