説明

フッ素樹脂組成物、フッ素樹脂組成物製造方法、半導体製造装置及び被覆電線

本発明は、耐オゾン性及び表面平滑性に優れた半導体製造装置に関わる部材、並びに、成型加工性に優れたテトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体からなるフッ素樹脂組成物を提供する。 テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体とテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体とからなるフッ素樹脂組成物であって、上記テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体は、上記テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体と上記テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体との合計固形分質量の0.5〜60質量%であり、上記フッ素樹脂組成物からなる測定用チューブ成形体は、その内面について、平均粗さ〔Ra〕が0.035μm以下であり、最大粗さ〔Rt〕が0.3μm未満であることを特徴とするフッ素樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、フッ素樹脂組成物、フッ素樹脂組成物製造方法、半導体製造装置及び被覆電線に関する。
【背景技術】
テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体〔PFA〕は耐薬品性、耐熱性、成形性に優れるフッ素樹脂であり、その特性を活かして、強い劣化作用を有する流体(気体、液体)に接触する搬送ライン用のチューブ、ボトル等に用いられており、半導体製造装置の部材としては、オゾン含有媒体を流通させるチューブ、研磨剤を含有するスラリーを送液するチューブ等に用いられている。
近年、半導体製造の高速化の要請に対応するため、チューブを流通するオゾン含有媒体中のオゾンが高濃度化してきたが、PFAから得られる部材は劣化が速く進行し、装置のメンテナンス頻度を上げることが生産性の面で問題となっている。
PFAから得られる部材は従来、チューブ内面が充分な平滑性を有さず、特に研磨剤を含むスラリーを送液する場合、研磨により送液ライン内にチューブ材が混入し、研磨効率の低下、研磨異常、得られる半導体の電気特性低下の原因となり、製品歩留まりを大きく低下させていた。また、オゾン含有媒体を流通する場合、汚染物質の堆積が進みやすく、メンテナンス性の点でも問題があった。
半導体製造装置の部材として用いられるチューブは、このように劣化しにくく、内面が平滑な性質を有することが求められる。
従来、PFAの成形時に気泡を発生し平滑性悪化の一因となり得る不安定な末端官能基を、ペレット製造段階でフッ素含有ガスと接触させることにより安定化する試みがある(例えば、特公平8−30097号公報参照。)。しかしながら、PFA単独では耐オゾン性に劣るという問題があった。
熱的に安定で、高温の溶融状態に長時間保持しても溶融粘度低下が起こらないPFAとして、−CHOH末端基を炭素数10個あたり7〜40個程度残存させ、その他の不安定末端基は安定化したものも提案されている(例えば、特開平10−17621号公報参照。)。しかしながら、このようなPFAであっても、依然として耐オゾン性の点で難があった。
劣化に強いチューブの材料として、PFAとFEPとの混合物を用いたものもいくつか提案されている(例えば、特開平11−210942号公報、特開2002−173570号公報参照。)。しかしながら、PFAとFEPとからなる混合物を溶融混練し相溶物を製造する際、溶融粘度が増加するとともに剪断力が一時的に上昇する現象が観測され、そのような現象が観測される相溶物から得られるチューブは、内面の最大粗さを0.3μm未満にすることは困難であり、また、フッ素含有ガスと接触させることも行われていない。
得られる成形体の内面の平滑性を向上するために、PFAにポリテトラフルオロエチレンを添加してなる組成物が提案されている(例えば、特開平7−70397号公報参照。)。しかしながら、この組成物を製造する際、フッ素含有ガスと接触させることは行われず、また、溶融粘度の増加と剪断力の一時的な上昇に関する記載も示唆もない。
PFAはチューブ材としての用途以外に、電線被覆材としても用いられるが、融点が高いこと等から成形時にライン速度を上げ難く、上げた場合には被覆材の外表面に亀裂を生じる等、成形加工性に大きな問題があった。
成形加工性が良好なものとしてFEPを被覆材に用いた場合、耐熱性、電気特性の面ではPFAに劣り、近年では電線被覆材として要求される絶縁性、耐熱性等の性能水準を満たし得ない事例が増加してきているという問題があった。
電線被覆材として用いることを主とするPFA、FEP及び変性PTFEからなる組成物が開示されているが(例えば、米国特許第5317061号公報明細書参照。)、この組成物をフッ素含有ガスと接触させることは行われていない。
発明の要約
本発明の1つの目的は、上記現状に鑑み、耐オゾン性及び表面平滑性に優れた半導体製造装置に関わる部材を提供することにあり、本発明の2つめの目的は、成形加工性に優れたテトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体からなるフッ素樹脂組成物を提供することにある。
本発明は、テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体とテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体とからなるフッ素樹脂組成物であって、上記テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体は、上記テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体と上記テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体との合計固形分質量の0.5〜60質量%であり、上記フッ素樹脂組成物からなる測定用チューブ成形体は、その内面について、平均粗さ〔Ra〕が0.035μm以下であり、最大粗さ〔Rt〕が0.3μm未満であることを特徴とするフッ素樹脂組成物である。
本発明は、テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体とテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体とからなる混合組成物の溶融混練を行う溶融混練工程と、フッ素含有ガスを用いた精製処理を行う精製工程とをこの順で有する上記フッ素樹脂組成物を製造するためのフッ素樹脂組成物製造方法であって、上記溶融混練は、シリンダー内における上記混合組成物の温度を350〜395℃に制御した押出成形機を用いて上記混合組成物の粘度変化がなくなるまで行うものであり、上記フッ素含有ガスは、フッ素を5質量%以上含有するものであり、上記精製処理は、上記溶融混練工程により得られた押出物を上記フッ素含有ガスに曝露させて低分子量体を分解除去することよりなるものであることを特徴とするフッ素樹脂組成物製造方法である。
発明の詳細な開示
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明のフッ素樹脂組成物は、テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体とテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体とからなる測定用チューブ成形体が、その内面について、平均粗さ〔Ra〕が0.035μm以下であるものである。内面の平均粗さ〔Ra〕が0.035μmを超えるようなチューブに研磨剤等を含む流体を長時間流通させると、摩耗しやすく、化学的に劣化作用の強い流体に長時間接触すると汚染物質等がチューブ内面の劣化部分に堆積しやすい。平均粗さ〔Ra〕の好ましい上限は、0.03μmである。平均粗さ〔Ra〕は、上記範囲内であれば、測定用チューブ成形体の製造方法上の制約から、下限を0.005μmとすることができる。
本発明のフッ素樹脂組成物は、テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体とテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体とからなる測定用チューブ成形体が、その内面について、平均粗さ〔Ra〕が上記範囲内であるとともに、最大粗さ〔Rt〕が0.3μm未満であるものである。0.3μm以上であると、各種製品において求められる規格水準を満たさないので好ましくない。好ましい上限は、0.25μmである。最大粗さ〔Ra〕は、上記範囲内であれば、測定用チューブ成形体の製造方法上の制約から、下限を0.1μmとすることができる。
上記平均粗さ〔Ra〕及び上記最大粗さ〔Rt〕は、JIS B 0601に準拠して測定することにより得られる値である。
上記測定用チューブ成形体内面の平均粗さ〔Ra〕及び最大粗さ〔Rt〕は、通常、後述の低分子量体が存在すると大きくなる。このことは、γ線照射により分子量を低下させた数種のテトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体及び/又はテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体を溶融混練し、チューブ成形することにより得られたチューブの内面を観察することにより確認することができる。
上記測定用チューブは、テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体とテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体との混合物を、シリンダー径30mm、L/D=22、ダイ/チップ=20mmφ/12mmφの押出成形機を用いて溶融混練して、チューブ成形用金型を用いて40cm/分の引取り速度で押し出すことにより得られる内径9.5mm、外径11.5mmのチューブである。上記溶融混練は、上記混合物のシリンダー内における温度を340℃〜395℃になるように制御し、スクリュー回転数8rpmで8〜10分間行うものである。
上記測定用チューブ成形体は、上述のように通常のチューブと同様に、押出成形により外表面を金型等の外的物体に接触させながら成形・冷却して得られるものであるので、外表面の凹凸は金型等の表面の平滑さに律され比較的平滑になるが、内表面は冷却時に冶具等に接触し続けるのではなく、表面の凹凸を金型等の外的物体により律されることがないので、球晶ができやすく表面が粗くなりやすい。しかしながら、本発明のフッ素樹脂組成物を用いて得られた上記測定用チューブ成形体は、その内面であっても表面平滑性を有し、平均粗さ〔Ra〕及び最大粗さ〔Rt〕が上述の範囲を満たすものである。
本発明のフッ素樹脂組成物は、上記測定用チューブ成形体内面の平均粗さ〔Ra〕及び最大粗さ〔Rt〕が上述の範囲を満たす場合、その他の一般的な成形体についても充分な平滑性を有することができる。その他の一般的な成形体としては特に限定されず、例えば、上記チューブ内面と同様に、従来、表面が粗くなりやすかったもの、例えば、コーンを用いて得られた電線の被覆材、キャスト製膜により得られたフィルム等であってもよい。
本発明のフッ素樹脂組成物は、テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体〔TFE/FTE共重合体〕からなるものである。
本明細書において、上記TFE/FTE共重合体とは、フルオロアルコキシトリフルオロエチレン〔FTE〕をテトラフルオロエチレン〔TFE〕の共単量体とする共重合体であって、上記FTEは、TFEとFTEとの合計質量の1〜15質量%であるものを意味する。本明細書において、共単量体の全単量体における質量%で表す量は、共重合体の分子構造中、その共単量体に由来する共単量体単位が「単量体に由来する単位全て」中に占める質量%である。上記「共単量体単位」は、例えば、後述のHFPに由来するものである場合、−CF−CF(CF)−で表される。上記フルオロアルコキシトリフルオロエチレンにおけるフルオロアルコキシル基は、アルコキシル基の炭素−水素結合が、すべて炭素−フッ素結合になっているパーフルオロアルコキシル基であってもよいし、炭素−水素結合の水素が部分的にフッ素に置換されているアルコキシル基であってもよい。
上記TFE/FTE共重合体は、メルトフローレート〔MFR〕が9(g/10分)以下であるものが好ましい。9(g/10分)を超えるものは、分子量が低すぎて、得られる成形体の耐オゾン性や耐熱性が低下しやすい。より好ましい上限は、4(g/10分)であり、更に好ましい上限は、3.5(g/10分)である。上記MFRは、上記範囲内であれば、成形加工性の点で下限を例えば0.5(g/10分)とすることができる。
本明細書において、MFRは、ASTM D 3307(1998年)に準拠して372℃において5kgの荷重を加えて測定することにより得られる値である。
本発明のフッ素樹脂組成物は、上記TFE/FTE共重合体と、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体〔TFE/HFP共重合体〕とからなるものである。上記TFE/HFP共重合体を加えることにより耐オゾン性を強化することができる。
本明細書において、上記TFE/HFP共重合体とは、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕をTFEの共単量体とする共重合体であって、上記HFPは、TFEとHFPとの合計質量の1〜20質量%以上であるものを意味する。
上記TFE/HFP共重合体は、TFEの共単量体としてHFPと、更に所望によりビニルエーテルとを用いて得られる3元以上の共重合体であってもよい。上記TFE/HFP共重合体が上記3元以上の共重合体である場合、上記ビニルエーテルは、通常、TFEとHFPとビニルエーテルとの合計質量の1質量%以下であるが、TFEとHFPとビニルエーテルとの合計質量の1質量%を超えてもよく、1質量%を超える場合、好ましい上限を、例えば、2.5質量%、より好ましい上限を2質量%とすることができる。
上記ビニルエーテルとしては特に限定されず、例えば、下記一般式(I)
CY=CY−OR (I)
(式中、Y及びYは、同一若しくは異なり、水素原子又はフッ素原子を表す。Rは、炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部がフッ素原子に置換されていてもよくエーテル酸素を有していてもよい有機基を表す。)で表されるエーテル酸素含有化合物等が挙げられる。上記有機基としては、経済面で、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、耐オゾン性の観点では、炭素数2〜4のアルキル基がより好ましい。
上記TFE/HFP共重合体は、メルトフローレート〔MFR〕が9(g/10分)以下であるものが好ましい。9(g/10分)を超えるものは、分子量が低すぎて、得られる成形体の耐オゾン性や耐熱性が低下しやすい。より好ましい上限は、4(g/10分)であり、更に好ましい上限は、3(g/10分)である。上記MFRは、上記範囲内であれば、成形加工性の点で下限を例えば0.5(g/10分)とすることができる。
上記範囲のMFRを有するTFE/HFP共重合体とTFE/FTE共重合体とを組み合わせることにより、測定用チューブ成形体の内面の平均粗さ〔Ra〕及び最大粗さ〔Rt〕を上述の範囲にすることができる。測定用チューブ成形体の内面の平均粗さ〔Ra〕及び最大粗さ〔Rt〕は、後述のフッ素含有ガスを用いた精製処理を行うことにより、更に小さくするとができる。
本発明のフッ素樹脂組成物は、後述のフッ素含有ガスを用いた精製処理を行わずに得たものであっても、MFRが1.0〜3.5(g/10分)のTFE/FTE共重合体と、MFRが0.5〜3(g/10分)のTFE/HFP共重合体とを用いることにより、上記測定用チューブ成形体の内面の平均粗さ〔Ra〕及び最大粗さ〔Rt〕を上述の範囲にすることができる。
上記TFE/HFP共重合体は、上記TFE/HFP共重合体と上述のTFE/FTE共重合体との合計固形分質量の0.5〜60質量%である。0.5質量%未満であると、本発明のフッ素樹脂組成物を用いて得られる成形体は表面平滑性に劣る場合があり、60質量%を超えると、得られる成形体は耐屈曲性や高温での機械的特性に劣る場合がある。成形速度を向上し得るという利点がある点で、好ましい上限は、50質量%であり、得られる成形体の耐熱性を低下させず実用的洗浄温度下で使用しても寸法安定性を損なわない点で、より好ましい上限は、30質量%である。後述の高い融点を示す点で、更に好ましい上限は、10質量%であるが、最適組成は、成形性、発現される性能とのバランスから、用途毎に設定されるべきものである。
本発明のフッ素樹脂組成物において、上述のTFE/FTE共重合体は、上記TFE/HFP共重合体と溶融混練を行うものであることが好ましい。
本明細書において、上記TFE/FTE共重合体と上記TFE/HFP共重合体との混合物であって、上記溶融混練を行う前及び上記溶融混練中のものを「混合組成物」ということがある。
溶融混練は、後述のように押出成形機を用いて行うが、本明細書において、上記混合組成物に対して溶融混練を行い、押出成形機から押し出したものを「押出物」ということがある。
上記TFE/HFP共重合体は、上記TFE/FTE共重合体と溶融混練を行った後の耐熱性の点から、上記混合組成物の合計固形分質量に占めるTFE/HFP共重合体の割合が0.5〜約10質量%が最も好ましい。上記範囲内であると、上記押出物は、示差走査型熱量計分析によれば、溶融混練を行う前のTFE/FTE共重合体単独の融点と比べ高い、又は、同等の融点を有するので耐熱性を向上させることができる。なお、上記押出物は、上記TFE/HFP共重合体が上記混合組成物の合計固形分質量の10質量%を超え、約35質量%以下である範囲においては、溶融混練を行う前のTFE/HFP共重合体よりも高い融解熱量を示し、約35質量%を超える領域においては、溶融混練を行う前のTFE/HFP共重合体よりも低い融解熱量を示す。本発明のフッ素樹脂組成物は、溶融混練を行ったものであることにより、このように特異的な熱特性を示すことができる。
本発明のフッ素樹脂組成物は、溶融混練を行うことにより、上述のように融解熱量を調整することができるとともに、平均分子量や溶融粘度を制御することができる。上記溶融混練については、後述する。
本発明のフッ素樹脂組成物は、また、加圧し粉砕する処理を上記混合組成物に対して行うことによっても、融解熱量、平均分子量及び溶融粘度を上述のように調整することができるものと考えられる。上記加圧し粉砕する処理を行う場合、成形装置に搭載されるスクリューの混練効果が高いものを用いる。
本発明のフッ素樹脂組成物は、TFE/FTE共重合体とTFE/HFP共重合体と、更に、テトラフルオロエチレン重合体とからなるものであってもよい。テトラフルオロエチレン重合体からなるものであることにより、得られる成形体の耐屈曲性や耐クラック性をより改善することができる。上記テトラフルオロエチレン重合体は、また、添加すると後述のように成形時に成形加工性を改善する効果を有することから、成形助剤として用いる意味合いもある。
本明細書において、上記「テトラフルオロエチレン重合体」とは、テトラフルオロエチレンの単独重合体、及び/又は、上記テトラフルオロエチレンとその他の共単量体との共重合体であり、上記その他の共単量体は、テトラフルオロエチレンと上記その他の共単量体との合計質量の1質量%未満であるものを意味する。
上記テトラフルオロエチレン重合体は、テトラフルオロエチレン以外の共重合成分の含有率が1質量%未満に限定される点で、上記TFE/FTE共重合体や上記TFE/HFP共重合体とは区別される概念である。
上記その他の共単量体としては特に限定されず、例えば、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、HFP、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕等が挙げられる。
上記テトラフルオロエチレン重合体は、融解熱量が60J/g以上のものを用いることが好ましい。上記範囲内であると、上述の耐屈曲性及び耐クラック性に優れ、成形体を得るために溶融成形する際良好な成形加工性を有するフッ素樹脂組成物が得られる。上記テトラフルオロエチレン重合体としては、融解熱量が60J/g未満のものであってもよく、例えば、融解熱量が35〜48J/gのものを用いても、若干の成形加工性の改善と耐屈曲性や耐クラック性の改善がなされる。
本発明のフッ素樹脂組成物が上記テトラフルオロエチレン重合体からなるものである場合、上記テトラフルオロエチレン重合体は、上記フッ素樹脂組成物の固形分質量の0.2〜5質量%であることが好ましい。0.2質量%未満であると、上記テトラフルオロエチレン重合体を用いることによる成形加工性の改善が顕著に現れない場合があり、5質量%を超えると、得られる成形体の表面平滑性が悪化する場合がある。より好ましい下限は、0.5質量%であり、より好ましい上限は、3質量%である。
本発明のフッ素樹脂組成物は、上記TFE/FTE共重合体、上記TFE/HFP共重合体及び所望により用いる上記テトラフルオロエチレン重合体のほかに、添加剤類を含有していてもよい。
上記添加剤類としては特に限定されず、例えば、充填剤、潤滑剤、成形助剤、顔料等が挙げられるが、得られる成形体を半導体製造装置に用いる場合、純度を損なわない点から、添加剤類はできるだけ用いないことが好ましい。
上記TFE/FTE共重合体及び上記TFE/HFP共重合体は、末端官能基の数の調整を行ったものであることが好ましい。上記末端官能基の数の調整は、上記溶融混練に先立って行う。末端官能基の数の調整については、後述する。
上記フッ素樹脂組成物は、フッ素含有ガスを用いた処理を行ったものであることが好ましい。
本明細書において、上記「フッ素含有ガスを用いた処理」は、溶融混練前に末端官能基の数を調整すること、成形時に発泡を抑制することに加えて、溶融混練後に得られた押出物に含まれる低分子量体を分解除去することを目的として行うものである。
上記フッ素含有ガスを用いた処理は、フッ素含有ガスを用いた精製処理からなるものである。フッ素含有ガスに曝露することにより、上記溶融混練後に得られた押出物に含まれる低分子量体を分解除去することができる。
本発明のフッ素樹脂組成物は、分子量分布が1.0〜2.2であることが好ましい。
上記分子量分布は、ある特定の分子量のもののみから構成されている場合、即ち単分散における値を1.0としてそこからのばらつきの度合いを表す値である。上記分子量分布が2.2を超えると、分子量のばらつきが大きく、低分子量体が存在している場合があり、チューブ内面等の表面の凹凸が金型等に律されない成形体の成形時に、上記表面に低分子量体がブリードアウトし表面平滑性を低下させやすい。より好ましい上限は、1.6である。
上記分子量分布は、上述のように本発明のフッ素樹脂組成物についての値であり、本発明のフッ素樹脂組成物がフッ素含有ガスを用いた精製処理を行ってなるものである場合、上記フッ素含有ガスを用いた精製処理を行った後の値である。上述のフッ素含有ガスを用いた精製処理を行うことにより、低分子量体を除去することができ、上記範囲内の分子量分布に抑えることができる。フッ素含有ガスを用いた精製処理を行ってなるものである場合、上記精製処理を行う前の分子量分布の値が、上記範囲を超えるものであってもよい。
上述の低分子量体を除去したことは、フッ素含有ガスを用いた精製処理を経て上述の分子量分布の値が減少し、かつ、MFRが低下したことにより判断することができる。上述の分子量分布の減少のみに基づいて低分子量体が除去されたと判断できないのは、溶融粘弾性測定の結果を正規分布曲線にフィッティングすることで理想曲線に近づける操作を行うので、分布の広がりを示す指標とはなっても、分布の偏在を評価することができないからである。
溶融混練後のフッ素樹脂組成物のMFRの測定方法は、上述したものと同じである。
上記分子量分布は、Polym.Eng.Sci.,29(1989),645(W.H.Tuminello)、及び、Macromol.,26(1993),499(W.H.Tuminello et.al.)に記載の方法に従って測定することにより得られる値である。
本発明のフッ素樹脂組成物においては、−CF−CHOH、−CONH、−COOH、−COFからなる群より選択される少なくとも1つの末端官能基が炭素数10あたり10個未満であることが好ましい。10個以上であると、溶融成形時に発泡を生じやすい。本発明のフッ素樹脂組成物は、上記末端官能基が存在しないものであってもよい。
上記末端官能基の数は、赤外分光法により測定し得られた値である。
上記末端官能基の数は、上述のように、本発明のフッ素樹脂組成物における値であり、本発明のフッ素樹脂組成物が、上述のフッ素含有ガスを用いた精製処理を行ってなるものである場合、この精製処理の後における値である。
上記炭素数は、上記TFE/FTE共重合体の炭素数及び上記TFE/HFP共重合体の炭素数の合計である。上記炭素数及び上記末端官能基の数は、本発明のフッ素樹脂組成物が上述のテトラフルオロエチレン重合体からなるものである場合、テトラフルオロエチレン重合体の炭素数及び末端官能基の数を含むものである。
上記末端官能基は、上記TFE/FTE共重合体及び/又はTFE/HFP共重合体の分子鎖末端に存在するものである。上記分子鎖末端は、主鎖末端であってもよいし、側鎖末端であってもよい。上記末端官能基は、上記TFE/FTE共重合体及び/又はTFE/HFP共重合体の重合時に連鎖移動剤として1価の低級アルコール等を用いることにより、上記主鎖末端及び/又は上記側鎖末端に導入することができる。
本発明のフッ素樹脂組成物製造方法は、上記フッ素樹脂組成物を製造するためのものである。
本発明のフッ素樹脂組成物製造方法は、TFE/FTE共重合体とTFE/HFP共重合体とからなる混合組成物の溶融混練を行う溶融混練工程と、フッ素含有ガスを用いた精製処理を行う精製工程とをこの順で有することを特徴とするものである。
上記溶融混練工程において、上記混合組成物中の上記TFE/FTE共重合体、上記TFE/HFP共重合体及び所望により用いる上記テトラフルオロエチレン重合体の分子鎖が有する末端官能基同士が結合する反応(以下、カップリング反応という。)が起きる。
上記混合組成物における上記TFE/FTE共重合体、上記TFE/HFP共重合体の各分子の少なくとも一部が末端官能基間のカップリング反応により転化することは、▲1▼示差走査型熱量分析〔DSC〕により得られた熱収支曲線の概形が溶融混練前後で大きく変化する、▲2▼DSCにより観測される溶融混練前のTFE/HFP共重合体由来の264℃付近の吸熱ピークが溶融混練後に完全に消失する、▲3▼DSCにより観測される溶融混練前のTFE/FTE共重合体由来の2つの吸熱ピークの形状及び位置が溶融混練を行うと変化する、▲4▼高温の状態で長時間保持してもPFAの溶融粘度の低下が抑制されている、という4つの現象から総合的に判断して、確認することができる。
上記溶融混練工程は、上記末端官能基のカップリング反応により、カップリング体を生成し、耐オゾン性に優れた成形体を得ることを可能にする工程である。
樹脂の溶融混練においては、従来、上記カップリング反応が進行して分子量及び溶融粘度が増加するにつれて、混合組成物にかかる剪断力が一時的に上昇して局部的に分子鎖の切断が起こり、溶融粘度の低下及び低分子量体の生成が避けられなかった。しかしながら、本発明において、上記溶融混練工程は、後述する溶融混練にかける時間、溶融混練を行う温度、剪断速度、末端官能基の数等のパラメータを調整することにより上記末端官能基のカップリング反応の進行を制御し得るものであるので、剪断により一旦切断され分子量が低下した分子鎖であっても、カップリング反応により他の分子鎖と結合し、切断される前と同程度の分子量を有しているものと考えられ、結果的に低分子量体の存在率を抑え耐オゾン性に優れた成形体を得ることが可能である。
本発明において、上記溶融混練工程は、また、上記カップリング反応が剪断による分子鎖の切断を上回るペースで進行し溶融粘度が過度に上昇しないように制御するので、溶融成形時の成形加工性の悪化を防ぐことができると考えられる。
上記溶融混練工程において、溶融混練は、上記混合組成物の粘度変化がなくなるまで行うものである。上記混合組成物の溶融混練中の粘度変化は、スクリューを介してトルクメータによる回転トルクの経時変化を通して観測する。上記「混合組成物の粘度変化がなくなるまで」とは、上記混合組成物の粘度変化がない状態となるまで行うことを意味する。上記「混合組成物の粘度変化がない状態」とは、回転トルクの値の変動が一定時間以上中心値から5%以内にある状態を意味する。
上記「一定時間」は、例えば、10分とすれば充分である。
上記溶融混練に要する時間は、後述の溶融混練を行う温度、上記混合組成物の混合比率、スクリュー形状等により変わり得るが、一般的には2分以上である。
上記溶融混練に要する時間は、経済性と生産性の点で、上限を例えば10分とすることができ、例えば、末端官能基を17個有するTFE/FTE共重合体と、末端が全て活性基であるTFE/HFP共重合体とを質量比90:10の割合で混練する場合、390℃でおよそ4〜9分であり、上記混練にラボプラストミル型二軸押出機(東洋精機社製)を用いた場合、およそ2.5〜5分の通過時間に相当する。上記通過時間は、バッチ式の混練機を用いて粘度の経時変化を予め測定しておき、その経時変化のデータに基づき設定される。
上記溶融混練工程において、溶融混練は、シリンダー内におけるTFE/FTE共重合体とTFE/HFP共重合体との混合組成物の温度を350〜395℃に制御し、押出成形機を用いて行うものである。混練温度が上記範囲内であると、成形時に成形体表面の平滑化が容易なフッ素樹脂組成物を得ることができる。上記混練温度の好ましい下限は、360℃である。
上記溶融混練工程において、上記押出成形機のシリンダー内における温度は、上記混合組成物を入れない状態下に制御条件を入力したのち、安定状態で、一定内径シリンダーの10%以上の長さにわたって熱電対を複数用いて測定を行い目的の温度にあることを確認することにより制御することができる。
上記溶融混練工程には、混練効果の高いスクリューを備えた一軸型の押出成形機を用いてもよいが、二軸型の押出成形機を用いることがより好ましい。
二軸型の押出成形機を用いる場合であっても、スクリューの構成は充分な混練効果を備えつつ、混合組成物に過剰な剪断力を与えないものを選択することが望ましい。
剪断速度は、上述の温度範囲において、上記混合組成物の組成比率に応じて設定することが好ましい。
上記溶融混練工程において、用いる上記TFE/FTE共重合体及び上記TFE/HFP共重合体としては、重合上がりの粉体が好ましく、上記粉体としては、粒子径の小さいものが好ましい。これは、溶融混練に先立ちフッ素含有ガスにより後述のように末端官能基の数の調整を行う際、処理を容易に行うためだけでなく、均一な溶融混練状態を得るためである。上記重合上がりの粉体とは、重合反応終了後に乾燥を経て得られた粉体である。
上記溶融混練工程に先立ち、上記TFE/FTE共重合体の粉体と上記TFE/HFP共重合体の粉体とを、加熱せずに混合しておくことが好ましい。上記粉体の混合は、従来公知の装置を用いて行うことができる。
上記溶融混練工程に先立ち、上記TFE/FTE共重合体及び上記TFE/HFP共重合体は、末端官能基の数の調整を行ったものであることが好ましい。上記末端官能基の数の調整は、耐オゾン性に優れた成形体を得ることを可能にするカップリング体を溶融混練において生成する程度に末端官能基の数を保ちつつ、溶融混練において混合組成物にかかる剪断力の過度の上昇とそれに伴う低分子量体の発生を抑制する程度に末端官能基の数を抑えるためのものである。
上記末端官能基の数の調整は、上記末端官能基の数が上記TFE/FTE共重合体の炭素数及び上記TFE/HFP共重合体の炭素数の合計10個あたり4〜100個であるように行うものであることが好ましい。より好ましい上限は、70個であり、更に好ましい下限は、50個である。上記末端官能基の数の調整は、テトラフルオロエチレン重合体を用いる場合、このテトラフルオロエチレン重合体についても溶融混練工程に先立ち行うことが好ましく、この場合、上記調整後の炭素数と末端官能基の数は、上記TFE/FTE共重合体と上記TFE/HFP共重合体と上記テトラフルオロエチレン重合体とを合わせたものについての値であることが好ましい。
上記末端官能基の数の調整は、上記末端官能基の数が、元来重合段階で0であるもの又は後述の末端官能基の不活性化により0になったもの(A)と、後述の末端官能基の不活性化を全く経ていないもの(B)とを混合することにより、見掛け上、数を調整することも可能であるが好ましくはない。なぜならば、溶融混練を行う際、上記(B)はカップリング反応により分子量の増大が生じ得るのに対して、上記(A)は主鎖分断による劣化のみが生じるので、結果として、低分子量体の発生量が多くなることを免れないからである。従って、上記末端官能基の数の調整は、分子間で均一になるように、上記TFE/FTE共重合体と上記TFE/HFP共重合体と上記テトラフルオロエチレン重合体との混合組成物に対して一様に行うことが好ましい。
本発明のフッ素樹脂組成物製造方法における上記精製工程は、上記溶融混練工程により生じた低分子量体を除去することにより、本発明のフッ素樹脂組成物が均一な組成を有するように行うものである。
上記精製工程において、上記フッ素含有ガスは、フッ素を5質量%以上含有するものである。好ましい下限は、10質量%であり、より好ましい下限は、20質量%である。上記フッ素含有ガスは、上記範囲内であればフッ素を100質量%以下含有するものであってもよく、フッ素ガスそのものであってもよい。
上記精製工程における精製処理は、上記溶融混練工程により得られた押出物を上記フッ素含有ガスに曝露させて低分子量体を分解除去することよりなるものである。上記精製処理は、上述のように低分子量体を除去することとともに、後述する末端官能基の不活性化をも行い得る場合がある。
上記低分子量体の除去は、欧州特許第472908号明細書(1992年)、特開平04−085305号公報、及び、特許3006049号公報に開示されているように、クロロフルオロカーボン類等の含フッ素溶媒を用いて行うこともできるが、工程が煩雑になるので、上述のフッ素含有ガスを用いる方法が好ましい。
上述の溶融混練工程及び上述の精製工程を経て得られた本発明のフッ素樹脂組成物は、溶融成形に供されるものであるが、成形条件によっては、残存する末端官能基に起因する発泡が発生することがある。従って、溶融成形時に上記発泡を抑制するためには、上述の溶融混練工程ののち、残存している末端官能基を不活性化しておくことが好ましい。
上記末端官能基の不活性化の方法としては特に限定されず、例えば、上記フッ素含有ガスに曝露することにより末端をトリフルオロメチル基に変化させる方法、アニリンのメタノール溶液に浸漬したのち、オートクレーブ内で高温高圧下で処理することによりフェニル基に置換する方法等が挙げられるが、高温下での成形において分解しない末端に変えるものであれば、その手法は限定されない。
本発明のフッ素樹脂組成物は、上述のような組成を有し、上述のような製造方法によって製造されるものであるので、耐オゾン性と表面平滑性とに優れた成形体を得ることが可能である。
本発明のフッ素樹脂組成物がこのように優れた効果を奏する機構としては、明確ではないが、以下のように考えられる。即ち、本発明のフッ素樹脂組成物は、フッ素含有ガスを用いた精製処理を行うことにより低分子量体を除去することができるものであるので、金型等の外的物体により律されないチューブの内表面等の表面を有する成形体を得る場合であっても、成形体表面に低分子量体がブリードアウトしにくく、得られる成形体の表面平滑性が向上するものと考えられる。
本発明のフッ素樹脂組成物は、更に、上述のように溶融混練において、末端官能基間のカップリング反応を制御することにより低分子量体が生成しにくいものであり、仮に低分子量体が生じたとしても上記溶融混練の後に上記フッ素含有ガスを用いた精製処理を行うことにより低分子量体を除去することができる。
本発明のフッ素樹脂組成物は、また、オゾン分解を受け難いTFE/HFP共重合体成分からなるものであるので、オゾン曝露を行った後における成形体の耐クラック性等の低下を抑制し軽微にすることができる。
本発明のフッ素樹脂組成物は、また、フッ素含有ガスを用いた精製処理の後、残存している末端官能基を不活性化したものであってもよい。末端官能基の不活性化により、成形体を得るために溶融成形を行う際、末端官能基の分解及び/又は末端官能基のカップリング反応に伴う発泡を抑止することができ、得られる成形体の表面平滑性の向上に寄与するものと考えられる。
上述のフッ素樹脂組成物から得られたものであることを特徴とする成形体もまた、本発明の一つである。
上記成形体からなる半導体製造装置であって、オゾンを10体積%以上含有するオゾン含有媒体を60℃以上で使用するものであることを特徴とする半導体製造装置もまた、本発明の一つである。
オゾン含有媒体としては特に限定されず、オゾン水等の液体であってもよいし、オゾン含有ガス等の気体であってもよい。
半導体製造装置で用いられる成形体としては特に限定されないが、例えば、チューブ等が挙げられる。
上述のフッ素樹脂組成物から得られるチューブは、耐オゾン性が高いことから、含オゾン水又は含オゾンガス等のオゾン含有媒体を用いる半導体製造装置に用いた場合、既存のフッ素樹脂製のチューブに比べ耐久性が高いので、装置のメンテナンスの頻度を下げ、装置の稼働率を高め、更にメンテナンスに要するコストを削減することができ、より安価な半導体の製造に寄与する。また、本発明のフッ素樹脂組成物から得られるチューブは、内面の平均粗さ〔Ra〕及び最大粗さ〔Rt〕が低いものであるので、表面平滑性、耐摩耗性に優れ、半導体製造工程における研磨ラインに使用した場合でも耐久性が高く、より安価な半導体の製造に資することができる。
上記成形体からなる半導体製造装置であって、粒子含有スラリーを15℃以上で使用するものであり、上記粒子含有スラリーは、アルミナ及び/又はシリカからなる粒子を含有するものであることを特徴とする半導体製造装置もまた、本発明の一つである。
上述のフッ素樹脂組成物から得られたものであることを特徴とする円筒状成形物用継手もまた、本発明の一つである。
上記円筒状成形物用継手は、円筒状成形物同士を接合したり、円筒状成形物とその他の部材とを接合したりする部材である。
上記円筒状成形物用継手によって接合される上記円筒状成形物は、上記円筒状成形物用継手と同様にフッ素樹脂組成物からなるものであることが好ましく、継ぎ目がなく円筒状のものであれば、厚みの厚薄、長さの長短、断面形状等の寸法的な制約はなく、上記フッ素樹脂組成物を使用することにより物性面での優位性を示すことができるものであれば、用途は特に限定されない。上記円筒状成形物としては、熱収縮チューブ、厚肉チューブ等様々な形状のものが挙げられ、半導体製造装置に用いることが好適である。
上記円筒状成形物は、TFE/FTE共重合体のみを用いて得られた円筒状成形物に比較して、優れた表面平滑性、耐クラック性、耐オゾン性を示す。
上記円筒状成形物用継手として、上記フッ素樹脂組成物を用いないと、表面平滑性に劣るので、研磨剤を含有するスラリーを送液した場合には、継手部で集中的な摩耗が生じ、次いで摩耗により生じた歪みから円筒状成形物内面にも通常以上の摩擦がスラリーとの間で新たに生じ、所望の耐摩耗性を発揮し得ないことがある。
上記フッ素樹脂組成物から得られた被覆材により電線が被覆されてなることを特徴とする被覆電線もまた、本発明の一つである。
上記フッ素樹脂組成物は、上述のように上記溶融混練を行う前のTFE/HFP共重合体よりも低い融解熱量を示すので、高速でフッ素樹脂被覆電線を製造することができる。上記フッ素樹脂組成物は、また、溶融粘度が低いので、TFE/HFP共重合体のみを用いて得られた被覆電線に比べて、成形加工性に優れている。また、TFE/FTE共重合体成分を含有するのでTFE/HFP共重合体のみを用いて得られた被覆電線に比べて、高温でより高い体積抵抗率を示す。
本発明のフッ素樹脂組成物から得られた成形体は、一般に、TFE/FTE共重合体のみを用いて得られた成形体に比べて成形体表面に生成する球晶が小さなものとなる。球晶が小さくなることは、粒界の面積が小さくなることを意味し、粒界の大きさが小さくなることにより応力の局所集中が少なくなり、疲労破壊に対する耐久性や耐屈曲性が向上するものと考えられ、上記被覆電線等への利用に好適である。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例1におけるスラリー送液試験後の測定用チューブ成形体内表面の電子顕微鏡像である。
図2は、比較例1におけるスラリー送液試験後の測定用チューブ成形体内表面の電子顕微鏡像である。
図3は、比較例5において、オゾン曝露試験後クラックを生じた継手の厚み方向の断面図である。
【符号の説明】
1 曝露表面
2 クラック影
3 バルク
【発明を実施するための最良の形態】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
表1に示す通りの組成比にて予め粉体混合しTFE/FTE共重合体(メルトフローレート〔MFR〕=2.0g/10分)とTFE/HFP共重合体(MFR=1.9g/10分)とからなる混合組成物を素原料として用いた。上記混合組成物における末端官能基の数は、TFE/FTE共重合体及びTFE/HFP共重合体の合計炭素数10個あたり17個であった。φ15mmのスクリューを備えた二軸型溶融混練機を用いて、上記混合組成物の温度を380〜390℃の範囲に保って混練、次いで押出を行い、ペレット状の押出物を得た。得られた押出物をオートクルーブ内で20質量%のフッ素含有ガスに185℃で2時間曝露することにより精製処理し、フッ素樹脂組成物を得た。
得られたフッ素樹脂組成物の分子量分布〔MWD〕は1.45であり、精製処理を行う前の値である1.63に比べて減少したほか、MFRも精製処理を行う前の値である2.1(g/10分)から精製処理後は1.7(g/10分)へと低下した。上記MWDの減少と上記MFRの低下を以って上記押出物から低分子量体の除去が行われたと判断した。このとき赤外線分光法にて確認されたフッ素樹脂組成物に含まれる末端官能基の数は、炭素数10個あたり4〜10個の間であった。
上記MFRについては、ASTM D 3307(1998年)に準拠して372℃にて荷重5kgで測定した。
得られたペレット状のフッ素樹脂組成物を原料とし、熱板温度360℃にて溶融圧縮成形を行い厚さ2mmのシートを得、得られたシートを370℃に予熱したオーブン内に2時間静置した際の発泡の有無を目視で確認したが発泡は見られなかった。
上記フッ素樹脂組成物を用いて、測定用チューブ成形体及びシートを成形し、以下の評価を行った。
表面粗さ
フッ素樹脂組成物を用いて上述の製法により成形した測定用チューブ成形体の内面の平均粗さ〔Ra〕及び最大粗さ〔Rt〕を、JIS B 0601に準拠して測定した。
スラリー送液試験
上記測定用チューブ成形体にスラリー(粒子:アルミナ、濃度50g/L)を、流速10L/分、温度25℃で800時間流通させた。スラリー送液前後の、測定用チューブ成形体の内面を電子顕微鏡を用いて観察した。結果を図1に示す。内表面に付着した粒子は少なく、また、傷等は見られなかった。
【実施例2】
実施例1の素原料100質量部に対して0.8質量部のテトラフルオロエチレン重合体(共単量体:HFP、0.08質量%、融解熱量45J/g、分子量約180万)を添加した以外は実施例1と同じ方法によりフッ素樹脂組成物を得、スラリー送液試験以外の評価を行った。
【実施例3】
得られた押出物をフッ素含有ガスに曝露をしなかった以外は実施例1と同じ方法によりフッ素樹脂組成物を得、スラリー送液試験以外の評価を行った。
比較例1
素原料としてTFE/FTE共重合体樹脂のみを用いた以外は、実施例1と同じ方法によりフッ素樹脂組成物を得、同様の評価を行った。スラリー送液試験前後の測定用チューブ成形体内面の電子顕微鏡像を図2に示す。実施例1で得られたチューブに比べてより顕著に筋状の摩耗痕が観察された。
比較例2
溶融混練において混合組成物の温度が405℃になるように設定した以外は、実施例1と同じ方法によりフッ素樹脂組成物を得、スラリー送液試験以外の評価を行った。


表1から、実施例1〜3は、比較例1〜2に比べて測定用チューブ成形体の内面の平均粗さ及び最大粗さが小さいことがわかった。
【実施例4】
混合組成物におけるTFE/HFP共重合体成分率を50質量%にした以外は実施例1と同じ方法により溶融混練、次いでフッ素含有ガスを用いた処理を行い、フッ素樹脂組成物を得た。得られたフッ素樹脂組成物に対して、DSCを用いて292℃付近の吸熱ピーク面積から融解熱量測定を行った。また、上記フッ素樹脂組成物をシリンダー径φ30mm、スクリューL/D=22、ダイ/チップ=φ13mm/φ7mm、押出し温度340℃〜395℃、スクリュー回転数48rpm、引取り速度61m/分で溶融押出成形したところ、0.3mmの被覆厚みを有する電線被覆物を得た。得られた電線被覆物の誘電率及び誘電正接をASTM D 150(1987年)に準拠して測定周波数10Hzにて測定した。
上記融解熱量、上記誘電率及び上記誘電正接の測定結果、並びに、上記電線被覆物を得る際の引取り速度を表2に示す。
電線被覆物の成形速度は下記比較例3のそれに比べ1.2倍程度であり、生産性の向上が確認された。
また、得られた電線被覆物の120℃における体積抵抗率は、1×1018Ω・cm以上であり、通常のTFE/HFP共重合体の体積抵抗率(1017Ω・cm以下)に比べて、絶縁性の点でより優れていることが分かった。
比較例3
TFE/FTE共重合体ペレットのみを用いて、実施例4で製造したものと同じ被覆厚みとなるように電線被覆物を製造し、実施例4と同様の評価方法により評価を行った。
結果を表2に示す。

表2から、TFE/HFP共重合体を添加した実施例4は、添加しない比較例3に比べ同等の電気特性を有しながら、融解熱量が低いフッ素樹脂組成物が得られることがわかった。
【実施例5】
TFE/FTE共重合体(MFR=3.5〜8.5g/10分)とTFE/HFP共重合体(MFR=4.3〜8.7g/10分)とからなる混合組成物を素原料とした以外は実施例1と同じ方法により得られたフッ素樹脂組成物を用い、実施例1において得られた測定用チューブ成形体2本を接続しうる継手を射出成形により得た。上記測定用チューブ成形体2本を上記継手と接続し得られたセットを薬液循環ラインに組み込み、実施例1と同じ条件でスラリー送液試験を行った。スラリー送液試験後の継手内面を、電子顕微鏡を用いて観察したところ、継手部近辺には、アルミナの沈降や付着は見られず、継手やチューブに顕著な摩耗は見られなかった。
比較例4
実施例1において得られた測定用チューブ成形体2本に、比較例1の組成物から得られた継手を接続し得られたセットを実施例5と同じ薬液循環ラインに組み込み、実施例5と同様のスラリー送液試験を行った。スラリー送液試験後の継手内面の電子顕微鏡を用いて観察したところ、継手内面にアルミナの堆積が見られ、アルミナ堆積部分の周囲に筋状の摩耗痕が見られた。
【実施例6】
実施例5で得られた継手に対しオゾン曝露試験を行った。オゾン曝露試験後の継手断面には図3に見られるようなクラックは観察されなかった。
オゾン曝露試験
オゾン曝露試験は、直列につないだ内径50mmのパイプ内に上記継手を静置し、オゾン発生装置(商品名:SGX−A11MN、住友精密社製)を用い、オゾンガス濃度12体積%のウェットガスを流量0.7L/分で210日間パイプ内に流通することにより行った。なお、上記ウェットガスは、ドライオゾンガスをイオン交換水のトラップに通すことにより得た。
比較例5
比較例1の組成物から得られた継手に対して、実施例6と同様のオゾン曝露試験を行った。オゾン曝露試験後の継手断面には図3に見られるようなクラックが観察された。
【産業上の利用可能性】
本発明のフッ素樹脂組成物は、上述の構成よりなるので、TFE/FTE共重合体が元来有する、優れた耐熱性と電気特性を保持しながら、耐オゾン性及び表面平滑性に優れた成形体を得ることができる。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体とテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体とからなるフッ素樹脂組成物であって、
前記テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体は、前記テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体と前記テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体との合計固形分質量の0.5〜60質量%であり、
前記フッ素樹脂組成物からなる測定用チューブ成形体は、その内面について、平均粗さ〔Ra〕が0.035μm以下であり、最大粗さ〔Rt〕が0.3μm未満である
ことを特徴とするフッ素樹脂組成物。
【請求項2】
テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体と溶融混練を行うものである請求の範囲第1項記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項3】
フッ素含有ガスを用いた処理を行ったものである請求の範囲第1又は2項記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項4】
フッ素含有ガスを用いた処理は、フッ素含有ガスを用いた精製処理からなるものである請求の範囲第3項記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項5】
分子量分布が1.0〜2.2である請求の範囲第1、2、3又は4項記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項6】
−CF−CHOH、−CONH、−COOH及び−COFからなる群より選択される少なくとも1つの末端官能基が炭素数10個あたり10個未満であり、
前記末端官能基は、テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体の分子鎖末端及び/又はテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体の分子鎖末端に存在するものであり、
前記炭素数は、前記テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体の炭素数及び前記テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体の炭素数の合計である請求の範囲第1、2、3、4又は5項記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項7】
テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体は、メルトフローレートが9(g/10分)以下であるものであり、
テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体は、メルトフローレートが9(g/10分)以下であるものである請求の範囲第1、2、3、4、5又は6項記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項8】
テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体は、メルトフローレートが1.0〜3.5(g/10分)であるものであり、
テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体は、メルトフローレートが0.5〜3(g/10分)であるものである請求の範囲第1、2、3、4、5又は6項記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項9】
テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体とテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体と、更に、テトラフルオロエチレン重合体とからなる請求の範囲第1、2、3、4、5、6、7又は8項記載のフッ素樹脂組成物であって、
前記テトラフルオロエチレン重合体は、前記フッ素樹脂組成物の固形分質量の0.2〜5質量%であるフッ素樹脂組成物。
【請求項10】
テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体とテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体とからなる混合組成物の溶融混練を行う溶融混練工程と、フッ素含有ガスを用いた精製処理を行う精製工程とをこの順で有する請求の範囲第1、2、3、4、5、6、7又は9項記載のフッ素樹脂組成物を製造するためのフッ素樹脂組成物製造方法であって、
前記溶融混練は、シリンダー内における前記混合組成物の温度を350〜395℃に制御した押出成形機を用いて前記混合組成物の粘度変化がなくなるまで行うものであり、
前記フッ素含有ガスは、フッ素を5質量%以上含有するものであり、
前記精製処理は、前記溶融混練工程により得られた押出物を前記フッ素含有ガスに曝露させて低分子量体を分解除去することよりなるものである
ことを特徴とするフッ素樹脂組成物製造方法。
【請求項11】
テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体及びテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体は、末端官能基の数の調整を行ったものであり、
前記末端官能基の数の調整は、前記末端官能基の数が前記テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体の炭素数及び前記テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体の炭素数の合計10個あたり4〜100個であるように行うものである
請求の範囲第10項記載のフッ素樹脂組成物製造方法。
【請求項12】
請求の範囲第1、2、3、4、5、6、7、8又は9項記載のフッ素樹脂組成物から得られたものである
ことを特徴とする成形体。
【請求項13】
請求の範囲第12項記載の成形体からなる半導体製造装置であって、
オゾンを10体積%以上含有するオゾン含有媒体を60℃以上で使用するものである
ことを特徴とする半導体製造装置。
【請求項14】
請求の範囲第12項記載の成形体からなる半導体製造装置であって、
粒子含有スラリーを15℃以上で使用するものであり、
前記粒子含有スラリーは、アルミナ及び/又はシリカからなる粒子を含有するものである
ことを特徴とする半導体製造装置。
【請求項15】
請求の範囲第1、2、3、4、5、6、7、8又は9項記載のフッ素樹脂組成物から得られたものである
ことを特徴とする円筒状成形物用継手。
【請求項16】
請求の範囲第1、2、3、4、5、6、7、8又は9項記載のフッ素樹脂組成物から得られた被覆材により電線が被覆されてなる
ことを特徴とする被覆電線。

【国際公開番号】WO2004/052987
【国際公開日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【発行日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−558450(P2004−558450)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015761
【国際出願日】平成15年12月10日(2003.12.10)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】