説明

フォークリフト用油圧回路制御システム

【課題】フォークリフトの状態に応じてアクチュエータの作動速度を調整して、転倒を防止するフォークリフト用油圧回路制御システムを提供する。
【解決手段】リフト用のアクチュエータ4に作動油を供給する第1ポンプP1と第2ポンプP2とを設け、第1ポンプP1とアクチュエータ4の間に介設されるメインバルブV1と、第2ポンプP2とアクチュエータ4の間に介設される調整バルブV2と、調整バルブV2のパイロット圧を切換える制御バルブSVと、を備え、さらに、フォークリフトが荷物を保持しているか否かを検知するための荷物検知手段1と、フォークリフトが走行中か否かを検知するための走行検知手段2と、荷物検知手段1からの荷物信号Nと走行検知手段2からの走行信号Rとに基づいて制御バルブSVを操作する制御部3と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォークリフト用油圧回路制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、フォークリフトは、油圧シリンダ等のアクチュエータの作動によって、荷物を持ち上げ、トラックや船等の大型輸送機や倉庫等へ運搬している。
例えば、アクチュエータと連結されたフォークで運搬するものや、荷物を吊り持ち状に保持するスプレッダによって運搬するもの(特許文献1参照)があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3141616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これらのフォークリフトは、フォークやスプレッダ等の荷物保持部に保持した荷物を走行中に上昇させると、急な重心の変化と走行による慣性力及び遠心力の相互作用によって、フォークリフトが転倒してしまうという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、フォークリフトの状態に応じてアクチュエータの作動速度を調整して、転倒を防止するフォークリフト用油圧回路制御システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のフォークリフト用油圧回路制御システムは、リフト用のアクチュエータに作動油を供給する第1ポンプと第2ポンプとを設け、上記第1ポンプと上記アクチュエータの間に介設されるメインバルブと、上記第2ポンプと上記アクチュエータの間に介設される調整バルブと、該調整バルブのパイロット圧を切換える制御バルブと、を備え、さらに、フォークリフトが荷物を保持しているか否かを検知するための荷物検知手段と、上記フォークリフトが走行中か否かを検知するための走行検知手段と、上記荷物検知手段からの荷物信号と上記走行検知手段からの走行信号とに基づいて上記制御バルブを操作する制御部と、を具備するものである。
【0007】
また、上記制御部は、上記荷物検知手段からの荷物を保持しているという荷物信号と、上記走行検知手段からの走行中という走行信号と、の同時受信で、上記第2ポンプからの作動油を上記アクチュエータへ供給させないように上記制御バルブを操作するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るフォークリフト用油圧回路制御システムによれば、荷物を保持しているか否か、走行中か否か、といったフォークリフトの状態に応じて、アクチュエータへの作動油の時間あたりの供給量を調整し、作動速度を調整できる。走行中の急激な重心の変化を防止し、フォークリフトと荷物のバランスを見極め易くして転倒を防止できる。作業効率を低減させずに安全性を向上できる。また、フォークリフトの状態に応じて、供給負荷がかかるポンプの数を調整でき、大きなトルクが必要な大型の原動機を用いる必要がなくなり、原動機を小型化できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態を示す側面図である。
【図2】本発明の実施の形態を示す回路図である。
【図3】制御処理を説明するフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図示の実施の形態に基づき本発明を詳説する。
本発明のフォークリフト用油圧回路制御システムは、図1及び図2に示すように、荷物を昇降させるための油圧シリンダから成るアクチュエータ4に、作動油を供給する第1ポンプP1と第2ポンプP2とを設けている。第1・第2ポンプP1,P2は、フォークリフト20を走行させるエンジンやモータ等の原動機29によって駆動される。また、フォークリフト20は、アクチュエータ4の作動に伴って昇降するスプレッダから成る荷物保持部21を有している。
【0011】
そして、第1ポンプP1及び第2ポンプP2に汲み上げられる作動油を貯めるタンク5と、第1ポンプP1からの作動油をメインバルブV1を介してアクチュエータ4へ供給する第1供給路11と、第2ポンプP2からの作動油を調整バルブV2を介してアクチュエータ4へ供給する第2供給路12と、を備えている。第1供給路11と第2供給路12とは、メインバルブV1及び調整バルブV2からアクチュエータ4までの間に設けられた供給合流部13にて合流している。
【0012】
また、メインバルブV1の切換わりに対応して作動油をタンク5へ戻す第1返送路15と、調整バルブV2の切換わりに対応して作動油を貯油タンク5へ戻す第2返送路16と、を備えている。第1返送路15と第2返送路16とは、メインバルブV1及び調整バルブV2から貯油タンク5までの間に設けられた返送合流部17にて合流している。
【0013】
また、図示省略の第3ポンプによって発生するパイロット圧を、伝達路30を介してメインバルブV1と調整バルブV2とに作用させるリフトレバーバルブLVを備えている。
リフトレバーバルブLVからのパイロット圧を受けた場合に、メインバルブV1を、第1ポンプP1からの作動油をアクチュエータ4へ供給するように設けている。調整バルブV2を、第2ポンプP2からの作動油をアクチュエータ4へ供給するように設けている。リフトレバーバルブLVは、荷物保持部21を昇降させるための操作レバー27に対応してパイロット圧を作用させるものである。
【0014】
伝達路30は、分岐部30Aにて、メインバルブV1のパイロット圧受け部へ接続される第1伝達路31と、調整バルブV2のパイロット圧受け部へ接続される第2伝達路32と、に分岐している。
そして、第2伝達路32に、調整バルブV2に作用するパイロット圧を切換える制御バルブSVを設けている。制御バルブSVは、パイロット圧を切り換えることで、調整バルブV2を、「アクチュエータ4へ作動油を供給する」と、「供給しない(タンク5に返送する)」と、に切換え作動させるソレノイドバルブである。
【0015】
さらに、制御バルブSVを制御信号Fによって制御する制御部3を設けている。
制御部3は、フォークリフト20が荷物を保持しているか否かを検知するための荷物検知手段1からの荷物信号Nと、フォークリフト20(の車両部)が走行中か否かを検知するための走行検知手段2からの走行信号Rと、に基づいて制御信号Fを制御バルブSVへ送信するものである。なお、制御部3は、リレー回路やシーケンサ、RAMやROM及びCPU等を有するコンピュータ等自由である。
【0016】
制御部3は、荷物信号Nの、荷物を保持しているという荷物信号N1と、荷物を保持していないという荷物信号N2と、に基づいて(のいずれかを受信して)、荷物を保持しているか否かを判定する。アクチュエータ4へ荷物からの負荷がかかるか否かを判定する。また、走行信号Rの、走行中という走行信号R1と、走行していない(停車中)という走行信号R2と、に基づいて(のいずれかを受信して)、走行中か否かを判定する。
【0017】
制御部3は、操作レバー27の操作に伴って、図3に示すように制御処理(ステップ)を開始する。先ず、荷物信号Nを受信してステップS1に於て荷物を保持しているか否かを判別する。
保持していない場合は、ステップS11に進んで、荷物によるアクチュエータ4への負荷はないと判定し、次のステップS12に於て、パイロット圧を調整バルブV2に作用させる制御信号F1を、制御バルブSVへ送信する。
保持している場合は、ステップS2に進んで、荷物によるアクチュエータ4への負荷があると判定する。その後ステップS3に進み、走行信号Rを受信して走行中か否かを判定する。
走行していない場合は、保持していない場合と同様にステップS12に進む。
走行中の場合は、ステップS4に進んで、パイロット圧を調整バルブV2に作用させない制御信号F2を、制御バルブSVへ送信する。
つまり、荷物を保持しているという荷物信号N1と、走行中という信号R1と、の同時受信(両方を受信した状態)で、ステップS4に進む。
【0018】
ここで、荷物検知手段1及び走行検知手段2についてさらに、具体的に説明する。
図1に於て、フォークリフト20は、アクチュエータ4によって昇降可能なリフトブラケット24に、荷物保持部21であるスプレッダを装着したものである。スプレッダのツイストロックピン22が回転し荷物(コンテナ)をロックしたことを確認する近接スイッチを、荷物検知手段1としている。
また、原動機29に連結される減速機28のオートミッションコントローラを、走行検知手段2としている。走行速度0.1km/h以上の際に走行中という走行信号R1を制御部3へ送信するようにしている。そして、走行中という走行信号R1が無いことを、走行していない(停車中)という走行信号R2としている。つまり、走行していないと(停車中)は、走行速度が0.1km/h未満の場合と定義している。
【0019】
なお、本発明は設計変更可能であって、例えば、アクチュエータ4を1本の油圧シリンダとしているが、2本以上であっても良い。また、フォークリフト20の荷物保持部21は、荷物を運搬可能であれば、フォークとしたものやクレーンアーム、クランプアーム等とするも自由である。また、荷物検知手段1は、荷物を保持中か否かが検知可能な箇所に設ければよく、近接センサや光電センサ、圧力センサ等のセンサ類や、リミットスイッチ等、自由である。また、減速機28や車軸、車輪等の走行用回転部材の近傍に付設した回転センサを走行検知手段2として、回転センサからの走行信号Rを制御部3が演算し、演算結果が走行速度0.1km/h未満の際に停車中と判定し、走行速度0.1km/h以上の際に走行中と判定するも良い。この場合、走行中という演算結果の基になった走行信号Rが、走行中という走行信号R1である。また、停車中という演算結果の基になった走行信号Rが、停車中という走行信号R2である。また、オートミッションコントローラから0km/hの際に、停車中という走行信号R2を制御部3へ送信するようにして、完全に走行が停止した状態をもって停車中と判定し、その停車中という走行信号R2が無いことを走行中という走行信号R1としても良い。
【0020】
上述した本発明のフォークリフト用油圧回路制御システムの使用方法(作用)について説明する。
操作レバー27を操作すると、常に、メインバルブV1にはリフトレバーバルブLVからのパイロット圧が作用される。メインバルブV1は、アクチュエータ4に第1ポンプP1からの作動油を供給する。
【0021】
また、操作レバー27の操作に伴って、制御部3の処理が開始される。
制御部3は、フォークリフト20が荷物を保持していない場合に、上述の処理により、走行中か否かに関わらず、パイロット圧を作用させる制御信号F1を送信する。制御バルブSVはパイロット圧を調整バルブV2に作用させる。調整バルブV2はアクチュエータ4に第2ポンプP2からの作動油を供給する。アクチュエータ4には、第1・第2ポンプP1,P2の両方から作動油が供給され作動する。荷物保持部21と共に荷物が上昇する。
停車中の場合は、荷物を保持していない場合と同様であって、アクチュエータ4には、第1ポンプP1及び第2ポンプP2から作動油が供給される。
【0022】
荷物を保持して走行している場合に、操作レバー27を操作すると、制御部3からパイロット圧を作用させない制御信号F2が制御バルブSVに送信される。制御バルブSVは調整バルブV2にパイロット圧を作用させない。調整バルブV2は第2ポンプP2からの作動油をアクチュエータ4に供給せずタンク5に返送する。作動油のアクチュエータ4への供給がメインバルブV1からだけとなって(作動油の時間あたりの供給量が減少し)、アクチュエータ4の作動速度(荷物の上昇速度)が他の場合よりも減速される。
【0023】
荷物を上昇させると、全体(荷物及びフォークリフト20)の重心は、荷物保持部21だけを上昇させた場合に比べて、かなり高くなる。また、走行中は、慣性力や遠心力が作用している。つまり、走行中の荷物の上昇は、フォークリフト20に作用する重心の変化や、慣性力や遠心力を運転者が見極めて操作しなければ転倒する虞れがある。
ところが、本発明は、走行中に荷物を上昇させる場合は、停車中よりも遅い速度で上昇させるため、走行中の急な重心の変化を防止し転倒を防止する。
【0024】
つまり、制御部3は、荷物を保持しているか否か、走行中か否かといったフォークリフト20の状態に応じて、アクチュエータ4の作動速度を調整するように制御バルブSVを介して、調整バルブV2を制御している。言い換えると、停車中の場合や荷物を保持していない場合よりもアクチュエータ4の作動速度を遅くすべきか否かを判定しているとも言える。さらに言い換えると、停車中の場合や荷物を保持していない場合の作動速度で、アクチュエータ4を作動させて安全か否かを判定しているとも言える。
【0025】
また、走行中に荷物を上昇させる場合に、第2ポンプP2からの作動油をアクチュエータ4に供給しない(タンク5に返送される)ため、作動油を供給するために発生する負荷を小さくし、原動機29にかかる負荷のほとんどを、第1ポンプP1の供給負荷と走行による負荷としている。走行と荷物上昇という2つの動作を同時に行なわせる際に、原動機29にかかる負荷を軽減しエンジンストールを防止している。又は、アクチュエータ4への作動油の供給に使用していた第2ポンプP2を作動させる力を走行に割り当てて走行速度の低下や走行速度が上がらなくなるといった不具合を防止している。つまり、制御部3はフォークリフト20の状態に応じて、原動機29に過負荷がかからないように、制御バルブSVを介して調整バルブV2を制御している。
【0026】
以上のように、本発明は、リフト用のアクチュエータ4に作動油を供給する第1ポンプP1と第2ポンプP2とを設け、第1ポンプP1とアクチュエータ4の間に介設されるメインバルブV1と、第2ポンプP2とアクチュエータ4の間に介設される調整バルブV2と、調整バルブV2のパイロット圧を切換える制御バルブSVと、を備え、さらに、フォークリフト20が荷物を保持しているか否かを検知するための荷物検知手段1と、フォークリフト20が走行中か否かを検知するための走行検知手段2と、荷物検知手段1からの荷物信号Nと走行検知手段2からの走行信号Rとに基づいて制御バルブSVを操作する制御部3と、を具備するので、フォークリフト20の状態に応じてアクチュエータ4への作動油の供給量を調整し、適切なアクチュエータ4の作動速度を得ることができる。走行中の重心の急激な変化を防止し転倒を防止できる。走行中のフォークリフト20と荷物上昇のバランスを運転手が見極め易くできる。作業効率を低減させずに安全性を向上できる。また、フォークリフト20の状態に応じて供給負荷がかかるポンプの数を調整でき、大型のエンジン等を用いる必要がなくなり、原動機29を小型化できる。
【0027】
また、制御部3は、荷物検知手段1からの荷物を保持しているという荷物信号N1と、走行検知手段2からの走行中という走行信号R1と、の同時受信で、第2ポンプP2からの作動油をアクチュエータ4へ供給させないように制御バルブSVを操作するので、走行中の重心の急な変化による転倒を防止できる。走行と荷物上昇という2つの作業を同時に行なわせる際に、原動機29にかかる負荷を軽減しエンジンストールを防止できる。又は、第2ポンプP2を作動させる力を走行に割り当てて走行速度の低下や走行速度が上がらなくなるといった不具合を防止できる。つまり、原動機29に過負荷がかからないようにできる。
【符号の説明】
【0028】
1 荷物検知手段
2 走行検知手段
3 制御部
4 アクチュエータ
20 フォークリフト
N 荷物信号
N1 荷物を保持しているという荷物信号
P1 第1ポンプ
P2 第2ポンプ
R 走行信号
R1 走行中という走行信号
SV 制御バルブ
V1 メインバルブ
V2 調整バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リフト用のアクチュエータ(4)に作動油を供給する第1ポンプ(P1)と第2ポンプ(P2)とを設け、
上記第1ポンプ(P1)と上記アクチュエータ(4)の間に介設されるメインバルブ(V1)と、上記第2ポンプ(P2)と上記アクチュエータ(4)の間に介設される調整バルブ(V2)と、該調整バルブ(V2)のパイロット圧を切換える制御バルブ(SV)と、を備え、
さらに、フォークリフト(20)が荷物を保持しているか否かを検知するための荷物検知手段(1)と、上記フォークリフト(20)が走行中か否かを検知するための走行検知手段(2)と、上記荷物検知手段(1)からの荷物信号(N)と上記走行検知手段(2)からの走行信号(R)とに基づいて上記制御バルブ(SV)を操作する制御部(3)と、を具備することを特徴とするフォークリフト用油圧回路制御システム。
【請求項2】
上記制御部(3)は、上記荷物検知手段(1)からの荷物を保持しているという荷物信号(N1)と、上記走行検知手段(2)からの走行中という走行信号(R1)と、の同時受信で、上記第2ポンプ(P2)からの作動油を上記アクチュエータ(4)へ供給させないように上記制御バルブ(SV)を操作する請求項1記載のフォークリフト用油圧回路制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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