説明

フツリン酸ガラス、精密プレス成形用プリフォーム、光学素子ブランクおよび光学素子とそれら製造方法

【課題】揮発性および侵蝕性が低減されたフツリン酸ガラスを提供する。
【解決手段】 リン成分をP5+に換算して30〜50カチオン%含み、核磁気共鳴スペクトルにおける31Pの基準周波数近傍に生じる共鳴スペクトルの形状がガウス関数形状であることを特徴とするフツリン酸ガラスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ、プリズム、フィルターなどの光学素子材料として好適なフツリン酸ガラスならびに前記ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム、光学素子ブランク、光学素子とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フツリン酸ガラスは、分散が低く、異常分散性を備え、可視域の広い範囲にわたり高い光線透過率が得られるなどの性質から需要が高い。低分散性、異常分散性は色収差を補正に有効であり、優れた高い光線透過性は撮像光学系を構成する光学素子材料のみならず、近紫外光など短波長の光を導光するための光学素子材料としても有効であり、銅イオンを含有させることにより近赤外光をカットするフィルター機能を付与することができ、半導体撮像素子の色補正フィルター材料としても有効である。このようにフツリン酸ガラスが特許文献1、2に記載されている。
【0003】
このようにフツリン酸ガラスは有用な光学材料であるが、高温状態で著しい揮発性を示すため、熔融ガラスからガラス成形体を製造する際に脈理が生じやすく、高品質のガラスを安定して生産することが難しい。また、熔融状態のガラスから揮発成分が時間とともに失われるので、屈折率などの光学特性が変化しやすいという問題もある。
【0004】
こうした問題を解決するため、熔融ガラスから揮発性物質を十分揮発させ、当該物質の揮発が低減した時点で急冷してガラスを得る方法が特許文献2に記載されている。
【0005】
この方法は、再熔融の前後におけるガラスの屈折率差を所定範囲内にすることにより、所要の目的を達成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−139454号公報
【特許文献2】特開2007−76958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に開示されている発明は、フツリン酸ガラス固有の問題を解決する非常に優れた技術であるが、以下の観点からさらなる改善が望まれる。
【0008】
フツリン酸ガラスの熔融では、熔融容器の溶け込みを低減するため、耐蝕性に優れた白金系坩堝が用いられている。しかし、白金を使用しても熔融ガラスにより白金容器が僅かに侵蝕され、白金イオンがガラスに溶け込む。原料を熔融する工程やガラスを清澄する工程ではガラスの温度が高いので、ガラス中の白金はイオンとして溶け込んでいるが、ガラスを流出に適した温度域まで降温すると、溶け込んでいた白金イオンが粒子として析出しはじめる。フツリン酸ガラスは、白金イオンの溶解度が低いため、特に白金粒子が析出しやすい。析出した白金粒子は異物として、ガラスを透過する光の散乱源になり、光学素子としての性能を低下させたり、強い光を当てたときにおきるガラスの破壊の起点となる。
【0009】
こうした問題を解消するには、揮発性の低減に加え、侵蝕性を抑制することが望まれる。
【0010】
本発明はこうした事情に鑑みなされたものであり、高品質のフツリン酸ガラスならびに光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するため、
(1)リン成分をP5+に換算して30〜50カチオン%含み、核磁気共鳴スペクトルにおける31Pの基準周波数近傍に生じる共鳴スペクトルの形状がガウス関数形状であることを特徴とするフツリン酸ガラス。
(2)P5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+が3.5以上である上記(1)項に記載のフツリン酸ガラス。
(3)カチオン%表示で
5+ 30〜50%、
Al3+ 1〜30%、
Mg2+ 0〜15%、
Ca2+ 0〜15%、
Sr2+ 0〜15%、
Ba2+ 0〜40%、
(ただし、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+の合計含有量が20%以上)
Li 0〜30%、
Na 0〜10%、
0〜10%、
3+ 0〜5%、
La3+ 0〜5%、
Gd3+ 0〜5%、
Yb3+ 0〜5%、
3+ 0〜5%、
Zn2+ 0〜15%、
In3+ 0〜5%、
を含有し、アニオン成分として、
20〜50%、
2− 50〜80%
を含有することを特徴とする上記(1)項または(2)項に記載のフツリン酸ガラス。
(4)アッベ数νdが68〜75である上記(1)〜(3)項のいずれかに記載のフツリン酸ガラス。
(5)屈折率ndが1.52〜1.61である上記(1)〜(4)項のいずれかに記載のフツリン酸ガラス。
(6)内部に含まれる粒径が10μm以上の金属粒子の数密度が5個/cm未満である上記(1)〜(6)項に記載のフツリン酸ガラス。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載のフツリン酸ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム。
(8)上記(1)〜(6)のいずれかに記載のフツリン酸ガラスからなる光学素子ブランク。
(9)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の光学ガラスからなる光学素子。
(10)上記(7)に記載のプリフォームを加熱し、プレス成形型を用いて精密プレス成形する光学素子の製造方法。
(11)上記(8)に記載の光学素子ブランクを研削、研磨する光学素子の製造方法。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光学的均質性に優れ、異物を含まないフツリン酸ガラスと当該ガラスからなる光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】フツリン酸ガラスのモル比O2−/P5+の変化に対する屈折率変化量Δndの変化および金属粒子(白金異物)の数密度の変化を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例1のフツリン酸ガラスNo.3(モル比O2−/P5+=3.5)の31P核磁気共鳴スペクトルである。
【図3】図2の31P核磁気共鳴スペクトルをガウス関数でフィッティングしたものである。
【図4】比較フツリン酸ガラス(モル比O2−/P5+=3.0)の31P核磁気共鳴スペクトルである。
【図5】図4の31P核磁気共鳴スペクトルをガウス関数でフィッティングしたものである。
【図6】本発明の実施例3で用いた精密プレス成形装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[フツリン酸ガラス]
先ず、本発明のフツリン酸ガラスについて説明する。
【0015】
フツリン酸塩ガラスの原料としては、一般にリン酸塩が用いられているが、アニオン成分としてフッ素(F)の導入量をなるべく多くするために、リン酸塩としては、リン(P5+)1原子に対する酸素(O2−)原子数の比(酸素原子/リン原子)が小さい、メタリン酸塩(酸素原子/リン原子=3)が用いられている。
【0016】
しかし、メタリン酸塩を用いてガラスを作製した場合、熔融ガラス中にリンおいて、原料に由来するメタリン酸とフッ素が反応することにより、揮発成分としてフッ化ホスホリル(POF)が発生すると考えられる。これに対して、熔融ガラス中のリン1原子当たりの酸素原子の原子比を3.5以上(酸素原子/リン原子≧3.5)に調整すると、揮発成分の発生量が大幅に低減することが判明した。これは、熔融ガラス中に存在するリン酸として、リン(P5+)1原子に対する酸素(O2−)原子数の比(酸素原子/リン原子)が3であるメタリン酸よりも、リン(P5+)1原子に対する酸素(O2−)原子数の比(酸素原子/リン原子)が3.5である2リン酸の方が安定であるためと考えられる。
【0017】
フツリン酸ガラス中のP5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+を3.5以上に制御することによって、揮発成分の発生自体が抑制され、熔融ガラスの反応性、侵蝕性も低減することができる。
【0018】
こうした手法によりフツリン酸ガラスとしては反応性、侵蝕性が極めて低いレベルに抑制されたガラスは、従来のガラスと構造が異なると考えられる。
【0019】
ガラスはアモルファス構造を有し、一般にその構造は等方的と考えられるが、揮発性および侵蝕性をもたらす生成物が存在すると、ガラス構造に僅かな異方性が生じると考えられる。
【0020】
こうした考えを裏付けるため、ガラスの異方性を分析する手法として一般的な核磁気共鳴法を用い、31Pの核磁気共鳴スペクトルを測定した。その結果、揮発性と侵蝕性がともに極めて低レベルにまで抑制されたガラスと従来のガラスとの間で、スペクトルに明瞭な違いが見られた。
【0021】
核磁気共鳴法ではガラス試料を外部磁場の方向と直交する軸のまわりに回転して測定を行う。核磁気共鳴スペクトルは化学シフトを横軸、核磁気共鳴信号の強度を縦軸としたグラフとして描かれる。異方性の大小により、得られたスペクトル形状の対称性が変化する。揮発性、侵蝕性がともに抑制されたガラスでは、上記スペクトルの形状がガウス関数形状になるのに対し、揮発性、侵蝕性がともに抑制されていないガラス、あるいは揮発性は抑制されているが侵蝕性が抑制されていないガラスでは、上記スペクトルの形状はガウス関数形状とはならず、スペクトルのピークに対して非対称形状となる。したがって、揮発性および侵蝕性がより一層抑制されたフツリン酸ガラスを得るには、31Pの核磁気共鳴スペクトルの形状がガウス関数形状になるようにすればよい。
【0022】
本発明のフツリン酸ガラスは、リン成分をP5+に換算して30〜50カチオン%含み、核磁気共鳴スペクトルにおける31Pの基準周波数近傍に生じる共鳴スペクトルが単一のガウス関数によって表される形状を有することを特徴とするものである。
【0023】
ここで、31Pの基準周波数近傍に生じる共鳴スペクトルとは、31Pの核スピンに由来する共鳴スペクトルのことであり、以下、単に共鳴スペクトルという。
【0024】
つまり、前記共鳴スペクトルは複数のガウス関数の合成形となる。例えば共鳴スペクトルの形状をピークの位置が異なる2以上のガウス関数に分解できる場合、共鳴スペクトルに肩(ショルダー)が現れたり、ピークが複数に分裂する。一方、ガラス構造の異方性が低減されて、ガラスの揮発性、侵蝕性がともに抑制されたガラスでは共鳴スペクトルの形状は、単一のガウス関数形状となる。
【0025】
図1は、モル比O2−/P5+の変化に対する屈折率変化量Δndの変化、および金属粒子の数密度の変化を示したものである。図1の横軸がモル比O2−/P5+、左側の縦軸が屈折率変化量Δnd、右側の縦軸がガラス中に含まれる粒径10μm以上の金属粒子の数密度である。屈折率変化量Δndは、原料を1時間熔解して得られた200gのサンプルの屈折率nd(nd(1h)という)と原料を3時間熔解して得られた200gのサンプルの屈折率nd(nd(3h)という)の差の絶対値であり、Δndが大きいほど揮発性が高い。また金属粒子の数密度が大きいほど侵蝕性が高い。
【0026】
モル比O2−/P5+が3.5以上になると揮発性が抑制されて屈折率変化量Δndが減少するとともに、侵蝕性も抑制されて金属粒子の数密度も減少する。
【0027】
そして、モル比O2−/P5+が3.5以上の範囲で、共鳴スペクトルの形状が単一のガウス関数形になるのに対し、モル比O2−/P5+が3.5未満の範囲では、共鳴スペクトルの形状が非ガウス関数形となる。したがって、共鳴スペクトルの形状がガウス関数形のフツリン酸ガラスによって、揮発性および侵蝕性の抑制を達成することができる。
【0028】
図2は、揮発性および侵蝕性が抑制された後述する実施例1のフツリン酸ガラスNo.3(モル比O2−/P5+が3.5)の共鳴スペクトルを示したもの、図3は、図2の共鳴スペクトルをガウス関数でフィッティングしたものである。
【0029】
また、図4は、揮発性および侵蝕性を示す後述する比較フツリン酸ガラス(モル比O2−/P5+が3.0)の共鳴スペクトルを示したもの、図5は、図4の共鳴スペクトルをガウス関数でフィッティングしたものである。
【0030】
図3より明らかなように、揮発性および侵蝕性がともに抑制されたフツリン酸ガラスの共鳴スペクトルの形状は単一のガウス関数で表される。一方、図5より明らかなように、揮発性および侵蝕性を示すフツリン酸ガラスの共鳴スペクトルの形状はピークの位置が異なる2つのガウス関数の合成によって表され、単一のガウス関数により表すことができない。
【0031】
なお、図2〜図5において、共鳴ピークの両側にそれぞれ2つのピークが認められるが、これらのピークはスピニングサイドバンドと呼ばれるもので、共鳴スペクトルの形状に直接影響しない。
【0032】
こうした揮発性、侵蝕性と核磁気共鳴スペクトルの対応関係は、P5+の含有量が30〜50カチオン%のフツリン酸ガラスに当てはまる。
【0033】
なお、共鳴スペクトル形状をガウス関数形状にするには、前述の理由から、ガラス製造にあたり、P5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+を3.5以上に制御すればよい。
【0034】
揮発性、侵蝕性をともに一層抑制する上からモル比O2−/P5+を3.51以上にすることがより好ましく、3.54以上にすることがさらに好ましく、3.55以上にすることが一層好ましい。
【0035】
本発明のフツリン酸ガラスにおいて、ガラス組成上、好ましいものは、
カチオン%表示で
5+ 30〜50%、
Al3+ 1〜30%、
Mg2+ 0〜15%、
Ca2+ 0〜15%、
Sr2+ 0〜15%、
Ba2+ 0〜40%、
(ただし、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+の合計含有量が20%以上)
Li 0〜30%、
Na 0〜10%、
0〜10%、
3+ 0〜5%、
La3+ 0〜5%、
Gd3+ 0〜5%、
Yb3+ 0〜5%、
3+ 0〜5%、
Zn2+ 0〜15%、
In3+ 0〜5%、
を含有し、アニオン成分として、
20〜50%、
2− 50〜80%
を含有するフツリン酸ガラスである。
【0036】
次に、各成分の働きと上記組成範囲の好ましい理由を説明するが、以下、カチオン成分の含有量、合計含有量は特記しない限り、カチオン%表示とし、アニオン成分の含有量、合計含有量は特記しない限り、アニオン成分表示とする。
【0037】
5+はガラス中でネットワークフォーマーとして働く重要な必須成分である。ガラスの安定性を確保する上からP5+の含有量を30%以上とする。一方、上記核磁気共鳴特性により揮発性抑制、侵蝕性抑制効果を得る上からP5+の含有量を50%以下とする。P5+の含有量を50%以下とすることは、モル比O2−/P5+を3.5以上にする上からも好都合である。P5+の量を50%以下とすると、モル比O2−/P5+を3.5以上に維持しつつ、O2−の量を少なくすることもできる。このことは、Fの増量が可能になることを意味し、Fの増量に伴い、分散を一層低くすることができることを意味する。このような観点から、P5+の含有量は30〜50%とする。P5+の含有量の好ましい範囲は30〜45%、より好ましい範囲は30〜40%である。
【0038】
Al3+はフツリン酸ガラスにおいて安定性を高めるための重要成分であり、1%未満ではガラスが不安定になりやすい。一方、30%を超えると他成分の合計量が少なくなりすぎるために逆に不安定になる。したがって、Al3+の含有量は1〜30%の範囲にすることが好ましい。
【0039】
Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+のようなアルカリ土類金属はガラスの安定性を高め、屈折率を上昇させる成分であり、その合計量を20%以上にすることで安定性に対する効果が高くなる。しかし、特定のアルカリ土類金属成分があまりに多くなると他の成分とのバランスが崩れるため、満遍なく導入することが好ましく、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+の少なくとも2種以上を導入することが好ましい。具体的にはMg2+を0〜15%、Ca2+を0〜15%、Sr2+を0〜15%、Ba2+を0〜40%含有させることが好ましく、Mg2+を1〜10%、Ca2+を1〜10%、Sr2+を1〜10%、Ba2+を10〜40%含有させることがより好ましい。
【0040】
Li、Na、Kのようなアルカリ金属はガラスの粘性、ガラス転移温度を低下させ、ガラスの製造を容易にすることができる成分であるが、過剰の導入は安定性を低下させる。そこでLiの量を0〜30%、Naの量を0〜10%、Kの量を0〜10%とすることが好ましい。アルカリ金属の中でもLiは安定性を高める効果も大きいため、Liを5%以上導入することがより好ましく、10%以上導入することがさらに好ましく、15%以上導入することが特に好ましい。
【0041】
3+、La3+、Gd3+、Yb3+などの希土類元素はガラスの低分散性を保ちつつ屈折率を高める成分であるが、過剰な導入は熔解温度を上昇させガラスの安定性も低下させてしまう。そのため、上記各成分の量をそれぞれ0〜5%とすることが好ましい。La3+、Gd3+、Yb3+はそれぞれ0〜1%とすることがさらに好ましく、含有しないことが特に好ましい。
【0042】
3+はガラスの耐久性を向上させる成分であるが、熔解中にフッ化物として揮発する傾向があるため、生産性を低下させる成分でもある。そのため導入量は0〜5%にすることが好ましく、0〜2%にすることがより好ましく、導入しないことがさらに好ましい。
【0043】
Zn2+、In3+はアルカリ土類金属と同様に容易にガラス中に導入できる特性を持ち、Zn2+やIn3+を導入して多成分にすることによる安定性の向上効果が期待できるが、過剰の導入は好ましくない。このため、Zn2+およびIn3+の導入量は、それぞれ0〜15%、0〜5%とすることが好ましく、それぞれ0〜10%、0〜3%とすることがより好ましく、Zn2+は0〜8%とすることがさらに好ましく、In3+は導入しないことが特に好ましい。
【0044】
なお、フツリン酸ガラスIは、低分散性、異常部分分散性などに加え、可視域において短波長から長波長にかけての広い範囲で光線透過率が高いという性質を有している。このような性質を利用してレンズ、プリズムなどの各種光学素子を得るための材料として適しているが、このような用途においては可視域に吸収を有するイオン、例えば、Fe、Cu、Ni、Co、Cr、Mn、V、Nd、Ho、Erといった金属元素のイオンを添加しないことが望ましい。
【0045】
一方、Cu2+を添加することにより近赤外線吸収特性を付与することができるため、近赤外線吸収ガラスを作る場合は、外割りでCu2+を0.5〜13%添加することが望ましい。Cu2+含有ガラスはCCDやCMOSなどの半導体撮像素子の色補正フィルター材料として好適である。Cu2+の添加量は、前記フィルターの厚さを考慮し、前記範囲内で適宜定めればよい。Cu2+含有ガラスの場合も、吸収特性を調整する場合を除き、Cu2+以外の可視域に吸収を有するイオンを添加しないことが望ましい。
【0046】
次にアニオン成分、アニオン添加物について説明する。本発明のフツリン酸ガラスの主要アニオン成分はFとO2−である。所要の低分散特性と優れたガラス安定性を実現する上から、Fを20〜50%、O2−を50〜80%導入することが好ましく、Fを20〜40%、O2−を60〜80%導入することがより好ましい。
【0047】
また、Cl、Br、Iは、少量導入することで、ガラスの製造時または流出時に使用する白金容器や白金製ノズル等の白金製品に、フツリン酸ガラスが濡れにくくなるために、ガラスの製造を容易に行うことが可能になる。Cl、Br、Iの過剰の導入は、成分揮発による屈折率変動と白金異物の発生を招くため、導入量は合計で0〜5%とすることが好ましい。さらに上記の観点から、Cl、BrおよびIの合計導入量を4%とすることがより好ましく、3%とすることがさらに好ましい。さらに、前記合計導入量の下限を0.01%とすることがより好ましく、0.05%とすることがさらに好ましく、0.1%とすることが一層好ましい。Cl、BrおよびIの合計導入量の上記上限と下限の任意の組合わせにより定められる範囲の各々が好ましいCl、BrおよびIの合計導入量の好ましい範囲と言える。こうした範囲の例としては、Cl、BrおよびIの合計導入量が0〜3%の範囲や0.1〜3%の範囲をあげることができる。
【0048】
なお、発明の目的を達成する上から、F、O2−、Cl、BrおよびIの合計量を98アニオン%以上とすることが望ましく、99アニオン%以上とすることがより望ましく、100アニオン%とすることがさらに望ましい。
【0049】
本発明のフツリン酸ガラスにおけるアッベ数νdの好ましい範囲は68〜75、より好ましい範囲は68〜73である。
【0050】
また、本発明のフツリン酸ガラスにおける屈折率ndの好ましい範囲は1.52〜1.61、より好ましい範囲は1.54〜1.61である。
【0051】
光学的に均質なガラスを熔融するには、熔融ガラスを均質化して流出する過程でガラスを蓄積する容器やガラスを導くパイプをガラス中に溶け出しにくい耐熱性材料、例えば白金や白金合金などの金属または合金で構成する。
【0052】
これら金属系の材料は上記性質を有するものの、前述のように熔融ガラスの温度低下に伴い、ガラス中に金属粒子として析出しやすい。特にフツリン酸ガラスは、金属イオンを溶解しにくく、こうした問題が顕著である。
【0053】
本発明のフツリン酸ガラスによれば、耐熱性金属系材料を侵蝕しにくいので、ガラス中に混入するこれら金属の量も大幅に抑制することができ、異物が極めて少ないフツリン酸ガラスを得ることができる。
【0054】
こうして得られるフツリン酸ガラスでは、内部に含まれる粒径が10μm以上の異物、例えば白金粒子または白金を含む粒子の数密度が5個/cm未満となる。前述の粒子は光線、例えば可視光を散乱する異物となり、光学素子の性能を低下させる。本発明によれば、光散乱源となる異物が大幅に低減もしくは存在しないので、高品質な光学ガラスを提供することができる。ガラス内部に含まれる粒径が10μm以上の異物の好ましい数密度は5個/cm未満、より好ましくは2個/cm未満である。
【0055】
本発明のフツリン酸ガラスは異常分散性を有する光学ガラスであって、高次の色補正用光学素子の材料としても好適である。
【0056】
次に、本発明のフツリン酸ガラスの製造方法について説明する。
【0057】
ガラス原料を調合し、熔解した後、清澄、均質化して光学ガラスを得るにあたり、ガラス原料中のP5+の合計含有量に対するO2−の合計含有量のモル比O2−/P5+が3.5以上であるものを用いる。好ましくは上記モル比O2−/P5+を3.50以上、より好ましくは3.51以上、さらに好ましくは3.54以上、一層好ましくは3.55以上とする。本発明によれば、熔融ガラスの揮発性が抑制されているので、ガラス中のP5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+とガラス原料中のP5+の合計含有量に対するO2−の合計含有量のモル比O2−/P5+とが等しくなる。ただし、上記ガラス原料中のO2−の合計含有量は、ガラスに導入される酸素の量であり、ガラス熔融中にCOガス、NOガス、酸素ガス、水蒸気等として熔融物外へ出て行く酸素の量を含まない。例えば、ガラス原料として、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物などを使用する場合、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物はガラス原料の加熱によって分解し、上記ガスを生成し、これらガスがガラス熔融物外へ出て行くため、前記ガス中に含まれる酸素はガラス化反応に寄与しない。また、ガラス原料中に結合水が存在する場合、ガラス原料の加熱によって結合水が脱離し、水蒸気となってガラス熔融物外へ出て行くため、水蒸気中の酸素もガラス化反応に寄与しない。したがって、上記ガスとなってガラス熔融物外へ出て行く酸素は、上記酸素の含有量から除外する。炭酸塩、硝酸塩、水酸化物を使用する場合、これら化合物に含まれるガラス成分となるカチオンと酸素からなる酸化物を考え、前記酸化物として上記化合物に含まれる酸素の量をガラスに導入される酸素の量と考えればよい。
【0058】
ここでガラス原料とは複数種の化合物を調合、混合した原料、所謂、バッチ原料や、カレットなどを含む。
【0059】
光学特性などが所望の値になるように、かつ、ガラス原料に含まれる酸素、リンの全量をP5+量およびO2−量に換算し、P5+の量に対するO2−の量のモル比O2−/P5+が3.5以上になるようにガラス原料の調合を行い、調合ガラス原料を熔融する。このようにすれば、ガラス中のP5+含有量に対するO2−含有量のモル比O2−/P5+を3.5以上に制御することができる。
【0060】
メタリン酸原料とフッ化物原料のみを用いて原料調合すると、ガラス原料に含まれる酸素、リンの全量をP5+量およびO2−量に換算し、P5+の量に対するO2−の量のモル比O2−/P5+は3となり、酸素量の不足により3.5に達しない。したがって、リンとは独立して酸素をガラスに導入できるよう、酸化物や硝酸塩などを併用することが望まれる。また、リン酸原料として一般的に使用するメタリン酸塩の一部または全部をピロリン酸塩に替えてもよい。ピロリン酸塩を使用する場合も酸化物や硝酸塩などを併用することが望まれる。なお、本発明によれば、熔融ガラスの揮発性が極めて低いレベルにまで抑制されるので、屈折率ndの公差が±0.00050以内、好ましくは±0.00020以内の光学ガラスおよび前記ガラスを製造する方法を提供することができる。そのため、後述する精密プレス成形用プリフォームや光学素子ブランク、光学素子の各物品を構成する光学ガラスの屈折率ndの公差も上記範囲内に収めることができる。
[精密プレス成形用プリフォーム]
次に、本発明の精密プレス成形用プリフォームについて説明する。
【0061】
本発明の精密プレス成形用プリフォームは、上記フツリン酸ガラスからなることを特徴とするものである。
【0062】
ここで精密プレス成形用プリフォームとは、精密プレス成形品の重量と等しい重量のガラスを、精密プレス成形に適した形状に予め成形したものを意味する。
【0063】
本発明の精密プレス成形用プリフォームは、精密プレス成形用として特に好適であり、精密プレス成形用プリフォームとして使用する際は、炭素膜などの離型膜をプリフォーム全表面に形成することが好ましい。
精密プレス成形用プリフォームの製造方法の代表的なものは次の2つである。
【0064】
第1の方法は、熔融ガラスをパイプから流出させて、所望重量の熔融ガラス塊を分離し、このガラス塊をガラスが冷却する過程でプリフォームに成形する方法である。
【0065】
この方法では、先ず、熔融ガラスをパイプから流出させる。例えば、通電加熱方式あるいは高周波誘導加熱方式、またはこれら2つの加熱方式を組合わせた加熱法により、所定温度に加熱した白金合金製あるいは白金製のパイプから、一定流量で連続して熔融ガラスを流出させる。
【0066】
次いで、流出した熔融ガラスからプリフォーム1個分の重量、あるいはプリフォーム1個分の重量に後述する除去分の重量を加えた重量の熔融ガラス塊を分離する。熔融ガラス塊の分離にあたっては、切断痕が残らないように、切断刃の使用を避けることが望ましく、例えば、パイプの流出口から熔融ガラスを滴下させたり、流出する熔融ガラス流先端を支持体により支持し、目的重量の熔融ガラス塊が分離できるタイミングで支持体を急降下して熔融ガラスの表面張力を利用して熔融ガラス流先端から熔融ガラス塊を分離する方法を用いることが好ましい。
【0067】
分離した熔融ガラス塊は、プリフォーム成形型の凹部上において、ガラスが冷却する過程で所望形状を有するプリフォームに成形する。その際、プリフォーム表面にシワができたり、カン割れと呼ばれるガラスの冷却過程における破損を防止するため、凹部上でガラス塊に上向きの風圧を加え浮上させた状態で成形することが好ましい。
【0068】
プリフォームに外力を加えても変形しない温度域にまでガラスの温度が低下してから、プリフォームを成形型から取り出して、徐冷する。
【0069】
プリフォームより製造される精密プレス成形品(例えば、光学素子)は、レンズのように回転対称軸を有するものが多いため、プリフォームの形状も回転対称軸を有する形状が望ましい。具体例としては、球あるいは回転対称軸を一つ備えるものを示すことができる。回転対称軸を一つ備える形状としては、前記回転対称軸を含む断面において角や窪みがない滑らかな輪郭線をもつもの、例えば上記断面において短軸が回転対称軸に一致する楕円を輪郭線とするものなどがあり、球を扁平にした形状(球の中心を通る軸を一つ定め、前記軸方向に寸法を縮めた形状)を挙げることもできる。こうした形状を有するプリフォームは、熔融ガラス塊を浮上状態で成形(回転対称軸を一つ備え、前記回転対称軸を含む断面において角や窪みがない滑らかな輪郭線をもつプリフォーム)、したり、熔融ガラス滴を浮上させながら回転して成形(球状プリフォームの成形)することにより作製することができる。
【0070】
さらに、回転対称軸を一つ備え、前記回転対称軸と表面との2つの交点の各々を中心とする2つの互いに対向する面のいずれか一方または両方に窪みを有する形状のプリフォームも好ましい。この場合、窪みの中心、すなわち、窪みの底部中心が回転対称軸とくぼみの交点となる。互いに対向する面の一方のみにくぼみを有するプリフォームは、凸メニスカスレンズや凹メニスカスレンズを精密プレス成形により作製する際に用いるプリフォームとして好ましく、互いに対向する面の両方にくぼみを有するプリフォームは、両凹レンズを精密プレス成形により作製する際に用いるプリフォームとして好ましい。精密プレス成形の際、上型および下型を備え、上型および/または下型の成形面が凸面であるプレス成形型内にプリフォームを導入し、プリフォームのくぼみを凸面である上型および/または下型の成形面の頂部で押さえ、プリフォームがプレス成形型内の中心位置に配置され、かつ、プレス成形型を移動する際に、前記プリフォームの配置がずれないようにすることができる。こうしたプリフォームは、プリフォーム成形用下型において熔融ガラス塊をプレス成形することにより作製することができる。この場合、プリフォーム成形用下型に熔融ガラス塊を供給し、ガラスがプレス成形に適した粘度になるまでガラス塊を浮上状態に保つ。ガラスがプレス成形に適した粘度になったときに、プリフォーム成形用下型上のガラス塊を上方からプリフォーム成形用上型でプレスし、プリフォーム成形用下型と上型の成形面の形状をガラス塊に転写する。プリフォーム成形用下型成形面には、ガラス塊に風圧を加えて浮上させるためのガスを噴出するガス噴出口が多数設けられている。プレス成形時、ガラスが前記ガス噴出口に進入しない程度のガス噴出圧力を調整する。このようにすることでガスがガラス中に進入し、プリフォーム中に泡が混入するのを防止することができる。プレス成形後、プリフォーム成形用上型をガラスから離し、ガラスの加圧を終了する。その後も、ガス噴出口からガスを噴出してガラスに風圧を加えて浮上させながら、ガラスの冷却を行い、プリフォーム成形用下型から取り出してプリフォームとする。こうすることで、プレス成形によりガラス表面にシワが生じても、プレス成形後の浮上によってガラス表面は高温のガラス内部から加熱され、シワが消失して滑らかな表面のプリフォームを得ることができる。なお、上記対向する面の一方にくぼみを形成したい場合は、プリフォーム成形用上型、下型の成形面の一方を凸面とし、プレス成形すればよい。その場合、ガラスの浮上とプレス成形を安定して行うため、プリフォーム成形用下型成形面を凹面とし、プリフォーム成形用上型成形面を凸面とすることが好ましい。また、上記対向する面の両方にくぼみを形成する場合は、プリフォーム成形用下型成形面およびプリフォーム成形用上型成形面をともに凸面とすることが好ましい。以上のように、従来のフツリン酸ガラスからなる高温のガラス塊をプリフォーム成形型で浮上保持したり、プレス成形すると、揮発物が型に付着して、ガス噴出口が詰ったり、プレス成形時に付着物がガラスに付着してガラス表面を汚染したり、プレス成形の精度が低下するなどの問題が生じていたが、本発明によれば、ガラスの揮発性が抑制されているため、こうした問題を解消することもできる。
【0071】
第2の方法は、熔融ガラスを鋳型に鋳込んでガラス成形体を作製し、該ガラス成形体を加工してプリフォームを作製する方法である。
【0072】
上記鋳型は成形形状に応じて適宜、公知のものを適用すればよい。例えば、平坦な底面とこの底面を3方向から囲む3つの側壁を備え、1つの側方が開口した鋳型を熔融ガラスを流出するパイプの下方に底面が水平になるように配置する。そして、鋳型の底面上にパイプから連続して流出する熔融ガラスを流し込み、側壁で囲まれた部分にガラスを満たしつつ、板状に成形する。成形したガラスを上記開口部より水平方向に一定スピードで引き出し、一定の幅と一定の厚みを有するガラス板を得る。引き出されたガラス板はそのままアニール炉内をゆっくりとしたスピードで通過することでアニールされる。アニールした
ガラス板は引き出し方向に対して垂直に切断し、所望長さのガラス板となる。
【0073】
上記鋳型の代わりに、貫通孔を有する鋳型を貫通孔が鉛直方向を向くように流出パイプの下方に配置し、貫通孔に熔融ガラスを連続的に流し込んでもよい。流し込まれたガラスは急冷されて棒状に成形され、貫通孔の下端開口部より一定スピードで下方に引き出される。鋳型から引き出されたガラス棒はガラスの転移温度近傍に加熱された雰囲気中を通過し、ガラス棒の表面と内部の温度を近づける操作をした後、水平方向に切断して所望長さのガラス棒となる。このようにして得られた板状あるいは棒状のガラス成形体を切断または割断によりガラス片に分割し、これらガラス片を研削、研磨してプリフォームを得る。
[光学素子ブランク]
次に本発明の光学素子ブランクについて説明する。
本発明の光学素子ブランクは、上記フツリン酸ガラスからなることを特徴とするものである。
【0074】
光学素子ブランクは、前述のように研削、研磨によって光学素子に仕上げられるガラス成形品であって、目的とする光学素子の形状に研削、研磨により除去する加工しろを加えた形状、すなわち、光学素子形状に近似した形状を有する。
上記光学素子ブランクの代表的な製造方法は2つある。
【0075】
第1の方法は、上記フツリン酸ガラスからなるプレス成形用ガラスゴブを加熱し、プレス成形する方法である。
【0076】
この方法では、加熱に先立ちガラス素材の表面に窒化ホウ素などの粉末状離型剤を均一に塗布し、耐熱性皿に載せて加熱軟化炉内に入れ、ガラスが軟化するまで加熱した後、プレス成形型に導入してプレス成形する。次にプレス成形品を型から取り出し、アニールして歪を除くとともに屈折率などの光学特性が所望の値になるように光学特性の調整を行う。このようにして光学素子ブランクを作製することができる。
【0077】
第2の方法は、ガラス原料を熔融し、得られた熔融ガラスを流出し、熔融ガラス流から熔融ガラス塊を分離して、この熔融ガラス塊をプレス成形する方法である。
【0078】
この方法では、均質化した熔融ガラスを窒化ホウ素などの粉末状離型剤を均一に塗布した下型成形面上に流出し、下端部が下型に支持された熔融ガラス流を途中でシアと呼ばれる切断刃を用いて切断する。こうして、所望質量の熔融ガラス塊を下型成形面上に得る。次に、熔融ガラス塊を載せた下型を別の位置に待機する上型の真下に移送し、上型および下型で熔融ガラス塊をプレスして光学素子ブランク形状に成形する。次にプレス成形品を型から取り出し、アニールして歪を除くとともに屈折率などの光学特性が所望の値になるように光学特性の調整を行う。このようにして光学素子ブランクを作製することができる。
【0079】
上記2つの方法ともに大気中で行うことができる。成形条件、プレス成形型の材質、加熱軟化炉および加熱、軟化する際にプリフォームを載せる皿などについては公知の条件やものを使用することができる。
【0080】
本発明によれば、脈理などの欠陥のない光学素子を作製できる光学素子ブランクを提供することができる。
[光学素子とその製造方法]
次に、本発明の光学素子について説明する。
【0081】
本発明の光学素子は、上記フツリン酸ガラスからなることを特徴とするものである。
本発明の光学素子によれば、低分散特性を活かした光学素子を提供することができる。
【0082】
光学素子の種類、形状などについては特に限定はないが、例えば、非球面レンズ、球面レンズ、マイクロレンズ、レンズアレイ、プリズム、回折格子、レンズ付きプリズム、回折格子付きレンズなどを挙げることができる。非球面レンズ、球面レンズの具体例としては、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、両凸レンズ、両凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなどを挙げることができる。
【0083】
用途の面からは、撮像系を構成する光学素子、例えば、デジタルカメラのレンズやカメラ付き携帯電話のカメラ用レンズ、あるいは光ピックアップレンズ、コリメータレンズ、光通信用レンズなどを挙げることができる。
光学素子の表面には、必要に応じて反射防止膜などの光学薄膜を形成してもよい。
【0084】
次に、本発明の光学素子の製造方法について説明する。
本発明の光学素子の製造方法は、2つの態様からなる。
【0085】
本発明の光学素子の製造方法の第1の態様(光学素子製法Iという)は、上記プリフォームを加熱し、プレス成形型を用いて精密プレス成形することを特徴とするものである。精密プレス成形はモールドオプティクス成形とも呼ばれ、当該技術分野において周知の方法である。光学素子において、光線を透過したり、屈折させたり、回折させたり、反射させたりする面を光学機能面(レンズを例にとると非球面レンズの非球面や球面レンズの球面などのレンズ面が光学機能面に相当する)というが、精密プレス成形によればプレス成形型の成形面を精密にガラスに転写することにより、プレス成形によって光学機能面を形成することができ、光学機能面を仕上げるために研削や研磨などの機械加工を加える必要がない。
【0086】
したがって、本発明の光学素子の製造方法は、レンズ、レンズアレイ、回折格子、プリズムなどの光学素子の製造に好適であり、特に非球面レンズを高い生産性のもとに製造する方法として適している。
【0087】
精密プレス成形に使用するプレス成形型としては公知のもの、例えば炭化珪素、ジルコニア、アルミナなどの耐熱性セラミックスの型材の成形面に離型膜を設けたものを使用することができるが、中でも炭化珪素製のプレス成形型が好ましく、離型膜としては炭素含有膜などを使用することができる。耐久性、コストの面から炭素含有膜としては特にカーボン膜が好ましい。
【0088】
精密プレス成形では、プレス成形型の成形面を良好な状態に保つため成形時の雰囲気を非酸化性ガスにすることが望ましい。非酸化性ガスとしては窒素、窒素と水素の混合ガスなどが好ましい。
【0089】
光学素子製法Iで用いられる精密プレス成形の態様として、以下、精密プレス成形IとIIの2つの態様を示す。
(精密プレス成形I)
精密プレス成形Iは、プレス成形型にプリフォームを導入し、プレス成形型とプリフォームを一緒に加熱し、精密プレス成形するものである。
【0090】
この精密プレス成形Iにおいて、プレス成形型と前記プリフォームの温度をともに、プリフォームを構成するガラスが10〜1012dPa・sの粘度を示す温度に加熱して精密プレス成形を行うことが好ましい。
【0091】
また上記ガラスが、好ましくは1012dPa・s以上、より好ましくは1014dPa・s以上、さらに好ましくは1016dPa・s以上の粘度を示す温度にまで冷却してから精密プレス成形品をプレス成形型から取り出すことが望ましい。
【0092】
上記の条件により、プレス成形型成形面の形状をガラスにより精密に転写することができるとともに、精密プレス成形品を変形することなく取り出すこともできる。
(精密プレス成形II)
精密プレス成形IIは、予熱したプレス成形型に、加熱したプリフォームを導入して精密プレス成形するものである。
【0093】
この精密プレス成形IIによれば、プリフォームをプレス成形型に導入する前に予め加熱するので、光学素子を製造するサイクルタイムを短縮化しつつ、表面欠陥のない良好な面精度を有する光学素子を製造することができる。
【0094】
なおプレス成形型の予熱温度は、プリフォームの予熱温度よりも低く設定することが好ましい。このようにプレス成形型の予熱温度を低くすることにより、プレス成形型の消耗を低減することができる。
【0095】
精密プレス成形IIにおいて、前記プリフォームを構成するガラスが10dPa・s以下、より好ましくは10dPa・sの粘度を示す温度に予熱することが好ましい。
【0096】
また、上記プリフォームを浮上しながら予熱することが好ましく、さらに前記プリフォームを構成するガラスが105.5〜10dPa・sの粘度を示す温度に予熱することがより好ましく、105.5dPa・s以上10dPa・s未満の粘度を示す温度に予熱することがさらに好ましい。
【0097】
またプレス開始と同時又はプレスの途中からガラスの冷却を開始することが好ましい。
【0098】
なお、プレス成形型の温度は、前記プリフォームの予熱温度よりも低い温度に調温するが、前記ガラスが10〜1012dPa・sの粘度を示す温度を目安にすればよい。
【0099】
この方法において、プレス成形後、前記ガラスの粘度が1012dPa・s以上にまで冷却してから離型することが好ましい。
【0100】
精密プレス成形された光学素子はプレス成形型より取り出され、必要に応じて徐冷される。成形品がレンズなどの光学素子の場合には、必要に応じて表面に光学薄膜をコートしてもよい。
【0101】
本発明の光学素子の製造方法の第2の態様(光学素子製法IIという)は、上記光学素子ブランクを研削、研磨する光学素子の製造方法である。
【0102】
上記研削、研磨は公知の方法を適用すればよい。光学素子製法IIは球面レンズやプリズムなどの研削、研磨によって加工しやすい光学素子や望遠レンズの前玉レンズのように大口径レンズの製造に好適である。
【実施例】
【0103】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1および比較例1(フツリン酸ガラスの製造例)
表1に示す組成を有するフツリン酸ガラスNo.1〜No.4、比較フツリン酸ガラスを作製するために、各ガラス成分に対応する、2リン酸塩などのリン酸塩や、フッ化物といった原料を秤量し、十分に混合した。各混合原料中の、P5+の合計含有量に対するO2−の合計含有量の比(O2−/P5+)、希土類元素の含有割合(カチオン%)を併記する。上記混合原料を白金坩堝に投入して、900℃の電気炉内で、攪拌しながら1〜3時間かけて原料を加熱熔解し、清澄、均質化することにより、フツリン酸ガラスNo.1〜No.4を得た。
【0104】
フツリン酸ガラスNo.1〜No.4の各フツリン酸ガラスの作製では、揮発性が抑制されるよう、表1に示すようにP5+の合計含有量に対するO2−の合計含有量の比(O2−/P5+)を3.5以上に制御し、その他成分の含有量をバランスさせて揮発性が大幅に低減された所望特性を有する光学ガラスを得ている。また、上記製造例では、2リン酸塩などのリン酸塩や、フッ化物といった未ガラス化原料を使用したが、カレットを用いてもよいし、未ガラス化原料とカレットを併用してもよい。なお、ガラス原料、特に、未ガラス化原料中に含まれる酸素の量は、ガラスに導入される酸素の量である。炭酸塩、硝酸塩、水酸化物を使用する場合、これら化合物に含まれるガラス成分となるカチオンと酸素からなる酸化物を考え、前記酸化物として上記化合物に含まれる酸素の量をガラスに導入される酸素の量と考えればよい。
【0105】
各フツリン酸ガラスについて、核磁気共鳴スペクトル、屈折率nd、アッベ数νd、金属粒子の数密度、原料を1時間熔解して得られた200gのサンプルの屈折率nd(1h)およびアッベ数νd(1h)と、原料を3時間熔解して得られた200gのサンプルの屈折率nd(3h)およびアッベ数νd(3h)を測定するとともに、一部のガラスについてはガラス転移温度を測定した。結果を表1に示す。
【0106】
なお、各フツリン酸ガラスの31Pに起因する共鳴スペクトルの形状、屈折率nd、アッべ数νd、ガラス中に含まれる金属粒子の数密度およびガラス転移温度Tgは、以下の手法によりそれぞれ測定したものである。
(1)共鳴スペクトルの形状
Varian社製VXR-300Sを使用し観測周波数121.4MHz、基準試料85%H3PO4、磁場強度 H0=7.0T、試料回転数9.0kHzの条件でスペクトルを測定し0ppm付近のメインピークのベースラインからの形状をガウス関数で近似し1つのガウス関数で近似できる場合はガウス関数形とし2つ以上のガウス関数において近似される場合は非ガウス関数形とした。
(2)屈折率nd及びアッべ数νd
徐冷降温速度を−30℃/時にして得られた光学ガラスについて測定した。
(3)金属粒子の数密度
光学顕微鏡を用いて100倍に拡大観察し、粒径10μm以上の金属粒子の数をカウントし、観察エリア内の体積から金属粒子の数密度を算出した。
(4)ガラス転移温度Tg
理学電機株式会社の熱機械分析装置(サーモ プラス TMA 8310)により昇温速度を4℃/分にして測定した。
【0107】
フツリン酸ガラスNo.1〜No.4の各ガラスは揮発が極めて少なく、ガラス中に含まれる粒径10μm以上の金属粒子の数も極めて少なかった。一方、比較フツリン酸ガラスについては、揮発のため脈理が認められ、粒径10μm以上の金属粒子の数も多かった。なお、上記金属粒子は白金粒子である。
【0108】
【表1】


表1に示すように、フツリン酸ガラスNo.1〜No.4は、nd(3h)−nd(1h)が0.00300以下と、原料の熔解時間の差による屈折率変化が小さかったのに対し、比較フツリン酸ガラスは、nd(3h)−nd(1h)が0.00400以上と大きかった。
【0109】
また、アッベ数についても、フツリン酸ガラスNo.2〜No.4は、νd(3h)−νd(1h)の絶対値が0.4以内であったのに対し、比較フツリン酸ガラスでは、0.5以上と、原料の熔解時間の差によるアッベ数変化も大きかった。
【0110】
本発明のフツリン酸ガラスは、原料の熔解時間の違いによるアッベ数の差が小さいことから、νd(3h)とνd(1h)のいずれをアッベ数としてもよいが、アッベ数を厳密に求める必要がある場合は、νd(1h)を本発明の光学ガラスのアッベ数とするものとする。
【0111】
なお、上記各フツリン酸ガラスNo.1〜No.4に外割りで0.5〜13カチオン%のCu2+を添加し、近赤外線吸収ガラスとしてもよい。
【0112】
フツリン酸ガラスNo.1〜No.4とこれらフツリン酸ガラスに外割りで0.5〜13カチオン%のCu2+を添加した近赤外線吸収ガラスのいずれにも脈理は認められず、光学的に極めて均質であった。
実施例2(精密プレス成形用プリフォームの製造例)
表1に示したフツリン酸ガラスNo.1〜No.4のそれぞれからなる熔融ガラスを、ガラスが失透することなく、安定した流出が可能な温度域に温度調整された白金合金製のパイプから一定の流量で流出させ、ガラス塊を滴下する方法か、又は支持体を用いて熔融ガラス流先端を支持した後、支持体を急降下してガラス塊を分離する方法にて熔融ガラス塊を分離した。得られた各熔融ガラス塊は、目的とするプリフォーム1個分の重量に後述する除去分の重量を加えた重量を有するものである。
【0113】
次いで、得られた各熔融ガラス塊をガス噴出口を底部に有する受け型に受け、ガス噴出口からガスを噴出してガラス塊を浮上しながら成形し、精密プレス成形用プリフォームを作製した。プリフォームの形状は、熔融ガラスの分離間隔を調整、設定することにより、球状や扁平球状とした。得られた各プリフォームの重量は設定値に精密に一致しており、いずれも表面が滑らかなものであった。
【0114】
次に、成形面が凹面のプリフォーム成形用下型と成形面が凸面のプリフォーム成形用上型とを用い、プリフォーム成形用下型の成形面上に上記支持体を用いる方法で分離した熔融ガラス塊を供給し、多孔質体からなる下型成形面の背面に高圧のガスを供給し、成形面からガスを噴出して熔融ガラス塊を浮上させて粘度調整して後、プリフォーム成形用上型で下型上のガラス塊をプレス成形し、上面にくぼみを有するプリフォームを成形した。次いで、上面から上型を離し、再びガラスを浮上させ、冷却した後、下型から取り出し、一方の面が凸面で他方の面にくぼみを有するプリフォームを作製した。このプリフォームは後述する凸メニスカスレンズや凹メニスカスレンズの精密プレス成形に使用した。なお、プリフォーム成形用型の上下型成形面とも凸面としてもよい。この場合、対向する2つの面ともにくぼみを有するプリフォームを成形することができる。このプリフォームは両凹レンズの精密プレス成形に好適である。いずれの成形においても、ガラスからの揮発物がプリフォーム成形用型に付着したり、ガス噴出口を詰らせるなどの問題は生じなかった。
【0115】
また別の方法として、成形した球状のプリフォームの全表面を公知の方法で研磨加工し、全表面層を除去して光学的に均質なプリフォームを得た。
【0116】
表1に示される各フツリン酸ガラスNo.1〜No.4のそれぞれからなる熔融ガラスを、ガラスが失透することなく、安定した流出が可能な温度域に温度調整された白金合金製のパイプから一定の流量で流出させ、鋳型に連続して流し込みつつ、鋳型側面の開口部から成形したガラス板を水平方向に一定スピードで引き出し、アニール炉の中を通過させてアニールし歪を除去した後、所望の長さに切断し、次々とガラス板を得た。こうして得た複数個のガラス板の屈折率を測定したところ、屈折率ndの公差は±0.00020以内となっており、各フツリン酸ガラスとも屈折率変動が極めて小さいレベルに抑制されていることを確認した。なお、屈折率の測定対象であるガラスは前述のように毎時30℃の冷却スピードで徐冷したものである。
【0117】
次にガラス板を賽の目状に切断して複数個のガラス片を作製し、これらガラス片を研削、研磨して表面が滑らかで光学的に均質なプリフォームを得た。
実施例3(光学素子の製造例)
上記のようにして得た各プリフォームを、図6に示すプレス装置を用いて精密プレス成形して非球面レンズを得た。
【0118】
すなわち、プリフォーム4を、上型1、下型2および胴型3からなるプレス成形型の下型2と上型1の間に設置した後、石英管11内を窒素雰囲気としてヒーター12に通電して石英管11内を加熱した。プレス成形型内部の温度を、成形されるガラスが10〜1010dPa・sの粘度を示す温度に設定し、同温度を維持しつつ、押し棒13を降下させて上型1を押して成形型内にセットされたプリフォームをプレスした。プレスの圧力は8MPa、プレス時間は30秒とした。プレスの後、プレスの圧力を解除し、プレス成形されたガラス成形品を下型2及び上型1と接触させたままの状態で前記ガラスの粘度が1012dPa・s以上になる温度まで徐冷し、次いで室温まで急冷してガラス成形品を成形型から取り出し非球面レンズを得た。得られた非球面レンズは、極めて高い面精度を有するものであった。
【0119】
なお、図6において、参照数字9は支持棒、参照数字10は下型・胴型ホルダー、参照数字14は熱電対である。
精密プレス成形により得られた非球面レンズには、必要に応じて反射防止膜を設けた。
【0120】
次に上記各プリフォームと同じプリフォームを上記の方法とは別の方法で精密プレス成形した。この方法では、先ず、プリフォームを浮上しながら、プリフォームを構成するガラスの粘度が10dPa・sになる温度にプリフォームを予熱した。一方で上型、下型、胴型を備えるプレス成形型を加熱して、前記プリフォームを構成するガラスが10〜1012dPa・sの粘度を示す温度にし、上記予熱したプリフォームをプレス成形型のキャビティ内に導入して、10MPaで精密プレス成形した。プレス開始とともにガラスとプレス成形型の冷却を開始し、成形されたガラスの粘度が1012dPa・s以上となるまで冷却した後、成形品を離型して非球面レンズを得た。得られた非球面レンズは、極めて高い面精度を有するものであった。
精密プレス成形により得られた非球面レンズには必要に応じて反射防止膜を設けた。
【0121】
このようにして、内部品質の高いガラス製光学素子を生産性よく、しかも高精度に得ることができた。
実施例4(光学素子ブランクの製造例)
表1に示される各フツリン酸ガラスNo.1〜No.4のそれぞれからなる熔融ガラスを、ガラスが失透することなく、安定した流出が可能な温度域に温度調整された白金合金製のパイプから一定の流量で流出させ、熔融ガラスをプレス成形型を構成する下型の成形面上に供給した。なお、下型成形面上には熔融ガラスを供給する前に窒化ホウ素粉末などの粉末状離型剤を均一に塗布しておく。
【0122】
次いで流出する熔融ガラスをシアと呼ばれる切断刃を用いて切断し、下型成形面上に所望量の熔融ガラス塊を得る。
【0123】
次いでプレス成形型を構成する上型が上方で待機する位置に熔融ガラス塊を載せた下型をして上下型を用いてガラス塊が軟化状態にあるうちにプレス成形する。こうして得たプレス成形品を離型してプレス成形型から取り出して光学素子ブランクを得た。次いで得られたブランクをアニールして歪を除去するとともに、屈折率などの光学特性が所望値に精密に等しくなるように調整を行い、所望形状の光学素子ブランクを得た。このようにして凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、平凸レンズ、平凹レンズ、両凸レンズ、両凹レンズなどの各種球面レンズの形状に近似するレンズブランクを作製した。
【0124】
次に、表1に示される各フツリン酸ガラスNo.1〜No.4のそれぞれからなる熔融ガラスを、ガラスが失透することなく、安定した流出が可能な温度域に温度調整された白金合金製のパイプから一定の流量で流出させ、鋳型に連続して流し込みつつ、鋳型側面の開口部から成形したガラス板を水平方向に一定スピードで引き出し、アニール炉の中を通過させてアニールし歪を除去した後、所望の長さに切断し、次々とガラス板を得た。
【0125】
次にガラス板を賽の目状に切断して複数個のガラス片を作製し、これらガラス片をバレル研磨してガラス片のエッジを除去するとともに、所望の重量になるよう重量調整を行って表面が粗面化されたプリフォームを得た。
【0126】
そして、プリフォーム全表面に粉末状の窒化ホウ素を均一に塗布し、耐熱性の皿に載せて加熱炉内に入れ、加熱、軟化させた。軟化したプリフォームをプレス成形型内に導入し、プレス成形して光学素子ブランクを得た。
【0127】
こうして得た光学素子ブランクをアニールして歪を除去するとともに、屈折率などの光学特性が所望の値に精密に等しくなるように光学特性の調整を行った。このようにして凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、平凸レンズ、平凹レンズ、両凸レンズ、両凹レンズなどの各種球面レンズの形状に近似するレンズブランクを作製した。
実施例5(光学素子の製造例)
実施例4で得た光学素子ブランクを研削、研磨して凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、平凸レンズ、平凹レンズ、両凸レンズ、両凹レンズなどの各種球面レンズを作製した。
【0128】
また、実施例4で作製したアニール済みガラス板を切断、研削、研磨して、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、平凸レンズ、平凹レンズ、両凸レンズ、両凹レンズなどの各種球面レンズ、プリズムを作製した。
【0129】
このようにして、内部品質の高いガラス製光学素子を生産性よく、しかも高精度に得ることができた。
実施例6(光学素子の製造例)
実施例1で得たフツリン酸ガラスNo.1〜No.4に外割りで0.5〜13カチオン%のCu2+を添加した近赤外線吸収ガラスをスライスして平板上とし、平板の主表面を光学研磨して近赤外線吸収フィルターを作製した。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明によれば、揮発性、侵蝕性が抑制されたフツリン酸塩ガラス、該ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム、さらには各種レンズ等の光学素子の母材ガラスである光学素子ブランクと光学素子を製造することができる。
【符号の説明】
【0131】
1・・・上型
2・・・下型
3・・・胴型
4・・・プリフォーム
9・・・支持棒
10・・・下型・胴型ホルダー
11・・・石英管
12・・・ヒーター
13・・・押し棒
14・・・熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン成分をP5+に換算して30〜50カチオン%含み、核磁気共鳴スペクトルにおける31Pの基準周波数近傍に生じる共鳴スペクトルの形状がガウス関数形状であることを特徴とするフツリン酸ガラス。
【請求項2】
5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+が3.5以上である請求項1に記載のフツリン酸ガラス。
【請求項3】
カチオン%表示で
5+ 30〜50%、
Al3+ 1〜30%、
Mg2+ 0〜15%、
Ca2+ 0〜15%、
Sr2+ 0〜15%、
Ba2+ 0〜40%、
(ただし、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+の合計含有量が20%以上)
Li 0〜30%、
Na 0〜10%、
0〜10%、
3+ 0〜5%、
La3+ 0〜5%、
Gd3+ 0〜5%、
Yb3+ 0〜5%、
3+ 0〜5%、
Zn2+ 0〜15%、
In3+ 0〜5%、
を含有し、アニオン成分として、
20〜50%、
2− 50〜80%
を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のフツリン酸ガラス。
【請求項4】
アッベ数νdが68〜75である請求項1〜3のいずれかに記載のフツリン酸ガラス。
【請求項5】
屈折率ndが1.52〜1.61である請求項1〜4のいずれかに記載のフツリン酸ガラス。
【請求項6】
内部に含まれる粒径が10μm以上の金属粒子の数密度が5個/cm未満である請求項1〜6に記載のフツリン酸ガラス。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のフツリン酸ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載のフツリン酸ガラスからなる光学素子ブランク。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項10】
請求項7に記載のプリフォームを加熱し、プレス成形型を用いて精密プレス成形する光学素子の製造方法。
【請求項11】
請求項8に記載の光学素子ブランクを研削、研磨する光学素子の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−126781(P2011−126781A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57026(P2011−57026)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【分割の表示】特願2008−228292(P2008−228292)の分割
【原出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】