説明

フルオロアルキルビニルエーテルの重合抑制方法

【課題】フルオロアルキルビニルエーテル、特に一般式 CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cOCH=CH2で表わされるフルオロアルキルビニルエーテルの貯蔵時や輸送工程において重合抑制が有効に行われる、それの重合抑制方法を提供する。
【解決手段】フルオロアルキルビニルエーテルに、それに可溶性の脂肪族モノアミンまたは脂肪族ジアミンを0.001〜0.1重量%の割合で添加してフルオロアルキルビニルエーテルの重合を抑制する。脂肪族モノアミンとしては、ヒドロキシアルキルアミン、トリアルキルアミンが、また脂肪族ジアミンとしては、アルキレンジアミンが好んで用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロアルキルビニルエーテルの重合抑制方法に関する。さらに詳しくは、フルオロアルキルビニルエーテルの貯蔵時や輸送工程において重合抑制が有効に行われる、それの重合抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロビニルエーテル、例えば一般式
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cOCH=CH2
n:1〜6
a:0〜4
b:1〜3
c:0〜3
で表わされるフルオロアルキルビニルエーテルは、光、熱、その他の要因によって極めて自己重合し易く、また貯蔵時においては淡黄色に変色するという問題点がみられ、これは製品品質低下の原因となる得る。
【0003】
本出願人の出願に係る発明を記載した特許文献1には、一般式
CnF2n+1O(C3F6O)a(CnF2n)(CmH2m)bCH2OH
で表わされる含フッ素アルコールと一般式
XCH2CH2OCH=CH2
で表わされるハロゲノエチルビニルエーテルとを、パラジウム触媒の存在下で脱XCH2CH2OH化反応させ、一般式
CnF2n+1O(C3F6O)a(CnF2n)(CmH2m)bCH2OCH=CH2
で表わされる含フッ素ビニルエーテルを製造する方法が記載されている。
【0004】
この反応において、生成した含フッ素ビニルエーテルの重合を抑制するために、アルカリ金属水酸化物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を、用いられた含フッ素アルコールに対して約0.01〜5重量%、好ましくは約0.05〜1重量%の割合で添加することが記載されているが、アルカリ金属水酸化物は生成した含フッ素ビニルエーテルに対してはほぼ不溶であるため、十分な重合抑制効果を得るには至っていない。また、貯蔵開始から1ヶ月後の時点で、アルカリ金属水酸化物の固体表面上に付着物の発生が確認されることから、これが重合抑制剤としての能力を著しく低下させてしまう要因の一つになるものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−1904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、フルオロアルキルビニルエーテル、特に一般式〔I〕
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cOCH=CH2
で表わされるフルオロアルキルビニルエーテルの貯蔵時や輸送工程において重合抑制が有効に行われる、それの重合抑制方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる本発明の目的は、フルオロアルキルビニルエーテルに、それに可溶性の脂肪族モノアミンまたは脂肪族ジアミンを0.001〜0.1重量%の割合で添加したフルオロアルキルビニルエーテルの重合抑制方法によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明方法により、フルオロアルキルビニルエーテル、特に一般式〔I〕
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cOCH=CH2
で表わされるフルオロアルキルビニルエーテルの貯蔵時や輸送工程において重合抑制が有効に行われる。
【0009】
具体的には、貯蔵時や輸送工程におけるフルオロアルキルビニルエーテルの純度の低下が大幅に改善され、また貯蔵1ヶ月後、3ヶ月後および5ヶ月後においても変色がみられないという効果が奏せられる。
【0010】
脂肪族モノ-またはジ-アミン化合物を重合抑制剤として用いたフルオロアルキルビニルエーテルの長期における保存安定性評価試験では、純度の低下はいずれも1.0GC%以下であって、極めて効果的である。すなわち、本発明で用いられた脂肪族アミン系重合抑制剤は、フルオロアルキルビニルエーテルに対する溶解性の向上に伴い、フルオロアルキルビニルエーテルの重合を効果的に抑制することができ、そのため品質の安定化に大きく寄与しているといえる。
【0011】
また、本発明の重合抑制方法では、フルオロアルキルビニルエーテルに対し所定量の重合抑制剤を、貯蔵時あるいは輸送工程に先立って、単に添加するだけでよいことから、簡便性をも兼ね備えたものであるといえる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明方法によって重合が抑制されるフルオロアルキルビニルエーテルとしては、好ましくは前記一般式〔I〕で表わされるビニルエーテル化合物が挙げられ、ここで、aは0〜4、好ましくは1〜4、またcは0〜3、好ましくは1〜3の化合物が挙げられ、具体的には次のような化合物が挙げられる。
C2F5(CF2CF2)(CH2CH2)OCH=CH2
C2F5(CF2CF2)2(CH2CH2)OCH=CH2
C2F5(CF2CF2)3(CH2CH2)OCH=CH2
C4F9(CF2CF2)(CH2CH2)OCH=CH2
C4F9(CF2CF2)2(CH2CH2)OCH=CH2
C6F13(CF2CF2)(CH2CH2)OCH=CH2
CF3(CH2CF2)(CF2CF2)(CH2CH2)OCH=CH2
CF3(CH2CF2)(CF2CF2)(CH2CH2)3OCH=CH2
CF3(CH2CF2)2(CF2CF2)(CH2CH2)OCH=CH2
CF3(CH2CF2)(CF2CF2)2(CH2CH2)OCH=CH2
CF3(CH2CF2)4(CF2CF2)(CH2CH2)OCH=CH2
CF3(CH2CF2)(CF2CF2)3(CH2CH2)OCH=CH2
C3F7(CH2CF2)2(CF2CF2)2(CH2CH2)2OCH=CH2
C4F9(CH2CF2)(CF2CF2)2(CH2CH2)OCH=CH2
C6F13(CH2CF2)3(CF2CF2)(CH2CH2)OCH=CH2
C6F13(CH2CF2)4(CF2CF2)2(CH2CH2)2OCH=CH2
この他、C4F9OCH2CH2OCH=CH2等も用いられる。
【0013】
本発明で用いられる含フッ素ビニルエーテル化合物
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cOCH=CH2 〔I〕
は、含フッ素アルコール
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cCH2OH
と2-ハロエチルビニルエーテル
XCH2CH2OCH=CH2
とを、パラジウム系触媒および脂肪族アミン重合抑制の存在下で、脱XCH2CH2OH化反応させることによって製造される。
【0014】
これらのフルオロアルキルビニルエーテルの重合抑制剤として用いられる脂肪族アミンとしては、フルオロアルキルビニルエーテルに対して可溶性の脂肪族モノアミンまたはジアミンが少くとも一種用いられる。脂肪族モノアミンとしては、例えばモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等の炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン等の炭素数1〜8のアルキル基を有するトリアルキルアミンなどが挙げられ、また脂肪族ジアミンとしては、例えばヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン等の炭素数1〜8のアルキレン基を有する脂肪族ジアミンなどが挙げられ、好ましくはトリエタノールアミン、トリオクチルアミン、ヘキサメチレンジアミンが用いられる。
【0015】
これらの脂肪族モノアミンまたはジアミンは、フルオロアルキルビニルエーテルに対して約0.001〜0.1重量%、好ましくは0.003〜0.01重量%の割合で用いられ、例えばトリエタノールアミンを0.01重量%用いた場合には、5ヶ月経過時においても、純度の低下や変色は全くみられない。
【実施例】
【0016】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0017】
参考例
窒素雰囲気下、2-クロロエチルビニルエーテル688g(6.46モル)に、C4F9(CH2CF2)(CF2CF2)2(CH2CH2)OH(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,9,9,10,10,11,11,12,12,12-ノナデカフルオロドデカノール)341g(0.646モル;LC/MS/MS分析によるC8以上のパーフルオロカルボン酸およびその誘導体の含有量は、検出限界である10ppb以下である)、1.0モル%(1,10-フェナントロリン)酢酸パラジウム 2.4g(0.006モル)およびトリエタノールアミン 0.34g(0.002モル、2-クロロエチルビニルエーテルに対して500ppm)を加え、65℃で8時間撹拌した。未反応の2-クロロエチルビニルエーテルを減圧下で留去し、C4F9(CH2CF2)(CF2CF2)2(CH2CH2)OCH=CH2(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,9,9,10,10,11,11,12,12,12-ノナデカフルオロドデシルビニルエーテル)377g(90.1 GC%)を得た。収率は、95%であった。
【0018】
得られたノナデカフルオロドデシルビニルエーテルを、真空ポンプを取り付けた蒸留装置に用いて、純度91 GC%以上となるように蒸留精製した。この精製反応物は、1H-NMRおよび19F-NMRの結果から、次式で示される化合物であることが確認された。なお、LC/MS/MS分析によるC8以上のパーフルオロカルボン酸およびその誘導体の含有量は、全くの非検出であった。
C4F9(CH2CF2)(CF2CF2)2(CH2CH2)OCH=CH2
【0019】
実施例1
容量200mlのステンレス製容器に、参考例で得られた液状ノナデカフルオロドデシルビニルエーテル100gおよび所定量の各種重合抑制剤を入れた後、窒素ガスで容器内を封入し、室温条件下で貯蔵を開始し(貯蔵開始時の純度92.5GC%、無色透明)、貯蔵1ヶ月後、3ヶ月後および5ヶ月後にサンプリングして、ガスクロマトグラフィーにより純度(GC%)を算出すると共に、変色状態を観察した。
【0020】
得られた結果は、重合抑制剤の種類および添加量(フルオロアルキルビニルエーテルに対する重量割合)と共に、次の表1に記載される。
表1
重合抑制剤 1ヶ月後 3ヶ月後 5ヶ月後
種類 添加量 純度 変色 純度 変色 純度 変色
(HOC2H4)3N 0.003 92.3 なし 92.2 なし 91.6 なし
(HOC2H4)3N 0.01 92.5 なし 92.5 なし 92.5 なし
(C6H13)3N 0.01 92.4 なし 92.4 なし 91.9 なし
KOH 0.05 92.3 あり 91.8 あり 87.3 あり
なし − 91.0 あり 89.0 あり 82.4 あり
注) 変色はオレンジ色に変色
KOH、1ヶ月後では、KOH周囲に付着物あり
【0021】
実施例2
実施例1において、フルオロアルキルビニルエーテルとしてパーフルオロオクチルエチルビニルエーテルC8F17CH2CH2OCH=CH2(貯蔵開始時の純度88.3GC%、無色透明)が用いられた。得られた結果は、重合抑制剤の種類および添加量と共に、次の表2に示される。
表2
重合抑制剤 1ヶ月後 3ヶ月後 5ヶ月後
種類 添加量 純度 変色 純度 変色 純度 変色
(HOC2H4)3N 0.003 88.3 なし 87.9 なし 87.6 なし
(HOC2H4)3N 0.01 88.3 なし 88.2 なし 88.2 なし
(C6H13)3N 0.01 88.2 なし 87.9 なし 87.2 なし
KOH 0.05 88.1 あり 86.5 あり 82.5 あり
なし − 87.0 あり 84.8 あり 80.3 あり
注) 変色はオレンジ色に変色
KOH、1ヶ月後では、KOH周囲に付着物あり

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロアルキルビニルエーテルに、それに可溶性の脂肪族モノアミンまたは脂肪族ジアミンを0.001〜0.1重量%の割合で添加してなるフルオロアルキルビニルエーテルの重合抑制方法。
【請求項2】
フルオロアルキルビニルエーテルが、一般式
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cOCH=CH2 〔I〕
(ここで、nは1〜6の整数であり、aは0〜4の整数であり、bは1〜3の整数であり、cは0〜3の整数である)で表わされるビニルエーテル化合物である請求項1記載のフルオロアルキルビニルエーテルの重合抑制方法。
【請求項3】
式〔I〕において、aが1〜4の整数であり、cが1〜3の整数であるフルオロアルキルビニルエーテルが用いられた請求項2記載のフルオロアルキルビニルエーテルの重合抑制方法。
【請求項4】
脂肪族モノアミンが、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基を有するモノ-、ジ-またはトリ-(ヒドロキシアルキルアミン)あるいは炭素数1〜8のアルキル基を有するトリアルキルアミンである請求項1、2または3記載のフルオロアルキルビニルエーテルの重合抑制方法。
【請求項5】
脂肪族ジアミンが、炭素数1〜8のアルキレン基を有するアルキレンジアミンである請求項1、2または3記載のフルオロアルキルビニルエーテルの重合抑制方法。
【請求項6】
フルオロアルキルビニルエーテルの貯蔵時および/または輸送工程で用いられる請求項1、2、3、4または5記載のフルオロアルキルビニルエーテルの重合抑制方法。

【公開番号】特開2012−62251(P2012−62251A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205513(P2010−205513)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(502145313)ユニマテック株式会社 (169)
【Fターム(参考)】