説明

フラーレンの高濃度飽和炭化水素溶液の製造方法

【課題】フラーレンを高濃度かつ安定に溶解した飽和炭化水素溶液を調製することができるフラーレンの飽和炭化水素溶液の製造方法を提供する。
【解決手段】フラーレンをトルエンまたはシクロヘキサンに予め溶解させ、この溶液と飽和炭化水素とを混合し、この混合液からトルエンまたはシクロヘキサンを減圧留去してフラーレンを溶解する飽和炭化水素溶液を調製することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレンの飽和炭化水素溶液の製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、フラーレンを高濃度かつ安定に溶解した飽和炭化水素溶液の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フラーレンは、高いラジカル捕捉能を有することや、ヒト皮膚細胞への紫外線照射等に伴う活性酸素の増加を抑制する作用が知られており、従来、フラーレンを配合した各種の化粧品、医薬品等が提案されている。
【0003】
そしてフラーレンを化粧品、医薬品等に配合すること等を目的として、フラーレンの油溶化についての検討が行われてきた。現在では、フラーレンは各種の油性溶媒に溶解できることが知られている。例えば、特許文献1にはカルボン酸エステル油、特許文献2には分岐飽和脂肪酸であるイソステアリン酸に対してフラーレンを溶解した例が記載されている。特許文献3には、シー・ブラックソーンオイル、オリーブ油、リノレン酸等の不飽和脂肪酸を含有する油分等にフラーレンを例えば500ppmまで溶解した例が記載されている。
【0004】
しかしながら、不飽和脂肪酸等のいわゆる二重結合を有する油は、熱や光に対する安定性が悪く、長期間放置すると変色する可能性がある。
【0005】
一方、飽和炭化水素であるスクワランは一般に、不飽和炭化水素であるスクワレンに水素を添加して作製され、熱や光に対して安定性が高いことが知られている。また、皮膚に対する浸透性や潤滑性に優れ、伸びが良く、乳化もしやすいことから従来より化粧品や医薬品の原料として用いられている。このような点から、フラーレンを溶解する溶媒としての検討も行われている(特許文献1、4〜6参照)。
【0006】
また、流動パラフィンは、ミネラルオイルとも呼ばれ、アルカン(一般式がCnH2n+2の鎖式飽和炭化水素)の混合物である。常温では無色の液体で、化学的に安定な物質であり通常の条件では酸化を受けないことから、従来より食品添加物、および化粧品や医薬品の原料として用いられており、フラーレンを溶解する溶媒としての検討も行われている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3506349号明細書
【特許文献2】特許第4360925号明細書
【特許文献3】特表2006−528204号公報
【特許文献4】特開2005−060380号公報
【特許文献5】特開2001−316251号公報
【特許文献6】国際公開WO2009/113426号パンフレット
【特許文献7】特開2005−132943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、スクワランや流動パラフィン等の飽和炭化水素は通常、フラーレンに対して溶解度が非常に低いことが知られている。例えば、特許文献1、4には、スクワランに50〜100ppm程度までしか溶解できなかったことが記載されている。特許文献5には、真空スクワラン中で酸素と水素の炎で炭素を燃焼させることによってフラーレンを含有するスクワランを製造する方法が記載されているが、この方法ではフラーレン以外の不純物がほとんどでありフラーレンは極微量を溶解することしかできない。
【0009】
なお、特許文献6の実施例には高濃度のフラーレンを溶解するスクワランを調製したことが記載されているが、その具体的な調製方法に関する記載はない。また、一時的にはこのようにスクワランに対してフラーレンをある程度の高濃度で溶解できたとしても、この高濃度での溶解状態を長期間の間安定に保持することは難しい。
【0010】
一方、流動パラフィンについては、例えば特許文献1には流動パラフィンに100ppm以下しか溶解できなかったことが記載されている。そして溶解する際にはその他の不飽和脂肪酸やカルボン酸エステル油、界面活性剤等のフラーレンの溶解剤を混合することが一般的である(特許文献1、3、7参照)。
【0011】
そして、フラーレンを流動パラフィンやスクワラン等の飽和炭化水素に高濃度かつ安定に溶解した溶液を得ることができれば、化粧品を調製する際に様々な成分との組み合わせが可能となり、その他、各種の分野においての応用も期待できることから、フラーレンを飽和炭化水素に高濃度かつ安定に溶解した溶液、例えば数ヶ月を超えても沈殿等を生じることなく200ppm以上の溶解状態を維持できる溶液を調製可能な方法が望まれていた。
【0012】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、フラーレンを高濃度かつ安定に溶解した飽和炭化水素溶液を調製することができるフラーレンの飽和炭化水素溶液の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0014】
第1:フラーレンをトルエンに予め溶解させ、この溶液と油状の飽和炭化水素とを混合し、この混合液からトルエンを減圧留去してフラーレンを溶解する飽和炭化水素溶液を調製することを特徴とするフラーレンの飽和炭化水素溶液の製造方法。
【0015】
第2:飽和炭化水素は、スクワランであることを特徴とする上記第1のフラーレンの飽和炭化水素溶液の製造方法。
【0016】
第3:飽和炭化水素は、流動パラフィンであることを特徴とする上記第1のフラーレンの飽和炭化水素溶液の製造方法。
【0017】
第4:フラーレンをシクロヘキサンに予め溶解させ、この溶液と油状の飽和炭化水素とを混合し、この混合液からシクロヘキサンを減圧留去してフラーレンを溶解する飽和炭化水素溶液を調製することを特徴とするフラーレンの飽和炭化水素溶液の製造方法。
【0018】
第5:飽和炭化水素は、スクワランであることを特徴とする上記第4のフラーレンの飽和炭化水素溶液の製造方法。
【0019】
第6:飽和炭化水素は、流動パラフィンであることを特徴とする上記第4のフラーレンの飽和炭化水素溶液の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、フラーレンを高濃度かつ安定に溶解した飽和炭化水素溶液を得ることができる。例えば、200ppm以上の高濃度で長期間安定にフラーレンを溶解可能な飽和炭化水素溶液を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
本発明において、フラーレンとしては、例えば、C60を用いることができる。またスクワランに溶解させる原料としては、C60、C70、またはこれらを含む混合物を用いることができる。
【0023】
本発明において、飽和炭化水素としては、常温(25℃)で液状(油状)のものを用いることができる。
【0024】
具体的には、例えば、沸点が150℃以上のものを用いることができる。また、炭素数が好ましくは10以上、より好ましくは15〜40、さらに好ましくは15〜35の直鎖または分岐の鎖状アルカンまたはその混合物を用いることができる。例えば、飽和炭化水素としてスクワラン、流動パラフィン等を用いることができる。
【0025】
スクワランとしては、例えば、市販されている植物由来のスクワラン、動物や魚類由来のスクワラン、化学合成されたスクワラン等を用いることができる。純度は種類にもより、特に限定されないが、好ましくは例えば90%以上、より好ましくは99%以上である。
【0026】
流動パラフィンは、石油原油を蒸留し固形パラフィンを除去して精製した無色の透明な液体であり、市販のものを用いることができる。純度は特に限定されないが、実質的に紫外線吸収性の不純物をほぼ含有しないレベルまで精製されたものを用いることができる。また、使用目的に応じて、日本薬局方における流動パラフィンの純度試験、日本国で定められた、食品添加物基準における流動パラフィンの純度試験、および医薬部外品原料規格における流動パラフィンの純度試験のうち少なくとも1つに合格しているものは、作業・衛生の面においてもより好適である。
【0027】
本発明では、フラーレンを置換溶媒としてのトルエンまたはシクロヘキサンに予め溶解させ、この溶液と飽和炭化水素とを混合し、この混合液からトルエンまたはシクロヘキサンを減圧留去してフラーレンを溶解する飽和炭化水素溶液を調製する。
【0028】
置換溶媒としてトルエンを用いる場合、例えば、最終的に調製する飽和炭化水素溶液のフラーレン濃度を考慮してトルエンに所定量のフラーレンを溶解し、室温付近または必要に応じて加温しながら攪拌を行い、必要に応じてフィルターで濾過してトルエン溶液を調製する。このトルエン溶液のフラーレン濃度は、好ましくは200〜2800ppm、より好ましくは200〜1200ppmである。
【0029】
次に、このトルエン溶液と飽和炭化水素とを混合する。飽和炭化水素の配合量は最終的に調製するスクワラン溶液のフラーレン濃度や減圧留去の条件等を考慮して適宜の量とすることができる。混合は、特に限定されないが、例えば、室温等の条件で攪拌することにより行うことができる。
【0030】
このトルエン溶液と飽和炭化水素との混合液からトルエンを減圧留去する際には、圧力および温度の条件は、特に限定されないが、好ましくは圧力0〜0.1MPa、温度40℃〜150℃、より好ましくは、0.001〜0.1MPa、温度85℃〜150℃以下の条件で行われる。温度が高過ぎるとC60が酸化または誘導体化する場合がある。
【0031】
このようにしてフラーレンの飽和炭化水素溶液を調製することができる。なお、減圧留去後に飽和炭化水素をさらに添加してもよく、また、減圧留去後に飽和炭化水素をさらに添加した後、再度トルエンを減圧留去してもよい。あるいは、減圧留去後、減圧下に放置して残留トルエンをさらに除去し、次いで飽和炭化水素を添加するようにしてもよい。
【0032】
以上のような処理により、飽和炭化水素溶液中のトルエンを、トルエン臭が確認されないかまたは微かな程度になるまで除去することができる。飽和炭化水素溶液中のトルエン残留量は、特に限定されないが、例えば890ppm以下、さらには100ppm以下とすることができる。
【0033】
置換溶媒としてシクロヘキサンを用いる場合、例えば、最終的に調製する飽和炭化水素溶液のフラーレン濃度を考慮してシクロヘキサンに所定量のフラーレンを溶解し、室温付近または必要に応じて加温しながら攪拌を行い、必要に応じてフィルターで濾過してシクロヘキサン溶液を調製する。このシクロヘキサン溶液のフラーレン濃度は、好ましくは10〜40ppm、より好ましくは30〜36ppmである。
【0034】
次に、このシクロヘキサン溶液と飽和炭化水素とを混合する。飽和炭化水素の配合量は最終的に調製する飽和炭化水素溶液のフラーレン濃度や減圧留去の条件等を考慮して適宜の量とすることができる。混合は、特に限定されないが、例えば、室温等の条件で攪拌することにより行うことができる。
【0035】
このシクロヘキサン溶液と飽和炭化水素との混合液からシクロヘキサンを減圧留去する際には、圧力および温度の条件は、特に限定されないが、好ましくは圧力0〜0.1MPa、温度40℃〜150℃、より好ましくは、圧力0.001MPa〜0.1MPa、温度85〜150℃の条件で行われる。温度が高過ぎるとC60が酸化または誘導体化する場合がある。
【0036】
このようにしてフラーレンの飽和炭化水素溶液を調製することができる。なお、減圧留去後に飽和炭化水素をさらに添加してもよく、また、減圧留去後に飽和炭化水素をさらに添加した後、再度シクロヘキサンを減圧留去してもよい。あるいは、減圧留去後、減圧下に放置して残留シクロヘキサンをさらに除去し、次いで飽和炭化水素を添加するようにしてもよい。
【0037】
以上のような処理により、飽和炭化水素溶液中のシクロヘキサンを、シクロヘキサン臭が確認されないかまたは微かな程度になるまで除去することができる。飽和炭化水素溶液中のシクロヘキサン残留量は、特に限定されないが、例えば3880ppm以下、さらには500ppm以下とすることができる。
【0038】
以上のようにして、典型的には200ppm以上の高濃度のフラーレンを溶解する飽和炭化水素溶液を調製することができる。しかもこの溶液は長期間安定で、例えば、室温にて数ヶ月間放置しても沈殿は発生せず変色も起こらない。また、超音波処理時において発生するような臭気も生じることがない。
【0039】
本発明の製造方法により得られたフラーレンの飽和炭化水素溶液は、高濃度で安定にフラーレンを溶解していることから、例えば、化粧品、医薬品等の油性原料として好適に用いることができる。この飽和炭化水素溶液は、例えば、フラーレンに基づく抗酸化作用、活性酸素消去作用、細胞傷害抑制作用、メラニン生成抑制作用、抗脂漏作用、育毛作用等の有効成分としても用いることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0041】
フラーレンを飽和炭化水素に高濃度で長期間安定に溶解する方法、特にC60濃度が200ppm以上の安定な飽和炭化水素溶液を調製することができる方法について、下記の各種の溶解方法で検討を行った。
【0042】
フラーレン含有の原料として、C60およびC70を主成分とするフラーレン混合物(本荘ケミカル(株)製)およびC60(ALDRICH, 99.9%)を用いた。
【0043】
飽和炭化水素として、スクワラン(植物性スクワラン)および流動パラフィンを用いた。
【0044】
フラーレンの濃度の測定は比色(目視)にて行い、必要に応じてHPLCにてC60の量を測定することで行った。
【0045】
HPLCの条件は次のとおりである。
検出器:紫外吸光度計
カラム:Inertsil ODS-2 4.6×250mm GLサイエンス(株)
カラム温度:40℃
移動相:メタノール420mLを量り、トルエンを加えて1000mLとする。
希釈条件:調製した試料を約100mg量りとり、移動相にて正確に50mLとする。
<比較例1> メノウ鉢を用いた粉砕混合溶解
(試験方法)
フラーレン混合物20.7mgに植物性スクワラン((株)岸本特殊肝油工業所製)を1滴ずつ添加し、メノウ鉢(乳鉢)で攪拌しながら約30gとなるようにした(20分程度)。その後、80℃水浴にて2時間加熱した。これを0.2μmフィルターにて濾過し、試料溶液とした。
(結果)
C60濃度:21.9ppm
なお、乳鉢攪拌のみでは試料溶液の色調が80℃水浴にて加熱したものと比較するとかなり薄かったため、HPLCでの濃度分析を行わなかった。
<比較例2> 超音波処理による溶解
分散、溶解法として汎用されている超音波を用いた溶解について検討を行った。
(試験方法)
フラーレン混合物46.8mgに植物性スクワラン30gを加え、超音波洗浄器(HONDA社製ULTRASONIC CLEANER W-232)にて超音波を30分間照射した。その後、0.2μmフィルターにて濾過し、試料溶液とした。
(結果)
C60濃度:21ppm
超音波処理後、独特の臭いが出てしまった。
<比較例3−1> 攪拌溶解(1)
(試験方法)
表1の条件でフラーレン混合物に植物性スクワラン((株)岸本特殊肝油工業所製)を加え、室温(18℃)にて90分間スターラーにより攪拌を行った。その後、この溶液を0.8μmフィルターにて濾過し、試料溶液とした。
(結果)
【0046】
【表1】

【0047】
室温下での攪拌では200ppm以上の試料調製はできなかった。
<比較例3−2> 攪拌溶解(2)
(試験方法)
表2の条件でフラーレン混合物に植物性スクワラン((株)岸本特殊肝油工業所製)を加え、50℃の水浴にて90分間スターラーにより攪拌を行った。その後、この溶液を0.8μmフィルターにて濾過し、試料溶液とした。
(結果)
【0048】
【表2】

【0049】
攪拌時の温度を上げることで、C60の溶解度は増加した。しかし、後日に沈殿が析出した。
<比較例3−3> 攪拌溶解(3)
攪拌時の温度を高くし、攪拌時間を長くすることで、200ppm以上の試料の調製ができるかどうかについて検討を行った。
(試験方法)
フラーレン混合物24.9mgに植物性スクワラン((株)岸本特殊肝油工業所製)51.3gを加え、90℃の水浴にて7時間スターラーにより攪拌を行った。その後、0.8μmフィルターにて濾過を行い、試料溶液とした。
(結果)
C60濃度:109ppm
攪拌時の温度を高くし、攪拌時間を長くしても、200ppm以上の試料は調製できなかった。また、50℃での攪拌溶解時よりも濃度が薄くなってしまい、攪拌温度および攪拌時間との間に相関関係が見られなかった。
【0050】
以上の比較例3−1〜比較例3−3より、加温、攪拌溶解では200ppm以上の試料調製は困難であった。
<比較例4> 減圧下での溶解
減圧下での溶解は工業的によく用いられる溶解方法である。そこで、フラーレンのスクワランへの溶解にこの方法が有効であるかどうかについて検討を行った。
(試験方法)
フラーレン混合物24.5mgと植物性スクワラン(高級アルコール工業(株)製)45gを減圧しながら(0.1MPa)、150℃オイルバスにて2時間攪拌した。その後、0.8μmフィルターにて濾過し、得られた試料溶液をHPLCにて分析した。
(結果)
30分間処理 C60濃度:83.9ppm
2時間処理 C60濃度:76.4ppm
減圧し始めてから5分位は溶液から泡が出ており、スクワラン中に含まれる沸点の低い不純物が減圧留去されていたのではないかと考えられる。減圧処理を行うことで、色調は幾分濃くなった。また、30分間処理したものと、2時間処理した溶液の色調にあまり変化はなかった。このことより、長時間処理しても200ppm以上溶解することは難しいと考えられる。
<比較例5> トルエン処理
スクワランに溶解する前にフラーレン混合物を一旦トルエンで溶解し、トルエンを留去した後に、スクワランを添加する方法を試みた。これにより、フラーレン中にトルエン分子が入り込み、溶媒に溶解しやすい状態を期待した。
(結果)
ナスフラスコの壁にフラーレンが張り付いてしまい、スクワランにさらに溶解しにくくなってしまった。
<比較例6−1> ボールミル処理(1)
(試験方法)
ボールミル(FRITSCH社製)用容器(500mL)にフラーレン混合物49.9mg、植物性スクワラン(高級アルコール工業(株)製)97.3g、およびボールミルを加え、450rpmにて15分間処理した。その後0.8μmフィルターにて濾過し、得られた試料溶液の色調を比較した。
(結果)
C60濃度:137.3ppm
色調がかなり薄かった。
<比較例6−2> ボールミル処理(2)
(試験方法)
比較例6−1で調製した溶液をさらに1時間処理し、0.8μmフィルターにて濾過し、得られた試料溶液の色調を比較した。
(結果)
比較例6−1よりも試料溶液の色調が濃くなり、処理時間を増やすことで、濃度が濃くなっていることが確認された。しかし、室温にて3〜4時間放置後、細かい不溶物が析出した。フィルター濾過してみると、色調が比較例6−1よりも薄くなり、C60濃度もかなり下がってしまっていると考えられる。
<比較例6−3> ボールミル処理(3)
(試験方法)
比較例6−2で調製した溶液を一晩放置後、さらに2時間処理し、0.8μmフィルターにて濾過し、得られた試料溶液の色調を比較した。
(結果)
比較例6−1よりも試料溶液の色調が薄くなった。
[溶媒溶解調製法の検討]
以上の比較例より、物理溶解ではC60濃度200ppm以上のスクワラン溶液を調製することが難しいことが分かった。そこで、C60が植物性スクワランよりも溶解しやすい置換溶媒に溶解した後に、スクワランを添加、置換溶媒を留去する方法について検討を行った。
【0051】
置換溶媒としては医薬品の残留溶媒ガイドライン(クラス2)に記載のある化合物のうちトルエン、シクロヘキサン、およびn-ヘキサンの3種類の溶媒を用いた。
【0052】
【表3】

【0053】
まず、フラーレン混合物がぞれぞれの溶媒にどの程度溶解するのかを確認した。
(試験方法)
フラーレン混合物約45mgに置換溶媒75mLを加え、室温にて30分間攪拌した。攪拌後、0.2μmフィルターで濾過し、HPLCにてC60含有量を測定した。
(結果)
【0054】
【表4】

【0055】
表4に示されるように、シクロヘキサンおよびn-ヘキサンはトルエンと比較して溶解度が著しく低いので、溶解しやすくなるように、溶媒量と加温温度を変更した。シクロヘキサンは溶媒量150mL、温度70℃で30分攪拌を行い、n-ヘキサンは溶媒量150mL、温度43℃で2時間攪拌を行った。その結果、シクロヘキサンでは溶解温度を室温よりも高くすることで、フラーレン混合物の溶解量が増加することが分かった。また、n-ヘキサンでは温度を高くし、攪拌時間を長くすることで、溶解量が増加することが分かった。この条件で、シクロヘキサン、n-ヘキサンへの溶解を行うこととした。
【0056】
次に、実際にそれぞれの置換溶媒にフラーレン混合物を溶解し、スクワランと混合した後減圧留去を行い、C60濃度の検討を行った。
【0057】
試験方法の概略は次のとおりである。フラーレン混合物をそれぞれの置換溶媒に添加し、攪拌溶解した。その後、植物性スクワランを加え、ロータリーエバポレーターにて置換溶媒の留去を行った。ナスフラスコの重さを量り、置換溶媒がほぼなくなったのを確認後、残りのスクワランを追添、混合した。その後、必要に応じて、乾燥および再度の溶媒留去を行った。
<実施例1>
(調製方法)
フラーレン混合物41.9mgにトルエン(純正化学(株)製)45.5gを加え、30分間室温で攪拌機により攪拌した。0.2μm PTFEフィルターで濾過後、濾液に植物性スクワラン((株)岸本特殊肝油工業所製)66gを加えた。室温にて30分間攪拌後、ロータリーエバポレーターにて、トルエンを留去した(水浴温度80℃, 0.1MPa, 2h)。得られた溶液を試料溶液とし、HPLCにて定量分析を行った。
(結果)
C60濃度:279.1ppm
試料溶液からはトルエン臭が確認されなかった。また、この溶液を室温にて6ヶ月放置しても沈殿は発生せず変色も起こらなかった。
<実施例2>
(調製方法)
フラーレン混合物25mgにトルエン25g(29mL)を加え、30分間室温で攪拌機により攪拌した。0.2μm PTFEフィルターで濾過後、濾液に植物性スクワラン((株)岸本特殊肝油工業所製)25gを加えた。室温にて15分間攪拌後、ロータリーエバポレーターにて、トルエンを留去した(水浴温度90℃, 0.1MPa, 4h)。トルエン臭がしなくなったこと確認した後、さらに植物性スクワラン16gを添加し、10分間攪拌し、試料溶液を得た。
(結果)
C60濃度:217ppm
試料溶液からはトルエン臭が確認されなかった。また、ガスクロマトグラフィーによってトルエン濃度を測定したところ59ppmと十分にトルエンを留去できたことが確認できた。また、この溶液を室温にて2ヶ月放置しても沈殿は発生せず変色も起こらなかった。
<実施例3>
(調製方法)
フラーレン混合物20.9mgにトルエン51.9g(60mL)を加え、30分間室温で攪拌機により攪拌した。0.45μm PTFEフィルターで濾過後、濾液に植物性スクワラン((株)岸本特殊肝油工業所製)23.7gを加えた。室温にて30分間攪拌後、ロータリーエバポレーターにて、トルエンを留去した(水浴温度90℃, 0.1MPa, 2h)。この溶液に植物性スクワラン23.7gを添加、10分間攪拌後、0.45μmPTFEフィルターで濾過後、試料溶液を得た。
(結果)
C60濃度:233ppm
試料溶液の残留トルエン濃度は86ppmであった。また、この溶液を室温にて2ヶ月放置しても沈殿は発生せず変色も起こらなかった。
<実施例4>
(調製方法)
フラーレン混合物43.4mgにシクロヘキサン(和光純薬工業(株)製)150mLを加え、70℃水浴中で30分間攪拌機により攪拌した。0.2μm PTFEフィルターで濾過後、濾液に植物性スクワラン((株)岸本特殊肝油工業所製)17.7gを加えた。室温にて30分間攪拌後、ロータリーエバポレーターにて、シクロヘキサンを留去した(水浴温度80℃, 0.1MPa, 2h)。得られた溶液を試料溶液とし、HPLCにて定量分析を行った。
(結果)
C60濃度:277.0ppm
試料溶液からのシクロヘキサン臭は微かであった。また、この溶液を室温にて6ヶ月放置しても沈殿は発生せず変色も起こらなかった。
<実施例5>
(調製方法)
C60(ALDRICH, 99.9%)8.21mgにトルエン42.4gを加え、45分間室温で攪拌機により攪拌した。次に植物性スクワラン(高級アルコール工業(株)製)16.8gを加え、室温にて35分間攪拌後、ロータリーエバポレーターにて、トルエン留去を20分間行った(水浴温度92℃, 0.1MPa)。この溶液に植物性スクワラン14.15gを添加し混合した。この溶液をさらにロータリーエバポレーター(0.1MPa, 水浴92℃)で1時間乾燥させた。この溶液を0.45μmフィルターにて濾過し、試料溶液を得た。
(結果)
C60濃度:224.6ppm
色調は透明な紫色で、試料溶液からのトルエン臭は若干であった。また、この溶液を室温にて1週間放置しても沈殿は発生せず変色も起こらなかった。
<実施例6>
(調製方法)
フラーレン混合物27.3mgにトルエン24.3gを加え、30分間室温で攪拌機により攪拌した。0.2μm PTFEフィルターで濾過後、濾液に流動パラフィン(和光純薬工業(株)製)24.2gを加えた。室温にて30分間攪拌後、ロータリーエバポレーター(0.1MPa, 80℃)にて40分間トルエン留去を行った。さらに流動パラフィン20.6gを添加し、30分間撹拌機により室温で攪拌し、ロータリーエバポレーター(0.1MPa, 80℃)にて3時間減圧乾燥させた。さらに流動パラフィン9.2gを添加し、その後ロータリーエバポレーター(0.1MPa, 92℃)にて1時間25分間トルエン留去を行い、試料溶液を得た。
(結果)
C60濃度:250.0ppm
試料溶液からはトルエン臭が確認されなかった。また、この溶液を室温にて3週間放置しても沈殿は発生せず変色も起こらなかった。
<実施例7>
(調製方法)
フラーレン混合物24.5mgにトルエン40.8gを加え、30分間室温で攪拌機により攪拌した。0.2μm PTFEフィルターで濾過後、濾液に流動パラフィン(和光純薬工業(株)製)24.3gを加えた。室温にて30分間攪拌後、ロータリーエバポレーター(0.1MPa, 80℃)にて30分間トルエン留去を行った。さらに流動パラフィン16.4gを添加し、30分間撹拌機により室温で攪拌し、ロータリーエバポレーター(0.1MPa, 80℃)にて1時間30分減圧乾燥させた。さらに流動パラフィン15.3gを添加し、その後ロータリーエバポレーター(0.1MPa, 92℃)にて1時間25分間トルエン留去を行い、試料溶液を得た。
(結果)
C60濃度:250.8ppm
試料溶液からはトルエン臭が確認されなかった。また、この溶液を室温にて3週間放置しても沈殿は発生せず変色も起こらなかった。
<比較例7>
(調製方法)
フラーレン混合物42.0mgにn-ヘキサン(和光純薬工業(株)製)150mLを加え、43℃水浴中で2時間攪拌機により攪拌した。0.2μm PTFEフィルターで濾過後、濾液に植物性スクワラン((株)岸本特殊肝油工業所製)21.5gを加え、一晩放置した。
(結果)
沈澱が析出した。濾過しヘキサンを留去した後、C60濃度を測定したところ、91ppmであった。
<比較例8>
(調製方法)
フラーレン混合物45.4mgにn-ヘキサン(和光純薬工業(株)製)150mLを加え、65℃水浴中で2時間攪拌機により攪拌した。0.2μm PTFEフィルターで濾過後、濾液に植物性スクワラン((株)岸本特殊肝油工業所製)14.6gを加え、室温にて30分間攪拌後、ロータリーエバポレーターにてヘキサンを留去した(水浴温度80℃, 0.1MPa, 30min)。
【0058】
このとき、ヘキサン留去中に沈澱が生じた。これはヘキサンが揮発しやすいために、ヘキサンに溶解していたフラーレンがスクワランへ上手く移行できていなかったためと考えられる。また、ヘキサン留去により吸熱反応が起こり、温度が一時的に低くなるため、スクワランへの移行が起こりにくかったためとも考えられる。
【0059】
得られた溶液を試料溶液とし、HPLCにて定量分析を行った。
(結果)
C60濃度:176.0ppm
以上の実施例1〜7、比較例7、8の試験結果を表5に纏めて示す。
【0060】
【表5】

【0061】
<実施例8> 抗酸化活性の評価
抗酸化活性の評価は、日本老化制御研究所の「抗酸化能測定キット(油脂用)」を用いてキットに示された方法に従って行った。Cu2+試薬とサンプルを混合すると、サンプル中の抗酸化物質の還元作用によりCu+が生成する。Cu+は発色試薬(Bathocuproine)と複合体を形成し、480〜490nmにおいて吸光を示す。発生したCu+よりサンプルの抗酸化能(還元能)を評価した。
(設定群)
1.検体
・スクワラン溶解フラーレン(実施例1〜3と同様にしてトルエン溶媒置換法にて作製)
2.比較対象
・ビタミンE(α-トコフェロール、ナカライテスク(株))
・ビタミンA(レチノール、シグマ アルドリッチ社)
・アスタキサンチン(太陽化学(株))
(結果)
【0062】
【表6】

【0063】
抗酸化物質1mmolあたりの抗酸化活性はアスタキサンチン、ビタミンE、フラーレン、レチノール、の順で高い値を示した。これらの結果より、本発明の方法により調製されたフラーレンを高濃度に溶解したスクワラン溶液はビタミンA以上の抗酸化力が得られることが明らかとなり、この抗酸化力を利用すれば、化粧品等の様々な分野に利用できることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラーレンをトルエンに予め溶解させ、この溶液と油状の飽和炭化水素とを混合し、この混合液からトルエンを減圧留去してフラーレンを溶解する飽和炭化水素溶液を調製することを特徴とするフラーレンの飽和炭化水素溶液の製造方法。
【請求項2】
飽和炭化水素は、スクワランであることを特徴とする請求項1に記載のフラーレンの飽和炭化水素溶液の製造方法。
【請求項3】
飽和炭化水素は、流動パラフィンであることを特徴とする請求項1に記載のフラーレンの飽和炭化水素溶液の製造方法。
【請求項4】
フラーレンをシクロヘキサンに予め溶解させ、この溶液と油状の飽和炭化水素とを混合し、この混合液からシクロヘキサンを減圧留去してフラーレンを溶解する飽和炭化水素溶液を調製することを特徴とするフラーレンの飽和炭化水素溶液の製造方法。
【請求項5】
飽和炭化水素は、スクワランであることを特徴とする請求項4に記載のフラーレンの飽和炭化水素溶液の製造方法。
【請求項6】
飽和炭化水素は、流動パラフィンであることを特徴とする請求項4に記載のフラーレンの飽和炭化水素溶液の製造方法。

【公開番号】特開2011−256095(P2011−256095A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134467(P2010−134467)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(503272483)ビタミンC60バイオリサーチ株式会社 (16)
【Fターム(参考)】