説明

フラットケーブル

【課題】ISO6722の燃焼試験を強化した垂直燃焼試験を充たすフラットケーブルとする。
【解決手段】導体の表裏両面に、厚さが0.025〜0.4mmの難燃剤を配合して難燃処理を施した内層と、厚さが0.02〜0.1mmの難燃剤を配合されていないかまたは難燃剤を内層より少なく配合して難燃処理を施した外層からなる絶縁被覆を有するフラットケーブルであって、前記内層は、ポリオレフィン系ポリマーおよびスチレン系エラストマーを含有するポリマーをベースポリマーとし、難燃剤として、{Mg1−x(OH)}、ここにMはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Znから選ばれる1種以上の金属であり、0.01≦x<1として示されるマグネシウムと他の金属とが固溶した金属水酸化物を前記ベースポリマー100重量部に対して145重量部以上含んでいることを特徴とするフラットケーブル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性フラットケーブルに関し、特に導体の表裏両面の内層に金属水酸化物系の難燃剤を多量に含む絶縁被覆層を形成し、さらに外層に難燃剤を配合されていないかまたは難燃剤を内層より少なく配合して難燃処理を施した絶縁被覆層を形成した難燃性のフラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、技術の進歩の下、自動車にはカーナビゲーション等の新しい電気、電子機器が多数搭載されるようになってきており、これに伴って使用される電線の量は、その種類を問わず増加しつつある。またこのこともあり、自動車に用いられるフラットケーブルも薄肉、軽量化しつつあるが、一般に薄肉、軽量化されるほど加熱され易くまた空気の供給が容易となるため、絶縁被覆はより燃焼し易くなる。
また、自動車用の電線、特に薄肉のフラットケーブルの絶縁被覆は、難燃性の外に耐外傷性も要求される。このため、薄肉の絶縁被覆について、さらに内層を難燃層とし、外層を耐外傷性層とする複層構造が採用されるが、この場合には外層は非難燃層(難燃剤が配合されないか配合量が少ない)となるため、特にハロゲン系の難燃剤を用いないという制限の下では、難燃性を充たすことが難しくなりつつある。
このため、自動車用のフラットケーブル、特に薄肉、軽量のフラットケーブルの絶縁被覆には、厳しい難燃性が要求される。その対策として、導体に限らず、自動車用フラットケーブルの絶縁被覆のベースポリマー(基材)になる樹脂の選択や樹脂に配合する難燃剤等について様々の発明がなされている。
【0003】
それらの発明では、樹脂としては、安全性等の観点からPVCと異なりハロゲンや鉛系の安定剤を含まないポリオレフィン系ポリマーやポリスチレン系エラストマーが多く用いられている。
また、難燃剤としては、ハロゲン系や燐系と異なり環境への悪影響がない金属水酸化物系のものが多く用いられている(特許文献1、同2)。
【0004】
さらに、難燃性の評価方法も種々定められているが、自動車用のフラットケーブルの絶縁被覆については、自動車用のISO6722規格に定める45度傾斜燃焼試験に合格することとされている。この試験は、600mmに切り出された試験用フラットケーブルを45度傾斜させて保持し、上端から500mm±5mmの部分にブンゼンバーナの炎を15秒間あて、70秒以内に消炎すれば合格とするものである。
【特許文献1】特開2001−155556号公報
【特許文献2】特開2002−97314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年難燃性に対する要求がさらに厳しくなりつつある。このため、一部の自動車メーカーでは、前記の試験において電線を45度でなく垂直に保持する等の一段と厳しい基準を独自に設けている。
この種の厳しい基準を充たすためには、難燃剤の絶縁被覆への配合量を増加させる必要があるが、ただ単に増加させると、絶縁被覆の、ひいてはフラットケーブルの物性(柔軟性)や加工性が極端に低下し、特にフラットケーブルの場合には、通常のケーブルの場合と異なり、特定の方向についての物性、加工性に配慮する必要があるが、そのための性能の確保が困難となる。
このため、難燃性に対する厳しい要求を充たし、しかも物性や加工性も充分な自動車用のフラットケーブルの開発が望まれていた。
また、同じく自動車用のフラットケーブルの絶縁被覆の開発が望まれていた。
さらに、そのための優れた樹脂や難燃剤の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以上の要望を充たすためなされたものであり、フラットケーブルの導体の表裏両面の絶縁被覆を2層構造にし、内層には多量の難燃剤を配合し、外層は難燃剤を配合されていないかまたは難燃剤を内層より少なく配合して難燃処理を施した薄い層とし、難燃剤に水酸化マグネシウムと特にニッケルの固溶体を採用するだけでなくその粒度に工夫を凝らしたものである。
また、導体の吸熱にも配慮したものである。以下、各請求項の発明を説明する。
【0007】
請求項1に記載の発明は、
導体の表裏両面に、厚さが0.025〜0.4mmの難燃剤を配合して難燃処理を施した内層と、厚さが0.02〜0.1mmの難燃剤を配合されていないかまたは難燃剤を内層より少なく配合して難燃処理を施した外層からなる絶縁被覆を有するフラットケーブルであって、
前記内層は、ポリオレフィン系ポリマーおよびスチレン系エラストマーを含有するポリマーをベースポリマーとし、難燃剤として、{Mg1−x(OH)}、ここにMはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Znから選ばれる1種以上の金属であり、0.01≦x<1として示されるマグネシウムと他の金属とが固溶した金属水酸化物を前記ベースポリマー100重量部に対して145重量部以上含んでいることを特徴とするフラットケーブルである。
【0008】
本請求項の発明は、導体の表裏両面の絶縁被覆を2層にし、内層に特定の難燃剤を多く配合して難燃性を確保し、外層には難燃剤を配合しないか内層より少ない量を配合し、フラットケーブルとして難燃性と共に、耐外傷性、耐摩耗性、良好な外観等の保持を図ったものである。
ここに、「フラットケーブル」とは、電線の断面の形状が薄い板状であることを指す。また、「導体」とは、金属を指し、その断面形状が平角線あるいは長方形の場合のみならず、円形の場合、真ん中のステンレス製薄板の表裏両側に銅の薄板があるような積層構造の場合、その他撚線の場合、そしてそれらの金属線が複数本平行に走っている場合をも含む。
また、外層に難燃剤を内層より少なく配合して難燃処理を施すとは、外層の主たる役割は耐外傷性、耐摩耗性等にあるが、これらの役割に支障を与えない範囲で難燃剤を配合して多少の難燃性をも付与することを意味する。
【0009】
また、難燃剤として、脱水吸熱反応がベースポリマーの分解温度に近いため、少ない配合量でも効果が優れる水酸化マグネシウムとニッケル等特定の他の金属の水酸化物の固溶体を使用し、さらにこのような難燃剤を多量に使用するものである。なお、いずれの金属が最適かは、絶縁被覆のベースポリマーの熱分解温度等の物性、化学的性質等、その他膜厚さ等による。
また、内層と外層の厚さの下限は、絶縁性の確保と導体の保護の担保を図ったものである。
また、外層の厚さの上限は、これより厚くすると屈曲性や軽量化に好ましくなく、また難燃性の確保が困難なことによる。
また、絶縁被覆は2層となっているため、外層にのみ顔料を配合する等して自由な着色をすることが可能になる。
なお、導体の「表裏」とは、いずれか一方の面を表とすれば他方の面が裏であり、本発明の趣旨との関係では、表面と裏面の差異はない。
また、内層および外層の厚さは、フラットケーブルのフラット部に直交する方向における厚さを指す。
また、他の種類の難燃剤が配合されていても良い。
【0010】
請求項2に記載の発明は、
導体の表裏両面に、厚さが0.025〜0.4mmの難燃剤を配合して難燃処理を施した内層と、厚さが0.02〜0.1mmの難燃剤を配合されていない外層からなる絶縁被覆を有するフラットケーブルであって、
前記内層は、ポリオレフィン系ポリマーおよびスチレン系エラストマーを含有するポリマーをベースポリマーとし、難燃剤として、{Mg1−x(OH)}、ここにMはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Znから選ばれる1種以上の金属であり、0.01≦x<1として示されるマグネシウムと他の金属とが固溶した金属水酸化物を前記ベースポリマー100重量部に対して145重量部以上含んでいることを特徴とするフラットケーブルである。
【0011】
本請求項の発明においては、外層のベースポリマーは難燃剤を含まないため耐外傷性、耐磨耗性、フラットケーブルの外観等がより好ましくなる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記のフラットケーブルであって、
前記内層のベースポリマーは、ポリオレフィン系ポリマーが5〜95重量部、スチレン系エラストマーが95〜5重量部からなるポリマーであるか、またはかかる配合比のポリマーに他のポリマーを配合してなるポリマーであることを特徴とするフラットケーブルである。
【0013】
本請求項の発明では、内層のベースポリマーはポリオレフィン系ポリマーにより耐低温性が改善され、スチレン系ポリマーにより耐熱水性が良好になる。
ここに、ポリオレフィン系ポリマーとは、経済性からはポリエチレン、ポリプロピレンが優れ、耐熱性からはポリプロピレンが優れ、柔軟性からはブロックポリプロピレンが優れる。
また、本発明には、ポリオレフィン系ポリマーが2種配合されている場合や、ポリエチレン系ゴム等を多少配合するような場合も含まれる。
以上のほか、少量ではあるが、耐酸化防止剤、紫外線等から保護する老化防止剤、顔料等が配合されたりもする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、前記のフラットケーブルであって、
前記内層のベースポリマーとして配合されるスチレン系エラストマーは、マレイン酸で変性されたものであることを特徴とするフラットケーブルである。
【0015】
本請求項の発明では、内層のスチレン系エラストマーがマレイン酸(無水マレイン酸を含む)で極性基を付加される事により、難燃剤及び導体との接触性が改善される。
なお、変性量は、一般的には0.1〜10%である。
【0016】
請求項5に記載の発明は、前記のフラットケーブルであって、
前記外層のベースポリマーは、ポリオレフィンであることを特徴とするフラットケーブルである。
【0017】
本請求項の発明では、外層のベースポリマーとして難燃剤が配合されていないか配合量が少ないポリオレフィンを使用するため、絶縁被覆の肌が良好になる。
また、耐熱性、耐アルカリ性、耐酸性も良好になる。なお、少量ではあるが、耐酸化防止剤、顔料等が配合されたりもする。
【0018】
請求項6に記載の発明は、前記のフラットケーブルであって、
前記マグネシウムと他の特定の1種以上の金属とが固溶した金属水酸化物{Mg1−x(OH)}は、xが0.01以上0.2未満であることを特徴とするフラットケーブルである。
【0019】
xが0.01未満ではニッケルを配合した効果が少なく、xが0.2以上であれば脱水開始温度が低くなる。
【0020】
請求項7に記載の発明は、前記のフラットケーブルであって、
前記マグネシウムと他の特定の1種以上の金属とが固溶した金属水酸化物{Mg1−x(OH)}は、xが0.05±0.01であることを特徴とするフラットケーブルである。
【0021】
本請求項の発明は、マグネシウムに他の特定の1種以上の金属を固溶させた効果が、最も大きくなる。
なお、他の特定の1種以上の金属としてニッケルを選択すれば、この程度の配合量であれば薄い緑色がつく程度であるため、内層の着色にそう大きな悪影響はない。
【0022】
請求項8に記載の発明は、前記のフラットケーブルであって、
前記マグネシウムと他の特定の1種以上の金属とが固溶した金属水酸化物{Mg1−x(OH)}は、ベースポリマーへの配合のために、シラン処理がされていることを特徴とするフラットケーブルである。
【0023】
本請求項の発明では、脂肪酸処理でなくシラン処理であるため、フラットケーブル表面に押出で塗装する際に、絶縁被覆の伸びが良好になる。
【0024】
請求項9に記載の発明は、前記のフラットケーブルであって、
前記マグネシウムと他の特定の1種以上の金属とが固溶した金属水酸化物{Mg1−x(OH)}を、ベースポリマー100重量部に対して150〜220重量部含んでいることを特徴とするフラットケーブルである。
【0025】
本請求項の発明は、特に肉厚さが1mm以下、特に肉厚が0.05〜0.3mm程度のフラットケーブルの場合に、良好な加工性と難燃性が両立する。
またこの場合には、他の種類の難燃剤を配合する必要もない。
なお、難燃剤は、160〜180重量部程度が、難燃性と加工性の兼ね合いから最も好ましい。
【0026】
請求項10に記載の発明は、前記のフラットケーブルであって、
前記マグネシウムと他の特定の1種以上の金属とが固溶した金属水酸化物{Mg1−x(OH)}におけるMは、ニッケルであることを特徴とするフラットケーブルである。
【0027】
本請求項の発明は、金属水酸化物の脱水温度が通常の絶縁被覆用の樹脂の熱分解温度に近くなるので、前記他の特定の1種以上の金属をマグネシウムと固溶させた金属水酸化物として最も優れたものになる。
【0028】
請求項11に記載の発明は、前記のフラットケーブルであって、
前記水酸化マグネシウムとニッケルの固溶体{Mg1−xNi(OH)}は、水酸化マグネシウムの結晶の表面にニッケルをドープされたものであることを特徴とするフラットケーブルである。
【0029】
本請求項の発明では、難燃剤の水酸化マグネシウムの結晶の表面にニッケルをドープすることにより、難燃剤の脱水、吸熱反応が生じる温度がベースポリマーの分解温度に近くなるため、その効果が向上する。
なおここに、「水酸化マグネシウムの結晶の表面にニッケルをドープされた」とは、単に水酸化マグネシウムと水酸化ニッケルをブレンドされたあるいは混ぜ合わせて固溶させているのではなく、金属ニッケルを水酸化マグネシウムに固溶させているあるいはさらに表面に析出させていることをもさす。
【0030】
請求項12に記載の発明は、前記のフラットケーブルであって、
前記水酸化マグネシウムとニッケルの固溶体{Mg1−xNi(OH)}は、水酸化マグネシウムの結晶の表面にニッケルをドープされた段階で、数平均2次粒子径は0.9±0.1μm、最大粒子径は4.2μm以下、最小粒子径は0.22μm以上であることを特徴とするフラットケーブルである。
【0031】
本請求項の発明では、難燃剤の粒子径が小さいため、ベースポリマーの膜厚さが薄くても局所的に不均一な配合が生じない。さらに、配合される粒子径が小さいので、丁度砂利とセメントからなるコンクリートよりも土とセメントからなるモルタルが柔軟なごとく、柔軟性も損われ難くなる。
また、熱分解で生じたニッケルとマグネシウムの酸化物の粒子径が小さくなり、このため小さな粒子径の酸化物がベースポリマーの表面を薄く均一にそして完全に覆って燃焼ガスからの輻射熱(特に、赤外線)を反射し、さらに酸素が樹脂に接触したりするのを防止する。
なお、電気ストーブの反射板にニッケル系の金属めっきが使用されることでも判るように、ニッケルは赤外線を良好に反射する。
【0032】
請求項13に記載の発明は、前記のフラットケーブルであって、
前記フラットケーブルは、導体1本の断面積が0.05〜1.4mmであることを特徴とするフラットケーブルである。
【0033】
本請求項の発明は、導体特に熱伝導が良好な銅、ケースによりアルミニウムがベースポリマー内に侵入してきた輻射熱を速やかに伝導で取去ることもあり、前記難燃剤を配合した効果がより一層発揮される。
【0034】
請求項14に記載の発明は、前記のフラットケーブルであって、
断面の形状が(0.1〜0.2mm)×(0.5〜7mm)の長方形であることを特徴とするフラットケーブルである。
【0035】
本請求項の発明は、導体が肉厚が薄い板となっているため屈曲性にすぐれたフラットケーブルとなる。
また、フラットケーブルの導体は、熱伝導が良好な銅その他アルミニウム等であるため、ベースポリマー内に浸入してきた輻射熱を速やかに伝導で取去ることもあり、前記難燃剤を配合した効果がより一層発揮される。
なお、導体のピッチは、断面の寸法、断面積等によるが0.5〜10mm程度であるのが、電線の小型、軽量化および絶縁層からの熱の取去りの面から好ましい。
【0036】
請求項15に記載の発明は、前記のフラットケーブルであって、
前記外層は、66μm以下の厚さであることを特徴とするフラットケーブルである。
【0037】
本請求項の発明で、外層が66μm以下である理由は、導体の断面積が0.5mm程度以下のフラットケーブルにおける充分な難燃性を確保するためである。なお、外層の厚さは、難燃剤の配合量にもよるが、配合されていない場合には60μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。
また、下限は導体の寸法、要求される耐外傷性、耐磨耗性等にもよるが、難燃剤が配合されていない場合には20μm以上、好ましくは30μm程度である。
【0038】
請求項16に記載の発明は、前記のフラットケーブルであって、
前記内層は、0.025〜0.4mmの厚さであることを特徴とするフラットケーブルである。
【0039】
本請求項の発明では、内層の膜厚さが適切であるため、充分なフラットケーブルの物性(柔軟性)を保持しながら、フラットケーブルの薄肉化を図ることができる。
また、難燃剤を適量配合されているのみならず、この程度の膜厚さであれば外部の炎からの輻射熱は速やかに導体から取去られるため、空気中の酸素に晒され易い、即ち本来燃えやすい薄いフラットケーブルであっても難燃性が著しく向上する。
【0040】
請求項17に記載の発明は、前記のフラットケーブルであって、
前記フラットケーブルは、600mmに切り出された試験用フラットケーブルを垂直に保持し、上端から500mm±5mmの部分にブンゼンバーナの炎を15秒間あて、70秒以内に消炎すれば合格とする試験を充たしていることを特徴とするフラットケーブルである。
【0041】
本請求項の発明は、以上の請求項の発明の最良の形態の1つであり、自動車用のフラットケーブルとして、優れた難燃性を発揮できるフラットケーブルとなる。
【発明の効果】
【0042】
本発明においては、導体の絶縁被覆を表裏とも2層にし、内層には難燃剤を多量に配合し、外層は難燃剤を配合しないか難燃剤を内層に比較して少なく配合している。さらに、難燃剤としてマグネシウムと他の特定の1種以上の金属の固溶体、特にマグネシウムとニッケルの固溶体としている。
また、フラットケーブルの導体としての銅やアルミニウムが、良好な熱伝導率により外部から絶縁被覆内に侵入してきた熱を速やかに取去る構造としている。
これらのため、高度の難燃性を有するフラットケーブルとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明をその最良の実施の形態に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0044】
(第1の実施の形態)
図1に、本発明の第1の実施の形態のフラットケーブルの断面を概念的に示す。図1において、10はフラットケーブルであり、19は導体であり、20と21は導体の表面と裏面の絶縁被覆の内層であり、23は難燃剤の粒子であり、30と31は同じく表面と裏面の絶縁被覆の外層である。
導体19は、薄い帯状の純銅からなり、帯の断面の幅は2.0mm、厚さは0.15mmである導体19が、フラットケーブル10内に平行に配列されている。
内層20、21のベースポリマーは、表裏ともポリプロピレン60重量部とマレイン酸で変性したスチレン系エラストマー40重量部とからなる。なお、変性量は、2%である。内層20、21は、このベースポリマー100重量部に対して、水酸化マグネシウムとニッケルの固溶体160重量部と樹脂の老化防止剤3重量部が配合されており、その厚さは0.2mmである。
外層30、31は、表裏ともポリメチルペンテンの薄膜からなり、その膜厚さは60μmである。
【0045】
難燃剤は、ティーエムジー株式会社製のファインマグSN−Tである。この製品は、六角板状の水酸化マグネシウムにニッケルをドープして製造した水酸化マグネシウムとニッケルの固溶体を飽和脂肪酸で表面処理したものであり、マグネシウム原子とニッケル原子の個数比は、95対5である。また、その個数平均2次粒子径は0.9μm、最大粒子径は3.5μm、最小粒子径は2.7μmである。
【0046】
この難燃剤をシランカップリング剤で表面処理をし、さらに前記内層のベースポリマーとなる2種の樹脂のペレット、老化防止剤と所定量ずつ混合し、溶融、混錬した。
なお、2層の絶縁被覆は、2種2層のTダイで2層フィルムを作製し、この作製した2層のフィルムで整線した導体をラミネート(熱ロールによる被覆)して形成した。
【0047】
(評価試験)
難燃性については、前記の垂直試験に充分に合格した。
加工性については、2軸混合機による難燃層コンパウンドにて問題なくコンパウンド可能であった。
【0048】
(第2の実施の形態)
本実施の形態は、ベースポリマー100重量部に対して水酸化マグネシウムとニッケルの固溶体が180重量部配合される他は、先の第1の実施の形態と同じである。
本実施の形態のフラットケーブルも、充分な難燃性と加工性を有していた。
【0049】
(第3の実施の形態)
本実施の形態は、ベースポリマー100重量部に対して水酸化マグネシウムとニッケルの固溶体が145重量部配合される他は、先の第1の実施の形態と同じである。
本実施の形態のフラットケーブルも、充分な難燃性と加工性を有していた。
【0050】
(比較例1)
本比較例は、ベースポリマー100重量部に対して水酸化マグネシウムとニッケルの固溶体が140重量部配合される他は、先の第1の実施の形態と同じである。
試験結果であるが、難燃性については、前記垂直試験結果は不合格であった。
なお、加工性については、難燃剤の配合量が少ないため充分な性質を有していた。
【0051】
(比較例2)
本比較例は、難燃剤として水酸化マグネシウムのみを使用するものである。
先の第1の実施の形態と同じベースポリマー100重量部に、水酸化マグネシウム220重量部、老化防止剤3重量部を配合して、同じ方法でフラットケーブルを製造した。
試験結果であるが、加工性はあるが、前記垂直燃焼試験結果は不合格であった。
【0052】
(比較例3)
本比較例も、先の比較例2と同じく難燃剤として水酸化マグネシウムのみを使用するものであるが、配合量をベースポリマー100重量部に対して240重量部とする点が相違する。その他は、同じである。
試験結果であるが、難燃性の試験以前に加工性が不十分であった。
【0053】
(その他の実施の形態)
ベースポリマーのポリプロピレンとマレイン酸で変性したスチレン系エラストマーの配合量が、各々15重量部と85重量部の場合と85重量部と15重量部である他は先の第1の実施の形態と同じフラットケーブルを製造して評価試験を行った。難燃性、加工性とも良好であった。
【0054】
内層はベースポリマー100重量部に対して、難燃剤を200重量部配合し、膜厚さが0.3mmである他は第1の実施の形態と同じであり、外層は膜厚さが80μmである他は第1の実施の形態と同じであるフラットケーブルを製造して評価試験を行った。難燃性、加工性とも良好であった。
【0055】
導体が、幅0.5mm、肉厚さ0.1mmである外は、先の第2の実施の形態と同じ、即ちベースポリマー100重量部に対して難燃剤が180重量部となるフラットケーブルを製造して評価試験を行った。難燃性、加工性とも良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第1の実施の形態のフラットケーブルの断面を、概念的に示す図である。
【符号の説明】
【0057】
10 フラットケーブル
19 導体
20、21 絶縁被覆の内層
23 難燃剤の粒子
30、31 絶縁被覆の外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の表裏両面に、厚さが0.025〜0.4mmの難燃剤を配合して難燃処理を施した内層と、厚さが0.02〜0.1mmの難燃剤を配合されていないかまたは難燃剤を内層より少なく配合して難燃処理を施した外層からなる絶縁被覆を有するフラットケーブルであって、
前記内層は、ポリオレフィン系ポリマーおよびスチレン系エラストマーを含有するポリマーをベースポリマーとし、難燃剤として、{Mg1−x(OH)}、ここにMはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Znから選ばれる1種以上の金属であり、0.01≦x<1として示されるマグネシウムと他の金属とが固溶した金属水酸化物を前記ベースポリマー100重量部に対して145重量部以上含んでいることを特徴とするフラットケーブル。
【請求項2】
導体の表裏両面に、厚さが0.025〜0.4mmの難燃剤を配合して難燃処理を施した内層と、厚さが0.02〜0.1mmの難燃剤を配合されていない外層からなる絶縁被覆を有するフラットケーブルであって、
前記内層は、ポリオレフィン系ポリマーおよびスチレン系エラストマーを含有するポリマーをベースポリマーとし、難燃剤として、{Mg1−x(OH)}、ここにMはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Znから選ばれる1種以上の金属であり、0.01≦x<1として示されるマグネシウムと他の金属とが固溶した金属水酸化物を前記ベースポリマー100重量部に対して145重量部以上含んでいることを特徴とするフラットケーブル。
【請求項3】
前記内層のベースポリマーは、ポリオレフィン系ポリマーが5〜95重量部、スチレン系エラストマーが95〜5重量部からなるポリマーであるか、またはかかる配合比のポリマーに他のポリマーを配合してなるポリマーであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフラットケーブル。
【請求項4】
前記内層のベースポリマーとして配合されるスチレン系エラストマーは、マレイン酸で変性されたものであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のフラットケーブル。
【請求項5】
前記外層のベースポリマーは、ポリオレフィンであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のフラットケーブル。
【請求項6】
前記マグネシウムと他の特定の1種以上の金属とが固溶した金属水酸化物{Mg1−x(OH)}は、xが0.01以上0.2未満であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のフラットケーブル。
【請求項7】
前記マグネシウムと他の特定の1種以上の金属とが固溶した金属水酸化物{Mg1−x(OH)}は、xが0.05±0.01であることを特徴とする請求項6に記載のフラットケーブル。
【請求項8】
前記マグネシウムと他の特定の1種以上の金属とが固溶した金属水酸化物{Mg1−x(OH)}は、ベースポリマーへの配合のために、シラン処理がされていることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のフラットケーブル。
【請求項9】
前記マグネシウムと他の特定の1種以上の金属とが固溶した金属水酸化物{Mg1−x(OH)}を、ベースポリマー100重量部に対して150〜220重量部含んでいることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のフラットケーブル。
【請求項10】
前記マグネシウムと他の特定の1種以上の金属とが固溶した金属水酸化物{Mg1−x(OH)}におけるMは、ニッケルであることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれかに記載のフラットケーブル。
【請求項11】
前記水酸化マグネシウムとニッケルの固溶体{Mg1−xNi(OH)}は、水酸化マグネシウムの結晶の表面にニッケルをドープされたものであることを特徴とする請求項10に記載のフラットケーブル。
【請求項12】
前記水酸化マグネシウムとニッケルの固溶体{Mg1−xNi(OH)}は、水酸化マグネシウムの結晶の表面にニッケルをドープされた段階で、数平均2次粒子径は0.9±0.1μm、最大粒子径は4.2μm以下、最小粒子径は0.22μm以上であることを特徴とする請求項11に記載のフラットケーブル。
【請求項13】
前記フラットケーブルは、導体1本の断面積が0.05〜1.4mmであることを特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれかに記載のフラットケーブル。
【請求項14】
前記フラットケーブルは、断面の形状が(0.1〜0.2mm)×(0.5〜7mm)の長方形であることを特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれかに記載のフラットケーブル。
【請求項15】
前記外層は、66μm以下の厚さであることを特徴とする請求項1ないし請求項14のいずれかに記載のフラットケーブル。
【請求項16】
前記内層は、0.025〜0.4mmの厚さであることを特徴とする請求項1ないし請求項15のいずれかに記載のフラットケーブル。
【請求項17】
前記フラットケーブルは、600mmに切り出された試験用フラットケーブルを垂直に保持し、上端から500mm±5mmの部分にブンゼンバーナの炎を15秒間あて、70秒以内に消炎すれば合格とする試験を充たしていることを特徴とする請求項1ないし請求項16のいずれかに記載のフラットケーブル。

【図1】
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【公開番号】特開2006−228550(P2006−228550A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−40288(P2005−40288)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】