説明

フタロシアニン染料の混合物の分別方法

基材上に像を形成するための方法であって、該基材にインクをインクジェット印刷機により施用することを含み、該インクが、液体媒体と、式(1)のフタロシアニン染料およびそれらの塩の混合物の溶液および/または懸濁液をクロスフロー濾過により分別することにより得ることができるフタロシアニン染料画分とを含む、前記方法:式(1)において、Mは2H、銅またはニッケルであり;Pcはフタロシアニン核を表し;RおよびRは、独立して、Hもしくは置換されていてもよいC1−4アルキルであるか;RおよびRは、独立して、Hもしくは置換されていてもよいヒドロカルビルであるか;または、RおよびR、ならびにRおよびRは、独立して、それらが付着している窒素原子と一緒になって、置換されていてもよい脂肪族または芳香族環系を表し;xは0〜3.9であり;yは0〜3.9であり;Zは0.1〜4であり;そして(x+y+z)の合計は2.4〜4.5である。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷法、印刷された基材、インクジェットインクおよびインクジェット印刷機用カートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は、ノズルを基材と接触させることなく、インクの液滴を微細ノズルに通して基材上に噴出させるノンインパクト(non-impact)印刷技術である。高解像度デジタルカメラの出現に伴い、消費者がインクジェット印刷機を用いて写真を印刷することが次第に一般的になっている。これにより、従来のハロゲン化銀写真の費用が回避され、迅速かつ好都合に印刷物が提供される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
インクジェット印刷機は他の印刷形態に対し多くの利点を有するが、取り組むべき技術的課題がなお存在する。例えば、インク着色剤であって、インク媒体に溶解するが、紙に印刷したときに過剰に広がるすなわち滲むことのないものを提供するという、相反する要件がある。インクは、印刷された後にシートがくっつくのを避けるために迅速に乾燥する必要があるが、印刷機に用いられている極めて小さなノズルの上を覆ってクラスト(crust)を形成すべきではない。印刷機に用いられている極めて小さなノズルを詰まらせうる粒子の形成を避けるためには、貯蔵安定性も重要である。さらに、得られる像は、光または一般的な大気中の酸化性ガス、例えばオゾンへの暴露により退色すべきでない。
【0004】
カラーインクジェット印刷では、さまざまな色と色調を、インクジェットカラーセットの異なる成分で選択的に印刷することにより実現する。インクジェットカラーセットは通常、黒色、黄色、マゼンタおよびシアンインクを含む。インクジェット印刷に現在用いられているシアン着色剤はすべて、フタロシアニン染料である。フタロシアニン着色剤は、インクジェット印刷での使用に求められる性質の多くを有する。しかしながら、印刷されると、それらは、大気中の微量の酸化性ガス、例えばオゾンにより引き起こされる長期にわたる退色および変色という難点を有する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
市販のフタロシアニン染料は、フタロシアニン環系上の異なる位置にさまざまなレベルの置換基を持つ非常に多くの異なるフタロシアニン種を含有する複雑な混合物である。われわれは、意外にも、クロスフロー濾過(溶液が濾過膜の表面を横断して流れるようにする濾過方法)を用いてフタロシアニン染料のこれら複雑な混合物を分別すると、向上したオゾン安定性を伴う印刷物を提供するフタロシアニン染料混合物を提供することができることを見いだした。
【0006】
インクジェット印刷で用いるための染料から不純物を除去するためにクロスフロー濾過を用いることは公知である(米国特許第6665095号)。しかしながら、所望の性質を伴う粒子画分を得ることができるようにそれを用いて染料の複雑な混合物を分別することは、新規である。
【0007】
本発明は、基材上に像を形成するための方法であって、該基材にインクをインクジェット印刷機により施用することを含む方法を提供し、ここにおいて、インクは、液体媒体と、式(1)のフタロシアニン染料およびそれらの塩の混合物の溶液、および/または該混合物の懸濁液を、クロスフロー濾過により分別することにより得ることができるフタロシアニン染料画分とを含む
【0008】
【化1】

【0009】
[式中、
Mは2H、銅またはニッケルであり;
Pcはフタロシアニン核を表し;
およびRは、独立して、Hもしくは置換されていてもよいC1−4アルキルであるか;
およびRは、独立して、Hもしくは置換されていてもよいヒドロカルビルであるか;または
およびR、ならびにRおよびRは、独立して、それらが付着している窒素原子と一緒になって、置換されていてもよい脂肪族または芳香族環系を表し;
xは0〜3.9であり;
yは0〜3.9であり;
Zは0.1〜4であり;そして
(x+y+z)の合計は2.4〜4.5である]。
【0010】
本発明の方法において、インクジェット印刷機は、好ましくは、インクを基材に、小さなオリフィスを通って基材上に噴出される液滴の形で施用する。好ましいインクジェット印刷機は、圧電インクジェット印刷機およびサーマルインクジェット印刷機である。サーマルインクジェット印刷機では、プログラム化した熱パルスをオリフィスに隣接する抵抗器によりリザーバー中のインクに施用し、それによりインクを小さな液滴の形で、基材とオリフィスの相対運動中に基材に向けて噴出させる。圧電インクジェット印刷機では、小さな結晶の振動により、オリフィスからインクを噴出させる。あるいは、インクを、例えば国際特許出願WO00/48938および国際特許出願WO00/55089に記載されているように、可動式のパドルまたはプランジャーに接続した電気機械的作動器により噴出させることができる。
【0011】
基材は、好ましくは、紙、プラスチック、生地、金属またはガラス、より好ましくは、紙、オーバーヘッドプロジェクター用スライドまたは生地材料、特に紙である。
好ましい紙は、普通紙か、あるいは処理紙または塗被紙(酸性、アルカリ性もしくは中性特性を有することができる)である。光沢紙が特に好ましい。さらに特に、写真用品質の紙が好ましい。
【0012】
好ましいインクは、
(a)0.01〜10部のフタロシアニン染料画分;および
(b)90〜99.99部の液体媒体
を含む。
【0013】
好ましい液体媒体としては、水、水と有機溶媒の混合物、および水を含まない有機溶媒が挙げられる。
液体媒体が水と有機溶媒の混合物を含む場合、水と有機溶媒の重量比は、好ましくは99:1〜1:99、より好ましくは99:1〜50:50、特に95:5〜80:20である。
【0014】
水と有機溶媒の混合物中に存在する有機溶媒は、水混和性有機溶媒またはそのような溶媒の混合物であることが好ましい。好ましい水混和性有機溶媒としては、C1−6−アルカノール、好ましくは、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、シクロペンタノールおよびシクロヘキサノール;線状アミド、好ましくは、ジメチルホルムアミドまたはジメチルアセトアミド;ケトンおよびケトン−アルコール、好ましくは、アセトン、メチルエーテルケトン、シクロヘキサノンおよびジアセトンアルコール;水混和性エーテル、好ましくは、テトラヒドロフランおよびジオキサン;ジオール、好ましくは、2〜12個の炭素原子を有するジオール、例えば、ペンタン−1,5−ジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコールおよびチオジグリコール、ならびにオリゴ−およびポリ−アルキレングリコール、好ましくはジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコール;トリオール、好ましくはグリセロールおよび1,2,6−ヘキサントリオール;ジオールのモノ−C1−4−アルキルエーテル、好ましくは2〜12個の炭素原子を有するジオールのモノ−C1−4−アルキルエーテル、特に、2−メトキシエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−(2−エトキシエトキシ)−エタノール、2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エタノール、2−[2−(2−エトキシエトキシ)−エトキシ]−エタノールおよびエチレングリコールモノアリルエーテル;環状アミド、好ましくは、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、カプロラクタムおよび1,3−ジメチルイミダゾリドン;環状エステル、好ましくはカプロラクトン;スルホキシド、好ましくはジメチルスルホキシドおよびスルホランが挙げられる。好ましくは、液体媒体は、水と2種以上、特に2〜8種の水混和性有機溶媒を含む。
【0015】
特に好ましい水混和性有機溶媒は、環状アミド、特に2−ピロリドン、N−メチル−ピロリドンおよびN−エチル−ピロリドン;ジオール、特に1,5−ペンタンジオール、エチレングリコール、チオジグリコール、ジエチレングリコールおよびトリエチレングリコール;ならびに、ジオールのモノ−C1−4−アルキルおよびC1−4−アルキルエーテル、より好ましくは、2〜12個の炭素原子を有するジオールのモノ−C1−4−アルキルエーテル、特に、2−メトキシ−2−エトキシ−2−エトキシエタノールである。液体媒体が水と有機溶媒の混合物または水を含まない有機溶媒を含む場合、成分(a)は成分(b)に完全に溶解することが好ましい。
【0016】
液体媒体が、水を含まない有機溶媒(すなわち1重量%未満の水)を含む場合、該溶媒は好ましくは30°〜200℃、より好ましくは40°〜150℃、特に50〜125℃の沸点を有する。有機溶媒は、水不混和性、水混和性またはそのような溶媒の混合物であることができる。好ましい水混和性有機溶媒は、上記水混和性有機溶媒のいずれかおよびその混合物である。好ましい水不混和性溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素;エステル、好ましくは酢酸エチル;塩素化炭化水素、好ましくはCHCl;およびエーテル、好ましくはジエチルエーテル;ならびにそれらの混合物が挙げられる。
【0017】
液体媒体が水不混和性有機溶媒を含む場合、好ましくは極性溶媒が包含される。これは、極性溶媒が液体媒体中での該化合物の溶解度を高めるためである。極性溶媒の例としてはC1−4−アルコールが挙げられる。
【0018】
前述の優先傾向を考慮すると、液体媒体が、水を含まない有機溶媒である場合、それは、ケトン(特にメチルエチルケトン)および/またはアルコール(特にC1−4−アルカノール、さらに特にエタノールまたはプロパノール)を含むことが特に好ましい。
【0019】
水を含まない有機溶媒は、単一の有機溶媒または2種以上の有機溶媒の混合物であることができる。媒体が、水を含まない有機溶媒である場合、それは2〜5種の異なる有機溶媒の混合物であることが好ましい。これにより、インクの乾燥特性および貯蔵安定性に対し良好な制御を与える媒体を選択することが可能になる。
【0020】
水を含まない有機溶媒を含む液体媒体は、迅速な乾燥時間が必要とされる場合、詳細には疎水性で非吸収性の基材、例えば、プラスチック、金属およびガラス上に印刷するときに、とりわけ有用である。
【0021】
液体媒体は、当然ながら、インクジェット印刷用インクに従来用いられている追加的成分、例えば、粘度および表面張力の改質剤;腐敗抑制剤;殺生剤;コゲーション(kogation)を低減させる添加剤;および、イオン性または非イオン性であることができる界面活性剤を、含有することができる。
【0022】
通常は必要ないが、他の着色剤をインクに加えて、色相および性能特性を改質してもよい。そのような着色剤の例としては、C.I.ダイレクトイエロー(Direct Yellow)86、132、142および173;C.I.ダイレクトブルー(Direct Blue)307;C.I.フードブラック(Food Black)2;C.I.ダイレクトブラック(Direct Black)168および195;ならびにC.I.アシッドイエロー(Acid Yellow)23が挙げられる。
【0023】
インクは、高濃度シアンインク、低濃度シアンインクまたは高濃度および低濃度の両方のインクとして、インクジェット印刷機中に組み込むことができる。後者の場合、このことは、印刷された像の解像度および質に改善をもたらすことができる。したがって、本発明はまた、インク中に成分(a)が2.5〜7部、より好ましくは2.5〜5部の量(高濃度インク)で存在するか、または成分(a)が0.5〜2.4部、より好ましくは0.5〜1.5部の量(低濃度インク)で存在する方法を提供する。
【0024】
該インクは、25℃において好ましくは25cP未満、より好ましくは10cP未満、特に5cP未満の粘度を有する。これら低粘性インクは、インクジェット印刷機による基材への施用にとりわけ良好に適する。
【0025】
該インクは、合計で好ましくは500ppm未満、より好ましくは250ppm未満、特に100ppm未満、さらに特に10ppm未満の二価および三価の金属イオン(インクの成分に結合しているあらゆる二価および三価の金属イオン以外のもの)を含有する。
【0026】
該インクは、好ましくは10μm未満、より好ましくは3μm未満、特に2μm未満、さらに特に1μm未満の平均孔径を有するフィルターに通して濾過されている。この濾過により、多くのインクジェット印刷機に見いだされる精密ノズルを通常なら詰まらせうる粒状物質が除去される。
【0027】
該インクは、合計で好ましくは500ppm未満、より好ましくは250ppm未満、特に100ppm未満、さらに特に10ppm未満のハロゲン化物イオンを含有する。
本発明の特に好ましい態様において、該インクは、25℃において25cp未満の粘度を有し;合計で500ppm未満の二価および三価の金属イオン(インクの成分に結合しているあらゆる二価および三価の金属イオン以外のもの)を含有し;500ppm未満のハロゲン化物イオンを含有し;そして、10μm未満の平均孔径を有するフィルターに通して濾過されている。
【0028】
式(1)の化合物中のフタロシアニン核は、式:
【0029】
【化2】

【0030】
の二価のラジカルによって表すことができる。
好ましい一態様において、置換基;x、yおよびzは、β位を介してのみフタロシアニン核に結合する。
【0031】
MはCuまたはNiであることが好ましく、より好ましくは、MはCuである。
およびRは、線状または分枝状アルキルのいずれかであることができる。RおよびRは、独立してHまたはメチルであることが好ましく、より好ましくは、RおよびRは両方ともHである。
【0032】
好ましくは、RおよびRは、独立して、H;置換されていてもよいアルキル、特に、置換されていてもよいC1−4−アルキル;置換されていてもよいアルケニル、特に、置換されていてもよいC1−4−アルケニル;置換されていてもよいアルキニル、特に、置換されていてもよいC1−4−アルキニル;置換されていてもよいアリール、特に、置換されていてもよいフェニルもしくはナフチル;または、置換されていてもよい複素環である。
【0033】
およびRが、置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいアルケニル、または置換されていてもよいアルキニルである場合、それらは、独立して、線状、分枝状または環状であることができる。
【0034】
は、好ましくはHまたはメチル、より好ましくはHである。
したがって、R、RおよびRは、すべてHであってもよい。
は、置換されていてもよいアルキル、特に、置換されていてもよいC1−4−アルキル;置換されていてもよいアリール、特に、置換されていてもよいフェニル、または置換されていてもよい複素環であることが好ましい。
【0035】
およびR、ならびに、RおよびRが、それらが付着している窒素原子と一緒になって、置換されていてもよい脂肪族または芳香族環系を表す場合、それらは、独立して、置換されていてもよい単環式、二環式もしくは三環式脂肪族または芳香族環を含むことが好ましい。より好ましくは、RおよびR、ならびに、RおよびRは、それらが付着している窒素原子と一緒になって、独立して、置換されていてもよい3〜8員脂肪族または芳香族環である。RおよびR、ならびに、RおよびRが、それらが付着している窒素原子と一緒になって、独立して、置換されていてもよい5員または6員脂肪族または芳香族環であることが、特に好ましい。RおよびR、ならびにRおよびRが、それらが付着している窒素原子と一緒になって形成する、置換されていてもよい芳香族または脂肪族環は、独立して、少なくとも1個のヘテロ原子をさらに含むことができる。好ましい環系の例としては、イミダゾール、ピラゾール、ピロール、ベンゾイミダゾール、インドール、テトラヒドロ(イソ)キノリン、デカヒドロ(イソ)キノリン、ピロリジン、ピロリン、イミダゾリジン、イミダゾリン、ピラゾリジン、ピラゾリン、ピペリジン、ピペラジン、インドリン、イソインドリン、チアゾリジン、およびモルホリンが挙げられる。
【0036】
、R、RおよびR上に存在することができる好ましい置換されていてもよい置換基は、独立して、置換されていてもよいアルコキシ(好ましくはC1−4−アルコキシ)、置換されていてもよいアリール(好ましくはフェニル)、置換されていてもよいアリールオキシ(好ましくはフェノキシ)、および置換されていてもよい複素環式化合物、ならびに、ポリアルキレンオキシド(好ましくはポリエチレンオキシドまたはポリプロピレンオキシド)、カルボキシ、ホスファト、スルホ、ニトロ、シアノ、ハロ、ウレイド、−SOF、ヒドロキシ、エステル、−NR、−COR、−CONR、−NHCOR、カルボキシエステル、スルホン、および−SONR[式中、RおよびRは、それぞれ独立して、Hまたは置換されていてもよいアルキル(特にC1−4−アルキル)である]から選択される。R、R、RおよびRについて記載した置換基のいずれかの所望による置換基は、同じ置換基のリストから選択してもよい。
【0037】
式(1)の化合物において、(x+y+z)の合計は3.5〜4.5であることが好ましく、より好ましくは(x+y+z)の合計は3.8〜4.2であり、特に(x+y+z)の合計は4.0である。
【0038】
式(1)の化合物中のx、yおよびzの値はすべて、式(1)の化合物が複雑な混合物であるという事実を反映して、統計的平均値を表す。
好ましい一態様において、R、RおよびRはすべてHであり、Rはヒドロキシエチルである。
【0039】
他の好ましい態様において、RはHであり、Rはカルボキシフェニルであり、yは0である。
第三の好ましい態様において、RおよびRはともにHであり、yは0である。
【0040】
式(1)の化合物は、スルホニルクロリド基および所望によりスルホン酸基を持つフタロシアニン、好ましくは銅フタロシアニンまたはニッケルフタロシアニンを、式HNRおよびHNRの化合物[式中、R、R、RおよびRは、先に定義したとおりである]と縮合させることにより、調製することができる。縮合は、7を超えるpHの水中で実施することが好ましい。典型的には、縮合を30〜70℃の温度で実施し、縮合は通常24時間未満で完了する。式HNRおよびHNRの化合物は、混合物として用いるか、前記フタロシアニン化合物と逐次的に縮合させることができる。式HNRおよびHNRの多くの化合物は市販されており、例えば、アンモニア、エタノールアミンおよびモルホリンである。その他のものは、当業者なら容易に調製することができる。
【0041】
スルホニルクロリド基および所望によりスルホン酸基を持つ銅フタロシアニンならびにニッケルフタロシアニンは、銅フタロシアニンまたはニッケルフタロシアニンを、例えばクロロスルホン酸および所望により塩素化剤(例えば、POCl、PClまたはチオニルクロリド)を用いてクロロスルホン化することにより、調製することができる。
【0042】
置換基がフタロシアニン核にβ位を介してのみ結合している場合、式(1)のフタロシアニン染料は、適切なβ−スルホ置換のフタル酸、フタロニトリル、イミノイソインドリン、無水フタル酸、フタルイミドまたはフタルアミドを、所望により適切な金属塩、例えばCuCl存在下で環化し、続いて塩素化した後、上記のようにアミノ化/アミド化することにより調製する。
【0043】
スルホおよびスルホンアミド置換基がフタロシアニン環上のβ位に付着している式(1)のフタロシアニン染料は、CuClのような適切な銅塩の存在下で4−スルホフタル酸を環化してフタロシアニンβ−テトラスルホン酸を与えることにより調製し、続いてこれを塩素化し、上記のようにアミノ化/アミド化することができる。
【0044】
式(1)の化合物はまた、繊維反応性基を含まないことが好ましい。繊維反応性基という用語は当分野で周知であり、例えばEP0356014 A1に記載されている。繊維反応性基は、適切な条件下で、セルロース系繊維中に存在するヒドロキシル基または天然繊維中に存在するアミノ基と反応して、繊維と染料との間に共有結合的連結を形成することができる。
【0045】
式(1)の化合物上の酸または塩基性基、とりわけ酸基は、塩の形にあることが好ましい。したがって、本明細書中で示す式は、塩の形にある化合物を包含する。
好ましい塩は、アルカリ金属塩、特に、リチウム、ナトリウムおよびカリウム;アンモニウムおよび置換アンモニウム塩((CHのような第四級アミンを含む);ならびに、それらの混合物である。特に、ナトリウム、リチウム、アンモニアおよび揮発性アミンを伴う塩、さらに特にナトリウム塩が好ましい。式(1)の化合物を、公知の技術を用いて塩に転化してもよい。
【0046】
式(1)の化合物は、本明細書中に示すもの以外の互変異性体の形で存在することができる。これらの互変異性体は、本発明の範囲内に含まれる。
フタロシアニン染料混合物は、あらゆる液体媒体中に溶解/懸濁していることができる。フタロシアニン染料混合物は、水を含む媒体中に実質的に溶解していることが好ましい。一態様において、フタロシアニン染料混合物は、上記のようなインク媒体中に実質的に溶解している。
【0047】
本フタロシアニン染料混合物を分別するために、あらゆる適切なクロスフロー濾過装置を用いることができる。
本発明の方法に用いられるクロスフロー濾過膜は、クロスフロー濾過での使用に適したあらゆる膜であることができる。膜を構成することができる材料としては、多孔質ポリマー材料、多孔質金属および多孔質セラミックが挙げられる。ポリスルホンなどのポリマー材料から作成された膜は、本発明にとりわけ有効である。
【0048】
限外濾過膜または微細濾過膜のいずれかを用いることができる。しかしながら、本発明の方法において、クロスフロー濾過膜は限外濾過膜であることが好ましい。
本発明の方法に用いられる限外濾過膜の孔径は、5000〜500000ダルトンの範囲に公称の分子量カットオフ値を有することが好ましい。より好ましくは、該膜は、10000〜200000ダルトンの範囲に公称の分子量カットオフ値を有する。該膜が、20000〜100000ダルトンの範囲に公称の分子量カットオフ値を有することが、特に好ましい。
【0049】
用いられる膜および条件ならびにフタロシアニン染料の混合物の性質に応じて、所望のフタロシアニン画分は、濾過濃縮物または浸透物のいずれかの中にあることができる。所望のフタロシアニン画分は、濃縮物の中にあることが好ましい。
【0050】
クロスフロー濾過では異なる孔径を伴ういくつかの膜を利用することができ、溶液を濾過工程中に再循環させてもよい。追加的な溶媒、特に水を濾過工程中に加えて、流れ(flow stream)から失われた浸透物と置き換えることができ、この方法は透析濾過としても知られる。
【0051】
用いられる濾過装置により、一連の2枚以上の好ましくは異なる膜に通すクロスフロー濾過が可能になることが好ましい。この場合、フタロシアニン染料混合物を最初に低い公称の分子量カットオフ値の膜に通した後、濃縮物を、次第に増大していく公称の分子量カットオフ値の膜に通すことが好ましい。
【0052】
クロスフロー濾過膜の表面の機械的振動を用いると、流れている媒体の効果を高めることができる。
本発明の方法は、懸濁液に大気圧を超える圧力を加えて操作することができ、好ましい圧力は1〜10bar、より好ましくは1〜3barの範囲にある。
【0053】
膜の表面を横断する溶液の流速は、用いられる濾過系の構成および膜の性質に依存する。平坦なシートの形でポリスルホン膜が用いられている実験室規模の装置では、毎分2リットルを超えるクロスフロー速度が有効であることが見いだされている。毎分5リットルを超える、特に毎分10リットルを超える、より速い初期クロスフロー速度は、より大規模の設備で有用であることが見いだされている。
【0054】
本発明のクロスフロー濾過法での使用に適している設備は、例えばAlfa LavalまたはArmfield Ltdから購入することができる。
本発明の第2の観点は、本発明の第1の観点に従った方法により得ることができる印刷された基材、好ましくは紙、プラスチック、生地、金属またはガラスを提供する。より好ましくは、印刷された基材は紙を含む。好ましい紙は、普通紙か、あるいは、酸性、アルカリ性もしくは中性特性を有することができる処理紙または塗被紙である。光沢紙が特に好ましい。さらに特に、写真用品質の紙が好ましい。
【0055】
本発明の第2の観点は写真用品質の印刷物であることが、特に好ましい。
本発明の第3の観点は、インクジェット印刷用インクであって、
(i)式(1)のフタロシアニン染料およびそれらの塩の混合物の溶液および/または懸濁液をクロスフロー濾過により分別することにより得ることができるフタロシアニン染料画分:
【0056】
【化3】

【0057】
[式中、
Mは2H、銅またはニッケルであり;
Pcはフタロシアニン核を表し;
およびRは、独立して、Hもしくは置換されていてもよいC1−4アルキルであるか;
およびRは、独立して、Hもしくは置換されていてもよいヒドロカルビルであるか;または
およびR、ならびにRおよびRは、独立して、それらが付着している窒素原子と一緒になって、置換されていてもよい脂肪族または芳香族環系を表し;
xは0〜3.9であり;
yは0〜3.9であり;
Zは0.1〜4であり;そして
(x+y+z)の合計は4である];ならびに
(ii)液体媒体
を含む前記インクを提供し、ここにおいて、該インクは、25℃において20cp未満の粘度を有し;合計で500ppm未満の二価および三価の金属イオン(インクの成分に結合しているあらゆる二価および三価の金属イオン以外のもの)を含有し;500ppm未満のハロゲン化物イオンを含有し;そして、10μm未満の平均孔径を有するフィルターに通して濾過されている。
【0058】
フタロシアニン染料および液体媒体は、本発明の第1の観点に記載され、該観点において好ましいものである。
本発明の第4の観点は、チャンバーとインクを含むインクジェット印刷機用カートリッジであって、該インクがチャンバー内にあり、そして該インクが本発明の第1または第3の観点で定義されたとおりである、前記インクジェット印刷機用カートリッジを提供する。該カートリッジは、上記のように、高濃度のインクと低濃度のインクを異なるチャンバー内に含有することが好ましい。
【実施例】
【0059】
本発明をさらに以下の実施例により例示する。ここにおいて、すべての部およびパーセンテージは、特記しない限り重量基準である。
実施例1
限外濾過は、Danish Separation Systems AS社の「プレート・アンド・フレーム」と呼ばれる膜ユニット(Model DDS Lab Unit M20)をポリスルホン膜またはポリエーテルスルホン膜と一緒に用いて実施した。膜はそれらの公称の分子量カットオフ値(MWCO)により特徴付けられており、Alfa Lavel Ltdから入手した。用いた膜の詳細を表1に挙げる。
【0060】
【表1】

【0061】
染料1
【0062】
【化4】

【0063】
染料1を、国際特許出願WO99/67334の実施例1に記載されているような方法を用いて得た。合成後、分析は、xが1.8であり、(y+z)が1.6であることを示した。
染料1の分別
染料1の溶液(10リットルの水中173g)を20000ダルトンMWCOの膜に通し、浸透流中に染料が存在しなくなるまで再循環させ、染料溶液の体積が実質的に一定になるように、工程の全体をとおして水を加えた。その後、得られた濃縮物を50000ダルトンMWCOの膜に通し、浸透流中に染料が存在しなくなるまで、再循環させ、水の添加により実質的に一定の体積を維持した。その後、50000ダルトンMWCOの膜からの濃縮物を、100000ダルトンMWCOの膜に通し、上記のように、浸透流中に染料が現れなくなるまで、再循環させ、実質的に一定の体積を維持した。用いた条件を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
インクの調製
クロスフロー濾過前の染料1(比較インク1)ならびに50000ダルトンのフィルター(インク1)および100000ダルトンのフィルター(インク2)からの染料1の最終濃縮物を、3gの染料を、
チオジグリコール 5%
2−ピロリドン 5%
Surfynol(商標)465 1%
水 89% (すべて重量%)
を含む液体媒体に溶解し、インクのpHを水酸化ナトリウムでpH8に調整することにより、インクに変換した。
【0066】
調製したままのこの組成物のインクは、1〜3cPの粘度を有し、合計で500ppm未満の二価および三価の金属イオン(インクの成分に結合しているあらゆる二価および三価の金属イオン以外のもの)を含有し、500ppm未満のハロゲン化物イオンを含有すると考えられる。
【0067】
Surfynol(商標)465は、Air Products Ltdからの界面活性剤である。
インクジェット印刷
インク1および2ならびに比較インク1を0.45ミクロンのナイロン製フィルターに通して濾過した後、シリンジを用いて空の印刷用カートリッジ中に組み込んだ。
【0068】
その後、インクを、EPSON Premium Glossy Photo紙(“SEC PM”)およびCanon Premium PR101(“PR101”)上に印刷した。100%で得られた印刷物を、Hampden 903 Ozone Cabinet内で40℃、相対湿度50%で1ppmのオゾンに24時間暴露することにより、耐オゾン堅牢度について試験した。
【0069】
印刷された像の耐オゾン堅牢度を反射光学濃度の損失%の観点で表す。ここにおいて、反射光学濃度の損失%が低いほど耐オゾン堅牢度は高く、退色の程度も同様である。退色の程度はΔEとして表し、数字が小さいほど高い耐オゾン堅牢度を示す。ΔEは、印刷物のCIE色座標L、a、bにおける全体的変化として定義され、方程式ΔE=(ΔL+Δa+Δb0.5により表される。
【0070】
【表3】

【0071】
表3は、本発明の方法により、改善されたオゾンに対する安定性を有する印刷物が得られることを示している。
実施例2
染料2
【0072】
【化5】

【0073】
染料2を、国際特許出願WO99/67334の実施例1に記載されているような方法を用いて得た。合成後、分析は、xが1.8であり、(y+z)が1.8であることを示した。
染料2の分別
染料2を、DDS M20濾過ユニットを用いて濾過した。染料の溶液(1.7%)を、実施例1に記載したように、50000ダルトンおよび100000ダルトンMWCOの膜に連続して通した。用いた条件を表4に示す。
【0074】
【表4】

【0075】
インクの調製
濾過前の染料2(比較インク2)および50000ダルトンのフィルターからの染料2の最終濃縮物(インク3)を、実施例1に記載したようにインクに変換した。
インクジェット印刷
インク3および比較インク2を印刷し、ΔEおよび反射光学濃度の損失%を実施例1に記載したように測定した。結果を表5に示す。インク3のインクジェット印刷から得られた印刷物は、比較インク2で得られた印刷物に比べ、オゾンに対する安定度が著しく高いことが明らかである。
【0076】
【表5】

【0077】
実施例3
染料3
染料3は、WO03/078529に従って調製されたC.I.ダイレクトブルー199の形であった
【0078】
【化6】

【0079】
[式中、xは1.3であり、yは2.3である]。
染料3の分別
染料3を、DDS M20濾過ユニットを用いて濾過した。染料の溶液(1.7%)を、実施例1に記載したように、50000ダルトンおよび100000ダルトンMWCOの膜に連続して通した。用いた条件を表6に示す。
【0080】
【表6】

【0081】
インクの調製
濾過前の染料3(比較インク3)および50000ダルトンのフィルターからの染料3濃縮物(インク4)を、実施例1に記載したようにインクに変換した。
インクジェット印刷
インク4および比較インク3を印刷し、ΔEおよび反射光学濃度の損失%を実施例1に記載したように測定した。結果を表7に示す。インク4から得られた印刷物は、比較インク3で得られた印刷物に比べ、オゾンに対する安定度が著しく高いことが明らかである。
【0082】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に像を形成するための方法であって、該基材にインクをインクジェット印刷機により施用することを含み、該インクが、液体媒体と、式(1)のフタロシアニン染料およびそれらの塩の混合物の溶液、および/または該混合物の懸濁液を、クロスフロー濾過により分別することにより得ることができるフタロシアニン染料画分とを含む、前記方法
【化1】

[式中、
Mは2つのH、銅またはニッケルであり;
Pcはフタロシアニン核を表し;
およびRは、独立して、Hもしくは置換されていてもよいC1−4アルキルであるか;
およびRは、独立して、Hもしくは置換されていてもよいヒドロカルビルであるか;または
およびR、ならびにRおよびRは、独立して、それらが結合している窒素原子と一緒になって、置換されていてもよい脂肪族または芳香族環系を表し;
xは0〜3.9であり;
yは0〜3.9であり;
Zは0.1〜4であり;そして
(x+y+z)の合計は2.4〜4.5である]。
【請求項2】
基材が紙である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
基材が写真用品質の紙である、請求項1または請求項2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
インクが、25℃において20cp未満の粘度を有し;合計で500ppm未満の二価および三価の金属イオン(インクの成分に結合しているあらゆる二価および三価の金属イオン以外のもの)を含有し;500ppm未満のハロゲン化物イオンを含有し;そして、10μm未満の平均孔径を有するフィルターに通して濾過されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
式(1)のフタロシアニン染料の混合物においてMがCuである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
式(1)のフタロシアニン染料の混合物において、R、RおよびRがすべてHであり、Rがヒドロキシエチルである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
式(1)のフタロシアニン染料の混合物において、RがHであり、Rがカルボキシフェニルであり、yが0である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
式(1)のフタロシアニン染料の混合物において、RおよびRがともにHであり、yが0である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
クロスフロー濾過膜が限外濾過膜である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
限外濾過膜が、5000〜500000の範囲に公称の分子量カットオフ値を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
限外濾過膜が、20000〜100000の範囲に公称の分子量カットオフ値を有する、請求項9または請求項10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
クロスフロー濾過が、一連の2枚以上の膜に通すものである、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法により得ることができる印刷された基材。
【請求項14】
紙を含む、請求項13に記載の印刷された基材。
【請求項15】
写真用品質の印刷物である、請求項13または請求項14のいずれかに記載の印刷された基材。
【請求項16】
インクジェット印刷用インクであって、
(i)式(1)のフタロシアニン染料およびそれらの塩の混合物の溶液および/または懸濁液をクロスフロー濾過により分別することにより得ることができるフタロシアニン染料画分:
【化2】

[式中、
Mは2H、銅またはニッケルであり;
Pcはフタロシアニン核を表し;
およびRは、独立して、Hもしくは置換されていてもよいC1−4アルキルであるか;
およびRは、独立して、Hもしくは置換されていてもよいヒドロカルビルであるか;または
およびR、ならびにRおよびRは、独立して、それらが付着している窒素原子と一緒になって、置換されていてもよい脂肪族または芳香族環系を表し;
xは0〜3.9であり;
yは0〜3.9であり;
Zは0.1〜4であり;そして
(x+y+z)の合計は4である];ならびに
(ii)液体媒体
を含む前記インク、ここにおいて、該インクは、25℃において20cp未満の粘度を有し;合計で500ppm未満の二価および三価の金属イオン(インクの成分に結合しているあらゆる二価および三価の金属イオン以外のもの)を含有し;500ppm未満のハロゲン化物イオンを含有し;そして、10μm未満の平均孔径を有するフィルターに通して濾過されている。
【請求項17】
チャンバーとインクを含むインクジェット印刷機用カートリッジであって、該インクがチャンバー内にあり、そして該インクが請求項16で定義されたとおりである、前記インクジェット印刷機用カートリッジ。

【公表番号】特表2007−522279(P2007−522279A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−550268(P2006−550268)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【国際出願番号】PCT/GB2004/004950
【国際公開番号】WO2005/071025
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(506139635)フジフィルム・イメイジング・カラランツ・リミテッド (75)
【Fターム(参考)】