説明

フラックス入りワイヤ

【課題】優れた耐高温割れ性を有するフラックス入りワイヤを提供する。
【解決手段】フラックス入りワイヤは、ワイヤ全質量に対するフラックス充填率が10〜20質量%であり、ワイヤ全質量に対して、C:0.03〜0.08質量%、Si(ワイヤに含有される全てのSi源から算出されるSi量の総和):0.10〜1.00質量%、Mn(ワイヤに含有される全てのMn源から算出されるMn量の総和):2.30〜3.75質量%、Ti:0.15〜1.00質量%、TiO:5.0〜8.0質量%、Al:0.05〜0.50質量%、Al:0.05〜0.50質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ、前記Tiのみから算出されるTi量をTi算出量、前記ワイヤに含有される全てのSi源から算出されるSi量の総和をSi算出量としたとき、(Ti算出量/Si算出量)>0.20の関係を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスシールドアーク溶接に用いられるフラックス入りワイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスシールドアーク溶接に用いられるフラックス入りワイヤとしては、以下に示すような構成を備えたものが提案されている。例えば、特許文献1には、ワイヤ全質量に対し、所定量のC、Si、Mn、TiOおよびNを含有することを特徴とする溶接用フラックス入りワイヤが記載され、このフラックス入りワイヤは、前記成分に加えて、Ti、B、Ni、Cr、Mo、Al、Mg、NbおよびTaの群から選ばれた1種または2種以上の成分を所定量含有してもよいことが記載されている。また、特許文献2には、フラックスがワイヤ全質量に対し、所定量のTiO、希土類フッ化物、Mg、Al、Si、Mn、BおよびNiを含有し、かつ金属状Tiを実質的に含まないことを特徴とするガスシールドアーク溶接用ワイヤが記載されている。
【特許文献1】特開昭62−33094号公報
【特許文献2】特開昭63−273594号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1のフラックス入りワイヤは、溶接部の靭性を向上させることで衝撃特性を改善し、併せて溶接作業性をも改善し得るものであるが、耐高温割れ性において満足できるものではないという問題があった。また、特許文献2のフラックス入りワイヤは、拡散性水素量が少なくかつ優れた低温靭性を有するが、耐高温割れ性において満足できるものではないという問題があった。
【0004】
そこで、本発明は、このような問題点を解決すべく創案されたもので、その目的は、優れた耐高温割れ性を有するフラックス入りワイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明に係るフラックス入りワイヤは、鋼製外皮内にフラックスが充填されたフラックス入りワイヤであって、ワイヤ全質量に対するフラックス充填率が10〜20質量%であり、ワイヤ全質量に対して、C:0.03〜0.08質量%、Si(ワイヤに含有される全てのSi源から算出されるSi量の総和):0.10〜1.00質量%、Mn(ワイヤに含有される全てのMn源から算出されるMn量の総和):2.30〜3.75質量%、Ti:0.15〜1.00質量%、TiO:5.0〜8.0質量%、Al:0.05〜0.50質量%、Al:0.05〜0.50質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ、前記Tiのみから算出されるTi量をTi算出量、前記ワイヤに含有される全てのSi源から算出されるSi量の総和をSi算出量としたとき、(Ti算出量/Si算出量)>0.20の関係を満足することを特徴とする。
【0006】
前記構成によれば、ワイヤ全質量に対するフラックス充填率が所定量であって、ワイヤ全質量に対して、所定量のC、Si、Mn、Ti、TiO、AlおよびAlを含有することによって、溶接の際、スパッタ発生、ヒューム発生が抑制され、スラグ剥離性が改善されると共に、溶接継手の強度が向上し、かつ、高温割れが抑制される。また、Ti算出量とSi算出量とが、所定の関係を満足する、すなわち、(Ti算出量/Si算出量)>0.20を満足することによって、溶接時にTiが脱酸反応に寄与し、溶接金属中に生成するTi系酸化物の組成を核生成促進に効果的な組成に制御できる。その結果、溶接継手の凝固組織を微細化でき、高温割れの抑制作用が向上する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るフラックス入りワイヤによれば、フラックス充填率が所定量であって、所定量のC、Si、Mn、Ti、TiO、AlおよびAlを含有し、かつ、フラックス入りワイヤに含まれるTi量とSi量とが所定の関係を満足することによって、優れた溶接作業性(ビード外観を含む)、継手強度および耐高温割れ性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係るフラックス入りワイヤについて詳細に説明する。図1(a)〜(d)は、フラックス入りワイヤの構成を示す断面図である。
図1(a)〜(d)に示すように、フラックス入りワイヤ(以下、ワイヤと称す)1は、筒状に形成された鋼製外皮2と、その筒内に充填されたフラックス3とからなる。また、ワイヤ1は、図1(a)に示すような継目のない鋼製外皮2の筒内にフラックス3が充填されたシームレスタイプ、図1(b)〜(d)に示すような継目4のある鋼製外皮2の筒内にフラックス3が充填されたシームタイプのいずれの形態でもよい。
【0009】
そして、ワイヤ1は、フラックス充填率が所定量であって、所定量のC、Si、Mn、Ti、TiO、AlおよびAlを含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ、Ti算出量とSi算出量とが所定の関係を満足する(具体的には、(Ti算出量/Si算出量)が所定値を超える)。
【0010】
以下に、ワイヤ成分(フラックス充填率および成分量)の数値範囲を、その限定理由と共に記載する。フラックス充填率は、鋼製外皮2内に充填されるフラックスの質量を、ワイヤ1(鋼製外皮2+フラックス3)の全質量に対する割合で規定する。また、成分量は、鋼製外皮2とフラックス3における成分量の総和で表し、ワイヤ1(鋼製外皮2+フラックス3)に含まれる各成分の質量を、ワイヤ1の全質量に対する割合で規定する。なお、ワイヤ1を構成する成分のうち、C、Si、Mn、Ti、TiO、AlおよびAlは、鋼製外皮2から添加するか、フラックス3から添加するかは特に問わず、鋼製外皮2およびフラックス3の少なくとも一方に添加されていればよい。
【0011】
(フラックス充填率:10〜20質量%)
フラックス充填率が10%未満では、アークの安定性が悪くなり、スパッタ発生量が増加し、溶接作業性が低下する。また、フラックス充填率が20%超では、ワイヤ1の断線等が発生し、生産性が著しく劣化する。
【0012】
(C:0.03〜0.08質量%)
Cは、溶接部の焼入れ性を確保するために添加する。C量が0.03質量%未満の場合、焼入れ性不足により、溶接部の強度・靭性が不足する。また、低C量により溶接部に高温割れが発生する。C量が0.08質量%を超えると、溶接時のスパッタ発生量またはヒューム発生量が増加し、溶接作業性が低下する。また、被溶接材である鋼材のC量が多い場合、溶接部(溶接金属)のC量が多くなる。そして、Cが包晶反応を起こす領域になると、溶接部に高温割れが発生しやすくなる。なお、C源としては、例えば、フープ、Fe−Mn等の合金粉、鉄粉等を用いる。
【0013】
(Si:0.10〜1.00質量%)
Siは、溶接部の延性確保、ビード形状維持のために添加する。Si量が0.10質量%未満では、溶接部の延性不足となる。また、ビード形状が悪くなり、特に、立向上進溶接でビードが垂れ、溶接作業性が低下する。Si量が1.00質量%を超えると、靭性が低下しやすくなる。また、溶接部に高温割れが発生する。なお、Si源としては、例えば、フープ、Fe−Si、Fe−Si−Mn等の合金、KSiF等のフッ化物、ジルコンサンド、珪砂、長石等の酸化物を用いる。
【0014】
(Mn:2.30〜3.75質量%)
Mnは、溶接部の焼入れ性確保のために添加する。Mn量が2.30質量%未満では、溶接部の焼入れ性が不足し、靭性が低下する。また、不可避的不純物として含有されるSと結合して得られるMnS量も少なくなるため、MnSによる高温割れの抑制作用が小さくなり、溶接部に高温割れが発生する。Mn量が3.75質量%を超えると、溶接部の強度が過多となり、靭性不足となる。また、溶接部に低温割れが発生する。なお、Mn源としては、例えば、フープ、Mn金属粉、Fe−Mn、Fe−Si−Mn等の合金を用いる。
【0015】
(Ti:0.15〜1.00質量%、好ましくは0.20〜1.00質量%)
Ti(金属Ti)は、溶接部(溶接金属)の耐高温割れ性を改善するために添加する。Ti(金属Ti)は溶接時に脱酸反応に寄与し、溶接金属中の介在物がTi系酸化物組成に制御でき、その結果、溶接継手(溶接部)の凝固組織を微細にでき、溶接部の耐高温割れ性が改善される。Ti量(金属Ti)が0.15質量%未満では、溶接部に高温割れが発生する。Ti量(金属Ti)が1.00質量%を超えると、溶接金属再熱部が硬くて脆いベイナイト、マルテンサイトになりやすく、靭性が低下する。また、溶接時のスパッタ発生量が多くなり、溶接作業性が低下する。なお、Ti源としては、例えば、Fe−Ti等の合金粉を用いる。
【0016】
(TiO:5.0〜8.0質量%)
TiO(Ti酸化物)は、全姿勢溶接性を確保するために添加する。TiO量(Ti酸化物)が5.0質量%未満では、立向上進溶接でビードが垂れ、溶接作業性が低下する。TiO量(Ti酸化物)が8.0質量%を超えると、溶接時のスラグ剥離性が劣化し、溶接作業性が低下する。また、フラックスのかさ比重が小さくなり、生産性が劣化する。なお、TiO源としては、例えば、ルチール等を用いる。
【0017】
(Al:0.05〜0.50質量%、好ましくは0.05〜0.40質量%)
Alは強脱酸剤であり、適正量の添加であれば、溶接金属の酸素量を低下させ、Mnの歩留まりが安定し、溶接部の耐高温割れ性が改善し、靭性も安定化する。Al量が0.05質量%未満では脱酸が十分でなく、溶接部に高温割れが発生する。Al量が0.50質量%を超えると、溶接時のスパッタ発生量が多くなり、溶接作業性が低下する。なお、Al源としては、例えば、Al金属粉、Fe−Al、Al−Mg等の合金粉を用いる。
【0018】
(Al:0.05〜0.50質量%、好ましくは0.05〜0.40質量%)
Alは、水平すみ肉姿勢でのビード形状、立向上進姿勢でのビードの垂れ防止のために添加する。Al量が0.05質量%未満では、水平すみ肉溶接でのビード形状(なじみ)が悪く、また、立向上進溶接でビード垂れが発生し、溶接作業性が低下する。Al量が0.50質量%を超えると、溶接時のスラグ剥離性が劣化し、溶接作業性が低下する。なお、Al源としては、例えば、アルミナや長石等の複合酸化物を用いる。
【0019】
((Ti算出量/Si算出量)>0.20)
ワイヤ1に含まれるTi量(金属Ti)を所定範囲内に制御することで、溶接時にTi(金属Ti)が脱酸反応に寄与し、溶接継手(溶接金属)中に生成する介在物の組成を核生成促進に効果的なTi系酸化物組成の介在物に制御できる。その結果、溶接金属の凝固組織を微細にでき、耐高温割れ性を著しく改善できるものである。さらに、核生成促進に効果的なTi系酸化物にはSiOを含有しないことが好ましい。そのため、ワイヤ1に含まれるTi量(金属Ti)を、ワイヤ1に含まれるSi量との関係で規定し、具体的には、Ti算出量とSi算出量との比、すなわち、(Ti算出量/Si算出量)を規定することで、Ti系酸化物組成を凝固組織微細化により効果的な組成に制御可能となり、溶接金属の凝固組織を耐高温割れ性の改善において好ましいものに制御可能となる。
【0020】
(Ti算出量/Si算出量)≦0.20であると、溶接継手の凝固組織が微細化しない。したがって、(Ti算出量/Si算出量)>0.20、好ましくは(Ti算出量/Si算出量)>0.25、更に好ましくは(Ti算出量/Si算出量)>0.37である。
【0021】
ここで、Ti算出量とは、ワイヤ1に含有される前記Ti(金属Ti)のみから算出されるTi量で、ワイヤ1に含有された前記TiO(Ti酸化物)から算出(換算)されるTi量は含まない。
また、Si算出量とは、ワイヤ1に含有される前記Si源の全てから算出されるSi量の総和である。なお、前記SiOは、Si源として用いられる、例えば、ジルコンサンド、珪砂、長石等の酸化物に含まれる。
【0022】
(Fe)
残部のFeは、鋼製外皮2を構成するFeに相当し、Fe量は鋼製外皮2におけるFe量である。
(不可避的不純物)
残部の不可避的不純物としては、S、P、Ni、O、Zr等が挙げられ、本発明の効果を妨げない範囲で含有することが許容される。S量、P量、Ni量、O量、Zr量は、それぞれ、0.050質量%以下が好ましく、鋼製外皮2とフラックス3における各成分量の総和である。
なお、鋼製外皮2およびフラックス3は、ワイヤ作製時に前記ワイヤ成分(成分量)が前記範囲内になるように、鋼製外皮2およびフラックス3の各成分(各成分量)を選択する。
【実施例】
【0023】
本発明に係るフラックス入りワイヤについて、本発明の要件を満足する実施例と、本発明の要件を満足しない比較例とを比較して具体的に説明する。
鋼製外皮(鋼は、C:0.02質量%、Si:0.01質量%、Mn:0.20質量%、P:0.010質量%、S:0.007質量%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなるものを使用)の内側にフラックスを充填して、表1、表2に示すワイヤ成分からなるワイヤ径1.2mmのフラックス入りワイヤ(実施例:No.1〜23、比較例:No.24〜40)を作製した。
【0024】
なお、ワイヤ成分は、以下の測定方法で測定、算出した。
C量は、「赤外線吸収法」によって測定した。Si量およびMn量は、ワイヤ全量を溶解し「ICP発光分光分析法」によって測定した。
【0025】
TiO量(TiO等として存在し、Fe−Ti等は含まない)は、「酸分解法」により測定される。酸分解法に使用する溶媒は王水を用い、ワイヤ全量を溶解した。これにより、ワイヤ1に含まれるTi源(Fe−Ti等)は王水へ溶解するが、TiO源(TiO等)は王水に対し不溶なため、溶け残る。この溶液を、フィルター(ろ紙は5Cの目の細かさ)を用いてろ過し、フィルターごと残渣をニッケル製るつぼに移し、ガスバーナーで加熱して灰化した。次いで、アルカリ融剤(水酸化ナトリウムと過酸化ナトリウムの混合物)を加え、再度ガスバーナーで加熱して残渣を融解した。次に、18質量%塩酸を加えて融解物を溶液化した後、メスフラスコに移し、さらに純水を加えてメスアップして分析液を得た。分析液中のTi濃度を「ICP発光分光分析法」で測定した。このTi濃度をTiO量に換算し、TiO量を算出した。
【0026】
Ti量(Fe−Ti等として存在し、TiO等は含まない)は、「酸分解法」によりワイヤ全量を王水へ溶解して、不溶であったTiO源(TiO2等)をろ過し、その溶液をワイヤ1に含まれるTi源(Fe−Ti等)とし得ることで、「ICP発光分光分析法」を用い、Ti量(Fe−Ti等)として存在を求めた。
【0027】
Al量(アルミナや長石等の複合酸化物として存在し、Al金属粉等の合金粉は含まない)は、「酸分解法」により測定される。酸分解法に使用する溶媒は王水を用い、ワイヤ全量を溶解した。これにより、ワイヤ1に含まれるAl源(Al金属粉等の合金粉)は王水へ溶解するが、Al源(アルミナや長石等の複合酸化物)は王水に対し不溶なため、溶け残る。この溶液を、フィルター(ろ紙は5Cの目の細かさ)を用いてろ過し、フィルターごと残渣をニッケル製るつぼに移し、ガスバーナーで加熱して灰化した。次いで、アルカリ融剤(水酸化ナトリウムと過酸化ナトリウムの混合物)を加え、再度ガスバーナーで加熱して残渣を融解した。次に、18質量%塩酸を加えて融解物を溶液化した後、メスフラスコに移し、さらに純水を加えてメスアップして分析液を得た。分析液中のAl濃度を「ICP発光分光分析法」で測定した。このAl濃度をAl量に換算し、Al量を算出した。
【0028】
Al量(Al金属粉等の合金粉として存在し、アルミナや長石等の複合酸化物は含まない)は、「酸分解法」によりワイヤ全量を王水へ溶解して、不溶であったAl源(アルミナや長石等の複合酸化物)をろ過し、その溶液をワイヤ1に含まれるAl源(Al金属粉等の合金粉)とし得ることで、「ICP発光分光分析法」を用い、Al量(Al金属粉等の合金粉)として存在を求めた。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
作製されたフラックス入りワイヤを用いて、以下に示す方法で、耐高温割れ性、機械的性質(引張強さ、吸収エネルギー)、溶接作業性について評価した。その評価結果に基づいて、実施例および比較例のフラックス入りワイヤの総合評価を行った。
【0032】
(耐高温割れ性)
JIS G3106 SM400B鋼(C:0.12質量%、Si:0.2質量%、Mn:1.1質量%、P:0.008質量%、S:0.013質量%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物)からなる溶接母材を、表3に示す溶接条件で片面溶接(下向突合せ溶接)した。
【0033】
【表3】

【0034】
図2は、耐高温割れ性の評価に使用する溶接母材の開先形状を示す断面図である。図2に示すように、溶接母材11はV形状の開先を有し、このV形状の開先の裏面には、耐火物12およびアルミニウムテープ13等からなる裏当て材が配置されている。そして、開先角度を35°として、裏当て材が配置されている部分のルート間隔を4mmとした。
【0035】
溶接終了後、初層溶接部(クレータ部を除く)について、X線透過試験(JIS Z 3104)にて、内部割れの有無を確認し、割れ率を算出した。その割れ率で耐高温割れ性を評価した。その結果を表4、表5に示す。
【0036】
なお、評価基準は、溶接電流240Aで割れ率0%かつ溶接電流260Aで割れ率0%のとき「より一層優れている:◎」、溶接電流240Aで割れ率0%かつ溶接電流260Aで割れ率5%以下のとき「優れている:○〜◎」、溶接電流240Aで割れ率0%かつ溶接電流260Aで割れ率5%超のとき「良好である:○」、溶接電流240Aで割れ有りかつ溶接電流260Aで割れ有りのとき「劣っている:×」とした。
【0037】
(機械的性質)
JIS Z3313に準じて、引張強さ、吸収エネルギーについて評価した。
なお、引張強さの評価基準は、490MPa以上640MPa以下のとき「優れている:○」、490MPa未満または640MPa超のとき「劣っている:×」とした。また、吸収エネルギーの評価基準は、60J以上のとき「優れている:○」、60J未満のとき「劣っている:×」とした。さらに、JIS Z3313に準じて、伸びを評価する場合には、その評価基準は、22%以上のとき「優れている:○」、22%未満のとき「劣っている:×」とした。
【0038】
(溶接作業性)
耐高温割れ性と同様の溶接母材を使用して、下向きすみ肉溶接、水平すみ肉溶接、立向上進すみ肉溶接、立向下進すみ肉溶接の4種の溶接を行い、作業性を官能評価した。ここで、溶接条件は、前記耐高温割れ性と同様とした(表3参照)。
なお、評価基準は、スパッタ発生、ヒューム発生、ビード垂れ等の溶接不良が発生しないとき「優れている:○」、溶接不良が発生したとき「劣っている:×」とした。
【0039】
(総合評価)
総合評価の評価基準は、前記評価項目のうち、耐高温割れ性が「◎」かつ機械的性質および溶接作業性が「○」のとき「より一層優れている:◎」、耐高温割れ性が「○〜◎」かつ機械的性質および溶接作業性が「○」のとき「優れている:○〜◎」、耐高温割れ性が「○」かつ機械的性質および溶接作業性が「○」のとき「良好である:○」、前記評価項目の少なくとも1つが「×」のとき「劣っている:×」とした。
【0040】
【表4】

【0041】
【表5】

【0042】
表1、表4に示すように、実施例(No.1〜23)は、全てのワイヤ成分が本発明の範囲を満足するため、耐高温割れ性、機械的性質および溶接作業性の全てにおいて、優れ(または良好で)、総合評価においても、優れていた(または良好であった)。
【0043】
表2、表5に示すように、比較例(No.24)は、C量が下限値未満であるため、耐高温割れ性および機械的性質に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.25)は、C量が上限値を超えるため、溶接作業性に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.26)は、Si量が下限値未満であるため、溶接作業性に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.27)は、Si量が上限値を超えるため、耐高温割れ性に劣り、総合評価も劣っていた。
【0044】
比較例(No.28)は、Mn量が下限値未満であるため、耐高温割れ性および機械的性質に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.29)は、Mn量が上限値を超えるため、機械的性質および溶接作業性に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.30)は、Ti量が下限値未満であるため、耐高温割れ性に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.31)は、Ti量が上限値を超えるため、機械的性質および溶接作業性に劣り、総合評価も劣っていた。
【0045】
比較例(No.32)は、TiO量が下限値未満であるため、溶接作業性に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.33)は、TiO量が上限値を超えるため、溶接作業性に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.34)は、Al量が下限値未満であるため、耐高温割れ性および機械的性質に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.35)は、Al量が上限値を超えるため、溶接作業性に劣り、総合評価も劣っていた。
【0046】
比較例(No.36)は、Al量が下限値未満であるため、溶接作業性に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.37)は、Al量が上限値を超えるため、溶接作業性に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.38)は、(Ti算出量/Si算出量)が下限値未満であるため、耐高温割れ性に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.39)は、フラックス充填率が下限値未満であるため、溶接作業性に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.40)は、フラックス充填率が上限値を超えるため、ワイヤ生産中に断線が発生し、総合評価としては劣っていた。
【0047】
以上の結果から、実施例(No.1〜23)は、比較例(No.24〜40)と比べて、フラックス入りワイヤ1として優れていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係るフラックス入りワイヤの構成を示す断面図である。
【図2】耐高温割れ性の評価に使用する溶接母材の開先形状を示す断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 フラックス入りワイヤ(ワイヤ)
2 鋼製外皮
3 フラックス
4 継目
11 溶接母材
12 裏当て材
13 アルミニウムテープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製外皮内にフラックスが充填されたフラックス入りワイヤであって、
ワイヤ全質量に対するフラックス充填率が10〜20質量%であり、
ワイヤ全質量に対して、C:0.03〜0.08質量%、Si(ワイヤに含有される全てのSi源から算出されるSi量の総和):0.10〜1.00質量%、Mn(ワイヤに含有される全てのMn源から算出されるMn量の総和):2.30〜3.75質量%、Ti:0.15〜1.00質量%、TiO:5.0〜8.0質量%、Al:0.05〜0.50質量%、Al:0.05〜0.50質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ、
前記Tiのみから算出されるTi量をTi算出量、前記ワイヤに含有される全てのSi源から算出されるSi量の総和をSi算出量としたとき、(Ti算出量/Si算出量)>0.20の関係を満足することを特徴とするフラックス入りワイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−17717(P2010−17717A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177537(P2008−177537)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】