フォトマスクブランクとその製造方法
【課題】フォトマスク製造におけるドライエッチング時のマイクロローディング現象による微細パターンにおけるパターン寸法の落ち込み(寸法リニアリティの低下)や、グローバルローディング現象による開口率の異なる領域間でのパターン寸法差が生じていた。また、ドライエッチング選択比の限界から、エッチングマスクとなるレジストやクロム(Cr)の今以上の薄膜化が不可能であった。
【解決手段】モリブデンシリコン(MoSi)等のシリコンを含む材料を位相シフト層や遮光層に使用するフォトマスクブランクにおいて、リン(P)やヒ素(As)等の第15族元素を不純物として、イオン注入法や拡散法によって微量ドープさせる。このことで、フォトマスク製造時のドライエッチングレートを高めることが可能となり、上記課題が解決でき、高品質のフォトマスク製造が可能となる。
【解決手段】モリブデンシリコン(MoSi)等のシリコンを含む材料を位相シフト層や遮光層に使用するフォトマスクブランクにおいて、リン(P)やヒ素(As)等の第15族元素を不純物として、イオン注入法や拡散法によって微量ドープさせる。このことで、フォトマスク製造時のドライエッチングレートを高めることが可能となり、上記課題が解決でき、高品質のフォトマスク製造が可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスクパターン形成のためのドライエッチング処理において、エッチングマスク材料のエッチングレートを従来よりも向上させたフォトマスクブランク及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大規模集積回路(LSI)等の半導体デバイスの高集積化に伴って、回路パターンのさらなる微細化が進んでいる。このような微細な回路パターンを実現するためには、回路を構成する配線パターンやコンタクトホールパターンの細線化が要求される。これらのパターニングは、フォトマスクを用いた光リソグラフィにより形成されるため、原版となるフォトマスクパターンを微細かつ高精度で形成する技術が求められることになる。
【0003】
半導体デバイス製造における光リソグラフィは、通常、ステッパーやスキャナーと呼ばれる露光装置を用いて、フォトマスクパターンを4分の1にして縮小投影し、半導体デバイスへパターン転写するのが一般的であり、そのときのフォトマスクのパターンサイズは、半導体デバイスパターンの4倍程度の大きさである。
【0004】
しかしながら、近年の光リソグラフィで転写される回路パターンのサイズは、露光波長(先端の露光装置で波長193nm)以下のサイズとなっており、露光の際に生じる光の干渉や回折、収差などの影響で、フォトマスクパターン通りの形状を半導体基板上のレジスト膜に転写することは困難であった。
【0005】
このため、実際の半導体デバイスパターンよりも複雑な形状のフォトマスクパターン(いわゆるOPCパターン)や、半導体デバイスに直接転写されることのない微細な補助パターン(例えばSRAF: Sub Resolution Assist Feature)などが必要とされる。これにより、実際には、フォトマスクパターンは、半導体パターンと同等もしくはそれ以上の、高いパターン加工精度と解像性が求められる。
【0006】
半導体デバイスの元となるフォトマスクの製造方法としては、大きく分けて、バイナリー型フォトマスクと、ハーフトーン型位相シフトフォトマスクが存在する。
【0007】
従来構造のバイナリー型フォトマスクの作製方法には非特許文献1に示されるようなものが知られている。この作製方法は次の通りの手順でフォトマスクが作られる。先ず、透明基板上にCrなどの遮光層が設けられたフォトマスクブランク上に電子線レジスト膜を塗布し、このレジスト膜に電子ビームでパターンを描画し、これを現像処理によりレジストパターンを得る。次いで、このレジストパターンをエッチングマスクとして、ドライエッチング加工により遮光部と透光部からなるフォトマスクパターンを形成する。
【0008】
ところで、近年では、マスクパターンの微細化に伴い、レジストを薄膜化することでレジストパターンの解像性を向上させる必要が出てきた。しかし、上記の従来構造のバイナリー型フォトマスクの作製方法では、遮光層とレジストのドライエッチング選択比(遮光層のエッチング速度÷レジストのエッチング速度)が小さいために、レジストの薄膜化には限界がある。これを解決するために、特許文献1に示されるように、新しい構造のバイナリー型フォトマスクが提案されている。これは、遮光層は従来のCrではなくMoSiを主材料としており、レジストと遮光層の間に遮光層とは異なる無機材料(Cr系材料)からなる薄い層を設けたものである。
【0009】
このタイプのバイナリー型フォトマスクの作製方法は次の通りの手順でフォトマスクが作られる。先ず、透明基板上に互いに異なる無機材料からなる上層膜と下層膜(遮光層)が設けられたフォトマスクブランク上に、電子線レジスト膜を塗布し、このレジスト膜に電子ビームでパターンを描画し、これを現像してレジストパターンを得る。次いで、このレジストパターンをエッチングマスクとして、ドライエッチング加工により上層膜のパターニングがなされる。次いで、パターニングされた上層膜を、エッチングマスクとして、ドライエッチング加工により下層膜(遮光層)のパターニングがなされる。最後に、残った上層膜を剥離して、遮光部と透光部からなるフォトマスクパターンを得るようにしたものである。
【0010】
この作製方法によれば、上層膜と下層膜(遮光層)の材料が異なるため、下層膜のドライエッチングにおける下層膜と上層膜のドライエッチング選択比(下層膜のエッチング速度÷レジストのエッチング速度)が非常に大きくなるから、上層膜を十分に薄くすることが可能となる。また、上層膜が薄くできるようになるので、レジストをエッチングマスクとして上層膜をドライエッチング加工する際に、レジスト膜も十分に薄くすることが可能となる。従って、レジストパターンの解像性が大幅に改善でき、結果として、フォトマスクパターンの解像性や寸法精度が大幅に改善できるようになる。
【0011】
一方、ハーフトーン型位相シフトフォトマスクの作製方法は、上述した上層膜と下層膜を有する新しい構造のバイナリー型フォトマスクの作り方と基本的な作成手順は同じである。その理由は、レジスト膜、上層膜、下層膜、透明基板という基本構造(材料の順序など)が同じであるからである。ただし、各層の組成や膜厚などは異なるために加工条件(ガス種、圧力、電力など)は、ブランクに合わせて最適化する必要がある。
【0012】
さて、マスクパターンの微細化に伴い、ドライエッチング加工における技術的な問題が生じている。レジストパターンをエッチングマスクにして上層膜をドライエッチング加工でパターニングする際や、上層膜をエッチングマスクにして下層膜をドライエッチング加工でパターニングする際に、微細な開口部ほどドライエッチング加工がされにくくなるマイクロローディング現象が発生してしまう(非特許文献2参照)。
【0013】
このマイクロローディング現象が発生する理由は、微細な開口部ほど、あるいは高アスペクト比の開口部ほど、エッチャントとなるラジカルが開口部の底に到達し難くなるためにエッチング速度が低下することにある。言い方を変えれば、微細開口部と大開口部のエッチング速度に差が生じる現象である。このマイクロローディング現象の発生によって、寸法リニアリティが低下し、フォトマスクの寸法精度の低下が生じてしまう。
【0014】
一般に、モリブデンシリコン(MoSi)、シリコン酸化膜/窒化膜、シリコン単体などのシリコン系材料のエッチングでは、CF4、C2F6、C4F8、CHF3、SF6などのフッ素系ガスやCL2、HCL、BCL3、SiCL4などの塩素系ガスに必要に応じて酸素や不活性ガスを加えた混合ガスが用いられているが、いずれのガス種を用いてもマイクロローディング現象は発生する。従って、マスクパターンの微細化には、ドライエッチング加工におけるマイクロローディング現象を低減することが要求されている(非特許文献1参照)。
【0015】
マイクロローディング現象に対する従来の対策法としては、ドライエッチング条件の低圧化やレジストの薄膜化がある。ドライエッチング条件を低圧化する対策では、ドライエッチング条件を低圧化すると、チャンバー内の平均自由行程が長く(他の粒子との衝突確率が低下する)なり、ラジカルが開口部の底に到達しやすくなるので、マイクロローディング現象が低減される(非特許文献2参照)。しかし、その一方で、低圧化によってレジストや上層膜等のエッチングマスクに対する選択比が低下する問題が生じてしまう。また、レジストの薄膜化対策では、ラジカルが開口部の底部へ到達しやすくなるので、マイクロローディング現象を低減する効果がある。その一方で、エッチングマスクとしてのレジストは、ある程度の厚さが必要であるためにレジスト薄膜化に限界がある。
【0016】
また、マイクロローディング現象を低減する別の方法として、フォトマスクの被エッチング材料の組成を変えることでドライエッチング速度を高める方法も提案されている(特許文献2参照)。この方法によると、ドライエッチング時間が全体的に短く出来るために、微細開口部と大開口部のエッチング速度の差があったとしても、その差を小さく出来るようになる。
【0017】
しかしながら、この方法では、酸素や窒素の含有量を調整する必要があるので、これもフォトマスクに必要な光学特性を維持することが困難となるという問題がある。
【0018】
また、ドライエッチング加工におけるもう一つの技術的な問題として、グローバルローディング現象による、開口率の異なる領域間の寸法差が生じるということがある。このグローバルローディング現象は、MoSiなどの被エッチングされる材料に対し、エッチャント(ラジカルやイオン)の供給量が不足するために生じる現象である。例えば、開口率が小さい領域(ほとんどの部分がエッチングマスク材料で覆われている)では、エッチャントが充分に足りているため、エッチングレートは低下しないが、開口率が大きい領域(ほとんどがMoSiなどの被エッチング材料が露出している)では、エッチャントが不足するために、エッチングレートが低下する。この現象によって、開口率が異なる領域間で寸法が異なるために、フォトマスク面内の寸法均一性が低下してしまう。したがって、グローバルローディング現象を低減することも求められている。
【0019】
従来のグローバルローディング現象の低減には、ドライエッチング処理において、エッチングガスの大流量供給と高速排気が有効とされている。これによって、エッチャントの供給不足を解消することが可能となる。しかし、そのためには、大流量のガス供給システムと大容量の真空ポンプを必要とするために装置上の制約がある。その上、エッチング特性が大きく変わってしまうために、良好なエッチング特性(寸法や選択比)が得られなくなってしまう問題が生じてしまうこともある。
【0020】
また、従来のグローバルローディング現象を低減するための別の方法として、パターン周辺部に開口率を調整するための、ダミーパターンを配置することで、開口率を調整する方法も提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、この方法では、ダミーパターンを配置出来る領域が必要であるために、通常、そのような領域が存在しない実際の製品においては、実用可能性は低いものとなってしまう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】フォトマスク技術のはなし、工業調査会(1996)
【非特許文献2】H.C.Jones et al.:Proc. 8th Plasma Processing(1990)p.45
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開2008-257274号公報
【特許文献2】特開2007-178498号公報
【特許文献3】特開2001-183809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
このように、フォトマスクのドライエッチング時に発生するマイクロローディング現象やグローバルローディング現象によって、フォトマスクの寸法精度が低下する問題が生じているが、これらを解決すべく提案されている従来の方法は、ドライエッチング条件の低圧化、レジストの薄膜化、被エッチング膜の組成変更、エッチングガスの大流量化かつ高速排気化、開口率調整のためのダミーパターンの配置などの方法である。
【0024】
しかしながら、これらの方法は、フォトマスクとして必要な寸法特性(CDリニアリティ、CDユニフォーミティ等)や光学特性(透過率、反射率、位相差等)の低下が発生し、さらには装置上あるいはパターン設計上、難しい対応となることが多い。
【0025】
本発明は、寸法特性や光学特性を低下させることなく、マイクロローディング現象やグローバルローディング現象に起因するフォトマスクの寸法精度の低下を防ぐフォトマスクブランク及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。
シリコンを含む材料を位相シフト層もしくは遮光層に用いるフォトマスクブランクにおいて、それらの材料に、微量の不純物としてリン(P)やヒ素(As)等の第15族元素がドープされていることを特徴とするフォトマスクブランクである。
【0027】
請求項1記載のフォトマスクブランクの製造方法は、フォトマスク用石英基板をスパッタリングやCVD法による遮光層もしくは位相シフト層もしくはその両方の成膜工程、次いでイオン注入法や熱拡散法などの不純物をドープする工程、次いで熱処理工程から成ることを特徴とするフォトマスクブランクの製造方法である。
【0028】
請求項2記載のイオン注入法は、加速エネルギーは10keV以上200keV以下かつ、単位面積当たりのイオン注入量は10の7乗atoms/cm2以上10の17乗atoms/cm2以下の範囲にして、実行されることを特徴とするフォトマスクブランクの製造方法である。
【0029】
請求項1記載のフォトマスクブランクにおいて、第15族元素の単位体積中の不純物濃度は、10の10乗以上atoms/cm3以上であることを特徴とするフォトマスクブランクである。
【0030】
請求項1のフォトマスクブランクは、MoSi、TaSi、ZrSi、Si、HfSiとそれらの酸化物、窒化物、酸窒化物であることを特徴とするフォトマスクブランクである。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、フォトマスクブランクの遮光層やハーフトーン層に第15族元素を不純物として、イオン注入法や拡散法によって微量ドープさせることで、フォトマスク製造時のドライエッチングレートを高め、マイクロローディング現象やグローバルローディング現象を低減し、良好なパターン寸法精度が得られるフォトマスクブランク及びその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のフォトマスク構造であって、(a)は位相シフト型ハーフトーンマスクブランク、(b)はMoSiバイナリー型マスクブランクを示す断面図。
【図2】本発明の実施例1におけるMoSiバイナリー型マスクブランクの製造工程を示す説明図。
【図3】本発明の実施例1におけるMoSiバイナリー型マスクブランクのエッチングレート測定の工程を示す説明図。
【図4】本発明の実施例1におけるMoSiバイナリー型マスクブランクのイオン注入量とエッチングレートのグラフ。
【図5】本発明の実施例2におけるMoSiバイナリー型のフォトマスクの製造工程を示す説明図。
【図6】本発明の実施例2におけるMoSiバイナリー型のフォトマスクの寸法リニアリティを示すグラフ。
【図7】本発明の実施例2におけるMoSiバイナリー型のフォトマスクの寸法ユニフォーミティの説明図。
【図8】本発明の実施例3における位相シフト型ハーフトーンブランクの製造工程の説明図。
【図9】本発明の実施例3における位相シフト型ハーフトーンブランクのエッチングレート測定の工程を示す説明図。
【図10】本発明の実施例3における位相シフト型ハーフトーンブランクのイオン注入量とエッチングレートのグラフ。
【図11】本発明の実施例4における位相シフト型ハーフトーンマスクの製造工程を示す説明図。
【図12】本発明の実施例4における位相シフト型のフォトマスクの寸法リニアリティを示すグラフ。
【図13】本発明の実施例4における位相シフト型のフォトマスクの寸法ユニフォーミティを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0034】
本発明のフォトマスクブランクは、図1(a)に示すように、透明石英基板001上に、ハーフトーン層002と遮光層003からなる位相シフト型ハーフトーンマスクブランク、あるいは図1(b)に示すように、透明石英基板001上に、遮光層004とハードマスク層005からなるバイナリー型マスクブランクである。
【0035】
本発明の位相シフト型ハーフトーンマスクブランクのハーフトーン層002は、MoSiなど少なくともSiを含む材料から構成されており、そのハーフトーン層002は、露光光に対し、4〜30%の透過率と180°の位相シフト量を有するものである。
【0036】
前記ハーフトーン層002のSi原子の含有率は40%以上である。これは、後述する第15族元素と置換反応するのに充分な量が必要であるためである。
【0037】
前記ハーフトーン層002の中には、リン(P)やヒ素(As)などの第15族元素が、単位体積中に10の10乗以上atoms/cm3以上ドープされている。
【0038】
本発明のバイナリー型マスクブランクの遮光層004は、MoSiなど少なくともSiを含む材料から構成されており、露光光に対し遮光層のOD値(Optical Density:光学濃度)は、3以上の値を有するものである。
【0039】
前記遮光層004のSi原子の含有率は、40%以上である。これは、後述する第15族元素と置換反応するのに充分な量が必要であるためである。
【0040】
前記遮光層004の中には、リン(P)やヒ素(As)などの第15族元素が、単位体積中に10の10乗以上atoms/cm3以上ドープされている。
【0041】
第15族元素を不純物としてSiを含む材料中にドープすると、不純物原子の最外殻の電子が1つ余り、自由電子となって材料中を動き回れるようになる。これによって、フォトマスク製造中のドライエッチング工程で被エッチング材料が負電荷を有することになり、フッ素ラジカルや塩素ラジカルと電荷交換が促進され、エッチングレートが増大するようになると考えられる。
【0042】
本発明のマスクブランク実現するための製造方法は、少なくとも、(1)石英基板にスパッタリングやCVD(Chemical Vapor Deposition/化学気相成長法)による成膜工程と、(2)成膜後のブランクにイオン注入法や熱拡散法による不純物のドーピング工程と、(3)ドーピングされた不純物の拡散や活性化のための熱処理工程から成る。
【0043】
前記成膜工程(1)は、通常のフォトマスクブランクにおける、遮光膜、ハーフトーン膜、ハードマスク膜の成膜条件と同じで構わない。
【0044】
前記ドーピング工程(2)の一つであるイオン注入工程では、イオン注入量と加速電圧の二つのパラメータがあるが、エッチングレートを増大させるためには、イオン注入量は10の7乗atoms/cm2以上である必要がある。一方、イオン注入量が多すぎる場合、フォトマスクとしての光学特性(透過率、反射率、位相差)が変わらない範囲に抑えるためには、10の17乗atoms/cm2以下とする必要がある。
【0045】
前記イオン注入の加速電圧は、注入されたイオンの深さを決定するパラメータとなるために、注入される側の材料や膜厚に依存するが、フォトマスクの場合、遮光層やハーフトーン層、ハードマスク層は、膜厚が概ね100nm以下であることから、加速電圧は、10keV〜200keVとするのが良い。これは、それ以上の加速電圧では、注入したい層を突き抜けて、石英基板へイオンが打ち込まれてしまうためである。
【0046】
前記熱処理工程(3)は、電気アニール、ランプアニール、レーザーアニール、電子ビームアニールなどの熱処理方法は問わないが、ドーピングされた不純物を電気的に活性化するためには、800度〜1300度の範囲で処理するのが良い。
【0047】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について詳述する。
【実施例1】
【0048】
(MoSiバイナリー型マスクブランク)
本実施例1では、本発明の方法で作製したMoSiバイナリー型マスクブランクの製造方法とドライエッチングレートを測定した結果を示す。
【0049】
(MoSiバイナリー型マスクブランクの作製)
図2に示すように、MoSiを遮光層の主材料とするバイナリー型マスクブランクの製造方法について説明する。まず、多元スパッタ装置にて、石英基板101上にMoSi膜102を45nm厚で成膜する(図2(b)参照)。MoSi膜の成膜時の条件は、圧力10mTorr、DC電力250W、Ar流量30sccm、O2流量5sccm、N2流量15sccmとした。
【0050】
次いで、前記MoSi遮光層に、イオン注入装置にてリン104(P)を、加速電圧は25keV(固定)、イオン注入量は10の12乗から10の15乗atoms/cm2の範囲での複数条件でドーピングした(図2(c)参照)。
【0051】
次いで、熱処理装置105にて900度10分の熱処理を実施し(図2(d)参照)、多元スパッタ装置にて、最後にCr膜103を10nm厚で成膜した(図2(e)参照)。Crの成膜条件は、圧力50mTorr、電流4.0A、Ar流量45sccm、O2流量2sccm、N2流量1sccmとした。
【0052】
(MoSiバイナリー型マスクブランクのエッチングレート)
このように、作製したMoSiバイナリー型マスクブランクから、Cr層のみをウェットエッチングで全面剥離し(図3(b)参照)、次いで、MoSi遮光層を、ICP型ドライエッチング装置Tetra2(Applied Material社)にて全面エッチングし(図3(c)、MoSi層が完全に無くなるまでの時間から、MoSiエッチングレートを測定した。このときの条件は、圧力5mTorr、SF6流量20sccm、O2流量10sccm、Sourceパワー400W、Biasパワー70Wとした。
【0053】
この場合のイオン注入量とエッチングレートの相関を示すグラフを図4に示す。これによれば、イオン注入量の増加に従って、エッチングレートが大きくなる結果が得られた。
【実施例2】
【0054】
(MoSiバイナリー型のフォトマスク作製)
本実施例2では、実施例1により作製したマスクブランクでフォトマスクを作製し、その寸法特性(寸法リニアリティ、寸法ユニフォーミティ)について、従来ブランクとの比較を示す。
【0055】
図5にその作製工程を示す。実施例1で作製したマスクブランク(リンドープ量10の14乗atom/cm2)上に、スピンコータ(MTC社)を用いてポジ型電子線レジストFEP171(富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ社)を1500Åでコートし、PAB(Post Applied Bake)130度10分で処理した(図5(b)参照)。次いで、加速電圧50kVの可変成形型電子線描画機EBM5000(ニューフレアテクノロジー社)にてテストパターンを描画し、PEB・現像機(シグマメルテック社)により120度10分、スプレー現像120秒で処理し、レジストパターンを形成した(図5(c)参照)。
【0056】
次いで、ドライエッチング装置Tetra2(Applied Material社)にてCrエッチング処理を実施し(図5(d)参照)(条件:圧力3mTorr、Cl2流量80sccm、O2流量33sccm、Sourceパワー400W、Biasパワー10W、エッチング時間250秒)。
次いで、硫酸過水およびアンモニア過水洗浄によりレジスト残りを剥離した(図5(e)参照)。
【0057】
次いで、Tetra2(Applied Material社)を使用して、MoSiエッチング処理を実施した(図5(f)参照)。このときの条件は、圧力5mTorr、SF6流量20sccm、O2流量10sccm、Sourceパワー400W、Biasパワー70W、エッチング時間は、MoSi層が抜け切る時間の2倍の時間とした。
【0058】
最後に、Cr残膜をCrエッチャント溶液によるウェット処理により剥膜し、マスクパターンを作製した(図5(g)参照)。
【0059】
(従来ブランクと寸法比較)
このようにして作製したMoSiバイナリー型マスクブランク(リンドープ量10の14乗atom/cm2)と、従来のMoSiバイナリー型マスクブランクで、寸法リニアリティを比較した。この結果を図6に示す。寸法測定には、フォトマスク用測長SEMのLWM9000(Leica社)を用いた。これによると、従来のブランクと比べて微小寸法での落ち込みが小さく、設計寸法に近い精度でパターン形成していることが確認できた。
【0060】
また、開口率の異なるパターンをマスク面内の広範囲に配置して、寸法ユニフォーミティを測定した。図7(a)にパターンレイアウトの概略図を示す。エリアAは開口率0%、Bは開口率25%、Cは開口率50%、Dは開口率75%として、その中に、パターン寸法1umのLS(ライン&スペース)パターンが配置されている。図7(b)が従来のブランクで作製したマスクの寸法均一性のバブル図であり、図7(c)が本発明の実施例2のブランクで作製したマスクの寸法均一性のバブル図である。これらのバブル図において、バブル(円)の大きさが大きいほど平均値からのズレが大きいことを意味し、塗りつぶし(黒)は平均値よりもプラス側、中抜き(白)は平均値よりもマイナス側へズレていることを意味している。
【0061】
この測定結果から、本発明の実施例2で作製したブランクは、従来ブランクよりも、フォトマスクを作製した際の寸法ユニフォーミティが良いことが知れる。また、ユニフォーミティのレンジ値は、従来ブランクが6.2nmであるのに対し、この実施例2では、2.4nmであった。
【実施例3】
【0062】
(位相シフト型ハーフトーンブランク)
本実施例3では、本発明の方法で作製した位相シフト型ハーフトーンブランクの製造方法とドライエッチングレートを測定した結果を示す。
【0063】
MoSiをハーフトーン層の主材料とする位相シフト型マスクブランクの製造方法について説明する(図8参照)。多元スパッタ装置にて、石英基板301上にMoSi膜302を70nm厚で成膜した(図8(b)参照)。MoSi膜の成膜時の条件は、圧力8mTorr、DC電力300W、Ar流量30sccm、O2流量5sccm、N2流量15sccmとした。
【0064】
次いで、前記MoSi遮光層に、イオン注入装置にてヒ素(As)の入射イオン304を、加速電圧は30keV(固定)、イオン注入量は10の12乗から10の15乗atoms/cm2の範囲で複数の条件でドーピングした(図8(c)参照)。
【0065】
次いで、熱処理装置305にて、1100度10分の熱処理を実施し(図8(d)参照)、多元スパッタ装置にて、最後にCr膜303を10nm厚で成膜した(図8(e)参照)。Crの成膜条件は、圧力50mTorr、DC電力250W、Ar流量45sccm、O2流量10sccm、N2流量5sccmとした。
【0066】
(位相シフト型ハーフトーンブランクのエッチングレート)
このように、作製した位相シフト型ハーフトーンブランクから、Cr層のみをウェットエッチングで全面剥離し(図9(b)参照)、次いで、MoSi遮光層を、ICP型ドライエッチング装置Tetra2(Applied Material社)にて全面エッチングし(図9(c)参照)、MoSi層が完全に無くなるまでの時間から、MoSiエッチングレートを測定した。このときの条件は、圧力5mTorr、SF6流量20sccm、O2流量10sccm、Sourceパワー400W、Biasパワー70Wとした。
【0067】
イオン注入量とエッチングレートの相関を示すグラフを図10に示す。これにより、イオン注入量の増加に従って、エッチングレートが大きくなる結果が得られた。
【実施例4】
【0068】
(位相シフト型ハーフトーンマスク作製)
本実施例4では、実施例3により作製したマスクブランクでフォトマスクを作製し、その寸法特性(寸法リニアリティ、寸法ユニフォーミティ)について、従来ブランクとの比較を示す。
【0069】
前記実施例3のマスクブランク上に、スピンコータ(MTC社)を用いてポジ型電子線レジストFEP171(富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ社)を2000Åでコートし、PAB(Post Applied Bake)130度10分で処理した(図11(b)参照)。次いで、加速電圧50kVの可変成形型電子線描画機EBM5000(ニューフレアテクノロジー社)にてテストパターンを描画し、PEB・現像機(シグマメルテック社)により120度10分、スプレー現像120秒で処理しレジストパターンを形成した(図11(c)参照)。
【0070】
次いで、ドライエッチング装置Tetra2(Applied Material社)にてCrエッチング処理を実施し(図11(d)参照)(条件:圧力5mTorr、Cl2流量80sccm、O2流量20sccm、Sourceパワー300W、Biasパワー5W、エッチング時間240秒)、次いで、硫酸過水およびアンモニア過水洗浄によりレジスト残りを剥離した(図11(e)参照)。
【0071】
次いで、Tetra2(Applied Material社)を使用して、MoSiエッチング処理を実施した(図11(f)参照)。このときの条件は、圧力5mTorr、SF6流量20sccm、O2流量10sccm、Sourceパワー400W、Biasパワー70W、エッチング時間は、MoSi層が抜け切る時間の2倍の時間とした。
【0072】
最後に、Cr残膜をCrエッチャント溶液によるウェット処理により剥膜し、マスクパターンを作製した(図11(g)参照)。
【0073】
(従来ブランクと寸法比較)
このようにして作製した位相シフト型マスクブランク(ヒ素ドープ量10の14乗atom/cm2)と、従来の位相シフト型マスクブランクで、寸法リニアリティを比較した(図12参照)。寸法測定には、フォトマスク用測長SEMのLWM9000(Leica社)を用いた。これによると、従来のブランクと比べて微小寸法での落ち込みが小さく、設計寸法に近い精度でパターン形成していることが確認できた。
【0074】
また、開口率の異なるパターンをマスク面内の広範囲に配置して、寸法ユニフォーミティを測定した。図13(a)にパターンレイアウトの概略図を示す。エリアAは開口率0%、Bは開口率25%、Cは開口率50%、Dは開口率75%として、その中に、パターン寸法1umのLS(ライン&スペース)パターンが配置されている。図13(b)が従来のブランクで作製したマスクの寸法均一性のバブル図で、図13(c)が本発明の実施例2のブランクで作製したマスクの寸法均一性のバブル図である。このバブル図において、バブル(円)の大きさが大きいほど平均値からのズレが大きいことを意味し、塗りつぶし(黒)は平均値よりもプラス側、中抜き(白)は平均値よりもマイナス側へズレていることを意味している。
【0075】
この結果から、本発明の実施例4で作製したブランクは、従来ブランクよりも、フォトマスクを作製した際の寸法ユニフォーミティが良いことが分かる。ユニフォーミティのレンジ値は、従来ブランクが9.6nmであるのに対し、実施例4では4.9nmであった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
上記の発明は、フォトマスクの原版となるフォトマスクブランクおよびその製造方法として、利用可能である。
【符号の説明】
【0077】
001…フォトマスク石英基板
002…イオン注入されたハーフトーン層
003…遮光層
004…イオン注入された遮光層
005…ハードマスク層
101…フォトマスク石英基板
102…MoSi遮光層
103…Crハードマスク層
104…入射イオン
105…熱処理装置
106…ドライエッチング中のエッチャント
107…イオン注入された遮光層
201…フォトマスク石英基板
202…イオン注入されたMoSi遮光層
203…Crハードマスク層
204…レジスト
301…フォトマスク石英基板
302…MoSi遮光層
303…Crハードマスク層
304…入射イオン
305…熱処理装置
306…ドライエッチング中のエッチャント
307…イオン注入された遮光層
401…フォトマスク石英基板
402…イオン注入されたMoSi遮光層
403…Crハードマスク層
404…レジスト
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスクパターン形成のためのドライエッチング処理において、エッチングマスク材料のエッチングレートを従来よりも向上させたフォトマスクブランク及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大規模集積回路(LSI)等の半導体デバイスの高集積化に伴って、回路パターンのさらなる微細化が進んでいる。このような微細な回路パターンを実現するためには、回路を構成する配線パターンやコンタクトホールパターンの細線化が要求される。これらのパターニングは、フォトマスクを用いた光リソグラフィにより形成されるため、原版となるフォトマスクパターンを微細かつ高精度で形成する技術が求められることになる。
【0003】
半導体デバイス製造における光リソグラフィは、通常、ステッパーやスキャナーと呼ばれる露光装置を用いて、フォトマスクパターンを4分の1にして縮小投影し、半導体デバイスへパターン転写するのが一般的であり、そのときのフォトマスクのパターンサイズは、半導体デバイスパターンの4倍程度の大きさである。
【0004】
しかしながら、近年の光リソグラフィで転写される回路パターンのサイズは、露光波長(先端の露光装置で波長193nm)以下のサイズとなっており、露光の際に生じる光の干渉や回折、収差などの影響で、フォトマスクパターン通りの形状を半導体基板上のレジスト膜に転写することは困難であった。
【0005】
このため、実際の半導体デバイスパターンよりも複雑な形状のフォトマスクパターン(いわゆるOPCパターン)や、半導体デバイスに直接転写されることのない微細な補助パターン(例えばSRAF: Sub Resolution Assist Feature)などが必要とされる。これにより、実際には、フォトマスクパターンは、半導体パターンと同等もしくはそれ以上の、高いパターン加工精度と解像性が求められる。
【0006】
半導体デバイスの元となるフォトマスクの製造方法としては、大きく分けて、バイナリー型フォトマスクと、ハーフトーン型位相シフトフォトマスクが存在する。
【0007】
従来構造のバイナリー型フォトマスクの作製方法には非特許文献1に示されるようなものが知られている。この作製方法は次の通りの手順でフォトマスクが作られる。先ず、透明基板上にCrなどの遮光層が設けられたフォトマスクブランク上に電子線レジスト膜を塗布し、このレジスト膜に電子ビームでパターンを描画し、これを現像処理によりレジストパターンを得る。次いで、このレジストパターンをエッチングマスクとして、ドライエッチング加工により遮光部と透光部からなるフォトマスクパターンを形成する。
【0008】
ところで、近年では、マスクパターンの微細化に伴い、レジストを薄膜化することでレジストパターンの解像性を向上させる必要が出てきた。しかし、上記の従来構造のバイナリー型フォトマスクの作製方法では、遮光層とレジストのドライエッチング選択比(遮光層のエッチング速度÷レジストのエッチング速度)が小さいために、レジストの薄膜化には限界がある。これを解決するために、特許文献1に示されるように、新しい構造のバイナリー型フォトマスクが提案されている。これは、遮光層は従来のCrではなくMoSiを主材料としており、レジストと遮光層の間に遮光層とは異なる無機材料(Cr系材料)からなる薄い層を設けたものである。
【0009】
このタイプのバイナリー型フォトマスクの作製方法は次の通りの手順でフォトマスクが作られる。先ず、透明基板上に互いに異なる無機材料からなる上層膜と下層膜(遮光層)が設けられたフォトマスクブランク上に、電子線レジスト膜を塗布し、このレジスト膜に電子ビームでパターンを描画し、これを現像してレジストパターンを得る。次いで、このレジストパターンをエッチングマスクとして、ドライエッチング加工により上層膜のパターニングがなされる。次いで、パターニングされた上層膜を、エッチングマスクとして、ドライエッチング加工により下層膜(遮光層)のパターニングがなされる。最後に、残った上層膜を剥離して、遮光部と透光部からなるフォトマスクパターンを得るようにしたものである。
【0010】
この作製方法によれば、上層膜と下層膜(遮光層)の材料が異なるため、下層膜のドライエッチングにおける下層膜と上層膜のドライエッチング選択比(下層膜のエッチング速度÷レジストのエッチング速度)が非常に大きくなるから、上層膜を十分に薄くすることが可能となる。また、上層膜が薄くできるようになるので、レジストをエッチングマスクとして上層膜をドライエッチング加工する際に、レジスト膜も十分に薄くすることが可能となる。従って、レジストパターンの解像性が大幅に改善でき、結果として、フォトマスクパターンの解像性や寸法精度が大幅に改善できるようになる。
【0011】
一方、ハーフトーン型位相シフトフォトマスクの作製方法は、上述した上層膜と下層膜を有する新しい構造のバイナリー型フォトマスクの作り方と基本的な作成手順は同じである。その理由は、レジスト膜、上層膜、下層膜、透明基板という基本構造(材料の順序など)が同じであるからである。ただし、各層の組成や膜厚などは異なるために加工条件(ガス種、圧力、電力など)は、ブランクに合わせて最適化する必要がある。
【0012】
さて、マスクパターンの微細化に伴い、ドライエッチング加工における技術的な問題が生じている。レジストパターンをエッチングマスクにして上層膜をドライエッチング加工でパターニングする際や、上層膜をエッチングマスクにして下層膜をドライエッチング加工でパターニングする際に、微細な開口部ほどドライエッチング加工がされにくくなるマイクロローディング現象が発生してしまう(非特許文献2参照)。
【0013】
このマイクロローディング現象が発生する理由は、微細な開口部ほど、あるいは高アスペクト比の開口部ほど、エッチャントとなるラジカルが開口部の底に到達し難くなるためにエッチング速度が低下することにある。言い方を変えれば、微細開口部と大開口部のエッチング速度に差が生じる現象である。このマイクロローディング現象の発生によって、寸法リニアリティが低下し、フォトマスクの寸法精度の低下が生じてしまう。
【0014】
一般に、モリブデンシリコン(MoSi)、シリコン酸化膜/窒化膜、シリコン単体などのシリコン系材料のエッチングでは、CF4、C2F6、C4F8、CHF3、SF6などのフッ素系ガスやCL2、HCL、BCL3、SiCL4などの塩素系ガスに必要に応じて酸素や不活性ガスを加えた混合ガスが用いられているが、いずれのガス種を用いてもマイクロローディング現象は発生する。従って、マスクパターンの微細化には、ドライエッチング加工におけるマイクロローディング現象を低減することが要求されている(非特許文献1参照)。
【0015】
マイクロローディング現象に対する従来の対策法としては、ドライエッチング条件の低圧化やレジストの薄膜化がある。ドライエッチング条件を低圧化する対策では、ドライエッチング条件を低圧化すると、チャンバー内の平均自由行程が長く(他の粒子との衝突確率が低下する)なり、ラジカルが開口部の底に到達しやすくなるので、マイクロローディング現象が低減される(非特許文献2参照)。しかし、その一方で、低圧化によってレジストや上層膜等のエッチングマスクに対する選択比が低下する問題が生じてしまう。また、レジストの薄膜化対策では、ラジカルが開口部の底部へ到達しやすくなるので、マイクロローディング現象を低減する効果がある。その一方で、エッチングマスクとしてのレジストは、ある程度の厚さが必要であるためにレジスト薄膜化に限界がある。
【0016】
また、マイクロローディング現象を低減する別の方法として、フォトマスクの被エッチング材料の組成を変えることでドライエッチング速度を高める方法も提案されている(特許文献2参照)。この方法によると、ドライエッチング時間が全体的に短く出来るために、微細開口部と大開口部のエッチング速度の差があったとしても、その差を小さく出来るようになる。
【0017】
しかしながら、この方法では、酸素や窒素の含有量を調整する必要があるので、これもフォトマスクに必要な光学特性を維持することが困難となるという問題がある。
【0018】
また、ドライエッチング加工におけるもう一つの技術的な問題として、グローバルローディング現象による、開口率の異なる領域間の寸法差が生じるということがある。このグローバルローディング現象は、MoSiなどの被エッチングされる材料に対し、エッチャント(ラジカルやイオン)の供給量が不足するために生じる現象である。例えば、開口率が小さい領域(ほとんどの部分がエッチングマスク材料で覆われている)では、エッチャントが充分に足りているため、エッチングレートは低下しないが、開口率が大きい領域(ほとんどがMoSiなどの被エッチング材料が露出している)では、エッチャントが不足するために、エッチングレートが低下する。この現象によって、開口率が異なる領域間で寸法が異なるために、フォトマスク面内の寸法均一性が低下してしまう。したがって、グローバルローディング現象を低減することも求められている。
【0019】
従来のグローバルローディング現象の低減には、ドライエッチング処理において、エッチングガスの大流量供給と高速排気が有効とされている。これによって、エッチャントの供給不足を解消することが可能となる。しかし、そのためには、大流量のガス供給システムと大容量の真空ポンプを必要とするために装置上の制約がある。その上、エッチング特性が大きく変わってしまうために、良好なエッチング特性(寸法や選択比)が得られなくなってしまう問題が生じてしまうこともある。
【0020】
また、従来のグローバルローディング現象を低減するための別の方法として、パターン周辺部に開口率を調整するための、ダミーパターンを配置することで、開口率を調整する方法も提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、この方法では、ダミーパターンを配置出来る領域が必要であるために、通常、そのような領域が存在しない実際の製品においては、実用可能性は低いものとなってしまう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】フォトマスク技術のはなし、工業調査会(1996)
【非特許文献2】H.C.Jones et al.:Proc. 8th Plasma Processing(1990)p.45
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開2008-257274号公報
【特許文献2】特開2007-178498号公報
【特許文献3】特開2001-183809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
このように、フォトマスクのドライエッチング時に発生するマイクロローディング現象やグローバルローディング現象によって、フォトマスクの寸法精度が低下する問題が生じているが、これらを解決すべく提案されている従来の方法は、ドライエッチング条件の低圧化、レジストの薄膜化、被エッチング膜の組成変更、エッチングガスの大流量化かつ高速排気化、開口率調整のためのダミーパターンの配置などの方法である。
【0024】
しかしながら、これらの方法は、フォトマスクとして必要な寸法特性(CDリニアリティ、CDユニフォーミティ等)や光学特性(透過率、反射率、位相差等)の低下が発生し、さらには装置上あるいはパターン設計上、難しい対応となることが多い。
【0025】
本発明は、寸法特性や光学特性を低下させることなく、マイクロローディング現象やグローバルローディング現象に起因するフォトマスクの寸法精度の低下を防ぐフォトマスクブランク及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。
シリコンを含む材料を位相シフト層もしくは遮光層に用いるフォトマスクブランクにおいて、それらの材料に、微量の不純物としてリン(P)やヒ素(As)等の第15族元素がドープされていることを特徴とするフォトマスクブランクである。
【0027】
請求項1記載のフォトマスクブランクの製造方法は、フォトマスク用石英基板をスパッタリングやCVD法による遮光層もしくは位相シフト層もしくはその両方の成膜工程、次いでイオン注入法や熱拡散法などの不純物をドープする工程、次いで熱処理工程から成ることを特徴とするフォトマスクブランクの製造方法である。
【0028】
請求項2記載のイオン注入法は、加速エネルギーは10keV以上200keV以下かつ、単位面積当たりのイオン注入量は10の7乗atoms/cm2以上10の17乗atoms/cm2以下の範囲にして、実行されることを特徴とするフォトマスクブランクの製造方法である。
【0029】
請求項1記載のフォトマスクブランクにおいて、第15族元素の単位体積中の不純物濃度は、10の10乗以上atoms/cm3以上であることを特徴とするフォトマスクブランクである。
【0030】
請求項1のフォトマスクブランクは、MoSi、TaSi、ZrSi、Si、HfSiとそれらの酸化物、窒化物、酸窒化物であることを特徴とするフォトマスクブランクである。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、フォトマスクブランクの遮光層やハーフトーン層に第15族元素を不純物として、イオン注入法や拡散法によって微量ドープさせることで、フォトマスク製造時のドライエッチングレートを高め、マイクロローディング現象やグローバルローディング現象を低減し、良好なパターン寸法精度が得られるフォトマスクブランク及びその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のフォトマスク構造であって、(a)は位相シフト型ハーフトーンマスクブランク、(b)はMoSiバイナリー型マスクブランクを示す断面図。
【図2】本発明の実施例1におけるMoSiバイナリー型マスクブランクの製造工程を示す説明図。
【図3】本発明の実施例1におけるMoSiバイナリー型マスクブランクのエッチングレート測定の工程を示す説明図。
【図4】本発明の実施例1におけるMoSiバイナリー型マスクブランクのイオン注入量とエッチングレートのグラフ。
【図5】本発明の実施例2におけるMoSiバイナリー型のフォトマスクの製造工程を示す説明図。
【図6】本発明の実施例2におけるMoSiバイナリー型のフォトマスクの寸法リニアリティを示すグラフ。
【図7】本発明の実施例2におけるMoSiバイナリー型のフォトマスクの寸法ユニフォーミティの説明図。
【図8】本発明の実施例3における位相シフト型ハーフトーンブランクの製造工程の説明図。
【図9】本発明の実施例3における位相シフト型ハーフトーンブランクのエッチングレート測定の工程を示す説明図。
【図10】本発明の実施例3における位相シフト型ハーフトーンブランクのイオン注入量とエッチングレートのグラフ。
【図11】本発明の実施例4における位相シフト型ハーフトーンマスクの製造工程を示す説明図。
【図12】本発明の実施例4における位相シフト型のフォトマスクの寸法リニアリティを示すグラフ。
【図13】本発明の実施例4における位相シフト型のフォトマスクの寸法ユニフォーミティを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0034】
本発明のフォトマスクブランクは、図1(a)に示すように、透明石英基板001上に、ハーフトーン層002と遮光層003からなる位相シフト型ハーフトーンマスクブランク、あるいは図1(b)に示すように、透明石英基板001上に、遮光層004とハードマスク層005からなるバイナリー型マスクブランクである。
【0035】
本発明の位相シフト型ハーフトーンマスクブランクのハーフトーン層002は、MoSiなど少なくともSiを含む材料から構成されており、そのハーフトーン層002は、露光光に対し、4〜30%の透過率と180°の位相シフト量を有するものである。
【0036】
前記ハーフトーン層002のSi原子の含有率は40%以上である。これは、後述する第15族元素と置換反応するのに充分な量が必要であるためである。
【0037】
前記ハーフトーン層002の中には、リン(P)やヒ素(As)などの第15族元素が、単位体積中に10の10乗以上atoms/cm3以上ドープされている。
【0038】
本発明のバイナリー型マスクブランクの遮光層004は、MoSiなど少なくともSiを含む材料から構成されており、露光光に対し遮光層のOD値(Optical Density:光学濃度)は、3以上の値を有するものである。
【0039】
前記遮光層004のSi原子の含有率は、40%以上である。これは、後述する第15族元素と置換反応するのに充分な量が必要であるためである。
【0040】
前記遮光層004の中には、リン(P)やヒ素(As)などの第15族元素が、単位体積中に10の10乗以上atoms/cm3以上ドープされている。
【0041】
第15族元素を不純物としてSiを含む材料中にドープすると、不純物原子の最外殻の電子が1つ余り、自由電子となって材料中を動き回れるようになる。これによって、フォトマスク製造中のドライエッチング工程で被エッチング材料が負電荷を有することになり、フッ素ラジカルや塩素ラジカルと電荷交換が促進され、エッチングレートが増大するようになると考えられる。
【0042】
本発明のマスクブランク実現するための製造方法は、少なくとも、(1)石英基板にスパッタリングやCVD(Chemical Vapor Deposition/化学気相成長法)による成膜工程と、(2)成膜後のブランクにイオン注入法や熱拡散法による不純物のドーピング工程と、(3)ドーピングされた不純物の拡散や活性化のための熱処理工程から成る。
【0043】
前記成膜工程(1)は、通常のフォトマスクブランクにおける、遮光膜、ハーフトーン膜、ハードマスク膜の成膜条件と同じで構わない。
【0044】
前記ドーピング工程(2)の一つであるイオン注入工程では、イオン注入量と加速電圧の二つのパラメータがあるが、エッチングレートを増大させるためには、イオン注入量は10の7乗atoms/cm2以上である必要がある。一方、イオン注入量が多すぎる場合、フォトマスクとしての光学特性(透過率、反射率、位相差)が変わらない範囲に抑えるためには、10の17乗atoms/cm2以下とする必要がある。
【0045】
前記イオン注入の加速電圧は、注入されたイオンの深さを決定するパラメータとなるために、注入される側の材料や膜厚に依存するが、フォトマスクの場合、遮光層やハーフトーン層、ハードマスク層は、膜厚が概ね100nm以下であることから、加速電圧は、10keV〜200keVとするのが良い。これは、それ以上の加速電圧では、注入したい層を突き抜けて、石英基板へイオンが打ち込まれてしまうためである。
【0046】
前記熱処理工程(3)は、電気アニール、ランプアニール、レーザーアニール、電子ビームアニールなどの熱処理方法は問わないが、ドーピングされた不純物を電気的に活性化するためには、800度〜1300度の範囲で処理するのが良い。
【0047】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について詳述する。
【実施例1】
【0048】
(MoSiバイナリー型マスクブランク)
本実施例1では、本発明の方法で作製したMoSiバイナリー型マスクブランクの製造方法とドライエッチングレートを測定した結果を示す。
【0049】
(MoSiバイナリー型マスクブランクの作製)
図2に示すように、MoSiを遮光層の主材料とするバイナリー型マスクブランクの製造方法について説明する。まず、多元スパッタ装置にて、石英基板101上にMoSi膜102を45nm厚で成膜する(図2(b)参照)。MoSi膜の成膜時の条件は、圧力10mTorr、DC電力250W、Ar流量30sccm、O2流量5sccm、N2流量15sccmとした。
【0050】
次いで、前記MoSi遮光層に、イオン注入装置にてリン104(P)を、加速電圧は25keV(固定)、イオン注入量は10の12乗から10の15乗atoms/cm2の範囲での複数条件でドーピングした(図2(c)参照)。
【0051】
次いで、熱処理装置105にて900度10分の熱処理を実施し(図2(d)参照)、多元スパッタ装置にて、最後にCr膜103を10nm厚で成膜した(図2(e)参照)。Crの成膜条件は、圧力50mTorr、電流4.0A、Ar流量45sccm、O2流量2sccm、N2流量1sccmとした。
【0052】
(MoSiバイナリー型マスクブランクのエッチングレート)
このように、作製したMoSiバイナリー型マスクブランクから、Cr層のみをウェットエッチングで全面剥離し(図3(b)参照)、次いで、MoSi遮光層を、ICP型ドライエッチング装置Tetra2(Applied Material社)にて全面エッチングし(図3(c)、MoSi層が完全に無くなるまでの時間から、MoSiエッチングレートを測定した。このときの条件は、圧力5mTorr、SF6流量20sccm、O2流量10sccm、Sourceパワー400W、Biasパワー70Wとした。
【0053】
この場合のイオン注入量とエッチングレートの相関を示すグラフを図4に示す。これによれば、イオン注入量の増加に従って、エッチングレートが大きくなる結果が得られた。
【実施例2】
【0054】
(MoSiバイナリー型のフォトマスク作製)
本実施例2では、実施例1により作製したマスクブランクでフォトマスクを作製し、その寸法特性(寸法リニアリティ、寸法ユニフォーミティ)について、従来ブランクとの比較を示す。
【0055】
図5にその作製工程を示す。実施例1で作製したマスクブランク(リンドープ量10の14乗atom/cm2)上に、スピンコータ(MTC社)を用いてポジ型電子線レジストFEP171(富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ社)を1500Åでコートし、PAB(Post Applied Bake)130度10分で処理した(図5(b)参照)。次いで、加速電圧50kVの可変成形型電子線描画機EBM5000(ニューフレアテクノロジー社)にてテストパターンを描画し、PEB・現像機(シグマメルテック社)により120度10分、スプレー現像120秒で処理し、レジストパターンを形成した(図5(c)参照)。
【0056】
次いで、ドライエッチング装置Tetra2(Applied Material社)にてCrエッチング処理を実施し(図5(d)参照)(条件:圧力3mTorr、Cl2流量80sccm、O2流量33sccm、Sourceパワー400W、Biasパワー10W、エッチング時間250秒)。
次いで、硫酸過水およびアンモニア過水洗浄によりレジスト残りを剥離した(図5(e)参照)。
【0057】
次いで、Tetra2(Applied Material社)を使用して、MoSiエッチング処理を実施した(図5(f)参照)。このときの条件は、圧力5mTorr、SF6流量20sccm、O2流量10sccm、Sourceパワー400W、Biasパワー70W、エッチング時間は、MoSi層が抜け切る時間の2倍の時間とした。
【0058】
最後に、Cr残膜をCrエッチャント溶液によるウェット処理により剥膜し、マスクパターンを作製した(図5(g)参照)。
【0059】
(従来ブランクと寸法比較)
このようにして作製したMoSiバイナリー型マスクブランク(リンドープ量10の14乗atom/cm2)と、従来のMoSiバイナリー型マスクブランクで、寸法リニアリティを比較した。この結果を図6に示す。寸法測定には、フォトマスク用測長SEMのLWM9000(Leica社)を用いた。これによると、従来のブランクと比べて微小寸法での落ち込みが小さく、設計寸法に近い精度でパターン形成していることが確認できた。
【0060】
また、開口率の異なるパターンをマスク面内の広範囲に配置して、寸法ユニフォーミティを測定した。図7(a)にパターンレイアウトの概略図を示す。エリアAは開口率0%、Bは開口率25%、Cは開口率50%、Dは開口率75%として、その中に、パターン寸法1umのLS(ライン&スペース)パターンが配置されている。図7(b)が従来のブランクで作製したマスクの寸法均一性のバブル図であり、図7(c)が本発明の実施例2のブランクで作製したマスクの寸法均一性のバブル図である。これらのバブル図において、バブル(円)の大きさが大きいほど平均値からのズレが大きいことを意味し、塗りつぶし(黒)は平均値よりもプラス側、中抜き(白)は平均値よりもマイナス側へズレていることを意味している。
【0061】
この測定結果から、本発明の実施例2で作製したブランクは、従来ブランクよりも、フォトマスクを作製した際の寸法ユニフォーミティが良いことが知れる。また、ユニフォーミティのレンジ値は、従来ブランクが6.2nmであるのに対し、この実施例2では、2.4nmであった。
【実施例3】
【0062】
(位相シフト型ハーフトーンブランク)
本実施例3では、本発明の方法で作製した位相シフト型ハーフトーンブランクの製造方法とドライエッチングレートを測定した結果を示す。
【0063】
MoSiをハーフトーン層の主材料とする位相シフト型マスクブランクの製造方法について説明する(図8参照)。多元スパッタ装置にて、石英基板301上にMoSi膜302を70nm厚で成膜した(図8(b)参照)。MoSi膜の成膜時の条件は、圧力8mTorr、DC電力300W、Ar流量30sccm、O2流量5sccm、N2流量15sccmとした。
【0064】
次いで、前記MoSi遮光層に、イオン注入装置にてヒ素(As)の入射イオン304を、加速電圧は30keV(固定)、イオン注入量は10の12乗から10の15乗atoms/cm2の範囲で複数の条件でドーピングした(図8(c)参照)。
【0065】
次いで、熱処理装置305にて、1100度10分の熱処理を実施し(図8(d)参照)、多元スパッタ装置にて、最後にCr膜303を10nm厚で成膜した(図8(e)参照)。Crの成膜条件は、圧力50mTorr、DC電力250W、Ar流量45sccm、O2流量10sccm、N2流量5sccmとした。
【0066】
(位相シフト型ハーフトーンブランクのエッチングレート)
このように、作製した位相シフト型ハーフトーンブランクから、Cr層のみをウェットエッチングで全面剥離し(図9(b)参照)、次いで、MoSi遮光層を、ICP型ドライエッチング装置Tetra2(Applied Material社)にて全面エッチングし(図9(c)参照)、MoSi層が完全に無くなるまでの時間から、MoSiエッチングレートを測定した。このときの条件は、圧力5mTorr、SF6流量20sccm、O2流量10sccm、Sourceパワー400W、Biasパワー70Wとした。
【0067】
イオン注入量とエッチングレートの相関を示すグラフを図10に示す。これにより、イオン注入量の増加に従って、エッチングレートが大きくなる結果が得られた。
【実施例4】
【0068】
(位相シフト型ハーフトーンマスク作製)
本実施例4では、実施例3により作製したマスクブランクでフォトマスクを作製し、その寸法特性(寸法リニアリティ、寸法ユニフォーミティ)について、従来ブランクとの比較を示す。
【0069】
前記実施例3のマスクブランク上に、スピンコータ(MTC社)を用いてポジ型電子線レジストFEP171(富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ社)を2000Åでコートし、PAB(Post Applied Bake)130度10分で処理した(図11(b)参照)。次いで、加速電圧50kVの可変成形型電子線描画機EBM5000(ニューフレアテクノロジー社)にてテストパターンを描画し、PEB・現像機(シグマメルテック社)により120度10分、スプレー現像120秒で処理しレジストパターンを形成した(図11(c)参照)。
【0070】
次いで、ドライエッチング装置Tetra2(Applied Material社)にてCrエッチング処理を実施し(図11(d)参照)(条件:圧力5mTorr、Cl2流量80sccm、O2流量20sccm、Sourceパワー300W、Biasパワー5W、エッチング時間240秒)、次いで、硫酸過水およびアンモニア過水洗浄によりレジスト残りを剥離した(図11(e)参照)。
【0071】
次いで、Tetra2(Applied Material社)を使用して、MoSiエッチング処理を実施した(図11(f)参照)。このときの条件は、圧力5mTorr、SF6流量20sccm、O2流量10sccm、Sourceパワー400W、Biasパワー70W、エッチング時間は、MoSi層が抜け切る時間の2倍の時間とした。
【0072】
最後に、Cr残膜をCrエッチャント溶液によるウェット処理により剥膜し、マスクパターンを作製した(図11(g)参照)。
【0073】
(従来ブランクと寸法比較)
このようにして作製した位相シフト型マスクブランク(ヒ素ドープ量10の14乗atom/cm2)と、従来の位相シフト型マスクブランクで、寸法リニアリティを比較した(図12参照)。寸法測定には、フォトマスク用測長SEMのLWM9000(Leica社)を用いた。これによると、従来のブランクと比べて微小寸法での落ち込みが小さく、設計寸法に近い精度でパターン形成していることが確認できた。
【0074】
また、開口率の異なるパターンをマスク面内の広範囲に配置して、寸法ユニフォーミティを測定した。図13(a)にパターンレイアウトの概略図を示す。エリアAは開口率0%、Bは開口率25%、Cは開口率50%、Dは開口率75%として、その中に、パターン寸法1umのLS(ライン&スペース)パターンが配置されている。図13(b)が従来のブランクで作製したマスクの寸法均一性のバブル図で、図13(c)が本発明の実施例2のブランクで作製したマスクの寸法均一性のバブル図である。このバブル図において、バブル(円)の大きさが大きいほど平均値からのズレが大きいことを意味し、塗りつぶし(黒)は平均値よりもプラス側、中抜き(白)は平均値よりもマイナス側へズレていることを意味している。
【0075】
この結果から、本発明の実施例4で作製したブランクは、従来ブランクよりも、フォトマスクを作製した際の寸法ユニフォーミティが良いことが分かる。ユニフォーミティのレンジ値は、従来ブランクが9.6nmであるのに対し、実施例4では4.9nmであった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
上記の発明は、フォトマスクの原版となるフォトマスクブランクおよびその製造方法として、利用可能である。
【符号の説明】
【0077】
001…フォトマスク石英基板
002…イオン注入されたハーフトーン層
003…遮光層
004…イオン注入された遮光層
005…ハードマスク層
101…フォトマスク石英基板
102…MoSi遮光層
103…Crハードマスク層
104…入射イオン
105…熱処理装置
106…ドライエッチング中のエッチャント
107…イオン注入された遮光層
201…フォトマスク石英基板
202…イオン注入されたMoSi遮光層
203…Crハードマスク層
204…レジスト
301…フォトマスク石英基板
302…MoSi遮光層
303…Crハードマスク層
304…入射イオン
305…熱処理装置
306…ドライエッチング中のエッチャント
307…イオン注入された遮光層
401…フォトマスク石英基板
402…イオン注入されたMoSi遮光層
403…Crハードマスク層
404…レジスト
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンを含む材料を位相シフト層もしくは遮光層に用いるフォトマスクブランクにおいて、それらの材料に、微量の不純物としてリン(P)やヒ素(As)等の第15族元素がドープされていることを特徴とするフォトマスクブランク。
【請求項2】
請求項1記載のフォトマスクブランクにおいて、第15族元素の単位体積中の不純物濃度は、10の10乗以上atoms/cm3以上であることを特徴とするフォトマスクブランク。
【請求項3】
請求項1のフォトマスクブランクは、MoSi、TaSi、ZrSi、Si、HfSiとそれらの酸化物、窒化物、酸窒化物であることを特徴とするフォトマスクブランク。
【請求項4】
請求項1記載のフォトマスクブランクの製造方法として、フォトマスク用石英基板をスパッタリングやCVD法による遮光層もしくは位相シフト層もしくはその両方の成膜工程、次いでイオン注入法や熱拡散法などの不純物をドープする工程、次いで熱処理工程から成ることを特徴とするフォトマスクブランクの製造方法。
【請求項5】
請求項2記載のイオン注入法は、加速エネルギーは10keV以上200keV以下かつ、単位面積当たりのイオン注入量は10の7乗atoms/cm2以上10の17乗atoms/cm2以下の範囲にして、実行されることを特徴とするフォトマスクブランクの製造方法
【請求項1】
シリコンを含む材料を位相シフト層もしくは遮光層に用いるフォトマスクブランクにおいて、それらの材料に、微量の不純物としてリン(P)やヒ素(As)等の第15族元素がドープされていることを特徴とするフォトマスクブランク。
【請求項2】
請求項1記載のフォトマスクブランクにおいて、第15族元素の単位体積中の不純物濃度は、10の10乗以上atoms/cm3以上であることを特徴とするフォトマスクブランク。
【請求項3】
請求項1のフォトマスクブランクは、MoSi、TaSi、ZrSi、Si、HfSiとそれらの酸化物、窒化物、酸窒化物であることを特徴とするフォトマスクブランク。
【請求項4】
請求項1記載のフォトマスクブランクの製造方法として、フォトマスク用石英基板をスパッタリングやCVD法による遮光層もしくは位相シフト層もしくはその両方の成膜工程、次いでイオン注入法や熱拡散法などの不純物をドープする工程、次いで熱処理工程から成ることを特徴とするフォトマスクブランクの製造方法。
【請求項5】
請求項2記載のイオン注入法は、加速エネルギーは10keV以上200keV以下かつ、単位面積当たりのイオン注入量は10の7乗atoms/cm2以上10の17乗atoms/cm2以下の範囲にして、実行されることを特徴とするフォトマスクブランクの製造方法
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−215404(P2011−215404A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84100(P2010−84100)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
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