説明

フルオロポリマー分散液コーティング組成物の速乾

水性媒体とフルオロポリマー粒子とを含み、フルオロ界面活性剤含量が約300ppm未満で、追加の水溶性塩を含む水性フルオロポリマー分散液コーティング組成物を基材に適用して、基材にウェットコーティングを形成する工程と、高周波電磁放射線をウェットコーティングに適用することにより、ウェットコーティングを乾燥して、フルオロポリマーで被覆された基材を形成する工程とを含む、フルオロポリマーで被覆された基材を製造する方法であって、追加の水溶性塩がない以外は同一のコーティング組成物に比べて、基材のウェットコーティングを乾燥するのに必要な時間を少なくとも約5%減らすのに、追加の水溶性塩が有効である、フルオロポリマーで被覆された基材を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性フルオロポリマー分散液コーティング組成物および分散液からコーティングを形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロポリマーは、剥離性、耐化学性、耐熱性、耐食性、清浄性、低可燃性および耐候性を与えるために、様々な基材に適用されている。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ホモポリマーおよび変性PTFEのコーティングは、フルオロポリマーの中で最高の熱安定性を提供するが、テトラフルオロエチレン(TFE)コポリマーとは異なり、溶融加工してフィルムやコーティングを形成できない。したがって、PTFEホモポリマーおよび変性PTFEのコーティングを適用するためのその他のプロセスが開発されている。このようなプロセスの1つは、フルオロポリマーを分散液形態で適用する分散液コーティングであり、主にPTFEコーティングを適用するのに用いられるものであるが、溶融加工可能なTFEコポリマー分散液コーティングもまた用途によっては適用されている。分散液コーティングプロセスでは、典型的にこのようなフルオロポリマー分散液を、重合したそのままの分散液よりも濃縮された形態で用いる。これら濃縮分散液は、例えば、6〜8重量パーセントの有意量の界面活性剤を含有する。このような分散液コーティングプロセスは、濃縮分散液をスプレー、ローラーまたはカーテンコーティングなどの一般的技術によって基材に適用する工程と、基材を乾燥して揮発性成分を除去する工程と、基材を焼成する工程とを含む。焼成温度が十分高ければ、主要な分散液粒子は融着して合着塊になる。粒子を融着させる高温での焼成は、焼結と呼ばれることが多い。
【0003】
ガラス布コーティング等の多くの用途において、フルオロポリマーコーティングの性能は、適用されるフィルム厚さに左右され、厚いコーティングが望ましいことが多い。しかしながら、フルオロポリマー分散液が一回の適用で過剰に厚く適用されると、コーティングに亀裂が形成され、コーティングの品質が低下したり、所望の用途には使えなくなったりする。したがって、より厚いコーティングが望ましい場合、分散液コーティングプロセスは、所望の厚さのコーティングを形成するために本質的に数回のパスが必要である。各パス後、被覆した基材に乾燥工程を施して、水が均一に除去され、水分の溜まりが残らないようにする必要がある。追加のパスは経済的に不利益で、乾燥工程は、特に感度が高く、均一な水分除去を行うには時間がかかる。乾燥を速く行い過ぎると、分散液コーティングは、沸騰して、コーティングに水膨れができてしまう。乾燥時間が不十分であると、分散液コーティング中に湿った溜まりが残って、後の加熱の際にフィルムが破壊されてしまう。
【0004】
フルオロポリマーで被覆された基材の製造に、マイクロ波乾燥を用いることが知られている。パッキングやガスケットとして用いられるフルオロポリマーで被覆されたストランドの製造においては、アラミド、ガラスまたは天然繊維を編み組みして、PTFE分散液に浸漬することにより被覆される。編組構造を乾燥するが、焼結はしない。乾燥時間は、このようなストランドについて全体の製造時間の大部分を占める。
【0005】
フルオロ界面活性剤は、典型的に、フルオロポリマーの分散重合に用いられている。フルオロ界面活性剤は、ベリー(Berry)による米国特許公報(特許文献1)に記載されているように、非テロゲン分散剤として機能する。除去しない限りは、フルオロ界面活性剤は、フルオロ分散液中に存在している。環境への懸念のために、水性フルオロポリマー分散液中のフルオロ界面活性剤含量を減らして、フルオロ界面活性剤の放射率を減じ、かつ/またはフルオロポリマー分散液の最終用途処理中に、フルオロ界面活性剤を捕捉する必要性を減じるか、またはなくすためのプロセスが開発されている。ブレーデル(Bladel)らによる米国特許公報(特許文献2)には、安定した分散液を処理するためにアニオン交換プロセスを用いる、水性フルオロポリマー分散液のフルオロ界面活性剤含量を減じるプロセスが開示されている。
【0006】
しかしながら、ブレーデル(Bladel)らによる米国特許公報(特許文献2)に開示されているようなプロセスを用いて、分散液のフルオロ界面活性剤含量を減じると、マイクロ波乾燥操作において、乾燥時間の大幅な増大が観察される。乾燥が速度を制限する工程であるプロセスにおいては、フルオロポリマーコーティングプロセスの全体の生産性が悪影響を受ける。
【0007】
【特許文献1】米国特許第2,559,752号明細書
【特許文献2】米国特許第6,883,403号明細書
【特許文献3】米国特許第3,037,953号明細書
【特許文献4】米国仮特許出願第60/638,310号明細書
【特許文献5】米国特許第3,882,153号明細書
【特許文献6】米国特許第4,282,162号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
水性媒体とフルオロポリマー粒子とを含み、フルオロ界面活性剤含量が約300ppm未満で、追加の水溶性塩を含む水性フルオロポリマー分散液コーティング組成物を基材に適用して、基材にウェットコーティングを形成する工程と、
高周波電磁放射線をウェットコーティングに適用することにより、ウェットコーティングを乾燥して、フルオロポリマーで被覆された基材を形成する工程と
を含む、フルオロポリマーで被覆された基材を製造する方法であって、追加の水溶性塩がない以外は同一のコーティング組成物に比べて、基材のウェットコーティングを乾燥するのに必要な時間を少なくとも約5%減らすのに、追加の水溶性塩が有効である方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(フルオロポリマー分散液)
本発明によるコーティング組成物を製造するのに用いる水性フルオロポリマー分散液は、分散重合(乳化重合としても知られる)によって製造される。フルオロポリマー分散液は、モノマーの少なくとも1種類がフッ素を含有するモノマーから製造されたポリマー粒子を含む。本発明に用いる水性分散液の粒子のフルオロポリマーは、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、モノクロロトリフルオロエチレン、ジクロロジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ペルフルオロアルキルエチレンモノマー、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)モノマー、フッ化ビニリデン、およびフッ化ビニルのポリマーならびにコポリマーからなる群から独立に選択される。好ましいポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)とペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)のコポリマー(当該技術分野ではPFAと称す)、TFEとヘキサフルオロプロピレンのコポリマー(当該技術分野ではFEPと称す)およびTFEとエチレンのコポリマー(当該技術分野ではETFEと称す)が挙げられる。
【0010】
本発明で用いる分散液に用いる特に好ましいフルオロポリマー粒子は、非溶融加工性の変性PTFEを含むポリテトラフルオロエチレンの非溶融加工性粒子である。ポリテトラフルオロエチレンとは、いかなる有意なコモノマーも存在しない単独で重合させたテトラフルオロエチレンをいう。変性PTFEとは、TFEと、得られるポリマーの融点が実質的にPTFEの融点より低くないような低濃度のコモノマーとのコポリマーをいう。このようなコモノマーの濃度は、好ましくは1重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満である。変性PTFEは、焼成(融着)中のフィルム形成能を改善する少量のコモノマー変性剤を含む。例えば、ペルフルオロオレフィン、特にヘキサフルオロプロピレン(HFP)またはペルフルオロ(アルキルビニル)エーテル(PAVE)(ここでアルキル基は1〜5個の炭素原子を含む)であり、ペルフルオロ(エチルビニル)エーテル(PEVE)およびペルフルオロ(プロピルビニル)エーテル(PPVE)が好ましい。クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ペルフルオロブチルエチレン(PFBE)、またはこの分子に嵩高な側基を導入する他のモノマーもまた含まれる。PTFEは、典型的に、少なくとも1×109Pa・sの溶融クリープ粘度を有する。単離および乾燥するとき、本発明で用いる分散液中の樹脂は、非溶融加工性である。
【0011】
非溶融加工性とは、溶融加工可能なポリマーについて、標準溶融粘度判断手順により試験したときに、メルトフローが検出されないことをいう。この試験は、ASTM D−1238−00に従うものであり、次のように修正してある。シリンダ、オリフィスおよびピストン先端は、ヘインズステライト社(Haynes Stellite Co.)製のヘインズステライト(Haynes Stellite)19という耐食性合金製である。5.0gの試料を、372℃に維持した内径9.53mm(0.375インチ)のシリンダに入れる。試料を、シリンダに充填してから5分後に、5000グラムの重り(ピストン+重量)をかけて、2.10mm(0.0825インチ直径)、8.00mm(0.315インチ)の長さの角のあるオリフィスを通して押し出す。これは、44.8KPa(1平方インチ当たり6.5ポンド)のせん断応力に対応する。溶融加工性は観察されない。
【0012】
好ましい一実施形態において、本発明で用いる分散液中のフルオロポリマー粒子は、高分子量ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のコアと、低分子量ポリテトラフルオロエチレンまたは変性ポリテトラフルオロエチレンのシェルとを含む。
【0013】
好ましい非溶融加工性PTFEまたは変性fPTFEの標準比重(SSG)は、約2.14〜約2.50である。好ましくは、SSGは、約2.40未満、より好ましくは約2.30未満、最も好ましくは約2.25未満である。SSGは、概して、PTFEまたは変性PTFEの分子量に反比例する。
【0014】
本発明で用いる分散液中のフルオロポリマー粒子の数平均粒度は、約10nm〜約400nm、最も好ましくは、約100nm〜約400nmである。
【0015】
好ましいPTFEポリマーの水性分散重合の典型的なプロセスは、TFE蒸気が、フルオロ界面活性剤、パラフィンワックスおよび脱イオン水を含有する加熱反応器に供給されるプロセスである。PTFEの分子量を減らすことが望ましい場合は、連鎖移動剤も添加してよい。フリーラジカル開始剤溶液を加え、重合が進むに従い、追加のTFEを加えて圧力を維持する。反応の発熱を、反応器ジャケットを介して冷却水を循環させることによって除去する。数時間後、供給を止め、反応器を排気し、窒素でパージし、そして容器中の原分散液を冷却容器に移す。パラフィンワックスを除去し、分散液を単離し、非イオン性界面活性剤で安定させる。
【0016】
本方法で用いる分散剤は、フッ素化界面活性剤であるのが好ましい。分散剤中のフルオロ界面活性剤は、水に可溶で、アニオン親水性基と疎水性部分を含む非テロゲン、アニオン分散剤である。疎水性部分は、少なくとも4つの炭素原子を含有し、フッ素原子を含み、親水性基に近接するフッ素原子を有さない2個以下の炭素原子を有する脂肪族フルオロアルキル基であるのが好ましい。これらのフルオロ界面活性剤は、分散のための重合助剤として用いられ、連鎖移動しないため、望ましくない短鎖長のポリマーを形成しない。好適なフルオロ界面活性剤の多数の例は、ベリー(Berry)による米国特許公報(特許文献1)に開示されている。好ましくは、フルオロ界面活性剤は、6〜10個の炭素原子を有する過フッ素化カルボンまたはスルホン酸であり、典型的に、塩形態で用いられる。好適なフルオロ界面活性剤は、アンモニウムペルフルオロカルボキシレート、例えば、アンモニウムペルフルオロカプリレートまたはアンモニウムペルフルオロオクタノエート(APFO)である。フルオロ界面活性剤は、通常、形成されるポリマーの量に対して、0.02〜1重量%の量で存在する。フッ素化界面活性剤を用いると、重合プロセスを補助されるが、濃縮分散液組成物に残る量は、後述するように、大幅に減じる。
【0017】
本発明の方法に用いる分散液を作製するのに好ましく用いられる開始剤は、フリーラジカル開始剤である。それらは、比較的長い半減期を有するものであり、好ましくは、過硫酸塩、例えば、過硫酸アンモニウムまたは過硫酸カリウムである。過硫酸塩開始剤の半減期を短くするには、亜硫酸アンモニウムやメタ重亜硫酸ナトリウム等の還元剤を、Fe(III)等の金属触媒塩と共に、またはこれを入れずに、用いることができる。あるいは、過マンガン酸カリウム/シュウ酸等の半減期の短い開始剤を用いることができる。
【0018】
半減期の長い過硫酸開始剤に加えて、少量のコハク酸等の短鎖ジカルボン酸や過酸化ジコハク酸(DSP)等のコハク酸を製造する開始剤を添加して、凝固を減じてもよい。
【0019】
後述するような低フルオロ界面活性剤含量の分散液を製造するには、詳細を以下に述べてある十分なノニオン界面活性剤を添加して、フルオロ界面活性剤含量を減じたときの分散剤の凝固を防ぐ。水性分散剤は、フルオロポリマー固形分で約10〜約70重量%の範囲とすることができる。典型的に、フルオロ界面活性剤を減じる前に、安定化のためにノニオン界面活性剤を添加してから、適宜、分散剤の濃縮を行う。濃縮については、ポリマーを、ノニオン界面活性剤の曇り点より高い温度に保持する。約30〜約70重量%のフルオロポリマー、好ましくは約45〜約65重量%のフルオロポリマーまで濃縮したら、上澄み液を除去する。さらに、必要に応じて、最終固形濃縮物と界面活性剤の調整を行う。濃縮のプロセスの特許の一例は、マークス(Marks)とホイップル(Whipple)による米国特許公報(特許文献3)である。
【0020】
(基材)
本発明で用いる基材は、シート、フィルム、布、容器、組立部品、繊維または繊維状物品をはじめとする様々な構造とすることができる。詳細を後述するとおり、本発明の好ましい実施形態で用いる基材は、マイクロ波放射線を実質的に透過するのが好ましい。このタイプの好ましい基材としては、ポリマー、ガラス、セラミックおよびこれらの複合体が挙げられる。一実施形態において、基材はガラス布である。他の好ましい実施形態において、基材はアラミド繊維、ガラス繊維または天然繊維であり、このような繊維を編み組みした形態にあるのが好ましい。フルオロポリマーコーティングを備えた編組繊維は、ガスケットを作製するのに有用である。典型的に、かかるガスケット材料中のフルオロポリマーは焼結されていない。他の実施形態において、基材は耐熱性である。
【0021】
(ノニオン界面活性剤)
様々なノニオン界面活性剤を、本発明により用いる水性フルオロポリマー分散液コーティング組成物に用いることができる。このようなノニオン界面活性剤としては、アルキルフェノールエトキシレートおよび脂肪族アルコールエトキシレートが挙げられる。好ましくは、用いるノニオン界面活性剤は、脂肪族アルコールエトキシレートである。ノニオン界面活性剤は、フルオロポリマーの重量を基準にして、分散液に、好ましくは約2〜約11重量%、最も好ましくは約3〜約11重量%の量で存在する。好適なノニオン界面活性剤は、濃縮中、所望の曇り点を好ましくは与える様々なノニオン界面活性剤または混合物を含んでいてよい。
【0022】
本発明で用いる分散液は、芳香族基を含有する界面活性剤を本質的に含まないのが好ましい。このような界面活性剤は、熱分解されて、有害な有機芳香族化合物に変換される可能性があり、これは、分散液コーティングプロセス中に、空気や水の品質に悪影響を及ぼす恐れがある。さらに、これらの材料は、処理装置にタール状に堆積し、煙を生成して、洗浄水を発泡させる傾向がある。芳香族基を含有する界面活性剤を本質的に含まないとは、用いる分散液のこのような界面活性剤の含量が、約0.5重量%未満であることを好ましくは意味する。本発明で用いる界面活性剤は、基材上で熱分解することなくきれいになくなり、アルキルフェノールエトキシレートよりも残渣が少ない。
【0023】
特に好ましい脂肪族アルコールエトキシレートは、式R(OCH2CH2nOHの化合物または化合物の混合物である。式中、Rは8〜18個の炭素原子を有する、分岐アルキル、分岐アルケニル、シクロアルキル、またはシクロアルケニルの炭化水素基であり、nは5〜18の平均値である。例えば、本発明で用いる好ましいエトキシレートは、(1)分岐アルキル、分岐アルケニル、シクロアルキルまたはシクロアルケニルから選択される炭化水素基を含む第1級アルコールまたは(2)第2級または第3級アルコールから調製されるものと考えられる。いずれにしても、本発明により用いるエトキシレートは、芳香族基は含有しない。分子の親水性部分のエチレンオキシド単位の数は、典型的に供給されるような広いまたは狭い単峰性分布、または混合により得られるこれより広いまたは二峰性分布のいずれかである。
【0024】
本発明により用いられる分散液に用いるノニオン界面活性剤は、8〜18個の炭素原子を有する飽和または不飽和第2級アルコールのエトキシレートであるのが好ましい。第2級アルコールエトキシレートは、低水性粘度、より狭いゲル範囲および発泡の少ない第1級アルコールエトキシレートとフェノールエトキシレートの両方よりも有利である。さらに、第2級アルコールのエトキシレートは、表面張力の減少という改善と、コーティング操作のような最終用途に良好な濡れ性を与える。
【0025】
界面活性剤の曇り点は、界面活性剤の水中の溶解度の尺度である。本発明により用いる水性分散液の界面活性剤の曇り点は、約30℃〜約90℃、好ましくは約35℃〜約85℃である。
【0026】
本発明を実施するのに用いる脂肪族アルコールエトキシレートはまた、TGAにより求められる20%残渣温度が、約290℃未満、好ましくは285℃未満、より好ましくは280℃未満、典型的には、250℃〜290℃の好ましい範囲内である。さらに、または、代わりに、脂肪族アルコールエトキシレートノニオン界面活性剤の、熱重量分析(TGA)により求められる熱分解温度は、約250℃未満、より好ましくは約240℃未満、最も好ましくは約230℃未満である。
【0027】
フルオロポリマー分散液を安定化するのに通常用いられるタイプのノニオン界面活性剤は、室温で、液体か固体のいずれかとすることができる。固体の場合には、界面活性剤は、ペースト状となる傾向があり、扱い難い。取扱い可能ではあるが、液体として保つために、加熱タンクや移動ラインを必要とすることが多い。加熱機器の資本コストに加えて、操作上の制限がシステムに課せられる。温度をあまり低く維持すると、タンクや移動ラインが、固形材料により詰まる可能性がある。温度が高すぎると、界面活性剤が分解する可能性がある。
【0028】
通常、取扱いの観点から、低粘度液体が好ましい。高粘度液体は、取扱いが難しく、取扱いを容易にするのに十分に粘度を低く保つために、加熱タンクやラインを必要とすることが多い。見掛け上液体の界面活性剤の中には、数日間液体として存在した後、ペースト状固体に変わるという点で物理的に準安定なものがある。水を界面活性剤に添加して、その粘度を下げ、取扱いを容易にさせることがある。しかしながら、所望よりも水の減少が多すぎると、より濃縮された分散液が生成される。
【0029】
本発明で好ましくは用いられる非溶融加工性フルオロポリマー粒子とノニオン界面活性剤の水性分散液は、0〜20重量%の水、好ましくは0〜15重量%の水を含有するノニオン界面活性剤を好ましくは含有し、室温で安定した液体である。界面活性剤は、5℃まで冷却してから、室温(約23±3℃)まで温めた後、室温で3日間液体のままである場合には、安定した液体と考えられる。
【0030】
本発明により用いられる分散液のより好ましい形態では、脂肪族アルコールエトキシレートノニオン界面活性剤は、平均約4〜約12のエチレンオキシド(EO)単位を有する2,6,8−トリメチル−4−ナナノールのエトキシレート、最も好ましくは、平均約9〜約11のエチレンオキシド単位を有する2,6,8−トリメチル−4−ナナノールのエトキシレートを含む。このタイプの好ましい界面活性剤としては、ダウケミカルコーポレーション(Dow Chemical Corporation)より入手可能なタージトール(Tergitol)(登録商標)TMN−6(公称6EO単位)とタージトール(Tergitol)(登録商標)TMN−10(公称10EO単位)という商品名で販売されているものが例示される。30%タージトール(Tergitol)(登録商標)TMN−6と70%タージトール(Tergitol)(登録商標)の混合物も、タージトール(Tergitol)(登録商標)TMN−100Xとして、ダウケミカルコーポレーション(Dow Chemical Corporation)より入手可能である。
【0031】
本明細書に記載したとおりにして作製されたノニオン界面活性剤を含有する分散液は、後述するように、フルオロ界面活性剤含量を減じるのに用いるのに好適な安定化フルオロ界面活性剤含有分散液である。
【0032】
(フルオロ界面活性剤減少)
本発明により用いられる水性分散液のフルオロ界面活性剤の含量は減じられる。即ち、合計分散液重量を基準にして、約300ppm未満である。フルオロ界面活性剤の含量は、好ましくは約100ppm未満、より好ましくは約50ppm未満である。
【0033】
好適な方法を用いて、フルオロ界面活性剤含量を減じることができるが、水性分散液をアニオン交換樹脂と接触させると、この目的で用いるのに有利である。分散液をアニオン交換樹脂と接触させるのは、濃縮前か後のいずれかであるが、典型的に、濃縮前だと固形材料が少なく処理し易い。接触工程を行うのに固定床を用いるときはとりわけである。プロセスを濃縮前に行う場合、上述したとおり、アニオン交換樹脂と接触する前に、ノニオン界面活性剤を添加する。さらに、濃縮前に、硫酸ラウリルナトリウム等の非フッ素化アニオン界面活性剤を分散液に添加して、濃縮の際に生じる可能性のある粘度増加を防ぐことが一般的である。2004年12月22日出願の(特許文献4)に記載されている通り、非フッ素化カチオン界面活性剤も用いることができる。
【0034】
分散液をアニオン交換樹脂と接触する様々な技術のいずれかを用いて、プロセスのイオン交換を実施することができる。例えば、攪拌タンクで、イオン交換樹脂ビードを、分散液に添加することによりプロセスを実施でき、分散液と樹脂のスラリーが形成された後、アニオン交換樹脂ビードから、ろ過により分散液を分離する。他の好適な方法は、攪拌タンクを用いる代わりに、アニオン交換樹脂の固定床に、分散液を通すものである。流れが床を上下し、樹脂が固定床に残るため、別個の分離工程は必要ない。
【0035】
イオン交換速度を促進し、分散液の粘度を下げるのに十分高いが、有害な高速で樹脂が分解したり、粘度の増大が観察されたりする温度よりは低い温度で分散液を接触させる。処理温度上限は、用いるポリマーおよびノニオン界面活性剤のタイプにより異なる。典型的に、温度は20℃〜80℃である。
【0036】
フルオロ界面活性剤は、必要に応じて、アニオン交換樹脂から回収でき、フルオロ界面活性剤の入った樹脂は、環境上受け入れられる方法、例えば、焼却により廃棄することができる。フルオロ界面活性剤を回収するのが望ましい場合には、フルオロ界面活性剤は、溶出により樹脂から除去してよい。アニオン交換樹脂に吸着されたフルオロ界面活性剤の溶出は、セキ(Seki)による米国特許公報(特許文献5)により例示されるアンモニア溶液の使用、クールズ(Kuhls)による米国特許公報(特許文献6)により例示される希釈鉱酸と有機溶剤(例えば、HCl/エタノール)の混合物により、または硫酸および硝酸等の強鉱酸により、吸着したフッ素化カルボン酸を溶離剤に移すことにより、容易に行える。高濃度の溶離剤中のフルオロ界面活性剤は、酸付着、塩析および濃縮のその他の方法等の一般的な方法により、純粋な酸の形態または塩の形態で容易に回収することができる。
【0037】
(イオン交換樹脂)
本発明で用いる水性分散液のフルオロ界面活性剤含量を減じるのに用いるイオン交換樹脂には、アニオン樹脂が含まれるが、カチオン樹脂のような他の樹脂のタイプも、例えば、混合床中に含まれる。用いるアニオン樹脂は、強塩基性か、弱塩基性のいずれかとすることができる。好適な弱塩基性アニオン交換樹脂は、第1級、第2級アミンまたは第3級アミン基を含有する。好適な強塩基性アニオン交換樹脂は、第4級アンモニウム基を含有する。弱塩基性樹脂は、より容易に再生できるため有用であるが、強塩基性樹脂は、フルオロ界面活性剤を非常に低レベルまで減じるのが望ましいときに、樹脂の利用率を高めるのに好ましい。強塩基性イオン交換樹脂はまた、媒体のpHに対する感度が低いという利点もある。強塩基性アニオン交換樹脂は、関連の対イオンを有し、典型的に、塩化物または水酸化物の形態で利用可能であるが、必要に応じて、他の形態に容易に変換される。水酸化物、塩化物、硫酸塩および硝酸塩によるアニオン交換樹脂を、フルオロ界面活性剤の除去に用いることができるが、追加のアニオンの導入を防ぎ、アニオン交換中のpHを増大するには、微生物の成長を抑制するために、発送前の製品は、高pH、すなわち、9を超えるのが望ましいため、水酸化物の形態のアニオン交換樹脂が好ましい。トリメチルアミン部分を備えた第4級アンモニウム基を有する好適な市販の強塩基性アニオン交換樹脂としては、ダウエックス(DOWEX)(登録商標)550A、USフィルター(US Filter)A464−OH、シブロン(SYBRON)M−500−OH、シブロン(SYBRON)ASB1−OH、ピュロライト(PUROLITE)A−500−OH、イトチュー(Itochu)TSA 1200、アンバーライト(AMBERLITE)(登録商標)IR402が例示される。ジメチルエタノールアミン部分を備えた第4級アンモニウム基を有する好適な市販の強塩基性アニオン交換樹脂としては、USフィルター(US Filter)A244−OH、アンバーライト(AMBERLITE)(登録商標)410、ダウエックス(DOWEX)(登録商標)マラソン(MARATHON)A2およびダウエックス(DOWEX)(登録商標)UPCORE Mono A2が例示される。
【0038】
本発明の方法で使用されるフルオロ界面活性剤を減少するのに用いるイオン交換樹脂は、好ましくは単分散である。好ましくは、イオン交換樹脂ビーズは、ビーズの95%が、±100μmの数平均ビーズ直径以内の直径を有する数平均粒度分布を有する。
【0039】
単分散イオン交換樹脂は、床を通して好適な圧力降下をもたらす粒度を有する。上述した通り、極めて大きなビーズは脆く、破損しやすい。極めて小さなイオン交換ビーズは床中に蛇行した流路を生じる緊密粒子充填の影響を受けやすい。これは床中に高剪断状態をもたらすこととなる。好ましいイオン交換樹脂は、約450〜約800μmの数平均ビーズサイズを有し、より好ましくは、イオン交換樹脂ビーズは約550〜約700μmの数平均ビーズ直径を有する。
【0040】
(水溶性塩)
本発明により用いる水性フルオロポリマー分散液コーティング組成物に、添加される水溶性塩としては、様々な水溶性塩が好適である。「添加される水溶性塩」とは、塩またはその混合物、あるいは塩を形成する材料を意味し、重合、フルオロ界面活性剤減少および/または分散液の濃縮中に通常使用または形成される塩に加えて、乾燥前の製造または処理中、いかなる時点でも、添加される。好ましい塩は、無機水溶性塩である。
【0041】
本発明を実施するのに特に有用なのは、フッ化物、臭化物、塩化物、硝酸塩および硫酸塩のアルカリ金属とアンモニウム塩である。添加される水溶性塩は、外来イオンをコーティング組成物に導入しないようなものを選択するのが好ましい。「外来イオン」は、その重合、フルオロ界面活性剤減少および/または分散液の濃縮のために、分散液組成物中に最初から存在していなかったイオンのタイプと定義される。例えば、用いる過硫酸アンモニウム開始剤とpH調節用のアンモニア添加のために、アンモニウムイオンが存在する。過硫酸塩の硫酸塩への還元のために、過硫酸塩開始剤を用いると、硫酸塩イオンが存在する。フッ化物イオンは、大抵のフルオロモノマーの重合中に典型的に形成される。特に有効な塩としては、硫酸塩およびフッ化物塩が例示され、最も好ましくは、硫酸アンモニウムとフッ化アンモニウムである。
【0042】
詳細を後述するように、有効量の水溶性塩を水性フルオロポリマー分散液コーティング組成物に添加することにより、コーティング組成物のイオン導電率が増大して、マイクロ波放射線のような電磁エネルギーを適用し、乾燥時間を少なくとも約5%減じると、被覆された基材がより迅速に乾燥される。
【0043】
(充填剤、顔料および添加剤)
本発明により用いるフルオロポリマー分散剤コーティング組成物は、任意で、充填剤、顔料および分散液コーティング組成物に用いることが知られているその他添加剤を含有する。このような材料が、適用される高周波電磁放射線により結合しない、または、十分に少量で用いられる場合に限る。例えば、タルクやクレイ等の無機充填剤は、通常、マイクロ波放射線に中性である。同様に、二酸化チタンのような結合しない顔料も用いることができる。
【0044】
(方法)
本発明の方法において、上述したとおり、フルオロ界面活性剤含量の減じた水性フルオロポリマー分散液コーティング組成物を、基材に適用して、基材上にウェットコーティングを形成することにより、フルオロポリマーで被覆された基材は作製される。水性フルオロポリマー分散液コーティング組成物は、従来の手段により基材に適用することができる。単層および多層コーティング適用の両方を用いることができる。多層プロセスにおいて、様々な層は同一または異なるものとすることができる。用いる適用方法は、フルオロポリマーコーティング組成物のタイプおよび被覆される基材に応じて異なる。各層を形成するスプレーおよびローラー適用が簡便な適用方法である。浸漬、カーテンコーティングおよびコイルコーティングをはじめとするその他の周知のコーティング方法が好適である。
【0045】
高周波電磁放射線をウェットコーティングに適用することにより、ウェットコーティングを乾燥して、フルオロポリマーで被覆された基材を形成する。好ましい実施形態において、乾燥に用いる高周波電磁放射線は、マイクロ波放射線である。電磁スペクトルのマイクロ波部分は、1mm〜1mの波長により特徴付けられ、100〜5,000MHzの周波数に対応している。最も一般的に用いられるマイクロ波放射線の周波数は、約2,500メガヘルツ(2.5ギガヘルツ)である。この周波数の能力だと、水により効率的に吸収されて熱が生成されるからである。このようにして、水を蒸発により効率的に除去でき、基材上の水性フルオロポリマー分散液コーティング組成物を乾燥する。さらに、大半のポリマー、ガラスまたはセラミックおよびこれらの複合体は、この周波数範囲においてマイクロ波を実質的に透過する。このように、本発明の好ましい実施形態は、ポリマー、ガラス、セラミックまたはこれらの複合体を含む基材を用いる。マイクロ波放射線は、基材によりブロックされないため、本発明のこれらの実施形態において効率的に用いられる。
【0046】
本発明によれば、追加の水溶性塩は、基材上のウェットコーティングを乾燥するのに必要とされる時間を減じるのに有効な量で低フルオロ界面活性剤分散液コーティング組成物中に存在する。マイクロ波は、イオン導電と呼ばれる機構により、水溶液中のイオンと相互作用することが分かっている。水溶液中のイオンは、マイクロ波の振動電場により結合して、存在する水の熱を増大できる帯電種である。マイクロ波は、本発明の組成物中の追加の水溶性塩と、同じ機構により相互作用するものと考えられる。有効量の水溶性塩を、水性フルオロポリマー分散液コーティング組成物中に含めることによって、電磁放射線を適用すると、被覆された基材が、より迅速に乾燥する。本発明の好ましい形態において、追加の水溶性塩は、水性フルオロポリマー分散液組成物に少なくとも約600μS/cmの導電性を与える。意外にも、本発明の好ましい実施形態によれば、水性フルオロポリマー分散液組成物を乾燥するのに最適な導電性を与えることが知見された。より好ましくは、水性フルオロポリマー分散液組成物の導電率は、約600〜約2000μS/cm、より好ましくは約700〜約1500μS/cmの範囲、最も好ましくは約800〜約1200μS/cmである。
【0047】
マイクロ波乾燥プロセスにおいて乾燥に必要な時間範囲は、基材の特性、例えば、組成、形状、気孔率、厚さ等、分散液コーティング組成物の特性、例えば、水とノニオン界面活性剤含量、およびその他プロセス条件、例えば、周囲空気温度や湿度、気流等によって、かなり異なる。乾燥時間は、プロセスによって、数秒から数十分まで異なる。本発明による方法では、追加の水溶性塩がない以外は同一のコーティング組成物に比べて、乾燥時間を少なくとも約5%減じるのに、追加の水溶性塩は、基材コーティングプロセスにおいて有効である。本発明の好ましい形態において、追加の水溶性塩がない以外は同一のコーティング組成物に比べて、基材に適用された分散液組成物のウェットコーティングを乾燥するのに必要な時間を、基材コーティングプロセスにおいて、少なくとも約10%、より好ましくは15%減じるのに、追加の水溶性塩は有効である。本発明によるある方法においては、時間を50%以上よりもさらに減じられる。
【0048】
(水性フルオロポリマー分散液コーティング組成物)
本発明はまた、水性液体媒体と分散されたフルオロポリマー粒子とを含み、フルオロ界面活性剤含量が約300ppm未満の水性フルオロポリマー分散液コーティング組成物であって、組成物が、追加の水溶性塩がない以外は同一のコーティング組成物に比べて、基材に適用された分散液組成物のウェットコーティングを、高周波電磁放射線を用いて乾燥するのに必要な時間を、基材コーティングプロセスにおいて、少なくとも約5%減らすのに有効な追加の水溶性塩を含む水性フルオロポリマー分散液コーティング組成物も提供する。
【0049】
本発明の好ましい形態において、追加の水溶性塩がない以外は同一のコーティング組成物に比べて、基材に適用された分散液組成物のウェットコーティングを、高周波電磁放射線を用いて乾燥するのに必要な時間を、基材コーティングプロセスにおいて、少なくとも約10%、より好ましくは15%減じるのに、追加の水溶性塩は有効である。
【0050】
本発明の好ましい形態において、水性フルオロポリマー分散液コーティング組成物の導電率は、少なくとも約600μS/cmである。好ましくは、導電率は、約600〜約2000μS/cm、より好ましくは約700〜約1500μS/cmの範囲、最も好ましくは約800〜約1200μS/cmである。
【0051】
(ガスケットおよびパッキング用のフルオロポリマーで被覆されたストランド)
フルオロポリマーガスケットおよびパッキング材料は、好ましくは、編み組みして、直径4インチまでとした繊維状基材を、フルオロポリマー分散液に浸すことにより、本発明に従って作製することができる。好ましい繊維状基材としては、ガラス繊維、本願特許出願人によりケブラー(Kevlar)(登録商標)という商品名で販売されているようなアラミド繊維、綿のような天然繊維およびこのような繊維の混合物を含有するようなものが挙げられる。フルオロポリマー分散液は、所望のコーティング厚さおよびフルオロポリマーによる含浸の程度に応じて、約30〜約65重量%の固体を含有しているのが好ましい。この用途においては、PTFEが好ましいフルオロポリマーである。
【0052】
プロセスを実施するのに、繊維状基材は、完全ロールとして、約1〜約24時間浸すか、1本のストランドとして、PTFE分散液浴を通過させる。コーティング工程後、PTFEの被覆された基材を、マイクロ波オーブンに入れるか、通過させて、水と界面活性剤を除去する。水溶性塩を、低フルオロ界面活性剤含量の分散液に添加すると、被覆された基材のマイクロ波乾燥に必要な時間が減る。
【0053】
フルオロポリマーで被覆された繊維状基材は、ガスケットを含む多くの用途に有用であり、フルオロポリマーを含有しないパッキングに比べて、様々なポンプ、バルブおよび攪拌器の寿命を延ばす、特に有用なパッキングである。フルオロポリマー、特に、PTFEの被覆された表面は、低摩擦係数を与え、高圧負荷で繰り返し擦った際に生じる摩耗や熱を減じる。さらに、PTFE含浸基材は、良好な耐熱性(−100℃−260℃)、化学的不活性および耐酸−塩基性(pH0−14)を有する。
【0054】
(ガラス布コーティング)
フルオロポリマーで被覆されたガラス布は、ガラス布基材を、フルオロポリマー分散液、典型的にはPTFE分散液でコーティングし、これをオーブン中で乾燥、焼成および焼結することにより作製することができる。通常、多数回通過プロセスを用いて、所望のコーティング厚さを与える。ただし、焼結は、初期の通過では焼結は省いてもよい。
【0055】
コーティングは、典型的に、約30〜約65%固体の分散液濃度で、浸漬タンクを用いて行われる。典型的なコーティングプロセスでは、ウェットコーティングのガラス布を、オーブンに入れ、水を乾燥ゾーンで除去して、界面活性剤を焼成ゾーンで除去してから、焼結を焼結ゾーンで行って、フルオロポリマー粒子を融着する。ガラス布コーティングに用いる本発明の方法において、高周波電磁放射線を、従来のオーブン乾燥に代わるものとして、あるいはその補助として、乾燥ゾーンにおいてウェットコーティングに適用するのが好ましい。マイクロ波等の高周波電磁放射線により、ウェットコーティング中の水を加熱すると、従来のオーブンで行えるよりも、より均一で、より制御された迅速な乾燥を行うことができる。従来のオーブンにおいて、オーブン温度および/または滞留時間を、より迅速な乾燥を促すために増大すると、ウェットコーティング表面の過熱が生じる可能性がある。表面過熱によって、ウェットコーティングが薄くなり、水泡形成やその他コーティング欠陥となる。このように、マイクロ波乾燥は、長い乾燥時間が必要な厚い布に特に有用である。追加の水溶性塩を用いる本発明の方法は、低フルオロ界面活性剤含量の分散液において、乾燥時間を減らす。
【0056】
フルオロポリマーで被覆されたガラス布は、良好なノンスティック性、耐候性、耐化学性および広い温度適用範囲を有するため、様々な工業用途がある。主な用途としては、建築、例えば、テント状屋根構造や、製造プロセス機器、例えば、食品処理用コンベヤベルトが挙げられる。
【0057】
(試験方法)
原(重合したままの)フルオロポリマー分散液の固形分を、分散液の秤量済みアリコートを、蒸発して乾燥し、乾燥した固体を秤量することにより、重量測定法で求める。固形分は、PTFEと水を合わせた重量を基準にして、重量%で示される。あるいは、固形分は、比重計を用いて、分散液の比重を求めて、固形分に対する関連する比重の表を参照することにより求めることができる。(表は、水の密度と重合されたままのPTFE密度から誘導される代数式で構築されている。)
【0058】
原分散液の数平均分散液粒度は、光子相関分光法により測定される。
【0059】
PTFE樹脂の標準比重(SSG)は、ASTM D−4895の方法により測定される。界面活性剤が存在する場合には、ASTM D−4895によりSSGを求める前に、ASTM−D−4441の抽出手順により除去することができる。
【0060】
安定した分散液の界面活性剤含量および固形分は、概して、ASTM D−4441に従いながら、界面活性剤でなく水が蒸発するような時間と温度を使用して、少量の秤量された分散液のアリコートを蒸発して乾燥させることにより、重量測定法で求められる。次にこの試料を380℃に加熱し、界面活性剤を除去して、再度秤量する。界面活性剤含量は、フルオロポリマー固体を基準にして、重量%で示される。
【0061】
(20%残渣温度および熱分解温度)
界面活性剤の20%残渣温度および熱分解温度を、空気中で、ASTM方法E−1131の修正版を用いて、熱重量分析(TGA)により求める。20%残渣温度については、試験される試料は、少なくとも90重量%の界面活性剤含量を有している。試験される界面活性剤が、10重量%を超える水またはその他揮発性溶剤を含有している場合には、このような溶剤は、10%以下まで除去しなければならない。あるいは、10%を超える溶剤について調節するには、試料中の界面活性剤含量の重量分率に基づいて、残渣重量を再計算する。試料を、室温から204℃まで10℃/分で加熱する。204℃に達したら、試料が482℃に達するまで、加熱速度を2℃/分に減じる。482℃になったら、600℃に達するまで、10℃/分の試料の加熱に戻す。元の試料の20%残渣の重量損失に達する温度が、20%残渣温度である。
【0062】
導電率を、オリオン(Orion)型番128導電率計を用いて、24℃で測定する。
【0063】
フルオロ界面活性剤含量(APFO)は、ヒューレットパッカード(Hewlett Packard)5890ガスクロマトグラフを用いて測定する。フルオロ界面活性剤は、3個以下の炭素の直鎖アルコールを用いてエステル化して、GCに入れた。フルオロ界面活性剤含量は、分散液中のフルオロ界面活性剤の合計重量パーセントを基準にして、記録してある。
【実施例】
【0064】
過硫酸アンモニウムを開始剤として用いて、TFEを重合し、SSGが約2.20で、数平均粒度が約215nm〜245nmのPTFE粒子を含有する原PTFEホモポリマー分散液を生成する。原分散液は、約45%のフルオロポリマー固体を含有し、APFO含量は約1800ppmである。
【0065】
フルオロ界面活性剤減少を、水酸化物形態で、ジメチルエタノールアミン部分を有する第4級アンモニウム基を備えた市販の強塩基性アニオン交換樹脂の固定床カラム(USフィルター(US Filter)のA244−OH)を含有する長さ約8フィート(2.5メートル)の直径14インチ(36cm)のカラムを用いて行う。ノニオン界面活性剤タージトール(Tergitol)(登録商標)TMN−10を添加することにより、約240ガロンの量の原分散液を安定化して、分散液の重量を基準として、約4重量%のノニオン界面活性剤とする。カラムを通して、PTFE分散液をポンピングする。分散液のAPFOレベルを20ppm未満まで減じる。水酸化アンモニウムを添加して、pHを約9.5〜約10.5に調節する。タージトール(Tergitol)(登録商標)TMN−10を用いて、分散液を熱濃縮し、固形分を59〜61重量%とする。タージトール(Tergitol)(登録商標)TMN−10をさらに添加して、タージトール(Tergitol)(登録商標)TMN−10濃度を6重量%にする。以下の実施例では、後述するとおり、水溶性塩を分散液に添加して、分散液から形成されたウェットコーティングをマイクロ波乾燥する。水溶性塩添加前、分散液は、重合、フルオロ界面活性剤減少および分散液濃縮に用いる条件と材料のために存在するフッ化物、硫酸塩およびアンモニウムイオンを含有している。
【0066】
(実施例1)
1重量%の硫酸アンモニウムとフッ化アンモニウムの原液を、上述の1グラムの塩を99グラムの脱イオン水に溶解することにより調製する。原塩溶液のアリコートを、上述したようにして調製したPTFE分散液の100グラム試料に添加する。PTFE分散液試料の導電率が目的レベルまで増大するようにして、PTFE分散液試料にアリコートを添加する。結果を以下に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
表1および2に記した各分散液溶液の5つ(2.5グラム)のアリコートを、プラスチック秤量皿に入れ、マイクロ波オーブンで乾燥して、乾燥時間を記録する。用いたマイクロ波オーブンは、周波数が約2.5ギガヘルツで、300ワットのマイクロ波エネルギーを出す市販のオーブンである。マイクロ波乾燥チャンバは、電子秤を備えており、±0.1mgの感度で試料の4グラムまで測定できるものである。乾燥時間は、質量損失が10秒間で0.2mg未満の時と定義される。結果を以下の表3に示す。
【0070】
【表3】

【0071】
上記の結果によれば、各添加塩(硫酸塩については18%、フッ化物については13%)で、乾燥時間が大幅に減少し、その影響が約1000μSで安定し始めることが分かる。
【0072】
(実施例2)
ケブラー(Kevlar)(登録商標)アラミド繊維でできた直径約1/2インチ(1cm)の編組ストランドにより、PTFEの被覆されたポンプパッキング材料を作製する。繊維基材を、1本の編組ストランドとして、上述したようにして作製した減少したAPFO PTFE分散液(約60重量%固体、6重量%タージトール(Tergitol)(登録商標)TMN−10ノニオン界面活性剤、20ppm未満のAPFOレベル)の浴に通す。硫酸アンモニウムを、浴において分散液に十分量で添加して、約1080μSへ導電率を増大する。
【0073】
コーティング工程後、追加の硫酸アンモニウムを含有する分散液のウェットコーティングを備えた基材のストランドを、マイクロ波オーブンに通して、水と界面活性剤を除去する。さらに、追加の水溶性塩のないPTFE分散液(導電率<250μS)を用いて、同じストランドにウェットコーティングを施して、マイクロ波乾燥比較例とする。追加の水溶性塩のないPTFE分散液に比べて、高導電率のPTFE分散液(約1080μS)は、マイクロ波乾燥に必要な時間を大幅に減らし、追加の水溶性塩のない低導電率分散液よりも線速度が100%の増加となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体とフルオロポリマー粒子とを含み、フルオロ界面活性剤含量が約300ppm未満で、追加の水溶性塩を含む水性フルオロポリマー分散液コーティング組成物を基材に適用して、前記基材にウェットコーティングを形成する工程と、
高周波電磁放射線を前記ウェットコーティングに適用することにより、前記ウェットコーティングを乾燥して、フルオロポリマーで被覆された基材を形成する工程と
を含む、フルオロポリマーで被覆された基材を製造する方法であって、前記追加の水溶性塩がない以外は同一のコーティング組成物に比べて、前記基材の前記ウェットコーティングを乾燥するのに必要な時間を少なくとも約5%減らすのに、前記追加の水溶性塩が有効であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記追加の水溶性塩がないコーティング組成物に比べて、前記基材の前記ウェットコーティングを乾燥するのに必要な時間を少なくとも約10%減らすのに、前記追加の水溶性塩が有効であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記追加の水溶性塩がないコーティング組成物に比べて、前記基材の前記ウェットコーティングを乾燥するのに必要な時間を少なくとも約15%減らすのに、前記追加の水溶性塩が有効であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記水溶性塩が、無機水溶性塩であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
外来イオンが前記フルオロポリマー分散液コーティング組成物に導入されないように前記追加の水溶性塩を選択することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記追加の水溶性塩が、硫酸塩またはフッ化物塩を含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記追加の水溶性塩が、前記水溶性フルオロポリマー分散液コーティング組成物の導電率を少なくとも約600μS/cmまで増大することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記追加の水溶性塩が、前記水溶性フルオロポリマー分散液コーティング組成物の導電性を約600〜約2000μS/cmの範囲に増大することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記追加の水溶性塩が、前記水溶性フルオロポリマー分散液コーティング組成物の導電性を約700〜約1500μS/cmの範囲に増大することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記追加の水溶性塩が、前記水溶性フルオロポリマー分散液コーティング組成物の導電性を約800〜約1200μS/cmの範囲に増大することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記水溶性フルオロポリマーコーティング組成物が、約10〜約70重量%のフルオロポリマーを含有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記高周波電磁放射線が、マイクロ波放射線を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記基材が、マイクロ波放射線を実質的に透過することを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記基材が、ポリマー、ガラス、セラミックおよびその複合体を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記基材が、耐熱製品の形態であることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記基材が、アラミド繊維、ガラス繊維、天然繊維またはこれらの混合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記基材が、アラミド繊維、ガラス繊維、天然繊維またはこれらの混合物の編組ストランドを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記基材が、ガラス布を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記水性フルオロポリマーコーティング組成物のフルオロ界面活性剤含量が100ppm未満であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記水性フルオロポリマーコーティング組成物のフルオロ界面活性剤含量が50ppm未満であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項21】
水性液体媒体と分散されたフルオロポリマー粒子とを含み、フルオロ界面活性剤含量が約300ppm未満の水性フルオロポリマー分散液コーティング組成物であって、前記組成物が、追加の水溶性塩がない以外は同一のコーティング組成物に比べて、基材に適用された前記分散液組成物のウェットコーティングを、高周波電磁放射線を用いて乾燥するのに必要な時間を、基材コーティングプロセスにおいて、少なくとも約5%減らすのに有効な追加の水溶性塩を含むことを特徴とする水性フルオロポリマー分散液コーティング組成物。

【公表番号】特表2009−528164(P2009−528164A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−557421(P2008−557421)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際出願番号】PCT/US2007/005462
【国際公開番号】WO2007/103228
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】