説明

フッ素含有芳香族系重合体含有組成物

【課題】低吸水性、絶縁性、耐熱性及び基材への密着性に優れるだけでなく、耐溶剤性にも優れるフッ素含有芳香族系重合体含有組成物を提供する。
【解決手段】特定の構造のフッ素化芳香族化合物由来の構成単位と不飽和炭化水素基を少なくとも1つ有するビスフェノール化合物由来の構成単位とを含むフッ素含有芳香族系重合体と、エポキシ化合物及び/又はビニル化合物とを含むことを特徴とするフッ素含有芳香族系重合体含有組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有芳香族系重合体含有組成物に関する。より詳しくは、電子材料分野等の用途に用いられるフッ素含有芳香族系重合体含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素含有芳香族系重合体は、フッ素を含有していることに起因して吸水性が低く、また耐熱性等の特性に優れるものであることから、各種フィルム、燃料電池用電解質膜やエンジニアリングプラスチック等の原料として幅広い産業分野において利用されている。各種工業用材料の高機能化、高性能化の要求に伴い、近年、様々な産業分野において、これらフッ素含有芳香族系重合体等の含フッ素化合物が注目されているが、更に幅広い分野へ利用が拡大するためには、耐熱性や低吸湿性に加え、各種分野毎に要求される特性をも備えたものを開発することが求められており、これらの要求に応えるべく、フッ素含有芳香族系重合体と他の成分とを組み合わせた組成物についても検討されている。
【0003】
従来のフッ素含有芳香族系重合体を含む組成物としては、フッ素化ポリエーテルニトリルおよび/またはフッ素化ポリエーテルケトンとエポキシ樹脂および/またはフェノール樹脂とを特定の割合で配合したフッ素化合物含有樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、フッ素含有芳香族系重合体、エポキシ化合物及び開始剤を含んでなるフッ素含有芳香族系重合体含有組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−183495号公報
【特許文献2】特開2006−328385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、フッ素含有芳香族系重合体と他の樹脂とを組合せた樹脂組成物が開示されている。これらの樹脂組成物は、溶剤に溶解した樹脂組成物を塗布することで樹脂組成物の膜を容易に形成することができるものであり、得られる膜は、耐熱性、及び、基材への密着性に優れるものであるが、更に耐溶剤性にも優れたものとする工夫の余地があった。低吸水性であり、絶縁性の高いフッ素含有芳香族系重合体を含み、耐熱性、及び、基材への密着性に優れた樹脂組成物を更に耐溶剤性に優れたものとすることができれば、膜の積層が可能となり、絶縁膜用途への応用が期待できることになるため、そのような特性を有するフッ素含有芳香族系重合体含有組成物が求められている。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、低吸水性、絶縁性、耐熱性及び基材への密着性に優れるだけでなく、耐溶剤性にも優れるフッ素含有芳香族系重合体含有組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、低吸水性、絶縁性、耐熱性及び基材への密着性に加え、更に耐溶剤性にも優れるフッ素含有芳香族系重合体含有組成物について種々検討したところ、不飽和炭化水素基を有するビスフェノール化合物由来の構造と特定のフッ素含有芳香族系化合物由来の構造とを重合体の主鎖骨格に有するフッ素含有芳香族系重合体と、エポキシ化合物及び/又はビニル化合物とを含む樹脂組成物とすると、得られた樹脂組成物が、各種溶剤への溶解性に優れて塗膜を容易に形成することができること、更に、得られた塗膜を架橋させることで耐熱性、基材への密着性に加え、耐溶剤性にも優れた塗膜が得られることを見いだした。更にこの樹脂組成物から得られた塗膜は、200℃程度の温度でも架橋し、架橋膜の形成しやすさの点でも優れたものであることも見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、下記一般式(1);
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Rは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、アルコキシ基、若しくは、アルキルアミノ基、又は、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、アリールアミノ基、若しくは、アリールチオ基を表す。R及びRは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基又は水素原子を表し、ベンゼン環に付加するR及びRは、それぞれ1つであってもよく複数であってもよい。ベンゼン環に付加するR及びRの少なくとも1つは、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基である。Xは、下記(3−1)〜(3−10)の官能基のいずれかである。)で表される繰り返し単位及び/又は下記一般式(2);
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、Xは、下記(3−1)〜(3−10)の官能基のいずれかである。Yは2価の有機基又は直接結合を表す。R及びRは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基又は水素原子を表し、ベンゼン環に付加するR及びRは、それぞれ1つであってもよく複数であってもよい。ベンゼン環に付加するR及びRの少なくとも1つは、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基である。m及びm’は、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、0〜4の整数であり、m+m’は1以上である。)で表される繰り返し単位を有するフッ素含有芳香族系重合体と、エポキシ化合物及び/又はビニル化合物とを含むことを特徴とするフッ素含有芳香族系重合体含有組成物
【0013】
【化3】

【0014】
である。
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0015】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物は、下記一般式(1);
【0016】
【化4】

【0017】
(式中、Rは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、アルコキシ基、若しくは、アルキルアミノ基、又は、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、アリールアミノ基、若しくは、アリールチオ基を表す。R及びRは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基又は水素原子を表し、ベンゼン環に付加するR及びRは、それぞれ1つであってもよく複数であってもよい。ベンゼン環に付加するR及びRの少なくとも1つは、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基である。Xは、下記(3−1)〜(3−10)の官能基のいずれかである。)で表される繰り返し単位及び/又は下記一般式(2);
【0018】
【化5】

【0019】
(式中、Xは、下記(3−1)〜(3−10)の官能基のいずれかである。Yは2価の有機基又は直接結合を表す。R及びRは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基又は水素原子を表し、ベンゼン環に付加するR及びRは、それぞれ1つであってもよく複数であってもよい。ベンゼン環に付加するR及びRの少なくとも1つは、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基である。m及びm’は、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、0〜4の整数であり、m+m’は1以上である。)で表される繰り返し単位を有するフッ素含有芳香族系重合体
【0020】
【化6】

【0021】
と、エポキシ化合物及び/又はビニル化合物とを含むものであるが、これらフッ素含有芳香族系重合体、エポキシ化合物及び/又はビニル化合物は、それぞれ1種を含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
また、本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物は、これらフッ素含有芳香族系重合体、エポキシ化合物及び/又はビニル化合物を含む限り、その他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分の含有量は、フッ素含有芳香族系重合体含有組成物全体100質量%に対して0〜25質量%であることが好ましい。より好ましくは、0〜10質量%である。
【0022】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物は、フッ素含有芳香族系重合体、及び、エポキシ化合物及び/又はビニル化合物を含んでなるものであり、これらの配合割合は、組成物の用途等により適宜選択されることになるが、フッ素含有芳香族系重合体とエポキシ化合物及び/又はビニル化合物との質量割合(フッ素含有芳香族系重合体)/(エポキシ化合物及び/又はビニル化合物)は、10/90〜90/10であることが好ましい。より好ましくは、20/80〜80/20である。フッ素含有芳香族系重合体とエポキシ化合物及び/又はビニル化合物との何れか一方の質量割合が10%以上であると、夫々の成分の硬化が十分に進行し、耐溶剤性を発現するものとなる。
なお、上記割合において、エポキシ化合物及び/又はビニル化合物の質量割合は、フッ素含有芳香族系重合体含有組成物がエポキシ化合物又はビニル化合物のいずれか一方のみを含む場合は、当該組成物に含まれるエポキシ化合物又はビニル化合物の質量割合を表し、フッ素含有芳香族系重合体含有組成物がエポキシ化合物とビニル化合物との両方を含む場合には、当該組成物に含まれるエポキシ化合物とビニル化合物との合計の質量割合を表す。
【0023】
上記フッ素含有芳香族系重合体は、上記一般式(1)で表される繰り返し単位及び一般式(2)で表される繰り返し単位の少なくとも一方を有するものであり、これらの両方を有するものであってもよい。また、一般式(1)で表される繰り返し単位や一般式(2)で表される繰り返し単位に該当する繰り返し単位を1種有していてもよく、2種以上有していてもよい。
また上記フッ素含有芳香族系重合体は、上記一般式(1)で表される繰り返し単位及び/又は一般式(2)で表される繰り返し単位を有する限り、その他の繰り返し単位を有していてもよい。上記フッ素含有芳香族系重合体が2種類以上の繰り返し単位により構成されるものである場合、ブロック状、ランダム状等のいずれの形態であってもよい。
上記フッ素含有芳香族系重合体が一般式(1)で表される繰り返し単位及び一般式(2)繰り返し単位以外の、その他の繰り返し単位を有するものである場合、フッ素含有芳香族系重合体を構成する繰り返し単位全体100モル%に対して、一般式(1)で表される繰り返し単位及び一般式(2)繰り返し単位の合計が30〜100モル%であることが好ましい。より好ましくは、50〜100モル%であり、更に好ましくは、70〜100モル%である。
【0024】
上記一般式(1)で表される繰り返し単位、及び、上記一般式(2)で表される繰り返し単位は、ともに、フッ素化芳香族化合物由来の構成単位と不飽和炭化水素基を少なくとも1つ有するビスフェノール化合物由来の構成単位とを含むものである。このような繰り返し単位を有するフッ素含有芳香族系重合体は、フッ素化芳香族化合物由来の構成単位を有することに起因して低吸水性、絶縁性に優れるものである。また、このフッ素含有芳香族系重合体は、溶剤溶解性に優れ、溶剤に溶解した溶液を塗布することにより容易に塗膜を形成することができるものである。そして、このような構造の重合体において、ビスフェノール化合物由来の構成単位に付加した不飽和炭化水素基で架橋構造を形成することで得られる架橋体の塗膜は、耐溶剤性に優れたものであるだけでなく柔軟性も有し、基材への密着性にも優れたものである。
なお、本発明において、ビスフェノール化合物とは、2つのフェノールが2価の連結基を介して結合した構造を有する化合物を意味する。
【0025】
上記一般式(1)で表される繰り返し単位は、フッ素化ベンゾニトリル由来の構成単位とビスフェノール化合物由来の構成単位とから構成される繰り返し単位である。ビスフェノール化合物由来の構成単位において、R及びRは、ベンゼン環にそれぞれ1〜4つ付加している。また、R及びRのうち少なくとも1つは置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基である。すなわち、ビスフェノール化合物由来の構成単位に含まれる2つのベンゼン環のうち少なくとも一方に、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基が少なくとも1つ付加している限り、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基が2つ以上付加していてもよく、2つ以上付加している場合には、同じベンゼン環に付加していてもよく、異なるベンゼン環に付加していてもよい。
これらの中でも、R及びRのそれぞれの少なくとも1つが置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基であること、すなわち、ビスフェノール化合物由来の構成単位に含まれる2つのベンゼン環の両方に置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基が少なくとも1つずつ付加した構造が好ましい。より好ましくは、2つのベンゼン環の両方に置換基を有していてもよい炭素2〜7の不飽和炭化水素基が1つずつ付加した構造である。
上記一般式(1)で表される繰り返し単位において、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基が付加する位置は特に制限されないが、ベンゼン環を構成する炭素原子のうち、酸素と結合した炭素原子に対してオルト位の炭素に付加していることが好ましい。
【0026】
上記一般式(1)、一般式(2)で表される繰り返し単位において、R及びRは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基又は水素原子を表すが、不飽和炭化水素基は、炭素数2〜4のものが好ましい。
また不飽和炭化水素基としては、ビニル基、アルケニル基、アルキニル基等が好ましい。より好ましくは、アルケニル基である。
すなわち、R、Rの少なくとも1つは、置換基を有していてもよい炭素数2〜4のアルケニル基であることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0027】
上記アルケニル基としては、アリル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、2−メチル−1−プロペニル基、2−メチル−2−プロペニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基、1−メチル−1−ブテニル基、1−メチル−2−ブテニル基、1−メチル−3−ブテニル基、2−メチル−1−ブテニル基、2−メチル−2−ブテニル基、2−メチル−3−ブテニル基、3−メチル−1−ブテニル基、3−メチル−2−ブテニル基、3−メチル−3−ブテニル基、1−エチル−1−プロペニル基、1−エチル−2−プロペニル基、2−エチル−1−プロペニル基、2−エチル−2−プロペニル基が好ましい。これらの中でも、アリル基、2−メチル−2−プロペニル基がより好ましい。最も好ましくは、アリル基である。
【0028】
上記一般式(1)、一般式(2)で表される繰り返し単位において、Xは、上記式(3−1)〜(3−10)で表される官能基のいずれかであるが、その中でも(3−1)、(3−2)、(3−5)、(3−9)のいずれかが好ましい。より好ましくは、(3−1)、(3−2)である。
【0029】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物が含むフッ素含有芳香族系重合体の好ましい構造の一例を具体的に現すと、下記一般式(4);
【0030】
【化7】

【0031】
(式中、Rは、上記一般式(1)と同様である。)で表される繰り返し単位及び/又は下記一般式(5);
【0032】
【化8】

【0033】
(式中、Y、m及びm’は、上記一般式(2)と同様である。)で表される繰り返し単位を有するフッ素含有芳香族系重合体である。
【0034】
上記一般式(1)、一般式(4)で表される繰り返し単位において、Rは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、アルコキシ基、若しくは、アルキルアミノ基、又は、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、アリールアミノ基、若しくは、アリールチオ基を表す。
上記炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、2−エチルヘキシル基等が好適である。
上記炭素数1〜12のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ドデシルオキシ基、フルフリルオキシ基、アリルオキシ基等が好適である。
上記炭素数1〜12のアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、プロピルアミノ基、n−ブチルアミノ基、sec−ブチルアミノ基、tert−ブチルアミノ基等が好適である。
【0035】
上記炭素原子数6〜20のアリールオキシ基としては、フェノキシ基、ベンジルオキシ基、ヒドロキシ安息香酸及びそのエステル類(例えば、メチルエステル、エチルエステル、メトキシエチルエステル、エトキシエチルエステル、フルフリルエステル及びフェニルエステル等)由来の基、ナフトキシ基、o−、m−又はp−メチルフェノキシ基、o−、m−又はp−フェニルフェノキシ基、フェニルエチニルフェノキシ基、クレソチン酸及びそのエステル類由来の基等が好適である。
上記炭素原子数6〜20のアリールアミノ基としては、アニリノ基、o−、m−又はp−トルイジノ基、1,2−又は1,3−キシリジノ基、o−、m−又はp−メトキシアニリノ基、アントラニル酸及びそのエステル類由来の基等が好適である。
上記炭素原子数6〜20のアリールチオ基としては、フェニルチオ基、フェニルメタンチオ基、o−、m−又はp−トリルチオ基、チオサリチル酸及びそのエステル類由来の基等が好適である。
上記Rとしては、これらのうち、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアミノ基が好ましい。より好ましくは、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基である。ただし、Rには、2重結合若しくは3重結合が含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。
【0036】
上記Rおける置換基としては、上述のような炭素数1〜12のアルキル基;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子;シアノ基、ニトロ基、カルボキシエステル基等が好適である。また、これら置換基の水素がハロゲン化されていてもよいし、されていなくてもよい。これらの中でも、好ましくは、ハロゲン原子、水素がハロゲン化されていてもよいし、されていなくてもよいメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基及びカルボキシエステル基である。
上記R、Rおける置換基としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子;シアノ基、ニトロ基、カルボキシエステル基等が好適であり、カルボキシエステル基の水素がハロゲン化されていてもよいし、されていなくてもよい。これらの中でも、好ましくは、ハロゲン原子、水素がハロゲン化されていてもよいし、されていなくてもよいカルボキシエステル基である。
【0037】
上記一般式(2)、一般式(5)におけるYは、2価の有機基又は直接結合を表すが、2価の有機基としては、C、S、N、及び/又は、O原子を含むことが好ましい。より好ましくは、カルボニル基、メチレン基、スルフィド基、スルホキサイド基、スルホン基、複素環等を含有することである。更に好ましくは、下記一般式(6−1)〜(6−17)で表される基のいずれかであることである。中でも好ましくは、(6−1)、(6−10)、(6−11)、(6−13)及び(6−14)で表される基のいずれかである。
【0038】
【化9】

【0039】
上記(6−1)〜(6〜17)中、Zは、芳香族炭化水素基を含む2価の有機基を示す。なかでも、ベンゼン環を含む2価の有機基であることが好ましい。例えば、下記(7−1)〜(7−19)である。
【0040】
【化10】

【0041】
上記(7−1)〜(7−19)中、Y、Y、Y及びYにおける置換基として、例えば、置換基を有してもよいアルキル基、アルコキシル基が好適である。より好ましくは、炭素原子数1〜30であって、置換基を有してもよいアルキル基、アルコキシル基である。
これらの中でもZとしては、下記(8−1)〜(8〜20)がより好ましい。
【0042】
【化11】

【0043】
上記一般式(2)、一般式(5)で表される繰り返し単位において、m及びm’は、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、0〜4の整数であるが、1〜4であることが好ましい。より好ましくは、2〜4であることであり、更に好ましくは、4である。すなわち、m及びm’が4であることは、本発明の好適な実施形態の1つである。ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数が多いと、得られる重合体がより吸水性の低いものとなる。
【0044】
上記フッ素含有芳香族系重合体において、上記一般式(1)で表される繰り返し単位及び/又は一般式(2)で表される繰り返し単位の繰り返し数pは、1〜3,000の範囲が好ましく、1〜1,000の範囲がより好ましい。更に好ましくは、1〜500の範囲である。
上記フッ素含有芳香族系重合体が上記一般式(1)で表される繰り返し単位及び一般式(2)で表される繰り返し単位の両方を有する場合、これらの繰り返し単位の繰り返し数の合計がこのような値であることが好ましい。
【0045】
上記フッ素含有芳香族系重合体は、重量平均分子量が3,000〜200,000の範囲にあることが好ましい。重量平均分子量がこのような範囲にあると、架橋反応時の加熱により重合体の主鎖骨格が動き、架橋が効率的におこるため好ましい。また、重量平均分子量が大きすぎると、主鎖骨格の動きが抑制され架橋反応が進みにくくなる一方で、粘度は高くなり平滑な膜を塗工し難くなる。より好ましくは、5,000〜100,000であり、更に好ましくは、7,000〜80,000である。
重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、実施例に記載の条件で測定することができる。
【0046】
上記フッ素含有芳香族系重合体は、分子内にフッ素原子を3個以上有するフッ素含有単量体である下記一般式(9);
【0047】
【化12】

【0048】
(式中、Rは、上記一般式(1)と同様である。)で表される化合物及び/又は下記一般式(10);
【0049】
【化13】

【0050】
(式中、Y、m及びm’は、上記一般式(2)と同様である。)で表される化合物と、不飽和炭化水素基を有するビスフェノール化合物である下記一般式(11);
【0051】
【化14】

【0052】
(式中、X、R、Rは、上述した一般式(1)と同様である。)で表される化合物とを塩基性触媒の存在下に重縮合させることにより製造することができる。
【0053】
上記一般式(9)で表される化合物としては、例えば、4−フェノキシ−2,3,5,6−テトラフルオロベンゾニトリル、4−フェニルチオ−2,3,5,6−テトラフルオロベンゾニトリル等が挙げられる。
上記一般式(10)で表される化合物としては、例えば、4,4’−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル、2,2−ビス(4−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイルオキシ)フェニル)プロパン、4,4’−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイルオキシ)ジフェニルエーテル、1,4−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイルアミノ)ベンゼン、2,5−ジペンタフルオロフェニル−1,3,4−オキサジアゾール、パーフルオロベンゾフェノン等が挙げられる。
【0054】
上記一般式(11)で表される不飽和炭化水素基を有するビスフェノール化合物としては、2,2−ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル]プロパン(2,2’−ジアリルビスフェノールA)、ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル]メタン、ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル]スルホキシド、ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル]スルフィド、ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル]エーテル、ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル]シクロヘキサン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス−[4−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル]プロパン、ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル]ケトン、9,9−ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル]フルオレン、3,3−ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル]フタリド、ビス[2−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル]メタン、2,2−ビス[4−ヒドロキシ−3−メチル−5−(2−プロペニル)フェニル]プロパン、ビス[2−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル]ケトン、2−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニル4−ヒドロキシ−3−(2−プロペニル)フェニルケトン、2,2−ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル]プロパン、ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル]メタン、ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル]スルホキシド、ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル]スルフィド、ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル]エーテル、ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル]シクロヘキサン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス−[4−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル]プロパン、ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル]ケトン、9,9−ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル]フルオレン、3,3−ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル]フタリド、ビス[2−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル]メタン、2,2−ビス[4−ヒドロキシ−3−メチル−5−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル]プロパン、ビス[2−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル]ケトン及び2−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニル4−ヒドロキシ−3−(2−メチル−2−プロペニル)フェニルケトン等が挙げられる。
【0055】
上記分子内にフッ素原子を3個以上有するフッ素含有単量体と、不飽和炭化水素基を有するビスフェノール化合物とを反応させる際のフッ素含有単量体とビスフェノール化合物との比率としては、フッ素含有単量体1モルに対して、ビスフェノール化合物を0.8〜1.2モルの割合で加えて反応させることが好ましい。より好ましくは、フッ素含有単量体1モルに対して、ビスフェノール化合物を0.9〜1.1モルの割合で加えて反応させることである。
【0056】
上記重縮合工程に用いる塩基性触媒としては、反応系中のフッ化水素(HF)を捕捉することができる塩基性物質であれば特に制限されず、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸リチウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、フッ化カリウム、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン等を用いることができる。これら塩基性物質の使用量は、例えば炭酸カリウムを用いる場合、上記フッ素含有単量体1モルに対して0.8〜5モルであることが好ましい。より好ましくは、0.8〜2モルである。これら塩基性物質は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0057】
上記重縮合工程に使用できる溶媒としては、脱塩重縮合反応が進行する溶媒であれば制限されず、通常用いられる溶媒を用いることができるが、非プロトン性の溶媒を用いることが好ましい。非プロトン性溶媒の中でも、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等が好ましい。より好ましくは、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ジメチルアセトアミドである。これらの溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0058】
上記溶媒中における分子内にフッ素原子を3個以上有するフッ素含有単量体、及び、不飽和炭化水素基を有するビスフェノールの濃度は、それぞれ1〜40質量%であることが好ましい。溶媒中におけるフッ素含有単量体やビスフェノールの濃度がこの範囲を外れると、反応の効率が低下することになる。より好ましくは、5〜30質量%である。
【0059】
上記重縮合工程の反応条件は、特に制限されないが、反応温度としては0〜150℃が好ましく、より好ましくは0〜130℃、更に好ましくは0〜100℃である。反応時間としては、1時間以上が好ましい。これらの条件下で反応を行うことにより、上述したフッ素含有化合物を高い収率で得ることができる。また、反応は、常圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。
上記反応により生成した生成物は、析出塩を取り除いた上で再沈殿を行うことで精製したり、水を用いて液−液抽出することによりポリマー成分を抽出し、その他の成分と分離して得ることができる。
【0060】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物が含むエポキシ化合物としては、構造中にエポキシ基を有し、硬化するものであればよい。また、エポキシ化合物の中でも、分子量が3000以上の高分子量エポキシ化合物よりも、分子量が3000未満の低〜中分子量のエポキシ化合物が好ましい。低〜中分子量のエポキシ化合物を用いると、組成物を基材に塗布した場合に、基材面上を流れていきながら重合していくことで、エポキシ自体の硬化率が高くなり易く、高い密着性を発現することができる。
【0061】
上記エポキシ化合物としては、各種のエポキシ樹脂等を用いることができ、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、レゾールフェノールジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、フッ素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、フェノールノボラックグリシジルエーテル、クレゾールノボラックグリシジルエーテル、臭素化ノボラックグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエステル等のグリシジルエステル類、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン等のグリシジルアミン類、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の線状脂肪族エポキサイト類、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチルカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート等の脂環族エポキサイト類を用いることができる。
【0062】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物は、上記エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂を1種又は2種以上含むことができるが、2官能以上の多官能エポキシ化合物を1種以上含むものが好ましい。フッ素含有芳香族系重合体含有組成物が2官能以上の多官能エポキシ化合物を含むと、耐溶剤性により優れたものとなる。
すなわち、エポキシ化合物が多官能エポキシ化合物であることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物が、フッ素含有芳香族系重合体と多官能エポキシ化合物とを含むものである場合、組成物を架橋させると、フッ素含有芳香族系重合体はフッ素含有芳香族系重合体同士で、エポキシ化合物はエポキシ化合物同士で架橋反応し、これによって重合体の架橋構造の網目が絡み合ったIPN構造が形成されることになる。このような2種の樹脂の絡み合いにより、硬化による硬脆くなることが和らげられ、且つ何れの樹脂も耐溶剤性を有することから耐溶剤性に優れた塗膜が得られる。
多官能エポキシ化合物としては、セロキサイド2021(3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ダイセル化学工業社製)等を用いることができる。
【0063】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物が含むビニル化合物としては、(CH=CH−)で表される構造部分を有する各種の化合物を用いることができ、その中にはアリル基を有する化合物も含まれる。
ビニル化合物としては、例えば、1,4−ブタンジオールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ジビニルベンゼン、アリル(エトキシメトル)エーテル、アリルグリシジルエーテル、ジアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリールエーテル、ジアリルフタレート、トリアリルイソシアヌレート、(2,4−ペンタジエニル)アリルエーテル等を挙げることができる。
【0064】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物は、上記ビニル化合物を1種又は2種以上含むことができるが、2官能以上の多官能ビニル化合物を1種以上含むものが好ましい。フッ素含有芳香族系重合体含有組成物が2官能以上の多官能ビニル化合物を含むと、耐溶剤性により優れたものとなる。
すなわち、ビニル化合物が多官能ビニル化合物であることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
多官能ビニル化合物としては、特に、ジアリルフタレート、TAIC(トリアリルイソシアヌレート、日本化成社製)等の多官能アリル化合物を用いることができる。
このように多官能ビニル化合物として多官能アリル化合物を用いることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0065】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物は、更に開始剤を含むものであることが好ましい。開始剤を含むことでエポキシ化合物やビニル化合物の架橋反応をより充分に進行させることができ、フッ素含有芳香族系重合体含有組成物をより耐溶剤性に優れたものとすることができる。
開始剤は、組成物中のエポキシ化合物及び/又はビニル化合物に対して0.5〜15質量%の割合であることが好ましい。より好ましくは、1〜10質量%の割合である。
【0066】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物が含む開始剤としては、組成物中に含まれるエポキシ化合物やビニル化合物を硬化させることができるものであれば、特に制限されず、例えば、芳香族ポリアミン、脂肪族ポリアミン、ポリアミド、酸無水物、フェノール誘導体、ポリメルカプタン、第三級アミン、ルイス酸錯体、カチオン開始剤等通常用いられる開始剤を用いることができる。この中でもカチオン開始剤が好ましい。開始剤がカチオン開始剤であると、紫外線(UV)や熱によりエポキシ化合物がカチオン硬化する過程において、酸素阻害を受け難く、得られる硬化物の耐溶剤性を発現し易い。また、他の硬化剤に比べて使用量が少なく、絶縁性他への影響が少ない。
【0067】
上記カチオン開始剤は、カチオン重合を開始できるものであれば特に限定されるものではなく、下記一般式(12)で表されるジアゾニウム塩化合物、下記一般式(13)で表されるヨードニウム塩化合物、下記一般式(14)で表されるスルホニウム塩化合物等が挙げられる。
【0068】
【化15】

【0069】
(上記式中、R、Rは、同一又は異なって、アルキル基又は芳香族基を表す。MXnは、カウンターアニオンを表す。)
カウンターアニオンとしては、BF、PF、AsF、SbF等が挙げられる。
本発明のフッ素含有芳香族重合体含有組成物が含む開始剤としては、具体的にはアデカオプトマーSPシリーズやアデカオプトンCPシリーズ(旭電化社製)やサンエイドSIシリーズ(三新化学工業社製)等が挙げられる。
【0070】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物は、フッ素含有芳香族系重合体、エポキシ化合物及び/又はビニル化合物、及び、更に開始剤を含む場合には開始剤も含めた組成物中の成分のいずれもが種々の溶媒に対して良好な溶解性を示すため、フッ素含有芳香族系重合体含有組成物に溶媒を加えたものを基材に塗布することにより、平滑な塗膜を容易に形成することができる。
このような本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物と溶媒とを含む塗工用樹脂組成物もまた、本発明の1つである。
【0071】
上記塗工用樹脂組成物を基材に塗布して塗膜を形成した後、組成物中に含まれるフッ素含有芳香族系重合体、エポキシ化合物、ビニル化合物を架橋させることで架橋体の塗膜を形成することができる。
このような塗工用樹脂組成物を架橋させて得られる架橋体もまた、本発明の1つである。
【0072】
上記フッ素含有芳香族系重合体、エポキシ化合物、ビニル化合物を架橋させる方法は特に制限されず、重合開始剤を用いる方法、光を照射する方法、熱を加える方法等のいずれの方法を用いてもよいが、熱を加える方法が好ましい。熱を加えることで重合体の主鎖を動きやすくし、架橋の効率を高めることができる。
本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物は、200℃以下の温度で架橋させることができ、架橋体の塗膜を形成することができることから、架橋体の塗膜を形成する際の作業効率の点で好ましい。特に、フッ素含有芳香族系重合体含有組成物がエポキシ化合物を含むものである場合、樹脂の絡み合いがある為、フッ素含有芳香族系重合体を単独で架橋させる場合に比べてより低い温度で耐溶剤性を発現することができる。
フッ素含有芳香族系重合体、エポキシ化合物、ビニル化合物を加熱することにより架橋させる場合、加熱温度は、120〜200℃が好ましい。このような温度で加熱することで、架橋効率を充分に高めて架橋反応を進行させることができる。より好ましくは、150〜200℃である。200℃以下であれば、耐熱ポリマーによって形成された基材上にも架橋体の塗膜を形成することができるため、本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物は幅広い材質の基材に好適に用いることができる。
【0073】
上記架橋体の塗膜は、フッ素含有芳香族系重合体に由来する低吸水性、絶縁性に優れる特性の他、耐溶剤性にも優れたものであることから、膜の積層が可能であり、高周波電子部品、高周波配線基板、プリント配線板表面配線、半導体素子及びリード線、有機薄膜トランジスタのゲート絶縁膜等の様々な電子部品の絶縁膜として好適に用いることができる。
このような本発明の塗工用樹脂組成物を架橋させて得られる架橋体を含む絶縁膜もまた、本発明の1つであり、この絶縁膜を必須構成要素とする電子部品もまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0074】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物は、上述の構成よりなり、溶剤への溶解性に優れて塗膜を容易に形成することができ、得られた塗膜は、低吸水性、絶縁性、耐熱性及び基材への密着性に優れるものである。更に、その塗膜を比較的低温の加熱条件で加熱することで架橋体をとすることができ、得られた架橋体の塗膜は、耐溶剤性に優れたものとなることから、膜の積層が可能であり、電子部品に使用される絶縁膜等として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】合成例1で合成した重合体AのH−NMRの測定チャート、及び、シグナルの帰属を示した図である。
【図2】合成例2で合成した重合体BのH−NMRの測定チャート、及び、シグナルの帰属を示した図である。
【図3】合成例3で合成した重合体CのH−NMRの測定チャート、及び、シグナルの帰属を示した図である。
【図4】合成例4で合成した重合体DのH−NMRの測定チャート、及び、シグナルの帰属を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0076】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0077】
以下の実施例において、重合体の重量平均分子量測定は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、以下の条件で行った。
測定機器:東ソー社製GPC(型番HLC−8120)
分子量カラム:東ソー社製TSKgel GMHXL
溶離液:THF
検量線用標準物質:ポリスチレン
また、重合体の構造同定に関しては、H−NMR測定を以下の条件で行った。
H−NMR
測定機器:Varian社製NMR(Unity Plus 400)
溶媒 :CDCl
周波数:400MHz
【0078】
<合成例1>
4−フェノキシ−2,3,5,6−テトラフルオロベンゾニトリル(PTFBN)と2,2’−ジアリルビスフェノールA(2,2’−ジアリルBisA)との重合反応
PTFBN 53.43g(200mmol)、2,2’−ジアリルBisA 61.69g(200mmol)、モレキュラーシーブス3A(20×30) 34g、及び、メチルエチルケトン(MEK) 320gを混合した。PTFBNの溶解を確認後、炭酸カリウム微粉(日本曹達社製) 55.28g(400mmol)を投入して79℃で重合を9時間行った。その後、メチルイソブチルケトン(MIBK) 350gを投入した。
冷却後、500メッシュの金網で濾過し、一晩放置後、10μm及び1μmのフィルターを用いて加圧濾過を行った。濾過後の溶液に、MIBKを投入し、水を用いて分液洗浄した。分液洗浄を行った後、MIBKを濃縮することで固形分50質量%の重合体溶液(溶媒MIBK)を得た。
得られた重合体Aは、98g(固形分換算)であり、得られた重合体の重量平均分子量Mwは、15,000であった。得られた重合体AのH−NMRの測定結果及びシグナルの帰属を図1に示す。
【0079】
<合成例2>
4,4’−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル(以下BPDE)と2,2’−ジアリルBisAとの重合反応
BPDE 72.58g(130mmol)、2,2’−ジアリルBisA 40.09g(130mmol)、モレキュラーシーブス3A(20×30) 30g、MEK 320gを混合した。BPDEの溶解を確認後、炭酸カリウム微粉(日本曹達社製) 35.93g(260mmol)を投入して79℃で重合を8時間行った。その後、MIBK 350gを投入した。
冷却後、500メッシュの金網で濾過し、一晩放置後、10μm及び1μmのフィルターを用いて加圧濾過を行った。濾過後の溶液に、MIBKを投入し、水を用いて分液洗浄した。分液洗浄を行った後、MIBKを濃縮することで固形分30質量%の重合体溶液(溶媒MIBK)を得た。
得られた重合体Bは、98g(固形分換算)であり、得られた重合体の重量平均分子量Mwは、62,000であった。得られた重合体BのH−NMRの測定結果シグナルの帰属を図2に示す。
【0080】
<合成例3>
PTFBNと、2,2’−ジアリルBisAとビスフェノールA(2,2’−ジアリルBisAとビスフェノールAとのモル比1:1)との重合反応
PTFBN 53.43g(200mmol)、2,2’−ジアリルBisA 30.84g(100mmol)、ビスフェノールA(BisA) 22.83g(100mmol)、モレキュラーシーブス3A(20×30) 34g、MEK 320gを混合した。PTFBN、BisAの溶解を確認後、炭酸カリウム微粉(日本曹達社製) 55.28g(400mmol)を投入して79℃で重合を9時間行った。その後、MIBK 350gを投入した。
冷却後、500メッシュの金網で濾過し、一晩放置後、10μm及び1μmのフィルターを用いて加圧濾過を行った。濾過後の溶液に、MIBKを投入し、水を用いて分液洗浄した。分液洗浄を行った後、MIBKを濃縮することで固形分30質量%の重合体溶液(溶媒MIBK)を得た。
得られた重合体Cは、91g(固形分換算)であり、得られた重合体の重量平均分子量Mwは、33,000であった。得られた重合体CのH−NMRの測定結果シグナルの帰属を図3に示す。
【0081】
<合成例4>
PTFBNと、ビスフェノールAとの重合反応
PTFBN 53.43g(200mmol)、ビスフェノールA 45.66g(200mmol)、モレキュラーシーブス3A(20×30) 34g、MEK 320gを混合した。PTFBN、BisAの溶解を確認後、炭酸カリウム微粉(日本曹達社製) 55.28g(400mmol)を投入して79℃で重合を8時間行った。その後、MIBK 350gを投入した。
冷却後、500メッシュの金網で濾過し、一晩放置後、10μm及び1μmのフィルターを用いて加圧濾過を行った。濾過後の溶液に、MIBKを投入し、水を用いて分液洗浄した。分液洗浄を行った後、MIBKを濃縮することで固形分30%の重合体溶液(溶媒MIBK)を得た。
得られた重合体Dは、86g(固形分換算)であり、得られた重合体Dの分子量Mwは、50,000であった。得られた重合体DのH−NMRの測定結果シグナルの帰属を図4に示す。
【0082】
複合樹脂組成物の調製及び複合樹脂硬化膜の作製
<実施例1〜5、比較例1、2>
重合体AのMIBK溶液 0.60g(固形分0.30g)、セロキサイド2021(ダイセル化学工業製) 0.30gを混合した後、プロピレングリコールモノメチルアセテート(以下PGMAc)に10質量%濃度となるように溶解させたサンエイドSI−80L(三新化学社製) 0.18g(固形分0.018g)を混合し、複合樹脂組成物(1)とした。
アルミ板上にアプリケーターを用いて、100℃×10分乾燥の後、170℃×3時間加熱し、複合樹脂硬化膜(1)を作製した。
同様の方法により、表1に示す配合で複合樹脂組成物(2)〜(5)、及び、比較複合樹脂組成物(1)、(2)を調製し、上記の方法で複合樹脂硬化膜(2)〜(5)、及び、比較複合樹脂硬化膜(1)、(2)を作製した。ただし、複合樹脂硬化膜(4)、(5)、及び、比較複合樹脂硬化膜(1)、(2)は、複合樹脂組成物を100℃×10分乾燥の後、200℃×3時間加熱して作製した。
なお、表1中、架橋分子とは、エポキシ化合物又はアリル化合物を意味する。また、実施例1の重合体Aの組成の「0.60/0.30」との記載は、重合体A溶液0.60g中に、重合体A0.30gが含まれていることを示す。他も同様であり、各成分の配合の左右の数値が異なっているものは、左が当該成分を含む溶液全体の質量、右が溶液中の当該成分の質量を表す。左右の数値が同じものは、溶媒に溶解した溶液とせず、当該成分のみ配合したことを意味する。
【0083】
<複合樹脂硬化膜の耐溶剤性評価>
複合樹脂組成物(1)〜(5)、及び、比較複合樹脂組成物(1)、(2)から得られた複合樹脂硬化膜(1)〜(5)、及び、比較複合樹脂硬化膜(1)、(2)について、トルエンを用いて以下の方法によりラビング試験(30回)及びスポット試験(膜上に液滴を落とす)を行い、耐溶剤性を評価した。結果を表1に示す。
[ラビング試験]
試験溶媒であるトルエンをガーゼに含ませて、ラビングを30回行い、試験後の膜の状態を目視で確認した。
○・・・変化なし △・・・膜にキズ又はワレあり ×・・・剥がれあり
[スポット試験]
架橋膜上にトルエンを1滴滴下し、トルエンが自然に乾燥するまで放置し、膜の溶解の有無を目視で確認した。
○・・・膜の溶解なし ×・・・膜の溶解あり
【0084】
【表1】

【0085】
<複合樹脂硬化膜の基材への密着性評価>
アプリケーターを用いて、複合樹脂組成物(1)〜(5)をカプトン上に塗工し、複合樹脂組成物(1)〜(3)は、100℃×10分、170℃×3時間の加熱乾燥を、複合樹脂組成物(4)、(5)は、100℃×10分、200℃×3時間の加熱乾燥を、それぞれ行い、複合樹脂硬化膜(1)〜(5)を得た。
複合樹脂硬化膜(1)〜(5)に、クロスカット(2mm幅で25マス目)を入れて、セロテープ(登録商標)剥離を行った。その結果、いずれの硬化膜についても剥がれは確認できず、ポリイミドに密着していた。
【0086】
<複合樹脂組成物の耐電圧評価>
複合樹脂組成物(2)、(3)にPGMAcを加えて、固形分15%の溶液を調製した。
この溶液を用いて、ITOパターン基板の上にスピンコーターを用いて0.9μmの膜厚になるように塗工し、100℃で5分乾燥した。その後、170℃×3時間加熱した。
その後、上部電極を金蒸着により作製し、試験片を作製した。ソースメーター(KEITHLEY社製 型番2400A)を用いて、0Vから200Vまで電圧をかけて電流値を測定したところ、全て200Vまで絶縁性を維持した。
【0087】
上記実施例、比較例の結果から、本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物から形成される塗膜は、200℃以下の加熱で架橋反応を進行させることができ、これにより得られる架橋体の膜は、耐溶剤性、基材への密着性、絶縁性に優れた膜であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1);
【化1】

(式中、Rは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、アルコキシ基、若しくは、アルキルアミノ基、又は、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、アリールアミノ基、若しくは、アリールチオ基を表す。R及びRは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基又は水素原子を表し、ベンゼン環に付加するR及びRは、それぞれ1つであってもよく複数であってもよい。ベンゼン環に付加するR及びRの少なくとも1つは、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基である。Xは、下記(3−1)〜(3−10)の官能基のいずれかである。)で表される繰り返し単位及び/又は下記一般式(2);
【化2】

(式中、Xは、下記(3−1)〜(3−10)の官能基のいずれかである。Yは2価の有機基又は直接結合を表す。R及びRは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基又は水素原子を表し、ベンゼン環に付加するR及びRは、それぞれ1つであってもよく複数であってもよい。ベンゼン環に付加するR及びRの少なくとも1つは、置換基を有していてもよい炭素数2〜7の不飽和炭化水素基である。m及びm’は、同一又は異なって、ベンゼン環に付加しているフッ素原子の数を表し、0〜4の整数であり、m+m’は1以上である。)で表される繰り返し単位を有するフッ素含有芳香族系重合体と、エポキシ化合物及び/又はビニル化合物とを含むことを特徴とするフッ素含有芳香族系重合体含有組成物。
【化3】

【請求項2】
前記エポキシ化合物は、多官能エポキシ化合物であることを特徴とする請求項1に記載のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物。
【請求項3】
前記ビニル化合物は、多官能ビニル化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物。
【請求項4】
前記R、Rの少なくとも1つは、置換基を有していてもよい炭素数2〜4のアルケニル基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物。
【請求項5】
前記一般式(1)におけるRは、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物。
【請求項6】
前記一般式(2)におけるm及びm’は、ともに4であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物と溶媒とを含むことを特徴とする塗工用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の塗工用樹脂組成物を架橋させて得られることを特徴とする架橋体。
【請求項9】
請求項8に記載の架橋体を含むことを特徴とする絶縁膜。
【請求項10】
請求項9に記載の絶縁膜を必須構成要素とすることを特徴とする電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−49762(P2013−49762A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187677(P2011−187677)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】