説明

フラットケーブル、超電導機器、およびフラットケーブルの製造方法

【課題】 交流損失を低減することができ、かつ容易に巻き線することのできるフラットケーブル、超電導機器、およびフラットケーブルの製造方法を提供する。
【解決手段】 フラットケーブル10は、ビスマスを含む酸化物超電導体フィラメント2を金属シース部3で被覆した形態を有する素線1a〜1dと、素線1a〜1dの各々を互いに電気的に絶縁するための絶縁層4とを備えている。素線1a〜1dの各々は、素線1a〜1dの各々の幅方向が一致するように並んでいることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットケーブル、超電導機器、およびフラットケーブルの製造方法に関し、より特定的には、ビスマスを含む酸化物超電導体を用いたフラットケーブル、超電導機器、およびフラットケーブルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導線材(素線)は、たとえば超電導マグネット、超電導限流器、磁場発生装置、超電導ケーブル、超電導ブスバー、および超電導コイルなどの超電導機器に広く用いられている。超電導線材は、複数の酸化物超電導体フィラメントが金属よりなるシース部で覆われた形態であって、テープ形状を有している。超電導線材の断面は、たとえば幅が約4mm、厚さが約0.2mm、アスペクト比(幅/厚さ)が10〜20程度である。
【0003】
上記のような超電導線材を用いた超電導機器を交流電流下で使用する場合、超電導線材には低い交流損失であることが要求される。この交流損失の主要成分はヒステリシス損失である。ビーンモデルに基づけば、ヒステリシス損失は、超電導線材に印加される磁場と、超電導線材の臨界電流値と、超電導相の厚さとの積にほぼ比例する。
【0004】
図9は、従来の超電導線材の構成を示す断面斜視図である。図9を参照して、超電導線材110は、ビスマス系の酸化物超電導線材(素線)が1本のみ用いられている。超電導線材110は、複数の酸化物超電導体フィラメント102が金属シース部103で覆われた形態を有しており、テープ状の多芯線である。ビスマス系の酸化物超電導線材においては、酸化物超電導体フィラメント102の一本一本が独立して超電導相として挙動するのではなく、複数の酸化物超電導体フィラメント102が形成されている領域107全体が超電導相として挙動する。ここで領域107は、複数の酸化物超電導体フィラメント102のうち、最も外周部に存在する酸化物超電導体フィラメント102同士を線で結ぶことによって得られる領域である。このため、超電導線材110の厚さ方向(図中縦方向)に磁場Bが印加される場合、ビスマス系の超電導線材では、「超電導相の厚さ」は、領域107の幅dに相当する。なお、Jcは臨界電流値を表わしている。
【0005】
このように、超電導線材の厚さ方向に磁場Bが印加される状況で使用される超電導機器(たとえば超電導マグネットなど)において、交流損失を低減するためには、領域107の幅dを狭くすることが必要となる。領域107の幅dを狭くするためには、超電導線材110自体の幅wを狭くすればよい。
【0006】
なお、特開2004−241254号公報(特許文献1)には、従来の酸化物超電導線材の構成が開示されている。
【特許文献1】特開2004−241254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、超電導線材の幅を狭くすると、超電導機器を製造する際に、超電導線材の巻き線が難しいという問題が生じる。
【0008】
すなわち、超電導線材110の幅wが狭くなると、一本一本の酸化物超電導体フィラメント102の断面積が小さくなり、酸化物超電導体フィラメント102を流れる臨界電流値が減少する。このため、幅を狭くしない場合の超電導線材と同程度の性能を得ようとすると、超電導線材110の巻き線の回数を増やす必要がある。したがって、超電導線材110の巻き線は難しくなる。
【0009】
また、ビスマス系の酸化物超電導線材は特に異方性磁場依存性が高いので、自己磁場による臨界電流値の低下を抑止するためには、酸化物超電導体の結晶のа−b面(CuOの結晶面)を揃えるように巻き線する必要がある。ここで、「結晶のа−b面を揃えるように巻き線する」とは、領域107の幅dの方向を揃えるように巻き線するということを意味する。しかし、超電導線材110の幅wが狭くなれば、巻き線の際に超電導線材110が捩れやすくなる。したがって、領域107の幅dの方向を揃えながら超電導線材110を巻き線するのは難しい。
【0010】
したがって、本発明の目的は、交流損失を低減することができ、かつ容易に巻き線することのできるフラットケーブル、超電導機器、およびフラットケーブルの製造方法を提供することである。
【0011】
なお、本明細書中で「フラットケーブル」とは、複数の素線を集合した集合体であって、素線の長手方向に対して垂直な断面で見た場合に、幅広(フラット)形状である集合体を意味している。幅広形状とは、厚さ方向に比べて幅方向に十分に長い形状である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のフラットケーブルは、ビスマスを含む酸化物超電導体を金属で被覆した形態を有する複数の素線と、複数の素線の各々を互いに電気的に絶縁するための絶縁層とを備えている。
【0013】
本発明のフラットケーブルの製造方法は、ビスマスを含む酸化物超電導体を金属で被覆した形態を有する複数の素線を製造する工程と、複数の素線の各々を互いに電気的に絶縁するための絶縁層を形成する工程とを備えている。
【0014】
本発明のフラットケーブルおよびその製造方法によれば、複数の素線の各々の幅を狭くすることによって、超電導相の厚さが小さくなり、フラットケーブルの厚さ方向に磁場が印加される場合の交流損失を低減することができる。また、本発明のフラットケーブルは複数の素線によって構成されているので、複数の素線の各々の幅を狭くしても、フラットケーブル全体としての臨界電流値は、一本の素線のみによって構成されている従来の超電導線材とほとんど変わらない。したがって、フラットケーブルの巻き線の回数を増やす必要はなく、容易に巻き線することができる。さらに、本発明のフラットケーブルは複数の素線によって構成されているので、複数の素線の各々の幅を狭くしても、一本の素線のみによって構成されている従来の超電導線材と同程度にフラットケーブルの幅を確保することができる。したがって、フラットケーブルが捩れにくく、超電導相の方向を揃えながらフラットケーブルを容易に巻き線することができる。
【0015】
本発明のフラットケーブルにおいて好ましくは、複数の素線の各々は、複数の素線の各々の幅方向が一致するように並んでいる。これにより、複数の素線の各々の幅方向に延在したフラットケーブルとなる。
【0016】
本発明のフラットケーブルにおいて好ましくは、複数の素線の各々は、複数の素線の各々の厚さ方向が一致するように並んでいる。これにより、複数の素線の各々の厚さ方向に延在したフラットケーブルとなる。
【0017】
本発明のフラットケーブルにおいて好ましくは、複数の素線の各々は、さらに複数の素線の各々の幅方向が一致するようにも並んでいる。これにより、複数の素線の各々の厚さ方向と幅方向との両方向に延在したフラットケーブルとなる。
【0018】
本発明のフラットケーブルにおいて好ましくは、複数の素線の各々は、0.2mm以上2mm以下の幅を有している。複数の素線の各々を2mm以下の幅とすることにより、交流損失を効果的に低減することができる。また、複数の素線の各々の厚さは通常0.2mm未満であるので、複数の素線の各々を0.2mm以上の幅とすることにより、厚さよりも幅を大きくすることができ、テープ状の素線の形状を確保することができる。
【0019】
本発明の超電導機器は、上記のフラットケーブルを用いて製造されたものである。これにより、交流損失が低く、容易に巻き線することのできる超電導機器となる。
【0020】
上記製造方法において好ましくは、複数の素線の各々における幅方向端部を除去する除去工程をさらに備えている。これにより、複数の素線の各々を任意の幅に加工することができるので、フラットケーブルの幅を容易に狭くすることができる。
【0021】
上記製造方法において好ましくは、除去工程は、酸化物超電導体が露出しないように行なわれる。これにより、酸化物超電導体が外気に触れにくくなるので、酸化物超電導体の劣化を防ぐことができる。
【0022】
上記製造方法において好ましくは、複数の素線の各々における幅方向端部を除去しない。これにより、酸化物超電導体が外気に触れることがなくなるので、酸化物超電導体の劣化を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のフラットケーブル、超電導機器、およびフラットケーブルの製造方法によれば、交流損失を低減することができ、かつ容易に巻き線することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図に基づいて説明する。
【0025】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるフラットケーブルの構成を示す断面斜視図である。図1に示すように、本実施の形態のフラットケーブル10は、素線1aと、素線1bと、素線1cと、素線1dと、絶縁層4とを備えている。素線1a〜1dおよび絶縁層4は、テープ状の形状を有しており、紙面に垂直な方向に延在している。また、素線1a〜1dの各々は、素線1a〜1dの各々の幅方向(図中横方向)が一致するように並んでいる。絶縁層4は素線1a〜1dの各々の間に形成されており、絶縁層4によって素線1a〜1dの各々は互いに電気的に絶縁されている。なお、点線で囲まれた領域7は、素線1aにおける超電導相として機能する領域であり、幅dを有している。
【0026】
図2は、図1における素線の構成を示す断面斜視図である。図2における素線1は、図1における素線1a〜1dである。図2に示すように、素線1は、幅wおよび厚さtを有しており、ビスマスを含む複数の酸化物超電導体フィラメント2と、たとえば銀などよりなる金属シース部3とを有している。金属シース部3は複数の酸化物超電導体フィラメント2の各々を被覆している。複数の酸化物超電導体フィラメント2の各々の材質は、たとえばBi−Pb−Sr−Ca−Cu−O系の組成よりなっており、特に、(ビスマスと鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅の原子比がほぼ2:2:2:3の比率で近似して表されるBi2223相を含む材質が最適である。酸化物超電導体フィラメント2を構成する結晶は、素線1の幅方向と同じ方向に延在するa−b面と、素線1の厚さ方向(図中縦方向)と同じ方向に延在するc軸とを有している。酸化物超電導体フィラメント2において電流はa−b面内を流れる。なお、素線1の幅wは0.2mm以上2mm以下であることが好ましい。
【0027】
なお、上記においては多芯線の素線について説明したが、1本の超電導体フィラメントがシース部により被覆されている形態の単芯線の素線が用いられてもよい。また、本発明のフラットケーブルにおける素線の本数は4本に限定されるものではなく、複数本であればよい。
【0028】
続いて、本実施の形態のフラットケーブルの製造方法について説明する。
【0029】
始めに、図2に示すような、ビスマスを含む酸化物超電導体フィラメント2を金属シース部3で被覆した形態を有する素線1を製造する。具体的には、始めに酸化物超電導体の原材料粉末(前駆体)を準備し、これを金属管に充填する。この酸化物超電導体の原材料粉末は、たとえばBi2223相を含む材質よりなっている。また、金属管としては熱伝導率の高い銀や銀合金などを用いるのが好ましい。これにより、超電導体がクエンチ現象を部分的に生じた場合に発生した熱を金属管から速やかに取り去ることができる。次に、所望の直径にまで上記線材を伸線加工し、前駆体を芯材として銀などの金属で被覆された単芯線を作製する。次に、この単芯線を多数束ねて、たとえば銀などの金属よりなる金属管内に嵌合する。これにより、原材料粉末を芯材として多数有する多芯構造の線材(以下、単に線材と記すこともある)が得られる。次に、所望の直径にまで多芯構造の線材を伸線加工し、原材料粉末がたとえば銀などのシース部に埋め込まれた多芯線を作製する。これによって、酸化物超電導線材の原材料粉末を金属で被覆した形態を有する多芯線の線材が得られる。続いて、この線材を圧延することによって原材料粉末の密度が高められる。次に、加圧雰囲気で線材を熱処理する。これによって原材料粉末から酸化物超電導相が生成され、酸化物超電導体フィラメントとなる。以上の製造工程により、図2に示す酸化物超電導線材の素線1が得られる。
【0030】
次に、図3に示すように、素線1における幅方向(図中横方向)両端部に、液体の絶縁体4aを塗布する。絶縁体4aとしてはたとえばPVC(ポリ塩化ビニル)などを用いることができる。続いて、図1に示すように、素線1a〜1dとして、絶縁体4aを塗布した素線1を多数準備する。そして、たとえば素線1a〜1dの各々の幅dの方向が一致するように、塗布された絶縁体4aを介して素線1a〜1dの端部同士を貼り合わせる。その後、絶縁体4aを固化させて絶縁層4とする。以上の工程によって、本実施の形態のフラットケーブル10が完成する。なお、本実施の形態では、素線1a〜1dにおける幅方向両端部を除去しない。
【0031】
なお、絶縁体4aはPVCに限定されるものではなく、PVCの他にも、たとえばフッ素樹脂、シリコン樹脂、ビニル類の有機物、およびエステル類の有機物などを用いることもできる。また、絶縁層4の形成方法は任意であり、絶縁体4aを素線1全体に塗布してもよい。また、素線1を液体の絶縁体4aの中に浸漬することで絶縁体4aを素線1に塗布してもよい。
【0032】
本実施の形態のフラットケーブル10を用いてたとえば超電導マグネット20を製造する場合には、図4に示すように、超電導相として機能する領域7の幅dの方向を揃えるように、フラットケーブル10を巻き線する。
【0033】
本実施の形態のフラットケーブル10は、ビスマスを含む酸化物超電導体フィラメント2を金属シース部3で被覆した形態を有する素線1a〜1dと、素線1a〜1dの各々を互いに電気的に絶縁するための絶縁層4とを備えている。
【0034】
本実施の形態のフラットケーブル10の製造方法は、ビスマスを含む酸化物超電導体フィラメント2を金属シース部3で被覆した形態を有する素線1a〜1dを製造する工程と、素線1a〜1dの各々を互いに電気的に絶縁するための絶縁層4を形成する工程とを備えている。
【0035】
本実施の形態のフラットケーブル10およびその製造方法によれば、素線1a〜1dの各々の幅wを狭くすることによって、超電導相として機能する領域7の幅dが小さくなり、フラットケーブル10の厚さ方向に磁場B(図1)が印加される場合の交流損失を低減することができる。また、フラットケーブル10は複数の素線1a〜1dによって構成されているので、素線1a〜1dの各々の幅wを狭くしても、フラットケーブル10全体としての臨界電流値は、一本の素線のみによって構成されている従来の超電導線材とほとんど変わらない。したがって、フラットケーブル10の巻き線の回数を増やす必要はなく、容易に巻き線することができる。さらに、フラットケーブル10は素線1a〜1dによって構成されているので、素線1a〜1dの各々の幅wを狭くしても、一本の素線のみによって構成されている従来の超電導線材と同程度に、フラットケーブルの幅を確保することができる。したがって、フラットケーブル10が捩れにくく、超電導相の方向を揃えながらフラットケーブル10を容易に巻き線することができる。
【0036】
本実施の形態のフラットケーブル10において、素線1a〜1dの各々は、素線1a〜1dの各々の幅方向が一致するように並んでいる。これにより、素線1a〜1dの幅方向に延在したフラットケーブルとなる。
【0037】
本実施の形態のフラットケーブル10において好ましくは、素線1a〜1dの各々は、ともに0.2mm以上2mm以下の幅wを有している。素線1a〜1dの各々を2mm以下の幅wとすることにより、交流損失を効果的に低減することができる。また、素線1a〜1dの各々の厚さtは通常0.2mm未満であるので、素線1a〜1dを0.2mm以上の幅とすることにより、厚さtよりも幅wを大きくすることができ、テープ状の素線の形状を確保することができる。
【0038】
本実施の形態の超電導マグネット20は、フラットケーブル10を用いて製造されたものである。これにより、交流損失が低く、容易に巻き線することのできる超電導機器となる。
【0039】
上記製造方法においては、素線1a〜1dの各々における幅方向端部を除去しない。これにより、酸化物超電導体フィラメント2が外気に触れることがなくなるので、酸化物超電導体フィラメント2の劣化を防ぐことができる。
【0040】
(実施の形態2)
実施の形態1では、素線1a〜1dの各々における幅方向端部を除去しない場合について示した。しかし、本発明においては、素線1a〜1dの各々の幅方向端部を除去してもよい。これについて以下に説明する。
【0041】
図5は、本発明の実施の形態2における素線の幅方向端部の除去方法を示す断面斜視図である。図5に示すように、本実施の形態では、素線1を製造した後で、カット線5a,5bまたはカット線6a,6bの各々に沿って素線の幅方向端部8a,8bの各々を除去する。幅方向端部8a,8bの各々は、酸化物超電導体フィラメント2が露出する位置のカット線6a,6bに沿って除去されてもよいが、酸化物超電導体フィラメント2が露出しないような位置のカット線5a,5bに沿って除去されることが好ましい。また、素線の幅方向端部8a,8bのうち一方のみを除去してもよい。カット線5a,5bの各々に沿って幅方向端部8a,8bを除去した後の素線の様子を図6に示す。
【0042】
なお、これ以外のフラットケーブルの製造方法は、実施の形態1の製造方法とほぼ同様であるので、同一の部材には同一の符号を付し,その説明を省略する。
【0043】
本実施の形態のフラットケーブルの製造方法においては、素線1a〜1dの各々における幅方向端部8a,8bを除去する除去工程をさらに備えている。これにより、素線1〜1dの各々を任意の幅wに加工することができるので、フラットケーブルの幅を容易に狭くすることができる。
【0044】
上記製造方法において好ましくは、幅方向端部8a,8bの除去は、酸化物超電導体フィラメント2が露出しないようにカット線5a,5bに沿って行なわれる。これにより、酸化物超電導体フィラメント2が外気に触れにくくなるので、酸化物超電導体フィラメント2の劣化を防ぐことができる。
【0045】
(実施の形態3)
図1に示す実施の形態1では、素線1a〜1dの各々の幅方向が一致するように、素線1a〜1dの各々が並んでいるフラットケーブル10について示した。しかし、本発明のフラットケーブルの並び方は、このような場合に限定されるものではない。
【0046】
図7は、本発明の実施の形態3におけるフラットケーブルの構成を示す断面斜視図である。図7に示すように、フラットケーブル11において、素線1a〜1dの各々は、素線1a〜1dの各々の厚さ方向(図中縦方向)が一致するように並んでいる。絶縁層4は素線1a〜1dの各々の間に形成されており、絶縁層4によって素線1a〜1dの各々は互いに電気的に絶縁されている。
【0047】
また、図8は、本発明の実施の形態3におけるフラットケーブルの他の構成を示す断面斜視図である。図8に示すように、フラットケーブル12において、素線1aおよび素線1bの各々は、素線1aの厚さ方向(図中縦方向)と素線1bの厚さ方向とが一致するように並んでいる。また、素線1aおよび素線1cの各々は、素線1aの幅方向(図中横方向)と素線1cの幅方向とが一致するように並んでいる。素線1bおよび素線1dの各々は、素線1bの幅方向(図中横方向)と素線1dの幅方向とが一致するように並んでいる。絶縁層4は素線1a〜1dの各々の間に形成されており、絶縁層4によって素線1a〜1dの各々は互いに電気的に絶縁されている。
【0048】
なお、これ以外のフラットケーブル11,12の構成は、実施の形態1のフラットケーブル10の構成とほぼ同様であるので、同一の部材には同一の符号を付し,その説明を省略する。
【0049】
本実施の形態のフラットケーブル11において、素線1a〜1dの各々は、素線1a〜1dの各々の厚さ方向が一致するように並んでいる。これにより、素線1a〜1dの各々の厚さ方向に延在したフラットケーブルとなる。
【0050】
本実施の形態のフラットケーブル12において、素線1a〜1dの各々は、さらに素線1a〜1dの各々の幅方向が一致するようにも並んでいる。これにより、素線1a〜1dの各々の厚さ方向と幅方向との両方向に延在したフラットケーブルとなる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0052】
本実施例では、本発明のフラットケーブルの交流損失および巻き線容易性について調べた。具体的には、比較例A〜C、本発明例1、および本発明例2の5種類の試料を以下のように製造した。
【0053】
比較例A:実施の形態1に示す方法によって、ビスマス系酸化物超電導線材よりなる素線を製造した。素線は、幅5mm、厚さ0.2mm、銀比4、ツイストピッチ10mmとした。
【0054】
比較例B:実施の形態1に示す方法によって、ビスマス系酸化物超電導線材よりなる素線を製造した。素線は、幅2mm、厚さ0.2mm、銀比4、ツイストピッチ10mmとし、幅を比較例Aの幅よりも狭くした。
【0055】
比較例C:実施の形態1に示す方法によって、ビスマス系酸化物超電導線材よりなる素線を製造した。そして、この素線の幅方向端部を除去し、幅1mm、厚さ0.25mmとし、幅を比較例Bの幅よりもさらに狭くした。
【0056】
本発明例1:比較例Bと同じ寸法の素線を作製した。そして、この素線にPVC絶縁を施し、4等分して素線を2本並べて融着し、幅5mmのフラットケーブルを作製した。
【0057】
本発明例2:比較例Cと同じ寸法の素線を作製した。そして、この素線にPVC絶縁を施し、4等分して素線を4本並べて融着し、幅5mmのフラットケーブルを作製した。
【0058】
こうして得られた比較例A〜C、本発明例1、および本発明例2の各々について、磁化法を用いて液体窒素中における交流損失を測定した。交流損失の測定の際には、フラットケーブルを直線状に配置し、周波数50Hzの交流電流を流し、素線の厚さ方向に0.1Tの磁場を印加した。測定された単位超電導体積あたりの交流損失を臨界電流値Icで除し、単位臨界電流値あたりの交流損失を算出した。次に、比較例Bの単位臨界電流値あたりの交流損失を1として、各試料の単位臨界電流値あたりの交流損失を規格化して算出した。なお、比較例Aの臨界電流値Icは40A、比較例Bの臨界電流値Icは35A、比較例Cの臨界電流値Icは20A、本発明例1および2の臨界電流値Icはともに70Aであった。
【0059】
また、比較例A〜C、本発明例1、および本発明例2の各々を用いて、パンケーキコイルの作製を試みた。パンケーキコイルとしては、FRP(繊維強化プラスチック)よりなる直径100mmの巻き枠を用いて、100ターンの巻き線をしたものを採用した。そして、パンケーキコイルを作製することができたか否かに基づいて、巻き線容易性を判断した。各試料の単位臨界電流値あたりの交流損失と、巻き線容易性とを表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1を参照して、素線の幅が5mmである比較例Aでは交流損失が4であるのに対して、素線の幅が2mm以下である比較例B、比較例C、本発明例1、および本発明例2では、比較例Bの交流損失を1とした場合と比較して、いずれも交流損失が1以下であった。特に、素線の幅が1mmである比較例Cおよび本発明例2では交流損失が0.5であった。このことから、素線の幅が狭い程、交流損失を低減することができることが分かる。
【0062】
また、素線の幅が2mmである比較例Bでは、50ターン程度の巻き線をした時点で巻き崩れが生じ、パンケーキコイルの作製は困難であった。また、素線の幅が1mmである比較例Cでは、25ターン程度の巻き線をした時点で巻き崩れが生じ、パンケーキコイルの作製は困難であった。一方、素線またはフラットケーブルの幅が5mmである比較例A、本発明例1,および本発明例2では、いずれも所望のパンケーキコイルを作製することができた。このことから、素線またはフラットケーブルの幅が広い程、巻き線が容易であることが分かる。
【0063】
以上の規格化損失および巻き線容易性から総合的に判断して、本発明例1および本発明例2によれば、規格化損失を低減し、巻き線容易性が低下しないことが分かる。そして、特にフラットケーブルの幅を2mm以下の幅とすることにより、交流損失を効果的に低減できるのが分かる。
【0064】
以上に開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態および実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものと意図される。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のフラットケーブルは、たとえば超電導マグネット、超電導限流器、磁場発生装置、超電導ケーブル、超電導ブスバー、および超電導コイルなどの超電導機器に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施の形態1におけるフラットケーブルの構成を示す断面斜視図である。
【図2】図1における素線の構成を示す断面斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態1におけるフラットケーブルの製造方法を示す図である。
【図4】本発明のフラットケーブルを用いて超電導マグネットを製造する様子を模式的に示す図である。
【図5】本発明の実施の形態2における素線の幅方向端部の除去方法を示す断面斜視図である。
【図6】カット線に沿って幅方向端部を除去した後の素線の様子を示す部分断面斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態3におけるフラットケーブルの構成を示す断面斜視図である。
【図8】本発明の実施の形態3におけるフラットケーブルの他の構成を示す断面斜視図である。
【図9】従来の超電導線材の構成を示す断面斜視図である。
【符号の説明】
【0067】
1,1a〜1d 素線、2,102 酸化物超電導体フィラメント、3,103 金属シース部、4 絶縁層、4a 絶縁体、5a,5b,6a,6b カット線、7,107 超電導相の領域、8a,8b 素線の幅方向端部、10〜12 フラットケーブル、20 超電導マグネット、110 超電導線材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスマスを含む酸化物超電導体を金属で被覆した形態を有する複数の素線と、
前記複数の素線の各々を互いに電気的に絶縁するための絶縁層とを備える、フラットケーブル。
【請求項2】
前記複数の素線の各々は、前記複数の素線の各々の幅方向が一致するように並んでいる、請求項1に記載のフラットケーブル。
【請求項3】
前記複数の素線の各々は、前記複数の素線の各々の厚さ方向が一致するように並んでいる、請求項1に記載のフラットケーブル。
【請求項4】
前記複数の素線の各々は、さらに前記複数の素線の各々の幅方向が一致するようにも並んでいる、請求項3に記載のフラットケーブル。
【請求項5】
前記複数の素線の各々は、0.2mm以上2mm以下の幅を有している、請求項1〜4のいずれかに記載のフラットケーブル。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のフラットケーブルを用いて製造された超電導機器。
【請求項7】
ビスマスを含む酸化物超電導体を金属で被覆した形態を有する複数の素線を製造する工程と、
前記複数の素線の各々を互いに電気的に絶縁するための絶縁層を形成する工程とを備える、フラットケーブルの製造方法。
【請求項8】
前記複数の素線の各々における幅方向端部を除去する除去工程をさらに備える、請求項7に記載のフラットケーブルの製造方法。
【請求項9】
前記除去工程は、前記酸化物超電導体が露出しないように行なわれる、請求項8に記載のフラットケーブルの製造方法。
【請求項10】
前記複数の素線の各々における幅方向端部を除去しない、請求項7に記載のフラットケーブルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−210111(P2006−210111A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19917(P2005−19917)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】