フラボノイド3位ガラクトース・グルコース転移酵素、及びそれをコードするポリヌクレオチド
【課題】フラボノイドの3位にガラクトース及びグルコースのいずれをも転移し得る酵素(F3Gal/GlcT)、当該酵素をコードするポリヌクレオチド、当該ポリヌクレオチドを含有するベクター、及び当該ベクターを用いて得られる形質転換体等を提供する。
【解決手段】特定の塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は特定のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するベクター、及び当該ベクターを用いて得られる形質転換体等。ブドウからフラボノイドの3位にグルコース及びガラクトースを転移する新規な活性を有するUGT酵素(F3Gal/GlcT)。人為的にフラボノイドの3位をグルコース及びガラクトースで配糖体化することが可能となるため、新しい機能性食品素材の開発や有用化合物を生産しうる植物の開発に貢献できる。
【解決手段】特定の塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は特定のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するベクター、及び当該ベクターを用いて得られる形質転換体等。ブドウからフラボノイドの3位にグルコース及びガラクトースを転移する新規な活性を有するUGT酵素(F3Gal/GlcT)。人為的にフラボノイドの3位をグルコース及びガラクトースで配糖体化することが可能となるため、新しい機能性食品素材の開発や有用化合物を生産しうる植物の開発に貢献できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブドウ由来のフラボノイド3位ガラクトース・グルコース転移酵素、当該酵素をコードするポリヌクレオチド、当該ポリヌクレオチドを含有するベクター、及び当該ベクターを用いて得られる形質転換体等に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイン原料であるブドウ科ブドウ(Vitis vinifera)は世界的に主要な農作物であり、赤ワインは心臓病リスクの軽減や抗肥満効果などの有用な機能性が知られているが、近年、抗肥満効果や延命効果の主要な機能性分としてスチルベンの一種であるレスベラトロールや、フレンチパラドクスの要因となる主要な成分としてプロシアニジンが同定されたことから機能性食品として注目されている(非特許文献1〜7参照)。
ブドウ葉、果実及びワインには、フラボノイドの一種であるフラボノール配糖体として、3位グルコース配糖体、3位ラムノース配糖体及び3位グルクロン酸配糖体に加え、3位ガラクトース配糖体が蓄積していることが報告されている(非特許文献8、9参照)。ケルセチン配糖体は抗酸化性やNO産生能を有しており、動脈硬化抑制効果が期待されている(非特許文献10、11参照)。
特にケルセチンの3位ガラクトース配糖体(Q3Gal)はヒペロシドと呼ばれ、抗鬱剤として用いられているセントジョーンズワートの主成分であるヒペリシンの溶解性を高めることで、その生理活性を高めるとされている(非特許文献12、13参照)。また、Q3Galやケルセチン3位グルクロン酸配糖体(Q3GA:ミケリアニン)は、それ自身で抗鬱効果を目的とした強制水泳テストでの有効性が確認されている(非特許文献14参照)。さらに、Q3Galが持つ抗酸化性によって過酸化水素による細胞障害を保護することが示されている(非特許文献15参照)。また近年、Q3Galの抗高血圧効果についても報告されている(非特許文献16参照)。このように、フラボノイドの各種配糖体には有用な活性が認められていることから、フラボノイド、特にフラボノールの3位にガラクトースを転移する酵素は、機能性フラボノイドの作出に有用と考えられている。
【0003】
一般に、フラボノイドに糖を転移する酵素はUDP糖依存的な糖転移酵素(UGT)によって触媒され、UGTの糖供与体に対する選択性は非常に高く、これまで知られている殆どの糖転移酵素は、一種のUDP糖のみを基質とすることができるものである。すなわち、UDPグルコースを転移する酵素は基本的にはその他のUDP糖供与体を使った糖転移反応をうまく触媒できない。これまでフラボノイドの3位の配糖体化酵素としては、グルコース、ガラクトース、アラビノース及びラムノースを糖供与体として転移するものが知られている(非特許文献17〜20参照)。フラボノイドの3位ガラクトースを転移する酵素は、ペチュニア及びウドから、それぞれ順に、PetFGalT及びACGaTが同定されている(非特許文献18参照)。これらのガラクトース転移酵素(Flavonoid 3-O-galactosyltransferase; F3GalT)は、同じくフラボノイドの3位にラムノースやグルコースやアラビノースを転移する酵素と構造が類似しており、酵素遺伝子の配列情報からその糖供与体選択性を類推することは極めて困難である。
【0004】
ところで、近年、イタリア及びフランスの合同コンソーシアムによって、ブドウ(ピノノワール(Pinot Noir)品種)のゲノム配列が解読され、240個もの配糖体化酵素(UGT)遺伝子が同定された(非特許文献21、22参照)。
しかしながら、遺伝子配列情報から糖転移酵素遺伝子であることが推定されても、そこから基質である糖の種類や受容体となる物質を類推することは容易ではなく、しかも、上述したように候補遺伝子の数も240個と非常に多いため、これらUGT遺伝子の中からUDP-ガラクトースを糖供与体とする(F3GalT)を同定することは極めて困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Renaud, S. and De Lorgeril, M., Lancet, vol. 339, p. 1523-1526, 1992
【非特許文献2】Gehm, B. D. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 94, p. 14138-14143, 1997
【非特許文献3】Corder, R. et al., Nature, vol. 414, p. 863-864, 2001
【非特許文献4】Lamming, D. W. et al. Mol. Microbiol., vol. 53, p. 1003-1009, 2004
【非特許文献5】Corder, R. et al., Nature, vol. 444, p. 566, 2006
【非特許文献6】Baur, J. A. and Sinclair, D. A., Nature Rev. Drug Discovery, vol. 5, p. 493-506, 2006
【非特許文献7】Baur, J. A. et al., Nature, vol. 444, p. 337-342, 2006
【非特許文献8】Hmamouchi, M. et al., Am. J. Enol. Vitic., vol. 47, p. 186-192, 1996
【非特許文献9】Castillo-Munoz, N. et al., J. Agric. Food. Chem., vol. 55, p. 992-1002, 2007
【非特許文献10】Murota, K. and Terao, J., Arch. Biochem. Biophys., vol. 417, p. 12-17, 2003
【0006】
【非特許文献11】Steffen, Y. et al., Arch. Biochem. Biophys., vol. 469, p. 209-219, 2008
【非特許文献12】Tatsis, E. C. et al., Phytochemistry, vol. 68, p. 383-393, 2007
【非特許文献13】Butterweck, V. et al., Planta Med., vol. 69, p. 189-192, 2003
【非特許文献14】Butterweck, V. et al., Planta Med., vol. 66, p. 3-6, 2000
【非特許文献15】Piao, M. J. et al., Biochimica et Biophysica Acta, vol. 1780, p. 1448-1457, 2008
【非特許文献16】Kagawa, T. et al., 3rd International Conference on Polyphenols and Health, Supplement P089, 2007
【非特許文献17】Ford, C. M. et al., J. Biol. Chem., vol. 273, p. 9224-9233, 1998
【非特許文献18】Miller, K. D. et al., J. Biol. Chem., vol. 274, p. 34011-34019, 1999
【非特許文献19】Yonekura-Sakakibara, K. et al., J. Biol. Chem., vol. 282, p. 14932-14941, 2007
【非特許文献20】Yonekura-Sakakibara, K. et al., Plant Cell, vol. 20, p. 2160-2176, 2008
【非特許文献21】The French-Italian Public Consortium for Grapevine Genome Characterization, Nature, vol. 449, p. 463-468, 2007
【非特許文献22】Velasco, T. et al., PLoS ONE, vol. 12, e1326, p. 1-18, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、フラボノイドの3位にガラクトースを転移し得る酵素、当該酵素をコードするポリヌクレオチド、当該ポリヌクレオチドを含有するベクター、及び当該ベクターを用いて得られる形質転換体等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、本発明者は、フラボノイドUGTの遺伝子配列構造と糖受容体である基質に対する位置特異性との間に相関があることに着目し、フラボノイド3位に糖を転移する酵素遺伝子と相同性の高いブドウ由来UGT遺伝子をゲノム配列情報から抽出することにより、6種の候補ブドウ由来UGT遺伝子(Vitis vinifera UDP-sugar:glycosyltransferase; VvGT)を得た。その6種のVvGTのうちの1種(VvGT6)が、フラボノイドの3位にUDP-ガラクトース依存的にガラクトースを転移する活性を有する酵素、すなわちフラボノイド3位ガラクトース転移酵素(Flavonoid 3-O-galactosyltransferase; F3GalT)をコードする遺伝子であることを見出した。しかも本発明者は、このVvGT6が、UDP-ガラクトースと同程度にUDP-グルコースを糖供与体としてフラボノイドの3位にグルコースを転移する活性をも有する酵素、すなわちフラボノイド3位グルコース転移酵素(Flavonoid 3-O-glucosyltransferase; F3GlcT)活性も有する糖転移酵素をコードする遺伝子であることを見出した。すなわち、本酵素は、これまで報告されている糖転移酵素と異なり、2種類のUDP糖を基質とする新規なフラボノイド3位ガラクトース・グルコース転移酵素(Flavonoid 3-O-galactosyl/glucosyltransferase; F3Gal/GlcT)であることを明らかにした。本発明はこのようにして完成した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1) 以下の(a)〜(f)のいずれかに記載のポリヌクレオチド:
(a)配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(c)配列番号4で表わされるアミノ酸配列において1〜15個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(d)配列番号4で表わされるアミノ酸配列に対して、80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(e)配列番号3で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;又は
(f)配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【0010】
上記(1)のポリヌクレオチドは、例えば、以下の(g)〜(j)のいずれかのポリヌクレオチドが挙げられる。
(g)配列番号4で表わされるアミノ酸配列において10個以下のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(h)配列番号4で表わされるアミノ酸配列に対して、90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(i)配列番号3で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;又は
(j)配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【0011】
また、上記(1)のポリヌクレオチドは、例えば、前記(c)〜(j)に記載のポリヌクレオチドが、それぞれ、以下の(c')〜(j')に記載のポリヌクレオチドであるものが挙げられる。
(c')配列番号4で表わされるアミノ酸配列において第19番目及び/若しくは第373番目のアミノ酸を除く1〜15個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(d')配列番号4で表わされるアミノ酸配列に対して、80%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって当該配列番号4で表わされるアミノ酸配列中の第19番目のアミノ酸に対応するアミノ酸がプロリンであるか及び/若しくは第373番目のアミノ酸に対応するアミノ酸がグルタミンであるアミノ酸配列を有し、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(e')配列番号3で表わされる塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドあって当該配列番号3で表わされる塩基配列中の第55〜57番目の塩基に対応する塩基がプロリンをコードする塩基であるか及び/若しくは第1117〜1119番目の塩基に対応する塩基がグルタミンをコードする塩基であるポリヌクレオチドであり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(f')配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドあって当該配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列中の第55〜57番目の塩基に対応する塩基がプロリンをコードする塩基であるか及び/若しくは第1117〜1119番目の塩基に対応する塩基がグルタミンをコードする塩基であるポリヌクレオチドであり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(g')配列番号4で表わされるアミノ酸配列において第19番目及び/若しくは第373番目のアミノ酸を除く10個以下のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(h')配列番号4で表わされるアミノ酸配列に対して、90%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって当該配列番号4で表わされるアミノ酸配列中の第19番目のアミノ酸に対応するアミノ酸がプロリンであるか及び/若しくは第373番目のアミノ酸に対応するアミノ酸がグルタミンであるアミノ酸配列を有し、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(i')配列番号3で表わされる塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドあって当該配列番号3で表わされる塩基配列中の第55〜57番目の塩基に対応する塩基がプロリンをコードする塩基であるか及び/若しくは第1117〜1119番目の塩基に対応する塩基がグルタミンをコードする塩基であるポリヌクレオチドであり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;又は
(j')配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドあって当該配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列中の第55〜57番目の塩基に対応する塩基がプロリンをコードする塩基であるか及び/若しくは第1117〜1119番目の塩基に対応する塩基がグルタミンをコードする塩基であるポリヌクレオチドであり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【0012】
上記(1)のポリヌクレオチドは、例えば、上記UDP-ガラクトース転移酵素活性が、フラボノイド3位ガラクトース転移酵素活性であり、UDP-グルコース転移酵素活性が、フラボノイド3位グルコース転移酵素活性であるものが挙げられる。
上記(1)のポリヌクレオチドは、例えば、配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は、配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するものが挙げられる。
上記(1)のポリヌクレオチドは、例えば、DNAであるものが挙げられる。
【0013】
(2) 上記(1)のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質。
(3) 上記(1)のポリヌクレオチドを含有するベクター。
(4) 上記(1)のポリヌクレオチドが導入された形質転換体。
(5) 上記(3)のベクターが導入された形質転換体。
(6) 上記(4)又は(5)の形質転換体を用いる上記(2)のタンパク質の製造方法。
(7) 上記(2)のタンパク質を触媒として、UDP-ガラクトース及び/又はUDP-グルコースと糖受容体基質とからガラクトース配糖体及び/又はグルコース配糖体を生成する、ガラクトース配糖体及び/又はグルコース配糖体の製造方法。
上記(7)の方法は、例えば、糖受容体基質がフラボノイドである方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、フラボノイドの3位にガラクトース及びグルコースのいずれをも転移し得る糖転移酵素(配糖体化酵素)を提供することができる。また、本発明によれば、当該酵素をコードするポリヌクレオチド、当該ポリヌクレオチドを含有するベクター、及び当該ベクターを用いて得られる形質転換体、並びに当該酵素を用いたガラクトース配糖体及び/又はグルコース配糖体の製造方法等を提供することもできる。
従来は、in vitroで酵素反応によりフラボノイド配糖体を生成する場合、1種類の酵素と1種類の糖供与体とを使って1種類の生成物を得られていたが、本発明の酵素を用いれば、in vitroで2種類の糖供与体を加えることでフラボノイドの3位にグルコース及びガラクトースのいずれの転移も同時に可能となり、ヒペロシドをはじめとする有用フラボノイド配糖体をより簡便に生産することができる点で、本発明は極めて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ブドウ由来フラボノイド配糖体化酵素ホモログ遺伝子の系統解析の結果を示す図である。NJ法による8種のブドウUGT (VvGT)を含むフラボノイドUGT遺伝子のクラスターIの分子系統樹である。アウトグループ(Out group)は、アメリカブドウ(コンコード種)のレスベラトロールのグルコース転移酵素遺伝子(VlRSgt)である。
【図2】ブドウ由来配糖体化酵素ホモログ遺伝子の染色体マッピングの結果を示す図である。VvGT1ホモログ遺伝子は、LG11染色体とLG6染色体上にタンデム状に座位している。
【図3】大腸菌発現VvGT6タンパク質の精製(SDS-PAGE)の結果を示す図である。500mMイミダゾールによる溶出画分に認められるバンド(図中の矢印)は、Hisタグ融合VvGT6タンパク質(His-VvGT6)である。なお、「M」は分子サイズマーカー、「粗」は粗酵素液、「素」は素通りの液、「洗」は洗浄後の液を示す。
【図4】VvGT6の酵素活性測定の結果を示す図である。具体的には、360nmでモニターしたHPLCチャート(クロマトグラム)である。最上段のチャートは、標品のケルセチンについてのもの、上から2段目のチャートは、ケルセチンとVvGT6との反応液(UDP糖供与体:UDP-ガラクトース)についてのもの、上から3段目のチャートは、標品のケルセチン3-O-ガラクトシドについてのもの、上から4段目のチャートは、ケルセチンとVvGT6との反応液(UDP糖供与体:UDP-グルコース)についてのもの、最下段のチャートは、標品のケルセチン3-O-グルコシドについてのものである。「Q」は基質であるケルセチンのピークを示し、「A」及び「B」は反応生成物のピークを示す。
【図5】VvGT6の至適pHアッセイに用いたバッファー系を示す図表である。
【図6】VvGT6の反応pH依存性解析(最適pH解析)の結果を示す図である。縦軸は、最も活性が高いものを100%としたときの相対活性(%)を示す。
【0016】
【図7】VvGT6の反応温度依存性解析(最適反応温度解析)の結果を示す図である。縦軸は、最も活性が高いものを100%としたときの相対活性(%)を示す。
【図8】VvGT6の糖供与体選択性解析の結果を示す図表である。UDP-グルコースに対する選択性を100%としたときの相対活性(%)で示す。「n. d.」は、検出限界以下を示す。
【図9】VvGT6の糖受容体選択性解析の結果を示す図表である。ケルセチンに対する選択性を100%としたときの相対活性(%)で示す。「n. d.」は、検出限界以下を示す。
【図10】VvGT6の速度論解析の結果を示す図表である。上の2つの表は、それぞれ、フラボノイド3位ガラクトース転移酵素活性(F3GalT activity)及びフラボノイド3位グルコース転移酵素活性(F3GlcT activity)に関する結果である。下のHPLCチャート(クロマトグラム;360nmでモニター)は、ケルセチンを糖受容体として、VvGT6を、2種類の糖供与体(UDP-ガラクトース及びUDP-グルコース)と同時に反応させたときの反応液についてのものである。「Q」は基質であるケルセチンのピークを示し、「Q3Gal」はUDP-ガラクトースが糖供与体である場合の反応生成物のピークを示し、「Q3Glc」はUDP-グルコースが糖供与体である場合の反応生成物のピークを示す。
【図11】定量RT-PCRによる器官別VvGT遺伝子発現解析の結果を示す図である。具体的には、ピノノアール品種(左)とカベルネソーヴィニョン品種(右)におけるVvGTの遺伝子発現解析を行った結果である。両品種とも、上段のグラフはVvGT1遺伝子について、中段のグラフはVvGT5遺伝子について、下段のグラフはVvGT6についての解析結果である。いずれのグラフも、内部標準遺伝子(VvUBQ)で標準化した相対発現量を示している。
【図12】VvGT1(ブドウ由来フラボノイド3位グルコース転移酵素である)、VvGT5(ブドウ由来フラボノイド3位グルクロン酸転移酵素)、VvGT6(ブドウ由来フラボノイド3位ガラクトース・グルコース転移酵素)、ACGalT(ウド由来フラボノイドガラクトース転移酵素)、及びPhF3GalT(ペチュニア由来フラボノイド3位ガラクトース転移酵素)についてのClustal-Wによるマルチプルアラメイントの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる特願2009-020105号明細書(2009年1月30日出願)の全体を包含する。また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0018】
1.本発明のポリヌクレオチド
まず、本発明は、(a)配列番号3の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド(具体的には、DNA、以下、これらを単に「DNA」とも称する);及び(b)配列番号4で表わされるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドを提供する。本発明で対象とするDNAは、上記のガラクトース・グルコース酸転移酵素(F3Gal/GlcT)をコードするDNAに限定されるものではなく、このタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードする他のDNAを含む。
機能的に同等なタンパク質としては、例えば、(c)配列番号4で表わされるアミノ酸配列において1〜15個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質が挙げられる。このようなタンパク質としては、配列番号4で表わされるアミノ酸配列において、例えば、1〜15個、1〜14個、1〜13個、1〜12個、1〜11個、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個(1〜数個)、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、1個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質が挙げられる。上記アミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び/又は付加の数は、一般的には小さい程好ましい。なお、本発明においては、上記(c)の機能的に同等なタンパク質は、(i) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列中の第19番目のアミノ酸残基(プロリン)に対応するアミノ酸残基が同様にプロリンであるアミノ酸配列からなるもの、及び、(ii) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列中の第373番目のアミノ酸残基(グルタミン)に対応するアミノ酸残基が同様にグルタミンであるアミノ酸配列からなるものが好ましく、特に好ましくは、当該(i)及び(ii)の特徴をいずれも満たすアミノ酸配列からなるものである。すなわち、上記アミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び/又は付加は、配列番号4で表わされるアミノ酸配列中の第19番目のアミノ酸及び/又は第373番目のアミノ酸以外のアミノ酸についてなされたものであることが好ましい。この好ましい態様は、前記(g)のポリヌクレオチドにおいても同様である。
【0019】
また、機能的に同等なタンパク質としては、例えば、(d)配列番号4で表わされるアミノ酸配列に対して、80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質も挙げられる。このようなタンパク質としては、配列番号4で表わされるアミノ酸配列に対して、約80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質が挙げられる。上記相同性の数値は一般的に大きい程好ましい。なお、本発明においては、上記(d)の機能的に同等なタンパク質は、(i) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列中の第19番目のアミノ酸残基(プロリン)に対応するアミノ酸残基が同様にプロリンであるアミノ酸配列からなるもの、及び、(ii) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列中の第373番目のアミノ酸残基(グルタミン)に対応するアミノ酸残基が同様にグルタミンであるアミノ酸配列からなるものが好ましく、特に好ましくは、当該(i)及び(ii)の特徴をいずれも満たすアミノ酸配列からなるものである。この好ましい態様は、前記(h)のポリヌクレオチドにおいても同様である。
【0020】
ここで、本発明で言う「UDP-ガラクトース転移酵素活性」とは、糖受容体基質となるフラボノイドの3位の水酸基に、糖供与体のUDP-ガラクトース依存的にガラクトースを転移し、ガラクトース配糖体を生じる反応を触媒する活性を有する酵素、すなわちフラボノイド3位ガラクトース転移酵素(Flavonoid 3-O-galactosyltransferase; F3GalT)活性を意味する。
UDP-ガラクトース転移酵素活性は、例えば、UDP-ガラクトースと糖受容体基質であるフラボノイド(例えば、フラボノール等)とを評価対象となる酵素の存在下で反応させ、得られる反応物をHPLC等で分析することによって測定することができる(より具体的には、後述の実施例の記載を参照。)。
【0021】
また、本発明で言う「UDP-グルコース転移酵素活性」とは、糖受容体基質となるフラボノイドの3位の水酸基に、糖供与体のUDP-グルコース依存的にグルコースを転移し、グルコース配糖体を生じる反応を触媒する活性を有する酵素、すなわちフラボノイド3位グルコース転移酵素(Flavonoid 3-O-glucosyltransferase; F3GlcT)活性を意味する。
UDP-グルコース転移酵素活性は、例えば、UDP-グルコースと糖受容体基質であるフラボノイド(例えば、フラボノール等)とを評価対象となる酵素の存在下で反応させ、得られる反応物をHPLC等で分析することによって測定することができる(より具体的には、後述の実施例の記載を参照。)。
なお、上記のUDP-ガラクトース転移酵素活性とUDP-グルコース転移酵素活性とは、2種類の糖供与体(UDP-ガラクトース及びUDP-グルコース)を併用して、同時に測定することもできる。
【0022】
また、本発明は、(e)配列番号3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドも包含する。なお、本発明においては、上記(e)のポリヌクレオチドは、(i) 配列番号3で表わされる塩基配列中の第55〜57番目の塩基(CCC)に対応する塩基が同一の「CCC」であるか又は同一の塩基でなくとも「CCU(CCT)」、「CCA」及び「CCG」のいずれかであるポリヌクレオチドを含有するものであること、及び、(ii) 配列番号3で表わされる塩基配列中の第1117〜1119番目の塩基(CAA)に対応する塩基が同一の「CAA」であるか又は同一の塩基でなくとも「CAG」であるポリヌクレオチドを含有するものであることが好ましく、特に好ましくは、当該(i)及び(ii)の特徴をいずれも満たすポリヌクレオチドを含有するものである。ここで、上記第55〜57番目の塩基(CCC)とは、配列番号4で表されるアミノ酸配列中の第19番目のアミノ酸残基(プロリン)をコードする塩基(コドン)であり、上記「CCU(CCT)」、「CCA」及び「CCG」も同様にプロリンをコードする塩基(コドン)である。また、上記第1117〜1119番目の塩基(CAA)とは、配列番号4で表されるアミノ酸配列中の第373番目のアミノ酸残基(グルタミン)をコードする塩基(コドン)であり、上記「CAG」も同様にグルタミンをコードする塩基(コドン)である。この好ましい態様は、前記(i)のポリヌクレオチドにおいても同様である。
さらに、本発明は、(f)配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドも包含する。なお、本発明においては、上記(f)のポリヌクレオチドは、(i) 配列番号3で表わされる塩基配列中の第55〜57番目の塩基(CCC)に対応する塩基が同一の「CCC」であるか又は同一の塩基でなくとも「CCU(CCT)」、「CCA」及び「CCG」のいずれかであるポリヌクレオチドを含有するものであること、及び、(ii) 配列番号3で表わされる塩基配列中の第1117〜1119番目の塩基(CAA)に対応する塩基が同一の「CAA」であるか又は同一の塩基でなくとも「CAG」であるポリヌクレオチドを含有するものであることが好ましく、特に好ましくは、当該(i)及び(ii)の特徴をいずれも満たすポリヌクレオチドを含有するものである。ここで、上記第55〜57番目の塩基(CCC)とは、配列番号4で表されるアミノ酸配列中の第19番目のアミノ酸残基(プロリン)をコードする塩基(コドン)であり、上記「CCU(CCT)」、「CCA」及び「CCG」も同様にプロリンをコードする塩基(コドン)である。また、上記第1117〜1119番目の塩基(CAA)とは、配列番号4で表されるアミノ酸配列中の第373番目のアミノ酸残基(グルタミン)をコードする塩基(コドン)であり、上記「CAG」も同様にグルタミンをコードする塩基(コドン)である。この好ましい態様は、前記(j)のポリヌクレオチドにおいても同様である。
本明細書中、「ポリヌクレオチド」とは、DNA又はRNAを意味する。好ましくは、DNAである。
【0023】
本明細書中、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、例えば、配列番号3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号4で表わされるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドの、全部又は一部をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法又はサザンハイブリダイゼーション法などを用いることにより得られるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイゼーションの方法としては、例えば、"Sambrook & Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Vol. 3, Cold Spring Harbor, Laboratory Press 2001"、"Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987-1997"などに記載されている方法を利用することができる。
本明細書中、「ストリンジェントな条件」とは、低ストリンジェントな条件、中ストリンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。「低ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、32℃の条件である。また、「中ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、42℃の条件である。「高ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、50℃の条件である。これらの条件において、温度を上げるほど高い相同性を有するDNAが効率的に得られることが期待できる。ただし、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度、プローブ濃度、プローブの長さ、イオン強度、時間、塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0024】
なお、ハイブリダイゼーションに市販のキットを用いる場合は、例えばAlkphos Direct Labelling Reagents(アマシャムファルマシア社製)を用いることができる。この場合は、キットに添付のプロトコルにしたがい、標識したプローブとのインキュベーションを一晩行った後、メンブレンを55℃の条件下で0.1% (w/v) SDSを含む1次洗浄バッファーで洗浄後、ハイブリダイズしたDNAを検出することができる。
上記以外にハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとしては、FASTA、BLASTなどの相同性検索ソフトウェアにより、デフォルトのパラメーターを用いて計算したときに、配列番号3の塩基配列のDNA又は配列番号4で表わされるアミノ酸配列をコードするDNAと、約60%以上、約70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上又は99.9%以上の相同性を有するDNAを挙げることができる。
【0025】
なお、アミノ酸配列や塩基配列の相同性は、カーリン及びアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 87, p. 2264-2268, 1990; Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 90, p. 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al., J. Mol. Biol., vol. 215, p. 403, 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、word length =12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、word length =3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。
上記した本発明のポリヌクレオチドは、公知の遺伝子工学的手法又は公知の合成手法によって取得することが可能である。
【0026】
2.本発明のタンパク質
本発明は、さらに別の実施形態において、上記本発明のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質も提供する。本発明のある態様のタンパク質は、配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質である。本発明の別の態様のタンパク質は、配列番号4で表わされるアミノ酸配列を有するタンパク質である。
本発明のさらに別の態様のタンパク質は、配列番号4で表わされるアミノ酸配列において1〜15個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質である。このようなタンパク質としては、配列番号4で表わされるアミノ酸配列と上記したような相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質が挙げられるこのようなタンパク質は、"Sambrook & Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Vol. 3, Cold Spring Harbor, Laboratory Press 2001"、"Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons 1987-1997"、"Nuc. Acids. Res., vol. 10, p. 6487, 1982"、"Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 79, p. 6409, 1982"、"Gene, vol. 34, p. 315, 1985"、"Nuc. Acids. Res., vol. 13, p. 4431, 1985"、"Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 82, p. 488, 1985"等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、取得することができる。なお、上記の、さらに別の態様のタンパク質としては、(i) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列中の第19番目のアミノ酸残基(プロリン)に対応するアミノ酸残基が同様にプロリンであるアミノ酸配列からなるもの、及び、(ii) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列中の第373番目のアミノ酸残基(グルタミン)に対応するアミノ酸残基が同様にグルタミンであるアミノ酸配列からなるものが好ましく、特に好ましくは、当該(i)及び(ii)の特徴をいずれも満たすアミノ酸配列からなるものである。すなわち、上記アミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び/又は付加は、配列番号4で表わされるアミノ酸配列中の第19番目のアミノ酸及び/又は第373番目のアミノ酸以外のアミノ酸についてなされたものであることが好ましい。
【0027】
本発明のタンパク質のアミノ酸配列において1以上(例えば1〜15個、好ましくは10個以下)のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたとは、同一配列中の任意かつ1若しくは複数のアミノ酸配列中の位置において、1又は複数のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び/又は付加があることを意味し、欠失、置換、挿入及び付加のうち2種以上が同時に生じてもよい。
以下に、相互に置換可能なアミノ酸残基の例を示す。同一群に含まれるアミノ酸残基は相互に置換可能である。A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2-アミノブタン酸、メチオニン、o-メチルセリン、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン;B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2-アミノアジピン酸、2-アミノスベリン酸;C群:アスパラギン、グルタミン;D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4-ジアミノブタン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸;E群:プロリン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン;F群:セリン、スレオニン、ホモセリン;G群:フェニルアラニン、チロシン。
【0028】
また、本発明のタンパク質は、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t-ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によっても製造することができる。また、アドバンスドケムテック社製、パーキンエルマー社製、ファルマシア社製、プロテインテクノロジーインストゥルメント社製、シンセセルーベガ社製、パーセプティブ社製、島津製作所等のペプチド合成機を利用して化学合成することもできる。
ここで、本発明のタンパク質は、フラボノイド3位ガラクトース・グルコース転移酵素である。「ガラクトース・グルコース転移酵素」とは、糖供与体から糖受容体基質にガラクトース残基を転移しガラクトース配糖体を生じる反応と、糖供与体から糖受容体基質にグルコース残基を転移しグルコース配糖体を生じる反応とを、いずれも触媒する。本発明において、糖受容体基質はフラボノイドであり、糖供与体は、UDP-ガラクトース及びUDP-グルコースである。本発明のある態様のタンパク質は、UDP-ガラクトースから、糖受容体基質であるフラボノイド(例えば、フラボノール等)の3位の水酸基にガラクトース残基を転移し、ガラクトース配糖体とUDPとを生じる反応を触媒する。また、本発明の別のある態様のタンパク質は、UDP-グルコースから、糖受容体基質であるフラボノイド(例えば、フラボノール等)の3位の水酸基にグルコース残基を転移し、グルコース配糖体とUDPとを生じる反応を触媒する。さらに、本発明の別のある態様のタンパク質は、併用するUDP-ガラクトース及びUDP-グルコースから、糖受容体基質であるフラボノイド(例えば、フラボノール等)の3位の水酸基にガラクトース残基及びグルコース残基を転移し、ガラクトース配糖体とグルコース配糖体とUDPとを生じる反応を触媒する。
【0029】
糖受容体基質のフラボノイドには、フラボノール、フラバノン、イソフラボン、アントシアニジン、フラボンC配糖体、オーロン及びカテキン等が好ましく挙げられる。このうち、フラボノールとしては、例えば、ケルセチン、ミリセチン、ラリシトリン、イソラムネチン、シリンゲチン及びケンフェロール等を挙げることができる。フラバノンとしては、例えば、ナリンゲニン等を挙げることができる。イソフラボンとしては、例えば、ジェニステイン、ダイゼイン及びホルモノネチン等を挙げることができる。アントシアニジンとしては、例えば、シアニジン、デルフィニジン及びペラルゴニジン等を挙げることができる。フラボンC配糖体としては、例えば、ビテキシン、イソビテキシン及びオリエンチン等を挙げることができる。オーロンとしては、例えば、オーレウシジン等を挙げることができる。カテキンとしては、例えば、カテキン及びエピガロカテキンガレート等を挙げることができる。本発明において、糖受容体基質のフラボノイドとしては、上述した中でも、フラボノールがより好ましく、特に好ましくはケルセチン、ケンフェロール及びイソラムネチンである。
【0030】
3.ベクター及びこれを導入した形質転換体
本発明はまた、別の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを提供する。本発明の発現ベクターは、本発明のポリヌクレオチド(例えば、前記(a)〜(j)のいずれかのポリヌクレオチド)を含有する。好ましくは、本発明の発現ベクターは、前記(g)〜(j)のいずれかのポリヌクレオチドを含有する。さらに好ましくは、本発明の発現ベクターは、配列番号3の塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は、配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドを含有する。
本発明のベクターは、通常、(i) 宿主細胞内で転写可能なプロモーター;(ii) 該プロモーターに結合した、本発明のポリヌクレオチド(例えば、前記(a)〜(j)のいずれかのポリヌクレオチド);及び (iii) RNA分子の転写終結及びポリアデニル化に関し、宿主細胞内で機能するシグナルを構成要素として含む発現カセットを含むように構成される。このように構築されるベクターは、宿主細胞に導入される。発現ベクターの作製方法としては、プラスミド、ファージ又はコスミドなどを用いる方法が挙げられるが特に限定されない。
【0031】
ベクターの具体的な種類は特に限定されず、宿主細胞中で発現可能なベクターが適宜選択され得る。すなわち、宿主細胞の種類に応じて、確実に本発明のポリヌクレオチドを発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと本発明のポリヌクレオチドを各種プラスミド等に組み込んだベクターを発現ベクターとして用いればよい。
本発明の発現ベクターは、導入されるべき宿主の種類に依存して、発現制御領域(例えば、プロモーター、ターミネーター及び/又は複製起点等)を含有する。細菌用発現ベクターのプロモーターとしては、慣用的なプロモーター(例えば、trcプロモーター、tacプロモーター、lacプロモーター等)が使用され、酵母用プロモーターとしては、例えば、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター、PH05プロモーター等が挙げられ、糸状菌用プロモーターとしては、例えば、アミラーゼ、trpC等が挙げられる。また動物細胞宿主用プロモーターとしては、ウイルス性プロモーター(例えば、SV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター等)が挙げられる。
発現ベクターは、少なくとも1つの選択マーカーを含むことが好ましい。このようなマーカーとしては、栄養要求性マーカー(ura5、niaD)、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、ジェネチシン耐性遺伝子(G418r)、銅耐性遺伝子(CUP1)(Marin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 81, p. 337, 1984)、セルレニン耐性遺伝子(fas m, PDR4)(それぞれ、猪腰淳嗣ら, 生化学, vol. 64, p. 660, 1992;Hussain et al., Gene, vol. 101, p. 149, 1991)などが利用可能である。
【0032】
また、本発明は、本発明のポリヌクレオチド(例えば、前記(a)〜(j)のいずれかのポリヌクレオチド)が導入された形質転換体を提供する。
形質転換体の作製方法(生産方法)は特に限定されないが、例えば、上述した組換えベクターを宿主に導入して形質転換する方法が挙げられる。ここで用いられる宿主細胞は、特に限定されるものではなく、従来公知の各種細胞を好適に用いることができる。具体的には、例えば、大腸菌(Escherichia coli)等の細菌、酵母(出芽酵母Saccharomyces cerevisiae、分裂酵母Schizosaccharomyces pombe)、線虫(Caenorhabditis elegans)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞等を挙げることができる。上記の宿主細胞のための適切な培養培地及び条件は当分野で周知である。また、形質転換の対象となる生物も特に限定されるものではなく、上記宿主細胞で例示した各種微生物、植物又は動物が挙げられる。
宿主細胞の形質転換方法としては一般に用いられる公知の方法が利用できる。例えば、エレクトロポレーション法(Mackenxie D. A. et al., Appl. Environ. Microbiol., vol. 66, p. 4655-4661, 2000)、パーティクルデリバリー法(特開2005-287403「脂質生産菌の育種方法」に記載の方法)、スフェロプラスト法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 75, p. 1929, 1978)、酢酸リチウム法(J. Bacteriology, vol. 153, p. 163, 1983)、Methods in yeast genetics, 2000 Edition : A Cold Spring Harbor Laboratory Course Manualなどに記載の方法)で実施可能であるが、これらに限定されない。
【0033】
本発明の別の態様において、形質転換体は、植物形質転換体であり得る。本実施形態に係る植物形質転換体は、本発明に係るポリヌクレオチドを含む組換えベクターを、当該ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドが発現され得るように植物中に導入することによって取得される。
組換え発現ベクターを用いる場合、植物体の形質転換に用いられる組換え発現ベクターは、当該植物内で本発明に係るポリヌクレオチドを発現させることが可能なベクターであれば特に限定されない。このようなベクターとしては、例えば、植物細胞内でポリヌクレオチドを構成的に発現させるプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター)を有するベクター又は外的な刺激によって誘導性に活性化されるプロモーターを有するベクターが挙げられる。
本発明において形質転換の対象となる植物は、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子など)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束、柵状組織、海綿状組織など)又は植物培養細胞、あるいは種々の形態の植物細胞(例えば、懸濁培養細胞)、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどのいずれをも意味する。形質転換に用いられる植物としては、特に限定されず、単子葉植物綱又は双子葉植物綱に属する植物のいずれでもよい。
【0034】
植物への遺伝子の導入には、当業者に公知の形質転換方法(例えば、アグロバクテリウム法、遺伝子銃、PEG法、エレクトロポレーション法など)が用いられる。例えば、アグロバクテリウムを介する方法と直接植物細胞に導入する方法が周知である。アグロバクテリウム法を用いる場合は、構築した植物用発現ベクターを適当なアグロバクテリウム(例えば、アグロバクテリウム・チュメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens))に導入し、この株をリーフディスク法(内宮博文著、植物遺伝子操作マニュアル(1990)27〜31頁、講談社サイエンティフィック、東京)などに従って無菌培養葉片に感染させ、形質転換植物を得ることができる。また、Nagelらの方法(Micribiol.Lett., 67, 325 (1990))が用いられ得る。この方法は、まず、例えば発現ベクターをアグロバクテリウムに導入し、次いで、形質転換されたアグロバクテリウムをPlantMolecular Biology Manual(S.B.Gelvinら、Academic Press Publishers)に記載の方法で植物細胞又は植物組織に導入する方法である。ここで、「植物組織」とは、植物細胞の培養によって得られるカルスを含む。アグロバクテリウム法を用いて形質転換を行う場合には、バイナリーベクター(pBI121又はpPZP202など)を使用することができる。
【0035】
また、遺伝子を直接植物細胞又は植物組織に導入する方法としては、エレクトロポレーション法、遺伝子銃法が知られている。遺伝子銃を用いる場合は、植物体、植物器官、植物組織自体をそのまま使用してもよく、切片を調製した後に使用してもよく、プロトプラストを調製して使用してもよい。このように調製した試料を遺伝子導入装置(例えばPDS-1000(BIO-RAD社)など)を用いて処理することができる。処理条件は植物又は試料によって異なるが、通常は450〜2000psi程度の圧力、4〜12cm程度の距離で行う。
遺伝子が導入された細胞又は植物組織は、まずハイグロマイシン耐性などの薬剤耐性で選択され、次いで定法によって植物体に再生される。形質転換細胞から植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。
植物培養細胞を宿主として用いる場合は、形質転換は、組換えベクターを遺伝子銃、エレクトロポレーション法などで培養細胞に導入する。形質転換の結果得られるカルスやシュート、毛状根などは、そのまま細胞培養、組織培養又は器官培養に用いることが可能であり、また従来知られている植物組織培養法を用い、適当な濃度の植物ホルモン(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノライドなど)の投与などによって植物体に再生させることができる。
【0036】
遺伝子が植物に導入されたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法などによって行うことができる。例えば、形質転換植物からDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行う。PCRは、前記プラスミドを調製するために使用した条件と同様の条件で行うことができる。その後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又はキャピラリー電気泳動などを行い、臭化エチジウム、SYBR Green液などによって染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することによって、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素などによって標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレートなどの固相に増幅産物を結合させ、蛍光又は酵素反応などによって増幅産物を確認する方法も採用することができる。
本発明に係るポリヌクレオチドがゲノム内に組み込まれた形質転換植物体が一旦取得されれば、当該植物体の有性生殖又は無性生殖によって子孫を得ることができる。また、当該植物体又はその子孫、あるいはこれらのクローンから、例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラストなどを得て、それらを基に当該植物体を量産することができる。従って、本発明には、本発明に係るポリヌクレオチドが発現可能に導入された植物体、若しくは当該植物体と同一の性質を有する当該植物体の子孫、又はこれら由来の組織も含まれる。
【0037】
また、種々の植物に対する形質転換方法が既に報告されている。本発明に係る形質転換体植物としては、例えば、ブドウ、ゴマ、イネ、タバコ、オオムギ、コムギ、ナタネ、ポテト、トマト、ポプラ、バナナ、ユーカリ、サツマイモ、タイズ、アルファルファ、ルーピン、トウモロコシ、カリフラワー、バラ、キク、カーネーション、キンギョソウ、シクラメン、ラン、トルコギキョウ、フリージア、ガーベラ、グラジオラス、カスミソウ、カランコエ、ユリ、ペラルゴニウム、ゼラニウム、ペチュニア、トレニア、チューリップ、レンギョウ、シロイヌナズナ及びミヤコグサなどが挙げられるがこれらに限定されない。
本発明のある態様によれば、形質転換植物体は機能性食品材料用植物体である。
【0038】
4.本発明のタンパク質の製造方法
本発明はまた、別の実施形態において、上記の形質転換体を用いる本発明のタンパク質の製造方法を提供する。
具体的には、上記形質転換体の培養物から、本発明のタンパク質を分離・精製することによって、本発明のタンパク質を得ることができる。ここで、培養物とは、培養液、培養菌体若しくは培養細胞、又は培養菌体若しくは培養細胞の破砕物のいずれをも意味する。本発明のタンパク質の分離・精製は、通常の方法に従って行うことができる。
具体的には、本発明のタンパク質が培養菌体内若しくは培養細胞内に蓄積される場合には、培養後、通常の方法(例えば、超音波、リゾチーム、凍結融解など)で菌体若しくは細胞を破砕した後、通常の方法(例えば、遠心分離、ろ過など)により本発明のタンパク質の粗抽出液を得ることができる。本発明のタンパク質が培養液中に蓄積される場合には、培養終了後、通常の方法(例えば、遠心分離、ろ過など)により菌体若しくは細胞と培養上清とを分離することにより、本発明のタンパク質を含む培養上清を得ることができる。
このようにして得られた抽出液若しくは培養上清中に含まれる本発明のタンパク質の精製は、通常の分離・精製方法に従って行うことができる。分離・精製方法としては、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、透析法及び限外ろ過法等を、単独で又は適宜組み合わせて用いることができる。
【0039】
5.ガラクトース配糖体及びグルコース配糖体の製造方法
さらに、本発明は、本発明のタンパク質を用いてガラクトース配糖体及び/又はグルコース配糖体を製造する方法を提供する。
本発明のタンパク質は、糖受容体基質としてのフラボノイドに、糖供与体としてのUDP-ガラクトースからガラクトースを転移する反応、及び糖供与体としてのUDP-グルコースからグルコースを転移する反応を触媒する(いずれの反応も、詳しくは、フラボノイドの3位の水酸基に転移する反応である)。従って、本発明のタンパク質を用いることにより、糖受容体基質及び糖供与体を原料として、ガラクトース配糖体及び/又はグルコース配糖体を製造することができる。糖供与体としてUDP-ガラクトースのみを用いた場合はガラクトース配糖体を製造でき、UDP-グルコースのみを用いた場合はグルコース配糖体を製造でき、UDP-ガラクトース及びUDP-グルコースを同時に用いた場合は、ガラクトース配糖体及びグルコース配糖体を同時に製造できる。糖受容体基質としては、フラボノイドの中でも、フラボノールが好ましく、特に好ましくはケルセチン、ケンフェロール及びミリセチンである。
【0040】
例えば、1 mMの糖受容体基質、2 mMの糖供与体、50 mMのリン酸カルシウムバッファー(pH7.5)及び20μMの本発明のタンパク質を含む溶液を調製し、30℃で、30分間反応させることにより、ガラクトース配糖体及び/又はグルコース配糖体を製造することができる。この溶液から、ガラクトース配糖体は、公知の方法により分離・精製することができる。具体的には、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、透析法及び限外ろ過法などを、単独で又は適宜組み合わせて用いることができる。
このようにして得られるガラクトース配糖体は、機能性食品の材料、その生体内での機能を調べるための試薬、又は抗酸化剤などとして有用である。
【0041】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
遺伝子クローニング
本実施例において用いる分子生物学的手法は、他で詳述しない限り、Molecular Cloning(Sambrookra,Cold Spring Harbour Laboratory Press,2001)に記載の方法に従った。
ブドウ由来フラボノイド3位グルコース転移酵素遺伝子であるVvGT1(Offen, W. et al., EMBO J., vol. 25, p. 1396-1405, 2006)の完全長配列を基に、Istituto Agrario San Michele all'Adige(IASMA)が提供するブドウゲノムデータベース(http://genomics.research.iasma.it/iasma/)に対してBlastホモロジー検索を行った。その結果、相同性の高い7種の候補UGT遺伝子を見出した(図1)。これらはMEGA4プログラム(Tamura, K. et al., Mol. Biol. Evol., vol. 24, p. 1596-1599, 2007)を利用したNJ系統樹解析によってフラボノイド3位UGTのクラスターであるCluster Iに属することを確認した(図1)。さらに、候補遺伝子配列を染色体物理地図と照らし合わせることで、染色体上のシンテニーを明らかにした(図2)。VvGT3、VvGT5及びVvGT6は、11番染色体上に同じ転写向きに座位しており、それらの間にはフラボノールスルフォトランスフェラーゼ様遺伝子が共通して見出された(Varin, L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 89, p. 1286-1290, 1992)。VvGT5及びVvGT6は、特に相同性が高く、遺伝子重複によって生じたパラログであると考えられた。また、6番染色体には同じ転写向きに座位したVvGT2及びVvGT4が見出された。その下流に同じ転写向きにVvGT2及びVvGT4のセットのコピーが見出され、それぞれ順に、VvGT2-like及びVvGT4-likeと命名した。一方、既知のVvGT1は16番染色体に座位した。
【0043】
次に、これらのVvGT遺伝子をクローン化するためにブドウ葉由来cDNAを下記の方法で調製し、それを鋳型にPCRによる増幅を行った。ブドウ(Vitis vinifera,品種:Cabernet Sauvignon)の葉0.1gからFruitMate for RNA purification及びFast Pure RNA kit(TaKaRa Bio社)を用いて、製造業者の推奨する方法に従い、トータルRNAを抽出し、そのうち1μgから、SuperScript First-Strand Synthesis System for RT-PCR(Invitrogen社)を製造業者が推奨する条件に従って使用してcDNAを合成した。
VvGT6遺伝子を例に、cDNAクローニング及び発現ベクター構築手順を下記に示す。逆転写によって得られたcDNAを鋳型に、ゲノム配列情報を基にデザインした下記のVvGT6遺伝子特異的プライマー(配列番号1及び2)を用いて、PCRによるVvGT6の単離を試みた。
具体的には、PCR反応液(50μl)は、ブドウ葉由来cDNA 1μl、1×ExTaq buffer(TaKaRaBio)、0.2mM dNTPs、プライマー(配列番号1及び2)各0.4pmol/μl、ExTaq polymerase 2.5unitからなる。PCR反応は、94℃で3分間反応させた後、94℃で1分間、50℃で1分間、72℃で2分間の反応を1サイクルとして、計35サイクルの増幅反応を行った。
【0044】
CACC-NdeI-VvGT6-Fw:
5'- CAC CCA TAT GAC TGC CAC CGC GAG CTC CAT G -3'(配列番号1)
BglII-VvGT6-RV:
5'- AGA TCT CTA CTT ATT GGT ATC CAA ATG TAA CT -3'(配列番号2)
【0045】
PCR反応液を0.8%アガロースゲル電気泳動により分離したところ、約1.4kbのサイズの増幅断片を得た。この増幅断片をpENTR-Directional-TOPOベクター(Invitrogen社)にサブクローニングし、挿入断片の塩基配列を、DNA Sequencer model 3100(Applied Biosystems社)を使用して、合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いるプライマーウォーキング法によって塩基配列を決定し、この配列と、前記データベースに登録されているピノノアール品種由来の配列(IASMAアクセッション番号:VV78X045394.7 4)とを比較して、ベクターに挿入されたcDNAがVvGT6であることを確認した(配列番号3及び4)。
【0046】
VvGT6のcDNA配列:
ATGACTGCCACCGCGAGCTCCATGGACAGGCATGTTGCAGTATTGGGGTTCCCCCCCCATGCAGCTACCCTCTTAAAACTCCTGCGCAGATTAGCATCTGCCGCACCCACCACCATCTTCTCCTTCTTCAACACTGCCAAAGCCAACAACTCCATCTTCTCTCCTCAGAGTCCCCACGGCCTTCACAATCTAAGAGTCTATGATGTGGCAGACGGCGTGCCTGAGGGTCATGTGCTTTCAGCAAACCCTCTGGAACGCATCGACCTGTTCTTCAAGGCGACGCCTGGGAACTTTTATGATGCCATACAAGTGGCGGAGGCGGAGATTGGAAGGAAGATAAGTTGCTTGGTGAGTGATGCCTTTTTGTGGTTTACTGCTGATATGGCTGAGGAAATGCGGGTTCCCTGGTTGGCAATTTGGACTAGTGCGCTCTGCTCACTCTCCGTTCACATTTATACTGATGCTATCCGGGAAGCGGTGAAGGTTGTGGGGCGGGTGCAAGACCAAACCCTTGATTTCATTCCAGGATTCTCAGCAATAAAGGTTGAAGACCTACCTGAAGGAATAGTTTTCGGGGACATAGAATCTCCTTTTGCATGCATGTTGCATAAAATGGGGCTCACGCTGCCACGAGCAACCGCTGTTGCCACAAACTCCTTTGAAGAACTAGAGCCCATTGTCACAAATGATCCCAAGTCGAAGCTCCAAAAAGTTCTTGCTGTTGGTCCTTTTGATCTATCTTCACCACCACAGTTGATATTGGACGCTAGTGGTTGCCTGCCATGGTTAGACAATAAAAAAGAAGCATCAGTGGCATATGTTAGTTTTGGAAGCATAGCAACACCACCACCCAACGAGATTGTAGCATTGGCAGAAGCCCTAGAAGCAACTGGGATACCGTTTCTTTGGTCTCTTAGGGAACATGCAATGGACAATTTACCAAAAGGATTTCTAGAGAGGACGACTGCTCATGGAAAAGTTGTTTCGTGGGCTCCTCAACCTCAAATCTTAGCACATGCCTCAGTTGGAGTGTTTATTACTCATAGTGGTTGGAACTCGGTGATTGAGAGTATAGTTGGTGGTGTGCCTATGATCTGTAGGCCATTCTTTGGAGATCAATGTATCGACAAGCGGATGGTAGAGGATGTATGGGGGATTGGTGTGGGAGTTGAGGGAGGGGTCCTCACGAAAAGTGGAGTAATGAGTGCTCTAGGACTAATTTTGTCCCATGAAGGGAACAAAATGAGAGAGAAAATTAGAGTCCTGAAAGAGCTTGCTAGAAGGGCTGTTGAACCAAATGGGAGCTCAACTCAAAATTTAAGTAATTTGTTGGAGGTAATCACAACATCTAAGTTACATTTGGATACCAATAAGTAG(配列番号3)
【0047】
VvGT6のアミノ酸配列:
MTATASSMDRHVAVLGFPPHAATLLKLLRRLASAAPTTIFSFFNTAKANNSIFSPQSPHGLHNLRVYDVADGVPEGHVLSANPLERIDLFFKATPGNFYDAIQVAEAEIGRKISCLVSDAFLWFTADMAEEMRVPWLAIWTSALCSLSVHIYTDAIREAVKVVGRVQDQTLDFIPGFSAIKVEDLPEGIVFGDIESPFACMLHKMGLTLPRATAVATNSFEELEPIVTNDPKSKLQKVLAVGPFDLSSPPQLILDASGCLPWLDNKKEASVAYVSFGSIATPPPNEIVALAEALEATGIPFLWSLREHAMDNLPKGFLERTTAHGKVVSWAPQPQILAHASVGVFITHSGWNSVIESIVGGVPMICRPFFGDQCIDKRMVEDVWGIGVGVEGGVLTKSGVMSALGLILSHEGNKMREKIRVLKELARRAVEPNGSSTQNLSNLLEVITTSKLHLDTNK(配列番号4)
【0048】
プライマー配列内に付加したNdeI及びBglIIの制限酵素部位を利用して約1.4kbのVvGT6断片をpENT-Directional-TOPOベクターから切り出し、大腸菌発現ベクターであるpCold I(TaKaRa Bio社)のNdeI及びBamHIサイトへ連結し、VvGT6の大腸菌発現ベクターを得た。なお、大腸菌ベクター構築の際には、本ベクターのNdeIサイト上流にあるHisタグとVvGT6のオープンリーディングフレームをあわせるようにし、Hisタグと融合したキメラVvGT6タンパク質が発現するよう設計した。
【実施例2】
【0049】
酵素機能解析
本酵素の生化学的な機能を明らかにするために、本酵素を大腸菌において発現させた。
上記で得られたプラスミドを用い、常法に従って大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。得られた形質転換体を、50μg/mlのアンピシリンを含むLB培地(10 g/l typtone pepton,5 g/l yeast extract,1 g/l NaCl)4 mlに、て,37℃で一晩振盪培養した。静止期に達した培養液4 mlを同組成の培地80 mlに接種し、37℃で振盪培養した。菌体濁度(OD600)がおよそ0.5に達した時点で、15℃で30分間コールドショックを行い、その後、濃度0.5 mMのIPTGを添加し、18℃で20時間振盪培養した。
以下のすべての操作は4℃で行った。培養した形質転換体を遠心分離(5,000×g,10分間)にて集菌し、Buffer S[20 mM HEPESバッファー(pH 7.5),20 mM イミダゾール, 14 mM β-メルカプトエタノール]1 ml/g cellを添加して、懸濁した。続いて、超音波破砕(15秒間×8回)を行い、遠心分離(15,000×g,15分間)した。得られた上清を粗酵素液として回収した。この中からHisタグを有するVvGT6発現タンパク質を精製するため、粗酵素液をBuffer Sにて平衡化したHis SpinTrap(GE Healthcare)に負荷し、遠心(70×g,30秒間)した。Bufferで洗浄後、100 mM及び500 mM イミダゾールを含むBuffer S 各5mlにてカラムに結合したタンパク質を段階的に溶出した。各溶出画分をMicrocon YM-30(Amicon)を用いて、20 mM HEPESバッファー(pH 7.5)及び14 mM β-メルカプトエタノールにバッファー置換した(透析倍率1000倍)。
【0050】
SDS-PAGE解析の結果、500 mM イミダゾール溶出画分において、VvGT6の推定分子量49.68kDa付近にタンパク質を確認したので、この画分を酵素解析に用いた(図3)。
標準的な酵素反応条件は、以下の通りである。反応液(1 mM 糖供与体,200μM 糖受容体基質,20 mM HEPESバッファー(pH 7.5),精製酵素約2μg)50μlを調製し、酵素溶液を添加することで反応を開始させ、30℃で10分間反応させた。等量の0.1%TFA及び40%CH3CNを添加することにより反応を停止させ、15000 rpm、2分間、4℃で遠心することで得られた上清を、逆相HPLCで分析した。
逆相HPLCシステムは、以下の機器で構成される。Pump AとしてMODEL305(Gilson社)、Pump BとしてMODEL302(Gilson社)、Sample InjectorとしてMODEL231(Gilson社)、Dilutorとして401(Gilson社)、DYNAMIC MIXERとして811B(Gilson社)、Pressure Module(RAININ)、DEGASSERとしてDGU-12A(島津製作所)、検出器としてSPD-M20A DIODE ARRAY DETECTOR(島津製作所)を用いた。
【0051】
フラボノール類のHPLC条件は、以下の通りである。カラムはJ'sphere ODS-M80(4.6×150 mm、YMC)を室温で用い、移動相A(0.2% ギ酸/10% CH3CN)と移動相B(0.2% ギ酸/90% CH3CN)を用いた。溶離条件はB10%で3分間の平衡化をし、10分間の直線濃度勾配(B10%→B40%)、さらに10分間の直線濃度勾配(B40%→B90%)の後、1分間B90%で保持した。その後再びB10%に戻し、10分間平衡化した。流速は0.7 ml/分で行った。検出は、SPD-M20A DIODE ARRAY DETECTORを用いて360 nmで行った。本条件で標準品(標品)のケルセチン、ケルセチン3-ガラクトシド及びケルセチン3-グルコシド(いずれもSIGMA社)は、それぞれ順に、保持時間約17.8分、11.3分及び11.5分に溶出される。
ケルセチンを糖受容体、UDP-ガラクトースを糖供与体とした酵素反応液のHPLC分析の結果、ケルセチン3-ガラクトシドと保持時間が一致する保持時間約11.3分に新たな生成物Aが確認された(図4)。さらに、ケルセチンを糖受容体、UDP-グルコースを糖供与体とした酵素反応液のHPLC分析の結果、ケルセチン3-グルコシドと保持時間が一致する保持時間約11.5分に新たな生成物Bが確認された(図4)。これによってVvGT6遺伝子がフラボノイドの3位にガラクトース及びグルコースを転移する活性を有するF3GalT及びF3GlcT(すなわちF3Gal/GlcT)をコードすることが示された。
【0052】
次に、本酵素の至適pHを求めた。図5に示されるようにpH3からpH10.5までの各種バッファーを調製し、糖受容体として100μMケルセチン、糖供与体として1mM UDP-グルコース、50mMバッファー、1mM DTT及び上記精製VvGT6酵素 100ngを、30℃で10分間反応させた。ケルセチンを加えることで反応を開始し、等量の0.1% TFAを含む40%アセトニトリル溶液を加えることで反応を停止した。反応停止溶液を遠心分離(15000 rpm, 2分間, 4℃)することによって得られた上清100μlをHPLC分析に供し、各バッファー条件における生成物量を比較した。その結果、中性から塩基性領域で強い酵素活性が認められ、その最適pHは8.0であった(図6)。
次に、本酵素の至適温度を求めた。糖受容体として100μMケルセチン、糖供与体として1mM UDP-グルコース、50mM Tricine-NaOH(pH8.0)バッファー、1mM DTT及び上記精製VvGT6酵素100ngを、10、20、30、35、40、45、50及び60℃で、それぞれ15分間反応させた。ケルセチンを加えることで反応を開始し、等量の0.1%TFAを含む40%アセトニトリル溶液を加えることで反応を停止した。反応停止溶液を遠心分離(15000 rpm, 2分間, 4℃)することによって得られた上清100μlをHPLC分析に供し、各温度条件における生成物量を比較した。その結果、最適反応温度は35℃であった(図7)。
【0053】
次に、本酵素の糖供与体特異性について検討した。各糖受容体として100μMケルセチン、1mM各糖供与体(UDP-グルクロン酸、UDP-グルコース及びUDP-ガラクトース、(いずれもSIGMA社))、50mM Tricine-NaOH(pH8.0)バッファー、1mM DTT及び上記精製VvGT6酵素 100ngを、30℃で15分間反応させた。糖受容体を加えることで反応を開始し、等量の0.1%TFAを含む40%アセトニトリル溶液を加えることで停止した。反応停止溶液を遠心分離(15000 rpm, 2分,4℃)することによって得られた上清100μlをHPLC分析に供し、各糖供与体における生成物量を比較した(図8)。その結果、UDP-グルコース及びUDP-ガラクトースを糖供与体にした場合にのみ生成物が得られた。このことからVvGT6は少なくともUDP-グルクロン酸を糖供与体としないことが示された。
次に、本酵素の糖受容体特異性について検討した。ゲニステイン及びダイゼインはフジッコ株式会社から、ナリンゲニンはナカライテスク株式会社から、カプサイシンはSIGMAから購入し、これら以外についてはフナコシ株式会社から購入した。図9に示す各糖受容体100μM、糖供与体として1mM UDP-グルコース、50mM Tricine-NaOH(pH8.0)バッファー、1mM DTT及び上記精製VvGT6酵素 100ngを、30℃で15分間反応させた。糖受容体を加えることで反応を開始し、等量の0.1%TFAを含む40%アセトニトリル溶液を加えることで反応を停止した。反応停止溶液を遠心分離(15000 rpm, 2分, 4℃)することによって得られた上清100μlをHPLC分析に供し、各糖受容体における生成物量を比較した。活性が検出された糖受容体に対しては、UDP-ガラクトースに対する特異性を評価した。その結果、VvGT6はフラボノールに特異的であることが示された(図9)。各種フラボノールに対する速度論パラメーターを図10に示す。
【0054】
VvGT6のバイファンクショナルな糖供与体選択性を確認するため、UDP-ガラクトース及びUDP-グルコースを同時に用いて反応させた。各糖受容体として100μMケルセチン、1mM各糖供与体(UDP-グルコース及びUDP-ガラクトース)、50mM Tricine-NaOH(pH8.0)バッファー、1mM DTT及び上記精製VvGT6酵素 1000ngを30℃で10分間反応させた。糖受容体を加えることで反応を開始し、等量の0.1%TFAを含む40%アセトニトリル溶液を加えることで停止した。反応停止溶液を遠心分離(15000 rpm, 2分,4℃)することによって得られた上清100μlをHPLC分析に供し、各糖供与体における生成物量を比較した(図10)。HPLC分析条件は下記のとおりである。
カラムはJ'sphere ODS-M80(4.6×150 mm、株式会社ワイエムシィ製)を室温で用い、移動相A(0.2% ギ酸/10% CH3CN)と移動相B(0.2% ギ酸/90% CH3CN)を用いた。溶離条件はB10%で3分間の平衡化し、12分間の直線濃度勾配(B10%→B20%)、さらに8分間の直線濃度勾配(B20%→B90%)の後、1分間B90%で保持した。その後、再びB10%に戻し、10分間平衡化した。流速は0.7 ml/分で行った。検出はSPD-M20A DIODE ARRAY DETECTOR(株式会社 島津製作所製)を用いて360 nmで行った。本条件で標準品のケルセチン、ケルセチン3-グルコシド及びケルセチン3-ガラクトシドは、それぞれ順に、保持時間約23.3分、12.5分及び12.1分に溶出される。分析の結果、同時反応液中には同程度のケルセチン3-ガラクトシドとケルセチン3-グルコシドとが検出された(図10)。
【0055】
以上のようにVvGT6はUDP-グルコースとUDP-ガラクトースの2種類のUDP糖供与体に特異性を示すバイファンクショナルな新規フラボノイド3位糖転移酵素(F3Gal/GlcT)であることが示された。
【実施例3】
【0056】
遺伝子発現解析
VvGT6の機能領域を同定するために、“Noguchi, A. et al., Plant J., vol. 54, p. 415-427, 2008”に記載の方法と同様の方法で、VvGT6遺伝子のブドウ器官別の遺伝子発現パターンを7500 Real Time PCR System(Applied Biosystems)を用いたSYBR-Green定量RT-PCRによって解析した。
ブドウは、ピノノアール品種及びカベルネソーヴィニョン品種の各器官(葉、葉柄、種子、果実、果皮)から、実施例1と同様の方法でトータルRNAを抽出し、そのうち0.5μgを、Random Hexamerプライマーで逆転写(RT)反応することによって各器官のcDNAを得、これをPCRの鋳型とした。
定量PCRに用いる遺伝子特異的プライマーは、Primer Express 3.0プログラム(Applied Biosystems)を用いて以下の8種をデザインした。VvGT6遺伝子特異的プライマーとして配列番号5及び6に示されるものを用いた。比較対照としての、アントシアニン3位グルコース転移酵素であるVvGT1、及びVvGT6ホモログであるVvGT5についても、それぞれ遺伝子特異的プライマーを設計し解析に供した(VvGT1遺伝子特異的プライマー:配列番号7及び8、VvGT5遺伝子特異的プライマー:配列番号9及び10)。内部標準遺伝子として、ブドウのユビキチン伸長酵素(GenBankアクセッション番号:CAO48597)を採用し、下記の遺伝子特異的プライマー(配列番号11及び12)を用いて増幅した。各VvGT遺伝子の発現量を内部標準遺伝子の発現量で標準化し、ΔΔCt法(Applied Biosystems)によって相対発現量を得た。
【0057】
VvGT6-Fw:
5'-GGT TCC CTG GTT GGC AAT TT -3'(配列番号5)
VvGT6-Rv:
5'- GCA CCC GCC CCA CAA CCT T -3'(配列番号6)
VvGT1-Fw:
5'- CCC ACC GCC GGT TAT ACC -3'(配列番号7)
VvGT1-Rv:
5'- CGA CCG AGG TGG GTT TTC T -3'(配列番号8)
【0058】
qVvGT5-Fw1:
5'- GCT CCA TCT CCT CTG CTC AAA -3'(配列番号9)
qVvGT5-Rv2:
5'- GAA AGC ACA AGG TCC TCT -3'(配列番号10)
VvUBQ2-Fw:
5'- TCC AGG ACA AGG AAG GGA TTC -3'(配列番号11)
VvUBQ2-Rv:
5'- GCC ATC CTC AAG CTG CTT TC -3'(配列番号12)
【0059】
その結果、VvGT6遺伝子は、その生成物が蓄積する葉において顕著に発現していることが確認された(図11)。一方、VvGT1遺伝子については、果皮において特異的に発現しており、公知文献(Ford, C. M., et al., J. Biol. Chem., vol. 273, p. 9224-9233, 1998)に記載の結果と一致した。また、VvGT6遺伝子は果皮においても強い発現が認められたため、果皮及びワインにおいて存在しているフラボノール3位ガラクトース配糖体及びグルコース配糖体は、VvGT6によって生成していることが強く示された。VvGT5遺伝子とVvGT6遺伝子とは、類似した遺伝子発現パターンを示し、これらの遺伝子がゲノム上で近い位置に座位することが両遺伝子の協調的な遺伝子発現パターンに影響を与えていると推測された(図2)。
【実施例4】
【0060】
糖供与体選択性に関与するアミノ酸残基の同定
VvGT6(ブドウ由来フラボノイド3位ガラクトース・グルコース転移酵素)の特徴的な2種の糖供与体選択性を決定しているアミノ酸残基を同定するために、ブドウ由来フラボノイド3位グルコース転移酵素であるVvGT1(“Offen, W. et al. (2006) EMBO J. 25, 1396-1405.”参照)、ブドウ由来フラボノイド3位グルクロン酸転移酵素であるVvGT5、ウド由来フラボノイドガラクトース転移酵素であるACGalT(“Kubo, A. et al. (2004) ABB 429, 198-203.”参照)、及びペチュニア由来フラボノイド3位ガラクトース転移酵素であるPhF3GalT(“Miller, K. D. et al. (1999) J. Biol. Chem. 274, 34011-34019.”参照)について、Clustal-Wによるマルチプルアラメイントを行った。その結果を図12に示した。
図12に示す通り、VvGT6は、活性触媒残基であるVvGT1の20番目のヒスチジン残基(H20)の直前にユニークなプロリン残基(P19)を有していた(“Offen, W. et al. (2006) EMBO J. 25, 1396-1405.”参照)。この位置(P19)は、活性触媒残基のとなりであることから、基質が入り込む活性ポケット近辺に位置すると考えられた。また、VvGT6は、植物のUDP糖依存的配糖体化酵素(UGT)において高く保存されているPSPGボックスにおいて、フラボノイドガラクトース転移酵素において見出されている特徴的なヒスチジン残基を有しておらず、グルコースやグルクロン酸を転位するUGT酵素でみられるグルタミン残基(Q373)が保存されていた。
これら2つのアミノ酸残基(P19及びQ373)の、VvGT6の糖供与体選択性における役割を明らかにするために、VvGT6-P19T変異体及びVvGT6-Q373H変異体を作製し、その糖供与体選択性を検討した。VvGT6-P19T変異体は、野生型VvGT6のアミノ酸配列中の第19番目のプロリン残基(P)をスレオニン残基(T)に置換した変異体タンパク質であり、VvGT6-Q373H変異体は、野生型VvGT6のアミノ酸配列中のVvGT6の第373番目のグルタミン残基(Q)をヒスチジン残基(H)に置換した変異体タンパク質である。
各アミノ酸置換変異は下記プライマー(配列番号13〜18)を用い、“Noguchi, A. et al. (2009) Plant Cell. 21, 1556-1572”に記載の方法に従ってPCRにより導入した。PCR条件は、野生型VvGT6遺伝子のプラスミドを鋳型にし、KOD plus DNAポリメラーゼ(TOYOBO)を用いて96℃で30秒の熱変性後、95℃,30秒→58℃,1分→68℃,3分を1サイクルとする反応を、計25サイクル行った。
具体的には、VvGT6-P19T変異については、まず、VvGT6遺伝子のプラスミドを鋳型にし、配列番号13及び16のプライマーを用いたPCRと、配列番号14及び15のプライマーを用いたPCRとを行い、得られた2種のPCR断片を混合した。次いで、この混合物を希釈したものを鋳型にし、配列番号13及び14のプライマーを用いたPCRを行うことで当該変異(VvGT6-P19T変異)を導入した。
同様に、VvGT6-Q373H変異については、まず、VvGT6遺伝子のプラスミドを鋳型にし、配列番号13及び18のプライマーを用いたPCRと、配列番号14及び17のプライマーを用いたPCRとを行い、得られた2種のPCR断片を混合した。次いで、この混合物を希釈したものを鋳型にし、配列番号13及び14のプライマーを用いたPCRを行うことで、当該変異(VvGT6-Q373H変異)を導入した。
このように変異導入して得られたPCR産物(2種)は、それぞれ、製造業者が推奨する方法により、pENTR-Directional-TOPOベクター(Invitrogen)にサブクローニングし、目的の変異が導入されていることをシークエンシングにより確認した。
CACC-NdeI-VvGT6-Fw:
5'- CACCCATATGACTGCCACCGCGAGCTC -3'(配列番号13)
BglII-VvGT6-Rv:
5'- AGATCTCTACTTATTGGTATCCAA -3'(配列番号14)
VvGT6-P19T-Fw:
5'-TTCCCCACCCATGCAGCTA -3'(配列番号15)
VvGT6-P19T-Rv:
5'-TAGCTGCATGGGTGGGGAA -3'(配列番号16)
VvGT6-Q373H-Fw:
5'- TTCTTTGGAGATCATTGTATCGACA -3'(配列番号17)
VvGT6-Q373H-Rv:
5'-TGTCGATACAATGATCTCCAAAGAA -3'(配列番号18)
プライマー配列内に付加したNdeI及びBglIIの制限酵素部位(上記配列番号13及び14で示される塩基配列中の下線部を付した配列)を利用して、約1.4 kbのVvGT6断片をpENT-Directional-TOPOベクターから切り出し、大腸菌発現ベクターであるpET15b(Novagen)のNdeI及びBamHIサイト間へ連結し、各VvGT6の大腸菌発現ベクターを得た。なお、大腸菌ベクターの構築の際には、当該ベクターのNdeIサイト上流にあるHisタグとVvGT6のオープンリーディングフレームをあわせるようにし、Hisタグと融合したキメラVvGT6タンパク質が発現するよう設計した。
作製されたVvGT6-P19T及びVvGT6-Q373H変異体は、実施例2と同様の方法で大腸菌BL21株に形質転換し、IPTG 1 mM 添加後、18℃で20時間培養し、Hisタグ融合タンパク質として調製した。実施例2と同様の方法により、当該タンパク質の糖供与体選択性について検討した。
その結果、VvGT6-P19T変異体は、糖供与体選択性がUDP-ガラクトースからUDP-グルコースへとややシフトしていたため、P19残基はUDP-ガラクトースの認識に関与する残基であることが示された(下記表1)。また、VvGT6-Q373H変異体は、UDP-グルコースをほとんど糖供与体とせず、UDP-ガラクトースを主たる糖供与体としたことから、Q373残基はVvGT6のUDP-グルコースの認識に必須のアミノ酸残基であることが示された(下記表1)。
【表1】
以上の結果から、VvGT6の特徴的な2種類の糖供与体に対する選択性に関与するアミノ酸残基(P19及びQ373)が明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上のように、ブドウからフラボノイドの3位にグルコース及びガラクトースを転移する新規な活性を有するUGT酵素(F3Gal/GlcT)が単離できた。本発明を利用することによって人為的にフラボノイドの3位をグルコース及びガラクトースで配糖体化することが可能となるため、新しい機能性食品素材の開発や有用化合物を生産しうる植物の開発に貢献できる。
従って、本発明は、農業、食品産業、医薬品産業及びこれらの関連産業にわたる広範な利用が可能である点で、極めて有用なものである。
【配列表フリーテキスト】
【0062】
配列番号1:合成DNA
配列番号2:合成DNA
配列番号5:合成DNA
配列番号6:合成DNA
配列番号7:合成DNA
配列番号8:合成DNA
配列番号9:合成DNA
配列番号10:合成DNA
配列番号11:合成DNA
配列番号12:合成DNA
配列番号13:合成DNA
配列番号14:合成DNA
配列番号15:合成DNA
配列番号16:合成DNA
配列番号17:合成DNA
配列番号18:合成DNA
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブドウ由来のフラボノイド3位ガラクトース・グルコース転移酵素、当該酵素をコードするポリヌクレオチド、当該ポリヌクレオチドを含有するベクター、及び当該ベクターを用いて得られる形質転換体等に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイン原料であるブドウ科ブドウ(Vitis vinifera)は世界的に主要な農作物であり、赤ワインは心臓病リスクの軽減や抗肥満効果などの有用な機能性が知られているが、近年、抗肥満効果や延命効果の主要な機能性分としてスチルベンの一種であるレスベラトロールや、フレンチパラドクスの要因となる主要な成分としてプロシアニジンが同定されたことから機能性食品として注目されている(非特許文献1〜7参照)。
ブドウ葉、果実及びワインには、フラボノイドの一種であるフラボノール配糖体として、3位グルコース配糖体、3位ラムノース配糖体及び3位グルクロン酸配糖体に加え、3位ガラクトース配糖体が蓄積していることが報告されている(非特許文献8、9参照)。ケルセチン配糖体は抗酸化性やNO産生能を有しており、動脈硬化抑制効果が期待されている(非特許文献10、11参照)。
特にケルセチンの3位ガラクトース配糖体(Q3Gal)はヒペロシドと呼ばれ、抗鬱剤として用いられているセントジョーンズワートの主成分であるヒペリシンの溶解性を高めることで、その生理活性を高めるとされている(非特許文献12、13参照)。また、Q3Galやケルセチン3位グルクロン酸配糖体(Q3GA:ミケリアニン)は、それ自身で抗鬱効果を目的とした強制水泳テストでの有効性が確認されている(非特許文献14参照)。さらに、Q3Galが持つ抗酸化性によって過酸化水素による細胞障害を保護することが示されている(非特許文献15参照)。また近年、Q3Galの抗高血圧効果についても報告されている(非特許文献16参照)。このように、フラボノイドの各種配糖体には有用な活性が認められていることから、フラボノイド、特にフラボノールの3位にガラクトースを転移する酵素は、機能性フラボノイドの作出に有用と考えられている。
【0003】
一般に、フラボノイドに糖を転移する酵素はUDP糖依存的な糖転移酵素(UGT)によって触媒され、UGTの糖供与体に対する選択性は非常に高く、これまで知られている殆どの糖転移酵素は、一種のUDP糖のみを基質とすることができるものである。すなわち、UDPグルコースを転移する酵素は基本的にはその他のUDP糖供与体を使った糖転移反応をうまく触媒できない。これまでフラボノイドの3位の配糖体化酵素としては、グルコース、ガラクトース、アラビノース及びラムノースを糖供与体として転移するものが知られている(非特許文献17〜20参照)。フラボノイドの3位ガラクトースを転移する酵素は、ペチュニア及びウドから、それぞれ順に、PetFGalT及びACGaTが同定されている(非特許文献18参照)。これらのガラクトース転移酵素(Flavonoid 3-O-galactosyltransferase; F3GalT)は、同じくフラボノイドの3位にラムノースやグルコースやアラビノースを転移する酵素と構造が類似しており、酵素遺伝子の配列情報からその糖供与体選択性を類推することは極めて困難である。
【0004】
ところで、近年、イタリア及びフランスの合同コンソーシアムによって、ブドウ(ピノノワール(Pinot Noir)品種)のゲノム配列が解読され、240個もの配糖体化酵素(UGT)遺伝子が同定された(非特許文献21、22参照)。
しかしながら、遺伝子配列情報から糖転移酵素遺伝子であることが推定されても、そこから基質である糖の種類や受容体となる物質を類推することは容易ではなく、しかも、上述したように候補遺伝子の数も240個と非常に多いため、これらUGT遺伝子の中からUDP-ガラクトースを糖供与体とする(F3GalT)を同定することは極めて困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Renaud, S. and De Lorgeril, M., Lancet, vol. 339, p. 1523-1526, 1992
【非特許文献2】Gehm, B. D. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 94, p. 14138-14143, 1997
【非特許文献3】Corder, R. et al., Nature, vol. 414, p. 863-864, 2001
【非特許文献4】Lamming, D. W. et al. Mol. Microbiol., vol. 53, p. 1003-1009, 2004
【非特許文献5】Corder, R. et al., Nature, vol. 444, p. 566, 2006
【非特許文献6】Baur, J. A. and Sinclair, D. A., Nature Rev. Drug Discovery, vol. 5, p. 493-506, 2006
【非特許文献7】Baur, J. A. et al., Nature, vol. 444, p. 337-342, 2006
【非特許文献8】Hmamouchi, M. et al., Am. J. Enol. Vitic., vol. 47, p. 186-192, 1996
【非特許文献9】Castillo-Munoz, N. et al., J. Agric. Food. Chem., vol. 55, p. 992-1002, 2007
【非特許文献10】Murota, K. and Terao, J., Arch. Biochem. Biophys., vol. 417, p. 12-17, 2003
【0006】
【非特許文献11】Steffen, Y. et al., Arch. Biochem. Biophys., vol. 469, p. 209-219, 2008
【非特許文献12】Tatsis, E. C. et al., Phytochemistry, vol. 68, p. 383-393, 2007
【非特許文献13】Butterweck, V. et al., Planta Med., vol. 69, p. 189-192, 2003
【非特許文献14】Butterweck, V. et al., Planta Med., vol. 66, p. 3-6, 2000
【非特許文献15】Piao, M. J. et al., Biochimica et Biophysica Acta, vol. 1780, p. 1448-1457, 2008
【非特許文献16】Kagawa, T. et al., 3rd International Conference on Polyphenols and Health, Supplement P089, 2007
【非特許文献17】Ford, C. M. et al., J. Biol. Chem., vol. 273, p. 9224-9233, 1998
【非特許文献18】Miller, K. D. et al., J. Biol. Chem., vol. 274, p. 34011-34019, 1999
【非特許文献19】Yonekura-Sakakibara, K. et al., J. Biol. Chem., vol. 282, p. 14932-14941, 2007
【非特許文献20】Yonekura-Sakakibara, K. et al., Plant Cell, vol. 20, p. 2160-2176, 2008
【非特許文献21】The French-Italian Public Consortium for Grapevine Genome Characterization, Nature, vol. 449, p. 463-468, 2007
【非特許文献22】Velasco, T. et al., PLoS ONE, vol. 12, e1326, p. 1-18, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、フラボノイドの3位にガラクトースを転移し得る酵素、当該酵素をコードするポリヌクレオチド、当該ポリヌクレオチドを含有するベクター、及び当該ベクターを用いて得られる形質転換体等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、本発明者は、フラボノイドUGTの遺伝子配列構造と糖受容体である基質に対する位置特異性との間に相関があることに着目し、フラボノイド3位に糖を転移する酵素遺伝子と相同性の高いブドウ由来UGT遺伝子をゲノム配列情報から抽出することにより、6種の候補ブドウ由来UGT遺伝子(Vitis vinifera UDP-sugar:glycosyltransferase; VvGT)を得た。その6種のVvGTのうちの1種(VvGT6)が、フラボノイドの3位にUDP-ガラクトース依存的にガラクトースを転移する活性を有する酵素、すなわちフラボノイド3位ガラクトース転移酵素(Flavonoid 3-O-galactosyltransferase; F3GalT)をコードする遺伝子であることを見出した。しかも本発明者は、このVvGT6が、UDP-ガラクトースと同程度にUDP-グルコースを糖供与体としてフラボノイドの3位にグルコースを転移する活性をも有する酵素、すなわちフラボノイド3位グルコース転移酵素(Flavonoid 3-O-glucosyltransferase; F3GlcT)活性も有する糖転移酵素をコードする遺伝子であることを見出した。すなわち、本酵素は、これまで報告されている糖転移酵素と異なり、2種類のUDP糖を基質とする新規なフラボノイド3位ガラクトース・グルコース転移酵素(Flavonoid 3-O-galactosyl/glucosyltransferase; F3Gal/GlcT)であることを明らかにした。本発明はこのようにして完成した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1) 以下の(a)〜(f)のいずれかに記載のポリヌクレオチド:
(a)配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(c)配列番号4で表わされるアミノ酸配列において1〜15個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(d)配列番号4で表わされるアミノ酸配列に対して、80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(e)配列番号3で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;又は
(f)配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【0010】
上記(1)のポリヌクレオチドは、例えば、以下の(g)〜(j)のいずれかのポリヌクレオチドが挙げられる。
(g)配列番号4で表わされるアミノ酸配列において10個以下のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(h)配列番号4で表わされるアミノ酸配列に対して、90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(i)配列番号3で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;又は
(j)配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【0011】
また、上記(1)のポリヌクレオチドは、例えば、前記(c)〜(j)に記載のポリヌクレオチドが、それぞれ、以下の(c')〜(j')に記載のポリヌクレオチドであるものが挙げられる。
(c')配列番号4で表わされるアミノ酸配列において第19番目及び/若しくは第373番目のアミノ酸を除く1〜15個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(d')配列番号4で表わされるアミノ酸配列に対して、80%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって当該配列番号4で表わされるアミノ酸配列中の第19番目のアミノ酸に対応するアミノ酸がプロリンであるか及び/若しくは第373番目のアミノ酸に対応するアミノ酸がグルタミンであるアミノ酸配列を有し、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(e')配列番号3で表わされる塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドあって当該配列番号3で表わされる塩基配列中の第55〜57番目の塩基に対応する塩基がプロリンをコードする塩基であるか及び/若しくは第1117〜1119番目の塩基に対応する塩基がグルタミンをコードする塩基であるポリヌクレオチドであり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(f')配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドあって当該配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列中の第55〜57番目の塩基に対応する塩基がプロリンをコードする塩基であるか及び/若しくは第1117〜1119番目の塩基に対応する塩基がグルタミンをコードする塩基であるポリヌクレオチドであり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(g')配列番号4で表わされるアミノ酸配列において第19番目及び/若しくは第373番目のアミノ酸を除く10個以下のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(h')配列番号4で表わされるアミノ酸配列に対して、90%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって当該配列番号4で表わされるアミノ酸配列中の第19番目のアミノ酸に対応するアミノ酸がプロリンであるか及び/若しくは第373番目のアミノ酸に対応するアミノ酸がグルタミンであるアミノ酸配列を有し、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(i')配列番号3で表わされる塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドあって当該配列番号3で表わされる塩基配列中の第55〜57番目の塩基に対応する塩基がプロリンをコードする塩基であるか及び/若しくは第1117〜1119番目の塩基に対応する塩基がグルタミンをコードする塩基であるポリヌクレオチドであり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;又は
(j')配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドあって当該配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列中の第55〜57番目の塩基に対応する塩基がプロリンをコードする塩基であるか及び/若しくは第1117〜1119番目の塩基に対応する塩基がグルタミンをコードする塩基であるポリヌクレオチドであり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【0012】
上記(1)のポリヌクレオチドは、例えば、上記UDP-ガラクトース転移酵素活性が、フラボノイド3位ガラクトース転移酵素活性であり、UDP-グルコース転移酵素活性が、フラボノイド3位グルコース転移酵素活性であるものが挙げられる。
上記(1)のポリヌクレオチドは、例えば、配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は、配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するものが挙げられる。
上記(1)のポリヌクレオチドは、例えば、DNAであるものが挙げられる。
【0013】
(2) 上記(1)のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質。
(3) 上記(1)のポリヌクレオチドを含有するベクター。
(4) 上記(1)のポリヌクレオチドが導入された形質転換体。
(5) 上記(3)のベクターが導入された形質転換体。
(6) 上記(4)又は(5)の形質転換体を用いる上記(2)のタンパク質の製造方法。
(7) 上記(2)のタンパク質を触媒として、UDP-ガラクトース及び/又はUDP-グルコースと糖受容体基質とからガラクトース配糖体及び/又はグルコース配糖体を生成する、ガラクトース配糖体及び/又はグルコース配糖体の製造方法。
上記(7)の方法は、例えば、糖受容体基質がフラボノイドである方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、フラボノイドの3位にガラクトース及びグルコースのいずれをも転移し得る糖転移酵素(配糖体化酵素)を提供することができる。また、本発明によれば、当該酵素をコードするポリヌクレオチド、当該ポリヌクレオチドを含有するベクター、及び当該ベクターを用いて得られる形質転換体、並びに当該酵素を用いたガラクトース配糖体及び/又はグルコース配糖体の製造方法等を提供することもできる。
従来は、in vitroで酵素反応によりフラボノイド配糖体を生成する場合、1種類の酵素と1種類の糖供与体とを使って1種類の生成物を得られていたが、本発明の酵素を用いれば、in vitroで2種類の糖供与体を加えることでフラボノイドの3位にグルコース及びガラクトースのいずれの転移も同時に可能となり、ヒペロシドをはじめとする有用フラボノイド配糖体をより簡便に生産することができる点で、本発明は極めて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ブドウ由来フラボノイド配糖体化酵素ホモログ遺伝子の系統解析の結果を示す図である。NJ法による8種のブドウUGT (VvGT)を含むフラボノイドUGT遺伝子のクラスターIの分子系統樹である。アウトグループ(Out group)は、アメリカブドウ(コンコード種)のレスベラトロールのグルコース転移酵素遺伝子(VlRSgt)である。
【図2】ブドウ由来配糖体化酵素ホモログ遺伝子の染色体マッピングの結果を示す図である。VvGT1ホモログ遺伝子は、LG11染色体とLG6染色体上にタンデム状に座位している。
【図3】大腸菌発現VvGT6タンパク質の精製(SDS-PAGE)の結果を示す図である。500mMイミダゾールによる溶出画分に認められるバンド(図中の矢印)は、Hisタグ融合VvGT6タンパク質(His-VvGT6)である。なお、「M」は分子サイズマーカー、「粗」は粗酵素液、「素」は素通りの液、「洗」は洗浄後の液を示す。
【図4】VvGT6の酵素活性測定の結果を示す図である。具体的には、360nmでモニターしたHPLCチャート(クロマトグラム)である。最上段のチャートは、標品のケルセチンについてのもの、上から2段目のチャートは、ケルセチンとVvGT6との反応液(UDP糖供与体:UDP-ガラクトース)についてのもの、上から3段目のチャートは、標品のケルセチン3-O-ガラクトシドについてのもの、上から4段目のチャートは、ケルセチンとVvGT6との反応液(UDP糖供与体:UDP-グルコース)についてのもの、最下段のチャートは、標品のケルセチン3-O-グルコシドについてのものである。「Q」は基質であるケルセチンのピークを示し、「A」及び「B」は反応生成物のピークを示す。
【図5】VvGT6の至適pHアッセイに用いたバッファー系を示す図表である。
【図6】VvGT6の反応pH依存性解析(最適pH解析)の結果を示す図である。縦軸は、最も活性が高いものを100%としたときの相対活性(%)を示す。
【0016】
【図7】VvGT6の反応温度依存性解析(最適反応温度解析)の結果を示す図である。縦軸は、最も活性が高いものを100%としたときの相対活性(%)を示す。
【図8】VvGT6の糖供与体選択性解析の結果を示す図表である。UDP-グルコースに対する選択性を100%としたときの相対活性(%)で示す。「n. d.」は、検出限界以下を示す。
【図9】VvGT6の糖受容体選択性解析の結果を示す図表である。ケルセチンに対する選択性を100%としたときの相対活性(%)で示す。「n. d.」は、検出限界以下を示す。
【図10】VvGT6の速度論解析の結果を示す図表である。上の2つの表は、それぞれ、フラボノイド3位ガラクトース転移酵素活性(F3GalT activity)及びフラボノイド3位グルコース転移酵素活性(F3GlcT activity)に関する結果である。下のHPLCチャート(クロマトグラム;360nmでモニター)は、ケルセチンを糖受容体として、VvGT6を、2種類の糖供与体(UDP-ガラクトース及びUDP-グルコース)と同時に反応させたときの反応液についてのものである。「Q」は基質であるケルセチンのピークを示し、「Q3Gal」はUDP-ガラクトースが糖供与体である場合の反応生成物のピークを示し、「Q3Glc」はUDP-グルコースが糖供与体である場合の反応生成物のピークを示す。
【図11】定量RT-PCRによる器官別VvGT遺伝子発現解析の結果を示す図である。具体的には、ピノノアール品種(左)とカベルネソーヴィニョン品種(右)におけるVvGTの遺伝子発現解析を行った結果である。両品種とも、上段のグラフはVvGT1遺伝子について、中段のグラフはVvGT5遺伝子について、下段のグラフはVvGT6についての解析結果である。いずれのグラフも、内部標準遺伝子(VvUBQ)で標準化した相対発現量を示している。
【図12】VvGT1(ブドウ由来フラボノイド3位グルコース転移酵素である)、VvGT5(ブドウ由来フラボノイド3位グルクロン酸転移酵素)、VvGT6(ブドウ由来フラボノイド3位ガラクトース・グルコース転移酵素)、ACGalT(ウド由来フラボノイドガラクトース転移酵素)、及びPhF3GalT(ペチュニア由来フラボノイド3位ガラクトース転移酵素)についてのClustal-Wによるマルチプルアラメイントの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる特願2009-020105号明細書(2009年1月30日出願)の全体を包含する。また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0018】
1.本発明のポリヌクレオチド
まず、本発明は、(a)配列番号3の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド(具体的には、DNA、以下、これらを単に「DNA」とも称する);及び(b)配列番号4で表わされるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドを提供する。本発明で対象とするDNAは、上記のガラクトース・グルコース酸転移酵素(F3Gal/GlcT)をコードするDNAに限定されるものではなく、このタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードする他のDNAを含む。
機能的に同等なタンパク質としては、例えば、(c)配列番号4で表わされるアミノ酸配列において1〜15個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質が挙げられる。このようなタンパク質としては、配列番号4で表わされるアミノ酸配列において、例えば、1〜15個、1〜14個、1〜13個、1〜12個、1〜11個、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個(1〜数個)、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、1個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質が挙げられる。上記アミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び/又は付加の数は、一般的には小さい程好ましい。なお、本発明においては、上記(c)の機能的に同等なタンパク質は、(i) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列中の第19番目のアミノ酸残基(プロリン)に対応するアミノ酸残基が同様にプロリンであるアミノ酸配列からなるもの、及び、(ii) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列中の第373番目のアミノ酸残基(グルタミン)に対応するアミノ酸残基が同様にグルタミンであるアミノ酸配列からなるものが好ましく、特に好ましくは、当該(i)及び(ii)の特徴をいずれも満たすアミノ酸配列からなるものである。すなわち、上記アミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び/又は付加は、配列番号4で表わされるアミノ酸配列中の第19番目のアミノ酸及び/又は第373番目のアミノ酸以外のアミノ酸についてなされたものであることが好ましい。この好ましい態様は、前記(g)のポリヌクレオチドにおいても同様である。
【0019】
また、機能的に同等なタンパク質としては、例えば、(d)配列番号4で表わされるアミノ酸配列に対して、80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質も挙げられる。このようなタンパク質としては、配列番号4で表わされるアミノ酸配列に対して、約80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質が挙げられる。上記相同性の数値は一般的に大きい程好ましい。なお、本発明においては、上記(d)の機能的に同等なタンパク質は、(i) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列中の第19番目のアミノ酸残基(プロリン)に対応するアミノ酸残基が同様にプロリンであるアミノ酸配列からなるもの、及び、(ii) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列中の第373番目のアミノ酸残基(グルタミン)に対応するアミノ酸残基が同様にグルタミンであるアミノ酸配列からなるものが好ましく、特に好ましくは、当該(i)及び(ii)の特徴をいずれも満たすアミノ酸配列からなるものである。この好ましい態様は、前記(h)のポリヌクレオチドにおいても同様である。
【0020】
ここで、本発明で言う「UDP-ガラクトース転移酵素活性」とは、糖受容体基質となるフラボノイドの3位の水酸基に、糖供与体のUDP-ガラクトース依存的にガラクトースを転移し、ガラクトース配糖体を生じる反応を触媒する活性を有する酵素、すなわちフラボノイド3位ガラクトース転移酵素(Flavonoid 3-O-galactosyltransferase; F3GalT)活性を意味する。
UDP-ガラクトース転移酵素活性は、例えば、UDP-ガラクトースと糖受容体基質であるフラボノイド(例えば、フラボノール等)とを評価対象となる酵素の存在下で反応させ、得られる反応物をHPLC等で分析することによって測定することができる(より具体的には、後述の実施例の記載を参照。)。
【0021】
また、本発明で言う「UDP-グルコース転移酵素活性」とは、糖受容体基質となるフラボノイドの3位の水酸基に、糖供与体のUDP-グルコース依存的にグルコースを転移し、グルコース配糖体を生じる反応を触媒する活性を有する酵素、すなわちフラボノイド3位グルコース転移酵素(Flavonoid 3-O-glucosyltransferase; F3GlcT)活性を意味する。
UDP-グルコース転移酵素活性は、例えば、UDP-グルコースと糖受容体基質であるフラボノイド(例えば、フラボノール等)とを評価対象となる酵素の存在下で反応させ、得られる反応物をHPLC等で分析することによって測定することができる(より具体的には、後述の実施例の記載を参照。)。
なお、上記のUDP-ガラクトース転移酵素活性とUDP-グルコース転移酵素活性とは、2種類の糖供与体(UDP-ガラクトース及びUDP-グルコース)を併用して、同時に測定することもできる。
【0022】
また、本発明は、(e)配列番号3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドも包含する。なお、本発明においては、上記(e)のポリヌクレオチドは、(i) 配列番号3で表わされる塩基配列中の第55〜57番目の塩基(CCC)に対応する塩基が同一の「CCC」であるか又は同一の塩基でなくとも「CCU(CCT)」、「CCA」及び「CCG」のいずれかであるポリヌクレオチドを含有するものであること、及び、(ii) 配列番号3で表わされる塩基配列中の第1117〜1119番目の塩基(CAA)に対応する塩基が同一の「CAA」であるか又は同一の塩基でなくとも「CAG」であるポリヌクレオチドを含有するものであることが好ましく、特に好ましくは、当該(i)及び(ii)の特徴をいずれも満たすポリヌクレオチドを含有するものである。ここで、上記第55〜57番目の塩基(CCC)とは、配列番号4で表されるアミノ酸配列中の第19番目のアミノ酸残基(プロリン)をコードする塩基(コドン)であり、上記「CCU(CCT)」、「CCA」及び「CCG」も同様にプロリンをコードする塩基(コドン)である。また、上記第1117〜1119番目の塩基(CAA)とは、配列番号4で表されるアミノ酸配列中の第373番目のアミノ酸残基(グルタミン)をコードする塩基(コドン)であり、上記「CAG」も同様にグルタミンをコードする塩基(コドン)である。この好ましい態様は、前記(i)のポリヌクレオチドにおいても同様である。
さらに、本発明は、(f)配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドも包含する。なお、本発明においては、上記(f)のポリヌクレオチドは、(i) 配列番号3で表わされる塩基配列中の第55〜57番目の塩基(CCC)に対応する塩基が同一の「CCC」であるか又は同一の塩基でなくとも「CCU(CCT)」、「CCA」及び「CCG」のいずれかであるポリヌクレオチドを含有するものであること、及び、(ii) 配列番号3で表わされる塩基配列中の第1117〜1119番目の塩基(CAA)に対応する塩基が同一の「CAA」であるか又は同一の塩基でなくとも「CAG」であるポリヌクレオチドを含有するものであることが好ましく、特に好ましくは、当該(i)及び(ii)の特徴をいずれも満たすポリヌクレオチドを含有するものである。ここで、上記第55〜57番目の塩基(CCC)とは、配列番号4で表されるアミノ酸配列中の第19番目のアミノ酸残基(プロリン)をコードする塩基(コドン)であり、上記「CCU(CCT)」、「CCA」及び「CCG」も同様にプロリンをコードする塩基(コドン)である。また、上記第1117〜1119番目の塩基(CAA)とは、配列番号4で表されるアミノ酸配列中の第373番目のアミノ酸残基(グルタミン)をコードする塩基(コドン)であり、上記「CAG」も同様にグルタミンをコードする塩基(コドン)である。この好ましい態様は、前記(j)のポリヌクレオチドにおいても同様である。
本明細書中、「ポリヌクレオチド」とは、DNA又はRNAを意味する。好ましくは、DNAである。
【0023】
本明細書中、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、例えば、配列番号3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号4で表わされるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドの、全部又は一部をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法又はサザンハイブリダイゼーション法などを用いることにより得られるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイゼーションの方法としては、例えば、"Sambrook & Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Vol. 3, Cold Spring Harbor, Laboratory Press 2001"、"Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987-1997"などに記載されている方法を利用することができる。
本明細書中、「ストリンジェントな条件」とは、低ストリンジェントな条件、中ストリンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。「低ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、32℃の条件である。また、「中ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、42℃の条件である。「高ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、50℃の条件である。これらの条件において、温度を上げるほど高い相同性を有するDNAが効率的に得られることが期待できる。ただし、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度、プローブ濃度、プローブの長さ、イオン強度、時間、塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0024】
なお、ハイブリダイゼーションに市販のキットを用いる場合は、例えばAlkphos Direct Labelling Reagents(アマシャムファルマシア社製)を用いることができる。この場合は、キットに添付のプロトコルにしたがい、標識したプローブとのインキュベーションを一晩行った後、メンブレンを55℃の条件下で0.1% (w/v) SDSを含む1次洗浄バッファーで洗浄後、ハイブリダイズしたDNAを検出することができる。
上記以外にハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとしては、FASTA、BLASTなどの相同性検索ソフトウェアにより、デフォルトのパラメーターを用いて計算したときに、配列番号3の塩基配列のDNA又は配列番号4で表わされるアミノ酸配列をコードするDNAと、約60%以上、約70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上又は99.9%以上の相同性を有するDNAを挙げることができる。
【0025】
なお、アミノ酸配列や塩基配列の相同性は、カーリン及びアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 87, p. 2264-2268, 1990; Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 90, p. 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al., J. Mol. Biol., vol. 215, p. 403, 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、word length =12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、word length =3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。
上記した本発明のポリヌクレオチドは、公知の遺伝子工学的手法又は公知の合成手法によって取得することが可能である。
【0026】
2.本発明のタンパク質
本発明は、さらに別の実施形態において、上記本発明のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質も提供する。本発明のある態様のタンパク質は、配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質である。本発明の別の態様のタンパク質は、配列番号4で表わされるアミノ酸配列を有するタンパク質である。
本発明のさらに別の態様のタンパク質は、配列番号4で表わされるアミノ酸配列において1〜15個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質である。このようなタンパク質としては、配列番号4で表わされるアミノ酸配列と上記したような相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質が挙げられるこのようなタンパク質は、"Sambrook & Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Vol. 3, Cold Spring Harbor, Laboratory Press 2001"、"Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons 1987-1997"、"Nuc. Acids. Res., vol. 10, p. 6487, 1982"、"Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 79, p. 6409, 1982"、"Gene, vol. 34, p. 315, 1985"、"Nuc. Acids. Res., vol. 13, p. 4431, 1985"、"Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 82, p. 488, 1985"等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、取得することができる。なお、上記の、さらに別の態様のタンパク質としては、(i) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列中の第19番目のアミノ酸残基(プロリン)に対応するアミノ酸残基が同様にプロリンであるアミノ酸配列からなるもの、及び、(ii) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列中の第373番目のアミノ酸残基(グルタミン)に対応するアミノ酸残基が同様にグルタミンであるアミノ酸配列からなるものが好ましく、特に好ましくは、当該(i)及び(ii)の特徴をいずれも満たすアミノ酸配列からなるものである。すなわち、上記アミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び/又は付加は、配列番号4で表わされるアミノ酸配列中の第19番目のアミノ酸及び/又は第373番目のアミノ酸以外のアミノ酸についてなされたものであることが好ましい。
【0027】
本発明のタンパク質のアミノ酸配列において1以上(例えば1〜15個、好ましくは10個以下)のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたとは、同一配列中の任意かつ1若しくは複数のアミノ酸配列中の位置において、1又は複数のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び/又は付加があることを意味し、欠失、置換、挿入及び付加のうち2種以上が同時に生じてもよい。
以下に、相互に置換可能なアミノ酸残基の例を示す。同一群に含まれるアミノ酸残基は相互に置換可能である。A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2-アミノブタン酸、メチオニン、o-メチルセリン、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン;B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2-アミノアジピン酸、2-アミノスベリン酸;C群:アスパラギン、グルタミン;D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4-ジアミノブタン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸;E群:プロリン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン;F群:セリン、スレオニン、ホモセリン;G群:フェニルアラニン、チロシン。
【0028】
また、本発明のタンパク質は、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t-ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によっても製造することができる。また、アドバンスドケムテック社製、パーキンエルマー社製、ファルマシア社製、プロテインテクノロジーインストゥルメント社製、シンセセルーベガ社製、パーセプティブ社製、島津製作所等のペプチド合成機を利用して化学合成することもできる。
ここで、本発明のタンパク質は、フラボノイド3位ガラクトース・グルコース転移酵素である。「ガラクトース・グルコース転移酵素」とは、糖供与体から糖受容体基質にガラクトース残基を転移しガラクトース配糖体を生じる反応と、糖供与体から糖受容体基質にグルコース残基を転移しグルコース配糖体を生じる反応とを、いずれも触媒する。本発明において、糖受容体基質はフラボノイドであり、糖供与体は、UDP-ガラクトース及びUDP-グルコースである。本発明のある態様のタンパク質は、UDP-ガラクトースから、糖受容体基質であるフラボノイド(例えば、フラボノール等)の3位の水酸基にガラクトース残基を転移し、ガラクトース配糖体とUDPとを生じる反応を触媒する。また、本発明の別のある態様のタンパク質は、UDP-グルコースから、糖受容体基質であるフラボノイド(例えば、フラボノール等)の3位の水酸基にグルコース残基を転移し、グルコース配糖体とUDPとを生じる反応を触媒する。さらに、本発明の別のある態様のタンパク質は、併用するUDP-ガラクトース及びUDP-グルコースから、糖受容体基質であるフラボノイド(例えば、フラボノール等)の3位の水酸基にガラクトース残基及びグルコース残基を転移し、ガラクトース配糖体とグルコース配糖体とUDPとを生じる反応を触媒する。
【0029】
糖受容体基質のフラボノイドには、フラボノール、フラバノン、イソフラボン、アントシアニジン、フラボンC配糖体、オーロン及びカテキン等が好ましく挙げられる。このうち、フラボノールとしては、例えば、ケルセチン、ミリセチン、ラリシトリン、イソラムネチン、シリンゲチン及びケンフェロール等を挙げることができる。フラバノンとしては、例えば、ナリンゲニン等を挙げることができる。イソフラボンとしては、例えば、ジェニステイン、ダイゼイン及びホルモノネチン等を挙げることができる。アントシアニジンとしては、例えば、シアニジン、デルフィニジン及びペラルゴニジン等を挙げることができる。フラボンC配糖体としては、例えば、ビテキシン、イソビテキシン及びオリエンチン等を挙げることができる。オーロンとしては、例えば、オーレウシジン等を挙げることができる。カテキンとしては、例えば、カテキン及びエピガロカテキンガレート等を挙げることができる。本発明において、糖受容体基質のフラボノイドとしては、上述した中でも、フラボノールがより好ましく、特に好ましくはケルセチン、ケンフェロール及びイソラムネチンである。
【0030】
3.ベクター及びこれを導入した形質転換体
本発明はまた、別の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを提供する。本発明の発現ベクターは、本発明のポリヌクレオチド(例えば、前記(a)〜(j)のいずれかのポリヌクレオチド)を含有する。好ましくは、本発明の発現ベクターは、前記(g)〜(j)のいずれかのポリヌクレオチドを含有する。さらに好ましくは、本発明の発現ベクターは、配列番号3の塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は、配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドを含有する。
本発明のベクターは、通常、(i) 宿主細胞内で転写可能なプロモーター;(ii) 該プロモーターに結合した、本発明のポリヌクレオチド(例えば、前記(a)〜(j)のいずれかのポリヌクレオチド);及び (iii) RNA分子の転写終結及びポリアデニル化に関し、宿主細胞内で機能するシグナルを構成要素として含む発現カセットを含むように構成される。このように構築されるベクターは、宿主細胞に導入される。発現ベクターの作製方法としては、プラスミド、ファージ又はコスミドなどを用いる方法が挙げられるが特に限定されない。
【0031】
ベクターの具体的な種類は特に限定されず、宿主細胞中で発現可能なベクターが適宜選択され得る。すなわち、宿主細胞の種類に応じて、確実に本発明のポリヌクレオチドを発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと本発明のポリヌクレオチドを各種プラスミド等に組み込んだベクターを発現ベクターとして用いればよい。
本発明の発現ベクターは、導入されるべき宿主の種類に依存して、発現制御領域(例えば、プロモーター、ターミネーター及び/又は複製起点等)を含有する。細菌用発現ベクターのプロモーターとしては、慣用的なプロモーター(例えば、trcプロモーター、tacプロモーター、lacプロモーター等)が使用され、酵母用プロモーターとしては、例えば、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター、PH05プロモーター等が挙げられ、糸状菌用プロモーターとしては、例えば、アミラーゼ、trpC等が挙げられる。また動物細胞宿主用プロモーターとしては、ウイルス性プロモーター(例えば、SV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター等)が挙げられる。
発現ベクターは、少なくとも1つの選択マーカーを含むことが好ましい。このようなマーカーとしては、栄養要求性マーカー(ura5、niaD)、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、ジェネチシン耐性遺伝子(G418r)、銅耐性遺伝子(CUP1)(Marin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 81, p. 337, 1984)、セルレニン耐性遺伝子(fas m, PDR4)(それぞれ、猪腰淳嗣ら, 生化学, vol. 64, p. 660, 1992;Hussain et al., Gene, vol. 101, p. 149, 1991)などが利用可能である。
【0032】
また、本発明は、本発明のポリヌクレオチド(例えば、前記(a)〜(j)のいずれかのポリヌクレオチド)が導入された形質転換体を提供する。
形質転換体の作製方法(生産方法)は特に限定されないが、例えば、上述した組換えベクターを宿主に導入して形質転換する方法が挙げられる。ここで用いられる宿主細胞は、特に限定されるものではなく、従来公知の各種細胞を好適に用いることができる。具体的には、例えば、大腸菌(Escherichia coli)等の細菌、酵母(出芽酵母Saccharomyces cerevisiae、分裂酵母Schizosaccharomyces pombe)、線虫(Caenorhabditis elegans)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞等を挙げることができる。上記の宿主細胞のための適切な培養培地及び条件は当分野で周知である。また、形質転換の対象となる生物も特に限定されるものではなく、上記宿主細胞で例示した各種微生物、植物又は動物が挙げられる。
宿主細胞の形質転換方法としては一般に用いられる公知の方法が利用できる。例えば、エレクトロポレーション法(Mackenxie D. A. et al., Appl. Environ. Microbiol., vol. 66, p. 4655-4661, 2000)、パーティクルデリバリー法(特開2005-287403「脂質生産菌の育種方法」に記載の方法)、スフェロプラスト法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 75, p. 1929, 1978)、酢酸リチウム法(J. Bacteriology, vol. 153, p. 163, 1983)、Methods in yeast genetics, 2000 Edition : A Cold Spring Harbor Laboratory Course Manualなどに記載の方法)で実施可能であるが、これらに限定されない。
【0033】
本発明の別の態様において、形質転換体は、植物形質転換体であり得る。本実施形態に係る植物形質転換体は、本発明に係るポリヌクレオチドを含む組換えベクターを、当該ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドが発現され得るように植物中に導入することによって取得される。
組換え発現ベクターを用いる場合、植物体の形質転換に用いられる組換え発現ベクターは、当該植物内で本発明に係るポリヌクレオチドを発現させることが可能なベクターであれば特に限定されない。このようなベクターとしては、例えば、植物細胞内でポリヌクレオチドを構成的に発現させるプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター)を有するベクター又は外的な刺激によって誘導性に活性化されるプロモーターを有するベクターが挙げられる。
本発明において形質転換の対象となる植物は、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子など)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束、柵状組織、海綿状組織など)又は植物培養細胞、あるいは種々の形態の植物細胞(例えば、懸濁培養細胞)、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどのいずれをも意味する。形質転換に用いられる植物としては、特に限定されず、単子葉植物綱又は双子葉植物綱に属する植物のいずれでもよい。
【0034】
植物への遺伝子の導入には、当業者に公知の形質転換方法(例えば、アグロバクテリウム法、遺伝子銃、PEG法、エレクトロポレーション法など)が用いられる。例えば、アグロバクテリウムを介する方法と直接植物細胞に導入する方法が周知である。アグロバクテリウム法を用いる場合は、構築した植物用発現ベクターを適当なアグロバクテリウム(例えば、アグロバクテリウム・チュメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens))に導入し、この株をリーフディスク法(内宮博文著、植物遺伝子操作マニュアル(1990)27〜31頁、講談社サイエンティフィック、東京)などに従って無菌培養葉片に感染させ、形質転換植物を得ることができる。また、Nagelらの方法(Micribiol.Lett., 67, 325 (1990))が用いられ得る。この方法は、まず、例えば発現ベクターをアグロバクテリウムに導入し、次いで、形質転換されたアグロバクテリウムをPlantMolecular Biology Manual(S.B.Gelvinら、Academic Press Publishers)に記載の方法で植物細胞又は植物組織に導入する方法である。ここで、「植物組織」とは、植物細胞の培養によって得られるカルスを含む。アグロバクテリウム法を用いて形質転換を行う場合には、バイナリーベクター(pBI121又はpPZP202など)を使用することができる。
【0035】
また、遺伝子を直接植物細胞又は植物組織に導入する方法としては、エレクトロポレーション法、遺伝子銃法が知られている。遺伝子銃を用いる場合は、植物体、植物器官、植物組織自体をそのまま使用してもよく、切片を調製した後に使用してもよく、プロトプラストを調製して使用してもよい。このように調製した試料を遺伝子導入装置(例えばPDS-1000(BIO-RAD社)など)を用いて処理することができる。処理条件は植物又は試料によって異なるが、通常は450〜2000psi程度の圧力、4〜12cm程度の距離で行う。
遺伝子が導入された細胞又は植物組織は、まずハイグロマイシン耐性などの薬剤耐性で選択され、次いで定法によって植物体に再生される。形質転換細胞から植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。
植物培養細胞を宿主として用いる場合は、形質転換は、組換えベクターを遺伝子銃、エレクトロポレーション法などで培養細胞に導入する。形質転換の結果得られるカルスやシュート、毛状根などは、そのまま細胞培養、組織培養又は器官培養に用いることが可能であり、また従来知られている植物組織培養法を用い、適当な濃度の植物ホルモン(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノライドなど)の投与などによって植物体に再生させることができる。
【0036】
遺伝子が植物に導入されたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法などによって行うことができる。例えば、形質転換植物からDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行う。PCRは、前記プラスミドを調製するために使用した条件と同様の条件で行うことができる。その後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又はキャピラリー電気泳動などを行い、臭化エチジウム、SYBR Green液などによって染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することによって、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素などによって標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレートなどの固相に増幅産物を結合させ、蛍光又は酵素反応などによって増幅産物を確認する方法も採用することができる。
本発明に係るポリヌクレオチドがゲノム内に組み込まれた形質転換植物体が一旦取得されれば、当該植物体の有性生殖又は無性生殖によって子孫を得ることができる。また、当該植物体又はその子孫、あるいはこれらのクローンから、例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラストなどを得て、それらを基に当該植物体を量産することができる。従って、本発明には、本発明に係るポリヌクレオチドが発現可能に導入された植物体、若しくは当該植物体と同一の性質を有する当該植物体の子孫、又はこれら由来の組織も含まれる。
【0037】
また、種々の植物に対する形質転換方法が既に報告されている。本発明に係る形質転換体植物としては、例えば、ブドウ、ゴマ、イネ、タバコ、オオムギ、コムギ、ナタネ、ポテト、トマト、ポプラ、バナナ、ユーカリ、サツマイモ、タイズ、アルファルファ、ルーピン、トウモロコシ、カリフラワー、バラ、キク、カーネーション、キンギョソウ、シクラメン、ラン、トルコギキョウ、フリージア、ガーベラ、グラジオラス、カスミソウ、カランコエ、ユリ、ペラルゴニウム、ゼラニウム、ペチュニア、トレニア、チューリップ、レンギョウ、シロイヌナズナ及びミヤコグサなどが挙げられるがこれらに限定されない。
本発明のある態様によれば、形質転換植物体は機能性食品材料用植物体である。
【0038】
4.本発明のタンパク質の製造方法
本発明はまた、別の実施形態において、上記の形質転換体を用いる本発明のタンパク質の製造方法を提供する。
具体的には、上記形質転換体の培養物から、本発明のタンパク質を分離・精製することによって、本発明のタンパク質を得ることができる。ここで、培養物とは、培養液、培養菌体若しくは培養細胞、又は培養菌体若しくは培養細胞の破砕物のいずれをも意味する。本発明のタンパク質の分離・精製は、通常の方法に従って行うことができる。
具体的には、本発明のタンパク質が培養菌体内若しくは培養細胞内に蓄積される場合には、培養後、通常の方法(例えば、超音波、リゾチーム、凍結融解など)で菌体若しくは細胞を破砕した後、通常の方法(例えば、遠心分離、ろ過など)により本発明のタンパク質の粗抽出液を得ることができる。本発明のタンパク質が培養液中に蓄積される場合には、培養終了後、通常の方法(例えば、遠心分離、ろ過など)により菌体若しくは細胞と培養上清とを分離することにより、本発明のタンパク質を含む培養上清を得ることができる。
このようにして得られた抽出液若しくは培養上清中に含まれる本発明のタンパク質の精製は、通常の分離・精製方法に従って行うことができる。分離・精製方法としては、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、透析法及び限外ろ過法等を、単独で又は適宜組み合わせて用いることができる。
【0039】
5.ガラクトース配糖体及びグルコース配糖体の製造方法
さらに、本発明は、本発明のタンパク質を用いてガラクトース配糖体及び/又はグルコース配糖体を製造する方法を提供する。
本発明のタンパク質は、糖受容体基質としてのフラボノイドに、糖供与体としてのUDP-ガラクトースからガラクトースを転移する反応、及び糖供与体としてのUDP-グルコースからグルコースを転移する反応を触媒する(いずれの反応も、詳しくは、フラボノイドの3位の水酸基に転移する反応である)。従って、本発明のタンパク質を用いることにより、糖受容体基質及び糖供与体を原料として、ガラクトース配糖体及び/又はグルコース配糖体を製造することができる。糖供与体としてUDP-ガラクトースのみを用いた場合はガラクトース配糖体を製造でき、UDP-グルコースのみを用いた場合はグルコース配糖体を製造でき、UDP-ガラクトース及びUDP-グルコースを同時に用いた場合は、ガラクトース配糖体及びグルコース配糖体を同時に製造できる。糖受容体基質としては、フラボノイドの中でも、フラボノールが好ましく、特に好ましくはケルセチン、ケンフェロール及びミリセチンである。
【0040】
例えば、1 mMの糖受容体基質、2 mMの糖供与体、50 mMのリン酸カルシウムバッファー(pH7.5)及び20μMの本発明のタンパク質を含む溶液を調製し、30℃で、30分間反応させることにより、ガラクトース配糖体及び/又はグルコース配糖体を製造することができる。この溶液から、ガラクトース配糖体は、公知の方法により分離・精製することができる。具体的には、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、透析法及び限外ろ過法などを、単独で又は適宜組み合わせて用いることができる。
このようにして得られるガラクトース配糖体は、機能性食品の材料、その生体内での機能を調べるための試薬、又は抗酸化剤などとして有用である。
【0041】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
遺伝子クローニング
本実施例において用いる分子生物学的手法は、他で詳述しない限り、Molecular Cloning(Sambrookra,Cold Spring Harbour Laboratory Press,2001)に記載の方法に従った。
ブドウ由来フラボノイド3位グルコース転移酵素遺伝子であるVvGT1(Offen, W. et al., EMBO J., vol. 25, p. 1396-1405, 2006)の完全長配列を基に、Istituto Agrario San Michele all'Adige(IASMA)が提供するブドウゲノムデータベース(http://genomics.research.iasma.it/iasma/)に対してBlastホモロジー検索を行った。その結果、相同性の高い7種の候補UGT遺伝子を見出した(図1)。これらはMEGA4プログラム(Tamura, K. et al., Mol. Biol. Evol., vol. 24, p. 1596-1599, 2007)を利用したNJ系統樹解析によってフラボノイド3位UGTのクラスターであるCluster Iに属することを確認した(図1)。さらに、候補遺伝子配列を染色体物理地図と照らし合わせることで、染色体上のシンテニーを明らかにした(図2)。VvGT3、VvGT5及びVvGT6は、11番染色体上に同じ転写向きに座位しており、それらの間にはフラボノールスルフォトランスフェラーゼ様遺伝子が共通して見出された(Varin, L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 89, p. 1286-1290, 1992)。VvGT5及びVvGT6は、特に相同性が高く、遺伝子重複によって生じたパラログであると考えられた。また、6番染色体には同じ転写向きに座位したVvGT2及びVvGT4が見出された。その下流に同じ転写向きにVvGT2及びVvGT4のセットのコピーが見出され、それぞれ順に、VvGT2-like及びVvGT4-likeと命名した。一方、既知のVvGT1は16番染色体に座位した。
【0043】
次に、これらのVvGT遺伝子をクローン化するためにブドウ葉由来cDNAを下記の方法で調製し、それを鋳型にPCRによる増幅を行った。ブドウ(Vitis vinifera,品種:Cabernet Sauvignon)の葉0.1gからFruitMate for RNA purification及びFast Pure RNA kit(TaKaRa Bio社)を用いて、製造業者の推奨する方法に従い、トータルRNAを抽出し、そのうち1μgから、SuperScript First-Strand Synthesis System for RT-PCR(Invitrogen社)を製造業者が推奨する条件に従って使用してcDNAを合成した。
VvGT6遺伝子を例に、cDNAクローニング及び発現ベクター構築手順を下記に示す。逆転写によって得られたcDNAを鋳型に、ゲノム配列情報を基にデザインした下記のVvGT6遺伝子特異的プライマー(配列番号1及び2)を用いて、PCRによるVvGT6の単離を試みた。
具体的には、PCR反応液(50μl)は、ブドウ葉由来cDNA 1μl、1×ExTaq buffer(TaKaRaBio)、0.2mM dNTPs、プライマー(配列番号1及び2)各0.4pmol/μl、ExTaq polymerase 2.5unitからなる。PCR反応は、94℃で3分間反応させた後、94℃で1分間、50℃で1分間、72℃で2分間の反応を1サイクルとして、計35サイクルの増幅反応を行った。
【0044】
CACC-NdeI-VvGT6-Fw:
5'- CAC CCA TAT GAC TGC CAC CGC GAG CTC CAT G -3'(配列番号1)
BglII-VvGT6-RV:
5'- AGA TCT CTA CTT ATT GGT ATC CAA ATG TAA CT -3'(配列番号2)
【0045】
PCR反応液を0.8%アガロースゲル電気泳動により分離したところ、約1.4kbのサイズの増幅断片を得た。この増幅断片をpENTR-Directional-TOPOベクター(Invitrogen社)にサブクローニングし、挿入断片の塩基配列を、DNA Sequencer model 3100(Applied Biosystems社)を使用して、合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いるプライマーウォーキング法によって塩基配列を決定し、この配列と、前記データベースに登録されているピノノアール品種由来の配列(IASMAアクセッション番号:VV78X045394.7 4)とを比較して、ベクターに挿入されたcDNAがVvGT6であることを確認した(配列番号3及び4)。
【0046】
VvGT6のcDNA配列:
ATGACTGCCACCGCGAGCTCCATGGACAGGCATGTTGCAGTATTGGGGTTCCCCCCCCATGCAGCTACCCTCTTAAAACTCCTGCGCAGATTAGCATCTGCCGCACCCACCACCATCTTCTCCTTCTTCAACACTGCCAAAGCCAACAACTCCATCTTCTCTCCTCAGAGTCCCCACGGCCTTCACAATCTAAGAGTCTATGATGTGGCAGACGGCGTGCCTGAGGGTCATGTGCTTTCAGCAAACCCTCTGGAACGCATCGACCTGTTCTTCAAGGCGACGCCTGGGAACTTTTATGATGCCATACAAGTGGCGGAGGCGGAGATTGGAAGGAAGATAAGTTGCTTGGTGAGTGATGCCTTTTTGTGGTTTACTGCTGATATGGCTGAGGAAATGCGGGTTCCCTGGTTGGCAATTTGGACTAGTGCGCTCTGCTCACTCTCCGTTCACATTTATACTGATGCTATCCGGGAAGCGGTGAAGGTTGTGGGGCGGGTGCAAGACCAAACCCTTGATTTCATTCCAGGATTCTCAGCAATAAAGGTTGAAGACCTACCTGAAGGAATAGTTTTCGGGGACATAGAATCTCCTTTTGCATGCATGTTGCATAAAATGGGGCTCACGCTGCCACGAGCAACCGCTGTTGCCACAAACTCCTTTGAAGAACTAGAGCCCATTGTCACAAATGATCCCAAGTCGAAGCTCCAAAAAGTTCTTGCTGTTGGTCCTTTTGATCTATCTTCACCACCACAGTTGATATTGGACGCTAGTGGTTGCCTGCCATGGTTAGACAATAAAAAAGAAGCATCAGTGGCATATGTTAGTTTTGGAAGCATAGCAACACCACCACCCAACGAGATTGTAGCATTGGCAGAAGCCCTAGAAGCAACTGGGATACCGTTTCTTTGGTCTCTTAGGGAACATGCAATGGACAATTTACCAAAAGGATTTCTAGAGAGGACGACTGCTCATGGAAAAGTTGTTTCGTGGGCTCCTCAACCTCAAATCTTAGCACATGCCTCAGTTGGAGTGTTTATTACTCATAGTGGTTGGAACTCGGTGATTGAGAGTATAGTTGGTGGTGTGCCTATGATCTGTAGGCCATTCTTTGGAGATCAATGTATCGACAAGCGGATGGTAGAGGATGTATGGGGGATTGGTGTGGGAGTTGAGGGAGGGGTCCTCACGAAAAGTGGAGTAATGAGTGCTCTAGGACTAATTTTGTCCCATGAAGGGAACAAAATGAGAGAGAAAATTAGAGTCCTGAAAGAGCTTGCTAGAAGGGCTGTTGAACCAAATGGGAGCTCAACTCAAAATTTAAGTAATTTGTTGGAGGTAATCACAACATCTAAGTTACATTTGGATACCAATAAGTAG(配列番号3)
【0047】
VvGT6のアミノ酸配列:
MTATASSMDRHVAVLGFPPHAATLLKLLRRLASAAPTTIFSFFNTAKANNSIFSPQSPHGLHNLRVYDVADGVPEGHVLSANPLERIDLFFKATPGNFYDAIQVAEAEIGRKISCLVSDAFLWFTADMAEEMRVPWLAIWTSALCSLSVHIYTDAIREAVKVVGRVQDQTLDFIPGFSAIKVEDLPEGIVFGDIESPFACMLHKMGLTLPRATAVATNSFEELEPIVTNDPKSKLQKVLAVGPFDLSSPPQLILDASGCLPWLDNKKEASVAYVSFGSIATPPPNEIVALAEALEATGIPFLWSLREHAMDNLPKGFLERTTAHGKVVSWAPQPQILAHASVGVFITHSGWNSVIESIVGGVPMICRPFFGDQCIDKRMVEDVWGIGVGVEGGVLTKSGVMSALGLILSHEGNKMREKIRVLKELARRAVEPNGSSTQNLSNLLEVITTSKLHLDTNK(配列番号4)
【0048】
プライマー配列内に付加したNdeI及びBglIIの制限酵素部位を利用して約1.4kbのVvGT6断片をpENT-Directional-TOPOベクターから切り出し、大腸菌発現ベクターであるpCold I(TaKaRa Bio社)のNdeI及びBamHIサイトへ連結し、VvGT6の大腸菌発現ベクターを得た。なお、大腸菌ベクター構築の際には、本ベクターのNdeIサイト上流にあるHisタグとVvGT6のオープンリーディングフレームをあわせるようにし、Hisタグと融合したキメラVvGT6タンパク質が発現するよう設計した。
【実施例2】
【0049】
酵素機能解析
本酵素の生化学的な機能を明らかにするために、本酵素を大腸菌において発現させた。
上記で得られたプラスミドを用い、常法に従って大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。得られた形質転換体を、50μg/mlのアンピシリンを含むLB培地(10 g/l typtone pepton,5 g/l yeast extract,1 g/l NaCl)4 mlに、て,37℃で一晩振盪培養した。静止期に達した培養液4 mlを同組成の培地80 mlに接種し、37℃で振盪培養した。菌体濁度(OD600)がおよそ0.5に達した時点で、15℃で30分間コールドショックを行い、その後、濃度0.5 mMのIPTGを添加し、18℃で20時間振盪培養した。
以下のすべての操作は4℃で行った。培養した形質転換体を遠心分離(5,000×g,10分間)にて集菌し、Buffer S[20 mM HEPESバッファー(pH 7.5),20 mM イミダゾール, 14 mM β-メルカプトエタノール]1 ml/g cellを添加して、懸濁した。続いて、超音波破砕(15秒間×8回)を行い、遠心分離(15,000×g,15分間)した。得られた上清を粗酵素液として回収した。この中からHisタグを有するVvGT6発現タンパク質を精製するため、粗酵素液をBuffer Sにて平衡化したHis SpinTrap(GE Healthcare)に負荷し、遠心(70×g,30秒間)した。Bufferで洗浄後、100 mM及び500 mM イミダゾールを含むBuffer S 各5mlにてカラムに結合したタンパク質を段階的に溶出した。各溶出画分をMicrocon YM-30(Amicon)を用いて、20 mM HEPESバッファー(pH 7.5)及び14 mM β-メルカプトエタノールにバッファー置換した(透析倍率1000倍)。
【0050】
SDS-PAGE解析の結果、500 mM イミダゾール溶出画分において、VvGT6の推定分子量49.68kDa付近にタンパク質を確認したので、この画分を酵素解析に用いた(図3)。
標準的な酵素反応条件は、以下の通りである。反応液(1 mM 糖供与体,200μM 糖受容体基質,20 mM HEPESバッファー(pH 7.5),精製酵素約2μg)50μlを調製し、酵素溶液を添加することで反応を開始させ、30℃で10分間反応させた。等量の0.1%TFA及び40%CH3CNを添加することにより反応を停止させ、15000 rpm、2分間、4℃で遠心することで得られた上清を、逆相HPLCで分析した。
逆相HPLCシステムは、以下の機器で構成される。Pump AとしてMODEL305(Gilson社)、Pump BとしてMODEL302(Gilson社)、Sample InjectorとしてMODEL231(Gilson社)、Dilutorとして401(Gilson社)、DYNAMIC MIXERとして811B(Gilson社)、Pressure Module(RAININ)、DEGASSERとしてDGU-12A(島津製作所)、検出器としてSPD-M20A DIODE ARRAY DETECTOR(島津製作所)を用いた。
【0051】
フラボノール類のHPLC条件は、以下の通りである。カラムはJ'sphere ODS-M80(4.6×150 mm、YMC)を室温で用い、移動相A(0.2% ギ酸/10% CH3CN)と移動相B(0.2% ギ酸/90% CH3CN)を用いた。溶離条件はB10%で3分間の平衡化をし、10分間の直線濃度勾配(B10%→B40%)、さらに10分間の直線濃度勾配(B40%→B90%)の後、1分間B90%で保持した。その後再びB10%に戻し、10分間平衡化した。流速は0.7 ml/分で行った。検出は、SPD-M20A DIODE ARRAY DETECTORを用いて360 nmで行った。本条件で標準品(標品)のケルセチン、ケルセチン3-ガラクトシド及びケルセチン3-グルコシド(いずれもSIGMA社)は、それぞれ順に、保持時間約17.8分、11.3分及び11.5分に溶出される。
ケルセチンを糖受容体、UDP-ガラクトースを糖供与体とした酵素反応液のHPLC分析の結果、ケルセチン3-ガラクトシドと保持時間が一致する保持時間約11.3分に新たな生成物Aが確認された(図4)。さらに、ケルセチンを糖受容体、UDP-グルコースを糖供与体とした酵素反応液のHPLC分析の結果、ケルセチン3-グルコシドと保持時間が一致する保持時間約11.5分に新たな生成物Bが確認された(図4)。これによってVvGT6遺伝子がフラボノイドの3位にガラクトース及びグルコースを転移する活性を有するF3GalT及びF3GlcT(すなわちF3Gal/GlcT)をコードすることが示された。
【0052】
次に、本酵素の至適pHを求めた。図5に示されるようにpH3からpH10.5までの各種バッファーを調製し、糖受容体として100μMケルセチン、糖供与体として1mM UDP-グルコース、50mMバッファー、1mM DTT及び上記精製VvGT6酵素 100ngを、30℃で10分間反応させた。ケルセチンを加えることで反応を開始し、等量の0.1% TFAを含む40%アセトニトリル溶液を加えることで反応を停止した。反応停止溶液を遠心分離(15000 rpm, 2分間, 4℃)することによって得られた上清100μlをHPLC分析に供し、各バッファー条件における生成物量を比較した。その結果、中性から塩基性領域で強い酵素活性が認められ、その最適pHは8.0であった(図6)。
次に、本酵素の至適温度を求めた。糖受容体として100μMケルセチン、糖供与体として1mM UDP-グルコース、50mM Tricine-NaOH(pH8.0)バッファー、1mM DTT及び上記精製VvGT6酵素100ngを、10、20、30、35、40、45、50及び60℃で、それぞれ15分間反応させた。ケルセチンを加えることで反応を開始し、等量の0.1%TFAを含む40%アセトニトリル溶液を加えることで反応を停止した。反応停止溶液を遠心分離(15000 rpm, 2分間, 4℃)することによって得られた上清100μlをHPLC分析に供し、各温度条件における生成物量を比較した。その結果、最適反応温度は35℃であった(図7)。
【0053】
次に、本酵素の糖供与体特異性について検討した。各糖受容体として100μMケルセチン、1mM各糖供与体(UDP-グルクロン酸、UDP-グルコース及びUDP-ガラクトース、(いずれもSIGMA社))、50mM Tricine-NaOH(pH8.0)バッファー、1mM DTT及び上記精製VvGT6酵素 100ngを、30℃で15分間反応させた。糖受容体を加えることで反応を開始し、等量の0.1%TFAを含む40%アセトニトリル溶液を加えることで停止した。反応停止溶液を遠心分離(15000 rpm, 2分,4℃)することによって得られた上清100μlをHPLC分析に供し、各糖供与体における生成物量を比較した(図8)。その結果、UDP-グルコース及びUDP-ガラクトースを糖供与体にした場合にのみ生成物が得られた。このことからVvGT6は少なくともUDP-グルクロン酸を糖供与体としないことが示された。
次に、本酵素の糖受容体特異性について検討した。ゲニステイン及びダイゼインはフジッコ株式会社から、ナリンゲニンはナカライテスク株式会社から、カプサイシンはSIGMAから購入し、これら以外についてはフナコシ株式会社から購入した。図9に示す各糖受容体100μM、糖供与体として1mM UDP-グルコース、50mM Tricine-NaOH(pH8.0)バッファー、1mM DTT及び上記精製VvGT6酵素 100ngを、30℃で15分間反応させた。糖受容体を加えることで反応を開始し、等量の0.1%TFAを含む40%アセトニトリル溶液を加えることで反応を停止した。反応停止溶液を遠心分離(15000 rpm, 2分, 4℃)することによって得られた上清100μlをHPLC分析に供し、各糖受容体における生成物量を比較した。活性が検出された糖受容体に対しては、UDP-ガラクトースに対する特異性を評価した。その結果、VvGT6はフラボノールに特異的であることが示された(図9)。各種フラボノールに対する速度論パラメーターを図10に示す。
【0054】
VvGT6のバイファンクショナルな糖供与体選択性を確認するため、UDP-ガラクトース及びUDP-グルコースを同時に用いて反応させた。各糖受容体として100μMケルセチン、1mM各糖供与体(UDP-グルコース及びUDP-ガラクトース)、50mM Tricine-NaOH(pH8.0)バッファー、1mM DTT及び上記精製VvGT6酵素 1000ngを30℃で10分間反応させた。糖受容体を加えることで反応を開始し、等量の0.1%TFAを含む40%アセトニトリル溶液を加えることで停止した。反応停止溶液を遠心分離(15000 rpm, 2分,4℃)することによって得られた上清100μlをHPLC分析に供し、各糖供与体における生成物量を比較した(図10)。HPLC分析条件は下記のとおりである。
カラムはJ'sphere ODS-M80(4.6×150 mm、株式会社ワイエムシィ製)を室温で用い、移動相A(0.2% ギ酸/10% CH3CN)と移動相B(0.2% ギ酸/90% CH3CN)を用いた。溶離条件はB10%で3分間の平衡化し、12分間の直線濃度勾配(B10%→B20%)、さらに8分間の直線濃度勾配(B20%→B90%)の後、1分間B90%で保持した。その後、再びB10%に戻し、10分間平衡化した。流速は0.7 ml/分で行った。検出はSPD-M20A DIODE ARRAY DETECTOR(株式会社 島津製作所製)を用いて360 nmで行った。本条件で標準品のケルセチン、ケルセチン3-グルコシド及びケルセチン3-ガラクトシドは、それぞれ順に、保持時間約23.3分、12.5分及び12.1分に溶出される。分析の結果、同時反応液中には同程度のケルセチン3-ガラクトシドとケルセチン3-グルコシドとが検出された(図10)。
【0055】
以上のようにVvGT6はUDP-グルコースとUDP-ガラクトースの2種類のUDP糖供与体に特異性を示すバイファンクショナルな新規フラボノイド3位糖転移酵素(F3Gal/GlcT)であることが示された。
【実施例3】
【0056】
遺伝子発現解析
VvGT6の機能領域を同定するために、“Noguchi, A. et al., Plant J., vol. 54, p. 415-427, 2008”に記載の方法と同様の方法で、VvGT6遺伝子のブドウ器官別の遺伝子発現パターンを7500 Real Time PCR System(Applied Biosystems)を用いたSYBR-Green定量RT-PCRによって解析した。
ブドウは、ピノノアール品種及びカベルネソーヴィニョン品種の各器官(葉、葉柄、種子、果実、果皮)から、実施例1と同様の方法でトータルRNAを抽出し、そのうち0.5μgを、Random Hexamerプライマーで逆転写(RT)反応することによって各器官のcDNAを得、これをPCRの鋳型とした。
定量PCRに用いる遺伝子特異的プライマーは、Primer Express 3.0プログラム(Applied Biosystems)を用いて以下の8種をデザインした。VvGT6遺伝子特異的プライマーとして配列番号5及び6に示されるものを用いた。比較対照としての、アントシアニン3位グルコース転移酵素であるVvGT1、及びVvGT6ホモログであるVvGT5についても、それぞれ遺伝子特異的プライマーを設計し解析に供した(VvGT1遺伝子特異的プライマー:配列番号7及び8、VvGT5遺伝子特異的プライマー:配列番号9及び10)。内部標準遺伝子として、ブドウのユビキチン伸長酵素(GenBankアクセッション番号:CAO48597)を採用し、下記の遺伝子特異的プライマー(配列番号11及び12)を用いて増幅した。各VvGT遺伝子の発現量を内部標準遺伝子の発現量で標準化し、ΔΔCt法(Applied Biosystems)によって相対発現量を得た。
【0057】
VvGT6-Fw:
5'-GGT TCC CTG GTT GGC AAT TT -3'(配列番号5)
VvGT6-Rv:
5'- GCA CCC GCC CCA CAA CCT T -3'(配列番号6)
VvGT1-Fw:
5'- CCC ACC GCC GGT TAT ACC -3'(配列番号7)
VvGT1-Rv:
5'- CGA CCG AGG TGG GTT TTC T -3'(配列番号8)
【0058】
qVvGT5-Fw1:
5'- GCT CCA TCT CCT CTG CTC AAA -3'(配列番号9)
qVvGT5-Rv2:
5'- GAA AGC ACA AGG TCC TCT -3'(配列番号10)
VvUBQ2-Fw:
5'- TCC AGG ACA AGG AAG GGA TTC -3'(配列番号11)
VvUBQ2-Rv:
5'- GCC ATC CTC AAG CTG CTT TC -3'(配列番号12)
【0059】
その結果、VvGT6遺伝子は、その生成物が蓄積する葉において顕著に発現していることが確認された(図11)。一方、VvGT1遺伝子については、果皮において特異的に発現しており、公知文献(Ford, C. M., et al., J. Biol. Chem., vol. 273, p. 9224-9233, 1998)に記載の結果と一致した。また、VvGT6遺伝子は果皮においても強い発現が認められたため、果皮及びワインにおいて存在しているフラボノール3位ガラクトース配糖体及びグルコース配糖体は、VvGT6によって生成していることが強く示された。VvGT5遺伝子とVvGT6遺伝子とは、類似した遺伝子発現パターンを示し、これらの遺伝子がゲノム上で近い位置に座位することが両遺伝子の協調的な遺伝子発現パターンに影響を与えていると推測された(図2)。
【実施例4】
【0060】
糖供与体選択性に関与するアミノ酸残基の同定
VvGT6(ブドウ由来フラボノイド3位ガラクトース・グルコース転移酵素)の特徴的な2種の糖供与体選択性を決定しているアミノ酸残基を同定するために、ブドウ由来フラボノイド3位グルコース転移酵素であるVvGT1(“Offen, W. et al. (2006) EMBO J. 25, 1396-1405.”参照)、ブドウ由来フラボノイド3位グルクロン酸転移酵素であるVvGT5、ウド由来フラボノイドガラクトース転移酵素であるACGalT(“Kubo, A. et al. (2004) ABB 429, 198-203.”参照)、及びペチュニア由来フラボノイド3位ガラクトース転移酵素であるPhF3GalT(“Miller, K. D. et al. (1999) J. Biol. Chem. 274, 34011-34019.”参照)について、Clustal-Wによるマルチプルアラメイントを行った。その結果を図12に示した。
図12に示す通り、VvGT6は、活性触媒残基であるVvGT1の20番目のヒスチジン残基(H20)の直前にユニークなプロリン残基(P19)を有していた(“Offen, W. et al. (2006) EMBO J. 25, 1396-1405.”参照)。この位置(P19)は、活性触媒残基のとなりであることから、基質が入り込む活性ポケット近辺に位置すると考えられた。また、VvGT6は、植物のUDP糖依存的配糖体化酵素(UGT)において高く保存されているPSPGボックスにおいて、フラボノイドガラクトース転移酵素において見出されている特徴的なヒスチジン残基を有しておらず、グルコースやグルクロン酸を転位するUGT酵素でみられるグルタミン残基(Q373)が保存されていた。
これら2つのアミノ酸残基(P19及びQ373)の、VvGT6の糖供与体選択性における役割を明らかにするために、VvGT6-P19T変異体及びVvGT6-Q373H変異体を作製し、その糖供与体選択性を検討した。VvGT6-P19T変異体は、野生型VvGT6のアミノ酸配列中の第19番目のプロリン残基(P)をスレオニン残基(T)に置換した変異体タンパク質であり、VvGT6-Q373H変異体は、野生型VvGT6のアミノ酸配列中のVvGT6の第373番目のグルタミン残基(Q)をヒスチジン残基(H)に置換した変異体タンパク質である。
各アミノ酸置換変異は下記プライマー(配列番号13〜18)を用い、“Noguchi, A. et al. (2009) Plant Cell. 21, 1556-1572”に記載の方法に従ってPCRにより導入した。PCR条件は、野生型VvGT6遺伝子のプラスミドを鋳型にし、KOD plus DNAポリメラーゼ(TOYOBO)を用いて96℃で30秒の熱変性後、95℃,30秒→58℃,1分→68℃,3分を1サイクルとする反応を、計25サイクル行った。
具体的には、VvGT6-P19T変異については、まず、VvGT6遺伝子のプラスミドを鋳型にし、配列番号13及び16のプライマーを用いたPCRと、配列番号14及び15のプライマーを用いたPCRとを行い、得られた2種のPCR断片を混合した。次いで、この混合物を希釈したものを鋳型にし、配列番号13及び14のプライマーを用いたPCRを行うことで当該変異(VvGT6-P19T変異)を導入した。
同様に、VvGT6-Q373H変異については、まず、VvGT6遺伝子のプラスミドを鋳型にし、配列番号13及び18のプライマーを用いたPCRと、配列番号14及び17のプライマーを用いたPCRとを行い、得られた2種のPCR断片を混合した。次いで、この混合物を希釈したものを鋳型にし、配列番号13及び14のプライマーを用いたPCRを行うことで、当該変異(VvGT6-Q373H変異)を導入した。
このように変異導入して得られたPCR産物(2種)は、それぞれ、製造業者が推奨する方法により、pENTR-Directional-TOPOベクター(Invitrogen)にサブクローニングし、目的の変異が導入されていることをシークエンシングにより確認した。
CACC-NdeI-VvGT6-Fw:
5'- CACCCATATGACTGCCACCGCGAGCTC -3'(配列番号13)
BglII-VvGT6-Rv:
5'- AGATCTCTACTTATTGGTATCCAA -3'(配列番号14)
VvGT6-P19T-Fw:
5'-TTCCCCACCCATGCAGCTA -3'(配列番号15)
VvGT6-P19T-Rv:
5'-TAGCTGCATGGGTGGGGAA -3'(配列番号16)
VvGT6-Q373H-Fw:
5'- TTCTTTGGAGATCATTGTATCGACA -3'(配列番号17)
VvGT6-Q373H-Rv:
5'-TGTCGATACAATGATCTCCAAAGAA -3'(配列番号18)
プライマー配列内に付加したNdeI及びBglIIの制限酵素部位(上記配列番号13及び14で示される塩基配列中の下線部を付した配列)を利用して、約1.4 kbのVvGT6断片をpENT-Directional-TOPOベクターから切り出し、大腸菌発現ベクターであるpET15b(Novagen)のNdeI及びBamHIサイト間へ連結し、各VvGT6の大腸菌発現ベクターを得た。なお、大腸菌ベクターの構築の際には、当該ベクターのNdeIサイト上流にあるHisタグとVvGT6のオープンリーディングフレームをあわせるようにし、Hisタグと融合したキメラVvGT6タンパク質が発現するよう設計した。
作製されたVvGT6-P19T及びVvGT6-Q373H変異体は、実施例2と同様の方法で大腸菌BL21株に形質転換し、IPTG 1 mM 添加後、18℃で20時間培養し、Hisタグ融合タンパク質として調製した。実施例2と同様の方法により、当該タンパク質の糖供与体選択性について検討した。
その結果、VvGT6-P19T変異体は、糖供与体選択性がUDP-ガラクトースからUDP-グルコースへとややシフトしていたため、P19残基はUDP-ガラクトースの認識に関与する残基であることが示された(下記表1)。また、VvGT6-Q373H変異体は、UDP-グルコースをほとんど糖供与体とせず、UDP-ガラクトースを主たる糖供与体としたことから、Q373残基はVvGT6のUDP-グルコースの認識に必須のアミノ酸残基であることが示された(下記表1)。
【表1】
以上の結果から、VvGT6の特徴的な2種類の糖供与体に対する選択性に関与するアミノ酸残基(P19及びQ373)が明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上のように、ブドウからフラボノイドの3位にグルコース及びガラクトースを転移する新規な活性を有するUGT酵素(F3Gal/GlcT)が単離できた。本発明を利用することによって人為的にフラボノイドの3位をグルコース及びガラクトースで配糖体化することが可能となるため、新しい機能性食品素材の開発や有用化合物を生産しうる植物の開発に貢献できる。
従って、本発明は、農業、食品産業、医薬品産業及びこれらの関連産業にわたる広範な利用が可能である点で、極めて有用なものである。
【配列表フリーテキスト】
【0062】
配列番号1:合成DNA
配列番号2:合成DNA
配列番号5:合成DNA
配列番号6:合成DNA
配列番号7:合成DNA
配列番号8:合成DNA
配列番号9:合成DNA
配列番号10:合成DNA
配列番号11:合成DNA
配列番号12:合成DNA
配列番号13:合成DNA
配列番号14:合成DNA
配列番号15:合成DNA
配列番号16:合成DNA
配列番号17:合成DNA
配列番号18:合成DNA
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(f)のいずれかに記載のポリヌクレオチド:
(a)配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(c)配列番号4で表わされるアミノ酸配列において1〜15個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(d)配列番号4で表わされるアミノ酸配列に対して、80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(e)配列番号3で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;又は
(f)配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【請求項2】
以下の(g)〜(j)のいずれかである請求項1に記載のポリヌクレオチド:
(g)配列番号4で表わされるアミノ酸配列において10個以下のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(h)配列番号4で表わされるアミノ酸配列に対して、90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(i)配列番号3で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;又は
(j)配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記(c)〜(j)に記載のポリヌクレオチドが、それぞれ、以下の(c')〜(j')に記載のポリヌクレオチドである、請求項1又は2記載のポリヌクレオチド:
(c')配列番号4で表わされるアミノ酸配列において第19番目及び/若しくは第373番目のアミノ酸を除く1〜15個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(d')配列番号4で表わされるアミノ酸配列に対して、80%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって当該配列番号4で表わされるアミノ酸配列中の第19番目のアミノ酸に対応するアミノ酸がプロリンであるか及び/若しくは第373番目のアミノ酸に対応するアミノ酸がグルタミンであるアミノ酸配列を有し、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(e')配列番号3で表わされる塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドあって当該配列番号3で表わされる塩基配列中の第55〜57番目の塩基に対応する塩基がプロリンをコードする塩基であるか及び/若しくは第1117〜1119番目の塩基に対応する塩基がグルタミンをコードする塩基であるポリヌクレオチドであり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(f')配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドあって当該配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列中の第55〜57番目の塩基に対応する塩基がプロリンをコードする塩基であるか及び/若しくは第1117〜1119番目の塩基に対応する塩基がグルタミンをコードする塩基であるポリヌクレオチドであり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(g')配列番号4で表わされるアミノ酸配列において第19番目及び/若しくは第373番目のアミノ酸を除く10個以下のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(h')配列番号4で表わされるアミノ酸配列に対して、90%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって当該配列番号4で表わされるアミノ酸配列中の第19番目のアミノ酸に対応するアミノ酸がプロリンであるか及び/若しくは第373番目のアミノ酸に対応するアミノ酸がグルタミンであるアミノ酸配列を有し、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(i')配列番号3で表わされる塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドあって当該配列番号3で表わされる塩基配列中の第55〜57番目の塩基に対応する塩基がプロリンをコードする塩基であるか及び/若しくは第1117〜1119番目の塩基に対応する塩基がグルタミンをコードする塩基であるポリヌクレオチドであり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;又は
(j')配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドあって当該配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列中の第55〜57番目の塩基に対応する塩基がプロリンをコードする塩基であるか及び/若しくは第1117〜1119番目の塩基に対応する塩基がグルタミンをコードする塩基であるポリヌクレオチドであり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【請求項4】
UDP-ガラクトース転移酵素活性が、フラボノイド3位ガラクトース転移酵素活性である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
UDP-グルコース転移酵素活性が、フラボノイド3位グルコース転移酵素活性である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有する、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
DNAである、請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドが導入された形質転換体。
【請求項12】
請求項10に記載のベクターが導入された形質転換体。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の形質転換体を用いる、請求項9に記載のタンパク質の製造方法。
【請求項14】
請求項9に記載のタンパク質を触媒として、UDP-ガラクトース及び/又はUDP-グルコースと糖受容体基質とからガラクトース配糖体及び/又はグルコース配糖体を生成する、ガラクトース配糖体及び/又はグルコース配糖体の製造方法。
【請求項15】
糖受容体基質がフラボノイドである、請求項14に記載の方法。
【請求項1】
以下の(a)〜(f)のいずれかに記載のポリヌクレオチド:
(a)配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(c)配列番号4で表わされるアミノ酸配列において1〜15個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(d)配列番号4で表わされるアミノ酸配列に対して、80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(e)配列番号3で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;又は
(f)配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【請求項2】
以下の(g)〜(j)のいずれかである請求項1に記載のポリヌクレオチド:
(g)配列番号4で表わされるアミノ酸配列において10個以下のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(h)配列番号4で表わされるアミノ酸配列に対して、90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(i)配列番号3で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;又は
(j)配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記(c)〜(j)に記載のポリヌクレオチドが、それぞれ、以下の(c')〜(j')に記載のポリヌクレオチドである、請求項1又は2記載のポリヌクレオチド:
(c')配列番号4で表わされるアミノ酸配列において第19番目及び/若しくは第373番目のアミノ酸を除く1〜15個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(d')配列番号4で表わされるアミノ酸配列に対して、80%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって当該配列番号4で表わされるアミノ酸配列中の第19番目のアミノ酸に対応するアミノ酸がプロリンであるか及び/若しくは第373番目のアミノ酸に対応するアミノ酸がグルタミンであるアミノ酸配列を有し、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(e')配列番号3で表わされる塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドあって当該配列番号3で表わされる塩基配列中の第55〜57番目の塩基に対応する塩基がプロリンをコードする塩基であるか及び/若しくは第1117〜1119番目の塩基に対応する塩基がグルタミンをコードする塩基であるポリヌクレオチドであり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(f')配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドあって当該配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列中の第55〜57番目の塩基に対応する塩基がプロリンをコードする塩基であるか及び/若しくは第1117〜1119番目の塩基に対応する塩基がグルタミンをコードする塩基であるポリヌクレオチドであり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(g')配列番号4で表わされるアミノ酸配列において第19番目及び/若しくは第373番目のアミノ酸を除く10個以下のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(h')配列番号4で表わされるアミノ酸配列に対して、90%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって当該配列番号4で表わされるアミノ酸配列中の第19番目のアミノ酸に対応するアミノ酸がプロリンであるか及び/若しくは第373番目のアミノ酸に対応するアミノ酸がグルタミンであるアミノ酸配列を有し、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(i')配列番号3で表わされる塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドあって当該配列番号3で表わされる塩基配列中の第55〜57番目の塩基に対応する塩基がプロリンをコードする塩基であるか及び/若しくは第1117〜1119番目の塩基に対応する塩基がグルタミンをコードする塩基であるポリヌクレオチドであり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;又は
(j')配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドあって当該配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列中の第55〜57番目の塩基に対応する塩基がプロリンをコードする塩基であるか及び/若しくは第1117〜1119番目の塩基に対応する塩基がグルタミンをコードする塩基であるポリヌクレオチドであり、かつUDP-ガラクトース転移酵素活性及びUDP-グルコース転移酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【請求項4】
UDP-ガラクトース転移酵素活性が、フラボノイド3位ガラクトース転移酵素活性である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
UDP-グルコース転移酵素活性が、フラボノイド3位グルコース転移酵素活性である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有する、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
DNAである、請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドが導入された形質転換体。
【請求項12】
請求項10に記載のベクターが導入された形質転換体。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の形質転換体を用いる、請求項9に記載のタンパク質の製造方法。
【請求項14】
請求項9に記載のタンパク質を触媒として、UDP-ガラクトース及び/又はUDP-グルコースと糖受容体基質とからガラクトース配糖体及び/又はグルコース配糖体を生成する、ガラクトース配糖体及び/又はグルコース配糖体の製造方法。
【請求項15】
糖受容体基質がフラボノイドである、請求項14に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−193880(P2010−193880A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11126(P2010−11126)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】
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