説明

フルオレン−ベンゾチアジアゾール化合物及びそれを用いた有機電界発光素子

【課題】優れたオプトエレクトロニクス特性を有する新規フルオレン化合物、そのフルオレン化合物を含有する有機発光素子材料、及び高効率、高輝度及び高寿命の光出力が可能な有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】フルオレン化合物は、下記化学式(A)
【化1】


で示されるものである。発光素子材料は、このフルオレン化合物を含有するものである。有機電界発光素子は、陽極と陰極とからなる電極対の間にこの発光素子材料を含有する層を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光素子材料として用いることができる新規フルオレン化合物、及びそのフルオレン化合物を使用した発光素子材料、有機電界発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機電界発光素子に関する研究が活発に行われている。有機電界発光素子は、低印加電圧で高輝度の発光があり、薄型軽量の発光デバイス化が可能となることから、次世代ディスプレイ等への適用が期待される。
【0003】
発光効率と発光輝度とに優れ高寿命の有機電界発光素子を得るためには、オプトエレクトロニクス特性の優れた有機発光材料を、有機電界発光素子の構成材料として用いる必要がある。そのような発光材料として、様々な有機化合物が提案されている。中でも、芳香族環を含有するフルオレンやベンゾチアジアゾールは、高い発光効率と高い電子輸送性とを示すことから、最も期待される発光材料のひとつである。また、フルオレンとベンゾチアジアゾールとのコポリマーは、優れた蛍光発光材料として知られている。特許文献1には、アントラセン環以外の縮合多環式芳香族環とフルオレン環とが直接結合している炭化水素化合物と、それを利用した有機電界発光素子材料及び有機電界発光素子が示されている。
【0004】
しかし、より一層高効率、高輝度で発光し高寿命の有機電界発光素子を得るために、さらに優れたオプトエレクトロニクス特性を有する発光材料が求められているのが現状である。
【0005】
【特許文献1】特開2004−43349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れたオプトエレクトロニクス特性を有する新規フルオレン化合物、そのフルオレン化合物を含有する有機発光素子材料、及び高効率、高輝度及び高寿命の光出力が可能な有機電界発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載されたフルオレン化合物は、下記化学式(A)
【化1】

(式(A)中、−Rは炭素数1〜18のアルキル基、−Rは炭素数1〜18のアルキル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、カルバゾール基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいスチリル基、置換基を有していてもよいアリール基、nは1〜3の数)で示されることを特徴とする。前記−Rはヘキシル基であるとより好ましい。
【0008】
請求項2に記載のフルオレン化合物は、請求項1に記載されたもので、前記式(A)が、下記式(1)〜(7)
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

のうちのいずれかであることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発光素子材料は、請求項1〜2のいずれかに記載のフルオレン化合物を含有することを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の有機電界発光素子は、陽極と陰極とからなる電極対の間に、請求項3に記載の発光素子材料を含有する層を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
前記式(1)〜(7)で示されるフルオレン化合物は、本発明によって初めて合成された。これらのフルオレン化合物は温度安定性、化学的安定性に優れ、なおかつ高い蛍光量子収率や発光効率、優れた電子輸送性を示すため、蛍光発光材料として好適に使用できる。
【0012】
本発明のフルオレン化合物を含有する発光素子材料を用いて作製された有機電界発光素子は、印加電圧が低い場合でも高効率、高輝度に発光する。そのため、この有機電界発光素子はディスプレイ材料、照明材料、太陽電池、電界効果トランジスタ等に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0014】
本発明のフルオレン化合物は、フルオレンの両端にそれぞれベンゾチアジアゾールを有するπ共役オリゴマーである。
【0015】
本発明のフルオレン化合物の好ましい一例として、前記化学式(5)で示される化合物は以下の化学反応式のようにして合成される。
【0016】
【化9】

出発物質である9,9−ジヘキシルフルオレン−2,7−ジボロン酸に、4,7−ジブロモ−2,1,3−ベンゾチアジアゾールと、触媒であるトリフェニルホスフィンパラジウム(Pd(PPh)とを加えて、窒素気流下でSuzukiカップリング反応を行い、(i)で示した中間体を合成する。溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)とトルエンとを使用する。
【0017】
(i)の中間体に1−ビニル−4−(2,2−ジフェニル−ビニル)−ベンゼンを導入する。触媒としてパラジウムアセテート(Pd(OAc))とトリス(2−メチルフェニル)ホスフィンとを使用し、ジメチルホルムアミド(DMF)とトリブチルアミンとを溶媒として90℃で2日間撹拌還流させると、化学式(5)で示されるフルオレン化合物(分子量1163.58)を得ることができる。
【0018】
合成した化合物は、プロトン核磁気共鳴(H−NMR)、カーボン核磁気共鳴(13C−NMR)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI−TOF−Ms)によって生成を確認、同定する。
【0019】
前記化学式(1)〜(4)、(6)、(7)で示されるフルオレン化合物も、同様の反応で合成することができる。
【0020】
前記化学式(A)中の−Rは、前記化学式(1)〜(7)で−Rとして導入されている基の他に、アリール基、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、カルバゾール基であってもよく、これらの基はそれぞれ置換基を有していてもよい。
【0021】
フルオレン化合物は、−Rとして導入する置換基の種類によって、異なる蛍光発光を示す。−Rとしてスチルベンを有する前記化学式(5)で示される化合物はオレンジ色の発光を示し、−Rとしてトリフェニルアミンを有する前記化学式(2)で示される化合物は赤色の発光を示す。
【0022】
フルオレン化合物は、フルオレン−ベンゾチアジアゾールの単量体を基本骨格としているが、フルオレンの片末端にベンゾチアジアゾールを配したものをモノマーユニットとし、その3量体を基本骨格としてもよい。
【0023】
本発明の発光素子材料は、蛍光色素として前記のフルオレン化合物を含有するものである。発光素子材料は、有機電界発光素子の発光層の構成材料として用いられることが好ましいが、有機電界発光素子のホール注入層、ホール輸送層、電子注入層、電子輸送層等に含まれていてもよい。
【0024】
本発明の有機電界発光素子は、基板上に設けられた陽極と陰極との間に存在する層の少なくともひとつの層に、前記の発光素子材料を含有するものである。前記発光素子材料を含有する層は、発光層であると特に好ましい。
【0025】
前記発光素子材料を含有する層の形成方法は特に限定されない。例えば、印刷法やスピンコート法やスパッタリング法のようなウェットプロセス、真空蒸着法のようなドライプロセスといった、公知の方法を用いて成膜される。
【0026】
前記基板としては、例えばガラス基板、石英基板のような透明性基板、または金属製基板、セラミック製基板のような不透明性基板を用いることができる。
【0027】
前記陽極の材料としては仕事関数が大きなものが好ましく、例えば金、白金、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウムのような金属の単体;これらの金属の合金;酸化錫、酸化亜鉛、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウムのような金属酸化物が挙げられる。これらの陽極材料は、単独で陽極を構成してもよく、複数併用して構成してもよい。
【0028】
前記陰極の材料としては仕事関数が小さなものが好ましく、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、銀、鉛、錫、クロムのような金属の単体;これらの金属の合金が挙げられる。これらの陰極材料は、単独で陰極を構成してもよく、複数併用して構成してもよい。
【0029】
有機電界発光素子は、前記発光層に加えて、ホール注入層、ホール輸送層、ホールブロック層、電子輸送層、電子注入層等の層が設けられていてもよい。これらの層は、単層であっても多層であってもよく、また有機化合物層であっても無機化合物層であってもよい。
【0030】
具体的には、例えばホール注入層として銅フタロシアニンや4,4−ビス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)ビフェニル(mTDATA)、ホール輸送層として、4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(TPD)やN,N'−ビス(1−ナフチル)−N,N'−ジフェニルベンジジン(NPD)、ホールブロック層として2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(バソクプロイン;BCP)やビス(2−メチル−8−キノリノレート)(p−フェニルフェノレート)アルミニウム(BAlq)やバソフェンを用いることができる。また、電子輸送層としてアルミニウム トリス 8−ヒドロキシキノリン(Alq)や1,3,5−トリス(1−フェニル−2−ベンズイミダゾリル)ベンゼン(TPBi)を用いてもよい。
【実施例】
【0031】
本発明のフルオレン化合物を合成した例を合成例1〜6に示す。
【0032】
(合成例1) 2,7−ビス[(4−メチル)−2,1,3−ベンゾチアジアゾール]−9,9−ジヘキシルフルオレン(前記化学式(1)で示されるフルオレン化合物)の合成
THF5mlとトルエン4mlと2N炭酸カリウム水溶液3mlとの混合溶液に、9,9−ジヘキシルフルオレン−2,7−ジボロン酸の0.1g(2.37×10−4mol)と4−ブロモ−7−メチル−2,1,3−ベンゾチアジアゾールの0.12g(5.21×10−4mol)とを加え、窒素気流下で30分撹拌して溶解した。そこにトリフェニルホスフィンパラジウムの0.006g(4.74×10−6mol)を加えてさらに10分間撹拌した後、70℃で2日間撹拌還流した。エーテル/水で分液を行ってエーテル層を抽出し、硫酸マグネシウムで脱水処理を行った後、減圧濃縮した。シリカゲルカラム(石油エーテル:ジクロロメタン=1:1)を用いて精製を行い、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でさらに精製を行った後減圧濃縮して目的物を得た。得られた生成物は、H−NMR、13C−NMRにより同定した。尚、NMR測定には、NMR分光器AVANCE400(日本ブルカー社製)を使用した。
【0033】
収量(収率):0.08g(53%)
1H-NMR(CDCl3,400.13MHz):δ=7.97(d,J=8.0Hz,2H,ArH),7.92(s,2H,ArH),7.88(d,J=8.0Hz,2H,ArH),7.69(d,J=6.8Hz,2H,ArH),7.48(d,J=7.2Hz,2H,ArH),2.81(s,6H,Ar-CH3),2.08(m,4H,Ar-CH2-C5H11),1.12(m,12H,-CH2-),0.89(m,4H,-CH2-CH3),0.76(t,J=7.2Hz,6H,-(CH2)5-CH3),
13C-NMR(CDCl3):δ=156.17,153.69,151.64,140.68,136.51,132.52,130.38,128.41,128.12,127.76,123.84,119.89,55.38,40.25,31.50,29.78,23.97,22.60,17.99,14.04
【0034】
(合成例2) 2,7−ビス[4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル]−2,1,3−ベンゾチアジアゾール−9,9−ジヘキシルフルオレン(前記化学式(2)で示されるフルオレン化合物)の合成
【0035】
(2−1)
THF6mlとトルエン5mlと2N炭酸カリウム水溶液4mlとの混合溶液に、9,9−ジヘキシルフルオレン−2,7−ジボロン酸の0.25g(5.29×10−4mol)と4,7−ジブロモ−2,1,3−ベンゾチアジアゾールの0.56g(1.89×10−3mol)とを加え、窒素気流下で30分撹拌して溶解した。そこにトリフェニルホスフィンパラジウムの0.014g(1.18×10−6mol)を加えてさらに10分間撹拌した後、70℃で2日間撹拌還流した。エーテル/水で分液を行ってエーテル層を抽出し、硫酸マグネシウムで脱水処理を行った後、減圧濃縮した。シリカゲルカラム(石油エーテル:ジクロロメタン=8:2)を用いて精製を行い、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でさらに精製を行った後減圧濃縮して目的物を得た。得られた生成物は、H−NMR、MALDI−TOF−Msにより同定した。尚、MALDI−TOF−Ms測定には、Voyager DE Pro(PerSpeptive Biosystems社製)を使用した。
【0036】
収量(収率):0.45g(53%)
【0037】
(2−2)
THF4mlとトルエン3mlと2N炭酸カリウム水溶液2mlとの混合溶液に、2−1で得られた化合物の0.13g(1.71×10−4mol)と4−(ジフェニルアミノ)フェニルボロン酸の0.12g(4.27×10−4mol)とを加え、窒素気流下で30分撹拌して溶解した。そこにトリフェニルホスフィンパラジウムの0.004g(3.42×10−6mol)を加えてさらに10分間撹拌した後、70℃で2日間撹拌還流した。エーテル/水で分液を行ってエーテル層を抽出し、硫酸マグネシウムで脱水処理を行った後、減圧濃縮した。シリカゲルカラム(石油エーテル:ジクロロメタン=1:1)を用いて精製を行い、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でさらに精製を行った後減圧濃縮して目的物を得た。得られた生成物は、H−NMR、13C−NMRにより同定した。
【0038】
収量(収率):0.15g(79%)
1H-NMR(CDCl3,400.13MHz):δ=8.04(d,J=8.0Hz,1H,ArH),7.99(s,2H,ArH),7.91(m,5H,ArH),7.86(d,1H,J=7.6Hz,ArH),7.80(d,J=7.6Hz,1H,ArH),7.30(t,J=8.4Hz,8H,ArH),7.22(m,12H,ArH),7.15(t,J=7.6Hz,2H,ArH),7.07(t,J=7.6Hz,4H,ArH),6.75(t,J=7.6Hz,1H,ArH),6.68(d,J=8.4Hz,1H,ArH),2.11(m,4H,Ar-CH2-C5H11),1.13(m,12H,-CH2-),0.91(m,4H,-CH2-CH3),0.77(t,J=7.2Hz,6H,-(CH2)5-CH3),
13C-NMR(CDCl3):δ=154.41,154.22,151.73,147.52,140.86,136.46,131.03,129.97,129.38,128.29,128.03,127.36,124.96,123.97,123.35,122.92,120.00,115.11,77.33,77.01,76.70,55.45,40.30,31.53,29.80,24.01,22.61,14.05
【0039】
(合成例3) 2,7−ビス−4−(N,N−ジフェニルアミノ)−2,1,3−ベンゾチアジアゾール−9,9−ジヘキシルフルオレン(前記化学式(3)で示されるフルオレン化合物)の合成
乾燥トルエン5mlに、2−1で得られた化合物の0.15g(1.97×10−4mol)と、ジフェニルアミン0.073g(4.34×10−4mol)と、tert−ブトキシナトリウム0.076g(7.89×10−4mol)とを加え、窒素気流下で30分撹拌して溶解した。そこにパラジウムアセテート0.002g(9.86×10−6mol)を加えてさらに10分間撹拌した後、トリ−tert−ブチルホスフィン0.01ml(3.94×10−5mol)を加えて一晩撹拌した。エーテル/水で分液を行ってエーテル層を抽出し、硫酸マグネシウムで脱水処理を行った後、減圧濃縮した。シリカゲルカラム(石油エーテル:ジクロロメタン=1:1)を用いて精製を行い、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でさらに精製を行った後減圧濃縮して目的物を得た。得られた生成物は、H−NMR、13C−NMR、MALDI−TOF−Msにより同定した。
【0040】
収量(収率):0.18g(100%)
1H-NMR(CDCl3,400.13MHz):δ=7.99(d,J=8.0Hz,2H,ArH),7.94(s,2H,ArH),7.88(d,J=8.0Hz,2H,ArH),7.69(d,2H,J=7.6Hz,ArH),7.28(t,J=7.6Hz,10H,ArH),7.11(m,12H,ArH),2.08(m,4H,Ar-CH2-C5H11),1.11(m,12H,-CH2-),0.87(m,4H,-CH2-CH3),0.75(t,J=7.2Hz,6H,-(CH2)5-CH3)
13C-NMR(CDCl3):δ=151.62,147.73,138.90,136.34,130.06,129.24,128.29,128.04,124.08,123.89,123.69,123.06,119.91,77.33,77.02,76.70,55.36,40.32,31.53,29.80,23.96,22.60,14.05
MALDI-TOF-Ms(Dithranol):m/z=937.23,calculated for C61H56N6S2;937.27
【0041】
(合成例4) 2,7−ビス(4−カルバゾール−9−イル)−2,1,3−ベンゾチアジアゾール−9,9−ジヘキシルフルオレン(前記化学式(4)で示されるフルオレン化合物)の合成
乾燥トルエン10mlに、2−1で得られた化合物の0.30g(3.94×10−4mol)と、カルバゾール0.15g(8.68×10−4mol)と、tert−ブトキシナトリウム0.15g(7.89×10−5mol)とを加え、窒素気流下で30分撹拌して溶解した。そこにパラジウムアセテート0.004g(1.97×10−5mol)を加えてさらに10分間撹拌した後、トリ−tert−ブチルホスフィン0.019ml(7.89×10−5mol)を加えて100℃で一晩撹拌した。エーテル/水で分液を行ってエーテル層を抽出し、硫酸マグネシウムで脱水処理を行った後、減圧濃縮した。シリカゲルカラム(石油エーテル:ジクロロメタン=1:1)を用いて精製を行い、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でさらに精製を行った後減圧濃縮して目的物を得た。
【0042】
収量(収率):0.19g(51%)
【0043】
(合成例5) 2,7−ビス[4−(2,2−ジフェニル−ビニル)−フェニル]−2,1,3−ベンゾチアジアゾール−9,9−ジヘキシルフルオレン(前記化学式(5)で示されるフルオレン化合物)の合成
【0044】
(5−1)
4−ブロモベンジルブロミン1g(4.0×10mol)にトリエチルホスフィン2.1ml(1.2×10mol)を加え、145℃で一晩撹拌還流した。過剰のトリエチルホスフィンを減圧蒸留によって除去し、1−ブロモ−4−(ジエチルホスフィノイルメチル)ベンゼンを得た。
【0045】
(5−2)
THF20mlにtert−ブトキシカリウム1.12g(1.0×10−2mol)を加えて、氷浴中で撹拌した。そこへ、THF10mlにベンゾフェノン0.73g(4.0×10−3mol)と5−1で得られた1−ブロモ−4−(ジエチルホスフィノイルメチル)ベンゼンの1.23g(4.0×10−3mol)とを溶解した溶液をゆっくりと滴下して、70℃で一晩撹拌還流した。反応混合物を氷水に注いで塩酸で中和した。その後エーテル/水で分液を行ってエーテル層を抽出し、硫酸マグネシウムで脱水処理を行った後、減圧濃縮した。シリカゲルカラム(石油エーテル:ジクロロメタン=1:1)を用いて精製を行い、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でさらに精製を行った後減圧濃縮して、1−ブロモ−4−(2,2−ジフェニルビニル)ベンゼンを得た。
【0046】
収量(収率):0.89g(66%)
【0047】
(5−3)
乾燥トルエン5mlに、5−2で得られた1−ブロモ−4−(2,2−ジフェニルビニル)ベンゼンの0.47g(1.40×10−3mol)と、2,6−ジtert−ブチル−4−メチルフェノールの0.03g(1.36×10−4mol)とを加え、窒素気流下で30分撹拌して溶解した。そこにトリフェニルホスフィンパラジウム0.014g(2.80×10−5mol)を加えてさらに10分間撹拌した後、トリブチル(ビニル)スズ0.49ml(1.68×10−3mol)を加えて100℃で一晩撹拌した。エーテル/フッ化カリウム水溶液で分液を行ってエーテル層を抽出し、硫酸マグネシウムで脱水処理を行った後、減圧濃縮した。シリカゲルカラム(石油エーテル:ジクロロメタン=8:2)を用いて精製を行い、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でさらに精製を行った後減圧濃縮して、1−ビニル−4−(2,2−ジフェニルビニル)ベンゼンを得た。
【0048】
収量(収率):0.18g(45%)
【0049】
(5−4)
乾燥トルエン8mlに、2−1で得られた化合物の0.22g(2.89×10−4mol)と、5−3で得られた1−ビニル−4−(2,2−ジフェニルビニル)ベンゼンの0.18g(6.36×10−4mol)とを溶解し、さらにパラジウムアセテート0.002g(1.16×10−5mol)と、トリス(2−メチルフェニル)ホスフィン0.018g(5.78×10−5mol)とを加えて、窒素気流下で20分間撹拌した。そこに乾燥トリブチルアミン3.0ml(1.26×10−2mol)を加えて90℃で2日間撹拌還流した。溶媒を減圧濃縮し、シリカゲルカラム(石油エーテル:ジクロロメタン=1:1)を用いて精製を行い、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でさらに精製を行った後減圧濃縮して目的物を得た。得られた生成物は、H−NMR、13C−NMR、MALDI−TOF−Msにより同定した。
【0050】
収量(収率):0.22g(67%)
1H-NMR(CDCl3,400.13MHz):δ=8.01(d,J=7.6Hz,2H,ArH),7.97(d,J=7.2Hz,2H,ArH),7.90(d,J=8.0Hz,2H,ArH),7.79(d,2H,J=7.6Hz,ArH),7.76(d,J=7.6Hz,2H,ArH),7.67(s,1H,ArH),7.62(s,1H,ArH),7.45(d,J=8.4Hz,4H,ArH),7.31(m,22H,ArH),7.06(d,J=8.4Hz,4H,-CH=CH-),7.00(s,2H,ArH),2.11(m,4H,Ar-CH2-C5H11),1.13(m,12H,-CH2-),0.88(m,4H,-CH2-CH3),0.77(t,J=6.8Hz,6H,-(CH2)5-CH3)
13C-NMR(CDCl3):δ=143.33,137.42,136.38,135.89,132.78,130.40,129.98,129.45,128.76,128.24,127.79,127.62,126.75,126.57,124.28,120.01,77.33,77.01,76.69,31.50,29.77,23.97,22.60,14.06
MALDI-TOF-Ms (Dithranol):m/z=1163.51,calculated for C81H70N4S2;1163.58
【0051】
(合成例6) 2,7−ビス{4−[4−(10,11−ジヒドロ−ジベンゾシクロヘプタン−5−イリデンメチル)−フェニル]−2,1,3−ベンゾチアジアゾール}−9,9−ジヘキシルフルオレン(前記化学式(6)で示されるフルオレン化合物)の合成
【0052】
(6−1)
THF20mlにtert−ブトキシカリウム1.12g(1.0×10−2mol)を加えて、氷浴中で撹拌した。そこへ、THF10mlにジベンゾスベロン0.83g(4.0×10−3mol)と5−1で得られた1−ブロモ−4−(ジエチルホスフィノイルメチル)ベンゼンの1.23g(4.0×10−3mol)とを溶解した溶液をゆっくりと滴下して、70℃で一晩撹拌還流した。反応混合物を氷水に注いで塩酸で中和した。その後エーテル/水で分液を行ってエーテル層を抽出し、硫酸マグネシウムで脱水処理を行った後、減圧濃縮した。シリカゲルカラム(石油エーテル:ジクロロメタン=1:1)を用いて精製を行い、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でさらに精製を行った後減圧濃縮して、5−(4−ブロモベンジリデン)−10,11−ジヒドロ−5H−ジベンゾシクロヘプタンを得た。
【0053】
収量(収率):0.41g(44%)
【0054】
(6−2)
乾燥トルエン5mlに、6−1で得られた化合物の0.40g(1.11×10−3mol)と、2,6−ジtert−ブチル−4−メチルフェノールの0.03g(1.36×10−4mol)とを加え、窒素気流下で30分撹拌して溶解した。そこにトリフェニルホスフィンパラジウム0.026g(2.21×10−5mol)を加えてさらに10分間撹拌した後、トリブチル(ビニル)スズ0.39ml(1.33×10−3mol)を加えて100℃で一晩撹拌した。エーテル/フッ化カリウム水溶液で分液を行ってエーテル層を抽出し、硫酸マグネシウムで脱水処理を行った後、減圧濃縮した。シリカゲルカラム(石油エーテル:ジクロロメタン=8:2)を用いて精製を行い、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でさらに精製を行った後減圧濃縮して、5−(4−ビニルベンジリデン)−10,11−ジヒドロ−5H−ジベンゾシクロヘプタンを得た。
【0055】
収量(収率):0.20g(59%)
【0056】
(6−3)
乾燥DMF7mlに、2−1で得られた化合物の0.15g(1.97×10−4mol)と、6−2で得られた化合物の0.13g(4.34×10−4mol)とを溶解し、さらにパラジウムアセテート0.002g(7.89×10−6mol)と、トリス(2−メチルフェニル)ホスフィン0.012g(3.94×10−5mol)とを加えて、窒素気流下で20分間撹拌した。そこに乾燥トリブチルアミン3.0ml(1.26×10−2mol)を加えて90℃で2日間撹拌還流した。溶媒を減圧濃縮し、シリカゲルカラム(石油エーテル:ジクロロメタン=1:1)を用いて精製を行い、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でさらに精製を行った後減圧濃縮して目的物を得た。
【0057】
収量(収率):0.13g(54%)
【0058】
(紫外・可視(UV−Vis)スペクトル測定)
V−650分光光度計(日本分光(株)社製)を使用して、合成例1、2、3、5で得られた化合物のジクロロメタン中におけるUV−Visスペクトル測定を行った。結果を図1に示す。
【0059】
(蛍光スペクトル測定)
FP−750分光蛍光光度計(日本分光(株)社製)を使用して、合成例1、2、3、5で得られた化合物のフルオレンの励起波長における蛍光スペクトル測定を行った。結果を図2に示す。
【0060】
UV−Visスペクトル測定の結果、いずれの化合物も310nm付近にフルオレン由来のピークがみられた。また、合成例2、3、5の化合物では、460から490nm付近にベンゾチアジアゾールに由来するピークが観察された。さらに、合成例2と合成例3の化合物では340nm付近に、合成例5の化合物では350nm付近に、それぞれフルオレン−ベンゾチアジアゾールの周辺置換基に由来するピークがみられた。
【0061】
蛍光スペクトル測定の結果、合成例5の化合物では570nm付近にベンゾチアジアゾールに由来する蛍光ピークが、また合成例2と3の化合物では630nm付近にそれぞれトリフェニルアミン、ジフェニルアミンに由来する蛍光ピークが、観察された。
【0062】
合成例2、3、5の化合物のUV−Visスペクトル及び蛍光スペクトルのピークを、合成例1の化合物のピークと比較すると、それぞれレッドシフトしていることがわかる。このレッドシフトは、合成例5の化合物については共役長の増大によるものであり、合成例2と3の化合物についてはドナー性置換基であるアミノ基の導入に伴う分子内相互作用によるものであると考えられる。
【0063】
(蛍光量子収率測定)
有機EL量子収率測定装置(浜松ホトニクス社製)を使用して、合成例1〜6で得られた化合物についてそれぞれの励起波長における蛍光量子収率を測定した。結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

表1から明らかなとおり、いずれの化合物でも良好な蛍光量子収率が得られた。
【0065】
次に、合成例2、3、4、6で得られた化合物を用いて有機電界発光素子(EL素子)を作製した例を、実施例1〜4に示す。
【0066】
(実施例1)
素子構成は、ITO/PEDOT−PSS/合成例2の化合物、及びFlFl/LiF/Ca/Alである。
【0067】
ガラス基板上に、陽極としてITOをスパッタ法にて150nmの膜厚で成膜し、中性洗剤、アルカリ性洗剤、純水、アセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄、乾燥した。
【0068】
次いで前記陽極の上に、ホール輸送層として導電性高分子であるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(4−スチレンスルホナート)(PEDOT−PSS)層を形成した。PEDOT−PSS(Baytron P AI4083)をスピンコート法(2000rpm)にて50nmの膜厚で成膜し、200℃で乾燥、焼成した。
【0069】
次いで前記ホール輸送層の上に、発光層として合成例2で得られた化合物の層を形成した。合成例2の化合物の4.5mgと、2,7−ビス(7,9,10−トリフェニルフルオランテニル)−9,9’ジヘキシルフルオレン(FlFl)の25.5mg(15重量%)とをp−キシレン1.0gに溶解し、フィルタリングの後スピンコート法(2000rpm)にて成膜後、140℃で乾燥、焼成し、膜厚80nmの発光層を得た。
【0070】
次いで前記発光層の上に、陰極としてフッ化リチウム(LiF)とカルシウム(Ca)とアルミニウム(Al)とを蒸着した。真空蒸着法にてフッ化リチウムを成膜速度0.1オングストローム/秒で0.5nmの膜厚で成膜し、次いでその上に、カルシウムを成膜速度0.3オングストローム/秒で20nmの膜厚で成膜し、次いでその上に、真空蒸着法にてアルミニウムを成膜速度1〜5オングストローム/秒で200nmの膜厚で成膜して、EL素子を作製した。
【0071】
(実施例2)
素子構成は、ITO/PEDOT−PSS/合成例3の化合物、FlFl/LiF/Ca/Alである。
【0072】
合成例2の化合物に代えて合成例3の化合物を使用したこと以外は実施例1と同様にして、EL素子を作製した。
【0073】
(実施例3)
素子構成は、ITO/PEDOT−PSS/合成例4の化合物、FlFl/LiF/Ca/Alである。
【0074】
合成例2の化合物に代えて合成例4の化合物を使用したこと以外は実施例1と同様にして、EL素子を作製した。
【0075】
(実施例4)
素子構成は、ITO/PEDOT−PSS/合成例6の化合物、FlFl/LiF/Ca/Alである。
【0076】
合成例2の化合物に代えて合成例6の化合物を使用したこと以外は実施例1と同様にして、EL素子を作製した。
【0077】
(電流密度、発光輝度の測定)
EL1003(プレサイスゲージ社製)を用い、実施例1〜4で作製したEL素子の電流密度と発光輝度とを測定した。実施例1で作製したEL素子の電流密度、発光輝度の測定結果を図3(a)に、その素子の励起波長を図3(b)に、実施例2で作製したEL素子の電流密度、発光輝度の測定結果を図4(a)に、その素子の励起波長を図4(b)に、実施例3で作製したEL素子の電流密度、発光輝度の測定結果を図5(a)に、その素子の励起波長を図5(b)に、実施例4で作製したEL素子の電流密度、発光輝度の測定結果を図6(a)に、その素子の励起波長を図6(b)に、それぞれ示す。
【0078】
図3〜6から明らかなように、実施例1のEL素子は580nm付近に、実施例2のEL素子は610nm付近に、実施例3のEL素子は550nm付近に、実施例4のEL素子は560nm付近に、それぞれ発光ピークを有していた。また、各実施例のEL素子は発光輝度が良好で、優れたエレクトロルミネッセンス特性を有していた。
【0079】
以上の結果から、本発明のフルオレン化合物はEL素子材料として有用であることが確認できた。
【0080】
合成例1、5の化合物を用いて作製したEL素子についても、同様に優れた発光輝度が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明を適用するフルオレン化合物のUV−Visスペクトルである。
【図2】本発明を適用するフルオレン化合物の蛍光スペクトルである。
【図3】実施例1で作製したEL素子の電流密度及び発光輝度を測定したグラフである。
【図4】実施例2で作製したEL素子の電流密度及び発光輝度を測定したグラフである。
【図5】実施例3で作製したEL素子の電流密度及び発光輝度を測定したグラフである。
【図6】実施例4で作製したEL素子の電流密度及び発光輝度を測定したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(A)
【化1】

(式(A)中、−Rは炭素数1〜18のアルキル基、−Rは炭素数1〜18のアルキル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、カルバゾール基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいスチリル基、置換基を有していてもよいアリール基、nは1〜3の数)で示されることを特徴とするフルオレン化合物。
【請求項2】
前記式(A)が、下記式(1)〜(7)
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

のうちのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のフルオレン化合物。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれかに記載のフルオレン化合物を含有することを特徴とする発光素子材料。
【請求項4】
陽極と陰極とからなる電極対の間に、請求項3に記載の発光素子材料を含有する層を有することを特徴とする有機電界発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−231051(P2008−231051A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74808(P2007−74808)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、経済産業省、地域新生コンソーシアム研究開発事業に係る委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】