説明

フラックス入りワイヤ

【課題】軟鋼または高張力鋼からなる鋼板の片面突合せ継手溶接の初層溶接部で問題となる耐高温割れ性に優れ、全姿勢溶接における溶接作業性および溶接金属の機械的特性が優れたフラックス入りワイヤを提供する。
【解決手段】軟鋼または高張力鋼からなる鋼板の溶接に使用され、鋼製外皮内にフラックスを充填してなるフラックス入りワイヤであって、ワイヤ全質量に対するフラックス充填率が10〜25質量%であり、ワイヤ全質量に対して、C:0.02〜0.10質量%、Si:0.05〜1.50質量%、Mn:1.7〜4.0質量%、Ti:0.05〜1.00質量%、TiO:5.0〜8.0質量%、Al:0.20〜1.50質量%、Al:0.05〜1.0質量%、Mg:0.3〜2.0質量%、N:0.005〜0.035質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟鋼または高張力鋼からなる鋼板のガスシールドアーク溶接に使用されるフラックス入りワイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、鋼板の溶接、特に、片面突合せ継手溶接においては、初層溶接部(溶接金属)に発生する高温割れを抑制することが要望されている。このような高温割れの発生を抑制する方法として、以下のような技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、耐高温割れ性を改善する方法として、溶接速度を下げ、溶接電流を低くするなど溶接能率を犠牲にした溶接施工にすることが提案されている。また、特許文献1では、耐高温割れ性を改善する方法として、溶接金属中のB量を低減すること、または、溶接用ワイヤ中の不純物中のS含有量を低減することも提案されている。
【0004】
特許文献2では、耐高温割れ性を改善する方法として、溶接用ワイヤにCaOを含有させて、溶接中に発生する溶融スラグ中にCaOが添加されるようにして、裏ビード形状の凹凸を無くすことが提案されている。また、特許文献2では、耐高温割れ性を改善する方法として、ワイヤ成分としてのC量を高めにして、裏ビード形成を安定化させることも提案されている。
【0005】
特許文献3では、耐高温割れ性を改善する方法として、フェライト系ステンレス鋼の溶接部の溶接金属の結晶粒径を微細にするために、ワイヤ成分としてAI、TiおよびNを含有させ、溶接金属中にAlおよびTiの窒化物を存在させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭54−130452号公報
【特許文献2】特開2006−289404号公報
【特許文献3】特開2002−336990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の改善方法では、近時、溶接能率を向上した溶接施工条件の適用が拡大しつつあること、また、ワイヤ成分の不純物元素としてのSの含有量の低減にも限界があるため、溶接金属に発生する高温割れを抑制できないという問題がある。また、特許文献1で提案されたワイヤ成分としてのBの含有量の低減は、耐高温割れ性の改善には効果があるものの、低温靭性の低下を招くという問題がある。
【0008】
特許文献2の改善方法では、溶融スラグへのCaOの添加は、溶融スラグの粘性と融点を低減させ、流動性が過剰となり、立向姿勢の溶接においてビード垂れ等が発生し、作業性が低下するという問題がある。また、高温割れの発生が最も問題となる片面突合せ継手溶接の初層パスでは、母材希釈の影響を大きく受けるため、特許文献2で提案されたC量を高めに限定したワイヤにおいては、安定した母材希釈が得られず、安定した耐高温割れ性を得ることができない。その結果、ワイヤの使用できる母材選択範囲が限られるという問題がある。
【0009】
特許文献3の改善方法では、ワイヤが15〜25質量%のCrを含有するため、フェライト系ステンレス鋼の溶接部へのNの溶解度が増加する。そのため、溶接部の結晶粒径を微細にすべく、AlおよびTiの窒化物を活用するためにNを多量(0.04〜0.2質量%)に添加しても問題が生じない。
【0010】
しかしながら、軟鋼または高張力鋼からなる鋼板を溶接する場合、溶接部へのNの溶解度が小さく、多量のN添加は、溶接部の溶解度を超えるため、ブローホールなどの欠陥を発生しやすいという問題がある。
【0011】
また、TiOを含有するワイヤを使用した場合には、溶接金属中に多量(500〜700ppm)の酸素が存在し、Ti窒化物を生成すべく添加したTiの大部分は酸化物として消費される。そのため、Ti窒化物を生成すべく多量のTiを添加する必要があるが、その場合には、溶接金属中にTiの大部分が溶存し、溶接金属の凝固温度を下げるため、かえって高温割れが発生しやすくなるという問題がある。また、靭性などの機械的特性なども劣化すると共に、多量のTi添加は経済性の面からも好ましくないという問題もある。
【0012】
したがって、軟鋼または高張力鋼からなる鋼板の溶接において、溶接部に発生する高温割れを抑制する手段として、Tiの窒化物を活用し、溶接部の結晶粒を微細化することは、従来困難であった。
【0013】
そこで、本発明は、このような問題点を解決すべく創案されたもので、その目的は、軟鋼または高張力鋼からなる鋼板の片面突合せ継手溶接の初層溶接部で問題となる耐高温割れ性に優れ、全姿勢溶接における溶接作業性および溶接金属の機械的特性が優れたフラックス入りワイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するために、本発明に係るフラックス入りワイヤは、軟鋼または高張力鋼からなる鋼板の溶接に使用され、鋼製外皮内にフラックスを充填してなるフラックス入りワイヤであって、ワイヤ全質量に対するフラックス充填率が10〜25質量%であり、ワイヤ全質量に対して、C:0.02〜0.10質量%、Si:0.05〜1.50質量%、Mn:1.7〜4.0質量%、Ti:0.05〜1.00質量%、TiO:5.0〜8.0質量%、Al:0.20〜1.50質量%、Al:0.05〜1.0質量%、Mg:0.3〜2.0質量%、N:0.005〜0.035質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0015】
前記構成によれば、ワイヤ全質量に対するフラックス充填率が所定量であって、ワイヤ全質量に対して、所定量のC、Si、Mn、Ti、TiO、Al、Al、MgおよびNを含有することによって、溶接部(溶接金属)での高温割れが抑制されると共に、機械的強度が向上し、かつ、溶接作業性が向上する。特に、所定量のTi、Al、MgおよびNを含有することによって、溶接金属中に生成する介在物の組成を核生成促進に効果的なTiNに制御できる。その結果、溶接部(溶接金属)の凝固組織を微細化でき、高温割れが抑制できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るフラックス入りワイヤによれば、フラックス充填率が所定量であって、所定量のC、Si、Mn、Ti、TiO、Al、Al、MgおよびNを含有することによって、軟鋼または高張力鋼からなる鋼板の片面突合せ継手溶接の初層溶接部で問題となる耐高温割れ性に優れ、全姿勢溶接における溶接作業性および溶接金属の機械的特性が優れたものとなる。その結果、品質の優れた溶接製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)〜(d)は、本発明に係るフラックス入りワイヤの構成を示す断面図である。
【図2】耐高温割れ性の評価に使用する溶接母材の開先形状を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るフラックス入りワイヤについて詳細に説明する。
本発明に係るフラックス入りワイヤは、軟鋼または高張力鋼からなる鋼板の溶接に使用される。また、本発明に係るフラックス入りワイヤは、ガスシールドアーク溶接に好適に使用され、片面突合せ継手溶接において優れた効果を発揮するもので、特に溶接方法は限定されない。
【0019】
図1(a)〜(d)に示すように、フラックス入りワイヤ(以下、ワイヤと称す)1は、筒状に形成された鋼製外皮2と、その筒内に充填されたフラックス3とからなる。また、ワイヤ1は、図1(a)に示すような継目のない鋼製外皮2の筒内にフラックス3が充填されたシームレスタイプ、図1(b)〜(d)に示すような継目4のある鋼製外皮2の筒内にフラックス3が充填されたシームタイプのいずれの形態でもよい。
【0020】
そして、ワイヤ1は、フラックス充填率が所定量であって、所定量のC、Si、Mn、Ti、TiO、Al、Al、MgおよびNを含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。
【0021】
以下に、ワイヤ成分(フラックス充填率および成分量)の数値範囲を、その限定理由と共に記載する。フラックス充填率は、鋼製外皮2内に充填されるフラックスの質量を、ワイヤ1(鋼製外皮2+フラックス3)の全質量に対する割合で表したものである。また、成分量は、鋼製外皮2とフラックス3における成分量の総和で表し、ワイヤ1(鋼製外皮2+フラックス3)に含まれる各成分の質量を、ワイヤ1の全質量に対する割合で表したものである。なお、ワイヤ1を構成する成分のうち、C、Si、Mn、Ti、TiO、Al、Al、MgおよびNは、鋼製外皮2から添加するか、フラックス3から添加するかは特に問わず、鋼製外皮2およびフラックス3の少なくとも一方に添加されていればよい。
【0022】
(フラックス充填率:10〜25質量%)
フラックス充填率が10質量%未満では、アークの安定性が悪くなり、スパッタ発生量が増加すると共に、ビード外観不良が発生し、溶接作業性が低下する。フラックス充填率が25質量%超では、ワイヤ1の断線等が発生し、生産性が著しく劣化する。
【0023】
(C:0.02〜0.10質量%、好ましくは、0.03〜0.08質量%)
Cは、溶接部の焼入れ性を確保するために添加する。C量が0.02質量%未満の場合、焼入れ性不足により、溶接部の強度・靭性が不足する。また、低C量により溶接部に高温割れが発生する。C量が0.10質量%を超えると、溶接部の強度が過多となり、靭性不足となる。また、溶接時のスパッタ発生量またはヒューム発生量が増加し、溶接作業性が低下する。また、被溶接材である鋼材のC量が多い場合、溶接部(溶接金属)のC量が多くなる。そして、Cが包晶反応を起こす領域になると、溶接部に高温割れが発生しやすくなる。なお、C源としては、例えば、Fe−Mn等の合金粉、鉄粉等を用いる。
【0024】
(Si:0.05〜1.50質量%、好ましくは、0.10〜1.00質量%)
Siは、溶接部の延性確保、ビード形状維持のために添加する。Si量が0.05質量%未満では、溶接部の延性(伸び)不足となる。また、ビード形状が悪くなり、特に、立向上進溶接でビードが垂れ、溶接作業性が低下する。Si量が1.50質量%を超えると、溶接部に高温割れが発生する。なお、Si源としては、例えば、Fe−Si、Fe−Si−Mn等の合金、KSiF等のフッ化物、ジルコンサンド、珪砂、長石等の酸化物を用いる。
【0025】
(Mn:1.7〜4.0質量%、好ましくは、2.4〜3.7質量%)
Mnは、溶接部の焼入れ性確保のために添加する。Mn量が1.7質量%未満では、溶接部の焼入れ性が不足し、靭性が低下する。また、不可避的不純物として含有されるSと結合して得られるMnS量も少なくなるため、MnSによる高温割れの抑制作用が小さくなり、溶接部に高温割れが発生する。Mn量が4.0質量%を超えると、溶接部の強度が過多となり、靭性不足となる。また、溶接部に低温割れが発生する。なお、Mn源としては、例えば、Mn金属粉、Fe−Mn、Fe−Si−Mn等の合金を用いる。
【0026】
(Ti:0.05〜1.00質量%、好ましくは、0.20〜1.00質量%)
Ti(金属Ti)は、溶接部(溶接金属)の耐高温割れ性を改善するために添加する。Ti(金属Ti)は溶接時にNと結合し、溶接金属中の介在物を核生成促進に効果的なTiNに制御できる。その結果、溶接継手(溶接部)の凝固組織が微細され、溶接部の高温割れ抑制作用が改善される。Ti量(金属Ti)が0.05質量%未満では、上記効果が十分ではなく、溶接部に高温割れが発生する。Ti量(金属Ti)が1.00質量%を超えると、溶接金属再熱部が硬くて脆いベイナイト、マルテンサイトになりやすく、靭性が低下する。また、溶接時のスパッタ発生量が多くなり、溶接作業性が低下する。さらに、溶接金属中のTiが溶存として存在し、溶接金属の凝固温度を低下させ高温割れが発生する。なお、Ti源としては、例えば、Fe−Ti等の合金粉を用いる。
【0027】
(TiO:5.0〜8.0質量%)
TiO(Ti酸化物)は、全姿勢溶接における溶接作業性を確保するために添加する。TiO量(Ti酸化物)が5.0質量%未満では、立向上進溶接でビードが垂れ、溶接作業性が低下する。TiO量(Ti酸化物)が8.0質量%を超えると、溶接時のスラグ剥離性が劣化し、溶接作業性が低下する。また、フラックスのかさ比重が小さくなり、生産性が劣化する。なお、TiO源としては、例えば、ルチール等を用いる。
【0028】
(Al:0.20〜1.50質量%、好ましくは、0.20〜0.50質量%)
Alは、強脱酸剤であり溶接継手(溶接金属)中に生成する介在物から、Alに比べ脱酸力の弱いTiからなるTi酸化物を還元し、核生成促進に効果的なTiNを生成させる効果がある。その結果、溶接金属の凝固組織が微細化される。さらに、溶接金属の酸素量を低下させ、Mnの歩留まりも安定する。これらの効果から、溶接部の高温割れ抑制作用が改善し、靭性も安定化する。Al量が0.20質量%未満では、脱酸が十分でなく、溶接部に高温割れが発生する。また、靭性も低下する。Al量が1.50質量%を超えると、溶接部の強度が過多となり、靭性不足となる。また、溶接時のスパッタ発生量が多くなり、溶接作業性が低下する。なお、Al源としては、例えば、Al金属粉、Fe−Al、Al−Mg等の合金粉を用いる。
【0029】
(Al:0.05〜1.0質量%、好ましくは、0.05〜0.5質量%)
Alは、水平すみ肉姿勢でのビード形状、立向上進姿勢でのビードの垂れ防止のために添加する。Al量が0.05質量%未満では、水平すみ肉溶接でのビード形状(なじみ)が悪く、また、立向上進溶接でビード垂れが発生し、溶接作業性が低下する。Al量が1.0質量%を超えると、溶接時のスラグ剥離性が劣化し、溶接作業性が低下する。なお、Al源としては、例えば、アルミナや長石等の複合酸化物を用いる。
【0030】
(Mg:0.3〜2.0質量%、好ましくは、0.3〜1.0質量%)
Mgは、強脱酸剤であり溶接継手(溶接金属)中に生成する介在物から、Mgに比べ脱酸力の弱いTiからなるTi酸化物を還元し、核生成促進に効果的なTiNを生成させる効果がある。その結果、溶接金属の凝固組織が微細化される。さらに、溶接金属の酸素量を低下させ、Mnの歩留まりも安定する。これらの効果から、溶接部の高温割れ抑制作用が改善し、靭性も安定化する。Mg量が0.3質量%未満では、前記効果が十分ではなく、溶接部(初層溶接部)に高温割れが発生する。また、靭性も低下する。Mg量が2.0質量%を超えると、溶接部の強度が過多となり、靭性不足となる。また、スパッタ発生量が多くなる。なお、Mg源としては、例えば、金属Mg、Al−Mg、Fe−Si−Mg等の金属粉、合金粉を用いる。
【0031】
(N:0.005〜0.035質量%)
Nは、核生成促進に効果的なTiNを生成させるためには不可欠なものである。そして、TiNの生成により、溶接金属の凝固組織が微細化され、耐高温割れ性が改善される。N量が0.005質量%未満では、上記効果が十分ではなく、溶接部(初層溶接部)に高温割れが発生する。N量が0.035質量%を超えると、溶接金属中にブローホールが発生する。また溶接部の強度が過多となり、靭性が低下する。なお、N源としては、例えば、N−Cr,Fe−N−Cr、N−Si、N−Mn、N−Ti等の金属窒化物を使用する。
【0032】
(Fe)
残部のFeは、鋼製外皮2を構成するFe、および/または、フラックス3に添加されている鉄粉、合金粉のFeである。
【0033】
(不可避的不純物)
残部の不可避的不純物としては、S、P、Ni、O、Zr等が挙げられ、本発明の効果を妨げない範囲で含有することが許容される。S量、P量、Ni量、O量、Zr量は、それぞれ、0.050質量%以下が好ましく、鋼製外皮2とフラックス3における各成分量の総和である。
【0034】
なお、本発明に係るワイヤ1では、ワイヤ作製時にワイヤ成分(成分量)が前記範囲内になるように、鋼製外皮2およびフラックス3の各成分(各成分量)を選択する。また、本発明に係るワイヤ1は、その表面にCu鍍金を施すことも可能であり、ワイヤ全質量に対し、0.35質量%以下のCuを含有してもよい。
【0035】
また、本発明に係るワイヤ1の製造方法は、例えば、所定の組成を有する帯鋼で筒状の鋼製外皮2を形成する工程と、その鋼製外皮2の内部に所定の組成を有するフラックス3を充填する工程と、フラックス3が充填された鋼製外皮2を所定の外径まで伸線加工してワイヤ1とする工程と、必要に応じてワイヤ1の表面にCu鍍金を行う工程とを含むものである。しかしながら、ワイヤ1が製造できれば、前記製造方法に限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
本発明に係るフラックス入りワイヤについて、本発明の要件を満足する実施例と、本発明の要件を満足しない比較例とを比較して具体的に説明する。
【0037】
鋼製外皮(鋼は、C:0.03質量%、Si:0.02質量%、Mn:0.25質量%、P:0.010質量%、S:0.008質量%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなるものを使用)の内側にフラックスを充填して、表1、表2に示すワイヤ成分からなるワイヤ径1.2mmの図1(b)に示すシームタイプのフラックス入りワイヤ(実施例:No.1〜20、比較例:No.21〜40)を作製した。
【0038】
なお、ワイヤ成分は、以下の測定方法で測定、算出した。
C量は「燃焼赤外線吸収法」によって、N量は「不活性ガス融解熱伝導度法」によって、Si量、Mn量、Mg量は「ICP発光分光分析法」によって、測定した。
【0039】
TiO量(TiO等として存在し、Fe−Ti等は含まない)は、「酸分解法」により測定される。酸分解法に使用する溶媒は王水を用い、ワイヤ全量を溶解した。これにより、ワイヤ1に含まれるTi源(Fe−Ti等)は王水へ溶解するが、TiO源(TiO等)は王水に対し不溶なため、溶け残る。この溶液を、フィルター(ろ紙は5Cの目の細かさ)を用いてろ過し、フィルターごと残渣をニッケル製るつぼに移し、ガスバーナーで加熱して灰化した。次いで、アルカリ融剤(水酸化ナトリウムと過酸化ナトリウムの混合物)を加え、再度ガスバーナーで加熱して残渣を融解した。次に、18質量%塩酸を加えて融解物を溶液化した後、メスフラスコに移し、さらに純水を加えてメスアップして分析液を得た。分析液中のTi濃度を「ICP発光分光分析法」で測定した。このTi濃度をTiO量に換算し、TiO量を算出した。
【0040】
Ti量(Fe−Ti等として存在し、TiO等は含まない)は、「酸分解法」によりワイヤ全量を王水へ溶解して、不溶であったTiO源(TiO等)をろ過し、その溶液をワイヤ1に含まれるTi源(Fe−Ti等)とし得ることで、「ICP発光分光分析法」を用い、Ti量(Fe−Ti等)として存在を求めた。
【0041】
Al量(アルミナや長石等の複合酸化物として存在し、Al金属粉等の合金粉は含まない)は、「酸分解法」により測定される。酸分解法に使用する溶媒は王水を用い、ワイヤ全量を溶解した。これにより、ワイヤ1に含まれるAl源(Al金属粉等の合金粉)は王水へ溶解するが、Al源(アルミナや長石等の複合酸化物)は王水に対し不溶なため、溶け残る。この溶液を、フィルター(ろ紙は5Cの目の細かさ)を用いてろ過し、フィルターごと残渣をニッケル製るつぼに移し、ガスバーナーで加熱して灰化した。次いで、アルカリ融剤(水酸化ナトリウムと過酸化ナトリウムの混合物)を加え、再度ガスバーナーで加熱して残渣を融解した。次に、18質量%塩酸を加えて融解物を溶液化した後、メスフラスコに移し、さらに純水を加えてメスアップして分析液を得た。分析液中のAl濃度を「ICP発光分光分析法」で測定した。このAl濃度をAl量に換算し、Al量を算出した。Al量(Al金属粉等の合金粉として存在し、アルミナや長石等の複合酸化物は含まない)は、「酸分解法」によりワイヤ全量を王水へ溶解して、不溶であったAl源(アルミナや長石等の複合酸化物)をろ過し、その溶液をワイヤ1に含まれるAl源(Al金属粉等の合金粉)とし得ることで、「ICP発光分光分析法」を用い、Al量(Al金属粉等の合金粉)として存在を求めた。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
作製されたフラックス入りワイヤを用いて、以下に示す方法で、耐高温割れ性、機械的性質(引張強さ、吸収エネルギー)、溶接作業性について評価した。その評価結果に基づいて、実施例および比較例のフラックス入りワイヤの総合評価を行った。
【0045】
(耐高温割れ性)
JIS G3106 SM400B鋼(C:0.12質量%、Si:0.2質量%、Mn:1.1質量%、P:0.008質量%、S:0.003質量%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物)からなる溶接母材を、表3に示す溶接条件で片面溶接(下向突合せ溶接)した。
【0046】
【表3】

【0047】
図2に示すように、溶接母材11はV形状の開先を有し、このV形状の開先の裏面には、耐火物12およびアルミニウムテープ13等からなる裏当て材が配置されている。そして、開先角度を35°として、セラミック製の裏当て材が配置されている部分のルート間隔を4mmとした。溶接終了後、初層溶接部(クレータ部を除く)について、X線透過試験(JIS Z 3104)にて、内部割れの有無を確認し、割れ発生部分のトータル長さ測定し、割れ率を算出した。ここで、割れ率は、割れ率W=(割れ発生部分のトータル長さ)/(初層溶接部長さ(クレータ部を除く))×100により算出される。その割れ率で耐高温割れ性を評価した。評価基準は、割れ率0%のとき「優れている:○」、割れ有りのとき「劣っている:×」とした。その結果を表4、表5に示す。
【0048】
(機械的性質)
JIS Z3313に準じて、引張強さ、靭性の評価基準としての0℃吸収エネルギーについて評価した。引張強さの評価基準は、490MPa以上640MPa以下のとき「優れている:○」、490MPa未満または640MPa超のとき「劣っている:×」とした。0℃吸収エネルギーの評価基準は、60J以上のとき「優れている:○」、60J未満のとき「劣っている:×」とした。さらに、JIS Z3313に準じて、伸びを評価する場合には、その評価基準は、22%以上のとき「優れている:○」、22%未満のとき「劣っている:×」とした。その結果を表4、表5に示す。
【0049】
(溶接作業性)
耐高温割れ性と同様の溶接母材を使用して、下向すみ肉溶接、水平すみ肉溶接、立向上進すみ肉溶接、立向下進すみ肉溶接の4種の溶接を行い、作業性を官能評価した。ここで、下向すみ肉溶接試験、水平すみ肉溶接試験および立向下進溶接試験の溶接条件は、前記耐高温割れ性と同様とした(表3参照)。立向上進すみ肉溶接試験の溶接条件は、溶接電流200〜220A、アーク電圧24〜27Vとした。なお、評価基準は、スパッタ発生、ヒューム発生、ビード垂れ、ビード外観不良等に加え、低温割れやブローホール、生産中の断線等の溶接不良が発生しないとき「優れている:○」、溶接不良が発生したとき「劣っている:×」とした。その結果を表4、表5に示す。
【0050】
(総合評価)
総合評価の評価基準は、前記評価項目のうち、耐高温割れ性が「○」かつ機械的性質および溶接作業性が「○」のとき「優れている:○」、前記評価項目の少なくとも1つが「×」のとき「劣っている:×」とした。その結果を表4、表5に示す。
【0051】
【表4】

【0052】
【表5】

【0053】
表1、表4に示すように、実施例(No.1〜20)は、全てのワイヤ成分が本発明の範囲を満足するため、耐高温割れ性、機械的性質および溶接作業性の全てにおいて優れ、総合評価においても、優れていた。
【0054】
表2、表5に示すように、比較例(No.21)は、C量が下限値未満であるため、耐高温割れ性および機械的性質に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.22)は、C量が上限値を超えるため、機械的性質および耐高温割れ性および溶接作業性に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.23)は、Si量が下限値未満であるため、溶接作業性に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.24)は、Si量が上限値を超えるため、耐高温割れ性に劣り、総合評価も劣っていた。
【0055】
比較例(No.25)は、Mn量が下限値未満であるため、耐高温割れ性および機械的性質に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.26)は、Mn量が上限値を超えるため、機械的性質および溶接作業性に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.27)は、Ti量が下限値未満であるため、耐高温割れ性に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.28)は、Ti量が上限値を超えるため、耐高温割れ性および機械的性質および溶接作業性に劣り、総合評価も劣っていた。
【0056】
比較例(No.29)は、TiO量が下限値未満であるため、溶接作業性に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.30)は、TiO量が上限値を超えるため、溶接作業性に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.31)は、Al量が下限値未満であるため、耐高温割れ性および機械的性質に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.32)は、Al量が上限値を超えるため、機械的性質および溶接作業性に劣り、総合評価も劣っていた。
【0057】
比較例(No.33)は、Al量が下限値未満であるため、溶接作業性に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.34)は、Al量が上限値を超えるため、溶接作業性に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.35)は、Mg量が下限値未満であるため、耐高温割れ性および機械的性質に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.36)は、Mg量が上限値を超えるため、機械的性質および溶接作業性に劣り、総合評価も劣っていた。
【0058】
比較例(No.37)は、N量が下限値未満であるため、耐高温割れ性に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.38)は、N量が上限値を超えるため、機械的特性および溶接作業性に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.39)は、フラックス充填率が下限値未満であるため、溶接作業性に劣り、総合評価も劣っていた。比較例(No.40)は、フラックス充填率が上限値を超えるため、ワイヤ生産中に断線が発生し、総合評価としては劣っていた。
【0059】
以上の結果から、実施例(No.1〜20)は、比較例(No.21〜40)と比べて、フラックス入りワイヤ1として優れていることが確認された。
【符号の説明】
【0060】
1 フラックス入りワイヤ(ワイヤ)
2 鋼製外皮
3 フラックス
4 継目
11 溶接母材
12 耐火物
13 アルミニウムテープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟鋼または高張力鋼からなる鋼板の溶接に使用され、鋼製外皮内にフラックスを充填してなるフラックス入りワイヤであって、
ワイヤ全質量に対するフラックス充填率が10〜25質量%であり、
ワイヤ全質量に対して、
C:0.02〜0.10質量%、
Si:0.05〜1.50質量%、
Mn:1.7〜4.0質量%、
Ti:0.05〜1.00質量%、
TiO:5.0〜8.0質量%、
Al:0.20〜1.50質量%、
Al:0.05〜1.0質量%、
Mg:0.3〜2.0質量%、
N:0.005〜0.035質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる
ことを特徴とするフラックス入りワイヤ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−25271(P2011−25271A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172504(P2009−172504)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】