説明

フタル酸ジクロリド化合物の製造方法及びこの製造方法に用いられる触媒

【課題】工業的に有用な高純度のフタル酸ジクロリド化合物を、経済的であり安全かつ取り扱い性に優れる材料ないし工程により、煩雑な操作を要さずに、高収率で得ることができるフタル酸ジクロリド化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】ジルコニウム化合物および/またはハフニウム化合物の存在下、無水フタル酸化合物とトリクロロメチルベンゼン化合物とを反応させて、フタル酸ジクロリド化合物を生成させるフタル酸ジクロリド化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農薬、医薬、各種高分子化合物の原料として有用なフタル酸ジクロリド化合物の製造方法及びこれに用いられる触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
フタル酸ジクロリド化合物を製造する方法として、オルトキシレンを塩素化しこれを加水分解する方法および無水フタル酸化合物を塩素化剤と反応させる方法が知られている。
【0003】
上記のオルトキシレンを出発物質とする方法として例えば、オルトキシレンの光塩素化で1−ジクロロメチル−2−トリクロロメチルベンゼンとし、この加水分解を行い3−クロロフタリドを経由して、さらに光塩素化する方法が挙げられる(特許文献1参照)。しかしながら、この方法は光塩素化の設備を必要とし、大量の塩素を用い多段階の製造工程を要する。
【0004】
一方、上記無水フタル酸化合物を出発物質とする方法として以下のものが挙げられる。 例えば、無水フタル酸を五塩化リンと反応させる方法が開示されている(非特許文献1参照)。しかし、この方法では大量のリンを含む廃棄物が生じる。
また、無水フタル酸化合物をホスゲンないし塩化チオニルと反応させる方法がある(特許文献2〜5参照)。これらの方法では、毒性を有し危険を伴うホスゲンを扱うため、特殊な製造設備を必要とするか、あるいは塩化チオニルを用いる場合にはこれを高圧で反応させる設備を必要とする。
そのほか、無水フタル酸を塩化亜鉛の存在下トリクロロメチルベンゼンと反応させる方法が挙げられる(非特許文献2、特許文献6、7参照)。これは通常の反応釜で実施できる簡便な方法であるが、反応温度に依存して塩化亜鉛を多量に使用する必要がある。例えば、非特許文献2によると、塩化亜鉛を無水フタル酸に対して10モル%用いるとき、110〜120℃で反応が進行すると報告されているが、このような多量の触媒使用量は実際的ではない。これに対し、塩化亜鉛を1モル%に減量すると、それでも多量であるが、実用的な反応速度を得るために200℃という高温を必要とする。このような高い反応温度を実現するための熱媒として通常の水媒体では対応できず、特別な熱媒が必要となり、またそれに対応するための特殊な設備を用意しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭47−27949号公報
【特許文献2】国際公開第2006−56436号パンフレット
【特許文献3】特開2005−330283号公報
【特許文献4】米国特許出願公開第2007/299282号明細書
【特許文献5】国際公開第2006−58642号パンフレット
【特許文献6】米国特許第1963748号明細書
【特許文献7】米国特許第1963749号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Org.Synth.Coll.VolII,528頁
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.,1937年59巻206頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで生成物中の目的化合物の純度についてみると、特許文献2及び4〜7並びに非特許文献1及び2の方法では(特許文献1には具体的な純度は開示されていない。)、未反応の原料(無水フタル酸化合物)が残ってしまうため、フタル酸ジクロリド化合物の純度は高くても95〜97%に留まる。特許文献3の実施例4に99%以上の純度でフタル酸ジクロリドを製造した例が記載されている。しかし、この方法では上述のように取り扱い性に欠けるホスゲンを使用しなければならず、そのうえ高価なN,N−ジシクロヘキシルホルムアミドを触媒として用いる必要がある。たとえ純度が高まったとしても効率的かつ経済的な工業生産には向かない。
目的化合物の純度が上がらず、無水フタル酸とフタル酸ジクロリドとが生成物中に混在するばあい、これらを蒸留または再結晶で分離することが必要となる。実際、非特許文献1ではそのようにして両者を分離しているが、この分離は両者の沸点及び融点が近いため極めて困難である。そして通常、反応後蒸留精製を行ったとしても無水フタル酸が相当量残留してしまう。この点、上記の無水フタル酸化合物からフタル酸ジクロリド化合物を生成させる反応は平衡反応であり、触媒を用いて反応速度を高めても通常その平衡状態は変化せず、目的とするフタル酸ジクロリドの純度を高めることは容易ではない。
【0008】
本発明は上記の点に鑑み、工業的に有用な高純度のフタル酸ジクロリド化合物を、経済的であり安全かつ取り扱い性に優れる材料ないし工程により、煩雑な処理を要さずに、高収率で得ることができるフタル酸ジクロリド化合物の製造方法およびこれに用いられる触媒の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、無水フタル酸化合物とトリクロロメチルベンゼン化合物とを、ジルコニウム化合物および/またはハフニウム化合物を含む触媒の存在下で反応させることにより、高純度のフタル酸ジクロリド化合物を得ることができることを見出した。そして、この知見に基づき以下の構成の本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)ジルコニウム化合物および/またはハフニウム化合物の存在下、下記一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物とを反応させて、下記一般式(3)で表される化合物を生成させることを特徴とするフタル酸ジクロリド化合物の製造方法。
【化1】

(式中、Xは、ハロゲン原子、ニトロ基、メチル基、またはメトキシ基を表す。該Xが複数あるとき、これらは互いに同じであっても異なっていてもよい。nは0〜2の整数を表す。Rは、ハロゲン原子、クロロカルボニル基、低級アルキル基、またはハロゲン置換低級アルキル基を表す。該Rが複数あるとき、これらは互いに同じであっても異なっていてもよい。mは0〜2の整数を表す。)
(2)前記ジルコニウム化合物またはハフニウム化合物が塩化ジルコニウムまたは塩化ハフニウムである(1)に「記載のフタル酸ジクロリド化合物の製造方法。
(3)一般式(1)で表される化合物が無水フタル酸である(1)または(2)に記載のフタル酸ジクロリド化合物の製造方法。
(4)一般式(1)で表される化合物が3−クロロ無水フタル酸又は4−クロロ無水フタル酸である(1)または(2)に記載のフタル酸ジクロリド化合物の製造方法。
(5)一般式(2)で表される化合物が4−クロロトリクロロメチルベンゼンである(1)〜(4)のいずれか1項に記載のフタル酸ジクロリド化合物の製造方法。
(6)ジルコニウム化合物および/またはハフニウム化合物からなる触媒であって、下記一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物とを反応させて、下記一般式(3)で表される化合物を生成させる反応に用いられることを特徴とするフタル酸ジクロリド化合物製造用触媒。
【化2】

(式中、Xは、ハロゲン原子、ニトロ基、メチル基、またはメトキシ基を表す。該Xが複数あるとき、これらは互いに同じであっても異なってもよい。nは0〜2の整数を表す。Rは、ハロゲン原子、クロロカルボニル基、低級アルキル基、またはハロゲン置換低級アルキル基を表す。該Rが複数あるとき、これらは互いに同じであっても異なっていてもよい。mは0〜2の整数を表す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法及び触媒によれば、医薬や農薬、各種高分子化合物の原料としてとくに要求される高純度のフタル酸ジクロリド化合物を、毒性や危険を伴わない取り扱い性に優れる材料を用い、しかも煩雑な精製工程等を介さず簡便に、高収率で得ることができる。また、本発明の製造方法及び触媒によれば、従来困難であった高純度のフタル酸ジクロリド化合物を、少量の触媒で、しかも特別な熱媒によらない穏和な反応温度で製造することができ、工業的な規模での大量生産にも好適に対応することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のフタル酸ジクロリド化合物の製造方法においては、上記一般式(1)で表される無水フタル酸化合物と上記一般式(2)で表されるトリクロロメチルベンゼン化合物とを、触媒となるジルコニウム化合物および/またはハフニウム化合物の存在下で反応させる。
【0013】
上記一般式(1)で表される化合物において、ベンゼン環上の置換基Xの置換位置に限定はないが、オルト位において立体障害の大きな置換基があるときは、上記触媒の量を増やすか、反応温度を上げることが好ましい。一般式(1)で表される化合物の具体的な例としては、無水フタル酸、3−クロロ無水フタル酸、4−クロロ無水フタル酸、4,5−ジクロロ無水フタル酸、3,6−ジクロロ無水フタル酸、3−ニトロ無水フタル酸、4−ニトロ無水フタル酸、3−メトキシ無水フタル酸、4−メチル無水フタル酸等が挙げられる。置換基Xの数nは0〜2であるが、0または1であることが好ましい。
【0014】
上記一般式(2)で表される化合物において、置換基Rは特に限定されないが、塩素化されやすい水酸基を持った置換基、たとえば−COOH、−COSH、−OHなどではないことが好ましい。置換基Rの置換位置に特に限定はない。
上記置換基Rを例示すると、塩素、臭素等のハロゲン原子、クロロカルボニル基、メチル基、エチル基等の低級アルキル基、トリクロロメチル基、ジクロロメチル基、クロロメチル基等のハロゲン置換低級アルキル基が挙げられる。この低級アルキル基は、炭素原子数1〜3のアルキル基であることが好ましい。
【0015】
一般式(2)で表される化合物の具体例としては、1−クロロ−4−トリクロロメチルベンゼン、1−クロロ−2−トリクロロメチルベンゼン、2,4−ジクロロ−1−トリクロロメチルベンゼン、3,4−ジクロロ−1−トリクロロメチルベンゼン、1−メチルー4−トリクロロメチルベンゼン、1,4−ビス(トリクロロメチル)ベンゼン、1,3−ビス(トリクロロメチル)ベンゼン等が挙げられる。また、無置換のトリクロロメチルベンゼンも安価であり経済的利点において好適に用いられる。
【0016】
一般式(2)で表される化合物の量は、同化合物に含まれるトリクロロメチル基換算で、反応させられる一般式(1)で表される化合物に対して1.0〜3.0当量であることが好ましく、1.3〜1.8当量であることがより好ましい。
本実施態様のフタル酸ジクロリド化合物の製造方法においては、ジルコニウム化合物および/またはハフニウム化合物からなる触媒を用いる。ジルコニウム化合物からなる触媒の例としては、四塩化ジルコニウム、酸化ジルコニウム、二塩化オキシジルコニウム(オキシ塩化ジルコニウム)、水酸化ジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、炭酸ジルコニウム、ジルコニウムカーバイド、金属ジルコニウム等が挙げられる。ハフニウム化合物からなる触媒の例としては、四塩化ハフニウム、酸化ハフニウム、ハフニウムカーバイド、オキシ塩化ハフニウム、水酸化ハフニウム、金属ハフニウム等が挙げられる。なかでも四塩化ジルコニウムおよび/または四塩化ハフニウムが好ましい。なお、本発明においてジルコニウム化合物ないしはハフニウム化合物はその少なくともいずれか一方を含めばよく、不可避的に分離困難な場合など両者が混在していてもよく、また本発明の効果を妨げない範囲でそれ以外のものが更に含まれていてもよい。
無水フタル酸化合物とトリクロロメチルベンゼン化合物とを反応させてフタル酸ジクロリド化合物を生成させる反応は平衡反応であり、その平衡状態に達すると、反応時間を延ばしても未反応の原料はそれ以上減少せず、結果として反応収率ないし目的生成物の純度が上がらない。これに対して、本発明のフタル酸ジクロリド化合物の製造方法においては、上記の触媒を用いることにより、その作用機序は明らかではないが、上記のとおり対象反応が平衡反応であるにもかかわらず目的化合物の純度を高めることができる。
【0017】
上記ジルコニウム化合物および/またはハウニウム化合物からなる触媒の使用量は、上記一般式(1)で表される化合物に対して0.05〜10モル%であることが好ましく、0.1〜1.0モル%であることがより好ましい。この範囲は工業利用に好適に対応しうるものであり、しかも短時間で収率良く反応を完結させることができ好ましい。
【0018】
本発明のフタル酸ジクロリド化合物の製造方法において、上記一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物を反応させるときの反応温度は、120〜200℃であることが好ましく、140〜160℃であることがより好ましい。この反応時間は、反応スケール、反応温度などの条件により変化するが、好ましくは3〜20時間、より好ましくは5〜8時間で反応を完結させることができる。また、この反応温度範囲とすることにより、工業生産に好適な水媒体を熱媒として用いることができ好ましい。本発明において上記の反応は無溶媒で行うことが好ましい。
【0019】
本発明のフタル酸ジクロリド化合物の製造方法によれば、目的の一般式(3)で表される化合物を高純度で得ることができる。例えば、上記目的化合物を別途の精製工程を介さずに純度98%以上で得ることができ、さらには必要により反応条件等を調節して純度99.0〜99.5%にまで引き上げることができる。このようにすることで、従来の製造方法で得た純度95〜97%のものでは困難であったような、極めて高い純度が求められる用途であっても、上記本発明の製造方法で得られた目的化合物をそのまま直接適用することができる。したがって、本発明の製造方法は、分離困難な例えば未反応の無水フタル酸化合物を取り除くための煩雑な精製工程を採用する必要がないという利点を有する。なお、本発明において純度は、特に断らない限り、通常の精留を行い副生成物等を取り除いた後の目的生成物の純度をいい、単に「%」で表すときには「モル%」の意味である。
【0020】
本発明の製造方法において、反応終了後に混在することのある、未反応の一般式(2)で表される化合物、該一般式(2)で表された化合物が反応したのちのトリクロロメチル基がクロロカルボニル基に変化した化合物、及びジルコニウム化合物および/またはハフニウム化合物からなる触媒は分離しやすく、通常の蒸留操作等により目的の一般式(3)で表される化合物から容易に分離することができる。未反応の一般式(1)で表される化合物は残存量が通常微量であり、そのまま精製せずに用いることができるが、必要により蒸留操作等によって分離し、一層目的化合物の純度を高めてもよい。
【実施例】
【0021】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが本発明はこれらに限定するものではない。なお、以下、特に断らない限り「%」は「モル%」の意味である。
【0022】
[実施例1]
2L容の4つ口フラスコに、無水フタル酸 444g(3.0モル)、4−クロロトリクロロメチルベンゼン 690g(3.0モル)、無水塩化ジルコニウム 0.9g(3.8ミリモル、無水フタル酸に対して0.13%)を入れ、160℃に加熱した。この温度を保ちながら反応混合物に4−クロロトリクロロメチルベンゼン 345g(1.5モル)を3時間かけて滴下したのち、さらに3時間攪拌を続けた。
【0023】
上記反応後の液体試料1aをガスクロマトグラフィー(島津社製 GC2014[商品名]、カラム:GLサイエンス社製 INERT CAP5[商品名]を使用した。以下の実施例・比較例において同様である。)により分析した結果、該液体試料1a中に0.82%の無水フタル酸が残っていることがわかった。この反応後の液体試料1aを減圧下で留出させ、1456g(収率:98.6%)の無色液体1bを得た。この無色液体1bの沸点は135〜136℃/10torrであった。この無色液体1bを23段の蒸留塔にて精留したところ、425g(無水フタル酸基準で収率70%)のフタル酸ジクロリドを含む試料1が得られた。試料1の沸点(bp)は120〜122℃/4〜5torrであった(フタル酸ジクロリドの文献値、bp 131〜133℃/9〜10mmHg:Organic Synthesis Coll. VolII,528頁参照)。上記と同様のガスクロマトグラフィーによる分析により、試料1中のフタル酸ジクロリドの純度は99.0%であり、無水フタル酸の残存率は0.88%であった。また、上記液体試料1bから純度99.7%の4−クロロ安息香酸クロリド487g(消費した4−クロロトリクロロメチルベンゼン基準93%収率)を蒸留により得た。
【0024】
[実施例2]
1L容のフラスコを用い実施例1の塩化ジルコニウムの量を0.13%から0.065%に減量する以外、実施例1と同様にして反応を行った。すなわち、無水フタル酸 111g(0.75モル)、4−クロロトリクロロメチルベンゼン 258g(1.13モル)、無水塩化ジルコニウム 0.11g(無水フタル酸に対して0.065%)の混合物を160℃にて22時間攪拌した。この反応後の液体試料2aを実施例1と同様にして蒸留して試料2を得た。この試料2のガスクロマトグラフィーによる分析で無水フタル酸が0.90%残っており、純度98.9%のフタル酸ジクロリドが生成していることを確認した。
【0025】
[実施例3]
無水塩化ジルコニウムの量を0.22g(無水フタル酸に対して0.13%)とし、混合物の加熱温度(反応温度)を140℃にて27時間攪拌した以外、実施例2と同様にして反応を行った。反応後の液体試料3aを実施例1と同様にして蒸留して試料3を得た。この試料3のガスクロマトグラフィーによる分析で無水フタル酸が0.86%残っており、純度99.0%のフタル酸ジクロリドが生成していることを確認した。
【0026】
[実施例4]
無水フタル酸 253g(1.71モル)、トリクロロメチルベンゼン 503g(2.57モル)、無水塩化ジルコニウム 0.50g(無水フタル酸に対して0.13%)の混合物を160℃にて19時間攪拌した。反応後の液体試料4aのガスクロマトグラフィーによる分析の結果、1.95%の無水フタル酸が残存し、95.5%(収率)のフタル酸ジクロリドが生成していることを確認した。副生成物として、トリクロロメチルベンゼンの2量体が1.9%生成していた。このものを精留し、純度98.0%のフタル酸ジクロリドを208g(無水フタル酸基準60%収率)得た。
【0027】
[実施例5]
無水フタル酸 111g(0.75モル)、4−クロロトリクロロメチルベンゼン 258g(1.13モル)、無水塩化ハフニウム 0.22g(無水フタル酸に対して0.09%)の混合物を160℃にて13時間攪拌した。反応後の試料5aを実施例1と同様にして蒸留して試料5を得た。この試料5のガスクロマトグラフィーによる分析で無水フタル酸が0.43%残っており、純度99.5%のフタル酸ジクロリドが生成していることを確認した。
【0028】
[実施例6]
2L容の4つ口フラスコに、3−クロロ無水フタル酸 365g(2.0モル)、4−クロロトリクロロメチルベンゼン 460g(2.0モル)、無水塩化ジルコニウム 1.83g(3−クロロ無水フタル酸に対して0.39%)を入れ、160℃に加熱した。この温度を保ちながら反応混合物に4−クロロトリクロロメチルベンゼン 230g(1.0モル)を3時間かけて滴下したのち、さらに13時間攪拌を続けた。反応後の液体試料6aのガスクロマトグラフィーによる分析で0.65%の3−クロロ無水フタル酸が残っていることがわかった。
この反応後の液体試料6aを減圧下で留出させ、992g(収率:94.6%)の無色液体6bを得た。この無色液体6bの沸点(bp)は153〜155℃/9torrであった。この無色液体6bを23段の蒸留塔にて精留し、290g(3−クロロ無水フタル酸基準で収率61%)の3−クロロフタル酸ジクロリドを含む試料6を得た。試料6の沸点(bp)は134〜138℃/4〜5torrであった(文献値 bp 140℃/8mbar:特許文献5)。ガスクロマトグラフィーによる分析の結果、試料6における3−クロロフタル酸ジクロリドの純度は99.0%であった。また、蒸留により純度99.7%の4-クロロ安息香酸クロリド332g(消費した4−クロロトリクロロメチルベンゼン基準95%収率)を同時に得た。
【0029】
[実施例7]
200mLの4つ口フラスコに、無水フタル酸 59.3g(0.40モル)、4−クロロトリクロロメチルベンゼン 138.0g(0.60モル)、金属ジルコニウム(関東化学株式会社製 スポンジ状)0.052g(0.57ミリモル、無水フタル酸に対して0.14モル%)を入れ、155〜156℃にて18時間攪拌を続けた。反応液のGC分析で0.97%の無水フタル酸が残っており、98.4%のフタル酸ジクロリドが生成していることを確認した。
【0030】
[実施例8]
300mLの4つ口フラスコに、無水フタル酸 187.5g(1.27モル)、4−クロロトリクロロメチルベンゼン 378.4g(1.65モル)を入れ、100℃まで加温した後、オキシ塩化ジルコニウム8水和物 1.30g(4.0ミリモル、無水フタル酸に対して0.32%)を入れ、155℃まで加温した。更に155−156℃に温度を保ちながら、9時間攪拌を続けた。反応液のGC分析で0.74%の無水フタル酸が残っており、98.4%のフタル酸ジクロリドが生成していることを確認した。
【0031】
[実施例9]
300mLの4つ口フラスコに、無水フタル酸 93.8g(0.63モル)、4−クロロトリクロロメチルベンゼン 218.3g(0.95モル)を入れ、100℃まで加温した後、水酸化ジルコニウム 0.32g(2.0ミリモル、無水フタル酸に対して0.32%)を入れ、160℃まで加温した。同温度にて2時間攪拌を続けた後、更に167−168℃に温度を保ちながら、3時間攪拌を続けた。反応液のGC分析で0.82%の無水フタル酸が残っており、98.6%のフタル酸ジクロリドが生成していることを確認した。
【0032】
[実施例10]
300mLの4つ口フラスコに、無水フタル酸 93.8g(0.63モル)、4−クロロトリクロロメチルベンゼン 218.3g(0.95モル)、フタル酸ジクロリド 1.3g(6.4ミリモル、無水フタル酸に対して1モル%)入れ、110℃まで加温した後、水酸化ジルコニウム 0.32g(2.0ミリモル、無水フタル酸に対して0.32%)を入れ、160℃まで加温した。同温度にて4時間攪拌を続けた。反応液のGC分析で0.96%の無水フタル酸が残っており、98.8%のフタル酸ジクロリド(添加したフタル酸ジクロリド量は除く)が生成していることを確認した。
【0033】
[比較例1]
非特許文献1に準じて、無水フタル酸14.8g(0.10モル)と五塩化リン22g(0.106モル)を150℃で16時間反応した。この反応後の試料11aをガスクロマトグラフィーにより分析した結果、フタル酸ジクロリドが88.8%(収率)生成し、無水フタル酸6.8%が残存していた。そのまま実施例1と同様にして試料11aを蒸留し、18.2g(収率89.7%)の純度92.0%のフタル酸ジクロリドの留分を得た。その中には7.6%の無水フタル酸が混入していた。
【0034】
[比較例2]
無水フタル酸 222g(1.50モル)、4−クロロトリクロロメチルベンゼン 517g(2.25モル)、塩化亜鉛 0.44g(無水フタル酸に対して0.22%)の混合物を160℃にて33時間攪拌した。反応後の混合物試料22aを実施例1と同様にして蒸留して試料22を得た。この試料22をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、無水フタル酸が4.3%残り、純度95.5%のフタル酸ジクロリドが生成していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム化合物および/またはハフニウム化合物の存在下、下記一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物とを反応させて、下記一般式(3)で表される化合物を生成させることを特徴とするフタル酸ジクロリド化合物の製造方法。
【化1】

(式中、Xは、ハロゲン原子、ニトロ基、メチル基、またはメトキシ基を表す。該Xが複数あるとき、これらは互いに同じであっても異なっていてもよい。nは0〜2の整数を表す。Rは、ハロゲン原子、クロロカルボニル基、低級アルキル基、またはハロゲン置換低級アルキル基を表す。該Rが複数あるとき、これらは互いに同じであっても異なっていてもよい。mは0〜2の整数を表す。)
【請求項2】
前記ジルコニウム化合物またはハフニウム化合物が塩化ジルコニウムまたは塩化ハフニウムである請求項1に記載のフタル酸ジクロリド化合物の製造方法。
【請求項3】
一般式(1)で表される化合物が無水フタル酸である請求項1または2に記載のフタル酸ジクロリド化合物の製造方法。
【請求項4】
一般式(1)で表される化合物が3−クロロ無水フタル酸又は4−クロロ無水フタル酸である請求項1または2に記載のフタル酸ジクロリド化合物の製造方法。
【請求項5】
一般式(2)で表される化合物が4−クロロトリクロロメチルベンゼンである請求項1〜4のいずれか1項に記載のフタル酸ジクロリド化合物の製造方法。
【請求項6】
ジルコニウム化合物および/またはハフニウム化合物からなる触媒であって、下記一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物とを反応させて、下記一般式(3)で表される化合物を生成させる反応に用いられることを特徴とするフタル酸ジクロリド化合物製造用触媒。
【化2】

(式中、Xは、ハロゲン原子、ニトロ基、メチル基、またはメトキシ基を表す。該Xが複数あるとき、これらは互いに同じであっても異なっていてもよい。nは0〜2の整数を表す。Rは、ハロゲン原子、クロロカルボニル基、低級アルキル基、またはハロゲン置換低級アルキル基を表す。該Rが複数あるとき、これらは互いに同じであっても異なっていてもよい。mは0〜2の整数を表す。)

【公開番号】特開2010−53126(P2010−53126A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175884(P2009−175884)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(393021967)イハラニッケイ化学工業株式会社 (13)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】