説明

フォイル軸受

【課題】バックフォイルの谷部の滑りを起こり易くし、バックフォイルをその自由端側に変形し易くすることにより、軸振動に対して迅速に減衰効果を発揮するようにした、高い減衰能力を有するフォイル軸受を提供する。
【解決手段】回転軸1を支持するフォイル軸受である。円筒状のトップフォイル10と、トップフォイル10の外周側に配置されてトップフォイル10を弾性的に支持するバックフォイル11と、バックフォイル11の外周側に配置されてバックフォイル11を保持するベース12と、を備える。バックフォイル11には、トップフォイル10側に配置される山部13と、ベース12側に配置される谷部14とが、トップフォイル10の周方向に沿って交互に形成されている。山部13は、その頂部13aが角部となるように二つの平面によって形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォイル軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高速回転体用の軸受として、回転軸に外挿されて用いられるラジアル軸受と、回転軸に設けられたスラストカラーに対向して配置されるスラスト軸受とが知られている。
ラジアル軸受としては、軸受面を形成する薄板状のトップフォイルと、このトップフォイルを弾性的に支持するバックフォイルと、前記トップフォイル及び前記バックフォイルを収容する円筒状の軸受ハウジングと、を備えたラジアルフォイル軸受がよく知られている。ラジアルフォイル軸受のバックフォイルとしては、側面視円弧状の山部と平坦面からなる谷部とが交互に配置されるように薄板を波板状に成形した、バンプフォイルが主に用いられている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
また、スラスト軸受としては、軸振動や衝撃を吸収するために柔軟なフォイル、例えば厚さ100μm前後の金属製薄板で軸受面(トップフォイル)を形成し、この軸受面の下に該軸受面を柔軟に支持するためのフォイル構造を有したスラストフォイル軸受が知られている(例えば、特許文献3参照)。特許文献3では、トップフォイル(軸受面)を山部と谷部とからなる波板形状のバンプフォイルで支持し、さらにバンプフォイルをメインプレートで支持した構造が開示されている。
【0004】
このようなラジアルフォイル軸受やスラストフォイル軸受にあっては、通常、トップフォイルやバックフォイルの一端側(止端側)が溶接等によって軸受ハウジングやメインプレートに直接、あるいはスペーサを介して間接的に固定されている。このように一端側が溶接等によって固定されることにより、該一端側が固定端となり、他端側が自由端となっている。
【0005】
このようなフォイル軸受では、これが支持する回転軸が回転すると、トップフォイルと回転軸又はスラストカラーとの間に流体潤滑膜が形成される。すると、回転軸(スラストカラー)に作用する荷重が流体潤滑膜を介してトップフォイルを押し込み、トップフォイルからの荷重を受けたバンプフォイル(バックフォイル)は個々の山部のピッチを広げる。これにより、バンプフォイルは山部の高さを減じ、トップフォイルの撓みを許容する。したがって、フォイル軸受はその軸受面の形状を可変とし、荷重に応じて適切な流体潤滑膜を形成する。
【0006】
また、バンプフォイルは、前記したように荷重を受けて変形するとき、個々の山部のピッチを広げるが、その際、トップフォイルや軸受ハウジング、メインプレートとの間で滑りを生じる。したがって、回転軸に振動(軸振動)が発生した際には、この滑りによる摩擦で振動エネルギーを散逸し、振動抑制効果を発揮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−261496号公報
【特許文献2】特開2011−017385号公報
【特許文献3】特表2008−513701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、トップフォイルに当接するバンプフォイルの山部の頂部、すなわち側面視した状態での頂点でトップフォイルから荷重を受けると、バンプフォイルの側面視円弧状に湾曲した湾曲部(山部)とその両端部間に形成される平面との交線(側面視した状態での交点)では、軸受ハウジング若しくはメインプレートに対して、前記荷重の垂直分力と水平分力とが作用する。
【0009】
その際、バックフォイルがその固定端を始点として自由端方向へ伸びるように変形するには、前記交線での水平分力が、バンプフォイルと軸受ハウジング(若しくはメインプレート)との接触面に発生する最大静止摩擦力より大きくなる必要がある。すなわち、前記の滑りによる摩擦でエネルギーを散逸する振動抑制効果を得るためには、バンプフォイルの滑り量を大きくすることが望ましい。
しかしながら、従来のバンプフォイルでは、その山部が側面視円弧状に湾曲しているため、山部である湾曲部(円弧部)とその両端部間に形成される平面とのなす角が大きくなっている。そのため、トップフォイルから荷重を受けた際、前記湾曲部と前記平面とのなす交線での水平分力が小さくなり、これによってバンプフォイルに滑りが起こりにくくなっている。
【0010】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、バックフォイルの谷部の滑りを起こり易くし、バックフォイルをその自由端側に変形し易くすることにより、軸振動に対して迅速に減衰効果を発揮するようにした、高い減衰能力を有するフォイル軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のフォイル軸受は、回転軸に外挿されて該回転軸を支持するフォイル軸受であって、円筒状若しくは円環状のトップフォイルと、前記トップフォイルの外周側若しくは裏面側に配置されて該トップフォイルを弾性的に支持するバックフォイルと、前記バックフォイルの外周側若しくは裏面側に配置されて該バックフォイルを保持するベースと、を備え、前記バックフォイルには、前記トップフォイル側に配置される山部と、前記ベース側に配置される谷部とが、前記トップフォイルの周方向に沿って交互に形成され、前記山部は、その頂部が角部となるように二つの平面によって形成されていることを特徴とする。
【0012】
このフォイル軸受にあっては、バックフォイルの山部を、その頂部が角部となるように二つの平面によって形成しているので、側面視した状態で、これら二つの平面とベースとのなす形状が三角形となる。したがって、二つの平面によって形成される三角形の二辺のなす角部の頂点、すなわちトップフォイルに当接する頂点を、従来の側面視円弧状に湾曲した湾曲部(山部)の頂点と同じ高さ位置にし、かつ、二つの平面によって形成される三角形の二辺間に形成される底辺の長さと、従来の湾曲部(山部)の端部間の長さとを同じにした場合に、本発明のバックフォイルの自由端側の辺(平面)とベースとのなす角度は、従来の湾曲部の自由端側とベース(軸受ハウジング若しくはメインプレート)とのなす角度に比べて小さくなる。
したがって、本発明のフォイル軸受では、前記頂点でバックフォイルがトップフォイルから荷重を受けた際、自由端側の辺(平面)とベースとのなす交線での水平分力が従来のバンプフォイルの水平分力に比べて大きくなるため、バックフォイルの谷部に滑りが起こり易くなる。
【0013】
また、前記フォイル軸受において、前記山部を形成する二つの平面は、前記谷部の底部から前記頂部までの長さが互いに異なっていてもよい。
山部を形成する二つの平面を、自由端側の平面が長くなり、固定端側の平面が短くなるように形成することにより、自由端側の辺(平面)とベースとのなす角度が、従来の湾曲部の自由端側とベース(軸受ハウジング若しくはメインプレート)とのなす角度に比べてより小さくなる。したがって、前記頂点でバックフォイルがトップフォイルから荷重を受けた際、自由端側の辺(平面)とベースとのなす交線での水平分力が、従来のバンプフォイルの水平分力に比べてより大きくなり、バックフォイルの谷部の滑りがより起こり易くなる。
【0014】
また、前記フォイル軸受において、前記谷部は、その底部が角部となるように二つの平面によって形成されていてもよい。
従来のバンプフォイルでは、その寸法精度を管理する際、山部についてはその頂部の高さのみを管理すればよいものの、平坦面からなる谷部については、その両端部をそれぞれ管理する必要がある。これに対し、谷部を、その底部が角部となるように二つの平面によって形成すれば、谷部についても角部からなる底部のみを管理すればよくなり、したがって従来では谷部について2箇所管理する必要があったのに対し、1箇所のみ管理すればよくなる。これにより、バックフォイルの加工が容易になり、寸法や形状の均質化、安定化が可能になる。
また、ベースが円筒状の軸受ハウジングからなるラジアルフォイル軸受の場合、従来のバンプフォイルでは円筒状の軸受ハウジングに接触する谷部が平坦面からなっているため、部分的に浮き上がりを生じ、軸受ハウジングに充分に密着しない。これに対し、谷部の底部を角部とすることにより、このバックフォイルを軸受ハウジングに充分に密着させることが可能となる。
【0015】
また、前記フォイル軸受は、回転軸に外挿されて該回転軸を支持するラジアルフォイル軸受であり、前記トップフォイルは円筒状に形成され、前記バックフォイルは前記トップフォイルの外周側に配置され、前記ベースは円筒状に形成されて前記バックフォイルの外周側に配置されていてもよい。
このようなラジアルフォイル軸受に適用しても、後述するように軸振動に対して迅速に減衰効果を発揮し、したがって高い減衰能力を有するものとなる。
【0016】
また、前記フォイル軸受は、回転軸に設けられたスラストカラーに対向して配置されて、該スラストカラーを支持することで前記回転軸を支持するスラストフォイル軸受であり、前記トップフォイルは円環状に形成され、前記バックフォイルは前記トップフォイルの裏面側に配置され、前記ベースは円環状に形成されて前記バックフォイルの裏面側に配置されていてもよい。
このようなスラストフォイル軸受に適用しても、後述するように軸振動に対して迅速に減衰効果を発揮し、したがって高い減衰能力を有するものとなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のフォイル軸受によれば、従来のバンプフォイルの場合に比べてバックフォイルの谷部に滑りが起こり易くなっているため、バックフォイルがその自由端側に変形し易くなる。したがって、軸振動に対して迅速に減衰効果を発揮することができ、これによって高い減衰能力を有するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るラジアルフォイル軸受が適用されるターボ機械の一例を示す模式図である。
【図2】本発明に係るラジアルフォイル軸受の第1実施形態の概略構成を示す側面図である。
【図3】(a)はバックフォイルの山部の形状を説明するための側面図、(b)はバックフォイルの要部を模式的に示す側面図である。
【図4】第2実施形態のラジアルフォイル軸受の山部の形状を説明するための側面図である。
【図5】第3実施形態のラジアルフォイル軸受の要部を示す側断面図である。
【図6】本発明に係るスラストフォイル軸受の一実施形態の概略構成を示す図であり、(a)はスラストフォイル軸受全体を示す斜視図、(b)は要部側断面図、(c)はスラストフォイル軸受の要部における、バックフォイルの表面を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明のフォイル軸受を詳しく説明する。なお、以下の図面においては、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0020】
図1は、本発明のフォイル軸受が適用されるターボ機械の一例を示す側面図であり、図1中符号1は回転軸、2は回転軸の先端部に設けられたインペラ、3は本発明に係るラジアルフォイル軸受、5は本発明に係るスラストフォイル軸受である。
なお、図1では省略してラジアルフォイル軸受を一つしか記載していないが、通常は回転軸1の軸方向にラジアルフォイル軸受が二つ設けられて、回転軸1の支持構造が構成される。したがって、本実施形態においてもラジアルフォイル軸受3が二つ設けられているものとする。
【0021】
回転軸1には、インペラ2が形成された側にスラストカラー4が固定されており、このスラストカラー4の両側には、このスラストカラー4に対向してそれぞれの側にスラストフォイル軸受5が配置されている。これらスラストフォイル軸受5については後述する。
また、インペラ2は静止側となるハウジング6内に配置されており、ハウジング6との間にチップクリアランス7を有している。
また、回転軸1には、スラストカラー4より中央側に、ラジアルフォイル軸受3が外挿されている。
【0022】
図2は、このような構成のターボ機械に適用されたラジアルフォイル軸受の第1実施形態を示す図である。本実施形態のラジアルフォイル軸受3は、回転軸1に外挿されて該回転軸1を支持する円筒状のもので、回転軸1に対向して配置される円筒状のトップフォイル10と、該トップフォイル10の径方向外側に配置されるバックフォイル11と、該バックフォイル11の外周側、すなわちその径方向外側に配置される軸受ハウジング(ベース)12と、を備えて構成されている。
本発明のベースとして機能する軸受ハウジング12は、ラジアルフォイル軸受3の最外部を構成する金属製で円筒状のもので、内部にバックフォイル11およびトップフォイル10を収容したものである。
【0023】
バックフォイル11は、フォイル(薄板)で形成されてトップフォイル10を弾性的に支持するものである。このバックフォイル11は、円筒状に丸められて軸受ハウジング12内に挿入され、周方向の一端側11aがスポット溶接等によって軸受ハウジング12に固定されている。このような構成によってバックフォイル11は、周方向の一端側11aが固定端となり、他端側が自由端となっている。また、このバックフォイル11は、トップフォイル10側に配置された山部13と、軸受ハウジング12側に配置された谷部14とが、トップフォイル10の周方向に沿って交互に形成されて、全体が円筒状に形成されている。
【0024】
山部13は、図3(a)に示すようにその頂部13aが側面視して角を形成する角部となるように、二つの平面15a、15b(図3(a)では二つの辺として示している。)によって形成されている。すなわち、二つの平面15a、15bの、それぞれの一方側の辺が重ねられて一致させられることにより、頂部13aが形成されている。なお、実際の加工にあたっては、前記頂部13aとなる部位において折り曲げられることにより、頂部13aとなる部位、すなわち折り曲げ線を境界にして、二つの平面15a、15bが形成される。また、本実施形態では、平面15aと平面15bとは、図2に示す谷部14の底部、すなわち平面15a、平面15bの下端から前記頂部13aまでの長さが、同じに形成されている。
【0025】
このような構成によって山部13は、図3(a)に示すように二つの平面(辺)15a、15bと、それぞれの下端を結ぶ線分16により、側面視した状態で二等辺三角形状となっている。なお、線分16となる位置には、実際には円筒状の軸受ハウジング12の湾曲した内周面が配置される。
また、谷部14は、本実施形態では図3(b)に示すように、隣り合う山部13の対向する平面15b、15aの下端縁間を連続させる平坦面によって形成されている。この平坦面(谷部14)の幅については、特に限定されることなく任意に設定されるが、この平坦面(谷部14)の幅が広すぎると、山部13の頂部13aの数が少なくなり、したがってトップフォイル10の支持箇所が少なくなるため、好ましくない。
【0026】
図2に示すようにトップフォイル10は、バックフォイル11の内面に沿って円筒状に巻かれたものである。このトップフォイル10も、その周方向の一端側10aがスポット溶接等によって軸受ハウジング12に固定されて固定端となり、他端側が自由端となっている。
【0027】
次に、このような構成からなるラジアルフォイル軸受3の作用について説明する。
回転軸1が停止した状態では、トップフォイル10はバックフォイル11によって回転軸1側に付勢されることで回転軸1に密着している。
そして、回転軸1を図2中の矢印P方向に始動させると、最初は低速で回転を始め、その後徐々に加速して高速で回転する。すると、図2中矢印Qで示すように、トップフォイル10の一端側(固定端側)10a及びバックフォイル11の一端側10aと、これらの他端側(自由端側)との間から周囲流体が引き入れられ、トップフォイル10と回転軸1との間に流入する。これにより、トップフォイル10と回転軸1との間に流体潤滑膜が形成される。
【0028】
この流体潤滑膜の膜圧は、トップフォイル10に作用し、トップフォイル10に接するバックフォイル11の個々の山部13を押圧する。すると、バックフォイル11はトップフォイル10に押圧されることにより、その山部13が押し広げられ、これによってバックフォイル11は軸受ハウジング12上をその周方向に動こうとする。
すなわち、流体潤滑膜を介してトップフォイル10からの荷重を受けたバックフォイル11は、その自由端側(他端側)に向けて個々の山部13のピッチを広げる。これにより、バックフォイル11は山部13の高さを減じ、トップフォイル10の撓みを許容する。
【0029】
その際、本実施形態のバックフォイル11は、前記したように山部13が側面視二等辺三角形状となっていることにより、従来の側面視円弧状に湾曲した湾曲部を山部とするバンプフォイルに比べ、バックフォイル11の谷部14の滑りが起こり易くなっている。
すなわち、図3(a)に示すように、本実施形態におけるバックフォイルの山部13の頂部13a(トップフォイル10に当接する頂点)を、図3中二点鎖線で示す従来のバンプフォイルの山部(湾曲部)20の頂点と同じ高さ位置にし、かつ、二つの平面15a、15bによって形成される三角形の二辺間に形成される線分16(底辺)の長さと、従来の山部20の端部間の長さとを同じにする。
【0030】
そして、線分16の一端をバックフォイル11及び従来のバンプフォイルの固定端Aとし、他端をそれぞれの自由端Bとして考える。
すると、自由端Bでの、線分16(すなわち軸受ハウジング12)に対する各フォイルの角度は、バックフォイルの山部13の角度βの方が、従来のバンプフォイルの山部20の角度αに比べて小さくなる。なお、バンプフォイルの山部20の角度αは、湾曲した山部20の、自由端Bにおける接線と、前記線分16とのなす角度としている。
【0031】
このように、本実施形態におけるバックフォイルの山部13の自由端B側での角度βが、従来の山部20の自由端B側での角度αに比べて小さくなることから、本実施形態のラジアルフォイル軸受3では、前記頂部(頂点)13aでバックフォイル11がトップフォイル10から荷重を受けた際、自由端Bに作用する水平分力が、従来のバンプフォイルに比べて大きくなる。
【0032】
すなわち、トップフォイル10から受けた荷重が、それぞれのバックフォイル(バンプフォイル)の自由端Bで軸受ハウジング(図示せず)側に作用する力をベクトルで表すと、本実施形態のバックフォイル11では、図3(a)中に実線で示すベクトルCとなり、従来のバックフォイルでは、図3(a)中に二点鎖線で示すベクトルDとなる。そして、これらベクトルC、Dを水平分力、垂直分力に分解し、その水平分力E、Fを比較すると、本実施形態のバックフォイル11に生じる水平分力Eの方が、従来のバンプフォイルに生じる水平分力Fより大きくなる。したがって、本実施形態のバックフォイル11は、トップフォイル10から荷重を受けた際、従来のバンプフォイルに比べてその自由端B側で大きな水平分力が作用し、これによって自由端B側、すなわち谷部14に滑りが起こり易くなっている。
【0033】
なお、従来のバンプフォイルの山部20の、自由端Bでの線分16に対する角度αを、本実施形態のバックフォイルの角度βと同じにすることで、従来のバンプフォイルでも谷部での滑りを起こり易くすることが考えられる。しかし、その場合には、図3(b)に示すように従来のバンプフォイルの山部20のピッチ20Pが、本実施形態のバックフォイル11の山部13のピッチ13Pに比べて大きくなる。
【0034】
その結果、従来のバンプフォイルでは、トップフォイル10の支持箇所(山部の頂部)が少なくなるため、トップフォイル10にたるみを生じさせる可能性が高くなる。換言すれば、本実施形態のバックフォイル11は、トップフォイル10にたるみを生じさせる可能性が相対的に低いものとなっている。したがって、回転軸1が回転し、トップフォイル10と回転軸1との間に流体潤滑膜が周方向に流れるように形成された際、本実施形態ではトップフォイル10のたるみが抑制されているため、軸方向に対する流体の漏れが抑制され、これによって負荷能力が向上したものとなる。
【0035】
以上説明したように、本実施形態のラジアルフォイル軸受3にあっては、バックフォイル11の山部13を、その頂部13aが角部となるように二つの平面15a、15bによって形成しているので、側面視した状態で、これら二つの平面15a、15bと軸受ハウジング(ベース)12とのなす形状が二等辺三角形となる。したがって、このバックフォイル11の自由端側の辺(平面)と軸受ハウジング12とのなす角度が、従来のバンプフォイルの湾曲部(山部)がなす角度に比べて小さくなるため、本実施形態のラジアルフォイル軸受3では、前記頂点13aでバックフォイル11がトップフォイル10から荷重を受けた際、自由端Bでの水平分力が従来のバンプフォイルの水平分力に比べて大きくなる。よって、本実施形態のラジアルフォイル軸受3によれば、従来のバンプフォイルに比べてバックフォイル11の谷部14に滑りが起こり易くなっているため、バックフォイル11がその自由端側に変形し易くなる。したがって、回転軸1の軸振動に対して迅速に減衰効果を発揮することができ、これによって高い減衰能力を有するものとなる。
【0036】
また、バックフォイル11の形状が直線的に形成されており、したがって湾曲部を有して形成された従来のバンプフォイルに比べて簡易であるため、プレス加工などによって容易にかつ高精度に成形することができる。よって、寸法や形状の均質化、安定化が可能になり、量産に適したものとなる。
【0037】
次に、本発明のフォイル軸受が、図1に示したターボ機械のラジアルフォイル軸受3に適用された場合の第2実施形態を説明する。図4は、この第2実施形態のラジアルフォイル軸受の要部を示す図である。すなわち、図4は、バックフォイルの山部を拡大して示している。なお、図4では、図3(a)に示したバックフォイル11の山部13を破線で示し、従来のバンプフォイルの山部20を二点鎖線で示している。
【0038】
図4に示すように本実施形態のラジアルフォイル軸受におけるバックフォイルの山部21は、これを形成する二つの平面15a、15bの長さ、すなわちその下端(谷部の底部)から頂部21aまでの長さが、互いに異なっている。つまり、本実施形態では、自由端B側の平面15bが長くなり、固定端A側の平面15aが短くなるように形成されている。ただし、山部21の高さ(頂部21aの高さ)は、第1実施形態のバックフォイル11の山部13の高さ(頂部13aの高さ)と同じとする。
【0039】
これにより、自由端B側の平面15bと前記線分16(軸受ハウジング12)とのなす角度γが、従来のバンプフォイルの山部20がなす角度αより小さくなるのはもちろん、第1実施形態のバックフォイル11の山部13がなす角度βよりもさらに小さくなる。したがって、本実施形態では、自由端B側でのバックフォイルの谷部の滑りが、第1実施形態のバックフォイル11に比べてもさらに起こり易くなる。
よって、本実施形態にあっては、バックフォイルがその自由端B側にさらに変形し易くなり、これによって回転軸1の軸振動に対してより迅速に減衰効果を発揮することができるため、より高い減衰能力を有するものとなる。
【0040】
次に、本発明のフォイル軸受が、図1に示したターボ機械のラジアルフォイル軸受3に適用された場合の第3実施形態を説明する。図5は、この第3実施形態のラジアルフォイル軸受の要部を示す図である。すなわち、図5は、バックフォイル17を円筒状に巻く前の、展開した状態を示している。なお、図5では、軸受ハウジング(ベース)12も、バックフォイル17に合わせて展開した状態に示している。
【0041】
図3(b)に示した第1実施形態のバックフォイル11の谷部14が、隣り合う山部13の対向する平面15b、15aの下端縁間を連続させる平坦面によって形成されているのに対し、図5に示したように本実施形態のラジアルフォイル軸受におけるバックフォイル17は、その谷部18が二つの平面19a、19bによって形成されている。すなわち、本実施形態のバックフォイル17は、山部13と同様に二つの平面によって形成されていることにより、底部18aが角部となっている。
【0042】
このようなバックフォイル17にあっては、従来のバンプフォイルや図3(b)に示した第1実施形態のバックフォイル11に比べ、その加工が容易になる。すなわち、従来のバンプフォイルや前記バックフォイル11では、その寸法精度を管理する際、山部についてはその頂部の高さのみを管理すればよいものの、平坦面からなる谷部については、その両端部をそれぞれ管理する必要がある。これに対し、図5に示したバックフォイル17にあっては、谷部18についても角部からなる底部18aのみを管理すればよくなる。したがって、従来のものや図3(b)に示したものでは谷部について2箇所管理する必要があったのに対し、本実施形態では1箇所のみ管理すればよくなる。これにより、バックフォイル17の加工が容易になり、寸法や形状の均質化、安定化が可能になる。
【0043】
また、従来のバンプフォイルや図3(b)に示したバックフォイル11では、円筒状の軸受ハウジング12に接触する谷部が平坦面からなっているため、部分的に浮き上がりを生じ、軸受ハウジング12に充分に密着しない。これに対し、本実施形態では、谷部18の底部18aを角部とすることにより、このバックフォイル17を軸受ハウジング12に充分に密着させることが可能となる。
【0044】
さらに、図3(b)に示したバックフォイル11に比べて山部13のピッチが小さくなるため、トップフォイル10の支持箇所(山部13の頂部13a)が多くなる。したがって、トップフォイル10にたるみを生じさせる可能性が低くなり、これによって軸方向に対する流体の漏れを抑制することができるため、本実施形態のラジアルフォイル軸受は負荷能力が向上したものとなる。
【0045】
次に、図1に示した前記スラストフォイル軸受5について説明する。
このスラストフォイル軸受5も、本発明のフォイル軸受の実施形態となるもので、図6(a)に示すように円環板状のものである。すなわち、このスラストフォイル軸受5は、図6(a)、(b)に示すように円環板状のベース30の表面側、すなわちスラストカラー4側に、バックフォイル31を保持し、このバックフォイル31の表面側に円環板状のトップフォイル32を有したもので、図1に示したように回転軸1に外挿され、かつスラストカラー4に対向して配置されたものである。
【0046】
トップフォイル32は、図6(a)に示すように円環をその周方向に8分割してなるトップフォイル片32aを、8個有して円環板状に形成されたもので、その周方向の一方の側縁部が溶接等によってベース30に固定されている。このような構成によってトップフォイル片32aは、周方向の一側縁側が固定端となり、他側縁側が自由端となっている。
【0047】
バックフォイル31は、トップフォイル32の裏面側に配置されてこれを弾性的に支持するものである。したがって、このバックフォイル31も、トップフォイル32に対応して8個のバックフォイル片31aからなっている。すなわち、円環をその周方向に8分割してなるバックフォイル片31aが、ベース30の周方向に8個並べて配置されたことにより、円環板状のバックフォイル31が形成されている。
また、バックフォイル片31aは、図6(c)に示すようにその径方向においてさらに複数に分割されている。したがって、このように分割された円弧状の分割片32bが、ベース30の径方向に複数並列配置されたことにより、バックフォイル片31aが形成されている。
【0048】
これらバックフォイル片31a(分割片32b)も、その周方向の一方の側縁部が溶接等によってベース30に固定されており、したがって一側縁側が固定端となり、他側縁側が自由端となっている。ここで、トップフォイル片32a、バックフォイル31aの固定端となる側縁部は、図6(b)中に矢印で示すスラストカラー4の回転方向の、前方側となる側縁部とされる。
【0049】
バックフォイル片31aを形成する各分割片31bは、図6(b)、(c)に示すように山部33と谷部34とが、周方向、すなわちトップフォイル32の周方向に沿って交互に形成されている。山部33は、図3(a)に示した山部13や図4に示した山部21と同様に、その頂部が角部となるように二つの平面によって形成されている。また、谷部34は、図3(b)に示した谷部14のように平坦面によって形成されていてもよく、また、図5に示すようにその底部が角部となるように二つの平面によって形成されていてもよい。
【0050】
次に、このような構成からなるスラストフォイル軸受5の作用について説明する。
回転軸1が高速で回転すると、スラストカラー4とトップフォイル32との間に形成された動圧によって流体潤滑膜が形成され、これによってスラスト軸受5は、形成された流体潤滑膜を介してスラストカラー4を支持するようになる。
【0051】
また、回転軸1は、回転軸が有する不釣合い、外部環境の影響および運転状態などによってその回転が回転中心から僅かながらぶれて振動することがあり、その場合にはこれに固定されているスラストカラー4も僅かながら振動して面振れし、瞬間的には傾いた状態となる。その際、本実施形態のバックフォイル31は、トップフォイル32から荷重を受けると、図3(a)中に二点鎖線で示すような円弧状に湾曲した山部を有する従来の円環状のバンプフォイル(図示せず)に比べ、その自由端側で大きな水平分力が作用し、これによって自由端側、すなわち谷部34に滑りが起こり易くなる。
【0052】
よって、本実施形態のスラストフォイル軸受5にあっても、バックフォイル31の山部33を、その頂部が角部となるように二つの平面によって形成し、側面視した状態で三角形状となるようにしているので、従来のバンプフォイルに比べてバックフォイル31の谷部34に滑りが起こり易くなり、バックフォイル31がその自由端側に変形し易くなる。したがって、回転軸1の軸振動に対して迅速に減衰効果を発揮することができ、これによって高い減衰能力を有するものとなる。
【0053】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、前記のラジアルフォイル軸受に係る実施形態では、いずれもバックフォイルを単一のフォイルで形成したが、複数のバックフォイル片を周方向に沿って配置することで、これら複数のバックフォイル片によって1つのバックフォイルとしてもよい。
【0054】
また、前記のスラストフォイル軸受に係る実施形態では、逆にバックフォイルを複数のバックフォイル片で形成したが、例えばトップフォイルも1枚のフォイルで形成した場合に、バックフォイルも1枚のフォイルで形成してもよい。
さらに、バックフォイル片を複数の分割片で形成することなく、径方向に連続した1枚のバックフォイル片としてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1…回転軸、3…ラジアルフォイル軸受(フォイル軸受)、4…スラストカラー、5…スラストフォイル軸受(フォイル軸受)、10…トップフォイル、11…バックフォイル、12…軸受ハウジング(ベース)、13…山部、13a…頂部、14…谷部、15a、15b…平面、16…線分、17…バックフォイル、18…谷部、18a…底部、19a、19b…平面、30…ベース、31…バックフォイル、31a…バックフォイル片、31b…分割片、33…山部、34…谷部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に外挿されて該回転軸を支持するフォイル軸受であって、
円筒状若しくは円環状のトップフォイルと、前記トップフォイルの外周側若しくは裏面側に配置されて該トップフォイルを弾性的に支持するバックフォイルと、前記バックフォイルの外周側若しくは裏面側に配置されて該バックフォイルを保持するベースと、を備え、
前記バックフォイルには、前記トップフォイル側に配置される山部と、前記ベース側に配置される谷部とが、前記トップフォイルの周方向に沿って交互に形成され、
前記山部は、その頂部が角部となるように二つの平面によって形成されていることを特徴とするフォイル軸受。
【請求項2】
前記山部を形成する二つの平面は、前記谷部の底部から前記頂部までの長さが互いに異なっていることを特徴とする請求項1記載のフォイル軸受。
【請求項3】
前記谷部は、その底部が角部となるように二つの平面によって形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のフォイル軸受。
【請求項4】
回転軸に外挿されて該回転軸を支持するラジアルフォイル軸受であり、
前記トップフォイルは円筒状に形成され、前記バックフォイルは前記トップフォイルの外周側に配置され、前記ベースは円筒状に形成されて前記バックフォイルの外周側に配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のフォイル軸受。
【請求項5】
回転軸に設けられたスラストカラーに対向して配置されて、該スラストカラーを支持することで前記回転軸を支持するスラストフォイル軸受であり、
前記トップフォイルは円環状に形成され、前記バックフォイルは前記トップフォイルの裏面側に配置され、前記ベースは円環状に形成されて前記バックフォイルの裏面側に配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のフォイル軸受。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate