説明

フラッシュ溶接装置およびこれを使用してなる多連トンネルの施工方法

【課題】作業効率に優れ、トンネル内におけるパイプルーフ施工に要する各種作業用の空間を可及的に広く採ることのできる、フラッシュ溶接装置とこれを使用してなる多連トンネルの施工方法を提供する。
【解決手段】パイプルーフ用の鋼管を推進させる推進装置10の鋼管案内架台11に着脱自在で、鋼管P1,P2同士をフラッシュ溶接するためのフラッシュ溶接装置20であり、鋼管P1,P2を把持する第1、第2の把持装置21,22と、把持装置21,22同士を繋いで、フラッシュ溶接の途中工程で鋼管P1,P2同士を引き寄せるためのサーボジャッキ23と、さらに把持装置21,22同士を繋いで、フラッシュ溶接の最終工程で鋼管P1,P2同士をアプセットするためのアプセットジャッキ25とを具備し、把持装置21,22、サーボジャッキ23、アプセットジャッキ25が鋼管案内架台11に順次取り付けおよび取り外し自在となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイプルーフ用の鋼管を地盤内に推進させる推進装置の鋼管案内架台に着脱自在なフラッシュ溶接装置と、このフラッシュ溶接装置が装着された推進装置を使用して、少なくとも3連以上の多連トンネルを施工する多連トンネルの施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地下道路トンネルのランプ部をはじめとして地中にてトンネルを接合することによって断面が多連円弧状のトンネルを施工する方法として、従来は大規模な開削工法が適用されてきたが、用地確保、地上交通への影響、工期の長期化とそれに伴なう工費の増大などから、より安全かつ経済的なトンネル接合方法が切望されており、建設各社が検討/開発を進めている。
【0003】
上記する多連円弧状トンネルの施工方法として、間隔を置いて併設した例えば2つのトンネルを推進工法もしくはシールド工法にて先行施工し、双方のトンネル間を湾曲したパイプルーフ(曲線パイプルーフ)で繋いで支保工を構築した後に該支保工直下を掘削することにより、多連円弧状トンネルを施工する技術がある。この工法では、鋼管の先端に推進機を設け、一方のトンネル側から鋼管を順次継ぎ足しながら地盤内に推進させ、他方のトンネル側でこの推進鋼管を受け取ることで上記曲線パイプルーフを構築するものであり、この曲線パイプルーフをトンネルの長手方向に連続して、あるいは間隔をおいて構築することで上方地盤を支持させ、次いでその下方地盤を掘削することによりたとえば3連の大断面トンネルを構築するものである。
【0004】
上記する鋼管同士の接続方法として、接着接合方法や形状記憶合金継ぎ手方法、手動溶接もしくは半自動溶接などを挙げることができる。しかし、これらの方法には、接続部を鞘管形状に加工したり、開先を取ったり、熟練技術者を要したり、有資格者による施工が義務付けられているなどの課題があった。特に、手動溶接や半自動溶接は信頼性が高い一方で、往々にして溶接時間が長くなってしまうことからパイプルーフ施工全体の工期が長くなってしまうという課題もあった。
【0005】
上記課題を解消する一つの方策として、フラッシュ溶接技術を採用することが考えられる。このフラッシュ溶接とは、接続される2つの鋼管同士を把持し、鋼管の間に数万アンペアにも及ぶ大電流を流し、この際に発生する火花(フラッシュ)によって接合端面を過熱溶融させ、鋼管同士を加圧(アプセット)することによって酸化物や不純物を接合部から外側に押し出して余盛りを形成して接合する方法であり、その施工に際して資格も不要であり、熟練を要することもなく、さらには効率的な接続施工を実現することができるものである。なお、このフラッシュ溶接を採用して鋼製部材を溶接しながら地盤内に圧入する技術が特許文献1,2に開示されている。
【0006】
上記各特許文献に開示のフラッシュ溶接装置をはじめとする従来のフラッシュ溶接装置は、鋼管を圧入する装置に直接組み込まれていたり、あるいはフラッシュ溶接装置全体が既に組みつけられており、これをトンネル内におけるパイプルーフ用鋼管接続施工に適用しようとすると、鋼管推進装置とフラッシュ溶接装置がトンネル内の作業空間を占有してしまい、トンネル内における鋼管や溶接装置の搬入作業や鋼管案内架台への鋼管の設置作業、接続鋼管および被接続鋼管の接続作業や鋼管推進作業などを実行するための十分な作業空間を確保できないことは必然である。
【0007】
【特許文献1】特開2001−259850号公報
【特許文献2】特開2002−38478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、作業効率に優れ、熟練技術や有資格者を要することもなく、トンネル内におけるパイプルーフ施工に要する各種作業用の空間を可及的に広く取ることのできる、フラッシュ溶接装置とこれを使用してなる多連トンネルの施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明によるフラッシュ溶接装置は、パイプルーフ用の鋼管を地盤内に推進させる推進装置の鋼管案内架台に着脱自在で、2つの鋼管同士をフラッシュ溶接するための装置であって、前記2つの鋼管のそれぞれを把持する第1、第2の把持装置と、前記第1、第2の把持装置同士を繋いで、フラッシュ溶接の途中工程で前記2つの鋼管同士を引き寄せるための第1のジャッキと、前記第1、第2の把持装置同士を繋いで、フラッシュ溶接の最終工程で前記2つの鋼管同士をアプセットするための第2のジャッキと、を少なくとも具備し、前記第1の把持装置、第2の把持装置、第1のジャッキ、第2のジャッキが前記鋼管案内架台に順次取り付けおよび取り外し自在であることを特徴とするものである。
【0010】
本発明のフラッシュ溶接装置は、トンネル内に設置されたパイプルーフ用鋼管を推進するための推進装置にその構成部材が順次組み付けられ、さらには取り外される構成部材分離型の装置であり、2つの鋼管同士をフラッシュ溶接した後に即座に解体されることでその後の推進作業のための空間を可及的に広く取ることを可能とした装置である。
【0011】
このフラッシュ溶接には、有資格者や熟練技術は必要なく、当初別体の構成部材を組み付けるだけで溶接作業は自動制御されるものである。
【0012】
フラッシュ溶接装置は、溶接される2つのパイプルーフ用の鋼管のそれぞれを把持固定する2つの把持装置(第1、第2の把持装置)と、この2つの把持装置を別々に繋ぐ2つのジャッキ(第1、第2のジャッキ)を少なくとも備え、たとえばこれらのジャッキ双方の駆動を制御する回路装置が設けられている。ここで、第1、第2のジャッキは、ラック駆動式や軸受けねじ式等の機械式ジャッキや、油圧ジャッキ等の液体作動式ジャッキなどを使用することができる。油圧ジャッキを使用する場合には、各ジャッキは油圧回路装置にてその油圧制御が実行されるものであり、この油圧制御方式としては、比例制御方式やサーボ制御方式などがある。
【0013】
フラッシュ溶接とは、把持された鋼管の間に数万アンペア程度の大電流を流し、発生するフラッシュによって接合端面を過熱溶融させ、次いで鋼管同士をアプセット(加圧)することで酸化物や不純物を接合断面外に押し出して余盛りを形成し、最後にバリ等を除去して仕上げる溶接方法のことである。ここで、鋼管の接合端面を過熱溶融する途中工程では、双方の鋼管同士を一定速度で引き寄せたり、あるいは一方の鋼管を固定し、他方の鋼管のみを一定速度で引き寄せながらフラッシュを発生させるに適した鋼管の位置制御が実行されるものであり、この引き寄せ作業による鋼管の位置制御を目的として上記する第1のジャッキが使用される。
【0014】
一方、アプセット時には第2のジャッキにて一方または双方の鋼管を短いストロークだけ急速に引き寄せながら加圧することにより高い接合強度を得るものである。
【0015】
トンネル内に装備された推進装置にはパイプルーフ用の曲線鋼管が設置されており、先行鋼管の一部が地盤内に所定長だけ推進された姿勢でその後方端面がトンネル内に臨んでいる。この状態で継ぎ足される曲線鋼管が推進装置に設置され、次いで、双方の鋼管に上記する2つの把持部材がそれぞれ取り付けられ、この把持部材同士を繋ぐようにして上記する2つのジャッキが取付けられる。上記するフラッシュ溶接作業が終了したら、フラッシュ溶接装置を構成する各構成部材を順次解体してトンネル内の作業空間を広くし、曲線鋼管の推進作業に移行する。
【0016】
上記作業を順次繰り返すことによって一方のトンネルから地盤内に間隔を置いて併設された他方のトンネルに曲線パイプルーフを掛け渡することができる。
【0017】
本発明のフラッシュ溶接装置は、その全体が推進装置に当初から設置されるものではなく、また、構成部材が予め組み付けられたフラッシュ溶接装置をトンネルに搬入し、推進装置にこれを設置するものではないことから、フラッシュ溶接自体の有する各種効果を得ることができることに加えて、一般に狭隘なトンネル内で溶接作業以外の作業の際にフラッシュ溶接装置が空間を占有して作業効率を低下させるという虞がない。
【0018】
また、本発明によるフラッシュ溶接装置の好ましい実施の形態において、前記第1のジャッキには、前記第2のジャッキによるアプセット時の作用力を吸収するための保護装置が装着されているものである。
【0019】
アプセット用の第2のジャッキは大推力にて鋼管同士を引き寄せることから、このアプセット時には上記するフラッシュ発生用の第1のジャッキに過大な作用力が作用する。この過大な作用力から第1のジャッキを保護することを目的として、本実施の形態では、第1のジャッキに保護装置を装着するものである。ここで、この保護装置としては、第1のジャッキに所定値以上の推力が作用しないように調整された別途のジャッキやダンパー、与圧されたバネなどを適用できる。
【0020】
また、本発明によるフラッシュ溶接装置の他の実施の形態は、前記推進装置を構成する鋼管推進用ジャッキが前記第2のジャッキとして併用されることを特徴とするものである。
【0021】
パイプルーフ用の曲線鋼管を推進する推進装置の推進ジャッキは大推力を発揮できる性能を有しており、また、本発明のフラッシュ溶接装置が推進装置にその構成部材を順次組み付けてできるものであることから、この推進ジャッキをフラッシュ溶接装置の第2のジャッキに有効利用することにより、構成部材の低減と組み付けや解体に伴う作業工数の低減を図ることができる。
【0022】
また、上記する把持装置の一実施の形態として、鋼管を直接把持するリング部材と、該リング部材に固定されるとともに前記第1、第2のジャッキが取り付けられ、前記鋼管案内架台に位置決め固定される固定部材と、を少なくとも具備する形態がある。
【0023】
ここで、リング部材として、ピン結合された半割り状の半リングを鋼管外周で設置する形態などがある。また、曲線鋼管の端部近傍の外周には他の曲線鋼管とボルト結合するためのボルト孔が複数設けられているのが一般的であることから、このボルト孔を利用して鋼管とリング部材をボルト結合することが可能である。
【0024】
このリング部材に第1、第2のジャッキが直接接続される固定部材がやはりボルト結合等されることで把持部材が形成される。
【0025】
この固定部材もリング部材を囲繞する2つの部材から構成でき、一方の部材には第1、第2のジャッキが取り付けられ、他方の部材は推進装置の鋼管案内架台上方の円弧状フランジに取り付けられるものである。
【0026】
また、本発明によるフラッシュ溶接装置を構成する油圧回路装置の一実施の形態として、前記フラッシュ溶接の最終工程において、前記第2のジャッキに対し、2つの鋼管同士を所定の引き寄せ速度で所定量だけ引き寄せる制御を実行するものを適用できる。
【0027】
フラッシュ溶接の最終工程であるアプセット工程では、たとえば1mm程度のストローク量を10mm/sec程度のストローク速度で双方の鋼管同士を加圧するのがよく、この所定量で所定速度のストローク制御を油圧回路装置が実行するものである。
【0028】
ここで、アプセット時のアプセット推力は鋼管端面におよそ50N/mm程度の推力でジャッキ送りすることにより、溶接品質に優れた接合部を形成することが可能となる。
【0029】
また、上記するアプセット時のジャッキ送りをより経済的に実行するために、油圧回路内にフラッシュ溶接の途中工程における加圧油を少なくとも蓄える蓄圧器(アキュムレータ)を内蔵しておき、フラッシュ溶接の最終工程であるアプセット工程で上記する第2のジャッキに該加圧油が提供されるように該油圧回路装置を実行制御するのが好ましい。
【0030】
フラッシュ溶接の最終工程であるアプセット工程では、ジャッキのストローク量はわずかであるもののその送り速度はたとえば10mm/sec程度と比較的高速度であることから、この制御を実行するには大吐出量の油圧ポンプが必要となる。アプセット工程は瞬時に終了することからすれば、このわずかな時間のために高価で大体格、大吐出量の油圧ポンプを使用するのは極めて不経済である。そこで、フラッシュ溶接装置を構成する各ジャッキの送り制御を実行する油圧回路装置に蓄圧器とさらには方向切換え制御バルブを内蔵しておく。フラッシュ溶接の途中工程であるフラッシュ工程では油圧ポンプからの油量で第1、第2のジャッキを駆動し(第2のジャッキも第1、第2の把持装置に装着されていることから、フラッシュ工程の際にはこれも第1のジャッキに同期して同程度の送りを実行する必要がある)、アプセット工程の際には切換え制御バルブにて蓄圧器からの加圧油を使用して第2のジャッキを送り制御するものである。
【0031】
本実施の形態によれば、より安価でよりコンパクトなフラッシュ溶接装置を得ることができ、トンネル内における該溶接装置の占有空間をより狭小化することができる。
【0032】
さらに、本発明による多連トンネルの施工方法は、地中に併設するトンネルを構築する第1の工程と、前記フラッシュ溶接装置が装着された推進装置を使用して、一方のトンネル側から鋼管を順次フラッシュ溶接しながら地盤内に推進させ、他方のトンネル側に到達させて先受け用のパイプルーフを設ける第2の工程と、一方のトンネルにおける他方のトンネル側の鋼殻を撤去するとともに、パイプルーフ下方に本設接合躯体を施工して少なくとも3連以上の多連トンネルを構築する第3の工程と、を少なくとも具備し、前記フラッシュ溶接に際して、分離されたフラッシュ溶接装置の各構成部材を組み付けてフラッシュ溶接装置を前記推進装置に装着し、フラッシュ溶接が終了して鋼管の推進を実行する前にフラッシュ溶接装置を解体することを特徴とするものである。
【0033】
多連トンネルとは、例えば2つの円形トンネルと該トンネル同士を上下の円弧状の接続部にて繋いでなるトンネルのことであり、そのほかにも、間隔を置いて併設する3つの円形トンネル(例えば第1トンネル、第2トンネル、第3トンネルという)において、第1トンネルと第2トンネル、第2トンネルと第3トンネルをそれぞれ上下の円弧状の接続部にて繋いでなるトンネルなどを意味している。また、この施工方法は、トンネルの分合流部の拡幅部(本線トンネルとランプトンネルとが接続する区間)や、地下鉄路線と駅舎との接続部、各種地下施設を収容するための広範な地下空間等がその用途である。
【0034】
まず、併設する被接続トンネルをシールド工法もしくは推進工法にて平行して施工し、もしくは順次施工する。このトンネルは鋼製セグメントや鋼製函体などから構成されており、たとえば鋼製セグメントには予めパイプルーフ挿通用の挿通孔を設けておくこともできる。
【0035】
曲線パイプルーフは、地盤条件等により、トンネルの長手方向に隙間なく構築される場合とトンネルの長手方向に間隔を置いて構築される場合がある。
【0036】
一方のトンネル内から所定長の曲線鋼管が上記するフラッシュ溶接装置で溶接され、次いで推進装置で地盤内に押出され、これが繰り返し実行されることで鋼管先端が他方のトンネル側で受け取られて仮固定されることで2つのトンネル間に曲線パイプルーフが構築される。
【0037】
パイプルーフ施工後、このパイプルーフ直下を掘削するとともに例えばRC造の本設接合躯体を施工し、双方のトンネル同士を連通させるに障害となる鋼殻を撤去することにより、多連トンネルが構築される。
【0038】
本発明の多連トンネルの施工方法によれば、推進装置に取り付けられた本発明のフラッシュ溶接装置を使用することで、鋼管同士の接続強度の高い高品質の曲線パイプルーフを構築することができる。しかも、構成部材が分離されたフラッシュ溶接装置を推進装置に組み付けてフラッシュ溶接を実行し、推進施工の前にこのフラッシュ溶接装置を解体することで、トンネル内における溶接作業以外の作業段階でフラッシュ溶接装置がトンネル内空間を占有することがないため、全体の作業効率が高められることで多連トンネル全体の施工効率の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0039】
以上の説明から理解できるように、本発明のフラッシュ溶接装置によれば、フラッシュ溶接装置の構成部材を推進装置に順次組み付けし、フラッシュ溶接作業終了後は構成部材ごとに解体/取り外し自在であり、この組み付けや解体作業も容易であることから、該フラッシュ溶接作業以外の作業においては狭隘なトンネル内の作業空間を可及的に広くすることができ、効率的な曲線パイプルーフ施工を実現することができる。また、本発明の多連トンネルの施工方法によれば、本発明のフラッシュ溶接装置を備えた推進装置を使用して曲線パイプルーフを構築することにより、その施工効率を格段に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1はトンネル内で推進装置に本発明のフラッシュ溶接装置の一実施の形態が取り付けられた状態を説明する側面図であり、図2は図1におけるフラッシュ溶接装置を拡大した図であり、図3は図2のIII−III矢視図である。図4は鋼管と把持装置の取り付け態様を説明した断面図であり、図5は推進装置および鋼管へのフラッシュ溶接装置の組み付け方法、取り外し方法を説明した図であり、図6はフラッシュ溶接装置を構成する油圧回路装置の回路図の一実施の形態である。図7〜9は順に、3連円弧トンネルの施工方法を説明した断面図である。
【0041】
図1はトンネル100内の推進装置用架台の床面F上に載置された推進装置10に本発明のフラッシュ溶接装置20が組み付けられた状態を示した図であり、図2は図1の先行鋼管P1と後行鋼管P2の溶接箇所W付近のフラッシュ溶接装置20を拡大した図であり、さらに図3は図2のIII−III矢視図である。
【0042】
推進装置10は、床面F上に固定され、曲線鋼管と同曲率を有する曲線フランジ11aをその上方に備えた傾斜架台11と、この傾斜架台11の脚部でその一端が回動自在に装着された推進ジャッキ12とから構成されており、推進ジャッキ12をストローク制御することで鋼管を地盤G内に推進させるものである。
【0043】
フラッシュ溶接装置20は、先行鋼管P1と後行鋼管P2のそれぞれに取り付け固定された把持装置21,22と、この把持装置21,22を別々に繋ぐサーボジャッキ23とアプセットジャッキ25を具備しており、サーボジャッキ23の先端にはアプセット工程時の作用力を緩和するためのダンパジャッキ24が装着されている。
【0044】
フラッシュ溶接装置20を構成する上記各部材は、後述するようにトンネル内をそれぞれ分離された姿勢で搬送され、推進装置10に順次組み付けられて図示するフラッシュ溶接装置20が形成されるものである。
【0045】
図2,3より、把持装置21,22はそれぞれ、先行鋼管P1と後行鋼管P2を直接把持する2つの半割りリングが一点で回動自在に蝶番接続されたリング部材21a,22aと、各リング部材21a,22aにボルトまたはピンにて固定される固定部材上半部21b1,22b1、固定部材下半部21b2,22b2からなる固定部材21b、22bとから構成されている。
【0046】
各リング部材21a,22aは鋼管P1,P2に予め設けられたピン孔P1a,P2aにボルト留めされる。後行鋼管P2と把持装置22の固定態様を説明した図3に基づいて説明すると、リング部材22aと鋼管P2は双方に穿孔された対応する孔にリングセットピン22dが嵌め込まれて固定されるとともに、リング部材22aと固定部材下半部22b2がボルト固定され、固定部材上半部22b1が固定部材下半部22b2にボルト固定される。
【0047】
2つのサーボジャッキ23,23と2つのアプセットジャッキ25,25が固定部材上半部22b1にそれぞれボルト固定される。
【0048】
固定部材下半部22b2はその下方でスライド固定部22cとボルト固定されており、このスライド固定部22cが具備する固定ボルト22c1,…が傾斜架台11の曲線フランジ11aを挟むようにして適宜の位置で把持装置22を固定するものである。なお、先行鋼管P1を把持する把持装置21も同様である。
【0049】
この把持装置21,22は、それぞれ2組のサーボジャッキ23,23とアプセットジャッキ25,25で溶接箇所Wを挟んで繋がれる。
【0050】
なお、後行鋼管P2と固定部材上半部22b1との固定態様を図4でより詳細に説明しているが、同図より、固定部材上半部22b1を構成するサーボジャッキ23搭載用プレートとリング部材22aとが絶縁材22fを介して固定されており、このプレートには鋼管位置を調整するための調整ボルト22eにて位置調整がおこなわれるようになっている。
【0051】
図5は、以上で説明したフラッシュ溶接装置20の推進装置10および鋼管P1,P2への組み付けおよび取り外し(解体)を説明した図であり、同図では、その把持装置22と後行鋼管P2を取り上げて説明している。なお、図5は、センターラインの左右で固定部材下半部22b2が傾斜架台11を構成する左右の曲線フランジ11a,11aとこれらを繋ぐ鋼材の中央に設けられた中空センターポール11bから上方に移動した状態(左図)と下方に移動した状態(右図)を図示している。図示例では、固定部材下半部22b2が中空センターポール11bに回転自在に装着されており、この固定部材下半部22b2に装着された水平バーにスライド固定部22cがスライド自在に装着されている。
【0052】
フラッシュ溶接装置20を構成する各構成部材は別体でトンネル内に搬送される。鋼管P2および推進装置10の曲線フランジ11aへの組み付けは、センターポール11b内から固定部材下半部22b2を上方へ引き出して(X3方向)後行鋼管P2に固定するとともに、センターポール11b側に寄せられた左右のスライド固定部22c、22cを左右の曲線フランジ11a,11aに引き出し(X2方向)、上下一対の固定ボルト22c1,…で曲線フランジ11aを挟み込んで固定する。
【0053】
次いで、固定部材上半部22b1を位置決め固定された固定部材下半部22b2にボルト固定するとともに、この固定部材上半部22b1にサーボジャッキ23,23とアプセットジャッキ25,25を取り付ける(X1方向)。
【0054】
図示を省略するが、他方の把持装置21も先行鋼管P1および傾斜架台11に同様に取り付け、サーボジャッキ23の先端にはダンパジャッキ24を取り付けてこれを把持装置21に取り付け、アプセットジャッキ25の先端は把持装置21に取り付けることによって組み付けが完了し、図2,3に示すフラッシュ溶接装置20が形成される。
【0055】
フラッシュ溶接工程が終了し、推進工程に移行するに先んじて、今度はフラッシュ溶接装置20の解体および取り外しをおこなう。この解体および取り外し作業は、既述する組み付け作業の逆の手順で行えばよく、各固定部材上半部21b1、22b1と固定部材下半部21b2、22b2を解体してこれを下方に移動させ(X4方向)、各リング部材21a,22aを撤去し、スライド固定部21c、22cを中央のセンターポール11b側に縮め(X2方向)、固定部材下半部22b2、21b2を回転させることにより(X5方向)、フラッシュ溶接装置20が完全に解体される。
【0056】
次に、図6に示す本発明のフラッシュ溶接装置を形成する油圧回路装置の回路図に基づいて、フラッシュ溶接工程の特に最終工程であるアプセット工程の概要を説明する。ここで、本説明では先行鋼管を固定し、後行鋼管をこの先行鋼管側に送り制御しながらフラッシュ溶接するものである。
【0057】
まず、先行鋼管および後行鋼管の双方に本発明のフラッシュ溶接装置を取り付けた後に、双方の鋼管に数万アンペアの電流を流しながら、後行鋼管を先行鋼管側に2〜3分の時間をかけて20mm程度送り制御しながら、発生するフラッシュによって鋼管端部を過熱溶融する(フラッシュ工程)。このフラッシュ工程では、サーボジャッキの送り量に同期するようにアプセットジャッキも同量の送り制御が実行され、この送り制御の過程で油圧ポンプからの加圧油が蓄圧器31(アキュムレータ)に蓄えられる。
【0058】
次に、フラッシュ溶接の最終工程であるアプセット工程に移行する。まず、図6で示す回路図において、アプセットジャッキ25は油圧モータ34によって作動するものであり、アプセット工程に移行した段階で切換え制御バルブ32が作動して蓄圧器31に蓄えられた圧力油がアプセットジャッキ25に送られて鋼管同士のアプセットが実行される。
【0059】
なお、サーボジャッキ23の先端に装着されたダンパジャッキ24の作用により、アプセット工程に移行した際にアプセットジャッキからサーボジャッキに作用する作用力のうち、予め設定されたサーボジャッキの許容作用力以上の力はダンパジャッキ24がパッシブに変位することで吸収される。
【0060】
このアプセット工程では、後行鋼管をその断面当たり50N/mm程度の推力で固定された先行鋼管側に送り出すことにより、10mm/secの送り速度で1mm程度の送り制御を実行し、アプセットするものである。
【0061】
図示する回路図で示すように、油圧回路装置の内部にフラッシュ工程中で生じる圧油を蓄えておく蓄圧器31を内蔵しておくことで、アプセット工程で本来必要となる大吐出量のポンプが不要となり、経済的な油圧回路装置を形成することができる。このことは、フラッシュ溶接装置全体の製作コストの廉価にも繋がり、さらには、該装置のトンネル内占有空間の狭小化にも繋がるものである。
【0062】
次に、図7〜9に基づいて上記する推進装置10およびフラッシュ溶接装置20を使用してなる3連円弧トンネルの施工方法を概説する。
【0063】
図7は、不図示の2台のシールド機が並行して、または1台のシールド機が順次掘進しながら鋼製セグメントS,…からなるセグメントトンネル100,200が所定間隔を置いて地盤G内に施工された状況を示している。パイプルーフの施工に先んじて、地盤改良施工が実施されて止水層300,300’が造成される。さらに、パイプルーフ設置部位近傍にパイプルーフとこれに接続するトンネル部位を支持するための鉛直支保工101,201が設置され、さらには、別途の斜材にて支持されている。この鉛直支保工101,201には、H型鋼材、I型鋼材、鋼管(角鋼管)、プレキャストRC柱等を使用することができる。
【0064】
次いで、トンネル100,200の長手方向に所定間隔をおいて、パイプルーフ用の湾曲した曲線鋼管Pが掘進機Mに誘導されながら推進施工される。この曲線鋼管Pは、トンネル100内にある推進装置10とこれに組み付けられたフラッシュ溶接装置20によって所定長の曲線鋼管が順次フラッシュ溶接されて推進されたものである。なお、図7中、発進部位Aと到達部位Bを結ぶラインTは推進軌跡ラインであり、Z方向に掘進機Mが推進している状況を示している。
【0065】
双方のトンネル100,200における対応する鋼製セグメントS,Sの所定位置には鋼管挿通用の不図示の挿通孔がそれぞれ設けられていて、一方のトンネルの挿通孔を介して地盤G内に挿入(押し出)されるとともに他方のトンネルの挿通孔を介して地盤G内から受け取られることで双方のトンネル間に曲線パイプルーフが仮設される。なお、下方に設置される曲線鋼管も同様の施工方法にて双方のトンネル間に仮設される。
【0066】
図8は上下の曲線パイプルーフ400,400’が施工された状況を示している。
【0067】
次いで図9に示すように、RC造の接合体500,500’が施工される。具体的には、円弧方向およびトンネル軸方向に延びる不図示の引張材(鉄筋、PC鋼材等)を配設し、コンクリートを一方または双方のトンネル内から打設することによって施工される。なお、接合体500,500’を構成する円弧方向に延びる引張材の端部はトンネルの鋼殻Sにナット固定ないしは溶接固定等されることで接続される。次いで、トンネル100,200を連通するに不要な鋼殻S,…を撤去して双方のトンネル同士を連通させ、本設構造体を構築することで図示する地下道の分合流部1000が施工される。なお、地下道の分合流部以外にも、多連円弧状の大断面トンネルからなるライフライン施設や地下ショッピングセンターなどを施工することもできる。
【0068】
本発明によるフラッシュ溶接装置20を推進装置10に組み付けて曲線パイプルーフを施工することにより、溶接作業の際には容易に該フラッシュ溶接装置20を組み付けることができ、推進作業の際には迅速にフラッシュ溶接装置20を取り外すことによってトンネル内の作業空間を十分に確保することができるため、多連円弧トンネルの施工効率を大幅に高めることができる。
【0069】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】トンネル内で推進装置に本発明のフラッシュ溶接装置の一実施の形態が取り付けられた状態を説明する側面図である。
【図2】図1におけるフラッシュ溶接装置を拡大した図である。
【図3】図2のIII−III矢視図である。
【図4】鋼管と把持装置の取り付け態様を説明した断面図である。
【図5】推進装置および鋼管へのフラッシュ溶接装置の組み付け方法、取り外し方法を説明した図である。
【図6】フラッシュ溶接装置を構成する油圧回路装置の回路図の一実施の形態である。
【図7】3連円弧トンネルの施工方法を説明した断面図である。
【図8】図7に続き、3連円弧トンネルの施工方法を説明した断面図である。
【図9】図8に続き、3連円弧トンネルの施工方法を説明した断面図である。
【符号の説明】
【0071】
10…推進装置、11…傾斜架台、11a…曲線フランジ、12…推進ジャッキ、20…フラッシュ溶接装置、21,22…把持装置(第1、第2の把持装置)、21a,22a…リング部材、21b、22b…固定部材、21b1,22b1…固定部材上半部、21b2,22b2…固定部材下半部、21c、22c…スライド固定部、22d…リングセットピン、22e…位置調整ボルト、22f…絶縁材、23…サーボジャッキ(第1のジャッキ)、24…ダンパジャッキ(保護装置)、25…アプセットジャッキ(第2のジャッキ)、100,200…トンネル、101,201…鉛直支保工、300,300’…止水層、400,400’…接合体、1000…分合流部、S…セグメント(鋼殻)、G…地盤、P1…先行鋼管、P2…後行鋼管、W…溶接箇所、M…掘進機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイプルーフ用の鋼管を地盤内に推進させる推進装置の鋼管案内架台に着脱自在で、2つの鋼管同士をフラッシュ溶接するための装置であって、
前記2つの鋼管のそれぞれを把持する第1、第2の把持装置と、
前記第1、第2の把持装置同士を繋いで、フラッシュ溶接の途中工程で前記2つの鋼管同士を引き寄せるための第1のジャッキと、
前記第1、第2の把持装置同士を繋いで、フラッシュ溶接の最終工程で前記2つの鋼管同士をアプセットするための第2のジャッキと、を少なくとも具備し、
前記第1の把持装置、第2の把持装置、第1のジャッキ、第2のジャッキが前記鋼管案内架台に順次取り付けおよび取り外し自在である、フラッシュ溶接装置。
【請求項2】
前記第1のジャッキには、前記第2のジャッキによるアプセット時の作用力を吸収するための保護装置が装着されている、請求項1に記載のフラッシュ溶接装置。
【請求項3】
前記推進装置を構成する鋼管推進用ジャッキが前記第2のジャッキとして併用されることを特徴とする、請求項1または2に記載のフラッシュ溶接装置。
【請求項4】
前記把持装置は、鋼管を直接把持するリング部材と、該リング部材に固定されるとともに前記第1、第2のジャッキが取り付けられ、前記鋼管案内架台に位置決め固定される固定部材と、を少なくとも具備している、請求項1〜3のいずれかに記載のフラッシュ溶接装置。
【請求項5】
前記フラッシュ溶接の最終工程において、前記第2のジャッキに対し、2つの鋼管同士を所定の引き寄せ速度で所定量だけ引き寄せる制御を実行する油圧回路装置を備えている、請求項1〜4のいずれかに記載のフラッシュ溶接装置。
【請求項6】
前記油圧回路装置には、前記フラッシュ溶接の途中工程における加圧油を少なくとも蓄える蓄圧器が内蔵されており、前記フラッシュ溶接の最終工程で前記第2のジャッキに該加圧油が提供されるように制御されている、請求項5に記載のフラッシュ溶接装置。
【請求項7】
地中に併設するトンネルを構築する第1の工程と、
請求項1〜6のいずれかに記載のフラッシュ溶接装置が装着された推進装置を使用して、一方のトンネル側から鋼管を順次フラッシュ溶接しながら地盤内に推進させ、他方のトンネル側に到達させて先受け用のパイプルーフを設ける第2の工程と、
一方のトンネルにおける他方のトンネル側の鋼殻を撤去するとともに、パイプルーフ下方に本設接合躯体を施工して少なくとも3連以上の多連トンネルを構築する第3の工程と、を少なくとも具備し、
前記フラッシュ溶接に際して、分離されたフラッシュ溶接装置の各構成部材を組み付けてフラッシュ溶接装置を前記推進装置に装着し、フラッシュ溶接が終了して鋼管の推進を実行する前にフラッシュ溶接装置を解体することを特徴とする、多連トンネルの施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−125782(P2009−125782A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304819(P2007−304819)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(000216025)鉄建建設株式会社 (109)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】