説明

フライアッシュ成形体の製造方法

【課題】熱硬化性樹脂の接着剤の配合量を低減しても、強度が確保された成形体を得ることができるフライアッシュ成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】熱硬化性樹脂の接着剤と水とを混合して乳化することによりエマルションを調製し、このエマルションとフライアッシュとを混合し、この混合物を加熱加圧成形することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライアッシュを主成分とする原料を加熱加圧成形して得られるフライアッシュ成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
火力発電等で発生するフライアッシュは、安価なこととその補強効果により、コンクリート用の混和材等として用いられている。
【0003】
しかしながら、大半は埋め立て用以外に確たる有効利用の手段が見出されていないのが現状であり、その処理に苦慮する産業廃棄物が存在する。
【0004】
そのため、大量に発生しているフライアッシュを有効利用する手段が求められている。セメントとは異なりフライアッシュ自体に硬化する性質はないことから、樹脂接着剤を用いた成形体としての利用方法が検討されている。
【0005】
従来、砂や石等の比較的大粒径の無機質粒子では、これらを樹脂接着剤で固めて成形体とし、道路舗装、壁、敷石代替等に用いる例があるが、大粒径の無機質粒子を添加剤とする成形体は各種の用途に適した平滑性を得ることができない。
【0006】
一方、平滑性を得るのに適したフライアッシュ等の比較的小粒径の無機質粒子も成形体としての検討が進められてきている(特許文献1、2参照)。
【0007】
特許文献1には、熱硬化性樹脂の接着剤としてフェノール樹脂系接着剤を用い、フライアッシュ等の無機質粒子と混合した後、加熱加圧成形することが記載されている。
【0008】
特許文献2には、熱硬化性樹脂の接着剤としてアミノ樹脂等とイソシアネートとの混合物を用い、シラスバルーン等の中空の無機質粒子と混合した後、加熱加圧成形することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平09−278507号公報
【特許文献2】特開平10−324581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、フライアッシュに熱硬化性樹脂の接着剤を配合して加熱加圧成形する場合、必要な強度を確保するためには、熱硬化性樹脂の接着剤を多量に配合することが必要な場合が多い。フライアッシュは主に火力発電所での副産物であるが、各発電所により粒径、成分比等が異なっている。このような点も考慮すると、熱硬化性樹脂の接着剤の配合量が多い現状では、フライアッシュの成形体としてのリサイクル方法が限定的にならざるを得ない。従って、廃材としてのフライアッシュを成形体として利用するとともに、その用途等を拡大するためには、熱硬化性樹脂の接着剤の配合量を低減することが望まれる。
【0011】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、熱硬化性樹脂の接着剤の配合量を低減しても、強度が確保された成形体を得ることができるフライアッシュ成形体の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のフライアッシュ成形体の製造方法は、熱硬化性樹脂の接着剤と水とを混合して乳化することによりエマルションを調製し、このエマルションとフライアッシュとを混合し、この混合物を加熱加圧成形することを特徴とする。
【0013】
このフライアッシュ成形体の製造方法において、前記混合物における熱硬化性樹脂の接着剤の配合量は、フライアッシュの全量に対して5〜18質量%であることが好ましい。
【0014】
このフライアッシュ成形体の製造方法において、熱硬化性樹脂の接着剤は、ウレタン樹脂系接着剤であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱硬化性樹脂の接着剤の配合量を低減しても、強度が確保された成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0017】
本発明のフライアッシュ成形体の製造方法は、フライアッシュとの混合前に、熱硬化性樹脂の接着剤と水とを混合して乳化することにより予めエマルションを調製することを特徴としている。これにより表面張力が低下し、フライアッシュへの浸透性を高めることができる。そのため、熱硬化性樹脂の接着剤の配合量が少なくとも接着性を高めることができ、フライアッシュ成形体の強度を確保することができる。
【0018】
本発明において、フライアッシュとしては、石炭火力発電所において微粉炭を燃焼する際、溶融した灰分が冷却されて球状となった微細粒子を電気集塵器等で捕集した副産物を用いることができる。
【0019】
その品質は、微粉炭の品質、燃焼条件、および捕集方法等により相違するが、コンクリート用フライアッシュではJIS A 6201(コンクリート用フライアッシュ)に品質が規定されている。本発明では、例えばここに規定されたようなフライアッシュを用いることができる。
【0020】
市販されているフライアッシュの一例では、密度が1.9〜2.3g/cm3程度、比表面積が3000〜5000cm2/g程度であり、平均粒径20μm程度で1〜100μmの範囲に分布しているもの等がある。
【0021】
フライアッシュの主成分はシリカ(SiO2)とアルミナ(Al23)であり、この2つの無機質成分で例えば全体の70〜80質量%を占める。その他、典型的には少量の酸化第二鉄(Fe23)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)等を含有している。
【0022】
本発明において、フライアッシュを結合するために混合して用いられる熱硬化性樹脂の接着剤は、予め水と混合して乳化することによりエマルションとして調製される。このように熱硬化性樹脂の接着剤を予め乳化してエマルションとして調製することで、表面張力が低下し、フライアッシュへの浸透性を高めることができる。そのため、熱硬化性樹脂の接着剤の配合量が少なくとも接着性を高めることができ、フライアッシュ成形体の強度を確保することができる。熱硬化性樹脂の接着剤を乳化しないで用いた場合、熱硬化性樹脂の接着剤がフライアッシュに十分に浸透せず、成形体として十分な強度を得るためには多量が必要となる。
【0023】
そして熱硬化性樹脂の接着剤を乳化するには水と混合するだけでよく、モノマーを原料とする乳化重合によるエマルションの調製と比べて格段に調製が容易で適用可能な範囲も広い。
【0024】
熱硬化性樹脂の接着剤としては、特に限定されるものではないが、水との混合により乳化すること、および加熱加圧成形の前に水分との硬化が起こりにくいことを満足する必要がある。このような点や、原料にホルムアルデヒドを用いず環境面に優れる点等を考慮すると、ウレタン樹脂系接着剤が好ましい。
【0025】
ウレタン樹脂系接着剤としては、例えば、硬化物がウレタン基(−NHCOO−)を有し、イソシアネート基(−NCO)とヒドロキシル基(−OH)との反応により硬化する接着剤を用いることができる。
【0026】
ウレタン樹脂系接着剤は、1液型であっても、2液型であってもよい。1液型は、ウレタンプレポリマーと触媒との混合液であり、加湿または加熱により硬化、接着させる。2液型は、末端に水酸基を持つポリオールとポリイソシアネート、または末端にイソシアネート基を持つウレタンプレポリマーとポリオールを組み合わせ、混合することで化学反応を起こし硬化、接着させる。ポリオールとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール等を用いることができる。イソシアネートとしては、特に限定されるものではないが、例えば、2、4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート、イソシアネート化合物と低分子ポリオール等とを反応させて得られるポリウレタン系プレポリマー等を用いることができる。
【0027】
熱硬化性樹脂の接着剤としては、ウレタン樹脂系接着剤の他、尿素樹脂系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤等を用いることができる。
【0028】
熱硬化性樹脂の接着剤を乳化させるために、乳化剤を用いることができる。乳化剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、非イオン界面活性剤等を用いることができる。その他、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤等を用いてもよい。
【0029】
非イオン界面活性剤としては、例えば、多価アルコール脂肪酸エステルおよび多価アルコールアルキルエーテル、ポリオキシエチレンエーテル、エーテルエステル等を用いることができる。
【0030】
多価アルコール脂肪酸エステルおよび多価アルコールアルキルエーテルとしては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル、エチレングリコールモノ脂肪酸エステル、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、メチルグルコシド脂肪酸エステル、アルキルポリグルコシド、およびこれらのアルキレングリコール付加物等を用いることができる。
【0031】
ポリオキシエチレンエーテルとしては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロール、ポリオキシエチレンフィトスタノール、ポリオキシエチレンコレステロール、ポリオキシエチレンコレスタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等を用いることができる。
【0032】
エーテルエステルとしては、例えば、ポリオキシエチレンモノ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンメチルグルコシド脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレン動植物油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル脂肪酸エステル等を用いることができる。
【0033】
これらの中でも、工業的な観点等を考慮すると、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等を乳化剤として好ましく用いることができる。
【0034】
ソルビタン脂肪酸エステルとしては、例えば、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノイソステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビトールとヤシ油脂肪酸とを反応させて得られたもの等を用いることができる。その他、ソルビタン脂肪酸エステルを含む乳化剤として、ソルビトール、ソルビタン、ソルバイドのモノ、ジ、トリエステルの各種エステルの混合物を用いることができる。
【0035】
本発明において、熱硬化性樹脂の接着剤と水とのエマルションは、これらと必要に応じて乳化剤を配合し、常法に従って混合して調製することができる。エマルション中の熱硬化性樹脂の接着剤の配合量は、フライアッシュへの浸透性や接着性等を考慮すると、エマルションの全量に対して20〜98質量%が好ましい。
【0036】
そしてこのエマルションをフライアッシュと均一になるまで混合し、加熱加圧成形の原料となる混合物を調製する。この混合物には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、紫外線吸収剤、紫外線劣化防止剤、酸化劣化防止剤、顔料、難燃剤、骨材、補強材等を用いることができる。
【0037】
この混合物における熱硬化性樹脂の接着剤の配合量は、フライアッシュの全量に対して好ましくは5〜18質量%、より好ましくは5〜15質量%である。熱硬化性樹脂の接着剤の配合量をこの範囲内とすることで、熱硬化性樹脂の接着剤を多量に用いることなく成形体の強度を確保することができる。
【0038】
この混合物を加熱加圧成形して、フライアッシュを主成分とするフライアッシュ成形体を得ることができる。加熱加圧成形の方法は、特に限定されるものではないが、例えば、プレス成形等の圧縮成形、押出成形、射出成形、注型成形等を用いることができる。
【0039】
加熱加圧成形の条件は、特に限定されるものではないが、例えば、熱硬化性樹脂の接着剤としてウレタン樹脂系接着剤を用いた場合には、温度100〜180℃、圧力1〜8MPa、時間1〜30分の条件で行うことができる。
【0040】
このようにして得られるフライアッシュ成形体は、フライアッシュのリサイクル品として各種の分野に用いることができる。例えば、住宅等の建築物の外装材や内装材等に用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1>
熱硬化性樹脂の接着剤としてウレタン樹脂系接着剤((株)オーシカ製「B1605」)を用いた。このウレタン樹脂系接着剤10質量部と、水10質量部と、乳化剤(第一工業製薬(株)製「ソルゲン40D」、ソルビタンオレートとソルバイドオレートとの混合物)0.2質量部とを攪拌混合し、エマルションを調製した。
【0042】
このエマルション20.2質量部を、コンクリートに用いられるものと同種のフライアッシュ90質量部に添加して混合し、これによりウレタン樹脂系接着剤をフライアッシュの全量に対して10質量%配合した均一な混合物を調製した。
【0043】
この混合物を、プレス成形により、150℃、4MPa、15分の条件で加熱加圧成形し、板状のフライアッシュ成形体を得た。
<比較例1>
実施例1において、乳化剤を配合せずにウレタン樹脂系接着剤と水とを混合し、乳化していない希釈液を得た。この希釈液をエマルションの代わりに用いた以外は実施例1と同様にしてフライアッシュとの混合物を調製し、加熱加圧成形を試みた。
<比較例2>
比較例1において、フライアッシュに対するウレタン樹脂系接着剤の配合量を10質量%から20質量%に変更した。それ以外は比較例1と同様にしてフライアッシュとの混合物を調製し、加熱加圧成形を試みた。
【0044】
実施例1、比較例1、比較例2における各条件と加熱加圧成形の結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
実施例1では、ウレタン樹脂系接着剤と水とを混合して乳化することによりエマルションを調製し、このエマルションとフライアッシュとを混合して加熱加圧成形を行った。その結果、ウレタン樹脂系接着剤の配合量がフライアッシュに対して10質量%と少量であるにもかかわらず、所要の強度が確保された成形体を得ることができた。これは、エマルションとして調製することで表面張力が低下し、フライアッシュへの浸透性が向上したことによると考えられる。
【0047】
これに対して、乳化していない希釈液を用いた比較例1では、ウレタン樹脂系接着剤の配合量が実施例1と等量であるにも関わらず、成形体が得られたものの非常に接着力が脆いものとなり、実用的に要求されるレベルの強度は得られなかった。
【0048】
また、比較例2では、ウレタン樹脂系接着剤を実施例1に比べて倍量用いたところ、強度のある成形体は得ることができたが、多量のウレタン樹脂系接着剤を要した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂の接着剤と水とを混合して乳化することによりエマルションを調製し、このエマルションとフライアッシュとを混合し、この混合物を加熱加圧成形することを特徴とするフライアッシュ成形体の製造方法。
【請求項2】
前記混合物における前記熱硬化性樹脂の接着剤の配合量は、前記フライアッシュの全量に対して5〜18質量%であることを特徴とする請求項1に記載のフライアッシュ成形体の製造方法。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂の接着剤は、ウレタン樹脂系接着剤であることを特徴とする請求項1または2に記載のフライアッシュ成形体の製造方法。

【公開番号】特開2012−72208(P2012−72208A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216033(P2010−216033)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】